特許異議申立
2023-700039
清肺湯エキス末を含有する錠剤
- 審判番号
- 2023-700039
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-126749
- 登録番号
- 7114227
- 請求日
- 2023年01月16日
- 審決日
- 2023年08月08日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】小林製薬株式会社
- 【権利者代理人】田中 順也
- 【権利者代理人】水谷 馨也
- 【権利者代理人】迫田 恭子
- 【異議申立人】永井 望
- 審判長/審判官
- 審判長 森井 隆信
- 審判官 冨永 みどり
- 審判官 松波 由美子
- 分類
- P1651.113-Y (A61K) / P1651.121-Y (A61K) / P1651.537-Y (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法114条4項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第114条第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7114227号発明「清肺湯エキス末を含有する錠剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7114227号の請求項1、2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7114227号(以下「本件特許」ということがある。)の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成29年6月28日に出願され、令和4年7月29日にその特許権の設定登録がされ、同年8月8日に特許掲載公報が発行された。
その後の手続は以下のとおりである。
令和5年 1月16日 特許異議申立人 永井望(以下「申立人」とい う。)より特許異議の申立て
同年 4月 7日付け 取消理由通知
同年 6月 9日 特許権者による意見書の提出(受付日:同年6 月12日)
第2 本件発明
特許異議の申立てがなされた特許第7114227号の請求項1、2の特許に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、特許第7114227号の請求項1、2の特許に係る発明を、順に「本件発明1」、「本件発明2」ということがある。また、これらをまとめて単に「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】
清肺湯エキス末、並びに
カルメロース、カルメロースカルシウム、及びクロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種の崩壊剤
を含有する、錠剤。
【請求項2】
清肺湯エキス末を含む錠剤の硬度及び崩壊性を向上させる方法であって、
清肺湯エキス末を含む錠剤に、カルメロース、カルメロースカルシウム、及びクロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種の崩壊剤を含有させる、前記硬度及び崩壊性の向上方法。」
第3 取消理由通知に記載した取消理由について
請求項1、2に係る特許に対して、当審が特許権者に令和5年4月7日付けで通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。
「1.(進歩性) 本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
<引用文献等一覧>
1.特開2001-294533号公報(申立人が提出した甲第1号証)
2.特開2000-119190号公報(申立人が提出した甲第2号証)
3.第十一改正日本薬局方解説書、昭和61年9月15日、財団法人日本公定書協会監修、株式会社廣川書店発行(申立人が提出した甲第3号証)
5.特許第5344289号公報(申立人が提出した甲第5号証)」
(以下、上記の引用文献について上記の番号の順に「引用文献1」等という。)
第4 取消理由についての当審の判断
当審は、令和5年4月7日付け取消理由通知書の取消理由1は理由がないと判断する。
1 取消理由1(進歩性)について
(1)具体的な理由
ア 引用文献1を主引例とする場合
(ア)本件発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1、5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)本件発明2は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1、3、5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 引用文献2を主引例とする場合
(ア)本件発明1は、引用文献2に記載された発明及び引用文献2、5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)本件発明2は、引用文献2に記載された発明及び引用文献2、3、5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)引用文献の記載事項
引用文献1~3、5には以下の記載がある(下線は、当審合議体が付与した。)。
ア 引用文献1(特開2001-294533号公報)の記載事項
引1ア 特許請求の範囲
「【請求項10】 ケイ酸カルシウムに水を加え、均一に混合・分散させた後、漢方エキス粉末を加え撹拌造粒して製造された造粒物に、崩壊剤を5から35重量部加えて製造する崩壊性に優れた錠剤製造方法。」
引1イ
「【0021】本発明による方法では、特殊ケイ酸カルシウムに水を均一に分散、保持させる湿潤工程から漢方エキスあるいは生薬エキス投入後の造粒まで、3から10分で終了する。漢方エキスあるいは生薬エキスのように、急激に吸水する成分を含む造粒物を製造する際に行われる従来の連続あるいは間欠スプレイ法に比べ、本発明に従うと短時間で製造が可能である。
【0022】さらに、本発明は種々の漢方エキスあるいは生薬エキスに応用でき、かつ製造スケールを大きくすることも容易である。前記造粒物から錠剤を製造する場合には、前記造粒物を整粒後、添加物として崩壊剤と滑沢剤を加え混合し、打錠用顆粒を生成する。崩壊剤としては、バレイショデンプン,結晶セルロース,カルボキシルメチルセルロース,カルボキシルメチルセルロースカルシウム,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース,クロスカルメロースナトリウム,カルボキシルメチルスターチナトリウム,架橋ポリビニルピロリドンなどが考えられる。」
引1ウ
「【0026】本発明による製造方法で、以下に示す漢方エキス含有錠剤を6錠ずつつくり、日本薬局法の崩壊試験法に従って崩壊時間を測定した。検討した錠剤中のエキス量(重量%)と得られた崩壊時間(分)を示す。崩壊時間は、試験を行った6錠の平均値である。検討した錠剤は、・・・(略)・・・清肺湯(80%,12.5分)・・・(略)・・・である。」
イ 引用文献2(特開2000-119190号公報)の記載事項
引2ア 特許請求の範囲
「【請求項7】 漢方エキスとケイ酸カルシウムとを重量比で1:1から20:1の割合で混ぜることにより混合物を得る混合工程と、
水またはアルコール水溶液を用いて、湿式造粒法により、前記混合物から顆粒を生成する造粒工程と、
前記顆粒から、通常の乾燥,整粒/調粒工程を経て錠剤を生成する打錠工程とからなることを特徴とする漢方含有錠剤の製造方法。
・・・
【請求項10】 請求項7および請求項8において、前記漢方エキスとは、漢方処方により生薬を配合、エキス化抽出して得た漢方薬の粉末エキスであることを特徴とする漢方含有錠剤の製造方法。」
引2イ
「【0027】1錠剤中の漢方エキス粉末の配合量は、薬効もしくは効果を発揮するのに必要な1日服用エキス量と1日服用錠剤数に基いて決定する。漢方エキス粉末の配合量は、通常、1錠剤中5重量%から90重量%までであり、より好ましくは、1錠剤中20重量%から80重量%までとする。ケイ酸カルシウムは、医薬品添加物規格(薬添規)や化粧品原料基準外成分規格(粧外規)に記載されている化学名「ケイ酸カルシウム」の規格に適合しているものである。なお、大きな細孔径と細孔容積を有する花弁状結晶構造を持つ特殊なケイ酸カルシウムを用いることがよいとわかったので、本発明では、株式会社エーザイの商品名「フローライトRE」として流通しているケイ酸カルシウムを用いることにした。
【0028】1錠剤中のケイ酸カルシウムの配合量は、1錠剤中配合される漢方エキス粉末の量に基いて決定する。ケイ酸カルシウムの配合量は、通常は、漢方エキス粉末の重量に対して等量から20分の1量の範囲で配合するが、好ましくは、漢方エキス粉末に対して、重量で、2分の1量から16分の1量で配合する。添加物としては、賦形剤を配合する場合がある。賦形剤としては、糖や糖アルコールに分類されるもののなかで、乳糖,白糖,ブドウ糖,マンニット,ソルビット等、デンプンやデンプン誘導体に分類されるもののなかで、トウモロコシデンプン,バレイショデンプン,α化デンプン,デキストリン,カルボキシメチルスターチ等、セルロースやセルロース誘導体に分類されるもののなかで、結晶セルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,カルボキシメチルセルロース等、その他のものとして、アラビアガム,デキストラン,プルラン,軽質無水ケイ酸,合成ケイ酸アルミニウム,メタケイ酸アルミン酸マグネシウム,リン酸カルシウム,炭酸カルシウム,硫酸カルシウムなどが挙げられる。
【0029】次に、造粒工程では、前記混合物に水を加え、流動層法、練合法などにより湿式で造粒することにより顆粒を生成する。なお、造粒は、従来と同様の方法で行うのでその説明は省略する。造粒工程で、水に結合剤を投入してもよい。結合剤としては、結晶セルロース、糖類(マンニトール,白糖など),デキストリン,ヒドロキシセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ポリビニルピロリドン,マクロゴールなどが考えられる。これらの結合剤を、水に溶解または分散せしめ、通常10重量%以下の結合剤の液とし添加する。
【0030】また、上記では、造粒工程で水を用いるように説明したが、50重量%以下のエタノール水溶液を用いてもよい。次に、前記顆粒に対して、通常の乾燥,整粒/調粒工程などを実施する。なお、これらの工程は、従来と同様なのでその説明は省略する。次に、前記顆粒に、添加物として崩壊剤と滑沢剤を加えて混合し、打錠用顆粒を生成する。
【0031】崩壊剤としては、バレイショデンプン,結晶セルロース,カルボキシルメチルセルロース,カルボキシルメチルセルロースカルシウム,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース,クロスカルメロースナトリウム,カルボキシルメチルスターチナトリウム,架橋ポリビニルピロリドンなどが考えられる。1錠剤中の崩壊剤や滑沢剤の配合量は、漢方エキス粉末やケイ酸カルシウムの量に基いて決定する。崩壊剤の配合量については、1錠剤重量の35重量%以下とする。崩壊剤の配合量が多すぎると錠剤の成型性が悪くなると共に製造コストが高くなってしまう。また、崩壊剤の配合量が少なすぎると、錠剤の崩壊性が悪くなり、崩壊時間が長くなってしまう。崩壊剤の最も望ましい配合量は、1錠剤重量の25重量%から10重量%である。」
引2ウ
「【0034】以上に説明した方法で漢方含有錠剤を生成し、日本薬局方の崩壊試験法に従って各漢方薬それぞれの6錠に対して崩壊時間を測定した。その結果、使用した漢方エキスに依存して崩壊時間に違いがあるものの、長くとも15分以内であることが分かった。以下に、検討した漢方薬において錠剤中のエキス量(%)と得られた崩壊時間( 分)を示す。崩壊時間は、 試験された6錠のうち最大値である。検討した漢方薬は、・・・(略)・・・清肺湯(80%,12.5分)・・・(略)・・・である。」
ウ 引用文献3(第十一改正日本薬局方解説書、昭和61年9月15日、財団法人日本公定書協会監修、株式会社廣川書店発行)の記載事項
引3ア A-92頁下から15行~下から12行
「賦形剤 diluents basesは主薬の量が少なく打錠に適しない場合,一定の大きさと重量を与えるため,又はでき上がり錠剤の平均重量をある程度大きくし重量偏差を小にする必要のある場合に添加する薬剤である.乳糖,白糖,ブドウ糖,でんぷん,結晶セルロースなどが用いられる.」
引3イ A-93頁2行~6行
「崩壊剤 disintegratorsは水中又は胃液中で錠剤に崩壊性を与える薬剤である.でんぷん(100℃で乾燥したものを主薬の5%,必要に応じ10~20%程度加える)が最も広く用いられる.またカルボキシメチルセルロースカルシウムも使用される.炭酸カルシウムは胃内で二酸化炭素を発生し崩壊させるので場合により使用されることがある.また崩壊性を促進するために界面活性剤などをでんぷんと共に添加することがある.」
エ 引用文献5(特許第5344289号公報)の記載事項
引5ア 特許請求の範囲
「【請求項1】
漢方エキス粉末、クロスカルメロースナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムが配合されてなり、前記クロスカルメロースナトリウムの配合量が、前記漢方エキス粉末100重量部に対し8~30重量部であることを特徴とする漢方エキス含有錠剤組成物」
引5イ
「【0016】
また、クロスカルメロースナトリウムの配合量は、漢方エキス粉末100重量部に対して、好ましくは5~30重量部であり、より好ましくは10~20重量部である。特に、漢方エキス粉末が桂枝茯苓丸のエキス粉末である場合には、8~20重量部が好ましい。クロスカルメロースナトリウムの配合量がこの範囲未満であると、本発明の崩壊性および溶出性の向上効果が十分ではなく、一方、この範囲を超えると、錠剤の硬度が十分でない。」
引5ウ
「【0030】
【表3】
[図:0001401680000001.jpg]
【0031】
上記試験の結果、桂枝茯苓丸エキス粉末に炭酸水素ナトリウムとクロスカルメロースを配合した錠剤は、錠剤の硬度も十分であり、かつ、摩損が起こりにくい錠剤であることが判明した。」
(3)引用文献に記載された発明
ア 引用文献1に記載された発明
上記引1ア~引1ウの記載からみて、引用文献1には、次の発明が記載されているといえる。
「清肺湯エキス末、ケイ酸カルシウム及び崩壊剤を含有する、錠剤。」(以下「引用発明1-1」という。)
また、崩壊剤は、錠剤の崩壊性を向上させるために添加するものであるから、引用文献1には、次の発明が記載されているといえる。
「清肺湯エキス末、ケイ酸カルシウムを含む錠剤の崩壊性を向上させる方法であって、
清肺湯エキス末を含む錠剤に、崩壊剤を含有させる、
前記崩壊性の向上方法。」(以下「引用発明1-2」という。)
イ 引用文献2に記載された発明
上記引2ア~引2ウの記載からみて、引用文献2には、次の発明が記載されているといえる。
「清肺湯エキス末、ケイ酸カルシウム及び崩壊剤を含有する、錠剤。」(以下「引用発明2-1」という。)
また、崩壊剤は、錠剤の崩壊性を向上させるために添加するものであるから、引用文献2には、次の発明が記載されているといえる。
「清肺湯エキス末、ケイ酸カルシウムを含む錠剤の崩壊性を向上させる方法であって、
清肺湯エキス末を含む錠剤に、崩壊剤を含有させる、
前記崩壊性の向上方法。」(以下「引用発明2-2」という。)
(4)本件発明1、2と引用発明1についての対比・判断
ア 本件発明1と引用発明1-1との対比・判断
(ア)対比
本件発明1と引用発明1-1を対比する。
本件発明1は、「・・・を含有する、錠剤。」と記載されており、その他の成分を含有することを排除するものではないから、引用発明1-1がケイ酸カルシウムを含むことは相違点とはならない。
そうすると、両者は、「清肺湯エキス末及び崩壊剤を含有する、錠剤。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1-1>
崩壊剤が、本件発明1では、「カルメロース、カルメロースカルシウム、及びクロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種」であるのに対し、引用発明1-1ではそのような特定がない点
(イ)判断
相違点1-1について検討する。
引用文献1には、崩壊剤として、「バレイショデンプン,結晶セルロース,カルボキシルメチルセルロース,カルボキシルメチルセルロースカルシウム,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース,クロスカルメロースナトリウム,カルボキシルメチルスターチナトリウム,架橋ポリビニルピロリドン」が使用できることが記載されているものの(引1イの【0022】)、列挙された多数の成分から、とりわけ、本件発明1において崩壊剤として特定された「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム」のいずれかだけを選択して採用する理由は見当たらない。
引用文献5には、漢方エキス末に、炭酸水素カルシウム、クロスカルメロースナトリウムを包含させることで錠剤の硬度が向上することが記載されているものの、清肺湯エキス末を含む錠剤において、ことさらにクロスカルメロースナトリウムを用いることを動機付けるものではない。
そして、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」ともいう。)によれば、清肺湯エキス末を含む錠剤において、本件発明1で特定された「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を用いることにより、硬度が包装時や輸送時等に耐え得る程度までに向上しているとともに、優れた崩壊性を有していることが示されているところ(【0050】~【0055】)、令和5年6月9日付けの意見書に添付された実験成績証明書によれば、本件発明1で特定された「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を用いることにより、それら以外の崩壊剤、例えば、引用文献1に記載されたバレイショデンプン、結晶セルロースを使用した場合と比較して、特に、崩壊性が向上していることが認められる。
したがって、本件発明1は、「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を採用することにより、包装時や輸送時等に耐え得る十分な硬度を備えつつ、服用後には適度な速さで崩壊する崩壊性を備え持つという、引用文献1、5の記載からは予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1、5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとの理由は、その理由がない。
イ 本件発明2と引用発明1-2との対比・判断
(ア)対比
本件発明2と引用発明1-2を対比する。
本件発明2は、「・・・を含有させる、前記硬度及び崩壊性の向上方法」と記載されており、その他の成分を含有することを排除するものではないから、引用発明1-2がケイ酸カルシウムを含むことは相違点とはならない。
そうすると、両者は、
「清肺湯エキス末を含む錠剤の崩壊性を向上させる方法であって、
清肺湯エキス末を含む錠剤に、崩壊剤を含有させる、
前記崩壊性の向上方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点2-1>
本件発明2は、錠剤の崩壊性を向上させるだけでなく、「硬度」「を向上させる方法」でもあるのに対し、引用発明1-2はそのような特定はない点
<相違点2-2>
崩壊剤が、本件発明2では、「カルメロース、カルメロースカルシウム、 及びクロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種」であるのに対し、引用発明1-2ではそのような特定がない点
(イ)判断
相違点2-2について検討する。
引用文献1には、崩壊剤として、「バレイショデンプン,結晶セルロース,カルボキシルメチルセルロース,カルボキシルメチルセルロースカルシウム,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース,クロスカルメロースナトリウム,カルボキシルメチルスターチナトリウム,架橋ポリビニルピロリドン」が使用できることが記載されているものの(引1イの【0022】)、列挙された多数の成分から、とりわけ、本件発明2において崩壊剤として特定された「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム」のいずれかだけを選択して採用する理由も見当たらない。
引用文献3には、適度な崩壊性と硬度は錠剤として必要な性質であることが記載されており、引用文献5には、漢方エキス末に、炭酸水素カルシウム、クロスカルメロースナトリウムを包含させることで錠剤の硬度が向上することが記載されているものの、清肺湯エキス末を含む錠剤において、ことさらにクロスカルメロースナトリウムを用いることを動機付けるものではない。
そして、本件明細書によれば、本件発明2で特定された「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を用いることにより、錠剤の硬度が包装時や輸送時等に耐え得る程度までに向上しているとともに、優れた崩壊性を有していることが示されているところ(【0050】~【0055】)、令和5年6月9日付けの意見書に添付された実験成績証明書によれば、本件発明2で特定された「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を用いることにより、それら以外の崩壊剤、例えば、引用文献1に記載されたバレイショデンプン、結晶セルロースを使用した場合と比較して、特に、崩壊性が向上していることが認められる。
したがって、本件発明2は、「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を採用することにより、包装時や輸送時等に耐え得る十分な硬度を備えつつ、服用後には適度な速さで崩壊する崩壊性を備え持つという、引用文献1、3、5の記載からは予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点2-1については検討するまでもなく、本件発明2は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1、3、5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとの理由は、その理由がない。
(5)本件発明1、2と引用発明2についての対比・判断
ア 本件発明1と引用発明2-1との対比・判断
(ア)対比
本件発明1と引用発明2-1を対比する。
引用発明2-1は、引用発明1-1と同一であるから、両者は、上記(4)ア(ア)で説示したのと同様の点で一致し、同様の<相違点1-1>の点で相違する。
<相違点1-1>
崩壊剤が、本件発明1では、「カルメロース、カルメロースカルシウム、 及びクロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種」であるのに対し、引用発明2-1ではそのような特定がない点
(イ)判断
相違点1-1について検討する。
引用文献2には、崩壊剤として、「バレイショデンプン,結晶セルロース,カルボキシルメチルセルロース,カルボキシルメチルセルロースカルシウム,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース,クロスカルメロースナトリウム,カルボキシルメチルスターチナトリウム,架橋ポリビニルピロリドン」が使用できることが記載されているものの(引2イの【0031】)、列挙された多数の成分から、とりわけ、本件発明1において崩壊剤として特定された「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム」のいずれかだけを選択して採用する理由は見当たらない。
引用文献5には、漢方エキス末に、炭酸水素カルシウム、クロスカルメロースナトリウムを包含させることで錠剤の硬度が向上することが記載されているものの、清肺湯エキス末を含む錠剤において、ことさらにクロスカルメロースナトリウムを用いることを動機付けるものではない。
そして、本件明細書によれば、清肺湯エキス末を含む錠剤において、本件発明1で特定された「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を用いることにより、硬度が包装時や輸送時等に耐え得る程度までに向上しているとともに、優れた崩壊性を有していることが示されているところ(【0050】~【0055】)、令和5年6月9日付けの意見書に添付された実験成績証明書によれば、本件発明1で特定された「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を用いることにより、それら以外の崩壊剤、例えば、引用文献2に記載されたバレイショデンプン、結晶セルロースを使用した場合と比較して、特に、崩壊性が向上していることが認められる。
したがって、本件発明1は、「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を採用することにより、包装時や輸送時等に耐え得る十分な硬度を備えつつ、服用後には適度な速さで崩壊する崩壊性を備え持つという、引用文献2、5の記載からは予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、引用文献2に記載された発明及び引用文献2、5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとの理由は、その理由がない。
イ 本件発明2と引用発明2-2との対比・判断
(ア)対比
本件発明2と引用発明2-2を対比する
引用発明2-2は、引用発明1-2と同一であるから、両者は、上記(4)イ(ア)で説示したのと同様の点で一致し、同様の<相違点2-1>及び<相違点2-2>の点で相違する。
<相違点2-1>
本件発明2は、錠剤の崩壊性を向上させるだけでなく、「硬度」「を向上させる方法」でもあるのに対し、引用発明2-2は、そのような特定はない点
<相違点2-2>
崩壊剤が、本件発明2では、「カルメロース、カルメロースカルシウム、 及びクロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される少なくとも1種」であるのに対し、引用発明2-2ではそのような特定がない点
(イ)判断
相違点2-2について検討する。
引用文献2には、崩壊剤として、「バレイショデンプン,結晶セルロース,カルボキシルメチルセルロース,カルボキシルメチルセルロースカルシウム,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース,クロスカルメロースナトリウム,カルボキシルメチルスターチナトリウム,架橋ポリビニルピロリドン」が使用できることが記載されているものの(引2イの【0031】)、列挙された多数の成分から、とりわけ、本件発明2において崩壊剤として特定された「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム」のいずれかだけを選択して採用する理由も見当たらない。
引用文献3には、適度な崩壊性と硬度は錠剤として必要な性質であることが記載されており、引用文献5には、漢方エキス末に、炭酸水素カルシウム、クロスカルメロースナトリウムを包含させることで錠剤の硬度が向上することが記載されているものの、清肺湯エキス末を含む錠剤において、ことさらにクロスカルメロースナトリウムを用いることを動機付けるものではない。
そして、本件明細書によれば、本件発明2で特定された「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を用いることにより、錠剤の硬度が包装時や輸送時等に耐え得る程度までに向上しているとともに、優れた崩壊性を有していることが示されているところ(【0050】~【0055】)、令和5年6月9日付けの意見書に添付された実験成績証明書によれば、本件発明2で特定された「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を用いることにより、それら以外の崩壊剤、例えば、引用文献2に記載されたバレイショデンプン、結晶セルロースを使用した場合と比較して、特に、崩壊性が向上していることが認められる。
したがって、本件発明2は、「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を採用することにより、包装時や輸送時等に耐え得る十分な硬度を備えつつ、服用後には適度な速さで崩壊する崩壊性を備え持つという、引用文献2、3、5の記載からは予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点2-1については検討するまでもなく、本件発明2は、引用文献2に記載された発明及び引用文献2、3、5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとの理由は、その理由がない。
(6)小括
以上のとおり、本件発明1、2に係る特許は、取消理由1によって取り消すべきものではない。
第5 取消理由通知で採用しなかった異議申立理由ついての当審の判断
1 申立人による申立ての理由の概要及び証拠
申立人は、その特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、本件特許の請求項1、2に係る発明を取り消すべき理由として、以下の(1)に概要を示す申立ての理由(以下、「申立理由1」~「申立理由3」という。)を主張するとともに、証拠方法として、以下の(2)に示す甲第1号証~甲第6号証(以下、それぞれ番号順に「甲1」等ともいう。)を提出した。
(1)申立人による申立ての理由の概要
ア 申立理由1(新規性欠如)
(a)本件発明1は、本件特許の出願日前の刊行物である甲第1号証に記載された発明と区別することができず、新規性を有しない発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきである。
(b)本件発明1は、本件特許の出願日前の刊行物である甲第2号証に記載された発明と区別することができず、新規性を有しない発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきである。
イ 申立理由2(進歩性欠如)
(a)本件発明1は、本件特許の出願日前の刊行物である甲第1号証又は甲2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきである。
(b)本件発明1は、本件特許の出願日前の刊行物である甲第1号証に記載された発明と、甲第3号証~甲第5号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきである。
(c)本件発明1は、本件特許の出願日前の刊行物である甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証~甲第5号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきである。
(d)本件発明2は、本件特許の出願日前の刊行物である甲第1号証に記載された発明と、甲第3号証、甲第5号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきである。
(e)本件発明2は、本件特許の出願日前の刊行物である甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証、甲第5号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきである。
なお、申立書18頁下から2~1行には、「オ 本件発明2に対する甲1~2号証と、甲3~5号証との組み合わせによる進歩性欠如」との項目名が記載されているが、当該項目の記載において甲4号証への言及はなされていないため、上記(d)、(e)のとおりの整理とした。
ウ 申立理由3(サポート要件)
(a)本件発明1、2についての特許は、以下の(i)及び(ii)の点で特許請求の範囲の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号により取り消されるべきである。
(i)本件発明の解決すべき課題は、発明の詳細な説明の【0009】の記載からみて、「清肺湯エキス末を含有する錠剤に、十分な硬度と共に、服用後には適度な速さで崩壊する崩壊性を備えさせる製剤技術を提供すること」であるところ、本件発明では、清肺湯エキス末と特定崩壊剤を含有することが規定されているのみであり、両者の含有量、含有質量比について何ら制限されていない。しかし、本件明細書において、硬度と崩壊性が良好であることが具体的に示されているのは、清肺湯エキス末70%と特定崩壊剤10%を含有する場合のみであり、このような1点のみの実験結果に基づき、あらゆる清肺湯エキス末及び特定崩壊剤の含有量、含有質量比の範囲においても本件発明の課題を解決できるとは認識できない。
(ii)本件発明では、特定崩壊剤以外の添加剤について規定されていないが、本件明細書において、本件発明の課題を解決できることの裏付けとなる実施例等では、いずれも軽質無水ケイ酸等の二酸化ケイ素を含有しているところ、二酸化ケイ素は錠剤硬度を5~15%上昇させる効果を有する効果を有するから(甲6)、本件明細書に記載の実施例等の処方から、二酸化ケイ素を取り除いた場合には、錠剤の硬度が低下し、十分な硬度を維持できなくなるものと推認される。したがって、二酸化ケイ素の配合について制限のない本件発明が、本件発明の課題を解決できるとは認識できない。
(2) 申立人が提出した証拠(証拠方法)
甲第1号証: 特開2001-294533号公報
(甲1) (2001年10月23日発行)
甲第2号証: 特開2000-119190号公報
(甲2) (2000年4月25日発行)
甲第3号証: 第十一改正日本薬局方解説書、昭和61年9月15日 第1刷発行、財団法人日本公定書協会監修、株式会社廣川書店発行
(甲3) (1986年9月15日発行)
甲第4号証: 寺田勝英監修、「医薬品添加剤の処方設計と物性評価<<普及版>>」、2022年10月11日普及版第1刷発行、株式会社シーエムシー出版、7頁
(甲4) (2022年10月11日発行)
甲第5号証: 特許第5344289号公報
(甲5) (2013年11月20日発行)
甲第6号証: フロイント産業株式会社、「アドソリダー(R)」、[online],2016年8月7日,[2022年12月20日検索]<https://web.archive.org/web20160807230136/http://freund.co.jp/chemical/additive/par_filler.html(当審合議体注:(R)は○にR)
(甲6)(2016年8月7日掲載)
2 取消理由通知で採用しなかった異議申立理由
上記1に記載した異議申立理由のうち、取消理由通知で採用しなかったものは、申立理由1、申立理由2の(a)~(c)及び申立理由3である。
以下、これらの理由について検討する。
(1)甲4の記載事項
申立理由2の(a)~(c)のうちの(b)、(c)において、主引例である甲1又は甲2と組み合わせる引例である証拠のうち、甲4は取消理由通知では採用しなかったものであるところ、甲4には以下の事項が記載されている(下線は当審合議体が付与した。)。
ア 甲4の記載事項
甲4ア 7頁1行~12行
「2.3崩壊剤(disintegrant)
錠剤やカプセル剤にふくまれる薬物は,通常製剤が崩壊し溶出した後体内に吸収される。もし,崩壊が期待通りに起こらないと医薬品の効果にも関係する事態となる。こうした製剤の崩壊を助けるために使用されるのが崩壊剤で,その機能からSwellingタイプとWickingタイプの2種に分類される。前者の代表的なものは,低置換度-ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC)やカルメロースカルシウム(E.C.G-505)であり,後者の代表的なものがカルメロース(NS-300)やクロスリンクポリビニルピロリドン(Kolidone CL)などである。この作用を理解して使用しないと期待した効果が得られないことがあり留意が必要である。たとえば,無水リン酸水素カルシウムのような添加剤が多く配合されている場合,Wickingタイプの崩壊剤がより効果的である。代表的な崩壊剤の選択順位をアンケートの結果14)を基に示したのが図3である。この中でクロスリンクカルボキシメチルセルロースナトリウム(Ac-Di-Sol)やKolidone CLなどは,スーパー崩壊剤(Superdisintegrant)と呼ばれている23)。」
甲4イ 7頁中段
「
[図:0001401680000002.jpg]
」
(2)申立理由1(a)及び申立理由1(b)についての判断
申立人は、本件発明1及び2は、甲1(取消理由通知における引用文献1に相当)又は甲2(取消理由通知における引用文献2に相当)に記載された発明である旨主張する(16頁下から5行~17頁下から12行)。
しかしながら、上記第4(4)、(5)で説示したとおり、本件発明1と甲1又は甲2に記載された発明は、相違点1-1で相違するものであり、本件発明2と甲1又は甲2に記載された発明は、相違点2-1及び相違点2-2で相違するものであるから、本件発明1及び2は、甲1又は甲2に記載された発明であるとはいえない。
よって、申立人の申立理由1(a)及び(b)は採用できない。
(3)申立理由2(a)についての判断
申立人は、本件発明1が、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであることについて、甲1又は甲2には、崩壊剤として、バレイショデンプン,結晶セルロース,カルボキシルメチルセルロース,カルボキシルメチルセルロースカルシウム,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース,クロスカルメロースナトリウム,カルボキシルメチルスターチナトリウム,架橋ポリビニルピロリドンの8種類が記載されており、そのうちの半数に近い3種類の本件発明1で特定する崩壊剤を選択することは、当業者であれば容易になし得る旨主張する(申立書17頁下から11行~18頁3行)。
しかしながら、甲1又は甲2には、崩壊剤として、「バレイショデンプン,結晶セルロース,カルボキシルメチルセルロース,カルボキシルメチルセルロースカルシウム,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース,クロスカルメロースナトリウム,カルボキシルメチルスターチナトリウム,架橋ポリビニルピロリドン」が使用できることが記載されているものの(甲1の【0022】、甲2の【0031】)、列挙された多数の成分から、とりわけ、本件発明1において崩壊剤として特定された「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム」のいずれかだけを選択して採用する理由も見当たらない。
そして、本件明細書によれば、本件発明1で特定された「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を用いることにより、錠剤の硬度が包装時や輸送時等に耐え得る程度までに向上しているとともに、優れた崩壊性を有していることが示されているところ(【0050】~【0055】)、令和5年6月9日付けの意見書に添付された実験成績証明書によれば、本件発明1で特定された「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を用いることにより、それら以外の崩壊剤、例えば、甲1又は甲2に記載されたバレイショデンプン、結晶セルロースを使用した場合と比較して、特に、崩壊性が向上していることが認められる。
したがって、本件発明1は、「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を採用することにより、包装時や輸送時等に耐え得る十分な硬度を備えつつ、服用後には適度な速さで崩壊する崩壊性を備え持つという、甲1又は甲2の記載からは予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、申立人の申立理由2(a)は採用できない。
(4)申立理由2(b)及び申立理由2(c)についての判断
申立人は、本件発明1が、甲1又は甲2に記載された発明及び甲3~5に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであることについて、甲3~5に記載のとおり、本件発明1で特定する崩壊剤は、甲1又は甲2に記載された発明に用いる崩壊剤として、当業者が優先して採用しようとするものである旨主張する(申立書17頁下から11行~18頁下から3行)。
しかしながら、甲3(取消理由通知における引用文献3に相当)には、適度な崩壊性と硬度は錠剤として必要な性質であることが記載され、甲5(取消理由通知における引用文献5に相当)には、漢方エキス末に、炭酸水素カルシウム、クロスカルメロースナトリウムを包含させることで錠剤の硬度が向上することが記載されており、甲4には、錠剤に用いる崩壊剤として、カルメロースカルシウム、カルメロース、クロスリンクカルボキシメチルセルロースナトリウム(クロスカルメロースナトリウムと同義)が記載されているものの、清肺湯エキス末を含む錠剤において、ことさらに「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を用いることを動機付けるものではない。
そして、本件明細書によれば、清肺湯エキス末を含む錠剤において、本件発明1で特定された「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を用いることにより、硬度が包装時や輸送時等に耐え得る程度までに向上しているとともに、優れた崩壊性を有していることが示されているところ(【0050】~【0055】)、令和5年6月9日付けの意見書に添付された実験成績証明書によれば、本件発明1で特定された「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を用いることにより、それら以外の崩壊剤、例えば、甲1又は甲2に記載されたバレイショデンプン、結晶セルロースを使用した場合と比較して、特に、崩壊性が向上していることが認められる。
そうすると、本件発明1は、「カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムよりなる群から選択される1種の崩壊剤」を採用することにより、包装時や輸送時等に耐え得る十分な硬度を備えつつ、服用後には適度な速さで崩壊する崩壊性を備え持つという、甲1、3~5の記載からは予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲1又は甲2に記載された発明及び甲3~5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではない。
よって、申立人の申立理由2(b)及び(c)は採用できない。
(5)申立理由3についての判断
(a)(i)について
申立人は、本件発明の解決すべき課題は、発明の詳細な説明の【0009】の記載からみて、「清肺湯エキス末を含有する錠剤に、十分な硬度と共に、服用後には適度な速さで崩壊する崩壊性を備えさせる製剤技術を提供すること」であるところ、本件発明では、清肺湯エキス末と特定崩壊剤を含有することが規定されているのみであり、両者の含有量、含有質量比について何ら制限されていない。しかし、本件明細書において、硬度と崩壊性が良好であることが具体的に示されているのは、清肺湯エキス末70%と特定崩壊剤10%を含有する場合のみであり、このような1点のみの実験結果に基づき、あらゆる清肺湯エキス末及び特定崩壊剤の含有量、含有質量比の範囲においても本件発明の課題を解決できるとは認識できない旨主張する(申立書21頁14行~34行)。
本件明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「【0021】
また、本発明の錠剤における清肺湯エキス末の含有量は、錠剤の大きさ、1回当たりの服用錠数等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、10~90重量%、好ましくは35~85重量%、更に好ましくは45~85重量%が挙げられる。」
「【0025】
本発明の錠剤における前記特定の崩壊剤の含有量については、特に制限されないが、例えば、1~30重量%が挙げられる。十分な硬度と適度な崩壊性をより一層好適に兼ね備えさせるという観点から、本発明の錠剤における前記特定の崩壊剤の含有量として、好ましくは5~20重量%、更に好ましくは5~10重量%が挙げられる。」
「【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
なお、以下の試験例及び処方例において使用した主な成分の入手元は以下の通りである。
二酸化ケイ素:軽質無水ケイ酸、商品名「アドソリダー101」富士シリシア化学株式会社製
カルメロース:商品名「NS-300」、ニチリン化学工業株式会社製
カルメロースナトリウム:「E.C.G505」、ニチリン化学工業株式会社製
クロスカルメロースナトリウム:「キッコレートND-2HS」、ニチリン化学工業株式会社製
ステアリン酸マグネシウム:「ステアリン酸マグネシウム 植物性」、太平化学産業株式会社製
【0050】
試験例1
1.錠剤の製造
1-1.清肺湯エキス末の準備
乾燥重量換算で、オウゴン2重量部、キキョウ2重量部、ソウハクヒ2重量部、キョウニン2重量部、サンシシ2重量部、テンモンドウ2重量部、バイモ2重量部、チンピ2重量部、タイソウ2重量部、チクジョ2重量部、ブクリョウ3重量部、トウキ3重量部、バクモンドウ3重量部、ゴミシ0.5重量部、ショウキョウ1重量部、カンゾウ1重量部の比率で混合し、これらの合計量(原料乾燥重量)の5倍量の水を用いて約95℃で1時間抽出処理し、遠心分離して抽出液を得た。得られた抽出液をろ過(150メッシュ)することにより清肺湯エキスを得た。得られた清肺湯エキスを常法に従い、60℃以下の減圧下で濃縮して、スプレードライ法を用いて乾燥させ、清肺湯エキス末を調製した。
【0051】
1-2.錠剤の製造
表1に示す組成の錠剤を製造した。具体的には、表1に示す成分を所定量混合し、得られた混合粉体を油圧式打錠機(TB-20N、エヌピーエーシステム株式会社)にて10kNの打圧で打錠し、1錠当たり200mg(直径8mmの円盤状)の錠剤を得た。
【0052】
2.硬度の評価
得られた各錠剤について、ロードセル式錠剤硬度計(PC-30、岡田精工株式会社)によって10錠の硬度を測定し、平均値を算出した。比較例1の錠剤の硬度を100%として、各錠剤の硬度の相対値を算出した。
【0053】
3.崩壊性の評価
得られた各錠剤について、崩壊試験機(NT-1HM、富山産業株式会社)を用いて、第十七改正日本薬局方に規定されている崩壊試験法に準じて崩壊時間を測定した。
【0054】
4.結果
得られた結果を表1に示す。カルメロース、カルメロースカルシウム、又はクロスカルメロースナトリウムを含まない場合には、錠剤の硬度は十分とはいえず、崩壊時間も極めて長くなっていた(比較例1)。これに対して、カルメロース、カルメロースカルシウム、又はクロスカルメロースナトリウムを含む場合には、錠剤の硬度が、包装時や輸送時等に耐え得る程度にまで向上しており、更に崩壊時間も20分以内であり、優れた崩壊性を有していた。
【0055】
【表1】
[図:0001401680000003.jpg]
」
このように、清肺湯エキス末及び崩壊剤の含有割合の範囲の一般記載があり(【0021】、【0025】)、実施例において、それらの範囲内の代表的な値として、清肺湯エキス末70%と崩壊剤10%を含有する場合について効果が確認されている(【0050】~【0055】)。
そして、実施例の記載を基に、硬度と崩壊性に影響がない範囲で、含有割合を変更することは、当業者が適宜行うことであるから、それぞれの成分の含有割合が特許請求の範囲に特定されていなくても、当業者は発明の課題が解決できることを認識できるものである。
よって、申立人の申立理由3(a)(i)は採用できない。
(a)(ii)について
申立人は、本件発明の課題を解決できることの裏付けとなる実施例等では、いずれも二酸化ケイ素を含有しているところ、本件明細書に記載の実施例等の処方から、二酸化ケイ素を取り除いた場合には、錠剤の硬度が低下し、十分な硬度を維持できなくなるものと推認される旨主張する(申立書21頁35行~22頁1行)。
本件明細書の発明の詳細な説明には次の記載がある。
「【0039】
その他の成分
本発明の錠剤は、前記成分の他に、その用途に応じて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス末、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分や薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類等に応じて適宜設定される。
【0040】
また、本発明の錠剤は、前述する成分の他に、必要に応じて、錠剤への製剤化に必要とされる他の添加剤が含まれていてもよい。このような添加剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、水、賦形剤(二酸化ケイ素及び/又はケイ酸塩以外)、結合剤、崩壊剤(前記特定の崩壊剤以外)、酸化防止剤、防腐剤、香料、矯味剤、増粘剤、色素、pH調整剤、緩衝剤、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤の含有量については、使用する添加剤の種類等に応じて適宜設定される。」
本件発明は、清肺湯エキス末と特定の崩壊剤の組み合わせに特徴があるものであり、その他の成分については、当業者であれば本件明細書の記載(【0039】、【0040】)に基づいて、適宜選択し得るものであるから、二酸化ケイ素等のその他の成分が特許請求の範囲に特定されていなくても、当業者は発明の課題が解決できることを認識できるものである。
よって、申立人の申立理由3(a)(ii)は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、並びに、申立人による特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法第114条第4項の規定により、本件請求項1、2に係る特許について、結論のとおり決定する。
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2023-700039