特許異議申立
2023-700012
透明物品
- 審判番号
- 2023-700012
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-539627
- 登録番号
- 7120241
- 請求日
- 2023年01月06日
- 審決日
- 2023年05月16日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本電気硝子株式会社
- 【権利者代理人】恩田 誠
- 【権利者代理人】恩田 博宣
- 【異議申立人】岡本 敏夫
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 松井 裕典
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.16 -Y (C03C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条の2
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条の2、特許法第41条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7120241号発明「透明物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7120241号の請求項1~2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7120241号の請求項1~2に係る特許についての発明は、2018年(平成30年) 8月30日(優先権主張 平成29年 8月30日)を国際出願日とする出願であり、令和 4年 8月 8日にその特許権の設定登録がなされ、同年同月17日に特許公報が発行され、その後、令和 5年 1月 6日に、請求項1~2に係る特許を対象として、特許異議申立人岡本敏夫(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明
請求項1~2に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応して、「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、次のとおり特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
透明基材を備える透明物品であって、
前記透明基材の主面には、粗面状をなす粗面部が設けられ、
前記粗面部は、二乗平均平方根高さSqが0.08μm以下であり、粗さ曲線要素の平均長さRSmが20μm以下であり、
前記粗面部は、二乗平均平方根高さSqと粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比(Sq/RSm)が0.004以下であることを特徴とする透明物品。
【請求項2】
前記粗面部は、粗さ曲線要素の平均長さRSmが15μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の透明物品。」
第3 異議申立人による特許異議の申立理由の概要
1 特許法第29条の2所定の規定違反
(1)本件発明1~2は、本件特許の優先日前の特許出願であって、本件特許出願後に出願公開がされた下記甲第1号証(下記甲第2号証~甲第5号証を参考とする。)に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下では、これらをまとめて単に「甲1明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許の優先日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、その特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。(以下、「申立理由1」という。)
(2)本件発明1~2は、本件特許の優先日前の特許出願であって、特許法第41条第1項の規定による優先権の主張の基礎とされ、同法同条第3項の規定により、当該優先日後に出願公開がされたものとみなされる下記甲第6号証(下記甲第2号証~甲第5号証を参考とする。)に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下では、これらをまとめて単に「甲6明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許の優先日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また当該優先日当時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、その特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。(以下、「申立理由2」という。)
なお、本来、特許法第29条の2に規定される「他の特許出願」としては、甲第6号証に係る基礎出願である特願2017-100632号を取り上げるべきであるが、異議申立人の主張に鑑み、以下では、特願2018-74432号の方に着目し、その願書に最初に添付した明細書等を「甲6明細書等」として取り扱うこととした。
甲第1号証:特願2017-160279号(特開2018-63419号)
甲第2号証:Tomoharu AKAGAKI et al, Effects of PEEK’s surface roughness on seizure behaviors of PEEK/steel pairs under oil-lubricated sliding contacts, Mechanical Engineering Journal, The Japan Society of Mechanical Engineers,2017,Vol.4,No5,P1-10
甲第3号証:高藤英生・石田次雄,LAの応用技術,計測と制御,計測自動制御学会,1975年10月,第757~765頁
甲第4号証:REYNAUD C. et al,Quantitative determination of Young’s modulus on a biphase polymer system using atomic force microscopy, SURFACE AND INTERFACE ANALYSIS,2000,p185-189
甲第5号証:ALEXANDRA-Ioanna Liosi et al,Development of a Simulation Tool for the Lubrication between the Piston Rings and the Cylinder Bore of an Internal Combustion Engine, National Technical University of Athens,2021,Abstruct,p1-91
甲第6号証:特願2018-74432号(特開2018-198050号)
(以下、甲各号証を単に「甲1」などという。)
第4 当審の判断
1 特許法第29条の2所定の規定違反(拡大先願)について
(1)甲1~6に記載の事項
ア 甲1明細書等に記載の事項
(ア)「【請求項1】
透明基体と、前記透明基体上に設けられた防眩膜を有し、
前記防眩膜は、シリカを主成分とし、CF3(CH2)n-基(ただし、nは1~6の整数である。)を含み、
前記防眩膜表面の粗さ曲線のスキューネスRskが1.3以下であり、かつ、算術平均粗さRaが0.01μm以上であることを特徴とする防眩膜付基体
・・・
【請求項5】
前記防眩膜表面の粗さ曲線の要素の平均長さRSmが18μm以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の防眩膜付基体。
・・・
【請求項7】
前記防眩膜表面の算術平均粗さRaが0.1μm以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の防眩膜付基体。
【請求項8】
前記防眩膜表面の、粗さ曲線の要素の平均長さRSmが10μm以上である請求項1~7のいずれか1項に記載の防眩膜付基体。」
(イ)「【0014】
以下、図面を参照して、実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る防眩膜付基体を表す断面模式図である。図1に示す防眩膜付基体1は、透明基体2と、透明基体2上に設けられた、防眩膜3とを有する。」
(ウ)「【0015】
防眩膜付基体1において、防眩膜3はシリカを主成分とし、CF3(CH2)n-基(ただし、nは1~6の整数である。以下も同様。)を含む。また防眩膜3表面の、粗さ曲線のスキューネスRskが1.3以下であり、かつ、算術平均粗さRaが0.01μm以上である。防眩膜付基体1は、防眩膜3が上記特性を有することで、優れた防眩性を有するとともに、ヘイズを低くして、例えば、防眩膜付基体1を通して黒色印刷層を見た際に、白濁が視認されるのを抑えられる。以下、防眩膜付基体1の各構成について説明する。
【0016】
(透明基体2)
透明基体2は、防眩膜による防眩性の付与が求められている透明な材料からなるものであれば、特に限定されず、例えば、ガラス、樹脂、又はそれらの組み合わせ(複合材料、積層材料等)からなるものが好ましく使用される。ガラスとしては、例えばソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、無アルカリガラス等が挙げられる。樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリメタクリル酸メチル等が挙げられる。」
(エ)「【0019】
透明基体2の形状は、図示するような平坦な形状のみでなく、曲面を有する形状であってもよい。この場合、全体が曲面で構成されてもよく、曲面である部分と平坦である部分とから構成されてもよい。最近では、画像表示装置を備える各種機器(テレビ、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、カーナビゲーション等)において、画像表示装置の表示面が曲面とされたものが登場している。透明基体2が曲面を有する形状である防眩膜付基体1は、このような画像表示装置の用途に有用である。」
(オ)「【0027】
(防眩膜)
防眩膜3は表面に凹凸構造を有し、透明基体2に照射される外光を乱反射させて、外光の表面反射を抑制する。」
(カ)「【0032】
防眩膜3の表面の算術平均粗さRaは、0.01μm以上である。算術平均粗さRaは、基準面上にとった基準長さに含まれる粗さ曲線において、基準面からの絶対値偏差を平均した値である。算術平均粗さRaが0.01μm以上であることで、防眩膜3は、優れた防眩性を発揮する。また、防眩膜3は、算術平均粗さRaが0.1μm以下が好ましい。算術平均粗さRaが0.1μm以下であることが、ヘイズが高くなりすぎず、防眩膜3によって優れた防眩性と低いヘイズの両立を可能とするための一要因である。」
(キ)「【0131】
印刷層6の備えられた防眩膜付基体10を画像表示装置等の前面板として用いる場合、印刷層側が、画像表示装置側に配置されるように、防眩膜付基体10が画像表示装置の視認側(前面)に設けられる。防眩膜付基体10の設けられた画像表示装置を、前面から視認すると、その周縁部に黒色印刷部が、周縁部の内側に表示部が、それぞれ、防眩膜3及び透明基体2を介して視認される。」
(ク)「【0134】
発明の防眩膜付基体の用途は、高い水準で優れた防眩性と低いヘイズが両立出来る点から、輸送機の内装物品が好ましく、車載物品がさらに好ましい。車載物品は、画像表示装置を備える車載システム(カーナビゲーション、インストルメントパネル、ヘッドアップディスプレイ、ダッシュボード、センターコンソール、シフトノブ)が好ましい。」
(ケ)「【0136】
<光学特性評価方法>
(粗さ曲線のスキューネスRsk、算術平均粗さRa、粗さ曲線の要素平均長さRSm)
防眩膜の表面の、粗さ曲線のスキューネスRsk、算術平均粗さRa、粗さ曲線の要素の平均長さRSmを、それぞれ、東京精密社製SURFCOM1500SD3-12を用いてJIS B0601-2001に規定されている方法に従って測定した。」
(コ)「【0156】
静電塗装装置のコーティングブース内の温度を25±3℃の範囲内、湿度を50%±10%の範囲内に調節した。静電塗装装置のチェーンコンベア上に、あらかじめ30℃±3℃に加熱しておいた洗浄済みの透明基体を、ステンレス板を介して置いた。チェーンコンベアで3.0m/分で等速搬送しながら、ガラス基体のトップ面(フロート法による製造時に溶融スズに接した面の反対側の面)に、表2に示すガン高さによる静電塗装法によって、25±3℃の範囲内の温度の防眩膜形成用液状組成物を2回塗布した後、大気中、450℃で30分間焼成して防眩膜を形成し、防眩膜付基体を得た。得られた防眩膜付基体について、前記の評価を行った。結果を表3に示す。
・・・
【0162】
【表3】
[図:0001398297000001.jpg]
」
イ 甲2に記載の事項(下記(オ)の訳文は、異議申立人による。下記(ア)乃至(エ)の訳文は、当審による。)
(ア)「Poly-ether-ether-ketone (PEEK) is one of advanced engineering polymeric materials and has excellent mechanical and chemical properties (the book by Japanese Society of Tribologists, 1991).」(第1頁第16~17行)
(訳:ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は、高度なエンジニアリング高分子材料の一つであり、優れた機械的及び化学的特性を備えています。(日本トライボロジー学会,1991年))
(イ)「In order to increase PEEK applications in practice and establish maintenance guidelines for PEEK sliding bearings, it is important to study PEEK’s friction and wear behaviors under various sliding conditions.
In this study, the seizure behaviors of PEEK/steel pairs were studied over a wide range of PEEK’s surface roughness
under oil-lubricated sliding contacts.」(第2頁第17~21行)
(訳:PEEKの適用を増やし、PEEKすべり軸受のメンテナンスガイドラインを確率するには、さまざまなすべり条件下でのPEEKの摩擦と摩擦の挙動を研究することが重要です。
この研究では、PEEK/スチールペアの焼付き挙動を、油潤滑滑り接触下で、PEEK表面粗さの広い範囲にわたって研究しました。)
(ウ)「Experiments were conducted with blocks on a ring wear tester shown in Fig.1 (Akagaki et al., 2002). The testing materials are listed in Table 1. The ring was made of forged steel (SF540A), with 130 mm diameter and 20 mm thickness; it was shaped by cylindrical grinding. The ring’s surface roughness was 0.12 μm Ra. The materials used to make the blocks were unfilled PEEK (PEEK for short) and a PEEK composite filled with 30 mass% carbon fiber (PEEK composite).」(第2ページ第25~29行)
(訳:実験は図1に示すリング摩耗試験機でブロックを使用して行われました。(赤垣ら、2002年)。試験材料を表1に示します。リングは直径130mm、厚さ20mmの鍛造鋼(SF540A)で、円筒研削により作成されました。リングの表面粗さは0.12μmでした。ブロックの材料は非充填PEEK(略してPEEK)と、30重量%の炭素繊維を充填したPEEK複合材(略してPEEK複合材)でした。)
(エ)「Figure 6 illustrates the relationship between the friction coefficient and the block’s surface roughness. When seizure occurs, the friction coefficient increases from low values of less than 0.01 to high values of 0.06-0.13. As shown in Fig.6, seizure occurs as the block’s surface roughness exceeds a critical value. The critical values are in the range about 0.06-0.1 μm Ra for PEEK and about 0.6-0.9 μm Ra for the PEEK composite. Thus, it is said that the seizure-resistant property of the PEEK composite is superior to that of PEEK.
A lambda ratio (the book by Hutching, 1992) is calculated for discussion of the results. It is defined as Λ = hmin / (Rq12+Rq22)1/2, where hmin is the minimum film thickness and Rq1 and Rq2 are the root mean square roughness of the ring and block, respectively. The minimum film thickness is calculated using the Dowson-Higginson formula (the book by Yamamoto and Kaneta, 1998).」(第4頁第1~9行)
(訳:図6に摩擦係数とブロックの表面粗さの関係を示します。焼き付きが発生すると、摩擦係数は0.01未満の低い値から0.06~0.13の高い値に増加します。図6に示すように、焼き付きはブロックの表面粗さが臨界値を超えると発生します。臨界値は、PEEKでは約0.06~0.1μmRa、PEEK複合材では約0.6~0.9μmRaの範囲です。このように、PEEK複合材の耐焼き付き性は、PEEKよりも優れていると言われています。
ラムダ比(ハッチング,1992年)は、結果の議論のために使用されます。Λ = hmin / (Rq12+Rq22)1/2として定義されます。ここで、hminは最小膜厚、Rq1とRq2はそれぞれリングとブロックの二乗平均粗さです。最小膜厚は、Dowson-Higginson式を使用して計算されます(山本,金田,1998年)。)
(オ)「Oil viscosity is calculated at the ring temperatures obtained from each test, and Rq1 and Rq2 are calculated from the arithmetic average roughness, Ra, where Rq = 1.25 Ra (the book by Hashimoto, 2006).」(第4頁第9~10行)
(訳:油粘度は各試験で得られたリング温度で計算し、Rq1とRq2は算術平均粗さRaから算出し、Rq=1.25Raとした(橋本,2006)。)
ウ 甲3に記載の事項
(ア)「2.1 冷延鋼板面粗さの統計的特性
図7は,確率密度分布p(z)の測定例である.多くは正規分布に近く,正規分布から偏っているものも,その程度は小さい.完全な正規分布の場合,2乗平均粗さと中心線平均粗さの間には,RMS=1.25Raの関係があるが,実測ではRMS=1.24Raとなっている.」(第761頁右欄第21-27行)
エ 甲4に記載の事項(下記(イ)の訳文は、異議申立人による。下記(ア)の訳文は、当審による。)
(ア)「The acrylate granule surface morphology is very rough compares to the other polymers.Roughness parameters are listed in Table 1:」(第189頁左欄第3~5行)
(訳:アクリレート粒の表面形態は他のポリマーと比べて非常に粗い。粗さのパラメータを表1に示す。)
(イ)「Ra is the mean roughness and Rq is the standard deviation on roughness.The roughness parameter distribution appears to be Gaussian at the micron scale for all these materials because Ra is very close to 1.25 Ra」(第189頁左欄第5~8行)
(訳:Raは平均粗さ、Rqは粗さの標準偏差である。Rqが1.25Raに非常に近いことから、これらの材料はすべてミクロンスケールでガウス分布しているように見える。)
オ 甲5に記載の事項(下記(イ)の訳文は、異議申立人による。下記(ア)及び(ウ)の訳文は、当審による。)
(ア)「Development of a Simulation Tool for the Lubriccation between the Piston Ring and the Cylinder Bore of an Internal Combustion Engine」(タイトル)
(訳:内燃エンジンのピストンリングとシリンダボア間の潤滑シミュレーションツールの開発)
(イ)「Many surfaces may have similar Ra and Rq values and in case that their texturing follows a Gaussian Distribution, it is known that Rq=1.25Ra」(第6頁第1-2行)
(訳:多くの表面はRaとRqの値が似ており、そのテクスチャがガウス分布に従う場合、Rq=1.25Raであることが知られています。)
(ウ)「Even though these profile parameters are useful in describing quantitatively the surface topography, they don’t provide any further information on the shapes, or the spacing of the surface’s irregularities. For this reason additional profile parameters[8], or alternative methods[9],[10],[11] can be employed, in order to represent more accurately the surface’s features. In this diploma thesis, a more complex method is adopted for expressing the furface topography of the cylinder bore, which is described in Section1.3.4.」(第6頁第2~9行)
(訳:しかしながら、これらのプロファイルパラメータは、表面のトポグラフィを定量的に説明するのに役立ちますが、形状や表面の凹凸の感覚に関する詳細な情報は提供しません。このため、プロファイルパラメータを追加するか、別の方法を使用して、表面の特徴をより正確に表現することができます。この論文では、セクション1.3.4で説示するように、シリンダーボアの表面トポグラフィを表現するために、より複雑な方法を採用しています。)
カ 甲6明細書等に記載の事項
(ア)「【請求項1】
透明基板と、
前記透明基板の一方の主面上に、最表層として設けられた防汚膜とを有し、
前記防汚膜の表面形状は算術平均粗さRaが0.01μm以上の凹凸形状であり、かつ
前記防汚膜の表面で測定される表面抵抗率は1.0×109~1.0×1013Ω/□である、防汚膜付き透明基板。」
(イ)「【0001】
本発明は、防汚膜付き透明基板および静電容量型インセルタッチパネル式液晶表示装置に関する。」
(ウ)「【0012】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
[防汚膜付き透明基板]
実施形態の防汚膜付き透明基板は、透明基板と、前記透明基板の一方の主面上に、最表層として設けられた防汚膜とを有し、以下の(1)および(2)の特性を有する。
(1)防汚膜の表面形状は算術平均粗さRaが0.01μm以上の凹凸形状である。
(2)防汚膜の表面で測定される表面抵抗率が、1.0×109~1.0×1013Ω/□である。
【0013】
実施形態の防汚膜付き透明基板において、防汚膜とは、表面に撥水撥油性を有する膜をいう。実施形態の防汚膜付き透明基板において、防汚膜の表面とは、防汚膜の透明基板側と反対側の主面をいい、防汚膜の表面は、防汚膜付き透明基板の防汚膜側の主面と同じである。
【0014】
「算術平均粗さRa」は、基準面上にとった基準長さに含まれる粗さ曲線において、基準面からの絶対値偏差を平均した値である。算術平均粗さRaは、東京精密社製SURFCOM1500SD3-12を用いてJIS B0601-2001、JIS B0632-2001、JIS B0633-2001、およびJIS B0651-2001、に規定されている方法に従って測定することができる。測定では先端半径が2μm、円すいのテーパ角度が60度の触針を用いた。
・・・
【0016】
実施形態の防汚膜付き透明基板は、上記構成を有し、(1)および(2)の特性を有することで、静電容量型インセルタッチパネル式液晶表示装置に防汚膜付きカバー部材として用いた場合に、指でタッチした際の指の接触面積が好適化され、さらに帯電量およびESD機能のバランスが取れることで、タッチ感度を十分に保持しながら、液晶画面の白化を抑制できる。防汚膜は、以下に説明する防汚性を有する膜であり、(1)および(2)の特性を有する場合においても防汚性は確保される。さらに、実施形態の防汚膜付き透明基板は、防汚膜の表面が(1)の凹凸形状を有することで、指でタッチした際の指の接触面積(以下、単に「接触面積」という。)を好適化できることに加えて、防眩性を兼ね備える。」
(エ)「【0044】
(防汚膜付き透明基板(A))
図1は、実施形態に係る防汚膜付き透明基板(A)の一例の断面を模式的に示す図である。図2は、図1に示す防汚膜付き透明基板の拡大した断面図を示す。図1に示す防汚膜付き透明基板10Aは、透明基板1と、透明基板1上に設けられた、導電性を有する導電性防眩層3Aと、導電性防眩層3A上に設けられた防汚膜2を有する。防汚膜2は、透明基板1の一方の主面Sa上の最表層を構成する。」
(オ)「【0046】
<透明基板>
透明基板1は、少なくとも可視光を透過する透明な材料からなり、互いに対向する2つの主面Sa、Sbを有する板状体であれば、特に限定されない。透明基板1を構成する材料としては、例えば、ガラス、樹脂、またはそれらの組み合わせ(複合材料、積層材料等)が挙げられる。ガラスとしては、例えば、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、リン酸系ガラス、無アルカリガラス等が挙げられる。樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリメタクリル酸メチル等が挙げられる。」
(カ)「【0048】
透明基板1の主面Sa、Sbの形状は、図示するような平坦な形状のみでなく、曲面を有する形状であってもよい。この場合、全体が曲面で構成されてもよく、曲面である部分と平坦である部分とから構成されてもよい。最近では、画像表示装置を備える各種機器(テレビ、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、カーナビゲーション等)において、画像表示装置の表示面が曲面とされたものが登場している。透明基板1の主面Sa、Sbが曲面を有する形状である防汚膜付き透明基板10Aは、このような画像表示装置の用途に有用である。」
(キ)「【0100】
<防汚膜>
防汚膜2は、防汚膜付き透明基板10Aの一方の最表層に位置する撥水撥油性を有する層である。防汚膜2は、導電性防眩層3Aの主面3As上に形成され、主面3Asの形状に追従した表面2sを有する。防汚膜2の表面2sで測定される、算術平均粗さRaは、0.01μm以上であり、表面抵抗率は1.0×109~1.0×1013Ω/□である。防汚膜2の表面2sにおける、算術平均粗さRa、表面抵抗率、および表面形状を示す各種指標の好ましい値は上記のとおりである。
【0101】
防汚膜2の撥水撥油性としては、上記に示すとおり、水の接触角が90度以上であり、かつ、オレイン酸の接触角が70度以上であるのが好ましい。防汚膜2は撥水撥油性を有することで、防汚性を有するとともに、良好な指滑り性を有する。防汚膜2としては、AFP(Anti Finger Print)層等が挙げられる。
【0102】
防汚膜2は、例えば、含フッ素有機ケイ素化合物を加水分解縮合反応させることで硬化させて得られる、含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなることが好ましい。」
(ク)「【0151】
静電容量型インセルタッチパネル式液晶表示装置100は、静電容量型インセルタッチパネル式の液晶表示素子20と、液晶表示素子20の視認側に設けられる防汚膜付き透明基板10Aとを有する。」
(ケ)「【0162】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例によっては限定されない。例1~45のうち、例8~19、21、22および例25~40、43~45は実施例であり、例1~7、20および例23、24、41、42は比較例である。各例で使用した評価方法及び材料を以下に示す。
【0163】
<評価方法>
(表面特性)
防汚膜付き透明基板における防汚膜の表面抵抗値率(Ω/□)、60°鏡面光沢度(Gloss)、防眩性指標値(Diffusion)を上記の方法で測定した。また、防汚膜付き透明基板における防汚膜の粗さ曲線のスキューネスRsk、算術平均粗さRa、粗さ曲線の要素の平均長さRsmを、それぞれ上記の方法で測定した。
・・・
【0180】
防汚膜はスプレー装置のノズルを導電性防眩層付き基板または防眩層付き基板に対し一方の端部から他方の端部に向けた第1の方向に平行移動させて防汚膜形成用組成物を塗布する。他方の端部に到達したノズルを所定の間隔(以下、ピッチと称する。)だけ第1の方向に対して垂直な第2の方向に平行移動させる。他方の端部から一方の端部に向けて再度ノズルを平行移動させる。これを繰り返し、塗布領域が導電性防眩層付き基板または防眩層付き基板の全面に亘るように塗布する。
【0181】
このようにして得られた、防汚膜付き透明基板(I)、(Icf)について上記の評価を行った。結果を表2に示す。
【0183】
[図:0001398297000002.jpg]
」
(2)甲1及び甲6明細書等に記載された発明
ア 甲1明細書等に記載された発明
甲1明細書等の上記(1)ア(ア)の記載によれば、【請求項1】を引用する【請求項5】として、
「透明基体と、前記透明基体上に設けられた防眩膜を有し、
前記防眩膜は、シリカを主成分とし、CF3(CH2)n-基(ただし、nは1~6の整数である。)を含み、
前記防眩膜表面の粗さ曲線のスキューネスRskが1.3以下であり、かつ、算術平均粗さRaが0.01μm以上であり、
前記防眩膜表面の粗さ曲線の要素の平均長さRSmが18μm以下である防眩膜付基体。」が記載されているといえる。
そして、同(オ)の【0027】の「防眩膜3は表面に凹凸構造を有し、透明基体2に照射される外光を乱反射させて、外光の表面反射を抑制する。」との記載によれば、防眩膜は表面に凹凸構造を有するものであるといえる。
また、同(コ)には、防眩膜付基体の具体例が記載されているところ、実施例8として、Raが0.061μm、Rskが0.74、RSmが19.6μmである防眩膜付基体が記載されている。
この実施例8を、上記請求項における防眩膜付基体の記載形式に則り整理すると、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)
「透明基体と、前記透明基体上に設けられた表面に凹凸構造を有する防眩膜を有し、
前記防眩膜は、シリカを主成分とし、CF3(CH2)n-基(ただし、nは1~6の整数である。)を含み、
前記防眩膜表面の粗さ曲線のスキューネスRskが0.74μmであり、かつ、算術平均粗さRaが0.061μmであり、
前記防眩膜表面の粗さ曲線の要素の平均長さRSmが19.6μmである防眩膜付基体。」
イ 甲6明細書等に記載された発明
甲6明細書等の上記(1)カ(ア)の記載によれば、【請求項1】として、
「透明基板と、
前記透明基板の一方の主面上に、最表層として設けられた防汚膜とを有し、
前記防汚膜の表面形状は算術平均粗さRaが0.01μm以上の凹凸形状であり、かつ 前記防汚膜の表面で測定される表面抵抗率は1.0×109~1.0×1013Ω/□である、防汚膜付き透明基板。」
が記載されている。
そして、同(ケ)には、防汚膜付き透明基板の具体例が記載されているところ、実施例8として、Raが0.04μm、表面抵抗率が9.1×1012Ω/□、Rsmが15.11μmである防汚膜付き透明基板が記載されている。
この実施例8を、上記請求項における防汚膜付き透明基板の記載形式に則り整理すると、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲6発明」という。)
「透明基板と、
前記透明基板の一方の主面上に、最表層として設けられた防汚膜とを有し、
前記防汚膜の表面形状は算術平均粗さRaが0.04μmの凹凸形状であり、かつ 前記防汚膜の表面で測定される表面抵抗率は9.1×1012Ω/□であり、
防汚膜の表面の粗さ曲線の要素の平均長さRsmが15.11μmである防汚膜付き透明基板。」
(3)申立理由1について
ア 本件発明1について
(ア)甲1発明との対比・判断
a 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
本件発明1の「前記透明基材の主面には、粗面状をなす粗面部が設けられ」における「粗面部」は、本件明細書の【0032】の「粗面層12の表面12aの面形状は、粗面層12の形成条件を変化させることにより制御することができる。例えば、スプレーコート法により粗面層12を形成する場合において、コーティング剤の塗布量を減少させると、高さSqが減少する。」、【0035】の「(1)透明物品10は、透明基材11を備えている。透明基材11の主面には、粗面状をなす粗面部としての粗面層12が設けられている。」等の記載によれば、透明基材とは、別個に設けられる層であるといえる。一方、甲1発明の「表面に凹凸構造を有する防眩膜」について、表面の凹凸構造は、「粗面」であるといえ、「防眩膜」は透明基材とは別個に設けられる層であるといえるから、甲1発明の「凹凸構造を有する防眩膜」は、本件発明1の「粗面状をなす粗面部」に相当するといえる。
そして、甲1発明の「透明基体」は、本件発明1の「透明基材」に相当する。
また、甲1明細書等の上記(1)ア(キ)の【0131】の「印刷層6の備えられた防眩膜付基体10を画像表示装置等の前面板として用いる場合、印刷層側が、画像表示装置側に配置されるように、防眩膜付基体10が画像表示装置の視認側(前面)に設けられる。防眩膜付基体10の設けられた画像表示装置を、前面から視認すると、その周縁部に黒色印刷部が、周縁部の内側に表示部が、それぞれ、防眩膜3及び透明基体2を介して視認される。」との記載によれば、防眩膜及び透明基体、すなわち、「防眩膜付基体」は、それを介して画像を視認できるものであるから、透明であり、また、これを「物品」と見ることができることも明らかである。
そうすると、甲1発明の「透明基体と、前記透明基体上に設けられた表面に凹凸構造を有する防眩膜を有」する「防眩膜付基体」は、本件発明1の「透明基材を備える透明物品であって、前記透明基材の主面には、粗面状をなす粗面部が設けられ」る「透明物品」に相当する。
また、甲1発明の「粗さ曲線の要素の平均長さRSm」は、本件発明1の「粗さ曲線要素の平均長さRSm」に相当し、甲1発明の「粗さ曲線の要素の平均長さRSm」の19.6μmとの数値は、本件発明1の「粗さ曲線要素の平均長さRSmが20μm以下であり」との条件を満たす。
以上によれば、本件発明1と甲1発明は、「透明基材を備える透明物品であって、前記透明基材の主面には、粗面状をなす粗面部が設けられ、前記粗面部は、粗さ曲線要素の平均長さRSmが20μm以下である透明物品。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点1>
本件発明1では、粗面部は、二乗平均平方根高さSqが0.08μm以下であり、二乗平均平方根高さSqと粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比(Sq/RSm)が0.004以下であるものであるのに対し、甲1発明では、防眩膜における二乗平均平方根高さSq、二乗平均平方根高さSqと粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比(Sq/RSm)が明らかでない点。
b 相違点1についての判断
甲1明細書等には、上記相違点1としたように、二乗平均平方根高さSq及び二乗平均平方根高さSqと粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比(Sq/RSm)に関する記載はないことはもちろんのこと、それらの値を類推できるような記載もない。
ここで、異議申立書の19頁3行~21頁23行には、「甲第2号証~甲第5号証から分かるように、算術平均粗さRaと、二乗平均平方根高さRqは「Rq≒1.25Ra」に相当することは、周知の事実である。」、「本件特許発明においてはRq≒Sqとなる。」と記載され、この関係式を用いると甲1発明のRaの値から、Rqを計算することができ、このRqがSqにほぼ等しいことから、Sqも求めることができ、このSqと、さらに甲1発明のRSmとから(Sq/RSm)も求めることができ、これらのSq及び(Sq/RSm)が、本件発明1の範囲を満たしている旨が記載されている。
上記異議申立書に記載される理由は、甲1発明において、算術平均粗さRaと、二乗平均平方根高さRqとの間に「Rq≒1.25Ra」の関係式が成り立つことを前提としている。
以下、算術平均粗さRaと、二乗平均平方根高さRqとの間の関係が記載されている甲2~甲5を検討する。
甲2~甲5には、上記(1)イ~オで摘示したように以下の記載がある。
甲2の上記(1)イ(オ):油粘度は各試験で得られたリング温度で計算し、Rq1とRq2は算術平均粗さRaから算出し、Rq=1.25Raとした(橋本,2006)。
甲3の上記(1)ウ(ア):図7は,確率密度分布p(z)の測定例である.多くは正規分布に近く,正規分布から偏っているものも,その程度は小さい.完全な正規分布の場合,2乗平均粗さと中心線平均粗さの間には,RMS=1.25Raの関係があるが,実測ではRMS=1.24Raとなっている.
甲4の上記(1)エ(イ):Raは平均粗さ、Rqは粗さの標準偏差である。Rqが1.25Raに非常に近いことから、これらの材料はすべてミクロンスケールでガウス分布しているように見える。
甲5の(1)オ(イ):多くの表面はRaとRqの値が似ており、そのテクスチャがガウス分布に従う場合、Rq=1.25Raであることが知られています。
これらの記載によれば、材料の表面の粗さが完全なガウス分布(正規分布)となっている場合に、Rq≒1.25Raの関係が成り立つといえる。
しかしながら、甲1発明における防眩膜表面の凹凸が、完全なガウス分布(正規分布)となっていることを認めるに足る証拠は提出されていないことから、甲1発明の防眩膜において、Rq≒1.25Raの関係が成立していると認めることができない。
また、材料によってその表面性状が異なることは、当業者であれば容易に理解できることであるところ、甲2~甲4は、鍛造鉄、PEEK及びPEEK複合材(甲2の上記(1)イ(ウ)及び(エ))、冷延鋼板(甲3の上記(1)ウ(ア))、アクリレート(甲4の上記(1)エ(ア))を対象とするものであり、甲1発明における防眩膜の材料である「シリカを主成分とし、CF3(CH2)n-基(ただし、nは1~6の整数である。以下も同様。)を含む」(甲1明細書等の上記(1)ア(ア))ものとは相違している。さらに甲5については多くの表面とは記載されるものの具体的な材料が記載されておらず、甲1発明における防眩膜の材料である「シリカを主成分とし、CF3(CH2)n-基(ただし、nは1~6の整数である。以下も同様。)を含む」ものが、甲5の「多くの表面」の対象材料に含まれると認めることはできない。
さらには、甲1発明の防眩膜表面の凹凸の形成方法によっても、材料の表面の粗さの分布は、変化するといえるところ、甲1発明における防眩膜の凹凸の形成方法は、静電塗装法である(甲1明細書等の上記(1)ア(コ))。そして、上記の静電塗装法は、防眩膜表面の凹凸をガウス分布(正規分布)に従うものとすることを意図するものではないし、また、上記の静電塗装法で、必ずガウス分布(正規分布)に従う凹凸が形成されるとはいえない。
そうすると、甲1発明における防眩膜の凹凸が、本件発明1のSq及び(Sq/RSm)の範囲を満たしていることの前提となる「Rq≒1.25Ra」の関係式が、甲1発明において、成り立つとはいえないのであるから、上記相違点1が、実質的な相違点ではないとすることはできない。
c 小括
上記bで述べたとおり、相違点1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1発明と同一であるということはできない。
d 甲1明細書等から認定できる他の発明について
甲1明細書等の上記(1)ア(コ)の記載によれば、Rskが1.02、Raが0.033μm、粗さ曲線の要素の平均長さRSmが14.1μmである実施例10、Rskが0.88、Raが0.033μm、粗さ曲線の要素の平均長さRSmが14.2μmである実施例11、Rskが0.85、Raが0.032μm、粗さ曲線の要素の平均長さRSmが14.6μmである実施例12、Rskが0.84、Raが0.035μm、粗さ曲線の要素の平均長さRSmが14.8μmである実施例13、Rskが0.084、Raが0.035μm、粗さ曲線の要素の平均長さRSmが14.7μmである実施例14、Rskが0.72、Raが0.031μm、粗さ曲線の要素の平均長さRSmが15.7μmである実施例15、Rskが0.33、Raが0.013μm、粗さ曲線の要素の平均長さRSmが14.7μmである実施例16、Rskが0.54、Raが0.048μm、粗さ曲線の要素の平均長さRSmが17.5μmである実施例17にそれぞれ対応して、甲1発明と同様の発明を認定することができるが、これらの発明のRSmは、いずれも本件発明1のRSmの条件を満たしているため、本件発明1との相違点は、甲1発明と対比した場合と同じものとなる。
そして、それらの相違点に対する判断は、甲1発明に対する場合と同様である。
イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであり、本件発明1の二乗平均平方根高さSq、及び、二乗平均平方根高さSqと粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比(Sq/RSm)に係る事項を含むものであるから、本件発明1が甲1発明と同一であるということはできない以上、本件発明2も、甲1発明と同一であるということはできない。
ウ 申立理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許1~2は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。
(4)申立理由2について
イ 本件発明1について
(ア)甲6発明との対比・判断
a 対比
本件発明1と甲6発明を対比する。
本件発明1の「前記透明基材の主面には、粗面状をなす粗面部が設けられ」における「粗面部」は、上記(3)ア(3)aで述べたように、透明基材とは、別個に設けられる層であるといえる。一方、甲6発明の「表面形状は・・・凹凸形状」である「防汚膜」について、表面の凹凸形状は、「粗面」であるといえ、「防汚膜」は透明基板とは別個に設けられる層であるといえるから、甲6発明の「表面形状は・・・凹凸形状」である「防汚膜」は、本件発明1の「粗面状をなす粗面部」に相当するといえる。
そして、甲6発明の「透明基板」は、本件発明1の「透明基材」に相当する。
また、甲6明細書等の上記(1)カ(ク)の【0151】の「静電容量型インセルタッチパネル式液晶表示装置100は、静電容量型インセルタッチパネル式の液晶表示素子20と、液晶表示素子20の視認側に設けられる防汚膜付き透明基板10Aとを有する。」との記載によれば、防汚膜付き透明基板は、液晶表示素子よりも視認側、つまり、人の眼と液晶表示素子との間に位置している。そして、人は防汚膜付き透明基板を介して液晶表示素子の表示を視認することから、防汚膜付き透明基板は透明であり、また、これを「物品」と見ることができることも明らかである。
そうすると、甲6発明の「透明基板と、前記透明基板の一方の主面上に、最表層として設けられた防汚膜とを有し、前記防汚膜の表面形状は・・・凹凸形状」である「防汚膜付き透明基板」は、本件発明1の「透明基材を備える透明物品であって、前記透明基材の主面には、粗面状をなす粗面部が設けられ」る「透明物品」に相当する。
また、甲6発明の「粗さ曲線の要素の平均長さRsm」は、本件発明1の「粗さ曲線要素の平均長さRSm」に相当し、甲6発明の「粗さ曲線の要素の平均長さRsm」の15.11μmとの数値は、本件発明1の「粗さ曲線要素の平均長さRSmが20μm以下であり」との条件を満たす。
以上によれば、本件発明1と甲6発明は、「透明基材を備える透明物品であって、前記透明基材の主面には、粗面状をなす粗面部が設けられ、前記粗面部は、粗さ曲線要素の平均長さRSmが20μm以下である透明物品。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。
<相違点2>
本件発明1では、粗面部は、二乗平均平方根高さSqが0.08μm以下であり、二乗平均平方根高さSqと粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比(Sq/RSm)が0.004以下であるものであるのに対し、甲6発明では、防眩膜における二乗平均平方根高さSq、二乗平均平方根高さSqと粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比(Sq/RSm)が明らかでない点。
b 相違点2についての判断
甲6明細書等には、上記相違点2としたように、二乗平均平方根高さSq及び二乗平均平方根高さSqと粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比(Sq/RSm)に関する記載はないことはもちろんのこと、それらの値を類推できるような記載もない。
ここで、異議申立書の19頁3行~21頁23行には、甲1発明に対して「甲第2号証~甲第5号証から分かるように、算術平均粗さRaと、二乗平均平方根高さRqは「Rq≒1.25Ra」に相当することは、周知の事実である。」と記載されていたところ、同書24頁15~16行には、甲6発明に対しても、上記の記載を引用し、「上述の通り「Rq≒1.25Ra」の関係」が成り立つ旨記載されている。また、24頁第17行には「甲6号証において、Rq≒Sqとなる」と記載されている。そして、これら関係式を用いると甲6発明のRaの値から、Rqを計算することができ、このRqがSqにほぼ等しいことから、Sqも求めることができ、このSqと、さらに甲6発明のRSmとから(Sq/RSm)も求めることができ、これらのSq及び(Sq/RSm)が、本件発明1の範囲を満たしている旨が記載されている。
上記異議申立書に記載される理由は、甲6発明において、算術平均粗さRaと、二乗平均平方根高さRqとの間に「Rq≒1.25Ra」の関係式が成り立つことを前提としている。
以下、算術平均粗さRaと、二乗平均平方根高さRqとの間の関係が記載されている甲2~甲5によれば、上記(3)ア(ア)bで述べたように、材料の表面の粗さが完全なガウス分布(正規分布)している場合に、Rq≒1.25Raの関係が成り立つといえる。
しかしながら、甲6発明における防汚膜表面の凹凸が、完全なガウス分布(正規分布)となっていることを認めるに足る証拠は提出されていないことから、甲6発明の防汚膜において、Rq≒1.25Raの関係が成立していると認めることができない。
また、材料によってその表面性状が異なることは、当業者であれば容易に理解できることであるところ、甲2~甲4において凹凸が形成される表面の材料が、甲6発明における防汚膜の材料である「含フッ素有機ケイ素化合物」と異なること、また、甲5の「多くの表面」の対象材料に含まれると認めることはできないことも、上記(3)ア(ア)bで述べたのと同様である。
さらには、甲6発明の防汚膜表面の凹凸の形成方法によっても、材料の表面の粗さの分布は、変化するといえるところ、甲6発明における防眩膜の凹凸の形成方法は、スプレー装置による塗布である(甲6明細書等の上記(1)カ(ケ))。そして、上記のスプレー装置による塗布は、防汚膜表面の凹凸をガウス分布(正規分布)に従うものとすることを意図するものではないし、また、上記のスプレー装置による塗布で、必ずガウス分布(正規分布)に従う凹凸が形成されるとはいえない。
そうすると、甲6発明における防汚膜の凹凸が、本件発明1のSq及び(Sq/RSm)の範囲を満たしていることの前提となる「Rq≒1.25Ra」の関係式が、甲6発明において、成り立つとはいえないのであるから、上記相違点2が、実質的な相違点ではないとすることはできない。
c 小括
上記bで述べたとおり、相違点2は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲6発明と同一であるということはできない。
d 甲6明細書等から認定できる他の発明について
甲6明細書等の上記(1)カ(ケ)の記載によれば、算術平均粗さRaが0.04μm、表面抵抗率が6.1×1012Ω/□、粗さ曲線の要素の平均長さRsmが13.61μmである実施例10、算術平均粗さRaが0.04μm、表面抵抗率が3.4×1012Ω/□、粗さ曲線の要素の平均長さRsmが15.59μmである実施例11、算術平均粗さRaが0.03μm、表面抵抗率が4.4×1014Ω/□、粗さ曲線の要素の平均長さRsmが19.02μmである比較例20、算術平均粗さRaが0.04μm、表面抵抗率が3.9×1012Ω/□、粗さ曲線の要素の平均長さRsmが16.51μmである実施例21、にそれぞれ対応して、甲6発明と同様の発明を認定することができるが、これらの発明のRsmは、いずれも本件発明1のRSmの条件を満たしているため、本件発明1との相違点は、甲6発明と対比した場合と同じものとなる。
そして、それらの相違点に対する判断は、甲6発明に対する場合と同様である。
イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであり、本件発明1の二乗平均平方根高さSq、及び、二乗平均平方根高さSqと粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比(Sq/RSm)に係る事項を含むものであるから、本件発明1が甲6発明と同一であるということはできない以上、本件発明2も、甲6発明と同一であるということはできない。
ウ 申立理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許1~2は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。
第5 むすび
上記第4で検討したとおり、本件特許1~2は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるとはいえないため、上記申立理由1~2では、本件特許1~2を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~2を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-700012