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特許異議申立

2022-701306

球状ガラス、ガラス転動体及びガラス転動体の製造方法

審判番号
2022-701306
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-014350
登録番号
7106057
請求日
2022年12月26日
審決日
2023年03月28日
公報発行日
2023年05月26日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】日本電気硝子株式会社
  • 【異議申立人】笹井 栄治
審判長/審判官
  • 審判長 宮澤 尚之
  • 審判官 伊藤 真明
  • 審判官 後藤 政博
分類
P1651.121-Y (C03C)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法113条2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7106057号発明「球状ガラス、ガラス転動体及びガラス転動体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7106057号の請求項1~5に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7106057号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成30年1月31日を出願日とする出願であり、令和4年7月15日にその特許権の設定登録がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行され、その後、同年12月26日に、その請求項1~5に係る特許を対象として特許異議申立人 笹井 栄治(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件発明 特許第7106057号の請求項1~5に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応して「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 直径不同が1.5μm以下である球状ガラスをイオン交換処理してガラス転動体を得るガラス転動体の製造方法であって、 イオン交換処理により、球状ガラスの直径寸法を2.0μm以上増加させることを特徴とするガラス転動体の製造方法。 【請求項2】 イオン交換処理後に、ガラス転動体の直径不同を測定し、その測定結果に基づき、表面を研磨処理することを特徴とする請求項1に記載のガラス転動体の製造方法。 【請求項3】 直径不同が1.0μm以下になるように、表面を研磨処理することを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス転動体の製造方法。 【請求項4】 直径不同が0.2μm以下である球状ガラスをイオン交換処理してガラス転動体を得ることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のガラス転動体の製造方法。 【請求項5】 イオン交換処理により、球状ガラスの直径寸法を0.03%以上増加させることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のガラス転動体の製造方法。」 第3 異議申立人による特許異議の申立理由の概要 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(以下、「申立理由」とする。) 本件発明1~5は、下記甲第1号証~甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(特許異議申立書第5頁~第25頁)。 記 甲第1号証:特開2017-15147号公報 甲第2号証:国際公開第2017/217321号 甲第3号証:松田裕、三田村直樹、都築達也、“ガラスの化学強化法と高付加価値化”、セラミックス、公益社団法人日本セラミックス協会、2013年、Vol.48、No.4、第300頁~第304頁 甲第4号証:特願2018-014350号の審判請求書 甲第5号証:国際公開第2017/100399号 甲第6号証:米国特許第5773148号明細書 甲第7号証:特開2001-146479号公報 (以下、甲第1号証などの甲各号証を単に「甲1」などという。) 第4 当審の判断 1 甲1~7に記載された事項 (1)甲1に記載された事項 甲1には、下記の事項が記載されている(当審注:下線は当審にて付与した。「・・・」は省略を表す。以下、同様である。)。 ア 「【請求項1】 内方部材、外方部材及び転動体を備える転動装置において、 前記内方部材、前記外方部材及び前記転動体の少なくとも1つが、ケイ酸塩ガラス製であり、表面にフッ化物溶剤を作用させた後、表面から20μmの位置の圧縮応力値が400MPa以上で、かつ、表面から深さ100μmの位置の圧縮応力値が150MPa以上となるように化学強化されていることを特徴とする転動装置。」 イ 「【0009】 本発明において、転がり軸受の構造には制限はなく、例えば図1に断面図で示すような玉軸受を例示することができる。図示される玉軸受は、外輪1と内輪2との間に、玉3が転動自在に介装してあり、玉3は保持器4により所定間隔に維持するようになっている。外輪1及び内輪2の両側部には、それぞれシール溝11,12が形成しており、外輪1のシール溝11には、芯金部材21と一体化したシール部材20が装着されており、シールリップ22の接触面22aが内輪2のシール溝12に接触するように構成されている。また、内輪2とシールリップ22との間の空間Sに潤滑剤が封入される。 【0010】 本発明では、外輪1、内輪2及び玉3の少なくとも1つをケイ酸塩ガラス製とする。即ち、外輪1、内輪2及び玉3の全てをケイ酸塩ガラス製とすることもできるし、何れか1つをケイ酸塩ガラス製とすることもできる。何れか1つをケイ酸塩ガラス製とする場合、ガラス製では無い他の軸受構成部材は、SUJ2鋼やSUS鋼、13Cr鋼、SUS440C鋼等の金属製とする。」 ウ 「【0020】 また、圧縮応力深さ20μm及び100μmにおける圧縮応力値を検証するために、下記の試験を行った。 【0021】 ケイ酸塩ガラス球を作製し、フッ酸エッチングを行った後、表2及び表3に示すように圧縮応力深さが20μmまたは100μmにおいて、それぞれの圧縮応力値が異なるように化学強化した。化学強化では、350~450℃の硝酸カリウムを主成分とする溶融塩を用い、浸漬時間を変えることにより圧縮応力深さ20μmまたは100μmにおける圧縮応力値を調整した。そして、下記条件にて寿命試験を行い、L10寿命と計算寿命Lcalとの寿命比(L10/Lcal)を求めた。尚、試験回数はそれぞれ10回(N=10)である。 <寿命試験条件> ・荷重:9800N ・玉サイズ:3/8インチ ・玉数:3球 ・回転数:1000min-1 ・軸受:51305 ・内外輪材料:SUJ2 ・潤滑:RO68 油浴潤滑 【0022】 結果を表2、3及び図3、4に示すが、フッ酸エッチング後に、圧縮応力深さ20μmにおける圧縮応力値を400MPa以上、圧縮応力深さ100μmにおける圧縮応力値を150MPa以上にすることにより、計算寿命よりも長寿命になっている。フッ酸エッチングを行っても、圧縮応力深さ20μmにおける圧縮応力値が400MPa未満、圧縮応力深さ100μmにおける圧縮応力値が150MPa未満では、計算寿命よりも長寿命にはならない。 【0023】 【表2】 [図:0001397227000001.jpg] 」 エ 「【符号の説明】 【0029】 1 外輪(内方部材) 2 内輪(外方部材) 3 玉(転動体) 4 保持器 20 シール部材 21 芯金部材 22 シールリップ 22a 接触面」 (2)甲2に記載された事項 甲2には、下記の事項が記載されている。 ア 「[請求項1] 直径の寸法公差が0.5%以内であり、表面にイオン交換による圧縮応力層を有することを特徴とするガラス転動体。 [請求項2] 表面が研磨面であることを特徴とする請求項1に記載のガラス転動体。 ・・・ [請求項5] 圧縮応力層の圧縮応力値CSが300MPa以上、且つ応力深さDOLが30μm以上であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のガラス転動体。」 イ 「発明が解決しようとする課題 ・・・ [0005] そこで、本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、安価に作製可能であり、且つ加工性と絶縁性が高い転動体を創案することである。 課題を解決するための手段 [0006] 本発明者は、種々の検討を行った結果、ガラス転動体を採択すると共に、このガラス転動体をイオン交換処理することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。即ち、本発明のガラス転動体は、直径の寸法公差が0.5%以内であり、表面にイオン交換による圧縮応力層を有することを特徴とする。ここで、「直径の寸法公差」は、平均直径に対する寸法公差であり、例えば、周知のマイクロメータにより測定可能である。」 ウ 「[0016] 本発明のガラス転動体において、直径の寸法公差は0.5%以内であり、好ましくは0.1%以内、0.05%以内、0.02%以内、0.01%以内、特に0.005%以内である。また、直径の寸法公差は、好ましくは10μm以内、5μm以内、3μm以内、2μm以内、1μm以内、0.5μm以内、特に0.1μm以内である。直径の寸法公差が大き過ぎると、駆動動作等が不安定になり、転動体として使用困難になる。 [0017] 本発明のガラス転動体において、表面が研磨面であることが好ましい。このようにすれば、直径の寸法公差を低減することができる。研磨工程は、イオン交換処理前及びイオン交換処理後に行うことが好ましい。これにより、機械的強度と寸法精度が高いガラス転動体を作製することが可能になる。なお、研磨処理は、ガラス転動体を回動させながら行うことが好ましい。このようにすれば、直径の寸法公差を低減し易くなる。」 エ 「実施例 [0061] 実施例に基づいて、本発明を説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。以下の実施例は、単なる例示である。 [0062] 表1は、本発明の実施例(No.1~5)のガラス組成と特性を示している。 [0063][表1] [図:0001397227000002.jpg] [0064] 次のようにして、表1に記載の各試料を作製した。まず、表中のガラス組成となるように、ガラス原料を調合し、白金容器を用いて1580℃で8時間溶融した。その後、溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して板状に成形して、ガラス板を得た。また、別途、溶融ガラスをマーブル成形法で球形状に成形した後、回動させながら表面を研磨加工して、表中に示す寸法のガラス転動体を得た。ガラス板とガラス転動体は、同じ熱処理条件でアニールされており、熱履歴が同一になっている。各ガラス板及びガラス転動体について、種々の特性を評価した。 ・・・ [0072] 続いて、各ガラス板の両表面に光学研磨を施した後、イオン交換処理を行った。イオン交換処理は440℃の硝酸カリウム溶融塩中に各ガラス板を6時間浸漬することで行った。同様にして、各ガラス転動体についても、回動させながら上記イオン交換処理を行った。イオン交換処理後、各ガラス板の表面を洗浄し、表面応力計(株式会社折原製作所製FSM-6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から圧縮応力層の圧縮応力値と応力深さを算出した。算出に当たり、各ガラス板の屈折率を1.52、光学弾性定数を28[(nm/cm)/MPa]とした。ガラス板とガラス転動体のガラス組成、熱履歴及びイオン交換条件が同一であるため、ガラス板の圧縮応力値をガラス転動体の圧縮応力値CSとし、ガラス板の応力深さをガラス転動体の応力深さDOLとした。」 (3)甲3に記載された事項 甲3には、下記の事項が記載されている。 ア 「2.2 イオン交換法の実際 ・・・ 化学強化ガラスは,表面圧縮応力(Surface Compressive Stress,以下CSと略す)と圧縮応力層深さ(Depth of Layer,以下DOLと略す)の2つによって特徴付けられる.前者は,ガラス最表面に生じている圧縮応力の程度であり,単位としてはMPaのオーダーである.後者は,圧縮応力が形成されている領域のガラス最表面からの深さであり,単位としてはμmのオーダーである.DOLは,応力緩和や徐冷等の影響により,厳密には,K+のガラス最表面からの内部への到達距離(K+拡散深さ)とは一致しないが,近似的には,DOLをK+拡散深さと単純化すると分かりやすい.以下,DOLとCSのそれぞれについて述べる. ・・・図2(右軸側)は,ある温度におけるDOLとイオン交換時間の関係性を示したものである.ここでも,DOLは,(イオン交換時間)1/2に比例することが確認できる. 次に,DOLに対する温度の影響を見てみよう.・・・図3からわかるように,・・・実際の(見かけ上の)イオン交換過程は,アレニウス型の熱活性化過程であると見なせる.このことから,イオン交換温度は,拡散係数Dの因子として含まれ,温度が高くなるにつれて,DOLへの影響は急激に大きくなってくる. ・・・DOLは温度が高いほど,あるいはイオン交換時間が長いほど有利なのであるが,一方で,CSは温度が高いほど,あるいは時間が長いほど緩和してしまう傾向にある.このように,CSとDOLは負の相関関係にあり,求められるCSとDOLの特性に合わせて,温度と時間をうまく決定する必要がある.」(第301頁左欄第15行~第302頁左欄第30行) イ 「2.3 ガラス組成とイオン交換 2.2節で述べたように,イオン交換のK+拡散深さは,(イオン交換時間)1/2に比例するため,DOLを深くしたい場合には,長時間が必要となり,現実的な量産時間内でのイオン交換条件の見直しでは限界が生じうる.そこで,ガラス組成そのものを見直すことによって,イオン交換速度を向上させることが考えられる.・・・ 一般的には,ガラス組成中のAl2O3を増やす手法が知られている1).・・・この他,CaOからMgOへの置換も有効である.」(第302頁右欄第20行~第40行) (4)甲4に記載された事項 甲4には、下記の事項が記載されている。 「本出願人は、このご指摘について、以下に意見を申し述べます。まず、表3の試料No.14と試料No.19を対比すると、KNO3/NaNO3=134である混合溶融塩と硝酸カリウム溶融塩の違いは、イオン交換処理後の直径増加量に殆ど影響を与えないことが分かります。また、表3の試料No.12と試料No.13を対比すると、イオン交換時間を20時間増加させると、イオン交換処理後に直径が1.0μm増加しています。この点から推測すると、イオン交換時間を4時間から6時間に増加させても、イオン交換処理後に直径がそれほど増加しないことが分かります(0.2μm程度の増加量と推定されます)。更に、表3の試料No.16と試料No.18を対比すると、イオン交換温度を70℃上昇させると、イオン交換処理後に直径が2.7倍増加しています。この点から推測すると、イオン交換温度を380℃から440℃に増加させると、イオン交換処理後に直径が約2.4倍程度増加します。 以上の点を考慮して、表3の試料No.12を基準に、引用文献1の実施例の直径増加量を推測すると、0.6μm×2.4+0.2μm=1.54μm程度になります。このため、引用文献1に係るイオン交換後の球状ガラスは、研磨処理等により直径寸法を調整し難いものと思料致します。」 (5)甲5に記載された事項 甲5には、下記の事項が記載されている(日本語訳は、異議申立人提出の抄訳及び当審による。)。 ア 「[00109] The S-shaped stress profile may occur in instances when glass is ion exchanged in a bath that is "poisoned" to a particular level (e.g., comprising greater than 30 wt% NaNO3). Modeled (dashed lines) and measured (solid lines) stress profiles for 800 μm thick glass having a nominal composition of about 57 mol% SiO2, 0 mol% B2O3, about 17 mol% Al2O3, about 7% P2O5, about 17 mol% Na2O, about 0.02 mol% K2O, and about 3 mol% MgO are shown in FIG. 5. The glass was ion exchanged (IOX) in a bath of pure (100% by weight) KNO3 for different temperatures and times (IOX at 460°C for 60 hours and IOX at 490°C for 32 hours). [00110] The modeled stress profiles directly overlap each other, and thus show that the expected diffusion profile based on a diffusion length of 2(D x Time)1/2, where D is the diffusion coefficient at a certain temperature, is basically the same for the different cases investigated. Therefore, one would expect that the diffusion at 460°C for 60 hours (line a in FIG. 5) and the diffusion at 490°C for 32 hours (line b in FIG. 5) would produce the same stress profile.・・・」 (日本語訳:[00109]S字型の応力プロファイルは、特定のレベル(例えば、30重量%を超えるNaNO3を含む)まで「被毒」された浴内でガラスがイオン交換される場合に発生する可能性がある。約57mol%SiO2、0mol%B2O3、約17mol%Al2O3、約7%P2O5、約17mol%Na2O、約0.02mol%K2O、約3mol%MgOの公称組成を有する厚さ800μmのガラスのモデル化(破線)及び測定(実線)された応力プロファイルが図5に示されている。ガラスを純粋な(100重量%)KNO3の浴内で、異なる温度と時間(460℃で60時間のIOX及び490℃で32時間のIOX)でイオン交換(IOX)した。 [00110]モデル化された応力プロファイルは互いに直接重複し、したがって、特定の温度での拡散係数Dを用いた、2(D×時間)1/2の拡散長に基づいて予測された拡散プロファイルは、基本的に調査されたさまざまなケースにおいて等しい。したがって、460℃で60時間の拡散(図5の線a)及び490℃で32時間の拡散(図5の線b)は、同じ応力プロファイルを生成すると予測される。・・・) イ 「[00115] Other examples of S-shape stress profiles are shown in FIGS. 8, 9, and 10. In FIG. 8, modeled (dashed line) and measured stress profiles (solid lines) of a glass having a thickness of 500 μm and a nominal composition of about 57 mol% S1O2, 0 mol% B2O3, about 17 mol% Al2O3, about 7% P2O5, about 17 mol% Na2O, about 0.02 mol% K2O, and about 3 mol% MgO. The glass was ion exchanged for 7 hours at 410°C in a bath of 100 wt% KNO3, and then thermally diffused by heating for 5 hours at 450°C to achieve a depth of compression (DOC)/depth of compressive layer (DOCL) of 20% of the glass thickness (0.2t). ・・・ FIGS. 9 and 10, illustrate how the process of ion exchange followed by thermal diffusion can be used to create S-shape stress profiles having depths of compression of greater than 21% of the glass thickness. The examples shown in FIGS. 9 and 10 have the same composition as those shown in FIG. 8. ・・・」 (日本語訳:[00115]S字型応力プロファイルの他の例が、図8、9及び10に示されている。図8は、厚さが500μmであり、公称組成が約57mol%SiO2、0mol%B2O3、約17mol%Al2O3、約7%P2O5、約17mol%Na2O、約0.02mol%K2O及び約3mol%MgOであるガラスのモデル化(破線)及び測定(実線)された応力プロファイルである。ガラスは、ガラスの厚さの20%(0.2t)の圧縮深さ(DOC)/圧縮層深さ(DOCL)を達成するために、100wt%KNO3の浴内において、410℃で7時間イオン交換され、次いで、450℃で5時間加熱することによって熱拡散された。・・・図9及び図10は、イオン交換とそれに続く熱拡散のプロセスを使用して、ガラスの厚さの21%を超える圧縮深さを有するS字型の応力プロファイルを作成する方法を示している。図9及び図10に示した例は、図8に示したものと同じ組成を有する。・・・) ウ 「 [図:0001397227000003.jpg] 」 エ 「 [図:0001397227000004.jpg] 」 (6)甲6に記載された事項 甲6には、下記の事項が記載されている(日本語訳は、異議申立人提出の抄訳及び当審による。)。 ア 「The glass matrices used comply with the following formulae (expressed in percentages by weight): [図:0001397227000005.jpg] 」(第4欄第30行~第44行) (日本語訳:使用されたガラスマトリックスは、以下の処方(重量百分率で表して)を満たしている。 (表については訳を省略する。)) イ 「 [図:0001397227000006.jpg] The above table shows that the composition according to this invention is particularly favourable to ion exchanges in a potassium nitrate bath. For comparison, it may be stated that for the standard A glass, after 48 hours at 440°C a surface compressive stress of 552 MPa is obtained, for an exchanged depth of 27 microns, and after 216 hours at 460°C., a surface compressive stress of 366 MPa for an exchanged depth of 78 microns.」(第5欄第5行~第24行) (日本語訳:(表については訳を省略する。) 上記の表は、本発明による組成物が硝酸カリウム浴中でのイオン交換に特に有利であることを示している。比較として、標準Aガラスの場合、440℃で48時間後に27ミクロンの交換深さで552MPaの表面圧縮応力が得られ、460℃で216時間後に78ミクロンの交換深さで366MPaの表面圧縮応力が得られる。」 (7)甲7に記載された事項 甲7には、下記の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 窒化珪素を主成分に構成され、表面積A(単位:mm2)と重量W(単位:g)との比A/Wが300以上の球状形態をなすとともに、密度が3.2g/cm3以上を満足し、また、真球度が0.10μm以下であり、かつ直径不同が0.10μm以下であることを特徴とする窒化珪素質セラミックボール。」 イ 「【0024】 セラミックボールの真球度及び直径不同を0.10μm以下とする理由は、真球度及び直径不同が0.10μmを超えると、これをコンピュータハードディスク等の精密電子機器用のベアリングに組み込んで、高速回転(例えば5400~10000rpm)にて使用した時に、音や異常振動が発生しやすくなるためである。なお、セラミックボールの真球度は、より望ましくは0.03μm以下であるのがよく、また、直径不同は、より望ましくは0.07μm以下であるのがよい。」 2 甲1に記載された発明 ア 上記(1)アによれば、甲1には、「ケイ酸塩ガラス製であり」、「表面から20μmの位置の圧縮応力値が400MPa以上で、かつ、表面から深さ100μmの位置の圧縮応力値が150MPa以上となるように化学強化されている」「転動体」が記載されている。 イ また、上記(1)イ、エによれば、甲1において「転動体」とは「玉」とも記載され、上記(1)ウによれば、「玉」の「製造方法」に関して、「ケイ酸塩ガラス球を作製し、フッ酸エッチングを行った後」、「350~450℃の硝酸カリウムを主成分とする溶融塩を用い、浸漬時間を変え」て「化学強化」を行い、「圧縮応力深さ20μmまたは100μmにおける圧縮応力値を調整」することが記載されている。 ウ さらに、上記(1)ウによれば、【表2】のNo.5、6として、「表面から20μmの位置の圧縮応力値」を「400」又は「500」MPa、「圧縮応力深さ100μmの位置の圧縮応力値」を「150」MPaに調製することが記載されている。 エ そうすると、甲1には、【表2】のNo.5、6に注目すると、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「ケイ酸塩ガラス球を作製し、350~450℃の硝酸カリウムを主成分とする溶融塩を用い、浸漬時間を変えて化学強化を行い、圧縮応力深さ20μmの位置の圧縮応力値を400又は500MPa、圧縮応力深さ100μmの位置の圧縮応力値を150MPaに調整する転動体の製造方法。」 3 申立理由について (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明を対比する。 (ア)甲1発明の「ケイ酸塩ガラス球」は、本件発明1の「球状ガラス」に相当する。 (イ)甲1発明の「350~450℃の硝酸カリウムを主成分とする溶融塩を用い、浸漬時間を変えて」行う「化学強化」は、本件特許に係る明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0064】の「イオン交換処理は、360~550℃・・・の溶融塩中に球状ガラスを1~150時間・・・浸漬することで行うことができる」といった記載からすれば、本件発明1の「イオン交換処理」に相当する。 (ウ)甲1発明の「ケイ酸塩ガラス球」に「化学強化を行」った「転動体」は、本件発明1の「ガラス転動体」に相当する。 (エ)そうすると、両者は、 「球状ガラスをイオン交換処理してガラス転動体を得るガラス転動体の製造方法」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1は、「球状ガラス」の「直径不同が1.5μm以下である」のに対し、甲1発明はこれが不明である点。 <相違点2> 本件発明1は、「イオン交換処理により、球状ガラスの直径寸法を2.0μm以上増加させる」のに対し、甲1発明はこれが不明である点。 イ 相違点についての検討 事案に鑑み、相違点2について検討する。 (ア)相違点2が実質的なものであるかについて検討する。 a まず、甲1には、「イオン交換処理により、球状ガラスの直径寸法を2.0μm以上増加させる」ことが記載されていない。 b 次に、甲1の化学強化(イオン交換処理)の条件等の記載から、当該化学強化(イオン交換処理)が「イオン交換処理により、球状ガラスの直径寸法を2.0μm以上増加させる」ものである蓋然性が高いとはいえない。この理由は、下記(a)~(d)のとおりである。 (a)甲1には、「ケイ酸塩ガラス球」の組成が記載されていない。 一方、本件明細書の【0027】~【0049】の記載によれば、「Al2O3」等の「イオン交換処理時に直径寸法を増加させる成分」が存在するから、イオン交換処理により、球状ガラスの直径寸法が増加する程度は、ガラスの組成にも依存することが理解できる。 また、上記1(3)イの甲3の記載によれば、イオン交換速度はガラス組成に依存する。 そうすると「ケイ酸塩ガラス球」の組成が不明である以上、化学強化(イオン交換処理)の条件のみからは、どの程度のイオン交換が行われるか、その結果、どの程度の直径寸法の増加が生じるのかを定量的に把握することができないため、甲1の記載から「イオン交換処理により、球状ガラスの直径寸法を2.0μm以上増加させる」ものであるかどうかを把握することはできない。 (b)また、そもそも、甲1には、「イオン交換処理により、球状ガラスの直径寸法を2.0μm以上増加させる」ものであるかどうかを把握することできる程度に化学強化(イオン交換処理)の条件が記載されているとはいえない。 甲1には、「化学強化では、350~450℃の硝酸カリウムを主成分とする溶融塩を用い、浸漬時間を変えること」が記載されている(上記1(1)ウ)が、「350~450℃」の範囲内のどの温度で、「浸漬時間」をどのように選択しているかは記載されていない。また、「硝酸カリウムを主成分とする溶融塩」が、どのような組成の溶融塩であるかも記載されていない。 一方、本件明細書の【0067】~【0088】には、混合溶融塩の質量比、イオン交換温度及びイオン交換時間といったイオン交換処理の条件が具体的に記載されており、甲1に記載の「化学強化では、350~450℃の硝酸カリウムを主成分とする溶融塩を用い、浸漬時間を変えること」という条件の範囲内に含まれる、本件明細書の【0086】【表3】のNo.12、13、16、21であっても、「イオン交換処理により、球状ガラスの直径寸法を2.0μm以上増加させる」ものではないことが記載されている。 そうすると、甲1に記載の「化学強化では、350~450℃の硝酸カリウムを主成分とする溶融塩を用い、浸漬時間を変えること」という条件からは、甲1発明が「イオン交換処理により、球状ガラスの直径寸法を2.0μm以上増加させる」ものであるかどうかを把握することできない。 (c)なお、甲5には、上記1(5)によれば、特定のケイ酸塩ガラス([00109]又は[00115]に組成が記載された「約57mol%SiO2、0mol%B2O3、約17mol%Al2O3、約7%P2O5、約17mol%Na2O、約0.02mol%K2O及び約3mol%MgO」なる組成を有するガラス)における板厚方向の応力プロファイルとイオン交換処理の条件が記載されているが、甲1に記載のケイ酸塩ガラス球と甲5に記載のケイ酸塩ガラスが同じ組成のものであるかは不明であるから、甲5の記載を参考にして、甲1に記載の化学強化(イオン交換処理)の条件を把握できるとはいえない。 また、甲6には、上記1(6)によれば、特定のケイ酸塩ガラス(上記1(6)アの表に組成が記載されたガラス)における圧縮応力層の深さ及び表面圧縮応力値とイオン交換処理の条件が記載されているが、甲1に記載のケイ酸塩ガラス球と甲6に記載のケイ酸塩ガラスが同じ組成のものであるかは不明であるから、甲6の記載を参考にして、甲1に記載の化学強化(イオン交換処理)の条件を把握できるとはいえない。 (d)さらに、甲1発明は、本件明細書【0079】【表2】の試料No.1~3より圧縮応力層が深いものではあるものの、上記1(3)イの甲3の記載によれば、イオン交換速度がガラス組成に依存するから、甲1発明と試料No.1~3のガラス組成の違い等を考慮せずに、直ちに、甲1発明は、試料No.1~3に比べてイオン交換時間が長い、あるいは、溶融塩温度が高い条件によって製造されるものとはいえず、これを根拠にしても甲1発明が「イオン交換処理により、球状ガラスの直径寸法を2.0μm以上増加させる」ものであるかどうかを把握することできない。 c 以上のとおり、甲1発明が相違点2に係る発明特定事項を有しているとする証拠がないから、相違点2は実質的なものである。 (イ)次に、相違点2に係る発明特性事項の容易想到性について検討する。 a 甲1には、表面から20μmの位置の圧縮応力値が400MPa以上で、かつ、表面から深さ100μmの位置の圧縮応力値が150MPa以上となるようにケイ酸塩ガラス球を化学強化(イオン交換処理)することは記載されているが、化学強化(イオン交換処理)により、ケイ酸塩ガラス球の直径寸法をどのように変化させるべきかについては記載されていない。 b また、上記1(2)~(7)によれば、甲2~7にも、同様に、イオン交換処理により、ガラスの寸法をどのように変化させるべきかについては記載されていない。 c したがって、甲1~7のいずれにも「イオン交換処理により、球状ガラスの直径寸法を2.0μm以上増加させる」ことを示唆する記載はないから、相違点2に係る発明特定事項は当業者が容易に想到し得たものではない。 (ウ)よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2~5について 請求項2~5は請求項1を直接又は間接に引用するものであるから、本件発明2~5は本件発明1と事情は同じである。 よって、本件発明2~5は、甲1発明及び甲2~甲7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立理由に理由はない。 第5 むすび 上記第4で検討したとおり、本件特許1~5は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当するものではないから、上記申立理由では、本件特許1~5を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1~5を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-701306

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