特許拒絶査定不服審判
2023-021342
プラスチック波長シフトファイバおよびその作製方法
- 審判番号
- 2023-021342
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-506016外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年12月14日
- 審決日
- 2025年01月31日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ラクシエム ソリューションズ, エルエルシー
- 【請求人代理人】弁理士法人大塚国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (G02B) / P18 .575-Z (G02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-506016「プラスチック波長シフトファイバおよびその作製方法」拒絶査定不服審判事件〔令和3年2月4日国際公開、WO2021/021808、令和4年10月3日国内公表、特表2022-542383〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)7月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2019年7月29日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概略は以下のとおりである。
令和4年11月 1日付け:拒絶理由通知書
令和5年 2月 8日 :意見書、手続補正書の提出
同年 3月14日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年 6月19日 :意見書、手続補正書の提出
同年 8月15日付け:補正の却下の決定、拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月18日 :原査定の謄本の送達)
同年12月14日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和6年 1月30日付け:前置報告書
同年 4月30日 :上申書の提出
第2 令和5年12月14日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年12月14日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおり補正された。(下線は、補正箇所を示す。)
「波長シフトファイバであって、
少なくとも0.5mmの直径を有するプラスチックコアと、
前記プラスチックコアを囲むクラッドと、を備え、前記波長シフトファイバの開口数が少なくとも約0.6であり、前記プラスチックコアを囲む前記クラッドが、UV硬化クラッドである、波長シフトファイバ。」
(2) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和5年2月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりである。
「波長シフトファイバであって、
少なくとも0.5mmの直径を有するプラスチックコアと、
前記プラスチックコアを囲むクラッドと、を備え、前記波長シフトファイバの開口数が少なくとも約0.53であり、前記プラスチックコアを囲む前記クラッドが、UV硬化クラッドである、波長シフトファイバ。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、「波長シフトファイバの開口数」について、本件補正前の「少なくとも約0.53」を「少なくとも約0.6」に限定するものであり、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。
(1) 本件補正発明の認定
本件補正発明は、前記1(1)に記載した事項により特定されるとおりのものと認められる。
(2) 各引用文献の記載及び引用発明等の認定
ア 引用文献1について
(ア) 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された国際公開第2018/043383号(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。下線は、当合議体が付したものである。
「背景技術
[0002] 物質に対して外部から圧力、熱、光といったエネルギーを加えると、物質中の電子がある確率で励起状態へと遷移する。この励起された電子が基底状態に戻る際、余剰エネルギーが熱や光として放出される。この中で、放射線(α線、β線、γ線、X線などや陽子などの荷電粒子線)をエネルギーとして加えることによって、余剰エネルギーが光として放出される発光現象を、シンチレーションと呼ぶ。
[0003] シンチレーションファイバーは、シンチレーションを利用した放射線検出用の光ファイバーである。シンチレーションファイバーは、シンチレーション性を有する透明基材からなるコアの外周面に、コアよりも低屈折率の透明基材からなるクラッドを被覆したものである。放射線によってコア内で発生した光は、コア/クラッド界面で全反射を繰り返しながら伝播する。最終的に、この光がファイバーの端部に接続されたフォトマルチプライヤ(光電子倍増管)やフォトダイオード等の光検出器によって検知される。
…(中略)…。
[0008] そこで、コア基材に紫外線発光性を有する蛍光剤を添加し、シンチレーション光である紫外短波長領域の光をより長い波長の光に変換した後、ファイバー内を伝送させる方法が一般的である。ここで、コア基材に添加された蛍光剤は、コア基材から放出されたシンチレーション光を吸収し、より長波長の光を再放出する。蛍光剤としては、コア基材の発光波長付近に吸収波長を持つものが望ましい。また、伝送波長を調整するために複数の蛍光剤を用いてもよい。このように長波長へ変換された光が、ファイバー内を伝播し、ファイバー端部に接続された検出器によって検知される。
コア内に蛍光剤等を添加して波長変換するもうひとつの理由は、フォトマルチプライヤなどの光検出器の最大波長感度に合致させるためでもある。一般に、フォトマルチプライヤの感度が最大である波長は430nm付近の青色光であり、近年では微弱光に対応した半導体光検出器(アバランシェフォトダイオード)など、さらに長波長の緑色光に高感度であるものも開発が進んでいる。
…(中略)…。
[0010] ところで、放射線によるシンチレーションは、放射線と基材を構成する原子との相互作用によって発現する。すなわち、一部は原子間の結合を切断し、一部は原子と衝突して原子を陽子、中性子、電子などに分裂させ、一部は跳ね返されて散乱されて、物質内に2次粒子を発生させる。これら1次粒子や2次粒子が物質を構成する原子やその周囲の電子にエネルギーを与えて、一部の電子は励起される。物質がポリスチレンであれば、最終的にベンゼン環のπ電子が励起され、この励起電子が基底状態に戻るときにシンチレーション光が放出される。すなわち、放射線を検知するためには放射線がシンチレーション性を有するコアを通過する必要がある。
[0011] そのため、極微弱な放射線検知の用途に用いられるシンチレーションファイバーでは、コア径を可能な限り太くする必要がある。ここで、ファイバーの外径が大きくなると、剛直となりハンドリング性が悪化したり、湾曲したときに割れやすくなる等の問題がある。また、同一ファイバー径でクラッドが厚くなると、コア径は必然的に小さくなってしまう。そこで、特許文献4では、クラッドの厚さはコアの直径の1~10%、好ましくは2~3%が適当であるとしている。これらの観点から、クラッドを含めたファイバーの外径を0.5~2.0mmとし、コア径を外径の97~98%、すなわち0.485~1.96mmとするのが一般的であった。」
「発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0013] しかしながら、放射線量の高い、いわゆる高線量場では、極短時間のうちに複数の放射線が一本のコアを通過することがある。ここで、シンチレーション光からなる光パルスが両端の検出器に到達する前に、次の放射線通過によるシンチレーション光の光パルスが発生してしまうと、前後のシンチレーション光を分離することができない。
[0014] すなわち、TOF法における位置の特定に必要な時間差に対して無視できない程の高い頻度で複数の放射線がコアを通過するような高線量場では、個々の放射線の情報を分離することはできない。
高線量場としては、例えば粒子フルエンス率が1×105[1/(m2・s)]以上のものが挙げられる。高線量場では上記問題が生じ得るため、従来のシンチレーションファイバーでは用をなさなかった。ここで、粒子フルエンス率とは、照射場の単位面積を単位時間あたりに通過する粒子(放射線)の数である。
[0015] このような高線量場では、コア径を小さくし、放射線がコアを通過する頻度を少なくすれば良い。ところが、従来のコア径比率を保持したままでコア径を細くすると、必然的にシンチレーションファイバーそのものの外径が細くなるため、強度が低下し、取り扱いの際に切れやすくなる問題があった。また、検出器にセットしにくい等、ハンドリング性に劣る問題があった。
[0016] 本発明は、上記に鑑みなされたものであって、高線量場における分解能が高く、強度とハンドリング性に優れたプラスチックシンチレーションファイバーを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0017] 本発明の一態様に係るプラスチックシンチレーションファイバーは、
紫外線発光性を有する蛍光剤を含有するコアと、前記コアの外周面を被覆すると共に、前記コアよりも低い屈折率を有するクラッドと、を有するプラスチックシンチレーションファイバーであって、
前記クラッドの外径が0.5~2.0mmであり、前記コアの径が0.2mm以下であるものである。
コアの径が0.2mm以下であり、従来よりも細いため、高線量場において放射線がコアを通過する確率が低くなり、従来よりも分解能が高い。また、クラッドの外径が、0.5~2.0mmであり、ハンドリング性や強度が従来と同等に優れている。
[0018] 前記クラッドが、インナークラッドと、前記インナークラッドの外周面を被覆すると共に、前記インナークラッドよりも低い屈折率を有するアウタークラッドとを含むマルチクラッド構造を有していることが好ましい。開口数を大きくすることができる。」
「[0028] 本実施の形態に係るシンチレーションファイバーでは、コア1の径Dが0.2mm以下であり、従来よりも細いため、高線量場において放射線がコア1を通過する確率が低くなり、従来よりも高線量場における分解能が高い。また、ファイバーすなわちクラッド2の外径ODが、0.5~2.0mmであり、従来と同程度であるため、ハンドリング性や強度が従来と同等に優れている。すなわち、本発明に係るシンチレーションファイバーでは、従来はできる限り太い方が好ましいとされてきたコア1の径Dを細くすることにより分解能を向上させている。また、従来はできる限り薄いほうが好ましいとされていたクラッドを厚くすることにより、強度及びハンドリング性を維持している。」
「[0029][コア基材]
…(前略)…。
コア基材の屈折率は、例えば1.54~1.64の範囲とすることができる。なお、本明細書における屈折率は、アタゴ社製NAR-3T型を用いて、25℃にて測定波長587.6nm(d線)で測定したものである。
…(中略)…。
[0031][クラッド基材]
…(前略)…。
クラッド基材の屈折率は、コア基材の屈折率よりも0.05以上小さいことが好ましい。クラッド基材の屈折率は、例えば1.40~1.54の範囲とすることができる。」
「[0036][製造方法]
シンチレーションファイバーの製造方法については、特に制限はない。例えば、円形と筒形を複合させたマルチダイを用いて屈折率の異なる複数の熱可塑性樹脂ペレットを同時に溶融押出してクラッド付きファイバーを成形するいわゆる溶融押出法を用いることができる。あるいは、モノフィラメント状の透明高屈折率樹脂の表面に低屈折率樹脂を塗布してクラッドを形成するいわゆるコーティング法を用いることができる。」
「[0060]<比較例>
[コア用ロッド]
スチレンモノマー蛍光剤パラターフェニル(PTP)1質量%及び2,5-ビス-(5-t-ブチル-ベンゾキサゾイル)チオフェン(BBOT)0.02質量%を溶解し、これを内径66mmの円筒容器中に入れ、70~120℃に温度調節して熱重合させた。円筒容器から取り出し、蛍光剤を含んだポリスチレン製コア用ロッドを得た。このポリスチレン製コア用ロッドの屈折率は25℃で1.59であった。
[0061][クラッド用パイプ]
メチルメタクリレートモノマーに重合開始剤(PO-O:0.05質量%、PH-V:0.05質量%)と分子量を調整するための連鎖移動剤n-オクチルメルカプタン(n-OM:0.25質量%)を添加した。これを内径70mmの円筒容器に入れ、熱媒中で軸方向に回転させながら加熱、重合させて、外径70mmで内径68mmのポリメチルメタクリレート(PMMA)製クラッド用パイプを得た。このPMMA製クラッド用パイプの屈折率は25℃で1.49であった。
[0062][プリフォーム作製及び加熱線引き]
ポリスチレン製コア用ロッドとPMMA製クラッド用パイプとを組み合わせてプリフォームを作製した。このプリフォームを加熱線引きし、外径1mmのシンチレーションファイバーを得た。コア径は0.97mmであった。」
(イ) 引用文献1の記載から当業者が把握できる事項
前記(ア)の記載より、当業者は、以下の技術事項を把握できる。
a 引用文献1に<比較例>として記載されたシンチレーションファイバーは、極微弱な放射線検知の用途に用いられるシンチレーションファイバーの一具体例であること。
すなわち、引用文献1には、極微弱な放射線検知の用途に用いられるシンチレーションファイバーでは、コア径を可能な限り太くする必要があり、クラッドを含めたファイバーの外径を0.5~2.0mmとし、コア径を0.485~1.96mmとするのが一般的であったと記載されており([0011])、比較例のシンチレーションファイバーのクラッド外径(1mm)及びコア径(0.97mm)([0062])は、前記極微弱な放射線検知の用途に用いられる一般的なシンチレーションファイバーの数値範囲に含まれていることから、当業者はそのように把握することができる。
b 蛍光剤を含んだポリスチレン製コアの屈折率は、25℃で1.59であること。
すなわち、比較例のポリスチレン製コアは、ポリスチレン製コア用ロッドとPMMA製クラッド用パイプとを組み合わせてプリフォームを作製し、当該プリフォームを加熱線引きして得られたシンチレーションファイバーのコアであるところ([0062])、当該ポリスチレン製コア用ロッドの屈折率は、25℃で1.59であるから([0060])、当業者は、当該ポリスチレン製コアの屈折率は、25℃で1.59であると把握できる。
c ポリメチルメタクリレート(PMMA)製クラッドの屈折率は、25℃で1.49であること。
すなわち、前記bと同様に、比較例のポリメチルメタクリレート(PMMA)製クラッドは、PMMA製クラッド用パイプより得られたものであり、当該PMMA製クラッド用パイプの屈折率は、25℃で1.49であるから([0061])、当業者は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)製クラッドの屈折率は、25℃で1.49であると把握できる。
d 引用文献1に<比較例>として記載されたシンチレーションファイバーにおける蛍光剤は、コアに添加されたものであり、コアから放出されたシンチレーション光を吸収し、より長波長の光を再放出するものであること。
すなわち、[0008]の「コア基材に添加された蛍光剤は、コア基材から放出されたシンチレーション光を吸収し、より長波長の光を再放出する」との記載は背景技術についての記載であるが、引用文献1に<比較例>として記載されたシンチレーションファイバーにおけるポリスチレン製コアに含まれる蛍光剤は、背景技術についての記載と同様に、コアに添加されたものであり、コアから放出されたシンチレーション光を吸収し、より長波長の光を再放出するものであることを当業者は把握できる。
(ウ) 引用発明の認定
以上より、引用文献1には、極微弱な放射線検知の用途に用いられるシンチレーションファイバーの一具体例について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、引用発明の認定に用いた引用文献1の記載等に係る段落番号等を括弧内に付してある。
<引用発明>
「シンチレーションを利用した放射線検出用の光ファイバーである、シンチレーションファイバーであって、([0003])
放射線(α線、β線、γ線、X線などや陽子などの荷電粒子線)をエネルギーとして加えることによって、余剰エネルギーが光として放出される発光現象を、シンチレーションと呼び、([0002])
極微弱な放射線検知の用途に用いられるシンチレーションファイバーであり、(前記(イ)a)
蛍光剤を含んだポリスチレン製コアの屈折率は、25℃で1.59であり、(前記(イ)b)
ポリメチルメタクリレート(PMMA)製クラッドの屈折率は、25℃で1.49であり、(前記(イ)c)
コアに添加された蛍光剤は、コアから放出されたシンチレーション光を吸収し、より長波長の光を再放出し、(前記(イ)d)
外径1mm、コア径は0.97mmである、([0062])
シンチレーションファイバー。」
(エ) 引用文献1技術事項の認定
引用文献1の記載事項から、引用文献1には、次の技術事項が記載されていると認められる。
a シンチレーションファイバーの開口数についての技術事項
シンチレーションファイバーの開口数を大きくすること([0018]。以下「開口数技術事項」という。)。
b コア及びクラッドの屈折率についての技術事項
シンチレーションファイバーのコア及びクラッドの屈折率を、それぞれ1.54~1.64及び1.40~1.54の範囲とすること([0029]・[0031]。以下「屈折率技術事項」という。)。
c シンチレーションファイバーの製造方法についての技術事項
シンチレーションファイバーの製造方法として、低屈折率樹脂を塗布してクラッドを形成するいわゆるコーティング法を適用し得ること([0036]。以下「製造方法技術事項」という。)。
イ 引用文献3について
(ア) 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された特開2005-326762号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。
「【0060】
上記説明した方法以外にも、…(中略)…;及びコア部のみからなるプリフォームを作製した後、該ポリフォームを延伸してファイバ最終径とした後に、クラッドとなる低屈折率媒体、例えば、塗布型クラッドとしては、Addison Clear Wave 社 「AC R220B」塗布UV硬化型などを塗布する等により、プラスチック光ファイバを作製する方法;のいずれかの態様も、本発明の製造方法に含まれる。」
(イ) 引用文献3技術事項の認定
前記(ア)の記載より、引用文献3には、以下の技術事項(以下「引用文献3技術事項」という。)が記載されていると認められる。
<引用文献3技術事項>
「塗布型クラッドとして、塗布UV硬化型があること。」
(3) 本件補正発明と引用発明の対比・判断
ア 対比
本件補正発明と引用発明を対比すると、以下のとおりである。
(ア) 本件補正発明の「波長シフトファイバであって、」との特定事項について
まず、本件補正発明の「波長シフト」の意味について検討すると、特許請求の範囲や明細書において明確な定義がなされておらず、その意味するところは判然としないが、本願出願時の技術常識を踏まえると、その意味は次の2つのいずれかであると認められる。
a シンチレーションコアによる放射線の光への変換
この場合、引用発明は、「シンチレーションを利用した放射線検出用の光ファイバー」であるところ、当該「シンチレーション」とは、「放射線(α線、β線、γ線、X線などや陽子などの荷電粒子線)をエネルギーとして加えることによって、余剰エネルギーが光として放出される発光現象」である。そうすると、引用発明の「シンチレーションファイバー」は、放射線を光に変換する機能を有するものと理解でき、波長をシフトするものということができるから、引用発明の「シンチレーションファイバー」は、本件補正発明の「波長シフトファイバ」に相当するといえる。
b 蛍光ドーパントによる波長変換
この場合、引用発明の「コアに添加された蛍光剤」は、「コアから放出されたシンチレーション光を吸収し、より長波長の光を再放出」するものである。そうすると、引用発明の「シンチレーションファイバー」は、シンチレーション光をより長波長の光に変換する、すなわち波長をシフトするものであるから、引用発明の「シンチレーションファイバー」は、本件補正発明の「波長シフトファイバ」に相当するといえる。
したがって、本件補正発明の「波長シフト」の意味を前記a又はbのいずれと解しても、引用発明は、本件補正発明の前記特定事項を備えている。
(イ) 本件補正発明の「少なくとも0.5mmの直径を有するプラスチックコアと、前記プラスチックコアを囲むクラッドと、を備え、」との特定事項について
引用発明の「コア」は、本件補正発明の「コア」に相当する。そして、引用発明の「コア」は、「ポリスチレン製」であり、その「コア径」は「0.97mm」であるから、本件補正発明の「少なくとも0.5mmの直径を有するプラスチック」との前記特定事項を満たしている。
また、引用発明の「クラッド」は、本件補正発明の「クラッド」に相当する。そして、クラッドがコアを囲んでいることは光ファイバーにおける技術常識であるから、引用発明の「クラッド」は、本件補正発明の「前記プラスチックコアを囲む」との前記特定事項を満たしている。
したがって、引用発明は、本件補正発明の前記特定事項を備えている。
(ウ) 本件補正発明の「前記波長シフトファイバの開口数が少なくとも約0.6であり、」との特定事項について
引用発明の「ポリスチレン製コア」及び「ポリメチルメタクリレート(PMMA)製クラッド」の屈折率は、それぞれ「1.59」及び「1.49」であるから、引用発明の開口数は、下記のとおり0.555と算出される。
(1.592-1.492)1/2=0.55498
(エ) 本件補正発明の「前記プラスチックコアを囲む前記クラッドが、UV硬化クラッドである、」との特定事項について
引用発明の「ポリメチルメタクリレート(PMMA)製クラッド」は、UV硬化クラッドであるか否か不明である。
(オ) 以上より、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「波長シフトファイバであって、
少なくとも0.5mmの直径を有するプラスチックコアと、
前記プラスチックコアを囲むクラッドと、を備える、波長シフトファイバ。」
<相違点>
・相違点1
本件補正発明は、その開口数が、「少なくとも約0.6」であるのに対し、引用発明の開口数は、0.555である点。
・相違点2
クラッドについて、本件補正発明は、「UV硬化クラッド」であるのに対し、引用発明は、UV硬化クラッドであるか否か不明である点。
イ 判断
(ア) 相違点1について
まず、相違点1に係る本件補正発明の開口数が「少なくとも約0.6」であることの技術上の意義について本願の明細書の記載を参酌すると、本願の明細書には、「波長シフトファイバが形成された後、波長シフトファイバは、少なくとも0.53の開口数を有することができる。一実施形態では、波長シフトファイバは、少なくとも0.6、例えば少なくとも0.7などの開口数を有してもよい。」及び「開口数が大きいほど、検出器でより多くの光を検出できる。コア内により多くの光を含むことにより、波長シフトファイバは、より多くの光が最終的に検出器に到達することを可能にし、出力を向上させる。」(【0022】)と記載されている。
これに対して、引用発明を開示する引用文献1には、前記(2)ア(エ)aで認定した開口数技術事項が記載されているところ、シンチレーションファイバーの開口数が大きいほど当該ファイバを導光し得る光(放射線、シンチレーション光及び蛍光光)の量が多くなり好ましいことは、開口数を算出する計算式(前記ア(ウ))からも明らかなように、技術常識であり、このことは、引用発明のような極微弱な放射線検知の用途に用いられるシンチレーションファイバーにも該当するから、引用発明に前記開口数技術事項を適用する動機はあるといえる。したがって、引用発明に前記開口数技術事項を適用して、開口数を0.555からさらに大きくすることは当業者が容易に想到し得たことである。
また、その際には、当業者は具体的な開口数を決定する必要があるところ、引用発明を開示する引用文献1には、前記(2)ア(エ)bで認定した屈折率技術事項が開示されており、当該屈折率技術事項は、引用文献1でいう、ごく微弱な放射線検知か高線量場かとは技術的に関連しておらず、シンチレーションファイバーを光が導光することを定める一般的なものと理解でき、引用発明においても採用可能なものといえるから、引用発明の「コア」及び「クラッド」のそれぞれの屈折率は、「1.54~1.64」及び「1.40~1.54」の範囲内において適宜設計変更し得るものと理解できる。
そうすると、引用発明において、前記屈折率技術事項を踏まえつつ、前記開口数技術事項を適用し、例えば、コア及びクラッドの屈折率を1.64及び1.40とすることにより、その開口数を0.854とすること、すなわち、相違点1に係る本件補正発明のようにその開口数を0.6以上とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
(イ) 相違点2について
引用発明を開示する引用文献1には、前記(2)ア(エ)cで認定した製造方法技術事項が開示されているところ、これは光ファイバーを製造する一般的な手法の一つであるから、引用発明において、そのシンチレーションファイバーの製造方法として、低屈折率樹脂を塗布してクラッドを形成するいわゆるコーティング法を適用することは当業者が容易に想到し得たことである。そして、このような塗布により形成されたクラッドは、塗布後に硬化されるものであり、当業者はそのような材料を具体化する必要があるところ、前記(2)イ(イ)で認定した引用文献3技術事項に見られるように、塗布後に硬化されるクラッドの材料として塗布UV硬化型のものが公知である。したがって、引用発明のクラッドをコーティング法により製造するに際して、その具体的な材料として塗布UV硬化型を採用することに格別の困難性はない。この結果、相違点2に係る本件補正発明の「UV硬化クラッド」との構成は満たされることとなる。
ウ 本件補正発明の効果について
前記イのとおり、相違点1及び2に係る本件補正発明の構成は当業者が容易になし得たことであり、当該相違点に係る構成を備える本件補正発明の効果は、本件補正発明の構成が奏するものとして、引用発明、引用文献1に記載された各技術事項及び引用文献3技術事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
エ 請求人の主張について
請求人は、引用発明(0.97mmのコア径を有するシンチレーションファイバー)は比較例であるから、比較例の波長シフトファイバの開口数を変更することはない旨を主張している。
しかしながら、前記(2)ア(イ)aに説示のとおり、当業者は、当該比較例として記載されたシンチレーションファイバーは、極微弱な放射線検知の用途に用いられるシンチレーションファイバーの一具体例であることを理解でき、これに同(エ)a~cの引用文献1に記載された各技術事項を適用して、適宜設計変更し得ることは、前記イ(ア)及び(イ)で説示したとおりである。
したがって、請求人の前記主張は、前記イの判断を左右するものではない。
オ 小括
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明、引用文献1に記載された各技術事項及び引用文献3技術事項に基づいて、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
以上より、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明の認定
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~14に係る発明は、令和5年2月8日に提出された手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の[理由]1(2)において本件補正前の請求項1として記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。
本願発明は、その出願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である下記の引用文献1に記載された引用発明、引用文献3に記載された技術事項及び引用文献2に示される技術常識に基づいて、その出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:国際公開第2018/043383号
引用文献2:米国特許第5684907号明細書
引用文献3:特開2005-326762号公報
3 引用文献に記載された事項及び引用発明の認定
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定は、前記第2の[理由]2(2)アに記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「開口数」について、「少なくとも約0.6」という限定事項を「少なくとも約0.53」とその数値範囲を広くするものである。
そして、前記限定事項の数値範囲が広くなったことにより、当該「開口数」に係る前記第2の2(3)ア(オ)の相違点1は相違点ではなくなり、本願発明と引用発明の相違点は相違点2のみとなる。そして、当該相違点2に係る本願発明の構成が、引用発明、引用文献1に記載された技術事項及び引用文献3技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たものであることは、前記第2の2(4)イ(イ)で説示したとおりである。
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献1に記載された技術事項及び引用文献3技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-021342