特許拒絶査定不服審判
2024-013045
ヘッドアップディスプレイ装置およびその製造方法
- 審判番号
- 2024-013045
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2023-019435
- 請求日
- 2024年08月09日
- 審決日
- 2025年12月05日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日東電工株式会社
- 【請求人代理人】籾井 孝文
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 三橋 健二
- 審判官 横井 亜矢子
- 分類
- P18 .121-Z (G02B) / P18 .575-Z (G02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第29条第2項、特許法第44条、特許法第29条、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2023- 19435「ヘッドアップディスプレイ装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 5年 4月27日出願公開、特開2023- 59916〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成31年1月23日に出願された特願2019-9126号の一部を令和5年2月10日に特許法44条1項の規定に基づいて新たな特許出願としたものであるところ、その出願後の手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和5年11月10日付け:拒絶理由通知
令和6年 3月18日 :意見書の提出
同年 5月10日付け:拒絶査定
(同月21日 :原査定の謄本の送達)
同年 8月 9日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和6年8月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年8月9日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 補正の内容
令和6年8月9日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正を含むものであって、本件補正により、次の(1)に示す本件補正前、すなわち出願当初の特許請求の範囲の請求項1の記載は、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正された。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前
「【請求項1】
投影光を出射する表示器と;
該投影光を反射する少なくとも1つの反射器と;
開口部を有し、かつ、該表示器および該反射器を内部に収容する筐体と;
該開口部を覆うカバー部材と;
該カバー部材の筐体内部側に設けられた、該カバー部材側から順に粘着剤層と偏光子とを含む偏光板と;を有し、
該カバー部材と該粘着剤層との層間接着力が30N/25mm以上である、
ヘッドアップディスプレイ装置。」
(2) 本件補正後
「【請求項1】
投影光を出射する表示器と;
該投影光を反射する少なくとも1つの反射器と;
開口部を有し、かつ、該表示器および該反射器を内部に収容する筐体と;
該開口部を覆うカバー部材と;
該カバー部材の筐体内部側に設けられた、該カバー部材側から順に粘着剤層と偏光子とを含む偏光板と;を有し、
該カバー部材と該粘着剤層との層間接着力が40N/25mm以上である、
ヘッドアップディスプレイ装置。」
2 補正の目的
本件補正のうち請求項1についてする補正は、カバー部材と粘着剤層との層間接着力について、本件補正前の「30N/25mm以上」から「40N/25mm以上」に限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
3 独立特許要件の判断
本件補正は、前記2のとおり、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するから、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
(1) 本件補正発明
ア 本件補正発明の認定と分説
本件補正発明は、前記1(2)に摘記した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
ここで、検討の便宜上、本件補正発明の構成を次のとおり構成Aから構成Fまでと構成Xに分説する。また、参考図1として、本願の【図1】と【図3】に部材名を記入したものを掲載する。
<本件補正発明の分説>
(構成A) 投影光を出射する表示器と;
(構成B) 該投影光を反射する少なくとも1つの反射器と;
(構成C) 開口部を有し、かつ、該表示器および該反射器を内部に収容する筐体と;
(構成D) 該開口部を覆うカバー部材と;
(構成E) 該カバー部材の筐体内部側に設けられた、該カバー部材側から順に粘着剤層と偏光子とを含む偏光板と;を有し、
(構成F) 該カバー部材と該粘着剤層との層間接着力が40N/25mm以上である、
(構成X) ヘッドアップディスプレイ装置
<参考図1(【図1】、【図3】)>
[図:0001431785000001.jpg]
イ 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある(下線は当合議体が付したものである。)。なお、出願当初「実施例2」及び「実施例3」として記載されていたもの(出願当初の明細書の【0090】、【0091】及び【0093】参照)は、本件補正によりそれぞれ「参考例2」及び「参考例3」に補正された。
(ア) 【技術分野】、【背景技術】、【発明が解決しようとする課題】等
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドアップディスプレイ装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の運転者は、フロントガラスを通して前方を注視すると共に、インストルメントパネル上の計器類を目視しながら運転を実施する。すなわち、視線が前方と下方の計器類とへ移動する。前方を見たままで、計器類を見ることができれば、視線の移動がなく、運転性(最終的に安全性)の向上が期待できる。この知見からヘッドアップディスプレイ装置が開発され、実用に供されるようになってきている。ヘッドアップディスプレイ装置においては、光学系が収納されるハウジング内への塵芥等の異物を防止するため、光路の開口部を覆うカバー部材が設けられる。さらに、ハウジング内の高温化を防止するため(具体的には、太陽光の入射を防止するため)、上記カバー部材に偏光板が貼り合わせられる場合がある(例えば、特許文献1)。しかし、従来のヘッドアップディスプレイ装置は、耐熱性が不十分であるという問題がある。加えて、従来のヘッドアップディスプレイ装置においては、高温環境下でカバー部材と偏光板との界面近傍に気泡が発生する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-70504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、耐熱性に優れ、かつ、高温環境下における気泡の発生が抑制されたヘッドアップディスプレイ装置を提供することにある。
…(中略)…
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、カバー部材の偏光板が積層される面をコロナ処理することにより、カバー部材と偏光板の粘着剤層との層間接着力を所定値以上とすることができる。このようなカバー部材と偏光板とをヘッドアップディスプレイ装置において筐体の開口部を覆うようにして取り付けることにより、耐熱性に優れ、かつ、高温環境下における気泡の発生が抑制されたヘッドアップディスプレイ装置を得ることができる。」
(イ) 【発明を実施するための形態】
「【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
A.ヘッドアップディスプレイ装置の全体構成
図1は、本発明の1つの実施形態によるヘッドアップディスプレイ装置を説明する部分概略断面図である。ヘッドアップディスプレイ装置100は、投影光を出射する表示器10と;投影光を反射する少なくとも1つの反射器(図示例では、1つの反射器)20と;開口部32を有し、かつ、表示器10および反射器20を内部に収容する筐体30と;開口部32を覆うカバー部材40と;カバー部材40の筐体内部側に設けられた偏光板50と;を有する。図1の実施形態では1つの反射器20が設けられているが、図2に示すヘッドアップディスプレイ装置101のように2つの反射器20、22が設けられてもよい。」
「【図1】
[図:0001431785000002.jpg]
」
「【0010】
表示器10としては、任意の適切な構成が採用され得る。表示器の代表例としては液晶表示装置が挙げられる。液晶表示装置は偏光子を含むので、液晶表示装置から出射される投影光は直線偏光となる。
…(中略)…
【0013】
カバー部材40は、筐体30の内部に塵芥が入らないように筐体30の開口部32を覆う板状の部材である。カバー部材40は、代表的には透明であり、反射器20から反射された投影光は、カバー部材40を透過して筐体30の外部に放たれる。カバー部材の詳細についてはB項で後述する。
【0014】
偏光板50は、図3に示すように、カバー部材40側から順に粘着剤層52と偏光子54と必要に応じて基材56とを含む。偏光板50は、代表的には、粘着剤層52を介してカバー部材40の筐体内部側に貼り合わせられている。カバー部材の筐体内部側に偏光板を配置することにより、偏光板の偏光子によって太陽光の入射(透過)を抑制することができるので、ヘッドアップディスプレイ装置の耐熱性を向上させることができる。本発明の実施形態においては、カバー部材40と粘着剤層52との間の層間接着力は30N/25mm以上であり、好ましくは35N/25mm以上であり、より好ましくは40N/25mm以上である。層間接着力の上限は、例えば50N/25mmであり得る。カバー部材と粘着剤層との間の層間接着力がこのような範囲であれば、高温環境下においてカバー部材と粘着剤層との界面近傍の気泡の発生を抑制することができる。このような層間接着力は、例えば、カバー部材の偏光板が積層される面を所定の条件でコロナ処理することにより実現され得る。本発明の実施形態によれば、偏光子による効果と層間接着力の効果との相乗的な効果により、耐熱性に優れ、かつ、高温環境下における気泡の発生が抑制されたヘッドアップディスプレイ装置を得ることができる。さらに、本発明の実施形態においては、カバー部材の粘着剤層側の表面の水接触角は、好ましくは70°以下であり、より好ましくは67°以下であり、さらに好ましくは64°以下である。水接触角の下限は、例えば55°であり得る。水接触角がこのような範囲であれば、所望の層間接着力が得られ、結果として、高温環境下においてカバー部材と粘着剤層との界面近傍の気泡の発生を抑制することができる。なお、偏光板の詳細についてはC項で、コロナ処理の詳細についてはD項で後述する。」
「【図3】
[図:0001431785000003.jpg]
」
「…(中略)…
【0017】
ヘッドアップディスプレイ装置の詳細な構成については、業界で慣用されている任意の適切な構成が採用されるので、詳細な説明は省略する。以下、カバー部材、偏光板、およびヘッドアップディスプレイ装置の製造方法について具体的に説明する。
【0018】
B.カバー部材
カバー部材40は、上記のとおり、代表的には透明である。本明細書において「透明」とは、波長360nm~830nmの可視光を透過する性質を有することを意味する。透明は、実質的に可視光を吸収せず、可視光域の全ての波長の光を透過する場合(無色透明)、および、可視光域の一部の波長の光を吸収し、かつその波長以外の光を透過する場合(有色透明)を含む。カバー部材40は、好ましくは無色透明である。カバー部材の全光線透過率は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。全光線透過率は、JIS K7375に準じて測定される値である。
【0019】
カバー部材の表面形状は、開口部32の形状に応じて適切に設計することができる。例えば、カバー部材は、開口部を覆う部分が、平面のみまたは曲面のみから構成されていてもよく、開口部を覆う部分が、複数の平面および/または複数の曲面から構成されてもよい。代表的には、カバー部材の表面形状は、平面のみまたは曲面のみから構成されている。図示例では、開口部を覆う部分が曲面のみで構成されたカバー部材が用いられている。
【0020】
カバー部材の厚みは、例えば10μm~1000μmであり得る。カバー部材が厚すぎると、投影光の透過率が低減し(投影光の光損失が多くなり)、さらに、二重像が発生する一因となるおそれがある。カバー部材が薄すぎると、機械的強度が不十分となり、被覆機能が不十分となるおそれがある。
【0021】
カバー部材は、任意の適切な透明材料で構成され得る。代表例としては、樹脂、ガラスが挙げられる。樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のエステル系樹脂;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂;ビスフェノールA系ポリカーボネートなどのポリカーボネート系樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ラクトン変性アクリル樹脂などのアクリル系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、環状構造又はノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系樹脂;塩化ビニル系樹脂;芳香族ポリアミド等のアミド系樹脂;イミド系樹脂;スルホン系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂;ビニルアルコール系樹脂;塩化ビニリデン系樹脂;ビニルブチラール系樹脂;アリレート系樹脂;ポリオキシメチレン系樹脂;エポキシ系樹脂;が挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
C.偏光板
C-1.偏光子
偏光子としては、任意の適切な偏光子が採用され得る。代表例としては、ヨウ素系偏光子およびリオトロピック液晶偏光子が挙げられる。好ましくは、リオトロピック液晶偏光子である。リオトロピック液晶偏光子は耐熱性に優れるので、結果として、ヘッドアップディスプレイ装置の耐熱性をさらに向上させることができる。その結果、耐熱性と気泡の抑制という効果の両立が顕著となり得る。
【0023】
リオトロピック液晶偏光子は、例えば、下記式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含む:
【化1】
[図:0001431785000004.jpg]
式(1)において、Q1は、置換または非置換のアリール基を表し、Q2は、置換または非置換のアリーレン基を表し、R1は、それぞれ独立して、水素原子、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアセチル基、置換または非置換のベンゾイル基、置換または非置換のフェニル基を表し、Mは対イオンを表し、mは0~2の整数であり、nは0~6の整数であり;ただし、mおよびnの少なくとも一方は0でなく、1≦m+n≦6であり、mが2である場合、それぞれのR1は同一であってもよく異なっていてもよい。
【0024】
式(1)に示されたOH、(NHR1)m、および(SO3M)nは、それぞれナフチル環の7つの置換部位のいずれに結合していてもよい。
【0025】
式(1)のナフチル基とアゾ基(-N=N-)の結合位置は、特に限定されない。好ましくは、ナフチル基とアゾ基とは、ナフチル基の1位または2位で結合されている。
【0026】
式(1)のR1のアルキル基、アセチル基、ベンゾイル基、またはフェニル基が置換基を有する場合、その置換基としては、下記アリール基またはアリーレン基において例示する置換基が挙げられる。R1は、好ましくは、水素原子、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアセチル基であり、より好ましくは水素原子である。置換または非置換のアルキル基としては、置換または非置換の炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。
【0027】
式(1)のM(対イオン)は、好ましくは、水素イオン;Li、Na、K、Csなどのアルカリ金属イオン;Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属イオン;その他の金属イオン;アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムイオン;有機アミンの塩などが挙げられる。金属イオンとしては、例えば、Ni+、Fe3+、Cu2+、Ag+、Zn2+、Al3+、Pd2+、Cd2+、Sn2+、Co2+、Mn2+、Ce3+が挙げられる。有機アミンとしては、炭素数1~6のアルキルアミン、ヒドロキシル基を有する炭素数1~6のアルキルアミン、カルボキシル基を有する炭素数1~6のアルキルアミンなどが挙げられる。式(1)において、SO3Mが2つ以上存在する場合、それぞれのMは、同一でもよく異なっていてもよい。また、式(1)において、SO3MのMが2価以上の陽イオンである場合、隣接する他のアゾ系化合物のSO3-と結合して超分子会合体を形成し得る。
【0028】
式(1)のmは、好ましくは1である。また、一般式(1)のnは、好ましくは1または2である。
【0029】
式(1)のナフチル基の具体例としては、下記の式(a)~式(l)で表されるものが挙げられる。式(a)~式(l)のR1およびMは、式(1)について説明したとおりである。
【0030】
(化2)
[図:0001431785000005.jpg]
[図:0001431785000006.jpg]
【0031】
式(1)においてQ1で表されるアリール基は、フェニル基の他、ナフチル基などのようなベンゼン環が2以上縮合した縮合環基が挙げられる。Q2で表されるアリーレン基は、フェニレン基の他、ナフチレン基などのようなベンゼン環が2以上縮合した縮合環基が挙げられる。
【0032】
Q1のアリール基またはQ2のアリーレン基は、それぞれ置換基を有していてもよいし、置換基を有していなくてもよい。上記アリール基またはアリーレン基が置換または非置換のいずれの場合でも、極性基を有する式(1)の芳香族ジスアゾ化合物は、水系溶媒に対する溶解性に優れている。
【0033】
上記アリール基またはアリーレン基が置換基を有する場合、その置換基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキルアミノ基、フェニルアミノ基、炭素数1~6のアシルアミノ基、ジヒドロキシプロピル基等の炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、COOM基などのカルボキシル基、SO3M基などのスルホン酸基、水酸基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、ハロゲノ基などが挙げられる。好ましくは、上記置換基は、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、カルボキシル基、スルホン酸基、およびニトロ基から選択される1つである。このような置換基を有する芳香族ジスアゾ化合物は、特に水溶性に優れている。上記アリール基またはアリーレン基は、これらの置換基の1種で置換されていてもよく、2種以上で置換されていてもよい。また、置換基は、任意の比率で置換されていてもよい。
【0034】
式(1)のQ1は、好ましくは置換または非置換のフェニル基であり、より好ましくは上記置換基を有するフェニル基である。Q2は、好ましくは置換または非置換のナフチレン基であり、より好ましくは上記置換基を有するナフチレン基であり、特に好ましくは上記置換基を有する1,4-ナフチレン基である。
…(中略)…
【0041】
上記式(1)~(3)で表される芳香族ジスアゾ化合物は、例えば、細田豊著「理論製造 染料化学(5版)」(昭和43年7月15日技報堂発行、135頁~152頁)に従って合成できる。例えば、式(3)の芳香族ジスアゾ化合物は、アニリン誘導体とナフタレンスルホン酸誘導体とをジアゾ化およびカップリング反応させてモノアゾ化合物を得た後、このモノアゾ化合物をジアゾ化し、さらに、1-アミノ-8-ナフトールスルホン酸誘導体とカップリング反応させることによって合成できる。
【0042】
リオトロピック液晶偏光子は、例えば、下記の工程Bおよび工程Cを含む方法によって製造することができる。必要に応じて、工程Bの前に工程Aを行ってもよく、工程Cの後に工程Dを行ってもよい。
工程A:基材の表面に、配向処理を施す工程。
工程B:基材の表面に上記式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含むコーティング液を塗布し、塗膜を形成する工程。
工程C:塗膜を乾燥し、乾燥塗膜である偏光子を形成する工程。
工程D:工程Cで得られた偏光子の表面に、耐水化処理を施す工程。
【0043】
(工程A)
工程Aは、基材の表面に配向処理を行うことで、基材の表面に配向規制力を付与する工程である。予め配向規制力を有する基材を用いる場合、工程Aを実施する必要はない。配向規制力の付与方法としては、例えば、(a)基材の表面をラビング処理する方法、(b)フィルムの表面にポリイミドなどの膜を形成し、その膜の表面をラビング処理して配向膜を形成する方法、(c)フィルムの表面に光反応性化合物からなる膜を形成し、その膜に光照射して配向膜を形成する方法が挙げられる。なお、(b)および(c)の方法を用いる場合、基材と偏光子の間に配向膜を有する偏光板が作製される。基材はそのまま用いてもよく(この場合、基材が偏光子の保護層として機能し得る)、基材を剥離して当該剥離面に任意の適切な保護フィルムを設けてもよい。
【0044】
(工程B)
工程Bは、コーティング液を用いて塗膜を形成する工程である。コーティング液は、上記芳香族ジスアゾ化合物と、芳香族ジスアゾ化合物を溶解または分散させる溶媒と、を含む。コーティング液は、溶媒に、芳香族ジスアゾ化合物を溶解または分散させることによって得られる。なお、必要に応じて、上記芳香族ジスアゾ化合物以外の他のポリマー、および/または添加剤などを溶媒に添加してもよい。
【0045】
芳香族ジスアゾ化合物を溶解または分散させる溶媒は、任意の適切な溶媒を用いることができる。水系溶媒が好ましい。水系溶媒としては、水、親水性溶媒、水と親水性溶媒の混合溶媒などが挙げられる。親水性溶媒は、水に略均一に溶解する溶媒である。親水性溶媒としては、例えば、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;エチレングリコールなどのグリコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;が挙げられる。上記水系溶媒は、好ましくは、水、または、水と親水性溶媒の混合溶媒が用いられる。
【0046】
上記式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物は、リオトロピック液晶性を有する有機化合物である。そのため、コーティング液は、液温や芳香族ジスアゾ化合物の濃度などを変化させることにより、リオトロピック液晶相を示す。リオトロピック液晶相は、芳香族ジスアゾ化合物が液中で超分子会合体を形成することによって生じる。リオトロピック液晶相は、偏光顕微鏡で観察される光学模様によって、確認、識別できる。なお、超分子会合体は、複数の芳香族ジスアゾ化合物が水素結合等によって結合して形成された1つの大きな複合体である。
【0047】
コーティング液中における芳香族ジスアゾ化合物の濃度は、それが液晶相を示すように調製することが好ましい。コーティング液中における芳香族ジスアゾ化合物の濃度は、通常0.05重量%~50重量%であり、好ましくは0.5重量%~40重量%であり、より好ましくは1重量%~10重量%である。また、コーティング液は、適切なpHに調整される。コーティング液のpHは、好ましくは2~10程度、より好ましくは6~8程度である。さらに、コーティング液の温度は、好ましくは10℃~40℃、より好ましくは15℃~30℃に調整される。
【0048】
コーティング液を基材の上に塗布することにより、塗膜が形成される。塗膜内において、芳香族ジスアゾ化合物は基材の配向規制力によって所定の方向に配向する。コーティング液の塗布方法としては、任意の適切なコータを用いた塗布方法を採用することができる。コータとしては、例えば、バーコータ、ロールコータ、スピンコータ、コンマコータ、グラビアコータ、エアーナイフコータ、ダイコータが挙げられる。
【0049】
(工程C)
工程Cは、乾燥塗膜である偏光子を形成する工程である。基材の上に乾燥塗膜である偏光子を形成することで、基材と偏光子とを有する偏光板が得られる。
【0050】
工程Bで得られた塗膜を乾燥することにより、塗膜に含まれる溶媒が揮発し、固形の芳香族ジスアゾ化合物を含む乾燥塗膜(リオトロピック液晶偏光子)が形成される。偏光子の内部において、芳香族ジスアゾ化合物は超分子会合体を形成したままその配向が固定されている。塗膜の乾燥方法としては、例えば、自然乾燥、強制的な乾燥が挙げられる。強制的な乾燥としては、例えば、減圧乾燥、加熱乾燥、減圧加熱乾燥が挙げられる。好ましくは、自然乾燥が用いられる。塗膜の乾燥時間は、乾燥温度や溶媒の種類によって、適宜設定され得る。例えば、自然乾燥の場合には、乾燥時間は、好ましくは1秒~120分であり、より好ましくは10秒~5分である。乾燥温度は、好ましくは10℃~100℃であり、より好ましくは10℃~90℃であり、特に好ましくは10℃~80℃である。なお、乾燥温度とは、塗膜の表面や内部の温度ではなく、塗膜を乾燥する雰囲気の温度を意味する。
【0051】
(工程D)
工程Dは、偏光子に耐水化処理液を接触させることによって偏光子に耐水性を付与する工程である。偏光子を耐水化処理液に接触させる方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。接触方法としては、(a)偏光子の表面に耐水化処理液を塗布する、(b)耐水化処理液が満たされた浴中に偏光板(偏光子)を浸漬する、(c)耐水化処理液が満たされた浴中に偏光板(偏光子)を通過させる、などの方法が挙げられる。前記(a)の耐水化処理液の塗布は、任意の適切なコータ、または、スプレーなどを用いて行われ得る。
【0052】
耐水化処理液は、任意の適切な液体を用いることができる。耐水化処理液は、例えば、有機色素を架橋する機能を有する架橋剤と、その架橋剤を溶解または分散する溶媒と、を含む。架橋剤としては、例えば、有機窒素化合物を挙げることができ、溶媒としては、例えば、水系溶媒を挙げることができる。有機窒素化合物としては、その分子中に2個以上のカチオン性基(好ましくは、窒素原子を含むカチオン性基)を有する非環式の有機窒素化合物などが好ましく用いられる。非環式の有機窒素化合物(非環式の脂肪族窒素化合物)としては、例えば、アルキレンジアミンなどの脂肪族ジアミンまたはその塩;アルキレントリアミンなどの脂肪族トリアミンまたはその塩;アルキレンテトラアミンなどの脂肪族テトラアミンまたはその塩;アルキレンペンタアミンなどの脂肪族ペンタアミンまたはその塩;アルキレンエーテルジアミンなどの脂肪族エーテルジアミンまたはその塩などが挙げられる。水系溶媒としては、上記工程Bに関して説明したものを用いることができる。
【0053】
耐水化処理液中における架橋剤の濃度は、好ましくは1質量%~50質量%であり、さらに好ましくは5質量%~30質量%である。耐水化処理液に偏光子を接触させると、偏光子の内部の有機色素が架橋剤を介して架橋される。架橋により、耐水性および機械的強度に優れた偏光子が得られる。
【0054】
リオトロピック液晶偏光子の厚みは、好ましくは1000nm以下であり、より好ましくは700nm以下であり、特に好ましくは500nm以下である。リオトロピック液晶偏光子の厚みの下限は、好ましくは100nmであり、より好ましくは200nmであり、特に好ましくは300nmである。偏光子の厚みがこのような範囲であれば、投影光を良好に筐体から放つことができ、かつ、太陽光の筐体内部への入射(透過)を抑制することができる。
【0055】
偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率は、好ましくは35.0%~50.0%であり、より好ましくは40.0%~45.0%である。
【0056】
偏光子の偏光度は、例えば88%以上であり、好ましくは89%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。偏光度の上限は、例えば99%であり得る。
…(中略)…
【0068】
C-3.基材
基材56は、偏光板の任意の構成要素であり、必要に応じて設けられる。基材は、偏光子の保護フィルムとして使用できる任意の適切なフィルムで構成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、環状オレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001-343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN-メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。当該ポリマーフィルムは、例えば、上記樹脂組成物の押出成形物であり得る。好ましくは、(メタ)アクリル系樹脂、環状オレフィン系樹脂が用いられ得る。
…(中略)…
【0081】
C-4.粘着剤層
粘着剤層52としては、任意の適切な構成が採用され得る。粘着剤層を構成する粘着剤の具体例としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、エポキシ系粘着剤、およびポリエーテル系粘着剤が挙げられる。粘着剤のベース樹脂を形成するモノマーの種類、数、組み合わせおよび配合比、ならびに、架橋剤の配合量、反応温度、反応時間等を調整することにより、目的に応じた所望の特性を有する粘着剤を調製することができる。粘着剤のベース樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。透明性、加工性および耐久性などの観点から、アクリル系粘着剤が好ましい。粘着剤層を構成する粘着剤の詳細は、例えば、特開2016-155981号公報に記載されており、当該公報の記載は本明細書に参考として援用されている。粘着剤層の厚みは、例えば10μm~100μmであり得る。
【0082】
C-5.その他
偏光板は、必要に応じて、基材の偏光子と反対側にハードコート層および/またはアンチブロッキング層をさらに有していてもよい。ハードコート層の詳細は、例えば、特開2007-171943号公報に記載されている。アンチブロッキング層の詳細は、例えば、特開2015-115171号公報、特開2015-141674号公報、特開2015-120870号公報、特開2015-005272号公報に記載されている。これらの公報の記載は、参考として本明細書に援用される。
【0083】
D.ヘッドアップディスプレイ装置の製造方法
以下、ヘッドアップディスプレイ装置の製造方法の一例について簡単に説明する。当該製造方法は、カバー部材の一方の面をコロナ処理すること;および、カバー部材のコロナ処理面に、粘着剤層52を介して偏光板50を貼り合わせること;を含む。コロナ処理は、高周波電源のコロナ表面処理装置を用いて、カバー部材の一方の面に放電照射することにより実施される。放電出力強度は、好ましくは0.5kW以上であり、より好ましくは0.8kW以上であり、さらに好ましくは0.10kW以上である。
【0084】
上記の貼り合わせにより形成された積層体を、表示器および反射器等が組み込まれた筐体の開口部を覆うようにして取り付けることにより、ヘッドアップディスプレイ装置が得られ得る。積層体は、偏光板が筐体内部側に位置するようにして筐体の開口部に取り付けられる。」
(ウ) 【実施例】
「【実施例】
【0085】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、実施例における評価項目は以下のとおりである。
【0086】
(1)水接触角
自動接触角計((株)共和界面科学社製、製品名;DM500)を用いて、カバー部材表面の水接触角を測定した。
(2)層間接着力
実施例および比較例で得られた積層体を、長さ100mm、幅25mmに切り出し、層間接着力測定用のサンプルを得た。次いで、引張試験機(商品名:TCM-1kNB、ミネベア社製)を用いて、カバー部材から粘着剤層/偏光子/基材を引き剥がす180°剥離試験を行い、カバー部材に対する層間接着力(180度引き剥がし接着力)(N/25mm)を測定した。測定は、23℃、50%RHの雰囲気下、剥離角度180°、引張速度300mm/分の条件で行った。
(3)気泡
実施例および比較例で得られた積層体を、110℃/50時間の加熱信頼性試験に供した。試験後の積層体の気泡の有無を目視により観察し、以下の基準で評価した。
○:気泡は認められなかった
×:気泡が認められた
【0087】
[実施例1]
1.有機色素(芳香族ジアゾ化合物)の合成
4-ニトロアニリンと8-アミノ-2-ナフタレンスルホン酸とを、常法(細田豊著「理論製造 染料化学 第5版」昭和43年7月15日技法堂発行、135ページ~152ページに記載の方法)により、ジアゾ化およびカップリング反応させて、モノアゾ化合物を得た。得られたモノアゾ化合物を、前記常法によりジアゾ化し、さらに、1-アミノ-8-ナフトール-2,4-ジスルホン酸リチウム塩とカップリング反応させて粗生成物を得た。これを塩化リチウムで塩析することによって、下記式(4)の芳香族ジスアゾ化合物を得た。
【化5】
[図:0001431785000007.jpg]
【0088】
2.偏光板の作製
基材としてノルボルネン系樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製:製品名「ゼオノア」、ZF14-100)を用意し、このフィルムの表面にラビング処理および親水化処理(コロナ処理)を施した。上記式(4)の芳香族ジスアゾ化合物をイオン交換水に溶解させ、濃度4重量%のコーティング液を調製した。ラビング処理および親水化処理を施した基板の表面にコーティング液をバーコータ(BUSHMAN社製:製品名「Mayer rot HS4」)を用いて塗布し、23℃の恒温室内で自然乾燥することで、基材表面に乾燥塗膜(偏光子)を形成した。なお、偏光子の厚みは300nmであった。
続いて、基材/偏光子の積層体を耐水化処理液に2秒間浸漬した。耐水化処理液としては、1,3-プロパンジアミン塩酸塩(東京化成工業(株)製)、1,2-エチレンジアミン塩酸塩(東京化成工業(株)製)、およびビスヘキサメチレントリアミン(東京化成工業(株)製)を質量比55:15:30で含む水溶液を用いた。耐水化処理液から取り出した基材/偏光子の積層体を水洗し、乾燥させることにより、耐水性が付与された偏光板(基材/偏光子の積層体)を得た。
【0089】
3.偏光板とカバー部材との貼り合わせ
カバー部材として厚さ250μmのポリカーボネート系樹脂シート((株)シャインテクノ製:製品名「AW-10U」)を用いた。このカバー部材の一方の面にコロナ処理を施した。コロナ処理は、コロナ表面処理装置の高周波電源((株)春日電機社製、製品名;AGI-023)を使用し、放電管との距離が5mmとなるようにカバー部材を設置し、放電出力を0.11kWとして、カバー部材を放電管の下で2m/minの速度で移動させることにより実施した。カバー部材のコロナ処理面の水接触角は62°であった。カバー部材のコロナ処理面に、アクリル系粘着剤(日東電工(株)製:製品名「CS9862UA」)を介して偏光板を貼り合わせ、カバー部材/粘着剤層/偏光子/基材の積層体を作製した。得られた積層体におけるカバー部材と粘着剤層との層間接着力は43N/25mmであった。さらに、得られた積層体を上記(3)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0090】
[参考例2]
コロナ処理におけるカバー部材の移動速度を5m/minに変更したこと以外は実施例1と同様にして積層体を作製した。カバー部材のコロナ処理面の水接触角は63°であった。得られた積層体におけるカバー部材と粘着剤層との層間接着力は36N/25mmであった。さらに、得られた積層体を上記(3)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0091】
[参考例3]
コロナ処理におけるカバー部材の移動速度を10m/minに変更したこと以外は実施例1と同様にして積層体を作製した。カバー部材のコロナ処理面の水接触角は66°であった。得られた積層体におけるカバー部材と粘着剤層との層間接着力は36N/25mmであった。さらに、得られた積層体を上記(3)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0092】
[比較例1]
コロナ処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして積層体を作製した。カバー部材の偏光板が積層される面の水接触角は82°であった。得られた積層体におけるカバー部材と粘着剤層との層間接着力は27N/25mmであった。さらに、得られた積層体を上記(3)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
[図:0001431785000008.jpg]
【0094】
表1から明らかなように、実施例の積層体は、加熱信頼性試験において気泡が防止されている。すなわち、本発明の実施例によれば、耐熱性に優れ、かつ、高温環境下における気泡の発生が抑制されたヘッドアップディスプレイ装置を実現できることがわかる。」
(2) 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の出願前に発行された文献である特開2018-72488号公報)(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。なお、下線は、当合議体が付したもので、後記イの「引用文献1の記載事項から読み取れる事項」において参照する記載、及び、後記ウの「引用発明の認定」において引用発明の認定に直接用いる記載を示す。
(ア) 請求項1及び請求項2
「【請求項1】
投影光を出射する表示器と、
前記投影光を反射する反射器と、
開口部を有し且つ前記表示器及び前記反射器を内部に収容する筐体と、を有し、
前記投影光の光路上であって、前記表示器による出射から前記反射器による反射及び前記開口部の通過を経て前記筐体の外部に至るまでの間に、下記一般式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含む偏光子が設けられていることを特徴とする投影装置。
【化1】
[図:0001431785000009.jpg]
一般式(1)において、Q1は、置換若しくは無置換のアリール基を表し、Q2は、置換若しくは無置換のアリーレン基を表し、R1は、独立して、水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアセチル基、置換若しくは無置換のベンゾイル基、置換若しくは無置換のフェニル基を表し、Mは、対イオンを表し、mは、0~2の整数を表し、nは、0~6の整数を表す。ただし、m及びnの少なくとも何れか一方は、0でなく、1≦m+n≦6である。前記mが2である場合、各R1は、同一又は異なる。
【請求項2】
前記筐体の開口部が、投影光が透過するカバー部材によって覆われている、請求項1に記載の投影装置。」
(イ) 【技術分野】~【効果】(【0001】~【0011】、【図12】、【図13】)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、投影装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スクリーンなど透光性を有さない反射体と、プロジェクタなどの投影装置と、を有する表示装置が知られている。投影装置から反射体に投影光を出射し、この投影光が反射体上で反射することにより、観察者は、映像を視認できる。
近年、従来の表示装置を改良し、透光性を有する透光反射体を用いた表示装置が開発されており、一般的に、ヘッドアップディスプレイと称されている。例えば、投影装置から発せられた光を透光反射体である自動車のフロントガラスに投影することで映像を表示するヘッドアップディスプレイが知られている。
透光反射体は、投影装置から発せられた光を反射するだけでなく、外部からの光が透過する。そのため、観察者は、透光反射体に投影された映像を視認できるだけでなく、透光反射体の反対側(即ち、透光反射体を基準に観察者がいない側)の状況を透視することができる。
従って、ヘッドアップディスプレイを自動車に搭載した場合、観察者である自動車の運転者は、透光反射体であるフロントガラスに投影された位置座標や速度計などの運行情報を見つつ、フロントガラスを透かして自動車の外部の状況を視認することができる。従って、運転者は、自動車を運転中に、進行方向から視線を逸らすことなく運行情報を入手できる。
【0003】
図12に示すように、通常、ヘッドアップディスプレイ用の投影装置10A(以下、単に「投影装置」と称する)は、投影光を出射する表示器1Aと、前記投影光を反射する反射器2Aと、表示器1A及び反射器2Aを収容する筐体3Aと、を有する。
筐体3Aは、開口部31Aを有している。表示器1Aによって出射された投影光Pは、反射器2Aによって反射され、筐体3Aの開口部31Aを介して筐体の外部に放たれた後、透光反射体(図示せず)に投影される。筐体3Aの開口部31Aは、筐体3Aの内部に塵芥が入り込まないように、カバー部材4Aによって覆われている。
このような投影装置10Aを自動車に搭載する場合、その設置場所は、ダッシュボードなど太陽光に曝され易い部分であることが多い。太陽光は、筐体3Aの外面のみならず、カバー部材4Aを透過して筐体3Aの内部に入射する。従って、投影装置10Aは、その内外両方から太陽光によって加熱されるため、昇温し易い。しかしながら、投影装置10Aの構成部材は、十分な耐熱性を有さない場合が多く、徐々に劣化し易い。
特に、投影装置10Aの構成部材のうち、電子機器を含む表示器1Aは、熱によって劣化し易い。筐体3Aの内部に入射した一部の太陽光Sは、反射器2Aによって反射され、この反射した太陽光Sが表示器に入射する。即ち、太陽光の一部は、投影光Pの光路を逆行し、この逆行した太陽光Sによって表示器1Aが照射される。そのため、表示器1Aは昇温し易く、それ故、故障し易いという問題がある。
なお、図12では、便宜上、投影光Pの光路と、この光路を逆行する太陽光Sの光路をずらして描写している(他図についても同様)。また、投影光Pの光路を逆行せずに筐体3Aの内部に無秩序に入射する太陽光については描写を省略している(図10を除き、他図についても同様)。」
「【図12】
[図:0001431785000010.jpg]
」
「【0004】
このような問題を解決するため、特許文献1には、赤外線のみを透過し且つ可視光線及び紫外線を反射する平面鏡(以下、「コールドミラー」と称する)を備えた投影装置が開示されている(図13参照)。
特許文献1の投影装置10Bにおいて、投影光Pの光路を逆行する太陽光Sは、反射器2Bによって反射された後、表示器1Bに到達する前に、コールドミラー5Bに入射する。コールドミラー5Bは、赤外線を透過させる性質を有する。従って、投影光Pの光路を逆行しコールドミラー5Bに入射した太陽光Sから赤外線が減殺され、この赤外線が減殺された太陽光Sが表示器1Bに入射するため、表示器1Bが昇温し難くなる。なお、図13では、太陽光Sを示す黒塗り矢印の太さは、太陽光Sの光量を表している(他図についても同様)。
しかしながら、コールドミラー5Bを設ける場合、投影光Pがコールドミラー5Bを介して反射器2Bに適確な角度で入射するように調整しなければならず、このような調整は非常に煩雑である。そのため、より簡便に投影光Pの光路を逆行する太陽光Sを減殺できる投影装置が求められている。」
「【図13】
[図:0001431785000011.jpg]
」
「【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-347633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、投影光の光路を逆行する太陽光を簡便に減殺できる投影装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の投影装置は、投影光を出射する表示器と、前記投影光を反射する反射器と、開口部を有し且つ前記表示器及び前記反射器を内部に収容する筐体と、を有し、前記投影光の光路上であって、前記表示器による出射から前記反射器による反射及び前記開口部の通過を経て前記筐体の外部に至るまでの間に、後述する一般式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含む偏光子が設けられている。
【0008】
好ましくは、前記筐体の開口部が、投影光が透過するカバー部材によって覆われている。
また、好ましくは、前記偏光子が、前記表示器、前記反射器、及び前記カバー部材から選択される少なくとも1つの部材に設けられている。また、より好ましくは、前記偏光子が、前記カバー部材に設けられている。
好ましくは、前記カバー部材が、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アミド系樹脂、及びイミド系樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂を含んでいる。
また、好ましくは、前記カバー部材の厚みが、10μm~1000μmである。
【0009】
本発明の別の局面によれば、上記本発明の投影装置を搭載した自動車が提供される。
【0010】
また、本発明の別の局面によれば、基板と、偏光子と、を有し、前記偏光子が、後述する一般式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含む、投影装置用偏光板が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の投影装置は、投影光の光路上に一般式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含む偏光子が設けられている。この偏光子により、投影光の光路を逆行して表示器に入射する太陽光の一部が減殺され、その結果、表示器が昇温し難くなる。」
(ウ) [第1実施形態](【0014】-【0076】、【図1】~【図4】)
「【0014】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る投影装置10を表し、図2乃至図4は本実施形態に係る投影装置10が有する構成部材を表す。
投影装置10は、投影光を出射する表示器1と、表示器1から出射された投影光Pを反射する反射器2と、を備えている。表示器1と反射器2は、共に開口部31を有する筐体3の内部に収容されている。
本実施形態において、筐体3の開口部31は、筐体3の内部に塵芥が入り込まないようにカバー部材4によって覆われている。カバー部材4は透光性を有する部材である。そのため、反射器2によって反射された投影光Pは、カバー部材4を透過して、即ち、カバー部材4を介して開口部31を通過して筐体3の外部に放たれる。筐体3の外部に放たれた投影光Pは、自動車のフロントガラスなどの透光反射体(図示せず)に投影され、その結果、観察者は映像を視認することができる。
このように、表示器1から出射した投影光Pは、反射器2による反射及びカバー部材4の透過を経て筐体3の外部に至る光路を有している。本発明では、投影光Pの光路上に後述する一般式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含む偏光子6が設けられている。本実施形態では、投影光Pの光路上であって、表示器1と反射器2の間に偏光子6を含む偏光板8が配置されている。
以下、本発明の第1実施形態に係る投影装置10が有する各構成部材について詳しく説明した後、偏光板8の作製方法について説明する。」
「【図1】
[図:0001431785000012.jpg]
」
「…(中略)…
【0025】
<カバー部材>
カバー部材4は、筐体3の内部に塵芥が入らないように筐体3の開口部31を覆う板状の部材である。カバー部材4は、透明である。そのため、反射器2から反射された投影光Pは、カバー部材4を透過して筐体3の外部に放たれる。なお、透明とは、波長360nm~830nmの可視光を透過する性質を有することを意味する。透明は、実質的に可視光を吸収せず、可視光域の全ての波長の光を透過する場合(無色透明)、及び、可視光域の一部の波長の光を吸収し、且つその波長以外の光を透過する場合(有色透明)を含む。カバー部材4は、好ましくは無色透明である。カバー部材の全光線透過率は、50%以上であり、好ましくは70%以上であり、より好ましくは90%以上である。なお、全光線透過率は、JIS K7375に準じて測定される値である。
【0026】
カバー部材4の表面形状は、筐体3の開口部31に合わせて適宜変更することができる。例えば、カバー部材4は、開口部31を覆う部分が、平面のみ又は曲面のみから構成されていてもよく、開口部31を覆う部分が、複数の平面及び/又は複数の曲面から構成されてもよい。通常、開口部31を覆うカバー部材4の表面形状は、平面のみ又は曲面のみから構成されている。本実施形態では、図1に示すように、開口部31を覆う部分が曲面のみから構成されたカバー部材4が用いられている。
カバー部材4の厚みは、特に限定されない。しかし、カバー部材4が厚すぎると、カバー部材4を透過する投影光Pの透過率が低減し(投影光Pの光損失が多くなる)、さらに二重像が発生する一因となる虞がある。
これらを考慮すると、カバー部材4の厚みの上限値は、1000μmである。カバー部材の厚みの下限値は、通常、10μmである。
【0027】
カバー部材の材料は、透明であれば特に限定されず、樹脂やガラスなどを用いることができる。透明な樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のエステル系樹脂;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂;ビスフェノールA系ポリカーボネートなどのポリカーボネート系樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ラクトン変性アクリル樹脂などのアクリル系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、環状構造又はノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系樹脂;塩化ビニル系樹脂;芳香族ポリアミド等のアミド系樹脂;イミド系樹脂;スルホン系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂;ビニルアルコール系樹脂;塩化ビニリデン系樹脂;ビニルブチラール系樹脂;アリレート系樹脂;ポリオキシメチレン系樹脂;エポキシ系樹脂;などが挙げられる。これらの樹脂は、一種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
<偏光板>
本発明では、投影光Pの光路上に後述する一般式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含む偏光子6が設けられており、本実施形態では、偏光子6を含む偏光板8が設けられている。
図1に示すように、投影光Pの光路は、表示器1による出射、反射器2による反射及び開口部31の通過を経て筐体3の外部に至る。本実施形態では、開口部31にカバー部材4が設けられているため、投影光Pは、カバー部材4を透過することで開口部31を通過し、筐体3の外部に至る。
より具体的には、本実施形態では、投影光Pは表示器が備える液晶表示素子13によって生成されるため、投影光Pの光路は液晶表示素子13の最も反射器2に近い面(図2における偏光膜132bの表面)から始まる。液晶表示素子13によって生成された投影光Pは、反射器2を介してカバー部材4に至った後、カバー部材4を透過して筐体3の外部の空間に到達する。
本実施形態では、液晶表示素子13の表面から筐体3の外部の空間に至るまでの投影光Pの光路上であって、表示器1と反射器2の間に偏光板8が設けられている。
【0029】
図4に示すように、偏光板8は、基板7及び偏光子6を有する。偏光板8は、筐体3の内壁に固定された適当な支持部材(図示せず)によって支持されている。基板7は、薄膜である偏光子6に積層された部材である。基板7は、偏光子6を保護するために用いられる。
基板7の材料は特に限定されないが、好ましくは実質的に光学的等方性を有する(即ち、実質的に光学的異方性を有さない)透明な材料が用いられる。このような材料としては、例えば、ガラス、石英、樹脂などが挙げられる。
基板7が光学的異方性を有すると、投影光Pの位相が基板7によって乱れる虞がある。投影光Pが偏光子6よりも先に基板7を透過するように偏光板8を配置した場合、投影光Pの位相が基板7によって乱され、投影光Pが偏光子6を透過し難くなる虞がある。基板7によって投影光Pの位相が乱れる可能性を考慮すると、図4に示すように、投影光Pが基板7よりも先に偏光子6を透過するように偏光板8を配置することが好ましい。換言すると、偏光板8は、反射器2側に基板7が配され且つ表示器1側に偏光子6が配されるように設けられることが好ましい。」
「【図4】
[図:0001431785000013.jpg]
」
「…(中略)…
【0031】
偏光子6は、太陽光(非偏光)から特定の振動方向を有する直線偏光を抽出する部材である。換言すると、特定の振動方向を有する直線偏光以外の太陽光を吸収する部材である。本発明では、下記一般式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含む偏光子6が用いられる。
【0032】
【化1】
[図:0001431785000014.jpg]
【0033】
一般式(1)において、Q1は、置換若しくは無置換のアリール基を表し、Q2は、置換若しくは無置換のアリーレン基を表し、R1は、独立して、水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアセチル基、置換若しくは無置換のベンゾイル基、置換若しくは無置換のフェニル基を表し、Mは、対イオンを表し、mは、0~2の整数を表し、nは、0~6の整数を表す。ただし、m及びnの少なくとも何れか一方は、0でなく、1≦m+n≦6である。前記mが2である場合、各R1は、同一又は異なる。
一般式(1)に示されたOH、(NHR1)m、及び(SO3M)nは、それぞれナフチル環の7つの置換部位のいずれに結合していてもよい。
なお、本明細書において、「置換若しくは無置換」とは、「置換基で置換されている、又は、置換基で置換されていない」ことを意味する。
【0034】
前記一般式(1)のナフチル基とアゾ基(-N=N-)の結合位置は、特に限定されない。前記ナフチル基は、式(1)において右側に表されているナフチル基を指す。好ましくは、前記ナフチル基とアゾ基は、前記ナフチル基の1位又は2位で結合されている。
【0035】
前記一般式(1)のR1のアルキル基、アセチル基、ベンゾイル基、又はフェニル基が置換基を有する場合、その置換基としては、下記アリール基又はアリーレン基において例示する、各置換基が挙げられる。
前記R1は、好ましくは、水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアセチル基であり、より好ましくは水素原子である。
前記置換若しくは無置換のアルキル基としては、置換若しくは無置換の炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。
【0036】
前記一般式(1)のM(対イオン)は、好ましくは、水素イオン;Li、Na、K、Csなどのアルカリ金属イオン;Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属イオン;その他の金属イオン;アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよいアンモニウムイオン;有機アミンの塩などが挙げられる。前記金属イオンとしては、例えば、Ni+、Fe3+、Cu2+、Ag+、Zn2+、Al3+、Pd2+、Cd2+、Sn2+、Co2+、Mn2+、Ce3+などが挙げられる。有機アミンとしては、炭素数1~6のアルキルアミン、ヒドロキシル基を有する炭素数1~6のアルキルアミン、カルボキシル基を有する炭素数1~6のアルキルアミンなどが挙げられる。上記一般式(1)において、SO3Mが2つ以上である場合、各Mは、同一又は異なっていてもよい。また、前記一般式(1)において、SO3MのMが2価以上の陽イオンである場合、隣接する他の一般式(1)のアゾ系化合物のSO3-と結合して超分子会合体を形成し得る。
【0037】
前記一般式(1)のmは、好ましくは1である。また、一般式(1)のnは、好ましくは1又は2である。
一般式(1)のナフチル基の具体例としては、例えば、下記式(a)乃至式(l)などが挙げられる。式(a)乃至式(l)のR1及びMは、一般式(1)と同様である。
【0038】
【化2】
[図:0001431785000015.jpg]
[図:0001431785000016.jpg]
【0039】
前記一般式(1)において、前記Q1で表されるアリール基は、フェニル基の他、ナフチル基などのようなベンゼン環が2以上縮合した縮合環基が挙げられる。
前記Q2で表されるアリーレン基は、フェニレン基の他、ナフチレン基などのようなベンゼン環が2以上縮合した縮合環基が挙げられる。
【0040】
Q1のアリール基又はQ2のアリーレン基は、それぞれ置換基を有していてもよいし、又は、置換基を有していなくてもよい。前記アリール基又はアリーレン基が、置換若しくは無置換のいずれの場合でも、極性基を有する一般式(1)の芳香族ジスアゾ化合物は、水系溶媒に対する溶解性に優れている。
【0041】
前記アリール基又はアリーレン基が置換基を有する場合、その置換基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキルアミノ基、フェニルアミノ基、炭素数1~6のアシルアミノ基、ジヒドロキシプロピル基等の炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、COOM基などのカルボキシル基、SO3M基などのスルホン酸基、水酸基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、ハロゲノ基などが挙げられる。好ましくは、前記置換基は、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、カルボキシル基、スルホン酸基、及びニトロ基から選択される1つである。このような置換基を有する芳香族ジスアゾ化合物は、特に水溶性に優れている。これらの置換基は、1種又は2種以上置換されていてもよい。また、前記置換基は、任意の比率で置換されていてもよい。
【0042】
前記一般式(1)のQ1は、好ましくは置換若しくは無置換のフェニル基であり、より好ましくは前記置換基を有するフェニル基である。
前記Q2は、好ましくは置換若しくは無置換のナフチレン基であり、より好ましくは前記置換基を有するナフチレン基であり、特に好ましくは前記置換基を有する1,4-ナフチレン基である。
…(中略)…
【0051】
<偏光板の作製方法>
偏光板8は、例えば、下記の工程B及び工程Cによって製造することができる。必要に応じて、工程Bの前に工程Aを行ってもよく、工程Cの後に工程Dを行ってもよい。
工程A:基板7の表面に、配向処理を施す工程。
工程B:基板7の表面に上記一般式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含むコーティング液を塗布し、塗膜を形成する工程。
工程C:塗膜を乾燥し、乾燥塗膜である偏光子6を形成する工程。
工程D:工程Cで得られた偏光子6の表面に、耐水化処理を施す工程。
【0052】
(工程A)
工程Aは、基板7の表面に配向処理を行うことで、基板7の表面に配向規制力を付与する工程である。予め配向規制力を有する基板7を用いる場合、工程Aを実施する必要はない 。
配向規制力の付与方法としては、例えば、(a)基板7の表面をラビング処理する方法、(b)フィルムの表面にポリイミドなどの膜を形成し、その膜の表面をラビング処理して配向膜を形成する方法、(c)フィルムの表面に光反応性化合物からなる膜を形成し、その膜に光照射して配向膜を形成する方法などが挙げられる。
なお、(b)及び(c)の方法を用いる場合、基板7と偏光子6の間に配向膜を有する偏光板が作製される。
【0053】
(工程B)
工程Bは、コーティング液を用いて塗膜を形成する工程である。
コーティング液は、上記芳香族ジスアゾ化合物と、芳香族ジスアゾ化合物を溶解又は分散させる溶媒と、を含む。コーティング液は、溶媒に、芳香族ジスアゾ化合物を溶解又は分散させることによって得られる。なお、必要に応じて、上記芳香族ジスアゾ化合物以外の他のポリマー、及び/又は添加剤などを前記溶媒に添加してもよい。
【0054】
芳香族ジスアゾ化合物を溶解又は分散させる溶媒は、特に限定されず、従来公知の溶媒を用いることができるが、水系溶媒が好ましい。水系溶媒としては、水、親水性溶媒、水と親水性溶媒の混合溶媒などが挙げられる。前記親水性溶媒は、水に略均一に溶解する溶媒である。親水性溶媒としては、例えば、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;エチレングリコールなどのグリコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;などが挙げられる。上記水系溶媒は、好ましくは、水、又は、水と親水性溶媒の混合溶媒が用いられる。
【0055】
本発明で用いられる上記一般式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物は、リオトロピック液晶性を有する有機化合物である。そのため、コーティング液は、液温や芳香族ジスアゾ化合物の濃度などを変化させることにより、リオトロピック液晶相を示す。リオトロピック液晶相は、芳香族ジスアゾ化合物が液中で超分子会合体を形成することによって生じる。リオトロピック液晶相は、偏光顕微鏡で観察される光学模様によって、確認、識別できる。
なお、超分子会合体は、複数の芳香族ジスアゾ化合物が水素結合等によって結合して形成された1つの大きな複合体である。
【0056】
コーティング液中における芳香族ジスアゾ化合物の濃度は、それが液晶相を示すように調製することが好ましい。コーティング液中における芳香族ジスアゾ化合物の濃度は、通常0.05重量%~50重量%であり、好ましくは0.5重量%~40重量%であり、より好ましくは1重量%~10重量%である。
また、コーティング液は、適切なpHに調整される。コーティング液のpHは、好ましくはpH2~10程度、より好ましくはpH6~8程度である。
さらに、コーティング液の温度は、好ましくは10℃~40℃、より好ましくは15℃~30℃に調整される。
【0057】
コーティング液を基板7の上に塗布することにより、塗膜が形成される。塗膜内において、芳香族ジスアゾ化合物は基板7の配向規制力によって所定の方向に配向する。
コーティング液の塗布方法は特に限定されず、例えば、従来公知のコータを用いた塗布方法を採用できる。前記コータとしては、バーコータ、ロールコータ、スピンコータ、コンマコータ、グラビアコータ、エアーナイフコータ、ダイコータなどが挙げられる。
【0058】
(工程C)
工程Cは、乾燥塗膜である偏光子6を形成する工程である。基板7の上に乾燥塗膜である偏光子6を形成することで、基板7と偏光子6を有する偏光板8が得られる。
工程Bで得られた塗膜を乾燥することにより、塗膜に含まれる溶媒が揮発し、固形の芳香族ジスアゾ化合物を含む乾燥塗膜(偏光子6)が形成される。偏光子6の内部において、芳香族ジスアゾ化合物は超分子会合体を形成したままその配向が固定されている。
塗膜の乾燥方法は特に限定されず、自然乾燥や強制的な乾燥を実施できる。強制的な乾燥としては、例えば、減圧乾燥、加熱乾燥、減圧加熱乾燥などが挙げられる。好ましくは、自然乾燥が用いられる。
塗膜の乾燥時間は、乾燥温度や溶媒の種類によって、適宜、選択され得る。例えば、自然乾燥の場合には、乾燥時間は、好ましくは1秒~120分であり、より好ましくは10秒~5分である。
また、乾燥温度は特に限定されないが、好ましくは10℃~100℃であり、より好ましくは10℃~90℃であり、特に好ましくは10℃~80℃である。
なお、乾燥温度とは、塗膜の表面や内部の温度ではなく、塗膜を乾燥する雰囲気の温度を意味する。
【0059】
(工程D)
工程Dは、偏光子6に耐水化処理液を接触させることによって偏光子6に耐水性を付与する工程である。
偏光子6を耐水化処理液に接触させる方法は、特に限定されない。接触方法としては、(a)偏光板8(偏光子6)の表面に耐水化処理液を塗布する、(b)耐水化処理液が満たされた浴中に偏光板8を浸漬する、(c)耐水化処理液が満たされた浴中に偏光板8を通過させる、などの方法が挙げられる。前記(a)の耐水化処理液の塗布は、適宜なコータ、又は、スプレーなどを用いて実施できる。
【0060】
前記耐水化処理液は、特に限定されず、従来公知なものを用いることができる。前記耐水化処理液は、例えば、前記有機色素を架橋する機能を有する架橋剤と、その架橋剤を溶解又は分散する溶媒と、を含む。
架橋剤としては、例えば、有機窒素化合物を挙げることができ、前記溶媒としては、例えば、水系溶媒を挙げることができる。
有機窒素化合物としては、その分子中に2個以上のカチオン性基(好ましくは、窒素原子を含むカチオン性基)を有する非環式の有機窒素化合物などが好ましく用いられる。非環式の有機窒素化合物(非環式の脂肪族窒素化合物)としては、例えば、アルキレンジアミンなどの脂肪族ジアミン又はその塩;アルキレントリアミンなどの脂肪族トリアミン又はその塩;アルキレンテトラアミンなどの脂肪族テトラアミン又はその塩;アルキレンペンタアミンなどの脂肪族ペンタアミン又はその塩;アルキレンエーテルジアミンなどの脂肪族エーテルジアミン又はその塩などが挙げられる。
前記水系溶媒としては、上記工程Bの欄で例示したものを用いることができる。
【0061】
耐水化処理液中における架橋剤の濃度は、好ましくは1質量%~50質量%であり、さらに好ましくは5質量%~30質量%である。
耐水化処理液に偏光子6を接触させると、偏光子6の内部の有機色素間が架橋剤を介して架橋される。前記架橋により、耐水性及び機械的強度に優れた偏光子6が得られる。
【0062】
上述の製法によって得られた偏光板8は、本実施形態のように、そのまま投影光Pの光路上に設けることもできるが、後述する第2実施形態のように偏光板8から偏光子6のみを剥離し、この偏光子6のみを投影光Pの光路上に設けることもできる。
本発明では、投影光Pの光路上(本実施形態では、反射器2と表示器1の間)に偏光子6を設けるという簡便な方法によって、投影光Pの光路を逆行する太陽光が減殺され、その結果、表示器1の昇温を効果的に防止できる。他方、表示器1から出射された投影光Pは、偏光子6を透過し得るため、反射器2及びカバー部材4を介して筐体3の外部に放たれる。
【0063】
ところで、一般的に偏光子は、ポリビニルアルコール系樹脂などを含む樹脂フィルムにヨウ素などの二色性物質を吸着させて延伸することによって得られた偏光子(以下、「吸着型偏光子」と称する)と、有機色素を含むコーティング液を任意の塗布面に塗布及び乾燥することにより得られる偏光子(以下、「塗布型偏光子」と称する)に大別される。本発明の偏光子は、塗布型偏光子である。
偏光子は、太陽光を減殺(即ち、吸収)するため、投影光の光路を逆行する太陽光によって徐々に加熱される。吸着型偏光子は、二色性物質を吸着させた樹脂フィルムを延伸することによって得られるため、太陽光による加熱によってその延伸方向に大きく収縮し易く且つ非延伸方向においても少なからず収縮する。従って、吸収型偏光子を投影装置を構成するある部材(被着体)に貼付した場合、吸収型偏光子の収縮に起因する被着体の変形や、吸収型偏光子の剥離が生じ易くなる場合がある。
これに対し、塗布型偏光子は、樹脂フィルムの延伸によって得られないため、加熱によって収縮し難く、特に、上記一般式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含む塗布型偏光子は、より収縮し難い。従って、上記一般式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含む塗布型偏光子を被着体に貼付した場合、塗布型偏光子の収縮に起因する被着体の変形や、塗布型偏光子の剥離が生じ難くなる。」
(エ) [第7実施形態](【0072】-【0076】、【図10】)
「【0072】
[第7実施形態]
図10は、第7実施形態に係る投影装置10が有するカバー部材4及び筐体3を表す。
第7実施形態では、カバー部材4に偏光子6が設けられており、具体的には、カバー部材4の下面(筐体3の内部側の面)に偏光子6が積層されている。本実施形態では、カバー部材4に偏光子6が設けられているため、投影光Pの光路を逆行する太陽光Sのみならず、投影光Pの光路を逆行せずに筐体3の内部に入射する太陽光(図10におけるL1やL2)を減殺できる。即ち、カバー部材4に偏光子6を設けることにより、筐体3の内部に入射する太陽光の全体量を減らすことができる。従って、投影光Pの光路を逆行する太陽光Sの入射による表示器1の直接的な加熱のみならず、筐体3の内部が太陽光L1,L2によって昇温することに伴う表示器1の間接的な加熱をも防止することができ、より効果的に表示器1の昇温を防止することができる。」
「【図10】
[図:0001431785000017.jpg]
」
「【0073】
仮に、上述した吸着型偏向子をカバー部材に設けた場合、加熱による偏光子の吸収軸及び透過軸の歪みによって投影光の透過率が下がる虞があるだけでなく、吸着型偏光子の収縮力によってカバー部材が反り、その結果、(i)筐体とカバー部材との間に間隙が生じ、この間隙から筐体の内部に塵芥が入り込む、(ii)投影光の光路がカバー部材の反りにより歪められ、透光反射体に投影光を適切に投影できなくなる、などの問題が発生する。
この点、本発明では、上述した一般式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含む偏光子を用いている。そのため、カバー部材に偏光子を設けても、偏光子が加熱により収縮し難く、それ故、カバー部材が反り難いため上記(i)及び(ii)の問題が生じ難い。
【0074】
本発明者が鋭意研究したところ、カバー部材が下記の(A)乃至(C)の条件下である場合、吸着型偏向子を用いた場合に比して、特に顕著にカバー部材の反りを防止できることを見出した。
(A)カバー部材の材料が、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂から選択される少なくとも1種を含み、好ましくは、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、及びオレフィン系樹脂から選択される少なくとも1種を含み、より好ましくは、ポリカーボネート系樹脂及びアクリル系樹脂から選択される少なくとも1種を含む場合。
(B)カバー部材の厚みの下限値が、100μmであり、好ましくは200μmであり、特に好ましくは300μmである場合。
(C)カバー部材の厚みの上限値が、700μmであり、好ましくは600μmであり、特に好ましくは500μmである場合。
【0075】
なお、本実施形態では、偏光子6は、カバー部材4の下面に設けられているが、カバー部材4の上面(筐体3の外部側の面)に設けられていてもよく、カバー部材4の上面及び下面の両方に設けられていてもよい。
また、カバー部材4に偏光子6を設ける場合、カバー部材4の下面及び/又は上面をコーティング液の塗布面として偏光子6を形成してもよく、他の塗布面上に形成された偏光子6を剥離し、この剥離した偏光子6を接着剤又は粘着剤を介してカバー部材4の下面及び/又は上面に接着してもよく、第1実施形態と同様の偏光板8を、接着剤又は粘着剤を介してカバー部材4の下面及び/又は上面に接着してもよい。
もっとも、接着剤又は粘着剤が偏光子6とカバー部材4の間に介在すると、投影光Pの一部が接着剤又は粘着剤によって吸収され、投影光Pの光損失が多くなる虞がある。従って、偏光子6は、カバー部材4の下面及び/又は上面をコーティング液の塗布面として形成されることが好ましい。
…(後略)」
(オ) 【実施例】(【0079】-【0090】)
「【実施例】
【0079】
本発明について、実施例及び比較例を示して詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施例のみに限定されるものではない。実施例及び比較例で用いた各測定方法は、以下の通りである。
【0080】
[反り量の測定]
実施例及び比較例で作製した光学積層体を、150mm×150mmの正方形状に切り出して切断片を得た。なお、偏光子の吸収軸が正方形の一片と平行な方向に延びるように切断片を切り出した。
この切断片を、80℃、5%RH雰囲気下に調整した加熱容器(エスペック(株)社製:製品名「SPH(H)」)に入れ、切断片を24時間加熱した状態で放置した。
その後、加熱容器から取り出した切断片を、図11に示すように水平面に載置し、切断片の4隅のうち、最も水平面から遠い隅の高さ(水平面からの距離)を反り量として測定した。
【0081】
[有機色素の合成]
4-ニトロアニリンと8-アミノ-2-ナフタレンスルホン酸とを、常法(細田豊著「理論製造 染料化学 第5版」昭和43年7月15日技法堂発行、135ページ~152ページに記載の方法)により、ジアゾ化及びカップリング反応させて、モノアゾ化合物を得た。得られたモノアゾ化合物を、前記常法によりジアゾ化し、さらに、1-アミノ-8-ナフトール-2,4-ジスルホン酸リチウム塩とカップリング反応させて粗生成物を得た。これを塩化リチウムで塩析することによって、下記構造式(4)の芳香族ジスアゾ化合物を得た。
【化5】
[図:0001431785000018.jpg]
【0082】
[実施例1]
ノルボルネン系樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製:製品名「ゼオノア」)を用意し、このフィルムの表面にラビング処理及び親水化処理(コロナ処理)を施した。
上記構造式(4)の芳香族ジスアゾ化合物をイオン交換水に溶解させ、濃度4重量%のコーティング液を調製した。
ラビング処理及び親水化処理を施した基板の表面にコーティング液をバーコータ(BUSHMAN社製:製品名「Mayer rot HS4」を用いて塗布し、塗布液を23℃の恒温室内で自然乾燥することで、基板の表面に乾燥塗膜(偏光子)を形成した。なお、偏光子の厚みは300nmであった。
【0083】
続いて、ノルボルネン系樹脂フィルムから偏光子を剥離し、得られた偏光子を耐水化処理液に2秒間浸漬した。耐水化処理液としては、1,3-プロパンジアミン塩酸塩(東京化成工業(株)製)、1,2-エチレンジアミン塩酸塩(東京化成工業(株)製)、及びビスヘキサメチレントリアミン(東京化成工業(株)製)を質量比55:15:30で含む水溶液を用いた。
耐水化処理液から取り出した偏光子を水洗し、乾燥させることにより耐水性偏光フィルムを得た。
【0084】
耐水性偏光フィルムを、アクリル系粘着剤(日東電工(株)製:製品名「CS9862UA」)を介して、厚さ300μmのポリカーボネート系樹脂シート(三菱ガス化学(株)製:製品名「MRF08U」)と貼り合わせ、光学積層体を作製した。
作製した光学積層体に対し、上述の反り量の測定方法に従って、加熱後の反り量を測定した。この結果を下記表1に表す。
【0085】
[実施例2]
耐水性偏光フィルムを貼り合わせるポリカーボネート系樹脂シートの厚みを500μmに変更したこと以外は実施例1と同様に光学積層体を作製した。
作製した光学積層体に対し、上述の反り量の測定方法に従って、加熱後の反り量を測定した。この結果を下記表1に表す。
【0086】
[実施例3]
ポリカーボネート系樹脂に代えて、厚み500μmのアクリル系樹脂シートに耐水性偏光フィルムを貼り合わせたこと以外は実施例1と同様に光学積層体を作製した。
作製した光学積層体に対し、上述の反り量の測定方法に従って、加熱後の反り量を測定した。この結果を下記表1に表す。
【0087】
[比較例1]
耐水性偏光フィルムに代えて、ヨウ素を吸着させたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを延伸して得られた吸着型偏光子(日東電工(株)製:製品名「SEG1425DU」)を用いたこと以外は実施例1と同様に光学積層体を作製した。
作製した光学積層体に対し、上述の反り量の測定方法に従って、加熱後の反り量を測定した。この結果を下記表1に表す。
【0088】
[比較例2]
耐水性偏光フィルムに代えて、ヨウ素を吸着させたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを延伸して得られた吸着型偏光子(日東電工(株)製:製品名「SEG1425DU」)を用いたこと以外は実施例2と同様に光学積層体を作製した。
作製した光学積層体に対し、上述の反り量の測定方法に従って、加熱後の反り量を測定した。この結果を下記表1に表す。
【0089】
【表1】
[図:0001431785000019.jpg]
【0090】
[評価]
実施例1乃至3と比較例1及び2を比較すると、本願の一般式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含む偏光子を用いた場合、吸着型の偏光子を用いた場合に比して、光学積層体が加熱によって顕著に反り難いことが分かる。」
イ 引用文献1の記載事項から読み取れる事項
(ア) 認定事項1
引用文献1においては、背景技術として「投影装置から発せられた光を透光反射体である自動車のフロントガラスに投影することで映像を表示するヘッドアップディスプレイが知られている」とされ(【0002】)、引用文献1は、引用文献1の【図12】に示すこのような用途の「ヘッドアップディスプレイ用の投影装置10A」(【0003】)を改良するものを開示するものであるから、当業者は、引用文献1において第7実施形態として開示された「投影装置10」についても、「投影装置から発せられた光を透光反射体である自動車のフロントガラスに投影することで映像を表示するヘッドアップディスプレイ」(以下「認定事項1」という。)として用いることが認識できる。
(イ) 認定事項2
a 引用文献1においては、その第7実施形態について、特に顕著にカバー部材の反りを防止できる場合として、カバー部材の材料がポリカーボネート系樹脂であることが挙げられている(【0074】)。
その上で、引用文献1においては、実施例1~3として、耐水性偏光フィルムをアクリル系粘着剤を介してポリカーボネート系樹脂シートと貼り合わせて光学積層体を作成し、加熱後の反り量を測定している(【0084】)。
これらを踏まえると、当業者は、引用文献1の記載から、ポリカーボネート系樹脂シートが、第7実施形態でいうカバー部材であること(以下「認定事項2」という。)を理解できる。
(ウ) 認定事項3
a 引用文献1の第7の実施形態に関して、【0075】には、次の事項が記載されている。
「カバー部材4に偏光子6を設ける場合、…(中略)…、第1実施形態と同様の偏光板8を、接着剤又は粘着剤を介してカバー部材4の下面及び/又は上面に接着してもよい。」
b そして、第1の実施例に関する記載を参酌すると、次の(a)及び(b)に示す事項が記載されている。
(a) 【0029】
「偏光板8は、基板7及び偏光子6を有する。…(中略)…基板7は、薄膜である偏光子6に積層された部材である。基板7は、偏光子6を保護するために用いられる。」
(b) 【0051】
「<偏光板の作製方法>
偏光板8は、例えば、下記の工程B及び工程Cによって製造することができる。必要に応じて、工程Bの前に工程Aを行ってもよく、工程Cの後に工程Dを行ってもよい。
工程A:基板7の表面に、配向処理を施す工程。
工程B:基板7の表面に上記一般式(1)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含むコーティング液を塗布し、塗膜を形成する工程。
工程C:塗膜を乾燥し、乾燥塗膜である偏光子6を形成する工程。
工程D:工程Cで得られた偏光子6の表面に、耐水化処理を施す工程。」
c さらに、実施例に関する記載の【0081】を参照すると、次の事項が記載されている。
下記構造式(4)の芳香族ジスアゾ化合物を用いること。
「
[図:0001431785000020.jpg]
」
d またさらに、実施例に関する記載の【0084】を参照すると、次の事項が記載されている。
「耐水性偏光フィルムを、アクリル系粘着剤(日東電工(株)製:製品名「CS9862UA」)を介して、厚さ300μmのポリカーボネート系樹脂シート(三菱ガス化学(株)製:製品名「MRF08U」)と貼り合わせ、光学積層体を作製した。」
e 前記a~dに列記した技術事項及び前記認定事項1をまとめると、当業者は、引用文献1の記載から、引用文献1の実施の形態7について、次の技術事項(以下「認定事項3」という。)を認識できる。
<認定事項3>
「カバー部材は、ポリカーボネート系樹脂であり、
偏光板8は、薄膜である偏光子6と、偏光子6に積層された部材であって偏光子6を保護するために用いられる基板7を有するものであり、
偏光板8は、粘着剤を介してカバー部材4の下面に接着されており、
粘着剤は、アクリル系粘着剤(日東電工(株)製:製品名「CS9862UA」)であり、
偏光板8は、下記の工程A~工程Dによって製造されるものであること。
工程A:基板7の表面に、配向処理を施す工程
工程B:基板7の表面に上記一般式(4)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含むコーティング液を塗布し、塗膜を形成する工程
[図:0001431785000021.jpg]
工程C:塗膜を乾燥し、乾燥塗膜である偏光子6を形成する工程
工程D:工程Cで得られた偏光子6の表面に、耐水化処理を施す工程」
ウ 引用発明の認定
前記アに摘記した引用文献1の記載事項及び前記イで認定した認定事項1~3を総合すると、引用文献1には、第7実施形態に係る発明として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(以下、引用発明の認定に用いた箇所の段落番号及び認定事項を参考までに括弧内に付した。さらに、参考図として、引用文献1の【図1】及び【図10】に部材名等を記入したものを示す。)。
<引用発明>
「投影装置から発せられた光を透光反射体である自動車のフロントガラスに投影することで映像を表示するヘッドアップディスプレイであって、
(「認定事項1」)
投影装置は、
投影光を出射する表示器と、
前記投影光を反射する反射器と、
開口部を有し且つ前記表示器及び前記反射器を内部に収容する筐体と、を有し、
(【請求項1】)
前記筐体の開口部が、投影光が透過するカバー部材によって覆われており、
(【請求項2】)
カバー部材は、ポリカーボネート系樹脂であり、
偏光板8は、薄膜である偏光子6と、偏光子6に積層された部材であって偏光子6を保護するために用いられる基板7を有するものであり、
偏光板8は、粘着剤を介してカバー部材4の下面に接着されており、
粘着剤は、アクリル系粘着剤(日東電工(株)製:製品名「CS9862UA」)であり、
偏光板8は、下記の工程A~工程Dによって製造されるものであること。
工程A:基板7の表面に、配向処理を施す工程
工程B:基板7の表面に上記一般式(4)で表される芳香族ジスアゾ化合物を含むコーティング液を塗布し、塗膜を形成する工程
[図:0001431785000022.jpg]
工程C:塗膜を乾燥し、乾燥塗膜である偏光子6を形成する工程
工程D:工程Cで得られた偏光子6の表面に、耐水化処理を施す工程
(「認定事項3」)」
<参考図2(【図1】、【図10】)>
[図:0001431785000023.jpg]
(3) 周知技術A及び技術常識B~Dの認定
ア 引用文献2~5に記載された事項及び周知技術Aの認定
(ア) 引用文献2~5に記載された事項
a 引用文献2に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の出願前に発行された文献である特開2013-72951号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
「【0104】
粘着剤により保護フィルムを偏光フィルムに貼合する方法においては、保護フィルム面に粘着剤層を設けた後、偏光フィルムに貼合してもよいし、偏光フィルム面に粘着剤層を設けた後、ここに保護フィルムを貼合してもよい。
【0105】
粘着剤層を形成する方法は特に限定されるものではなく、偏光フィルムや保護フィルム上に、上記したベースポリマーをはじめとする各成分を含む溶液を塗布し、乾燥して粘着剤層を形成した後、保護フィルムと偏光フィルムとを貼り合わせてもよいし、セパレータ上に粘着剤層を形成した後、保護フィルム面もしくは偏光フィルム面に転写して積層してもよい。また、粘着剤層を保護フィルムもしくは偏光フィルム面に形成する際には必要に応じて保護フィルムもしくは偏光フィルム面、または粘着剤の片方若しくは両方に密着処理、たとえば、コロナ処理等を施してもよい。
…中略…
【0136】
粘着剤層を形成する方法に特別な制限はなく、例えば、偏光フィルムや光学フィルム上に上記の如き粘着剤を用いて粘着剤層を形成した後、シリコーン系等の離型処理が施された樹脂フィルムからなるセパレータを積層する方法や、上記の如きセパレータ上に粘着剤層を形成した後、偏光フィルムや光学フィルム上に転写する方法などによって設けることができる。また、粘着剤層を偏光フィルムや光学フィルム上に形成する際には、必要に応じて偏光フィルムや光学フィルムまたは粘着剤の貼り合わされる側の面(片方または両方)に、密着性を向上させるための処理、例えばコロナ処理などを施してもよい。」
b 引用文献3に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の出願前に発行された文献である特開2007-226016号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。
「【0025】
A.位相差層付偏光板の全体構成
図1は、本発明の好ましい実施形態による位相差層付偏光板の概略断面図である。この位相差層付偏光板100は、粘着剤層10と位相差層20と、偏光子30とをこの順に有する。位相差層20は、樹脂層21と傾斜配向層22とを含む。図1(a)では、傾斜配向層22が粘着剤層10側となるように配置されているが、図1(b)に示すように、傾斜配向層22が偏光子30側となるように配置されてもよい。好ましくは、位相差層20は、傾斜配向層22が粘着剤層10側となるように配置される。このように配置することで、例えば、液晶表示装置に用いた場合、液晶セルの光学補償が適切に行なわれ、正面および斜め方向のコントラスト比の高い液晶表示装置を得ることができる。
…中略…
【0096】
上記位相差層20は、任意の層をさらに含み得る。例えば、樹脂層21と傾斜配向層22との間に、傾斜配向層22を形成する液晶性組成物を配向させるための配向膜層を含んでいてもよい。また、各層を接着させるための接着層やアンカーコート層を含んでいてもよい。さらに、位相差層は、表面処理が施されていてもよい。表面処理を施すことにより、上記粘着剤層10、偏光子30との密着性が向上し得る。表面処理の具体例としては、コロナ処理、プラズマ処理、グロー放電処理等が挙げられる。」
c 引用文献4に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の出願前に発行された文献である特開2018-180407号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。
「【0075】
偏光フィルム10や保護層12に粘着剤層13を積層する前には、偏光フィルム10や保護層12、及び粘着剤面にあらかじめコロナ処理やプラズマ処理などを行うことも有用である。
…中略…
【0129】
[液晶パネル40]
粘着剤層13を介して偏光板を液晶セル41に貼合することで、液晶パネル40を作製することができる。通常、偏光板は液晶セルの両面に貼合されるが、本発明の偏光板は、液晶表示装置の視認側及び背面側もしくはその両面に好適に用いられ、中でも視認側に配置することが好ましい。本発明の偏光板を液晶セル41の視認側に配置した場合、背面側には公知の偏光板31を配置することができる。本発明の偏光板を備える液晶パネルは、クリーンルームでの保管時にも液晶パネルの反りの発生を抑制できるという効果を奏する。」
d 引用文献5に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の出願前に発行された文献である特開2017-62609号公報(以下「引用文献5」という。)には、次の記載がある。
「【0080】
(保護フィルム)
保護フィルムを形成する材料としては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れるものが好ましい。保護フィルムとしては、結晶性樹脂又は非晶性樹脂からなるフィルムが使用できる。
…中略…
【0083】
保護フィルムは、透明樹脂フィルムと同様に、表面に予めスパッタリング、コロナ放電、火炎、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化などのエッチング処理や下塗り処理を施して、保護フィルム上の粘着剤層等との密着性を向上させるようにしてもよい。また、粘着剤層を形成する前に、必要に応じて溶剤洗浄や超音波洗浄などにより、保護フィルム表面を除塵、清浄化してもよい。
【0084】
保護フィルムの厚みは、作業性等を向上する観点から、20~150μmが好ましく、30~100μmがより好ましく、40~80μmが更に好ましい。」
(イ) 周知技術Aの認定
前記(ア)に摘記した引用文献2~5の記載事項に例示されるように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる。(以下「技術常識A」という。)
<周知技術A>
「密着性を向上させるために、粘着剤層に接する表面をコロナ処理すること。」
イ 引用文献6に記載された事項及び技術常識B~Dの認定
(ア) 引用文献6に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の出願前に発行された文献である特開平8-199134号公報(以下「引用文献6」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、主に光学フイルムと液晶セルのガラス基板との接着に有用なアクリル系粘着剤と、これを光学フイルムの少なくとも片面に設けてなる粘着剤層を有する光学フイルムと、さらにこの光学フイルムを液晶セルの表面に配置してなる液晶表示装置とに関するものである。
【0002】
【従来の技術】光学フイルムとしては、一般に、偏光板、たとえばヨウ素や二色性染料を偏光子として配向させた延伸ポリビニルアルコ―ルフイルムの両面をトリアセチルセルロ―スフイルムで積層接着した偏光板や、位相差板、たとえばポリカ―ボネ―トを延伸することにより位相差を発生させた位相差板などが用いられている。
【0003】これらの光学フイルムを液晶セルのガラス基板に接着することにより液晶表示板とすることが行われている。ガラス基板への光学フイルムの接着は、あらかじめ光学フイルムの一方または両方の面に粘着剤層を設けて、これをガラス基板に押し付けることにより行われるのが、通例である。粘着剤には、接着性、透明性、耐候性などの点ですぐれるアクリル系粘着剤が多用されている。
【0004】ところで、液晶表示装置が計測器、電子時計やテレビ、さらには車載用の機器などの種々の分野に普及して、過酷な条件下で使用される機会が増大するにつれて、光学フイルムと液晶セルとの粘着剤層を介した接着が高温多湿の雰囲気下での使用に十分に耐えることが要求されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかるに、アクリル系粘着剤を用いた場合、高温多湿の雰囲気下で、粘着剤層と液晶セルとの界面で剥離が生じたり、視認を阻害するような気泡が発生するなどの不具合があり、上記の要求を必ずしも満足しない。
【0006】本発明は、上記の事情に鑑み、高温多湿の雰囲気下でも粘着剤層と液晶セルとの界面で剥離を生じたり気泡を発生することのない、耐熱性および耐湿性にすぐれた光学フイルム用のアクリル系粘着剤と、この粘着剤を用いてなる粘着剤層付き光学フイルムおよび液晶表示装置を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の目的に対し、鋭意検討した結果、まず、剥離と気泡発生の問題を解決するには、粘着剤層として、剥離を抑制しうる接着力の向上と、気泡の発生を阻止しうる弾性率の向上を図ればよいことを究明した。
【0008】ところが、弾性率の向上は通常接着面積の減少を招いて接着力を低下させるため、弾性率と接着力とを両立させることは困難であつた。また、被着体を下塗剤で表面処理して接着力を高める方法もあるが、表面処理が新たな発泡発生の要因となり、気泡発生の問題は克服されない。
【0009】そこで、本発明者らは、さらに検討をすすめた結果、アクリル系単量体と特定の単量体とからなるアクリル系共重合体が、接着力と弾性率のバランス特性にすぐれており、これを光学フイルムとガラス基板とを接着させるための粘着剤として用いると、高温多湿の雰囲気下での使用に耐えうる、つまり上記雰囲気下でも粘着剤層と液晶セルとの界面で剥離が生じたり気泡を発生することのない、耐熱性および耐湿性にすぐれた、信頼性の高い液晶表示装置が得られることを見い出し、本発明を完成するに至つたものである。
【0010】すなわち、本発明は、一般式(A);CH2 =C(R1 )COOR2 (式中、R1 は水素またはメチル基、R2 は炭素数2~14のアルキル基である)で表されるアクリル系単量体50~98重量%と、このアクリル系単量体と共重合可能なイミド基含有単量体50~2重量%とのアクリル系共重合体を主成分とすることを特徴とする光学フイルム用粘着剤に係るものである。
…中略…
【0034】
【発明の効果】以上のように、本発明においては、アクリル系単量体とイミド基含有単量体とからなる接着力と弾性率のバランス特性にすぐれたアクリル系共重合体を主成分として用いたことにより、高温多湿の雰囲気下でも粘着剤層と液晶セルとの界面で剥離を生じたり気泡を発生することのない、耐熱性および耐湿性にすぐれた、信頼性の高いアクリル系粘着剤と、この粘着剤を用いてなる粘着剤層付き光学フイルムおよび液晶表示装置を提供することができる。【0035】
【実施例】つぎに、本発明の実施例を記載して、より具体的に説明する。なお、以下において、部とあるのは重量部を意味する。
【0036】実施例1
冷却管、窒素導入管、温度計、攪拌装置を備えた反応容器に、アクリル酸n-ブチル94.9部、2-ヒドロキシエチルアクリレ―ト0.1部、シクロヘキシルマレイミド5部、重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリル0.3部を入れ、酢酸エチル中で窒素ガスの気流下60℃で4時間、続いて70℃で2時間共重合し、固形分濃度30重量%のアクリル系共重合体溶液を得た。
【0037】この溶液に、アクリル系共重合体100部あたり、分子間架橋剤としてトリメチロ―ルプロパントリレンジイソシアネ―ト2部を配合して、光学フイルム用粘着剤とした。また、この粘着剤を離型紙上に乾燥後の厚さが20~25μmとなるように塗布し、乾燥したのち、光学フイルム〔日東電工(株)製のNPF-G5220DU〕に転写して、粘着剤層を有する光学フイルムを作製した。さらに、この粘着剤層を有する光学フイルムを液晶セルのガラス基板面に上記粘着剤層を介して配置させることにより、液晶表示装置を作製した。
【0038】実施例2~6
単量体混合物の組成を、表1および表2の如く変更した以外は、実施例1と同様にして、5種のアクリル系共重合体溶液を調製し、これらに実施例1と同様の分子間架橋剤を同量配合して、5種の光学フイルム用粘着剤を調製した。また、これらの粘着剤を用いて、実施例1と同様にして、粘着剤層を有する光学フイルムと液晶表示装置をそれぞれ作製した。なお、表1には、参考のために、実施例1の単量体混合物の組成をも併記した。
【0039】比較例1~3
単量体混合物の組成を、表3の如く変更した以外は、実施例1と同様にして、3種のアクリル系共重合体溶液を調製し、これらに実施例1と同様の分子間架橋剤を同量配合して、3種の光学フイルム用粘着剤を調製した。また、これらの粘着剤を用いて、実施例1と同様にして、粘着剤層を有する光学フイルムと液晶表示装置をそれぞれ作製した。
【0040】
【表1】
[図:0001431785000024.jpg]
【0041】
【表2】
[図:0001431785000025.jpg]
【0042】
【表3】
[図:0001431785000026.jpg]
【0043】上記の実施例1~6および比較例1~3において、光学フイルム用粘着剤の接着力を調べるため、別途、各例と同様の手法にて厚さ50μmとした粘着剤層を厚さ25μmのポリエステルフイルム上に形成した試験片を作製し、下記の要領にて、接着力試験を行つた。また、液晶表示装置の高温多湿雰囲気下での耐熱性および耐湿性を調べるため、別途、各例で作製した粘着剤層を有する光学フイルムをガラス板に対し50℃、3Kg/cm2の条件で接着させて試験片を作製し、下記の要領にて、耐熱性試験および耐湿性試験を行つた。これらの結果は、後記の表4に示されるとおりであつた。
【0044】<接着力試験>試験片を幅20mmに切断したのち、ガラス板に2Kgのゴムロ―ラを1往復させて圧着した。この圧着後、23℃の雰囲気下で30分間放置し、剥離速度300mm/分の条件で180度剥離を行い、接着力を測定した。
【0045】<耐熱性試験>試験片を90℃で500時間の放置試験に供して、気泡の発生状態を調べた。評価基準は、下記のとおりである。
◎ : 気泡が認められない
○ : 視認性に影響を及ぼさない気泡が認められる
× : 視認性に影響を及ぼす気泡が認められる
【0046】<耐湿性試験>試験片を50℃,90%RHで1,000時間の放置試験に供して、剥離の状態を調べた。評価基準は、下記のとおりである。
◎ : 剥離が認められない
○ : 視認性に影響を及ぼさない剥離が認められる
× : 視認性に影響を及ぼす剥離が認められる
【0047】
【表4】
[図:0001431785000027.jpg]
【0048】上記の表4の結果から明らかなように、本発明の実施例1~6の光学フイルム用粘着剤は、比較例1~3のものに比べて、大きな接着力を示し、かつ高温多湿の雰囲気下でも粘着剤層とガラス基板との界面で剥離を生じたり気泡を発生することのない、すぐれた耐熱性および耐湿性を示すことがわかる。」
(イ) 技術常識B~Dの認定
前記(ア)に摘記した引用文献6の記載事項に例示されるように、次の技術事項は、本願の出願前において、技術常識であったと認められる。(以下、それぞれ「技術常識B」~「技術常識D」という。)
<技術常識B>
「車載用の装置は高温の環境にさらされることがあるため、高温への耐性を考慮して設計する必要があること。」
<技術常識C>
「粘着剤層で接着した製品においては、高温という過酷な条件下で使用されると気泡が発生したり、剥がれたりすることがあること。」
<技術常識D>
「粘着剤層で接着した製品が高温という過酷な条件下で使用されても気泡が発生したり、剥がれたりすることのないように、十分大きな接着力を持たせるべきこと。」
(4) 本件補正発明と引用発明との対比
ア 対比分析
(ア) 構成Xの観点(ヘッドアップディスプレイ装置)
「ヘッドアップディスプレイ装置」の発明である本件補正発明と「投影装置から発せられた光を透光反射体である自動車のフロントガラスに投影することで映像を表示するヘッドアップディスプレイ」の発明である引用発明は、「ヘッドアップディスプレイ装置」の発明である点において一致する。
(イ) 構成A~構成Dの観点
a 次の引用発明の欄に記載した引用発明の各構成は、それぞれ、対応する本件補正発明の欄に記載した次の本件補正発明の構成に相当する。
<引用発明> <本件補正発明>
「投影光を出射する表示器」 「投影光を出射する表示器」
「前記投影光を反射する反射器」 「該投影光を反射する少なくとも
1つの反射器」
「開口部を有し且つ前記表示器及び 「開口部を有し、かつ、該表示器
前記反射器を内部に収容する筐体」 および該反射器を内部に収容する
筐体」
「前記筐体の開口部を覆う 「該開口部を覆うカバー部材」
「カバー部材」」
b したがって、本件補正発明と引用発明は、構成Aから構成Dの観点について、次の点において一致する。
<構成Aから構成Dの観点の一致点>
「投影光を出射する表示器と;
該投影光を反射する少なくとも1つの反射器と;
開口部を有し、かつ、該表示器および該反射器を内部に収容する筐体と;
該開口部を覆うカバー部材と」を有する点。
(ウ) 構成Eの観点(偏光板)
a 構成Eは、「該カバー部材の筐体内部側に設けられた、該カバー部材側から順に粘着剤層と偏光子とを含む偏光板」を有することである。
b 引用発明においては、「偏光板8は、粘着剤を介してカバー部材4の下面に接着されて[いる]」から、本件補正発明と引用発明は、構成Eの観点について、次の点において一致する。
「該カバー部材の筐体内部側に設けられた、該カバー部材側から順に粘着剤層と偏光子とを含む偏光板」を備える点。
イ 一致点及び相違点
前記アの対比分析の結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、次の(ア)及び(イ)に示すとおりである。
(ア) 一致点
「投影光を出射する表示器と;
該投影光を反射する少なくとも1つの反射器と;
開口部を有し、かつ、該表示器および該反射器を内部に収容する筐体と;
該開口部を覆うカバー部材と;
該カバー部材の筐体内部側に設けられた、該カバー部材側から順に粘着剤層と偏光子とを含む偏光板と;を有する、
ヘッドアップディスプレイ装置」の発明である点。
(イ) 相違点
カバー部材と粘着剤層との層間接着力について、
本件補正発明においては、40N/25mm以上との限定があるのに対して、
引用発明は、カバー部材と粘着剤層との層間接着力についての限定がない点。
(5) 判断
ア 相違点の技術上の意義について
(ア) 本願明細書の発明の詳細な説明に開示された実験結果
a 本願明細書の【0093】の【表1】には、次の実験結果が記載されている。
「【表1】
[図:0001431785000028.jpg]
」
b ここで、【表1】における「気泡」の欄の「○」と「×」は、本願明細書の【0086】によると、次のことを示す。
「(3)気泡
実施例および比較例で得られた積層体を、110℃/50時間の加熱信頼性試験に供した。試験後の積層体の気泡の有無を目視により観察し、以下の基準で評価した。
○:気泡は認められなかった
×:気泡が認められた」
c 本願明細書の発明の詳細な説明には、カバー部材と粘着剤層との層間接着力」(以下、単に「層間接着力」ということもある。)が36N/25mm以上の実施例1、参考例2及び3は、【0086】に記載された「加熱信頼性試験」(以下、単に「加熱信頼性試験」という。)の結果「気泡は認められなかった」のに対して、「層間接着力」が27N/25mmの比較例1は、「気泡が認められた」ことが示されている。
(イ) 相違点1の数値限定の技術上の意義の検討
a 相違点1の数値限定の技術上の意義に関する請求人の主張
請求人は、審判請求書において、相違点1に係る本件補正発明の構成である、(構成F)「該カバー部材と該粘着剤層との層間接着力が40N/25mm以上である[こと]」について、「高温環境下における気泡の発生を安定して抑制する」という技術上の意義がある旨主張しているところ、その根拠は、明細書に開示された「加熱信頼性試験」の結果、36N/25mm以上の実施例1、参考例2及び3には気泡が発生しないことにあると理解される。
b 請求人の主張する技術上の意義についての検討
しかしながら、以下の(a)から(c)に示す技術的根拠に照らすと、「層間接着力が40N/25mm以上」という数値限定を含む本件補正発明の構成の全体で考えても、本件補正発明の構成は、加熱信頼性試験の結果を保証する十分条件であるとは認められない。
(a) 技術的根拠1
発明の詳細な説明に開示された実験結果としては、次のi)に示す特定の材料の偏光子と、ii)に示す特定の材料のカバー部材と、iii)に示す特定の材料の粘着剤という、特定の材料の組合せしか記載されておらず、これらの特定がない本件補正発明の範囲全体にまで前記実験結果を一般化できないと考えられること。
i) 下記式(4)の芳香族ジスアゾ化合物からなる偏光子
[図:0001431785000029.jpg]
ii) カバー部材としの、厚さ250μmのポリカーボネート系樹脂シート((株)シャインテクノ製:製品名「AW-10U」)
iii) アクリル系粘着剤(日東電工(株)製:製品名「CS9862UA」)
(b) 技術的根拠2
発明の詳細な説明に開示された実験結果においては、「カバー部材と粘着剤層との層間接着力」を高める手段としては、「カバー部材の一方の面にコロナ処理をすること」しか開示されていないところ、引用文献6の【0008】にも記載されているように、「被着体を下塗剤で表面処理して接着力を高める方法もあるが、表面処理が新たな発泡発生の要因となり、気泡発生の問題は克服されない」ことが考えられ、「カバー部材と粘着剤層との層間接着力」を高める手段の特定がされていない本件補正発明の範囲全体にまで前記実験結果を一般化できないと考えられること。
(c) 技術的根拠3
引用文献6の【0007】に「本発明者らは、上記の目的に対し、鋭意検討した結果、まず、剥離と気泡発生の問題を解決するには、粘着剤層として、剥離を抑制しうる接着力の向上と、気泡の発生を阻止しうる弾性率の向上を図ればよいことを究明した」と記載されているように、気泡の発生を阻止することについては「弾性率」などにも依存すると認められ、「弾性率」などの条件を捨象できるとは認められないから、本件補正発明の範囲全体にまで前記実験結果を一般化できないと考えられること。
c 相違点1についての技術上の意義の検討結果
そうすると、相違点1に係る本件補正発明の構成である、(構成F)「該カバー部材と該粘着剤層との層間接着力が40N/25mm以上である[こと]」についての、請求人が主張する「高温環境下における気泡の発生を安定して抑制する」という技術上の意義については、より厳密には、せいぜい「ほかの条件が一定であれば、高温環境下における気泡の発生を抑制する方向に作用する」という程度の技術上の意義しかなく、本件補正発明の構成全体を踏まえても、明細書に開示された「加熱信頼性試験」の結果において気泡の発生が認められないという結果を保証するための十分条件であるとは評価できない。
イ 相違点の評価
(ア)a 前記(3)イ(イ)において「技術常識B」として認定したとおり、「車載用の装置は高温の環境にさらされることがあるため、高温への耐性を考慮して設計する必要があること」は、当業者ならずとも一般人にさえ自明の技術常識である。
b そして、同じく前記(3)イ(イ)において「技術常識C」として認定したとおり、「粘着剤層で接着した製品においては、高温という過酷な条件下で使用されると気泡が発生したり、剥がれたりすること」も、当業者には技術常識であり、この対策をすることは、当業者には自明の課題である。
c そして、同じく前記(3)イ(イ)において「技術常識D」として認定したとおり、「粘着剤層で接着した製品が高温という過酷な条件下で使用されても気泡が発生したり、剥がれたりすることのないように、十分大きな接着力を持たせるべきこと」は、当業者には自明の設計指針である。
(イ) そして、前記(3)ア(イ)において「周知技術A」として認定したとおり、粘着剤に関する技術分野において、「密着性を向上させるために、粘着剤層に接する表面をコロナ処理すること」は、周知の技術である。
(ウ) したがって、前記(ア)bの自明の課題を解決するための前記(ア)cの自明の設計指針に従って、具体的技術として周知技術Aを採用して、カバー部材と粘着剤層との層間接着力に十分大きな接着力を持たせることは、当業者には自明のことにすぎない。
(エ) そして、相違点1に係る本件補正発明の構成である、(構成F)「該カバー部材と該粘着剤層との層間接着力が40N/25mm以上である[こと]」については、せいぜい「ほかの条件が一定であれば、高温環境下における気泡の発生を抑制する方向に作用する」という程度の技術上の意義しかなく、数値限定に特段の技術上の意義は認められないことも考慮すると、相違点1に係る「カバー部材と粘着剤層との層間接着力」の数値限定は、設計事項としか評価できない。
(オ) 以上のとおりであるから、相違点1の「カバー部材と粘着剤層との層間接着力」の数値限定をもって進歩性を認めることはできず、本件補正発明に進歩性は認められない。
ウ 審判請求人の主張について
(ア) 審判請求人は、審判請求書において、本件補正発明が進歩性を有することの根拠として、次のことを主張している。
引用文献1~4には、カバー部材と粘着剤層との層間接着力を40N/25mm以上に調整して、高温環境下における気泡の発生を安定して抑制するという技術的思想が記載も示唆も一切されておらず、アクリル系粘着剤(製品名「CS9862UA」)とポリカーボネート系樹脂とコロナ処理とを単に組み合わせるだけでは、引用発明のカバー部材の一方の面にコロナ処理を適用したとしてもカバー部材と粘着剤層との層間接着力を40N/25mm以上とすることは困難である。
(イ) 請求人の主張は、相違点1に係るものであるところ、相違点1が当業者が容易に想到し得たものであることは、前記イに説示したとおりであるから、上記請求人の主張は、前記イの結論を左右するものではない。
エ 独立特許要件の判断のまとめ
以上検討のとおり、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合しない。
4 本件補正の却下の決定の理由のむすび
前記3(5)エのとおり、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明の認定
本件補正は、前記第2のとおり却下したので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の1(1)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
理由1(進歩性の欠如)
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2~4に例示される周知技術に基いて、出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
<主たる引用文献>
1.特開2018-72488号公報
<周知技術を示す文献>
2.特開2013-72951号公報
3.特開2007-226016号公報
4.特開2018-180407号公報
3 各引用文献に記載された事項及び引用発明の認定等
引用文献1に記載された事項及び引用発明並びに周知技術A及び技術常識B~Dは、前記第2の3(2)ア、ウ並びに(3)ア(イ)及び(3)イ(イ)において示したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の2において検討した、カバー部材と粘着剤層との層間接着力について限定を省き、本件補正発明における数値範囲の限定である「40N/25mm以上」を「30N/25mm以上」として数値範囲を拡張したものである。
そうすると、本願発明の構成を全て含み、その構成の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の3(5)において説示したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-013045