特許異議申立
2022-701292
電解コンデンサ
- 審判番号
- 2022-701292
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-515366
- 登録番号
- 7089874
- 請求日
- 2022年12月23日
- 審決日
- 2023年10月23日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】パナソニックIPマネジメント株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人河崎特許事務所
- 【異議申立人】中澤 佳樹
- 【異議申立人】齊藤 祐
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 山本 章裕
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P1651.121-YAA(H01G) / P1651.536-YAA(H01G) / P1651.537-YAA(H01G) / P1651.851-YAA(H01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第113条第4号、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7089874号発明「電解コンデンサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7089874号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
特許第7089874号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7089874号の請求項1ないし5に係る発明についての出願は、2016年3月10日(優先権主張 平成27年4月28日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、令和4年6月15日にその特許権が設定登録され、令和4年6月23日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 4年12月23日 :特許異議申立人中澤佳樹による請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 4年12月23日 :特許異議申立人齊藤祐による請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 5年 4月 5日付け:取消理由通知書
令和 5年 6月 8日 :特許権者による意見書及び訂正請求の提出
令和 5年 7月21日 :特許異議申立人中澤佳樹による意見書の提出
令和 5年 7月24日 :特許異議申立人齊藤祐による意見書の提出
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和5年6月8日の訂正請求の趣旨は、特許第7089874号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1ないし5について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
特許請求の範囲の請求項1に、「前記カーボン層は、前記無機系導電層の前記陽極箔と対向する表面に形成されて前記導電性高分子層と接しており、」との記載を追加する(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する。)。
2.本件訂正について
(1)一群の請求項
本件訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし5はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、本件訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1ないし5に対応する訂正後の請求項1ないし5は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正の目的
本件訂正は、訂正前の請求項1に記載された、「無機系導電層」に含まれる「カーボン層」について、「前記カーボン層は、前記無機系導電層の前記陽極箔と対向する表面に形成されて前記導電性高分子層と接しており」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(3)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件特許の願書に添付した明細書の段落【0027】に「導電層は、カーボン層のみを含んでもよく、密着性を高める観点から、さらに導電性のベース層を含んでもよい。ベース層は、陰極箔の表面に形成され、カーボン層は、ベース層上に形成できる。導電層がベース層を含む場合、カーボン層は、ベース層の表面に直接形成してもよく、ベース層との間に導電性の他の層を介在させた状態でベース層上に形成してもよい。」(下線は当審で付した。以下同様。)と記載されており、段落【0073】に「第3工程では、必要に応じて、陰極箔の表面にベース層を形成し、ベース層上に上記のようにしてカーボン層を形成することで、導電層を形成してもよい。」と記載されていることから、段落【0027】【0073】には陰極箔に形成される導電層の陰極箔とは反対の表面にカーボン層が形成されることが記載されている。
また、段落【0008】に「前記陽極箔と対向し、かつ導電性カーボンを含むカーボン層を備える導電層が形成された陰極箔」、段落【0024】に「導電層は、層全体として無機材料で形成されるため、無機系導電層と呼ぶこともできる。導電層は、導電性高分子層と接するカーボン層を少なくとも含む。」と記載され、導電層は無機系導電層であってカーボン層を含み、カーボン層は陽極箔と対向し導電性高分子層と接することが記載されている。そうしてみると、本件訂正にかかる「前記カーボン層は、前記無機系導電層の前記陽極箔と対向する表面に形成されて前記導電性高分子層と接して」いることは明細書に記載されている事項といえる。
したがって、本件訂正は、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であるといえ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
そして、本件訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし5について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1ないし5に係る本件訂正に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されていない。
3.小活
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下「本件発明1ないし5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
コンデンサ素子と電解液とを備え、
前記コンデンサ素子は、
誘電体層が形成された陽極箔と、
前記陽極箔と対向し、かつカーボン層を含む無機系導電層が形成された陰極箔と、
前記陽極箔と前記陰極箔との間に介在し、かつ導電性高分子を含む導電性高分子層と、を備え、
前記電解液は、第1溶媒を含み、
前記第1溶媒は、沸点を有さないか、または180℃以上の沸点を有し、
前記導電性高分子層は、前記導電性高分子を含む分散体または溶液を用いて形成され、
前記カーボン層は、前記無機系導電層の前記陽極箔と対向する表面に形成されて前記導電性高分子層と接しており、
前記電解液に含まれる水分量は、0.1~6.0質量%である、電解コンデンサ。
【請求項2】
前記第1溶媒はポリオールを含む、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記ポリオールは、グリセリン類を含む、請求項2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記電解液中に含まれる前記第1溶媒の量は、3~90質量%である、請求項1~3のいずれか1つに記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記無機系導電層は、チタンおよびニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属または前記金属の化合物の層を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし5に係る特許に対して、当審が令和5年4月5日付で特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
理由1(進歩性)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
・請求項1、2に対して: 引用文献1、2
・請求項3、4に対して: 引用文献1、2、3、4
・請求項5に対して: 引用文献1、2、3、4、5、6
理由2(進歩性)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
・請求項1、2に対して: 引用文献7、2
・請求項3に対して: 引用文献7、2、3、4
・請求項4に対して: 引用文献7、2、3、4、1
・請求項5に対して: 引用文献7、2、3、4、1、5、6
理由3(サポート要件)
請求項1ないし5に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
<引用文献一覧>
・引用文献1:国際公開第2011/099261号(甲1-1)
・引用文献2:特開平5-29180号公報(甲1-2)
・引用文献3:特開平11-283874号公報(甲1-3)
・引用文献4:特開2008-66502号公報(甲2-4)
・引用文献5:特開平10-270291号公報(甲1-4)
・引用文献6:特開2007-95865号公報(甲2-5)
・引用文献7:特開2013-26536号公報(甲2-1)
(以下、特許異議申立人中澤佳樹の提出した証拠「甲第1号証」ないし「甲第8号証」を「甲1-1」ないし「甲1-8」という。また、特許異議申立人齊藤祐の提出した証拠「甲第1号証」ないし「甲第5号証」を「甲2-1」ないし「甲2-5」という。)
2.引用文献
(1)引用文献1、引用発明1
ア.引用文献1の記載
引用文献1(甲1-1)には以下の事項が記載されている。
(ア)「[0021] 図1に示すように、この電解コンデンサは、コンデンサ素子12と、第1リード線11Aと第2リード線11B(以下、リード線11A、11B)と、外装体15とを有する。コンデンサ素子12は、図2に示すように、陽極箔12Aと、陰極箔12Bと、陽極箔12Aと陰極箔12Bとの間に介在したセパレータ12Cとを有する。リード線11Aは陽極箔12Aに接続され、リード線11Bは陰極箔12Bに接続されている。すなわち、リード線11Aの端部は陽極箔12Aに接続され、リード線11Bの端部は陰極箔12Bに接続されている。それらの他方の端部はコンデンサ素子12の同一端面より引出されている。外装体15はリード線11A、11Bのそれぞれの端部を外部に導出するようにしてコンデンサ素子12を封じている。
・・・略・・・
[0023] 次に、図3を参照しながらコンデンサ素子の構成について説明する。図3は図2に示すコンデンサ素子の要部拡大概念図である。コンデンサ素子12は、上述の陽極箔12Aと陰極箔12Bとセパレータ12C以外に、固体電解質層122を有する。またコンデンサ素子12には電解液16が含浸している。」
[0024] 陽極箔12Aは、アルミニウム等の弁金属からなる箔をエッチング処理により粗面化しさらにその表面に誘電体酸化皮膜を化成処理によって形成されている。すなわち、陽極箔12Aは表面に誘電体層121を有する。陰極箔12Bはアルミニウム等の弁金属で形成されている。陽極箔12Aと陰極箔12Bはセパレータ12Cを介して積層され巻回され、さらに陽極箔12Aと陰極箔12Bとの間に、ポリチオフェンやその誘導体等の導電性ポリマーからなる固体電解質層122が形成されている。すなわち、固体電解質層122は誘電体層121と陰極箔12Bとに接触している。固体電解質層122は緻密な状態ではなく、内部に空隙を有する多孔質であり、その空隙に電解液16が入り込んでいる。」
(イ)「[0027] 電解液16は、溶媒に溶質を溶解して調製されている。溶質としては、無機酸アンモニウム塩、無機酸アミン塩、無機酸アルキル置換アミジン塩またはその4級化物、有機酸アンモニウム塩、有機酸アミン塩、有機酸アルキル置換アミジン塩またはその4級化物等が挙げられる。無機酸の化合物としては、ホウ酸化合物、リン酸化合物などが挙げられる。有機酸の化合物としては、アジピン酸などの脂肪族カルボン酸や、フタル酸、安息香酸、サリチル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの芳香族カルボン酸などの化合物が挙げられる。
アンモニウム化合物としては、アンモニア、ジヒドロキシアンモニウム、アミン化合物としてはトリエチルアミン、メチルジエチルアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタンなどの化合物が挙げられる。アルキル置換アミジン塩またはその4級化物としては、1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウムの4級化物や1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリニウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムなどの化合物が挙げられる。
[0028] 電解液16は溶媒材料としてポリアルキレングリコールとポリアルキレングリコールの誘導体との少なくとも一方である難揮発性溶媒を含む。ポリアルキレングリコールは、ほとんど不揮発性(難揮発性)である。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールグリセリルエーテルまたはポリエチレングリコールジグリセリルエーテルまたはポリエチレングリコールソルビトールエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールグリセリルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリセリルエーテル、ポリプロピレングリコールソルビトールエーテル、ポリブチレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体、エチレングリコールとブチレングリコールの共重合体、プロピレングリコールとブチレングリコールの共重合体などがあげられる。これらは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。」
(ウ)「[0043] なお、陰極箔12Bの表面は、固体電解質層122との接触状態をよくするため、必要に応じて、エッチング、酸化皮膜、金属粒子蒸着、カーボン等の導電粒子付着等の表面処理を行うことが好ましい。」
(エ)「[0046] その後、コンデンサ素子12の陽極箔12Aと陰極箔12Bの間に、固体電解質層122を形成する。固体電解質層122として例えば、導電性高分子であるポリ3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等を用いる。この場合、例えば、PEDOTを分散させた分散体溶液にコンデンサ素子12を含浸した後、引き上げ、乾燥させることによって形成する。あるいは、3,4エチレンジオキシチオフェン等のモノマー溶液、p-トルエンスルホン酸第二鉄塩等を含む酸化剤溶液、および溶媒としてエタノール等を用い、これらの溶液にコンデンサ素子12を含浸し、コンデンサ素子12内での化学重合反応でPEDOTを形成してもよい。」
(オ)「[0060]
[図:0001405809000001.jpg]
」
イ.上記「ア.」によれば、引用文献1には次の事項が記載されている。
(ア)段落[0021]の「この電解コンデンサは、コンデンサ素子12と、第1リード線11Aと第2リード線11B(以下、リード線11A、11B)と、外装体15とを有する。」、及び段落[0023]の「またコンデンサ素子12には電解液16が含浸している。」との記載によれば、電解液16が含浸しているコンデンサ素子12を有する電解コンデンサが記載されているといえる。
(イ)段落[0021]の「コンデンサ素子12は、図2に示すように、陽極箔12Aと、陰極箔12Bと、陽極箔12Aと陰極箔12Bとの間に介在したセパレータ12Cとを有する。」との記載によれば、コンデンサ素子12は、陽極箔12Aと、陰極箔12Bとを有している。
(ウ)段落[0024]によれば、陽極箔12Aは表面に誘電体層121を有する。
(エ)段落[0043]の「陰極箔12Bの表面は、固体電解質層122との接触状態をよくするため、必要に応じて、・・・、カーボン等の導電粒子付着等の表面処理を行うことが好ましい。」との記載によれば、陰極箔12Bの表面は、カーボン等の導電粒子付着等の表面処理が行われているといえる。
(オ)段落[0024]によれば、陽極箔12Aと陰極箔12Bとの間に、ポリチオフェンやその誘導体等の導電性ポリマーからなる固体電解質層122が形成され、固体電解質層122は陰極層12Bに接触している。
(カ)段落[0027]によれば、電解液16は、溶媒に溶質を溶解して調製されている。
(キ)段落[0028]の「電解液16は溶媒材料として・・・難揮発性溶媒を含む。・・・具体的には、ポリエチレングリコール、・・・があげられる。」との記載、及び段落[0060]の[表1]の「PEG:ポリエチレングリコール(分子量300)」との記載によれば、電解液16は溶媒材料として難揮発性溶媒であるポリエチレングリコール(分子量300)を含むといえる。
(ク)段落[0046]の「固体電解質層122として例えば、導電性高分子であるポリ3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等を用いる。この場合、例えば、PEDOTを分散させた分散体溶液にコンデンサ素子12を含浸した後、引き上げ、乾燥させることによって形成する。」との記載によれば、固体電解質層122は、導電性高分子であるポリ3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等を用い、PEDOTを分散させた分散体溶液にコンデンサ素子12を含浸した後、引き上げ、乾燥させることによって形成されるといえる。
ウ.以上より、引用文献1には「電解コンデンサ」として以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「電解液16が含浸しているコンデンサ素子12を有する電解コンデンサであって、
コンデンサ素子12は、陽極箔12Aと、陰極箔12Bとを有し、
陽極箔12Aは表面に誘電体層121を有し、
陰極箔12Bの表面は、カーボン等の導電粒子付着等の表面処理が行われており、
陽極箔12Aと陰極箔12Bとの間に、ポリチオフェンやその誘導体等の導電性ポリマーからなる固体電解質層122が形成されており、固体電解質層122は陰極層に接触しており、
電解液16は、溶媒に溶質を溶解して調製されており、
電解液16は溶媒材料として難揮発性溶媒であるポリエチレングリコール(分子量300)を含み、
固体電解質層122は、導電性高分子であるポリ3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等を用い、PEDOTを分散させた分散体溶液にコンデンサ素子12を含浸した後、引き上げ、乾燥させることによって形成される、
電解コンデンサ。」
(2)引用文献2、引用文献2に記載された技術事項
ア.引用文献2の記載
引用文献2(甲1-2)には以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】アルミニウム箔基材上にチタン薄膜および/または窒化チタン薄膜を厚さ0.05~0.5μmとして形成した電極箔を陰極箔とし、この陰極箔と陽極箔とをセパレータを介して巻回し、駆動用電解液として芳香族カルボン酸またはそのアンモニウム塩もしくはアミン塩を極性有機溶媒に溶解した液を用いたアルミニウム電解コンデンサにおいて、当該アルミニウム電解コンデンサ内の駆動用電解液中の水分が0.5ないし8wt%であることを特徴とする電解コンデンサ。
・・・略・・・
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は基材表面に蒸着皮膜を形成した電解コンデンサに関するものである。」
(イ)「【0016】また、塩としてはアンモニウム塩、第1~第3級アミン塩を例示することができる。アミン塩としては、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミンが好ましい。また、伝導度を高めるために水分を添加するが、コンデンサ特性の経時変化を抑止するために電解コンデンサ中の水分が8wt%以下、好ましくは6wt%以下、特に好ましくは4wt%以下が採用される。
【0017】電解コンデンサとしての製品中の水分は本発明に記載の溶媒と溶質の組合せにおいて、製品の損失角の正接を下げる効果および電解液の火花電圧を高める効果があるので水分が過度に少ないものは好ましくなく、少なくとも0.2wt%以上、特に好ましくは0.5wt%以上が採用される。」
イ.上記記載によれば、引用文献2には次の事項が記載されている。
(ア)段落【0001】によれば、引用文献2には電解コンデンサについて記載されている。
(イ)段落【0016】【0017】によれば、電解コンデンサ中の水分について「コンデンサ特性の経時変化を抑止するために電解コンデンサ中の水分が」「好ましくは6wt%以下」「が採用される。電解コンデンサとしての製品中の水分は」「製品の損失角の正接を下げる効果および電解液の火花電圧を高める効果があるので水分が過度に少ないものは好ましくなく、少なくとも0.2wt%以上」「が採用される。」
ウ.以上より、引用文献2には以下の技術事項(以下、「引用文献2記載技術」という。)が記載されていると認められる。
「電解コンデンサにおいて、コンデンサ特性の経時変化を抑止するために電解コンデンサ中の水分として好ましくは6wt%以下が採用され、また、製品の損失角の正接を下げる効果および電解液の火花電圧を高める効果があるので水分が過度に少ないものは好ましくなく、少なくとも0.2wt%以上が採用される。」
(3)引用文献7、引用発明7
ア.引用文献7の記載
引用文献7(甲2-1)には以下の事項が記載されている。
「【0027】
図1に示すように、本発明のハイブリッド型電解コンデンサは、機能素子であるコンデンサ素子12と、このコンデンサ素子12にそれぞれ一方の端部を接続した一対のリード線11a、11bと、これらリード線11a、11bの他方の端部を外部に導出するようにして、コンデンサ素子12を駆動用電解液(図示せず)と共に封じた外装体15とからなっている。
・・・・・・
【0030】
また、図2、3に示すように、前記コンデンサ素子12は、アルミニウム等の弁金属からなる箔をエッチング処理により粗面化しさらにその表面に陽極酸化皮膜の誘電体層12eを化成処理によって形成した陽極箔12aと、アルミニウム等の弁金属からなる陰極箔12bとを、セパレータ12cを介して巻回して形成されている。そして、前記リード線11a、11bは、それらの一方の端部が陽極箔12aと陰極箔12bにそれぞれ接続されており、それらの他方の端部はコンデンサ素子12の同一端面より引出されている。
・・・・・・
【0032】
また、図3に示すように、コンデンサ素子12を構成する前記陽極箔12aと陰極箔12bとの間には、ポリチオフェンやその誘導体等の導電性ポリマー微粒子からなる導電性ポリマー層16が形成されている。この導電性ポリマー微粒子の一例として、電導度及び耐電圧が高いポリエチレンジオキシチオフェン・ポリスチレンスルホン酸(PEDOT・PSS)が挙げられるが、これに限定されるものではない。なお、この導電性ポリマー微粒子は、溶媒中に分散させることにより、分散体溶液として取り扱うことができる。
【0033】
前記導電性ポリマー層16は、陽極箔12a表面に付着した導電性ポリマー微粒子16aと、陰極箔12b表面に付着した導電性ポリマー微粒子16bと、セパレータ12cの繊維表面に付着した導電性ポリマー微粒子16cとを含んでおり、これらの粒子径は100nm以下となっている。
・・・・・・
【0036】
ここで、導電性ポリマーの微粒子を付着させるには、一般的に、溶媒中に導電性ポリマー微粒子を分散させた分散体溶液を準備し、この分散体溶液をコンデンサ素子12に含浸し、コンデンサ素子12内の空隙部分に拡散させていく手段が用いられるが、コンデンサ素子12内への導電性ポリマー微粒子の付着量と電解コンデンサの電気特性には、ある傾向が見られる。
・・・・・・
【0044】
また、駆動用電解液は、溶媒に溶質を溶解する形で構成されている。溶媒材料としては、γ-ブチロラクトン、エチレングリコール、スルホラン等が挙げられる。また、ハイブリッド形電解コンデンサの場合、陽極箔12aと陰極箔12bとの間の電極間抵抗は、導電性ポリマー層16の電導度に大きく左右され、駆動用電解液の電導度の影響度が低いため、一般的には、液体電解質系の電解コンデンサでは溶媒として大量に適用できないポリエチレングリコールを適用することもできる。そして、溶質材料としては、無機酸アンモニウム塩、無機酸アミン塩、無機酸アルキル置換アミジン塩またはその4級化物、有機酸アンモニウム塩、有機酸アミン塩、有機酸アルキル置換アミジン塩またはその4級化物等が挙げられる。
・・・・・・
【0049】
なお、陰極箔12bの表面は、導電性ポリマー層16との接触状態をよくするため、必要に応じて、エッチング、酸化皮膜、金属粒子蒸着、カーボン等の導電粒子付着等の表面処理を行う。」
イ.上記の記載によれば、引用文献7には次の事項が記載されている。
(ア)段落【0027】によれば、コンデンサ素子12と、当該コンデンサ素子12を駆動用電解液と共に封じた外装体15とからなるハイブリッド型電解コンデンサについて記載されている。
(イ)段落【0030】の「前記コンデンサ素子12は、アルミニウム等の弁金属からなる箔をエッチング処理により粗面化しさらにその表面に陽極酸化皮膜の誘電体層12eを化成処理によって形成した陽極箔12aと、アルミニウム等の弁金属からなる陰極箔12bとを、セパレータ12cを介して巻回して形成されている。」との記載によれば、コンデンサ素子12はその表面に誘電体層12eが形成された陽極箔12aと、陰極箔12bとを、セパレータ12cを介して巻回して形成されている。
(ウ)段落【0049】によれば、陰極箔12bの表面は、カーボン等の導電粒子付着等の表面処理が行われている。
(エ)段落【0032】【0033】によれば、陽極箔12aと陰極箔12bとの間には、導電性ポリマー微粒子からなる導電性ポリマー層16が形成されている。
(オ)段落【0044】によれば、駆動用電解液は、溶媒に溶質を溶解する形で構成されている。また、溶媒材料として、ポリエチレングリコールが挙げられている。
(カ)段落【0036】【0033】によれば、導電性ポリマーの微粒子を付着させるには、溶媒中に導電性ポリマー微粒子を分散させた分散体溶液を準備し、この分散体溶液をコンデンサ素子12に含浸し、コンデンサ素子12内の空隙部分に拡散させることにより行っている。
ウ.以上より、引用文献7には「ハイブリッド型電解コンデンサ」として以下の発明(以下、「引用発明7」という。)が記載されていると認められる。
「コンデンサ素子12と、当該コンデンサ素子12を駆動用電解液と共に封じた外装体15とからなるハイブリッド型電解コンデンサであって、
コンデンサ素子12は、その表面に誘電体層12eが形成された陽極箔12aと、陰極箔12bとを、セパレータ12cを介して巻回して形成され、
陰極箔12bの表面は、カーボン等の導電粒子付着等の表面処理が行われており、
陽極箔12aと陰極箔12bとの間には、導電性ポリマー微粒子からなる導電性ポリマー層16が形成されており、
駆動用電解液は、溶媒に溶質を溶解する形で構成され、
溶媒材料としてポリエチレングリコールが使用され、
導電性ポリマーの微粒子を付着させるには、溶媒中に導電性ポリマー微粒子を分散させた分散体溶液を準備し、この分散体溶液をコンデンサ素子12に含浸し、コンデンサ素子12内の空隙部分に拡散させることにより行う、
ハイブリッド型電解コンデンサ。」
3.対比及び判断
(1)理由1(引用文献1(甲1-1)を主引例とする取消理由)について
ア.本件発明1について
本件発明1と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「コンデンサ素子12」「電解液16」が、それぞれ本件発明1の「コンデンサ素子」「電解液」に相当する。そして、引用発明1の「電解コンデンサ」は「コンデンサ素子12」と「電解液16」を有しているから、本件発明1の「コンデンサ素子と電解液とを備え」る「電解コンデンサ」に相当する。
(イ)引用発明1の「陽極箔12A」「陰極箔12B」が本件発明1の「陽極箔」「陰極箔」に相当し、引用発明1の陽極箔12Aの表面の「誘電体層121」は本件発明1の陽極箔に形成された「誘電体層」に相当するから、引用発明1の「表面に誘電体層121を有」する「陽極箔12A」は本件発明1の「誘電体層が形成された陽極箔」に相当する。
また、引用発明1の「陰極箔12B」が「陽極箔12A」と対向していることは明らかである。そして、引用発明1において「陰極箔12Bの表面は、カーボン等の導電粒子付着等の表面処理が行われて」いるのに対して、本件発明1では「陰極箔」には「カーボン層を含む無機系導電層」が形成されている。したがって、引用発明1の「陰極箔12B」と本件発明の「陰極箔」とは「陽極箔と対向し、かつカーボン層が形成された陰極箔」である点で共通するが、陰極箔が本件発明1では「カーボン層を含む無機系導電層が形成された陰極箔」であるのに対して、引用発明1の「陰極箔12B」はその表面に「カーボン等の導電粒子付着等の表面処理が行われて」いる点で相違する。
(ウ)引用発明1の「固体電解質層122」は、陽極箔12Aと陰極箔12Bとの間に形成され、導電性ポリマーからなるから、本件発明1の「前記陽極箔と前記陰極箔との間に介在し、かつ導電性高分子を含む導電性高分子層」に相当する。
(エ)引用発明1では「電解液16は、溶媒に溶質を溶解して調製されて」いるから、電解液16は溶媒を含んでいるといえ、引用発明1の「電解液16」が含む「溶媒」が、本件発明1の「電解液」に含まれる「第1溶媒」に相当する。そして、引用発明1は溶媒としてポリエチレングリコール(分子量300)を有するが、当該物質が180℃以上の沸点を有することは技術常識である。
そうしてみると、引用発明1の「電解液16は、溶媒に溶質を溶解して調製されており、電解液16は溶媒材料として難揮発性溶媒であるポリエチレングリコール(分子量300)を含」むことは、本件発明1の「前記電解液は、第1溶媒を含み、前記第1溶媒は、沸点を有さないか、または180℃以上の沸点を有」することに相当する。
(オ)引用発明1では、「固体電解質層122は、導電性高分子である」「PEDOTを分散させた分散体溶液にコンデンサ素子12を含浸した後、引き上げ、乾燥させることによって形成される」から、本件発明1の「前記導電性高分子層」は「前記導電性高分子を含む分散体または溶液を用いて形成され」る構成に相当する構成を有する。
(カ)引用発明1は「陰極箔12Bの表面は、カーボン等の導電粒子付着等の表面処理が行われており」、「陽極箔12Aと陰極箔12Bとの間に」「固体電解質層122が形成されて」いるから、カーボン等の導電粒子付着等の表面処理が行われた陰極箔12Bの表面は陽極箔12Aと対向する表面であり、かつ固体電解質層122と接しているといえ、本件発明1とは「前記カーボン層は、」「前記陽極箔と対向する表面に形成されて前記導電性高分子と接して」いる点で共通する。
ただし、カーボン層が、本件発明1は「前記無機系導電層の」「表面に形成されて」いるのに対して、引用発明1は「陰極箔12Bの表面」そのものである点で相違する。
(キ)本件発明1では「前記電解液に含まれる水分量は、0.1~6.0質量%である」が、引用発明1では当該事項が明らかではない点で相違する。
(ク)したがって、本件発明1と引用発明1とは、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点1)
「コンデンサ素子と電解液とを備え、
前記コンデンサ素子は、
誘電体層が形成された陽極箔と、
前記陽極箔と対向し、かつカーボン層が形成された陰極箔と、
前記陽極箔と前記陰極箔との間に介在し、かつ導電性高分子を含む導電性高分子層と、を備え、
前記電解液は、第1溶媒を含み、
前記第1溶媒は、沸点を有さないか、または180℃以上の沸点を有し、
前記導電性高分子層は、前記導電性高分子を含む分散体または溶液を用いて形成され、
前記カーボン層は、前記陽極箔と対向する表面に形成されて前記導電性高分子層と接している、
電解コンデンサ。」
(相違点1)
陰極箔が、本件発明1では「カーボン層を含む無機系導電層が形成された陰極箔」であるのに対して、引用発明1では、その表面に「カーボン等の導電粒子付着等の表面処理が行われて」いるものである点。
(相違点2)
カーボン層が、本件発明1は「前記無機系導電層の」「表面に形成されて」いるのに対して、引用発明1は「陰極箔12Bの表面」そのものである点。
(相違点3)
本件発明1では「前記電解液に含まれる水分量は、0.1~6.0質量%である」が、引用発明1では当該事項が明らかではない点。
(ケ)事案に鑑み、相違点3について先に検討する。
上記「2.(2)ウ.」に示したように、「電解コンデンサにおいて、コンデンサ特性の経時変化を抑止するために電解コンデンサ中の水分として好ましくは6wt%以下が採用され、また、製品の損失角の正接を下げる効果および電解液の火花電圧を高める効果があるので水分が過度に少ないものは好ましくなく、少なくとも0.2wt%以上が採用される。」(引用文献2記載技術)ことは公知である。
そこで、引用文献2記載技術を引用発明1に適用することを検討する。
引用文献2は、「この陰極箔と陽極箔とをセパレータを介して巻回し、駆動用電解液として芳香族カルボン酸またはそのアンモニウム塩もしくはアミン塩を極性有機溶媒に溶解した液を用いたアルミニウム電解コンデンサ」(上記「2.(2)ア.(ア)」参照。)と記載されていることから見て、ハイブリッド型ではない液体型の電解コンデンサに関する技術である。一方、引用発明1は固体電解質層122と電解液16を有するハイブリッド型の電解コンデンサである。
ハイブリット型の電解コンデンサについて記載されている引用文献1の段落[0009]に「電解液は、溶媒、溶質、添加剤から構成されており、液体の電解質のみを用いる従来の液体型の電解コンデンサに適用されてきた電解液に基づいている。」と記載されていることから、ハイブリッド型の電解コンデンサの電解液を構成する際に、液体型の電解コンデンサの電解液を参考にし得るといえる。しかしながら一方で、引用文献1の段落[0014][0015]には、液体型の電解コンデンサでは電解液の溶媒がなくなるとオープンモードになるだけだが、ハイブリッド型では漏れ電流が増大し、最悪の場合ショートに至る旨記載されており、液体型とハイブリッド型では溶媒の役割や作用に差異があることも明らかである。
そうしてみると、引用発明1と引用文献2とでは前提となる電解コンデンサの種類が異なっていることから、引用文献1に液体型電解コンデンサの電解液に関する示唆が存在するからといって、引用文献2に規定された液体型電解コンデンサ中の水分量の値を引用発明1にそのまま適用するということはできないというべきである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものということはできない。
なお、特許異議申立人齊藤祐は令和5年7月24日提出の意見書において以下のように主張している。
「引用文献1の段落0012~0015の記載を根拠とした『引用文献1には従来の液型コンデンサの電解液を適用することの課題が記載されている』との反論について検討すると、発明の進歩性を考慮する上で先行文献が引用されるときには、たとえ背景技術欄のみに記載された事項であっても考慮に入れられるところ、引用文献1の段落0003~0011には、ハイブリッド型電解コンデンサにおける陽極酸化皮膜の欠陥部の修復作用を向上させるために使用する電解液として従来の液型コンデンサの電解液を適用する技術が明瞭に示されている。したがって、『引用文献1に、引用文献2に記載の技術を引用文献1に記載の発明に適用することを阻害する開示がある』とはいえない。」(6頁15~23行)
引用文献1の背景技術欄のみに記載された事項であっても考慮されるところではあるが、一方で引用文献1の段落[0014][0015]に記載されているように、電解コンデンサの種類が異なっても、電解液の作用が全く同等とはいえないことから、液体型の電解コンデンサである引用文献2に規定された電解コンデンサ中の水分量の値を、そのままハイブリッド型の引用発明1に適用できるとまではいえない。したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
イ.本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1の構成を全て有し、さらに限定したものであるから、本件発明2ないし5は、少なくとも上記相違点1ないし3で引用発明1と相違する。そして、相違点3については上記「ア.(ケ)」で検討したとおりであるから、本件発明2ないし5は本件発明1と同様の理由により当業者が容易に発明できたものではない。
(2)理由2(引用文献7(甲2-1)を主引用例とする取消理由)について
ア.本件発明1について
本件発明1と引用発明7とを対比する。
(ア)引用発明7の「コンデンサ素子12」と「駆動用電解液」が、それぞれ本件発明1の「コンデンサ素子」「電解液」に相当する。そして、引用発明7の「コンデンサ素子12」と「駆動用電解液」を有する「ハイブリッド型電解コンデンサ」は、本件発明1の「コンデンサ素子と電解液とを備え」る「電解コンデンサ」に相当する。
(イ)引用発明7の「陽極箔12a」は本件発明1の「陽極箔」に相当し、「陽極箔12a」の表面に形成された「誘電体層12e」が本件発明1の「誘電体層」に相当するから、引用発明7の「陽極箔12a」は本件発明1の「誘電体層が形成された陽極箔」に相当する。
(ウ)引用発明7では「陽極箔12aと、陰極箔12bとを、セパレータ12cを介して巻回」しているから、「陽極箔12a」と「陰極箔12b」とは対向しており、また、「陰極箔12bの表面は、カーボン等の導電粒子付着等の表面処理が行われて」いるから、引用発明7の「陰極箔12b」は本件発明1の「カーボン層」を有するといえる。ただし、陰極箔が、本件発明1では「カーボン層を含む無機系導電層が形成された陰極箔」であるのに対して、引用発明7ではその表面に「カーボン等の導電粒子付着等の表面処理が行われて」いる「陰極箔12b」である点で相違する。
(エ)引用発明7の「陽極箔12aと陰極箔12bとの間」に形成される、「導電性ポリマー微粒子からなる導電性ポリマー層16」は、本件発明1の「陽極箔と陰極箔との間に介在し、かつ導電性高分子を含む導電性高分子層」に相当する。
(オ)引用発明7の「駆動用電解液」に含まれる「溶媒」にはポリエチレングリコールが使用されており、これが180℃以上の沸点を有することは技術常識である。したがって、引用発明7の「溶媒」は本件発明1の「第1溶媒」に相当し、引用発明7の「駆動用電解液」は本件発明1の「第1溶媒を含み、前記第1溶媒は、沸点を有さないか、または180℃以上の沸点を有」する「電解液」に相当する。
(カ)引用発明7では「導電性ポリマーの微粒子を付着させるには、溶媒中に導電性ポリマー微粒子を分散させた分散体溶液を準備し、この分散体溶液をコンデンサ素子12に含浸し、コンデンサ素子12内の空隙部分に拡散させ」ているから、本件発明1の「前記導電性高分子層は、前記導電性高分子を含む分散体または溶液を用いて形成され」る構成に相当する構成を有している。
(キ)引用発明7では「陰極箔12bの表面は、カーボン等の導電粒子付着等の表面処理が行われて」おり、また「陽極箔12aと陰極箔12bとの間」に導電性ポリマー層16が形成されるから、カーボン等の導電粒子付着等の表面処理が行われた陰極箔12bの表面は陽極箔と対向し、かつ導電性ポリマー層16に接しているといえ、本件発明1とは「前記カーボン層は、」「前記陽極箔と対向する表面に形成されて前記導電性高分子と接して」いる点で共通する。ただし、カーボン層が、本件発明1は「前記無機系導電層の」「表面に形成されて」いるのに対して、引用発明7は「陰極箔12bの表面」そのものである点で相違する。
(ク)本件発明1では「前記電解液に含まれる水分量は、0.1~6.0質量%である」が、引用発明7では当該事項が明らかではない点で相違する。
(ケ)したがって、本件発明1と引用発明7とは、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点2)
「 コンデンサ素子と電解液とを備え、
前記コンデンサ素子は、
誘電体層が形成された陽極箔と、
前記陽極箔と対向し、かつカーボン層が形成された陰極箔と、
前記陽極箔と前記陰極箔との間に介在し、かつ導電性高分子を含む導電性高分子層と、を備え、
前記電解液は、第1溶媒を含み、
前記第1溶媒は、沸点を有さないか、または180℃以上の沸点を有し、
前記導電性高分子層は、前記導電性高分子を含む分散体または溶液を用いて形成され、
前記カーボン層は、前記陽極箔と対向する表面に形成されて前記導電性高分子層と接している、
電解コンデンサ。」
(相違点4)
陰極箔が、本件発明1では「カーボン層を含む無機系導電層が形成された陰極箔」であるのに対して、引用発明7ではその表面に「カーボン等の導電粒子付着等の表面処理が行われて」いる「陰極箔12b」である点。
(相違点5)
カーボン層が、本件発明1は「前記無機系導電層の」「表面に形成されて」いるのに対して、引用発明7は「陰極箔12bの表面」そのものである点で相違する。
(相違点6)
本件発明1では「前記電解液に含まれる水分量は、0.1~6.0質量%である」が、引用発明7では当該事項が明らかではない点。
(コ)事案に鑑み、相違点6について先に検討する。
上記「2.(2)ウ.」に示したように、「電解コンデンサにおいて、コンデンサ特性の経時変化を抑止するために電解コンデンサ中の水分として好ましくは6wt%以下が採用され、また、製品の損失角の正接を下げる効果および電解液の火花電圧を高める効果があるので水分が過度に少ないものは好ましくなく、少なくとも0.2wt%以上が採用される。」(引用文献2記載技術)ことは公知である。
そこで、引用文献2記載技術を引用発明7に適用することを検討する。
引用発明7はハイブリッド型の電解コンデンサであるのに対して、引用文献2はハイブリッド型ではない液体型の電解コンデンサに関する技術である。上記「(1)ア.(ケ)」において検討したように、ハイブリット型の電解コンデンサと従来の液体型の電解コンデンサとでは、溶媒の役割や作用には差異があるというべきである。そうしてみると、引用文献2記載技術が存在するからといって、電解コンデンサの種類が異なる引用発明7に引用文献2記載技術の水分量をそのまま適用して、引用発明7の電解コンデンサ中の水分値を6wt%以下、0.2wt%以上とすることまではできない。
したがって、本件発明1は他の相違点について検討するまでもなく、引用文献7に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものということはできない。
イ.本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1の構成を全て有し、さらに限定したものであるから、本件発明2ないし5は、少なくとも上記相違点4ないし6で引用発明7と相違する。そして、相違点6については上記「ア.(コ)」で検討したとおりであるから、本件発明2ないし5は本件発明1と同様の理由により当業者が容易に発明できたものではない。
4 理由3(サポート要件違反)について
取消理由通知において、通知した取消理由は以下のとおりである。
「請求項1に『前記陽極箔と対向し、かつカーボン層を含む無機系導電層が形成された陰極箔』と記載されており、『無機系導電層』には『カーボン層』に加えてベース層などの任意の層を有する構成も含まれている。
ところで、本件明細書を参照すると、本件効果を奏するため『電解液に含まれる水分量は、0.1~6.0質量%』とする根拠は、実施例及び比較例による評価以外には記載されていないが、当該実施例及び比較例は、いずれも『無機系導電層』として導電性カーボンのイオンプレーディングにより形成されたカーボン層(段落【0083】参照)のみを有するものであり、『カーボン層』に加えて任意の層を有する『無機系導電層』について評価したものではない。加えて、無機系導電層と導電性高分子層及び陰極箔との密着性は、無機系導電層の種類や物理的・化学的性質等に依存し、無機系導電層の構成を変更することにより密着性が変化して本件効果に影響すると考えるのが自然である。
そうしてみると、『無機系導電層』として『カーボン層』に加えて任意の層を有するものについては、水分量を0.1~6.0質量%とすることにより本件効果を奏することが明細書に開示されていないことになる。
したがって、『無機系導電層』として『カーボン層』に加えて任意の層を有するものを含む本件請求項1は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになるから特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない。したがって、本件請求項1に係る特許は特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。」
そこで、訂正された本件発明1について、改めて検討する。
発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「[0024] (導電層)
導電層は、層全体として、導電性を有する無機材料(金属、金属化合物、および/または導電性カーボンなど)で形成されることが望ましく、有機系材料で形成される導電性高分子層とは区別される。導電層は、層全体として無機材料で形成されるため、無機系導電層と呼ぶこともできる。導電層は、導電性高分子層と接するカーボン層を少なくとも含む。
・・・・
[0027] 導電層は、カーボン層のみを含んでもよく、密着性を高める観点から、さらに導電性のベース層を含んでもよい。ベース層は、陰極箔の表面に形成され、カーボン層は、ベース層上に形成できる。導電層がベース層を含む場合、カーボン層は、ベース層の表面に直接形成してもよく、ベース層との間に導電性の他の層を介在させた状態でベース層上に形成してもよい。
・・・・
[0049] ところが、実際に、カーボン層を含む導電層が形成された陰極箔と電解液とを組み合わせた場合、電解液の水分量を0.1質量%以上とすることで、誘電体層の修復効果を得ることができ、これにより漏れ電流を低減することができる。
・・・・
[0051] 本実施形態では、導電性高分子層を、導電性高分子を含む分散体または溶液を用いて形成するとともに、電解液中の水分を6.0質量%以下とすることで、陰極箔と導電層との密着性、陽極箔や導電層と導電性高分子層との密着性の低下を抑制できる。よって、高容量を確保しながらも、ESRの増加を抑制することができる。」
上記記載によると、段落[0024]には「導電層は、導電性高分子層と接するカーボン層を少なくとも含む」ことが記載されており、段落[0027]にはカーボン層の他にベース層や他の層を有しても良いが、ベース層を有する場合、カーボン層はベース層の表面、すなわち、導電性高分子層に接するように構成されることが記載されているといえる。そして、当該構成に加え、水分量を0.1質量%以上とすることで、誘電体層の修復効果を得ることができ(段落[0049])、また、水分量を6.0質量%以下とすることで、陰極箔と導電層との密着性、陽極箔や導電層と導電性高分子層との密着性の低下を抑制できる(段落[0051])旨記載されている。そして、当該記載より当業者はカーボン層の他にベース層等を有する導電層においてもカーボン層が導電性高分子層に接し、水分量を0.1質量%以上6.0質量%以下とすることにより所定の効果を奏することができると認識し得るものと認められる。したがって、イオンプレーティングによりカーボン層を形成することまで特定しなければならないとはいえない。
そして、本件訂正により、高容量を確保しながらも、ESRの増加を抑制するという本件効果を得るために必要な、カーボン層が無機系導電層の前記陽極箔と対向する表面に形成されて前記導電性高分子層と接する構成が請求項1に特定された。
そうしてみると、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が本件訂正後の本件発明1に反映されているといえ、請求項1に係る本件発明1は発明の詳細な説明に記載された発明である。また、請求項1を引用する請求項2ないし5についても同様である。
したがって、請求項1ないし5に係る特許は特許法第36条第6項第1号の規定に違反しない。
なお、特許異議申立人中澤佳樹は、令和5年7月21日提出の意見書において、参考資料1、2を示すとともに、イオンプレーディングは運動エネルギーが高く高接着力が期待できるのに対して、他の形成方法では高接着力を得られず「陰極箔と導電層との密着性、陽極箔や導電層と導電性高分子層との密着性の低下を抑制できる」という作用効果を発揮できない旨主張している(意見書7頁5行~9頁23行)。
しかしながら、上述したように、発明の詳細な説明にはカーボン層の他にベース層等を有する導電層においても、カーボン層が導電性高分子層に接し、水分量を0.1質量%以上6.0質量%以下とし、所定の水分量とすることによって所定の効果を奏することができることが記載されていることを踏まえれば、イオンプレーディングによってカーボン層を形成することを特定しなければならないとまではいえない。したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1.特許異議申立人が主張する取消理由及び提出した証拠
特許異議申立人中澤佳樹は以下の証拠(甲1-1ないし甲1-8)を提出し、(a)甲1-1及び甲1-2を基礎とする進歩性欠如(取消理由1)、(b)甲1-1及び甲1-5を基礎とする進歩性欠如(取消理由2)、(c)サポート要件違反1(取消理由3)、(d)実施可能要件違反1(取消理由4)、(e)実施可能要件違反2(取消理由5)、(f)サポート要件違反2(取消理由6)、を主張している。
また、特許異議申立人齊藤祐は以下の証拠(甲2-1ないし甲2-5)を提出し、(a)甲2-1発明を基礎として甲2-2ないし甲2-5記載技術を適用することによる進歩性欠如(理由1)、(b)サポート要件違反(理由2)を主張している。
これらのうち、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について以下に検討する。
(証拠一覧)
甲1-1:国際公開第2011/099261号(取消理由通知における引用文献1)
甲1-2:特開平5-29180号公報(取消理由通知における引用文献2)
甲1-3:特開平11-283874号公報(取消理由通知における引用文献3)
甲1-4:特開平10-270291号公報(取消理由通知における引用文献5)
甲1-5:特開2000-182898号公報
甲1-6:特開2000-173864号公報
甲1-7:特許第7117552号公報
甲1-8:特願2017-520207の意見書
甲2-1:特開2013-26536号公報(取消理由通知における引用文献7)
甲2-2:特開2003-142346号公報
甲2-3:「非水溶液系で形成したアルミニウムアノード酸化皮膜」宇恵誠、表面科学、vol.19、No.12、p781-789、1998
甲2-4:特開2008-66502号公報(取消理由通知における引用文献4)
甲2-5:特開2007-95865号公報(取消理由通知における引用文献6)
2.特許異議申立人中澤佳樹の申立て理由
(1)甲1-1と甲1-5に基づく進歩性欠如(特許異議申立人中澤佳樹が主張する取消理由2)
ア.甲1-1(国際公開第2011/099261号)について
甲1-1は取消理由通知で引用文献1とした文献であり、上記「第4 2.(1)ウ.」に検討したとおり、引用発明1が記載されている。再掲すると以下のとおりである。
「電解液16が含浸しているコンデンサ素子12を有する電解コンデンサであって、
コンデンサ素子12は、陽極箔12Aと、陰極箔12Bとを有し、
陽極箔12Aは表面に誘電体層121を有し、
陰極箔12Bの表面は、カーボン等の導電粒子付着等の表面処理が行われており、
陽極箔12Aと陰極箔12Bとの間に、ポリチオフェンやその誘導体等の導電性ポリマーからなる固体電解質層122が形成されており、固体電解質層122は陰極層に接触しており、
電解液16は、溶媒に溶質を溶解して調製されており、
電解液16は溶媒材料として難揮発性溶媒であるポリエチレングリコール(分子量300)を含み、
固体電解質層122は、導電性高分子であるポリ3,4エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等を用い、PEDOTを分散させた分散体溶液にコンデンサ素子12を含浸した後、引き上げ、乾燥させることによって形成される、
電解コンデンサ。」
イ.甲1-5(特開2000-182898号公報)について
(ア)甲1-5の記載事項
甲1-5には次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電解コンデンサの電解質として電解液と固体電解質の複合電解質を備えた電解コンデンサ及びその製造方法に関するものである。
・・・・・・
【0033】本発明の電解コンデンサの巻回したコンデンサ素子12の含水率は、含浸された駆動用電解液の重量に基づいて通常10%未満である。水の含有量が10%以上では電解電気分解反応が促進されるため、電気化学素子の内圧上昇により好ましくない。」
(イ)甲1-5技術
段落【0001】の「電解質として電解液と固体電解質の複合電解質を備えた電解コンデンサ」はハイブリッド電解コンデンサを意味することを踏まえると、甲1-5には以下の技術事項(以下、「甲1-5技術」という。)が記載されているものと認められる。
「ハイブリッド型電解コンデンサにおいて、水の含有量が10%以上では電解電気分解反応が促進され、内圧上昇により好ましくないため、含水率を含浸された駆動用電解液の重量に基づいて通常10%未満とする。」こと。
ウ.対比・判断
本件発明1と引用発明1とを対比すると、上記「第4 3.(1)ア.(ク)」において既に検討したように、相違点1ないし3で相違する。(相違点3のみ再掲する。)
(相違点3)
本件発明1では「前記電解液に含まれる水分量は、0.1~6.0質量%である」が、引用発明1では当該事項が明らかではない点。(再掲)
上記相違点3について検討する。
上記「イ.(イ)」で検討したように、甲1-5には以下の技術が記載されている。
「ハイブリッド型電解コンデンサ素子において、水の含有量が10%以上では電解電気分解反応が促進され、内圧上昇により好ましくないため、含水率を含浸された駆動用電解液の重量に基づいて通常10%未満とする。」こと(甲1-5技術)。
そこで、甲1-5技術を、同じハイブリッド型の電解コンデンサである引用発明1に適用すると、電解液に含まれる水分量を10%未満とすることは容易に想到できたとしても、さらに水分量を0.1~6.0質量%とすることについては何らの示唆もなく、またこの値に限定する動機付けも存在しないから、当業者といえども水分量を0.1~6.0質量%とすることまで容易に想到できたとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用文献1に記載された発明及び甲1-5技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
エ.本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1の構成を全て有し、さらに限定したものであるから、本件発明2ないし5は、少なくとも上記相違点1ないし3で引用発明1と相違する。そして、相違点3については上記「ウ.」で検討したとおりであるから、本件発明2ないし5は本件発明1と同様の理由により当業者が容易に発明できたものではない。
(2)実施可能要件1(特許異議申立人中澤佳樹が主張する取消理由4)
ア.特許異議申立人の主張
特許異議申立人中澤佳樹は、特許異議申立書において、以下のように主張している。
請求項1~5に記載された発明は、請求項1の「カーボン層を含む無機系導電層」との記載は、「導電層がカーボン層以外にベース層を含むもの」の態様も含まれるが、かかる態様に関する実施例の記載はなく、当業者が、どのような材料を、どのような条件下で、どのような処理を行えば、発明の課題解決が可能になるかも記載されていないことから、当業者は請求項1~5に記載された発明を実施することが不可能であり、実施可能要件に違反する。よって、請求項1~5に記載された発明は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たさないものであるから、請求項1乃至5に係る特許は、特許法113条第4号により取り消されるべきである。(8頁3ないし13行)
イ.当審の判断
発明の詳細な説明は、請求項に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていなければならない(実施可能要件)とされ、ここで物の発明について「実施できる」とは、その物を作れ、かつ、その物を使用できることである。したがって、発明の詳細な説明には、請求項に係る発明が、技術常識を踏まえたうえで、(a)「物の発明」について明確に説明されていること、(b)「その物を作れる」ように記載されていること、(c)「その物を使用できる」ように記載されていること、が必要とされる。
そこで、本件請求項1の「カーボン層を含む無機系導電層」との記載をみると、無機系導電層がカーボン層を含んでいるという構成自体は明確であり、例えば発明の詳細な説明(段落【0027】参照)に記載された「導電層がカーボン層以外にベース層を含む」態様により構成できることも明らかである。その製造も、発明の詳細な説明に記載されたカーボン層をベース層上に構成することも当業者が技術常識を踏まえて適宜製造可能な程度の事項であり、またその使用も適宜行える事項にすぎない。
したがって、請求項1及び請求項1を引用する請求項2ないし5に記載された「カーボン層を含む無機系導電層」との記載に関して、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないということはできない。
よって、本件発明1ないし5に関する明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合する。
(3)実施可能要件2(特許異議申立人中澤佳樹が主張する取消理由5)
ア.特許異議申立人の主張
特許異議申立人中澤佳樹は、特許異議申立書において、以下のように主張している。
請求項1~5に記載された発明は、当業者が実施しようとしても、請求項1~5に記載された発明の構成のみでは発明の作用効果が発揮されないので、当業者が再現不可能である。よって、請求項1~5に記載された発明は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たさないものであるから、請求項1乃至5に係る特許は、特許法113条第4号により取り消されるべきである。(8頁14ないし20行)
イ.当審の判断
上記「(2)イ.」に記載したように、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満足するには、請求項に係る発明について、(a)「物の発明」について明確に説明され、(b)「その物を作れる」ように記載され、(c)「その物を使用できる」ように記載されていれば足りる。
そうしてみると、上記「(2)」で検討した「カーボン層を含む無機系導電層」との記載も含めて請求項に係る発明の構成が発明の詳細な説明に照らして不明瞭ということはできず、その製造、使用も発明の詳細な説明を参照して当業者が適宜行うことのできる程度のものといえ、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。
よって、本件発明1ないし5に関する明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合する。
3.特許異議申立人齊藤祐の申立て理由
(1)甲2-1、甲2-2、甲2-3に基づく進歩性欠如(特許異議申立人齊藤祐が主張する理由1)
ア.甲2-1に記載された発明
甲2-1は取消理由通知で引用文献7とした理由であり、上記「第4 2.(3)ウ.」によれば、甲2-1には以下の発明(引用発明7)が記載されている。
「コンデンサ素子12と、当該コンデンサ素子12を駆動用電解液と共に封じた外装体15とからなるハイブリッド型電解コンデンサであって、
コンデンサ素子12は、その表面に誘電体層12eが形成された陽極箔12aと、陰極箔12bとを、セパレータ12cを介して巻回して形成され、
陰極箔12bの表面は、カーボン等の導電粒子付着等の表面処理が行われており、
陽極箔12aと陰極箔12bとの間には、導電性ポリマー微粒子からなる導電性ポリマー層16が形成されており、
駆動用電解液は、溶媒に溶質を溶解する形で構成され、
溶媒材料として、ポリエチレングリコールが使用され、
導電性ポリマーの微粒子を付着させるには、溶媒中に導電性ポリマー微粒子を分散させた分散体溶液を準備し、この分散体溶液をコンデンサ素子12に含浸し、コンデンサ素子12内の空隙部分に拡散させることにより行う、
ハイブリッド型電解コンデンサ。」(再掲)
イ.甲2-2に記載された技術事項
(ア)甲2-2の記載
甲2-2には以下の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】電解コンデンサは、小型でありながら大きな静電容量を有する点に特徴があり、低周波のフィルターやバイパス用に多用されている。電解コンデンサは、一般に陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回し、これをケースに収納して密封した構造を有する(図1及び図2参照)。陽極箔には誘電体層として絶縁性酸化皮膜を形成したアルミニウムやタンタル等の金属が使用され、陰極箔にはエッチング処理を施したアルミニウム箔が一般に使用されている。そして、陽極と陰極の間に介在するセパレータには両極の短絡を防ぐために電解液が含浸されており、真の陰極として機能している。このため、電解液は電解コンデンサの特性に大きな影響を与える重要な構成物である。」
「【0041】本発明の電解液において、電解液の溶媒に非水系溶媒を用いた場合、水分含量を制御することによって、このような電解液を用いたコンデンサのライフ特性がより安定する。一般に、非水系溶媒を用いた電解コンデンサの電解液中に多量の水分が含まれると、長期間使用している間に、陽極や陰極のアルミニウムが水和劣化を受け、同時にガスが発生することが知られている。一方、水分がまったくないと、陽極酸化皮膜を修復する際の化成性が劣る傾向があることも知られている。
【0042】しかし、従来の電解液及びコンデンサにおいては、これまで定格電圧35V以下の低い電圧領域で使用されていたことから、3重量%程度の水分が存在しても、コンデンサのライフ特性への影響が小さかった。しかし、本発明の電解液を用いたコンデンサは、定格電圧100Vクラスまでの高い電圧領域で使用可能であり、また高耐熱性の要求も満たすものであるため、これまでとは異なり、水分含量の影響が大きい。本発明の電解液は、非水系溶媒を使用した場合、電解液中の水分濃度が、1重量%以下であることが好ましく、上記の化成性をも考慮すれば、好ましくは0.01~1重量%であり、特に好ましくは0.01~0.1重量%である。」
(イ)上記(ア)の段落【0002】によれば、甲2-2は液体型の電解コンデンサを前提とするものといえる。そして、段落【0041】【0042】を参照すると、甲2-2には以下の技術事項(以下、「甲2-2記載技術」という。)が記載されていると認められる。
「液体型の電解コンデンサにおいて、定格電圧35V以下の使用では、電解液中の水分濃度が3重量%程度存在しても、コンデンサのライフ特性への影響が小さいが、定格電圧100Vクラスでは、1重量%以下であることが好ましく、好ましくは0.01~1重量%であり、特に好ましくは0.01~0.1重量%である。」
ウ.甲2-3に記載された技術事項
(ア)甲2-3の記載
甲2-3には以下の事項が記載されている。
「また、アルミニウム電解コンデンサは駆動用電解液として非水溶液を使用するが、その電解液の皮膜修復性(化成性)を調べる目的で、あるいは、非水溶液を化成用電解液として使用して緻密な誘電体皮膜を得る目的で、非水溶液中におけるアルミニウムのアノード酸化が研究された。」(781頁右欄3~8行)
「Table1に各成分の影響度を定性的に表示したが、皮膜の形態は陰イオンの種類によって決まり、Fig.2に示したように、水分量が少なくなるほどその差異が顕著になった。水分量が1%程度以上含むGBL系電解液中では水溶液系と同様にほぼ平坦なバリヤー型皮膜が生成するのに対し、0.01~0.1%の微量水分存在下では、酸化皮膜の形態はカルボン酸の重類によって大きく異なり、マレイン酸塩系では平坦なバリヤー型皮膜、フタル酸塩及び安息香酸塩系ではポーラス型皮膜が生成した。」(782頁右欄2~11行)
「1mol dm-3のフタル酸水素テトラメチルアンモニウム(TMAP)/GBL電解液を使用し、電解液中の水分を変化させたときの化成曲線をFig.3に示した。水分量が1%以下であると、水溶液系に比べて化成効率が劣り、特に0.01%では極端に悪くなった。」(782頁右欄下から1行~783ページ左欄4行)
(イ)上記の記載によれば、甲2-3には以下の技術事項(以下、「甲2-3記載技術」という。)が記載されていると認められる。
「駆動用電解液として非水溶液を使用するアルミニウム電解コンデンサの電解液の皮膜修復性に関し、水分量が1%程度以上含むGBL系電解液中ではほぼ平坦なバリヤー型皮膜が生成するのに対し、0.01~0.1%の微量水分存在下では、酸化皮膜の形態はカルボン酸の重類によって大きく異なり、マレイン酸塩系では平坦なバリヤー型皮膜、フタル酸塩及び安息香酸塩系ではポーラス型皮膜が生成し、1mol dm-3のフタル酸水素テトラメチルアンモニウム(TMAP)/GBL電解液では、水分量が1%以下であると、水溶液系に比べて化成効率が劣り、特に0.01%では極端に悪くなる。」
エ.対比・判断
本件発明1と引用発明7とを対比すると、上記「第4 3.(2)ア.(ケ)」で検討したとおり、相違点4ないし6で相違する。(相違点6のみ再掲する。)
(相違点6)
本件発明1では「前記電解液に含まれる水分量は、0.1~6.0質量%である」が、引用発明7では当該事項が明らかではない点。(再掲)
上記相違点6について検討する。
上記「イ.(イ)」「ウ.(イ)」に示したように、甲2-2、甲2-3には、電解コンデンサ中の水分量に関して「甲2-2記載技術」「甲2-3記載技術」とした技術が示唆がされている。
そこで、「甲2-2記載技術」「甲2-3記載技術」を引用発明7に適用することを検討する。
引用発明7はハイブリッド型の電解コンデンサであるのに対して、「甲2-2記載技術」「甲2-3記載技術」はいずれもハイブリッド型ではない液体型の電解コンデンサを前提とする技術である。そうしてみると、上記「第4 3.(1)ア.(ケ)」において検討したように、ハイブリット型の電解コンデンサと従来の液体型の電解コンデンサとでは、溶媒の役割や作用には差異があり、全く同様に扱うことはできないというべきであり、「甲2-2記載技術」「甲2-3記載技術」をそのまま電解コンデンサの種類が異なる引用発明7に適用することはできない。
また、仮に適用することができたとしても「甲2-2記載技術」「甲2-3記載技術」は水分量を0.1~6.0質量%とする旨示唆しているものではなく、水分量を0.1~6.0wt%とする動機付けはなく、当業者が容易に想到できたものということはできない。
したがって、本件発明1は他の相違点について検討するまでもなく、引用文献7に記載された発明及び甲2-2、甲2-3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
なお、特許異議申立て人齊藤祐は、令和5年7月24日提出の意見書において、
「・・・以上をまとめると、引用発明7のハイブリッド型電解コンデンサにおいて、誘電体層の欠陥部の修復を迅速に行うと共に陽極や陰極のアルミニウムの水和劣化によるコンデンサのライフ特性への影響を小さくするために、甲2-2及び甲2-3の記載を適用して、『電解液中の水含有量を電解液の約0.1~約3質量%の範囲、好ましくは約1~約3質量%の範囲』に設定することは、当業者にとって容易である。そして、上述した範囲は、引用発明7と訂正発明1の唯一の相違点である『電解液に含まれる水分量が0.1~6.0質量%の範囲』に包含される。」(19頁17ないし23行)
と主張している。
しかしながら、上述したように甲2-2、甲2-3に示唆された水分量をコンデンサの種類の異なる引用発明7にそのまま適用できるとまではいえない。また、0.1~6.0wt%とする動機付けもない。したがって、上記主張は採用できない。
オ.本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1の構成を全て有し、さらに限定したものであるから、本件発明2ないし5は、少なくとも上記相違点6で引用発明7と相違する。そして、相違点6については上記「エ.」で検討したとおりであるから、本件発明2ないし5は本件発明1と同様の理由により当業者が容易に発明できたものではない。
第6 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-701292