特許異議申立
2023-700855
固体電解コンデンサ
- 審判番号
- 2023-700855
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-572775
- 登録番号
- 7226593
- 請求日
- 2023年08月18日
- 審決日
- 2023年11月27日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本ケミコン株式会社
- 【権利者代理人】木内 光春
- 【権利者代理人】大熊 考一
- 【権利者代理人】片桐 貞典
- 【権利者代理人】木内 加奈子
- 【異議申立人】益川 教親
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 小池 秀介
- 審判官 篠原 功一
- 分類
- P1651.121-Y (H01G) / P1651.536-Y (H01G) / P1651.537-Y (H01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7226593号発明「固体電解コンデンサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7226593号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7226593号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、2021年1月20日(優先権主張2020年1月22日)を国際出願日とする出願であって、令和5年2月13日にその特許権の設定登録がされ、令和5年2月21日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年8月18日に特許異議申立人益川教親(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
特許第7226593号の請求項1ないし9の特許に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明9」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
陽極箔と陰極箔とを対向させて成るコンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子内に形成された電解質層と、
を備え、
前記電解質層は、
ドーパントと共役系高分子を含む固体電解質層と、
前記固体電解質層が形成された前記コンデンサ素子内の空隙部に充填された電解液と、
を有し、
前記電解質層は、前記ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対してモル比が0.4以上6以下の割合でカチオン成分を含み、
前記電解液は、スルホラン系の溶媒を含むこと、
を特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記電解質層は、アニオン成分として主鎖の炭素数が4以上の脂肪族カルボン酸を含むこと、
を特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記カチオン成分は、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対してモル比が3.5以下の割合で含まれること、
を特徴とする請求項2記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記脂肪族カルボン酸は、アゼライン酸であること、
を特徴とする請求項2記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記カチオン成分は、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対してモル比が1.4以下の割合で含まれること、
を特徴とする請求項4記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記アニオン成分は、前記カチオン成分と等モル量含まれること、
を特徴とする請求項2乃至5の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記電解液は、スルホラン系と共にエチレングリコールを含み、
前記スルホラン系と前記エチレングリコールの合計量に対する前記スルホラン系の混合比は、25wt%以上であること、
を特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項8】
前記スルホラン系は、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホランから選ばれる少なくとも1種であること、
を特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項9】
前記固体電解質層は、ソルビトールを含むこと、
を特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
」
第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として下記の甲第1号証、甲第2号証、及び甲第3号証を提出し、以下の申立理由1ないし5により、請求項1ないし9に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
1 申立理由1(進歩性)
本件発明1ないし9は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(進歩性)
本件発明1、3、5、8は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件請求項1ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1ないし9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
よって、本件請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
4 申立理由4(サポート要件)
本件発明1ないし9は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
よって、本件請求項1ないし9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
5 申立理由5(明確性)
本件発明1ないし9は、明確でない。
よって、本件請求項1ないし9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
[証拠方法]
甲第1号証:国際公開第2007/091656号
甲第2号証:特許第6740579号公報
甲第3号証:特許第6256970号公報
第4 甲各号証の記載
1.甲第1号証に記載された発明
甲第1号証(以下、「文献1」という。)には、次の記載がある。(下線は当審で付した。)
「【0158】
(実施例7)
(1)導電性高分子溶液の調製
・・・<略>・・・
得られた反応液を透析し、未反応モノマー、酸化剤を除去して、約1.5質量%の青色ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)溶液を得た。これを複合体溶液とした。
【0159】
複合体溶液10gに、4.00gのN-メチル-N-ビニル-アセトアミドを均一に分散させて導電性高分子溶液(1)を得た。
・・・<略>・・・
【0161】
(2)コンデンサの製造
エッチドアルミニウム箔(陽極箔)に陽極リード端子を接続した後、アジピン酸アンモニウム10質量%水溶液中で10Vの電圧を印加し、化成(酸化処理)して、アルミニウム箔表面に誘電体層を形成してコンデンサ中間体を得た。
次に、コンデンサ中間体の陽極箔に、陰極リード端子を溶接させた対向アルミニウム陰極箔を、セルロース製のセパレータを介して積層し、これを巻き取ってコンデンサ素子とした。
このコンデンサ素子を導電性高分子溶液(1)に浸漬した後、120℃の熱風乾燥機で乾燥して、コンデンサ中間体の誘電体層側表面に固体電解質層を形成させた。
次いで、アルミニウム製のケースに、固体電解質層が形成されたコンデンサ素子と、電解液であるアジピン酸水素アンモニウム20質量%-エチレングリコール80質量%溶液とを充填し、封口ゴムで封止して、コンデンサを作製した。」
上記記載から、文献1には、次の発明が記載されていると認められる。
「陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して積層し巻き取ったコンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子に形成されたポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む固体電解質層と、
アルミニウム製のケースに、前記固体電解質層が形成されたコンデンサ素子とともに充填されたアジピン酸水素アンモニウム20質量%-エチレングリコール80質量%溶液からなる電解液と
を含む固体電解コンデンサ。」
2.甲第2号証に記載された発明
甲第2号証(以下、「文献2」という。)には、次の記載がある。(下線は当審で付した。)
「【0027】
さらに、イオン伝導性物質のエチレングリコール溶媒に、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホランから選ばれる少なくとも1種の溶媒を追加的に用いてもよい。これらスルホラン系の溶媒は高沸点であるため、電解液の揮発を抑制し、高温特性が良好になる。混合溶媒中のこれらスルホラン系の溶媒の添加量は、好ましくは、40wt%以下である。」
「【0048】
<実施例1の固体電解コンデンサの作製>
表面に誘電体皮膜層が形成された陽極箔と、陰極箔と、に電極引き出し手段であるリード線を接続し、両電極箔をマニラ系セパレータを介して巻回し、素子形状が直径8mm×高さ10mmのコンデンサ素子を形成した。そして、このコンデンサ素子をリン酸二水素アンモニウム水溶液に40分間浸漬して、修復化成を行った。
【0049】
その後、PEDOTの粒子と、ポリスチレンスルホン酸と、を水溶液に分散した導電性高分子分散体を作製した。コンデンサ素子を導電性高分子分散体に浸漬し、コンデンサ素子を引き上げて150℃で30分間乾燥した。コンデンサ素子は、導電性高分子分散体への浸漬および乾燥が複数回繰り返され、コンデンサ素子に導電性高分子からなる固体電解質層を形成した。
【0050】
次に、エチレングリコールに対して、アゼライン酸アンモニウム塩を添加して電解液を作製した。アゼライン酸アンモニウム塩の添加量の内訳は、溶媒に対しアゼライン酸を0.09mol/kg、アンモニウムイオンを0.09mol/kgであった。また、添加剤として、電解液中にリン酸エステルおよびp-ニトロ安息香酸を合計2wt%添加した。コンデンサ素子を作製した電解液に浸漬した後、有底筒状の外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着して、加締め加工によって封止した。その後、電圧印加によってエージングを行い、固体電解コンデンサを形成した。・・・」
上記記載から、文献2には、次の発明が記載されていると認められる。
「陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子に形成されたPEDOTの粒子とポリスチレンスルホン酸を含む固体電解質層とを備え、
エチレングリコール溶媒に対して、アゼライン酸アンモニウム塩、リン酸エステル、p-ニトロ安息香酸を添加した電解液に、前記コンデンサ素子を浸漬してなる固体電解コンデンサにおいて、
エチレングリコール溶媒に、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホランから選ばれる少なくとも1種の溶媒を追加的に用いる技術。」
3.甲第3号証に記載された発明
甲第3号証(以下、「文献3」という。)には、次の記載がある。(下線は当審で付した。)
「【0108】
調製例1
撹拌装置付き1Lビーカー内に入れたエチレングリコール500gに15gのニトロベンゼンカルボン酸と35gのヒドロキシベンセンカルボン酸メチルエステルと3gのジエチルアミンと3gの3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランとを添加した後、24時間撹拌することによって導電性補助液を調製した。」
「【0135】
調製例10
エチレングリコールに代えて、スルホランを用いた以外は、すべて調製例1と同様の操作を行って導電性補助液を調製した。」
「【0155】
導電性高分子の分散液の調製例(I)
テイカ社製ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量100、000)の3%水溶液600gを内容積1Lのステンレス鋼製容器に入れ、硫酸第一鉄・7水和物0.3gを添加し、その中に3,4-エチレンジオキシチオフェン4mLをゆっくり滴下した。
【0156】
それらをステンレス鋼製の攪拌翼で攪拌し、容器に陽極を取り付け、攪拌翼の付け根に陰極を取り付け、1mA/cm2の定電流で18時間電解酸化重合を行った。上記電解酸化重合後、水で6倍に希釈した後、超音波ホモジナイザー〔日本精機社製、US-T300(商品名)〕で2時間分散処理を行った。その後、オルガノ社製のカチオン交換樹脂アンバーライト120B(商品名)を100g添加し、1時間攪拌機で攪拌した。次いで、東洋濾紙社製の濾紙No.131で濾過し、このカチオン交換樹脂による処理と濾過を3回繰り返して、液中の鉄イオンなどのカチオン成分をすべて除去した。
【0157】
上記処理後の液を孔径が1μmのフィルターに通し、その通過液を限外濾過装置〔ザルトリウス社製Vivaflow200(商品名)、分子量分画5万〕で処理して、液中の遊離の低分子成分を除去した。この処理後の液を水で希釈して濃度を2%に調整した後、28%アンモニア水溶液でpHを3に調整した。そして、その溶液40gに対し、エチレングリコール4gを添加し、導電性高分子の分散液(I)を得た。」
「【0163】
実施例1
アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理を行ってアルミニウムの酸化被膜からなる誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、また、アルミニウム箔からなる陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を作製した。・・・
【0164】
上記コンデンサ素子を前記調製例(I)で調製した導電性高分子の分散液(I)に浸漬し、5分後に取り出し、150℃で30分間乾燥した。この操作を2回行って、コンデンサ素子の誘電体層上に導電性高分子を設けた。
【0165】
次に、上記のように導電性高分子を設けたコンデンサ素子を前記調製例1で調製した導電性補助液に浸漬し、コンデンサ素子に導電性補助液を含浸させ、5分後に取り出し、これを外装材で外装して、巻回型アルミニウム電解コンデンサを製造した。
【0166】
実施例2~14および比較例1~3
調製例1で調製した導電性補助液に代えて、調製例2~14で調製した導電性補助液および調製例15~17で調製した電解液をそれぞれ別々に用いた以外は、すべて実施例1と同様の操作を行って、巻回型アルミニウム電解コンデンサを製造した。」
上記記載によれば、「導電性高分子の分散液(I)」における導電性高分子は、ポリスチレンスルホン酸水溶液に硫酸第一鉄・7水和物を添加し、その中に3,4-エチレンジオキシチオフェンをゆっくり滴下し、電解酸化重合することで作製されており、さらに、コンデンサ素子を当該「導電性高分子の分散液(I)」に浸漬し、コンデンサ素子の誘電体層上に当該導電性高分子を設けているので、誘電体層上に、ポリスチレンスルホン酸水溶液中で3,4-エチレンジオキシチオフェンを電解酸化重合した導電性高分子を含む固体電解質層が形成されていると認められる。
したがって、文献3には、次の発明が記載されていると認められる。
「陽極と陰極とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子の誘電体層上に設けられた、ポリスチレンスルホン酸水溶液中で3,4-エチレンジオキシチオフェンを電解酸化重合した導電性高分子とを備え、
スルホランにニトロベンゼンカルボン酸とヒドロキシベンセンカルボン酸メチルエステルとジエチルアミンと3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを添加した導電性補助液に、前記導電性高分子層を設けたコンデンサ素子を浸漬してなる固体電解コンデンサ。」
第5 当審の判断
1 申立理由1(進歩性)について
(1)本件発明1について
本件発明1と文献1に記載された発明とを対比すると、
文献1に記載された発明の「陽極箔」及び「陰極箔」は、それぞれ、本件発明1の「陽極箔」及び「陰極箔」に相当し、
文献1に記載された発明の「コンデンサ素子」は、本件発明1の「コンデンサ素子」に相当し、
文献1に記載された発明の「ポリスチレンスルホン酸」は、本件発明1の「ドーパント」に相当し、
文献1に記載された発明の「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)」は、本件発明1の「共役系高分子」に相当し、
文献1に記載された発明の「固体電解質層」は、本件発明1の「固体電解質層」に相当し、
文献1に記載された発明の「電解液」は、コンデンサ素子内部にも浸透していることから、本件発明1の「コンデンサ素子内の空隙部に充填された電解液」に相当し、
文献1に記載された発明の「固体電解質層」及び「電解液」は、いずれもコンデンサ素子内にあるといえるから、本件発明1の「コンデンサ素子内に形成された電解質層」に相当する。
ここで、文献1には、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対するカチオン成分のモル比が明記されていない。
特に、文献1には、ドーパントである「ポリスチレンスルホン酸」のスルホン化度が記載されておらず、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基(スルホン酸基)の総量を算出することができない。
また、文献1には、固体電解質層が形成されたコンデンサ素子に充填された電解液の総量が記載されておらず、カチオン成分の総量を算出することができない。
したがって、文献1の実施例に記載された作製条件から、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対するカチオン成分のモル比を合理的に推認することができない。
したがって、本件発明1と文献1に記載された発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
陽極箔と陰極箔とを対向させて成るコンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子内に形成された電解質層と、
を備え、
前記電解質層は、
ドーパントと共役系高分子を含む固体電解質層と、
前記固体電解質層が形成された前記コンデンサ素子内の空隙部に充填された電解液と、
を有する固体電解コンデンサ。
【相違点1】
本件発明1では「電解質層は、前記ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対してモル比が0.4以上6以下の割合でカチオン成分を含」むことを特定するのに対し、文献1に記載された発明ではそのような特定を有していない点
【相違点2】
本件発明1の「電解液は、スルホラン系の溶媒を含む」のに対し、文献1に記載された発明の電解液はスルホラン系の溶媒を含んでいない点
上記相違点1について検討する。
上述したように、文献1には、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対するカチオン成分のモル比が明記されておらず、文献1の実施例に記載された作製条件から当該モル比を合理的に推認することはできない。
また、文献1に記載された発明の「電解液」として、文献2に記載された発明の「電解液」を採用したとしても、上記のとおり、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基(スルホン酸基)の総量及び固体電解質層が形成されたコンデンサ素子に充填された電解液の総量が特定できない以上、文献2に記載された発明の「電解液」の組成に依らず、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対するカチオン成分のモル比を合理的に推認することはできない。
よって、他の相違点(上記相違点2)を検討するまでもなく、本件発明1は、文献1及び文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基(スルホン酸基)の総量を算出するための前提条件として、「スチレン単位1個に1つのスルホン基が導入されている(PSSのスルホン化度が100%)と仮定」しているが(特許異議申立書の第34頁参照)、文献1の実施例(実施例17、19、29、比較例16、17)で使用されている「ポリスチレンスルホン酸」のスルホン化度が100%であることの根拠が示されていないから、かかる主張を採用することはできない。
また、特許異議申立人は、固体電解質層が形成されたコンデンサ素子に充填された電解液の総量に関して、「下記表Aは、固体電解質層と電解液(液体)が同量で電解コンデンサに含まれていると仮定したときの計算結果であり、下記表Bは、固体電解質層の1/2倍の量の電解液(液体)が電解コンデンサに含まれていると仮定したときの計算結果であり、表Cは、固体電解質層の2倍の量の電解液(液体)が電解コンデンサに含まれていると仮定したときの計算結果である(以上の仮定は、当業者の経験上、妥当な仮定であると考える)。」としているが(特許異議申立書の第40頁参照)、文献1には、固体電解質層が形成されたコンデンサ素子に充填された電解液の総量が、固体電解質層の1/2~2倍の範囲にあることの根拠が示されていないから、かかる主張を採用することもできない。
(3)本件発明2ないし9について
請求項2ないし9は請求項1を直接的または間接的に引用するものであり、本件発明2ないし9は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記(1)に示した本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし9は、上記文献1及び文献2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし9は、文献1及び文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 申立理由2(進歩性)について
(1)本件発明1について
本件発明1と文献1に記載された発明との一致点及び相違点は、前記1(1)に記載したとおりである。
また、上述したように、文献1には、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対するカチオン成分のモル比が明記されておらず、文献1の実施例に記載された作製条件から当該モル比を合理的に推認することはできない。
また、文献1に記載された発明の「電解液」として、文献3に記載された発明の「電解液」を採用したとしても、上記のとおり、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基(スルホン酸基)の総量及び固体電解質層が形成されたコンデンサ素子に充填された電解液の総量が特定できない以上、文献3に記載された発明の「電解液」の組成に依らず、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対するカチオン成分のモル比を合理的に推認することはできない。
よって、他の相違点(上記相違点2)を検討するまでもなく、本件発明1は、文献1及び文献3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)特許異議申立人の主張について
申立理由2についての特許異議申立人の主張とそれに対する当審の判断は、前記1(2)に記載したとおりである。
(3)本件発明3、5、8について
請求項3、5、8は請求項1を直接的または間接的に引用するものであり、本件発明3、5、8は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記(1)に示した本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明3、5、8は、文献1及び文献3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1、3、5、8は、文献1及び文献3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 申立理由3(実施可能要件)について
特許異議申立人は、「本件特許明細書には、対象となる『ドーパントと共役系高分子を含む固体電解質層』に含まれるドーパントのドープ反応に寄与できる官能基を如何にして定量するのかが理解できるように記載されておらず、当業者が請求項に係る発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明に必要な事項が明確かつ十分に記載されているとはいえず、本件発明は実施可能要件を満たさない。」と主張している。
しかし、ドーパントである「ポリスチレンスルホン酸」のスルホン化度は、例えば、特開2000-180355号公報の【従来の技術】に記載されている元素分析法やNMR、同公報が開示する「標準試料の吸光度と対象試料の吸光度とを比較して対象試料のスルホン化度を定量する方法」等が知られており、これら既知の方法により「電解質層におけるドーパントのドープ反応に寄与できる官能基」の量を定量することができる。
そして、固体電解コンデンサの固体電解質層の重量は、固体電解質層形成前後の重量差から算出でき、固体電解質層に占めるドーパントの重量は、ドーパントと共役系高分子との配合割合から算出できることは、当業者の技術常識である。
したがって、本件特許明細書に当該定量方法が記載されていなかったとしても、既知の各種手段から定量可能であるため、特許異議申立人の実施可能要件についての上記主張は採用できず、本件発明1ないし9について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たさないとまではいえない。
4 申立理由4(サポート要件)について
特許異議申立人は、「固体電解コンデンサのESR、静電容量、腐食反応等には、ドープ官能基1molに対するカチオン成分のモル比だけでなく、固体電解質層に含まれるドーパントのスルホン化度、ドーパントと共役系高分子の質量割合、固体電解質層に含まれるカチオン成分の濃度、コンデンサ素子内の空隙部に充填された液体に含まれるカチオン成分の濃度、固体電解コンデンサに収容される液体の量などが関係すると考えることが常識的である」とした上で、「固体電解質層に含まれるドーパントのスルホン化度、ドーパントと共役系高分子の質量割合、固体電解質層に含まれるカチオン成分の濃度、コンデンサ素子内の空隙部に充填された液体に含まれるカチオン成分の濃度、固体電解コンデンサに収容される液体の量などに関係なく、『(C1)前記ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対してモル比が0.4以上6以下の割合でカチオン成分を含』むことにより、常に、『熱ストレス負荷後のESR、並びに高温環境下及び低温環境下における静電容量を加味しつつ、塩素イオンの混入によっても腐食反応を抑制することができる固体電解コンデンサ』を提供することが可能であることを当業者が認識できるように記載されているとはいえない。」と主張している。
たしかに、固体電解コンデンサのESR、静電容量、腐食反応は、上記各種要因に影響されるものである。
しかし、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対するカチオン成分のモル比が熱ストレス負荷後のESRの上昇、低温環境下における静電容量、塩素イオンによる腐食に強く影響していることは、本件特許明細書の実施例及び比較例(特に、表2)から明らかであり、本件発明1ないし9の課題解決手段は、本件特許明細書において当業者が認識できるように記載されている。
また、本件発明1ないし9は、ESRの絶対値、静電容量の絶対値、腐食反応全般ではなく、熱ストレス負荷後のESR、低温環境下における静電容量、塩素イオンによる腐食に着目し、熱ストレス負荷後のESRの上昇、低温環境下における静電容量の低下、塩素イオンによる腐食を抑制できる条件を見い出した発明であるから、ESRの絶対値、静電容量の絶対値、腐食反応全般に影響する上記要因の全てを特許請求の範囲に特定していないからといって、熱ストレス負荷後のESRの上昇、低温環境下における静電容量の低下、塩素イオンによる腐食を抑制するための課題解決手段が特定されていないとまではいえない。
よって、特許異議申立人のサポート要件についての上記主張は採用できず、本件発明1ないし9が発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。
5 申立理由5(明確性)について
(1)本件発明1について
本件発明1ないし9は、「コンデンサ素子」、「電解質層」、「固体電解質層」、「電解液」の構造、材料を特定した上で、「電解質層」における「カチオン成分」の割合を、ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対するモル比を用いて特定した発明である。
すなわち、本件発明1は、
「コンデンサ素子」の構造として、「陽極箔と陰極箔とを対向させて成る」ことを特定し、
「電解質層」の構造として、「コンデンサ素子内に形成され」ることを特定し、
「固体電解質層」の材料として、「ドーパントと共役系高分子を含む」ことを特定し、
「電解液」の構造として、「固体電解質層が形成された前記コンデンサ素子内の空隙部に充填され」ることを特定し、
「電解液」の材料として、「スルホラン系の溶媒を含む」ことを特定した上で、
「電解質層」における「カチオン成分」の割合が「ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基1molに対してモル比が0.4以上6以下の割合」であることを特定している。
ここで、本件発明1が特定する上記「コンデンサ素子」、「電解質層」、「固体電解質層」、「電解液」の構造、材料は、本件特許明細書の段落【0022】~【0045】に具体例とともに詳述されており、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとは認められない。
また、本件発明1が特定する「カチオン成分」、「ドーパントのドープ反応に寄与できる官能基」については、本件特許明細書の段落【0046】~【0047】において、
「電解質層に含まれるカチオン成分とは、電解液由来、固体電解質層由来を問わず、電解質層内に含まれるカチオン成分の総量である。」(段落【0047】参照)
「ドープ能官能基とは、ドーパントが有する官能基のうち、ドープ反応に関与している官能基ではなく、ドープ反応に寄与することが可能な官能基である。」(段落【0046】参照)、
と定義した上で、その具体例も示されている。
したがって、本件発明1は、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとは認められない。
(2)本件発明2ないし9について
本件発明2ないし9は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、「電解質層」、「固体電解質層」、「電解液」の材料、「電解質層」における「アニオン成分」、「カチオン成分」の割合を特定したものである。
そして、これら発明特定事項についても、本件特許明細書の段落【0029】~【0047】に具体例とともに詳述されている。
したがって、本件発明2ないし9は、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとは認められない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし9は、明確でないとまではいえない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-700855