特許異議申立
2022-700704
陰極体及び電解コンデンサ
- 審判番号
- 2022-700704
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-165933
- 登録番号
- 7010350
- 請求日
- 2022年07月22日
- 審決日
- 2023年09月28日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本ケミコン株式会社
- 【権利者代理人】木内 光春
- 【権利者代理人】大熊 考一
- 【権利者代理人】片桐 貞典
- 【権利者代理人】木内 加奈子
- 【異議申立人】益川 教親
- 審判長/審判官
- 審判長 篠原 功一
- 審判官 畑中 博幸
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P1651.113-YAA(H01G) / P1651.121-YAA(H01G) / P1651.536-YAA(H01G) / P1651.537-YAA(H01G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7010350号発明「陰極体及び電解コンデンサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7010350号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
特許第7010350号の請求項2、3、6ないし8に係る特許を維持する。
特許第7010350号の請求項1、4、5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7010350号の請求項1ないし8に係る発明についての出願は、令和2年9月30日に出願され、令和4年1月17日にその特許権の設定登録がされ、同年1月26日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 4年 7月22日 :特許異議申立人益川 教親により請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 4年11月10日付け:取消理由通知
令和 5年 1月13日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 5年 2月28日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和 5年 3月31日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 5年 6月 2日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 5年 7月 6日 :特許異議申立人による意見書の提出
なお、令和5年6月2日に訂正の請求がなされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、令和5年1月13日にされた訂正の請求は取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年6月2日付けの訂正請求の趣旨は、特許第7010350号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし8に訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に「弁作用金属の陰極箔と、」とあるのを、「アルミニウムからなる陰極箔と、」に訂正し、「前記弁作用金属と同種で純度99.99%以上の対照陰極箔」とあるのを、「純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔」に訂正する。(請求項2の記載を直接的または間接的に引用する請求項3、6ないし8も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、」とあるのを、「エチレングリコールにアゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有の電解液に浸漬し、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、」に訂正する。(請求項2の記載を直接的または間接的に引用する請求項3、6ないし8も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、」を追加する訂正をする。(請求項2の記載を直接的または間接的に引用する請求項3、6ないし8も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応すること、」を追加する訂正をする。(請求項2の記載を直接的または間接的に引用する請求項3、6ないし8も同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1を削除し、請求項1の記載を引用する請求項3、6及び7は、それぞれ引用請求項の番号のうち、請求項1の番号を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4を削除し、請求項4の記載を引用する請求項6及び7は、それぞれ引用請求項の番号のうち、請求項4の番号を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5を削除し、請求項5の記載を引用する請求項6及び7は、それぞれ引用請求項の番号のうち、請求項5の番号を削除する。
2 訂正要件についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1、3ないし8は、請求項3ないし8が訂正請求の対象である請求項1を直接的または間接的に引用しているから、請求項1、3ないし8は、一群の請求項である。
また、訂正前の請求項2ないし8は、請求項3ないし8が訂正請求の対象である請求項2を直接的または間接的に引用しているから、請求項2ないし8は、一群の請求項である。
そして、これら一群の請求項は、共通する請求項3ないし8を有するから、請求項1ないし8は一群の請求項であり、それに対応する訂正後の請求項1ないし8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
について
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項2に記載されていた「陰極箔」および「対照陰極箔」の「弁作用金属」を「アルミニウム」に限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
(イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件特許明細書の段落【0021】には「陰極体は、弁作用金属を材料とする陰極箔を備える。・・・。弁作用金属は、アルミニウム、・・・等である。」と、同段落【0029】に「この対照陰極箔は、陰極体の陰極箔と同種の弁作用金属により成る箔であり」と、同段落【0053】に「実施例1乃至6の陰極体が備える陰極箔及び比較例1の対照陰極箔は、同形同大のアルミニウム箔である。」とそれぞれ記載され、訂正前の請求項5に「前記弁作用金属はアルミニウムである」と記載されている。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載されていた「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流」れる場合に、「電気化学的分極」のための条件として「エチレングリコールにアゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有の電解液に浸漬」することを限定するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
(イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
ア 本件特許明細書の段落【0058】の「このような実施例1乃至6の陰極体及び比較例1の対照陰極箔を用いて電解コンデンサを作製した。・・・。陰極体と陽極体との間にクラフト製のセパレータが挟み込まれ、陽極体とセパレータと陰極体の積層体を巻回した。巻回体に電解液を含浸させてコンデンサ素子を完成させた。電解液は、エチレングリコールにアゼライン酸を添加して作製された。電解液は、二種類とし、一方の電解液にはニトロ化合物としてパラニトロベンジルアルコールを2wt%の割合で添加した。」との記載からすれば、電解コンデンサの「電解液」として、エチレングリコールにアゼライン酸を添加して作製し、ニトロ化合物が添加されていない電解液を用いることが記載されている。
そして、本件特許明細書の段落【0003】、【0008】によれば、本件特許発明は、電解液が、漏れ電流によって、陽極箔に形成された誘電体酸化皮膜の劣化や損傷等の劣化部を修復する際に、陰極側では水素ガスが発生するため、当該水素ガスの発生を抑制する陰極体及びこの陰極体を備える電解コンデンサを提供するという課題を解決するために成されたものであるから、電解コンデンサの漏れ電流範囲に対応する電位が、対照陰極箔の自然浸漬電位を上回るように陰極箔に形成する導電層を調整する場合(段落【0030】、【0055】を参照)、該電位を確認するための分極曲線を測定する際の電解液は、電解コンデンサを構成する電解液と同じ組成のものを使用することは当然想定されることである。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項2の「電解コンデンサの陰極体」について、「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きく第2電位範囲とを有」するとの限定を付加するものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
(イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件特許明細書の段落【0031】に「一方、この陰極体は、漏れ電流の電流密度の範囲において、対照陰極箔よりも貴側の自然浸漬電位を有する。即ち、この陰極体は、漏れ電流の電流密度の範囲において、水素イオンを還元するカソード反応が優位的に生じる電位よりも貴側にある。」、同段落【0032】に「即ち、電解コンデンサに漏れ電流が生じているとき、陰極体の電位は、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電位よりも貴側にあり、次の化学反応式(4)に示すような、溶存酸素を還元するカソード反応が優位的に生じる電位範囲にある。」、同段落【0038】に「分極曲線は、溶存酸素を還元するカソード反応がより優位的に生じ、水素イオンを還元するカソード反応が弱い電位範囲と、電解コンデンサの漏れ電流が生じる電流範囲とで画成される領域を通る。」との各記載によれば、「陰極体」の「分極曲線」において、水素イオンを還元するカソード反応よりも溶存酸素を還元するカソード反応が優位的に生じる電位範囲と溶存酸素を還元するカソード反応よりも水素イオンを還元するカソード反応が優位的に生じる電位範囲が存在するといえる。
そして、段落【0013】及び訂正前の請求項4には「分極曲線において、・・・電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる電位範囲」とそれぞれ記載されているところ、技術常識を踏まえれば、上記水素イオンを還元するカソード反応よりも溶存酸素を還元するカソード反応が優位的に生じる電位範囲が「電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる電位範囲」に対応することは明らかである。
してみると、本件特許明細書には、「分極曲線」が「電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる」「電位範囲」と「水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる」「電位範囲」とを有することが記載されているといえる。
よって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項4について
(ア)訂正の目的
訂正事項4は、訂正前の請求項2の「電解コンデンサの陰極体」について、「前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応すること」との限定を付加するものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
(イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件特許明細書の段落【0013】及び訂正前の請求項4には「分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる電位範囲とが対応すること」とそれぞれ記載されている。
よって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
オ 訂正事項5について
(ア)訂正の目的
訂正事項5は、訂正前の請求項1を削除するものである。
また、訂正事項5は、訂正前の請求項1を削除することに伴い、訂正前の請求項3が引用する請求項1、2のうち請求項1を削除し、訂正前の請求項6が引用する請求項1ないし5のうち請求項1を削除し、さらに、訂正前の請求項7が引用する請求項1ないし6のうち請求項1を削除して、削除された請求項を引用するという不明瞭な状態を正すものである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
(イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
上記(ア)で述べたように、訂正事項5は、請求項を削除し、削除された請求項を引用するという不明瞭な状態を正すものであるから、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり 、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
カ 訂正事項6について
(ア)訂正の目的
訂正事項6は、訂正前の請求項4を削除するものである。
また、訂正事項6は、訂正前の請求項4を削除することに伴い、訂正前の請求項6が引用する請求項1ないし5のうち請求項4を削除し、訂正前の請求項7が引用する請求項1ないし6のうち請求項4を削除して、削除された請求項を引用するという不明瞭な状態を正すものである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
(イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
上記(ア)で述べたように、訂正事項6は、請求項を削除し、削除された請求項を引用するという不明瞭な状態を正すものであるから、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
キ 訂正事項7について
(ア)訂正の目的
訂正事項7は、訂正前の請求項5を削除するものである。
また、訂正事項7は、訂正前の請求項5を削除することに伴い、訂正前の請求項6が引用する請求項1ないし5のうち請求項5を削除し、訂正前の請求項7が引用する請求項1ないし6のうち請求項5を削除して、削除された請求項を引用するという不明瞭な状態を正すものである。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
(イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
上記(ア)で述べたように、訂正事項7は、請求項を削除し、削除された請求項を引用するという不明瞭な状態を正すものであるから、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)独立特許要件について
訂正事項1ないし7は、上記アないしキに示したとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするところ、本件においては、訂正前の請求項1ないし8について特許異議の申立てがされているから、対応する訂正後の請求項1ないし8に係る発明について、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
以上とおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記「第2」のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は、その訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるものである。なお、下線は、訂正箇所を示す。
「【請求項1】 (削除)
【請求項2】
電解コンデンサの陰極体であって、
アルミニウムからなる陰極箔と、
当該陰極箔の表面に形成され、炭素材料を含む導電層と、
を備え、
エチレングリコールにアゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有の電解液に浸漬し、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、
電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であり、
電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、
前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応すること、
を特徴とする陰極体。
【請求項3】
電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲は、0.1μAcm-2以上0.3μAcm-2以下であること、
を特徴とする請求項2記載の陰極体。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記陰極箔は自然酸化皮膜が形成されていること、
を特徴とする請求項2又は3の何れかに記載の陰極体。
【請求項7】
請求項2、3、6の何れかに記載の陰極体を備える電解コンデンサ。
【請求項8】
誘電体酸化皮膜が形成された陽極体と前記陰極体とを含むコンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子内に充填された電解質及びニトロ化合物と、
を備えること、
を特徴とする請求項7記載の電解コンデンサ。」
第4 取消理由通知(決定の予告)等に記載した取消理由について
1 令和5年3月31日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(理由5(明確性)、理由6(サポート要件)、理由7(引用文献3に基づく進歩性)、理由1(引用文献4に基づく新規性))、及び、令和4年11月10日付け取消理由通知に記載したその他の取消理由(理由1(引用文献1ないし3に基づく新規性)、理由2(引用文献1及び3、引用文献2及び3,引用文献4及び3に基づく進歩性)、理由3(サポート要件)、理由4(明確性))の概要は次のとおりである。
(1)令和5年3月31日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由
ア 理由5(明確性)
本請求項2、3、6ないし8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
記
本件発明2の「分極曲線」は「前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる第2電位範囲とを有」するところ、「第2電位範囲」は、単に「水素イオンを還元するカソード反応が生じる」電位範囲であって、「溶存酸素を還元するカソード反応」について何等規定されていないから、「溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲」の一部を重複する電位範囲も含むといえる。
ここで、本件特許明細書の段落【0031】、同段落【0032】の記載から、本件特許明細書に記載された分極曲線は、「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電位よりも貴側にあり、溶存酸素を還元するカソード反応が優位的に生じる電位範囲」と、「水素イオンを還元するカソード反応が優位的に生じる電位」範囲を有するといえる。
してみると、本件発明2の「第1電位範囲」の一部を重複する電位範囲も含む「第2電位範囲」と、本件特許明細書に記載された分極曲線が有する「水素イオンを還元するカソード反応が優位的に生じる電位」範囲とは整合しないことから、本件発明2の「第2電位範囲」とは、どの様な電位範囲であるのか当業者は理解できない。
イ 理由6(サポート要件)
請求項8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
記
本件発明2の「陰極体」は、「ニトロ化合物が非含有の電解液に浸漬し、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であ」るという特性を有するものであるところ、本件発明8は、請求項2に記載された「陰極体」を含むコンデンサ素子内にニトロ化合物を充填するものである。
してみると、本件発明8は、「ニトロ化合物が非含有の電解液に浸漬し」て得られた該特性を有する「陰極体」を含むコンデンサ素子内に「ニトロ化合物」を充填するものであって、電解液の組成によって陰極体の自然浸漬電位や分極曲線が異なることは明らかであるから、本件発明8が水素ガスをより抑制するという課題(本件特許明細書の段落【0008】を参照)を解決できることを当業者は認識できない。
ウ 理由7(進歩性)
請求項2、3、6、7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記引用文献3に記載された発明に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2、3、6、7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
引用文献3:再公表特許第2017/090241号(甲第3号証)
エ 理由1(引用文献4に基づく新規性)
請求項2、3、6、7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記引用文献4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項2、3、6、7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
記
引用文献4:特開2019-179884号公報(甲第4号証)
(2)令和4年11月10日付け取消理由通知に記載したその他の取消理由
ア 理由1(引用文献1ないし3に基づく新規性)、及び、理由2(引用文献1及び3、引用文献2及び3、引用文献4及び3に基づく進歩性)
理由1 請求項1ないし7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記引用文献1ないし3に記載された発明であり、請求項8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記引用文献3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
理由2 請求項8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された技術に基づいて、引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された技術に基づいて、引用文献4に記載された発明及び引用文献3に記載された技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
引用文献1:再公表特許第2016/174806号(甲第1号証)
引用文献2:再公表特許第2016/174807号(甲第2号証)
引用文献3:再公表特許第2017/090241号(甲第3号証)
引用文献4:特開2019-179884号公報(甲第4号証)
イ 理由3(サポート要件)
請求項1ないし8に係る特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
記
(ア)本件発明1では、「陰極箔」について「弁作用金属」と規定しているに過ぎず、具体的な材料について規定されていない。
そして、本件特許明細書の段落【0051】乃至【0066】、表1、表2、図1ないし図24によれば、「アルミニウム箔」を用いた陰極箔に異なる種類の導電層を形成した実施例1ないし6、比較例1を作製し、自然浸漬電位及び分極曲線を測定したことが記載され、同段落【0063】、【0064】には、ニトロ化合物が非含有の電解液を用いた場合、漏れ電流の範囲に対応する電位が対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側に、ニトロ化合物が含まれる電解液を用いた場合、漏れ電流の範囲に対応する電位が対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.15V以上貴側に、それぞれ確保されている実施例1、5及び6の陰極箔を備えた電解コンデンサは、水素ガスの高い抑制効果が生じていることが示されている。
しかしながら、本件特許明細書には、「アルミニウム箔」以外の弁作用金属を用いた陰極箔の具体的な例は記載されておらず、弁作用金属の種類、電解液の組成、ニトロ化合物の有無等に応じて陰極体の自然浸漬電位や分極曲線も異なることは明らかである。
してみると、いかなる弁作用金属であっても、漏れ電流の範囲に対応する電位を対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上又は0.15V以上貴側にすることで、水素ガスをより抑制するという課題(本件特許明細書段落【0008】を参照)を解決できるとまでは認識することはできない。
また、請求項2ないし8に係る発明も同様である。
(イ)「電解液」について
本件発明1では、「電解液」の組成について何等規定されていない。
ここで、本件特許明細書の段落【0055】には、自然浸漬電位及び分極曲線を得るために、実施例1ないし6、比較例1の陰極体を「溶存酸素濃度を0.4~1.0mgL -1の範囲に調整」された電解液に浸漬させることが記載されているものの、該電解液がどのような組成からなるのか明確に記載されておらず、また、電解液の組成によって、陰極体の自然浸漬電位や分極曲線が異なることは明らかである。
してみると、いかなる電解液であっても、漏れ電流の範囲に対応する電位を対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上又は0.15V以上貴側にすることで、水素ガスをより抑制するという課題(本件特許明細書段落【0008】を参照)を解決できるとまでは認識することはできない。
また、請求項2ないし8に係る発明も同様である。
ウ 理由4(明確性)
請求項1ないし8に係る特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
記
本件発明1に「電解液がニトロ化合物を含む場合」、本件発明2に「電解液がニトロ化合物を含まない場合」とそれぞれ記載されている。
ここで、本件発明1、2は「電解コンデンサの陰極体」であるところ、上記イでも述べたように、本件特許明細書には、実施例1~6、比較例1の自然浸漬電位及び分極曲線を得るための「電解液」がどのような組成からなるのか明確に記載されておらず、また、当該「電解液」が、本件特許明細書の段落【0058】に記載された実施例1ないし6、比較例1を用いた電解コンデンサを構成する電解液(「エチレングリコールにアゼライン酸を添加して作製された」もの)と関係するのか否か不明である。
してみると、前記「電解液」とは、「電解コンデンサ」を構成する「電解液」であるのか、又は、単なる導電性を有する溶液であるのか不明であり、具体的に「電解液」としてどのようなものが含まれるのか明確に把握できない。
よって、請求項1、2、及び請求項1、2を引用する請求項3ないし8に係る発明は、明確ではない。
2 引用文献の記載、引用発明
(1)引用文献1について
ア 令和4年11月10日付け取消理由通知において引用した引用文献1(再公表特許第2016/174806号(甲第1号証))には、以下の各記載がある。(下線は当審で付与した。)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサ素子と電解液とを備え、
前記コンデンサ素子は、
誘電体層が形成された陽極箔と、
前記陽極箔と対向し、かつ無機系導電層が形成された陰極箔と、
前記陽極箔および前記陰極箔の間に介在し、かつ導電性高分子を含む導電性高分子層と、を備え、
前記陰極箔は、表面が粗面化されており、粗面化された前記表面に前記無機系導電層が形成されており、
前記導電性高分子層は、前記導電性高分子を含む分散体または溶液を用いて形成される、電解コンデンサ。
・・・中略・・・。
【請求項5】
前記無機系導電層は、導電性カーボン、ニッケル、ニッケル化合物、チタン、およびチタン化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。」
「【0013】
図1において、電解コンデンサは、コンデンサ素子10を備え、電解液(図示せず)とともに、外装ケース(具体的には、有底ケース11)内に収容されている。外装ケースは、内部にコンデンサ素子10を収容する有底ケース11と、有底ケース11の開口を塞ぐ絶縁性の封止部材12と、封止部材12を覆う座板13とを備える。有底ケース11の開口端近傍は、内側に絞り加工されており、開口端は封止部材12に加締めるようにカール加工されている。
【0014】
図2に示すように、コンデンサ素子10は、リードタブ15Aに接続された陽極箔21と、リードタブ15Bに接続された陰極箔22と、セパレータ23とを備える。陽極箔21および陰極箔22は、セパレータ23を介して巻回されており、このようなコンデンサ素子10は、巻回体とも呼ばれる。コンデンサ素子10の最外周は、巻止めテープ24により固定される。なお、図2は、コンデンサ素子10の最外周を止める前の、一部が展開された状態を示している。」
「【0018】
コンデンサ素子は、誘電体層が形成された陽極箔と、粗面化された表面に無機系導電層が形成されている陰極箔と、陽極箔および陰極箔の間に介在する導電性高分子層とを含んでいる。コンデンサ素子は、必要に応じてセパレータを含んでもよい。
(コンデンサ素子)
(陽極箔)
陽極箔としては、例えば、表面が粗面化された金属箔が挙げられる。金属箔を構成する金属の種類は特に限定されないが、誘電体層の形成が容易である点から、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁作用金属、または弁作用金属を含む合金を用いることが好ましい。
【0019】
金属箔表面の粗面化は、公知の方法により行うことができる。粗面化により、金属箔の表面に、複数の凹凸が形成される。粗面化は、例えば、金属箔をエッチング処理することにより行うことが好ましい。エッチング処理は、例えば、直流電解法または交流電解法などにより行ってもよい。
【0020】
(誘電体層)
誘電体層は、陽極箔の表面に形成される。具体的には、誘電体層は、粗面化された金属箔の表面に形成されるため、陽極箔の表面の孔や窪み(ピット)の内壁面に沿って形成される。
【0021】
誘電体層の形成方法は特に限定されないが、金属箔を化成処理することにより形成することができる。化成処理は、例えば、金属箔をアジピン酸アンモニウム溶液などの化成液に浸漬することにより行ってもよい。化成処理では、必要に応じて、金属箔を化成液に浸漬した状態で、電圧を印加してもよい。
・・・中略・・・。
【0023】
(陰極箔)
陰極箔22には金属箔を用いてもよい。金属の種類は特に限定されないが、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁作用金属または弁作用金属を含む合金を用いることが好ましい。」
「【0027】
本発明では、陰極箔の表面を粗面化し、粗面化した表面に無機系導電層を形成することで、分散体や溶液を用いて導電性高分子層を形成するにも拘わらず、導電性高分子層と無機系導電層との密着性を高めることができる。具体的に説明すると、粗面化した陰極箔の表面に無機系導電層を形成することで、無機系導電層の導電性高分子層と接触する側の表面にも凹凸が形成される。無機系導電層の表面の凸部では、無機系導電層と導電性高分子層とが接触している第1領域が形成され、凹部では、無機系導電層と導電性高分子層とが接触していない第2領域が形成される。第2領域では、無機系導電層と導電性高分子層との間に隙間が形成されるため、無機系導電層と導電性高分子層との間に電解液が浸み込んでも、この隙間に流れこむ。そのため、第1領域では、導電性高分子層と無機系導電層との間に電解液が入り込むのが抑制されたり、電解液が入り込む量もしくは層間に残存する量が低減されたりする。その結果、高い接触圧を確保することができ、導電性高分子層と無機系導電層との密着性の低下を抑制できるとともに、界面の抵抗が増加するのを抑制できる。
・・・中略・・・。
【0029】
陰極箔の表面の粗面化は、公知の方法により行うことができ、例えば、エッチングにより粗面化してもよい。エッチング処理は、例えば、直流電解法または交流電解法などにより行ってもよい。充放電を繰り返した場合でも高容量を確保し易い観点から、粗面化はエッチングにより行うことが好ましい。
・・・中略・・・。
【0031】
無機系導電層を形成する導電性の無機材料としては、導電性カーボンの他、金属または導電性の金属化合物などが挙げられる。導電性カーボンとしては、例えば、非晶質炭素、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、ソフトカーボン、ハードカーボン、黒鉛、カーボンナノチューブなどの炭素繊維などが挙げられる。金属および金属化合物としては、空気との接触などにより不動態膜を形成しにくいものが好ましい。金属としては、例えば、チタン、チタン合金、ニッケル、ニッケル合金などが挙げられる。金属化合物としては、例えば、窒化物や炭化物などが挙げられ、窒化物が好ましい。金属化合物を構成する金属としては、チタンおよび/またはニッケルなどが例示できる。無機系導電層は、これらの無機材料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。」
「【0052】
電解液としては、非水溶媒を用いてもよく、非水溶媒と非水溶媒に溶解したイオン性物質(溶質)とを含む溶液を用いてもよい。なお、非水溶媒とは、水および水を含む液体を除く液体の総称であり、有機溶媒やイオン性液体が含まれる。
【0053】
非水溶媒としては、例えば、ポリオール(エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルキレングリコール;ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール;グリセリン、ポリグリセリンなどのグリセリン類など)、スルホランなどの環状スルホン類、γ-ブチロラクトン(γBL)などのラクトン類、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類、酢酸メチルなどのエステル類、1,4-ジオキサンなどのエーテル類、メチルエチルケトンなどのケトン類、ホルムアルデヒドなどが挙げられる。非水溶媒は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用してもよい。」
「【0069】
無機系導電層は、粉末状の導電性の無機材料を陰極箔の表面に付着させるか、真空蒸着などの方法で形成することができる。また、無機系導電層は、導電性の無機材料とバインダとを含むペーストやスラリーを陰極箔の表面に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥することで形成してもよく、塗膜を熱処理してバインダを除去することにより形成してもよい。」
イ 引用文献1に記載された上記事項により、次のことがいえる。
(ア)【請求項1】、段落【0013】、【0014】によれば、引用文献1は、陽極箔と陰極箔とを備えたコンデンサ素子が電解液とともに外装ケース内に収容される電解コンデンサの陰極箔が記載されている。
(イ)段落【0023】によれば、「陰極箔」はアルミニウムなどの弁作用金属が用いられる。
(ウ)【請求項1】、段落【0027】、【0029】によれば、陰極箔の表面はエッチング処理により粗面化され、粗面化した表面に無機系導電層が形成され、【請求項5】、段落【0031】には、無機系導電層は導電性カーボンからなることも記載されている。
(エ)段落【0069】によれば、無機系導電層は、導電性の無機材料とバインダとを含むペーストやスラリーを陰極箔の表面に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥することで形成するか、又は、塗膜を熱処理してバインダを除去することにより形成される。
(オ)段落【0052】、【0053】によれば、電解液は、エチレングリコールと溶質を含む。
ウ よって、上記イから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「陽極箔と陰極箔とを備えたコンデンサ素子が電解液とともに外装ケース内に収容される電解コンデンサの陰極箔であって、
陰極箔はアルミニウムなどの弁作用金属が用いられ、
陰極箔の表面はエッチング処理により粗面化され、粗面化した表面に導電性カーボンからなる無機系導電層が形成され、
無機系導電層は、導電性の無機材料とバインダとを含むペーストやスラリーを陰極箔の表面に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥することで形成されるか、又は、塗膜を熱処理してバインダを除去することにより形成され
電解液は、エチレングリコールと溶質を含む、陰極箔。」
エ また、引用文献1に記載された事項により、次のこともいえる。
(カ)段落【0013】によれば、引用文献1には、コンデンサ素子10を備え、電解液とともに、外装ケース内に収容されている電解コンデンサが記載されている。
(キ)段落【0014】によれば、コンデンサ素子10は、陽極箔21と陰極箔22とを備える。
(ク)段落【0018】によれば、陽極箔は、アルミニウムなどの弁作用金属が用いられる。
(ケ)段落【0018】ないし【0021】によれば、陽極箔の表面はエッチング処理により粗面化され、粗面化された表面に化成処理により誘電体層が形成されるといえる。また、同段落【0021】によれば、化成処理は金属箔をアジピン酸アンモニウム溶液に浸漬し必要に応じて電圧を印加する処理である。
オ よって、上記エ、及び、上記イで述べた点も踏まえれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1a」という。)も記載されている。
「コンデンサ素子を備え、電解液とともに、外装ケース内に収容されている電解コンデンサであって、
コンデンサ素子は、陽極箔と陰極箔とを備え、
陽極箔はアルミニウムなどの弁作用金属が用いられ、
陽極箔の表面はエッチング処理により粗面化され、粗面化された表面に化成処理により誘電体層が形成され、化成処理は金属箔をアジピン酸アンモニウム溶液に浸漬し必要に応じて電圧を印加する処理であり、
陰極箔はアルミニウムなどの弁作用金属が用いられ、
陰極箔の表面はエッチング処理により粗面化され、粗面化した表面に導電性カーボンからなる無機系導電層が形成され、
無機系導電層は、導電性の無機材料とバインダとを含むペーストやスラリーを陰極箔の表面に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥することで形成されるか、又は、塗膜を熱処理してバインダを除去することにより形成され、
電解液は、エチレングリコールと溶質を含む、電解コンデンサ。」
」
(2)引用文献2について
ア 令和4年11月10日付け取消理由通知において引用した引用文献2(再公表特許第2016/174807号(甲第2号証))には、以下の各記載がある。(下線は当審で付与した。)
「【請求項1】
コンデンサ素子と電解液とを備え、
前記コンデンサ素子は、
誘電体層が形成された陽極箔と、
前記陽極箔と対向し、かつ導電性カーボンを含むカーボン層を備える導電層が形成された陰極箔と、
前記陽極箔および前記陰極箔の間に介在し、かつ導電性高分子を含む導電性高分子層と、を備え、
前記導電性高分子層は、前記導電性高分子を含む分散体または溶液を用いて形成され、
前記電解液の水分量は、0.1~6.0質量%である、電解コンデンサ。」
「【0012】
図1において、電解コンデンサは、コンデンサ素子10を備え、電解液(図示せず)とともに、外装ケース(具体的には、有底ケース11)内に収容されている。外装ケースは、内部にコンデンサ素子10を収容する有底ケース11と、有底ケース11の開口を塞ぐ絶縁性の封止部材12と、封止部材12を覆う座板13とを備える。有底ケース11の開口端近傍は、内側に絞り加工されており、開口端は封止部材12に加締めるようにカール加工されている。
【0013】
図2に示すように、コンデンサ素子10は、リードタブ15Aに接続された陽極箔21と、リードタブ15Bに接続された陰極箔22と、セパレータ23とを備える。陽極箔21および陰極箔22は、セパレータ23を介して巻回されている。巻回された陽極箔、陰極箔およびセパレータは、巻回体とも呼ばれる。コンデンサ素子10の最外周は、巻止めテープ24により固定される。なお、図2は、コンデンサ素子10の最外周を止める前の、一部が展開された状態を示している。
【0014】
コンデンサ素子10において、陽極箔21は、表面が凹凸を有するように粗面化された金属箔であり、凹凸を有する金属箔上に誘電体層が形成されている。陽極箔21と対向する陰極箔22は、金属箔であり、金属箔上に導電層が形成されている。陰極箔22上に形成された導電層は、導電性カーボンを含むカーボン層を含む。陽極箔21上の誘電体層の表面の少なくとも一部および陰極箔22上の導電層の表面の少なくとも一部には、導電性高分子が付着して導電性高分子層を形成している。導電性高分子は陽極箔21と陰極箔22との間のどの位置に付着していてもよい。例えば、導電性高分子は、陽極箔21上に形成された誘電体層の表面の少なくとも一部および陰極箔22上の導電層の表面の少なくとも一部を被覆し、さらにセパレータ23の表面の少なくとも一部を被覆していてもよい。このように、陽極箔21と陰極箔22との間には導電性高分子層が介在している。
・・・中略・・・。
【0017】
コンデンサ素子は、誘電体層が形成された陽極箔、導電層が形成された陰極箔、および陽極箔と陰極箔との間に介在する導電性高分子層を含んでいる。コンデンサ素子は、必要に応じて、さらにセパレータを含んでもよい。(コンデンサ素子)
(陽極箔)
陽極箔としては、例えば、表面が粗面化された金属箔が挙げられる。金属箔を構成する金属の種類は特に限定されないが、誘電体層の形成が容易である点から、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁作用金属、または弁作用金属を含む合金を用いることが好ましい。
【0018】
金属箔表面の粗面化は、公知の方法により行うことができる。粗面化により、金属箔の表面に、複数の凹凸が形成される。粗面化は、例えば、金属箔をエッチング処理することにより行うことが好ましい。エッチング処理は、例えば、直流電解法または交流電解法などにより行ってもよい。
【0019】
(誘電体層)
誘電体層は、陽極箔の表面に形成される。具体的には、誘電体層は、粗面化された金属箔の表面に形成されるため、陽極箔の表面の孔や窪み(ピット)の内壁面に沿って形成される。
【0020】
誘電体層の形成方法は特に限定されないが、金属箔を化成処理することにより形成することができる。化成処理は、例えば、金属箔をアジピン酸アンモニウム溶液などの化成液に浸漬することにより行ってもよい。化成処理では、必要に応じて、金属箔を化成液に浸漬した状態で、電圧を印加してもよい。」
「【0022】
(陰極箔)
陰極箔22にも、陽極箔と同様、金属箔が用いられる。金属の種類は特に限定されないが、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁作用金属または弁作用金属を含む合金を用いることが好ましい。
・・・中略・・・。
【0024】
(導電層)
導電層は、層全体として、導電性を有する無機材料(金属、金属化合物、および/または導電性カーボンなど)で形成されることが望ましく、有機系材料で形成される導電性高分子層とは区別される。導電層は、層全体として無機材料で形成されるため、無機系導電層と呼ぶこともできる。導電層は、導電性高分子層と接するカーボン層を少なくとも含む。
【0025】
カーボン層は、導電性カーボンを含む。導電性カーボンとしては、非晶質炭素、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、ソフトカーボン、ハードカーボン、黒鉛、カーボンナノチューブなどの炭素繊維などが挙げられる。カーボン層は、これらの導電性カーボンを一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。」
「【0054】
電解液としては、上記の水分量を有する限り特に制限されず、非水溶媒を用いてもよく、非水溶媒と非水溶媒に溶解したイオン性物質(溶質)とを含む溶液を用いてもよい。なお、非水溶媒とは、水および水を含む液体を除く液体の総称であり、有機溶媒やイオン性液体が含まれる。
【0055】
電解液に含まれる非水溶媒としては、例えば、ポリオール(エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルキレングリコール;ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール;グリセリン、ポリグリセリンなどのグリセリン類など)、スルホランなどの環状スルホン類、γ-ブチロラクトン(γBL)などのラクトン類、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類、酢酸メチルなどのエステル類、1,4-ジオキサンなどのエーテル類、メチルエチルケトンなどのケトン類、ホルムアルデヒドなどが挙げられる。非水溶媒は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用してもよい。」
「【0070】
第1処理液は、必要に応じて、公知の添加剤などを含んでいてもよい。(ii)第2工程 第2工程では、前述のように、陽極箔の表面を例えば化成処理することにより、陽極箔の表面に誘電体層を形成する。(iii)第3工程 第3工程では、表面に、カーボン層を含む導電層が形成された陰極箔を準備する。より具体的には、例えば、陰極箔上に導電性カーボンを含むカーボン層を形成することで導電層を形成することができる。
【0071】
カーボン層は、粉末状の導電性カーボンを陰極箔の表面に付着させることにより形成してもよい。また、カーボン層は、導電性カーボンとバインダとを含む混合物(例えば、スラリー)を陰極箔の表面に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥することで形成してもよく、塗膜を熱処理してバインダを除去することにより形成してもよい。」
イ 引用文献2に記載された上記事項により、次のことがいえる。
(ア)【請求項1】、段落【0012】、【0013】によれば、引用文献2は、陽極箔と陰極箔とを備えたコンデンサ素子が電解液とともに外装ケース内に収容される電解コンデンサの陰極箔が記載されている。
(イ)段落【0022】によれば、陰極箔はアルミニウムなどの弁作用金属が用いられる。
(ウ)【請求項1】、段落【0014】、【0024】、【0025】、【0070】によれば、陰極箔上に導電性カーボンを含むカーボン層が形成される。
(エ)段落【0071】によれば、カーボン層は、導電性カーボンとバインダとを含む混合物(例えば、スラリー)を陰極箔の表面に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥することで形成されるか、又は、塗膜を熱処理してバインダを除去することにより形成される。
(オ)段落【0054】、【0055】によれば、電解液はエチレングリコールと溶質とを含む。
ウ よって、上記イから、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
「陽極箔と陰極箔とを備えたコンデンサ素子が電解液とともに外装ケース内に収容される電解コンデンサの陰極箔であって、
陰極箔はアルミニウムなどの弁作用金属が用いられ、
陰極箔上に導電性カーボンを含むカーボン層が形成され、
カーボン層は、導電性カーボンとバインダとを含む混合物(例えば、スラリー)を陰極箔の表面に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥することで形成されるか、又は、塗膜を熱処理してバインダを除去することにより形成され、
電解液はエチレングリコールと溶質とを含む、陰極箔。」
エ また、引用文献2に記載された事項により、次のこともいえる。
(カ)段落【0012】によれば、引用文献2には、コンデンサ素子10を備え、電解液とともに、外装ケース内に収容されている電解コンデンサが記載されている。
(キ)段落【0013】によれば、コンデンサ素子10は、陽極箔21と陰極箔22とを備える。
(ク)段落【0017】によれば、陽極箔は、アルミニウムなどの弁作用金属が用いられる。
(ケ)段落【0017】ないし【0020】によれば、陽極箔の表面はエッチング処理により粗面化され、粗面化された表面に化成処理により誘電体層が形成されるといえる。また、同段落【0020】によれば、化成処理は金属箔をアジピン酸アンモニウム溶液に浸漬し必要に応じて電圧を印加する処理である。
オ よって、上記エ、及び、上記イで検討した点も踏まえれば、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2a」という。)も記載されている。
「コンデンサ素子を備え、電解液とともに、外装ケース内に収容されている電解コンデンサにおいて、
コンデンサ素子は、陽極箔と陰極箔とを備え、
陽極箔はアルミニウムなどの弁作用金属が用いられ、
陽極箔の表面はエッチング処理により粗面化され、粗面化された表面に化成処理により誘電体層が形成され、化成処理は金属箔をアジピン酸アンモニウム溶液に浸漬し必要に応じて電圧を印加する処理であり、
陰極箔はアルミニウムなどの弁作用金属が用いられ、
陰極箔上に導電性カーボンを含むカーボン層が形成され、
カーボン層は、導電性カーボンとバインダとを含む混合物(例えば、スラリー)を陰極箔の表面に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥することで形成されるか、又は、塗膜を熱処理してバインダを除去することにより形成され、
電解液はエチレングリコールと溶質とを含む、電解コンデンサ。」
(3)引用文献3について
ア 令和4年11月10日付け取消理由通知及び令和5年3月31日付け取消理由通知(決定の予告)において引用した引用文献3(再公表特許第2017/090241号(甲第3号証))には、以下の各記載がある。(下線は当審で付与した。)
「【請求項1】
誘電体層を有する陽極箔と陰極箔とを備えたコンデンサ素子と、
前記陽極箔と前記陰極箔との間に設けられた固体電解質層と、
前記コンデンサ素子に含浸された電解液とを有し、
前記陰極箔は、チタンおよびニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属または化合物を含む被覆層を有し、
前記固体電解質層は、導電性高分子と、高分子ドーパントと、塩基成分とを含む、電解コンデンサ。
・・・(中略)・・・。
【請求項3】
前記被覆層は、カーボン層を含む、請求項1または2に記載の電解コンデンサ。」
「【0013】
電解コンデンサは、例えば、コンデンサ素子10と、コンデンサ素子10を収容する有底ケース11と、有底ケース11の開口を塞ぐ封止部材12と、封止部材12を覆う座板13と、封止部材12から導出され、座板13を貫通するリード線14A、14Bと、リード線とコンデンサ素子10の電極とを接続するリードタブ15A、15Bと、電解液(図示せず)とを備える。有底ケース11の開口端近傍は、内側に絞り加工されており、開口端は封止部材12にかしめるようにカール加工されている。
【0014】
コンデンサ素子10は、リードタブ15Aと接続された陽極箔21と、リードタブ15Bと接続された陰極箔22と、セパレータ23とを備える。
・・・(中略)・・・。
【0016】
陽極箔21は、表面が凹凸を有するように粗面化された金属箔を具備し、凹凸を有する金属箔上に誘電体層が形成されている。誘電体層の表面の少なくとも一部に、導電性高分子を付着させることにより、固体電解質層が形成される。固体電解質層は、陰極箔22の表面および/またはセパレータ23の表面の少なくとも一部を被覆していてもよい。固体電解質層が形成されたコンデンサ素子10は、電解液とともに、外装ケースに収容される。
【0017】
本発明に係る電解コンデンサは、誘電体層を有する陽極箔と、陰極箔と、誘電体層に接触した固体電解質層と、電解液とを備える。陰極箔は、チタンおよびニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属または化合物を含む被覆層を有する。固体電解質層は、導電性高分子と高分子ドーパントと塩基成分を含む。」
「【0019】
(i)誘電体層を有する陽極箔21を準備する工程
まず、陽極箔21の原料である金属箔を準備する。金属の種類は特に限定されないが、誘電体層の形成が容易である点から、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁作用金属または弁作用金属を含む合金を用いることが好ましい。
【0020】
次に、金属箔の表面を粗面化する。粗面化により、金属箔の表面に、複数の凹凸が形成される。粗面化は、金属箔をエッチング処理することにより行うことが好ましい。エッチング処理は、例えば直流電解法や交流電解法により行えばよい。
【0021】
次に、粗面化された金属箔の表面に誘電体層を形成する。形成方法は特に限定されないが、金属箔を化成処理することにより形成することができる。化成処理では、例えば、金属箔をアジピン酸アンモニウム溶液などの化成液に浸漬し、熱処理する。また、金属箔を化成液に浸漬し、電圧を印加してもよい。
・・・(中略)・・・。
【0023】
(ii)陰極箔22を準備する工程
次に、金属箔と金属箔の表面に形成された被覆層とを有した陰極箔22を準備する。陰極箔22が被覆層を有していることで、コンデンサの静電容量を高めることができる。金属箔を構成する金属の種類は特に限定されないが、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁作用金属または弁作用金属を含む合金を用いることが好ましい。必要に応じて、被覆層を形成する前に金属箔の表面を粗面化してもよい。
【0024】
被覆層は、チタンおよびニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属または化合物を含んでいる。金属化合物としては、窒化物、炭化物などを用いることができる。また、被覆層は、表面にカーボンを含む層を有していても良い。ただし、カーボン粒子を炭化アルミニウムによってアルミニウム箔表面に固着させた陰極箔は、後述する電解液中に含まれる微量の水分により、炭化アルミニウムが加水分解されため好ましくない。被覆層を形成する方法としては、真空蒸着法、化学気相蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの気相法を用いることができる。」
「【0043】
電解液は、多価アルコール、スルホン化合物、ラクトン化合物、カーボネート化合物、1価のアルコールなどを含むことができる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
多価アルコールは、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリアルキレングリコール、グリセリン、の少なくとも一つを含むことが望ましい。ポリアルキレングリコールとしては、平均分子量が200~1000のポリエチレングリコール、平均分子量が200~5000のポリプロピレングリコールを用いることが好ましい。
・・・(中略)・・・。
【0046】
電解液は、溶質を含んでいてもよい。溶質として、酸成分、塩基成分、酸成分および塩基成分からなる塩、ニトロ化合物、フェノール化合物等を用いることができる。
【0047】
酸成分は、有機酸、無機酸、有機酸と無機酸との複合化合物を用いることができる。有機酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸などのカルボン酸などを用いることができる。無機酸としては、硼酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸エステルなどを用いることができる。」
「【0057】
(陰極箔の準備)
厚さ50μmのアルミニウム箔にエッチング処理を行い、被覆層としてチタン層とカーボン層を順次形成した。その後、縦×横が6mm×120mmとなるように裁断して、陰極箔を準備した。」
イ 引用文献3に記載された上記事項により、次のことがいえる。
(ア)【請求項1】、段落【0013】、【0014】、【0016】によれば、引用文献3は、陽極箔と陰極箔とを備えたコンデンサ素子が電解液とともに外装ケースに収容される電解コンデンサの陰極箔が記載されている。
(イ)段落【0023】によれば、陰極箔はアルミニウムなどの弁作用金属が用いられる。
(ウ)【請求項1】、【請求項3】、段落【0017】、【0023】、【0024】、【0057】によれば、陰極箔はエッチング処理が行われ、その表面にチタンを含む被覆層が形成され、被覆層は表面にカーボン層を有する。
(エ)段落【0024】によれば、被覆層は、真空蒸着法、化学気相蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの気相法により形成される。
(オ)段落【0043】、【0044】、【0046】、【0047】によれば、電解液は、エチレングリコールとアゼライン酸を含む。
ウ よって、上記イから、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。
「陽極箔と陰極箔とを備えたコンデンサ素子が電解液とともに外装ケースに収容される電解コンデンサの陰極箔であって、
陰極箔はアルミニウムなどの弁作用金属が用いられ、
陰極箔はエッチング処理が行われ、その表面にチタンを含む被覆層が形成され、被覆層は表面にカーボン層を有し、
被覆層は、真空蒸着法、化学気相蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの気相法により形成され、
電解液は、エチレングリコールとアゼライン酸を含む、陰極箔。」
エ また、引用文献3に記載された事項により、次のこともいえる。
(カ)段落【0013】、【0016】によれば、引用文献3には、コンデンサ素子10を備え、電解液とともに、外装ケースに収容される電解コンデンサが記載されている。
(キ)段落【0014】によれば、コンデンサ素子10は、陽極箔21と陰極箔22とを備える。
(ク)段落【0019】によれば、陽極箔は、アルミニウムなどの弁作用金属が用いられる。
(ケ)段落【0020】、【0021】によれば、陽極箔の表面はエッチング処理により粗面化され、粗面化された表面に化成処理により誘電体層が形成されるといえる。また、同段落【0021】によれば、化成処理は金属箔をアジピン酸アンモニウム溶液に浸漬し熱処理し、電圧を印加する処理である。
オ よって、上記エ、及び、上記イで検討した点も踏まえれば、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明3a」という。)も記載されている。
「コンデンサ素子を備え、電解液とともに、外装ケース内に収容されている電解コンデンサにおいて、
コンデンサ素子は、陽極箔と陰極箔とを備え、
陽極箔はアルミニウムなどの弁作用金属が用いられ、
陽極箔の表面はエッチング処理により粗面化され、粗面化された表面に化成処理により誘電体層が形成され、化成処理は金属箔をアジピン酸アンモニウム溶液に浸漬し熱処理し、電圧を印加する処理であり、
陰極箔はアルミニウムなどの弁作用金属が用いられ、
陰極箔はエッチング処理が行われ、その表面にチタンを含む被覆層が形成され、被覆層は表面にカーボン層を有し、
被覆層は、真空蒸着法、化学気相蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの気相法により形成され、
電解液は、エチレングリコールとアゼライン酸を含む、電解コンデンサ。」
(4)引用文献4について
ア 令和4年11月10日付け取消理由通知及び令和5年3月31日付け取消理由通知(決定の予告)において引用した引用文献4(特開2019-179884号公報(甲第4号証))には、以下の各記載がある。(下線は当審で付与した。)
「【請求項1】
誘電体層を有する陽極体と、陰極体と、前記陽極体と前記陰極体との間に介在する導電性高分子層および液状成分と、を備え、
前記陰極体は、
粗面化された外表面において細孔が開口する基材部と、
前記外表面の少なくとも一部を覆う無機導電層と、を有し、
前記基材部は、前記細孔の内壁の少なくとも一部に沿って形成された第1被覆層を有し、
前記第1被覆層は、リンを含む、電解コンデンサ。
・・・(中略)・・・。
【請求項6】
前記無機導電層は、導電性炭素を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。」
「【0013】
[電解コンデンサ]
本発明の一実施形態に係る電解コンデンサは、誘電体層を有する陽極体と、陰極体と、陽極体と陰極体との間に介在する導電性高分子層および液状成分と、を備える。陰極体は、粗面化された外表面において細孔が開口する基材部と、外表面の少なくとも一部を覆う無機導電層と、を有する。基材部は、少なくとも細孔の内壁に沿って形成された第1被覆層を有し、第1被覆層は、リンを含む。
【0014】
すなわち、電解コンデンサは、液状成分(電解液または溶媒)および導電性高分子を電解質として用いるハイブリッド電解コンデンサである。本実施形態において、陰極体を構成する基材部の表面は粗面化されており、基材部の外表面に細孔が形成されている。以下において、基材部の表面側の細孔が形成された部分を多孔体部分と称し、細孔が形成されていない基材部の内部を芯材部分と称する。
」
「【0018】
一方、陰極体の細孔が開口していない外表面は、無機導電層で覆われている。無機導電層は、例えば、導電性炭素を含む。無機導電層は、さらに、細孔の内壁の一部を覆っていてもよい。例えば、真空蒸着やスパッタリングなどの気相法を用いる場合には、無機導電層は金属箔の細孔内に形成され難い。よって、無機導電層は陰極体の外表面の少なくとも一部を覆うように形成される。」
「【0033】
液状成分は、電解コンデンサの陽極側で、陽極体の表面に形成された誘電体層の修復性を高める作用を有する。しかしながら一方で、陰極側では、液状成分が陰極体の下地金属が露出している表面と接触すると、陰極体を酸化させ易く、陰極体の表面に誘電体層を形成させ易い。この結果として、電解コンデンサの合成容量が低下し易い。しかしながら、本実施形態の電解コンデンサでは、外表面層の上に無機導電層が形成されているため、細孔の内壁に沿って誘電体層が形成されたとしても、電解コンデンサの合成容量は低下しない。むしろ、酸化皮膜としての誘電体層が内側壁に形成されていることで、陰極体を構成する金属が液状成分と反応して、箔が腐食したり、液状成分が還元分解されてガスを発生したりすることの抑制効果を高められる。
・・・(中略)・・・。
【0037】
図1に示すように、電解コンデンサは、例えば、コンデンサ素子10と、コンデンサ素子10を収容する有底ケース11と、有底ケース11の開口を塞ぐ封止 部材12と、封止部材12を覆う座板13と、封止部材12から導出され、座板13を貫通するリード線14A、14Bと、リード線とコンデンサ素子10の電極とを接続するリードタブ15A、15Bと、液状成分(図示せず)とを備える。コンデンサ素子10は、液状成分とともに、外装ケースに収容される。有底ケース11の開口端近傍は、内側に絞り加工されており、開口端は封止部材12にかしめるようにカール加工されている。
【0038】
コンデンサ素子10は、例えば、図2に示すような巻回体に、導電性高分子を付着させることにより作製される。巻回体は、誘電体層を有する陽極体21と、弁作用を有する第1金属を含む陰極体22と、これらの間に介在するセパレータ23と、を備えている。導電性高分子は、陽極体21の誘電体層の表面の少なくとも一部を覆うように付着している。コンデンサ素子10は、さらに、陽極体21と接続されたリードタブ15Aと、陰極体22に接続されたリードタブ15Bと、を備えている。」
「【0041】
図3に、本実施形態の電解コンデンサで用いる陰極体の多孔体部分を拡大した一例の断面図を示す。
図3に示すように、陰極体22は、基材部34の主面が粗面化されており、粗面化された主面の外表面30において細孔31が開口している。外表面30の少なくとも一部は、無機導電層35で覆われている。一方、細孔の内壁に沿って酸化皮膜(第1被覆層)32が形成されている。酸化皮膜32は、リンを含む。
・・・(中略)・・・。
【0045】
陰極体には、金属箔を用いることができる。金属箔に含まれる金属の種類は特に限定されないが、弁作用を有する金属(第1金属)、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブなどが好ましい。中でも、第1金属を主成分として含む金属材料が好ましい。このような金属材料としては、例えば、第1金属の単体または第1金属を含む合金などが挙げられる
【0046】
陰極体の粗面化は、金属箔をエッチング処理することにより行うことが好ましい。また、必要に応じて、陰極体を化成処理することで、陰極体の表面に酸化皮膜を形成してもよい。
・・・(中略)・・・。
【0048】
無機導電層を形成する導電性の無機材料としては、導電性炭素の他、金属または導電性の金属化合物などが挙げられる。導電性炭素としては、例えば、非晶質炭素、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、ソフトカーボン、ハードカーボン、黒鉛、カーボンナノチューブなどの炭素繊維などが挙げられる。金属および金属化合物としては、空気との接触などにより不動態膜を形成しにくいものが好ましい。金属としては、例えば、チタン、チタン合金、ニッケル、ニッケル合金などが挙げられる。金属化合物としては、例えば、窒化物や炭化物などが挙げられ、窒化物が好ましい。金属化合物を構成する金属としては、チタンおよび/またはニッケルなどが例示できる。無機導電層は、これらの無機材料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。」
「【0054】
(陽極体)
陽極体は、金属箔を用いることができる。金属箔に含まれる金属の種類は特に限定されないが、誘電体層の形成が容易である点から、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタンなどの弁作用を有する金属(第2金属)を含むものが好ましい。中でも、第2金属を主成分として含むもの、例えば、アルミニウムなどの金属単体、アルミニウム合金などの合金が好ましい。陽極体の表面は粗面化され、粗面化された金属箔の表面には誘電体層を形成されている。」
「【0060】
(液状成分)
液状成分としては、非水溶媒であってもよく、非水溶媒とこれに溶解させたイオン性物質(溶質、例えば、有機塩)との混合物(つまり、電解液)であってもよい。非水溶媒は、有機溶媒でもよく、イオン性液体でもよい。非水溶媒としては、高沸点溶媒が好ましい。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなとの多価アルコール類、スルホラン(SL)などの環状スルホン類、γ-ブチロラクトン(γBL)などのラクトン類、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類、酢酸メチルなどのエステル類、炭酸プロピレン(PC)などのカーボネート化合物、1,4-ジオキサンなどのエーテル類、メチルエチルケトンなどのケトン類、ホルムアルデヒドなどを用いることができる。また、高沸点溶媒として、高分子系溶媒を用いてもよい。
・・・(中略)・・・。
【0062】
液状成分は、酸成分および塩基成分を含有してもよい。
酸成分としては、ポリカルボン酸およびモノカルボン酸を用いることができる。
上記ポリカルボン酸としては、脂肪族ポリカルボン酸([飽和ポリカルボン酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、1,6-デカンジカルボン酸、5,6-デカンジカルボン酸];[不飽和ポリカルボン酸、例えばマレイン酸、フマル酸、イコタン酸])、芳香族ポリカルボン酸(例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸)、脂環式ポリカルボン酸(例えばシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸等)が挙げられる。」
「【0068】
導電性高分子のドーパントの脱ドープを抑制するために液状成分のpHは7未満が好ましく、pHは5以下がより好ましい。ドーパントの脱ドープを抑制するためにpHを上記のような範囲とした場合であっても、陰極体の第1被覆層はリンを含有するため、陰極体の劣化を抑制できる。また、陰極体の基材部を構成するアルミニウムなど第1金属を腐食し易いボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸、ボロジサリチル酸を液状成分に添加した場合であっても陰極体の劣化を抑制できる。」
「【0077】
無機導電層は、粉末状の導電性の無機材料を陰極体の表面に付着させるか、真空蒸着などの方法で形成することができる。また、無機導電層は、導電性の無機材料とバインダとを含むペーストやスラリーを陰極体の表面に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥することで形成してもよく、塗膜を熱処理してバインダを除去することにより形成してもよい。」
イ 引用文献4に記載された事項により、次のことがいえる。
(ア)段落【0037】、【0038】、【0060】によれば、引用文献4には、陽極体と陰極体を備えたコンデンサ素子を電解液とともに外装ケースに収容される電解コンデンサの陰極体が記載されている。
(イ)【請求項1】、段落【0013】、【0014】、【0041】によれば、陰極体は、粗面化された外表面において細孔が開口する基材部を有し、同段落【0046】によれば、粗面化はエッチング処理により行われる。また、段落【0045】によれば、陰極体はアルミニウムなどの弁作用を有する金属(第1金属)からなる金属箔が用いられ、段落【0068】の「陰極体の基材部を構成するアルミニウムなど第1金属」との記載からすれば、基材部はアルミニウムなどの弁作用を有する金属からなる金属箔が用いられるといえる。
(ウ)【請求項1】、段落【0013】、【0018】、【0041】によれば、陰極体は、基材部の外表面の少なくとも一部を覆う無機導電層を有し、【請求項6】、段落【0048】によれば、無機導電層は導電性炭素から形成される。
(エ)段落【0077】によれば、無機導電層は、導電性の無機材料とバインダとを含むペーストやスラリーを陰極体の表面に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥することで形成されるか、又は、塗膜を熱処理してバインダを除去することにより形成される。
(オ)段落【0060】、【0062】によれば、電解液は、エチレングリコールとアゼライン酸を含む。
ウ よって、上記イから、引用文献4には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されている。
「陽極体と陰極体を備えたコンデンサ素子を電解液とともに外装ケースに収容される電解コンデンサの陰極体であって、
陰極体は、エッチング処理により粗面化された外表面において細孔が開口し、アルミニウムなどの弁作用を有する金属からなる金属箔が用いられる基材部と、基材部の外表面の少なくとも一部を覆い、導電性炭素から形成される無機導電層とを有し、
無機導電層は、導電性の無機材料とバインダとを含むペーストやスラリーを陰極体の表面に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥することで形成されるか、又は、塗膜を熱処理してバインダを除去することにより形成され、
電解液は、エチレングリコールとアゼライン酸を含む、陰極体。」
エ また、引用文献4に記載された事項によれば、次のこともいえる。
(カ)段落【0037】、【0060】によれば、コンデンサ素子を備え、電解
液とともに、外装ケースに収容される電解コンデンサが記載されている。
(キ)段落【0038】によれば、コンデンサ素子は、陽極体と陰極体とを備え
る。
(ク)段落【0054】によれば、陽極体は、アルミニウムなどの弁作用を有す
る金属が用いられる。
(ケ)段落【0033】、【0054】によれば、陽極体の粗面化された表面に
酸化皮膜としての誘電体層が形成される。
オ よって、上記エ及び、上記イで述べた点も踏まえれば、引用文献4には、次の発明(以下、「引用発明4a」という。)も記載されている。
「コンデンサ素子を備え、電解液とともに、外装ケース内に収容されている電解コンデンサであって、
コンデンサ素子は、陽極体と陰極体とを備え、
陽極体は、アルミニウムなどの弁作用を有する金属が用いられ、
陽極体の粗面化された表面には酸化皮膜としての誘電体層が形成され、
陰極体は、エッチング処理により粗面化された外表面において細孔が開口し、アルミニウムなどの弁作用を有する金属が用いられる基材部と、基材部の外表面の少なくとも一部を覆い、導電性炭素から形成される無機導電層とを有し、
無機導電層は、導電性の無機材料とバインダとを含むペーストやスラリーを陰極体の表面に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥することで形成されるか、又は、塗膜を熱処理してバインダを除去することにより形成され、
電解液は、エチレングリコールとアゼライン酸を含む、電解コンデンサ。」
3 取消理由についての当審の判断
(1)令和5年3月31日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由
ア 理由5(明確性)について
上記「1(1)ア」のとおりの記載不備の指摘に対して、本件訂正により、請求項2に「電気化学的分極による分極曲線が、前記電管液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、」との限定が付加され、「第2電位範囲」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる」電位範囲であり、「第1電位範囲」とは重複しない電位範囲であることが明らかとなった。
よって、取消理由で指摘した不備な点は解消され、請求項2及び請求項2を引用する請求項3、6ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。
イ 理由6(サポート要件)について
本件特許明細書の段落【0056】、【0057】及び図1によれば、実施例1の陰極体は、ニトロ化合物を含まない電解液に浸漬させたとき、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度範囲である0.1μAcm-2以上0.3μAcm-2以下の範囲においても、比較例1の対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側の電位になっており、さらに、段落【0058】ないし【0060】及び表2によれば、実施例1の陰極体を用いた電解コンデンサの電解液にニトロ化合物を添加し、電流密度が0.1~0.3μAcm-2の漏れ電流を発生させた場合、電解コンデンサのケースの膨れが小さく、水素ガスの発生量が少量であり、水素ガスの抑制効果が大きかった(表2の「水素ガス抑制効果(ニトロ有)」の欄において「実施例1」は「○」である。)といえる。
してみると、本件特許明細書には、「ニトロ化合物が非含有の電解液に浸漬し、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であ」る「陰極体」を含むコンデンサ素子内に「ニトロ化合物」を充填した電解コンデンサは水素ガスをより抑制するという課題を解決できることが記載されているといえ、請求項8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
よって、請求項8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。
ウ 理由7(引用文献3に基づく進歩性)について
(ア)本件発明2について
a 対比
本件発明2と引用発明3とを対比する。
(a)引用発明3の「アルミニウムなどの弁作用金属が用いられ」る「陰極箔」は、本件発明2の「アルミニウムからなる陰極箔」に相当する。
(b)引用発明3の「カーボン層」は炭素材料であるから、引用発明3の「陰極箔」の「表面」に形成され「カーボン層」を有する「被覆層」は、本件発明2の「陰極箔の表面に形成され、炭素材料を含む導電層」に相当する。
(c)引用発明3の「電解コンデンサ」は本件発明2の「電解コンデンサ」に相当する。
そして、引用発明3における「陰極箔」と「被覆層」からなる電極構造は、本件発明2の「陰極箔」と「導電層」を備える「陰極体」に相当する。
(d)引用発明3の「陽極箔と陰極箔とを備えたコンデンサ素子」は「電解液とともに外装ケースに収容される」ことから、引用発明3の「陰極箔」と「被覆層」からなる電極構造は「電解液」に浸漬しているといえる。
そして、引用発明3の「電解液は、エチレングリコールとアゼライン酸を含」み、ニトロ化合物は含まれていないから、引用発明3の該電極構造は「エチレングリコールとアゼライン酸を含」み、ニトロ化合物は含まれていない「電解液」に浸漬しているといえ、本件発明2の「エチレングリコールにアゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有の電解液に浸漬」することに相当する。
(e)本件発明2は、「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、引用発明3はその旨特定されていない点で相違する。
(f)本件発明2は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明3はその旨特定されていない点で相違する。
(g)よって、本件発明2と引用発明3とは、
「電解コンデンサの陰極体であって、
アルミニウムからなる陰極箔と、
当該陰極箔の表面に形成され、炭素材料を含む導電層と、
を備え、
エチレングリコールにアゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有の電解液に浸漬している、陰極体。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明2は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、引用発明3はその旨特定されていない点。
(相違点2)
本件発明2は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明3はその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点2について判断する。
引用文献3には、「陰極箔」と「被覆層」からなる電極構造の「分極曲線」について記載や示唆もなく、ましてや、「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆もされていない。
そして、引用発明3の「陰極箔」と「被覆層」からなる電極構造の「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有するようにする理由も見当たらず、さらに、「陰極体」の「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有するように構成することが技術常識であるともいえない。
してみると、引用発明3に基づいて、「陰極箔」と「被覆層」からなる電極構造の「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有するようにすることを導き出すことはできない。
よって、相違点2に係る構成は、引用発明3に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
c 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和5年7月6日提出の意見書において、「上記相違点3に関する審判官合議体の判断は、第2電位範囲が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる」範囲であるか、それとも「水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる」範囲であるかという点に影響されるものではないため、令和5年6月2日付の訂正請求書による訂正が認められるか否かにかかわらず取消理由7は解消していない。」旨主張する。(4頁下から2行ないし5頁4行)
しかしながら、上記「ア」で述べたように、本件訂正により「第2電位範囲」が「水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる」電位範囲であることが明確となった。そして、上記bで検討したように、引用発明3に基づいて、「陰極箔」と「被覆層」からなる電極構造の「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有するようにすることを導き出すことはできないから、相違点2に係る構成は、引用発明3に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
してみれば、取消理由7は解消したといえ、特許異議申立人の主張は採用できない。
d 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、引用発明3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件発明3、本件発明6について
請求項3、請求項6は、請求項2をそれぞれ引用するものであり、本件発明3、6は、引用する本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明2に対する理由と同様な理由により、本件発明3、6は、引用発明3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)本件発明7について
a 対比
本件発明7と引用発明3aとを対比すると、上記「(ア)a」を踏まえれば、次の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点3)
本件発明7は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、引用発明3aはその旨特定されていない点。
(相違点4)
本件発明7は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明3aはその旨特定されていない。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点4について判断する。
相違点4は、上記相違点2と同じであるから、上記「(ア)b」で判断した理由と同様の理由により、相違点4に係る構成は、引用発明3に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
c 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、引用発明3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)まとめ
以上から、請求項2、3、6、7に係る発明は、引用文献3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項2、3、6、7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
エ 理由1(引用文献4に基づく新規性)について
(ア)本件発明2について
a 対比
本件発明2と引用発明4とを対比する。
(a)引用発明4の「陰極体」が有する「アルミニウムなどの弁作用を有する金属からなる金属箔が用いられる基材部」は、本件発明2の「アルミニウムからなる陰極箔」に相当する。
(b)引用発明4の「基材部の外表面」を覆う「導電性炭素から形成される無機導電層」は、本件発明2の「陰極箔の表面に形成され、炭素材料を含む導電層」に相当する。
(c)引用発明4の「電解コンデンサ」は本件発明2の「電解コンデンサ」に相当する。
そして、引用発明4における「基材部」と「無機導電層」とを有する「陰極体」は、本件発明2の「陰極体」に相当する。
(d)引用発明4の「陽極体と陰極体を備えたコンデンサ素子」は「電解液とともに外装ケースに収容される」から、引用発明4の「陰極体」は「電解液」に浸漬している。
そして、引用発明4の「電解液は、エチレングリコールとアゼライン酸を含」み、ニトロ化合物は含まれていないから、引用発明4の「陰極体」は「エチレングリコールとアゼライン酸を含」み、ニトロ化合物は含まれていない「電解液」に浸漬しているといえ、本件発明2の「エチレングリコールにアゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有の電解液に浸漬」することに相当する。
(e)本件発明2は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、引用発明4はその旨特定されていない点で相違する。
(f)本件発明2は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明4はその旨特定されていない点で相違する。
(g)よって、本件発明2と引用発明4とは、
「電解コンデンサの陰極体であって、
アルミニウムからなる陰極箔と、
当該陰極箔の表面に形成され、炭素材料を含む導電層と、
を備え、
エチレングリコールにアゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有の電解液に浸漬している、陰極体。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点5)
本件発明2は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、引用発明4はその旨特定されていない点。
(相違点6)
本件発明2は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明4はその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点6について判断する。
引用文献4には、「基材部」と「無機導電層」を備えた「陰極体」の「分極曲線」について記載や示唆もなく、ましてや、「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆もされていない。
そして、引用発明4の「基材部」と「無機導電層」を備えた「陰極体」を分極させて得られた「分極曲線」が、「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することが技術常識であるともいえない。
よって、相違点6は実質的な相違である。
c 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和5年7月6日提出の意見書において、次のように主張する。
(a)令和5年7月6日付で異議申立人が提出した意見書に掲載され、電解液11(アゼライン酸を5質量%含有し、ニトロ化合物が非含有であるエチレングリコール溶液)、電解液12(アゼライン酸アンモニウムを1.5質量%含有し、ニトロ化合物が非含有であるエチレングリコール溶液)、電解液13(アゼライン酸アンモニウムを5質量%含有し、ニトロ化合物が非含有であるエチレングリコール溶液)、電解液14(フタル酸トリエチルアミンを12質量%含有し、ニトロ化合物が非含有であるエチレングリコール溶液)中で、ポテンショスタットを用いて、陰極箔A(エッチングアルミニウム箔)、陰極箔C(エッチングアルミ箔にカーボン層を形成)、陰極箔D(東洋アルミニウム株式会社製のトーヤルカーボ○R(当審注:○Rは、Rの丸付き文字を表す。以下同様。))を、分極させときの分極曲線の結果である図M~Oは、同じ陰極箔を用いた場合でも、電解液の組成によって「第1電位範囲」と「第2電位範囲」を有する場合と有さない場合があることを明確に示している。ここで、追加で行った検証実険では、第1電位範囲と第2電位範囲が現れる電解液は、総じて塩基成分を含んでいるが、訂正特許請求の範囲の請求項2で特定される電解液は、アンモニアなどの塩基成分を含んでもよい電解液であり、上記電解液11、12、13と同一性を有する電解液であるから、検証実験で用いた陰極箔C(エッチングアルミ箔にカーボン層を形成)は、訂正特許請求の範囲の要件を全て満たしている。
よって、訂正特許請求の範囲に記載された本件発明2、3、6、7は、引用文献4に記載された発明であり、引用文献4から本件発明2に至る動機付けの有無を議論する余地もない。また、本件発明8は、引用文献4から容易に発明をすることができたものである。(9頁5行ないし11頁8行)
[図:0001404751000001.jpg]
(b)特許異議申立人は、電解液11、電解液12及び電解液13中で、ポテンショスタットを用いて陰極箔Cを分極させときの分極曲線の結果として図Nを提示しているものの、図Nを参酌しても、分極曲線が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有するとは理解できない。
また、特許異議申立人の主張は、「図M~Oは、同じ陰極箔を用いた場合でも、電解液の組成によって『第1電位範囲』と『第2電位範囲』を有する場合と有さない場合がある」、「追加で行った検証実険では、第1電位範囲と第2電位範囲が現れる電解液は、総じて塩基成分を含んでいる」との説明にとどまり、図Mないし図Oから、分極曲線が該「第2電位範囲」を有するといえる理由は見当たらず、またそれを裏付ける証拠も提出されていない。
してみると、引用発明4の「基材部」と「無機導電層」を備えた「陰極体」を分極させた場合、仮に、図Mないし図Oに示されるような「分極曲線」が得られたとしても、該「分極曲線」が「第2電位範囲」を有するのか不明である。
よって上記(a)の主張は採用できない。
d 小括
したがって、相違点6は実質的な相違であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、引用文献4に記載された発明ではない。
(イ)本件発明3、本件発明6について
請求項3、請求項6は、請求項2をそれぞれ引用するものであり、本件発明3、6は、引用する本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明2に対する理由と同様な理由により、本件発明3、6は、引用文献4に記載された発明ではない。
(ウ)本件発明7について
a 対比
本件発明7と引用発明4aとを対比すると、上記「(ア)a」を踏まえれば、次の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点7)
本件発明7は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、引用発明4aはその旨特定されていない点。
(相違点8)
本件発明7は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明4aはその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点8について判断する。
相違点8は上記相違点6と同じであり、上記相違点6に対する理由と同様な理由により実質的な相違である。
c 小括
したがって、相違点8は実質的な相違であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、引用文献4に記載された発明ではない。
(エ)まとめ
以上から、請求項2、3、6、7に係る発明は、引用文献4に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項2、3、6、7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
(2)令和4年11月10日付け取消理由通知に記載したその他の取消理由
本件訂正により、訂正前の請求項1、4、5は削除されたため、訂正後の請求項2、3、6ないし8について判断する。
ア 理由1(引用文献1ないし3に基づく新規性)について
アー1 引用文献1に基づく新規性について
(ア)本件発明2について
a 対比
本件発明2と引用発明1とを対比する。
(a)引用発明1の「アルミニウムなどの弁作用金属が用いられ」る「陰極箔」は、本件発明2の「アルミニウムからなる陰極箔」に相当する。
(b)引用発明1の「導電性カーボン」は炭素材料であるから、引用発明1の「陰極箔」の「粗面化した表面」に形成される「導電性カーボンからなる無機系導電層」は、本件発明2の「陰極箔の表面に形成され、炭素材料を含む導電層」に相当する。
(c)引用発明1の「電解コンデンサ」は本件発明1の「電解コンデンサ」に相当する。
そして、引用発明1における「陰極箔」と「無機系導電層」からなる電極構造は、本件発明2の「陰極箔」と「導電層」を備える「陰極体」に相当する。
(d)引用発明1の「陽極箔と陰極箔とを備えたコンデンサ素子」は「電解液とともに、外装ケース内に収容される」から、引用発明1の「陰極箔」と「無機系導電層」からなる電極構造は「電解液」に浸漬しているといえる。
そして、引用発明1の「電解液は、エチレングリコール」「を含む」ことから、引用発明1の該電極構造は「エチレングリコール」が用いられる「電解液」に浸漬しているといえ、本件発明2の「エチレングリコール」の「電解液に浸漬」することに対応する。
ただし、電解液に関し、本件発明2は「アゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」であるのに対し、引用発明1はその旨特定されていない点で相違する。
(e)本件発明2は、「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、引用発明1はその旨特定されていない点で相違する。
(f)本件発明2は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明1はその旨特定されていない点で相違する。
(g)よって、本件発明2と引用発明1とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点9)
電解液に関し、本件発明2は「アゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」であるのに対し、引用発明1はその旨特定されていない点。
(相違点10)
本件発明2は、「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、引用発明1はその旨特定されていない点。
(相違点11)
本件発明2は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明1はその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点11について判断する。
引用文献1には、「陰極箔」と「無機系導電層」からなる電極構造の「分極曲線」について記載や示唆はなく、ましてや、「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆もされていない。
そして、引用発明1の「陰極箔」と「無機系導電層」からなる電極構造を分極させて得られた「分極曲線」が、「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することが技術常識であるともえいない。
よって、相違点11は実質的な相違である。
c 特許異議申立人の主張について
(a)特許異議申立人は、令和5年2月28日提出の意見書において、異議申立書(48頁ないし53頁)に掲載した、電解液1(アゼライン酸を5質量%含有するエチレングリコール溶液)、電解液2(アゼライン酸を5質量%含有し、ニトロベンジルアルコールを2質量%含有するエチレングリコール溶液)、電解液4(フタル酸トリエチルアミンを5質量%含有するエチレングリコール溶液)、電解液5(フタル酸トリエチルアミンを5質量%含有し、ニトロベンジルアルコールを2質量%含有するエチレングリコール溶液)中で、ポテンショスタットを用いて陰極箔A(エッチングアルミニウム箔)、陰極箔C(エッチングアルミ箔にカーボン層を形成)、陰極箔D(東洋アルミニウム株式会社製のトーヤルカーボ○R)、陰極箔E(東洋アルミニウム株式会社製のトーヤルチタン○R)を分極させたときの分極曲線を示す図Aないし図Lを再掲し(7頁ないし12頁)、さらに、異義申立人が追加で行った検証実険により、電解液11(アゼライン酸を5質量%含有し、ニトロ化合物が非含有であるエチレングリコール溶液)、電解液12(アゼライン酸アンモニウムを1.5質量%含有し、ニトロ化合物が非含有であるエチレングリコール溶液)、電解液13(アゼライン酸アンモニウムを5質量%含有し、ニトロ化合物が非含有であるエチレングリコール溶液)、電解液14(フタル酸トリエチルアミンを12質量%含有し、ニトロ化合物が非含有であるエチレングリコール溶液)中で、ポテンショスタットを用いて、「(陰極箔A)エッチングアルミニウム箔」、「(陰極箔C)エッチングアルミ箔にカーボン層を形成」、「(陰極箔D)東洋アルミニウム株式会社製のトーヤルカーボ○R」を分極させたときの分極曲線の結果である図Mないし図Oを提示した(14頁ないし16頁)上で、次にように主張する。
・図A、C、E、G等、および追加検証実験の図M、N、Oでは、第1電位範囲に加え、図I、Jでは見られない第2電位範囲が存在する。(意見書第17頁6ないし8行)
・図A、C、E、G等および追加検証実験の図M、N、Oでは、第1電位範囲と第2電位範囲が存在し、かつ、特許異議申立書の少なくとも図A、C、E、Gが示すように、引用発明1乃至5は0.1μAcm-2以上0.3μAcm-2以下の漏れ電流の範囲に、第1電位範囲を有している。つまり、本件発明2と引用発明1乃至5との間に相違点は全くない。(意見書17頁23ないし27行を参照)
(b)しかしながら、上記「(1)エ(ア)c(d)」で検討したのと同様に、図A、C、E、G、図M、N、Oから、分極曲線が該「第2電位範囲」を有するといえる理由は見当たらず、またそれを裏付ける証拠も提出されていないから、引用発明1の「陰極箔」と「無機系導電層」からなる電極構造を分極させた場合、仮に、図A、C、E、G、図M、N、Oに示されるような「分極曲線」が得られたとしても、該「分極曲線」が「第2電位範囲」を有するのか不明である。
よって、異議申立人の主張は採用できない。
d 小括
したがって、相違点11は実質的な相違であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、引用文献1に記載された発明ではない。
(イ)本件発明3、本件発明6について
請求項3、請求項6は、請求項2をそれぞれ引用するものであり、本件発明3、6は、引用する本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明2に対する理由と同様な理由により、本件発明3、6は、引用文献1に記載された発明ではない。
(ウ)本件発明7について
a 対比
本件発明7と引用発明1aとを対比すると、上記「(ア)a」を踏まえれば、次の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点12)
電解液に関し、本件発明2は「アゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」であるのに対し、引用発明1aはその旨特定されていない点。
(相違点13)
本件発明2は、「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、引用発明1aはその旨特定されていない点。
(相違点14)
本件発明2は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明1aはその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点14について判断する。
相違点14は上記相違点11と同じであり、相違点11に対する理由と同様な理由により実質的な相違である。
c 小括
したがって、相違点14は実質的な相違であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、引用文献1に記載された発明ではない。
(エ)まとめ
以上から、請求項2、3、6、7に係る発明は、引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項2、3、6、7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
アー2 引用文献2に基づく新規性について
(ア)本件発明2について
a 対比
本件発明2と引用発明2とを対比する。
(a)引用発明2の「アルミニウムなどの弁作用金属が用いられ」る「陰極箔」は、本件発明2の「アルミニウムからなる陰極箔」に相当する。
(b)引用発明2の「導電性カーボン」は炭素材料であるから、引用発明2の「陰極箔上」に形成される「導電性カーボンを含むカーボン層」は、本件発明2の「陰極箔の表面に形成され、炭素材料を含む導電層」に相当する。
(c)引用発明2の「電解コンデンサ」は本件発明2の「電解コンデンサ」に相当する。
そして、引用発明2における「陰極箔」と「カーボン層」からなる電極構造は、本件発明2の「陰極箔」と「導電層」を備える「陰極体」に相当する。
(d)引用発明2の「陽極箔と陰極箔とを備えたコンデンサ素子」は「電解液とともに、外装ケース内に収容される」から、引用発明2の「陰極箔」と「カーボン層」からなる電極構造は「電解液」に浸漬しているといえる。
そして、引用発明2の「電解液はエチレングリコール」「を含む」ことから、引用発明2の該電極構造は「エチレングリコール」が用いられる「電解液」に浸漬しているといえ、本件発明2の「エチレングリコール」の「電解液に浸漬」することに対応する。
ただし、電解液に関し、本件発明2は「アゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」であるのに対し、引用発明2はその旨特定されていない点で相違する。
(e)本件発明2は、「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、引用発明2はその旨特定されていない点で相違する。
(f)本件発明2は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明2はその旨特定されていない点で相違する。
(g)よって、本件発明2と引用発明2とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点15)
電解液に関し、本件発明2は「アゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」であるのに対し、引用発明2はその旨特定されていない点。
(相違点16)
本件発明2は、「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、引用発明2はその旨特定されていない点。
(相違点17)
本件発明2は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明2はその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点17について判断する。
引用文献2には、「陰極箔」と「カーボン層」からなる電極構造の「分極曲線」について記載や示唆はなく、ましてや、「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆もされていない。
そして、引用発明2の「陰極箔」と「カーボン層」からなる電極構造を分極させて得られた「分極曲線」が、「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することが技術常識であるともいえない。
よって、相違点17は実質的な相違である。
c 小括
したがって、相違点17は実質的な相違であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、引用文献2に記載された発明ではない。
(イ)本件発明3、本件発明6について
請求項3、請求項6は、請求項2をそれぞれ引用するものであり、本件発明3、6は、引用する本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明2に対する理由と同様な理由により、本件発明3、6は、引用文献2に記載された発明ではない。
(ウ)本件発明7について
a 対比
請求項2を引用する請求項7に係る本件発明7と引用発明2aとを対比すると、上記「(ア)a」を踏まえれば、次の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点18)
電解液に関し、本件発明7は「アゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」であるのに対し、引用発明2aはその旨特定されていない点。
(相違点19)
本件発明7は、「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、引用発明2aはその旨特定されていない点。
(相違点20)
本件発明7は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明2aはその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点20について判断する。
相違点20は上記相違点17と同じであり、相違点17に対する理由と同様な理由により実質的な相違である。
c 小括
したがって、相違点20は実質的な相違であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、引用文献2に記載された発明ではない。
(エ)まとめ
以上から、請求項2、3、6、7に係る発明は、引用文献2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項2、3、6、7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
アー3 引用文献3に基づく新規性について
(ア)本件発明2について
a 対比
上記「(1)ウ(ア)a」において検討したように、本件発明2と引用発明3とは、以下の点で相違し、その余の点で相違する。
(相違点1)
本件発明2は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側である」のに対し、引用発明3はその旨特定されていない点。
(相違点2)
本件発明2は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明3はその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点2について判断する。
上記「(1)ウ(ア)b」で述べたように、引用文献3には、「陰極箔」と「被覆層」を備えた電極構造の「分極曲線」について記載や示唆もなく、ましてや、「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆もされていない。
そして、引用発明3の「陰極箔」と「被覆層」を備えた電極構造を分極させて得られた「分極曲線」が、「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することが技術常識であるともいえない。
よって、相違点2は実質的な相違である。
c 小括
したがって、相違点2は実質的な相違であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、引用文献3に記載された発明ではない。
(イ)本件発明3、本件発明6について
請求項3、請求項6は、請求項2をそれぞれ引用するものであり、本件発明3、6は、引用する本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明2に対する理由と同様な理由により、本件発明3、6は、引用文献3に記載された発明ではない。
(ウ)本件発明7について
a 上記「(1)ウ(ウ)a」において検討したように、本件発明7と引用発明3aとは、以下の点で相違し、その余の点で相違する。
(相違点3)
本件発明7は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、引用発明3aはその旨特定されていない点。
(相違点4)
本件発明7は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明3aはその旨特定されていない。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点4について判断する。
相違点4は上記相違点2と同じであり、相違点2に対する理由と同様な理由により実質的な相違である。
c 小括
したがって、相違点4は実質的な相違であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、引用文献3に記載された発明ではない。
(エ)本件発明8について
a 対比
上記「(1)ウ(ア)a」において検討した点も踏まえて、本件発明8と引用発明3aとを対比する。
(a)引用発明3aにおける「誘電体層」は、「エッチング処理により」「粗面化された」「陽極箔の表面」に「化成処理により形成」され、「化成処理は金属箔をアジピン酸アンモニウム溶液に浸漬し熱処理し、電圧を印加する処理であ」ることから、酸化皮膜であるといえ、本件発明8の「誘電体酸化皮膜」に相当する。
そして、本件特許明細書の段落【0042】に「陽極体は、弁作用金属を材料とする陽極箔の表面に誘電体酸化皮膜が形成されて成る。」と記載されているから、引用発明3aの「アルミニウムなどの弁作用金属が用いられ」「表面」に「誘電体層が形成され」る「陽極箔」は、本件発明8の「陽極体」に相当する。
してみると、引用発明3aの「化成処理により誘電体層が形成され」た「陽極箔と陰極箔」とを備える「コンデンサ素子」は、本件発明8の「誘電体酸化皮膜が形成された陽極体と前記陰極体とを含むコンデンサ素子」に相当する。
(b)引用発明3aの「コンデンサ素子」は「電解液とともに、外装ケース内に収容されている」ことから、該「電解液」は「コンデンサ素子」内に充填されている電解質といえ、本件発明8の「電解質」に相当する。
(c)本件発明8は「コンデンサ素子内に充填された」「ニトロ化合物」を備えるのに対し、引用発明3aはその旨特定されていない点で相違する。
(d)引用発明3aの「電解コンデンサ」は本件発明8の「電解コンデンサ」に相当する。
(e)上記(a)ないし(d)、及び、上記「(1)ウ(ア)a」において検討した点も踏まえると、本件発明8と引用発明3aとは、次の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点21)
本件発明8は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、引用発明3aはその旨特定されていない点。
(相違点22)
本件発明8は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明3aはその旨特定されていない。
(相違点23)
本件発明8は「コンデンサ素子内に充填された」「ニトロ化合物」を備えるのに対し、引用発明3aはその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点22について判断する。
相違点22は上記相違点2と同じであり、相違点2に対する判断と同様な理由により実質的な相違である。
c 小括
したがって、相違点22は実質的な相違であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、引用文献3に記載された発明ではない。
アー4 まとめ
以上から、請求項2、3、6ないし8に係る発明は、引用文献3に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項2、3、6ないし8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
イ 理由2(引用文献1及び3、引用文献2及び3、引用文献4及び3に基づく進歩性)
イー1 本件発明8に対する引用文献1及び引用文献3に基づく進歩性について
(ア)対比
上記「ア アー1(ア)a」で検討した点も踏まえて、本件発明8と引用発明1aと対比する。
a 引用発明1aにおける「誘電体層」は、「陽極箔の」「エッチング処理により粗面化され」「た表面」に「化成処理により形成」され、「化成処理は金属箔をアジピン酸アンモニウム溶液に浸漬し必要に応じて電圧を印加する処理であ」ることから、酸化皮膜であるといえ、本件発明8の「誘電体酸化皮膜」に相当する。
そして、本件特許明細書の段落【0042】に「陽極体は、弁作用金属を材料とする陽極箔の表面に誘電体酸化皮膜が形成されて成る。」と記載されているから、引用発明1aの「アルミニウムなどの弁作用金属が用いられ」、「表面」に「誘電体層が形成され」る「陽極箔」は、本件発明8の「陽極体」に相当する。
してみると、引用発明1aの「化成処理により誘電体層が形成され」た「陽極箔と陰極箔」とを備える「コンデンサ素子」は、本件発明8の「誘電体酸化皮膜が形成された陽極体と前記陰極体とを含むコンデンサ素子」に相当する。
b 引用発明1aの「コンデンサ素子」は「電解液とともに、外装ケース内に収容されている」ことから、該「電解液」は「コンデンサ素子」内に充填されている電解質といえ、本件発明8の「電解質」に相当する。
c 本件発明8は「コンデンサ素子内に充填された」「ニトロ化合物」を備えるのに対し、引用発明1aはその旨特定されていない点で相違する。
d 引用発明1aの「電解コンデンサ」は,本件発明8の「電解コンデンサ」に相当する。
e 上記aないしd、及び、上記「ア アー1(ア)a」で検討した点も踏まえると、本件発明8と引用発明1aとは、次の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点24)
電解液に関し、本件発明8は「アゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」であるのに対し、引用発明1aはその旨特定されていない点。
(相違点25)
本件発明8は、「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、引用発明1aはその旨特定されていない点。
(相違点26)
本件発明8は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明1aはその旨特定されていない点。
(相違点27)
本件発明8は「コンデンサ素子内に充填された」「ニトロ化合物」を備えるのに対し、引用発明1aはその旨特定されていない点。
(イ)相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点26について検討する。
上記「ア アー1(ア)b」で述べたように、引用文献1には、「陰極箔」と「無機系導電層」からなる電極構造の「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆はされておらず、また、引用発明1aの「陰極箔」と「無機系導電層」からなる電極構造の「分極曲線」が該「第2電位範囲」を有するようにする理由も見当たらない。
そして、引用文献3の段落【0013】ないし【0016】、【0046】によれば、「陽極箔と陰極箔とを備えたコンデンサ素子を電解液とともに外装ケースに収容した電解コンデンサにおいて、電解液に含ませる溶質としてニトロ化合物を用いること」の技術(以下、「引用文献3に記載された技術」という。)が記載されているものの、上記「(1)ウ(ア)b」で述べたように、「陰極体」の「分極曲線」について記載や示唆もなく、ましてや、「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆もされていない。
してみると、引用発明1aに引用文献3に記載された技術を採用したとしても、「陰極箔」と「導電性カーボンからなる無機系導電層」からなる電極構造の「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することを導き出すことはできない。
よって、相違点26に係る構成は、引用発明1a及び引用文献3に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
(ウ)小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、引用発明1a及び引用文献3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イー2 本件発明8に対する引用文献2及び引用文献3に基づく進歩性について
(ア)対比
上記「ア アー2(ア)a」で検討した点も踏まえて、本件発明8と引用発明2aと対比する。
a 引用発明2aにおける「誘電体層」は、「陽極箔の」「エッチング処理により」「粗面化された表面に化成処理により」「形成され」、「化成処理は金属箔をアジピン酸アンモニウム溶液に浸漬し必要に応じて電圧を印加する処理であ」ることから、酸化皮膜であるといえ、本件発明8の「誘電体酸化皮膜」に相当する。
そして、本件特許明細書の段落【0042】に「陽極体は、弁作用金属を材料とする陽極箔の表面に誘電体酸化皮膜が形成されて成る。」と記載されているから、引用発明2aの「アルミニウムなどの弁作用金属が用いられ」「表面」に「誘電体層が形成され」る「陽極箔」は、本件発明8の「陽極体」に相当する。
してみると、引用発明2aの「化成処理により誘電体層が形成され」た「陽極箔と陰極箔」とを備える「コンデンサ素子」は、本件発明8の「誘電体酸化皮膜が形成された陽極体と前記陰極体とを含むコンデンサ素子」に相当する。
b 引用発明2aの「コンデンサ素子」は「電解液とともに、外装ケース内に収容されている」ことから、該「電解液」は「コンデンサ素子」内に充填されている電解質といえ、本件発明8の「電解質」に相当する。
c 本件発明8は「コンデンサ素子内に充填された」「ニトロ化合物」を備えるのに対し、引用発明2aはその旨特定されていない点で相違する。
d 引用発明2aの「電解コンデンサ」は本件発明8の「電解コンデンサ」に相当する。
e 上記aないしd、及び、上記「ア アー2(ア)a」で検討した点も踏まえると、本件発明8と引用発明2aとは、次の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点28)
電解液に関し、本件発明8は「アゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」であるのに対し、引用発明2aはその旨特定されていない点。
(相違点29)
本件発明8は、「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、引用発明2aはその旨特定されていない点。
(相違点30)
本件発明8は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明2aはその旨特定されていない点。
(相違点31)
本件発明8は「コンデンサ素子内に充填された」「ニトロ化合物」を備えるのに対し、引用発明2aはその旨特定されていない点
(イ)相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点30について検討する。
上記「ア アー2(ア)b」で述べたように、 引用文献2には、「陰極箔」と「カーボン層」からなる電極構造の「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆もされておらず、また、引用発明2aの「陰極箔」と「カーボン層」からなる電極構造の「分極曲線」が該「第2電位範囲」を有するようにする理由も見当たらない。
そして、上記「イー1(イ)」で述べたように、引用文献3には「引用文献3に記載された技術」が記載されているものの、「陰極体」の「分極曲線」について記載や示唆もなく、ましてや、「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆もされていない。
してみると、引用発明2aに引用文献3に記載された技術を採用したとしても、「陰極箔」と「カーボン層」からなる電極構造の「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することを導き出すことはできない。
よって、相違点30に係る構成は、引用発明2a及び引用文献3に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
(ウ)小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、引用発明2a及び引用文献3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イー3 本件発明8に対する引用文献4及び引用文献3に基づく進歩性について
(ア)対比
上記「(1)エ(ア)a」で検討した点も踏まえて、本件発明8と引用発明4aと対比する。
a 引用発明4aにおける「陽極体の粗面化された表面」に形成される「酸化皮膜としての誘電体層」は、本件発明8の「誘電体酸化皮膜」に相当する。
よって、引用発明4aの「酸化皮膜としての誘電体層」が形成された「陽極体」と「陰極体」とを備える「コンデンサ素子」は、本件発明8の「誘電体酸化皮膜が形成された陽極体と前記陰極体とを含むコンデンサ素子」に相当する。
b 引用発明4aの「コンデンサ素子」は「電解液とともに、外装ケース内に収容されている」ことから、該「電解液」は「コンデンサ素子」内に充填されている電解質といえ、本件発明8の「電解質」に相当する。
c 本件発明8は「コンデンサ素子内に充填された」「ニトロ化合物」を備えるのに対し、引用発明4aはその旨特定されていない点で相違する。
d 引用発明4aの「電解コンデンサ」は本件発明8の「電解コンデンサ」に相当する。
e 上記aないしdから、「(1)エ(ア)a」で検討した点も踏まえれば、本件発明8と引用発明4aとは、次の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点32)
本件発明8は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、引用発明4aはその旨特定されていない点。
(相違点33)
本件発明8は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、引用発明4aはその旨特定されていない点。
(相違点34)
本件発明8は「コンデンサ素子内に充填された」「ニトロ化合物」を備えるのに対し、引用発明4aはその旨特定されていない点。
(イ)相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点33について判断する。
上記「(1)エ(ア)b」で述べたように、引用文献4には、「基材部」と「無機導電層」を備えた「陰極体」の「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆もされておらず、また、引用発明4aの「基材部」と「無機導電層」を備えた「陰極体」の「分極曲線」が該「第2電位範囲」を有するようにする理由も見当たらない。
そして、上記「イー1(イ)」で述べたように、引用文献3には「引用文献3に記載された技術」が記載されているものの、「陰極体」の「分極曲線」について記載や示唆もなく、ましてや、「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆もされていない。
してみると、引用発明4aに引用文献3に記載された技術を採用したとしても、「基材部」と「無機導電層」を備えた「陰極体」の「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することを導き出すことはできない。
よって、相違点33に係る構成は、引用発明4a及び引用文献3に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
(ウ)小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、引用発明4a及び引用文献3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イー4 まとめ
以上から、請求項8に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された技術に基づいて、引用文献2に記載された技術及び引用文献3に記載された技術に基づいて、引用文献4に記載された発明及び引用文献3に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
ウ 理由3(サポート要件)について
上記「1(2)イ(ア)」のとおりの記載不備の指摘に対して、本件訂正により、訂正前の請求項2に記載された「陰極箔」が「アルミニウムからなる」との限定が付加され、「陰極箔」の材料が明らかとなった。
また、上記「1(2)イ(イ)」のとおりの記載不備の指摘に対して、本件訂正により、訂正前の請求項2に記載された「電解液」について「エチレングリコールにアゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」との限定が付加され、「電解液」の組成が明らかとなった。
よって、取消理由で指摘した不備な点は解消され、請求項2及び請求項2を引用する請求項3、6ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。
エ 理由4(明確性)について
上記「1(2)ウ」のとおりの記載不備の指摘に対して、本件訂正により、訂正前の請求項2に記載された「電解液」について「エチレングリコールにアゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有の」との限定が付加され、「電解液」の組成が明確となった。
よって、取消理由で指摘した不備な点は解消され、請求項2及び請求項2を引用する請求項3、6ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(実施可能要件)
本件明細書の【0055】には、「分極曲線は、3電極式によって測定した。具体的には、各陰極体及び対照陰極箔を2×5cmの大きさに切り取って作用極とし、参照極を銀一塩化銀電極とし、対極をSUS304のステンレスメッシュとし、これら電極を電解液に浸漬した。電解液は、溶存酸素濃度を0.4~1.0mgL-1の範囲に調整された。」と記載されているが、溶存酸素濃度以外の電解液の組成は不明である。
さらに、本件特許明細書の【0055】には、「分極曲線を参照しながら、電解コンデンサの漏れ電流範囲に対応する電位が、比較例1の対照陰極箔の自然浸漬電位を上回るようにした。」とのみ記載されており、どのようにして実施例1ないし6の陰極体の「電解コンデンサの漏れ電流範囲に対応する電位が、比較例1の対照陰極箔の自然浸漬電位を上回るように」したのかが記載されていない。
以上のように、当業者が、本件発明1~8を実施しようとした場合に、どのように実施するかを理解できないため、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されていない。(33頁1行ないし34頁16行)
(2)申立理由2(サポート要件)
ア 本件発明1、2について
(ア)電解液の組成によって自然浸漬電位が変化することは技術常識であり、また、本件特許明細書の表1から算出した比較例1の対照陰極箔と各実施例の陰極箔との電位差を示す下記表に示したように、電解液の組成が相違すれば、対照陰極箔(比較例1)と自然浸漬電位との電位差は大きく変動するのであるから、本件発明1,2の「前記弁作用金属と同種で純度99.99%以上の対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であること」、および、「・・当該電流に対応する電位が、対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.15V以上もしくは0.3V以上貴側であること」が、どのような電解液においても常に技術的意義を有するとはいえず、0.15V、0.3Vの臨界的意義について本件特許明細書にサポートがあるとはいえない。(36頁3行ないし37頁8行)
(イ)また、本件特許明細書には、導電層を有するにもかかわらず、本件発明1、2の「当該電流に対応する電位が、・・・対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり」、「電解液がニトロ化合物を含む場合・・・、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.15V以上貴側であること」「電解液がニトロ化合物を含まない場合、・・・、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であること」のいずれかが満たされない例が挙げられていないので、「0.15V以上もしくは0.3V以上」という電位差に「従来技術」を超える技術的意義があるのか、それとも、単に「従来から存在する技法」で導電層を形成すれば、「0.15V以上もしくは0.3V以上」が満たされるのかが把握できない。(38頁7ないし16行)
(ウ)さらに、本件特許明細書の段落【0034】ないし【0037】の記載によれば、対照陰極箔の自然浸漬電位より0.4V以上貴側の自然浸漬電位を有する陰極体であれば、「電解液がニトロ化合物を含む場合、・・・、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.15V以上貴側である」、「電解液がニトロ化合物を含まない場合、・・・、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側である」ことも満たされるはずであるといえるが、「0.4V以上」という電位差に「従来技術」を超える技術的意義があるのか、それとも、単に「従来から存在する技法」で導電層を形成すれば、その材料に由来する本質的性質として当然に、「0.4V以上」が満たされるのかも把握できない。(38頁17行ないし39頁15行)
イ 本件発明3について
本件特許明細書の【0039】に「尚、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の一般的な範囲は、0.1μAcm-2以上0.3μAcm-2以下とする。」と記載されているように、漏れ電流の電流密度の範囲は技術常識に過ぎず、本件発明において、漏れ電流の電流密度の範囲を常識的な範囲に限定することに技術的意義はない。(40頁1ないし9行)
ウ 本件発明4について
本件発明4の「分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる電位範囲とが対応すること」は、「当該電流に対応する電位が、・・・対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側である」、「電解液がニトロ化合物を含む場合、・・・、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.15V以上貴側である」「電解液がニトロ化合物を含まない場合、・・・、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側である」が達成されることの結果に過ぎず、サポート要件があるとも言えない。(40頁10ないし24行)
エ 本件発明5ないし8について
本件発明5~8が規定する構成要件は、いずれも既に述べたサポート要件の不足を補うものではない。(40頁25ないし27行)
(3)申立理由3(明確性)
本件発明1の「炭素材料」を含む導電層は、本件特許明細書の【0027】から読み取れる「炭素材」、すなわち「繊維状炭素、炭素粉末、又はこれらの混合」という意味であるのか、それとも、令和3年10月8日付の意見書から読み取れる「炭素原子を含む導電層」という意味かが不明確である。特許権者が令和3年10月8日付で提出した意見書には、「導電層に炭素材料が含まれるという補正は、例えば願書に最初に添付した明細書等(以下、当初明細書等という)の段落0025に基づきます。段落0025には、「導電層は、導電性材料を含有し、・・・導電性材料としては、例えば炭素材、チタン、窒化チタン、炭化チタン、炭化アルミニウム、及びこれらの複合材又は混合材が挙げられる。」と記載されています。」と述べられており、その主張は、実施例1のカーボンのみならず、実施例3のTiC、実施例4のC/Ti、実施例5のAl4C3+TiO2なども炭素材料に含める趣旨と解釈される。しかし、そのような無機化合物が実施例に含まれるならば、「炭素材料」の範囲が明確に把握できず、例えば、導電性高分子のような有機化合物までも導電層に含まれると解釈される可能性がある。(41頁8ないし23行)
(4)申立理由4(新規性)
請求項8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明であるから、特許第29条第1項第3号に該当し、請求項8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(5)申立理由5(進歩性)
請求項1ないし8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基いて、甲第2号証に記載された発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基いて、甲第3号証に記載された発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基いて、甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 提出された証拠
異議申立人が提出した証拠は次のとおりである。
甲第1号証:再公表特許第2016/174806号
甲第2号証:再公表特許第2016/174807号
甲第3号証:再公表特許第2017/090241号
甲第4号証:特開2019-179884号公報
甲第5号証:特許第2687299号公報
甲第6号証:特許第2618281号公報
甲第7号証:井上 英俊、Product Report 製品紹介 2012年 冬、電極用複合材料 トーヤルカーボ○R、東洋アルミニウム株式会社コアテクノロジーセンター 研究開発室
(https://www.toyal.co.jp/tech_report/pdf/haku_material/tr_hkm2012_010.pdf)
甲第8号証:中山 邦彦、Product Report 製品紹介 2012年 春、電極用複合材料 トーヤルチタン○R、東洋アルミニウム株式会社箔事業本部 素材箔事業部 新機能材技術部
(https://www.toyal.co.jp/tech_report/pdf/haku_material/tr_hkm2012_0 30.pdf)
3 甲各号証の記載事項
(1)甲第1号証ないし甲第4号証
甲第1号証ないし甲第4号証は取消理由通知(決定の予告)等において引用した引用文献1ないし引用文献4である。
また、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された事項は、上記「第4 2」の「(1)」ないし「(4)」で述べたとおりである。
そして、甲第1号証には、上記「第4 2(1)」の「ウ」及び「オ」で述べた「引用発明1」及び「引用発明1a」と同じ構成である発明(以下、「甲1発明」、「甲1発明a」という。)が、甲2号証には、上記「第4 2(2)」の「ウ」及び「オ」で述べた「引用発明2」及び「引用発明2a」と同じ構成である発明(以下、「甲2発明」、「甲2発明a」が、甲3号証には、上記「第4 2(3)」の「ウ」及び「オ」で述べた「引用発明3」及び「引用発明3a」と同じ構成である発明(以下、「甲3発明」、甲3発明a」という。)が、甲第4号証には、上記「第4 2(4)」の「ウ」及び「オ」で述べた「引用発明4」及び「引用発明4a」と同じ構成である発明(以下、「甲4発明」、「甲4発明a」という。)が、それぞれ記載されている。
(2)甲第5号証
ア 甲第5号証には、図面とともに、次の事項が記載されている。(下線は、当審で付与した。)
「【請求項1】200℃~450℃に加熱した高純度アルミニウム表面に、窒素を含む全圧が1×10-1~1×10-4Torrの雰囲気中で、チタンの窒化物からなる蒸着層を陰極アーク蒸着法によって形成することを特徴とする電解コンデンサ用アルミニウム電極の製造方法。」
イ 上記アによれば、甲第5号証には、次の技術(以下、「甲第5号証に記載された技術」という。)が記載されている。
「電解コンデンサ用アルミニウム電極において、200℃~450℃に加熱した高純度アルミニウム表面に、窒素を含む全圧が1×10-1~1×10-4Torrの雰囲気中で、チタンの窒化物からなる蒸着層を陰極アーク蒸着法によって形成すること。」
(3)甲第6号証
ア 甲第6号証には、図面とともに、次の事項が記載されている。(下線は、当審で付与した。)
「【請求項1】高純度アルミニウム表面に、チタン、バナジウム、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、タングステンから選ばれたいずれか金属の炭窒化物からなる薄膜を形成したことを特徴とする電解コンデンサ用アルミニウム電極。
【請求項2】炭化水素ガスおよび窒素ガスを含む雰囲気中で、チタン、バナジウム、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、タングステンから選ばれたいずれか金属をターゲットとして、陰極アーク蒸着法によって高純度アルミニウム表面に前記金属の炭窒化物からなる蒸着層を形成することを特徴とする電解コンデンサ用アルミニウム電極の制御方法。」
イ 上記アによれば、甲第6号証には、次の技術(以下、「甲第6号証に記載された技術」という。)が記載されている。
「電解コンデンサ用アルミニウム電極において、炭化水素ガスおよび窒素ガスを含む雰囲気中で、陰極アーク蒸着法によって高純度アルミニウム表面に、チタン、バナジウム、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、タングステンから選ばれたいずれか金属の炭窒化物からなる蒸着層を形成すること。」
(4)甲第7号証
ア 甲第7号証には、図面とともに、次の事項が記載されている。(下線は、当審で付与した。)
「【1.特徴】
アルミニウム箔の表面には、アルミ酸化皮膜が存在し、この酸化物が電子移動する際の電気抵抗を増加させてしまう。古くからこの電気抵抗を下げる手段として、導電性カーボン粒子をアルミニウム箔の表面にコートする処方が一般的に行なわれている。ところが、カーボン粒子の固定に有機バインダーを用いると、このバインダーは抵抗成分であり、長期間使用すると劣化してカーボン粒子が剥離する問題があった。当社独自の技術として、炭化水素の雰囲気の中でアルミニウム箔を高温に加熱すると、アルミニウムカーバイドが生成することを発見した。「トーヤルカーボ○R」(図1)は、この現象を利用して有機成分を使わずカーボン粒子をアルミニウム箔表面に固定したもので、非常に優れた導電性と高温耐久性を示す。」(1頁目左欄1ないし19行)
「【2.製法】
アルミニウム箔の厚さは、20・30・50μmの3種類。その表面に厚さ1μm片面になる様に調整したカーボン粒子を両面にコートし、炭化水素の雰囲気で873K以上の温度で保持することでAl4C3が生成し、アルミニウム箔にカーボン粒子を固着する(図2・3)。」(1頁目右欄1ないし8行)
「【4.用途】
優れた電気伝導性と安定した耐熱性を兼ね備えた複合材料なので、以下の用途が挙げられる。
・機能性固体高分子コンデンサの陰極。特に、パソコン用などの低ESR・小型化の性能を求められる商品に最適(図6)。」(2頁目右欄1ないし8行)
イ 上記アによれば、甲第7号証には、次の技術(以下、「甲第7号証に記載された技術」という。)が記載されている。
「機能性固体高分子コンデンサの陰極において、アルミニウム箔の表面にカーボン粒子をコートし、炭化水素の雰囲気で873K以上の温度で保持することでAl4C3が生成し、アルミニウム箔にカーボン粒子を固着すること。」
(5)甲第8号証
ア 甲第8号証には、図面とともに、次の事項が記載されている。(下線は、当審で付与した。)
「【1.トーヤルチタン○Rとは?】
当社では、独自の技術として、「炭化水素の雰囲気中でアルミニウム箔を高温にする」とアルミニウムカーバイド(Al4C3)が生成する事を見出している。この現象を利用し、アルミニウム箔表面にAl4C3によって各種粒子を固定した電極用複合材料が「トーヤルカーボ○R」及び「トーヤルチタン○R」である。
図1に示すように、「トーヤルチタン○R」では微粒子の酸化チタンをアルミニウム箔表面に固定している。その構造から、標準仕様品で4,000μF/cm2もの非常に高い静電容量と、高い耐水和性を示す事などエッチドアルミ箔には無い魅力的な特徴を多数有している。」(1頁目左欄1ないし16行)
「【2.製法】
図3に「トーヤルチタン○R」の製造工程を示す。厚さ30μmのアルミニウム箔の表面に、厚さ2.5μm/片面となる様に微粒子酸化チタンを両面にコートし、炭化水素の雰囲気中で873K以上の温度で保持することでAl4C3が生成し、アルミニウム箔表面に酸化チタン粒子を固着させている。」(1頁目右欄1ないし8行)
「【4.用途】
・・中略・・・
液系アルミ電解コンデンサの陰極
特に低圧のコンデンサにおいて、陰極をエッチド箔から「トーヤルチタン○R」にそのまま置き換えるだけでコンデンサ全体の容量が最大1.5倍程度UPする。
また図6に示すように、定格6.3V1,500μFのコンデンサを作製する場合では、コンデンサ自身を小型化(体積40%減)する事ができ、陽極箔の使用量が約30%減る等、部材の使用量低減でコンデンサ全体でのコストダウンが可能となる。」(2頁目右欄1ないし15行)
イ 上記アによれば、甲第8号証には、次の技術(以下、「甲第8号証に記載された技術」という。)が記載されている。
「液系アルミ電解コンデンサの陰極において、アルミニウム箔の表面に、微粒子酸化チタンをコートし、炭化水素の雰囲気中で873K以上の温度で保持することでAl4C3が生成し、アルミニウム箔表面に酸化チタン粒子を固着させること。」
4 申立理由に対する当審の判断
本件訂正により、訂正前の請求項1、4、5は削除されたため、訂正後の請求項2、3、6ないし8について判断する。
(1)申立理由1(実施可能要件)について
ア 本件特許明細書の段落【0058】の「このような実施例1乃至6の陰極体及び比較例1の対照陰極箔を用いて電解コンデンサを作製した。・・・。陰極体と陽極体との間にクラフト製のセパレータが挟み込まれ、陽極体とセパレータと陰極体の積層体を巻回した。巻回体に電解液を含浸させてコンデンサ素子を完成させた。電解液は、エチレングリコールにアゼライン酸を添加して作製された。電解液は、二種類とし、一方の電解液にはニトロ化合物としてパラニトロベンジルアルコールを2wt%の割合で添加した。」との記載からすれば、電解コンデンサの「電解液」として、エチレングリコールにアゼライン酸を添加して作製し、ニトロ化合物が添加されていない電解液を用いることが記載されている。
そして、本件特許明細書の段落【0003】、【0008】によれば、本件発明は、電解液が、漏れ電流によって、陽極箔に形成された誘電体酸化皮膜の劣化や損傷等の劣化部を修復する際に、陰極側では水素ガスが発生するため、当該水素ガスの発生を抑制する陰極体及びこの陰極体を備える電解コンデンサを提供するという課題を解決するために成されたものであるから、電解コンデンサの漏れ電流範囲に対応する電位が、対照陰極箔の自然浸漬電位を上回るように陰極箔に形成する導電層を調整する場合(段落【0030】、【0055】を参照)、該電位を確認するための分極曲線を測定する際の電解液は、電解コンデンサを構成する電解液と同じ組成のものを使用することは当然想定されていることである。
イ また、本件特許明細書の段落【0030】に「例えば、陰極箔に対する導電層の被覆率、導電層の表面積、又は導電層の構成材料や含有比率等によって調整し、漏れ電流の電流密度の範囲に対する電位範囲が対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側にくるようにすればよい。」と記載からすれば、本件特許明細書には、「漏れ電流の電流密度の範囲に対する電位」を調整するための具体的な方法が記載されているといえる。
ウ 以上からすれば、特許異議申立人の主張は採用できず、発明の詳細な説明は、本件発明2、3、6ないし8を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
よって、請求項2、3、6ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
(2)申立理由2(サポート要件)について
ア 本件発明2について
(ア)上記「第4 1(2)イ(イ)」のとおりの記載不備の指摘に対して、本件訂正により、訂正前の請求項2に記載された「電解液」について「エチレングリコールにアゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」との限定が付加され、「電解液」の組成が明らかとなった。
また、本件特許明細書の段落【0033】に「漏れ電流が流れているときの陰極体の電位は、電解液がニトロ化合物を含まない場合、対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側にする。0.3V以上貴側にすると、対照陰極箔における水素ガス発生量と比べて、陰極体の水素ガス発生の抑制効果が特に良好になる。」と、同段落【0058】に「このような実施例1乃至6の陰極体及び比較例1の対照陰極箔を用いて電解コンデンサを作製した。・・・。電解液は、エチレングリコールにアゼライン酸を添加して作製された。電解液は、二種類とし、一方の電解液にはニトロ化合物としてパラニトロベンジルアルコールを2wt%の割合で添加した。」と、同段落【0063】に「特に、実施例1、5及び6の陰極体を備えた電解コンデンサには、ニトロ化合物が非含有の電解液を用いた場合であっても、水素ガスの高い抑制効果が生じている。図(4n-3)及び図(4n-2)の分極曲線のうち、漏れ電流の範囲に対応する電位範囲を見比べると、実施例1、5及び6の分極曲線を示す図1、2、17、18、21及び22では、比較例1の対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側の電位が確保されていることが確認できる。即ち、電解液にニトロ化合物が含まれない条件下では、漏れ電流の範囲に対する電位が対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側である陰極体は、水素ガスを抑制する効果が特に高いことが確認された。」とそれぞれ記載されており、図1、2、17、18、21及び22には、漏れ電流の範囲に対応する電位が対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側にあることが見て取れる。
してみると、「電解液」の組成が規定された本件発明2において、漏れ電流の範囲に対する電位が対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側とすることにより水素ガス発生の抑制効果を高くできるという技術的意義を有するといえ、「従来技術」を超える技術的意義があることは十分把握できる。
(イ)本件発明2には、「対照陰極箔の自然浸漬電位より0.4V以上貴側」であることは何ら規定されていないことから、「対照陰極箔の自然浸漬電位より0.4V以上貴側」であることに基づく特許異議申立人の主張は採用できない。
イ 本件発明3について
請求項3の「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲は、0.1μAcm-2以上0.3μAcm-2以下であること」との記載は、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲を「0.1μAcm-2以上0.3μAcm-2以下」に規定するものである。
そして、本件発明は、電解コンデンサにおいて、漏れ電流による陽極箔に形成された誘電体酸化皮膜の劣化や損傷等の劣化部の修復時における水素ガスの発生をより抑制するという課題(本件特許明細書段落【0003】ないし【0008】を参照)を解決するためになされたものであることから、当該漏れ電流の電流密度の範囲を規定することに技術的意義があることは明らかである。
ウ 本件発明6ないし8について
上記ア、イで述べたように、本件発明2に対する特許異議申立人の主張は採用できないことから、本件発明6ないし8に特許異議申立人の主張に基づく記載不備があるといえない。
エ まとめ
以上から、特許異議申立人の主張は採用できず、本件発明2、3、6ないし8は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえない。
よって、請求項2、3、6ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
(3)申立理由3(明確性)について
本件発明2の「炭素材料を含む導電層」に関し、本件特許明細書の段落【0025】にも「この陰極体は、陰極箔と導電層の積層構造を有する。導電層は、導電性材料を含有し、酸化皮膜よりも高導電性の層である・・・。導電性材料としては、例えば炭素材、チタン、窒化チタン、炭化チタン、炭化アルミニウム、及びこれらの複合材又は混合材が挙げられる。」と、同段落【0054】に「また、実施例1の陰極箔の表面には、塗布法により炭素材料としてカーボンブラックを含む導電層を積層し、積層後、実施例1の陰極体をプレス成形した。実施例2の陰極箔の表面には、真空アーク蒸着法により窒化チタンを含む導電層を積層した。実施例3の陰極箔の表面には、真空アーク蒸着法により炭化チタンを含む導電層を積層した。実施例4の陰極箔の表面には、スパッタ蒸着法によりチタンの下地層と炭素材料の上地層とから成る2層構造の導電層を形成した。実施例5の陰極箔の表面には、熱処理によりアルミニウム箔の表面を炭化させ、更に酸化チタンの粉末でコーティングすることで、炭化アルミニウムと酸化チタンの2層構造を有する導電層を形成した。」との記載(下線は当審が付与。)からすれば、「炭素材料」とは「炭素」を含有する材料と解される。
してみると、該「炭素材料」の範囲は明確に把握でき、該「炭素材料」が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。
以上から、本件発明2、3、6ないし8は不明確であるとはいえず、請求項2、3、6ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
(4)申立理由4(新規性)について
ア 本件発明8に対する甲第1号証に基づく新規性
a 対比
上記「第4 3(2)イ イー1(ア)」で検討した点を踏まえれば、本件発明8と甲1発明aとを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点35)
電解液に関し、本件発明8は「アゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」であるのに対し、甲1発明aはその旨特定されていない点。
(相違点36)
本件発明8は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、甲1発明aはその旨特定されていない点。
(相違点37)
本件発明8は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、甲1発明aはその旨特定されていない点。
(相違点38)
本件発明8は「コンデンサ素子内に充填された」「ニトロ化合物」を備えるのに対し、甲1発明aはその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点37について判断する。
相違点37は、上記「第4 3(2)ア アー1(ア)b」で検討した相違点11と同じであり、相違点11に対する理由と同様な理由により実質的な相違である。
c 小括
したがって、相違点37は、実質的な相違であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は甲第1号証に記載された発明ではない。
イ 本件発明8に対する甲第2号証に基づく新規性
a 対比
上記「第4 3(2)イ イー2(ア)」で検討した点を踏まえれば、本件発明8と甲2発明aとを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点39)
電解液に関し、本件発明8は「アゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」であるのに対し、甲2発明aはその旨特定されていない点。
(相違点40)
本件発明8は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、甲2発明aはその旨特定されていない点。
(相違点41)
本件発明8は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、甲2発明aはその旨特定されていない点。
(相違点42)
本件発明8は「コンデンサ素子内に充填された」「ニトロ化合物」を備えるのに対し、甲2発明aはその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点41について判断する。
相違点41は、上記「第4 3(2)ア アー2(ア)b」で検討した相違点17と同じであり、相違点17に対する理由と同様な理由により実質的な相違である。
c 小括
したがって、相違点41は、実質的な相違であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は甲第2号証に記載された発明ではない。
ウ 本件発明8に対する甲第4号証に基づく新規性
a 対比
上記「第4 3(2)イ イー3(ア)」で検討した点を踏まえれば、本件発明8と甲4発明aとを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点43)
本件発明8は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、甲4発明aはその旨特定されていない点。
(相違点44)
本件発明8は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、甲4発明aはその旨特定されていない点。
(相違点45)
本件発明8は「コンデンサ素子内に充填された」「ニトロ化合物」を備えるのに対し、甲4発明aはその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点44について判断する。
相違点44は、上記「第4 3(1)エ(ア)b」で検討した相違点6と同じであり、相違点6に対する理由と同様な理由により実質的な相違である。
c 小括
したがって、相違点44は、実質的な相違であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は甲第4号証に記載された発明ではない。
エ まとめ
以上から、請求項8に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
(5)申立理由5(進歩性)について
ア 甲第1号証、甲第5号証ないし甲第8号証に基づく進歩性について
(ア)本件発明2について
a 対比
上記「第4 3(2)ア ア-1(ア)a」で検討した点を踏まえれば、本件発明2と甲1発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点46)
電解液に関し、本件発明2は「アゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」であるのに対し、甲1発明はその旨特定されていない点。
(相違点47)
本件発明2は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、甲1発明はその旨特定されていない点。
(相違点48)
本件発明2は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、甲1発明はその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点48について判断する。
上記「第4 3(2)ア アー1(ア)b」で述べたのと同様に、甲第1号証には、「陰極箔」と「無機系導電層」からなる電極構造の「分極曲線」について記載や示唆はなく、ましてや、「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆はされていない。また、甲1発明の「陰極箔」と「無機系導電層」からなる電極構造の「分極曲線」が該「第2電位範囲」を有するようにする理由も見当たらない。
そして、上記「3」の「(2)」ないし「(5)」によれば、甲第5号証には「甲第5号証に記載された技術」が、甲第6号証には「甲第6号証に記載された技術」が、甲第7号証には「甲第7号証に記載された技術」が、甲第8号証には「甲第8号証に記載された技術」が、それぞれ記載されているものの、「陰極箔」と「導電層」を備えた「陰極体」の「分極曲線」について記載や示唆もなく、ましてや、「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆もされていない。
してみると、甲1発明に、甲第5号証ないし甲第8号証に記載された各技術を採用したとしても、相違点48に係る構成を導き出すことはできない。
よって、相違点48に係る構成は、甲1発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
c 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件発明3、本件発明6について
請求項3、請求項6は、請求項2をそれぞれ引用するものであり、本件発明3、6は、引用する本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明2に対する理由と同様な理由により、本件発明3、6は、甲1発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)本件発明7について
a 対比
本件発明7と甲1発明aとを対比すると、上記「(ア)a」を踏まえれば、次の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点49)
電解液に関し、本件発明7は「アゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」であるのに対し、甲1発明aはその旨特定されていない点。
(相違点50)
本件発明7は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99前記弁作用金属と同種で純度99.99%以上の対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含む場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.15V以上貴側である」のに対し、甲1発明aはその旨特定されていない点。
(相違点51)
本件発明7は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、甲1発明aはその旨特定されていない。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点51について判断する。
相違点51は、上記相違点48と同じであるから、上記「(ア)b」で述べた理由と同様の理由により、相違点51に係る構成は、甲1発明a及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
c 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1発明a及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)本件発明8について
a 対比
上記「(4)アa」によれば、本件発明8と甲1発明aとは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点35)
電解液に関し、本件発明8は「アゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」であるのに対し、甲1発明aはその旨特定されていない点。
(相違点36)
本件発明8は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、甲1発明aはその旨特定されていない点。
(相違点37)
本件発明8は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、甲1発明aはその旨特定されていない点。
(相違点38)
本件発明8は「コンデンサ素子内に充填された」「ニトロ化合物」を備えるのに対し、甲1発明aはその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点37について判断する。
相違点37は、上記相違点48と同じであるから、上記「(ア)b」で述べた理由と同様の理由により、相違点37に係る構成は、甲1発明a及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
c 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、甲1発明a及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(オ)まとめ
以上から、請求項2、3、6、7、8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項2、3、6、7、8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
イ 甲第2号証、甲第5号証ないし甲第8号証に基づく進歩性について
(ア)本件発明2について
a 対比
上記「第4 3(2)ア ア-2(ア)a」で検討した点を踏まえれば、本件発明2と甲2発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点52)
電解液に関し、本件発明2は「アゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」であるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点。
(相違点53)
本件発明2は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点。
(相違点54)
本件発明2は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、甲2発明はその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点54について判断する。
上記「第4 3(2)ア ア-2(ア)b」で述べたのと同様に、甲第2号証には、「陰極箔」と「カーボン層」からなる電極構造の「分極曲線」について記載や示唆はなく、ましてや、「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆もされていない。また、甲2発明の「陰極箔」と「カーボン層」からなる電極構造の「分極曲線」が該「第2電位範囲」を有するようにする理由も見当たらない。
そして、上記「3」の「(2)」ないし「(5)」によれば、甲第5号証には「甲第5号証に記載された技術」が、甲第6号証には「甲第6号証に記載された技術」が、甲第7号証には「甲第7号証に記載された技術」が、甲第8号証には「甲第8号証に記載された技術」が、それぞれ記載されているものの、「陰極箔」と「導電層」を備えた「陰極体」の「分極曲線」について記載や示唆もなく、ましてや、「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆もされていない。
してみると、甲2発明に、甲第5号証ないし甲第8号証に記載された各技術を採用したとしても、相違点54に係る構成を導き出すことはできない。
よって、相違点54に係る構成は、甲2発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
c 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件発明3、本件発明6について
請求項3、請求項6は、請求項2をそれぞれ引用するものであり、本件発明3、6は、引用する本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明2に対する理由と同様な理由により、本件発明3、6は、甲2発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)本件発明7について
a 対比
本件発明7と甲2発明aとを対比すると、上記「(ア)a」も踏まえれば、次の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点55)
電解液に関し、本件発明7は「アゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」であるのに対し、甲2発明aはその旨特定されていない点。
(相違点56)
本件発明7は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、甲2発明aはその旨特定されていない点。
(相違点57)
本件発明7は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、甲2発明aはその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点57について判断する。
相違点57は上記相違点54と同じであるから、上記「(ア)b」で述べた理由と同様の理由により、相違点57に係る構成は、甲2発明a及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
c 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2発明a及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)本件発明8について
a 対比
上記「(4)イa」によれば、本件発明8と甲2発明aとは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点39)
電解液に関し、本件発明8は「アゼライン酸を添加し、且つニトロ化合物が非含有」であるのに対し、甲2発明aはその旨特定されていない点。
(相違点40)
本件発明8は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、甲2発明aはその旨特定されていない点。
(相違点41)
本件発明8は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、甲2発明aはその旨特定されていない点。
(相違点42)
本件発明8は「コンデンサ素子内に充填されたニトロ化合物」を備えるのに対し、甲2発明aはその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点41について判断する。
相違点41は、上記相違点54と同じであるから、上記「(ア)b」で述べた理由と同様の理由により、相違点41に係る構成は、甲2発明a及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
c 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、甲2発明a及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(オ)まとめ
以上から、請求項2、3、6、7、8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項2、3、6、7、8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない
ウ 甲第3号証、甲第5号証ないし甲第8号証に基づく進歩性について
(ア)本件発明2について
a 対比
上記「第4 3(1)ウ(ア)a」で検討した点を踏まえれば、本件発明2と甲3発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点58)
本件発明2は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側である」のに対し、甲3発明はその旨特定されていない点。
(相違点59)
本件発明2は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、甲3発明はその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点59について判断する。
上記「第4 3(1)ウ(ア)b」で述べたのと同様に、甲第3号証には、「陰極箔」と「被覆層」からなる電極構造の「分極曲線」について記載や示唆もなく、ましてや、「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆もされていない。また、甲3発明の「陰極箔」と「被覆層」からなる電極構造の「分極曲線」が該「第2電位範囲」を有するようにする理由も見当たらない。
そして、上記「3」の「(2)」ないし「(5)」によれば、甲第5号証には「甲第5号証に記載された技術」が、甲第6号証には「甲第6号証に記載された技術」が、甲第7号証には「甲第7号証に記載された技術」が、甲第8号証には「甲第8号証に記載された技術」が、それぞれ記載されているものの、「陰極箔」と「導電層」を備えた「陰極体」の「分極曲線」について記載や示唆もなく、ましてや、「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆もされていない。
してみると、甲3発明に、甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術を採用したとしても、相違点59に係る構成を導き出すことはできない。
よって、相違点59に係る構成は、甲3発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
c 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲3発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件発明3、本件発明6について
請求項3、請求項6は、請求項2をそれぞれ引用するものであり、本件発明3、6は、引用する本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、本件発明2に対する理由と同様な理由により、本件発明3、6は、甲3発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)本件発明7について
a 対比
本件発明7と甲3発明aとを対比すると、上記「(ア)a」も踏まえれば、次の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点60)
本件発明7は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側である」のに対し、甲3発明aはその旨特定されていない点。
(相違点61)
本件発明7は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、甲3発明aはその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点61について判断する。
相違点61は上記相違点59と同じであるから、上記「(ア)b」で述べた理由と同様の理由により、相違点61に対する構成は、甲3発明a及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
c 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、甲3発明a及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)本件発明8について
a 対比
上記「第4 3(2)ア アー3(エ)a」で検討した点を踏まえれば、本件発明8と甲3発明aとを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点62)
本件発明8は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99前記弁作用金属と同種で純度99.99%以上の対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含む場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.15V以上貴側である」のに対し、甲3発明aはその旨特定されていない点。
(相違点63)
本件発明8は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、甲3発明aはその旨特定されていない点。
(相違点64)
本件発明8は「コンデンサ素子内に充填された」「ニトロ化合物」を備えるのに対し、項3発明aはその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点63について判断する。
相違点63は上記相違点59と同じであるから、上記「(ア)b」で述べた理由と同様の理由により、相違点63に係る構成は、甲3発明a及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
c 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、甲3発明a及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(オ)まとめ
以上から、請求項2、3、6、7、8に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項2、3、6、7、8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
エ 甲第4号証、甲第5号証ないし甲第8号証に基づく進歩性について
(ア)本件発明2について
a 対比
上記「第4 3(1)エ(ア)a」で検討した点を踏まえれば、本件発明2と甲4発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点65)
本件発明2は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、甲4発明はその旨特定されていない点。
(相違点66)
本件発明2は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、甲4発明はその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点66について判断する。
上記「第4 3(1)エ(ア)b」で述べたのと同様に、甲第4号証には、「基材部」と「無機導電層」を備えた「陰極体」の「分極曲線」について記載や示唆もなく、ましてや、「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆もされていない。また、甲4発明の「基材部」と「無機導電層」を備えた「陰極体」の「分極曲線」が該「第2電位範囲」を有するようにする理由も見当たらない。
そして、上記「3」の「(2)」ないし「(5)」によれば、甲第5号証には「甲第5号証に記載された技術」が、甲第6号証には「甲第6号証に記載された技術」が、甲第7号証には「甲第7号証に記載された技術」が、甲第8号証には「甲第8号証に記載された技術」が、それぞれ記載されているものの、「陰極箔」と「導電層」を備えた「陰極体」の「分極曲線」について記載や示唆もなく、ましてや、「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲」を有することについて記載や示唆もされていない。
してみると、甲4発明に、甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術を採用したとしても、相違点66に係る構成を導き出すことはできない。
よって、相違点66に係る構成は、甲4発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
c 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲4発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件発明3、本件発明6について
請求項3、請求項6は、請求項2をそれぞれ引用するものであり、本件発明3、6は、引用する本件発明2の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明2に対する理由と同様な理由により、本件発明3、6は、甲4発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)本件発明7について
a 対比
本件発明7と甲4発明aとを対比すると、上記「(ア)a」も踏まえれば、次の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点67)
本件発明7は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側である」のに対し、甲4発明aはその旨特定されていない点。
(相違点68)
本件発明7は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、甲4発明aはその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点68について判断する。
相違点68は上記相違点66と同じであるから、上記「(ア)b」で述べた理由と同様の理由により、相違点68に係る構成は、甲4発明a及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
c 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、甲4発明a及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)本件発明8について
a 対比
上記「(4)ウa」によれば、本件発明8と甲2発明aとは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点43)
本件発明8は「電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、当該電流に対応する電位が、純度99.99%以上のアルミニウムからなる対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であり、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるとき、電解液がニトロ化合物を含まない場合、当該電流に対応する電位が、前記対照陰極箔の自然浸漬電位よりも0.3V以上貴側であ」るのに対し、甲4発明aはその旨特定されていない点。
(相違点44)
本件発明8は「電気化学的分極による分極曲線が、前記電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる第1電位範囲と、水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有し、前記分極曲線において、電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲と、電解液中の溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流が水素イオンを還元するカソード反応により生じる電流よりも大きくなる前記第1電位範囲とが対応する」のに対し、甲4発明aはその旨特定されていない点。
(相違点45)
本件発明8は「コンデンサ素子内に充填されたニトロ化合物」を備えるのに対し、甲4発明aはその旨特定されていない点。
b 相違点に対する判断
事案に鑑み、相違点44について判断する。
相違点44は上記相違点66と同じであるから、上記「(ア)b」で述べた理由と同様の理由により、相違点44に係る構成は、甲4発明a及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
c 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、甲4発明a及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(オ)まとめ
以上から、請求項2、3、6、7、8に係る発明は、甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項2、3、6、7、8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
オ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲第5号証ないし甲第8号証に記載の陰極箔は公知であり、本件発明1ないし本件発明8は、甲第1号証と甲第5号証ないし甲第8号証に記載された事項、甲第2号証と甲第5号証ないし甲第8号証に記載された事項、甲第3号証と甲第5号証ないし甲第8号証に記載された事項、甲第4号証と甲第5号証ないし甲第8号証に記載された事項、に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。(44頁16ないし20行、63頁「(5)」)
しかしながら、上記「第4 3(1)ウ」、「第4 3(1)エ」、「第4 3(2)ア」、上記「ア」で検討したように、甲第1号証ないし甲第8号証のいずれにも、「陰極体」の「分極曲線」について、及び、該「分極曲線」が「水素イオンを還元するカソード反応が生じる電流が溶存酸素を還元するカソード反応により生じる電流より大きくなる第2電位範囲とを有」することについて記載や示唆もないため、甲1発明ないし甲4発明に、甲第5号証ないし甲第8号証に記載された各技術を採用したとしても、本件発明1ないし本件発明8に係る構成を導き出すことはできない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)等に記載した理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2、3、6ないし8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項2、3、6ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1、4、5に係る特許は、上記のとおり訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定より却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700704