特許異議申立
2022-701263
アルカリ土類金属イオン吸着剤及びその製造方法並びにアルカリ土類金属イオン含有液処理装置
- 審判番号
- 2022-701263
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-043598
- 登録番号
- 7086524
- 請求日
- 2022年12月19日
- 審決日
- 2023年05月31日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社荏原製作所
- 【権利者代理人】宮前 徹
- 【権利者】チタン工業株式会社
- 【権利者代理人】宮前 徹
- 【異議申立人】石元 雅巳
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.113-Y (B01J) / P1651.121-Y (B01J) / P1651.537-Y (B01J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7086524号発明「アルカリ土類金属イオン吸着剤及びその製造方法並びにアルカリ土類金属イオン含有液処理装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7086524号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7086524号(以下、「本件特許」という)の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成29年3月8日に出願され、令和4年6月10日にその特許権の設定登録がされ、令和4年6月20日に特許掲載公報が発行された。
その後、請求項1~9に係る特許に対して、令和4年12月19日に特許異議申立人石元雅巳(以下、「申立人」という)により、特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」「本件発明2」などといい、纏めて「本件発明」という)。
「【請求項1】
化学式K2-xHxO・2TiO2・nH2O(式中、xは0.5以上1.3以下であり、nは0よりも大きい)で表される二チタン酸水素カリウム水和物を含み、結合剤を含まず、150μm以上1000μm以下の粒径範囲を有し、
Cukα線をX線源とするX線回折において、2θが8.5±2.0°の範囲にX線回折の主ピークを有し、2θが13°~24°の範囲、36°~46°の範囲及び50°~56°の範囲にX線回折ピークを有していないことを特徴とする粒子状ストロンチウムイオン吸着剤。
【請求項2】
内径15.96mmの円筒状カラムに層高10cmで充填し、並塩0.3%、ストロンチウム5ppm、マグネシウム5ppm、セシウム1ppmを含む模擬汚染海水を6.5ml/minの流量(通水線流速2m/h、空間速度20h-1)で通水した場合に、入口水中ストロンチウム濃度(C0)と出口水中ストロンチウム濃度(C)の比率が5%を超過する破過B.V.が3000以上のストロンチウム吸着性能を示す請求項1に記載の粒子状ストロンチウムイオン吸着剤。
【請求項3】
化学式K2O・2TiO2で表される二チタン酸カリウムを水和させ、カリウムイオン(K+)とプロトン(H+)とをカチオン交換させて、化学式K2-xHxO・2TiO2・nH2O(式中、xは0.5以上1.3以下であり、nは0よりも大きい)で表される二チタン酸水素カリウム水和物を得て、結合剤を用いずに造粒することを含む、請求項1又は2に記載の粒子状ストロンチウムイオン吸着剤の製造方法であって、
(1)Ti1モルに対してK0.95モル以上1.25モル以下の比率で、チタン源及びカリウム源を混合し、
(2)得られる混合物を焼成して化学式K2O・2TiO2で表される二チタン酸カリウムを得て、
(3)二チタン酸カリウムを水と接触させて、水和させると共にカリウムイオンとプロトンとのカチオン交換を生じさせ、二チタン酸水素カリウム水和物(K2-xHxO・2TiO2・nH2O、ただしxは0.5以上1.3以下、nは0よりも大きい)を得て、
(4)得られる二チタン酸水素カリウム水和物(K2-xHxO・2TiO2・nH2O、ただしxは0.5以上1.3以下)をスラリー中で湿式粉砕して、
(5)スラリーから二チタン酸水素カリウム水和物を含むろ過ケーキを固液分離し、
(6)結合剤を用いることなく、当該ろ過ケーキから二チタン酸水素カリウム水和物の粒子を造粒し、
(7)二チタン酸水素カリウム水和物を110℃の温度で15時間の条件で乾燥し、
(8)乾燥した二チタン酸水素カリウム水和物を解砕し、整粒して、150μm以上1000μm以下の粒径範囲を有する粒子状ストロンチウムイオン吸着剤とする
工程を含む、粒子状ストロンチウムイオン吸着剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の粒子状ストロンチウムイオン吸着剤を充填したストロンチウムイオン含有液処理装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の粒子状ストロンチウムイオン吸着剤を充填した放射性ストロンチウム除染装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の粒子状ストロンチウムイオン吸着剤を用いる、ストロンチウムイオン含有液処理方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の粒子状ストロンチウムイオン吸着剤を用いる、放射性ストロンチウム除染方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の粒子状ストロンチウムイオン吸着剤を充填したストロンチウムイオン含有液処理装置に、ストロンチウムイオン含有液を通水線流速(LV)1m/h以上40m/h以下、空間速度(SV)5h-1以上40h-1以下で通水することを含む、ストロンチウムイオン含有液処理方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の粒子状ストロンチウムイオン吸着剤を充填した放射性ストロンチウム除染装置に、放射性ストロンチウム含有液を通水線流速(LV)1m/h以上40m/h以下、空間速度(SV)5h-1以上40h-1以下で通水することを含む、放射性ストロンチウム除染方法。」
第3 特許異議の申立てについて
1 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりであり、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:特開2015-188798号公報
甲第2号証:特開2017-121616号公報
(1)申立理由1(新規性・進歩性欠如)
本件発明1、4~7は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、本件発明1~9は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(サポート要件違反)
本件特許の請求項1~9に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記3(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 申立理由1(新規性・進歩性欠如)について
(1)甲第1号証に記載の発明(甲1発明)
申立人の主張を参酌しつつ、甲第1号証の記載を整理すると、甲第1号証には、「(K1-xHx)2Ti2O5・mH2O [0≦x<1, m≧0] で表されるTiO5三角両錐体の連鎖構造を有する層状構造チタン酸アルカリ金属化合物」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(請求項1、請求項4、【0028】)。
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違している。
(相違点1)
本件発明1は、「ストロンチウムイオン吸着剤」であるのに対して、甲1発明はその点が明らかでない点。
(相違点2)
本件発明1は、「化学式K2-xHxO・2TiO2・nH2O(式中、xは0.5以上1.3以下であり、nは0よりも大きい)で表される二チタン酸水素カリウム水和物」を含むものであるのに対して、甲1発明は、「(K1-xHx)2Ti2O5・mH2O [0≦x<1, m≧0] で表されるTiO5三角両錐体の連鎖構造を有する層状構造チタン酸アルカリ金属化合物」である点。
イ 相違点の検討
(ア)相違点1について
甲第1号証には、課題とその解決手段として、チタン酸アルカリ金属化合物を水中に投入すると粒子が容易に崩壊し微粒子化してしまい、吸着性能の低下に加え、吸着した特定のイオンとともに外部に流出してしまう課題があった(【0002】)ところ、強度、イオン交換性能ともに優れた多孔質チタネートイオン交換体を提供することを目的として(【0007】)、少なくとも1種のTiO5三角両錐体の連鎖構造を有する層状構造チタン酸アルカリ金属化合物(以下、「TiO5三角両錐体化合物」という。)と、少なくとも1種のTiO6八面体の連鎖構造を有する層状構造チタン酸アルカリ金属化合物(以下、「TiO6八面体化合物」という。)を有する構成とすることによって、上記課題を解決するものである(【0008】)ことが記載されている。
そして、実施例12においては、K2Ti2O5である化合物1(上記「TiO5三角両錐体化合物」の一種)と、K2Ti4O9である化合物4(上記「TiO6八面体化合物」の一種)を別々に合成して、混合することによってイオン交換体を作製している。
さらに、甲第1号証の実施例においては、K2Ti2O5である化合物1(上記「TiO5三角両錐体化合物」の一種)とK2Ti4O9である化合物4(上記「TiO6八面体化合物」の一種)は、いずれも「化合物」と記載されており、イオン交換能力の有無にかかわらず、「イオン交換体」であるとは記載されていない。
これらの記載を踏まえると、甲第1号証記載の多孔質チタネートイオン交換体においては、「TiO5三角両錐体化合物」と「TiO6八面体化合物」が必須であることが理解でき、化合物1(上記「TiO5三角両錐体化合物」の一種)や化合物4(上記「TiO6八面体化合物」の一種)それ自体は「イオン交換体」であると理解できない。
そうしてみると、甲1発明の「(K1-xHx)2Ti2O5・mH2O [0≦x<1, m≧0] で表されるTiO5三角両錐体の連鎖構造を有する層状構造チタン酸アルカリ金属化合物」自体は、「ストロンチウムイオン吸着剤」であるといえないし、また、当該化合物のみで「ストロンチウムイオン吸着剤」とすることが当業者にとって容易想到な事項であるともいえない。
(イ)相違点2について
本件発明1の「化学式K2-xHxO・2TiO2・nH2O(式中、xは0.5以上1.3以下であり、nは0よりも大きい)で表される二チタン酸水素カリウム水和物」は、K0.7~1.5H0.5~1.3O・2TiO2・(0より大きい)H2Oと表すことができ、また、甲1発明の「(K1-xHx)2Ti2O5・mH2O [0≦x<1,m≧0] で表されるTiO5三角両錐体の連鎖構造を有する層状構造チタン酸アルカリ金属化合物」は、本件発明1の上記記載ぶりに揃えると、K0~2H0~2・2TiO2・(0以上)H2Oと示すことができるから、両者は、化学式として重複範囲はあるものの、甲1発明の「層状構造チタン酸アルカリ金属化合物」の方が本件発明1の「二チタン酸水素カリウム水和物」より広い数値範囲を取り得るものである。
そして、本件明細書において、xの値が1.3よりも大きくなるとTiO2三角両錐体からなる層へのへき開が起こりやすくなり、造粒の際に強度が低下し、機械的強度の高い粒子状アルカリ土類金属イオン吸着材を得ることができず、xが0.5よりも小さいと吸着能が劣化することが記載されており(【0014】)、xを0.5~1.3とすることによって強度及び吸着能の高い吸着剤となることが記載されているといえる。一方、甲第1号証においてはxの範囲を特定範囲とすることやその効果は記載されておらず、そのxの範囲をさらに限定するための動機付けとなる記載もない。
以上の点を併せ考えると、相違点2は実質的なものであるといえるし、また、甲1発明において、当該相違点2に係る本件発明1の構成とすることが当業者にとって容易想到の事項であるともいえない。
(ウ)申立人の主張について
上記相違点1及び2について、申立人は以下の主張をしている。
(i) 甲第1号証の実施例12には、化合物1(上記「TiO5三角両錐体化合物」の一種)と、化合物4(上記「TiO6八面体化合物」の一種)は別々に合成されてから混合され、多孔質チタネートイオン交換体が合成されていることが記載されているから、甲第1号証には、「(K1-xHx)2Ti2O5・mH2O [0≦x<1,m≧0] で表されるTiO5三角両錐体の連鎖構造を有する層状構造チタン酸アルカリ金属化合物」(TiO5三角両錐体化合物)である「多孔質チタネートイオン交換体」が記載されている。
(ii) 本件発明1の「化学式K2-xHxO・2TiO2・nH2O(式中、xは0.5以上1.3以下であり、nは0よりも大きい)」は、甲1発明の「(K1-xHx)2Ti2O5・mH2O [0≦x<1,m≧0] で表されるTiO5三角両錐体の連鎖構造を有する層状構造チタン酸アルカリ金属化合物」と相違しない。
しかしながら、上記(ア)及び(イ)で検討したとおりであるから、申立人の主張はいずれも採用できない。
ウ 小括
したがって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるといえないし、また、甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件発明2~9
本件発明2~9は、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、上記(2)での検討と同様に、甲1発明であるといえないし、また、甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1には理由がない。
3 申立理由2(サポート要件違反)について
(1)申立人の主張
申立理由2は、要するに、本件発明1は「化学式K2-xHxO・2TiO2・nH2O(式中、xは0.5以上1.3以下であり、nは0よりも大きい)で表される二チタン酸水素カリウム水和物」(以下、「構成要素「A」」という。)を「含み」とされているところ、構成要素「A」以外に含まれる成分(以下、「構成要素「X」」という。)について十分な特定がなく、構成要素「X」が含まれる場合に、粒子状ストロンチウムイオン吸着剤のX線回折ピークがどのようになるかについて本件明細書に一切記載されていないため、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えており、同様に、本件発明2~9は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている、というものである。
(2)当審の判断
本件発明の課題は、カチオン交換容量が大きく、機械的強度に優れ、微粉の発生がなく、取り扱いに優れる、アルカリ土類金属イオン吸着剤を提供することである(【0008】)ところ、本件明細書には、K2O・4TiO2で表される四チタン酸カリウムは、吸着効率が良くなく、カチオン吸着剤として好ましくないことが記載されている(【0004】)ものの、これ以外に、当該課題に影響する成分についての言及がないことからして、本件発明の課題に影響を及ぼさない成分であれば、粒子状ストロンチウムイオン吸着剤に含有することを許容しているとするのが相当である。
これに対して、本件発明1は、上記第2に記載したとおりであって、「粒子状ストロンチウムイオン吸着剤」が「Cukα線をX線源とするX線回折において」、「2θが13°~24°の範囲、36°~46°の範囲及び50°~56°の範囲にX線回折ピークを有していない」ことを特定することで、吸着効率が良くない四チタン酸カリウムを含まないことを特定しているから、本件発明1の「粒子状ストロンチウムイオン吸着剤」が構成要素「X」を含有しているとしても、本件発明の課題に影響する成分は除外されているといえる。
そして、構成要素「X」のうち、本件発明の課題に影響を及ぼさない成分については、上述したとおり、本件発明1の「粒子状ストロンチウムイオン吸着剤」に含有することを許容しているから、このような本件発明の課題に影響を及ぼさない成分を含む場合の粒子状ストロンチウムイオン吸着剤のX線回折ピークの開示がないことがサポート要件に違反しているということはできない。
本件発明2~9についても同様である。
(3)申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由2には理由がない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に当該請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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