特許異議申立
2026-700229
アンモニアエンジンの排ガス処理システム及びアンモニアエンジンの排ガス処理方法
- 審判番号
- 2026-700229
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-132159
- 登録番号
- 7741540
- 請求日
- 2026年03月17日
- 審決日
- 2026年06月19日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日揮ユニバーサル株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人創英
- 【権利者代理人】鈴木 洋平
- 【異議申立人】大門 幹世
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 三崎 仁
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.113-Y (B01J) / P1651.121-Y (B01J) / P1651.537-Y (B01J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7741540号発明「アンモニアエンジンの排ガス処理システム及びアンモニアエンジンの排ガス処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7741540号の請求項1~11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7741540号の請求項1~11に係る特許についての出願は、令和3年8月16日に出願され、令和7年9月9日にその特許権の設定登録がされ、同年同月18日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1~11に係る特許に対し、令和8年3月17日に特許異議申立人大門幹世(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。
第2 本件発明及び本件明細書
1 本件発明について
特許第7741540号の請求項1~11の特許に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明11」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
第一の触媒としてPt及びゼオライトを含む触媒層を備える酸化触媒と、
第二の触媒としてCu、Co又はFeイオンとイオン交換されたゼオライトを含む触媒層を備える脱硝触媒と、を備え、
アンモニアエンジンの排ガスが、前記第一の触媒及び前記第二の触媒を順に透過することで処理される、アンモニアエンジンの排ガス処理システム。
【請求項2】
前記酸化触媒の触媒層が、Ptと、無機酸化物と、第一のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第一のイオン交換型ゼオライトとを含む第一の層と、
前記第一の層の表面上に設けられており、第二のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第二のイオン交換型ゼオライトを含む第二の層と、
を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記脱硝触媒の触媒層が、Feイオンとイオン交換されたβ型ゼオライトを含む層を備える、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
Pt及びゼオライトを含む触媒層を備える他の酸化触媒を更に備える、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
Cu、Co又はFeイオンとイオン交換されたゼオライトを含む触媒層を備える他の脱硝触媒を更に備える、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
アンモニアエンジンの排ガスを、請求項1~5のいずれか一項に記載のシステムの前記第一の触媒に接触させる第一の接触工程と、前記第一の接触工程により生じる生成ガスを、前記第二の触媒に接触させる第二の接触工程と、を備える、アンモニアエンジンの排ガス処理方法。
【請求項7】
アンモニアエンジンの前記排ガス中のNH3濃度が0.1~3容量%である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第一の接触工程の前に、前記排ガス中にアンモニアガスを添加する工程を更に備える、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記第一の接触工程の後に、前記生成ガス中にアンモニアガスを添加する工程を更に備える、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第一の触媒の温度が260~500℃であり、前記第二の触媒の温度が350~700℃である、請求項6~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記酸化触媒のSV(空間速度)が3,000~200,000h-1であり、前記脱硝触媒のSVが1,000~50,000h-1である、請求項6~10のいずれか一項に記載の方法。」
2 本件明細書について
願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。下線は当審が付与した(以下同様)。
(本ア)課題について
「【技術分野】
【0001】
本開示は、アンモニアエンジンからの排ガスを処理するための排ガス処理システム及びこれを用いた排ガス処理方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アンモニア(NH3)を燃焼するとNOx及びN2Oが副生される。NOxは公害を引き起こすガスであり、またN2Oは比較的無害であるが温暖化係数がCO2の310倍であるため、これら窒素酸化物への対処が求められる。また、アンモニアエンジン排ガスには燃焼反応にて消費されなかったアンモニアが含まれる場合があり、このアンモニアへの対処も併せて求められる。アンモニアエンジンの普及には、排ガスに含まれるNOx及びN2Oと、アンモニアとを好適に処理することのできる新たな排ガス処理システムが必要である。
【0005】
本開示は、新たなアンモニアエンジンの排ガス処理システムを提供することを目的とする。また、本開示は、新たなアンモニアエンジンの排ガス処理方法を提供することを目的とする。」
(本イ)解決手段について
「【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面はアンモニアエンジンの排ガス処理システムに関する。このアンモニアエンジンの排ガス処理システムは、第一の触媒としてPt及びゼオライトを含む触媒層を備える酸化触媒と、第二の触媒としてCu、Co又はFeイオンとイオン交換されたゼオライトを含む触媒層を備える脱硝触媒と、を備える。アンモニアエンジンの排ガスは、このアンモニアエンジンの排ガス処理システムの第一の触媒及び第二の触媒を順に透過することで処理される。
【0007】
上記排ガス処理システムによれば、前段側の酸化触媒にてアンモニアを燃焼させ、後段側の脱硝触媒にてNOx及びN2Oの還元を行うことで、アンモニアエンジンからの排ガスを好適に処理することができる。このシステムは、前段側の酸化触媒にてアンモニアの燃焼により生じる高温を利用して、後段側の脱硝触媒にて窒素酸化物を適切に処理するものである。
【0008】
本開示の一側面はアンモニアエンジンの排ガス処理方法に関する。このアンモニアエンジンの排ガス処理方法は、アンモニアエンジンの排ガスを、上記のシステムの第一の触媒に接触させる第一の接触工程と、第一の接触工程により生じる生成ガスを、第二の触媒に接触させる第二の接触工程と、を備える。」
(本ウ)酸化触媒について
「【0015】
[酸化触媒]
酸化触媒は、Pt及びゼオライトを含む触媒層を備える。酸化触媒は、具体的には支持体と、支持体の表面上に設けられた酸化触媒層を備える。酸化触媒はアンモニア分解触媒ということができる。
【0016】
(支持体)
支持体Sは、ガス流通時に発生する差圧が小さく、ガスとの接触面積が大きい形状を有することが好ましい。支持体Sの具体例として、ハニカム、シート、メッシュ、繊維、パイプ、フィルター、球体などが挙げられる。支持体の材質は、例えば、コージライト、アルミナ等公知の触媒担体、炭素繊維、金属繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、チタン、アルミニウム、ステンレス等の金属である。
【0017】
(酸化触媒層)
酸化触媒層は、下層(第一の層)と、下層の表面上に設けられた上層(第二の層)とを備えることができる。下層は、Ptと、無機酸化物と、場合によりリンと、第一のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第一のイオン交換型ゼオライトとを含む。下層は支持体Sの表面上に設けられている。下層の厚さは、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは30~100μmである。下層において下記式(1)で表される酸化反応が主に進行するとともに、下記式(2)で表される脱硝反応も進行する。
xNH3+O2→yNO+zN2O+2H2O・・・(1)
2NO+2NH3+1/2O2→2N2+3H2O・・・(2)
【0018】
下層はPtを含有している。Ptは分解活性及びN2選択率の向上効果を有する。Ptを含有することにより、NOx及びN2Oの生成を抑制できる。下層は、Pt以外の貴金属(Pd、Ir、Rh及びこれらの複合物等)を更に含有していてもよい。」
「【0039】
上層は、第二のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第二のイオン交換型ゼオライトとを含む。上層は下層の表面上に設けられている。上層の厚さは、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは30~100μmである。上層において下記式(2)で表される脱硝反応が主に進行する。
脱硝反応:2NO+2NH3+1/2O2→2N2+3H2O・・・(2)
【0040】
上層に含まれるゼオライトとしては、下層において例示したゼオライトが挙げられる。上層に含まれるゼオライトは、下層に含まれるゼオライトと同一であっても異なっていてもよい。」
(本エ)脱硝触媒について
「【0052】
[脱硝触媒]
脱硝触媒は、Cu、Co又はFeイオンとイオン交換されたゼオライトを含む触媒層を備える。脱硝触媒は、具体的には支持体と、支持体の表面上に設けられた脱硝触媒層を備える。
【0053】
(支持体)
支持体としては、酸化触媒において例示した支持体が挙げられる。
【0054】
(脱硝触媒層)
脱硝触媒層において下記式(2)~(4)で表される脱硝反応が主に進行する。
2NO+2NH3+1/2O2→2N2+3H2O・・・(2)
3N2O+2NH3→4N2+3H2O・・・(3)
2N2O→2N2+O2・・・(4)」
(本オ)温度関係について
「【0065】
排ガスは、上記排ガス処理システムの酸化触媒と接触し、その後脱硝触媒と接触する。前段である酸化触媒はアンモニアの酸化分解により発熱し、排ガスの温度に対して50~300℃の温度上昇が見込まれる触媒であることが好ましい。また、効率的にNOx及びN2Oを抑制する観点から、酸化触媒はそれらのガスの発生の少ない触媒であることが好ましい。酸化触媒の温度は、脱硝触媒に充分高温のガスを送り、かつ触媒の劣化を抑制する観点から、260~500℃であることが好ましく、280~400℃であることがより好ましい。後段である脱硝触媒の温度は、NOx及びN2Oの還元機能を充分に発現させる観点から、350~700℃であることが好ましく、400~650℃であることがより好ましく、450~650℃であることがさらに好ましい。」
(本カ)実施例について
【0069】
<酸化触媒A-1の準備>
酸化触媒A-1として、市販のアンモニア分解触媒(IKOMAC-30、日揮ユニバーサル株式会社製)を用いた。
当該アンモニア分解触媒は、下層(厚さ100~200μm)及び上層(厚さ80~150μm)の2層構造の触媒成分をコージライト基材に担持したハニカム型触媒である。下層はPtを担持したTiO2、Cuイオン交換したβ型ゼオライト(Cuβ)、SiO2(バインダー)及びPを含み、上層はCuイオン交換したβ型ゼオライト(Cuβ)とSiO2(バインダー)を含む。触媒成分の各層の体積当たりの担持量は、下層:Pt 0.5g/L、TiO2 10g/L、Cuβ 70g/L、P 1g/L、SiO2 25g/L、であり、上層:Cuβ 64g/L、SiO2 16g/Lである。
Cuイオン交換したβ型ゼオライトとしては、プロトンタイプのβ型ゼオライト(東ソー株式会社製HSZ-941HOA、SiO2/Al2O3比 40、平均粒径 4.0μm)にイオン交換法にてCuを担持させたものを用いている。Cuイオン交換したβ型ゼオライトのN2-BET法による比表面積は560m2/gであり、Cuの含有量(イオン交換量)は4.5質量%である。
TiO2粉末としては、平均粒径1μm未満、比表面積200m2/g以上の、石原産業株式会社製のST-90Dを用いている。
SiO2としては、コロイダルシリカ(日産化学株式会社製のスノーテックス-CM)を用いている。
【0070】
<酸化触媒A-2の準備>
酸化触媒A-2として、市販のアンモニア分解触媒(IKOMAC-30Z3、日揮ユニバーサル株式会社製)を用いた。
当該アンモニア分解触媒は、下層(厚さ50~100μm)及び上層(厚さ80~150μm)の2層構造の触媒成分をコージライト基材に担持したハニカム型触媒である。下層はPtを担持したTiO2、Cuイオン交換したチャバサイト型ゼオライト(CuCHA)、SiO2(バインダー)を含み、上層はCuイオン交換したチャバサイト型ゼオライト(CuCHA)とSiO2(バインダー)を含む。触媒成分の各層の体積当たりの担持量は、下層:Pt 0.25g/L、TiO2 5g/L、CuCHA 35g/L、SiO2 13g/Lであり、上層:CuCHA 64g/L、SiO2 16g/Lである。
Cuイオン交換したチャバサイト型ゼオライトとしては、SiO2/Al2O3比 14、平均粒径3.0μm、N2-BET法による比表面積480m2/gであり、Cuの含有量(イオン交換量)は4.0質量%である、ゼオリスト社製CP-7208を用いている。
TiO2粉末及びSiO2はA-1と同様である。
【0071】
<脱硝触媒B-1の準備>
脱硝触媒B-1として、市販の脱硝触媒(NCDF-200、日揮ユニバーサル株式会社製)を用いた。
当該脱硝触媒は、セラミックコルゲート基材にFeイオン交換したβ型ゼオライト(Feβ)を担持したハニカム型触媒である。脱硝触媒層は、Feβとアルミナ(バインダー)を含む。触媒成分の体積当たりの担持量は、Feβ 170g/L、アルミナ 30g/Lである。
Feイオン交換したβ型ゼオライトとしては、プロトンタイプのβ型ゼオライト(東ソー株式会社製HSZ-931HOA、SiO2/Al2O3比 28、平均粒径 4.0μm)にイオン交換法にてFeを担持させたものを用いている。Feイオン交換したβ型ゼオライトのN2-BET法による比表面積は510m2/gであり、Feの含有量(イオン交換量)は2.1質量%である。
アルミナとしては、アルミナゾル(日産化学株式会社製のAS-520A)を用いている。
【0072】
<脱硝触媒C-1の準備>
脱硝触媒C-1として、市販のV2O5、WO3、TiO2を含有する、45セル/インチのハニカム状触媒(NRU-5、日揮触媒化成株式会社製)を準備した。
【0073】
<排ガス処理システムの作製>
上記のようにして作製した各ハニカム型触媒から、円柱状(直径21mm)のハニカム型触媒を所定長さ切り出した。切り出したハニカム型触媒を、流通式反応装置に、ガスの流入側から第一触媒として酸化触媒を、第二触媒として脱硝触媒を順に充填することで、排ガス処理システムを作製した。
【0074】
<活性評価試験>
アンモニアエンジンからの排ガスを想定したガスを排ガス処理システムに流通させた。マスフローコントローラーによりNH3ガス、NOxガス及びN2Oガスの流量を制御し、ローラーポンプにて水分量を制御した。水分濃度は10容量%とした。電気炉にて触媒を加熱することで触媒入口の温度(入口温度)を所定の温度として、各ガスの分解活性を評価した。表1に評価条件を示す。図2は、各例における活性評価試験の結果を示すグラフである。入口ガスNH3濃度とは酸化触媒との接触前の濃度であり、出口ガス濃度とは脱硝触媒との接触後の濃度である。」
「【0077】
【表1】
[図:0001437436000001.jpg]
【0078】
表1に示されたとおり、酸化触媒A-1又はA-2、及び脱硝触媒B-1を組み合わせた排ガス処理システムによれば、アンモニアエンジンからの排ガスを好適に処理できると考えられる。」
第3 特許異議申立書における申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書で証拠方法として、以下の甲第1号証~甲第9号証(以下「甲1」~「甲9」という。)を提示して、以下の申立理由1、2又は3により、本件発明1~11に係る特許は、取り消されるべきものであることを主張している。
1 申立理由1
本件発明1~11は、甲1、甲2、甲3、甲4又は甲5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件発明1~11に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
よって、本件発明1~11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2
本件発明1~11は、甲1、甲2、甲3、甲4又は甲5に記載された発明、さらには必要に応じて甲6~9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、本件発明1~11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3
本件発明1及び3~11に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
<証拠方法>
甲1:特開2005-95786号公報
甲2:国際公開2016/203253号(対応:特表2018-526192号公報)
甲3:特開2021-80876号公報
甲4:特開2019-167823号公報
甲5:国際公開2015/099024号
甲6:特開昭60-22922号公報
甲7:特開平8-57262号公報
甲8:特開2010-121509号公報
甲9:特開2020-148198号公報
第4 甲号証の記載
事案に鑑み、主たる証拠である甲1~5のうち、まず、甲4を摘記し、その次に甲1~3及び5を摘記し、そして、その余の甲6~9を摘記するとする。
1 甲4について
(1)記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した(以下同様)。
(甲4ア)「【0001】
本発明は、アンモニアの燃焼により駆動力を得る内燃機関の排気を浄化する技術に関する。」
(甲4イ)「【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態>
図1は、本発明の一実施形態としてのエンジンシステム1の概略図である。エンジンシステム1は、例えば車両に搭載されて、車両を駆動させるための駆動力を生み出す。エンジンシステム1は、駆動力を生み出す燃焼装置20と、燃焼装置20からの排気中における有害物質、例えば、アンモニア(NH3)、窒素酸化物(NOx)等を浄化する排気浄化装置10とを備える。
【0017】
燃焼装置20は、燃焼状態制御部21と、内燃機関22とを備える。内燃機関22は、アンモニアガスを燃焼させて駆動力を得るアンモニアエンジンである。以降、アンモニアガスを単に「アンモニア」と呼ぶ。燃焼状態制御部21は、スロットル(図示省略)を調整して内燃機関22への空気流量を変更すると共に、燃料供給弁(図示省略)を調整して内燃機関22への燃料供給量を変更する。これにより、燃焼状態制御部21は、内燃機関22内、及び、内燃機関22から排出される排気中の空気と燃料の質量比(混合比)を、過濃、量論、希薄の各状態へと制御する。混合比について、「Φ=理論空燃比/実際の混合気の空燃比」としたとき、過濃状態はΦ>1となる混合比を意味し、量論状態はΦ=1となる混合比を意味し、希薄状態はΦ<1となる混合比を意味する。Φは「当量比」とも呼ばれる。燃焼状態制御部21は、例えば、電子制御ユニット(ECU、Electronic Control Unit)により実装される。
【0018】
本実施形態の排気浄化装置10は、酸化還元触媒と、選択還元触媒とを用いて、排気中の有害物質を浄化する。以下の説明では、酸化還元触媒として、三元触媒(Three-Way Catalyst)を例示し、選択還元触媒としてSCR触媒(Selective Catalytic Reduction catalyst)を例示する。なお、酸化還元触媒としては、酸化作用及び還元作用を有する触媒である限りにおいて、三元触媒以外の触媒も利用できる。例えば、酸化還元触媒としては、セラミックスや酸化チタン等を担体として用い、白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属を活性触媒成分として担持した触媒を利用できる。同様に、選択還元触媒としては、アンモニアの吸着作用を有する触媒である限りにおいて、SCR触媒以外の触媒も利用できる。例えば、選択還元触媒としては、セラミックスや酸化チタン等を担体として用い、ゼオライトを活性触媒成分として担持した触媒を利用できる。」
「【0023】
三元触媒12は、主流路において最上流側、換言すればSCR触媒13よりも上流側に配置されている。三元触媒12は、排気中のアンモニア、NOx、水素(H2)を浄化することができるものの、混合比が量論近傍の所定範囲から外れた場合には、これらの浄化性能が低下するという特性を持つ。第2温度取得部15は、三元触媒12の温度を測定するセンサであり、本実施形態では、三元触媒12の触媒内の温度(いわゆる床温)を測定する。なお、第2温度取得部15は、三元触媒12の床温に代えて、三元触媒12の出入口近傍における温度を測定してもよい。第2温度取得部15は「第2温度取得部」に相当する。
【0024】
SCR触媒13は、主流路において最下流側、換言すれば三元触媒12よりも下流側に配置されている。SCR触媒13は、アンモニアを還元剤として、排気中のNOxを浄化することができる。第1温度取得部16は、SCR触媒13の温度を測定するセンサであり、本実施形態では、SCR触媒13の触媒内の温度(いわゆる床温)を測定する。なお、第1温度取得部16は、SCR触媒13の床温に代えて、SCR触媒13の出入口近傍における温度を測定してもよい。第1温度取得部16は「温度取得部」に相当する。」
(甲4ウ)上記図1として、以下の図面が記載されている。
「
[図:0001437436000002.jpg]
」
(2)甲4発明について
ア 上記(甲4ウ)の図1によれば、内燃機関(すなわちアンモニアエンジン)からの排気は、三元触媒(すなわち酸化還元触媒)及びSCR触媒(すなわち選択還元触媒)を順に通過することで処理されていることが看て取れる。
イ そうすると、(甲4イ)で摘記した実施形態の下線部に着目し、上記アの事項を踏まえて、甲1に記載された発明を認定すると、以下のとおりである。なお、図面における部品番号は略した。
「アンモニアエンジンの排気浄化装置であって、
酸化還元触媒と、選択還元触媒とを用いて、排気中の有害物質を浄化するもので、
前記酸化還元触媒は、酸化作用及び還元作用を有する触媒であって、白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属を活性触媒成分として担持した触媒であり、
前記選択還元触媒としては、アンモニアの吸着作用を有する触媒であって、ゼオライトを活性触媒成分として担持した触媒であり、アンモニアを還元剤として、排気中のNOxを浄化することができるものであり、
アンモニアエンジンからの排気は、酸化還元触媒及び選択還元触媒を順に通過することで処理される、アンモニアエンジンの排気浄化装置。」
2 甲1について
(1)記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
(甲1ア)「【請求項1】
アンモニアを含有する排ガスを下記工程を含むプロセスにしたがって浄化することを特徴とするアンモニア含有排ガスの浄化方法。
(a)アンモニア含有排ガスをアンモニア分解触媒に接触させてアンモニアを分解する工程。
(b)工程(a)からの処理ガスを亜酸化窒素分解触媒に接触させて処理ガス中の亜酸化窒素を分解する工程。」
(甲1イ)「【背景技術】
・・・
【0011】
【特許文献1】特開昭54-1978857号公報
【特許文献2】特開平10-309437号公報
【特許文献3】特開平10-314548号公報
【特許文献4】特開2002-52381号公報
【特許文献5】特開2002-66538号公報」
(当審注:上記特許文献には、以下の事項が記載されている。なお、特許文献1については、正しい公報番号が不明であるから省略する。
特許文献2:「【0002】【従来の技術】アンモニア含有排ガスとしては、例えば、火力発電設備,し尿処理設備,下水処理設備,食品製造設備,コークス炉ガス製造設備等の排ガスがある。 これらの排ガス中のアンモニアは環境に対して有害物質であり、また、こうした設備の配管系を腐食するなどの悪影響を及ぼすため、排ガス中からアンモニアの除去が研究されている。
特許文献3:「【0002】【従来の技術】火力発電設備,し尿処理設備.下水処理設備,食品製造設備,コークス炉ガス製造設備等から排出される排ガス中のアンモニアは有害物質であったり、 配管系を腐食するなど悪影響(規制値:5ppm以下)が大きいため、排ガス中からアンモニアを除去することが研究されている。」
特許文献4:「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は排水浄化方法と装置に係り、特に火力発電所から排出される排水中のアンモニアを効率良くN2とH2Oに無害化することができる アンモニア含有排水の浄化方法と装置に関する。」
特許文献5:「【0001】【産業上の利用分野】本発明は排水浄化方法と装置に係り、特に火力発電所から排出される排水中のアンモニアを効率良くN2とH2Oに無害化することができるアン モニア含有排水の浄化方法と装置に関する。」)
「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記従来技術のいずれにおいても、亜酸化窒素濃度を低減させるためには、運転条件を厳密に規定する必要があり、またこれを実現するために複雑な制御系が必要である。このため、処理しようとする排ガス中のアンモニアやNOxの濃度が変動したりするときには、応答に遅れが生じて亜酸化窒素が排出される可能性がある。」
(甲1ウ)「【0023】
アンモニア分解触媒を例示すると次のとおりである。
(1)Co、CeおよびMnからなる酸化物触媒
(2)第一活性成分としてCu、第二活性成分としてFe、Ni、V、Mo、W、Na、K、Li、Mg、BaおよびSnから選ばれた1種以上の酸化物が酸化物担体に担持された構成の触媒
(3)酸化物担体とAg、あるいはAgとFe、Mn、Zn、Mo、WおよびWから選ばれた1種以上の元素を含有する触媒
(4)(A)Ti-Si、Ti-ZrまたはTi-Si-Zrの複合酸化物、(B)V、WおよびMoから選ばれるも少なくとも1種の酸化物、(C)Pt、Pd、Rh、RuおよびIrから選ばれる少なくとも1種の貴金属またはその化合物を含む触媒
(5)Cuイオンを交換ZSM-5にPtを担持させた触媒
(6)γ-Al2O3担体にNi、Mn酸化物を担持させた触媒
(7)A’xA1-xBO3-y(A’:Ca、Sr、A*La、B:Mn、Fe、Co)で表されるペロブスカイト系酸化物触媒
(8)Cuイオン交換Y型ゼオライト、またはCu担持Al2O3触媒
(9)MoO3担持SiO2触媒
(10)BaMnAl11O19で表される複合酸化物触媒
(11)Pt、Pd、Rh、RuおよびIrから選ばれる少なくとも1種の貴金属またはその化合物を酸化物担体に担持させた触媒
(12)Cu-Mn複合酸化物を活性成分とする触媒」
「【0025】
亜酸化窒素分解触媒を例示すると次のとおりである。
(13)AgをBET表面積5~25m2/gのアルミナ担体に担持した触媒
(14)示性式(SiO2)55で示されるケイ素と酸素とからなるゼオライトにCuを担持した触媒
(15)SiO2またはSiO2-Al2O3にRh、PdおよびRuから選ばれる少なくとも1種の貴金属を担持した触媒
(16)Feイオン交換β型ゼオライト
(17)Rh2O3またはCo2O3およびこれらの混合物からなる触媒
(18)Zn(II)イオン、Rh(II)イオンおよびAl(III)イオンを含むハイドロタルサイト型化合物を焼成して得られる酸化物亜鉛のみが結晶状態で存在する複合酸化物触媒
アンモニア分解触媒、亜酸化窒素分解触媒は上記したものを適宜使用することができるが、アンモニア分解触媒に(1)または(4)を用い、かつ亜酸化窒素分解触媒として(15)または(17)を用いた場合、NOxを殆ど副生することなく、また亜酸化窒素も大幅に低減しながらアンモニア含有排ガスを効率よく浄化できるので好ましい。」
(甲1エ)「【実施例】
【0037】
<アンモニア分解触媒1>
硝酸コバルト(II)6水和物873g、硝酸セリウム(II)6水和物1303gおよび硝酸マンガン(II)6水和物1292gを純水に均一に溶解した。この水溶液を加熱することで水分を蒸発させCo、Ce、Mnを含む混合粉体を得た。次いで、この混合粉体を550℃にて5時間焼成してCo、Ce、Mnからなる酸化物粉体を調製した。この酸化物粉体800gにγ-アルミナ粉体400gを添加、混合して球状(平均粒子径5mm)に成形した後、120℃にて5時間乾燥し、次いで550℃で3時間焼成してCo-Ce-Mn系アンモニア分解触媒を得た。この触媒組成は、Co3O4:CeO2:MnO2:Al2O3=1:2.1:1.6:2.4(質量比)であった。
<アンモニア分解触媒2>
チタン酸化物粉体(ミレニアム社製、商品名DT-51)を球状(平均粒径5mm)に成形した後、120℃にて5時間乾燥し、次いで500℃にて3時間焼成した。この球状チタン酸化物を硝酸銀水溶液に含浸した。含浸後、120℃にて5時間乾燥し、次いで500℃にて3時間焼成した。次いで、硫酸第一鉄水溶液に含浸し、120℃にて5時間乾燥し、次いで500℃にて3時間焼成してアンモニア分解触媒2を得た。この触媒の組成は、TiO2:Ag:Fe=80:17:3(質量比)であった。
<亜酸化窒素分解触媒>
所定の濃度に調整した硝酸ロジウム水溶液にγ-アルミナペレット(住友化学工業(株)製、平均粒子径5mm)を5分間浸漬し、その後、120℃にて5時間乾燥した後、600℃で5時間焼成してRh担持γ-Al2O3触媒を調製した。この触媒組成は、Rh:Al2O3=5:95(質量比)であった。」
(2)甲1発明について
ア (甲1ア)に記載の「アンモニア分解触媒」及び「亜酸化窒素分解触媒」として、(甲1ウ)によれば、「アンモニア分解触媒」及び「亜酸化窒素分解触媒」として多数記載されている中に、一応「Cuイオン交換Y型ゼオライト」、「Feイオン交換β型ゼオライト」との記載はあるものの、(甲1ウ)の「アンモニア分解触媒に(1)または(4)を用い、かつ亜酸化窒素分解触媒として(15)または(17)を用いた場合、NOxを殆ど副生することなく、また亜酸化窒素も大幅に低減しながらアンモニア含有排ガスを効率よく浄化できるので好ましい。」との記載、上記(甲1エ)の実施例における「アンモニア分解触媒」及び「亜酸化窒素分解触媒」の記載を踏まえると、「アンモニア分解触媒」として「(1)または(4)」を、「亜酸化窒素分解触媒」として「(15)または(17)」を認定すべきである。
なお、仮に、「アンモニア分解触媒」及び「亜酸化窒素分解触媒」を「Cuイオン交換Y型ゼオライト」及び「Feイオン交換β型ゼオライト」としても、本件発明1の第一の触媒が「Pt及びゼオライトを含む触媒層を備える酸化触媒」であり、第二の触媒が「Cu、Co又はFeイオンとイオン交換されたゼオライトを含む触媒層を備える脱硝触媒」であることと(下記第5の1(1)イ(ア)で述べる相違点A)とは異なるものである。
そうすると、(甲1ア)及び(甲1ウ)の記載を踏まえ、さらに、方法の発明をその方法を行うシステムをとして認定すると、以下のとおりである。
「アンモニアを含有する排ガスを下記工程を含むプロセスにしたがって浄化するアンモニア含有排ガスの浄化システムであって、
(a)アンモニア含有排ガスをアンモニア分解触媒に接触させてアンモニアを分解する工程。
(b)工程(a)からの処理ガスを亜酸化窒素分解触媒に接触させて処理ガス中の亜酸化窒素を分解する工程。
そして、アンモニア分解触媒が、Co、CeおよびMnからなる酸化物触媒、あるいは、(A)Ti-Si、Ti-ZrまたはTi-Si-Zrの複合酸化物、(B)V、WおよびMoから選ばれる少なくとも1種の酸化物、(C)Pt、Pd、Rh、RuおよびIrから選ばれる少なくとも1種の貴金属またはその化合物を含む触媒であり、
亜酸化窒素分解触媒が、SiO2またはSiO2-Al2O3にRh、PdおよびRuから選ばれる少なくとも1種の貴金属を担持した触媒、あるいは、Rh2O3またはCo2O3およびこれらの混合物からなる触媒である、
浄化システム。」(以下「甲1発明」という。)
3 甲2について
(1)記載事項
甲2は、国際公開2016/203253号(対応:特表2018-526192号公報)であるところ、特表2018-526192号公報の公表日は平成30年9月13日で本件出願日の令和3年8月16日より前であり、申立人は特許異議申立書(以下「申立書」という。)で、図面、文章等、特表2018-526192号公報の記載を用いて摘記していることから、以下、特表2018-526192号公報の記載で摘記することとする。
(甲2ア)「【請求項1】
入口端及び出口端を含む基材と、第1のゾーンと、第2のゾーンとを含む触媒物品であって、第1のゾーンが、白金族金属を含むアンモニアスリップ触媒(ASC)と、金属交換モレキュラーシーブ、バナジウム又は卑金属を含む第1のSCR触媒とを含み、第2のゾーンが、ディーゼル酸化触媒(DOC)、ディーゼル発熱触媒(DEC)、触媒化スートフィルター(CSF)、NOx吸収剤、選択的触媒還元/受動的NOx吸着剤(SCR/PNA)、コールド・スタート触媒(CSC)又は三元触媒(TWC)からなる群より選択される第2の触媒を含み、第1のゾーンが第2のゾーンに対して上流のガス流に配置されている、触媒物品。」
(甲2イ)「【0003】
リーンバーン及びディーゼルエンジンで発生する排気ガスは、一般に酸化性である。NOxを元素窒素(N2)と水に変換する選択的触媒還元(SCR)として知られている方法において、触媒及び還元剤を用いてNOxを選択的に還元する必要がある。SCRプロセスでは、ガス状還元剤、典型的には無水アンモニア、アンモニア水又は尿素が、排気ガスが触媒と接触する前に排気ガス流に添加される。還元剤は触媒上に吸着され、NOxは触媒された基材の中又は上を通過する際に還元される。NOxの変換を最大にするためには、化学量論量より多いアンモニアをガス流に添加することがしばしば必要である。しかし、過剰のアンモニアを大気中に放出することは、人々の健康及び環境に有害であろう。さらに、アンモニアは、特に水溶液形態で苛性である。排気管下流の排気管の領域におけるアンモニア及び水の凝縮は、排気システムを損傷し得る腐食性の混合物を生じる可能性がある。したがって、排気ガス中のアンモニアの放出は止めるべきである。従来型の排気システムの多くでは、アンモニア酸化触媒(アンモニアスリップ触媒又は「ASC」としても知られている)がSCR触媒の下流に設置されており、排気ガス中のアンモニアを窒素に変換することによってアンモニアを除去する。アンモニアスリップ触媒の使用は、典型的なディーゼル走行サイクルにわたって90%を超えるNOx変換を可能にし得る。」
(2)甲2発明
(甲2ア)の請求項1の「第1のゾーン」における「アンモニアスリップ触媒(ASC)」及び「SCR触媒」の機能は、(甲2イ)に記載されているものであるから、請求項1の触媒物品の第1のゾーンを参照しつつ、具体的には(甲2イ)の記載から、甲2に記載されている発明を認定すると、以下のとおりである。
「リーンバーン及びディーゼルエンジンで発生する排気ガスに対する、第1のゾーンが第2のゾーンに対して上流のガス流に配置されている触媒物品であって、
ガス状還元剤、典型的には無水アンモニア、アンモニア水又は尿素が、排気ガスが触媒と接触する前に排気ガス流に添加され、
第1のゾーンには、NOxを元素窒素(N2)と水に変換する、金属交換モレキュラーシーブ、バナジウム又は卑金属を含む選択的触媒還元(SCR)と、
排気ガス中のアンモニアを窒素に変換することによってアンモニアを除去する、白金族金属を含むアンモニア酸化触媒(アンモニアスリップ触媒又は「ASC」)がSCR触媒の下流に設置されている、触媒物品。」
4 甲3について
(1)記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
(甲3ア)「【請求項1】
エンジンから排出される排気ガスを浄化する排気浄化装置であって、
前記排気ガスが流れる排気通路に配置され、前記排気ガスに含まれるNOxを還元する第1の還元触媒と、
前記排気通路における前記第1の還元触媒の下流側に配置され、少なくとも前記NOxのうちNOを酸化する酸化触媒と、
前記排気通路における前記酸化触媒の下流側に配置され、前記排気ガスに含まれる粒子状物質を捕集するフィルタと、
前記排気通路における前記フィルタの下流側に配置され、前記排気ガスに含まれるNOxを還元する第2の還元触媒と、
前記排気通路における前記第1の還元触媒の上流側に配置され、前記排気ガスに還元剤を噴射可能に構成された還元剤噴射部と、
を備え、
前記第1の還元触媒は、銅(Cu)を含有し、
前記第2の還元触媒の上流側部分は、鉄(Fe)を含有し、
前記第2の還元触媒の下流側部分は、銅(Cu)を含有する、排気浄化装置。」
(甲3イ)「【0013】
図1は、本実施形態に係る排気浄化装置1を示す概略構成図である。排気浄化装置1は、例えばトラック等の車両に搭載されており、内燃機関であるエンジン2から排出される排気ガスGを浄化する。エンジン2は、例えばディーゼルエンジンである。排気浄化装置1が搭載される車両としては、トラックの他、例えば、トラクター又はバス等の大型の車両であってもよいし、中型自動車、小型自動車、又は軽自動車であってもよい。なお、以下の説明において、「上流側」とは排気ガスGの流れ方向の上流側を意味し、「下流側」とは排気ガスGの流れ方向の下流側を意味する。
【0014】
排気浄化装置1は、排気ガスGが流れる排気通路5に搭載されている。排気浄化装置1は、排気通路5の上流側から下流側に向かって順に、SCR11(第1の還元触媒)と、ASC12(第1のアンモニアスリップ触媒)と、DOC13(酸化触媒)と、DPF14(フィルタ)と、SCR15(第2の還元触媒)と、ASC16(第2のアンモニアスリップ触媒)と、を備えている。更に、排気浄化装置1は、SCR11の上流側を流れる排気ガスGに尿素水を噴射する尿素水噴射部21(還元剤噴射部)と、SCR15の上流側を流れる排気ガスGに尿素水を噴射する尿素水噴射部22と、尿素水噴射部21及び尿素水噴射部22を制御する制御部23と、SCR11の上流側を流れる排気ガスGの温度を検出するセンサ31と、SCR15の上流側を流れる排気ガスGの温度を検出するセンサ32と、を備えている。」
(甲3ウ)「【0019】
尿素水噴射部21は、排気通路5におけるエンジン2とSCR11との間に配置されている。尿素水噴射部21は、エンジン2とSCR11との間を流れる排気ガスGに尿素水を噴射可能に構成されている。尿素水噴射部22は、排気通路5におけるDPF14とSCR15との間に配置されている。尿素水噴射部22は、DPF14とSCR15との間を流れる排気ガスGに尿素水を噴射可能に構成されている。尿素水噴射部21及び尿素水噴射部22は、制御部23の制御に応じて尿素水を噴射する。排気ガスGが所定温度(例えば180℃)以上の場合に、排気ガスGに尿素水が噴射されると、熱分解反応及び加水分解反応によってNH3が生成される。」
(2)甲3発明
ア (甲3ア)で摘記した請求項1における「エンジン」とは、(甲3イ)によれば「ディーゼルエンジン」であり、その請求項1における「排気ガスに還元剤を噴射可能に構成された還元剤噴射部」における「還元剤」とは、(甲3ウ)によれば「尿素水」であり、尿素水は「熱分解反応及び加水分解反応によってNH3が生成される」と記載されている。また、(甲3イ)には「排気浄化装置1は、排気通路5の上流側から下流側に向かって順に、SCR11(第1の還元触媒)と、ASC12(第1のアンモニアスリップ触媒)と、DOC13(酸化触媒)と、DPF14(フィルタ)と、・・・を備えている。」と記載されていることから、請求項1における「第1の還元触媒」と「酸化触媒」との間には「アンモニアスリップ触媒」があるといえる。
イ そうすると、上記アを踏まえて、(甲3ア)で摘記した請求項1の記載から、甲3に記載されている発明を認定すると、以下のとおりである。
「ディーゼルエンジンから排出される排気ガスを浄化する排気浄化装置であって、
前記排気ガスが流れる排気通路に配置され、前記排気ガスに含まれるNOxを還元する第1の還元触媒と、
アンモニアスリップ触媒と、
前記排気通路における前記第1の還元触媒の下流側に配置され、少なくとも前記NOxのうちNOを酸化する酸化触媒と、
前記排気通路における前記酸化触媒の下流側に配置され、前記排気ガスに含まれる粒子状物質を捕集するフィルタと、
前記排気通路における前記フィルタの下流側に配置され、前記排気ガスに含まれるNOxを還元する第2の還元触媒と、
前記排気通路における前記第1の還元触媒の上流側に配置され、前記排気ガスに尿素水を噴射可能に構成された尿素水噴射部と、を備え、
前記尿素水は、熱分解反応及び加水分解反応によってNH3が生成され、
前記第1の還元触媒は、銅(Cu)を含有し、
前記第2の還元触媒の上流側部分は、鉄(Fe)を含有し、
前記第2の還元触媒の下流側部分は、銅(Cu)を含有する、排気浄化装置。」
5 甲5について
(1)記載事項
(甲5ア)「[請求項1] 水分を含むアンモニア排ガスを処理するための触媒であって、
貴金属と、無機酸化物と、リンと、第1のプロトン型ゼオライトまたはCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第1のイオン交換型ゼオライトと、を有する下層、及び
前記下層上に設けられ、第2のプロトン型ゼオライトまたはCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第2のイオン交換型ゼオライト、を有する上層、
を含む、アンモニア分解触媒。」
(甲5イ)「背景技術
[0002] NH3ガス及びアンモニア水は産業用途として広く、大量に使用されており、下水処理におけるNH3態窒素や、半導体製造におけるパーティクルの除去工程で使用するNH3を含む排水等が挙げられる。
[0003] しかしながら、NH3ガスは刺激臭の物質で大気への放出においては悪臭防止法、排水(廃水)としてはBOD増加物質であることから水質汚濁防止法により排出量が規制されている。」
(甲5ウ)「[0050] <触媒の構造>
本発明のアンモニア分解触媒は、二層構造からなる。下層には、貴金属、無機酸化物、リン、第1のプロトン型ゼオライトまたは第1のイオン交換型ゼオライトを有し、上層には第2のプロトン型ゼオライトまたは第2のイオン交換型ゼオライトを有する。本発明のアンモニア分解触媒は、前記のような二層構造にしたことにより、高水分含有アンモニア排ガスに使用しても高いNH3分解率を示し、高いNOxの抑制と、N2Oの副生が抑制できる。」
(甲5エ)「[0063] 本発明は、水分を含むアンモニア排ガスを処理するための方法にも関する。この処理方法は、上記で得られた二層構造アンモニア分解触媒とアンモニア排ガスとを接触させて、アンモニアを窒素と水に分解する工程を含む。
[0064] 本発明のアンモニア分解触媒が使用されるアンモニア排ガスとしては、排ガス中にアンモニアが含まれていれば特に制限はない。例えば半導体工場等、各種工場からのアンモニアを含む排ガス、コークス炉排ガス、排煙脱硝プロセスからのリークアンモニア含有ガス、下水処理場、汚泥処理施設等のアンモニア含有排水のストリッピングにより発生する排ガスが挙げられる。」
(2)甲5発明
(甲5ア)で摘記した請求項1の記載により、甲5に記載されている発明を認定すると、以下のとおりである。
「水分を含むアンモニア排ガスを処理するための触媒であって、
貴金属と、無機酸化物と、リンと、第1のプロトン型ゼオライトまたはCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第1のイオン交換型ゼオライトと、を有する下層、及び
前記下層上に設けられ、第2のプロトン型ゼオライトまたはCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第2のイオン交換型ゼオライト、を有する上層、
を含む、アンモニア分解触媒。」(以下「甲5発明」という。)
6 その余の甲号証について
(1)甲6について
甲6には、以下の事項が記載されている。
「次に第6図は、本発明の触媒をNO2含有ガスの脱硝に用いる場合の他の系統図を示すものである。配管4により導かれたNO2含有ガスは、アンモニア注入配管5からアンモニアを注入された後、公知の脱硝触媒を充てんした反応器12に導入され、前述の(3)式の反応により窒素とN2Oおよび水とにアンモニア還元される。ここで排ガスはさら圧アンモニア注入配管7からアンモニアが注入されたのち、本発明による触媒11を充てんした反応器13に導かれ、N2Oは前述の(6)式に示すようにアンモニア還元される。これにより、NO2を主体とするガスであってもN2Oを副生することなく脱硝処理することができる。」(5頁左上欄2~14行)
(2)甲7について
甲7には、以下の事項が記載されている。
「【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため本願で特許請求される発明は以下のとおりである。
(1)排ガス中の亜酸化窒素の除去方法において、亜酸化窒素含有排ガスにアンモニアを混合し、β型ゼオライトに鉄を担持した触媒と350~500℃の温度域で接触させて排ガス中の亜酸化窒素を還元除去することを特徴とする排ガス中の亜酸化窒素の除去方法。
【0007】(2)排ガス中の亜酸化窒素のアンモニアによる還元除去用触媒において、β型ゼオライトに鉄を担持したことを特徴とする排ガス中の亜酸化窒素の除去用触媒。
(3)(2)において、β型ゼオライトに対する鉄の担持量が0.1~6wt%であることを特徴とする排ガス中の亜酸化窒素の除去用触媒。」
(3)甲8について
甲8には、以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを燃料とするアンモニアエンジンと、アンモニアを分解するアンモニアクラッカー触媒を含み、アンモニアを分解して水素を生じさせるアンモニアクラッカー装置とを備えたアンモニアエンジンシステムに関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、アンモニアエンジンからの排ガス温度がアンモニアクラッカー触媒の作動温度よりも低い低負荷運転時においても、アンモニアクラッカー触媒に反応促進に必要な温度を供給することができるアンモニアエンジンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記に説明したように、アンモニアクラッカー触媒を用いてアンモニアから安定して水素を製造するためには、アンモニアクラッカー触媒を290℃以上(好ましくは340℃以上)に保つ必要がある。そこで、本発明者らが鋭意検討したところ、アンモニアが下記(1)式に示されるように酸素と酸化反応すると発熱するため、このような発熱反応を起こさせるアンモニア酸化装置が、アンモニアエンジンとアンモニアクラッカー装置との間に組み入れられれば、上記課題が解決され得ることを見出した。」
(4)甲9について
甲9には、以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンに係り、特に、重油や軽油等の燃料油を主燃料とする船舶用ディーゼルエンジンに用いるのに好適な、従来、燃料として使用されなかった、炭素(C)を含まないカーボンフリーであるアンモニアNH3を燃焼させ、温室効果ガスである二酸化炭素CO2削減に特に有効なディーゼルエンジンに関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、比較的簡単な構成でアンモニアの燃焼率を高めてCO2を削減するディーゼルエンジンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの形態によれば、燃焼室と、前記燃焼室内に点火源となる燃料油とガス状のアンモニアとを投入する燃料投入手段とを有し、前記燃料投入手段により前記燃焼室内でアンモニア予混合気を形成して混合燃焼させるディーゼルエンジンであって、前記燃焼室内で、前記燃焼室の中心部よりも前記燃焼室の内側側壁面側のアンモニア濃度が濃くなるようなアンモニア予混合気を形成するよう制御する制御手段を有するものである。」
第5 申立理由1及び2に対する当審の判断
1 本件発明1について
(1)主たる証拠としての適格性
申立人が主たる証拠として提示している甲1~5について、まず、甲2及び3は、上記第4の3及び4で記載したようにディーゼルエンジンの排ガスの処理に関するものであり、ディーゼルエンジンの排ガスには、そもそも処理されるべきアンモニアが含まれておらず、むしろ、NOxを還元するためにアンモニア水、尿素等を追加するものである。そして、処理の順番も、一般に、NOxを処理したのちアンモニアを処理することから、本件発明1の「第一の触媒(酸化触媒)及び第二の触媒(脱硝触媒)を順に透過することで処理」との順番とは異なるものである。
また、甲1及び5についても、甲1は、上記(甲1イ)において背景技術として記載されている特許文献をみると、火力発電等のプラントから出る排ガスを対象としたものであり、甲5は(甲5イ)に記載されているように、下水処理、NH3を含む排水等から発生する水分を含むアンモニア排ガスを対象としたものであるから、それらの排ガスにはアンモニアが含有されているものの、いずれも「アンモニアエンジン」の排ガス処理を対象としたものではない。
そうすると、主たる証拠としては、上記第4の1(2)で認定したように「アンモニアエンジンの排気浄化」についての発明である甲4が適当であると判断されることから、まず、甲4発明を主発明として検討した後に、その余の甲1発明~甲3発明及び甲5発明を主発明とした場合について検討することとする。
(2)甲4を主とした場合
ア 対比
(ア)酸化作用及び還元作用を有する酸化還元触媒と、酸化機能のみを有する酸化触媒とは、触媒の機能として異なるものであるから、「触媒」という限りにおいて共通するものである。また、本件発明1における触媒「層」について本件明細書において特段の定義もないことから、触媒成分が担持されている触媒も触媒層といえる。
そうすると、甲4発明の「酸化作用及び還元作用を有する触媒であって、白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属を活性触媒成分として担持した触媒」である「酸化還元触媒」と、本件発明1の「第一の触媒としてPt及びゼオライトを含む触媒層を備える酸化触媒」とは、「第一の触媒として触媒層を備える触媒」という点のみで共通するといえる。
(イ)甲4発明の「排気中のNOxを浄化する」「選択還元触媒」は、脱硝触媒といえる。また、甲4発明の「ゼオライトを活性触媒成分として担持した触媒」は、「ゼオライトを含む触媒層」に相当するといえる。
そうすると、甲4発明の「アンモニアの吸着作用を有する触媒であって、ゼオライトを活性触媒成分として担持した触媒であり、アンモニアを還元剤として、排気中のNOxを浄化する」「選択還元触媒」と、本件発明1の「第二の触媒としてCu、Co又はFeイオンとイオン交換されたゼオライトを含む触媒層を備える脱硝触媒」とは、「第二の触媒としてゼオライトを含む触媒層を備える脱硝触媒」の点で共通している。
(ウ)甲4発明の「アンモニアエンジンからの排気は、酸化還元触媒及び選択還元触媒を順に通過することで処理される、アンモニアエンジンの排気浄化装置」は、本件発明1の「アンモニアエンジンの排ガスが、前記第一の触媒及び前記第二の触媒を順に透過することで処理される、アンモニアエンジンの排ガス処理システム」に相当する。
(エ)以上を踏まえると、本件発明1と甲4発明とは、
(一致点)
「第一の触媒として触媒層を備える触媒と、
第二の触媒としてゼオライトを含む触媒層を備える脱硝触媒と、を備え、
アンモニアエンジンの排ガスが、前記第一の触媒及び前記第二の触媒を順に透過することで処理される、アンモニアエンジンの排ガス処理システム。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
第一の触媒が、本件発明1では、「Pt及びゼオライトを含む触媒層を備える酸化触媒」であるものに対し、甲4発明では、「酸化作用及び還元作用を有する触媒であって、白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属を活性触媒成分として担持した」「酸化還元触媒」である点。
(相違点2)
ゼオライトを含む触媒層を備える脱硝触媒である第二の触媒が、本件発明1では、「Cu、Co又はFeイオンとイオン交換されたゼオライトを含む触媒層を備える脱硝触媒」であるのに対し、甲4発明では、ゼオライトが「Cu、Co又はFeイオンとイオン交換された」ものでない点。
イ 相違点の判断
(ア)両相違点の総合的な検討
a 本件発明1において「排ガスが、前記第一の触媒及び前記第二の触媒を順に透過することで処理される」と特定されるように、ガスを順に2つの触媒を経て処理する場合には、2つのそれぞれの触媒の機能が相まってガスが処理されることから、2つの触媒の関係を切り離して個別に検討することは、技術的に適切なことではない。したがって、上記相違点1及び相違点2を1つの相違点(以下「相違点A」という。)として総合的に検討することとする。
b まず、申立人が主たる証拠として提示している甲1~3及び5について検討する。
(a)甲2及び甲3については、上記第4の3(2)及び4(2)において、甲2発明及び甲3発明を認定したとおり、アンモニアを含まない「リーンバーン及びディーゼルエンジンで発生する排気ガス」及び「ディーゼルエンジンから排出される排気ガス」に対するものであり、排気ガスを通す触媒の順番が、前者では「選択的触媒還元(SCR)」(脱硝触媒)から「アンモニア酸化触媒」(酸化触媒)の順番、後者では「第1の還元触媒」(脱硝触媒)から「アンモニアスリップ触媒と酸化触媒」(酸化触媒)の順番であり、上記相違点Aに係る、第一の触媒が「酸化触媒」であり、第二の触媒が「脱硝触媒」であるものと順番が反対であることから、各々の触媒を構成する物質について検討するまでもなく、相違点Aに係る構成が示されているとはいえない。
(b)次に、甲1について検討するに、上記第4の2(2)で認定したとり、甲1発明は「アンモニアを含有する排ガス」に対するものであるものの、「排ガス」とは、具体的には、上記(甲1イ)において背景技術として記載されている特許文献から把握されるとおり火力発電設備、し尿処理設備、下水処理設備、食品製造設備、コークス炉ガス等から排出される排ガスである。
そして、甲1発明では、その排ガスを通す触媒が、アンモニア分解触媒(酸化触媒)から亜酸化窒素分解触媒(脱硝触媒)であるものの、「アンモニア分解触媒が、Co、CeおよびMnからなる酸化物触媒、又は、(A)Ti-Si、Ti-ZrまたはTi-Si-Zrの複合酸化物、(B)V、WおよびMoから選ばれる少なくとも1種の酸化物、(C)Pt、Pd、Rh、RuおよびIrから選ばれる少なくとも1種の貴金属またはその化合物を含む触媒」であり、「亜酸化窒素分解触媒が、SiO2またはSiO2-Al2O3にRh、PdおよびRuから選ばれる少なくとも1種の貴金属を担持した触媒、又は、Rh2O3またはCo2O3およびこれらの混合物からなる触媒」であるから、本件発明1の「Pt及びゼオライトを含む触媒層を備える酸化触媒」及び「Cu、Co又はFeイオンとイオン交換されたゼオライトを含む触媒層を備える脱硝触媒」とは異なるものである。
そうすると、相違点Aに係る構成が示されているとはいえない。
(c)さらに、甲5について検討するに、上記第4の5(2)で認定したとり、甲5発明は「水分を含むアンモニア排ガス」に対するものであるものの、「排ガス」とは、具体的には、上記(甲5イ)から把握されるとおり、下水処理、NH3を含む排水等から発生する水分を含むアンモニア排ガスである。
そして、甲5発明では、その排ガスを通す触媒が「貴金属と、無機酸化物と、リンと、第1のプロトン型ゼオライトまたはCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第1のイオン交換型ゼオライトと、を有する下層、及び 前記下層上に設けられ、第2のプロトン型ゼオライトまたはCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第2のイオン交換型ゼオライト、を有する上層、を含む、アンモニア分解触媒」であり、これは上記第2の1で記載した本件発明1を引用する本件発明2である「前記酸化触媒の触媒層が、Ptと、無機酸化物と、第一のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第一のイオン交換型ゼオライトとを含む第一の層と、
前記第一の層の表面上に設けられており、第二のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第二のイオン交換型ゼオライトを含む第二の層と、を備える」ものに相当していることから、甲5発明では、本件発明1の「第一の触媒」としての「酸化触媒」のみが存在することになる。
そうすると、甲5発明には、本件発明1の「第二の触媒」としての「脱硝触媒」が存在しないのであるから、相違点Aに係る構成が示されているとはいえない。
c その余の甲号証
その余の甲号証である甲6~9には、上記第4の6で摘記したとおり、相違点Aに係る構成が示されているとはいえない。
d 小括
よって、甲1~3及び甲5~9の記載を参照しても、排ガスを第一の触媒及び第二の触媒を順に透過することで処理する際の触媒として、第一の触媒が「Pt及びゼオライトを含む触媒層を備える酸化触媒」であり、第二の触媒が「Cu、Co又はFeイオンとイオン交換されたゼオライトを含む触媒層を備える脱硝触媒」であるものについて開示したものはないのであるから、甲4発明に、甲1~3及び甲5~9に記載されている事項を組み合わせても相違点Aに係る構成が導出できず、相違点Aは当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(イ)個別の検討
念のため、個別に相違点1について検討するに、甲4発明の「酸化作用及び還元作用を有する触媒」である「酸化還元触媒」を「酸化触媒」に替えることは、機能の異なる触媒に替えることになるから、そもそも技術的に動機があることではなく、ましてや、甲4発明の「酸化作用及び還元作用を有する触媒であって、白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属を活性触媒成分として担持した」「酸化還元触媒」を「Pt及びゼオライトを含む触媒層を備える酸化触媒」に替える動機は全くなく、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、相違点を項別に検討しても、相違点2について検討するまでもなく、相違点1の点で当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
ウ 小括
よって、本件発明1は、甲4発明に基づいて、さらには甲1~3及び甲5~9の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、上記相違点1及び2を実質的な相違点ではないとすることもできないため、本件発明1は甲4発明でもない。
(3)甲1発明~甲3発明及び甲5発明を主とした場合
上記(2)イ(ア)bで述べたとおり、甲1発明~甲3発明及び甲5発明には、排ガスを第一の触媒及び第二の触媒を順に透過することで処理する際の触媒として、第一の触媒が「Pt及びゼオライトを含む触媒層を備える酸化触媒」であり、第二の触媒が「Cu、Co又はFeイオンとイオン交換されたゼオライトを含む触媒層を備える脱硝触媒」であるものが記載されておらず、この点は、その余の甲号証にも記載されていないことから、甲1発明~甲3発明及び甲5発明のいずれの発明を主とした場合についても、本件発明1は、甲1発明~甲3発明及び甲5発明ではなく、甲1発明~甲3発明及び甲5発明に基づいて、さらにはその余の甲号証の記載を参照しても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本件発明2~11について
本件発明2~11は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明1と同様に、甲1発明~甲5発明ではなく、そして、甲1発明~甲5発明に基づいて、さらにはその余の甲号証の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 まとめ
したがって、本件発明1~11は、甲1発明~甲5発明ではなく、そして、甲1発明~甲5発明に基づいて、さらにはその余の甲号証の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではないことから、申立理由1又は申立理由2によって、本件発明1~11に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立人の主張について
申立人の申立理由1及び2についての主張について検討するに、申立人は、主たる証拠である甲1~甲5において、各甲号証に記載されている発明の認定を行っておらず、本件発明1を各構成に分け、それら各構成に対応するような部分を摘記しているにすぎない。そうすると、各甲号証に記載されている技術内容を、1つの技術的思想である発明として、技術的に正確に把握しているとはいえないことから、申立人の主張によって、上記第4の1~5の(2)で記載した各甲号証に記載されている発明の認定、上記1でのべた本件発明1と対比したときの一致点及び相違点の抽出、そして、その相違点に対する判断を否定できるものではない。
よって、申立人の主張のとおり、申立理由1又は申立理由2によって、本件発明1~11に係る特許を取り消すことはできない。
第6 申立理由3に対する当審の判断
1 申立人の主張について
申立人は、申立理由3の具体的な理由として、おおむね以下の(1)及び(2)の主張をし、(3)を結論づけている。
(1)「本件の特許明細書において、まず、実施例を参照すると、本件特許発明1の発明特定事項(A)に関して、本件特許発明2の(E)-(G)をすべて満たしている実施例(実施例1-4) のみが開示されており、発明特定事項(A)に関して、本件特許発明2の(E)-(G)をすべて満たした時に、上記の課題(特にアンモニアエンジンの排ガスに含まれるNOx及びN2Oと、アンモニアとを好適に処理するという点)を解決できることを示しているにすぎない。」(98頁9~15行)
(2)「甲5においても、本件特許発明1の発明特定事項(A)-(D)のみを満たし、本件特許発明2の(E)-(G)を満たさない場合に、上記の課題(特にアンモニアエンジンの排ガスに含まれるNOx及びN2Oと、アンモニアとを好適に処理するという点)を解決できない態様が含まれていることが示されている。
上記を踏まえると、本件特許発明1は、技術的に裏付けられているとはいえないから、かかる発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」(100頁18~25行)
(3)「よって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法36条第6項第1号に規定する要件を満たさないから、本件特許発明1に従属する本件特許発明3-11は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。」(101頁3~6行)
2 申立人の主張に対する当審の判断
(1)主張(1)について
ア 課題について
本件発明の課題は、上記(本ア)の記載によれば、アンモニアエンジンの排ガスにおいて燃焼反応で消費されなかったアンモニアを対処し、アンモニアエンジンの排ガスに含まれるNOx及びN2Oと、アンモニアとを好適に処理することのできる、新たなアンモニアエンジンの排ガス処理システム及びその処理方法を提供することにあるといえる。
イ 課題を解決する手段について
(ア)まず、上記(1)で記載した課題を解決するための手段として、(本イ)の【0006】に「アンモニアエンジンの排ガス処理システムは、第一の触媒としてPt及びゼオライトを含む触媒層を備える酸化触媒と、第二の触媒としてCu、Co又はFeイオンとイオン交換されたゼオライトを含む触媒層を備える脱硝触媒と、を備える。アンモニアエンジンの排ガスは、このアンモニアエンジンの排ガス処理システムの第一の触媒及び第二の触媒を順に透過することで処理される。」と記載されている。
そして、その機序として同【0007】に「前段側の酸化触媒にてアンモニアを燃焼させ、後段側の脱硝触媒にてNOx及びN2Oの還元を行うことで、アンモニアエンジンからの排ガスを好適に処理することができる。このシステムは、前段側の酸化触媒にてアンモニアの燃焼により生じる高温を利用して、後段側の脱硝触媒にて窒素酸化物を適切に処理するものである。」、(本オ)に「前段である酸化触媒はアンモニアの酸化分解により発熱し、排ガスの温度に対して50~300℃の温度上昇が見込まれる触媒であることが好ましい。また、効率的にNOx及びN2Oを抑制する観点から、酸化触媒はそれらのガスの発生の少ない触媒であることが好ましい。酸化触媒の温度は、脱硝触媒に充分高温のガスを送り、かつ触媒の劣化を抑制する」と記載されていることから、以下、この観点において、上記(1)で記載した課題が解決できるかどうかについて検討する。
(イ)a 上記(本ウ)には、
「【0015】
(酸化触媒層)
酸化触媒層は、下層(第一の層)と、下層の表面上に設けられた上層(第二の層)とを備えることができる。下層は、Ptと、無機酸化物と、場合によりリンと、第一のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第一のイオン交換型ゼオライトとを含む。下層は支持体Sの表面上に設けられている。下層の厚さは、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは30~100μmである。下層において下記式(1)で表される酸化反応が主に進行するとともに、下記式(2)で表される脱硝反応も進行する。
xNH3+O2→yNO+zN2O+2H2O・・・(1)
2NO+2NH3+1/2O2→2N2+3H2O・・・(2)」
「【0018】
下層はPtを含有している。Ptは分解活性及びN2選択率の向上効果を有する。Ptを含有することにより、NOx及びN2Oの生成を抑制できる。下層は、Pt以外の貴金属(Pd、Ir、Rh及びこれらの複合物等)を更に含有していてもよい。」
「【0039】
上層は、第二のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第二のイオン交換型ゼオライトとを含む。上層は下層の表面上に設けられている。上層の厚さは、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは30~100μmである。上層において下記式(2)で表される脱硝反応が主に進行する。
脱硝反応:2NO+2NH3+1/2O2→2N2+3H2O・・・(2)」と記載されている。
b ここで、アンモニアの燃焼(酸化)反応である「xNH3+O2→yNO+zN2O+2H2O」は強い発熱を伴う反応である。一方、脱硝反応である「2NO+2NH3+1/2O2→2N2+3H2O」は、反応は全体としては特定の触媒のもと自発的に進行するものの、反応系としては周囲から熱を吸収する吸熱反応(理論上の標準反応エンタルピー変化がプラスの値)となるものである。
そうすると、上記(ア)で述べた「アンモニアの燃焼により生じる高温を利用して、後段側の脱硝触媒にて窒素酸化物を適切に処理するものである」、「前段である酸化触媒はアンモニアの酸化分解により発熱し、排ガスの温度に対して50~300℃の温度上昇が見込まれる触媒である」、「酸化触媒の温度は、脱硝触媒に充分高温のガスを送」るものであるためには、酸化触媒において、「xNH3+O2→yNO+zN2O+2H2O」の反応が主に生じる必要があるであるところ、「2NO+2NH3+1/2O2→2N2+3H2O」の反応については、生じる必要がないものであるか、生じるにしても、上記「xNH3+O2→yNO+zN2O+2H2O」による発生熱量を阻害しない程度のものでなければならない。
してみれば、上記(ア)で述べた観点において、「(1)で表される酸化反応が主に進行する」「xNH3+O2→yNO+zN2O+2H2O・・・(1)」の下層があれば十分であり、「(2)で表される脱硝反応が主に進行する。脱硝反応:2NO+2NH3+1/2O2→2N2+3H2O・・・(2)」の上層は必須のものであるとはいえない。
加えて、下層については「下層はPtを含有している。Ptは分解活性及びN2選択率の向上効果を有する。Ptを含有することにより、NOx及びN2Oの生成を抑制できる」ものであるのに対し、上層は「Pt」が含まれていないことから、この点においても、下層は必須のものとはいえても、上層は必須ものとはいえない。
そして、「下層」は、「Ptと、無機酸化物と、場合によりリンと、第一のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第一のイオン交換型ゼオライト」と記載されているものの、上記「NH3+O2→yNO+zN2O+2H2O」の反応が十分に生じて、かつ、
分解活性及びN2選択率の向上、NOx及びN2Oの生成抑制の点で「Pt」が含有されていればいいのであるから、第一の触媒である「酸化触媒」として、本件発明2の「Ptと、無機酸化物と、第一のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第一のイオン交換型ゼオライトとを含む第一の層と、前記第一の層の表面上に設けられており、第二のプロトン型ゼオライト又はCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第二のイオン交換型ゼオライトを含む第二の層と、を備える」という下層(第一の層)及び上層(第二の層)を備える2層のものにしなくとも、本件発明1の「Pt及びゼオライトを含む触媒層を備える酸化触媒」としても、上記アで記載した本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものであるといえる。
ウ 実施例について
上記(本カ)の実施例の表1を参照すると、本件発明1の脱硝触媒に相当する「脱硝触媒B-1」を用いた場合には、N2Oの分解率が89.2%~100%であるのに対し、本件発明1の脱硝触媒に相当しない「脱硝触媒C-1」を用いた場合には、N2Oの分解率がマイナスの値、すなわちN2Oが分解されるどころか逆に生成される結果となっていることから、上記アで述べた「アンモニアエンジンの排ガスに含まれるNOx及びN2O」「を好適に処理することのできる」という課題の観点からは、本件発明1の「第二の触媒としてCu、Co又はFeイオンとイオン交換されたゼオライトを含む触媒層を備える脱硝触媒」を用いることが肝要であることが理解できる。
そして、(本カ)の実施例において、本件発明1の「第一の触媒としてPt及びゼオライトを含む触媒層を備える酸化触媒」に相当するものとしては、申立人の主張するとおり、下層(第一の層)及び上層(第二の層)を備える2層のものを用いているが、下層として本件発明1の「Pt及びゼオライトを含む触媒層を備える酸化触媒」に相当するものを用いている。そうすると、これら2層のものを用いた場合では、「2NO+2NH3+1/2O2→2N2+3H2O」の反応が生じるにしても、「xNH3+O2→yNO+zN2O+2H2O」の反応が主に生じるといえることから、上記イの検討結果を何ら左右するものではない。
エ 小括
以上のことから、本件発明1は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲のものであることから、申立人の(1)の主張を受け入れることはできない。
(2)主張(2)について
甲5は、上記第5の1(1)イ(ア)b(c)で述べたとおり、「下水処理、NH3を含む排水等から発生する水分を含むアンモニア排ガス」を対象とするものであり、それらから発生するアンモニアを分解するという観点から、「貴金属と、無機酸化物と、リンと、第1のプロトン型ゼオライトまたはCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第1のイオン交換型ゼオライトと、を有する下層、及び 前記下層上に設けられ、第2のプロトン型ゼオライトまたはCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第2のイオン交換型ゼオライト、を有する上層、を含む、アンモニア分解触媒」が適切であることを開示したものあり、アンモニア分解触媒に続く「脱硝触媒」については具体的に開示したものではないことから、上記(1)アで記載した「アンモニアエンジンの排ガスにおいて燃焼反応で消費されなかったアンモニアを対処し、アンモニアエンジンの排ガスに含まれるNOx及びN2Oと、アンモニアとを好適に処理することのできる、新たなアンモニアエンジンの排ガス処理システム及びその処理方法を提供する」という課題に対応するものではない。
したがって、本件発明1のサポート要件について検討する際に、甲5の記載を引用することは適切なことではないから、申立人の(2)の主張を受け入れることはできない。
(3)よって、申立人の(1)及び(2)の主張はいずれも受け入れることはできないから、上記申立人の(3)の結論は誤りである。
3 まとめ
ゆえに、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明3~11は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、申立理由3によって本件発明1及び本件発明3~11に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1~11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~11係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2026-700229