特許異議申立
2025-700031
水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭
- 審判番号
- 2025-700031
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-162676
- 登録番号
- 7509390
- 請求日
- 2024年12月25日
- 審決日
- 2025年03月04日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】国立研究開発法人産業技術総合研究所
- 【権利者】フタムラ化学株式会社
- 【権利者代理人】加藤 大輝
- 【異議申立人】▲徳▼田 久子
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 金 公彦
- 審判官 田口 裕健
- 分類
- P1651.113-Y (B01J) / P1651.121-Y (B01J) / P1651.537-Y (B01J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7509390号発明「水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7509390号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7509390号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和2年8月7日(優先権主張 令和元年8月20日)を出願日とする特願2020-135049号(以下、「原出願」という。)の一部を、令和5年9月26日に新たな特許出願としたものであって、令和6年6月24日にその特許権の設定登録がされ、同年7月2日に特許掲載公報が発行され、その後、同年12月25日に、請求項1~4に係る特許について、特許異議申立人 徳田 久子(以下、「申立人」という。ただし、「徳」は旧字体である。)により、甲第1~3号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~4に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、請求項1~4に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】
活性炭吸着材のBET比表面積が1474~2017m2/gであり、
表面酸化物量が0.09~0.48meq/gであり、
細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)が0.612~0.841cm3/gである
水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着するための
水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。
【請求項2】
細孔直径2~60nmの範囲の細孔容積であるメソ孔容積の和(Vmet)が、0.038~0.241cm3/gである請求項1に記載の水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。
【請求項3】
下記の試験方法によるPFOA及びPFOSの回収率が74%以上である請求項1又は2に記載の水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。
<試験方法>
(1)PFOA及びPFOSの標準試薬を超純水に添加し、溶液濃度が10ng/ml(10ppb)となるよう試験溶液を調製する。
(2)20mlシリンジ内に活性炭吸着材を0.2g充填し、試験溶液を1滴/秒の速度で試験溶液20mlを通液する。
(3)通液後、シリンジ内の活性炭吸着材の水分を遠心分離により除去する。
(4)アンモニア濃度が0.01%のメタノール溶液14mlを、1滴/秒の速度で脱水後の活性炭吸着材に通液させて抽出液を採取する。
(5)採取した抽出液を窒素吹き付け濃縮装置により1mlまで濃縮した後、該抽出液をLC-MS/MSを用いてMRMモードで定量測定して回収率を算出する。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の吸着活性炭を保持してなることを特徴とする水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着フィルター体。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第1項第3号、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について
(1) 本件発明1~2は、甲第1号証に記載された発明である(周知技術として、甲第2号証及び甲第3号証を引用する。)。
(2) 本件発明1~4は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(周知技術として、甲第2号証及び甲第3号証を引用する。)。
2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
本件発明の課題は、本件特許明細書の段落【0013】の記載(下記第4の2(2)ア)からみて、特に、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集することが可能な水試料中の「ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭」及びそれを用いたフィルター体を提供することである。
ところが、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するという特性に優れるためには、「BET比表面積」と「表面酸化物量」とのバランス及びミクロ孔とメソ孔の条件の組合せが大きく影響するが、本件特許明細書の段落【0033】~【0087】に記載された実施例をみても、前記課題を解決できるように記載されているのは、表3~5に記載されている試作例9~11、14~18(下記第4の2(2)ウ)にすぎない。
そして、これらの試作例においては、いずれもPFOAやPFOSの回収率が70%以上となっているが、これらの試作例と前記表3~5に記載されているそれ以外の試作例とを対比しても、本件発明1の「活性炭吸着材のBET比表面積が1474~2017m2/gであり、表面酸化物量が0.09~0.48meq/gであり、細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)が0.612~0.841cm3/gである水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着するための水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭」との発明特定事項により、回収率70%以上という結果が得られるか否かが不明である。
すなわち、前記表3に記載された試作例4や試作例6は、比表面積が本件発明1の発明特定事項を満たさないにも関わらず、むしろ本件発明1の実施例に該当する試作例よりも更に優れた回収率を得ていることから、本件発明1の発明特定事項を満たさなくても優れた効果を得られているので、本件特許明細書の記載からは、本件発明1の発明特定事項と発明の効果との相関関係を理解できない。
また、本件特許明細書には、試作例9~11、14~18以外に、本件発明1の前記発明特定事項をサポートする記載は存在しないから、本件発明1の発明特定事項は、本件特許明細書の記載に基づいて本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えているので、本件特許請求の範囲の請求項1の記載はサポート要件を満たさない。
更に、本件特許請求の範囲の請求項2~4について検討しても事情は同じであるから、本件発明1~4が発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
3 証拠方法
甲第1号証:Yue Zhi et al., ”Adsorption of perfluoroalkyl acids by carbonaceous adsorbents: Effect of carbon surface chemistry”, Environmental Pollution, 2015年, No.202, p.168-176
甲第2号証:JIAN SUN, ”PREPARATION, EVALUATION AND STRUCTURAL MODELING OF CARBON-BASED ADSORBENTS USED ON NATURAL GAS VEHICLES”, THESIS Submitted in partial fulfillment of the requirements for the degree of Doctor of Philosophy in Environmental Science in Civil Engineering of the Graduate College of the University of Illinois at Urbana-Champaign, 1999年
甲第3号証:C. Moreno-Castilla et al., ”Cadmium Ion Adsorption on Different Carbon Adsorbents from Aqueous Solutions. Effect of Surface Chemistry, Pore Texture, Ionic Strength, and Dissolved Natural Organic Matter”, Langmuir, 2004年, No.20, p.8142-8148
第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 特許法第29条第1項第3号、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について
(1) 甲各号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア) 甲第1号証には、以下のa~dの記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
a 「ABSTRACT
Adsorption by carbonaceous sorbents is among the most feasible processes to remove perfluorooctane sulfonic (PFOS) and carboxylic acids (PFOA) from drinking and ground waters. However, carbon surface chemistry, which has long been recognized essential dictating performance of such sorbents, has never been considered for PFOS and PFOA adsorption. Thus, the role of surface chemistry was systematically investigated using sorbents with a wide range in precursor material, pore structure, and surface chemistry.」(168ページABSTRACTの1行~6行)
(当審訳:要約
炭素質吸着材による吸着は、飲料水や地下水からパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やカルボン酸(PFOA)を除去するための最も実現可能なプロセスの一つである。しかし、このような炭素質吸着材の性能を決定する重要な要素として長い間認識されてきた炭素表面の化学的性質は、PFOSとPFOAの吸着についてはこれまで考慮されてこなかった。そこで、前駆物質の種類、細孔構造、表面化学的性質が広範囲に及ぶ炭素質吸着材を用いて、表面化学的性質の役割を系統的に調べた。)
b 「1. Introduction
・・・
Thus this study aimed to identify the most significant sorbent-specific factors for carbonaceous sorbents that control uptake of PFOS and PFOA. Ten sorbents with a wide range in raw materials and properties were evaluated in single-solute batch adsorption experiments. Main carbon characters controlling uptake of PFOS and PFOA were discussed on the basis of experimental observations and statistical analysis. Particularly, sorption of PFOS and PFOA by polymer-based carbonaceous sorbents has been reported for the first time.」(168ページ左欄1行、169ページ左欄下から5行~右欄4行)
(当審訳:1.はじめに
・・・
そこで本研究では、PFOSとPFOAの吸着を制御する炭素質吸着材の最も重要な吸着材固有の因子を特定することを目的とした。幅広い原料と特性を持つ10種類の炭素質吸着材を、単一溶質バッチ吸着実験で評価した。PFOSとPFOAの吸着を制御する主な炭素特性について、実験観察と統計解析に基づいて議論した。特に、ポリマー系炭素質吸着材によるPFOSとPFOAの吸着が初めて報告された。)
c 「2. Materials and methods
・・・
2.2. Sorbents and adsorbent characterization
Ten carbonaceous sorbents (Table 1) were examined: bituminous coal-based GAC Filtrasorb 400 (F400) and powered activated carbon (PAC) BPL from Calgon Inc. (USA), wood-based GAC WVB 14×35 (WVB) and BioNuchar (BioNC) from Meadwestvaco Co. (USA), wood-based PAC AquaNuchar (AquaNC) from Meadwestvaco, coconut shell-based GAC AquaCarb 1240C (1240C) from Siemens Inc. (USA), and three activated carbon fibers (ACF15, ACF20 and ACF25) from Kynol Inc. (Japan). The ACFs are carbonaceous fibers made via pyrolysis of phenolic formaldehyde fibrous resin. The study also included Ambersorb 563 (Ambersorb, Supelco Inc. USA), which is a carbonaceous resin produced via controlled pyrolysis of a highly sulfonated styrene/divinylbenzene ion-exchange resin. Ionic functional groups on the resin are lost during carbonization process. The sorbents (except for Ambersorb) were first washed in deionized water under sonication for 3 h, and then dried at 103 ℃ for 24 h. Subsequently, all the granular sorbents (except for Ambersorb) were sieved and particles retained between sieves 0.85 and 1.00 mm were used for the study.
Nitrogen adsorption isotherms measured at 77 K with an Autosorb-1 analyzer (Quantachrome Co., USA) were used to determine physical characteristics. Specific surface area was computed by using a Multi-BET equation. Pore volume and distribution were generated by applying density-functional theory and Monte Carlo simulation (Lev et al., 1999; Ravikovitch et al., 1998). Point of zero charge (PZC), the pH at which the total net surface charge is zero, was measured by mass titration/pH equilibration method (Noh and Schwarz, 1990). Total surface acidity (NaOH uptake) and basicity (HCl uptake) were measured by titration using CO2-free water and under nitrogen atmosphere (Boehm, 1966). Elemental compositions of the sorbents were analyzed using a PerkinElmer 2400 series elemental analyzer by a certified commercial laboratory.」(169ページ右欄5行、17行~49行)
(当審訳:2.材料と方法
・・・
2.2 吸着材と吸着の特性評価
10種類の炭素質吸着材(表1)を検討した:CalgonInc.(米国)の瀝青炭系GACFiltrasorb400(F400)及び動力活性炭(PAC)BPL、MeadwestvacoCo.(米国)の木質系GACWVB14×35(WVB)とBioNuchar(BioNC)、Meadwestvacoの木質系PACAquaNuchar(AquaNC)、SiemensInc.(米国)のヤシ殻系GACAquaCarb1240C(1240C)、及び、KynolInc.(日本)の3種類の活性炭繊維(ACF15、ACF20、ACF25)。ACFはフェノールホルムアルデヒド繊維状樹脂の熱分解によって作られる炭素質繊維である。この研究には、高度にスルホン化されたスチレン/ジビニルベンゼンイオン交換樹脂の制御熱分解によって製造された炭素質樹脂であるAmbersorb563(Ambersorb、SupelcoInc.米国)も含まれる。樹脂上のイオン性官能基は炭化の過程で失われる。炭素質吸着材(Ambersorbを除く)は、まず脱イオン水で3時間超音波洗浄した後、103℃で24時間乾燥した。その後、すべての粒状吸着材(Ambersorbを除く)をふるいにかけ、0.85~1.00mmのふるいの間に保持された粒子を試験に使用した。
物理的特性の測定には、Autosorb-1アナライザー(QuantachromeCo.,米国)を用いて77Kで測定した窒素吸着等温線を用いた。比表面積はMulti-BET方程式を用いて計算した。細孔容積と分布は、密度汎関数理論とモンテカルロ・シミュレーション(Levら、1999;Ravikovitchら、1998)を適用して作成した。ゼロ電荷点(PZC)は、全表面電荷がゼロになるpHであり、質量滴定/pH平衡法(NohandSchwarz,1990)によって測定された。全表面酸性度(NaOH取り込み)と塩基性度(HCl取り込み)は、CO2を含まない水を用い、窒素雰囲気下での滴定により測定した(Boehm,1966)。吸着材の元素組成は、PerkinElmer2400シリーズ元素分析装置を用いて、認定された商業試験所で分析した。)
d 「
[図:0001421407000001.jpg]
」(170ページ)
(当審訳:表1
吸着材の特性
吸着材 物理的状態/原材料 表面積m2g-1細孔容積mLg-1
・・・
ACF25 ACF/ポリマー 1797 0.83
細孔容積分布mLg-1
<8Å 8-20Å 20-100Å 100-200Å >200Å
・・・
0.23 0.37 0.21 0.01 0
PZC 全酸性μeqm-2全塩基性μeqm-2
・・・
7.70 0.307 0.298
元素組成wt%
O N C H
・・・
1.33 <0.05 93.47 <0.1
吸着材:GACー粒状活性炭;PAC-動力活性炭;ACF-活性炭繊維;PZC-ゼロ電荷点)
(イ) 前記(ア)aの記載によれば、甲第1号証には、炭素質吸着材による吸着は、飲料水や地下水からパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やカルボン酸(PFOA)を除去するための最も実現可能なプロセスの一つであるが、このような炭素質吸着材の性能を決定する重要な要素として長い間認識されてきた炭素表面の化学的性質は、PFOSとPFOAの吸着についてはこれまで考慮されてこなかったので、前駆物質の種類、細孔構造、表面化学的性質が広範囲に及ぶ炭素質吸着材を用いて、表面化学的性質の役割を系統的に調べたことが記載されている。
そして、前記(ア)bの記載によれば、甲第1号証における研究は、PFOSとPFOAの吸着を制御する炭素質吸着材の最も重要な吸着材固有の因子を特定することを目的として、幅広い原料と特性を持つ10種類の炭素質吸着材を、単一溶質バッチ吸着実験で評価したものであり、前記(ア)cの記載によれば、前記10種類の炭素質吸着材は、CalgonInc.(米国)の瀝青炭系GACFiltrasorb400(F400)及び動力活性炭(PAC)BPL、MeadwestvacoCo.(米国)の木質系GACWVB14×35(WVB)とBioNuchar(BioNC)、Meadwestvacoの木質系PACAquaNuchar(AquaNC)、SiemensInc.(米国)のヤシ殻系GACAquaCarb1240C(1240C)、及び、KynolInc.(日本)の3種類の活性炭繊維(ACF15、ACF20、ACF25)であり、ACFはフェノールホルムアルデヒド繊維状樹脂の熱分解によって作られる炭素質繊維であり、炭素質吸着材(Ambersorbを除く)は、まず脱イオン水で3時間超音波洗浄した後、103℃で24時間乾燥し、その後、すべての粒状吸着材(Ambersorbを除く)をふるいにかけ、0.85~1.00mmのふるいの間に保持された粒子を試験に使用したものである。
ここで、物理的特性の測定には、Autosorb-1アナライザー(QuantachromeCo.,米国)を用いて77Kで測定した窒素吸着等温線を用い、比表面積はMulti-BET方程式を用いて計算し、細孔容積と分布は、密度汎関数理論とモンテカルロ・シミュレーション(Levら、1999;Ravikovitchら、1998)を適用して作成し、ゼロ電荷点(PZC)は、全表面電荷がゼロになるpHであり、質量滴定/pH平衡法(NohandSchwarz,1990)によって測定され、全表面酸性度(NaOH取り込み)と全表面塩基性度(HCl取り込み)は、CO2を含まない水を用い、窒素雰囲気下での滴定により測定し(Boehm,1966)、吸着材の元素組成は、PerkinElmer2400シリーズ元素分析装置を用いて、認定された商業試験所で分析したものである。
そして、前記(ア)dの記載によれば、前記10種類の炭素質吸着材のうちACF25の物理的特性は、物理的状態/原材料がACF/ポリマーであり、表面積が1797m2g-1であり、細孔容積が0.83mLg-1であり、細孔容積分布が、<8Åが0.23mLg-1、8~20Åが0.37mLg-1、20~100Åが0.21mLg-1、100~200Åが0.01mLg-1、>200Åが0mLg-1であり、PZCが7.70であり、全表面酸性度が0.307μeqm-2であり、全表面塩基性度が0.298μeqm-2であり、元素組成が、Oが1.33wt%、Nが<0.05wt%、Cが93.47wt%、Hが<0.1wt%であるものである。
(ウ) 前記(イ)におけるACF25の炭素質吸着材に注目すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「炭素質吸着材による吸着は、飲料水や地下水からパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やカルボン酸(PFOA)を除去するための最も実現可能なプロセスの一つであるが、このような炭素質吸着材の性能を決定する重要な要素として長い間認識されてきた炭素表面の化学的性質は、PFOSとPFOAの吸着についてはこれまで考慮されてこなかったので、前駆物質の種類、細孔構造、表面化学的性質が広範囲に及ぶ炭素質吸着材を用いて、表面化学的性質の役割を系統的に調べるための炭素質吸着材であって、
PFOSとPFOAの吸着を制御する炭素質吸着材の最も重要な吸着材固有の因子を特定することを目的として、幅広い原料と特性を持つ10種類の炭素質吸着材を、単一溶質バッチ吸着実験で評価したものであり、前記10種類の炭素質吸着材は、CalgonInc.(米国)の瀝青炭系GACFiltrasorb400(F400)及び動力活性炭(PAC)BPL、MeadwestvacoCo.(米国)の木質系GACWVB14×35(WVB)とBioNuchar(BioNC)、Meadwestvacoの木質系PACAquaNuchar(AquaNC)、SiemensInc.(米国)のヤシ殻系GACAquaCarb1240C(1240C)、及び、KynolInc.(日本)の3種類の活性炭繊維(ACF15、ACF20、ACF25)であり、ACFはフェノールホルムアルデヒド繊維状樹脂の熱分解によって作られる炭素質繊維であり、
炭素質吸着材(Ambersorbを除く)は、まず脱イオン水で3時間超音波洗浄した後、103℃で24時間乾燥し、その後、すべての粒状吸着材(Ambersorbを除く)をふるいにかけ、0.85~1.00mmのふるいの間に保持された粒子を試験に使用したものであり、
物理的特性の測定には、Autosorb-1アナライザー(QuantachromeCo.,米国)を用いて77Kで測定した窒素吸着等温線を用い、比表面積はMulti-BET方程式を用いて計算し、細孔容積と分布は、密度汎関数理論とモンテカルロ・シミュレーション(Levら、1999;Ravikovitchら、1998)を適用して作成し、ゼロ電荷点(PZC)は、全表面電荷がゼロになるpHであり、質量滴定/pH平衡法(NohandSchwarz,1990)によって測定され、全表面酸性度(NaOH取り込み)と全表面塩基性度(HCl取り込み)は、CO2を含まない水を用い、窒素雰囲気下での滴定により測定し(Boehm,1966)、吸着材の元素組成は、PerkinElmer2400シリーズ元素分析装置を用いて、認定された商業試験所で分析したものであり、
前記10種類の炭素質吸着材のうちACF25の物理的特性は、物理的状態/原材料がACF/ポリマーであり、表面積が1797m2g-1であり、細孔容積が0.83mLg-1であり、細孔容積分布が、<8Åが0.23mLg-1、8~20Åが0.37mLg-1、20~100Åが0.21mLg-1、100~200Åが0.01mLg-1、>200Åが0mLg-1であり、PZCが7.70であり、全表面酸性度が0.307μeqm-2であり、全表面塩基性度が0.298μeqm-2であり、元素組成が、Oが1.33wt%、Nが<0.05wt%、Cが93.47wt%、Hが<0.1wt%である、炭素質吸着材。」(以下、「甲1発明」という。)
イ 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の(ア)~(オ)の記載がある。
(ア) 「3.2 PSD Modeling and Measurement for Commercial Activated Carbons
This section presents the results and discussion of comparison, calibration and validation of the 3-D model. Sections 3.2.1 and 3.2.2 discuss the PSD results for the commercial materials (ACFs and Norit Row) obtained by the 3-D model, MP, JC, HK and OFT methods. Model comparison is carried out with PSD information in both micropore and mesopore regions. The PSD results are discussed and evaluated on the basis of theories and assumptions used in all the PSD methods. Model validation is carried out in Section 3.2.3 by comparing the modeling results with STM data.
3.2.1 Comparison between the 3-D Model and Methods from the Literature
This section presents the comparison results between the 3-D model and analytical PSD methods from the literature. PSD modeling results for select samples by the 3-D model are also compared with those by simulation (Section 3.2.2) and electron microscopic characterization techniques (Section 3.2.3).
3.2.1.1 PSD results and discussion for ACFs by MP, JC, HK and the 3-D Model
The experimental N2 isotherms at 77 K for the three ACF samples are plotted in Figure 3.7. They all resemble Type I (Brunauer et al., 1940) isotherm, implying the three samples are microporous.・・・ The t-plot pore areas (calculated using Eq 2.28) for ACFs are included in Table 3.1. Except for ACF-15, the t-plot areas are in reasonable agreement with the BET areas. Samples' PSDs calculated by MP method (Eq 2.29) are plotted in Figure 3.9. As mentioned above, ACFs-15, 20 and 25 in order were made with increasing activation time. Increased total pore volume and pore widening are expected with extended activation time. Those features seem to be well interpreted by the PSD curves in Figure 3.9. The most frequently occurring pore sizes or the maxima of PSD for ACFs-15, 20 and 25 are 5.1, 6.5 and 7.7 Å, respectively, (Table 3.2). PSD for ACF-25 obtained by MP method suggests that it is of bimodal nature, which is a common practice for many activated carbons, although the pore volume under the second peak is relatively small. Pore volumes for ACFs-15, 20 and 25 extracted from the PSD by MP method are 0.322, 0.702 and 1.109 cm3/g (Table 3.2), respectively. These pore volumes are in good agreement with the total pore volumes (Table 3.1) read directly from the experimental isotherms at relative pressure P/P0 = 0.98 (Bradley, 1995). Micropore volumes for ACFs-15, 20 and 25 extracted from PSD by MP method are also listed in Table 3.2.」(61ページ7行~62ページ7行)
(当審訳:3.2 市販活性炭のPSDモデリングと測定
本節では、3次元モデルの比較、校正、検証の結果と考察を示す。セクション3.2.1と3.2.2では、3次元モデル、MP法、JC法、HK法、OFT法によって得られた市販材料(ACFとNoritRow)のPSD結果について議論する。モデル比較は、ミクロ細孔とメソ細孔の両領域におけるPSD情報を用いて行った。PSDの結果は、すべてのPSD手法で使用されている理論と仮定に基づいて議論され、評価される。セクション3.2.3では、モデリング結果をSTMデータと比較することにより、モデルの検証を行う。
3.2.1 3次元モデルと文献からの手法の比較
このセクションでは、3次元モデルと文献にある解析的PSD手法との比較結果を示す。3次元モデルによる一部の試料のPSDモデリング結果は、シミュレーション(セクション3.2.2)及び電子顕微鏡による特性評価技術(セクション3.2.3)による結果とも比較している。
3.2.1.1 MP、JC、HK及び3次元モデルによるACFのPSD結果と考察
図3.7に、3種類のACF試料の77KでのN2等温線をプロットした。これらはすべてタイプI(Brunaueretal.,1940)等温線に類似しており、3つの試料がマイクロポーラスであることを示唆している。・・・ACFのt-plot間隙面積(式2.28を用いて計算)を表3.1に示す。ACF-15を除き、t-plot面積はBET面積とほぼ一致している。MP法(式2.29)で計算した試料のPSDを図3.9にプロットした。上述したように、ACF-15,20,25の順に、活性化時間が長くなっている。全細孔容積の増大と細孔の拡大は、活性化時間の延長に伴って予想される。これらの特徴は、図3.9のPSD曲線によってよく解釈できるようである。ACF-15,20及び25の最も頻繁に発生する細孔径またはPSDの最大値は、それぞれ5.1、6.5及び7.7Åである(表3.2)。MP法で得られたACF-25のPSDは、多くの活性炭で一般的な二峰性であることを示唆しているが、第二ピーク下の細孔容積は比較的小さい。MP法でPSDから抽出したACF-15,20,25の細孔容積は、それぞれ0.322、0.702、1.109cm3/gであった(表3.2)。これらの細孔容積は、相対圧P/P0=0.98(Bradley,1995)における実験的等温線から直接読み取った全細孔容積(表3.1)とよく一致している。PSDからMP法で抽出したACF-15,20,25のミクロ細孔容積も表3.2に示す。)
(イ) 「3.3.1.7 Materials for model calibration and validation
A commercial carbon BPL, manufactured by Calgon Carbon Co., is used for natural gas storage in this study. It has a N2-BET area and micropore volume of 1000 m2/g and 0.5 cm3/g, respectively, representing a well recognized and typically available commercial granular carbon adsorbent. BPL is made from bituminous coal, which has an inherent microstructure similar to that of Illinois coals. In other words, the microporosity and adsorption capacity of Illinois coal derived carbon and BPL should be similar.
Three ACF samples (ACF-15, ACF-20 and ACF-25) used in this study were obtained from American Kynol, Inc. (New York, NY). The starting material for the production of ACF is crosslinked phenol-aldehyde fibers (nonvoloided). Nonvoloided fibers are activated in steam or CO2 at 900℃ for various times to produce ACFs. ACFs with BET areas as high as 2500m2/g could be obtained, but due to increased costs and diminishing yields, BET areas of 1000 to 2000m2/g are usually the practical upper limit for most purposes (Hayes, 1985). ACF samples were chosen for their relatively pure chemical composition (no ash) and uniform pore structure. Among these three ACFs, ACF-15 has the shortest activation time (lowest burn-off and highest yield), and ACF-25 has the longest (Foster et al., 1992).」(69ページ下から2行~70ページ14行)
(当審訳:3.3.1.7 モデル校正と検証のための材料
本研究では、天然ガス貯蔵用に、カルゴンカーボン社製の市販カーボンBPLを使用する。BPLのN2-BET面積は1000m2/g、微細孔容積は0.5cm3/gであり、市販の粒状炭素吸着材としてよく知られ、一般的に入手可能である。BPLは瀝青炭を原料としており、イリノイ炭と同様の微細構造が内在している。言い換えれば、イリノイ炭由来の炭素とBPLの微細孔率と吸着容量は類似しているはずである。
本研究で使用した3種類のACFサンプル(ACF-15,ACF-20,ACF-25)は、AmericanKynol,Inc.(ニューヨーク州ニューヨーク)から入手した。ACF製造の出発原料は、架橋フェノール-アルデヒド繊維(非ボロイド化)である。非ボロイド化繊維は、水蒸気またはCO2中で900℃、様々な時間で活性化され、ACFが製造される。2500m2/gという高いBET面積を持つACFも得られるが、コストの上昇と収率の低下により、通常は1000~2000m2/gのBET面積がほとんどの目的に対する実用的な上限である(Hayes,1985)。ACF試料は、比較的純粋な化学組成(灰分なし)と均一な細孔構造から選ばれた。これら3種類のACFの中で、ACF-15は活性化時間が最も短く(燃焼が最も少なく、収率が最も高い)、ACF-25は最も長い(Fosterら、1992)。)
(ウ) 「
[図:0001421407000002.jpg]
」(86ページ)
(当審訳:表3.1 3種類のACF試料のBET及びt-plot面積及びDR細孔容積
*全細孔容積は実験的N2吸着等温線のP/P0=0.98の点で直接読み取った。)
(エ) 「
[図:0001421407000003.jpg]
」(86ページ)
(当審訳:表3.2 MP、JC、HK及び3-Dモデルにより得られたPSD情報の概要
*実験上の制限により、実際の最大値はこれより小さくなるはずである。)
(オ) 「
[図:0001421407000004.jpg]
」(93ページ)
(当審訳:図3.9 MP法による活性炭のPSD)
ウ 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の(ア)~(オ)の記載がある。
(ア) 「Adsorption of Cd(II) species at pH = 5 was studied on three carbon adsorbents: granular activated carbon, activated carbon fiber, and activated carbon cloth. As-received and oxidized adsorbents were used. Cd(II) adsorption greatly increased after oxidation due to the introduction of carboxyl groups.」(8142ページ11行~13行)
(当審訳:粒状活性炭、活性炭繊維、活性炭布の3種類の炭素吸着材を用い、pH=5におけるカドミウム(II)の吸着について検討した。粒状活性炭と活性炭繊維、活性炭布を用いた。酸化処理によりカルボキシル基が導入され、カドミウム(II)の吸着量が大幅に増加した。)
(イ) 「Experimental Section
Three commercial carbon materials were used in this work: a granular activated carbon (GAC) from Sutcliffe Carbons and an activated carbon fiber (ACF) and activated carbon cloth (ACC) from Kynol Europe. The samples were oxidized with a saturated solution of (NH4)2S2O8 in 1 M H2SO4 as described elsewhere. 13 Samples so prepared will be referred to in the text as the name of the carbon material followed by -ox.」(8143ページ左欄25行~32行)
(当審訳:実験セクション
この研究では、SutcliffeCarbons社の粒状活性炭(GAC)、Kynol Europe社の活性炭繊維(ACF)及び活性炭布(ACC)の3種類の市販炭素材料を使用した。サンプルは、他の文献に記載されているように、1MH2SO4中の(NH4)2S2O8の飽和溶液で酸化した。13このようにして調製した試料は、本文中では炭素材料の名称の後に-oxを付けて表記する。)
(ウ) 「Results and Discussion
Characteristics of the Adsorbents. The surface area and porosity of the carbon materials used are compiled in Table 1, and their surface chemical properties in Table 2. The variation of the total surface charge as a function of the solution pH is shown in Figure 2. The total micropore volume, W0, for each sample was similar to the sum of the primary and secondary micropore volumes despite their measurement by different methods. The surface area and pore volumes decreased in the order ACC > ACF > GAC. Moreover, ACC and ACF samples had a wider L0 compared with the GAC sample.」(8144ページ左欄14行~最終行)
(当審訳:結果と考察
吸着材の特性。使用した炭素材料の表面積と気孔率を表1に、表面化学的特性を表2にまとめた。溶液pHの関数としての全表面電荷の変化を図2に示す。各サンプルの全微細孔容積W0は、測定方法が異なるにもかかわらず、一次および二次微細孔容積の合計とほぼ同じであった。表面積と細孔容積は、ACC>ACF>GACの順に減少した。さらに、ACC及びACF試料は、GAC試料に比べてL0が広かった。)
(エ) 「
[図:0001421407000005.jpg]
」(8144ページ)
(当審訳:表1.炭素吸着材の表面積及び気孔率)
(オ) 「
[図:0001421407000006.jpg]
」(8144ページ)
(当審訳:表2.炭素吸着材の酸性基と塩基性基の濃度(meqivg-1)及びpHPZC)
(2) 特許法第29条第1項第3号、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について
ア 対比
(ア) 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「炭素質吸着材」である「ACF25」は、「活性炭繊維」であるから、本件発明1における「活性炭吸着材」に相当し、前記「ACF25」の「表面積が1797m2g-1であ」ることは、本件発明1において、「活性炭吸着材のBET比表面積が1474~2017m2/gであ」ることを満たす。
また、甲1発明における「炭素質吸着材」は、「飲料水や地下水からパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やカルボン酸(PFOA)を除去する」ものであるから、本件発明1における「水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着するための水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭」に相当する。
(イ) 前記(ア)によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「活性炭吸着材のBET比表面積が1474~2017m2/gである、
水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着するための
水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:「活性炭吸着材」が、本件発明1においては「表面酸化物量が0.09~0.48meq/gであ」るのに対して、甲1発明は、「CO2を含まない水を用い、窒素雰囲気下での滴定により測定し(Boehm,1966)」た「全表面酸性度(NaOH取り込み)」が「0.307μeqm-2」であり、「全表面塩基性度(HCl取り込み)」が「0.298μeqm-2」である点。
・相違点2:「活性炭吸着材」が、本件発明1においては「細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)が0.612~0.841cm3/gである」のに対して、甲1発明においては、「物理的特性の測定に」「Autosorb-1アナライザー(QuantachromeCo.,米国)を用いて77Kで測定した窒素吸着等温線を用い」、「密度汎関数理論とモンテカルロ・シミュレーション(Levら、1999;Ravikovitchら、1998)を適用して作成し」た「細孔容積と分布」が、「<8Åが0.23mLg-1、8~20Åが0.37mLg-1、20~100Åが0.21mLg-1、100~200Åが0.01mLg-1、>200Åが0mLg-1であ」る点。
イ 判断
(ア) 始めに、前記ア(イ)の相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、本件特許明細書の段落【0036】(下記2(2)ウ)の記載によれば、本件発明1における「表面酸化物量」は、Boehmの方法を適用し、0.05N水酸化ナトリウム水溶液中において各例の吸着活性炭を振とうした後に濾過し、その濾液を0.05N塩酸で中和滴定した際の水酸化ナトリウム量としたものであり、「0.09~0.48meq/g」とされているのに対して、甲1発明における「全表面酸性度(NaOH取り込み)」及び「全表面塩基性度(HCl取り込み)」は、「CO2を含まない水を用い、窒素雰囲気下での滴定により測定し(Boehm,1966)」たものであり、それぞれ「0.307μeqm-2」及び「0.298μeqm-2」とされている。
そして、本件発明1における「表面酸化物量」と甲1発明における「全表面酸性度(NaOH取り込み)」及び「全表面塩基性度(HCl取り込み)」とは、測定方法が合致しているとはいえないし、その単位も異なるから、甲1発明が、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとはいえないので、前記相違点1は実質的な相違点である。
(イ) 次に、前記(ア)イの相違点2が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、本件特許明細書の段落【0067】(下記2(2)ウ)の記載によれば、本件発明1においては、細孔直径1nm以下の範囲の細孔容積であるミクロ孔容積の和を、細孔直径1nm以下の範囲におけるdV/dDの値を窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法により解析して求めたものであるのに対して、甲1発明は、「細孔容積と分布」を、「Autosorb-1アナライザー(QuantachromeCo.,米国)を用いて77Kで測定した窒素吸着等温線を用い」、「密度汎関数理論とモンテカルロ・シミュレーション(Levら、1999;Ravikovitchら、1998)を適用して作成し」て求めたものであるから、細孔容積の求め方が合致しているとはいえない。
そうすると、本件発明1における「細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)」と、甲1発明に記載された「細孔容積と分布」とをそのまま対比することは困難であるから、甲1発明が、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を満たすとはいえない。
また、仮に、本件発明1における「細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)」と、甲1発明に記載された「細孔容積と分布」とをそのまま対比することができるとして検討しても、甲1発明が、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を満たすとはいえない。
すなわち、甲1発明においては、「細孔容積と分布」が、「<8Åが0.23mLg-1、8~20Åが0.37mLg-1」であるから、細孔直径が8Å未満の範囲の細孔の細孔容積が0.23mLg-1であり、細孔直径が8~20Åの範囲の細孔の細孔容積が0.37mLg-1であることがわかる。
ここで、1Åをnmにすると0.1nmであり、1mLg-1はcm3/gにすると1cm3/gであるから、甲1発明においては、細孔直径が0.8nm未満の範囲の細孔の細孔容積が0.23cm3/gであり、細孔直径が0.8~2nmの範囲の細孔の細孔容積が0.37cm3/gであるといえるので、甲1発明における細孔直径が2nm以下の範囲の細孔容積の和は、0.23cm3/g+0.37cm3/g=0.60cm3/gである。
そして、甲1発明における「細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)」は、細孔直径が2nm以下の範囲の細孔の細孔容積の和である0.60cm3/gより大きくなることはないから、本件発明1の「0.612~0.841cm3/g」を満たすことはないので、甲1発明が、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすとはいえない。
したがって、前記相違点2も実質的な相違点である。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2について検討しても事情は同じである。
(エ) 次に、前記相違点1の容易想到性について検討すると、甲1発明は、「前駆物質の種類、細孔構造、表面化学的性質が広範囲に及ぶ炭素質吸着材を用いて、表面化学的性質の役割を系統的に調べるための炭素質吸着材」であって、「PFOSとPFOAの吸着を制御する炭素質吸着材の最も重要な吸着材固有の因子を特定することを目的として、幅広い原料と特性を持つ10種類の炭素質吸着材を、単一溶質バッチ吸着実験で評価したもの」であるから、所定の「細孔構造」や「表面化学的性質」を有するこれら「10種類の炭素質吸着材」を用いることを前提として、「PFOSとPFOAの吸着を制御する炭素質吸着材の最も重要な吸着材固有の因子を特定」しようとするものである。
そして、そのような甲1発明において、あえて「炭素質吸着材」の「表面酸化物量」を変更して、「0.09~0.48meq/g」とすることは、前記前提を破却することとなるから、そもそも想定されないので、甲1発明を、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得ることではない。
更に、前記相違点2の容易想到性について検討しても事情は同じであるから、甲1発明を、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることも、当業者が容易になし得ることではない。
(オ) 前記(エ)によれば、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2~4について検討しても事情は同じである。
ウ 申立人の主張について
(ア) 申立人の特許異議申立書における前記相違点1、2についての主張は、概略、以下のとおりである。
a 甲第1号証には、「表面酸化物量が0.09~0.48meq/gであ」ることが明示されていないが、甲第3号証には、活性炭であるACF(カイノール社製)の酸性官能基量の合計が0.436meq/gであることが記載されており、このことから、前記ACF(カイノール社製)の「表面酸化物量」は0.436meq/gであるといえる。
そして、甲第1号証における「ACF25」と甲第3号証におけるACFは製品名、製造会社名及び「BET比表面積」から考えて同じ活性炭であると考えられるから、甲第1号証における「ACF25」の「表面酸化物量」も、ACFと同じ0.436meq/gであるので、前記相違点1は実質的な相違点ではないか、当業者にとって容易想到である。
b 甲第1号証には、「細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)が0.612~0.841cm3/gである」ことが明示されていないが、甲第2号証には、甲第1号証に記載されている活性炭試料と同じ活性炭であるACF-25(カイノール社製)において、本件発明1のミクロ孔容積の測定方法(段落【0067】)(下記2(2)ウ)と同じMP法で計算された細孔分布が記載されており、当該細孔分布から求めた「細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)」はおよそ0.827~0.839cm3/gである。
そして、甲第1号証における「ACF25」と甲第2号証におけるACF-25は製品名及び製造会社名から考えて同じ活性炭であることが明らかであるから、甲第1号証における「ACF25」の「細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)」も、ACF-25と同じおよそ0.827~0.839cm3/gであるので、前記相違点2は実質的な相違点ではないか、当業者にとって容易想到である。
(イ) そこで、以下、前記(ア)の主張について検討する。
a 前記(1)ウ(ア)~(オ)の記載によれば、甲第3号証には、粒状活性炭、活性炭繊維、活性炭布の3種類の炭素吸着材を用い、pH=5におけるカドミウム(II)の吸着について検討したことが記載されている。
そして、前記3種類の炭素吸着材の一つがKynol Europe社のACFであって、その「BET比表面積」は1709m2g-1(Table3.1)である。
ところが、甲1発明における「ACF25」は、Kynol Inc.(日本)から入手したものであるのに対して、甲第3号証におけるACFは、Kynol Europe社から入手したものであるから、入手先が異なるし、これらは製品名も異なるものである。
また、甲1発明における「ACF25」は、「Autosorb-1アナライザー(QuantachromeCo.,米国)を用いて77Kで測定した窒素吸着等温線を用い」て、「Multi-BET方程式を用いて計算」した「比表面積」、すなわち「BET比表面積」が1797m2g-1であるのに対して、甲第3号証におけるACFは、「BET比表面積」が1709m2/gであるから、甲1発明における「ACF25」と甲第3号証のACFとは、その「BET比表面積」が合致しているともいえない。
そうすると、甲1発明における「ACF25」と甲第3号証におけるACFとが同じものであるとはいえないから、仮に、甲第3号証におけるACFの「表面酸化物量」が0.436meq/gであるといえるとしても、甲1発明における「ACF25」の「表面酸化物量」が、これと同じ0.436meq/gであるということはできないので、前記相違点1が実質的な相違点であることに変わりはない。
更に、前記相違点1が容易想到とはいえないことは、前記イ(エ)に記載したとおりであるから、前記(ア)aの主張は採用できない。
b 前記(1)イ(ア)~(オ)の記載によれば、甲第2号証には、3種類のACF試料の77KでのN2等温線をプロットし、MP法で計算した試料の細孔分布を図3.9にプロットしたことが記載されている。
そして、前記3種類のACF試料のひとつが、ACF-25であって、これは、American Kynol, Inc.(ニューヨーク州ニューヨーク)から入手したものであり、ACF製造の出発原料は、架橋フェノール-アルデヒド繊維(非ボロイド化)であり、非ボロイド化繊維は、水蒸気またはCO2中で900℃、様々な時間で活性化され、ACFが製造されるものであり、77KでのN2等温線から求められた「BET比表面積」が1860m2/g(Table3.1)である。
ところが、甲1発明における「ACF25」は、Kynol Inc.(日本)から入手したものであるのに対して、甲第2号証におけるACF-25は、American Kynol, Inc.(ニューヨーク州ニューヨーク)から入手したものであるから、入手先が異なるものである。
また、甲1発明における「AFC25」は、「フェノールホルムアルデヒド繊維状樹脂の熱分解によって作られる炭素質繊維」であり、「Autosorb-1アナライザー(QuantachromeCo.,米国)を用いて77Kで測定した窒素吸着等温線を用い」て、「Multi-BET方程式を用いて計算」した「比表面積」、すなわち「BET比表面積」が1797m2g-1であるのに対して、甲第2号証におけるAFC-25は、ACF製造の出発原料が架橋フェノール-アルデヒド繊維(ノルボロイド)であり、ノルボロイド繊維は、水蒸気またはCO2中で900℃、様々な時間で活性化され、ACFに製造されるものであり、このACFの77KでのN2等温線から求められた「BET比表面積」が1860m2/gであるから、甲1発明における「AFC25」と甲第2号証のAFC-25とは、その原料、製造方法及び「BET比表面積」も合致しているとはいえない。
そうすると、甲1発明における「AFC25」と甲第2号証におけるAFC-25とが同じものであるとはいえないから、仮に、甲第2号証におけるACF-25の「細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)」がおよそ0.827~0.839cm3/gと求められるとしても、甲1発明における「ACF25」の「細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)」が、これと同じおよそ0.827~0.839cm3/gであるということはできないので、前記相違点2が実質的な相違点であることに変わりはない。
更に、前記相違点2が容易想到とはいえないことは、前記イ(エ)に記載したとおりであるから、前記(ア)bの主張も採用できない。
エ 小括
したがって、本件発明1~2が、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、本件発明1~4は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、前記第3の1の特許異議の申立て理由はいずれも理由がない。
2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1) サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
以下、この観点に立って検討する。
(2) 本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、以下のア~ウの記載がある。
ア 「【0001】
本発明は、水試料中に含まれるペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭に関する。
【背景技術】
【0002】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、高い熱安定性、高い化学的安定性、高い表面修飾活性を有するフッ素置換された脂肪族化合物類である。ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、前記特性を生かし表面処理剤や包装材、液体消火剤等の工業用途及び化学用途等幅広く使用されている。
【0003】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物の一部は、非常に安定性の高い化学物質であることから、環境中に放出後、自然条件下では分解されにくい。このため、近年では、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は残留性有機汚染物質(POPs)として認識され、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロオクタン-1-スルホン酸)が2010年より残留性有機物汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)において、製造や使用が規制されることとなった。
・・・
【0008】
このように、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は自然界(水中、土壌中、大気中)に残存し続けることから、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量試験方法の確立が検討されている。定量試験方法の検討の課題は、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の高い吸着及び脱離性能を有する捕集材の開発である。微量なペル及びポリフルオロアルキル化合物を含有する試料である水ないし空気を、捕集材に接触させてペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集し、捕集材に吸着された該化合物を抽出工程によって抽出液中に脱離させ、濃縮する。濃縮後、LC-MS/MSやGC-MS/MS等の装置で定量測定し、試料中に含まれるペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度測定を行うことが可能となる。
【0009】
既存の捕集材としては、例えば、シクロデキストリンポリマーからなる有機フッ素系化合物吸着材が提案されている(特許文献1)。この吸着材は、吸着のみに特化し、該化合物の脱離はできないため、定量測定に用いられる捕集材として使用には適していない。また、シクロデキストリンポリマーは粉状又は微粒子状であり、ハンドリングが悪く、通液ないし通気時の抵抗が高く微粉末の2次側への流出リスク等の問題がある。
【0010】
また、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は物理化学特性に幅のある様々な形態で環境中に残存しており、既存の吸着材では十分な捕集性能がなく、正確に定量測定ができないという問題があった。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、特に、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集することが可能な水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭及びそれを用いたフィルター体を提供するものである。」
イ 「【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、第1の発明は、活性炭吸着材のBET比表面積が1474~2017m2/gであり、表面酸化物量が0.09~0.48meq/gであり、細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)が0.612~0.841cm3/gである水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着するための水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭に係る。
・・・
【発明の効果】
【0019】
第1の発明に係る水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭によると、活性炭吸着材のBET比表面積が1474~2017m2/gであり、表面酸化物量が0.09~0.48meq/gであり、細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)が0.612~0.841cm3/gである水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着するためのペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭であることから、これまで定量測定が難しいとされてきた該化合物を捕集することができる。
・・・
【0031】
水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着する活性炭の吸着性能は、後述の実施例により導き出されるように、比表面積を800m2/g以上又は表面酸化物量が0.20meq/g以下とすることにより発揮される。活性炭の表面に存在する酸性官能基により、水素結合によって吸着した水分子及びこれにより生成された水分子のクラスターによって細孔が閉塞されると考えられることから、表面酸化物量が少ない場合は、比表面積が小さく細孔の量が少ない活性炭であっても一定以上の該化合物の吸着が可能となる。逆に、表面酸化物量が多く該化合物の細孔への吸着が阻害される場合であっても、比表面積が大きく細孔の量が多い活性炭であれば、一定以上の該化合物の吸着が可能となるのである。
【0032】
また、比表面積が一定以上であるとともに、表面酸化物量が一定以下であれば、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物はより効率よく脱離可能に吸着できる。後述の実施例に示される通り、活性炭吸着材のBET比表面積が800m2/g以上であるとともに、表面酸化物量が0.50meq/g以下とすることにより、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能をさらに高めることができる。」
ウ 「【0036】
[活性炭の測定1]
〔表面酸化物量〕
表面酸化物量(meq/g)は、Boehmの方法を適用し、0.05N水酸化ナトリウム水溶液中において各例の吸着活性炭を振とうした後に濾過し、その濾液を0.05N塩酸で中和滴定した際の水酸化ナトリウム量とした。
・・・
【0066】
[活性炭の測定2]
試作例2~18の表面酸化物、比表面積及び平均細孔直径は上記「活性炭の測定1」と同様に求めた。
【0067】
〔ミクロ孔容積〕
細孔容積については、自動比表面積/細孔分布測定装置(「BELSORP-miniII」、マイクロトラック・ベル株式会社製)を使用し、窒素吸着により測定した。試作例2~18の細孔直径1nm以下の範囲の細孔容積であるミクロ孔容積の和(Vmic)(cm3/g)は、細孔直径1nm以下の範囲におけるdV/dDの値を窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法により解析して求めた。
・・・
【0070】
【表3】
[図:0001421407000007.jpg]
【0071】
【表4】
[図:0001421407000008.jpg]
【0072】
【表5】
[図:0001421407000009.jpg]
【0073】
[水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集効率の測定2]
ペル及びポリフルオロアルキル化合物として、PFOA及びPFOSを用いて評価を行った。
・・・
【0077】
表6~8に、試作例2~18について対象物質ごとの回収率(%)を示した。対象物質は、PFOA及びPFOSである。
【0078】
【表6】
[図:0001421407000010.jpg]
【0079】
【表7】
[図:0001421407000011.jpg]
【0080】
【表8】
[図:0001421407000012.jpg]
」
(3) 判断
ア 前記(2)アの記載によれば、本件発明は、水試料中に含まれるペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集する「ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭」に関するものであって、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の一部は、非常に安定性の高い化学物質であることから、環境中に放出後、自然条件下では分解されにくく、自然界(水中、土壌中、大気中)に残存し続けるので、従来、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量試験方法の確立が検討されているものである。
そして、定量試験方法の検討の課題は、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の高い吸着及び脱離性能を有する捕集材の開発であり、既存の捕集材としては、例えば、シクロデキストリンポリマーからなる有機フッ素系化合物吸着材が提案されているが、この吸着材は、吸着のみに特化し、該化合物の脱離はできないため、定量測定に用いられる捕集材として使用には適しておらず、また、シクロデキストリンポリマーは粉状又は微粒子状であり、ハンドリングが悪く、通液ないし通気時の抵抗が高く微粉末の2次側への流出リスク等の問題があるものである。
更に、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は物理化学特性に幅のある様々な形態で環境中に残存しており、既存の吸着材では十分な捕集性能がなく、正確に定量測定ができないという問題があったことから、本件発明は、特に、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集することが可能な水試料中の「ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭」及びそれを用いたフィルター体を提供するものである。
イ そして、前記(2)イの記載によれば、本件発明は、「活性炭吸着材のBET比表面積が1474~2017m2/gであり、表面酸化物量が0.09~0.48meq/gであり、細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)が0.612~0.841cm3/gである水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着するための水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭」に係るものであって、これにより、これまで定量測定が難しいとされてきた該化合物を捕集することができるものである。
すなわち、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着する活性炭の吸着性能は、「BET比表面積」を800m2/g以上又は「表面酸化物量」を0.20meq/g以下とすることにより発揮されるのであって、活性炭の表面に存在する酸性官能基により、水素結合によって吸着した水分子及びこれにより生成された水分子のクラスターによって細孔が閉塞されると考えられることから、「表面酸化物量」が少ない場合は、「BET比表面積」が小さく細孔の量が少ない活性炭であっても一定以上の該化合物の吸着が可能となるものであり、逆に、「表面酸化物量」が多く該化合物の細孔への吸着が阻害される場合であっても、「BET比表面積」が大きく細孔の量が多い活性炭であれば、一定以上の該化合物の吸着が可能となるものである。
また、「BET比表面積」が一定以上であるとともに、「表面酸化物量」が一定以下であれば、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物はより効率よく脱離可能に吸着できるものであり、活性炭吸着材の「BET比表面積」を800m2/g以上とするとともに、「表面酸化物量」を0.50meq/g以下とすることにより、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を更に高めることができるものである。
ウ 前記アによれば、本件発明は、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量試験方法のための、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の高い吸着及び脱離性能を有する捕集材を開発しようとするものであって、既存の捕集材であるシクロデキストリンポリマーからなる有機フッ素系化合物吸着材は、吸着のみに特化し、該化合物の脱離はできないため、定量測定に用いられる捕集材として使用には適していない、という課題、シクロデキストリンポリマーは粉状又は微粒子状であり、ハンドリングが悪く、通液ないし通気時の抵抗が高く微粉末の2次側への流出リスク等の問題がある、という課題、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は物理化学特性に幅のある様々な形態で環境中に残存しており、既存の吸着材では十分な捕集性能がなく、正確に定量測定ができない、という課題(以下、「本件課題」という。)があったことから、特に、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集することが可能な水試料中の「ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭」及びそれを用いたフィルター体を提供しようとするものである。
そして、前記イによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着する活性炭の吸着性能は、「BET比表面積」を800m2/g以上又は「表面酸化物量」を0.20meq/g以下とすることにより発揮されるものであって、活性炭の表面に存在する酸性官能基により、水素結合によって吸着した水分子及びこれにより生成された水分子のクラスターによって細孔が閉塞されると考えられることから、「表面酸化物量」が少ない場合は、「BET比表面積」が小さく細孔の量が少ない活性炭であっても一定以上の該化合物の吸着が可能となり、逆に、「表面酸化物量」が多く該化合物の細孔への吸着が阻害される場合であっても、「BET比表面積」が大きく細孔の量が多い活性炭であれば、一定以上の該化合物の吸着が可能となり、本件課題を解決できることを理解することができる。
更に、「BET比表面積」が一定以上であるとともに、「表面酸化物量」が一定以下であれば、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物はより効率よく脱離可能に吸着でき、活性炭吸着材の「BET比表面積」を800m2/g以上とするとともに、「表面酸化物量」を0.50meq/g以下とすることにより、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を更に高めることができて、本件課題を解決できることを理解することができる。
エ 前記ウによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「BET比表面積」が800m2/g以上又は「表面酸化物量」が0.20meq/g以下であることを満たすか、あるいは、「BET比表面積」が800m2/g以上であるとともに、「表面酸化物量」が0.50meq/g以下であることを満たす、水試料中の「ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭」により、これまで定量測定が難しいとされてきた前記化合物を捕集することができ、本件課題を解決できることを理解することができる。
そして、本件発明1は、「活性炭吸着材のBET比表面積が1474~2017m2/gであり、表面酸化物量が0.09~0.48meq/gであり、細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)が0.612~0.841cm3/gである」、との発明特定事項を有するから、「BET比表面積」が800m2/g以上であるとともに、「表面酸化物量」が0.50meq/g以下であることを満たすので、当業者は、本件発明1に係る「ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭」により本件課題を解決できることを理解することができるのであり、このことは、本件発明1の発明特定事項を満たす実施例(試作例9~11、14、15、18)におけるPFOAとPFOSの回収率がいずれも70%以上となっていることからも裏付けられるものである(前記(2)ウ)。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載はサポート要件に適合するといえる。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2~4について検討しても事情は同じである。
(4) 申立人の主張について
ア 申立人の前記第3の2の主張は、要するに、本件課題を解決できるのは、前記(2)ウに記載された試作例9~11、14~18にすぎず、これ以外に本件発明の発明特定事項をサポートする記載はないし、同試作例4及び6は、比表面積が本件発明1の発明特定事項を満たさないのに、本件発明1の発明特定事項を満たす試作例よりも優れたPFOAとPFOSの回収率を得ているから、本件発明1の発明特定事項と発明の効果との相関関係を理解できないので、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない、というものである。
イ ところが、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1に係る「ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭」により本件課題を解決できることを理解することができることは、前記(3)エに記載したとおりであるし、前記(2)ウに記載された試作例11(「表面酸化物量」が0.48meq/g、「BET比表面積」が1474m2/g、「細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)」が0.612cm3/g)、試作例14(「表面酸化物量」が0.10meq/g、「BET比表面積」が2017m2/g、「細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)」が0.841cm3/g)及び試作例18(「表面酸化物量」が0.09meq/g、「BET比表面積」が1740m2/g、「細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)」が0.711cm3/g)によれば、実施例の記載は、「BET比表面積」、「表面酸化物量」及び「細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)」について、本件発明1の「活性炭吸着材のBET比表面積が1474~2017m2/gであり、表面酸化物量が0.09~0.48meq/gであり、細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)が0.612~0.841cm3/gである」、との発明特定事項をサポートしているといえる。
そうすると、本件発明1の発明特定事項は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によりサポートされているといえる。
また、本件発明においては、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着する活性炭の吸着性能は、「BET比表面積」を800m2/g以上又は「表面酸化物量」を0.20meq/g以下とすることにより発揮され、活性炭吸着材の「BET比表面積」を800m2/g以上とするとともに、「表面酸化物量」を0.50meq/g以下とすることにより、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を更に高めることができることは、前記(3)ウに記載したとおりである。
そして、試作例4は、「表面酸化物量」が0.10meq/g、「BET比表面積」が825m2/gであり、試作例6は、「表面酸化物量」が0.15meq/g、「BET比表面積」が951m2/gであるから、いずれも、活性炭吸着材の「BET比表面積」が800m2/g以上であるとともに、「表面酸化物量」が0.50meq/g以下であることを満たすので、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を更に高めたものといえる。
してみれば、試作例4及び6は、もともと、本件発明1と同様に、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を更に高めたものなのであるから、これらの「BET比表面積」が本件発明1の発明特定事項を満たさないのに、本件発明1の発明特定事項を満たす試作例よりも優れたPFOAとPFOSの回収率を得ているとしても、本件発明1の発明特定事項と発明の効果との相関関係が理解できなくなるものでもない。
したがって、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たすものといえるから、申立人の前記第3の2の主張は採用できない。
(5) 小括
よって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号所定の規定(サポート要件)に適合するから、前記第3の2の特許異議の申立て理由は理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人の特許異議申立書に記載した特許異議の申立て理由によっては、本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700031