特許異議申立
2022-701238
セメント混和材、急硬モルタルコンクリート材料、急硬モルタルコンクリート組成物、及び硬化体
- 審判番号
- 2022-701238
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-159627
- 登録番号
- 7085050
- 請求日
- 2022年12月14日
- 審決日
- 2023年02月21日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】田口 昌浩
- 【権利者代理人】虎山 滋郎
- 【権利者代理人】伊藤 高志
- 【異議申立人】土山 秀男
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 正 知晃
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.113-Y (C04B) / P1651.121-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7085050号発明「セメント混和材、急硬モルタルコンクリート材料、急硬モルタルコンクリート組成物、及び硬化体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7085050号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7085050号(設定登録時の請求項の数は6。以下、「本件特許」という。)に係る出願は、令和3年9月29日を出願日とする特許出願であって、令和4年6月7日にその特許権の設定登録がされ、同年6月15日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の請求項1~6に係る特許に対し、特許異議申立人である土山秀男より、令和4年12月14日に特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明6」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、本件特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
アルミン酸カルシウム及び石膏を含有するセメント混和材であって、
前記アルミン酸カルシウムのCaO/Al2O3モル比が0.5以上2.0以下であり、
前記アルミン酸カルシウムに化学成分としてSO3とZrO2とP2O5を含有し、
前記アルミン酸カルシウム中のSO3とZrO2とP2O5の合計量が0.05質量%以上2.0質量%以下であり、P2O5の含有量(P2O5/(SO3+ZrO2+P2O5))が10質量%以上45質量%以下である、セメント混和材。
【請求項2】
前記アルミン酸カルシウム100質量部に対して、前記石膏を20質量部以上150質量部以下含む請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセメント混和材、セメント、及び骨材を含有する急硬モルタルコンクリート材料であって、
前記セメント混和材の含有割合は、前記セメント100質量部に対して、30質量部以上200質量部以下である、急硬モルタルコンクリート材料。
【請求項4】
前記骨材の含有割合は、前記セメント100質量部に対して、40質量部以上500質量部以下である、請求項3に記載の急硬モルタルコンクリート材料。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の急硬モルタルコンクリート材料と水とを含有する急硬モルタルコンクリート組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の急硬モルタルコンクリート組成物を用いてなる硬化体。」
第3 申立理由の概要
特許異議申立人が、特許異議申立書において主張する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
理由1 新規性欠如
本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当するので、同法第114条第2項の規定により取り消されるべきものである。
理由2 進歩性欠如
本件発明1~6は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当するので、同法第114条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(特許異議申立人が提出した証拠一覧)
甲第1号証:特表2007-514634号公報
甲第2号証:米国特許出願公開第2007/0144404号明細書
なお、甲第1号証が主たる証拠であり、甲第2号証は甲第1号証のパテントファミリー文献である米国特許公開公報である。
また、以下「甲第1号証」、「甲第2号証」をそれぞれ、「甲1」、「甲2」という。
第4 証拠の記載
1 甲1について
(1)記載事項について
甲1には、以下の事項が記載されている(下線部は当審において付与したものである。)。
(甲1ア)「【請求項1】
組成物質量の少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%を占める、シリコ-アルミン酸カルシウムおよびマグネシウムをベースとするガラス質または結晶化マトリックス;組成物質量の少なくとも5%を占める、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Pb、Ba、Sr、P、S、Na、K、Zr、Mo、Be、Tl、As、SnおよびCdの酸化物およびハロゲン化物から選ばれた1種または数種の特定の無機酸化物および任意成分としての1種または数種の特定の無機ハロゲン化物;多くとも31質量%のアルミナ(Al2O3);10質量%未満のフェライト(カルシウムアルミノフェライト);および組成物質量に対して0.05質量%未満、好ましくは0.01質量%未満のCを含むことを特徴とする水硬性無機組成物。
【請求項2】
組成物の総質量に対する質量%で下記を含む、請求項1記載の水硬性無機組成物:
‐酸化チタン:0~10%、好ましくは0.1~10%;
‐酸化バナジウム:0~0.5%、好ましくは0.2~0.5%;
‐酸化クロム:0~0.5%;
‐酸化マンガン:0~5%、好ましくは0.5~5%;
‐酸化亜鉛:0~2%、好ましくは0.1~2%;
‐酸化コバルト:0~0.05%、好ましくは0.01~0.5%;
‐酸化ニッケル:0~0.5%、好ましくは0.01~0.5%;
‐酸化銅:0~2%、好ましくは0.1~2%;
‐酸化鉛:0~0.01%、好ましくは0.001~0.01%;
‐酸化バリウム:0~2%、好ましくは0.1~2%;
‐酸化ストロンチウム:0~2%、好ましくは0.1~2%;
‐酸化リン:0~2%、好ましくは0.1~2%;
‐酸化イオウ:0~3%、好ましくは0.2~3%;
‐酸化ナトリウム:0~10%、好ましくは0.5~10%;
‐酸化カリウム:0~10%、好ましくは0.5~10%;
‐酸化ジルコニウム:0~0.1%、好ましくは0.01~0.1%;
‐酸化モリブデン:0~0.1%、好ましくは0.01~0.1%;
‐酸化タリウム:0~0.1%、好ましくは0.01~0.1%;
‐酸化錫:0~0.1%、好ましくは0.01~0.1%;
‐酸化カドミウム:0~0.005%、好ましくは0.0002~0.005%;および、
‐酸化ヒ素:0~0.002%、好ましくは0.0001~0.002%。
【請求項3】
・・・(中略)・・・
【請求項7】
前記マトリックスが、結晶化されており、マトリックスの総質量に対して下記を含有する、請求項1~6のいずれか1項記載の水硬性無機組成物:
鉱物学的組成物A:
‐ケイ酸二カルシウム(C2S):5~35%、好ましくは10~30%;
‐アルミン酸一カルシウム(CA):20~60%、好ましくは30~55%;および、
‐メリライト(ゲーレナイトC2ASとオクルマナイトC2MS2の固溶体):5~50%、好ましくは10~40%;または、
鉱物学的組成物B:
‐ケイ酸二カルシウム(C2S):20~60%、好ましくは20~50%;
‐アルミン酸カルシウム(C12A7):20~70%、好ましくは20~60%;および、
‐アルミン酸カルシウム(C3A):0~45%、好ましくは0~40%。
【請求項8】
得られる製品の総質量に対して80質量%までの、好ましくは50質量%までの請求項1~7のいずれか1項記載の水硬性無機組成物を含む、セメント製品または水硬性バインダー。
【請求項9】
前記水硬性無機組成物への補完物が、ポルトランドセメント、アルミナセメント、天然および合成石膏プラスター、リン石膏およびこれらの混合物から選ばれる、請求項8記載のセメント製品または水硬性バインダー。」
(甲1イ)「【0001】
本発明は、一般に、スラグ(とりわけ、製鋼所からの)並びに工業炉およびパワープラントからの粉塵(フライアッシュ)から得ることができ且つ増大した活性指数(AI)を有する水硬性無機組成物、並びにその製造方法に関する。
さらに詳細には、本発明は、シリコ-アルミン酸カルシウムおよびマグネシウムをベースとするマトリックス中に特定の無機酸化物および任意成分としての無機ハロゲン化物を混入させてこれらの無機酸化物および任意成分としての無機ハロゲン化物の総含有量を定まった最小値以上に増大させることによる、クリンカーに替り得、製造するのに経済的であり且つ増大した活性指数を有する新規な水硬性組成物の開発に関する。」
(甲1ウ)「【0006】
鉄鋼製造者の目的は、例え上記鉱物学的相の品質を低下させたとしても、液体金属から最高量のCrおよびNiを回収することである。
これに対し、本発明の目的は、比較的高量の無機酸化物および上記鉱物学的相の適切な品質を維持することである。
従って、本発明の目的は、より高い活性指数を有する水硬性無機組成物を提供することである。
本発明のさらなる目的は、そのような組成物の、好ましくは、スラグ(とりわけ、製鋼所スラグ)、フライアッシュおよび汚水プラントからのカ焼スラリーのような工業副生成物を原材料として使用することによる製造方法を提供することである。
本発明のさらにもう1つの目的は、そのような水硬性無機組成物を含有するセメント製品および水硬性バインダーを提供することである。
・・・(中略)・・・
【0008】
本発明の水硬性無機組成物の結晶質マトリックスは、好ましくは、マトリックス総質量に対して下記を含む鉱物学的組成物に相当する:
鉱物学的組成物A:
‐ケイ酸二カルシウム(C2S):5~35%、好ましくは10~30%;
‐アルミン酸一カルシウム(CA):20~60%、好ましくは30~55%;および、
‐メリライト(ゲーレナイトC2ASとオクルマナイト石C2MS2の固溶体):5~50%、好ましくは10~40%;または、
鉱物学的組成物B:
‐ケイ酸二カルシウム(C2S):20~60%、好ましくは20~50%;
‐アルミン酸カルシウム(C12A7):20~70%、好ましくは20~60%;および、
‐アルミン酸カルシウム(C3A):0~45%、好ましくは0~40%。
さらに、鉱物学的組成物Aは、好ましくは5%ほどの、より好ましくは0.5%ほどのFeO、10%ほどの、より好ましくは3~8%のMgOおよび0~8%のペリクレースを含み、一方、鉱物学的組成物Bは、好ましくは10%ほどの、より好ましくは8質量%ほどのFeO、10%ほどの、より好ましくは2~5%のMgOおよび0~8%のペリクレースを含む。
ガラス質マトリックスに関しては、上述したように、該マトリックスは、マトリックスの総質量に対して少なくとも80質量%のガラス質相を含む。明らかに、これらのガラス質相は、鉱物学的相によって定義することはできない。」
(甲1エ)「【0018】
・・・(前略)・・・
本発明に従う水硬性無機組成物は、そのものでセメントまたは水硬性バインダーとして使用し得、或いはポルトランドセメント、アルミナセメント、天然および合成石膏プラスター、リン石膏およびこれらの混合物のような全てのセメント質製品および水硬性バインダーと併用し得る。
一般に、本発明に従う水硬性無機組成物は、これらのセメント質製品または水硬性バインダーと、得られる生成物の総質量に対して80質量%、好ましくは50質量%までで併用し得る。
以下、限定することなしに、実施例により本発明を具体的に説明する。これらの実施例においては、全てのパーセントおよび量は、特に断らない限り質量による。」
(甲1オ)「【実施例2】
【0022】
C2S、CA、C2AS (No.1およびNo.2、表VI);または、C2S、C12A7 (No.3、表VI);または、C2S、C12A7、C3A (No.4、5、6、表VIII)をベースとするマトリックスを含む本発明に従う組成物を、1500℃で精錬することにより製造し、スラグ、ボーキサイトおよび石灰の混合物の徐冷により結晶化させた。
スラグおよびボーキサイトの化学組成は、下記の表VIIに示している。
使用したスラグ、ボーキサイトおよび石灰の割合、並びに本発明に従う最終組成物の化学的および鉱物学的組成は、下記の表VIIIに示している。
【0023】
[図:0001395275000001.jpg]
【0024】
[図:0001395275000002.jpg]
【0025】
4500ブレーン(Blaine)に粉砕した生成物No.1を、遅延剤を含有する水(0.1質量%のクエン酸ナトリウム)と混合する(W/C = 0.35)。この場合、圧縮強度は、6時間で5 MPa、24時間で20 MPaである。
4500ブレーンに粉砕した生成物No.2を、遅延剤を含有する水(0.1質量%のクエン酸ナトリウム)と混合する(W/C = 0.35)。圧縮強度は、6時間で10 MPa、24時間で30 MPaである。
4500 cm2/gに粉砕した生成物No.3(100g)を、ポルトランドセメント(100g)、細砂(<40μm)、チョーク(250g)、無水石膏(125g)、セルロース(例えば、Hoechst社からのTylose H 300p)、炭酸リチウム(0.8g)、酒石酸(1g)およびタイプMelment F10の添加剤と混合する。水要求量は22cm3であり、スランプは開始時および15分後で155 mmである。混合物は、セルフレベリング特性を有する。凝結時間は20分であり、生成物は、2.5時間後にタイル化し終え得る。
4500 cm2/gに粉砕した生成物No.4を、ポルトランドセメント、無水石膏、細砂(<40μm)、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、炭酸リチウムおよびクエン酸ナトリウムと、比率(7/25/3/63/0.5/0.2/0.5/0.5)で混合する。得られた加工可能時間は15分であり、硬化時間は30分である。
4500 cm2/gに粉砕した生成物No.5を、40%のガラス質化工業高炉スラグ、無水石膏(10%)、細砂(<40μm)およびクエン酸ナトリウム(0.05%)と混合する。6時間および24時間で得られた圧縮強度は、20および40 MPaである。
4500 cm2/gに粉砕した生成物No.6を、パワープラントからのフライアッシュ(Carling 社) (30%)、無水石膏(10%)、細砂(<40μm)およびクエン酸ナトリウム(0.2%)と混合する。6時間および24時間で得られた圧縮強度は、15および30 MPaである。」
(2)甲1に記載された発明について
ア 「甲1発明1」について
上記(甲1ア)の記載を、当該記載の具体例である同(甲1オ)の【実施例2】のアルミン酸カルシウムを含む生成物No.1、No.2、No.5、No.6に注目して整理すると、甲1には、次の発明(「甲1発明1」という。)が記載されているといえる。
「組成物質量の少なくとも25%を占め、C2S、CA、C2ASまたは、C2S、C12A7または、C2S、C12A7、C3Aをベースとする結晶化マトリックス、
組成物質量の少なくとも5%を占め、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Pb、Ba、Sr、P、S、Na、K、Zr、Mo、Be、Tl、As、SnおよびCdの酸化物およびハロゲン化物から選ばれた1種または数種の特定の無機酸化物および任意成分としての1種または数種の特定の無機ハロゲン化物、
多くとも31質量%のアルミナ(Al2O3)、
10質量%未満のフェライト(カルシウムアルミノフェライト)、および組成物質量に対して0.05質量%未満のCを含む水硬性無機組成物であって、
前記特定の無機酸化物として、組成物の総質量に対する質量%で、酸化リン:0~2%、酸化イオウ:0~3%、酸化ジルコニウム:0~0.1%を含む水硬性無機組成物」
イ 「甲1発明2」について
また、甲1の【実施例2】生成物No.3について、「4500 cm2/gに粉砕した生成物No.3(100g)を、ポルトランドセメント(100g)、細砂(<40μm)、チョーク(250g)、無水石膏(125g)、セルロース(例えば、Hoechst社からのTylose H 300p)、炭酸リチウム(0.8g)、酒石酸(1g)およびタイプMelment F10の添加剤と混合する」と記載されており、この混合物における生成物No.3及び無水石膏に注目して整理すると、甲1には、次の発明(「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。
「生成物No.3(100g)と無水石膏(125g)を含有する組成物であって、生成物No.3はC2S:30.7質量%、C12A7:58.7質量%、S:0.5623質量%、P2O5:0.0662質量%、ZrO2:0.0992質量%を含む、組成物」
ウ 「甲1発明3」について
同じく甲1の【実施例2】生成物No.4について、「4500 cm2/gに粉砕した生成物No.4を、ポルトランドセメント、無水石膏、細砂(<40μm)、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、炭酸リチウムおよびクエン酸ナトリウムと、比率(7/25/3/63/0.5/0.2/0.5/0.5)で混合する」と記載されており、この混合物における生成物No.4及び無水石膏に注目して整理すると、甲1には、次の発明(「甲1発明3」という。)が記載されているといえる。
「生成物No.4と無水石膏を含有する組成物であって、生成物No.4は、C2S:23.4質量%、C12A7:27.0質量%、C3A:39.7質量%、S:0.6452質量%、P2O5:0.0248質量%、ZrO2:0.0993質量%を含む、組成物」
2 甲2について
甲2は、甲1のパテントファミリー文献である米国特許公開公報であり、その記載内容は甲1と同様のものであるから、甲2の記載事項に関する摘記は省略する。
第5 申立理由1(新規性欠如)に対する当審の判断
1 本件発明1について
(1)甲1発明1との対比、判断
ア 本件発明1と甲1発明1との対比
本件発明1と甲1発明1を対比すると、少なくとも以下の点で相違している。
(ア)本件発明1は、「アルミン酸カルシウム及び石膏を含有するセメント混和材」であるのに対し、甲1発明1は、「C2S,CA,C2ASまたは,C2S,C12A7または,C2S,C12A7,C3Aをベースとする結晶化マトリックス」「を含む水硬性無機組成物」である。
(イ)本件発明1のセメント混和材は、「アルミン酸カルシウム」が「CaO/Al2O3モル比が0.5以上2.0以下」であるのに対し、甲1発明1の水硬性無機組成物は、「C2S,CA,C2ASまたは,C2S,C12A7または,C2S,C12A7,C3Aをベースとする結晶化マトリックス」である。
(ウ)本件発明1は、「アルミン酸カルシウムに化学成分としてSO3とZrO2とP2O5を含有し、」「アルミン酸カルシウム中のSO3とZrO2とP2O5の合計量が0.05質量%以上2.0質量%以下であり、P2O5の含有量(P2O5/(SO3+ZrO2+P2O5))が10質量%以上45質量%以下である」のに対し、甲1発明1は、「組成物の総質量に対する質量%で、酸化リン:0~2%、酸化イオウ:0~3%、酸化ジルコニウム:0~0.1%を含」む。
イ 上記ア(ア)についての検討
まず本件発明1の「セメント混和材」と甲1発明1の「水硬性無機組成物」について検討する。
本件発明1のセメント混和材は、本件明細書において、「本発明の急硬モルタルコンクリート材料は、本発明のセメント混和材、セメント、及び骨材を含有する。そして、セメント混和材の含有割合は、強度発現性が高く、ひび割れを抑える観点からの観点から、セメント100質量部に対して、30質量部以上200質量部以下とすることが好ましく」(段落【0024】)などと記載されるように、コンクリート材料の改質を目的としてセメントに添加されるものである。
これに対し、甲1に記載された水硬性無機組成物は、「クリンカーに替り得、製造するのに経済的であり且つ増大した活性指数を有する新規な水硬性組成物の開発に関する」(段落【0001】)ものであって、「そのものでセメントまたは水硬性バインダーとして使用し得」(段落【0018】)るものであることから、この水硬性無機組成物は、コンクリート材料の改質を目的に添加される「セメント混和材」として用いることを想定したものとはいえない。
そして、【実施例2】の生成物No.1、No.2では単独の水硬性組成物として用いられ、同じく生成物No.5、No.6では、主たる水硬性組成物として用いられているから、甲1発明1の水硬性無機組成物は、コンクリート材料の改質を目的に添加される「セメント混和材」とはいえない。
したがって、上記ア(ア)の点は、実質的な相違点といえる。
ウ まとめ
以上のとおりであるから、少なくとも上記ア(ア)の点で本件発明1と甲1発明1は相違し、上記ア(イ)及び(ウ)について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1に対して新規性が欠如するということはできない。
(2)甲1発明2との対比、判断
上記(1)で検討したとおり、甲1に記載された水硬性無機組成物は、コンクリート材料の改質を目的に添加される「セメント混和材」として用いることを想定したものとはいえないが、甲1の【実施例2】において、ポルトランドセメントをセメント成分、細砂及びチョークを骨材成分であると見ると、甲1発明2の組成物は、このコンクリート材料におけるセメント混和材であるとみることもできる。
そこで、甲1発明2の組成物が「混和材」であると仮定して、以下検討する。
ア 本件発明1と甲1発明2との対比
本件発明1と甲1発明2を対比すると、甲1発明2の「無水石膏」は、本件発明1の「石膏」に相当するから、両者は「石膏を含有するセメント混和材」で一致し、以下の点で相違する。
(ア)本件発明1は、セメント混和材が「アルミン酸カルシウム」を含み「アルミン酸カルシウムのCaO/Al2O3モル比が0.5以上2.0以下」であるのに対し、甲1発明2の生成物No.3は、鉱物学的組成として「C2S:30.7質量%、C12A7:58.7質量%」を含む。
(イ)本件発明1の「アルミン酸カルシウム」は、「アルミン酸カルシウム中のSO3とZrO2とP2O5の合計量が0.05質量%以上2.0質量%以下であり、P2O5の含有量(P2O5/(SO3+ZrO2+P2O5))が10質量%以上45質量%以下」であるのに対し、甲1発明2の生成物No.3は、化学的組成として「S:0.5623質量%、P2O5:0.0662質量%、ZrO2:0.0992質量%」を含む。
イ 上記ア(ア)についての検討
(ア)まず、本件発明1の「アルミン酸カルシウム」と甲1発明2の「生成物No.3」について検討する。
本件発明1の「アルミン酸カルシウム」は、本件明細書の段落【0014】に「本発明で使用するアルミン酸カルシウムは、カルシア原料とアルミナ原料を主原料とし、さらにSO3、ZrO2、及びP2O5をそれぞれ含む原料を混合して、・・・(中略)・・・CaOとAl2O3とを主成分とする水和活性を有する物質の総称」であると記載されている。
それに対し、甲1発明2の「生成物No.3」は、「スラグ、ボーキサイトおよび石灰」(段落【0022】)を原料としており、カルシア原料の「石灰」、アルミナ原料の「ボーキサイト」に加えて、「スラグ」を主原料としているから、「カルシア原料とアルミナ原料を主原料」とする本件発明1の「アルミン酸カルシウム」と同じといえず、両者は相違する。
(イ)また、仮に甲1発明2の「生成物No.3」が本件発明1の「アルミン酸カルシウム」であるとしても、甲1発明2の生成物No.3における「CaO/Al2O3モル比」は、その鉱物学的組成の「C2S:30.7質量%、C12A7:58.7質量%」から、(2×30.7/172+12×58.7/1386)/(7×58.7/1386)=約2.9と計算され、甲1発明2の「CaO/Al2O3モル比」は、本件発明1のように「0.5以上2.0以下」とはならないから、この点で、両者は相違する。
(ウ)したがって、上記ア(ア)の点は、実質的な相違点といえる。
ウ まとめ
以上のとおりであるから、甲1発明2の組成物を「セメント混和材」であるとして対比した場合であっても、少なくとも上記ア(ア)の「アルミン酸カルシウム」に関する点において、上記イで示したように、本件発明1と甲1発明2は相違するから、上記ア(イ)の成分については検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明2に対して新規性が欠如するということはできない。
(3)甲1発明3との対比、判断
ア 本件発明1と甲1発明3との対比
上記(2)での検討を踏まえて、本件発明1と甲1発明3についても同様に対比すると、両者は「石膏を含有するセメント混和材」で一致し、以下の点で相違する。
(ア)本件発明1は、セメント混和材が「アルミン酸カルシウム」を含み「アルミン酸カルシウムのCaO/Al2O3モル比が0.5以上2.0以下」であるのに対し、甲1発明3の生成物No.4は、鉱物学的組成として「C2S:23.4質量%、C12A7:27.0質量%、C3A:39.7質量%」を含む。
(イ)本件発明1の「アルミン酸カルシウム」は、「アルミン酸カルシウム中のSO3とZrO2とP2O5の合計量が0.05質量%以上2.0質量%以下であり、P2O5の含有量(P2O5/(SO3+ZrO2+P2O5))が10質量%以上45質量%以下」であるのに対し、甲1発明3の生成物No.4は、化学的組成として「S:0.6452質量%、P2O5:0.0248質量%、ZrO2:0.0993質量%」を含む。
イ 上記ア(ア)についての検討
本件発明1の「アルミン酸カルシウム」と甲1発明3の「生成物No.4」について、上記(2)イの甲1発明2での検討と同じことがいえるから、両者は相違する。
また、仮に甲1発明3の「生成物No.4」が本件発明1の「アルミン酸カルシウム」であるとしても、甲1発明3の生成物No.4における「CaO/Al2O3モル比」は、その鉱物学的組成の「C2S:23.4質量%、C12A7:27.0質量%、C3A:39.7質量%」から、(2×23.4/172+12×27/1386+3×39.7/270)/(7×27/1386+1×39.7/270)=約3.3と計算され、甲1発明3の「CaO/Al2O3モル比」は、本件発明1のように「0.5以上2.0以下」とはならないから、この点で、両者は相違する。
したがって、上記ア(ア)の点は実質的な相違点といえる。
ウ まとめ
以上のとおりであるから、甲1発明3の組成物を「セメント混和材」であるとして対比した場合であっても、少なくとも上記ア(ア)の「アルミン酸カルシウム」に関する点において、上記イで示したように、本件発明1と甲1発明3は相違するから、上記ア(イ)の成分については検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明3に対して新規性が欠如するということはできない。
2 本件発明2~6について
上記1で示したとおり、本件発明1は甲1発明1~3に対して新規性が欠如するということはできないから、本件請求項1を引用する請求項2~6における本件発明2~6も同様に、甲1発明1~3に対して新規性が欠如するということはできない。
第6 申立理由2(進歩性欠如)に対する当審の判断
本件発明1のセメント混和材は、本件明細書において、「本発明の急硬モルタルコンクリート材料は、本発明のセメント混和材、セメント、及び骨材を含有する。そして、セメント混和材の含有割合は、強度発現性が高く、ひび割れを抑える観点からの観点から、セメント100質量部に対して、30質量部以上200質量部以下とすることが好ましく」(段落【0024】)などと記載されるように、コンクリート材料の改質を目的としてセメントなどのコンクリート材料に添加される「セメント混和材」である。
そして、本件発明1は、本件明細書の段落【0008】で示されるように、「特定のアルミン酸カルシウムを含有し、特定の材料と組み合わせることで、」「流動性の保持効果が高く、練り混ぜ抵抗性が低く、強度発現性が高く、ひび割れを抑えることができる、セメント混和材、急硬モルタルコンクリート材料、急硬モルタルコンクリート組成物、及びこれを用いた硬化体を提供することを目的とする」ものであり、そのために「アルミン酸カルシウム」における「CaO/Al2O3モル比」及び「SO3」、「ZrO2」、「P2O5」の含有量を特定の範囲としたものである。
一方、甲1及び甲2には、アルミン酸カルシウムにおける組成を特定の範囲とすることで、流動性の保持効果を高めるなどの効果を発揮する「セメント混和材」を得ることについては、記載も示唆もない。
そうすると、甲1及び甲2の記載をいかに参酌したとしても、甲1発明1~3に基づいて、本件発明1における特定の組成を有するアルミン酸カルシウムを含むセメント混和材を想到することは、当業者といえども容易になし得たことではない。
また、本件請求項1を引用する請求項2~6における本件発明2~6も同様に、甲1及び甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人による特許異議の申立ての申立理由1(進歩性欠如)及び申立理由2(進歩性欠如)によって、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701238