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特許異議申立

2022-701122

リチウム複合酸化物およびこれを含むリチウム二次電池

審判番号
2022-701122
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-171235
登録番号
7063964
請求日
2022年11月16日
審決日
2023年11月01日
公報発行日
2024年02月22日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】エコプロ ビーエム カンパニー リミテッド
  • 【権利者代理人】岡部 讓
  • 【権利者代理人】本田 亜希
  • 【権利者代理人】齋藤 正巳
  • 【権利者代理人】田村 修
  • 【異議申立人】金澤 毅
審判長/審判官
  • 審判長 日比野 隆治
  • 審判官 原 賢一
  • 審判官 立木 林
分類
P1651.537-YAA(C01G) / P1651.113-YAA(C01G) / P1651.121-YAA(C01G)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7063964号発明「リチウム複合酸化物およびこれを含むリチウム二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7063964号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第7063964号の請求項1~9に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7063964号の請求項1~9に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)10月9日を国際出願日(パリ条約による優先権主張 2019年10月10日 (KR)大韓民国)とする出願であり、令和4年4月25日にその特許権の設定登録がされ、同年5月17日に特許掲載公報が発行され、その後、同年11月16日に、その請求項1~9に係る特許を対象として特許異議申立人金澤毅(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、令和5年2月28日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年5月26日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、同年7月6日に異議申立人より意見書の提出があったものである。 第2 訂正の適否 1 訂正事項 上記令和5年5月26日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「リチウムの吸蔵および放出が可能で少なくともニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mn)を含む一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含み」とあるのを、「リチウムの吸蔵および放出が可能で少なくともニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)を含む一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含み」に訂正する。 (請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~9も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「前記数式1で、qは、前記一次粒子内の前記リチウムを除いた金属元素の総モル数に対するニッケルの比率(molar ratio)であり」とあるのを、「前記数式1で、qは、前記一次粒子内の前記リチウムを除いた金属元素の総モル数に対するニッケルの比率(molar ratio)で、0.60以上であり」に訂正する。 (請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~9も同様に訂正する。) (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項2に「0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.50、0≦y≦0.20、0≦z≦0.20である」とあるのを、「0.5≦w≦1.5、0<x≦0.50、0<y≦0.20、0≦z≦0.20である」に訂正する。 (請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3~5、9も同様に訂正する。) 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正前の請求項1の「リチウムの吸蔵および放出が可能で少なくともニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mn)を含む一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含み・・・リチウム複合酸化物。」との記載によれば、リチウム複合酸化物において、「マグネシウム(Mn)」は、必須の元素であることが分かる。ここで、元素記号のMnは、マンガンを意味するから、上記の記載からだけでは、「マグネシウム(Mn)」が、「マグネシウム(Mg)」であるのか、「マンガン(Mn)」であるのか不明である。 しかしながら、リチウム複合酸化物の製造に関する出願当初の明細書の【0117】の「(1)製造例1 まず、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、および硫酸マンガンを準備し、共沈反応を行って 前駆体を合成し、合成された前駆体にLiOHを添加した後、焼成して、リチウム複合酸 化物を製造した。」との記載や、同【0120】で、「各実施例および比較例で行われた熱処理温度および各実施例および比較例に記載された方法により製造されたリチウム複合酸化物の組成を示した。前記リチウム複合酸化物の組成は、ICP分析を通じて導き出された。」とされている同【0121】の【表2】の [図:0001406683000001.jpg] の記載によれば、リチウム複合酸化物に実際含まれている必須の元素は、リチウム、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)の他、マンガン(Mn)であることが分かる。 そうすると、訂正前の請求項1の「マグネシウム(Mn)」の記載は、化学記号のMnが示すとおり、「マンガン(Mn)」の誤記であることが明らかであるから、訂正事項1は、誤記の訂正を目的とするものである。 イ 訂正事項1は、「マンガン(Mn)」であったことが明らかな記載を、本来の内容に訂正するものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について ア 訂正事項2は、qで表されるニッケルの比率(molar ratio)の範囲を、0.60以上の範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ (ア)本件明細書の【発明が解決しようとする課題】の項目に続く【0012】には、「ニッケル系リチウム複合酸化物のうちNi rich正極活物質の寿命劣化の原因と知られたマイクロクラックの発生は、正極活物質の一次粒子のサイズに関連したものと知られている。具体的に、一次粒子のサイズが小さいほど粒子の収縮/膨張の繰り返しによるマイクロクラックの発生が抑制され得る。しかしながら、一次粒子のサイズが減少すると、放電容量も一緒に減少し得る。また、正極活物質内ニッケルの含量が増加する場合、一次粒子のサイズが小さくなって寿命特性が低下する問題点が発生することがある。」との記載があり、続く【0013】では、この問題点に対して、「本発明は、ボロン含有酸化物が存在するコーティング層を含むリチウム複合酸化物のうちニッケルのモル分率(molar ratio)とR-3m空間群を有する六方格子により定義されるXRDピークにおける(104)ピークの半値幅(FWHM;deg.,2θ)が所定の相関関係を形成するように誘導することによって、寿命および容量特性が向上した正極活物質用リチウム複合酸化物を提供することを目的とする。」との記載がある。また、【発明の効果】の項目に続く【0030】及び【0031】には、「ニッケル系リチウム複合酸化物のうちNi rich正極活物質の場合、一次粒子のサイズが小さくなるほど一次粒子内マイクロクラックの発生可能性が減少し得るが、これと共に放電容量も減少する問題がある。しかしながら、本発明によれば、ボロン含有酸化物が存在するコーティング層を含むリチウム複合酸化物のうちモル分率(molar ratio)とR-3m空間群を有する六方格子により定義されるXRDピークにおける(104)ピークの半値幅(FWHM;deg.,2θ)が所定の相関関係を形成するように誘導することによって、一次粒子内マイクロクラックの発生可能性を減らすと同時に、容量特性もやはり向上させることができるという利点がある。」との記載がある。 これらの記載によれば、「ボロン含有酸化物が存在するコーティング層を含むリチウム複合酸化物のうちモル分率(molar ratio)とR-3m空間群を有する六方格子により定義されるXRDピークにおける(104)ピークの半値幅(FWHM;deg.,2θ)が所定の相関関係を形成」している正極活物質(リチウム複合酸化物)は、「Ni rich正極活物質」を前提とするものであることが記載されているといえるが、ここでの「Ni rich正極活物質」は、【0008】の「二次電池の正極活物質としてNi含量が60%以上であるNi-rich正極活物質」との記載によれば、「Ni含量が60%以上」とされていると共に、【0023】で「一実施例」とされている一次粒子の化学式1である【0024】の「LiwNi1-(x+y+z)CoxM1yM2zO2[化学式1]」によれば、Ni含量は、Ni、Co、M1及びM2の合計の含量、すなわち、一次粒子内のリチウムを除いた金属元素の総モル数に対するニッケルの比率(molar ratio)であることが理解できる。 そうすると、訂正事項2の「前記一次粒子内の前記リチウムを除いた金属元素の総モル数に対するニッケルの比率(molar ratio)」である「q」を「0.60以上」とする訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。 (イ)また、【0076】には、「下記の数式3で表される」ものを「一次粒子内の金属元素のモル分率(molar ratio)」とし、【0077】には、[数式3]として、「モル分率(molar ratio)=Ni(mol)/(Ni(mol)+Co(mol)+M1(mol))」が記載されているところ、【0078】には、この「モル分率(molar ratio)」が、「数式1のqに対応する値であり得る。」ことが記載されている。 そして、【0079】において、「本発明の多様な実施例によるリチウム複合酸化物のうち一次粒子内数式3で計算されたモル分率の範囲によって変わるFWHM(104)の範囲を示した。」とされる「表1」は、以下のとおりであり、「【0080】【表1】 [図:0001406683000002.jpg] 」 上記【0078】の記載によれば、請求項1の[数式1]のqに対応するものとされているモル分率として、0.60を下限とする範囲が記載されている。 そうすると、上記訂正事項2は、この点からも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。 ウ 訂正事項2は、qで表されるニッケルの比率(molar ratio)の範囲を、0.60以上の範囲に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について ア 訂正前の請求項2は、「前記一次粒子は、下記の化学式1で表される、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。 LiwNi1-(x+y+z)CoxM1yM2zO2 [化学式1] (ここで、 M1は、Mnであり、・・・0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.50、0≦y≦0.20、0≦z≦0.20である。)」と記載され、「0≦x≦0.50、0≦y≦0.20」とされるように、Co及びM1で表されるMnは、0、すなわちリチウム複合酸化物に含まれていない場合も含む記載であるところ、請求項2が引用する請求項1では、リチウム複合酸化物は、「リチウムの吸蔵および放出が可能で少なくともニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mn)(当審注:上記(1)アで述べたように「マンガン(Mn)」の誤記である。)を含む」と、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)は、少なくとも含むものとされ、請求項1の記載と請求項2の記載が整合していなかった。 そして、訂正事項3は、訂正前の「0≦x≦0.50、0≦y≦0.20」を、「0<x≦0.50、0<y≦0.20」と訂正し、x又はyが0の場合、すなわち、コバルト(Co)又はマンガン(Mn)がリチウム複合酸化物に含まれない場合を除き、請求項1の記載に整合させるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 訂正事項3は、少なくともx及びyの数値範囲を狭めるものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 令和5年7月6日に提出された意見書における本件訂正の訂正事項2に対する異議申立人の主張について ア 訂正事項2に対する異議申立人の主張の内容 (ア)本件訂正で「0.60以上」に訂正された、数式1の「q」は、「前記一次粒子内の前記リチウムを除いた金属元素の総モル数に対するニッケルの比率(molar ratio)」であるところ、請求項2で規定する化学式1に従って計算する場合、q=Ni/(Ni+Co+M1+M2)で表されるものである。 ここで、上記訂正の根拠は、【0080】【表1】のモル分率の値であると解されるところ、本件明細書の【0079】には、「下記の表1は、本発明の多様な実施例によるリチウム複合酸化物のうち一次粒子内数式3で計算されたモル分率の範囲によって変わるFWHM(104)の範囲を示した。」と記載され、【0077】には、数式3について、「モル分率(molar ratio)=Ni(mol)/Ni(mol)+Co(mol)+M1(mol)」 [数式3]」と記載され、表1に開示されたモル分率は、数式3で規定されている通り、「M2」を含まない、「一次粒子内のNi、Co、M1の総モル数に対するニッケルの比率」である。 そうすると、「前記一次粒子内の前記リチウムを除いた金属元素の総モル数に対するニッケルの比率(molar ratio)であり、「M2」も含めたモル分率である数式1の「q」と、数式3のモル分率とは必ずしも一致するものではない。 なお、【0078】には、「ここで、数式3で計算される前記一次粒子内の金属元素のモル分率(molar ratio)は、数式1のqに対応する値であり得る。」と記載されているが、これは「M2」の含有割合が0の場合を意味するものと解され、このため、【表1】の「モル分率」が数式1のqに対応するのであれば、「M2」の含有割合が0の場合のみを記載していると考えられる。 ここで、例えば、本件明細書に開示された実験例1では、「次に、ミキサーを使用して前記リチウム複合酸化物と B含有原料物質(H3BO3)と共に混合した。B含有原料物質(H3BO3)は、前記リチウム複合酸化物の総重量に対して0.2重量%になるように混合した。同じ焼成炉でO2雰囲気を維持しつつ、分当たり2℃で昇温して、5時間熱処理した後、自然冷却して、リチウム複合酸化物を得た。」(【0119】)、「(2)製造例2 最終生成されたリチウム複合酸化物のうちAlの含量が1,600ppmおよびZrの含量が1,000ppmになるように製造例1の前駆体にLiOHを混合した後、熱処理する前にAl2O3およびZrO2をさらに混合した後、熱処理したことを除いて、製造例1と同一にリチウム複合酸化物を製造した。」(【0122】)等のように記載されている。 そして、【表2】~【表4】に示されているように、700℃~800℃程度の温度で熱処理がなされていることから、一次粒子内部に、添加したBや、Al等が拡散していることは、技術常識に照らして明らかであることから、実験例に開示されたいずれの製造例においても、一次粒子には、「M2」に当たるBや、Al等が添加されている。 そうすると、本件明細書に開示された実験例は、いずれも一次粒子がM2を含有することは明らかであり、このため、係る実験例の結果に関する表であるとされる【表1】のモル分率は、数式1で求めた場合と、数式3で求めた場合とで値が異なることになる。 従って、【表1】のモル分率は、数式1のqの範囲を開示するものではないので、表1のモル分率に基づいた上記訂正は、本件明細書等に記載された事項の範囲内でするものではない。 (イ)訂正事項2ではqを0.6以上に訂正しているところ、係るqの値が0.6の場合に対応する製造例は、【0128】、【0129】、【表5】に記載された製造例4になる。 しかしながら、【表5】には熱処理温度や組成が開示されておらず、製造例4において、どのような条件で、どのような組成の物が得られているのかは明らかでない。そして、製造例4と、実施例4-1~実施例4-4との関係も明らかではない。 そうすると、表5に開示されたNi/(Ni+Co+Mn)が0.60になる唯一の例である、実施例4-1~実施例4-4が具体的にどのようなものであるのかは明らかではなく、係る記載を訂正の根拠としていると考えられる訂正事項2は、本件明細書等に記載された事項の範囲内でするものではない。 (ウ)上記qについての訂正は【表1】を根拠としているものと解されるところ、表1においては、モル分率が0.60の場合を含む0.60~0.62において、「FWHM(104)」が「0.015~0.070」であることが記載されている。 しかしながら、q=0.60、FWHM(104)=0.015~0.070を数式1の「FWHM(104)-{0.04+(q-0.6)×0.25}」に代入すると、-0.025~0.030になり、-0.025以上0.025以下であることを規定する、数式1を充足しない範囲を含むことになる。 従って、【表1】は、数式1を充足しない場合を包含しており、係る記載に基づく上記訂正は、係る観点からも本件明細書に記載された事項の範囲内でするものではない。 (エ)【表1】について、本件明細書の【0079】~【0082】には、「下記の表1は、本発明の多様な実施例によるリチウム複合酸化物のうち一次粒子内数式3で計算されたモル分率の範囲によって変わるFWHM(104)の範囲を示した。 また、この際、前記リチウム複合酸化物のXRD測定値で44.5±1.0(2θ)で観測される(104)ピーク(peak)の半値幅(FWHMLi(104))の範囲が下記の数式4で表される。 -0.025≦FWHMLi(104)-{0.12+(q-0.6)×0.25}≦0.025 [数式4]」と記載され、【表1】に記載のリチウム複合酸化物は、数式4も必須の要件としているものと解される。 このため、【表1】を訂正の根拠としつつも、数式4の規定を有さず、qの値のみを規定した本件発明1についての上記訂正は、本件明細書等に記載された事項の範囲内でするものではない。 イ 上記アの主張に対する当審の判断 (ア)上記ア(ア)の主張について 上記ア(ア)の主張は、訂正の根拠が、表1のモル分率の値そのものであることを前提としている。しかしながら、上記2(2)イ(ア)で述べたように、訂正の根拠は、表1に係る記載だけではないから、上記主張は、その前提が誤っている。 また、表1に係る記載を検討しても、表1のモル分率が、【0077】に記載される、数式3(モル分率(molar ratio)=Ni(mol)/Ni(mol)+Co(mol)+M1(mol))で表されるものであるとしても、【0078】に「ここで、数式3で計算される前記一次粒子内の金属元素のモル分率(molar ratio)は、数式1のqに対応する値であり得る。」と記載されているのであるから、Ni、Co、M1以外の金属の有無にかかわらず、「前記一次粒子内の前記リチウムを除いた金属元素の総モル数に対するニッケルの比率(molar ratio)」とされている「q」が、表1のモル分率の数値と同値をとり得ることは、当業者であれば普通に理解できることである。 さらに、上記ア(ア)では、【0079】~【0082】に記載される実験例の製造例1~製造例4において、一次粒子の製造過程で添加されるB、Al等が熱処理により一次粒子内部に拡散し、これらがM2に該当するので、これらの元素をニッケルの比率の計算に含めるか否かで「q」の値が変わることを根拠として、【表1】のモル分率は、数式1のqの範囲を開示しているものではないことを主張しているが、これらの製造例に対応する例えば【表5】のモル分率「q」の項目には、「Ni/(Ni+Co+Mn)」と明記されていることからすると、上記製造例の記載は、上記ア(ア)の主張の根拠となるものではない。 (イ)上記ア(イ)について 訂正事項2の根拠は、【0128】、【0129】、【表5】に記載された製造例4ではないから、製造例4の記載を根拠にする訂正要件違反の主張は採用することができない。 (ウ)上記ア(ウ)について 【表1】のモル分率が0.60の場合を含む0.60~0.62の「FWHM(104)」の範囲に数式1を充足しない場合があることは、何ら、訂正要件違反の理由に関係するものではない。 「FWHM(104)」の値は、モル分率の条件の他、【表2】~【表5】に示されているように、熱処理温度等の条件によっても変化するのであるから、【表1】に記載されるモル分率に対する「FWHM(104)」の範囲は、あくまで、目安と考えるべきものであり、【表1】に記載される「FWHM(104)」の範囲に数式1を充足しない場合を包含するとしても、qについての訂正が、本件明細書に記載された事項の範囲内でするものではないということはない。 (エ)上記ア(エ)について 上記主張は、【表1】に記載のリチウム複合酸化物は、数式4も充足すべきものであると解されるので、訂正事項2で数式4を規定せず、qの値のみを規定したことを、訂正要件違反の理由とするものである。しかしながら、本件発明1で、数式4を規定するか否かは、サポート要件の問題であって、何ら、訂正要件違反の理由に関係するものではない。 なお、本件発明1が、サポート要件に違反するものでないことは、後記第5の2で述べるとおりである。 (オ)上記(ア)~(エ)で述べたとおり、上記アの異議申立人の主張は、いずれも採用することができない。 3 小括 本件訂正の請求は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~9〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号~第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1~9に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、次のとおり特定されるものである。 「【請求項1】 リチウムの吸蔵および放出が可能で少なくともニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)を含む一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含み、 前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部をカバーするボロン(B)含有酸化物が存在するコーティング層を含み、 R-3m空間群を有する六方格子により定義されるXRDピークにおける(104)ピークの半値幅(FWHM;deg.,2θ)の範囲が下記の数式1で表される、リチウム複合酸化物。 -0.025≦FWHM(104)-{0.04+(q-0.6)×0.25}≦0.025 [数式1] 前記数式1で、qは、前記一次粒子内の前記リチウムを除いた金属元素の総モル数に対するニッケルの比率(molar ratio)で、0.60以上であり、前記FWHM(104)は、下記の数式2で表され、 FWHM(104)=FWHMLi(104)-FWHMSi(220) [数式2] 前記数式2で、 前記FWHMLi(104)は、リチウム複合酸化物のXRD測定値で44.5±1.0°(2θ)で観測される(104)ピーク(peak)の半値幅を意味し、 前記FWHMSi(220)は、Si粉末のXRD測定値で47.3±1.0°(2θ)付近で観測される(220)ピーク(peak)の半値幅を意味する。 【請求項2】 前記一次粒子は、下記の化学式1で表される、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。 LiwNi1-(x+y+z)CoxM1yM2zO2 [化学式1] (ここで、 M1は、Mnであり、 M2は、B、Ba、Ce、Hf、Ta、Cr、F、Mg、Al、Cr、V、Ti、Fe、Zr、Zn、Si、Y、Nb、Ga、Sn、Mo、W、P、Sr、Ge、Nd、GdおよびCuから選ばれる少なくとも1つであり、 M1とM2は、互いに異なる元素であり、 M2は前記一次粒子にドーパントとして含まれ、 0.5≦w≦1.5、0<x≦0.50、0<y≦0.20、0≦z≦0.20である。) 【請求項3】 下記の数式3で表される前記一次粒子内の金属元素のモル分率(molar ratio)が0.93~0.95であるとき、前記FWHM(104)は、0.098°(2θ)~0.152°(2θ)である、請求項2に記載のリチウム複合酸化物。 モル分率(molar ratio)=Ni(mol)/(Ni(mol)+Co(mol)+M1(mol)) [数式3] 【請求項4】 下記の数式3で表される前記一次粒子内の金属元素のモル分率(molar ratio)が0.87~0.89であるとき、前記FWHM(104)は、0.083°(2θ)~0.137°(2θ)である、請求項2に記載のリチウム複合酸化物。 モル分率(molar ratio)=Ni(mol)/(Ni(mol)+Co(mol)+M1(mol)) [数式3] 【請求項5】 下記の数式3で表される前記一次粒子内の金属元素のモル分率(molar ratio)が0.79~0.81であるとき、前記FWHM(104)は、0.063°(2θ)~0.117°(2θ)である、請求項2に記載のリチウム複合酸化物。 モル分率(molar ratio)=Ni(mol)/(Ni(mol)+Co(mol)+M1(mol)) [数式3] 【請求項6】 前記リチウム複合酸化物のXRD測定値で44.5±1.0°(2θ)で観測される(104)ピーク(peak)の半値幅(FWHMLi(104))の範囲が下記の数式4で表される、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。 -0.025≦FWHMLi(104)-{0.12+(q-0.6)×0.25}≦0.025 [数式4] 【請求項7】 前記コーティング層は、下記の化学式2で表される少なくとも1つの酸化物をさらに含む、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。 LiaM3bOc [化学式2] (ここで、M3は、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、Ce、GdおよびNdから選ばれる少なくとも1つであり、0≦a≦6、0≦b≦8、2≦c≦13である。) 【請求項8】 前記コーティング層は、 前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部をカバーする第1酸化物層と、 前記第1酸化物層によりカバーされない前記二次粒子の表面および前記第1酸化物層の表面のうち少なくとも一部をカバーする第2酸化物層と、を含み、 前記化学式2で表される少なくとも1つの酸化物は、前記第1酸化物層内に存在し、 前記ボロン含有酸化物は、前記第2酸化物層内に存在する、請求項7に記載のリチウム複合酸化物。 【請求項9】 請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウム複合酸化物を含む正極が使用されたリチウム二次電池。」 第4 令和5年2月28日付けで通知した取消理由及びこの取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要 1 令和5年2月28日付けで通知した取消理由の概要 (1)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(以下、「取消理由1」とする。) 本件特許は、特許請求の範囲の訂正前の請求項1~9の記載が後記第5の1(1)ア(ア)及び同イ(ア)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「取消理由2」とする。) 本件特許は、特許請求の範囲の訂正前の請求項1~9の記載が後記第5の2(1)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要 (1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)及び同法同条第2項所定の規定違反(進歩性欠如) ア 訂正前の請求項1、2、4~6、9に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1、2、4~9に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由1」とする。)。 なお、取消理由1では、甲第4号証を参考として引用している。 イ 訂正前の請求項1~6、9に係る発明は、下記甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1~9に係る発明は、下記甲第3号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「申立理由2」とする。)。 なお、取消理由2では、甲第5号証を参考として引用している。 記 甲第1号証:特開2004-335278号公報 甲第2号証:特開2008-16236号公報 甲第3号証:国際公開第2018/043190号 甲第4号証:特開2003-59707号公報 甲第5号証:特開2019-133881号公報 (以下、甲第1号証を略して、「甲1」などという。) (2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「申立理由3」とする。) 本件特許は、特許請求の範囲の訂正前の請求項1~9の記載が後記第5の2(2)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (3)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(以下、「申立理由4」とする。) 本件特許は、特許請求の範囲の訂正前の請求項1~9の記載が後記第5の1(2)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 第5 当審の判断 1 取消理由1及び申立理由4(明確性要件違反)について (1)取消理由1について ア 訂正前の請求項1~9の記載に対して (ア)取消理由の内容 訂正前の請求項1には、「リチウムの吸蔵および放出が可能で少なくともニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mn)を含む一次粒子」との記載がある。 ここで、請求項2の「ここで、M1は、Mnであり」との記載や本件明細書の【0117】でのリチウム複合酸化物の製造に係る「実施例1」の「まず、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、および硫酸マンガンを準備し、共沈反応を行って前駆体を合成し、合成された前駆体にLiOHを添加した後、焼成して、リチウム複合酸化物を製造した。」との記載等を考慮すると、訂正前の請求項1の上記の記載中の「マグネシウム(Mn)」は、マンガン(Mn)を意味していると解されるところ、Mnに対して、「マグネシウム」との記載がなされているから、請求項1の上記の記載は、不明確である。 訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~9の記載も同様である。 (イ)上記(ア)の理由に対する判断 本件訂正により、「マグネシウム(Mn)」が「マンガン(Mn)」と訂正されることにより、請求項2及び本件明細書の【0117】等の記載より、訂正前の請求項1の「マグネシウム(Mn)」は、マンガン(Mn)を意味しているとの当業者の理解に整合するものとなった。 そうすると、訂正後の請求項1には、上記アの点での不明確な記載はなく、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~9についても同様である。 イ 訂正前の請求項2~5、9の記載に対して (ア)取消理由の内容 訂正前の請求項2には、請求項1の記載を引用した上で、「LiwNi1-(x+y+z)CoxM1yM2zO2 [化学式1](ここで、M1は、Mnであり、M2は・・・0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.50、0≦y≦0.20、0≦z≦0.20である。)」との記載がある。 ここで、訂正前の請求項1に、「リチウムの吸蔵および放出が可能で少なくともニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mn)を含む一次粒子」と記載されているとおり、訂正前の請求項1に記載のリチウム複合酸化物は、Co、M1であるMnを必ず含むものであるところ、訂正前の請求項2の「Co」、「M1であるMn」のモル比を示す「0≦x≦0.50、0≦y≦0.20」との記載は、x、yがそれぞれ0の場合を含み、訂正前の請求項1の記載と整合がとれず、不明確である。 訂正前の請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3~5、9の記載も同様である。 (イ)上記(ア)の理由に対する判断 本件訂正により、訂正前の請求項2の「Co」、「M1であるMn」のモル比を示す「0≦x≦0.50、0≦y≦0.20」の記載は、「0<x≦0.50、0<y≦0.20」と訂正されることにより、x、yがそれぞれ0となる場合が排除され、訂正後の請求項2が引用する、Co、M1であるMnを必ず含む訂正後の請求項1の記載に整合するものとなった。 そうすると、訂正後の請求項2には、上記(ア)の点での不明確な記載はなく、訂正後の請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3~5、9についても同様である。 (2)申立理由4について ア 申立理由4の内容(特許異議申立書81頁18行~82頁12行) 本件発明1は、「R-3m空間群を有する六方格子により定義されるXRDピークにおける(104)ピークの半値幅(FWHM;deg.,2θ)の範囲が下記の数式1で表される、リチウム複合酸化物。」と規定しており、リチウム複合酸化物は、R-3m空間群を有する六方格子を有するものと解される。 一方、従属する本件発明2は、「前記一次粒子は、下記の化学式1で表される、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。 LiwNi1-(x+y+z)CoxM1yM2zO2 [化学式1] ・・・0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.50、0≦y≦0.20、0≦z≦0.20である。)」と規定し、Liの含有割合が、最大で1.5の場合まで包含している。 しかしながら、「R-3m空間群を有する六方格子」を有する化合物においては、通常リチウムの含有割合は、w=1程度であることから、w=1.5のように大幅にリチウムが過剰な範囲まで含む場合、「R-3m空間群を有する六方格子」以外の結晶構造を有するものと考えられる。 したがって、本件発明1と、本件発明2の規定は整合しておらず、不明確となる。 イ 申立理由4に対する判断 請求項2の記載からすると、請求項2は、請求項1に記載されるリチウム複合酸化物に、さらに請求項2に記載される特定事項が限定として付されるものであると解される。 すなわち、請求項2に記載されるリチウム複合酸化物は、「R-3m空間群を有する六方格子」を有する化合物であることが前提であり、この前提となる化合物(一次粒子)の組成が請求項2に記載される化学式1で表されるものと解すべきである。 そうすると、仮に、化学式1の範囲に、「R-3m空間群を有する六方格子」以外の結晶構造となる場合が含まれていたとしても、そのような場合は、請求項2の範囲からは排除されているといえるから、本件発明1と、本件発明2の規定は整合しないということはない。 (3)取消理由1及び申立理由4に関するまとめ 以上のとおり、本件特許は、請求項1~9の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、取消理由1及び申立理由4には、理由がない。 2 取消理由2及び申立理由3(サポート要件違反)について (1)取消理由2について ア 取消理由2の内容 (ア)本件発明の課題 リチウム二次電池の市場では、ニッケル系リチウム複合酸化物の使用が拡大する傾向にある(【0011】)という状況で、ニッケル系リチウム複合酸化物のうちNi rich正極活物質の寿命劣化の原因と知られたマイクロクラックの発生は、正極活物質の一次粒子のサイズに関連したものと知られ、具体的には、一次粒子のサイズが小さいほど粒子の収縮/膨張の繰り返しによるマイクロクラックの発生が抑制され得るが、一次粒子のサイズが減少すると、放電容量も一緒に減少し得ると共に、正極活物質内ニッケルの含量が増加する場合、一次粒子のサイズが小さくなって寿命特性が低下する問題点が発生することがある(【0012】)と、本件明細書には記載されている。 そして、このような問題点に対し、本件明細書の【0013】には、「本発明は、ボロン含有酸化物が存在するコーティング層を含むリチウム複合酸化物のうちニッケルのモル分率(molar ratio)とR-3m空間群を有する六方格子により定義されるXRDピークにおける(104)ピークの半値幅(FWHM;deg.,2θ)が所定の相関関係を形成するように誘導することによって、寿命および容量特性が向上した正極活物質用リチウム複合酸化物を提供することを目的とする」との記載があるが、この記載の中の寿命および容量特性の問題は、上記【0012】に記載されているようにニッケル系リチウム複合酸化物のうちNi rich正極活物質に特有なものと解すべきである。 以上を踏まえると、本件発明の課題は、ニッケル系リチウム複合酸化物のうちNi rich正極活物質において、寿命および容量特性が向上した正極活物質用リチウム複合酸化物を提供することにあるといえる。 (イ)本件発明の課題に対応する本件明細書の記載 上記アの発明の課題に対応して、本件明細書の【0016】~【0022】には、リチウムの吸蔵および放出が可能な一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含むリチウム複合酸化物であって(【0016】)、前記リチウム複合酸化物は、前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部をカバーするボロン(B)含有酸化物が存在するコーティング層を含むことができ(【0017】)、前記リチウム複合酸化物は、R-3m空間群を有する六方格子により定義されるXRDピークにおける(104)ピークの半値幅(FWHM;deg.,2θ)の範囲が下記の数式1で表される(【0018】)リチウム複合酸化物が記載されている。 -0.025≦FWHM(104)-{0.04+(q-0.6)×0.25}≦0.025 [数式1](【0019】) 前記数式1で、qは、前記一次粒子内リチウムを除いた金属元素の総モル数に対するニッケルの比率(molar ratio)であり、前記FWHM(104)は、下記の数式2で表され(【0020】)、 FWHM(104)=FWHMLi(104)-FWHMSi(220) [数式2](【0021】) 前記数式2で、前記FWHMLi(104)は、前記リチウム複合酸化物のXRD測定値で44.5±1.0°(2θ)で観測される(104)ピーク(peak)の半値幅を意味し、前記FWHMSi(220)は、Si粉末のXRD測定値で47.3±1.0°(2θ)付近で観測される(220)ピーク(peak)の半値幅を意味する(【0022】)。 そして、このようなリチウム複合酸化物を用いることにより、ニッケル系リチウム複合酸化物のうちNi rich正極活物質の場合、一次粒子のサイズが小さくするほど一次粒子内マイクロクラックの発生可能性を減少し得るが、これと共に放電容量も減少してしまう問題があったのを(【0030】)、一次粒子内マイクロクラックの発生可能性を減らすと同時に、容量特性も向上させることができた(【0031】)ことが本件明細書には記載されている。 また、前記リチウム複合酸化物は、リチウム複合酸化物のうちニッケルのモル分率(molar ratio)とR-3m空間群を有する六方格子により定義されるXRDピークにおける(104)ピークの半値幅(FWHM;deg.,2θ)が所定の相関関係を満たす場合に、寿命および容量特性が向上した正極活物質用リチウム複合酸化物となるが(【0031】)、【0080】の【表1】には、本発明の多様な実施例によるリチウム複合酸化物のうち一次粒子内のニッケルのモル分率の範囲によって変わるFWHM(104)の範囲が示されている(【0079】)。 【0080】【表1】 [図:0001406683000003.jpg] さらに、ニッケルのモル分率が0.60~0.94の範囲であり、所定のFWHMLi(104)-FWHMSi(220)の値を有する実施例1-1~4-4、比較例1-1~4-2(【0131】~【0136】【表6】)について、【0141】~【0147】には、リチウム二次電池の特性評価として、リチウム二次電池の容量(【表7】における「放電容量(mAh/g)」)および寿命特性(【表7】における「Retention@50cy(%)」)の測定を行い、ニッケルのモル分率(q)及びFWHMLi(104)-FWHMSi(220)(FWHM(104))が【0019】に記載される[数式1]を満たす実施例1-1~4-4では、放電容量(mAh/g)およびRetention@50cy(%)が良好な値を示すのに対し、比較例1-1~4-2では、少なくとも、放電容量(mAh/g)およびRetention@50cy(%)のどちらかが各実施例に対して劣る結果が記載され、これらの実施例では、ニッケルのモル分率が0.60~0.94の範囲において、ニッケル系リチウム複合酸化物が[数式1]を満足する場合には、上記(ア)の発明の課題を解決することが示されているといえる。 本件明細書の以上の記載によれば、本件発明は、ニッケル系リチウム複合酸化物のうちNi rich正極活物質を前提として、寿命および容量特性が向上した正極活物質用リチウム複合酸化物を提供するものであるといえる。そして、上記(ア)の発明の課題を解決する上で、重要であるとされるニッケル系リチウム複合酸化物におけるニッケルのモル分率とFWHM(104)の具体的な関係は、モル分率が0.60の範囲までしか記載されておらず(【表1】、【表5】)、実際、ニッケル系リチウム複合酸化物におけるニッケルのモル分率とFWHM(104)の関係を規定した[数式1]を満足する場合に、上記(ア)の発明の課題を解決できることも、モル分率が0.60の範囲までのニッケル系リチウム複合酸化物でしか示されていない。 しかも、本件明細書には、上記[数式1]を満足する場合、何故、リチウム二次電池の容量(放電容量(mAh/g))および寿命特性(Retention@50cy(%))が向上するのかについての作用機序の記載がないから、ニッケル系リチウム複合酸化物におけるニッケルのモル分率が0.60未満であっても、リチウム二次電池の容量(放電容量(mAh/g))および寿命特性(Retention@50cy(%))が向上する、すなわち、上記(ア)の発明の課題を解決するものと理解することはできない。 そうすると、上記(ア)の発明の課題を解決するには、本件明細書の記載によれば、「リチウムの吸蔵および放出が可能な一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含むリチウム複合酸化物であって、前記リチウム複合酸化物は、前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部をカバーするボロン(B)含有酸化が存在するコーティング層を含み、前記リチウム複合酸化物は、R-3m空間群を有する六方格子により定義されるXRDピークにおける(104)ピークの半値幅(FWHM;deg.,2θ)の範囲が下記の数式1(省略)で表されるリチウム複合酸化物」であることに加え、リチウム複合酸化物におけるニッケルのモル分率が0.60以上であることが肝要であるといえる。 (ウ)訂正前の特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載との対比 上記(イ)で述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと、上記(ア)の発明の課題を解決するには、訂正前の請求項1に既に特定されている事項に加え、リチウム複合酸化物におけるニッケルのモル分率が0.60以上であることが肝要であると理解されるところ、訂正前の本件発明には、この点に関する特定はなされていない。 そうすると、訂正前の本件発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。 イ 訂正後の特許請求の範囲の記載に対しての判断 上記ア(ウ)で述べたように、上記同(ア)で述べた本件発明の課題を解決するには、訂正前の本件発明1の特定に加えて、リチウム複合酸化物におけるニッケルのモル分率が0.60以上であることが必要であるところ、訂正前の本件発明(本件発明1)には、この事項が特定されていなかったため、特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件に適合していなかった。 これに対し、本件訂正により、本件発明1において、q(一次粒子内のリチウムを除いた金属元素の総モル数に対するニッケルの比率(molar ratio))が「0.60以上」であることが特定されることにより、サポート要件に適合する上で必要であった事項が、本件発明1に特定されることとなった。 そうすると、本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものであるといえる。 (2)申立理由3について 上記(1)で述べたように、本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものであるといえることから、申立理由3は、上述のサポート要件の判断を左右するものではないが、以下、念のため申立理由3についても、検討する。 ア 申立理由3の内容(特許異議申立書72頁2行~80頁17行) なお、特許異議申立書74頁10~14行に記載の理由、75頁21行~77頁10行に記載の第2の理由は上記(1)で述べた取消理由2と同旨である。 (ア)第1の理由 本件発明は、ニッケルリッチの正極活物質に関して、寿命および容量特性を向上させた正極活物質用リチウム複合酸化物を提供することを発明の課題としているものと解される。 これに対して、訂正前の本件発明の特定によれば、ニッケル、コバルト、マンガンを含む一次粒子および一次粒子が凝集した二次粒子を含み、一次粒子間の界面および二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部をカバーするボロン(B)含有酸化物が存在するコーティング層を含み、R-3m空間群を有する六方格子により定義されるXRDピークにおける(104)ピークの半値幅が所定の範囲内にあるリチウム複合酸化物であれば、あらゆる態様を包含する。 しかしながら、以下、a、bの点で、本件明細書に開示され、具体的に課題を解決できていることを確認できる一部の実施例の場合以外は、当業者が課題を解決できるように認識できるように記載された範囲を超えている。 a 本件明細書においては、「上述したように、本発明によれば、ボロン含有酸化物が存在するコーティング層を含むリチウム複合酸化物のうちモル分率(molar ratio)とR-3m空間群を有する六方格子により定義されるXRDピークにおける(104)ピークの半値幅(FWHM)が前記の表1に記載された相関関係を形成することによって、一次粒子内マイクロクラックの発生可能性を減らすと同時に、容量特性もやはり向上させることができる。」(【0083】)のような記載があるのみであり、本件発明1で規定する数式1、数式2を充足することで、各元素の含有割合等によらず、課題を解決できるのかは明らかではない。 b 本件明細書に開示された実施例、比較例のうち、例えば比較例1-1は放電容量が210.2mAh/gであるところ、実施例1-2~実施例1-4は210.1mAh/g、209.8mAh/g、209.3mAh/gであり、比較例1-1よりも劣っている(【表7】、【図8】)。また、実施例1-1は、50サイクル目の放電容量の比率が、比較例1-2と同じであり、寿命が向上していない(【表7】)。 同様に実施例3-1~実施例3-4は、比較例3-1よりも放電容量が小さくなっている(【表7】、【図12】)。実施例4-2、実施例4-4は、比較例4-1よりも放電容量が小さくなっている(【表7】、【図14】)。 すなわち、これらの実施例1-1~実施例1-4、実施例3-1~実施例3-4、実施例4-2、実施例4-4は、本件発明1の規定を充足しているにも関わらず、本件発明の課題である容量特性もしくは寿命を向上できておらず、本件発明1は課題を解決できない範囲を包含していることは明らかである。 (イ)第3の理由 本件発明1は、「リチウムの吸蔵および放出が可能で少なくともニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマグネシウム(Mn)を含む一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含み、 前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部をカバーするボロン(B)含有酸化物が存在するコーティング層を含み・・・」と規定する。 本件明細書に開示された実施例においては、「製造例1~製造例3によって製造されたリチウム複合酸化物に対するXPS分析を行ってリチウム複合酸化物の表面にコーティング層が存在するか否かを確認した。・・・【図2】~【図4】および【図6】を参照すると、製造例1~製造例4によって製造されたリチウム複合酸化物がいずれもB 1s peakを示すところ、製造例1~製造例4によって製造されたリチウム複合酸化物の表面にB含有酸化物コーティング層が形成されたことを確認することができる。 一方、【図5】を参照すると、製造例3によって製造されたリチウム複合酸化物は、Al 2p peakを追加的に示すところ、製造例3によって製造されたリチウム複合酸化物は、Al含有酸化物コーティング層を追加的に含むことを確認することができる。また、【図7】を参照すると、製造例4によって製造されたリチウム複合酸化物は、Ti 2p peakを追加的に示すところ、製造例4によって製造されたリチウム複合酸化物は、Ti含有酸化物コーティング層を追加的に含むことを確認することができる。」(【0137】、【0139】、【0140】)のように記載され、XPSにより製造されたリチウム複合酸化物を分析しているのみである。 しかしながら、XPSによる分析では二次粒子の表面にホウ素(B)が存在することは確認できるが、一次粒子間の界面にホウ素(B)が存在することを確認することは困難である。また、本件明細書に開示された実施例では、XPSによる分析は、上述のようにホウ素(B)と、本件発明7で規定するM3の元素に対して実施されており、酸化物やLiaM3bOcの形態であることまで実証されたものではない。 そうすると、本件発明1で規定する「前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部をカバーするボロン(B)含有酸化物が存在するコーティング層を含み」との構成や、本件発明7で規定する「前記コーティング層は、下記の化学式2で表される少なくとも1つの酸化物をさらに含む、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。 LiaM3bOc [化学式2]」との構成や、本件発明8の構成を充足する具体的な例は開示されていない。 そして、第1の理由等で既述のように、本件明細書の記載や、技術常識に照らしても、本件発明1等で規定する構成と、本件発明の課題を解決できることとの関係は明らかではない。 特に、本件明細書【0064】の「上述したように、本実施例によるリチウム複合酸化物は、前記一次粒子(例えば、前記一次粒子間の界面)および/または前記一次粒子が凝集して形成された二次粒子の表面のうち少なくとも一部をカバーするコーティング層を含むことによって、構造的な安定性が高くなりえる。また、このようなリチウム複合酸化物をリチウムニ次電池用正極活物質として使用することによって、寿命および容量特性を向上させることができる。」との記載によれば、コーティング層は、本件発明の課題解決のために重要な役割を有していると解される。 しかしながら、コーティング層について、本件発明1、7、8等の規定を充足する具体的な例は開示されておらず、本件発明1、7、8等の構成により課題を解決できるかは明らかではない。 そうすると、本件発明1、7、8およびこれらに従属する本件発明2~6、9は、当業者が課題を解決できることが認識できるように記載された範囲を超えており、サポート要件を充足せず、特許法第36条第6項第1号により特許を受けることができない。 (ウ)第4の理由 本件明細書の【0079】には、「下記の表1は、本発明の多様な実施例によるリチウム複合酸化物のうち一次粒子内数式3で計算されたモル分率の範囲によって変わるFWHM(104)の範囲を示した。」と記載され、さらに【0083】には、「上述したように、本発明によれば、ボロン含有酸化物が存在するコーティング層を含むリチウム複合酸化物のうちモル分率(molar ratio)とR-3m空間群を有する六方格子により定義されるXRDピークにおける(104)ピークの半値幅(FWHM)が前記の表1に記載された相関関係を形成することによって、一次粒子内マイクロクラックの発生可能性を減らすと同時に、容量特性もやはり向上させることができる。」と記載されている。 しかしながら、表1の例えばモル分率の範囲「0.87~0.89」においてモル分率の最大値「0.89」、FWHM(104)の最小値「0.083」を、本件発明1で規定する数式1 に代入すると「-0.0295」となり、数式1の範囲外となる。 また、モル分率の範囲「0.87~0.89」においてモル分率の最小値「0.87」とFWHM(104)の最大値「0.137」を、本件発明1で規定する数式1に代入すると「0.0295」となり、この場合も数式1の範囲外となる。 同様に表1中の他のモル分率の範囲においてもモル分率の最大値とFWHM(104)の最小値を式1に代入すると、数式1の範囲外となる。 したがって、本件発明1は、特許権者が本件明細書において実施例であると主張する範囲と整合するものではなく、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できるように記載された範囲を超えているといえる。 イ 申立理由3に対する判断 (ア)上記ア(ア)の第1の理由について a aの理由について 上記aの理由は、特に数式1を充足するニッケル、コバルトおよびマンガンを含むリチウム複合酸化物の各元素の割合の範囲全てで、発明の課題を解決できなければならないことを前提としている。 しかしながら、各元素の含有について、本件発明1では、リチウム複合酸化物が「少なくともニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)を含む」こと、本件発明2では、リチウム複合酸化物が「LiwNi1-(x+y+z)CoxM1yM2zO2 [化学式1]」で表されることが特定されているのに加えて、本件発明1では、リチウム複合酸化物が「R-3m空間群を有する六方格子」であることや、「前記一次粒子内の前記リチウムを除いた金属元素の総モル数に対するニッケルの比率(molar ratio)」である「q」が「0.60以上」であることが特定されている(本件発明2も同様に特定される。)。そして、本件発明(本件発明1)において、発明の課題が解決できる範囲とは、本件発明1における他の限定要素含め、全ての特定事項により相乗的に限定される本件発明1の範囲で、発明の課題を解決できるものであるか否かを検討する必要がある。 これに対し、上記aの理由は、この点における検討を欠いている。また、上記aの理由は、「本件発明1で規定する数式1、数式2を充足することで、各元素の含有割合等によらず、課題を解決できるのかは明らかではない。」とするのみで、この理由を判断するに足る根拠が述べられていない。 b bの理由について 上記bの理由では、本件発明の課題を「容量特性もしくは寿命を向上」することとしているが、本件発明の課題は、寿命と容量特性の面でいえば、本件明細書の【0013】に記載されるように、「寿命および容量特性」を向上することである。 これを踏まえて【表7】における実施例及び比較例を参照すると、例えば、実施例1-2~実施例1-4の放電容量は、比較例1-1の放電容量より「わずかに」小さいものの、実施例1-2~実施例1-4のサイクル容量維持率(Retention@50cy)(%)は、それぞれ96.0、96.1、96.5であり、92.9である比較例1-1よりも「相当」大きな値となっている。 同様に、他の比較例をみても、放電容量又はサイクル容量維持率の一方が、実施例における値と同程度であるとしても、他方については、実施例より大きく劣る値となっていることを考慮すると、実施例は、「寿命および容量特性」の両者がともに向上していることを示すものであると解すべきであるから、本件発明の課題を解決していないものであるとすることはできない。 (イ)上記ア(イ)の第3の理由について 本件明細書の【0117】~【0120】に記載される、例えば、本件発明1の態様であるリチウム複合酸化物の製造方法である製造1に関する、「硫酸ニッケル、硫酸コバルト、および硫酸マンガンを準備し、共沈反応を行って前駆体を合成し、合成された前駆体にLiOHを添加した後、焼成して、リチウム複合酸化物を製造し」(【0117】)、「次に、前記リチウム複合酸化物に蒸留水を投入した後、1時間の間水洗し、水洗したリチウム複合酸化物を濾過した後、乾燥し」(【0119】)、「次に、ミキサーを使用して前記リチウム複合酸化物とB含有原料物質(H3BO3)と共に混合し」「焼成炉でO2雰囲気を維持しつつ、分当たり2℃で昇温して、5時間熱処理した後、自然冷却して、リチウム複合酸化物を得た」(【0120】)との記載によれば、本件発明1のリチウム複合酸化物は、リチウム複合酸化物(粒子)を製造した後、B含有原料物質(H3BO3)と共に混合し、焼成炉でO2雰囲気で熱処理するものであり、リチウム複合酸化物(粒子)の表面にB含有原料物質(H3BO3)が接触した状態でO2雰囲気の酸化条件下で熱処理されるのであるから、まずは、リチウム複合酸化物粒子の表面に、B含有酸化物が存在するコーティング層が形成されることが理解でき、そして、コーティング層が形成されると共に少なくとも一部のリチウム複合酸化物粒子には、凝集が生じるのであるから、凝集により生じたに二次粒子を構成するリチウム複合酸化物粒子(一次粒子)間の界面にも、B含有酸化物が存在するコーティング層が存在していると考えるのが合理的である。 また、上述のリチウム複合酸化物の製造方法の記載によれば、合成された前駆体(ニッケル、コバルト、およびマンガンを含む化合物)にLiOHを添加した後、焼成して、リチウム複合酸化物を製造しているのであるから、Liは、前駆体から生じる酸化物内に拡散するものの前駆体から生じる酸化物表面に多く存在していることが理解できる。そして、製造例3、4により製造されたリチウム複合酸化物のXPSでの分析の結果、少なくともAlやTiが、リチウム複合酸化物の表面に存在することは実証されているところ、本件明細書の【0117】や【0120】に記載されているような酸化条件であるO2雰囲気で熱処理すれば、存在する化合物同士で反応が生じるという技術常識を踏まえれば、製造例3、4において、添加されたAl含有原料物質(Al2O3)、Ti含有原料物質(TiO2)は、熱処理により、前述のように、リチウム複合酸化物の表面に多く存在しているLiと反応し、LiaM3bOcで表される化合物を形成することは、当業者であれば普通に理解できるところである。 さらに、本件明細書の【0122】に記載される製造例2の「最終生成されたリチウム複合酸化物のうちAlの含量が1,600ppmおよびZrの含量が1,000ppmになるように製造例1の前駆体にLiOHを混合した後、熱処理する前にAl2O3およびZrO2をさらに混合した後、熱処理したことを除いて、製造例1と同一にリチウム複合酸化物を製造した。」との記載によれば、ここで、熱処理して得られたリチウム複合酸化物は、その後、【0119】に記載されるように、B含有原料物質(H3BO3)と混合され、再び熱処理されることになる。そうすると、本件明細書に記載される製造例2の記載によれば、リチウム複合酸化物の表面に、Al2O3およびZrO2がLiOHと反応した形成された層(本件発明8の「第1酸化物層」)が形成され、さらにその上にB含有原料物質から生成したボロン(B)含有酸化物が存在する層(本件発明8の「第2酸化物層」)が形成されていることは、当業者であれば普通に理解できるところである。 そうすると、仮に、XPSによる分析により、一次粒子間の界面にホウ素(B)が存在することを確認することが困難であり、また、リチウム複合酸化物の表面にAlやTiが存在することだけしか検出していないとしても、上述したように、本件発明1で特定する「前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部をカバーするボロン(B)含有酸化物が存在するコーティング層を含み」との構成や、本件発明7で特定された「前記コーティング層は、下記の化学式2で表される少なくとも1つの酸化物をさらに含む、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。 LiaM3bOc [化学式2]」との構成や、本件発明8の構成を充足する具体的な例が、本件明細書に記載されていないということはできない。 (ウ)上記ア(ウ)の第4の理由について モル分率と半値幅(FWHM)は、それぞれ独立の変数ではなく、相互に関連がある変数であると解するのが合理的であるから、上記ア(ウ)で、数式1の範囲外となる場合として例示しているように、モル分率の範囲「0.87~0.89」において、モル分率の最大値「0.89」、FWHM(104)の最小値「0.083」を選択して、数式1の範囲内にあるか否かを考えることはできず、上記ア(ウ)に記載されている他の例についても同様である。 また、「FWHM(104)」の値は、モル分率の条件の他、【表2】~【表5】に示されているように、熱処理温度等の条件によっても変化するのであるから、表1に記載されるモル分率に対する「FWHM(104)」の範囲は、あくまで、目安と考えるべきものであり、【表1】のモル分率に対する「FWHM(104)」の範囲に数式1を充足しない場合を包含するとしても、その点で、本件発明に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たしていないことにはならない。 ウ 申立理由3に関するまとめ 以上のとおり、申立理由3に係るいずれの内容も、本件発明に係る特許請求の範囲の記載のサポート要件を否定する理由とはならない。 3 申立理由1及び申立理由2(新規性欠如及び進歩性欠如)について (1)甲1~5に記載された事項 ア 甲1に記載された事項 (ア)「【請求項1】 少なくとも層状の結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解液二次電池用正極活物質であって、 前記リチウム遷移金属複合酸化物は、粒子であるとともに、少なくとも前記粒子の表面にホウ酸リチウムを有する、非水電解液二次電池用正極活物質。・・・ 【請求項4】 前記リチウム遷移金属複合酸化物の(104)面の垂線方向の結晶子径は400~1000Åである請求項1~3のいずれかに記載の非水電解液二次電池用正極括物質。 【請求項5】 前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式LixNiyCozX(1-y-z)Ow(式中、XはAlまたはMnを表し、xは0.95≦x≦1.10を満たす数を表し、yは0.1≦y≦0.9を満たす数を表し、zは0.1≦z≦0.9を満たす数を表し、wは1.8≦w≦2.2を満たす数を表す。)で表される請求項1~4のいずれかに記載の非水電解液二次電池用正極活物質。」 (イ)「【0007】 【発明が解決しようとする課題】 したがって、本発明は、熱安定性に優れる非水電解液二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。 【0008】 【課題を解決するための手段】 本発明者は、正極活物質に用いられる層状の結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面に、特定量のホウ酸リチウムを存在させることにより、該正極活物質を用いた非水電解液二次電池の熱安定性が極めて優れたものになることを見出し、本発明を完成させた。」 (ウ)「【0022】 リチウム遷移金属複合酸化物は、(104)面の垂線方向の結晶子径が400Å以上であるのが好ましく、600Å以上であるのがより好ましい。上記範囲であると、結晶構造が安定になり、その結果、熱安定性が優れたものとなり、また、放電容量が大きくなる。また、リチウム遷移金属複合酸化物は、(104)面の垂線方向の結晶子径が1000Å以下であるのが好ましく、900Å以下であるのがより好ましい。上記範囲であると、結晶性および組成均一性が高くなりすぎることがないため、過充電時においても、正極括物質の分解反応が一気に起こり電池の発火が生じるということがない。 【0023】 ここで、「結晶子」は、単結晶を意味し、「(104)面の垂線方向の結晶子径」は、結晶子の(104)面の垂線方向の長さを意味する。したがって、結晶子径が大きいほど、結晶性に優れ、結晶構造の歪みが少ないことになる。なお、本発明に用いられるような、層状の結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物においては、(104)面の垂線方向の結晶子径により、単位格子の配列の規則性の程度を示すことができる。 【0024】 リチウム遷移金属複合酸化物の(104)面の垂線方向の結晶子径は、例えば、X線回折法により求めることができる。X線回折法で求められた(104)面に起因する回折ピークより、下記式(1)で表されるシェラーの式によって、結晶子径が算出される。 【0025】 D=Kλ/(βcosθ) (1) 【0026】 上記式中、Dは結晶子の大きさ(Å)を表し、Kはシェラー定数(βを積分幅より算出した場合は、1.05)を表し、λはX線源の波長(CuKα1の場合は、1.540562Å)を表し、βは結晶子の大きさによる回折線の広がりの幅(radian)を表し、θは回折角(degree)を表す。」 (エ)「【0032】 本発明に用いられるホウ酸リチウムは、特に限定されないが、メタホウ酸リチウム(LiBO2)、四ホウ酸リチウム(Li2B4O7)、五ホウ酸リチウム(LiB5O8)およびペルオクソホウ酸リチウム(Li2B2O5)からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。中でも、工業的に安定して生産されており、かつ、安価である点で、四ホウ酸リチウムが好ましい。 【0033】 本発明の正極活物質は、比表面積が0.2m2/g以上であるのが好ましく、0.3m2/g以上であるのがより好ましく、0.4m2/g以上であるのが更に好ましい。上記範囲であると、正極活物質においてリチウムイオンを脱挿入する面積が十分に大きくなるため、界面抵抗が小さくなり、優れた負荷特性が得られる。」 (オ)「【0048】 【実施例】 以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。 1.正極活物質の作製 (実施例1~6) 硫酸コバルト、硫酸ニッケルおよび硫酸マンガンを含有する水溶液に、炭酸水素アンモニウム水溶液を加えて沈殿させ、コバルト、ニッケルおよびマンガンの炭酸塩の沈殿物を得た。この液をろ過して沈殿物を採取し、採取した沈殿物を水洗し、乾燥させた後、炭酸リチウムおよび種々の量の四ホウ酸リチウムと混合させた。得られた混合物を大気雰囲気中で900℃で11時間焼成した。得られた焼成物を乳鉢を用いて粉砕し、正極活物質を得た。 【0049】 (比較例1) 四ホウ酸リチウムを用いなかった以外は、実施例1~6と同様の方法により、正極活物質を得た。 【0050】 2.正極活物質の性状 (1)正極活物質の構成 実施例1~6および比較例1で得られた正極活物質について、ICP分光分析法を行った。実施例1~6で得られた正極活物質は、Li1.00Ni0.33Co0.34Mn0.33O2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面にホウ酸リチウムを有するものであった。リチウム遷移金属複合酸化物とホウ酸リチウムの合計に対するホウ酸リチウムの量は、第1表に示すとおりであった。また、比較例1で得られた正極活物質は、Li1.00Ni0.33Co0.34Mn0.33O2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物であった。 ・・・ 【0053】(3)正極活物質のリチウム遷移金属複合酸化物の(104)面の垂線方向の結晶子径得られた正極活物質についてX線回折法を行った。X線回折法は、X線回折装置(RINT2500V、理学電気社製)を用い、X線源としてCuKα1を用い、管電流100mA、管電圧40kVの条件で行った。X線回折法により得られたX線回折パターンを基に、上記式(1)で表されるシェラーの式から、正極活物質のリチウム遷移金属複合酸化物の(104)面の垂線方向の結晶子径を求めた。正極活物質の結晶子径は、いずれも800Åであった。」 イ 甲2に記載された事項 (ア)「【請求項1】 リチウム(Li)と、コバルト(Co)とを少なくとも含む複合酸化物粒子と、 該複合酸化物粒子の少なくとも一部に設けられ、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなる被覆層と、 この被覆層の少なくとも一部に設けられ、ホウ素(B)を含む表面層と、 を備えることを 特徴とする正極活物質。 (イ)「【0050】 [被覆層] 被覆層は、複合酸化物粒子の少なくとも一部に設けられ、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)のうちの少なくとも一方の被覆元素とを含む酸化物よりなるものである。この被覆層を設けることによって、高充電電圧性と、これに伴う高エネルギー密度性とを実現でき、且つ、高充電電圧条件下での高容量の充放電サイクル特性を向上できる。 【0051】 被覆層におけるニッケル(Ni)とマンガン(Mn)の構成比としては、モル比で100:0~30:70の範囲内であることが好ましく、100:0~40:60の範囲内であることがより好ましい。マンガン(Mn)の量がこの範囲を超えて増加すると、リチウム(Li)の吸蔵性が低下し、最終的に、正極活物質の容量の低下、および電池に用いた際の電気抵抗の増大の要因となるからである。また、このニッケル(Ni)とマンガン(Mn)の構成比の範囲は、リチウム(Li)を加えた前駆体の焼成において、粒子間の焼結の進行を抑制する、より有効性を示す範囲である。 【0052】 また、被覆層の酸化物におけるニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)を、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、タングステン(W)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素で置き換えることができる。 【0053】 これにより、正極活物質の安定性の向上、およびリチウムイオンの拡散性を向上できる。なお、選択された金属元素の置換量は、例えば、被覆層の酸化物のニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)の総量の40モル%以下であるが、好ましくは30モル%以下であり、より好ましくは20モル%以下である。この範囲を超えて、選択された金属元素の置換量が増加すると、リチウム(Li)の吸蔵性が低下し、正極活物質の容量の低下となるからである。 【0054】 また、被覆層の量は、例えば、複合酸化物粒子の0.5重量%~50重量%であり、好ましくは、1.0重量%~40重量%であり、より好ましくは、2.0重量%~35重量%である。この範囲を超えて金属酸化物の被覆重量が増加すると、正極活物質の容量の低下となるからである。この範囲より金属酸化物の被覆重量が低下すると、正極活物質の安定性の低下となるからである。【0055】[表面層] 表面層は、被覆層の少なくとも一部に設けられ、ホウ素(B)を含むものである。」 ウ 甲3に記載された事項 (ア)「請求の範囲 [請求項1] 層状構造を有するNi含有リチウム遷移金属酸化物(Ni≧80mol%)と、ホウ酸リチウムとを含み、 前記Ni含有リチウム遷移金属酸化物は一次粒子が凝集した二次粒子から構成され、 前記ホウ酸リチウムは前記一次粒子表面に付着しており、前記Ni含有リチウム遷移金属酸化物中のリチウムを除く金属元素の総モル量に対するホウ酸リチウムの割合bは、ホウ素元素換算で、0mol%<b≦0.5mol%の範囲であり、 前記二次粒子中の空隙率hは、2%<h<6%の範囲である、非水電解質二次電池用正極活物質。 ・・・ [請求項4] 前記Ni含有リチウム遷移金属酸化物は、X線回折により得られたX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式により算出された結晶子サイズsが、300Å≦s≦700Åの範囲である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。」 (イ)「[0005] ところで、ニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を正極活物質として使用する場合、ニッケル含有量の増加に伴い、充放電容量は増加するものの、直流抵抗値が高くなっていくという問題がある。特に低SOC領域(例えばSOC30%以下)の直流抵抗値が高くなる場合がある。 [0006] そこで、本開示は、Ni含有量の高いニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を含有していながら、直流抵抗値を低減させることが可能な非水電解質二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。 ・・・ [0008] 本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質によれば、Ni含有量の高いニッケル含有リチウム遷移金属酸化物を含有していながら、直流抵抗値を低減させることが可能となる。」 (ウ)「[0013] 非水電解質二次電池用正極活物質は、層状構造を有する、Ni含有リチウム遷移金属酸化物(Ni≧80mol%)を含む。Ni含有リチウム遷移金属酸化物(Ni≧80mol%)とは、当該遷移金属酸化物中のリチウムを除く金属元素の総モル量に対してNiの割合が80モル%以上であるものを意味している。以下、Ni含有リチウム遷移金属酸化物(Ni≧80mol%)を高Ni含有リチウム遷移金属酸化物と称する場合がある。 [0014] 高Ni含有リチウム遷移金属酸化物の層状構造は、例えば、空間群R-3mに属する層状構造、空間群C2/mに属する層状構造等が挙げられる。これらの中では、結晶構造の安定性、高容量化等の点で、空間群R-3mに属する層状構造であることが好ましい。 [0015] 高Ni含有リチウム遷移金属酸化物は、上記の通りNiの割合が80モル%以上であれば特に制限されるものではないが、例えば、以下の組成式で表されるNi含有リチウム遷移金属酸化物であることが好ましい。 [0016] LixNiyCoαMβO2-γ (1) 式中、x、y、α、β、及びγはそれぞれ、0.95<x<1.05、0.80≦y<1、0<α<0.15、0<β<0.05、y+α+β=1、及び0≦γ<0.05を満たす。また、式中Mは、結晶構造内に存在するNi、Co以外の添加金属元素であり、例えば、Al、Mg、Si、Ge、Sn、Mo、Ti、W、Nb、Zr、Cr、MnおよびFeから選ばれる1種以上の元素等が挙げられる。なお、組成式(1)においては、Ni、Co及びMの総量を1モルとして、即ち、y+α+β=1として、各元素のモル存在比を示している。 ・・・ [0024] 非水電解質二次電池用正極活物質は、高Ni含有リチウム遷移金属酸化物の一次粒子表面に付着したホウ酸リチウムを含む。高Ni含有リチウム遷移金属酸化物中のリチウムを除く金属元素の総モル量に対するホウ酸リチウムの割合bは、ホウ素元素換算で、0mol%<b≦0.5mol%範囲であり、好ましくは0.3mol%≦b≦0.5mol%の範囲である。既述したように、一次粒子表面にホウ酸リチウムを付着させることにより、リチウムイオン伝導性が向上し、直流抵抗の低減が可能となる。一方、ホウ酸リチウムの固着量が多すぎると、すなわち、bが0.5mol%超であると、例えば、電池容量の低下につながる場合がある。 [0025] ホウ酸リチウムは、例えば、Li3BO3、Li2B4O7、LiBO2などが挙げられる、これらのうちでは、一次粒子への付着性、リチウムイオンの拡散性等の点で、Li3BO3が好ましい。」 (エ)「[0031] ・・・ [X線回折パターン] ・・・ 高Ni含有リチウム遷移金属酸化物は、上記X線回折によって得られたX線回折パターンにおける(104)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式(Scherrer equation)により算出される結晶子サイズsが、300Å≦s≦700Åであることが好ましい。シェラーの式は、下式(2)で表される。 [0032] D=Kλ/Bcosθ (2) 式(2)において、Dは結晶子サイズ、λはX線の波長、Bは(104)面の回折ピークの半値全幅、θは回折角(rad)、KはScherrer定数である。本実施形態においてKは0.9とする。 [0033] 高Ni含有リチウム遷移金属酸化物の結晶子サイズsが300Åより小さいと、結晶性が低下して、耐久性が低下する場合がある。また、高Ni含有リチウム遷移金属酸化物の結晶子サイズsが700Åを越えると、レート特性が低下する場合がある。」 (オ)「[0060] <実施例1> [正極活物質(高Ni含有リチウム遷移金属酸化物)の調製] Ni0.88Co0.09Al0.03(OH)2の組成式で表されるニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を共沈により得た後、500℃で熱処理して複合酸化物を調製した。次に、LiOH、当該複合酸化物及びH3BO3を、Li、遷移金属(Ni、Co及びAl)の合計量及びBのモル比が1.04:1:0.01となる量で混合した。その後、当該混合物を酸素気流中670℃で1時間焼成し、760℃で3時間焼成する二段階焼成を行った後、水洗により不純物を除去した。ICP発光分光分析装置(Thermo Fisher Scientific社製、商品名「iCAP6300」)を用いて、上記得られた高Ni含有リチウム遷移金属酸化物の組成を測定した。その結果、組成式Li0.95Ni0.88Co0.09Al0.03O2にホウ酸リチウムが0.1mol%付着した高Ni含有リチウム遷移金属酸化物が得られたことを確認した。これを実施例1の正極活物質とした。 ・・・ [0064] <実施例2> 正極活物質の調製において、LiOH、上記複合酸化物及びH3BO3を、Li、遷移金属(Ni、Co及びAl)の合計量及びBのモル比が1.1:1:0.03となる量で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、組成式Li0.96Ni0.88Co0.09Al0.03O2にホウ酸リチウムが0.3mol%付着した高Ni含有リチウム遷移金属酸化物を得た。これを実施例2の正極活物質として、実施例1と同様に非水電解質二次電池(試験セルA2)を作製した。 [0065] <実施例3> 正極活物質の調製において、LiOH、上記複合酸化物及びH3BO3を、Li、遷移金属(Ni、Co及びAl)の合計量及びBのモル比が1.15:1:0.03となる量で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、組成式Li0.97Ni0.88Co0.09Al0.03O2にホウ酸リチウムが0.3mol%付着した高Ni含有リチウム遷移金属酸化物を得た。これを実施例3の正極活物質として、実施例1と同様に非水電解質二次電池(試験セルA3)を作製した。 [0066] <実施例4> 正極活物質の調製において、LiOH、上記複合酸化物及びH3BO3を、Li、遷移金属(Ni、Co及びAl)の合計量及びBのモル比が1.1:1:0.05となる量で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、組成式Li0.95Ni0.88Co0.09Al0.03O2にホウ酸リチウムが0.5mol%付着した高Ni含有リチウム遷移金属酸化物を得た。これを実施例4の正極活物質として、実施例1と同様に非水電解質二次電池(試験セルA4)を作製した。 [0067] <実施例5> 正極活物質の調製において、LiOH、上記複合酸化物及びH3BO3を、Li、遷移金属(Ni、Co及びAl)の合計量及びBのモル比が1.15:1:0.05となる量で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、組成式Li0.97Ni0.88Co0.09Al0.03O2にホウ酸リチウムが0.5mol%付着した高Ni含有リチウム遷移金属酸化物を得た。これを実施例5の正極活物質として、実施例1と同様に非水電解質二次電池(試験セルA5)を作製した。 [0068] <比較例1> 正極活物質の調製において、H3BO3を使用せず、LiOH及び上記複合酸化物を、Li及び遷移金属(Ni、Co及びAl)の合計量が1.03:1となる量で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、組成式Li0.95Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表される高Ni含有リチウム遷移金属酸化物を得た。これを比較例1の正極活物質として、非水電解質二次電池(試験セルB1)を作製した。 [0069] <比較例2> 正極活物質の調製において、H3BO3を使用せず、LiOH及び上記複合酸化物を、Li及び遷移金属(Ni、Co及びAl)の合計量が1.1:1となる量で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、組成式Li0.98Ni0.88Co0.09Al0.03O2で表される高Ni含有リチウム遷移金属酸化物を得た。これを比較例2の正極活物質として、非水電解質二次電池(試験セルB2)を作製した。 [0070] <比較例3> 正極活物質の調製において、LiOH、上記複合酸化物及びH3BO3を、Li、遷移金属(Ni、Co及びAl)の合計量及びBのモル比が1.03:1:0.05となる量で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、組成式Li0.84Ni0.88Co0.09Al0.03O2にホウ酸リチウムが0.5mol%付着した高Ni含有リチウム遷移金属酸化物を得た。これを比較例3の正極活物質として、非水電解質二次電池(試験セルB3)を作製した。 ・・・ [0073] [直流抵抗値の測定] 上記で作製した電池容量30mAh程度の試験セルA1~A5(実施例1~5)及び試験セルB1~B3(比較例1~3)をそれぞれ用いて、25℃の温度条件下、所定のSOC状態になるまで電流値3mAで定電流充電を行い、次いで、電流値が0.3mAになるまで定電圧充電を行った。その後、2時間の休止後、6mAで15秒間電流を流し、その時の電圧変化をΔVとした。そのΔVの値を電流値で割り直流抵抗値を求めた。 [0074] 表1に、各実施例及び比較例のホウ酸リチウムの含有量(ホウ素元素換算)、二次粒子の空隙率、及び各SOC状態での直流抵抗値の結果をまとめた。二次粒子の空隙率の測定方法は前述した通りである。 [0075][表1] [図:0001406683000004.jpg] [0076] 実施例1~5は、比較例1~3と比較して、直流抵抗値が低い値となった。この結果から、高Ni含有リチウム遷移金属酸化物の一次粒子の表面に所定量のホウ酸リチウムを付着させ、二次粒子の空隙率hを2%<h<6%の範囲とすることで、直流抵抗値を低減させることが可能であると言える。」 エ 甲4に記載された事項 (ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、微粒子、殊に平均長軸径が0.05~0.15μmであるにもかかわらず適度な保磁力を有すると共に、分散性及び酸化安定性が良好であって、しかも優れた保磁力分布を有する鉄を主成分とする紡錘状金属磁性粒子粉末に関するものである。」 (イ)「【0111】各粒子粉末の結晶子サイズは、X線回折法で測定される結晶粒子の大きさを、各粒子の結晶面のそれぞれに垂直な方向における結晶粒子の厚さを表したものであり、各結晶面についての回折ピーク曲線から、下記のシェラーの式を用いて計算した値で示したものである。 【0112】結晶子サイズ=Kλ/βcosθ 但し、β=装置に起因する機械幅を補正した真の回折ピークの半値幅(ラジアン単位) K=シェラー定数(=0.9) λ=X線の波長(Cu Kα線 0.1542nm) θ=回折角(各結晶面の回折ピークに対応)」 オ 甲5に記載された事項 (ア)「【請求項1】 組成式:LiaNibCocMndO2 (前記式において、1.00≦a≦1.02、0.85≦b≦0.9、0.07≦c≦0.12、0.01≦d≦0.05、b+c+d=1)で表され、 比表面積をα(m2/g)、1500回タップ密度をβ(g/cc)、10%体積径(D10)をγ(μm)としたときに、α×β×γが3~6であり、一次粒子のアスペクト比が1~4であるリチウムイオン電池用正極活物質。」 (2)甲1、甲3に記載された発明 ア 甲1に記載された発明 上記(1)ア(ア)には、請求項1を引用する請求項4をさらに引用する請求項5として、「少なくとも層状の結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解液二次電池用正極活物質であって、 前記リチウム遷移金属複合酸化物は、粒子であるとともに、少なくとも前記粒子の表面にホウ酸リチウムを有し、 前記リチウム遷移金属複合酸化物の(104)面の垂線方向の結晶子径は400~1000Åであり、 前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式LixNiyCozX(1-y-z)Ow(式中、XはAlまたはMnを表し、xは0.95≦x≦1.10を満たす数を表し、yは0.1≦y≦0.9を満たす数を表し、zは0.1≦z≦0.9を満たす数を表し、wは1.8≦w≦2.2を満たす数を表す。)で表される非水電解液二次電池用正極活物質。」が記載されているといえる。 この「非水電解液二次電池用正極活物質」に関する記載を、「リチウム遷移金属複合酸化物」に着目して記載し直すと、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「非水電解液二次電池用正極活物質に含まれる少なくとも層状の結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物であって、 前記リチウム遷移金属複合酸化物は、粒子であるとともに、少なくとも前記粒子の表面にホウ酸リチウムを有し、 前記リチウム遷移金属複合酸化物の(104)面の垂線方向の結晶子径は400~1000Åであり、 前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式LixNiyCozX(1-y-z)Ow(式中、XはAlまたはMnを表し、xは0.95≦x≦1.10を満たす数を表し、yは0.1≦y≦0.9を満たす数を表し、zは0.1≦z≦0.9を満たす数を表し、wは1.8≦w≦2.2を満たす数を表す。)で表される、リチウム遷移金属複合酸化物。」 イ 甲3に記載された発明 甲3の上記(1)ウ(ア)には、請求項1を引用する請求項4として、「層状構造を有するNi含有リチウム遷移金属酸化物(Ni≧80mol%)と、ホウ酸リチウムとを含み、 前記Ni含有リチウム遷移金属酸化物は一次粒子が凝集した二次粒子から構成され、 前記ホウ酸リチウムは前記一次粒子表面に付着しており、前記Ni含有リチウム遷移金属酸化物中のリチウムを除く金属元素の総モル量に対するホウ酸リチウムの割合bは、ホウ素元素換算で、0mol%<b≦0.5mol%の範囲であり、 前記二次粒子中の空隙率hは、2%<h<6%の範囲であり、 前記Ni含有リチウム遷移金属酸化物は、X線回折により得られたX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式により算出された結晶子サイズsが、300Å≦s≦700Åの範囲である、非水電解質二次電池用正極活物質。」が記載されているといえる。 ここで、上記同(ウ)の[0015]、[0016]の記載によれば、甲3のNi含有リチウム遷移金属酸化物は、以下の組成式を有することが理解できる。 「LixNiyCoαMβO2-γ (1) 式中、x、y、α、β、及びγはそれぞれ、0.95<x<1.05、0.80≦y<1、0<α<0.15、0<β<0.05、y+α+β=1、及び0≦γ<0.05を満たす。また、式中Mは、結晶構造内に存在するNi、Co以外の添加金属元素であり、例えば、Al、Mg、Si、Ge、Sn、Mo、Ti、W、Nb、Zr、Cr、MnおよびFeから選ばれる1種以上の元素等が挙げられる。」 また、上記のNi含有リチウム遷移金属酸化物が有する「層状構造」とは、[0014]の「高Ni含有リチウム遷移金属酸化物の層状構造は、例えば、空間群R-3mに属する層状構造、空間群C2/mに属する層状構造等が挙げられる。これらの中では、結晶構造の安定性、高容量化等の点で、空間群R-3mに属する層状構造であることが好ましい。」との記載によれば、「空間群R-3mに属する層状構造」の場合を理解できる。 以上の記載を踏まえ、上記の請求項1を引用する請求項4の「非水電解質二次電池用正極活物質」に関する記載を、「Ni含有リチウム遷移金属酸化物」に着目して記載し直すと、甲3には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。 「ホウ酸リチウムと共に、非水電解質二次電池用正極活物質に含まれる、空間群R-3mに属する層状構造を有するNi含有リチウム遷移金属酸化物(Ni≧80mol%)であって、 前記Ni含有リチウム遷移金属酸化物は一次粒子が凝集した二次粒子から構成され、 前記ホウ酸リチウムは前記一次粒子表面に付着しており、前記Ni含有リチウム遷移金属酸化物中のリチウムを除く金属元素の総モル量に対するホウ酸リチウムの割合bは、ホウ素元素換算で、0mol%<b≦0.5mol%の範囲であり、 前記二次粒子中の空隙率hは、2%<h<6%の範囲であり、 前記Ni含有リチウム遷移金属酸化物は、X線回折により得られたX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式により算出された結晶子サイズsが、300Å≦s≦700Åの範囲であり、 以下の組成式を有する、Ni含有リチウム遷移金属酸化物。 LixNiyCoαMβO2-γ (1) 式中、x、y、α、β、及びγはそれぞれ、0.95<x<1.05、0.80≦y<1、0<α<0.15、0<β<0.05、y+α+β=1、及び0≦γ<0.05を満たす。また、式中Mは、結晶構造内に存在するNi、Co以外の添加金属元素であり、例えば、Al、Mg、Si、Ge、Sn、Mo、Ti、W、Nb、Zr、Cr、MnおよびFeから選ばれる1種以上の元素等が挙げられる。」 (3)申立理由1について ア 本件発明1について (ア)対比 以下、本件発明1と甲1発明を対比する。 a 甲1に記載される「非水電解液二次電池用正極活物質」の主体は、「リチウム遷移金属複合酸化物」であるところ、甲1の上記(1)ア(エ)の【0033】の「本発明の正極活物質は、比表面積が・・・0.4m2/g以上であるのが更に好ましい。上記範囲であると、正極活物質においてリチウムイオンを脱挿入する面積が十分に大きくなるため、界面抵抗が小さくなり、優れた負荷特性が得られる。」との記載によれば、甲1発明の「リチウム遷移金属複合酸化物」は、リチウムイオンを脱挿入するものであり、この「リチウムイオンを脱挿入」は、本件発明1の「リチウムの吸蔵および放出」に相当する。 また、甲1発明における「リチウム遷移金属複合酸化物」は、「一般式LixNiyCozX(1-y-z)Ow(式中、XはAlまたはMnを表し、xは0.95≦x≦1.10を満たす数を表し、yは0.1≦y≦0.9を満たす数を表し、zは0.1≦z≦0.9を満たす数を表し、wは1.8≦w≦2.2を満たす数を表す。)で表され」るもので、一般式のXがMnの場合、Ni、Co及びMnを少なくとも含むものである。 さらに、甲1発明において、「リチウム遷移金属複合酸化物は、粒子である」ところ、粒子は、一次粒子のみ、又は一次粒子が凝集した二次粒子のみを得るための特別な工程を経なければ、一次粒子及び二次粒子の集合体となることは技術常識であり、甲1発明の具体的な実施例である甲1の上記同(オ)の【0048】に記載される「正極活物質の作製」を見ても、特段どちらかの粒子を得るための特別な工程は経ていないから、甲1発明における「粒子」は、「一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含」むものであるといえる。 そうすると、甲1発明の「一般式LixNiyCozX(1-y-z)Ow(式中、XはAlまたはMnを表し、xは0.95≦x≦1.10を満たす数を表し、yは0.1≦y≦0.9を満たす数を表し、zは0.1≦z≦0.9を満たす数を表し、wは1.8≦w≦2.2を満たす数を表す。)で表され」、「粒子である」「リチウム遷移金属複合酸化物」は、本件発明1の「リチウムの吸蔵および放出が可能で少なくともニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)を含む一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含」む「リチウム複合酸化物」に相当する。 b 甲1発明の「ホウ酸リチウム」は、甲1の上記(1)ア(エ)の【0032】の「本発明に用いられるホウ酸リチウムは、特に限定されないが、メタホウ酸リチウム(LiBO2)、四ホウ酸リチウム(Li2B4O7)、五ホウ酸リチウム(LiB5O8)およびペルオクソホウ酸リチウム(Li2B2O5)からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。」との記載によれば、酸化物であり、本件発明1の「ボロン(B)含有酸化物」に相当する。 そして、上記aで述べたように、甲1発明における「粒子」は、「一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含」むものであるといえるところ、甲1発明の粒子の表面にホウ酸リチウムが存在していれば、少なくとも、一次粒子が凝集した二次粒子の表面には、ホウ酸リチウムが存在していることになる。 そうすると、甲1発明の「粒子であるとともに、少なくとも前記粒子の表面にホウ酸リチウムを有」する「リチウム遷移金属複合酸化物」は、本件発明1の「前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部をカバーするボロン(B)含有酸化物が存在するコーティング層を含」む「リチウム複合酸化物」に相当する。 c 以上によれば、本件発明1は甲1発明と、「リチウムの吸蔵および放出が可能で少なくともニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)を含む一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含み、前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部をカバーするボロン(B)含有酸化物が存在するコーティング層を含む、リチウム複合酸化物。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点1> 本件発明1は、「R-3m空間群を有する六方格子により定義されるXRDピークにおける(104)ピークの半値幅(FWHM;deg.,2θ)の範囲が下記の数式1で表される、リチウム複合酸化物。 -0.025≦FWHM(104)-{0.04+(q-0.6)×0.25}≦0.025 [数式1] 前記数式1で、qは、前記一次粒子内の前記リチウムを除いた金属元素の総モル数に対するニッケルの比率(molar ratio)で、0.60以上であり、前記FWHM(104)は、下記の数式2で表され、 FWHM(104)=FWHMLi(104)-FWHMSi(220) [数式2] 前記数式2で、 前記FWHMLi(104)は、リチウム複合酸化物のXRD測定値で44.5±1.0°(2θ)で観測される(104)ピーク(peak)の半値幅を意味し、 前記FWHMSi(220)は、Si粉末のXRD測定値で47.3±1.0°(2θ)付近で観測される(220)ピーク(peak)の半値幅を意味する。」との条件(以下、「数式1の条件」ということがある。)を充足するものであるのに対し、甲1発明は、「数式1の条件」を充足するものであるのか明らかでない点。 (イ)上記相違点1に対する判断 上記相違点1について、以下検討する。 a 甲1には、「数式1の条件」に関し何らの記載もないし、甲1の記載から「数式1」はもちろんのこと、「数式1の条件」を想起し得るような示唆もない。 さらに検討すると、「数式1」は、リチウム複合酸化物のXRD測定値で44.5±1.0°(2θ)で観測される(104)ピーク(peak)の半値幅に関係するが、この「(104)ピーク」は、R-3m空間群を有する六方格子によるものである。また、数式1におけるqが、「前記一次粒子内の前記リチウムを除いた金属元素の総モル数に対するニッケルの比率(molar ratio)」(以下、単に「ニッケルの比率」とする。)が、「0.60以上」とされていることから、「数式1」は、リチウム複合酸化物が、「R-3m空間群を有する六方格子」であること、及び「ニッケルの比率」が「0.60以上」であるものを前提としているといえる。 一方、甲1発明のリチウム遷移金属複合酸化物は、少なくとも層状の結晶構造を有するものであるが、例えば、甲3の上記(1)ウ(ウ)の[0014]の「高Ni含有リチウム遷移金属酸化物の層状構造は、例えば、空間群R-3mに属する層状構造、空間群C2/mに属する層状構造等が挙げられる。」との記載によれば、層状の結晶構造には、空間群R-3mに属する層状構造の他に、空間群C2/mに属する層状構造等もあり、必ずしもR-3m空間群を有する六方格子といえるものではない。 また、ニッケルの比率についても、甲1発明は、「一般式LixNiyCozX(1-y-z)Ow」において、ニッケルの比率を表すyが「0.1≦y≦0.9」とされ、ニッケルの比率として幅広い範囲を含むものである。しかも、甲1の上記(1)ア(オ)に記載される、甲1発明のリチウム遷移金属複合酸化物の具体例は、「Li1.00Ni0.33Co0.34Mn0.33O2」(【0050】)であって、本件発明1のqで表すと、0.33であるから、甲1発明のリチウム遷移金属複合酸化物のニッケルの比率は、「0.1≦y≦0.9」という広い範囲の中でむしろ低い範囲を指向しているといえる。そうすると、甲1発明は、リチウム複合酸化物が、「R-3m空間群を有する六方格子」であり、「ニッケルの比率」が「0.60以上」であるという、「数式1」の前提となる構成を備えているものとはいえないから、そもそも甲1発明において、「数式1の条件」の充足性を判断することはできないし、また、甲1発明において、「数式1の条件」を充足することが、当業者にとり容易に想到し得ることであるか否か等の判断をすることもできない。 以上のとおり、上記相違点1は、実質的な相違点であるし、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 b 上記aで述べたとおり、上記相違点1は、実質的な相違点であるし、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものとはいえないが、念のため、特許異議申立書に記載される理由に沿って、甲1発明が、「数式1の条件」を充足するか否か等について、検討する。 (a)特許異議申立書に記載される甲1発明が「式1の条件」を充足するとする理由(44頁7行~46頁20行) 甲1(甲1の上記(1)ア(ウ)の【0025】、【0026】)には、結晶子径を求める際に用いたシェラーの式が開示されており、該シェラーの式により、X線回折パターンの(104)面のピークにおける半値幅を求めることができる。 なお、甲1においては、シェラー定数Kについて、回折線の広がりの幅βを積分幅より算出した場合は1.05とされているが、回折線の広がり幅βを半値幅により求めた場合には0.9を用いるのが技術常識である(要すれば甲3の上記同ウ(エ)の[0032]、甲4の同エ(イ)の【0112】等を参照)。 甲1においては、結晶子径は400Å~1000Åが好ましいとされ(甲1の同ア(ウ)の【0022】)、この場合、上記シェラーの式により算出したX線回折パターンの(104)面のピークにおける半値幅の好適な範囲は、0.0858°~0.215°となる。 なお、上記半値幅の好適な範囲の計算は、上記シェラーの式を用い、シェラー定数として0.9を、(104)面のピークの回折角の角度θとしては、本件発明1で挙げられた2θ=44.5°から算出した、44.5÷2=22.25°を用いている。 ・・・ すなわち、本件発明1で規定する「数式1」(-0.025≦FWHM(104)-{0.04+(q-0.6)×0.25}≦0.025)と「数式2」(FWHM(104)=FWHMLi(104)-FWHMSi(220))と、本件明細書に開示された「数式4」(-0.025≦FWHMLi(104)-{0.12+(q-0.6)×0.25}≦0.025)を比較すると明らかなように、Si粉末の半値幅による補正を数式1に反映させた場合に、数式4になるものと解される。 このため、Si粉末の半値幅による補正を行っていない甲1に開示された半値幅が、本件発明1の規定を充足しているか否かは、「数式4」を充足しているか否かにより判定されるものといえる。上記判断手法は、令和3年9月16日付(起案日)の拒絶理由通知書においても採用されている。 そして、Ni比率として、甲1発明では、0.1~0.9が挙げられているからqとして上記範囲を、「数式4」に入れた場合、FWHMLi(104)-{0.12+(q-0.6)×0.25は、-0.109以上0.220以下となり、本件発明1と範囲が重複している。 なお、甲1の実施例では結晶子径が800Åの場合が開示されており(甲1の上記同ア(オ)の【0053】)、Ni比率を甲1発明で規定する0.1~0.9のうち、例えば0.6として、「数式4」に入れた場合、FWHMLi(104)-{0.12+(q-0.6)×0.25は、-0.0127となり、この場合も本件発明1の条件を充足する。 (b)上記(a)の理由に対する判断 上記(a)の主張は、要は、まず、甲1の上記(1)ア(ウ)の【0025】、【0026】の「D=Kλ/(βcosθ)(1) 上記式中、Dは結晶子の大きさ(Å)を表し、Kはシェラー定数(βを積分幅より算出した場合は、1. 05)を表し、λはX線源の波長(CuKα1の場合は、1. 540562Å)を表し、βは結晶子の大きさによる回折線の広がりの幅(radian)を表し、θは回折角(degree)を表す。」との記載において、シェラー定数Kについて、回折線の広がりの幅βを積分幅より算出した場合は1.05とされているが、回折線の広がり幅βを半値幅により求めた場合には0.9を用いるのが技術常識として、上記(1)を変形したβ=Kλ/Dcosθの、K、λ、D及びcosθにそれぞれ、0.9、1. 540562Å、400Å~1000Å及び、cos(22.25°)を代入して、半値幅の好適な範囲として、「0.0858°~0.215°」を導いている。 そして、Si粉末の半値幅による補正を行っていない甲1に開示された半値幅が、本件発明1の「数式1の条件」を充足しているか否かは、「数式4の条件」を充足しているか否かにより判定されるものといえる、すなわち、甲1に開示された半値幅が「数式4の条件」を充足していれば、本件発明1の「数式1の条件」も充足するものとし、 FWHMLi(104)として、「0.0858°~0.215°」の範囲、qとして「0.1~0.9」を式4に代入し、「FWHMLi(104)-{0.12+(q-0.6)×0.25}」が、数式上とり得る最小値と最大値の範囲を採用して、その値が「-0.109~0.220」であり、「数式4」の「-0.025~0.025」の範囲と重複しているため、甲1発明は、本件発明1の「数式1」を充足するものであるとしている。 しかしながら、甲1の上記【0025】、【0026】の記載によれば、甲1におけるDの結晶子の大きさ(Å)は、1. 05(回折線の広がりの幅)のシェラー定数を用いて計算されていると解され、この回折線の広がりの幅を用いて計算されたDの結晶子の大きさ(Å)は、半値幅を用いて計算されたDの結晶子の大きさ(Å)と同値であるとはいえないのであるから、1. 05のシェラー定数を用いて計算されたDの結晶子の大きさ(Å)を使って、シェラー定数が0.9の場合のβ(半値幅の場合)を計算することは適切でなく、0.9のシェラー定数で求めたDの結晶子の大きさ(Å)が不明である以上、甲1からはFWHMLi(104)を正確に求めることができないといえる。また、「0.0858°~0.215°」の範囲は、qとDの結晶子の大きさ(Å)が相互に無関係な変数である場合に導かれるものであるが、qとDの結晶子の大きさ(Å)が相互に無関係な変数であることを認めるに足る証拠が提出されていないし、むしろ相互に関連する変数であると解する方が合理的である。そうすると、FWHMLi(104)の値として「0.0858°~0.215°」を用いることは、甲1発明の「数式1の条件」の充足性を判断する上で前提に誤りがある。 また、「数式1」及び「数式2」において、Si粉末の半値幅の値を加味することは、本件明細書の【0075】の「特に、前記の数式1および数式2を参考にすると、本発明によるリチウム複合酸化物の半値幅(FWHM)は、XRD分析時に半値幅(FWHM)に対する測定値が分析装備のコンディション、X-rayソース、測定条件等多様な変数によって偏差が発生するので、標準試料としてSi powderの半値幅(FWHM)で補正されたことを特徴とする。」との記載によれば、XRD分析時に半値幅(FWHM)に対する測定値に対し、標準試料としてのSi powderの半値幅(FWHM)による補正を加えることにより、分析装備のコンディション、X-rayソース、測定条件等多様な変数による偏差を除外するものであるから、「数式4の条件」と「数式1の条件」が同じであるとはいえない。すなわち、「数式4の条件」を充足すれば、必ず「数式1の条件」を充足することになるとはいえない。例えば、同【0130】【表5】に記載される実施例4-4は、「FWHM(104)-{0.04+(q-0.6)×0.25}」が、0.0229(0.0629-{0.04+(0.60-0.6)×0.25})であり、「数式1の条件」は充足しているが、「FWHMLi(104)-{0.12+(q-0.6)×0.25}」は、0.0256(0.1456-{0.12+(0.60-0.6)×0.25})であり、「数式4の条件」は充足していない。また、比較例4-1は、「FWHM(104)-{0.04+(q-0.6)×0.25}」が、-0.0268(0.0132-{0.04+(0.60-0.6)×0.25})であり、「数式1の条件」を充足していないが、「FWHMLi(104)-{0.12+(q-0.6)×0.25}」は、-0.0241(0.0959-{0.12+(0.60-0.6)×0.25})であり、「数式4の条件」を充足している。 そうすると、「数式4の条件」と「数式1の条件」が同じであるとはいえず、「数式4の条件」を充足すれば、必ず「数式1の条件」を充足することになるとはいえないから、上記(a)の理由は、前提に誤りがある。 さらに、同【0146】【表7】には、実施例及び比較例における放電容量とサイクル容量維持率(Retention@50cy)が示されているところ、「数式1の条件」は、「数式4の条件」に対して、標準試料としてのSi powderの半値幅(FWHM)による補正を加えることにより、分析装備のコンディション、X-rayソース、測定条件等多様な変数による偏差を除外するものであり、より正確に放電容量とサイクル容量維持率の両立の効果を示しているといえるから、これらの特性を有するか否かを判断する指標として、「数式1の条件」は、「数式4の条件」よりも優れているといえる。 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載される甲1発明が式1の条件を満たすとする理由を採用することはできないし、さらに言えば、放電容量とサイクル容量維持率の両立の効果を、より正確に示しているといえる「数式1の条件」は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。 c 甲2の上記(1)イ(ア)(イ)の記載によれば、甲2は、何ら上記相違点1に係る本件発明1の構成を言及するものではないから、甲2を参照したとしても、上記相違点1に係る本件発明1の構成を、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。 なお、参考として引用している甲4も、何ら上記相違点1に係る本件発明1の構成について言及するものではない。 (ウ)小括 上記(イ)で述べたように、上記相違点1は、実質的な相違点であると共に、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲1発明ではないし、また甲1発明及び甲2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 イ 本件発明2、4~9について 本件発明2、4~9は、少なくとも本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2、4~6、9は、甲1発明ではないし、本件発明2、4~9は、甲1発明及び甲2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 (4)申立理由2について ア 本件発明1について (ア)対比 以下、本件発明1と甲3発明を対比する。 a 甲3に記載される「非水電解質二次電池用正極活物質」の主体は、「Ni含有リチウム遷移金属酸化物」であるところ、例えば、甲1の上記(1)ア(エ)の【0033】に「本発明の正極活物質は、比表面積が・・・0.4m2/g以上であるのが更に好ましい。上記範囲であると、正極活物質においてリチウムイオンを脱挿入する面積が十分に大きくなるため、界面抵抗が小さくなり、優れた負荷特性が得られる。」と記載されているように、非水電解質二次電池用正極活物質に含まれるNi含有リチウム遷移金属酸化物が、リチウムイオンを脱挿入するものであることは技術常識であり、この「リチウムイオンを脱挿入」は、本件発明1の「リチウムの吸蔵および放出」に相当する。 また、甲3発明における「Ni含有リチウム遷移金属酸化物」は、「LixNiyCoαMβO2-γ (1) 式中、x、y、α、β、及びγはそれぞれ、0.95<x<1.05、0.80≦y<1、0<α<0.15、0<β<0.05、y+α+β=1、及び0≦γ<0.05を満たす。また、式中Mは、結晶構造内に存在するNi、Co以外の添加金属元素であり、例えば、Al、Mg、Si、Ge、Sn、Mo、Ti、W、Nb、Zr、Cr、MnおよびFeから選ばれる1種以上の元素等が挙げられる。」で表されるもので、Ni及びCoを少なくとも含むものである。 さらに、甲3発明において、「前記Ni含有リチウム遷移金属酸化物は一次粒子が凝集した二次粒子から構成され」るものであるところ、実際、粒子を二次粒子のみから構成することは技術的に困難であり、少なからず一次粒子が混在してしまうことは、技術的な常識であるから、甲3発明における「Ni含有リチウム遷移金属酸化物」は、「一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子から構成され」るものであるといえる。 そうすると、甲3発明の「LixNiyCoαMβO2-γ (1) 式中、x、y、α、β、及びγはそれぞれ、0.95<x<1.05、0.80≦y<1、0<α<0.15、0<β<0.05、y+α+β=1、及び0≦γ<0.05を満たす。また、式中Mは、結晶構造内に存在するNi、Co以外の添加金属元素であり、例えば、Al、Mg、Si、Ge、Sn、Mo、Ti、W、Nb、Zr、Cr、MnおよびFeから選ばれる1種以上の元素等が挙げられる。」で表され、「一次粒子が凝集した二次粒子から構成され」る「Ni含有リチウム遷移金属酸化物」は、本件発明1の「リチウムの吸蔵および放出が可能で少なくともニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)を含む一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含」む「リチウム複合酸化物」と、「リチウムの吸蔵および放出が可能で少なくともニッケル(Ni)およびコバルト(Co)を含む一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含」む「リチウム複合酸化物」の点で共通する。 b 甲3発明の「ホウ酸リチウム」は、甲3の上記(1)ウ(ウ)の[0025]の「ホウ酸リチウムは、例えば、Li3BO3、Li2B4O7、LiBO2などが挙げられる、これらのうちでは、一次粒子への付着性、リチウムイオンの拡散性等の点で、Li3BO3が好ましい。」との記載によれば、酸化物であり、本件発明1の「ボロン(B)含有酸化物」に相当する。 そして、甲3発明に、「前記ホウ酸リチウムは前記一次粒子表面に付着しており」とあるように、一次粒子表面にホウ酸リチウムが付着していれば、一次粒子が凝集した二次粒子における一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面には、ホウ酸リチウムが存在していることになるといえる。 そうすると、甲3発明の「一次粒子が凝集した二次粒子から構成され、前記ホウ酸リチウムは前記一次粒子表面に付着して」いる「Ni含有リチウム遷移金属酸化物」は、本件発明1の「前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部をカバーするボロン(B)含有酸化物が存在するコーティング層を含」む「リチウム複合酸化物」に相当する。 c 以上によれば、本件発明1は甲3発明と、「リチウムの吸蔵および放出が可能で少なくともニッケル(Ni)およびコバルト(Co)を含む一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含み、前記一次粒子間の界面および前記二次粒子の表面から選ばれる領域のうち少なくとも一部をカバーするボロン(B)含有酸化物が存在するコーティング層を含む、リチウム複合酸化物。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点2> リチウム複合酸化物について、本件発明1は、少なくともニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)を含むものであるのに対し、甲3発明は、Ni、Coは含むものの、Mnは、「LixNiyCoαMβO2-γ」におけるMとして、Al、Mg、Si、Ge、Sn、Mo、Ti、W、Nb、Zr、Cr、MnおよびFeの選択肢の内の一つにとどまる点。 <相違点3> 本件発明1は、「数式1の条件」を充足するものであるのに対し、甲3発明は、「数式1の条件」を充足するものであるのか明らかでない点。 (イ)上記相違点に対する判断 事案に鑑み、上記相違点3について検討する。 a 甲3には、「数式1の条件」に関し何らの記載もないし、甲3の記載から「数式1」はもちろんのこと、「数式1の条件」を想起し得るような示唆もない。 さらに検討すると、「数式1」は、リチウム複合酸化物のXRD測定値で44.5±1.0°(2θ)で観測される(104)ピーク(peak)の半値幅に関係するが、この「(104)ピーク」は、R-3m空間群を有する六方格子によるものである。また、本件発明1では、「少なくともニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)を含む」「リチウム複合酸化物」に対して、数式1の条件が設定されていることから、「数式1」は、リチウム複合酸化物が、「R-3m空間群を有する六方格子」であること、及び「Ni、CoおよびMnを含む」ものであることを前提としているといえる。 一方、甲3発明のNi含有リチウム遷移金属酸化物は、少なくとも空間群R-3mに属する層状構造を有するものであるが、R-3m空間群を有する六方格子であるかは、甲3の記載からは明らかでなく、甲3発明における空間群R-3mに属する層状構造が、六方格子であることを認めるに足る証拠も提出されていないから、甲3発明のNi含有リチウム遷移金属酸化物は、必ずしも、R-3m空間群を有する六方格子を有するものであるということはできない。 また、「LixNiyCoαMβO2-γ」におけるMとしても、Mnは、多数の選択肢のなかの一つにとどまり、しかも、甲3の上記(1)ウ(オ)に記載される、甲3発明のNi含有リチウム遷移金属酸化物の実施例における具体的な化合物は、全てMがAlであるものであることを考慮すると、甲3発明のNi含有リチウム遷移金属酸化物でMの選択肢としてはAlが着目されており、Ni含有リチウム遷移金属酸化物においてMnの存在が前提となるとまではいうことができない。そうすると、甲3発明においては、Ni含有リチウム遷移金属酸化物が、「R-3m空間群を有する六方格子」であり、「少なくともニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)を含む」ものであるという、「数式1」の前提となる構成を備えているものとはいえないから、そもそも甲3発明において、「数式1の条件」の充足性を判断することができないし、また、甲3発明において、「数式1の条件」を充足することが、当業者にとり容易に想到し得ることであるか否か等の判断をすることもできない。 以上のとおり、上記相違点3は、実質的な相違点であるし、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 b 上記(3)ア(イ)bと同様に、念のため、特許異議申立書に記載される理由に沿って、甲3発明が、「数式1の条件」を充足するか否か等について、検討する。 (a)特許異議申立書に記載される甲3発明が「数式1の条件」を満たすとする理由(58頁11行~60頁12行) 甲3(甲3の上記(1)ウ(エ))には、結晶子径を求める際に用いたシェラーの式が開示されており、該シェラーの式により、X線回折パターンの(104)面のピークにおける半値幅を求めることができる。 甲3においては、結晶子径は300Å~700Åが好ましいとされ(甲3の同(エ)[0031])、この場合、上記シェラーの式により算出したX線回折パターンの(104)面のピークにおける半値幅の好適な範囲は、0.123°~0.286°となる。 なお、上記半値幅の好適な範囲の計算は、(104)面のピークの回折角の角度θとしては、本件発明1で挙げられた2θ=44.5°から算出した、44.5÷2=22.25°を用いている。 ・・・ すなわち、本件発明1で規定する「数式1」と「数式2」と、本件明細書に開示された「数式4」を比較すると明らかなように、Si粉末の半値幅による補正を「数式1」に反映させた場合に、「数式4」になるものと解される。 このため、Si粉末の半値幅による補正を行っていない甲3に開示された半値幅が、本件発明1の規定を充足しているか否かは、「数式4」を充足しているか否かにより判定されるものといえる。上記判断手法は、令和3年9月16日付(起案日)の拒絶理由通知書においても採用されている。 そして、Ni比率として、甲3発明では、0.8以上1未満(0.80≦y<1)が挙げられているからqとして上記範囲を、「数式4」に入れた場合、FWHMLi(104)-{0.12+(q-0.6)×0.25は、-0.097より大きく0.116以下となり、本件発明1と範囲が重複している。 (b)上記(a)の理由に対する判断 上記(a)の主張は、上記(3)ア(イ)b(b)で述べたのと同様に、甲3に開示された半値幅が「数式4の条件」を充足していれば、本件発明1の「数式1の条件」も充足するものとすることを前提としている。 しかしながら、同(b)で述べたように、「数式4の条件」と「数式1の条件」が同じであるとはいえず、「数式4の条件」を充足すれば、必ず「数式1の条件」を充足することになるとはいえないのであるから、上記(a)の理由は、前提に誤りがある。 また、リチウム複合酸化物が、放電容量とサイクル容量維持率の両立の効果を有するか否かを判断する指標として、「数式1の条件」は、「数式4の条件」よりも優れているといえる。 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載される甲3発明が「式1の条件」を満たすとする理由を採用することはできないし、さらに言えば、放電容量とサイクル容量維持率の両立の効果を、より正確に示しているといえる「数式1の条件」は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。 c 甲2の上記(1)イ(ア)、(イ)の記載によれば、甲2は、何ら上記相違点3に係る本件発明1の構成を言及するものではないから、甲2を参照したとしても、上記相違点3に係る本件発明1の構成を、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。 なお、参考として引用している甲5も、何ら上記相違点3に係る本件発明1の構成を言及するものではない。 (ウ)小括 上記(イ)で述べたように、上記相違点3は、実質的な相違点であると共に、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、上記相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明ではないし、また甲3発明及び甲2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 イ 本件発明2~9について 本件発明2~9は、少なくとも本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2~6、9は、甲3発明ではないし、本件発明2~9は、甲3発明及び甲2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 (5)申立理由1及び2に関するまとめ 以上のとおり、本件特許1~9は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由1及び2には、理由がない。 第6 むすび 上記第5で検討したとおり、本件特許1~9は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできないし、同法第29条第1項及び同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1、2及び申立理由1~4では、本件特許1~9を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1~9を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-701122

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