特許異議申立
2024-700508
蒸着マスク用金属板、蒸着マスク及びその製造方法
- 審判番号
- 2024-700508
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-152029
- 登録番号
- 7390344
- 請求日
- 2024年05月30日
- 審決日
- 2025年03月24日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エルジー イノテック カンパニー リミテッド
- 【権利者代理人】小野 誠
- 【権利者代理人】金山 賢教
- 【権利者代理人】重森 一輝
- 【権利者代理人】市川 祐輔
- 【権利者代理人】岩瀬 吉和
- 【異議申立人】佐藤 惠一
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 相澤 啓祐
- 審判官 土屋 知久
- 分類
- P1651.121-YAA(C23C) / P1651.537-YAA(C23C) / P1651.55 -YAA(C23C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第3項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7390344号発明「蒸着マスク用金属板、蒸着マスク及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7390344号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5~7〕について訂正することを認める。
特許第7390344号の請求項1~4、8、9に係る特許を維持する。
特許第7390344号の請求項5~7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7390344号の請求項1~9に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、2017年(平成29年)8月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年9月13日 韓国、2017年2月1日 韓国)を国際出願日とする出願である特願2019-514011号の一部を令和3年9月17日に新たな特許出願としたものであって、令和5年11月22日にその特許権の設定登録がなされ、同年12月1日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、令和6年5月30日に特許異議申立人佐藤惠一(以下、「申立人」という。)より請求項1~9(全請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件であって、同年9月30日付けで取消理由が通知され、これに対し、同年12月26日受付で意見書が提出されるとともに、訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。
なお、本件訂正請求は一部の請求項を削除するのみのものであるため、申立人に対して意見を求めなかった。
第2 訂正請求について
1 請求の趣旨、及び、訂正の内容
本件訂正請求は、特許第7390344号の特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項5~7について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
本件特許の特許請求の範囲の請求項5~7を削除する。
2 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件特許の特許請求の範囲の請求項5~7を削除するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえず、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面の記載から導き出される技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
3 一群の請求項について
本件訂正前の請求項5~7について、訂正前の請求項6、7はいずれも訂正前の請求項5を直接又は間接的に引用するものであって、請求項5の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項5~7は一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項に適合するものである。
また、本件訂正について別の訂正単位とする求めはないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔5~7〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
4 独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがなされているので、訂正事項1について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
5 訂正請求のむすび
以上のとおりであるから、令和6年12月26日受付で特許権者が行った訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔5~7〕についての訂正を認める。
第3 本件発明
令和6年12月26日受付で特許権者が行った請求項5~7についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~9に係る発明(以下、これらをそれぞれ「本件発明1」~「本件発明9」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
鉄(Fe)及びニッケル(Ni)を含み、長さ方向に一端から他端まで延長される金属板を含み、
前記金属板は、第1面と、前記第1面と反対となる第2面を含み、
前記金属板は、蒸着パターン領域と非蒸着領域を含み、
前記蒸着パターン領域は、複数の有効領域と複数の非有効領域を含み、
それぞれの有効領域は、複数の貫通孔を含み、
複数の有効領域は、第1有効領域、第2有効領域及び第3有効領域を含み、
前記金属板の非蒸着領域は、第1溝、第2溝、第3溝及び第4溝を含み、
前記第1溝、前記第2溝、前記第3溝及び前記第4溝は、金属板の深さ方向に対応する溝が形成される別途の領域であり、
前記第1溝は、前記金属板の一端と前記蒸着パターン領域の間に配置され、
前記第2溝は、前記金属板の他端と前記蒸着パターン領域の間に配置され、
前記第3溝は、前記第1溝と前記第1有効領域の間に配置され、
前記第4溝は、前記第2溝と前記第3有効領域の間に配置され、
前記金属板の非蒸着領域は、前記金属板の一端と他端にそれぞれ配置された半円形の第1オープン部と半円形の第2オープン部を含み、
前記第1溝及び前記第2溝は、それぞれ曲面と平面を含み、
前記第1溝の曲面は、前記一端に配置された第1オープン部の曲面に向かい、
前記第2溝の曲面は、前記他端に配置された第2オープン部の曲面に向かい、
前記貫通孔は、前記金属板の第1面に形成される第1面孔と、前記第2面に形成される第2面孔を含み、
前記第2面孔の幅は、前記第1面孔の幅より大きく、
前記第1溝、前記第2溝、前記第3溝及び前記第4溝は、前記第1面のみに配置され、
前記第1溝、前記第2溝、前記第3溝及び前記第4溝の形状は、前記金属板の長さ方向の中心を基準として相互対称となるように配置される、蒸着用マスク。
【請求項2】
前記第1溝の曲面は、前記一端方向に膨らみ、
前記第2溝の曲面は、前記他端方向に膨らむ、請求項1に記載の蒸着用マスク。
【請求項3】
前記第3溝及び前記第4溝の形状は、前記第1溝及び前記第2溝のうちいずれか一つの溝の形状と異なる、請求項1または2に記載の蒸着用マスク。
【請求項4】
前記非蒸着領域は、第1フレーム固定領域及び第2フレーム固定領域を含み、
前記第1フレーム固定領域は、前記第1溝と前記第3溝の間に配置され、
前記第2フレーム固定領域は、前記第2溝と前記第4溝の間に配置される、請求項1から3のいずれか一項に記載の蒸着用マスク。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
前記貫通孔は、前記第1面孔と前記第2面孔の間の変曲点を含み、
前記変曲点と前記第1面孔の終端の任意の地点を連結する直線と前記金属板の第1面の間の傾斜角の内角の大きさは、前記変曲点と前記第2面孔の終端の任意の地点を連結する直線と前記金属板の第2面の間の傾斜角の内角の大きさと異なる、請求項1に記載の蒸着用マスク。
【請求項9】
前記変曲点と前記第1面孔の終端の任意の地点を連結する直線と前記金属板の第1面の間の傾斜角の内角の大きさは、90度を超過し、
前記変曲点と前記第2面孔の終端の任意の地点を連結する直線と前記金属板の第2面の間の傾斜角の内角の大きさは、20度~70度である、請求項8に記載の蒸着用マスク。」
第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として次の甲第1~7号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲7」という。)を提出し、以下の申立理由1~4により、請求項1~9に係る特許を取り消すべきである旨主張している。
なお、以下の申立理由1~4は、本件訂正前の願書に添付された明細書及び特許請求の範囲に対するものである。
(証拠方法)
甲第1号証:中国特許出願公開第105803389号
甲第2号証:特開2014-133934号公報
甲第3号証:米国特許出願公開第2015/0007768号明細書
甲第4号証:中国実用新案第204803392号明細書
甲第5号証:中国実用新案第205295445号明細書
甲第6号証:中国実用新案第204434717号明細書
甲第7号証:特開2011-195960号公報
1-1 申立理由1(甲1を主たる引例とする進歩性)
本件発明1~9は、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、取り消されるべきものである(取消理由に不採用)。
1-2 申立理由2(甲2を主たる引例とする進歩性)
本件発明1~9は、甲2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、取り消されるべきものである(取消理由に不採用)。
1-3 申立理由3(サポート要件)
本件発明5~7は、次の(1)、(2)の点で発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないため、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである(取消理由に採用)。
(1)本件発明5の「第1分離領域及び前記第2分離領域の幅は、前記第1フレーム固定領域と前記第1溝の間の距離より小さい」との発明特定事項は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(2)本件発明6の「第1溝は、前記金属板の長さ方向への第1幅を有し、前記第3溝は、前記金属板の長さ方向への第2幅を有し、前記第1幅は、前記第2幅より大きい」との発明特定事項は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
1-4 申立理由4(新規事項の追加)
令和5年8月3日になされた、請求項5~7についての手続補正は、次の(1)、(2)の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものでないから、同請求項に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである(取消理由に採用)。
(1)請求項5の「第1分離領域及び前記第2分離領域の幅は、前記第1フレーム固定領域と前記第1溝の間の距離より小さい」との記載は、本件出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものではない。
(2)請求項6の「第1溝は、前記金属板の長さ方向への第1幅を有し、前記第3溝は、前記金属板の長さ方向への第2幅を有し、前記第1幅は、前記第2幅より大きい」との記載は、当初明細書等に記載した事項の範囲内のものではない。
2 令和6年9月30日付けで通知した取消理由
当合議体において、上記1の申立理由のうち、申立理由3、4を採用し、令和6年9月30日付けで次の取消理由1、2を通知した。
なお、以下に示す取消理由1、2は、本件訂正前の願書に添付された特許請求の範囲及び明細書に対して通知されたものである。
2-1 取消理由1(サポート要件)
上記1の1-3の申立理由3と同じ。
2-2 取消理由2(新規事項の追加)
上記1の1-4の申立理由4と同じ。
第5 当合議体の判断
当合議体では、次に示すとおり、上記第4の特許異議申立理由及び取消理由によっては、本件特許の請求項1~4、8、9に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
また、本件特許の請求項5~7は、本件訂正により削除されたから、本件特許の請求項5~7に係る特許に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
なお、上記第4の1の1-1の特許異議申立理由について検討するにあたり、甲1は原文が中国語なので、申立人が提出した甲1の翻訳文を用いた。
1 取消理由1、申立理由3(サポート要件)
(1)取消理由1、申立理由3は、本件特許の請求項5~7に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものであるというものである。
(2)そして、本件訂正により本件特許の請求項5~7は削除された。
(3)したがって、取消理由1、申立理由3は解消された。
2 取消理由2、申立理由4(新規事項の追加)
(1)取消理由2、申立理由4は、令和5年8月3日になされた、請求項5~7についての手続補正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内においてなされたものではないから、同請求項に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものであるというものである。
(2)そして、本件訂正により本件特許の請求項5~7は削除された。
(3)したがって、取消理由2、申立理由4は解消された。
3 申立理由1(甲1を主たる引例とする進歩性)
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1には、「AMOLED技術における蒸着プロセスの地位は非常に重要であり、特に発光層材料を蒸着する過程において、FMM(Fine Metal Mask、ファインメタルマスク)を用いる必要があ」([0004])ることが記載されている。なお、「AMOLED」は、アクティブマトリクス有機発光ダイオード([0003])を意味する。
イ 甲1には、「従来のやり方」([0031])として、「FMMについて、各Panelの有効表示領域(Active Area)に対応する領域の周辺、及び組立領域が設けられた両端にハーフエッチング(Half Etch)領域を設計すること」([0031])が記載されている。
ウ 甲1には、「ハーフエッチング領域の厚さがFMMの厚さより半分低減する」([0031])ことが記載されている。
エ 上記ア~ウより、甲1の図2Aに1/4だけ示された従来技術によるファインメタルマスクに注目すると、甲1([0004]、[0031]参照。)には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「AMOLED技術における発光層材料を蒸着する過程において用いるファインメタルマスクであって、
各Panelの有効表示領域(Active Area)に対応する領域の周辺、及び組立領域が設けられた両端にハーフエッチング(Half Etch)領域が設計され、
ハーフエッチング領域の厚さがファインメタルマスクの厚さより半分低減するものである、
ファインメタルマスク。」
(2)本件発明1について
(2)-1 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「AMOLED技術における発光層材料を蒸着する過程において用いるファインメタルマスク」は、本件発明1の「蒸着用マスク」に相当する。
イ 甲1発明は、「ファインメタルマスク」であるから、技術常識に照らして、「金属板」状のものである。
そうすると、甲1発明は、本件発明1の「長さ方向に一端から他端まで延長される金属板を含み、前記金属板は、第1面と、前記第1面と反対となる第2面を含」むことは自明である。
ウ 甲1の[0031]には、「図2Aは従来技術による1/4個の蒸着基板におけるハーフエッチング領域の分布模式図である」と記載されているから、甲1発明の「ファインメタルマスク」は、次の参考図で示されるものであると認められる。
なお、本参考図は申立人が作成したものである。
(参考図)
「
[図:0001423500000001.jpg]
」
エ 本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、「蒸着パターン領域DAは,蒸着パターン部を通じて有機物質を蒸着するための領域であり得る」(【0046】)、「蒸着マスクは、前記蒸着パターン領域DAの長さ方向の両側部に非蒸着領域NDAを含むことができる。実施例による蒸着マスクは、前記蒸着パターン領域DAの水平方向の両側に前記非蒸着領域NDAを含むことができる」(【0053】)と記載されている。
そうすると、上記参考図(上記ウ参照。)より、甲1発明の「ファインメタルマスク」は、本件発明1の「蒸着パターン領域」と「非蒸着領域」とに相当する領域が看取できるから、本件発明1の「金属板は、蒸着パターン領域と非蒸着領域を含」む事項を有するものである。
オ 本件明細書には、「蒸着マスクは、有効領域AA及び非有効領域UAを含むことができる」(【0098】)、「有効領域AAは、複数の貫通孔の中で有機物質を蒸着するための最外郭に位置した貫通孔の外郭を連結したときの内側領域であり得る。前記非有効領域UAは、複数の貫通孔の中で有機物質を蒸着するための最外郭に位置した貫通孔の外郭を連結したときの外側領域であり得る」(【0099】)と記載されている。
そうすると、上記参考図において、「有効表示領域」(甲1の図2Aにも記載。)と記載されている箇所が、本件発明1の「有効領域」に相当し、その周囲のハッチングの異なる箇所が、本件発明1の「非有効領域」に相当する。
そして、上記参考図より、これらの領域が複数存在することも看取できる。
また、甲1発明の「有効表示領域」は、「AMOLED技術における発光層材料を蒸着する」領域であるから、貫通孔を有することは自明である。
したがって、甲1発明は、本件発明1の「蒸着パターン領域は、複数の有効領域と複数の非有効領域を含み、それぞれの有効領域は、複数の貫通孔を含」む事項を有するものである。
カ 上記参考図より、甲1発明の「ファインメタルマスク」は、6つの有効表示領域を有することが看取できるから、本件発明1の「複数の有効領域は、第1有効領域、第2有効領域及び第3有効領域を含」む事項を有するものである。
キ 上記参考図において、6つの有効表示領域のマスク端部側に存在する幅方向に細長い長方形状のものは、ハーフエッチング領域と同一のハッチングであるから、ハーフエッチング領域であると認められる。
そうすると、上記参考図で示されているとおり、有効表示領域のマスク両端部側には、当該ハーフエッチング領域と、そのさらに端部側に直線と曲線からなるハーフエッチング領域が存在するから、本件発明1の「金属板の非蒸着領域は、第1溝、第2溝、第3溝及び第4溝を含」む事項を有するものである。
ク 甲1発明は、「ハーフエッチング領域の厚さがファインメタルマスクの厚さより半分低減するものである」から、本件発明1の「第1溝、前記第2溝、前記第3溝及び前記第4溝は、金属板の深さ方向に対応する溝が形成される別途の領域であ」る事項を有するものである。
ケ 上記参考図より、上記参考図の上側及び下側の両端部には、略半円状の切り欠きが存在することが看取されるから、甲1発明は、本件発明1の「金属板の非蒸着領域は、前記金属板の一端と他端にそれぞれ配置された半円形の第1オープン部と半円形の第2オープン部を含」む事項を有するものである。
コ 上記参考図より、両端部の非蒸着領域には、曲線と直線とで囲まれたハーフエッチング領域、及び、幅方向に細長い長方形の領域からなるハーフエッチング領域が存在し、かつ、それぞれ両端部の該曲線は端部の切り欠き側に向かっていることが看取できる。
そして、上記参考図の上側端部の非蒸着領域に存在する2つのハーフエッチング領域のうち、曲線と直線とに囲まれたハーフエッチング領域、及び、幅方向に細長い長方形のハーフエッチング領域をそれぞれ本件発明1の「第1溝」及び「第3溝」とし、また、上記参考図の下側端部の非蒸着領域に存在する2つのハーフエッチング領域のうち、曲線と直線とに囲まれたハーフエッチング領域、及び、幅方向に細長い長方形のハーフエッチング領域をそれぞれ本件発明1の「第2溝」及び「第4溝」とすると、甲1発明は、本件発明1の「第1溝は、前記金属板の一端と前記蒸着パターン領域の間に配置され、前記第2溝は、前記金属板の他端と前記蒸着パターン領域の間に配置され、前記第3溝は、前記第1溝と前記第1有効領域の間に配置され、前記第4溝は、前記第2溝と前記第3有効領域の間に配置され、」「前記第1溝及び前記第2溝は、それぞれ曲面と平面を含み、前記第1溝の曲面は、前記一端に配置された第1オープン部の曲面に向かい、前記第2溝の曲面は、前記他端に配置された第2オープン部の曲面に向か」う事項を有するものである。
サ 上記参考図より、上記参考図の上側及び下側の非蒸着領域には、曲線と直線とに囲まれたハーフエッチング領域、及び、幅方向に細長い長方形の領域からなるハーフエッチング領域は、長さ方向の中心を基準として対称に配置されていることが看取できるから、甲1発明は、本件発明1の「第1溝、前記第2溝、前記第3溝及び前記第4溝の形状は、前記金属板の長さ方向の中心を基準として相互対称となるように配置される」事項を有するものである。
シ 上記ア~サより、本件発明1と甲1発明とは、
「長さ方向に一端から他端まで延長される金属板を含み、
前記金属板は、第1面と、前記第1面と反対となる第2面を含み、
前記金属板は、蒸着パターン領域と非蒸着領域を含み、
前記蒸着パターン領域は、複数の有効領域と複数の非有効領域を含み、
それぞれの有効領域は、複数の貫通孔を含み、
複数の有効領域は、第1有効領域、第2有効領域及び第3有効領域を含み、
前記金属板の非蒸着領域は、第1溝、第2溝、第3溝及び第4溝を含み、
前記第1溝、前記第2溝、前記第3溝及び前記第4溝は、金属板の深さ方向に対応する溝が形成される別途の領域であり、
前記第1溝は、前記金属板の一端と前記蒸着パターン領域の間に配置され、
前記第2溝は、前記金属板の他端と前記蒸着パターン領域の間に配置され、
前記第3溝は、前記第1溝と前記第1有効領域の間に配置され、
前記第4溝は、前記第2溝と前記第3有効領域の間に配置され、
前記金属板の非蒸着領域は、前記金属板の一端と他端にそれぞれ配置された半円形の第1オープン部と半円形の第2オープン部を含み、
前記第1溝及び前記第2溝は、それぞれ曲面と平面を含み、
前記第1溝の曲面は、前記一端に配置された第1オープン部の曲面に向かい、
前記第2溝の曲面は、前記他端に配置された第2オープン部の曲面に向かい、
前記第1溝、前記第2溝、前記第3溝及び前記第4溝の形状は、前記金属板の長さ方向の中心を基準として相互対称となるように配置される、蒸着用マスク。」の点で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点1-1)
本件発明1は、「鉄(Fe)及びニッケル(Ni)を含」むのに対し、甲1発明は、「メタル」であるものの、鉄(Fe)及びニッケル(Ni)を含むものであるか否かが不明である点。
(相違点1-2)
本件発明1は、「貫通孔は、前記金属板の第1面に形成される第1面孔と、前記第2面に形成される第2面孔を含み、前記第2面孔の幅は、前記第1面孔の幅より大きく、前記第1溝、前記第2溝、前記第3溝及び前記第4溝は、前記第1面のみに配置され」るのに対し、甲1発明は、貫通孔の詳細が不明であり、また、4つのハーフエッチング領域が配置される面も不明である点。
(2)-2 相違点についての検討
ア 事案に鑑み、まず上記相違点1-2について検討する。
イ 蒸着マスクにおいて、貫通孔を、第1面に形成される第1面孔と、第2面に形成される第2面孔とから形成し、第2面孔の幅を第1面孔の幅より大きくすることは、周知技術(例えば、甲2の図5、甲3のFIG.3に記載。)であり、甲1発明において該周知技術を適用することは格別困難ではないといえる。
ウ 一方、甲1の請求の範囲の欄には、「応力緩衝部の一側に複数の第一凹溝(当審注:本件発明1の「第1溝」~「第4溝」のいずれかに相当。)が設けられ、前記応力緩衝部の他側に複数の第二凹溝(当審注:本件発明1の「第1溝」~「第4溝」のいずれかに相当。)が設けられ」(請求項1)ることが記載されているところ、上記のように第一凹溝及び第二凹溝をそれぞれ反対の面に設けることは、甲1の[0031]~[0035]によれば、従来のハーフエッチング領域の設計方式の欠点を克服するための手段である(甲1に記載された発明の技術的特徴である)と認められる。そして、このことは、従来技術による(上記(1)のエ)甲1発明に係るファインメタルマスクにおいても、妥当するものと解される。
そうすると、甲1発明においては、上記欠点を克服するために、第一凹溝及び第二凹溝をそれぞれ反対の面に設けることが必須であるから、甲1発明において、第一凹溝及び第二凹溝をいずれも同じ面に設けることには阻害要因が存在する。
エ そして、本件発明1は、上記相違点1-2に係る発明特定事項により、本件明細書に記載された、「ハーフエッチング部は、第1面孔と第2面孔の間のサイズの差によって発生し得る応力を分散させることができる」(【0064】)との効果を奏するものである。
オ したがって、甲1発明において、上記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
カ この結論は、仮に、甲2~4に上記相違点1-2に係る本件発明1の発明特定事項に相当する事項が記載されていたとしても変わらない。
キ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~4、8、9について
ア 本件発明2~4、8、9は、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるところ、甲1発明に対して、少なくとも上記相違点1-2で相違するから、上記(2)の(2)-2で検討した理由と同様の理由により、本件発明2~4、8、9も、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立理由1のむすび
本件発明1~4、8、9は、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 申立理由2(甲2を主たる引例とする進歩性)
(1)甲2に記載された発明
ア 甲2には、蒸着マスク(【0001】)について記載されているところ、甲2の図1及び図3(【0091】)から、蒸着マスク20の1枚の金属板21に5つの有効領域22が看取でき、これらの図が概略図であることを考慮しても、1枚の金属板21に少なくとも5つの有効領域22が含まれると認められる。
イ 甲2の図5(【0091】)から、蒸着マスク20の1枚の金属板21において、第1有効凹部30の幅が第2有効凹部35の幅よりも大きいことが看取できる。
ウ 甲2の図3から、蒸着マスク20の金属板21には、複数の有効領域22のうち、長手方向の端に存在する有効領域22の金属板21両端部側に、有効領域22が存在しない領域を有することが看取できる。
エ 甲2の図3から、蒸着マスク20の金属板21の両端の幅方向中心に、半円形状の切り欠きを有することが看取できる。
オ 上記ア~エを踏まえ、甲2の図3~5に示された蒸着マスク20に注目すると、甲2(【0025】、【0027】、【0028】、【0035】、【0049】、【0050】、【0051】、【0052】、【0056】参照。)には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「互いに対向する第1面21aおよび第2面21bを有する金属板21からなり、36%Niインバー材を用いることができ、
蒸着マスク20の長手方向に配列され、各々に規則的な配列で複数の貫通孔25が形成された複数の有効領域22と、各有効領域22を取り囲む周囲領域23と、を含んでおり、
少なくとも5つの有効領域22を含み、
複数の有効領域22のうち、長手方向の端に存在する有効領域22の金属板21の両端部側に、有効領域22が存在しない領域を有し、
周囲領域23は、蒸着マスク20の長手方向の応力を緩和する応力緩和領域50と、有効領域22および応力緩和領域50より剛性が高い高剛性領域55と、を含み、
このうち、応力緩和領域50は、互いに隣り合う有効領域22の間に介在されており、蒸着マスク20に長手方向に張力が負荷された場合に、この張力により生じる応力を効果的に緩和するようになっており、
応力緩和領域50は、蒸着マスク20の第1面20aに設けられた複数の第1応力緩和凹部51を有し、
応力緩和領域50は、蒸着マスク20の第2面20bに設けられた複数の第2応力緩和凹部52と、を更に有し、
第1応力緩和凹部51および第2応力緩和凹部52の断面は、半円状に形成されており、
第1応力緩和凹部51および第2応力緩和凹部52は、それぞれ、蒸着マスク20の幅方向に延びており、
金属板21の両端の幅方向中心に、半円形状の切り欠きを有し、
貫通孔25は、蒸着マスク20の第1面20aの側から形成された先細りする第1有効凹部30と、蒸着マスク20の第2面20bの側から形成された先細りする第2有効凹部35とが接続することによって、画成されており、
第1有効凹部30の幅が第2有効凹部35の幅よりも大きい、
蒸着マスク20。」
(2)本件発明1について
(2)-1 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
ア 甲2発明の「蒸着マスク20」は、本件発明1の「蒸着用マスク」に相当する。
イ 甲2発明の「蒸着マスク20」は、「長手方向に配列され」た「複数の有効領域22」「を含」むものであるから、本件発明1の「長さ方向に一端から他端まで延長される」事項を有する。
そうすると、甲2発明の「金属板21からなり、36%Niインバー材を用いることができ」る事項は、本件発明1の「鉄(Fe)及びニッケル(Ni)を含み、長さ方向に一端から他端まで延長される金属板を含」む事項に相当する。
ウ 甲2発明の「互いに対向する第1面21aおよび第2面21bを有する金属板21からな」る事項は、本件発明1の「金属板は、第1面と、前記第1面と反対となる第2面を含」む事項に相当する。
エ 甲2発明の「少なくとも5つの有効領域22」が存在する領域、及び、「金属板21両端部側」の「有効領域22が存在しない領域」は、それぞれ本件発明1の「蒸着パターン領域」、及び、「非蒸着領域」に相当する。
そうすると、甲2発明の「複数の有効領域22のうち、長手方向の端に存在する有効領域22の金属板21両端部側に、有効領域22が存在しない領域を有」する事項は、本件発明1の「金属板は、蒸着パターン領域と非蒸着領域を含」む事項に相当する。
オ 本件明細書には、「蒸着マスクは、有効領域AA及び非有効領域UAを含むことができる」(【0098】)、「有効領域AAは、複数の貫通孔の中で有機物質を蒸着するための最外郭に位置した貫通孔の外郭を連結したときの内側領域であり得る。前記非有効領域UAは、複数の貫通孔の中で有機物質を蒸着するための最外郭に位置した貫通孔の外郭を連結したときの外側領域であり得る」(【0099】)と記載されているのに対し、甲2には、「有効領域22は、有機発光材料が蒸着して画素を形成するようになる基板(ガラス基板92)上の区域、すなわち、作製された有機ELディスプレイ装置用基板の表示面をなすようになる基板上の区域に対面する、蒸着マスク20内の領域のことである」(【0027】)と記載されている。
そうすると、甲2発明の「有効領域22」、「周囲領域23」は、本件発明1の「有効領域」、「非有効領域」に相当する。
したがって、甲2発明の「蒸着マスク20の長手方向に配列され、各々に規則的な配列で複数の貫通孔25が形成された複数の有効領域22と、各有効領域22を取り囲む周囲領域23と、を含んで」いる事項は、本件発明1の「蒸着パターン領域は、複数の有効領域と複数の非有効領域を含み、それぞれの有効領域は、複数の貫通孔を含」む事項に相当する。
カ 甲2発明の「少なくとも5つの有効領域22を含」む事項は、本件発明1の「複数の有効領域は、第1有効領域、第2有効領域及び第3有効領域を含」む事項に相当する。
キ 甲2発明は、「少なくとも5つの有効領域22を含み、」「応力緩和領域50は、互いに隣り合う有効領域22の間に介在され」ているから、少なくとも4つの応力緩和領域50を有するものである。
そして、甲2発明の「応力緩和領域50は、蒸着マスク20の第1面20aに設けられた複数の第1応力緩和凹部51を有し、応力緩和領域50は、蒸着マスク20の第2面20bに設けられた複数の第2応力緩和凹部52と、を更に有」するものである。
そうすると、甲2発明の「複数の第1応力緩和凹部51」及び「複数の第2応力緩和凹部52」が、本件発明1の「第1溝」、「第2溝」、「第3溝」または「第4溝」に相当する。
したがって、甲2発明は、本件発明1の「金属板」は、「第1溝、第2溝、第3溝及び第4溝を含み、前記第1溝、前記第2溝、前記第3溝及び前記第4溝は、金属板の深さ方向に対応する溝が形成される別途の領域であ」る事項を有する。
ク 甲2発明の「金属板21の両端の幅方向中心に、半円形状の切り欠きを有」する事項は、本件発明1の「金属板の非蒸着領域は、前記金属板の一端と他端にそれぞれ配置された半円形の第1オープン部と半円形の第2オープン部を含」む事項に相当する。
ケ 甲2発明の「貫通孔25は、蒸着マスク20の第1面20aの側から形成された先細りする第1有効凹部30と、蒸着マスク20の第2面20bの側から形成された先細りする第2有効凹部35とが接続することによって、画成されて」いる事項は、本件発明1の「貫通孔は、前記金属板の第1面に形成される第1面孔と、前記第2面に形成される第2面孔を含」む事項に相当する。
コ 甲2発明の「第1有効凹部30の幅が第2有効凹部35の幅よりも大きい」事項は、本件発明1の「第2面孔の幅は、前記第1面孔の幅より大き」い事項に相当する。
サ 上記ア~コより、本件発明1と甲2発明とは、
「鉄(Fe)及びニッケル(Ni)を含み、長さ方向に一端から他端まで延長される金属板を含み、
前記金属板は、第1面と、前記第1面と反対となる第2面を含み、
前記金属板は、蒸着パターン領域と非蒸着領域を含み、
前記蒸着パターン領域は、複数の有効領域と複数の非有効領域を含み、
それぞれの有効領域は、複数の貫通孔を含み、
複数の有効領域は、第1有効領域、第2有効領域及び第3有効領域を含み、
前記金属板は、第1溝、第2溝、第3溝及び第4溝を含み、
前記第1溝、前記第2溝、前記第3溝及び前記第4溝は、金属板の深さ方向に対応する溝が形成される別途の領域であり、
前記金属板の非蒸着領域は、前記金属板の一端と他端にそれぞれ配置された半円形の第1オープン部と半円形の第2オープン部を含み、
前記貫通孔は、前記金属板の第1面に形成される第1面孔と、前記第2面に形成される第2面孔を含み、
前記第2面孔の幅は、前記第1面孔の幅より大きい、蒸着用マスク。」の点で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点2-1)
「第1溝、第2溝、第3溝及び第4溝」が、本件発明1は、「金属板の非蒸着領域」に含まれ、「第1溝は、前記金属板の一端と前記蒸着パターン領域の間に配置され、前記第2溝は、前記金属板の他端と前記蒸着パターン領域の間に配置され、前記第3溝は、前記第1溝と前記第1有効領域の間に配置され、前記第4溝は、前記第2溝と前記第3有効領域の間に配置され」ているのに対し、甲2発明は、「複数の第1応力緩和凹部51」及び「複数の第2応力緩和凹部52」を有する「応力緩和領域50」が、「互いに隣り合う有効領域22の間に介在されて」おり、「有効領域22が存在しない領域」にあるわけではない点。
(相違点2-2)
本件発明1は、「第1溝及び前記第2溝は、それぞれ曲面と平面を含み、前記第1溝の曲面は、前記一端に配置された第1オープン部の曲面に向かい、前記第2溝の曲面は、前記他端に配置された第2オープン部の曲面に向か」っているのに対し、甲2発明は、「第1応力緩和凹部51および第2応力緩和凹部52の断面は、半円状に形成されており、第1応力緩和凹部51および第2応力緩和凹部52は、それぞれ、蒸着マスク20の幅方向に延びて」おり、曲面と平面を含んでいるわけではない点。
(相違点2-3)
本件発明1は、「第1溝、前記第2溝、前記第3溝及び前記第4溝は、前記第1面のみに配置され」ているのに対し、甲2発明は、「複数の第1応力緩和凹部51」が「蒸着マスク20の第1面20aに設けられ」、「複数の第2応力緩和凹部52」が「蒸着マスク20の第2面20bに設けられ」ている点。
(相違点2-4)
本件発明1の「第1溝、前記第2溝、前記第3溝及び前記第4溝の形状は、前記金属板の長さ方向の中心を基準として相互対称となるように配置される」のに対し、甲2発明の「複数の第1応力緩和凹部51」及び「複数の第2応力緩和凹部52」は、金属板21の長さ方向の中心を基準として相互対称となるように配置されているか否かが不明である点。
(2)-2 相違点についての検討
ア 事案に鑑み、まず上記相違点2-3について検討する。
イ 甲2には、「第1の変形例」として、「応力緩和領域50が、単一の第1応力緩和凹部51のみを有し、蒸着マスク20の第2面20bに第2応力緩和凹部52が設けられていなくてもよい」(【0083】)事項のほかに、「応力緩和領域50は、単一の第2応力緩和凹部52のみを有して、蒸着マスク20の第1面20aに第1応力緩和凹部51が設けられていなくてもよい」(【0083】)事項が記載されている。そして、甲2発明において、後者の事項における「蒸着マスク20の第1面20a」は、その幅が「第2有効凹部35」「よりも大きい」「第1有効凹部30」が形成された面であるから、この「第1の変形例」のうち、後者の事項は、「単一の第2応力緩和凹部52」が、本件発明1の「第1面」に相当する面のみに設けられたものであるといえる。
ウ しかしながら、仮に、甲2発明において、上記イの後者の事項を適用して、「単一の第2応力緩和凹部52」を、本件発明1の「第1面」に相当する面のみに設ける構成が想到できたとしても、甲2発明の応力緩和領域50に設けられた第1応力緩和凹部51や第2応力緩和凹部52は、「蒸着マスク20の長手方向に張力が負荷された場合、この張力によって応力緩和領域50に負荷された応力を緩和することができる」(【0057】)ものにすぎないから、本件明細書に記載された、「ハーフエッチング部は、第1面孔と第2面孔の間のサイズの差によって発生し得る応力を分散させることができる」(【0064】)との効果まで予測することはできない。
エ 一方、「蒸着マスク」について記載されている甲3のFig.3から、同じ面に設けられた4つの凹部CC1、及び、この4つの凹部CC1は、第1パターン開口部OP1の幅よりも大きい幅を有する第2パターン開口部OP2側のみに設けられていることのほかに、甲3のFig.10から、同じ面に設けられた4つの凹部CC3、及び、この4つの凹部CC3は、第2パターン開口部OP2の幅よりも小さい幅を有する第1パターン開口部OP1側のみに設けられていることが看取できる。すなわち、甲3のFig.10に記載された「蒸着マスク」は、本件発明1の「貫通孔は、前記金属板の第1面に形成される第1面孔と、前記第2面に形成される第2面孔を含み、前記第2面孔の幅は、前記第1面孔の幅より大きく、前記第1溝、前記第2溝、前記第3溝及び前記第4溝は、前記第1面のみに配置され」る事項を有するものであるといえる。
オ しかしながら、仮に、甲2発明において、上記エの事項を適用して、上記2-3に係る本件発明1の発明特定事項を得る動機があったとしても、上記エの事項における4つの凹部CC3は、蒸着パターン部110と固定部(定着部)130との体積が段階的に徐々に変化するようになるため、蒸着パターン部110と固定部(定着部)130との体積の急激な差によるしわの発生を低減できる([0092]、[0096])ものにすぎないから、本件明細書に記載された、「ハーフエッチング部は、第1面孔と第2面孔の間のサイズの差によって発生し得る応力を分散させることができる」(【0064】)との効果まで予測することはできない。
カ したがって、甲2発明において、上記相違点2-3に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
キ この結論は、甲1、甲4~甲7を参酌しても変わらない。
ク よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~4、8、9について
ア 本件発明2~4、8、9は、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるところ、甲2発明に対して、少なくとも上記相違点2-3で相違するから、上記(2)の(2)-2で検討した理由と同様の理由により、本件発明2~4、8、9も、甲2発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立理由2のむすび
本件発明1~4、8、9は、甲2発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1~4、8、9に係る特許は、令和6年9月30日付けで通知した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1~4、8、9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項5~7は本件訂正により削除されたから、本件特許の請求項5~7に係る特許に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700508