特許異議申立
2021-701038
スパッタリングターゲット、窒化チタン膜の製造方法、および半導体素子の製造方法
- 審判番号
- 2021-701038
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-085457
- 登録番号
- 6871301
- 請求日
- 2021年11月02日
- 審決日
- 2022年09月20日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社東芝
- 【権利者代理人】弁理士法人サクラ国際特許事務所
- 【権利者】東芝マテリアル株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人サクラ国際特許事務所
- 【異議申立人】横山 佳孝
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 関根 崇
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.121-YAA(C23C) / P1651.537-YAA(C23C) / P1651.851-YAA(C23C) / P1651.852-YAA(C23C) / P1651.853-YAA(C23C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6871301号発明「チタンスパッタリングターゲット、窒化チタン膜の製造方法、および半導体素子の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6871301号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第6871301号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第6871301号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成27年2月6日を出願日とする特願2015-22540号の一部を分割し、平成31年4月26日に新たな特許出願としたものであって、令和3年4月19日にその特許権の設定登録がされ、同年5月12日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、同年11月2日に請求項1~7に係る特許に対して特許異議申立人 横山 佳孝(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和4年3月1日付けで取消理由が通知され、同年4月28日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされたものである。
なお、上記のとおり訂正の請求があったので、特許法第120条の5第5項の規定に従い申立人に相当の期間を指定して意見を求めたが、期間内に何らの応答もなされなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和4年4月28日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)の内容(訂正事項)は、次のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1~4
特許請求の範囲の請求項1、2、3及び4における「スパッタリングターゲット」との記載の全てを、「チタンスパッタリングターゲット」に訂正する(請求項1~4を直接的又は間接的に引用する請求項についても同様に訂正する。)。
(2)訂正事項5
明細書の発明の名称における「スパッタリングターゲット」との記載を、「チタンスパッタリングターゲット」に訂正する。
(3)訂正事項6
明細書の発明の詳細な説明における段落【0040】の【表2】において、実施例2及び比較例2の「スパッタ面から厚さ方向深さ10mmの面」の欄における「(101)>(002)>(100)」という記載を削除する。
なお、訂正前の請求項1~7は、請求項2~7が直接的又は間接的に請求項1を引用する関係にあるから一群の請求項であり、上記訂正事項1~4は、一群の請求項1~7について請求されたものである。また、訂正事項5、6は、明細書を訂正するものであるが、この一群の請求項全てについて関係する訂正である。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1)訂正事項1
訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0017】などの記載に基づき、訂正前の請求項1に記載された「スパッタリングターゲット」の材質を「チタン」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2~5
訂正事項2~5は、上記訂正事項1により、「スパッタリングターゲット」が「チタンスパッタリングターゲット」に訂正されたことに整合するように、訂正前の請求項2~4及び発明の名称を訂正するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項6
訂正事項6は、【表2】の実施例2及び比較例2の試料は厚さ8mmのチタンターゲットであり、スパッタ面から厚さ方向深さ10mmの面は存在しないにもかかわらず、「スパッタ面から厚さ方向深さ10mmの面」の欄に「(101)>(002)>(100)」との記載があったため、当該記載を削除するものであるから、「誤記の訂正」を目的とするものであり、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)独立特許要件
特許異議の申立ては、本件訂正前の全ての請求項1~7についてされているので、訂正事項1~6に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号から第3号までに掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正請求が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件訂正請求により訂正された請求項1~7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、纏めて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(下線部は訂正箇所を示す。)。
「【請求項1】
平均結晶粒径が15μm以下のミクロ組織を有し、結晶の配向性がランダム配向であるチタンスパッタリングターゲットであって、
前記チタンスパッタリングターゲットは、ガス成分を含まない純度が99.99%以上であり、鉄が9ppm以下、ニッケルが5ppm以下であり、
前記チタンスパッタリングターゲットのスパッタ面のX線回折を測定したとき、前記スパッタ面は(100)面からの回折ピークの相対強度I(100)と(002)面からの回折ピークの相対強度I(002)と(101)面からの回折ピークの相対強度I(101)とがI(101)>I(002)>I(100)の条件を満足し、各面((101)面、(002)面、(100)面)の各回折ピークの半値幅が0.2deg未満である、チタンスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記半値幅が0.093deg以下である、請求項1に記載のチタンスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記チタンスパッタリングターゲットにおいて、前記スパッタ面から深さ10mmの前記スパッタ面と平行な部分のX線回折を測定したとき、(100)面からの回折ピークの相対強度I(100)と(002)面からの回折ピークの相対強度I(002)と(101)面からの回折ピークの相対強度I(101)とがI(101)>I(002)>I(100)の条件を満足し、各面((101)面、(002)面、(100)面)の各回折ピークの半値幅が0.2deg未満である、請求項1または請求項2に記載のチタンスパッタリングターゲット。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のチタンスパッタリングターゲットを用いて窒化チタン膜を成膜する工程を具備する、窒化チタン膜の製造方法。
【請求項5】
前記窒化チタン膜は、ウエハーの上に成膜される、請求項4に記載の窒化チタン膜の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の方法を用いて前記窒化チタン膜を成膜することにより、配線層のバリア膜を形成する工程を具備する、半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記バリア膜の上に金属膜を成膜することにより、前記配線層を形成する工程をさらに具備する、請求項6に記載の半導体素子の製造方法。」
第4 取消理由
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、当業者が本件発明の課題を解決し得ると認識できないから、訂正前の請求項1~7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
(1)具体的な指摘事項
取消理由は、要するに、本件発明の課題は、鋳造組織の残存を解消してマイクロクラックのない微細な結晶組織を有すると共に、結晶構造のランダム配向性を備えるチタンスパッタリングターゲットを提供することであるといえるが、訂正前の請求項1~7に係る発明は、「スパッタリングターゲット」の材質が「チタン」であることが特定されていないため、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものといえず、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない、というものである。
(2)検討
前記第3のとおり、本件訂正により、本件発明1~7における「スパッタリングターゲット」の材料は、「チタン」であることが特定されたため、本件発明1~7は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものといえるから、本件発明1~7に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満足する。
(3)まとめ
したがって、取消理由に理由はない。
第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由
1 特許異議申立理由の概要
(1)訂正前の請求項1~7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(申立理由1)。
(2)訂正前の請求項1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が後記5(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(申立理由2)。
2 甲号証一覧
甲第1号証:国際公開第2011/111373号
甲第2号証:特許第4509363号公報
甲第3号証:特許第4949259号公報
甲第4号証:特開平10-8245号公報
以下、各甲号証を、「甲1」などと略称する。
3 各甲号証の記載事項
(1)甲1(国際公開第2011/111373号)の記載事項(当審注:下線は当審が付した。また、「…」は省略を意味する。以下、同様である。)
ア 「[請求項1] 円柱形状のチタン素材に、前記チタン素材の厚さ方向に対して平行な方向と垂直な方向の冷間鍛造加工を1セットとするこねくり鍛造を、2セット以上施す第1のこねくり鍛造工程と、
前記第1のこねくり鍛造工程を経たチタン材を、700℃以上の温度に加熱して再結晶化させる第1の熱処理工程と、
前記第1の熱処理工程を経たチタン材を、前記チタン材の厚さ方向に対して平行な方向と垂直な方向の冷間鍛造加工を1セットとするこねくり鍛造を、2セット以上施す第2のこねくり鍛造工程と、
前記第2のこねくり鍛造工程を経たチタン材を、冷間圧延する冷間圧延工程と、
前記冷間圧延工程を経たチタン材を、300℃以上の温度に加熱して熱処理する第2の熱処理工程と、
前記第2の熱処理工程を経たチタン材を機械加工してスパッタリングターゲットを作製する工程と
を具備することを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
…
[請求項12] 純度が99.99質量%以上で、かつ平均結晶粒径が15μm以下のチタン材からなり、スパッタ面を有するスパッタリングターゲットであって、
前記スパッタ面のX線回折を測定したとき、前記スパッタ面は(100)面からの回折ピークの相対強度I(100)と(002)面からの回折ピークの相対強度I(002)と(101)面からの回折ピークの相対強度I(101)とがI(101)>I(002)>I(100)の条件を満足することを特徴とするスパッタリングターゲット。
[請求項13] 請求項12記載のスパッタリングターゲットにおいて、
前記スパッタ面の結晶配向がランダム配向であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
…
[請求項17] 請求項12記載のスパッタリングターゲットを用いて、チタンを含む薄膜をスパッタ成膜する工程を具備することを特徴とする半導体素子の製造方法。
[請求項18] 請求項17記載の半導体素子の製造方法において、
前記薄膜は金属配線層のバリア膜として用いられる窒化チタン膜であることを特徴とする半導体素子の製造方法。」
イ 「[0006] 本発明が解決しようとする課題は、微細な結晶構造を有すると共に、結晶配向がランダム配向のチタンターゲットを再現性よく得ることを可能にしたスパッタリングターゲットの製造方法、そのような製造方法を適用したスパッタリングターゲット、さらにはそのようなスパッタリングターゲットを用いた半導体素子の製造方法を提供することにある。
…
[0010] チタン材1は、電子ビーム(EB)溶解法等を適用した鋳造法により作製されたインゴットやビレットであることが好ましい。チタン材1の純度(チタン純度)は99.99%以上(4N以上)でことが好ましい。スパッタリングターゲット(チタンターゲット)の純度はチタン材1の純度に準ずるため、純度が99.99%以上のスパッタリングターゲットを製造する場合には、純度が99.99%以上のチタン材1を使用することが好ましい。純度が99.999%以上(5N以上)のスパッタリングターゲットを製造する場合には、純度が99.999%以上のチタン材1を使用することが好ましい。
…
[0012] こねくり鍛造は、異なる方向から圧力を加えるため、チタン材1の結晶粒径を微細化することができると共に、結晶方位が特定の方向に偏ることが抑制される。さらに、鋳造により製造されたチタン材1の鋳造組織の残存、いわゆるゴーストグレインの発生を抑制することができる。こねくり鍛造の回数は多いほどよいが、あまり回数が多いと製造コストが増大するだけでなく、素材の割れやシワ等の発生が生じやすくなる。このため、こねくり鍛造の回数は2~4セットとすることが好ましい。
…
[0015] 次に、第1のこねくり鍛造工程を経たチタン材1を700℃以上の温度に加熱して再結晶化させる第1の熱処理工程を行う。第1の熱処理工程を行うことによって、第1のこねくり鍛造工程でチタン材1に生じた内部歪が除去され、さらに再結晶化させて均一な微細結晶構造が得られる。第1の熱処理工程は、700~1000℃の範囲の温度で0.5~10時間保持することにより行うことが好ましい。熱処理温度が1000℃を超えると、もしくは熱処理時間が10時間を超えると、粒成長が生じるおそれがある。熱処理温度は800~900℃の範囲がより好ましい。熱処理時間は1~5時間の範囲がより好ましい。熱処理時の雰囲気は0.133Pa以下の真空雰囲気が好ましい。酸素含有雰囲気では、熱処理中にチタン材1の表面が酸化されるおそれがある。
…
[0026] ランダムな結晶配向は、X線回折法(XRD)により測定することができる。ランダム配向のチタンターゲットは、スパッタ面のX線回折(2θ)を測定したとき、チタンの(100)面からの回折ピークの相対強度I(100)とチタンの(002)面からの回折ピークの相対強度I(002)とチタンの(101)面からの回折ピークの相対強度I(101)とが、I(101)>I(002)>I(100)の順で小さくなる。このような条件を満足しているときに、チタンターゲットがランダム配向であることを確認できる。特定の方位に結晶配向しているときは、各結晶面の相対強度比の順番がずれる。
[0027] さらに、この実施形態のスパッタリングターゲットは、結晶のランダム配向が厚さ方向にわたっても維持されているため、深さ方向にスパッタ面と平行な部分のX線回折(2θ)を測定したときにおいても、各結晶面の相対強度比の順番は同様になる。すなわち、深さ方向のX線回折を測定したとき、チタンの(100)面からの回折ピークの相対強度I(100)とチタンの(002)面からの回折ピークの相対強度I(002)とチタンの(101)面からの回折ピークの相対強度I(101)とがI(101)>I(002)>I(100)の順で小さくなる。」
(2)甲2(特許第4509363号公報)の記載事項
ア 「【請求項1】
シリコンが70~97重量%であり、残部が実質的に高融点金属シリサイドからなるスパッタリングターゲットであって、
金属組織は、少なくともシリコン相と、前記シリコンと前記高融点金属からなる高融点金属シリサイド相を有し、かつ
スパッタ面は、X線回折法(XRD)により求められたSi(111)面のピークの半値幅が0.5deg以下で、かつ高融点金属シリサイド(101)面のピークの半値幅が0.5deg以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。」
イ 「【0014】
本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法は、シリコンが70~97重量%であり、残部が実質的に高融点金属シリサイドからなり、金属組織が少なくともシリコン相と、前記シリコンと前記高融点金属からなる高融点金属シリサイド相を有するスパッタリングターゲットの製造方法であって、
最大粒径32μm以下の高純度シリコン粉末と、最大粒径20μm以下の高融点金属粉末を混合する工程と、
前記混合粉末を成形用型に充填し、10-2~10-3Paの真空中、0.1~3MPaのプレス圧力下で1000℃~1300℃に加熱して前記シリコンと高融点金属とを反応させて高融点金属シリサイドを形成する工程と、
10-2~10-3Paの真空中、もしくは5.32×104~6.65×104Pa不活性ガス雰囲気中、24.5~39.2MPaのプレス圧力下で1350℃~1450℃にて焼結して緻密化する工程と、
前記焼結後の冷却工程において無加圧で1200℃~1300℃の温度に3~6時間保持して残留応力除去した後、冷却する工程とを具備することを特徴とするものである。
…
【0031】
前記XRDによるSi(111)面のピークの半値幅が0.5degを超え、かつ高融点シリサイド(101)面のピークの半値幅が0.5degを超えると、ターゲットの結晶内に不均一な歪みが存在してスパッタリング時にパーティクルの発生を効果的に抑制することが困難になる。より好ましいSi(111)面の半値幅および高融点シリサイド(101)面のピークの半値幅は、それぞれ0.3deg以下、さらに好ましくは0.1deg以下である。
…
【0044】
(第3工程)
前記焼結体を焼結後の冷却工程において無加圧で1200℃~1300℃の温度にて保持し残留応力除去した後、冷却する。
【0045】
前記焼結工程後の融点直下の状態から一気に冷却を行うと、温度による熱膨張差が大きいことや、焼結体内部に残留応力が生じて焼結体にクラックが入りやすくなり、製品歩留まりを低下させる虞がある。
【0046】
このようなことから緻密化後に無加圧状態で1200℃~1300℃の温度にて一旦保持し、冷却を行う方式を採用することによって、主成分がシリコン(70~97重量%含有)で、微量の高融点金属シリサイドを含み、スパッタ面は、X線回折法(XRD)により求められたSi(111)面のピークの半値幅が0.5deg以下で、かつ高融点金属シリサイド(101)面のピークの半値幅が0.5deg以下であるスパッタリングターゲットを製造することが可能になる。また、焼結体にクラックが入ることが少なくなり、製品歩留まりを向上させることができる。さらに、残留応力の低下によりスパッタ粒子の指向性が向上され、パーティクルの発生を低減することが可能になる。
【0047】
前記保持時の温度を1200℃未満にすると、残留応力を効果的に除去することが不十分になり、本発明で意図する半値幅を得ることが困難になる。一方、前記熱処理時の温度が1300℃を超えると、この後の冷却時に焼結体にクラックが入り易くなる。好ましい温度は、1230~1260℃である。」
(3)甲3(特許第4949259号公報)の記載事項
ア 「【請求項1】
タンタル又はタンタル基合金スパッタターゲットにおいて、スパッタ最表面のX線回折により測定される{200}結晶面の半値幅が0.1~0.6であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
半値幅が0.15~0.45であることを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
半値幅のバラツキが±0.05以内であることを特徴とする請求項1又は2記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
{110}結晶面の半値幅が0.25~0.4であり、該半値幅のバラツキが±0.05以内であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングにおいて、バーンイン時間を短縮し、ウエハーやサブストレート上への成膜を安定した速度で実施することを可能とするスパッタリングターゲットに関する。
…
【0004】
また、スパッタリングターゲットの表面に関しては、表面粗さが小さく、また加工変質層(残留応力層)が存在しないことがスパッタリング初期のパーティクル、膜均一性(ユニフォーミティー)に対して重要であることが知られていおり、…
…
【0007】
スパッタリング工程では、初め成膜が安定するまでは、ダミーウエハを流しながら、バーンインと呼ばれる馴らし工程を行っている。
…
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はスパッタターゲットにおいて、バーンイン時間を短縮すると共に、ターゲットのライフを通じた成膜速度の変動を最小とし、もってスパッタリングプロセスにおける半導体の生産効率を向上、安定化させるとともに生産コストの低減に貢献するタンタル又はタンタル基合金ターゲットを提供するものである。
…
【0015】
タンタルは、バナジウム、ニオブ、モリブデン、タングステンなどと同じように結晶構造は体心立方(BCC)構造である。しかし、特に3N5~6N程度の高純度タンタルは、タングステンなどと異なり軟質で、非酸化性雰囲気中の鍛造、圧延などの塑性加工を容易に行うことができる。
このように、塑性加工により結晶配向を制御することが可能であるために、いろいろな配向のターゲットが提案されてきた。
等価な結晶面が少ないBCC構造は、軽微なエロージョン面の傾斜も面方位としては非常に大きな変動となってしまい、その結晶面の内部歪みも大きな影響を示すことになることが考えられる。
【0016】
例えば、特開2003-49264では、タングステン膜の均一性を向上、さらにはパーティクルの発生を減少させるためX線回折により得られた最密面の結晶面{110}のピークの半値幅が0.35以下であるタングステンターゲットが提案されている。
しかし、このようなタングステンターゲットとは異なり、タンタル又はタンタル基合金の場合は上記のように塑性変形能が高く、結晶面の回転などがおこるために、最密面{110}面の半値幅は、それほど大きな影響を与えず、むしろ{200}面の半値幅が大きく影響することが判明した。
…
【0018】
このようなタンタル又はタンタル基合金の{200}面の半値幅を安定的にコントロールするには、特に真空中の比較的低温での熱処理が有効であることが判明した。
{200}面の半値幅を0.1~0.6(好ましくは半値幅0.15~0.45)としたのは、半値幅が0.6を超えると加工歪みが大きくなるという問題が発生する。そして、これはスパッタ膜のユニフォーミティーに影響し、悪化させる原因となる。そして、これを改善する、すなわち表面に加工歪みが集中している場合には、長時間のバーンインを必要するという問題がある。
【0019】
タンタルは、リアクティブスパッタによって、タンタル窒化膜を形成し、バリヤ膜として使用されるが、膜のユニフォーミティーが悪い場合には、窒化膜における残留応力(膜ストレス)が高くなると考えられるので、避けなければならない。
逆に、0.1未満の場合はターゲットに再付着する膜(リデポ膜)が形成された場合に、リデポ膜の剥離が発生しやすくパーティクルが増加してしまうためである。また、0.1未満の場合、加工が非常に難しく、研摩の等の加工で膨大な時間をかける必要があるため、現実的でないという理由による。
したがって、タンタル又はタンタル基合金の{200}面の半値幅を、0.1~0.6(好ましくは半値幅0.15~0.45)にコントロールすることは、初期のバーンイン時間を減少させ、またターゲットライフを通じて成膜速度の変動を最小とするため、さらにはターゲットの加工を容易にするために、有効であることが分る。」
(4)甲4(特開平10-8245号公報)の記載事項
ア 「【請求項4】 Ti純度が99.999%以上であり、且つ酸素含有量が200ppm以下であることを特徴とする高純度Tiターゲット。」
イ 「【0013】サリサイドプロセスによる一般的なTiシリサイドの形成では、先ずMOSトランジスタ1を形成後、フッ酸処理によりゲート電極であるポリシリコン2および拡散層3上の酸化膜を除去し、清浄なシリコン面を露出させる〔図1(a)〕。続いてスパッタリング法によりTi薄膜6を全面に形成する〔図1(b)〕。その後、窒素雰囲気中でランプアニールにより600~650℃の第1アニールを行う。このアニールにより、Si露出部であるポリシリコン2および拡散層3がTi薄膜6とシリサイド化反応を起こして、これらの上にC49構造のTiシリサイド7が形成される〔図1(c)〕。
…
【0036】酸素以外の不純物含有量の内訳は、Fe,Ni,CrおよびCuの重金属については、接合リーク電流の低減、ライフタイムの確保等の点から合計量で10ppm以下が望ましく、1ppm以下が特に望ましい。」
4 申立理由1(進歩性欠如)
(1)甲1に記載された発明
上記3(1)アの[請求項12]及び[請求項13]によれば、甲1には、
「純度が99.99質量%以上で、かつ平均結晶粒径が15μm以下のチタン材からなり、スパッタ面を有するスパッタリングターゲットであって、
前記スパッタ面のX線回折を測定したとき、前記スパッタ面は(100)面からの回折ピークの相対強度I(100)と(002)面からの回折ピークの相対強度I(002)と(101)面からの回折ピークの相対強度I(101)とがI(101)>I(002)>I(100)の条件を満足し、
前記スパッタ面の結晶配向がランダム配向であるスパッタリングターゲット。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(2)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「チタン材」からなる「スパッタリングターゲット」は、本件発明1の「チタンスパッタリングターゲット」に相当する。
甲1発明の「スパッタリングターゲット」が「平均結晶粒径が15μm以下」であることは、「平均結晶粒径が15μm以下」の結晶組織を有していることといえるから、本件発明1の「平均結晶粒径が15μm以下のミクロ組織を有し」に相当する。
甲1発明の「前記スパッタ面のX線回折を測定したとき、前記スパッタ面は(100)面からの回折ピークの相対強度I(100)と(002)面からの回折ピークの相対強度I(002)と(101)面からの回折ピークの相対強度I(101)とがI(101)>I(002)>I(100)の条件を満足し」は、本件発明1の「スパッタ面のX線回折を測定したとき、前記スパッタ面は(100)面からの回折ピークの相対強度I(100)と(002)面からの回折ピークの相対強度I(002)と(101)面からの回折ピークの相対強度I(101)とがI(101)>I(002)>I(100)の条件を満足し」に相当する。
甲1発明の「結晶配向がランダム配向である」は、本件発明1の「結晶の配向性がランダム配向である」に相当する。
そうすると、両者は、
「平均結晶粒径が15μm以下のミクロ組織を有し、結晶の配向性がランダム配向であるチタンスパッタリングターゲットであって、
前記チタンスパッタリングターゲットのスパッタ面のX線回折を測定したとき、前記スパッタ面は(100)面からの回折ピークの相対強度I(100)と(002)面からの回折ピークの相対強度I(002)と(101)面からの回折ピークの相対強度I(101)とがI(101)>I(002)>I(100)の条件を満足し」「チタンスパッタリングターゲット。」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1の「チタンスパッタリングターゲット」は、「ガス成分を含まない純度が99.99%以上であり、鉄が9ppm以下、ニッケルが5ppm以下」であるのに対し、
甲1発明の「チタンスパッタリングターゲット」は、「純度が99.99質量%以上」である点。
<相違点2>
本件発明1の「チタンスパッタリングターゲット」の「各面((101)面、(002)面、(100)面)の各回折ピークの半値幅が0.2deg未満である」のに対し、
甲1発明の「チタンスパッタリングターゲット」は、そのような特定がない点。
(3)判断
事案にかんがみ、相違点2から検討する。
上記3(2)ア、イによれば、甲2には、シリコンが70~97重量%であり、残部が実質的に高融点金属シリサイドからなるスパッタリングターゲットについて(【請求項1】)、焼結後の冷却工程において無加圧で1200℃~1300℃の温度に3~6時間保持することで残留応力を除去することで(【0014】)、Si(111)面のピークの半値幅をが0.5deg以下で、かつ高融点シリサイド(101)面のピークの半値幅が0.5degであるスパッタリングターゲットを製造可能となり(【0045】)、これにより、ターゲットの結晶内に不均一な歪みが存在してスパッタリング時にパーティクルの発生を効果的に抑制できること(【0031】)、また、前記保持時の温度を1200℃未満にすると、残留応力を効果的に除去することが不十分になり、上記半値幅を得ることが困難になること(【0047】)が記載されている。
ここで、甲1には、チタン素材をこねくり鍛造して製造することが記載されているから(上記3(1)ア[請求項1])、甲1発明のチタンスパッタリングターゲットは、焼結して作製する甲2のシリコンスパッタリングターゲットとはその材質、結晶構造及び製造工程の点で大きく異なるものであるといえる。また、甲2には、焼結後に無加圧で1200℃~1300℃の温度に3~6時間保持することで残留応力を除去することが記載されているが、甲1には、1000℃を超えるような温度で加熱すると粒成長が生じることが示唆されているところ(上記3(1)イ[0015])、甲1発明において、甲2に記載される工程で残留応力を除去しようとすると、平均結晶粒径が15μm以下のミクロ組織を実現できないおそれがあるから、甲1発明に甲2の記載事項を組み合わせる動機付けはなく、むしろ阻害要因がある。
また、上記3(3)ア、イによれば、甲3には、タンタル又はタンタル基合金スパッタターゲットについて(【請求項1】)、スパッタリングにおけるバーンイン時間を短縮し、その後の成膜速度の変動を最小にしようとするとき(【0009】)、タンタルは塑性変形能が高く結晶面の回転などがおこるため、最密面{100}面の半値幅はそれほど大きな影響を与えず、むしろ{200}面の半値幅が大きく影響するから(【0016】)、{200}面の半値幅は0.1~0.6にし(【0018】)、{110}面の半値幅は0.25~0.4にすること(【請求項4】)が記載されている。
ここで、甲1発明のチタンスパッタリングターゲットと、甲3のタンタルスパッタリングターゲットとは、材質及び結晶構造の点で大きく異なるものであるから、甲1発明に甲3の記載事項を組み合わせる動機付けはないし、上述のとおり、甲3には、(101)面、(002)面及び(100)面)の各回折ピークの半値幅を0.2deg未満にすることの開示はないから、甲1発明において、(101)面、(002)面及び(100)面の各回折ピークの半値幅を0.2deg未満にすることは、容易に想到し得ない。
そして、他の証拠を参照しても、チタンのスパッタリングターゲットについて、各面((101)面、(002)面、(100)面)の各回折ピークの半値幅を0.2deg未満にすることの記載や示唆はないから、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易想到な事項といえない。
したがって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1い記載された発明及び甲2ないし甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本件発明2~7について検討しても、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同様に判断される。
5 申立理由2(サポート要件違反)
(1)申立理由2の概要
申立人の主張は、要するに、本件明細書の発明の詳細な説明における【表2】には、実施例2及び比較例2として、ターゲットサイズとして厚さ8mmの試料が記載されているが、当該試料の厚さは10mmに満たないにもかかわらず、「スパッタ面から厚さ方向深さ10mmの面」の欄に「I(101)>I(002)>I(100)」との記載があるから、請求項3における「前記スパッタ面から深さ10mmの前記スパッタ面と平行な部分」におけるX線回折による「強度比」は、実施例により支持されたものではなく、また、各実施例及び比較例について、【表2】の「半値幅(deg)」の欄に記載された数値について、スパッタ面における半値幅であるのか、スパッタ面から深さ10mmの面における半値幅であるのか不明であるから、請求項3における「前記スパッタ面から深さ10mmの前記スパッタ面と平行な部分」におけるX線回折による「半値幅」は、実施例により支持されたものではない、というものである。
(2)判断
上記第4の2のサポート要件の検討によれば、本件発明1~7について、鋳造組織の残存を解消してマイクロクラックのない微細な結晶組織を有すると共に、結晶構造のランダム配向性を備えるチタンスパッタリングターゲットを提供するという本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものといえる。
そして、「強度比」に関する申立人の上記主張を検討しても、本件明細書の発明の詳細な説明の【表2】における実施例2及び比較例2のスパッタリングターゲットについて、「スパッタ面から厚さ方向深さ10mmの面」の欄にX線回折の相対強度比について記載されていることは、上記第2の2(3)で検討したとおり、明らかな誤記といえるから、【表2】の実施例2及び比較例2において、「スパッタ面から厚さ方向深さ10mmの面」の欄に「強度比」が記載されていることを論拠に、サポート要件を満たしていないとの主張は採用できない(なお、本件訂正の結果、当該欄の記載は削除されている。)。
また、「半値幅」に関する申立人の上記主張について検討する。同【表2】の「半値幅(deg)」の数値について、本件明細書の段落【0039】には、「ランダム配向の有無に関しては、スパッタ面とスパッタ面から深さ10mmまで掘った部分とでX線回折を実施し、各測定箇所における(100)面、(002)面、(101)面からの回折ピークの相対強度および半値幅を測定することにより判定した。各結晶面からの回折ピークの相対強度の順番および各面の半値幅の最大値を表2に示す。」と記載されている。当該記載によれば、各測定箇所における各面の半値幅の最大値であることを理解できるから、実施例1及び3では、スパッタ面で測定した各結晶面の半値幅及びスパッタ面から深さ10mmの面における各結晶面の半値幅のうち最大の値が示されていること、また、実施例2では、スパッタ面で測定した各結晶面の半値幅のうち最大の値が示されていることを理解できる。そうすると、前記【表2】の「半値幅(deg)」の欄に記載された数値が、スパッタ面における半値幅であるのか、スパッタ面から深さ10mmの面における半値幅であるのか不明であることを前提にして、サポート要件を満たしていないとの主張も採用できない。
したがって、上記第4の2(2)のとおり、本件発明1~7に係る特許請求の範囲の記載はサポート要件を満足する。
6 小活
よって、申立理由1、2に理由はない。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701038