特許異議申立
2022-701106
導電性接着剤組成物
- 審判番号
- 2022-701106
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-092207
- 登録番号
- 7070061
- 請求日
- 2022年11月11日
- 審決日
- 2024年04月18日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】DIC株式会社
- 【権利者代理人】小川 眞治
- 【権利者代理人】岩本 明洋
- 【権利者代理人】大野 孝幸
- 【異議申立人】佐藤 健司
- 【異議申立人】亀崎 伸宏
- 審判長/審判官
- 審判長 菊地 則義
- 審判官 門前 浩一
- 審判官 関根 裕
- 分類
- P1651.113-YAA(C09J) / P1651.121-YAA(C09J) / P1651.537-YAA(C09J) / P1651.536-YAA(C09J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7070061号発明「導電性接着剤組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7070061号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
特許第7070061号の請求項1、3-8に係る特許を維持する。
特許第7070061号の請求項2に対する特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7070061号の請求項1~8の発明に係る特許についての出願は、平成30年5月11日になされたものであって、令和4年5月10日にその特許権の設定登録がなされ、同年同月18日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、同年11月11日に特許異議申立人である佐藤健司(以下、「申立人1」という。)による特許異議の申立てがされ、同年同月18日に特許異議申立人である亀崎伸宏(以下、「申立人2」という。)による特許異議の申立てがされ、令和5年5月18日付けで取消理由通知(発送は同年5月23日)がされ、同年7月18日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、訂正の内容を「本件訂正」という。)がされ、同年8月17日付けで訂正請求があった旨の通知(発送は同年同月29日)がされたが、その通知に対し、申立人1及び申立人2は、その指定期間内に意見書を提出しなかった。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
本件訂正の請求の趣旨は、「特許第7070061号の特許請求の範囲を本請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める。」というものである。
2 本件訂正
(1)本件訂正は、次の訂正事項1~6からなるものである。下線は、訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の本件訂正前の請求項1の
「ポリオール及びポリイソシアネートの反応物であるポリウレタン樹脂(A)と、
カルボキシ基と反応しうる官能基を2つ以上有する架橋剤(B)と、
導電性フィラー(C)とを少なくとも含む接着剤組成物であって、
前記ポリウレタン樹脂(A)の酸価がlmgKOH/g以上70mgKOH/g以下であり、
前記ポリウレタン樹脂(A)におけるウレア結合基濃度が、l00mmol/kg以下であり、
前記ポリウレタン樹脂(A)における芳香環濃度が、1,000mmol/kg以上5,000mmol/kg以下である接着剤組成物。」という記載を、
「ポリオール及びポリイソシアネートの反応物であるポリウレタン樹脂(A)と、
カルボキシ基と反応しうる官能基を2つ以上有する架橋剤(B)と、
導電性フィラー(C)とを少なくとも含む接着剤組成物であって、
前記ポリウレタン樹脂(A)の酸価がlmgKOH/g以上70mgKOH/g以下であり、
前記ポリウレタン樹脂(A)におけるウレア結合基濃度が、l00mmol/kg以下であり、
前記ポリウレタン樹脂(A)における芳香環濃度が、1,000mmol/kg以上3,000mmol/kg以下であり、
前記ポリウレタン樹脂(A)におけるウレタン結合基濃度が1,000mmol/kg以上5,000mmol/kg以下であり、
前記ポリオールが、2,2-ジメチロールプロピオン酸を含むものである接着剤組成物。」と訂正する。
また、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3~8も同様に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、「請求項1又は2記載の」とあるのを、「請求項1記載の」と訂正する。
また、請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項4~8も同様に訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1~3のいずれか1項記載の」とあるのを、「請求項1又は3記載の」と訂正する。
また、請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5~8も同様に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1~4のいずれか1項記載の」とあるのを、「請求項1、3又は4記載の」と訂正する。
また、請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6~8も同様に訂正する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に、「請求項1~5のいずれか1項記載の」とあるのを、「請求項1、又は3~5のいずれか1項記載の」と訂正する。
また、請求項6の記載を直接又は間接的に引用する請求項7、8も同様に訂正する。
(2)一群の請求項について
訂正事項1~6に係る訂正前の請求項1~8について、請求項2~8はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~8にそれぞれ対応する本件訂正後の請求項1~8は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。
3 訂正要件についての判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「ポリウレタン樹脂(A)における芳香環濃度」の範囲上限値を、「5,000mmol/kg」から「3,000mmol/kg」に変更し(以下、「訂正事項1-1」ともいう。)、また、訂正前の請求項1の「ポリウレタン樹脂(A)におけるウレタン結合基濃度」の範囲について、「1,000mmol/kg以上5,000mmol/kg以下」とする限定を新たに追加し(以下、「訂正事項1-2」ともいう。)、さらに、訂正前の請求項1の「ポリオール」の材質について、「2,2-ジメチロールプロピオン酸を含むもの」に限定する(以下、「訂正事項1-3」ともいう。)ものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
本件特許の明細書(以下、「本件特許明細書」ともいう。)の段落【0051】には「前記ウレタン樹脂(A)における芳香環濃度は、0mmol/kg以上であり、例えば1,000mmol/kg以上、好ましくは2,000mmol/kg以上であってもよく、例えば5,000mmol/kg以下、好ましくは3,000mmol/kg以下であってもよい。」と記載されているから、訂正事項1-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものである。
また、段落【0050】には「前記ウレタン樹脂(A)におけるウレタン結合基濃度は、好ましくは1,000mmol/kg以上、より好ましくは1,300mmol/kg以上、さらに好ましくは1,700mmol/kg以上であり、好ましくは5,000mol/kg以下、より好ましくは3,500mol/kg以下、さらに好ましくは3,000mol/kg以下である。」と記載されているから、訂正事項1-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものである。
また、本件特許明細書には「前記ポリウレタン樹脂(A)は、ポリオール(a1)及びポリイソシアネート(a2)の反応物である。なお本発明において、成分X及び成分Yの反応物という場合、該反応物には、成分Xと、成分Yと、成分X及び成分Y以外の成分Zとの反応物も含まれるものとする。
前記ポリオール(a1)としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、高分子量ポリオール、親水性基を有するポリオールを含むことが好ましい。」(段落【0012】、【0013】)、「前記ポリオールとしては、例えば、上記ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール及びポリオレフィンポリオール以外のポリオールを用いることができ、具体的には、アニオン性基を有するポリオール、カチオン性基を有するポリオール、及び、ノニオン性基を有するポリオール等の親水性基を有するポリオールを使用することができ、アニオン性基を有するポリオールを含むことが好ましい。
前記アニオン性基を有するポリオールとしては、例えば、カルボキシ基を有するポリオール及びスルホン酸基を有するポリオール等が挙げられる。
前記カルボキシ基を有するポリオールとしては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸等のヒドロキシ酸;及び前記カルボキシ基を有するポリオールと前記ポリカルボン酸との反応物などが挙げられる。前記ヒドロキシ酸としては、2,2-ジメチロールプロピオン酸が好ましい。」(【0033】~【0035】)と記載されている(下線は、当審による。)。
したがって、訂正事項1-3も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項1-1は、訂正前の請求項1の「ポリウレタン樹脂(A)における芳香環濃度」の範囲について、新たにその上限値を規定することによってその範囲を限定するものであり、また、訂正事項1-2は、訂正前の請求項1の「ポリウレタン樹脂(A)におけるウレタン結合基濃度」の範囲が限定されていなかったのに対して新たにその上限値及び下限値を規定することによってその範囲を限定するものであり、また、訂正事項1-3は、訂正前の請求項1の「ポリオール」の材質について、限定がなかったのに対して新たに「2,2-ジメチロールプロピオン酸を含むもの」に限定する(以下、「訂正事項1-3」ともいう。)ものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことが明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合する。
(2)訂正事項2~6について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものである。
また、訂正事項3~6は、それぞれ、訂正前の請求項3~6がそれよりも前の請求項を引用する記載を含むものであるところ、その引用する請求項から請求項2を削除するものである。
したがって、訂正事項2~6は、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであり、訂正事項3~6は、それぞれ、その引用する請求項から請求項2を削除するものであるから、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合し、また、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。
(3)独立特許要件について
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~8に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項により読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。
(4)本件訂正の適否についての小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正請求は認められたので、本件特許の請求項1~8に係る発明は、その特許の特許請求の範囲の請求項1~8に記載された以下のとおりのものである(請求項1~8に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明8」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)。
「【請求項1】
ポリオール及びポリイソシアネートの反応物であるポリウレタン樹脂(A)と、
カルボキシ基と反応しうる官能基を2つ以上有する架橋剤(B)と、
導電性フィラー(C)とを少なくとも含む接着剤組成物であって、
前記ポリウレタン樹脂(A)の酸価がlmgKOH/g以上70mgKOH/g以下であり、
前記ポリウレタン樹脂(A)におけるウレア結合基濃度が、100mmol/kg以下であり、
前記ポリウレタン樹脂(A)における芳香環濃度が、1,000mmol/kg以上3,000mmo1/kg以下であり、
前記ポリウレタン樹脂(A)におけるウレタン結合基濃度が1,000mmol/kg以上5,000mmol/kg以下であり、
前記ポリオールが、2,2-ジメチロールプロピオン酸を含むものである接着剤組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基と前記ポリオールに含まれるヒドロキシ基のモル比[NCO/OH]が、0.5以上1.1以下である請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記架橋剤(B)が、エポキシ架橋剤を含む請求項1又は3記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記ポリオール中、ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールの合計含有率が50質量%以上である請求項1、3又は4記載の接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1、又は3~5のいずれか1項記載の接着剤組成物の硬化物であるシート。
【請求項7】
請求項6記載のシートを含む電磁波シールドフィルム。
【請求項8】
請求項7記載の電磁波シールドフィルムを含むプリント配線板。」
第4 特許異議の申立ての概要
1
申立人1は、下記(1)の理由を申し立てるとともに、下記(2)の証拠、及び、下記(3)の参考資料を提出した。なお、申立理由1、2は、主たる引用文献等として、下記(2)の甲第1号証を引用するものである。
(1)
申立理由1
本件特許の特許請求の範囲の請求項1、3~8に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、これらの請求項に係る発明の特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由2
本件特許の特許請求の範囲の請求項1、3~8に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由3
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を充足しない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由4
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を充足しない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(2)
甲第1号証:国際公開第2017/195400号
(3)
参考資料1:申立人1が作成した資料
参考資料2:特開2010-189466号公報
参考資料3:特開2019-23281号公報
参考資料4:申立人1が作成した資料
参考資料5:国際公開第2013/089149号
2
申立人2は、下記(1)の理由を申し立てるとともに、下記(2)の証拠を提出した。なお、申立理由5は、主たる引用文献等として、下記(2)の甲第1号証を引用するものであり、申立理由6は、主たる引用文献等として、下記(2)の甲第1号証、または、甲第2号証を引用するものである。
(1)
申立理由5
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、これらの請求項に係る発明の特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由6
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、これらの請求項に係る発明の特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)
甲第1号証:国際公開第2017/195400号
甲第2号証:国際公開第2014/010524号
甲第3号証:特開2016-222748号公報
第5 証拠の記載事項
1 甲1に記載されている事項
申立人1が提出した甲第1号証と、申立人2が提出した甲第1号証は、いずれも、国際公開第2017/195400号(以下、「甲1」という。)であり、以下の事項が記載されている。
(1)
「[請求項1]
熱硬化性樹脂と、導電性フィラーとを含む導電性接着剤であって、
硬化した後において、
Tg(TMA法)が35℃以上、
引っ張り弾性率が1.5GPa~4GPa、
線膨張係数が-25℃~125℃において250ppm/℃以上、
湿度膨張率が、20℃において55%から75%に増加させたときに0.05%以下であり、20℃において55%から95%に増加させたときに0.15%以下である、導電性接着剤。
[請求項2]
前記熱硬化性樹脂が、ウレタン樹脂と、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂とを含む、請求項1に記載の導電性接着剤。
[請求項3]
前記導電性フィラーが、銀メッキをした樹木状結晶構造を有する電解銅粉である、請求項1または2に記載の導電性接着剤。
[請求項4]
前記電解銅粉における銀メッキの含有率が5質量%以上であり、前記電解銅粉を45質量%以上含む、請求項3に記載の導電性接着剤。
[請求項5]
ポリイミドからなる絶縁層の一方の主面上に、請求項1~4のいずれか一項に記載の導電性接着剤からなる層を有する、シールドフィルム。」
(2)
「[0001] 本発明は導電性接着剤およびシールドフィルムに関する。
[0002] プリント配線板におけるノイズカットの手法として、SUSなどの金属補強板を導電性接着剤によって接着してシールド性能を保持する方法が主に用いられており、また、フレキシブルプリント配線板(FPC)などの屈曲する部位については、薄い金属箔層および導電性接着剤よりなる屈曲性のシールドフィルムを用いる方法がとられている。
これに関する従来法として、例えば特許文献1、2に記載のものが挙げられる。」
(3)
「[0013] 本発明の接着剤において熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、合成ゴム、UV硬化アクリレート樹脂等が挙げられ、これらを1種類もしくは複数使用することができる。
また、本発明の接着剤は、ウレタン樹脂と、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂とを含むものであることがより好ましく、次に示す樹脂組成物であることがさらに好ましい。
[0014] 樹脂組成物は、カルボキシル基を含有し、酸価が100当量/106g以上1000当量/106g以下であり、数平均分子量が5.0×103以上1.0×105以下であり、ガラス転移温度が30℃以上80℃以下であるポリウレタン樹脂(a-1)、数平均分子量が5.0×103以上1.0×105以下であり、ガラス転移温度が0℃以下であるポリエステル樹脂(a-2)、エポキシ樹脂(b)、からなり、前記ポリウレタン樹脂(a-1)と前記ポリエステル樹脂(a-2)の合計に対する前記ポリウレタン樹脂(a-1)の含有率が70質量%以上95質量%以下であり、前記ポリウレタン樹脂(a-1)と前記ポリエステル樹脂(a-2)の合計に対する樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂全体の含有率が5質量%以上30質量%以下であり、前記エポキシ樹脂(b)の配合比率が、樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂全体の0.1質量%以上20質量%以下である。
また、樹脂組成物において、前記ポリウレタン樹脂(a-1)は、ポリエステルポリオール(c)、1つのカルボン酸基と2つの水酸基を有する化合物(d)、ポリイソシアネート(e)の反応によって得られるものであることが好ましい。
また、樹脂組成物は、さらに有機溶剤を含有することが好ましい。
[0015] 樹脂組成物について詳細に説明する。
樹脂組成物は、特定のポリウレタン樹脂(a-1)、特定のポリエステル樹脂(a-2)、エポキシ樹脂(b)からなり、さらに有機溶剤を含有していても良い。
[0016] 樹脂組成物に用いるポリウレタン樹脂(a-1)の数平均分子量は、5.0×103以上1.0×105である。ポリウレタン樹脂(a-1)の数平均分子量が5.0×103未満だと塗布直後の密着性が不充分で作業性が悪くなり、また、可とう性が低下し、接着性が低下する傾向にある。ポリウレタン樹脂(a-1)の数平均分子量が1.0×105を超えると、塗布時の溶液粘度が高すぎて、均一な塗膜が得られないことがある。ポリウレタン樹脂(a-1)の数平均分子量の下限値は、好ましくは8.0×103であり、さらに好ましくは1.0×104である。また、ポリウレタン樹脂(a-1)の数平均分子量の上限値は、好ましくは5.0×104、さらに好ましくは3.5×104である。
[0017] 樹脂組成物に用いるポリウレタン樹脂(a-1)の酸価は100当量/106g以上1000当量/106g以下である。ポリウレタン樹脂(a-1)の酸価が100当量/106g未満だと、金属製基材への密着性が不充分になる傾向にある。また、エポキシ樹脂との架橋が不十分であり、耐熱性が低下する傾向にある。ポリウレタン樹脂(a-1)の酸価が1000当量/106gを超えると、溶剤に溶解した際のワニスの保存安定性が低下し、また接着性シートの架橋反応が常温下で進行し易く、安定したシートライフが得られないといった傾向にある。また、エポキシ樹脂との架橋が密になりすぎ、接着性が低下する傾向にある。ポリウレタン樹脂(a-1)の酸価の下限は、好ましくは150当量/106g、より好ましくは200当量/106g、さらに好ましくは400当量/106gである。ポリウレタン樹脂(a-1)の酸価の上限は、好ましくは900当量/106g、より好ましくは800当量/106g、さらに好ましくは700当量/106gである。酸価を導入する方法は、ポリウレタンを構成するポリエステルポリオールに3官能以上の多官能のカルボン酸を共重合する方法、鎖延長剤にカルボン酸を含有するジオールを使用する方法などがある。」
(4)
「[0019] 樹脂組成物に用いるポリウレタン樹脂(a-1)は、その原料としてポリエステルポリオール(c)と、ポリイソシアネート(e)と、鎖延長剤と、を使用することが好ましい。
前記ポリエステルポリオール(c)の数平均分子量は、2000以上50000以下であることが好ましく、6000以上35000以下であることがより好ましい。数平均分子量が2000未満であれば、分子内のウレタン結合の数が多くなりすぎ半田耐熱性に劣り、接着性も低下する。反対に数平均分子量が50000を超える場合にはエポキシ樹脂との架橋点間距離が長くなりすぎ半田耐熱性が劣る。
[0020] 前記ポリエステルポリオール(c)は、ポリエステルポリオール(c)を構成する全酸成分の合計量を100モル%としたとき、芳香族酸が30モル%以上であることが好ましく、より好ましくは45モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上である。芳香族酸が30モル%未満の場合、塗膜の凝集力が弱く、各種基材への接着強度の低下が見られる。
[0021] 芳香族酸の例としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ジフェン酸、5-ヒドロキシイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸が例示できる。また、スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、5-(4-スルホフェノキシ)イソフタル酸、および、それらの金属塩、アンモニウム塩などのスルホン酸基またはスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシフェニルプロピオン酸、p-ヒドロキシフェニル酢酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4,4-ビス(p-ヒドロキシフェニル)バレリック酸などの芳香族オキシカルボン酸などを挙げることができる。これらのうちでもテレフタル酸、イソフタル酸、およびその混合物が塗膜の凝集力を上げる点で特に好ましい。
[0022] なお、その他の酸成分としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。
[0023] 一方、グリコール成分は脂肪族グリコール、脂環族グリコール、芳香族含有グリコール、エーテル結合含有グリコールなどからなることが好ましく、脂肪族グリコールの例としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、ジメチロールヘプタン、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどを挙げることができ、脂環族グリコールの例としては、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジオール、トリシクロデカンジメチロール、スピログリコール、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物などを挙げることができる。エーテル結合含有グリコールの例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、さらに、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコールエチレンオキサイド付加物、ネオペンチルグリコールプロピレンオキサイド付加物などを挙げることができる。芳香族含有グリコールの例としてはパラキシレングリコール、メタキシレングリコール、オルトキシレングリコール、1,4-フェニレングリコール、1,4-フェニレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物などの、ビスフェノール類の2つのフェノール性水酸基にエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドをそれぞれ1~数モル付加して得られるグリコール類などを例示できる。
[0024] また、分子構造の中に水酸基とカルボキシル基を有するオキシカルボン酸化合物もポリエステル原料として使用することができ、5-ヒドロキシイソフタル酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシフェニルプロピオン酸、p-ヒドロキシフェニル酢酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4,4-ビス(p-ヒドロキシフェニル)バレリック酸などを例示できる。
[0025] 樹脂組成物で使用されるポリエステルポリオール(c)中には、分岐骨格を導入する目的で、ポリエステルポリオール(c)を構成する全酸成分または全グリコール成分の合計を100モル%としたとき、0.1モル%以上5モル%以下の範囲内の3官能以上のポリカルボン酸類および/または3官能以上のポリオール類を共重合しても構わない。樹脂組成物にはエポキシ樹脂が配合されているので、分岐骨格を導入することにより、樹脂(a-1)の末端基、すなわち架橋剤と反応できる官能基が増え、架橋密度が高い、強度の高い塗膜を得ることができる。このような効果を示す3官能以上のポリカルボン酸の例としてはトリメリット酸、トリメシン酸、エチレングルコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3',4,4'-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4'-(ヘキサフロロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2'-ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)などの化合物を挙げることができ、一方、3官能以上のポリオールの例としてはグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどを挙げることができる。3官能以上のポリカルボン酸および/または3官能以上のポリオールを使用する場合は、それぞれ全酸成分あるいは全グリコール成分に対し0.1モル%以上5モル%以下、好ましくは0.1モル%以上3モル%以下の範囲で共重合するのが良く、5モル%を超えると塗膜の破断点伸度などの力学物性の低下が生じることがあり、また重合中にゲル化を起こす可能性がある。
[0026] 樹脂組成物で使用されるポリエステルポリオール(c)中には、必要によりカルボキシル基を導入する目的で、0.1モル%以上10モル%以下の範囲内での酸付加を行うことができる。酸付加にモノカルボン酸、ジカルボン酸、多官能カルボン酸化合物を用いると、エステル交換により分子量の低下が起こるので、酸無水物を用いることが好ましい。酸無水物としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸無水物、テトラヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3',4,4'-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4'-(ヘキサフロロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2'-ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)などの化合物が使用できる。本発明で使用されるポリエステルポリオール(c)を構成する全酸成分を100モル%としたとき、10モル%以上の酸付加を行うと、ゲル化を起こすことがあり、またポリエステルの解重合を起こし樹脂分子量を下げてしまうことがある。酸付加を行う方法としては、たとえば、ポリエステル重縮合後バルク状態で直接行う方法と、ポリエステルを溶液化し付加する方法がある。バルク状態での反応は、速度が速いが、多量に付加するとゲル化が起こることがあり、かつ高温での反応になるので、酸素ガスを遮断し酸化を防ぐなどの注意が必要である。一方、溶液状態での付加は、反応は遅いが、多量のカルボキシル基を安定に導入することができる。
[0027] 樹脂組成物において用いるポリウレタン樹脂(a-1)の製造に使用するポリイソシアネート(e)は、ジイソシアネート、その二量体(ウレトジオン)、その三量体(イソシアヌレート、トリオール付加物、ビューレット)などの一種、またはそれら二種以上の混合物であってもよい。たとえば、ジイソシアネート成分としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、3,3'-ジメトキシ-4,4'-ビフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、2,6-ナフタレンジイソシアネート、4,4'-ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,5-キシリレンジイソシアネート、1,3-ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、1,4-ジイソシアネ-トメチルシクロヘキサン、4,4'-ジイソシアネートシクロヘキサン、4,4'-ジイソシアネートシクロヘキシルメタン、イソホロンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネートなどが挙げられるが、黄変性の問題から、脂肪族・脂環族のジイソシアネートが好ましい。さらに入手の容易さと経済的な理由で、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが特に好ましい。
[0028] 樹脂組成物に用いるポリウレタン樹脂(a-1)を製造する上で、必要により鎖延長剤を使用してもよい。鎖延長剤としては、ポリエステルポリオール(c)の構成成分として既に記載した低分子量ジオール、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸などの1つのカルボン酸と2つの水酸基を有する化合物(d)などが挙げられる。その中で、酸価導入の容易さと、汎用溶剤への溶解性からジメチロールブタン酸が好ましい。また、水酸基導入の容易さから、トリメチロールプロパンの使用も好ましい。
[0029] 樹脂組成物に用いるポリウレタン樹脂(a-1)の製造方法としては、前記ポリエステルポリオール(c)および前記ポリイソシアネート(e)、必要により前記鎖延長剤を一括して反応容器に仕込んでも良いし、分割して仕込んでもよい。いずれにしても、系内のポリエステルポリオール、鎖延長剤の水酸基価の合計と、ポリイソシアネートのイソシアネート基の合計について、イソシアネート基/水酸基の官能基の比率が1以下で反応させる。またこの反応は、イソシアネート基に対して不活性な溶媒の存在下または非存在下に反応させることにより製造することができる。その溶媒としては、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸エチルなど)、エーテル系溶媒(ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなど)、ケトン系溶媒(シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、芳香族炭化水素系溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)およびこれらの混合溶媒が挙げられるが、環境負荷の低減の観点から、酢酸エチル、メチルエチルケトンが好ましい。反応装置としては、撹拌装置の具備した反応缶に限らず、ニーダー、二軸押出機のような混合混練装置も使用できる。
[0030] ウレタン反応を促進させるため、通常のウレタン反応において用いられる触媒、たとえば錫系触媒(トリメチルチンラウレート、ジメチルチンジラウレート、トリメチルチンヒドロキサイド、ジメチルチンジヒドロキサイド、スタナスオクトエートなど)、鉛系触媒(レッドオレート、レッド-2-エチルヘキソエートなど)、アミン系触媒(トリエチルアミン、トリブチルアミン、モルホリン、ジアザビシクロオクタン、ジアザビシクロウンデセンなど)などを使用することができるが、有害性の観点からアミン系触媒が好ましい。
[0031] 樹脂組成物に用いるポリエステル樹脂(a-2)の数平均分子量は、5.0×103以上1.0×105以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂(a-2)の数平均分子量が5.0×103未満だと接着剤の機械的強度が低下し、耐熱性、接着性が低下する傾向があり、数平均分子量が1.0×105を超えると、塗布時の溶液粘度が高すぎて、均一な塗膜が得られないことがある。ポリエステル樹脂(a-2)の数平均分子量の下限値は、好ましくは8.0×103であり、さらに好ましくは1.0×104である。またポリエステル樹脂(a-2)の数平均分子量の上限値は、好ましくは5.0×104であり、さらに好ましくは3.5×104である。
[0032] 樹脂組成物に用いるポリエステル樹脂(a-2)のガラス転移温度は0℃以下である。ガラス転移温度が0℃を超えると、接着性シートが硬く脆くなる傾向にあり、製造時に接着性シートがひび割れ作業性を低下させる場合がある。また接着剤が硬くなり、接着性が不十分になる傾向がある。ガラス転移温度は好ましくは-5℃以下、より好ましくは-10℃以下である。
[0033] 樹脂組成物におけるポリエステル樹脂(a-2)に用いられる酸成分およびグリコール成分としては、前記ポリエステルポリオール(c)に用いられる酸成分およびグリコール成分として挙げたものと同様の化合物を好適に用いることが可能である。ポリエステル樹脂(a-2)のガラス転移温度を0℃以下とする方法としては、脂肪族ジカルボン酸を共重合する方法、長鎖グリコールを共重合する方法、ポリアルキレングリコールを共重合する方法、ラクトンを共重合する方法などがある。
[0034] 脂肪族カルボン酸の例としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸などが挙げられる。長鎖グリコールの例としては、ノナンジオール、デカンジオール、ダイマー酸ジオールなどが挙げられる。ポリアルキレングリコールの例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、さらに、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。ラクトンの例としては、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンなどが挙げられる。ラクトンの中では、入手の容易さと経済的理由からε-カプロラクトンが好ましく、共重合方法としては、重縮合後にバルク状態でラクトンモノマーを投入しポリエステル樹脂に開環重合させる方法が好ましい。
[0035] 樹脂組成物においてポリウレタン樹脂(a-1)およびポリエステル樹脂(a-2)の配合割合は、質量比で95/5~70/30であり、好ましくは95/5~80/20、より好ましくは93/7~85/15である。ポリエステル樹脂(a-2)の配合量が30質量%より大きいと、室温および高温、高温高湿での接着性が低下する傾向にあり、5質量%未満であると、接着性シートが硬く脆くなる傾向にあり、製造時に接着性シートがひび割れ、作業性を低下させる傾向にある。
[0036] 樹脂組成物が含むエポキシ樹脂(b)としては、分子内に少なくとも2個以上エポキシ基を含むものであれば、特に限定されない。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、ジシクロペンタンジエン型エポキシ樹脂、3官能型(又は4官能型)のグリシジルアミン化物、ナフタレンジオールのジグリシジルエーテル化物、フェノール類のジグリシジルエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物、及びこれらのアルキル置換体、水素添加物などが例示されるが、より好ましくはジシクロペンタジエン骨格を有するジクロロペンタンジエン型エポキシ樹脂を用いる。
ジクロロペンタンジエン型エポキシ樹脂を用いると、硬化塗膜は、極めて吸湿率が小さくなり、また、硬化塗膜の架橋密度を下げて、基材からの剥離時の応力を緩和させることができるため、高湿度下での接着性が更に向上する効果を得る事ができる。
エポキシ樹脂は、1種類のものを単独で用いても良いし、2種類以上を混合して用いても良い。
その他のエポキシ樹脂としては、さらに、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステルなどのグリシジルエステルタイプ、あるいは3,4-エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油などの脂環族あるいは脂肪族エポキサイドが挙げられる。
[0037] 樹脂組成物に配合するエポキシ樹脂全体の配合量は、前記ポリウレタン樹脂(a-1)と前記ポリエステル樹脂(a-2)の合計100質量部に対して5質量部以上30質量部以下である。エポキシ樹脂全体の配合量が前記ポリウレタン樹脂(a-1)と前記ポリエステル樹脂(a-2)の合計100質量部に対して5質量部未満であると、架橋が不十分になり耐熱性が低下する傾向にあり、30質量部より大きくなると、未反応のエポキシ樹脂が多量に残存し、耐熱性、耐湿性が低下する傾向にある。
[0038] 樹脂組成物に使用するエポキシ樹脂(b)の硬化反応に、硬化触媒を使用することができる。たとえば2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾールなどのイミダゾール系化合物、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N'-メチル-N-(2-ジメチルアミノエチル)ピペラジン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネン-5、6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7などの三級アミン類、ならびに、これらの三級アミン類をフェノール、オクチル酸、四級化テトラフェニルボレート塩などでアミン塩にした化合物、トリアリルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジアリルヨードニウムヘキサフルオロアンチモナートなどのカチオン触媒、トリフェニルフォスフィンなどが挙げられる。これらのうち1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネン-5、6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7などの三級アミン類、ならびに、これらの三級アミン類をフェノール、オクチル酸、四級化テトラフェニルボレート塩などでアミン塩にした化合物が、熱硬化性および耐熱性、金属への接着性、配合後の保存安定性の点で好ましい。その際の配合量はポリウレタン樹脂(a-1)100質量部に対して0.01質量部以上1.0質量部以下の配合量であることが好ましい。この範囲であればポリウレタン樹脂(a-1)とエポキシ化合物の反応に対する効果が一段と増し、強固な接着性能を得ることができる。
[0039] 本発明の接着剤は、上記のような熱硬化性樹脂(上記の樹脂組成物であることが好ましい)と、導電性フィラーとを含む導電性接着剤であって、硬化した後において特定のTg(TMA法)、特定の引っ張り弾性率、特定の線膨張係数、特定の湿度膨張率を備えるものである。
[0040] 本発明の接着剤において導電性フィラーは特に限定されず、銅粉、銀粉、金粉であってよく、電解銅粉であることが好ましい。
[0041] 導電性フィラーの形状等も特に限定されず、柱状や鱗片状のものが挙げられるが、樹木状結晶構造(デンドライト状結晶構造)のものであることが好ましい。
[0042] 導電性フィラーは、銀メッキをした樹木状結晶構造(デンドライト状結晶構造)を有する電解銅粉であることがより好ましい。
[0043] また、本発明の接着剤が含む導電性フィラーの含有率は特に限定されないが、10~80質量%であることが好ましい。80質量%を超えると接着性が低下する傾向があり、10質量%未満であると導電性が低くなる傾向がある。
[0044] 導電性フィラーは、銀メッキの含有率が5質量%以上である電解銅粉であることが好ましい。また、前記電解銅粉を45質量%以上含むことがより好ましい。
[0045] 本発明は、このような本発明の接着剤の他、さらに、ポリイミドからなる絶縁層の一方の主面上に、本発明の接着剤からなる層を有するシールドフィルムを含む。
このようなシールドフィルムを、以下では「本発明のフィルム」ともいう。
[0046] 本発明の接着剤からなる層はシールド性を備えるため、フレキシブルプリント配線板用の電磁波シールドフィルムとして用いることができる。
[0047] 本発明のフィルムは、ポリイミドからなる絶縁層の一方の主面上に、本発明の接着剤からなる層を有する。
ポリイミドとしては、一般的な酸無水物とジアミンからなるポリアミドイミド溶液を塗工、乾燥、環化させたフィルムを用いるが、意匠性の問題で黒色ポリイミドを使うことが好ましい。黒色の工法はとくに限定されないが、カーボンブラックをポリアミドイミド溶液に混合してフィルム化したものが良い。
[0048] 本発明のフィルムは、ポリイミドからなる絶縁層の一方の主面上に、本発明の接着剤からなる層を有し、さらに、その上に保護膜(レリース)を有してもよい。この場合、保護膜(レリース)と絶縁層とで本発明の接着剤からなる層を挟む態様となる。
保護膜としてPETフィルム単独、紙を基材としたPETもしくは、OPPの積層物などが挙げられる。接着剤層が密着してしまう場合は、必要に応じて、離型剤を塗布したものを用いても良い。
[0049] 本発明のフィルムは、本発明の接着剤を、常法に従い、ポリイミドからなる絶縁層に塗布し、乾燥することにより得ることができる。また乾燥後、本発明の接着剤からなる層に保護膜を貼付けると、基材への裏移りを起こすことなく巻き取りが可能になり操業性に優れるとともに、本発明の接着剤からなる層が保護されることから保存性に優れ、使用も容易である。
[0050] 本発明のフィルムにおいて本発明の接着剤からなる層の厚さは特に限定されないが、1~500μmであることが好ましく、10~300μmであることがより好ましく、20~100μmであることがさらに好ましい。」
(5)
「実施例
[0051] 以下に本発明にかかる実施例および比較例を記す。
以下の示す合成方法によってポリエステルウレタン樹脂A、ポリエステルウレタン樹脂Bおよびポリエステル樹脂Cを得た。そして、各々の数平均分子量、ガラス転移温度、酸価を求めた。これらの測定評価項目の測定方法を以下に記す。
[0052]<酸価>
試料0.2gを20mlのクロロホルムに溶解し、指示薬としてフェノールフタレインを用い、0.1Nの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、樹脂106gあたりの当量(当量/106g)を算出した。
[0053]<ガラス転移温度>
測定試料10mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封し、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量分析計(DSC)DSC-200を用いて、20℃/minの昇温速度で測定し、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になる点で引いた接線との交点をガラス転移温度とした。
[0054]<数平均分子量>
試料を、樹脂濃度が0.5質量%程度となるようにテトラヒドロフランで溶解および/または希釈し、孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブランフィルターで濾過したものを測定用試料として、テトラヒドロフランを移動相とし示差屈折計を検出器とするゲル浸透クロマトグラフィーにより分子量を測定した。流速は1mL/分、カラム温度は30℃とした。カラムには昭和電工製KF-802、804L、806Lを用いた。分子量標準には単分散ポリスチレンを使用した。
[0055]<ポリエステルウレタン樹脂Aの合成>
撹拌器、温度計、流出用冷却器を装備した反応缶内に、テレフタル酸50質量部、イソフタル酸49質量部、無水トリメリット酸1質量部、2-メチル-1,3-プロパンジオール83質量部、1,4-ブタンジオール17質量部を仕込み、4時間かけて230℃まで徐々に昇温し、留出する水を系外に除きつつエステル化反応を行った。エステル化反応終了後30分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うと共に温度を240℃まで昇温し、更に1mmHg以下で30分後期重合を行った。その後、窒素にて常圧に戻し、無水トリメリット酸1質量部を投入し、220℃で1時間反応させることによってポリエステル樹脂を得た。
[0056] このようにして得られたポリエステル樹脂650質量部を、温度計、攪拌機、還流式冷却管および蒸留管を具備した反応容器に仕込み、さらにトルエン650質量部を仕込み溶解後、トルエン413質量部を蒸留させ、トルエン/水の共沸により反応系を脱水した。60℃まで冷却後、2,2-ジメチロールブタン酸(DMBA)を29.3質量部、メチルエチルケトン237質量部を加えた。DMBAが溶解後、ヘキサメチレンジイソシアネートを30.6質量部、さらに反応触媒としてジアザビシクロウンデセン(DBU)を0.03質量部加え、80℃で7時間反応させてから、メチルエチルケトン444質量部、トルエン148質量部を投入して固形分濃度を40重量%に調整し、ポリエステルウレタン樹脂Aを含む溶液を得た。ポリエステルウレタン樹脂Aを含む溶液を120℃で1時間乾燥することにより溶剤を除いたフィルムを用いて、上述した各測定評価項目に従い測定した。
その結果、酸価:360当量/106g、ガラス転移温度:40℃、数平均分子量:18,000であった。
[0057]<ポリエステルウレタン樹脂Bの合成>
撹拌器、温度計、流出用冷却器を装備した反応缶内に、テレフタル酸29質量部、イソフタル酸70質量部、無水トリメリット酸1質量部、2-メチル-1,3-プロパンジオール30質量部、1,4-ブタンジオール70質量部を仕込み、4時間かけて230℃まで徐々に昇温し、留出する水を系外に除きつつエステル化反応を行った。エステル化反応終了後30分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うと共に温度を240℃まで昇温し、更に1mmHg以下で30分後期重合を行った。その後、窒素にて常圧に戻し、無水トリメリット酸1質量部を投入し、220℃で1時間反応させることによってポリエステル樹脂を得た。
[0058] このようにして得られたポリエステル樹脂650質量部を、温度計、攪拌機、還流式冷却管および蒸留管を具備した反応容器に仕込み、さらにトルエン650質量部を仕込み溶解後、トルエン413質量部を蒸留させ、トルエン/水の共沸により反応系を脱水した。60℃まで冷却後、2,2-ジメチロールブタン酸(DMBA)を29.3質量部、メチルエチルケトン237質量部を加えた。DMBAが溶解後、ヘキサメチレンジイソシアネートを53.4質量部、さらに反応触媒としてジアザビシクロウンデセン(DBU)を0.03質量部加え、80℃で7時間反応させてから、メチルエチルケトン444質量部、トルエン148質量部を投入して固形分濃度を40重量%に調整し、ポリエステルウレタン樹脂Bを含む溶液を得た。ポリエステルウレタン樹脂Bを含む溶液を120℃で1時間乾燥することにより溶剤を除いたフィルムを用いて、上述した各測定評価項目に従い測定した。
その結果、酸価:630当量/106g、ガラス転移温度:10℃、数平均分子量:13,000であった。
[0059]<ポリエステル樹脂Cの合成>
撹拌器、温度計、流出用冷却器を装備した反応缶内に、テレフタル酸49質量部、イソフタル酸49質量部、無水トリメリット酸2質量部、エチレングリコール50質量部、ネオペンチルグリコール50質量部を仕込み、4時間かけて250℃まで徐々に昇温し、留出する水を系外に除きつつエステル化反応を行った。エステル化反応終了後30分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うと共に温度を250℃まで昇温し、更に1mmHg以下で30分後期重合を行った。その後、窒素にて常圧に戻し、ε-カプロラクトン140質量部を投入し、200℃で1時間反応させることによってポリエステル樹脂Cを得た。そして、ポリエステル樹脂Cを含む溶液を120℃で1時間乾燥することにより溶剤を除いたフィルムを用いて、上述した各測定評価項目に従い測定した。
その結果、酸価:40当量/106g未満、ガラス転移温度:-18℃、数平均分子量:28,000であった。
[0060]<エポキシ樹脂D>
エポキシ樹脂Dとして、東部化成社製、YDCN703(o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)を用意した。
[0061]<エポキシ樹脂E>
エポキシ樹脂Eとして、大日本インキ工業株式会社製、HP7200-H(ジシクロペンタンジエン型エポキシ樹脂)を用意した。
[0062]<電解銅粉F>
電解銅粉Fとして、10%銀メッキ品であるACAX-2(三井金属鉱業社製)を用意した。
[0063]<電解銅粉G>
電解銅粉Gとして、7%銀メッキ品であるACAX-2(三井金属鉱業社製)を用意した。
[0064]<実施例1~5>
上記のポリエステルポリウレタン樹脂A、ポリエステルポリウレタン樹脂B、ポリエステル樹脂C、エポキシ樹脂D、エポキシ樹脂E、電解銅粉Fおよび電解銅粉Gについて、下記第1表に示す比(質量部)で混合した。具体的には、電解銅粉F、G以外について、メチルエチルケトンとトルエンとを1:1(質量比)で混合して得た混合溶剤に加えて溶解した後、ここへ電解銅粉Fまたは電解銅粉Gを添加して撹拌分散して、導電性接着剤溶液を得た。
[0065][表1]
[図:0001413282000001.jpg]
[0066] 次に、第1表に示した実施例1~5に係る導電性接着剤溶液に対する比較例として、市販の導電性接着剤を3種類用意した。そして、各々を比較例1、比較例2および比較例3に係る導電性接着剤溶液とした。また、実施例1の組成から電解銅粉Fを除いたもの、すなわち、ポリエステルポリウレタン樹脂A、ポリエステル樹脂Cおよびエポキシ樹脂Eを30:5:5の質量比で混合したものを用意し、これを比較例4に係る導電性接着剤溶液とした。
[0067] 次に、第1表に示した実施例1~5に係る各々の導電性接着剤溶液および比較例1~4に係る各々の導電性接着剤溶液について、片面離型処理を行ったPETフィルムの片側に、乾燥後厚みが60μmとなるように塗布し、乾燥し、導電性接着剤溶液からなる層(接着剤層)がPETフィルムに付いてなる評価用フィルムを得た。
次に、評価用フィルムから接着剤層を剥離し、2枚のテフロン性の板に挟み、180℃、200秒の真空プレス(2MPa)を行い、続いてN2オーブン内におき、140℃、4時間のキュアを施した。
このようにして得られた処理後の接着剤層について、以下の方法でTg測定、線膨張係数測定、引張弾性率の測定、および湿度膨張率の測定を行った。
[0068]<Tg測定・線膨張係数測定>
熱機械分析装置(TMA:Thermal Mechanical Analysis)を用いて、ガラス転移温度を求めた。
また、線膨張係数の測定はサンプル長さを15mmとて、一定の引張荷重0.05Nで固定し、室温から5℃/分の割合で昇温させて線熱膨張係数(CTE)を求めた。フィルム測定はTD方向とした。
[0069]<引っ張り弾性率の測定>
JIS-K6251に準拠して測定した。サンプル幅を10mm、標点間距離を100mm、引張スピードを50mm/分とした。
[0070]<湿度膨張率>
サンプルサイズをMD200×TD250mmとし、測定装置として光学式非接触三次元測定機を用いて、20穴測定を行った。ここで穴あけは、IPC TM650 2,2,4に準記した。そして、調湿条件を20℃、55%RH、24時間とし、加湿条件を20℃、75%RH、24時間とした。すなわち、20℃において湿度を55%から75%に増やし、24経過後の湿度膨張率を測定した。得られた吸湿膨張率を「吸湿膨張率A」とした。
また、吸湿膨張率Aを得る場合と加湿条件のみを、20℃、95%RH、24時間に変更した場合についても吸湿膨張率を測定した。すなわち、20℃において湿度を55%から95%に増やし、24経過後の湿度膨張率を測定した。得られた吸湿膨張率を「吸湿膨張率B」とした。
[0071] 上記のようにして得た、処理後の接着剤層についてのTg測定、線膨張係数測定、引張弾性率の測定、および湿度膨張率を第2表に示す。
[0072] 次に、上記のようにして得た、第1表に示した実施例1~5に係る各々の導電性接着剤溶液および比較例1~4に係る各々の導電性接着剤溶液からなる評価用フィルムから、図1に示す評価基板[1]を作成した。作成方法を説明する。
まず、上記のようにして得た、第1表に示した実施例1~5に係る各々の導電性接着剤溶液および比較例1~4に係る各々の導電性接着剤溶液からなる評価用フィルムから接着剤層3を剥離し、Ni-SUS板1の主面に載置した。ここでNi-SUS板3はNiメッキを施したSUS304(厚さ:0.12mm)である。そして、真空プレス機を用いて100℃、10秒の真空プレス(2MPa)を行った。得られたNi-SUS板に接着剤層が付いたものをSUS補材5とする。
次に、真空プレス機を用いて180℃、200秒の真空プレス(2MPa)を行ってSUS補材5とFPC13を貼り合わせた。FPC13は銅箔11の上に金メッキからなる回路9が形成され、さらにそれらの一部を被覆するポリイミド製のカバーフィルム7が形成されたものである。ここ金メッキからなる回路9における、カバーフィルム7から露出した部分の開口面積は4mm2である。
次に、SUS補材5とFPC13とを貼り合わせて得られたものを、N2オーブン内におき、140℃、4時間のキュアを施し、続いて、最高温度260℃、10秒の条件のリフロー処理を施して、図1に示す評価基板[1](10)を得た。
[0073] このようにして得た評価基板[1]について、以下の方法で初期抵抗値、吸湿後抵抗値、ヒートサイクル後抵抗値、およびリフロー後抵抗値を測定した。
[0074]<初期抵抗値>
図1に示した2か所の測定部間における抵抗値を測定した。結果を第2表に示す。
なお、第2表では、初期抵抗値の他、吸湿後抵抗値、ヒートサイクル後抵抗値、およびリフロー後抵抗値についても、100mΩ未満であった場合を◎、100mΩ以上500mΩ未満であった場合を〇、500mΩ以上であった場合を×と示した。
[0075]<吸湿後抵抗値>
評価基板[1]を85℃、85%RHの雰囲気内に500時間保持した後、上記の初期抵抗値の場合と同様の方法で、抵抗値を測定した。結果を第2表に示す。
[0076]<ヒートサイクル後抵抗値>
評価基板[1]を-45℃の雰囲気内に30分保持した後、125℃の雰囲気内に30分保持する処理を1サイクルとし、これを1000サイクル繰り返した後、上記の初期抵抗値の場合と同様の方法で、抵抗値を測定した。結果を第2表に示す。
[0077]<リフロー後抵抗値>
評価基板[1]を最高温度260℃の雰囲気内に10秒を保持する処理を4回繰り返した後、上記の初期抵抗値の場合と同様の方法で、抵抗値を測定した。結果を第2表に示す。
[0078][表2]
[図:0001413282000002.jpg]
[0079] 次にシールド性能を測定した。具体的に記す。
前述の実施例1および比較例1における接着剤層を用いて、図1に示した評価基板[1]おけるNi-SUS板の部分を黒ポリイミドフィルム(カーボンブラックを含むポリイミドからなるフィルム)に変えた評価基板[2]を各々得た。評価基板[2]は評価基板[1]と同様の方法で製造することができる。
そして、実施例1および比較例1の接着剤層を含む各々の評価基板[2]について、シールド性能を測定した。
シールド性能は、信号発信機:Anritsu SIGNAL GENERATOR MG3601A、スペクトラムアナライザー:Agilent E4403B、増幅器:Anritsu PRE AMPLIFIER MH648Aを含むKEC(一般社団法人 関西電子工業振興センター)所有の装置を用いた。
その結果、実施例1および比較例1の接着剤層を含む各々の評価基板[2]は、シールド性能に差異はなかった。」
2 甲2に記載されている事項
申立人2が提出した甲第2号証(国際公開第2014/010524号。以下、「甲2」ともいう。)には、以下の事項が記載されている。
(1)
「[請求項2]
カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A´)と、
一分子に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(B)と、
イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択される少なくとも1の添加剤(C´)と、
導電性フィラー(D)と
を含有することを特徴とする硬化性導電性接着剤組成物。
[請求項3]
ポリウレタン樹脂(A)及びポリウレタン樹脂(A´)の少なくともいずれか1つは、酸価が3~100mgKOH/gであることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1に記載の硬化性導電性接着剤組成物。
・・・
[請求項9]
請求項1~8のいずれか1に記載の硬化性導電性接着剤組成物を用いた導電性接着剤層と、保護層を積層したことを特徴とする電磁波シールドフィルム。
・・・
[請求項12]
請求項9~11のいずれか1に記載の電磁波シールドフィルムの導電性接着剤層が加熱・加圧によりプリント基板のグランドと接続されたものであることを特徴とする回路基板。
(2)
「[0008]
本発明は上記に鑑み、レジンフローを制御し、かつ埋め込み性を確保出来る硬化性導電性接着剤組成物を提供することを目的とするものである。
課題を解決するための手段
・・・
[0010]
また、本発明は、カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A´)と、一分子に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(B)と、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択される少なくとも1の添加剤(C´)と、導電性フィラー(D)と、を含有することを特徴とする硬化性導電性接着剤組成物である。」
(3)
「[0115]
<第二実施形態>
本実施形態では、ポリウレタン樹脂(A´)及び添加剤(C´)の構成が第一実施形態と異なり、その他の構成は第一実施形態と同様である。よって、第一実施形態と同様の構成については説明を省略する。
[0116]
(ポリウレタン樹脂(A´))
本実施形態において使用するポリウレタン樹脂(A´)は、カルボキシル基を有するものである。このような反応性官能基を有するものとすることで、熱軟化温度が制御可能となるという作用によって、レジンフローを制御することができる。
[0117]
本実施形態で使用するポリウレタン樹脂(A´)は、カルボキシル基を含有するポリオール化合物(1)と、ポリオール(2)と必要に応じて短鎖ジオール化合物(3)、必要に応じてポリアミン化合物(4)と、ポリイソシアネート化合物(5)とを反応させて得られる。
より好ましくは、ポリウレタン樹脂(A´)は、カルボキシル基を含有するポリオール化合物(1)と、ポリオール(2)と、必要に応じて用いられる短鎖ジオール化合物(3)及び/又はジアミン化合物(4)の活性水素含有基(ポリオール化合物(1)のカルボキシル基は除く)とポリイソシアネート化合物(5)のイソシアネート基とを、0.5~1.5の当量比で反応させて得られる。なお、これら化合物(1)~(5)としては、第一実施形態に挙げたものが好ましく用いられる。
[0118]
(ポリウレタン樹脂(A´)の製造方法)
本実施形態のポリウレタン樹脂(A´)は、従来公知のポリウレタンの製造方法により製造することができる。具体的には、先ず、分子内に活性水素を含まない有機溶剤の存在下又は不存在下、カルボキシル基を含有するポリオール化合物(1)と、ポリオール(2)と、鎖伸長剤として必要に応じて用いられる短鎖ジオール化合物(3)と、必要に応じて用いられるポリアミン化合物(4)と、ポリイソシアネート化合物(5)とからなる反応成分を反応させて反応物(例えばポリウレタン樹脂、プレポリマー)を得る。プレポリマーは、一般的には末端イソシアネート基を有するプレポリマーが形成される配合組成とすればよい。また、ワンショット法又は多段法により、通常20~150℃、好ましくは60~110℃で、理論イソシアネート%となるまで反応させればよい。
[0119]
得られた反応物(プレポリマー)は、必要に応じて、ジアミン化合物(4)を反応させて所望の分子量となるように鎖伸長させてもよい。また、カルボキシル基を含有するポリオール化合物(1)、ポリオール(2)、短鎖ジオール化合物(3)、及びポリアミン化合物(4)の合計の活性水素含有基(化合物(1)のカルボキシル基を除く)と、ポリイソシアネート化合物(5)のイソシアネート基とを0.5~1.5の当量比で反応させることが好ましい。
[0120]
上記のようにして得られるポリウレタン樹脂の重量平均分子量(Mw)は1,000~1,000,000であることが好ましく、更には2,000~1,000,000であることが、ポリウレタンの柔軟性、密着性、耐熱性、及び塗工性能などの特性がより有効に発揮されるためにより好ましい。なお、本明細書における「重量平均分子量(Mw)」及び「数平均分子量(Mn)」とは、特に断らない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の値を意味する。
[0121]
ウレタン樹脂は、酸価が高いほど架橋点が増加し、耐熱性が高まる。しかしながら、酸価が高すぎるウレタン樹脂は、硬くなりすぎて柔軟性が低下したり、エポキシ樹脂や硬化剤などと反応しきれずに耐久性が低下したりするおそれがある。このため、ウレタン樹脂の酸価は、3~100mgKOH/gであることが好ましく、3~50mgKOH/gであることがさらに好ましい。」
(4)
「[0167]
(ポリウレタン樹脂(A´))
[合成例A´-1:カルボキシル基含有ポリウレタン(ウレア結合あり)]
攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素吹き込み管、及びマンホールを備えた反応容器を用意した。反応容器の内部を窒素ガスで置換した後、ジメチロールプロピオン酸(DMPA)6.0g、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(商品名「プラクセルCD220」、ダイセル社製、末端官能基定量による数平均分子量2000)100g、ジメチルホルムアミド(DMF)59.1gを仕込んだ。次いで、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)31.8g(OH基に対してNCO基が2倍当量)を加え、樹脂のNCO基が理論値の4.0%となるまで90℃で反応を行ってウレタンプレポリマー溶液を得た。得られたウレタンプレポリマー溶液に、DMF300.0gを添加し、40℃に冷却した後、イソホロンジアミン(IPDA)16.1gを滴下して、ウレタンプレポリマーのNCO基と反応させた。赤外吸収スペクトル分析で測定される、遊離イソシアネート基による2,270cm-1の吸収が消失するまで攪拌して、酸価が16.3mgKOH/gのポリウレタン樹脂(A´-1)のDMF溶液(固形分濃度30%)を得た。
[0168]
[合成例A´-2:カルボキシル基含有ポリウレタン(ウレア結合なし)]
攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素吹き込み管、及びマンホールを備えた反応容器を用意した。反応容器の内部を窒素ガスで置換した後、DMPA6.0g、1,4-ブタンジオール6.0g、プラクセルCD220 100g、及びDMF139.1gを仕込んだ。次いで、HDI27.1g(OH基に対してNCO基が当量)を加え、赤外吸収スペクトル分析で測定される、遊離イソシアネート基による2,270cm-1の吸収が消失するまで90℃で攪拌した後、DMF185.5gを添加し、酸価が18.1mgKOH/gのポリウレタン樹脂(A´-2)のDMF溶液(固形分濃度30%)を得た。ポリウレタン樹脂d2が、ウレア結合を有しないことを赤外吸収スペクトルにて確認した。」
(5)
「[0172]
[表9]
[図:0001413282000003.jpg]
」
(6)
「[0174]
[表10]
[図:0001413282000004.jpg]
」
(7)
「[0176]
[表11]
[図:0001413282000005.jpg]
」
(8)
「[0182]
[表13]
[図:0001413282000006.jpg]
」
(9)
「[0187]
[表15]
[図:0001413282000007.jpg]
」
3 甲3に記載されている事項
申立人2が提出した甲第3号証(特開2016-222748号公報。以下、「甲3」ともいう。)には、以下の事項が記載されている。
(1)
「【請求項1】
熱硬化性樹脂、硬化剤、および導電性複合微粒子を含む導電性接着剤であって、
熱硬化性樹脂がカルボキシル基を有しており、
導電性複合微粒子が銅粒子および前記銅粒子の表面を覆う銀被覆層を備え、かつ
該導電性複合微粒子表面の銅原子濃度が、銅原子濃度および銀原子濃度の合計100%中5~30%であることを特徴とする導電性接着剤。」
(2)
「【0006】
本発明は、上記背景を鑑みてなされたものであり、導電性微粒子が十分に分散安定化され塗工生産性が良好であり、例えば塗工によって形成した導電性接着シートおよび電磁波シールドシートが、湿熱経時処理や折り曲げた後でも高い接続信頼性を有する導電性接着剤の提供を目的とする。」
(3)
「【0100】
[合成例5]
攪拌機、温度計、滴下装置、還流冷却器、ガス導入管を備えた反応容器に、水酸基価110mgKOH/gのポリテトラメチレングリコール101.1部、ジメチロールブタン酸21.9部、溶剤としてメチルエチルケトン60部を仕込み、窒素気流下、攪拌しながら60℃まで加熱し、均一になるまで溶解した。続いてこの反応容器に、イソホロンジイソシアネート52.1部を投入し、80℃で8時間反応を行った。室温に冷却後、メチルエチルケトンで希釈することで固形分50%のカルボキシル基を含有するポリウレタン樹脂(熱硬化性樹脂5)溶液を得た。重量平均分子量は28,000、Tgは-10℃、酸価は47mgKOH/gであった。」
第6 当審合議体の判断
1 令和5年5月18日付けで通知した取消理由の概要
当審が令和5年5月18日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。申立理由1、申立理由2及び申立理由6のうち甲1を主引用例とするものを採用した。(上記第4参照。)
(新規性)本件発明1~8は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないものである。
(進歩性)本件発明1~8は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
2 甲1に記載された発明
甲1の実施例1(上記1(5)の[0064])には、「上記のポリエステルポリウレタン樹脂A、ポリエステルポリウレタン樹脂B、ポリエステル樹脂C、エポキシ樹脂D、エポキシ樹脂E、電解銅粉Fおよび電解銅粉Gについて、下記第1表に示す比(質量部)で混合した。具体的には、電解銅粉F、G以外について、メチルエチルケトンとトルエンとを1:1(質量比)で混合して得た混合溶剤に加えて溶解した後、ここへ電解銅粉Fまたは電解銅粉Gを添加して撹拌分散して、導電性接着剤溶液を得た」ことが記載されている。
また、第1表(上記1(5)の[0065]の[表1])によれば、実施例1の導電性接着剤溶液は、ポリエステルポリウレタン樹脂Aを30質量部、ポリエステル樹脂Cを5質量部、エポキシ樹脂Eを5質量部、電解銅粉Fを60質量部、とからなるものである。
したがって、「ポリエステルポリウレタン樹脂A」、「ポリエステル樹脂C」、「エポキシ樹脂E」、「電解銅粉F」について、それぞれ、上記1(5)の[0055]~[0056]、[0059]、[0061]、[0062]を参照すると、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「ポリエステルポリウレタン樹脂Aを30質量部、ポリエステル樹脂Cを5質量部、エポキシ樹脂Eを5質量部、電解銅粉Fを60質量部とからなる、導電性接着剤溶液であって、
前記ポリエステルポリウレタン樹脂Aは、
撹拌器、温度計、流出用冷却器を装備した反応缶内に、テレフタル酸50質量部、イソフタル酸49質量部、無水トリメリット酸1質量部、2-メチル-1,3-プロパンジオール83質量部、1,4-ブタンジオール17質量部を仕込み、4時間かけて230℃まで徐々に昇温し、留出する水を系外に除きつつエステル化反応を行い、エステル化反応終了後30分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うと共に温度を240℃まで昇温し、更に1mmHg以下で30分後期重合を行った後、窒素にて常圧に戻し、無水トリメリット酸1質量部を投入し、220℃で1時間反応させることによって得たポリエステル樹脂650質量部を、温度計、攪拌機、還流式冷却管および蒸留管を具備した反応容器に仕込み、さらにトルエン650質量部を仕込み溶解後、トルエン413質量部を蒸留させ、トルエン/水の共沸により反応系を脱水し、60℃まで冷却後、2,2-ジメチロールブタン酸(DMBA)を29.3質量部、メチルエチルケトン237質量部を加え、DMBAが溶解後、ヘキサメチレンジイソシアネートを30.6質量部、さらに反応触媒としてジアザビシクロウンデセン(DBU)を0.03質量部加え、80℃で7時間反応させてから、メチルエチルケトン444質量部、トルエン148質量部を投入して固形分濃度を40重量%に調整して得た、酸価:360当量/106g、ガラス転移温度:40℃、数平均分子量:18,000のものであり、
前記ポリエステル樹脂Cは、撹拌器、温度計、流出用冷却器を装備した反応缶内に、テレフタル酸49質量部、イソフタル酸49質量部、無水トリメリット酸2質量部、エチレングリコール50質量部、ネオペンチルグリコール50質量部を仕込み、4時間かけて250℃まで徐々に昇温し、留出する水を系外に除きつつエステル化反応を行い、エステル化反応終了後30分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うと共に温度を250℃まで昇温し、更に1mmHg以下で30分後期重合を行った後、窒素にて常圧に戻し、ε-カプロラクトン140質量部を投入し、200℃で1時間反応させることによって得たものであり、
前記エポキシ樹脂Eは、大日本インキ工業株式会社製、HP7200-H(ジシクロペンタンジエン型エポキシ樹脂)であり、
前記電解銅粉Fは、10%銀メッキ品であるACAX-2(三井金属鉱業社製)である、
導電性接着剤溶液」
3 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)
甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」は、「ポリエステル樹脂650質量部」、「2,2-ジメチロールブタン酸(DMBA)を29.3質量部」、及び、「ヘキサメチレンジイソシアネートを30.6質量部」を反応させて得たものであるから、本件発明1の「ポリオール及びポリイソシアネートの反応物であるポリウレタン樹脂(A)」に相当する。
(イ)
本件発明1の「カルボキシ基と反応しうる官能基を2つ以上有する架橋剤(B)」について、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明4において「前記架橋剤(B)が、エポキシ架橋剤を含む」とされている。また、甲1発明の「エポキシ樹脂E」は、「大日本インキ工業株式会社製、HP7200-H(ジシクロペンタンジエン型エポキシ樹脂)」であって、平均官能基数が「3.0個/分子」である(必要であれば、参考資料3の段落【0074】を参照。)。
したがって、甲1発明の「エポキシ樹脂E」、「前記エポキシ樹脂Eは、大日本インキ工業株式会社製、HP7200-H(ジシクロペンタンジエン型エポキシ樹脂)であり」は、本件発明1の「カルボキシ基と反応しうる官能基を2つ以上有する架橋剤(B)」に相当する。
(ウ)
甲1発明の「電解銅粉F」、「前記電解銅粉Fは、10%銀メッキ品であるACAX-2(三井金属鉱業社製)である」は、本件発明1の「導電性フィラー(C)」に相当する。
(エ)
甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」は、「酸価:360当量/106g」であり、この値は、「20.2mgKOH/g」(=360×56/1000)と換算されるから、甲1発明は、本件発明1の「前記ポリウレタン樹脂(A)の酸価が1mgKOH/g以上70mgKOH/g以下であり」を充足する。
(オ)
甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」は、「ポリエステル樹脂650質量部」、「2,2-ジメチロールブタン酸(DMBA)を29.3質量部」、及び、「ヘキサメチレンジイソシアネートを30.6質量部」を反応させて得たものであるから、その合成反応に、ウレア結合基を生じる反応(アミン基とイソシアネート基の反応)を含んでいない。
したがって、その「ウレア結合基濃度」は、0であるから、甲1発明は、本件発明1の「前記ポリウレタン樹脂(A)におけるウレア結合基濃度が、100mmol/kg以下であり」を充足する。
(カ)
甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」における芳香環濃度は、以下のとおりに計算される。
a
甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」は、「ポリエステル樹脂」と「2,2-ジメチロールブタン酸」と「ヘキサメチレンジイソシアネート」を反応させて得たものであり、その合成反応は、原料であるジオール(ポリエステル樹脂と2,2-ジメチロールブタン酸。HO-G-OHと略記する。)のヒドロキシル基とジイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネート。OCN-Y-NCOと略記する。)のイソシアネート基が反応してウレタン結合(-NHCOO-)が生じる反応(付加反応)である(下記の反応式を参照。)。
n・HO-G-OH + n・OCN-Y-NCO → (-G-OCONH-Y-NHCOO-)n
ここで、上記反応式から明らかなとおり、得られる「ポリエステルポリウレタン樹脂A」の重量は、反応した「ポリエステル樹脂」、「2,2-ジメチロールブタン酸」、及び、「ヘキサメチレンジイソシアネート」の重量の合計とほぼ等しい。
また、甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」の合成原料のうち、芳香環を含むものは「ポリエステル樹脂」のみであるから、得られた「ポリエステルポリウレタン樹脂A」に含まれている芳香環のモル数は、反応した「ポリエステル樹脂」に含まれている芳香環のモル数と等しい。
b
ポリエステルの合成反応は、原料であるポリカルボン酸(例えば、ジカルボン酸をHO2CO1-M-CO1O2Hと略記する。上付き数字は、原子を識別するために付した。以下同様。)のカルボキシル基とポリオール(例えば、ジオールをHO3-R-O3Hと略記する。)のヒドロキシル基が反応してエステル結合と水が生じる反応(脱水縮合反応)である。
また、得られるポリエステルのうち、原料であるポリカルボン酸に由来する部分は、そのカルボキシル基(-CO1O2H)からヒドロキシル(O2H)を除いた部分であり、また、原料であるポリアルコールに由来する部分は、そのヒドロキシル基(O3H)からHを除いた部分である(下記の反応式を参照。)。
n・HO2CO1-M-CO1O2H + n・HO3-R-O3H → (-M-CO1O3-R-O3CO1-)n + 2n・H2O2
したがって、ジカルボン酸(その分子量をA、重量をaとする。)とジオール(その分子量をG、重量をgとする。)が反応して得られたポリエステルの重量は、ジカルボン酸から2つのヒドロキシル(O2H)の重量17×2を除いた部分の重量と、ジオールから2つのHの質量2の部分を除いた部分の重量とを合計することで計算でき、a×(A-17×2)/A+g×(G-2)/Gとなる。
c
また、ポリカルボン酸としてトリメリット酸無水物(M(CO1O4CO1)(CO1O2H)と略記する。)を原料として用いる場合は、得られるポリエステルのうち、原料であるトリメリット酸無水物に由来する部分は、そのカルボキシル基(-CO1O2H)からヒドロキシル(O2H)を除き、その酸無水物基(CO1O4CO1)からO4を除いた部分である(下記の反応式を参照。)。
n・M(CO1O4CO1)(CO1O2H) + 3n・HO3-R-O3H → (-M-(CO1O3-R-O3CO1-)3)n + 2n・H2O2
したがって、ジカルボン酸(その分子量をA、重量をaとする。)とトリメリット酸無水物(その分子量をB、重量をbとする。)とジオール(その分子量をG、重量をgとする。)が反応して得られたポリエステルの重量は、a×(A-17×2)/A+b×(B-17-16)/B+g×(G-2)/Gとなる。
d
甲1発明の「ポリエステル樹脂」は、「テレフタル酸50質量部」、「イソフタル酸49質量部」、「無水トリメリット酸1質量部」、「2-メチル-1,3-プロパンジオール83質量部」、「1,4-ブタンジオール17質量部」を合成原料として得たポリエステル(以下、「中間体ポリエステル」ともいう。)に、さらに、「無水トリメリット酸1質量部」を反応させたものである。
また、中間体ポリエステルの合成原料に含まれるカルボキシル基の総モル数は、テレフタル酸、イソフタル酸、無水トリメリット酸の分子量が、それぞれ、166、166、192であるから、1.21(=50/166×2+49/166×2+1/192×3)であり、ヒドロキシル基の総モル数は、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールの分子量が、ともに、88であるから、2.27(=83/88×2+17/88×2)である。
e
上記dのとおり、中間体ポリエステルの合成原料に含まれるヒドロキシル基の総モル数は、カルボキシル基の総モル数よりも多いが、ポリエステルの合成反応(1個のカルボキシル基と1個のヒドロキシル基が反応して1個のエステル結合が生じる反応)は、カルボキシル基とヒドロキシル基が1:1で反応する。したがって、カルボキシル基(テレフタル酸、イソフタル酸、無水トリメリット酸)は全てヒドロキシル基と反応してエステル結合を生じるが、ヒドロキシル基(2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール)は、一部未反応で残ることになる。
f
また、カルボキシル基と反応するヒドロキシル基の総モル数は、カルボキシル基の総モル数と等しいから、1.21であって、全体の53.3%(=1.21/2.27×100)である。
したがって、2-メチル-1,3-プロパンジオール83質量部のうち、53.3%にあたる44.2質量部が反応し、1,4-ブタンジオール17質量部のうち、9.1質量部が反応する(残りは未反応で残る)。
g
上記b~fによれば、得られた中間体ポリエステルの重量は、131.6(=50×((166-17×2)/166)+49×((166-17×2)/166)+1×((192-17-16)/192)+44.2×((88-1×2)/88)+9.1×((88-1×2)/88))質量部である。
また、中間体ポリエステルに、さらに、「無水トリメリット酸1質量部」を反応させて得られたポリエステル樹脂の重量は、132.4(=131.6+1×((192-17-16)/192))質量部である。
h
ポリエステル樹脂の合成原料のうち、芳香環を含むのは、テレフタル酸、イソフタル酸、及び、無水トリメリット酸であるから、そのモル数の合計は、0.607(=50/166+49/166+1/192+1/192)モルである。
したがって、甲1発明の「ポリエステル樹脂」の芳香環濃度は、4585(=0.607/132.4×106)mmol/kgである。
i
甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」は、「ポリエステル樹脂650質量部」と「2,2-ジメチロールブタン酸29.3質量部」と「ヘキサメチレンジイソシアネート30.6質量部」を反応させて得たものであり、2,2-ジメチロールブタン酸とヘキサメチレンジイソシアネートの分子量はそれぞれ148.2、168.2である。また、ポリエステル樹脂の分子量は不明であるが、甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」の数平均分子量:18,000であることから、その数平均分子量は18,000以下であり、甲1には、「前記ポリエステルポリオール(c)の数平均分子量は、2000以上50000以下であることが好ましく、6000以上35000以下であることがより好ましい。数平均分子量が2000未満であれば、分子内のウレタン結合の数が多くなりすぎ半田耐熱性に劣り、接着性も低下する。反対に数平均分子量が50000を超える場合にはエポキシ樹脂との架橋点間距離が長くなりすぎ半田耐熱性が劣る。」(上記1(4)の[0019])と記載されているから、2000以上、あるいは、6000以上であると解することが妥当である。
j
「ポリエステル樹脂」の数平均分子量をNとすると、甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」の合成原料であるジオール(ポリエステル樹脂と2,2-ジメチロールブタン酸)のモル数の合計は、650/N+29.3/148.2=650/N+0.198であり、仮に、Nの値として2000、6000、18000を当てはめると、それぞれ、0.523、0.306、0.234となる。
また、ジイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネート)のモル数は、0.182(=30.6/168.2)である。
k
上記jのとおり、甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」の合成原料に含まれるジオール(ヒドロキシル基)の総モル数は、ポリエステル樹脂の数平均分子量(N)の値が不明であるため明確に定めることはできないものの、少なくとも、0.198であるから、ジイソシアネート(イソシアネート基)の総モル数よりも多い。
したがって、ジイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネート)のイソシアネート基は、全てジオールのヒドロキシル基と反応してウレタン結合を生じるが、ジオール(ポリエステル樹脂と2,2-ジメチロールブタン酸)のヒドロキシル基は、一部未反応で残ることになる。
l
ジイソシアネートと反応するジオールの総モル数は、ジイソシアネートの総モル数と等しいから、0.182である。したがって、仮に、Nの値が2000である場合に、ジイソシアネートと反応するジオールの割合は、34.8%(=0.182/0.523×100)であり、残りは未反応で残る。また、仮に、Nの値が6000、18000である場合にジイソシアネートと反応するジオールの割合は、それぞれ、59.5%、77.8%である。
m
上記a、h~lを総合すると、甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」の重量は、仮に、Nの値が2000である場合には、ポリエステル樹脂650質量部の34.8%にあたる226質量部と、2,2-ジメチロールブタン酸29.3質量部の34.8%にあたる10.2質量部と、ヘキサメチレンジイソシアネート30.6質量部が反応して得られたものであるから、その重量は、267(=226+10.2+30.6)質量部である。
また、仮に、Nの値が6000、18000である場合には、それぞれ同様の計算により、435、559質量部である。
n
また、甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」に含まれている芳香環のモル数は、反応した「ポリエステル樹脂」に含まれている芳香環のモル数と等しい(上記a)ので、仮に、Nの値が2000である場合には、上記h、mから、1036000(=226×4585)mmol/kgである。
また、このとき、「ポリエステルポリウレタン樹脂A」における芳香環濃度は、3881(=1036000/267)mmol/kgである。
また、仮に、Nの値が6000、18000である場合には、それぞれ同様の計算により、4079、4150mmol/kgである。
(キ)
甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」におけるウレタン結合基濃度は、以下のとおりに計算される。
a
甲1発明のポリエステルポリウレタン樹脂Aに含まれているウレタン結合基のモル数は、反応したジイソシアネートのモル数(上記(カ)jのとおり、0.182)の2倍であり、得られたポリエステルポリウレタン樹脂Aの重量は、上記(カ)mのとおりであるから、甲1発明のポリエステルポリウレタン樹脂Aにおけるウレタン結合濃度は、仮に、Nの値が2000である場合には、1363(=0.182×2/267×106)mmol/kgである。
b
また、仮に、Nの値が6000、18000である場合には、それぞれ、837mmol/kg、651mmol/kgである。
(ク)
そうすると、本件発明1と甲1発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「ポリオール及びポリイソシアネートの反応物であるポリウレタン樹脂(A)と、
カルボキシ基と反応しうる官能基を2つ以上有する架橋剤(B)と、
導電性フィラー(C)とを少なくとも含む接着剤組成物であって、
前記ポリウレタン樹脂(A)の酸価が1mgKOH/g以上70mgKOH/g以下であり、
前記ポリウレタン樹脂(A)におけるウレア結合基濃度が、100mmol/kg以下である接着剤組成物。」
<相違点1>
本件発明1は、「前記ポリウレタン樹脂(A)における芳香環濃度が、1,000mmol/kg以上3,000mmo1/kg以下であり」と特定されているのに対し、甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」における芳香環濃度は、3,881~4,150mmol/kgであって、この特定を充足しない点
<相違点2>
本件発明1は、「前記ポリウレタン樹脂(A)におけるウレタン結合基濃度が1,000mmol/kg以上5,000mmol/kg以下であり」と特定されているのに対し、甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」におけるウレタン結合基濃度は、651~1,363mmol/kgであって、この特定を充足するとはいえない点
<相違点3>
本件発明1は、「前記ポリオールが、2,2-ジメチロールプロピオン酸を含むものである」と特定されているのに対し、甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」は、この特定を充足しない点
イ 判断
(ア)甲1には、甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」における芳香環濃度に着目し、その濃度を、「1,000mmol/kg以上3,000mmo1/kg以下」に限定することを動機づけるような記載も示唆もない。
また、申立人2が提出した甲2、3にも、甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」における芳香環濃度に着目し、その濃度を、「1,000mmol/kg以上3,000mmo1/kg以下」に限定することを動機づけるような記載も示唆もない。
そうすると、当業者といえども、甲1発明の「ポリエステルポリウレタン樹脂A」において、その芳香環濃度を変更して相違点1に係る事項を充足するものとすることを容易になし得たとは認められない。
(イ)以上によれば、相違点2、3についてさらに検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲1~3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとは認められない。
(ウ)また、本件発明1は、相違点1~3に係る構成も備えていることによって、「膨張する前であっても、常温(23℃)における部材への初期接着力(仮固定性)を示すため、隙間に挿入した後、直ちに接着テープを部材へ貼付できるため、接着位置ズレが生じにくくなる。また、膨張した後であっても優れた接着強度を維持できることから、2以上の被着体の固定に使用できることはもとより、一方の被着体が有する空隙内に他方の被着体を固定する用途、被着体が有する空隙内を前記接着テープで充填する用途等で好適に使用することができる。」(本件特許明細書の段落【0007】)という効果を奏するものである。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとも、また、甲1に記載された発明及び甲1~3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとも認められない。
(2)本件発明3~8について
本件発明3~8は、本件発明1を直接又は間接的に引用しさらに限定した発明に該当する。
また、上記のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1~3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとは認められないものである。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件発明3~8も本件発明1と同様の理由により甲1に記載された発明及び甲1~3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとは認められないものである。
第7 取消理由通知で採用しなかった特許異議の申立理由について
取消理由通知で採用しなかった特許異議の申立理由は、申立人1が申し立てた申立理由3(実施可能要件)、申立理由4(サポート要件)、及び、申立人2が申し立てた申立理由6(進歩性)のうち甲第2号証を引用するものである(上記第4参照。)。
1 申立理由3(実施可能要件)、申立理由4(サポート要件)について
(1)申立ての理由の概要
申立理由3、4に関する主張(特許異議申立書29~37頁、「イ.(理由3)実施可能要件又はサポート要件(特許法第36条第4項第1号又は特許法第36条第6項第1号)(同法第113条第4号)」の項)は、申立理由3に関するものと申立理由4に関するものとが区別されることなくまとめて記載されており、概略、以下のア~ウの主張をしている。
ア(申立人1の特許異議申立書29~35頁、「イ-1)」の項)
本件特許の請求項1には、前記ポリウレタン樹脂(A)の酸価、前記ポリウレタン樹脂(A)におけるウレア結合基濃度、及び前記ポリウレタン樹脂(A)における芳香環濃度がそれぞれ特定の範囲にあることが規定されているが、実施例を含め、本件特許明細書を精査しても、これらの特性パラメータの数値範囲が本件特許発明の目的である「高温高湿環境下における密着性」及び「耐熱性」の向上にどのように寄与しているのか全く不明である。実際、本件特許明細書には、これらの特性パラメータの数値範囲の上下限の臨界的意義が全く記載されていない。
従って、これらの特性パラメータが本件特許発明の目的である「高温高湿環境下における密着性」及び「耐熱性」の向上にどのように寄与するのかが全く不明であり、当業者は、本件特許明細書を見ても、本件特許発明の構成と効果の間にどのような因果関係があるのかを技術思想として理解することができない。
これらの特性パラメータに関しては、本件特許明細書では、段落【0048】~【0051】、【0044】、【0031】においてのみ言及されているが、そこでは、特性パラメータの好ましい数値範囲を示すにとどまり、これらの特性パラメータの数値範囲の上下限の臨界的意義が全く記載されていない。また、いずれの特性パラメータの数値範囲も、一般的に採用される数値を含む極めて広い範囲をとっている。
従って、本件特許は、本件特許請求項1の発明に規定される「酸価」、「ウレア結合基濃度」、及び「芳香環狼度」の幅広い数値範囲の全てについて発明の効果が認められるわけではなく、せいぜい本件特許明細書の実施例で行なった特定の数値範囲内にのみ発明の効果があったと見るべきである。
イ(申立人1の特許異議申立書35~37頁、「イ-2)」の項)
本件特許の請求項1の発明で規定される「酸価」の数値範囲について、本件特許明細書の比較例2と比較例3には相互に矛盾する結果が示されており、当業者は、本件特許明細書の実施例に基づいて本件特許の請求項1の発明で規定される「酸価」の数値範囲の技術的意義を全く理解できない。つまり、比較例2及び比較例3は、「酸価」が低すぎても(比較例2)、高すぎても(比較例3)、「耐リフロー性」及び「耐湿熱性」に劣ることを示している。当業者は、この相互に矛盾する結果を合理的に解釈できない。このため、当業者は、本件特許明細書の実施例に基づいて本件特許の請求項1の発明で規定される「酸価」の数値範囲の技術的意義を全く理解できない。
ウ(申立人1の特許異議申立書37頁、「イ-3)」の項)
本件特許の請求項1の発明は、三つの成分(A),(B),(C)を含む「接着剤組成物」という「組成物」の発明であり、「組成物」の発明の場合、有効成分が極く微量しか含まれていなければ、その有効成分の意図する効果を全く発揮することができず、発明の目的を達成することができないから、「組成物」に含まれる各成分の配合割合を請求項1で規定することが必要であるが、本件特許の請求項1の発明では、三つの成分(A),(B),(C)の配合割合は全く規定されていない。
従って、本件特許の請求項1の発明は、その全ての範囲にわたって本件特許発明の目的を達成することができるものとは認められない。
(2)申立理由3(実施可能要件)について
ア 判断手法
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明の記載について、「経済産業省令で定めるところにより、その発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」、でなければならないと定めている。そして、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることである。また、明細書の記載が実施可能要件を満たすと言えるためには、明細書にその物を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を作ることができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。また、「使用できる」といえるためには、特許発明に係る物について、例えば、発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることができることを要するというべきである。
イ 検討
本件発明1は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項(上記第3を参照。)により特定されるとおりの接着剤組成物であり、当業者であれば、特段の説明が本件特許明細書に記載されていなくても、その構成成分である「ポリオール及びポリイソシアネートの反応物であるポリウレタン樹脂(A)」、「カルボキシ基と反応しうる官能基を2つ以上有する架橋剤(B)」、「導電性フィラー(C)」を混合することなどによって製造することができることは明らかである。
また、上記の構成成分について、「前記ポリウレタン樹脂(A)の酸価がlmgKOH/g以上70mgKOH/g以下であり」、「前記ポリウレタン樹脂(A)におけるウレア結合基濃度が、100mmol/kg以下であり」、「前記ポリウレタン樹脂(A)における芳香環濃度が、1,000mmol/kg以上3,000mmo1/kg以下であり」、「前記ポリウレタン樹脂(A)におけるウレタン結合基濃度が1,000mmol/kg以上5,000mmol/kg以下であり」、及び、「前記ポリオールが、2,2-ジメチロールプロピオン酸を含むものである」という事項による限定がなされているが、それぞれ、本件特許明細書の段落【0012】~【0052】、【0053】~【0059】、【0061】~【0066】に詳しく説明が記載されているので、各構成成分を用意することができることも明らかである。
また、具体的に接着剤組成物を製造した例(実施例)が10例記載されている。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認められる。
ウ 申立人1の主張について
実施可能要件違反についての判断手法は上記アのとおりのものであるところ、上記(1)ア~ウの主張は、「せいぜい本件特許明細書の実施例で行なった特定の数値範囲内にのみ発明の効果があった」(上記(1)ア)とか、「当業者は、本件特許明細書の実施例に基づいて本件特許の請求項1の発明で規定される「酸価」の数値範囲の技術的意義を全く理解できない。」(上記(1)イ)とか、「三つの成分(A),(B),(C)の配合割合は全く規定されていないから、本件特許の請求項1の発明は、その全ての範囲にわたって本件特許発明の目的を達成することができるものとは認められない」(上記(1)ウ)などというものであって、いずれも、実施可能要件違反が存在することを立証する内容を含んでいないと認められる。
(3)申立理由4(サポート要件)について
ア 判断手法
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである〔知財高裁、平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。
イ 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には以下の記載がある。
「【0007】
しかしながら、上記文献に記載の導電性樹脂組成物は、耐熱性や高温高湿環境に曝した後の密着性等に関して改良は見られるものの、産業用や自動車などの車載用の使用に耐えうる高温高湿環境下に置かれた後の密着性、耐熱性を満足させることはできなかった。
【0008】
そこで、本発明では、産業用や自動車などの車載用の使用に耐え得る、高温高湿環境後の密着性、耐熱性に優れた導電性接着剤、それを用いた導電性接着剤シート及び電磁波シールドフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の接着剤組成物は、ポリオール及びポリイソシアネートの反応物であるポリウレタン樹脂(A)と、カルボキシ基と反応しうる官能基を2つ以上有する架橋剤(B)と、導電性フィラー(C)を少なくとも含む接着剤組成物であって、前記ポリウレタン樹脂の酸価が1mgKOH/g以上70mgKOH/g以下であり、前記ポリウレタン樹脂におけるウレア結合基濃度が、100mmol/kg以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接着剤組成物は、高温高湿環境下における密着性と、耐熱性のいずれにも優れるものである。その結果、本発明の接着剤組成物、導電性接着剤シート及び電磁波シールドフィルムは、産業用や自動車などの車載用の使用に耐えうるものとなる。」
「【発明を実施するための形態】
【0011】
接着剤組成物
本発明の接着剤組成物は、ポリウレタン樹脂(A)と、カルボキシ基と反応しうる官能基を2つ以上有する架橋剤(B)と、導電性フィラー(C)とを含む。
【0012】
前記ポリウレタン樹脂(A)は、ポリオール(a1)及びポリイソシアネート(a2)の反応物である。なお本発明において、成分X及び成分Yの反応物という場合、該反応物には、成分Xと、成分Yと、成分X及び成分Y以外の成分Zとの反応物も含まれるものとする。
【0013】
前記ポリオール(a1)としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、高分子量ポリオール、親水性基を有するポリオールを含むことが好ましい。
・・・
【0015】
前記高分子量ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール等が挙げられる。中でも、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールを含むことが好ましい。
前記高分子量ポリオールに含まれる水酸基の数は、2個以上であり、好ましくは5個以下、より好ましくは3個以下である。
・・・
【0033】
前記ポリオールとしては、例えば、上記ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール及びポリオレフィンポリオール以外のポリオールを用いることができ、具体的には、アニオン性基を有するポリオール、カチオン性基を有するポリオール、及び、ノニオン性基を有するポリオール等の親水性基を有するポリオールを使用することができ、アニオン性基を有するポリオールを含むことが好ましい。
【0034】
前記アニオン性基を有するポリオールとしては、例えば、カルボキシ基を有するポリオール及びスルホン酸基を有するポリオール等が挙げられる。
【0035】
前記カルボキシ基を有するポリオールとしては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸等のヒドロキシ酸;及び前記カルボキシ基を有するポリオールと前記ポリカルボン酸との反応物などが挙げられる。前記ヒドロキシ酸としては、2,2-ジメチロールプロピオン酸が好ましい。
【0036】
前記ポリオール(a1-1)にカルボキシ基を有するポリオールが含まれる場合、その含有量は、ポリオール(a1-1)の合計100質量部中、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
・・・
【0048】
前記ウレタン樹脂(A)は、酸基(カルボキシ基、スルホン酸基等)を有していてもよく、前記ウレタン樹脂(A)の酸価は、好ましくは1mgKOH/g以上70mgKOH/g以下、より好ましくは2mgKOH/g以上45mgKOH/g以下である。本発明でいう酸価は、前記ウレタン樹脂(A)の製造に使用したカルボキシ基やスルホン酸基を有するポリオール等の酸基含有化合物の使用量に基づいて、前記ウレタン樹脂(A)1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数として算出した理論値である。
【0049】
前記ウレタン樹脂(A)におけるウレア結合基濃度は、好ましくは100mmol/kg以下であり、好ましくは80mmol/kg以下、さらに好ましくは50mmol/kg以下である。
本発明において、ウレア結合基とは、-NH-CO-NH-を意味するものとし、ウレア結合基量は、前記ウレタン樹脂(A)の原料に含まれるイソシアネート基とアミノ基の存在量に基づいて算出した値を表すものとする。
【0050】
前記ウレタン樹脂(A)におけるウレタン結合基濃度は、好ましくは1,000mmol/kg以上、より好ましくは1,300mmol/kg以上、さらに好ましくは1,700mmol/kg以上であり、好ましくは5,000mol/kg以下、より好ましくは3,500mol/kg以下、さらに好ましくは3,000mol/kg以下である。
なお本願発明において、ウレタン結合基とは、-NH-CO-O-を意味するものとし、ウレタン結合基濃度は、前記ウレタン樹脂(A)の原料に含まれるイソシアネート基とヒドロキシ基の存在量に基づいて算出した値を表すものとする。
【0051】
前記ウレタン樹脂(A)における芳香環濃度は、0mmol/kg以上であり、例えば1,000mmol/kg以上、好ましくは2,000mmol/kg以上であってもよく、例えば5,000mmol/kg以下、好ましくは3,000mmol/kg以下であってもよい。」
「【実施例】
【0081】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0082】
(合成例1:ウレタンポリマー組成物(1)の調製)
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸の脱水縮合反応により得られたポリマー主鎖末端にOH基を有する平均分子量1,000のポリエステルポリオール200質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート47質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸11質量部、メチルエチルケトン315質量部の混合溶剤中で反応させることによって、ウレタン樹脂(1)を含む不揮発分45質量%のウレタンポリマー組成物(1)を得た。
このウレタンポリマー組成物(1)における前記ウレタン樹脂(1)中の芳香環濃度は2,344mmol/kgであり、ウレア結合基濃度は0mmol/kg、ウレタン結合基濃度は2,172mmol/kg、酸価は17.4mgKOH/g、重量平均分子量が20,000であった。
【0083】
(合成例2:ウレタンポリマー組成物(2)の調製)
合成例1と同様の方法により、芳香環濃度、ウレア結合基濃度、ウレタン結合基濃度、酸価が前記ウレタン樹脂(1)と同一であり、重量平均分子量7,500であるウレタン樹脂(2)を含む不揮発分45質量%のウレタンポリマー組成物(2)を得た。
【0084】
(合成例3:ウレタンポリマー組成物(3)の調製)
合成例1と同様の方法により、芳香環濃度、ウレア結合基濃度、ウレタン結合基濃度、酸価が前記ウレタン樹脂(1)と同一であり、重量平均分子量が120,000であるウレタン樹脂(3)を含む不揮発分45質量%のウレタンポリマー組成物(3)を得た。
【0085】
(合成例4:ウレタンポリマー組成物(4)の調製)
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、合成例1と同じ分子量1,000のポリエステルポリオール200質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート36質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸1.5質量部、メチルエチルケトン290質量部の混合溶剤中で反応させることによって、ウレタン樹脂(4)を含む不揮発分45質量%のウレタンポリマー組成物(4)を得た。
このウレタンポリマー組成物(4)における前記ウレタン樹脂(4)中の芳香環濃度は2,549mmol/kgであり、ウレア結合基濃度は0mmol/kg、ウレタン結合基濃度が1,783mmol/kg、酸価は2.7mgKOH/g、重量平均分子量は28,000であった。
【0086】
(合成例5:ウレタンポリマー組成物(5)の調製)
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、合成例1と同じ分子量1,000のポリエステルポリオール200質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート56質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸18質量部、メチルエチルケトン334質量部の混合溶剤中で反応させることによって、ウレタン樹脂(5)を含む不揮発分45質量%のウレタンポリマー組成物(5)を得た。
このウレタンポリマー組成物(5)における前記ウレタン樹脂(5)中の芳香環濃度は2,210mmol/kgであり、ウレア結合基濃度は0mmol/kg、ウレタン結合基濃度は2,426mmol/kg、酸価は27mgKOH/g、重量平均分子量は41,000であった。
(合成例6:ウレタンポリマー組成物(6)の調製)
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、合成例1と同じ分子量1,000のポリエステルポリオール200質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート75質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸33質量部、メチルエチルケトン377質量部の混合溶剤中で反応させることによって、ウレタン樹脂(6)を含む不揮発分45質量%のウレタンポリマー組成物(6)を得た。
このウレタンポリマー組成物(6)における前記ウレタン樹脂(6)中の芳香環濃度は1,959mmol/kgであり、ウレア結合基濃度は0mmol/kg、ウレタン結合基濃度は2,901mmol/kg、酸価は45mgKOH/g、重量平均分子量は25,000であった。
(合成例7:ウレタンポリマー組成物(7)の調製)
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、合成例1と同じ分子量1,000のポリエステルポリオール200質量部、イソホロンジイソシアネート140質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸52質量部、ネオペンチルグリコール5.8質量部、メチルエチルケトン487質量部の混合溶剤中で反応させることによって、ウレタン樹脂(7)を含む不揮発分45質量%のウレタンポリマー組成物(7)を得た。
このウレタンポリマー組成物(7)における前記ウレタン樹脂(7)中の芳香環濃度は1,517mmol/kgであり、ウレア結合基濃度は0mmol/kg、ウレタン結基濃度は3,166mmolkg、酸価は55mgKOH/g、重量平均分子量は25,000であった。
【0087】
(合成例8:ウレタンポリマー組成物(8)の調製)
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、ポリカーボネートジオール(宇部興産製、エタナコールUH-100)200質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート47質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸11質量部、メチルエチルケトン315質量部の混合溶剤中で反応させることによって、ウレタン樹脂(8)を含む不揮発分45質量%のウレタンポリマー組成物(8)を得た。
このウレタンポリマー組成物(8)における前記ウレタン樹脂(8)中の芳香環濃度は0mmol/kgであり、ウレア結合基濃度は0mmol/kg、ウレタン結合基濃度は2,172mmol/kg、酸価は17.4mgKOH/g、重量平均分子量は35,000であった。
【0088】
(合成例9:ウレタンポリマー組成物(9)の調製)
合成例8と同様の方法により、芳香環濃度、ウレア結合基濃度、ウレタン結合基濃度、酸価がウレタン樹脂(8)と同一であり、重量平均分子量が4,500であるウレタン樹脂(9)を含む不揮発分45質量%のウレタンポリマー組成物(9)を得た。
(合成例10:ウレタンポリマー(10)組成物の調製)
合成例8と同様の方法により、芳香環濃度、ウレア結合基濃度、ウレタン結合基濃度、酸価がウレタン樹脂(8)と同一であり、重量平均分子量が15,500であるウレタン樹脂(10)を含む不揮発分45質量%のウレタンポリマー(10)組成物を得た。
【0089】
(比較合成例1:ウレタンポリマー組成物(11)の調製)
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、合成例1と同じ平均分子量1,000のポリエステルポリオール200質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート63質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸11質量部、メチルエチルケトン352質量部の混合溶剤中で反応させることによって、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの有機溶剤溶液を得た。
次いで、このウレタンプレポリマーにイソホロンジアミン15質量部を加えることで、前記ウレタンプレポリマーが有する分子末端のイソシアネート基と鎖伸長することによって、ウレタン樹脂(11)を含む不揮発分45質量%のウレア基を有するウレタンポリマー組成物(11)を得た。
このウレタンポリマー組成物(11)における前記ウレタン樹脂(11)中の芳香環濃度は2,096mmol/kg、ウレア結合基濃度は609mmol/kg、ウレタン結合基濃度が2,725mmol/kg、酸価は15.6mgKOH/g、重量平均分子量は55,000であった。
【0090】
(比較合成例2:ウレタンポリマー組成物(12)の調製)
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、合成例1と同じ平均分子量1,000のポリエステルポリオール200質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート47質量部、ネオペンチルグリコール8.3質量部、メチルエチルケトン312質量部の混合溶剤中で反応させることによって、ウレタン樹脂(12)を含む不揮発分45質量%のウレタンポリマー組成物(12)を得た。
このウレタンポリマー組成物(12)における前記ウレタン樹脂(12)中の芳香環濃度は2,366mmol/kgであり、ウレア結合基濃度は0mmol/kg、ウレタン結合基濃度が2,192mmol/kg、酸価は0mgKOH/g、重量平均分子量は38,000であった。
【0091】
(比較合成例3:ウレタンポリマー組成物(13)の調製)
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、合成例1と同じ平均分子量1,000のポリエステルポリオール200質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート150質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸80質量部、ネオペンチルグリコール14質量部、メチルエチルケトン543質量部の混合溶剤中で反応させることによって、ウレタン樹脂(13)を含む不揮発分45質量%のウレタンポリマー組成物(13)を得た。
このウレタンポリマー組成物(13)における前記ウレタン樹脂(13)中の芳香環濃度は1,359mmol/kgであり、ウレア結合基濃度は0mmol/kg、ウレタン結合基濃度は4,024mmol/kg、酸価は75mgKOH/g、重量平均分子量は25,000であった。
【0092】
実施例1~10、比較例1~3
前記ウレタン樹脂(1)~(13)のいずれか50質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社(株)製「エピコート828」、エポキシ当量=189g/eq)10~80質量部及び導電性フィラー(銀コート銅粉(平均粒径15μm、デンドライト状、福田金属箔粉工業株式会社製))30~65質量部を混合して、導電性接着剤組成物を作製した。
前記導電性接着剤組成物を離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗工して乾燥させ、25μmの接着剤層をコートし、さらに離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムを接着剤層にラミネートして保護フィルム付きの導電性接着シートを得た。
【0093】
前記ウレタン樹脂の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、以下の条件で測定して得られた値を示す。
・・・
【表1】
[図:0001413282000008.jpg]
」
ウ 検討
(ア)本件発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落【0008】の記載によれば、「産業用や自動車などの車載用の使用に耐え得る、高温高湿環境後の密着性、耐熱性に優れた導電性接着剤、それを用いた導電性接着剤シート及び電磁波シールドフィルムを提供すること」であると認められる。
(イ)また、上記課題を解決するための手段は、本件特許明細書の段落【0009】の記載によれば、「ポリオール及びポリイソシアネートの反応物であるポリウレタン樹脂(A)と、カルボキシ基と反応しうる官能基を2つ以上有する架橋剤(B)と、導電性フィラー(C)を少なくとも含む接着剤組成物であって、前記ポリウレタン樹脂の酸価が1mgKOH/g以上70mgKOH/g以下であり、前記ポリウレタン樹脂におけるウレア結合基濃度が、100mmol/kg以下である接着剤組成物」とすることである。
(ウ)また、上記組成物について、「前記ウレタン樹脂(A)は、酸基(カルボキシ基、スルホン酸基等)を有していてもよく、前記ウレタン樹脂(A)の酸価は、好ましくは1mgKOH/g以上70mgKOH/g以下、より好ましくは2mgKOH/g以上45mgKOH/g以下である。」(段落【0048】)、「前記ウレタン樹脂(A)におけるウレア結合基濃度は、好ましくは100mmol/kg以下であり、好ましくは80mmol/kg以下、さらに好ましくは50mmol/kg以下である。」(段落【0049】)と説明されている。
(エ)さらに、この説明を裏付ける実施例が9例、及び、比較例が3例記載されている。
(オ)そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。
エ 申立人1の主張について
サポート要件違反についての判断手法は上記アのとおりのものであるところ、上記(1)アの主張は、「せいぜい本件特許明細書の実施例で行なった特定の数値範囲内にのみ発明の効果があった」というものであり、上記(1)イの主張は、「当業者は、本件特許明細書の実施例に基づいて本件特許の請求項1の発明で規定される「酸価」の数値範囲の技術的意義を全く理解できない。」というものであって、いずれも、サポート要件違反が存在することを立証する内容を含んでいないと認められる。
また、上記(1)ウの主張は、「三つの成分(A),(B),(C)の配合割合は全く規定されていないから、本件特許の請求項1の発明は、その全ての範囲にわたって本件特許発明の目的を達成することができるものとは認められない」(上記(1)ウ)というものであるが、発明の詳細な説明の記載に基づいて「三つの成分(A),(B),(C)」が存在すればその課題を解決することができることを理解できると認められることは、上記ウに説示したとおりである。
したがって、主張は、いずれも、採用することができない。
(4)申立理由6(進歩性)について
ア 甲2に記載された発明
甲2の請求項2及び実施例29の記載に基づき、以下の発明(以下、「甲2発明」ともいう。)が記載されていると認められる。
<甲2発明>
「カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A´)と、
一分子に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(B)と、
イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物及びオキサゾリン化合物からなる群から選択される少なくとも1の添加剤(C´)と、
導電性フィラー(D)とを含有する硬化性導電性接着剤組成物であって、
前記ポリウレタン樹脂(A´)は、ジメチロールプロピオン酸(DMPA)6.0g、1,4-ブタンジオール6.0g、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(商品名「プラクセルCD220」、ダイセル社製、末端官能基定量による数平均分子量2000) 100g、及び、HDI27.1gを反応させて得た、酸価が18.1mgKOH/gであり、ウレア結合を有しないことを赤外吸収スペクトルにて確認したポリウレタン樹脂(A´-2)であり、
前記エポキシ樹脂(B)は、構造がBisAでエポキシ当量が8000g/eqの市販品(商品名「jER1256」、三菱化学社製)であり、
前記添加剤(C´)は、オキサゾリン化合物(商品名「エポクロスRPS-1005」、株式会社日本触媒製)であり、
前記導電性フィラー(D)は、平均粒径12μmの銀コート銅粉(福田金属孔廟株式会社製)である、
硬化性導電性接着剤組成物。」
イ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 本件発明1と甲2発明とを対比する。
(a)甲2発明の「ポリウレタン樹脂(A´-2)」は、「ジメチロールプロピオン酸(DMPA)6.0g」、「1,4-ブタンジオール6.0g」、「ポリヘキサメチレンカーボネートジオール100g」、及び、「HDI27.1g」を反応させて得たものであるから、本件発明1の「ポリオール及びポリイソシアネートの反応物であるポリウレタン樹脂(A)」に相当する。
(b)本件発明1の「カルボキシ基と反応しうる官能基を2つ以上有する架橋剤(B)」について、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明4において「前記架橋剤(B)が、エポキシ架橋剤を含む」とされている。また、甲2発明の「一分子に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(B)」、「前記エポキシ樹脂(B)は、構造がBisAでエポキシ当量が8000g/eqの市販品(商品名「jER1256」、三菱化学社製)であり」は、本件発明1の「カルボキシ基と反応しうる官能基を2つ以上有する架橋剤(B)」に相当する。
(c)甲2発明の「導電性フィラー(D)」、「前記導電性フィラー(D)は、平均粒径12μmの銀コート銅粉(福田金属孔廟株式会社製)である」は、本件発明1の「導電性フィラー(C)」に相当する。
(d)甲2発明の「ポリウレタン樹脂(A´-2)」は、「酸価が18.1mgKOH/g」であるから、甲2発明は、本件発明1の「前記ポリウレタン樹脂(A)の酸価が1mgKOH/g以上70mgKOH/g以下であり」を充足する。
(e) 甲2発明の「ポリウレタン樹脂(A´-2)」は、「ジメチロールプロピオン酸(DMPA)6.0g」、「1,4-ブタンジオール6.0g」、「ポリヘキサメチレンカーボネートジオール100g」、及び、「HDI27.1g」を反応させて得たものであるから、甲2発明は、本件発明1の「前記ポリオールが2,2-ジメチロールプロピオン酸を含むものである」を充足する。
(f)また、甲2発明の「ポリウレタン樹脂(A´-2)」は、その合成反応に、ウレア結合基を生じる反応(アミン基とイソシアネート基の反応)を含んでいないから、その「ウレア結合基濃度」は、0であり、甲2発明は、本件発明1の「前記ポリウレタン樹脂(A)におけるウレア結合基濃度が、100mmol/kg以下であり」を充足する。
(g)また、甲2発明の「ポリウレタン樹脂(A´-2)」は、その原料に芳香環を含むものが含まれていないから、その芳香環濃度は、0mmol/kgである。
(h)甲2発明の「ポリウレタン樹脂(A´-2)」におけるウレタン結合基濃度は、以下のとおりに計算される。
i)甲2発明の「ポリウレタン樹脂(A´-2)」は、「ジメチロールプロピオン酸(DMPA)6.0g」、「1,4-ブタンジオール6.0g」、「ポリヘキサメチレンカーボネートジオール100g」、及び、「HDI27.1g」を反応させて得たものであり、2,2-ジメチロールプロピオン酸、1,4-ブタンジオール、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)の分子量はそれぞれ134.1、90.1、168.2である。また、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールの数平均分子量は、2000である。
ii)甲2発明の「ポリウレタン樹脂(A´-2)」の合成原料であるジオール(ジメチロールプロピオン酸、1,4-ブタンジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール)のモル数の合計は、6/134.1+6/90.1+100/2000=0.161であり、ジイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネート)のモル数は、0.161(=27.1/168.2)である。
iii)甲2発明の「ポリウレタン樹脂(A´-2)」は、ジオールとジイソシアネートを等モルで反応させて得たものであるから、甲2発明の「ポリウレタン樹脂(A´-2)」に含まれているウレタン結合のモル数は、ジイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネート)に含まれているイソシアネート基のモル数と等しいので、0.322モル(=0.161×2)である。
また、甲2発明の「ポリウレタン樹脂(A´-2)」の重量は、原料の重量の合計と等しいので、139.1g(=6+6+100+27.1)である。
iv)したがって、甲2発明の「ポリウレタン樹脂(A´-2)」におけるウレタン結合濃度は、2315(=0.322/139.1×106)mmol/kgであるから、甲2発明の「ポリウレタン樹脂(A´-2)」は、本件発明1の「前記ポリウレタン樹脂(A)におけるウレタン結合基濃度が1,000mmol/kg以上5,000mmol/kg以下であり」を充足する。
(i)
そうすると、本件発明1と甲2発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「ポリオール及びポリイソシアネートの反応物であるポリウレタン樹脂(A)と、
カルボキシ基と反応しうる官能基を2つ以上有する架橋剤(B)と、
導電性フィラー(C)とを少なくとも含む接着剤組成物であって、
前記ポリウレタン樹脂(A)の酸価が1mgKOH/g以上70mgKOH/g以下であり、
前記ポリウレタン樹脂(A)におけるウレア結合基濃度が、100mmol/kg以下であり、
前記ポリウレタン樹脂(A)におけるウレタン結合基濃度が1,000mmol/kg以上5,000mmol/kg以下であり、
前記ポリオールが、2,2-ジメチロールプロピオン酸を含むものである接着剤組成物。」
<相違点4>
本件発明1は、「前記ポリウレタン樹脂(A)における芳香環濃度が、1,000mmol/kg以上3,000mmo1/kg以下であり」と特定されているのに対し、甲2発明の「ポリウレタン樹脂(A´-2)」における芳香環濃度は、0mmol/kgであって、この特定を充足しない点
イ 判断
(ア)甲2には、甲2発明の「ポリウレタン樹脂(A´-2)」における芳香環濃度に着目し、その濃度を、「1,000mmol/kg以上3,000mmo1/kg以下」に限定することを動機づけるような記載も示唆もない。
また、申立人2が提出した甲1、3にも、甲2発明の「ポリウレタン樹脂(A´-2)」における芳香環濃度に着目し、その濃度を、「1,000mmol/kg以上3,000mmo1/kg以下」に限定することを動機づけるような記載も示唆もない。
そうすると、当業者といえども、甲2発明の「ポリウレタン樹脂(A´-2)」において、その芳香環濃度を変更してそれぞれ、相違点4に係る事項を充足するものとすることを容易になし得たとは認められない
(イ)また、本件発明1は、相違点4に係る構成を備えていることによって、「膨張する前であっても、常温(23℃)における部材への初期接着力(仮固定性)を示すため、隙間に挿入した後、直ちに接着テープを部材へ貼付できるため、接着位置ズレが生じにくくなる。また、膨張した後であっても優れた接着強度を維持できることから、2以上の被着体の固定に使用できることはもとより、一方の被着体が有する空隙内に他方の被着体を固定する用途、被着体が有する空隙内を前記接着テープで充填する用途等で好適に使用することができる。」(本件特許明細書の段落【0007】)という効果を奏するものである。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明及び甲1~3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとも認められない。
(2)本件発明3~8について
本件発明3~8は、本件発明1を直接又は間接的に引用しさらに限定した発明に該当する。
また、上記のとおり、本件発明1は、甲2に記載された発明及び甲1~3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとは認められないものである。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件発明3~8も本件発明1と同様の理由により甲2に記載された発明及び甲1~3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとは認められないものである。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1、3~8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件発明1、3~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項2に係る特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701106