特許異議申立
2023-701164
ヒートシール紙
- 審判番号
- 2023-701164
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-113018
- 登録番号
- 7268649
- 請求日
- 2023年11月01日
- 審決日
- 2024年08月07日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】王子ホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人大谷特許事務所
- 【異議申立人】酒井 久仁子
- 審判長/審判官
- 審判長 神山 茂樹
- 審判官 西堀 宏之
- 審判官 長清 吉範
- 分類
- P1652.161-YAA(D21H)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条の2、特許法第120条の8第1項、特許法第135条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7268649号発明「ヒートシール紙」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7268649号の特許請求の範囲を、令和6年3月28日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~17〕について訂正することを認める。
特許第7268649号の請求項1、6、7、9、12、16、17に係る特許を維持する。
特許第7268649号の請求項8に係る特許についての特許異議申立を却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7268649号(以下「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、令和2年6月30日に出願され、令和5年4月25日に特許権の設定登録がされ、令和5年5月8日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年11月 1日 :特許異議申立人酒井久仁子(以下「申立人」という)による請求項1、6~9に係る特許に対する特許異議の申立て
令和6年 1月26日付け:取消理由通知書
令和6年 3月28日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和6年 6月17日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年3月28日に提出された訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)は、「特許第7268649号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~17について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、次のとおりである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「紙基材の少なくとも一方の面に水分散性樹脂バインダーを含有するヒートシール層を有するヒートシール紙であり、」という記載を、
「紙基材の少なくとも一方の面に水分散性樹脂バインダーを含有するヒートシール層を有するヒートシール紙であり、該ヒートシール紙再離解後のパルプ回収率が85%以上であり、」に訂正する。
(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~7、9も同様に訂正する。)
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項9において、
「請求項1~8のいずれかに記載のヒートシール紙を用いてなる、包装袋。」という記載を、
「請求項1~7のいずれかに記載のヒートシール紙を用いてなる、包装袋。」と訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に
「ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、顔料を3質量部以上70質量部以下含有する、請求項1に記載のヒートシール紙。」とあるうち、訂正前の請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、
「紙基材の少なくとも一方の面に水分散性樹脂バインダーを含有するヒートシール層を有するヒートシール紙であり、
該紙基材が、坪量が110g/m2以上である未晒クラフト紙であり、
該ヒートシール層の塗工量が7g/m2以上であり、
ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、顔料を3質量部以上70質量部以下含有する、
ヒートシール紙。」
と記載し、新たに請求項10とする。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に
「ヒートシール層同士を、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときのヒートシール剥離強度が、9.0N/15mm以上である、請求項1~6のいずれかに記載のヒートシール紙。」とあるうち、訂正前の請求項2を引用するものについて、
「ヒートシール層同士を、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときのヒートシール剥離強度が、9.0N/15mm以上である、請求項10に記載のヒートシール紙。」
と記載し、新たに請求項11とする。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に
「ヒートシール層同士を、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときのヒートシール剥離強度が、9.0N/15mm以上である、請求項1~6のいずれかに記載のヒートシール紙。」とあるうち、訂正前の請求項1を引用するものについて独立形式に改め、
「紙基材の少なくとも一方の面に水分散性樹脂バインダーを含有するヒートシール層を有するヒートシール紙であり、
該紙基材が、坪量が110g/m2以上である未晒クラフト紙であり、
該ヒートシール層の塗工量が7g/m2以上であり、
ヒートシール層同士を、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときのヒートシール剥離強度が、9.0N/15mm以上である、
ヒートシール紙。」
と記載し、新たに請求項12とする。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項3に
「ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、滑剤を10質量部以上30質量部以下含有する、請求項1または2に記載のヒートシール紙。」とあり、特許請求の範囲の請求項7に
「ヒートシール層同士を、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときのヒートシール剥離強度が、9.0N/15mm以上である、請求項1~6のいずれかに記載のヒートシール紙。」とあるうち、訂正前の、請求項2を引用する請求項3、請求項1を引用する請求項3を引用する請求項7、請求項2を引用する請求項3を引用する請求項7について、
「ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、滑剤を10質量部以上30質量部以下含有する、請求項10~12のいずれかに記載のヒートシール紙。」
と記載し、新たに請求項13とする。
(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項4に
「水分散性樹脂バインダーが、エチレン-酢酸ビニル共重合体である、請求項1~3のいずれかに記載のヒートシール紙。」とあり、特許請求の範囲の請求項7に
「ヒートシール層同士を、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときのヒートシール剥離強度が、9.0N/15mm以上である、請求項1~6のいずれかに記載のヒートシール紙。」とあるうち、訂正前の請求項2、訂正前の請求項1を引用する請求項7、訂正前の請求項2を引用する請求項7、およびこれらの請求項のいずれかを引用する訂正前の請求項3よりなる群から選択される少なくとも1つを引用する請求項4を
「水分散性樹脂バインダーがエチレン-酢酸ビニル共重合体である、請求項10~13のいずれかに記載のヒートシール紙。」
と記載し、新たに請求項14とする。
(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項5に
「ヒートシール層が、エチレン-酢酸ビニル共重合体を50質量%以上含有する、請求項1~4のいずれかに記載のヒートシール紙。」とあり、特許請求の範囲の請求項7に
「ヒートシール層同士を、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときのヒートシール剥離強度が、9.0N/15mm以上である、請求項1~6のいずれかに記載のヒートシール紙。」とあるうち、訂正前の請求項2、訂正前の請求項1を引用する請求項7、および訂正前の請求項2を引用する請求項7からなる群より選択される1つと、任意に訂正前の請求項3および訂正前の請求項4からなる群より選択される少なくとも1つとを引用する訂正前の請求項5を
「ヒートシール層が、エチレン-酢酸ビニル共重合体を50質量%以上含有する、請求項10~14のいずれかに記載のヒートシール紙。」
と記載し、新たに請求項15とする。
(10) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項6に
「紙基材の少なくとも一方の面に、ヒートシール層が2層以上形成されてなる、請求項1~5のいずれかに記載のヒートシール紙。」とあり、特許請求の範囲の請求項7に
「ヒートシール層同士を、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときのヒートシール剥離強度が、9.0N/15mm以上である、請求項1~6のいずれかに記載のヒートシール紙。」とあるうち、訂正前の請求項2、訂正前の請求項1を引用する請求項7、および訂正前の請求項2を引用する請求項7からなる群より選択される1つと、任意に訂正前の請求項3、訂正前の請求項4および訂正前の請求項5からなる群より選択される少なくとも1つとを引用する訂正前の請求項6を
「紙基材の少なくとも一方の面に、ヒートシール層が2層以上形成されてなる、請求項10~15のいずれかに記載のヒートシール紙。」
と記載し、新たに請求項16とする。
(11) 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項9に
「請求項1~8のいずれかに記載のヒートシール紙を用いてなる、包装袋。」とあるうち、訂正前の請求項2、訂正前の請求項1を引用する請求項7、および訂正前の請求項2を引用する請求項7からなる群より選択される1つと、任意に訂正前の請求項3、訂正前の請求項4、訂正前の請求項5および訂正前の請求項6からなる群より選択される少なくとも1つとを引用する訂正前の請求項9を
「請求項10~16のいずれかに記載のヒートシール紙を用いてなる、包装袋。」
と記載し、新たに請求項17とする。
(12) 一群の請求項
本件訂正前の請求項1~9は、請求項2~9が、本件訂正の対象である請求項1の記載を直接的または間接的に引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項に対して請求されたものである。
2 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1) 訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、訂正前の請求項8に係る「該ヒートシール紙再離解後のパルプ回収率が85%以上であり」との要件を直列的に付加したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正前の請求項8、本件特許明細書の【0040】の記載に基づく訂正であるから新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(2) 訂正事項2
訂正事項2は、請求項8を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(3) 訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項9が請求項1~8のいずれかを引用する記載であるところ、請求項8については引用しないとするものであるから、多数項を引用している請求項の引用請求項数の削減に該当し、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(4) 訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるものであるから、請求項間の引用関係の解消(他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること)を目的とするものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(5) 訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項7が直接的又は間接的に引用する請求項の組み合わせが多数含まれるところ、訂正後の請求項11が請求項2を引用するものに対応し、それ以外の引用関係を削除したものであるから、多数項を引用している請求項の引用請求項数の削減に該当し、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(6) 訂正事項6
訂正事項6は、訂正前の請求項7の記載が訂正前の請求項1~6のいずれかの記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるものであるから、請求項間の引用関係の解消(他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること)を目的とするものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(7) 訂正事項7
訂正事項7は、訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用し、訂正前の請求項7が請求項1~6のいずれかを引用するものであるところ、訂正後の請求項13は訂正前の請求項2を引用する請求項3、訂正前の請求項1を引用する請求項3を引用する請求項7、及び請求項2を引用する請求項3を引用する請求項7に対応し、それ以外の引用関係を削除したものであるから、多数項を引用している請求項の引用請求項数の削減に該当し、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(8) 訂正事項8
訂正事項8は、訂正前の請求項4が請求項1~3のいずれかを引用し、訂正前の請求項7が請求項1~6のいずれかを引用するものであるところ、訂正後の請求項14は訂正前の請求項2、訂正前の請求項1を引用する請求項7、訂正前の請求項2を引用する請求項7、およびこれらの請求項のいずれかを引用する訂正前の請求項3よりなる群から選択される少なくとも1つを引用する請求項4に対応し、それ以外の引用関係を削除したものであるから、多数項を引用している請求項の引用請求項数の削減に該当し、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(9) 訂正事項9
訂正事項9は、訂正前の請求項5が請求項1~4のいずれかを引用し、訂正前の請求項7が請求項1~6のいずれかを引用するものであるところ、訂正後の請求項15は訂正前の請求項2、訂正前の請求項1を引用する請求項7、および訂正前の請求項2を引用する請求項7からなる群より選択される1つと、任意に訂正前の請求項3および訂正前の請求項4からなる群より選択される少なくとも1つとを引用する訂正前の請求項5に対応し、それ以外の引用関係を削除したものであるから、多数項を引用している請求項の引用請求項数の削減に該当し、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(10) 訂正事項10
訂正事項10は、訂正前の請求項6が請求項1~5のいずれかを引用し、訂正前の請求項7が請求項1~6のいずれかを引用するものであるところ、訂正後の請求項16は、訂正前の請求項2、訂正前の請求項1を引用する請求項7、および訂正前の請求項2を引用する請求項7からなる群より選択される1つと、任意に訂正前の請求項3、訂正前の請求項4および訂正前の請求項5からなる群より選択される少なくとも1つとを引用する訂正前の請求項6に対応し、それ以外の引用関係を削除したものであるから、多数項を引用している請求項の引用請求項数の削減に該当し、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(11) 訂正事項11
訂正事項11は、訂正前の請求項9が請求項1~8のいずれかを引用するものであるところ、訂正後の請求項17は、訂正前の請求項2、訂正前の請求項1を引用する請求項7、および訂正前の請求項2を引用する請求項7からなる群より選択される1つと、任意に訂正前の請求項3、訂正前の請求項4、訂正前の請求項5および訂正前の請求項6からなる群より選択される少なくとも1つとを引用する訂正前の請求項9に対応し、それ以外の引用関係を削除したものであるから、多数項を引用している請求項の引用請求項数の削減に該当し、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
3 独立特許要件について
訂正前の請求項2~5について、本件特許異議の申立てはされていない。
そして、訂正前の請求項2~5に関する訂正事項5、7~9による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、訂正後の請求項11、13~15も訂正前の請求項2~5から実質的に減縮されており、訂正後の請求項11、13~15に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件が課されることになる。
そこで、独立特許要件について検討する。
(1) 訂正後の請求項11、並びに、訂正後の請求項10及び11を引用する訂正後の請求項13~15について
後述の「第5 当審の判断の(1)(2)」のとおり、先願の明細書【0014】には、ヒートシール層に着色顔料を配合することが可能であることが記載されているが、その具体的な配合割合については何ら記載されていない。
そうすると、先願発明のヒートシール層が、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、顔料を3質量部以上70質量部以下含有することが自明であるとはいえず、また、この差異は単なる表現上のものや設計上の微細であるとはいえない。
よって、訂正後の請求項10と先願発明とは同一ではなく、訂正後の請求項10を引用し、これをさらに限定した訂正後の請求項11、13~15についても同一でない。
(2) 訂正後の請求項12を引用する訂正後の請求項13~15について
後述の「第5 当審の判断の3」において詳述するとおり、訂正後の請求項12と先願発明とは同一ではなく、訂正後の請求項12を引用し、これをさらに限定した訂正後の請求項13~15についても同一ではない。
また、他に訂正後の請求項11、13~15が、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
4 小括
以上のとおりであるから、訂正事項1~11に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項乃至第7項に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~17〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1~7、9~17に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~7、9~17に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
紙基材の少なくとも一方の面に水分散性樹脂バインダーを含有するヒートシール層を有するヒートシール紙であり、
該ヒートシール紙再離解後のパルプ回収率が85%以上であり、
該紙基材が、坪量が110g/m2以上である未晒クラフト紙であり、
該ヒートシール層の塗工量が7g/m2以上である、
ヒートシール紙。
【請求項2】
ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、顔料を3質量部以上70質量部以下含有する、請求項1に記載のヒートシール紙。
【請求項3】
ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、滑剤を10質量部以上30質量部以下含有する、請求項1または2に記載のヒートシール紙。
【請求項4】
水分散性樹脂バインダーが、エチレン-酢酸ビニル共重合体である、請求項1~3のいずれかに記載のヒートシール紙。
【請求項5】
ヒートシール層が、エチレン-酢酸ビニル共重合体を50質量%以上含有する、請求項1~4のいずれかに記載のヒートシール紙。
【請求項6】
紙基材の少なくとも一方の面に、ヒートシール層が2層以上形成されてなる、請求項1~5のいずれかに記載のヒートシール紙。
【請求項7】
ヒートシール層同士を、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときのヒートシール剥離強度が、9.0N/15mm以上である、請求項1~6のいずれかに記載のヒートシール紙。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載のヒートシール紙を用いてなる、包装袋。
【請求項10】
紙基材の少なくとも一方の面に水分散性樹脂バインダーを含有するヒートシール層を有するヒートシール紙であり、
該紙基材が、坪量が110g/m2以上である未晒クラフト紙であり、
該ヒートシール層の塗工量が7g/m2以上であり、
ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、顔料を3質量部以上70質量部以下含有する、
ヒートシール紙。
【請求項11】
ヒートシール層同士を、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときのヒートシール剥離強度が、9.0N/15mm以上である、請求項10に記載のヒートシール紙。
【請求項12】
紙基材の少なくとも一方の面に水分散性樹脂バインダーを含有するヒートシール層を有するヒートシール紙であり、
該紙基材が、坪量が110g/m2以上である未晒クラフト紙であり、
該ヒートシール層の塗工量が7g/m2以上であり、
ヒートシール層同士を、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときのヒートシール剥離強度が、9.0N/15mm以上である、
ヒートシール紙。
【請求項13】
ヒートシール層が、水分散性樹脂バインダー100質量部に対して、滑剤を10質量部以上30質量部以下含有する、請求項10~12のいずれかに記載のヒートシール紙。
【請求項14】
水分散性樹脂バインダーがエチレン-酢酸ビニル共重合体である、請求項10~13のいずれかに記載のヒートシール紙。
【請求項15】
ヒートシール層が、エチレン-酢酸ビニル共重合体を50質量%以上含有する、請求項10~14のいずれかに記載のヒートシール紙。
【請求項16】
紙基材の少なくとも一方の面に、ヒートシール層が2層以上形成されてなる、請求項10~15のいずれかに記載のヒートシール紙。
【請求項17】
請求項10~16のいずれかに記載のヒートシール紙を用いてなる、包装袋。」
第4 取消理由通知の概要
訂正前の請求項1、6、9に係る発明に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
理由1(拡大先願)
請求項1、6、9に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願又は実用新案登録出願であって、本件特許出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実用新案掲載公報の発行がされた下記の特許出願又は実用新案登録出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が本件特許出願前の特許出願又は実用新案登録出願に係る上記の発明又は考案をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願又は実用新案登録出願の出願人と同一でもないから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
第5 当審の判断
1 先願発明
(1) 先願(特願2019-171153号(特開2021-46232号公報(甲第1号証))の明細書等の記載事項
先願の明細書等には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付与し、・・・」は文章の省略を表す。)。
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックの使用量を低減した、加工適性に優れた包装用紙に関する。特に折り曲げ加工、糊貼り加工に対する適正を有し、箱・カートンなどの厚物容器として優れるヒートシール性を有する包装用紙に関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、プラスチックの使用量を低減することができる加工適性に優れた包装用紙を提供することにある。特に折り曲げ加工、糊貼り加工に対する適正を有し、箱・カートンなどの厚物容器として適切に使用できるヒートシール性に優れた包装用紙に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、従来のプラスチックラミネート紙(以降、ポリラミ紙と略称する場合がある)のポリエチレンやポリプロピレンの使用量を低減するために、アイオノマーを使用する。すなわち、本発明による包装用紙は、紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも一層以上のヒートシール層を有する包装用紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーを含み、前記ヒートシール層の塗工量が2~10g/m2であることを特徴とする。従来のポリラミ紙のヒートシール層に使用されているポリエチレンやポリプロピレンのラミネート量が20g/m2を超えることと比較すると、ヒートシール層用のプラスチックの使用量を従来の約10~50%にまで削減することができる。ここでアイオノマーとは、金属イオンによる凝集力を利用し高分子を凝集体とした合成樹脂であり、アクリル酸またはメタクリル酸をエチレンなどと組み合わせた合成樹脂である。例えば、アクリル系高分子とエチレンを、ナトリウムや亜鉛などの金属カチオンを加え分子間結合させて製造される。
・・・
【0009】
また、本発明の包装用紙の坪量が80g/m2~500g/m2であることにより、特に箱・カートン等(ポテトカートン等)への加工時の折り曲げ工程における破れ・割れが無くなり、また、箱・カートン等に適した外観を有する包装用紙を得ることができる。」
ウ 「【発明の効果】
【0010】
本発明により、プラスチック使用量が低減された包装用紙を製造することが可能である。本発明の包装用紙を用いた容器製品であれば、仮に自然界にゴミとして不適切に放出された場合であっても、自然環境に与えるプラスチックゴミとしての悪影響を小さくすることが可能であり、プラスチックゴミ問題の解決の一助となる。なお、本発明における包装用紙は、例えば、袋、アイスクリーム等の食糧カップ、コーヒー等の飲料用コップ、ホットスナック等の食糧容器及びトレイ、箱、ケース、器、封筒等の包装容器全般に加工可能である。特に本発明における包装用紙は、厚物容器(トレイ・箱・ケース・器・カートン)として加工することが好ましい。」
エ 「【発明を実施するための形態】
・・・
【0012】
本実施形態において、アイオノマーとは、金属イオンによる凝集力を利用し高分子を凝集体とした合成樹脂の総称であり、アクリル酸またはメタクリル酸をエチレンなどと組み合わせた樹脂である。すなわち、エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、エチレン・アクリル系共重合物の金属塩、エチレン・ウレタン系共重合物の金属塩、エチレン・フッ素系高分子共重合物の金属塩、などは全てアイオノマーと呼ばれる。塩を形成する金属としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、具体的には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛の各イオンなどである。本発明においては、前記アイオノマーがエチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩である自己乳化型エマルジョンであることが好ましい。ヒートシール層の塗工量が比較的少なくとも、十分なヒートシール強度を有するヒートシール層を設けることができる。
【0013】
本実施形態においては、紙基材の少なくとも一方の面に、アイオノマーエマルジョンを含有するヒートシール層用塗工液を塗工し、乾燥することでヒートシール層を設けることができる。アイオノマーエマルジョンを用いることにより、塗工量を比較的低くコントロールすることが可能であり、更に水系のアイオノマーエマルジョンを用いることによりVOC排出が無くなり自然環境に対する負荷を小さくすることができる。ヒートシール層の塗工量は、紙基材の片面あたり、固形分換算で2~10g/m2であり、好ましくは3~8g/m2である。2g/m2未満の場合は十分なヒートシール強度を満足できない。逆に10g/m2を超える場合は、ヒートシール強度の面からは過剰品質であり、かつプラスチック削減効果に乏しくなる。なお、本発明の包装用紙において、ヒートシール層は、紙基材の表面の一部分のみに設けられているのではなく、全面に設けられていることが通常である。すなわち、ヒートシール層は、例えば網状、島状、線状など、ヒートシールによる接着に必要な部分にのみ設けられているのではなく、紙基材の表面の全面を覆うように設けられていると良い。
【0014】
ヒートシール層用塗工液には、アイオノマーエマルジョンの他に、各種助剤を添加してもよい。例えば、粘度調整剤、消泡剤、界面活性剤やアルコールなどのレベリング剤、着色顔料、着色染料などである。しかしながら、これらの助剤の添加は、ヒートシール強度の低下を招きやすいことから、添加する場合には少量であることが好ましい。本実施形態においては、ヒートシール層用塗工液がアイオノマーエマルジョンのみからなることが好ましい。
・・・
【0017】
また、本発明の包装用紙の坪量が80g/m2~500g/m2である。それにより、特に箱・カートン等(ポテトカートン等)への加工時の折り曲げ工程における破れ・割れが無くなり、また、箱・カートン等に適した外観を有する包装用紙を得ることができる。
【0018】
本実施形態においては、前記ヒートシール層が2層以上で形成されていてもよい。2層以上とすることにより、包装用紙の透気度を高くすることができ、さらに、撥水性と撥油性を付与することができ、プラスチックフィルムラミネート紙と同様かそれ近い特性を得ることができるからである。ヒートシール層が2層以上の場合、紙基材に最も近い最下層のヒートシール層の塗工量が、他のヒートシール層の合計塗工量よりも多い方が好ましい。包装用紙の透気度をさらに改善することができ、撥水性と撥油性が更に向上するからである。
・・・
【0022】
・・・
他には、ヒートシール層を2層以上塗工することも透気度を高める効果がある。ヒートシール層の2層塗工は、1層目の塗工層(下層)に存在する微細なピンホールやヒビを、1層目の上に設けられた2層目の塗工層(上層)が覆うことで透気度が高まると考えられる。また、ヒートシール層の塗工量を増加させることも透気度の向上に効果がある。ヒートシール層の造膜の面では、ヒートシール層用塗工液の塗工後の乾燥温度を、アイオノマーの融点以上の温度とすることで透気度が向上しやすい。
・・・
【0024】
本実施形態において用いる紙基材としては特に限定するものではなく、パルプを主成分とする公知の紙基材を用いることができる。紙基材の主成分となるパルプとしては、LBKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)、NBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)などの化学パルプ、GP(砕木パルプ)、PGW(加圧式砕木パルプ)、RMP(リファイナーメカニカルパルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)、CTMP(ケミサーモメカニカルパルプ)、CMP(ケミメカニカルパルプ)、CGP(ケミグランドパルプ)などの機械パルプ、DIP(脱インキパルプ)などの木材パルプ及びケナフ、バガス、竹、コットンなどの非木材パルプを用いることができる。これらは、単独で使用するか、又は任意の割合で混合して使用することが可能である。また、本発明の目的とする効果を損なわない範囲において、合成繊維を更に配合することができる。環境保全の観点から、ECF(ElementalChlorine Free)パルプ、TCF(Total Chlorine Free)パルプ、古紙パルプ、植林木から得られるパルプが好ましい。また、適切なパルプの叩解度としては、カナダ標準ろ水度(フリーネス)(JISP 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」)で、200~700mlCSF、例えば、450~620mlCSFである。通常、全パルプ中、広葉樹パルプを90~100質量部と、針葉樹パルプを0~10質量部とを使用することが好ましい。さらには、広葉樹パルプに加えて、折り加工の強度増進の為に針葉樹パルプを配合することが好ましい。例えば、全パルプ中、針葉樹パルプを50~100質量部と、広葉樹パルプを0~50質量部とを使用することが好ましい。また、パルプとして針葉樹パルプのみを使用してもよい。」
オ 「【実施例】
・・・
【0030】
(実施例1)
(紙基材の作製)
カナディアンスタンダードフリーネス500mlcsfの広葉樹晒クラフトパルプ100部、軽質炭酸カルシウム(商品名:TP-221BM、奥多摩工業社製)5部、カチオン化澱粉(商品名:ネオタック20T、日本食品加工社製)0.3部、変性ロジンサイズ剤(酸性サイズ剤)(商品名:ハーサイズNES-500、ハリマ化成社製)0.2部に水を加えて紙料を調製し、長網多筒式抄紙機を用いて坪量193g/m2の原紙を作製した。この原紙にサイズプレスによって、酸化澱粉(商品名:M-200、三晶社製)を両面あたりの乾燥塗布量が2g/m2となるように塗布し、乾燥して坪量195g/m2の紙基材を得た。
【0031】
(包装用紙の作製)
上記で得られた紙基材の片面に、水系アイオノマーエマルジョン(商品名:ケミパールS-300、三井化学社製、組成:エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、自己乳化型エマルジョン、マイクロトラック法平均粒子径0.5μm)を乾燥塗工量が5g/m2になるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層を設け、坪量200g/m2の包装用紙を作製した。ステキヒトサイズ度が50秒であった。
【0032】
(実施例2)
パルプを針葉樹樹未晒クラフトパルプ100部にした以外は実施例1と同様に包装用紙を作製した。ステキヒトサイズ度は60秒であった。
・・・
【0045】
(5)ヒートシール強度
得られた包装用紙を、幅8mm、長さ15cmのサイズに2枚カットし、包装用紙の表面と裏面とを重ね合わせ、ヒートシール装置(パルメック社製、型番:PTS-100)で、一定条件(接着幅:4mm、温度:180℃、圧力0.4MPa、押し当て時間0.5秒、ピッチ:4mm)にてヒートシールした。次いで、ヒートシールしたサンプルを、剥離強度試験機(島津製作所製、型番:オートグラフAGS-X)にて、一定条件(剥離速度:100mm/分、剥離長さ:10cm)で剥離強度を測定してヒートシール強度(gf/4mm)とした。数値が高い方が優れる。
・・・
【0048】
【表1】
[図:0001416471000001.jpg]
」
(2)先願の明細書等に記載された発明
ア 先願の明細書の段落【0024】には、用いられる紙基材について「未晒クラフトパルプ」が列挙されていないが、「本実施形態において用いる紙基材としては特に限定するものではなく、パルプを主成分とする公知の紙基材を用いることができる。」と記載され、段落【0032】の実施例2に、「針葉樹樹未晒クラフトパルプ」(「樹樹」は「樹」の誤記であると認められる。)を使用した例が挙げられている。これらの記載と出願時の技術常識とを勘案すれば、紙基材として「未晒クラフトパルプ」を使用した包装用紙が記載されているといえる。
イ そうすると、上記(1)、(2)アより、先願の明細書等には以下の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「針葉樹未晒クラフトパルプからなる紙基材に水系アイオノマーエマルジョンを含有したヒートシール層を有し、紙基材の坪量が195g/m2であり、ヒートシール層の塗工量が5g/m2である包装用紙であって、
当該包装用紙を、幅8mm、長さ15cmのサイズに2枚カットし、包装用紙の表面と裏面とを重ね合わせ、ヒートシール装置(パルメック社製、型番:PTS-100)で、一定条件(接着幅:4mm、温度:180℃、圧力0.4MPa、押し当て時間0.5秒、ピッチ:4mm)にてヒートシールし、ヒートシールしたサンプルを、剥離強度試験機(島津製作所製、型番:オートグラフAGS-X)にて、一定条件(剥離速度:100mm/分、剥離長さ:10cm)で剥離強度を測定した際のヒートシール強度(gf/4mm)が、140~190gf/4mmである包装用紙。」
2 本件発明1について
(1) 対比
ア 本件発明1と先願発明とを対比する。
先願発明の「ヒートシール層」に含有される「水系アイオノマーエマルジョン」は、高分子を凝集体とした合成樹脂の粒子が、水中に均一に分散している液体(エマルジョン)であるから、本件発明1の「ヒートシール層」に含有される「水分散性樹脂バインダー」に相当する。
先願発明の「包装用紙」はヒートシール層を有するものであるから、本件発明1の「ヒートシール紙」に相当する。
先願発明の紙基材の坪量は「195g/m2」であるから、本件発明1の紙基材の坪量が「110g/m2以上」であることに相当する。
イ 以上のことから、本件発明1と先願発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点1】
「紙基材の少なくとも一方の面に水分散性樹脂バインダーを含有するヒートシール層を有するヒートシール紙であり、
該紙基材が、坪量が110g/m2以上の未晒クラフト紙であるヒートシール紙。」
【相違点1-1】
本件発明1のヒートシール層の塗工量は「7g/m2以上」であるのに対して、先願発明のヒートシール層の塗工量は「5g/m2」である点。
【相違点1-2】
本件発明1は「ヒートシール紙再離解後のパルプ回収率が85%以上」であるのに対して、先願発明はそのようになっているかどうか不明である点。
(2) 判断
ア 相違点1-2について
事案に鑑み、相違点1-2から検討を行う。
先願発明の課題は、先願の明細書【0007】に記載されるように「プラスチックの使用量を低減することができる加工適性に優れた包装用紙を提供すること」であり、先願発明の構成による効果については、「プラスチック使用量が低減された包装用紙を製造することが可能である。本発明の包装用紙を用いた容器製品であれば、仮に自然界にゴミとして不適切に放出された場合であっても、自然環境に与えるプラスチックゴミとしての悪影響を小さくすることが可能であり、プラスチックゴミ問題の解決の一助となる。」(【0010】)ことのみが記載されている。
そして、先願の明細書全体をみても、ヒートシール紙の再生利用性を高めること、特に再離解後のパルプ回収率を向上できることについては何ら記載されておらず、先願発明により「プラスチックの使用量を低減する」ことができるとしても、それが「包装用紙の再生利用性を高め、再離解後のパルプ回収率を向上」できるものであるとはいえない。
そうすると、先願発明のヒートシール紙について、再離解後のパルプの回収率が85%以上であることが自明であるとはいえず、また、この差異は単なる表現上のものや設計上の微差であるとはいえない。
よって、相違点1-1について検討するまでもなく、本件発明1と先願発明とは同一ではない。
申立人は意見書において、課題や構成の共通性に基づいて、先願発明の再離解後のパルプ回収率が本件発明1の相違点1-2に係る構成を満たすことは自明である旨主張するが、上記の検討のとおり自明であるとはいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
3 本件発明12について
(1) 対比
本件発明12と先願発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点12】
「紙基材の少なくとも一方の面に水分散性樹脂バインダーを含有するヒートシール層を有するヒートシール紙であり、
該紙基材が、坪量が110g/m2以上の未晒クラフト紙であるヒートシール紙。」
【相違点12-1】
本件発明12のヒートシール層の塗工量は「7g/m2以上」であるのに対して、先願発明のヒートシール層の塗工量は「5g/m2」である点。
【相違点12-2】
本件発明12は「ヒートシール層同士を、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときのヒートシール剥離強度が、9.0N/15mm以上である」のに対して、先願発明は「包装用紙を、幅8mm、長さ15cmのサイズに2枚カットし、包装用紙の表面と裏面とを重ね合わせ、ヒートシール装置(パルメック社製、型番:PTS-100)で、一定条件(接着幅:4mm、温度:180℃、圧力0.4MPa、押し当て時間0.5秒、ピッチ:4mm)にてヒートシールし、ヒートシールしたサンプルを、剥離強度試験機(島津製作所製、型番:オートグラフAGS-X)にて、一定条件(剥離速度:100mm/分、剥離長さ:10cm)で剥離強度を測定した際のヒートシール強度(gf/4mm)が、140~190gf/4mm(=1.37~1.86N/4mm(※1kgf=9.81Nとして当審で換算した。))」である点。
(2) 判断
ア 相違点12-2について
事案に鑑み、相違点12-2から検討を行う。
本件発明12のヒートシール条件(160℃、0.2MPa、1秒)と、先願発明のヒートシール条件(180℃、0.4MPa、0.5秒)とは、全ての条件で数値が異なっている。
そして、ヒートシール条件が異なればヒートシール強度が異なることは技術常識であるから、先願発明のヒートシール紙を、本件発明12のように「ヒートシール層同士を、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときのヒートシール剥離強度が、9.0N/15mm以上である」ことが自明であるとはいえない。
また、ヒートシール条件の差異がヒートシール強度に大きな影響を与えないと仮定し、単純に先願発明のヒートシール強度「140~190gf/4mm」を「N/15mm」に換算したとしても、本件発明12における「9.0N/15mm」以下となる蓋然性が高い。
そうすると、先願発明のヒートシール層同士を、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールしたときのヒートシール剥離強度が、9.0N/15mm以上であることが自明であるとはいえない。
よって、相違点12-1について検討するまでもなく、本件発明12と先願発明とは同一ではない。
申立人は意見書において、先願の実施例1~8のヒートシール強度は、先願の明細書【0048】に記載された、低密度ポリエチレンを紙基材にラミネートしたポリエチレンラミネート紙(比較例1)のヒートシール強度と同等以上であり、他方、本件特許の実施例のヒートシール剥離強度が、本件特許の明細書【0054】に記載された、低密度ポリエチレンを未晒クラフト紙に押出ラミネートしたポリエチレンラミネート紙(比較例5)のヒートシール強度よりも非常に小さい(半分程度)ことから、先願発明と本件発明のヒートシール強度を比較すると、先願発明のヒートシール強度が本件発明よりも非常に大きくなることを容易に予測することができる旨主張している。
当該主張について検討する。
申立人の主張は、先願発明の比較例1のポリエチレンラミネート紙と、本件特許の比較例5のポリエチレンラミネート紙とはいずれもポリエチレンラミネート紙であることから、いずれも同程度のヒートシール強度を有することを前提としている。
しかしながら、先願発明の比較例1は、実施例1の紙基材に低密度ポリエチレン(東ソー社製、ペトロセンDLZ19A)を塗工量が30g/m2になるようにラミネートしてヒートシール層を設けて得られた包装用紙を、幅8mm、長さ15cmのサイズに2枚カットし、包装用紙の表面と裏面とを重ね合わせ、ヒートシール装置(パルメック社製、型番:PTS-100)で、一定条件(接着幅:4mm、温度:180℃、圧力0.4MPa、押し当て時間0.5秒、ピッチ:4mm)にてヒートシールし、次いで、ヒートシールしたサンプルを、剥離強度試験機(島津製作所製、型番:オートグラフAGS-X)にて、一定条件(剥離速度:100mm/分、剥離長さ:10cm)で剥離強度を測定してヒートシール強度(gf/4mm)を測定したものである。
他方、本件特許の比較例5は、坪量120g/m2の未晒クラフト紙(王子マテリア(株)製、厚み170μm、離解パルプのCSF630mL)上に、押出ラミネーターによって低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製、ノバテックLDLC600A)をTダイ温度320℃、加工速度80m/minで、塗布量が19g/m2となるように押出ラミネートで積層して得たヒートシール紙を、ヒートシール層が向き合うように重ね、ヒートシールテスター(テスター産業製、TP-701-B)を用いて、160℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールし、続いて、JIS Z 0238:1998の記載に準拠して、ヒートシールされた試験片を15mm幅にカットし、引張試験機を用いて、引張速度300mm/minでT字剥離し、記録された最大荷重をヒートシール剥離強度としたものである。
以上のように、紙基材及び低密度ポリエチレンの種類、ヒートシール層の塗工量、ヒートシール条件の全てが異なっているものであるから、先願発明の比較例1と本件特許の比較例5とがいずれもポリエチレンラミネート紙であるとしても、両者のヒートシール強度が同程度であるとはいえない。
そうすると、それらのポリエチレンラミネート紙と比較した結果を根拠として、先願発明のヒートシール強度が本件発明よりも非常に大きくなるという申立人の主張は前提を欠く。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
4 本件発明2、3、4、5を引用するものを除く本件発明6、7、9、及び、本件発明10、11、13、14、15を引用するものを除く本件発明16、17について
本件発明2、3、4、5を引用するものを除く本件発明6、7、9、及び、本件発明10、11、13、14、15を引用するものを除く本件発明16、17は、本件発明1または本件発明12の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記2、3で検討したものと同じ理由により、本件発明2、3、4、5を引用するものを除く本件発明6、7、9、及び、本件発明10、11、13、14、15を引用するものを除く本件発明16、17は、先願発明と同一ではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件請求項1、6、7、9、12、16、17に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、6、7、9、12、16、17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件訂正により、請求項8に係る特許は削除されたため、請求項8に対して申立人がした特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701164