特許異議申立
2022-701075
ポリイミドフィルム
- 審判番号
- 2022-701075
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-038071
- 登録番号
- 7077064
- 請求日
- 2022年11月01日
- 審決日
- 2023年06月22日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東レ・デュポン株式会社
- 【権利者代理人】岩谷 龍
- 【権利者代理人】勝又 政徳
- 【異議申立人】笠原 佳代子
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 三上 晶子
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1652.113-YAA(C08J) / P1652.121-YAA(C08J) / P1652.537-YAA(C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7077064号発明「ポリイミドフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7077064号の特許請求の範囲及を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-19〕について訂正することを認める。
特許第7077064号の請求項1ないし9及び14ないし19に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7077064号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし19に係る特許についての出願は、平成30年3月2日を出願日とする特許出願であって、令和4年5月20日にその特許権の設定登録(請求項の数19)がされ、同年同月30日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和4年11月1日に特許異議申立人 笠原 佳代子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし9及び14ないし19)がされ、令和5年2月2日付けで取消理由が通知され、同年4月7日に特許権者 東レ・デュポン株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされるとともに意見書の提出がされ、同年同月27日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を特許異議申立人に対して行ったところ、同年5月29日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりであって、請求項1ないし19という一群の請求項について訂正するものである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
なお、半角英字は全角表記とした。以下同様。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「MD方向の熱膨張係数(αMD)及びTD方向の熱膨張係数(αTD)がいずれも-3~+3ppm/℃、|αMD-αTD|が3ppm/℃以下であり、MD方向の引張弾性率(EMD)及びTD方向の引張弾性率(ETD)の合計値が15.5GPa以上であり、MD方向の破断伸度(RMD)及びTD方向の破断伸度(RTD)がいずれも20%以上である、ポリイミドフィルム。」と記載されているのを、
「MD方向の熱膨張係数(αMD)及びTD方向の熱膨張係数(αTD)がいずれも-3~+3ppm/℃、|αMD-αTD|が3ppm/℃以下であり、MD方向の引張弾性率(EMD)及びTD方向の引張弾性率(ETD)の合計値が15.5GPa以上であり、MD方向の破断伸度(RMD)及びTD方向の破断伸度(RTD)がいずれも20%以上であり、下記(A)~(H)の少なくともいずれか1つを充足する、ポリイミドフィルム。
(A)c軸方向の結晶子サイズが2nm以上30nm以下であり、c軸方向の結晶乱れが1%以上15%以下であるポリイミドフィルムではない
(B)ベンゾオキサゾール構造を有するポリイミドフィルムではない
(C)MD方向のループスティフネス及びTD方向のループスティフネスがいずれも75mN/cm以下
(D)パラフェニレンジアミン(PPD)と、4,4-オキシジアニリン(ODA)を含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(E)芳香族ジアミン成分全体に対してパラフェニレンジアミン(PPD)を30モル%以上含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(F)無機粒子をポリイミドフィルムに対して0.05質量%以上含む
(G)芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドであって、芳香族ジアミン成分がパラフェニレンジアミン(PPD)を含み、
酸無水物成分が、ピロメリット酸二無水物(PMDA)及び3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を含み、
酸無水物成分における3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)の割合が、酸無水物成分全量に対して、5~70モル%である、ポリイミドで構成されている
(H)|αMD-αTD|が0.2ppm/℃以上3ppm/℃以下」
に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項3ないし19も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「MD方向の熱膨張係数(αMD)及びTD方向の熱膨張係数(αTD)がいずれも-5~+5ppm/℃、|αMD-αTD|が3ppm/℃以下であり、MD方向の引張弾性率(EMD)及びTD方向の引張弾性率(ETD)の合計値が15.5GPa以上であり、MD方向の破断伸度(RMD)及びTD方向の破断伸度(RTD)がいずれも20%以上であり、ガラス転移温度(フィルムを構成するポリイミドのガラス転移温度)が370℃以上である、ポリイミドフィルム。」と記載されているのを、
「MD方向の熱膨張係数(αMD)及びTD方向の熱膨張係数(αTD)がいずれも-5~+5ppm/℃、|αMD-αTD|が3ppm/℃以下であり、MD方向の引張弾性率(EMD)及びTD方向の引張弾性率(ETD)の合計値が15.5GPa以上であり、MD方向の破断伸度(RMD)及びTD方向の破断伸度(RTD)がいずれも20%以上であり、ガラス転移温度(フィルムを構成するポリイミドのガラス転移温度)が370℃以上であり、下記(A)~(H)の少なくともいずれか1つを充足する、ポリイミドフィルム。
(A)c軸方向の結晶子サイズが2nm以上30nm以下であり、c軸方向の結晶乱れが1%以上15%以下であるポリイミドフィルムではない
(B)ベンゾオキサゾール構造を有するポリイミドフィルムではない
(C)MD方向のループスティフネス及びTD方向のループスティフネスがいずれも75mN/cm以下
(D)パラフェニレンジアミン(PPD)と、4,4-オキシジアニリン(ODA)を含む芳香族ジアミン成分と酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(E)芳香族ジアミン成分全体に対して、パラフェニレンジアミン(PPD)を30モル%以上含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(F)無機粒子をポリイミドフィルムに対して0.05質量%以上含む
(G)芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドであって、芳香族ジアミン成分がパラフェニレンジアミン(PPD)を含み、
酸無水物成分が、ピロメリット酸二無水物(PMDA)及び3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を含み、
酸無水物成分における3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)の割合が、酸無水物成分全量に対して、5~70モル%である、ポリイミドで構成されている
(H)|αMD-αTD|が0.2ppm/℃以上3ppm/℃以下」
に訂正する。
請求項2の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項3ないし8及び10ないし19も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「αMD及びαTDがいずれも-3~+3ppm/℃であり、|αMD-αTD|が2ppm/℃以下である請求項1又は2記載のポリイミドフィルム。」と記載されているのを、
「αMD及びαTDがいずれも-3~+3ppm/℃であり、|αMD-αTD|が2ppm/℃以下であり、下記(A)~(F)の少なくともいずれか1つを充足する請求項1又は2記載のポリイミドフィルム。
(A)c軸方向の結晶子サイズが2nm以上30nm以下であり、c軸方向の結晶乱れが1%以上15%以下であるポリイミドフルムではない
(B)ベンゾオキサゾール構造を有するポリイミドフィルムではない
(C)MD方向のループスティフネス及びTD方向のループスティフネスがいずれも75mN/cm以下
(D)パラフェニレンジアミン(PPD)と、4,4-オキシジアニリン(ODA)を含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(E)芳香族ジアミン成分全体に対して、パラフェニレンジアミン(PPD)を30モル%以上含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(F)無機粒子をポリイミドフィルムに対して0.05質量%以上含む」
に訂正する。
請求項3の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項4ないし19も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「|EMD-ETD|が1GPa以下である請求項1~3のいずれかに記載のポリイミドフィルム。」と記載されているのを、
「|EMD-ETD|が1GPa以下であり、下記(A)~(E)の少なくともいずれか1つを充足する請求項1~3のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
(A)c軸方向の結晶子サイズが2nm以上30nm以下であり、c軸方向の結晶乱れが1%以上15%以下であるポリイミドフィルムではない
(B)ベンゾオキサゾール構造を有するポリイミドフィルムではない
(C)MD方向のループスティフネス及びTD方向のループスティフネスがいずれも75mN/cm以下
(D)パラフェニレンジアミン(PPD)と、4,4-オキシジアニリン(ODA)を含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(E)芳香族ジアミン成分全体に対して、パラフェニレンジアミン(PPD)を30モル%以上含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている」
に訂正する。
請求項4の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項5ないし19も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、
「EMD+ETDが16GPa以上である請求項1~4のいずれかに記載のポリイミドフィルム。」と記載されているのを、
「EMD+ETDが16GPa以上であり、下記(A)~(D)の少なくともいずれか1つを充足する請求項1~4のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
(A)c軸方向の結晶子サイズが2nm以上30nm以下であり、c軸方向の結晶乱れが1%以上15%以下であるポリイミドフィルムではない
(B)ベンゾオキサゾール構造を有するポリイミドフィルムではない
(C)MD方向のループスティフネス及びTD方向のループスティフネスがいずれも75mN/cm以下
(D)パラフェニレンジアミン(PPD)と、4,4ーオキシジアニリン(ODA)を含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている」
に訂正する。
請求項5の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項6ないし19も同様に訂正する。
(6)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし19について、請求項3ないし19は請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、請求項3ないし8及び請求項10ないし19は請求項2の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、請求項1ないし19は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1による請求項1及び3ないし19の訂正について
訂正事項1による請求項1の訂正は、「ポリイミドフィルム」を「下記(A)~(H)の少なくともいずれか1つを充足する」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、令和5年2月2日付けで通知された取消理由において証拠から認定された発明を除くものであるか、願書に添付した特許請求の範囲の請求項8及び10の記載及び願書に添付した明細書の【0013】、【0034】、【0038】、【0040】、【0048】、【0050】、【0051】、【0055】、【0058】及び表1の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でしたものである。
また、訂正事項1による請求項1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項3ないし19の訂正についても同様である。
(1)訂正事項2による請求項2ないし8及び10ないし19の訂正について
訂正事項2による請求項2の訂正は、「ポリイミドフィルム」を「下記(A)~(H)の少なくともいずれか1つを充足する」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2による請求項2についての訂正は、令和5年2月2日付けで通知された取消理由において証拠から認定された発明を除くものであるか、願書に添付した特許請求の範囲の請求項8及び10の記載及び願書に添付した明細書の【0013】、【0034】、【0038】、【0040】、【0048】、【0050】、【0051】、【0055】、【0058】及び表1の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でしたものである。
また、訂正事項2による請求項2の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項2の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項3ないし8及び10ないし19の訂正についても同様である。
(3)訂正事項3による請求項3ないし19の訂正について
訂正事項3による請求項3の訂正は、「ポリイミドフィルム」を「下記(A)~(F)の少なくともいずれか1つを充足する」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3による請求項3についての訂正は、令和5年2月2日付けで通知された取消理由において証拠から認定された発明を除くものであるか、願書に添付した特許請求の範囲の請求項8及び10の記載及び願書に添付した明細書の【0013】、【0034】、【0038】、【0040】、【0048】、【0050】、【0051】の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でしたものである。
また、訂正事項3による請求項3の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項3の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項4ないし19の訂正についても同様である。
(4)訂正事項4による請求項4ないし19の訂正について
訂正事項4による請求項4の訂正は、「ポリイミドフィルム」を「下記(A)~(E)の少なくともいずれか1つを充足する」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4による請求項4についての訂正は、令和5年2月2日付けで通知された取消理由において証拠から認定された発明を除くものであるか、願書に添付した特許請求の範囲の請求項8及び10の記載及び願書に添付した明細書の【0013】、【0034】、【0048】、【0050】、【0051】の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でしたものである。
また、訂正事項4による請求項4の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項4の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項5ないし19の訂正についても同様である。
(5)訂正事項5による請求項5ないし19の訂正について
訂正事項5による請求項5の訂正は、「ポリイミドフィルム」を「下記(A)~(D)の少なくともいずれか1つを充足する」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項5による請求項5についての訂正は、令和5年2月2日付けで通知された取消理由において証拠から認定された発明を除くものであるか、願書に添付した特許請求の範囲の請求項8及び10の記載及び願書に添付した明細書の【0013】、【0034】、【0048】、【0050】の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でしたものである。
また、訂正事項5による請求項5の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項5の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項6ないし19の訂正についても同様である。
3 むすび
以上のとおり、本件訂正による請求項1ないし19についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、本件訂正による請求項1ないし19についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし9及び14ないし19に対してされているので、訂正を認める要件として、請求項1ないし9及び14ないし19に対しては特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されないが、請求項10ないし13に対しては上記独立特許要件が課される。
そこで、請求項10ないし13の独立特許要件について検討するに、訂正後の請求項10ないし13に係る発明は、下記第8のとおり、令和5年2月2日付けで通知された取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことのできない訂正後の請求項1又は2に係る発明の発明特定事項を全て有するものであるから、訂正後の請求項1又は2に係る発明と同様に上記取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては特許を受けることができないものであるとはいえない。また、他に訂正後の請求項10ないし13に係る発明が特許を受けることができないものであるという理由も発見しない。
よって、訂正後の請求項10ないし13に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし19〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし9及び14ないし19に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9及び14ないし19に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
MD方向の熱膨張係数(αMD)及びTD方向の熱膨張係数(αTD)がいずれも-3~+3ppm/℃、|αMD-αTD|が3ppm/℃以下であり、MD方向の引張弾性率(EMD)及びTD方向の引張弾性率(ETD)の合計値が15.5GPa以上であり、MD方向の破断伸度(RMD)及びTD方向の破断伸度(RTD)がいずれも20%以上であり、下記(A)~(H)の少なくともいずれか1つを充足する、ポリイミドフィルム。
(A)c軸方向の結晶子サイズが2nm以上30nm以下であり、c軸方向の結晶乱れが1%以上15%以下であるポリイミドフィルムではない
(B)ベンゾオキサゾール構造を有するポリイミドフィルムではない
(C)MD方向のループスティフネス及びTD方向のループスティフネスがいずれも75mN/cm以下
(D)パラフェニレンジアミン(PPD)と、4,4-オキシジアニリン(ODA)を含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(E)芳香族ジアミン成分全体に対して、パラフェニレンジアミン(PPD)を30モル%以上含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(F)無機粒子をポリイミドフィルムに対して0.05質量%以上含む
(G)芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドであって、芳香族ジアミン成分がパラフェニレンジアミン(PPD)を含み、
酸無水物成分が、ピロメリット酸二無水物(PMDA)及び3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を含み、
酸無水物成分における3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)の割合が、酸無水物成分全量に対して、5~70モル%である、ポリイミドで構成されている
(H)|αMD-αTD|が0.2ppm/℃以上3ppm/℃以下
【請求項2】
MD方向の熱膨張係数(αMD)及びTD方向の熱膨張係数(αTD)がいずれも-5~+5ppm/℃、|αMD-αTD|が3ppm/℃以下であり、MD方向の引張弾性率(EMD)及びTD方向の引張弾性率(ETD)の合計値が15.5GPa以上であり、MD方向の破断伸度(RMD)及びTD方向の破断伸度(RTD)がいずれも20%以上であり、ガラス転移温度(フィルムを構成するポリイミドのガラス転移温度)が370℃以上であり、下記(A)から(H)の少なくともいずれか1つを充足する、ポリイミドフィルム。
(A)c軸方向の結晶子サイズが2nm以上30nm以下であり、c軸方向の結晶乱れが1%以上15%以下であるポリイミドフィルムではない
(B)ベンゾオキサゾール構造を有するポリイミドフィルムではない
(C)MD方向のループスティフネス及びTD方向のループスティフネスがいずれも75mN/cm以下
(D)パラフェニレンジアミン(PPD)と、4,4-オキシジアニリン(ODA)を含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(E)芳香族ジアミン成分全体に対して、パラフェニレンジアミン(PPD)を30モル%以上含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(F)無機粒子をポリイミドフィルムに対して0.05質量%以上含む
(G)芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドであって、芳香族ジアミン成分がパラフェニレンジアミン(PPD)を含み、
酸無水物成分が、ピロメリット酸二無水物(PMDA)及び3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を含み、
酸無水物成分における3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)の割合が、酸無水物成分全量に対して、5~70モル%である、ポリイミドで構成されている
(H)|αMD-αTD|が0.2ppm/℃以上3ppm/℃以下
【請求項3】
αMD及びαTDがいずれも-3~+3ppm/℃であり、|αMD-αTD|が2ppm/℃以下であり、下記(A)~(F)の少なくともいずれか1つを充足する請求項1又は2記載のポリイミドフィルム。
(A)c軸方向の結晶子サイズが2nm以上30nm以下であり、c軸方向の結晶乱れが1%以上15%以下であるポリイミドフィルムではない
(B)ベンゾオキサゾール構造を有するポリイミドフィルムではない
(C)MD方向のループスティフネス及びTD方向のループスティフネスがいずれも75mN/cm以下
(D)パラフェニレンジアミン(PPD)と、4,4-オキシジアニリン(ODA)を含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(E)芳香族ジアミン成分全体に対して、パラフェニレンジアミン(PPD)を30モル%以上含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(F)無機粒子をポリイミドフィルムに対して0.05質量%以上含む
【請求項4】
|EMD-ETD|が1GPa以下であり、下記(A)~(E)の少なくともいずれか1つを充足する請求項1~3のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
(A)c軸方向の結晶子サイズが2nm以上30nm以下であり、c軸方向の結晶乱れが1%以上15%以下であるポリイミドフィルムではない
(B)ベンゾオキサゾール構造を有するポリイミドフィルムではない
(C)MD方向のループスティフネス及びTD方向のループスティフネスがいずれも75mN/cm以下
(D)パラフェニレンジアミン(PPD)と、4,4-オキシジアニリン(ODA)を含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(E)芳香族ジアミン成分全体に対して、パラフェニレンジアミン(PPD)を30モル%以上含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
【請求項5】
EMD+ETDが16GPa以上であり、下記(A)~(D)の少なくともいずれか1つを充足する請求項1~4のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
(A)c軸方向の結晶子サイズが2nm以上30nm以下であり、c軸方向の結晶乱れが1%以上15%以下であるポリイミドフィルムではない
(B)ベンゾオキサゾール構造を有するポリイミドフィルムではない
(C)MD方向のループスティフネス及びTD方向のループスティフネスがいずれも75mN/cm以下
(D)パラフェニレンジアミン(PPD)と、4,4-オキシジアニリン(ODA)を含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
【請求項6】
|RMD-RTD|が15%以下である請求項1~5のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
MD方向の200℃における熱収縮率(SMD)及びTD方向の200℃における熱収縮率(STD)がいずれも0.03%以下である請求項1~6のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項8】
MD方向のループスティフネス及びTD方向のループスティフネスがいずれも75mN/cm以下である請求項1~7のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項9】
ガラス転移温度(フィルムを構成するポリイミドのガラス転移温度)が370℃以上である、請求項1、3~8のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載のポリイミドフィルムと金属層とを備えた基板。
【請求項15】
請求項1~13のいずれかに記載のポリイミドフィルムと、このフィルム上に形成された配線とを備えた基板。
【請求項16】
異方向の配線が形成されている請求項15記載の基板。
【請求項17】
請求項1~13のいずれかに記載のポリイミドフィルムで構成されたカバーレイフィルム。
【請求項18】
請求項14~17のいずれかに記載の基板及び/又はカバーレイフィルムを備えた電子部品実装基板。
【請求項19】
請求項14~18のいずれかに記載の基板及び/又はカバーレイフィルムを備えた多層構造を有する基板。」
第4 特許異議の申立ての理由の概要
令和4年11月1日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし7、9、14、15及び18に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7、9、14、15及び18に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし7、9、14ないし16、18及び19に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7、9、14ないし16、18及び19に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし9及び14ないし19に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明の優れた寸法安定性、高い弾性率、高い伸度(請求項1の構成)は、ポリイミドを特定の組成にすること(段落[0012])、具体的には、実施例に記載されているように、芳香族ジアミン成分としてPPDとODAとの組み合わせを使用することにより達成することができると理解できる。
一方、本件特許発明1ないし9及び14ないし19(芳香族ジアミン成分としてPPDとODAとの組み合わせを使用することを限定する請求項10を引用する場合を除く)は、そのことが特定されていない。
従って、本件特許発明1ないし9及び14ないし19(芳香族ジアミン成分としてPPDとODAとの組み合わせを使用することを限定する請求項10を引用する場合を除く)は、発明の課題を解決するための手段(芳香族ジアミン成分としてPPDとODAとの組み合わせを使用すること)が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなっている。
4 証拠方法
甲第1号証:特開2008-24883号公報
甲第2号証:「ポリイミド系樹脂薄膜の引張特性および粘弾性モデルの表示」Journal of society of materials science ,japan vol.62,No.2,p.149-155(2013)
甲第3号証:JIS K7121-1987、昭和63年2月29日、日本規格協会
甲第4号証:特開2009-297952号公報
甲第5号証:国際公開第2015/087885号
甲第6号証:特開2014-58620号公報
甲第7号証:特開2015-155173号公報
なお、甲第6及び7号証は、令和5年5月29日に提出された意見書に添付されたものである。
証拠の表記は、特許異議申立書及び上記意見書の記載におおむね従った。
(以下、順に「甲1」のようにいう。)
第5 当審による取消理由の概要
令和5年2月2日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。
なお、取消理由は、申立理由1及び2を全て包含する。
1 取消理由1(甲1に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし7、9、14ないし16、18及び19に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7、9、14ないし16、18及び19に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 取消理由2(甲1に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし7、9及び14ないし19に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7、9及び14ないし19に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 取消理由についての当審の判断
当審は、以下に述べるように、令和5年2月2日付けで通知した取消理由1及び2には理由がないと判断する。
1 甲1に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項
甲1には、ポリイミドフィルムに関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0002】
ポリイミドフィルムは、その卓越した耐熱性や電気特性・機械的物性・寸法安定性などを有しているために、フレキシブルプリント配線板(FPC)、テープ・オートメーテッド・ボンディング(TAB)用キャリアテープ、半導体実装のための基材をはじめとする各種電子材料や産業機器、航空機などの高性能部品等の広範な分野で用いられている。
特に、近年の高密度実装に伴う回路基板や半導体パッケージ用基材においては、信号伝送の高速化を図るために誘電率の低い絶縁樹脂を層間絶縁膜として使用することが主流となってきている。ポリイミドフィルムはその代表的な絶縁材料の一つである。
通常、ポリイミドフィルムは、接着剤を用いて銅箔と貼り合わせたり、蒸着法、メッキ法、スパッタ法、又はキャスト法によりフィルム層と銅箔からなる積層板(銅箔付きポリイミドフィルム)に加工されたりして、フレキシブルプリント多層回路基板の基材フィルムとして使用される。」
・「【0058】
次に、上述したポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを用いたプリント配線基板用ベース基板を説明する。
ここで、プリント配線基板用ベース基板とは、絶縁板としてのポリイミドフィルムの少なくとも片面に金属層を積層してなる構成の略平板状の基板である。積層される金属層は、エッチング等の加工によって回路を形成することが意図される回路用の金属層であってもよいし、特に後加工をせずに絶縁板と一緒になって放熱等の目的に用いられる金属層であってもよい。プリント配線基板用ベース基板の用途としては、FPC、TAB用キャリアテープ等が、高温環境下における膨れや剥がれが小さいという本発明のポリイミドフィルムの特徴を活かすことができるため好ましい。ポリイミドフィルムの少なくとも片面に積層される金属は特に限定はなく、好ましくは銅、アルミニウム、ステンレス鋼などである。
積層方法は特に問わず、接着剤を用いてポリイミドフィルムに金属板を貼り付ける方法、金属板を支持体として、そこにポリアミド酸溶液を塗布して上述のようにイミド化してフィルムを形成させる方法、ポリイミドフィルムに蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの乾式製膜法(真空コーティング技術)を用いて金属層を形成する方法、無電解めっき、電気めっきなどの湿式メッキ法により金属層をポリイミドフィルムに形成する方法などが挙げられる。
これらの方法を単独で、あるいは組み合わせることによってポリイミドフィルムの少なくとも片面に金属層を積層することができる。
本発明で使用する金属層の表面には、金属単体や金属酸化物などといった無機物の塗膜を形成してもよい。また金属層の表面を、カップリング剤(アミノシラン、エポキシシランなど)による処理、サンドプラスト処理、ホ-リング処理、コロナ処理、プラズマ処理、エッチング処理などに供してもよい。同様に、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面をホ-ニング処理、コロナ処理、プラズマ処理、エッチング処理などに供してもよい。」
・「【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は前記したもの以外は、以下の通りである。
・・・(略)・・・
【0063】
3.ポリイミドフィルムの引張弾性率、引張破断強度及び引張破断伸度
乾燥後のフィルムを長手方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)にそれぞれ長さ100mm、幅10mmの短冊状に切り出して試験片とし、引張試験機(島津製作所製オートグラフ(商品名)機種名AG-5000A)を用い、引張速度50mm/分、チャック間距離40mmの条件で、引張弾性率、引張破断強度及び引張破断伸度を測定した。
【0064】
4.ポリイミドフィルムの線膨張係数(CTE)
測定対象のポリイミドフィルムについて、下記条件でMD方向及びTD方向の寸法変化率をそれぞれ測定し、30℃~45℃、45℃~60℃、・・・と15℃の間隔での寸法変化率/温度を測定し、この測定を300℃まで行い、全測定値の平均値をCTEとして算出した。MD方向とTD方向の意味は上記「3.」の測定と同じである。
装置名 ; MACサイエンス社製TMA4000S
試料長さ ; 20mm
試料幅 ; 2mm
昇温開始温度 ; 25℃
昇温終了温度 ; 400℃
昇温速度 ; 5℃/min
雰囲気 ; アルゴン
【0065】
5.ポリイミドフィルムの融点、ガラス転移温度
試料の熱的データ(融点(融解ピーク温度Tpm)とガラス転移点(Tmg))をJIS K 7121に準拠して下記測定条件で求めた。
装置名 ; MACサイエンス社製DSC3100S
パン ; アルミパン(非気密型)
試料質量 ; 4mg
昇温開始温度 ; 30℃
昇温速度 ; 20℃/min
雰囲気 ; アルゴン
【0066】
(実施例1~2)
<重合>
窒素導入管,温度計,攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後,5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール(p-DAMBO)300質量部を仕込んだ。次いで,N,N-ジメチルアセトアミド4400質量部を加えて完全に溶解させた後,ピロメリット酸二無水物300質量部を加え,25℃の反応温度で17時間攪拌すると,褐色で粘調なポリアミド酸溶液が得られた。このもののηsp/Cは4.1dl/gであった。
<ポリイミド前駆体フィルム(グリーンフィルム)の作製>
続いてこのポリアミド酸溶液をTダイを用いてステンレスベルトにコーティングし、表1に示す処理条件にて乾燥を行い、乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルムをステンレスベルトから剥離し厚さ70μmのグリーンフィルムを得た。このときのグリーンフィルムの残溶媒量は36%であった。
得られたグリーンフィルムを用いて、あらかじめ、c軸結晶成長開始温度、ならびに90%イミド化率到達温度を求めた。結果を表1に示す。求めたc軸結晶成長開始温度、ならびに90%イミド化率到達温度に基づき、以下の工程条件を決めた。
<縦延伸>
得られたグリーンフィルムを28℃の室温下において、回転速度の異なるロールを用いることにより表1に示す倍率の縦延伸を行った。
<熱処理と横延伸>
縦延伸後のグリーンフィルムを、ピン幅を任意に変更出来る3つの加熱ゾーンを有する熱風処理機にて、表1に示す条件にて熱処理と延伸処理を行った後、6インチのABS樹脂製コアにロール上に巻き取った。
得られたポリイミドフィルムの特性値を評価した。結果を表1に示す。
【0067】
得られたポリイミドフィルムを用いて、以下の加工を行った。フィルムを50cm×200cmの方形に切り取り、開口部を有するステンレス製の枠に挟んで固定した。次いでフィルム表面のプラズマ処理を行った。プラズマ処理条件はキセノンガス中で、周波数13.56MHz、出力100W、ガス圧0.8Paの条件であり、処理時の温度は25℃、処理時間は5分間であった。次いで、周波数13.56MHz、出力400W、ガス圧0.8Paの条件、ニッケル-クロム(3質量%)合金のターゲットを用い、アルゴン雰囲気下にてRFスパッタ法により、10Å/秒のレートで厚さ80Åのニッケル-クロム合金被膜(下地層)を形成し、次いで、基板の温度を250℃にあげ、100Å/秒のレートで銅を蒸着し、厚さ0.3μmの銅薄膜を形成させた。得られた銅薄膜形成フィルムをプラスチック製の枠に固定し、硫酸銅めっき浴をもちいて、厚さ5μmの厚付け銅めっき層(厚付け層)を形成し、引き続き300℃で10分間熱処理し目的とする金属化ポリイミドフィルムを得た。得られた金属化ポリイミドフィルムを使用し、フォトレジスト:FR-200、シプレー社製を塗布・乾燥後にガラスフォトマスクで密着露光し、さらに1.2質量%KOH水溶液にて現像した。次に、HClと過酸化水素を含む塩化第二銅のエッチングラインで、40℃、2kgf/cm2のスプレー圧でエッチングし、最小配線ピッチが30μmのパターンを形成後、半導体搭載部に0.5μm厚に無電解スズめっきを行い、その後、125℃、1時間のアニール処理を行い各フィルムによる基板を作製した。
【0068】
各フィルム基板にLCD駆動用半導体チップをフェイスダウン実装した。バンプは、フォトレジストで形成するエリアを開口し、電解メッキで形成する。形成した後にフォトレジストが除去される。このバンプをフィルム基板の電極と金-スズ共晶結合により接続している。この場合の接続条件は、半導体チップ側から440℃のツールで13kgfの荷重を加え、2秒間保持する。
半導体チップの実装方法は、金-スズ共晶接続だけではなく、金-金熱圧着や超音波接続及び異方性導電膜やNCPなどがあるが、接続方法は適宜選択使用すればよい。
その他実装部品として、チップ抵抗、コンデンサ、パッケージIC、コイル、コネクタなどを半田付けなどにより接続してモジュール型のFPCとした。得られたFPCには、組み立て後に、折り曲げと「ひねり」を想定した、長さ8mm、幅1.6mmの「ひねり屈曲部」が設けられている。かかるひねり屈曲部の前後にて導通している幅150μmの導体ラインの両端から端子を取りだし、導通状態をモニターしながら、当該部分に、曲率半径1.4mm、折り曲げ角度180度~-150度の折り曲げ2回に、当該折り曲げ部を中心としたFPC面方向に180度のひねり1回の割合で繰り返し変形を加え(この組み合わせを1サイクルとする)、導体ラインが破断するまでのサイクル数を評価した。結果、本実施例のフィルムを用いたFPCは1万サイクルの繰り返しにおいても破断は生じなかった。
(実施例2)
以下同様に、表1に示す条件にてポリイミドフィルムを作製し、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。実施例1と同様、当フィルムを用いたFPCにおいては1万サイクルの繰り返し曲げと繰り返しひねりにおいても導体パターンの破断は生じなかった。」
・「【0072】
【表1】
[図:0001401671000001.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に表1に具体的な物性が示されている実施例2のポリイミドフィルムに関して整理すると、甲1には次の甲1発明が記載されていると認める。
<甲1発明>
「引張破断伸度(MD)が30%、引張破断伸度(TD)が32%であり、引張弾性率(MD)が9.3GPa、引張弾性率(TD)が9.5GPaであり、線膨張係数(MD)が0ppm/℃、線膨張係数(TD方向)が0ppm/℃であり、ガラス転移温度が無しであり、c軸方向の結晶子サイズが27nmであり、c軸方向の結晶乱れが3%である、p-DAMBO及びPMDAから得られた、ポリイミドフィルム。」
さらに、甲1の記載からみて、甲1には次の甲1基板発明が記載されていると認める。
<甲1基板発明>
「甲1発明にニッケル-クロム合金被膜(下地層)、厚付け銅めっき層(厚付け層)を積層してなる金属化ポリイミドフィルムに最小配線ピッチが30μmのパターンを形成して作成したフィルム基板に、LCD駆動用半導体チップ及びその他実装部品が実装された、FPC。」
2 取消理由1及び2(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「線膨張係数(MD)が0ppm/℃、線膨張係数(TD)が0ppm/℃である」は、本件特許発明1の「MD方向の熱膨張係数(αMD)及びTD方向の熱膨張係数(αTD)がいずれも-3~+3ppm/℃、|αMD-αTD|が3ppm/℃以下であり」との特定事項を満たす。
甲1発明の「引張弾性率(MD)が9.3GPa、引張弾性率(TD)が9.5GPaであり」は、本件特許発明1の「MD方向の引張弾性率(EMD)及びTD方向の引張弾性率(ETD)の合計値が15.5GPa以上であり」との特定事項を満たす。
甲1発明の「引張破断伸度(MD)が30%、引張破断伸度(TD)が32%であり」は、本件特許発明1の「MD方向の破断伸度(RMD)及びTD方向の破断伸度(RTD)がいずれも20%以上である」との特定事項を満たす。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「MD方向の熱膨張係数(αMD)及びTD方向の熱膨張係数(αTD)がいずれも-3~+3ppm/℃、|αMD-αTD|が3ppm/℃以下であり、MD方向の引張弾性率(EMD)及びTD方向の引張弾性率(ETD)の合計値が15.5GPa以上であり、MD方向の破断伸度(RMD)及びTD方向の破断伸度(RTD)がいずれも20%以上である、ポリイミドフィルム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は
「下記(A)~(H)の少なくともいずれか1つを充足する
(A)c軸方向の結晶子サイズが2nm以上30nm以下であり、c軸方向の結晶乱れが1%以上15%以下であるポリイミドフィルムではない
(B)ベンゾオキサゾール構造を有するポリイミドフィルムではない
(C)MD方向のループスティフネス及びTD方向のループスティフネスがいずれも75mN/cm以下
(D)パラフェニレンジアミン(PPD)と4,4-オキシジアニリン(ODA)を含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(E)芳香族ジアミン成分全体に対して、パラフェニレンジアミン(PPD)を30モル%以上含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(F)無機粒子をポリイミドフィルムに対して0.05質量%以上含む
(G)芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドであって、芳香族ジアミン成分がパラフェニレンジアミン(PPD)を含み、
酸無水物成分が、ピロメリット酸二無水物(PMDA)及び3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を含み、
酸無水物成分における3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)の割合が、酸無水物成分全量に対して、5~70モル%である、ポリイミドで構成されている
(H)|αMD-αTD|が0.2ppm/℃以上3ppm/℃以下」
と特定されるのに対し、甲1発明においてはこのような特定がない点。
イ 判断
上記相違点1について検討する。
甲1発明は「c軸方向の結晶子サイズが27nmであり、c軸方向の結晶乱れが3%である」から、(A)を満たさない。
甲1発明は、「p-DAMBO及びPMDAから得られた、ポリイミドフィルム」であって、実施例及び表1の記載からみて「パラフェニレンジアミン(PPD)」及び「無機粒子」を含まないから、(B)及び(D)ないし(G)を満たさない。
甲1には、甲1発明が(C)を満たすと認められるような記載はないし、甲1及び他の証拠をみても、甲1発明が(C)を満たす蓋然性が高いともいえない。
甲1発明は、「線膨張係数(MD)が0ppm/℃、線膨張係数(TD)が0ppm/℃」であるから、(H)を満たさない。
そうすると、甲1発明は相違点1の(A)~(H)のいずれも充足しないから、相違点1は実質的な相違点である。
してみると、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえない。
また、甲1及び他の証拠には、甲1発明において相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
してみると、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和5年5月29日付け意見書において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項のうちの(C)、(F)、(H)について、以下のとおり主張する。
(ア)(C)は甲1に記載されている蓋然性が高いか、甲1及び甲6の記載から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)(F)は甲1及び甲7の記載から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ウ)(H)は甲1の記載から当業者が容易に発明をすることができたものである。
そこで、上記主張について検討する。
(ア)((C)に関する主張)について
仮に、特許異議申立人が主張するように、甲1にPPD、4,4‘-ODA、PMDA、BPDAをモノマーとして用いたポリイミドフィルムが開示されており、当該ポリイミドフィルムにおけるループスティフネス等の物性値として甲6の値を参酌したとしても、当該ポリイミドフィルムは甲1の実施例2のポリイミドフィルムとは原料のジアミンや酸無水物の組成が異なるものであるから、当該ポリイミドフィルムの熱膨張係数(αMD、αTD)等の物性値は甲1の実施例2のポリイミドフィルムと同じ値と推認することはできず、本件特許発明1の特定事項を満たすとはいえないし、また、本件特許発明1の特定事項を満たす値とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
(イ)((F)に関する主張)について
甲1及び甲7並びに他の何れの証拠にも、甲1発明において、無機粒子をポリイミドフィルムに対して0.05質量%以上含むものとする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1発明において無機粒子をポリイミドフィルムに対して0.05質量%以上含むものとすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえず、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
(ウ)((H)に関する主張)について
甲1の実施例においては、|αMD-αTD|がいずれも0ppm/℃であり、甲1及び他の何れの証拠の記載をみても、甲1のポリイミドフィルムにおいて、|αMD-αTD|を0.2ppm℃以上3ppm℃以下とする動機付けとなる記載はなく、特許異議申立人が主張するように甲1においてαMDとαTDとが異なることが当然に予定されているとまではいえない。
よって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
以上のとおりであって、特許異議申立人の主張は何れも採用できない。
(2)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「線膨張係数(MD)が0ppm/℃、線膨張係数(TD)が0ppm/℃である」は、本件特許発明2の「MD方向の熱膨張係数(αMD)及びTD方向の熱膨張係数(αTD)がいずれも-5~+5ppm/℃、|αMD-αTD|が3ppm/℃以下であり」との特定事項を満たす。
甲1発明の「引張弾性率(MD)が9.3GPa、引張弾性率(TD)が9.5GPaであり」は、本件特許発明2の「MD方向の引張弾性率(EMD)及びTD方向の引張弾性率(ETD)の合計値が15.5GPa以上であり」との特定事項を満たす。
甲1発明の「引張破断伸度(MD)が30%、引張破断伸度(TD)が32%であり」は、本件特許発明2の「MD方向の破断伸度(RMD)及びTD方向の破断伸度(RTD)がいずれも20%以上である」との特定事項を満たす。
そうすると、本件特許発明2と甲1発明とは、
「MD方向の熱膨張係数(αMD)及びTD方向の熱膨張係数(αTD)がいずれも-5~+5ppm/℃、|αMD-αTD|が3ppm/℃以下であり、MD方向の引張弾性率(EMD)及びTD方向の引張弾性率(ETD)の合計値が15.5GPa以上であり、MD方向の破断伸度(RMD)及びTD方向の破断伸度(RTD)がいずれも20%以上である、ポリイミドフィルム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2>
本件特許発明2は「ガラス転移温度(フィルムを構成するポリイミドのガラス転移温度)が370℃以上である」のに対し、甲1発明のガラス転移温度が「無し」である点。
<相違点3>
本件特許発明2は
「下記(A)から(H)の少なくともいずれか1つを充足する
(A)c軸方向の結晶子サイズが2nm以上30nm以下であり、c軸方向の結晶乱れが1%以上15%以下であるポリイミドフィルムではない
(B)ベンゾオキサゾール構造を有するポリイミドフィルムではない
(C)MD方向のループスティフネス及びTD方向のループスティフネスがいずれも75mN/cm以下
(D)パラフェニレンジアミン(PPD)と、4,4-オキシジアニリン(ODA)を含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(E)芳香族ジアミン成分全体に対して、パラフェニレンジアミン(PPD)を30モル%以上含む芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドで構成されている
(F)無機粒子をポリイミドフィルムに対して0.05質量%以上含む
(G)芳香族ジアミン成分と、酸無水物成分とを重合成分とするポリイミドであって、芳香族ジアミン成分がパラフェニレンジアミン(PPD)を含み、
酸無水物成分が、ピロメリット酸二無水物(PMDA)及び3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を含み、
酸無水物成分における3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)の割合が、酸無水物成分全量に対して、5~70モル%である、ポリイミドで構成されている
(H)|αMD-αTD|が0.2ppm/℃以上3ppm/℃以下」
と特定されるのに対し、甲1発明においてはこのような特定がない点。
イ 判断
事案に鑑み、上記相違点3について検討する。
相違点3は相違点1と実質的に同じであり、上記(1)イ及びウと同様に判断される。
してみると、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明3ないし7及び17について
本件特許発明3ないし7及び17は、請求項1又は2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明3ないし7は、本件特許発明1又は2と同様に、甲1発明であるとはいえないし、本件特許発明3ないし7及び17は、本件特許発明1又は2と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明9について
本件特許発明9は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明9は、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明14及び15について
本件特許発明14及び15と甲1基板発明とを対比すると、上記相違点1と同様の相違点があって、該相違点については上記(1)イ及びウと同様に判断されるから、本件特許発明14及び15は、甲1基板発明であるとはいえないし、甲1基板発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)本件特許発明16及び18ないし19について
本件特許発明16は、請求項15を引用して特定するものであり、本件特許発明15の発明特定事項を全て有するものである。
本件特許発明18ないし19は、請求項14又は15を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明14又は15の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明16及び18ないし19は、本件特許発明14又は15と同様に、甲1基板発明であるとはいえないし、甲1基板発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(7)まとめ
よって、取消理由1及び2には理由がない。
第7 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由について
取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由は、申立理由3(サポート要件)である。
そこで、検討する。
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
これを踏まえ、以下検討する。
(2)サポート要件についての判断
本件特許発明における発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、本件特許の発明の詳細な説明の全体の記載からみて、「優れた寸法安定性に加え、高い弾性率と高い伸度を有する新規なポリイミドフィルムを提供すること」(【0012】、【0014】)である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0013】には、本件特許発明1ないし19に対応する記載がある。
また、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、熱膨張係数や|αMD-αTD|を小さくすることで、熱による寸法変化ないし膨張を多方向においてバラツキなく抑えることができること(【0020】)、「MD方向の引張弾性率(EMD)とTD方向の引張弾性率(ETD)(特に、EMD及びETDの双方)との合計(EMD+ETD)において、12GPa以上・・・さらに好ましくは15.5GPa以上」とすることで「比較的高い抗張力を有し、加工工程でのハンドリング性や寸法安定性などの点で有利である」(【0022】~【0023】)こと、「MD方向の破断伸度(RMD)及び/又はTD方向の破断伸度(RTD)(特に、RMD及びRTDの双方)において、10%以上・・・好ましくは20%以上」であることで「生産性やハンドリング性の点で有利である」(【0027】~【0028】)ことが記載され、【0048】ないし【0081】にはポリイミドフィルムの製造方法について記載され、「本発明のポリイミドフィルムは、上記のように、特定の特性・物性を備えているが、このような態様は、上記条件等を適宜選択することで調整できる。例えば、ポリアミック酸の重合工程において芳香族ジアミン成分や酸無水物成分の種類やその含有割合を所定範囲に適宜調整したり、更に製膜工程において、MDおよびTDの延伸倍率を所定の範囲に適宜調整することなどによって、効率よく所望の特性を持つポリイミドフィルムに調整しうる。」(【0079】~【0080】。なお、摘記に際し改行は省略した。)との記載がある。また、「MD方向の熱膨張係数(αMD)及びTD方向の熱膨張係数(αTD)がいずれも-5~+5ppm/℃、|αMD-αTD|が3ppm/℃以下であり、MD方向の引張弾性率(EMD)及びTD方向の引張弾性率(ETD)の合計値が15.5GPa以上であり、MD方向の破断伸度(RMD)及びTD方向の破断伸度(RTD)がいずれも20%以上」であるポリイミドフィルムを製造した具体的な実施例等の記載もある。
これらの記載に接した当業者であれば、「MD方向の熱膨張係数(αMD)及びTD方向の熱膨張係数(αTD)がいずれも-5~+5ppm/℃、|αMD-αTD|が3ppm/℃以下であり、MD方向の引張弾性率(EMD)及びTD方向の引張弾性率(ETD)の合計値が15.5GPa以上であり、MD方向の破断伸度(RMD)及びTD方向の破断伸度(RTD)がいずれも20%以上」であるポリイミドフィルムとすることにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし9及び14ないし19は何れも、「MD方向の熱膨張係数(αMD)及びTD方向の熱膨張係数(αTD)がいずれも-5~+5ppm/℃、|αMD-αTD|が3ppm/℃以下であり、MD方向の引張弾性率(EMD)及びTD方向の引張弾性率(ETD)の合計値が15.5GPa以上であり、MD方向の破断伸度(RMD)及びTD方向の破断伸度(RTD)がいずれも20%以上」との特定事項(以下、「特定事項A」という。)を全て有し、かつ、さらに特定するものである。
よって、本件特許発明1ないし9及び14ないし19はいずれも、明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、サポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第4 3のとおり、芳香族ジアミン成分としてPPDとODAとの組み合わせを使用することにより発明の課題が解決されるものであるが、本件特許発明1ないし9及び14ないし19においては、請求項10を引用する場合を除き、そのことが特定されていないから、本件特許発明1-9、及び、14-19は、発明の課題を解決するための手段(芳香族ジアミン成分としてPPDとODAとの組み合わせを使用すること)が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなっている旨主張する。
しかしながら、上記(2)で検討したとおり、本件特許発明1ないし9及び14ないし19には、発明の課題を解決できる程度の特定がされている。
また、特許異議申立人の主張は、PPDとODAとの組み合わせ以外で、特定事項Aを満たすものでも発明の課題を解決し得ないとする具体的な証拠を提示するものでもない。
よって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
(4)申立理由3についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由3は、その理由がない。
第8 むすび
したがって、令和5年2月2日付けで通知した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1ないし9及び14ないし19に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし9及び14ないし19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701075