特許異議申立
2022-701048
圧粉磁心の製造方法、及び圧粉磁心用原料粉末
- 審判番号
- 2022-701048
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-539157
- 登録番号
- 7059288
- 請求日
- 2022年10月24日
- 審決日
- 2023年02月03日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】住友電気工業株式会社
- 【権利者代理人】山野 宏
- 【権利者代理人】坂本 寛
- 【権利者】住友電工焼結合金株式会社
- 【権利者代理人】山野 宏
- 【権利者代理人】坂本 寛
- 【異議申立人】中澤 佳樹
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 池渕 立
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1652.121-Y (B22F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7059288号発明「圧粉磁心の製造方法、及び圧粉磁心用原料粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7059288号の請求項1、3、4、6ないし10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7059288号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2018年(平成30年)8月10日(優先権主張 平成29年 9月 4日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和 4年 4月15日に特許権の設定登録がされ、同年 4月25日に特許掲載公報が発行され、その後、同年10月24日に、請求項1、3、4、6~10に係る特許に対し、特許異議申立人である中澤佳樹(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~12に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明12」といい、これらを総合して「本件発明」という。)は、それぞれ、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
絶縁被覆層を有する複数の純鉄粒子からなる被覆純鉄粉と、絶縁被覆層を有する複数の鉄合金粒子からなる被覆鉄合金粉と、金属石鹸と、を含む原料粉末を準備する工程と、
金型内に充填した前記原料粉末を圧縮成形して成形体を作製する工程と、
前記成形体を熱処理して前記被覆純鉄粉及び前記被覆鉄合金粉の歪を除去する工程とを備え、
前記金属石鹸の融点Tmと前記成形体を作製する工程での前記金型の温度Tdとの差Tm-Tdが、90℃以上であり、
前記金型の温度Tdは、前記原料粉末を充填する直前の金型における前記原料粉末との接触箇所の温度である、
圧粉磁心の製造方法。
【請求項2】
前記金属石鹸の融点Tmが200℃以上である請求項1に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項3】
前記金型の温度Tdが130℃以下である請求項1又は請求項2に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項4】
前記鉄合金粒子のビッカース硬さが200HV以上である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項5】
前記鉄合金粒子のビッカース硬さが200HV以上であり、
前記金属石鹸の融点Tmが200℃以上であり、
前記金型の温度Tdが130℃以下である請求項1に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項6】
前記原料粉末における前記被覆鉄合金粉の含有量が15質量%以上40質量%以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項7】
前記原料粉末における前記金属石鹸の含有量が0.02質量%以上0.80質量%以下である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項8】
前記鉄合金粒子は、Si、及びAlから選択される少なくとも1種の添加元素を含有する請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項9】
前記被覆純鉄粉の前記絶縁被覆層及び前記被覆鉄合金粉の前記絶縁被覆層の厚さは、30nm以上300nm以下である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項10】
前記成形体を熱処理する工程は、体積割合における酸素濃度が0ppm超10000ppm以下の雰囲気下、温度を400℃以上1000℃以下とし、保持時間を10分以上60分以下とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項11】
絶縁被覆層を有する複数の純鉄粒子からなる被覆純鉄粉と、
絶縁被覆層を有する複数の鉄合金粒子からなる被覆鉄合金粉と、
融点Tmが200℃以上の金属石鹸とを備え、
前記被覆純鉄粉の前記絶縁被覆層の厚さが30nm以上300nm以下であり、
前記鉄合金粒子のビッカース硬さが200HV以上であり、
前記被覆鉄合金粉の含有量が15質量%以上40質量%以下であり、
前記金属石鹸の含有量が0.02質量%以上0.80質量%以下である、
圧粉磁心用原料粉末。
【請求項12】
前記被覆純鉄粉及び前記被覆鉄合金粉の少なくとも一方は、前記絶縁被覆層と前記絶縁被覆層の外周に形成される絶縁外側層との二層構造を備える、請求項11に記載の圧粉磁心用原料粉末。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記甲第1~3号証を提出して、以下の申立理由1、2により、本件特許のうち請求項1、3、4、6~10に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1(進歩性)
本件発明1、3は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(進歩性)
本件発明4、6~10は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
[証拠方法]
甲第1号証:特開2014-90152号公報
甲第2号証:特開2012-138494号公報
甲第3号証:特開2003-303711号公報
(以下、甲第1号証~甲第3号証をそれぞれ「甲1」~「甲3」という。)
第4 当審の判断
上記申立理由1、2はいずれも採用できない。その理由は以下のとおりである。
1 甲号証の記載と記載された発明
(1)甲1の記載及び甲1に記載された発明
ア 甲1には、「軟磁性混合粉末」(発明の名称)に関して、次の記載がある。(なお、下線は当審が付したものであり、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。
(1ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性混合粉末に関する。本発明の軟磁性混合粉末によれば、鉄損が低減されながら成形性に優れ、且つ良好な機械的強度を有する圧粉磁心が得られる。」
(1イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、保磁力が低い軟磁性材料を含む2種類以上の軟磁性材料の粉末を混合して圧粉磁心を製造しても、充分な成形性、機械的強度、鉄損が得られない場合があった。
…
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、安価である純鉄粉に軟磁性合金粉末を混合した混合粉末において、鉄損が低減されながら成形性に優れ、且つ良好な機械的強度を有する圧粉磁心に用いられる軟磁性混合粉末を提供することにある。」
(1ウ)「【発明の効果】
【0015】
本発明の軟磁性粉末は、純鉄粉と軟磁性鉄基合金粉とを含む軟磁性混合粉末であって、軟磁性鉄基合金粉の混合割合が5質量%以上60質量%以下であり、軟磁性鉄基合金粉と純鉄粉の粒度の最頻値の比(軟磁性鉄基合金粉の粒度の最頻値/純鉄粉の粒度の最頻値)が0.9以上5未満であり、且つ、累積50%質量平均粒子径D50以上の粒度の軟磁性混合粉末に占める軟磁性鉄基合金粉の質量割合Roverと、累積50%質量平均粒子径D50未満の粒度の軟磁性混合粉末に占める軟磁性鉄基合金粉の質量割合Runderの比(Rover/Runder)が1.2以上であるため、本発明の軟磁性混合粉末によれば、鉄損が低減されながら成形性に優れ、且つ良好な機械的強度を有する圧粉磁心が得られる。
【0016】
また、軟磁性合金粉末と純鉄粉を混合した軟磁性混合粉末は、粉末中に異なる硬さの粉末を有しているため、硬い粉末よりも軟質な粉末の方が優先的に変形し、特に硬い粉末の周囲に位置する軟質な粉末は高い歪みを受ける。このような観点で、混合粉末への潤滑剤の添加と圧縮性の変化について検討したところ、本発明に係る軟磁性混合粉末の表面または絶縁皮膜中に有機物からなる潤滑剤を有することで、成型加工時の圧縮性を向上し、成形体の密度を向上できることが判明した。このような圧縮性向上の効果は変形し難い軟磁性鉄基合金粉の周囲で生じる過度な摩擦を軽減することで得られる。軟磁性混合粉末において少なくとも軟磁性鉄基合金粉の表面または絶縁皮膜中に有機物からなる潤滑剤を有することが好ましい。潤滑剤の質量割合が軟磁性混合粉末100質量%に対して0.1質量%以上0.6質量%以下であると、成型加工時の圧縮性や成形体の密度がより一層向上する。」
(1エ)「【0031】
1-1.軟磁性鉄基合金粉
本発明の軟磁性鉄基合金粉は、鉄に加えて1質量%以上35質量%以下のAl、1質量%以上19質量%以下のSiのいずれか一方または両方を含み、残部が不可避不純物であることが好ましい。本発明の軟磁性鉄基合金粉におけるSiの含有割合は、より好ましくは1質量%以上15質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上12質量%以下、特に好ましくは1質量%以上10質量%以下である。また、本発明の軟磁性鉄基合金粉におけるAlの含有割合は、より好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以上10質量%以下であり、特に好ましくは3質量%以上8質量%以下である。
【0032】
また、前記の成分範囲において、高周波の磁気特性に優れる観点から、軟磁性鉄基合金粉としては、鉄、5質量%以上6質量%以下のAlおよび9質量%以上10質量%以下のSiで構成されるセンダスト粉、鉄および1質量%以上4質量%以下のSiを含むFe-3%Si粉、ならびに、鉄および6質量%以上7質量%以下のSiを含むFe-6.5%Si合金粉が好ましく、センダスト粉が特に好ましい。」
(1オ)「【0039】
1-2.純鉄粉
本発明の純鉄粉は、含まれる不純物元素が少ないほどよい。不純物に起因した介在物が少ないほど優れた磁気特性を付与することができる。
【0040】
本発明の軟磁性混合粉末に用いられる純鉄粉の粒度の最頻値は、軟磁性鉄基合金粉および純鉄粉の粒度の最頻値の比(軟磁性鉄基合金粉の粒度の最頻値/純鉄粉の粒度の最頻値)が0.9以上5未満となる範囲で適宜選択することができるが、例えば、25μm以上であることが好ましい。粒度分布の最頻値が大きくなるほど、偏析が抑制される。そのため、より好ましくは30μm以上であり、さらに好ましくは35μm以上である。また、純鉄粉の粒度分布の最頻値が大きくなると、粒子内渦電流損に起因して鉄損が増大する。また、得られる圧粉磁心の機械的強度の観点からも、純鉄粉の粒度の最頻値は、好ましくは80μm以下、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは70μm以下である。粒度の最頻値は、純鉄粉を篩分けし、各粒度の純鉄粉を所望の割合で混合すること等によって調整することができる。
【0041】
本発明の軟磁性混合粉末に用いられる純鉄粉は、軟磁性混合粉末に対する混合割合が40質量%以上95質量%以下であることが好ましい。純鉄粉の割合が大きいと、成形体密度が向上し、その結果最大磁束密度が向上する。そのため、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは55質量%以上である。純鉄粉の混合割合が多すぎると、鉄損が低減されにくくなる。そのため、純鉄粉の軟磁性混合粉末に対する混合割合は、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは75質量%以下である。」
(1カ)「【0045】
1-3.混合方法
本発明の軟磁性混合粉末は、純鉄粉と軟磁性鉄基合金粉を混合することによって得られる。軟磁性混合粉末において、純鉄粉と軟磁性鉄基合金粉とを所定の混合割合、および粒度構成とするためには、予め純鉄粉と軟磁性鉄基合金粉とをそれぞれ篩分けし、所望の混合割合、および粒度構成となるように混合すればよい。純鉄粉と軟磁性鉄基合金粉を混合する方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ミキサー等の公知の混合機で混合することができる。」
(1キ)「【0050】
1-4.絶縁層
純鉄粉および軟磁性鉄基合金粉を混合して得られた軟磁性混合粉末は、そのままでも軟磁性混合粉末として用いることができ、さらに表面に後述する絶縁層を形成して軟磁性混合粉末として用いることもできる。鉄損、特に渦電流損低減の観点から、軟磁性混合粉末の表面には絶縁層を形成することが好ましい。
絶縁層を構成するものとしては、例えば、絶縁性無機皮膜や絶縁性樹脂皮膜が挙げられる。前記絶縁性無機皮膜の表面には、更に絶縁性樹脂皮膜が形成されることが好ましい。この場合、また、絶縁性無機皮膜と絶縁性樹脂皮膜との合計厚みは250nm以下とすることが好ましい。膜厚が250nmを超えると、磁束密度の低下が大きくなる場合がある。
【0051】
1-4-1.絶縁性無機皮膜(形成方法も含む)
上記絶縁性無機皮膜としては、例えば、りん酸系化成皮膜、クロム系化成皮膜、水ガラス皮膜、酸化物皮膜などが挙げられ、好ましくはりん酸系化成皮膜である。上記絶縁性無機皮膜は、2種類以上の皮膜を積層して形成してもよいが、通常は単層でよい。
…
【0058】
また、上記りん酸系化成皮膜の上に、更にシリコーン樹脂皮膜を有していてもよい。これにより、シリコーン樹脂の架橋・硬化反応終了時(圧縮時)には、粉末同士が強固に結合する。また、耐熱性に優れたSi-O結合を形成して、絶縁皮膜の熱的安定性を向上できる。」
(1ク)「【0060】
2.圧粉磁心
本発明の軟磁性混合粉末を圧縮成形することにより、圧粉磁心を得ることができる。本発明の圧粉磁心は、高周波の駆動周波数で使用される電磁気部品、例えばインダクタ(チョークコイル、ノイズフィルタ、リアクトルなど)のコアに好ましく適用され、また、低周波の駆動周波数で使用される電磁気部品、例えばモータの回転子または固定子のコアにも好ましく適用される。
【0061】
本発明の圧粉磁心は、プレス機と金型を用い、軟磁性混合粉末を圧縮成形することにより得られる。圧縮成形の好適条件は、面圧で、例えば、490~1960MPaである。成形温度は、室温成形、温間成形(例えば、100~250℃)のいずれも可能である。
【0062】
上記軟磁性混合粉末を成形するにあたっては、軟磁性混合粉末に、さらに潤滑剤を配合してもよい。潤滑法としては、粉末中に潤滑剤を分散、あるいは被覆する内部潤滑法と、金型に潤滑剤を塗布、吹付けする型潤滑法のいずれも可能である。粉末に潤滑剤を被覆する具体的な態様としては、表面または絶縁皮膜中に有機物からなる潤滑剤を有する態様等を挙げることができる。潤滑剤の作用により、軟磁性混合粉末を成形する際の粉末間、あるいは軟磁性混合粉末と成形型内壁間の摩擦抵抗を低減でき、成形体の型かじりや成形時の発熱を防止することができる。より高強度の圧粉磁心を得る観点からは、型潤滑法であることが好ましい。型潤滑成形と温間成形を同時に行うと、より一層高強度の圧粉磁心が得られるため、好ましい。
【0063】
また、軟磁性合金粉末と純鉄粉を混合した軟磁性混合粉末は、粉末中に異なる硬さの粉末を有しているため、硬い粉末よりも軟質な粉末の方が優先的に変形し、特に硬い粉末の周囲に位置する軟質な粉末は高い歪みを受ける。このような観点で、軟磁性混合粉末への潤滑剤の添加と圧縮性の変化について検討したところ、本発明に係る軟磁性混合粉末は表面または絶縁皮膜中に有機物からなる潤滑剤を有することで、成型加工時の圧縮性を向上し、成形体の密度を向上できることが判明した。このような圧縮性向上の効果は変形し難い軟磁性鉄基合金粉の周囲で生じる過度な摩擦を軽減することで得られる。軟磁性混合粉末においては、少なくとも軟磁性鉄基合金粉の表面または絶縁皮膜中に有機物からなる潤滑剤を有することが好ましい。
表面または樹脂皮膜中に潤滑剤を有することにより成型加工時の圧縮性を向上し、成形体の密度を向上できる効果は、軟磁性混合粉末において軟磁性鉄基合金粉の混合割合が高いほど顕著である。特に、軟磁性鉄基合金粉の混合割合が例えば20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であると、潤滑剤の添加による圧縮性向上や成形体密度向上の効果がより一層顕著となる。
【0064】
上記潤滑剤としては、従来から公知のものを使用すればよく、具体的には、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム等のステアリン酸の金属塩粉末、ポリヒドロキシカルボン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド(エチレンビスステアリルアミド)、(N-オクタデセニル)ヘキサデカン酸アミド等の脂肪酸アミド、パラフィン、ワックス、天然または合成樹脂誘導体等が挙げられる。これらの潤滑剤は単独で用いても、2種以上を組合せて用いてもよい。これらのなかでも、ポリヒドロキシカルボン酸アミドや脂肪酸アミドが好ましい。
【0065】
軟磁性混合粉末の表面または絶縁皮膜中に潤滑剤を添加する方法としては、粉末の表面に潤滑剤を付与できれば特に限定されるものではないが、粉末状の潤滑剤を混合粉に添加してVコンなどの混合機で攪拌・混合する方法(粉末混合法)や混合粉末の最表面を覆う有機系の絶縁樹脂皮膜に付与する方法(皮膜混合法)を用いることができる。有機系の絶縁皮膜はトルエンなどの有機溶剤に樹脂を添加した処理液を軟磁性混合粉末と混合することによって処理されるが、この有機溶剤に潤滑剤を溶解あるいは分散させることで皮膜処理と潤滑剤の添加を同時に行うことも可能である。また、軟磁性混合粉末を作製する過程において、軟磁性鉄基合金粉と純鉄粉を混合する前に潤滑剤の添加を行えば、いずれかの種類にのみ潤滑剤を付与することも可能である。
上記粉末混合法、皮膜混合法のうち、粉末混合法では、潤滑剤が最表面に存在し、軟磁性鉄基合金粉の周囲で生じる過度な摩擦を直接的に低減することができるため、より一層圧縮性を向上させることができる。また、皮膜混合法では、絶縁皮膜形成と同時に潤滑剤を添加することができるため、工業的に有利である。
【0066】
上記潤滑剤を粉末中に分散させる場合は、潤滑剤の質量割合は、上記軟磁性混合粉末全体の質量に対して、質量割合で、0.2~1質量%であることが好ましい。上記潤滑剤の質量割合は、より好ましくは0.3質量%以上であり、更に好ましくは0.4質量%以上である。しかし上記潤滑剤を1質量%を超えて配合してもその効果は飽和し、また潤滑剤の量が多くなると成形体密度が小さくなり、磁気特性が劣化するおそれがある。従って上記潤滑剤の質量割合は、1質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.9質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以下である。なお、成形する際に、型内壁面に潤滑剤を塗布した後、成形するような場合(型潤滑成形)には、潤滑剤量は0.2質量%より少なくても構わない。また、粉末に潤滑剤を被覆する場合、例えば、表面または絶縁皮膜中に有機物からなる潤滑剤を有する場合等には、潤滑剤の質量割合は、軟磁性混合粉末100質量%に対し、0.1質量%以上0.6質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.15質量%以上であり、さらに好ましくは0.2質量%以上である。潤滑剤の質量割合が多いほど、変形し難い軟磁性鉄基合金粉の周囲で生じる過度な摩擦を軽減することができ、成形加工時の圧縮性を向上し、成形体の密度を向上できる。潤滑剤の質量割合が多すぎると効果が飽和し、逆に成形加工時の圧縮性が低下する場合がある。そのため、潤滑剤の質量割合は、0.5質量%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは0.4質量%以下であり、特に好ましくは0.39質量%以下である。
【0067】
次に、本発明では、上記成形体に熱処理を施して圧粉磁心を製造することができる。これにより圧縮成形時に導入された歪が解放され、歪みに起因する圧粉磁心のヒステリシス損を低減できる。このときの熱処理温度は400℃以上が好ましく、より好ましくは450℃以上、更に好ましくは500℃以上である。当該工程は、比抵抗の劣化がなければ、より高温で行うのが望ましい。しかし熱処理温度が700℃を超えると、絶縁皮膜が破壊されることがある。絶縁皮膜が破壊されると鉄損、特に渦電流損が増大し、比抵抗が劣化するため好ましくない。従って熱処理温度は700℃以下が好ましく、より好ましくは650℃以下である。」
(1ケ)「【0076】
下記に示す軟磁性鉄基粉末を準備し、下記に示す手順で圧粉磁心を製造した。
【0077】
(純鉄粉の製造)
純鉄粉として水アトマイズ純鉄粉である「アトメル(登録商標)300NH」(神戸製鋼所製)を使用した。目開き150、106、75、63、45μmの篩を用いて篩分けを行い、各粒度それぞれの純鉄粉を得た。
【0078】
(軟磁性鉄基合金粉の製造)
軟磁性鉄基合金として、Fe-9.6%Si-5.5%Al合金(センダスト)、Fe-6.5%Si合金およびFe-Si-B-C系アモルファス合金を使用した。センダストは、真空高周波溶解によってセンダスト組成(Fe-9.6%Si-5.5%Al)の鋼塊とし、得られた鋼塊を振動ボールミルで粉砕してセンダスト合金粉末を作製した。Fe-6.5%Si合金およびFe-Si-B-C系アモルファス合金は、ガスアトマイズ法によって粉末とした。
得られた軟磁性鉄基合金粉についても、目開き150、106、75、63、45μmの篩を用いて篩分けを行い、各粒度の軟磁性鉄基合金粉を得た。
【0079】
(純鉄粉と軟磁性鉄基合金粉の混合)
純鉄粉および軟磁性鉄基合金を表1に示す各々の混合割合および粒度で混合して評価用の軟磁性混合粉末を作製した。混合する合金粉と純鉄粉の粒度については、本発明例として粗大側の粒度に合金粉を混合した粉末を作製し、比較例として各粒度に均等に混合した粉末および微細側の粒度に合金粉を混合した粉末を作製し、(Rover/Runder)比は0.01~41.80の範囲で変化させた。合金粉の混合量は20%あるいは40%とし、全体粒度は図6、7に示す粒度1と粒度2の2通りとした。詳細は測定結果と共に表1に示している。
【0080】
【表1】…
【0081】
(絶縁皮膜の形成)
得られた軟磁性混合粉末に、絶縁皮膜としてりん酸系化成皮膜とシリコーン樹脂皮膜をこの順で形成した。りん酸系化成皮膜の形成には、りん酸系化成皮膜用処理液として、水:50部、NaH2PO4:30部、およびH3PO4:10部、(NH2OH)2H2SO4:10部、Co3(PO4)2:10部を混合して、更に水で2010倍に希釈したを含む処理液を用いた。具体的には、上記軟磁性混合粉末1kgに、上記処理液50mlの割合で添加して5分以上撹拌した後、大気中、200℃で30分乾燥し、目開き300μmの篩を通してりん酸系化成皮膜を形成した。
【0082】
シリコーン樹脂皮膜の形成には、シリコーン樹脂「SR2400」(東レ・ダウコーニング社製)をトルエンに溶解させて調製し、樹脂固形分濃度が5%の樹脂溶液を用いた。具体的には、上記りん酸系化成皮膜を形成した粉末に、樹脂固形分濃度が0.05%となるように上記樹脂溶液を添加、混合し、オーブン炉で大気中、75℃、30分間加熱して乾燥してシリコーン樹脂皮膜を形成した。
【0083】
(圧粉磁心の製造)
表面に絶縁皮膜を形成した軟磁性混合粉末を、プレス機を用いて130℃、型潤滑で、面圧が1177MPa(12t/cm2)となるように圧縮成形して圧粉磁心を製造した。圧縮成形体の形状は、外形32mm×内径28mm×厚み3mmのリング状とした。得られたリング状圧縮成形体に、窒素雰囲気下、600℃で30分間の熱処理を施して、圧粉磁心を製造した。なお、600℃に加熱するときの昇温速度は約10℃/分とした。」
(1コ)「【0084】
(実施例1)
…
【0089】
(実施例2)
純鉄粉、および純鉄粉とそれぞれ20質量%、30質量%、40質量%のセンダスト粉末を含む軟磁性混合粉末No.28~No.60を調製した。この純鉄粉または軟磁性混合粉末に対して、潤滑剤(エチレンビスアマイド)を0%~0.6%の質量割合で添加した。潤滑剤を添加した軟磁性混合粉末を圧粉成型加工し、成形体の密度を測定して圧縮性を評価した。軟磁性混合粉末No.28~No.60について、詳細を成形体密度の測定結果と共に表2~表4に示す。
…
【0091】
【表3】
[図:0001395247000001.jpg]
…
【0094】
本実施例では2つの方法で潤滑剤を添加しており、No.28~No.48、No.54、No.56、No.59、No.60の軟磁性混合粉末では絶縁皮膜処理の段階において、シリコーン樹脂溶液中に潤滑剤(エチレンビスアマイド)を添加する方法(皮膜混合)を用いた。また、No.50、No.52、No.57、No.58の軟磁性混合粉末では、Vコンに絶縁皮膜付きの粉末と潤滑剤(粉末)を投入して攪拌・混合させる方法(粉末混合)を用いた。このうち、No.50、No.54、No.57、No.59の軟磁性混合粉末では、純鉄粉のみに潤滑剤を付与し、No.58、No.60の軟磁性混合粉末では、センダスト粉のみに潤滑剤を付与した。また、No.28~No.48、No.52、No.56の軟磁性混合粉末では、混合された状態で両方の粉末(純鉄粉、センダスト粉)に潤滑剤を付与した。片方の粉末にのみ潤滑剤を付与した軟磁性混合粉末は、センダスト粉と純鉄粉を個別に絶縁皮膜処理し、各種の方法で潤滑剤を付与した後にセンダスト粉と純鉄粉を混合して軟磁性混合粉末を作製した。」
イ 甲1に記載された発明
(ア)甲1の発明が解決しようとする課題は、鉄損が低減されながら成形性に優れ、且つ良好な機械的強度を有する圧粉磁心に用いられる軟磁性混合粉末を提供することにある(【0013】)。そのような軟磁性混合粉末として、実施例2のNo.52の軟磁性混合粉末が記載されており、No.52の軟磁性混合粉末を用いた圧粉磁心の製造方法に注目する。
(イ)甲1には、軟磁性混合粉末を用いた圧粉磁心の製造方法が上記(1ケ)に記載されており、以下の工程から構成されている。すなわち、純鉄粉を製造し(【0077】)、Fe-9.6%Si-5.5%Al合金(センダスト)等の軟磁性鉄基合金粉を製造し(【0078】)、純鉄粉と軟磁性鉄基合金粉を所定の混合割合で混合して軟磁性混合粉末を作製し(【0079】)、得られた軟磁性混合粉末に絶縁皮膜としてりん酸系化成皮膜とシリコーン樹脂皮膜をこの順で形成し(【0081】)、表面に絶縁皮膜を形成した軟磁性混合粉末を、プレス機を用いて130℃、型潤滑で、面圧が1177MPa(12t/cm2)となるように圧縮成形してリング状の圧縮成形体を製造し、得られたリング状圧縮成形体に、窒素雰囲気下、600℃で30分間の熱処理を施すことで、圧粉磁心を製造している(【0083】)。
(ウ)そして、実施例1と実施例2の軟磁性混合粉末は、上記(イ)の製造方法を前提として製造されているものと認められるところ、実施例2のNo.52の軟磁性混合粉末においては、純鉄粉と30質量%のセンダスト粉末(Fe-9.6%Si-5.5%Al)を混合したものに、0.2%の潤滑剤(エチレンビスアマイド)が添加されたものである(【0089】、【表3】)。なお、【0066】の記載「潤滑剤を粉末中に分散させる場合は、潤滑剤の質量割合は、上記軟磁性混合粉末全体の質量に対して、質量割合で、0.2~1質量%であることが好ましい。」を参照すると、上記潤滑剤の添加割合である「0.2%」とは、軟磁性混合粉末全体の質量に対する質量%であるものと認められる。
(エ)ここで、No.52の軟磁性混合粉末における潤滑剤の添加は、絶縁皮膜付きの粉末と潤滑剤(粉末)を投入して攪拌・混合させる方法(粉末混合)を採用しており、純鉄粉とセンダスト粉が混合された状態で、両方の粉末に潤滑剤を付与している(【0094】)。なお、段落【0065】の記載を参照すると、上記粉末混合法を採用したときには、潤滑剤が軟磁性混合粉末の表面に存在して、軟磁性鉄基合金粉の周囲で生じる過度な摩擦を直接的に低減することができる。
また、「潤滑法としては、粉末中に潤滑剤を分散、あるいは被覆する内部潤滑法と、金型に潤滑剤を塗布、吹付けする型潤滑法のいずれも可能である。」(【0062】)との記載によれば、潤滑剤の適用方法として、内部潤滑法と型潤滑法のいずれかを採用することが可能であるところ、上記(イ)では「型潤滑」が採用されているが、実施例2のNo.52においては、「型潤滑」に代えて、純鉄粉及びセンダスト粉に潤滑剤を付与する「内部潤滑法」が採用されているものと認められる。
(オ)したがって、甲1には次の「圧粉磁心の製造方法」が記載されているものと認められる(以下「甲1発明」という。)。
「純鉄粉を製造し、
軟磁性鉄基合金粉としてセンダスト粉末を製造し、
純鉄粉と30質量%のセンダスト粉末を混合して軟磁性混合粉末を作製し、
得られた軟磁性混合粉末の表面に絶縁皮膜としてりん酸系化成皮膜とシリコーン樹脂皮膜をこの順で形成し、
絶縁皮膜付きの軟磁性混合粉末に、潤滑剤として0.2質量%のエチレンビスアマイドを投入して撹拌・混合し、絶縁皮膜付きの軟磁性混合粉末の表面に潤滑剤を付与し、
表面に絶縁皮膜を形成しさらに潤滑剤を付与した軟磁性混合粉末を、プレス機を用いて130℃で、面圧が1177MPa(12t/cm2)となるように圧縮成形して、リング状の圧縮成形体を製造し、
リング状の圧縮成形体に窒素雰囲気下、600℃で30分間の熱処理を施すことによって圧粉磁心を製造する、
圧粉磁心の製造方法。」
(2)甲2の記載
ア 甲2には、「圧粉コア」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(2ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉コアに関する。
…
【0005】
ここで、圧粉コアのコアロスは、一般的に、渦電流損失とヒステリシス損失との和で表される。とりわけ、渦電流損失は周波数の2乗に比例して大きくなる傾向にあるため、高周波域で使用する圧粉コアにおいては、渦電流損失が小さいことが必要とされる。そのため、圧粉コアの渦電流損失を低減するために、軟磁性粉末間の絶縁性が高いこと、及び、圧粉コアの電気抵抗(コア抵抗)が高いことが重要となる。また、成形体の圧縮成形時に生じる圧縮歪みがヒステリシス損失の増加に寄与しているため、圧粉コアを熱処理(アニール処理)する等して圧縮歪みを解放することも重要となる。」
(2イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献2に記載の技術では、純鉄粉末の含有量が少ないため、磁束密度の向上効果が乏しい。また、上記特許文献3に記載の技術では、依然として、絶縁被膜の熱分解温度未満の比較的に低温で熱処理を行っているため、コアロスの低減が不十分であった。
【0010】
本発明は、かかる実情に鑑みて為されたものであり、その目的は、コアロスが低く、且つ、磁束密度が高い、圧粉コアを提供することにある。」
(2ウ)「【0024】
本実施形態の圧粉コアは、軟磁性粉末としてFe,Si,Alを少なくとも含有する合金粉末とビッカース硬さが合金粉末の1/3以下である純鉄粉末とを含む混合物をコア形状に成形加工して得られる成形体を熱処理してなり、純鉄粉末の占有体積率が10~32vol%であることを特徴とする。」
(2エ)「【0035】
純鉄粉末は、その表面に絶縁膜を有することが好ましく、純鉄の粒子の外周に絶縁膜を備えたコアシェル構造を有することがより好ましい。純鉄粉末に形成する絶縁膜は、純鉄粉末の表面に絶縁性を付与するものであれば特に限定されない。このような絶縁膜を構成する材料の具体例としては、例えば、リン酸鉄、ホウ酸鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、酢酸鉄、炭酸鉄、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、アルミナ、酸化クロム、酸化亜鉛等の無機化合物が挙げられる。これらは、1種のみを単独で、或いは2種以上を組み合わせて、用いることができる。耐熱性の観点から、好ましい絶縁膜としては、リン酸鉄、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、アルミナ、酸化クロム、酸化亜鉛等であり、より好ましくはリン酸鉄である。リン酸処理などにより形成されるリン酸鉄は、強磁性を有しないため磁気的な悪影響が小さく、また化合物として安定であることから防錆効果も期待することができる。絶縁膜の形成方法は、公知の方法を採用することができ、特に限定されない。例えば、リン酸及び/又はリン酸塩を含有する水溶液(例えば、オルトリン酸(H3PO4)の80~90%水溶液等)を用いて純鉄粉末を処理してリン酸被膜を形成した後に自然乾燥する或いはホットプレート等により70℃程度で乾燥する方法が例示される。なお、純鉄粉末の表面に絶縁膜が形成された複合磁性粒子は、市販品として容易に入手可能である。
【0036】
純鉄粉末の絶縁膜の厚みは、特に限定されないが、0.001~30μm程度であることが好ましい。かかる範囲内にすることで、目的とする絶縁性を担保し易く、また、得られる圧粉コアのコア抵抗及び透磁率を高めることができる。
【0037】
本実施形態の圧粉コアは、Fe-Si-Al系合金粉末及び純鉄粉末を含む混合物をコア形状に成形加工し、得られた成形体を熱処理することにより作製することができる。
【0038】
ここで、上記の混合物において、ビッカース硬さが高いFe-Si-Al系合金粉末に対して純鉄粉末を比較的に多量に配合するためには、純鉄粉末のビッカース硬さが、Fe-Si-Al系合金粉末のビッカース硬さに対して、1/3以下であることが必要とされる。このような相対関係にあるFe-Si-Al系合金粉末と純鉄粉末を選択して使用することにより、従来技術に比して純鉄粉末の配合割合が高い混合物が得られること、及び、この混合物を用いることによって磁束密度が十分に高められ得るとともにコアロスが十分に低減され得ることが本発明者らの知見により見出されている。この関係を満たす選択例としては、例えば、ビッカース硬さが300~600のFe-Si-Al系合金粉末と、ビッカース硬さが50~200の純鉄粉末と、の組み合わせが挙げられる。
【0039】
さらに、上記の混合物は、潤滑剤を含むことが好ましい。潤滑剤は、加圧成形時の際のFe-Si-Al系合金粉末と純鉄粉末の流動性を向上させ、圧力印加の際の変形を促進するとともに、粉末間に介在する絶縁層、並びに、保護膜としても機能し得る。かかる潤滑剤としては、当業界で公知のものを適宜選択して用いることができ、特に限定されない。加圧成形時に粉末の周囲に均一な被膜を形成し易く、また、絶縁性にも優れる観点から、潤滑剤は、金属石鹸であることが好ましい。
【0040】
金属石鹸の具体例としては、特に限定されないが、例えば、例えば、オレイン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸銅等が挙げられる。これらは、1種のみを単独で、或いは2種以上を組み合わせて、用いることができる。これらのなかでも、ステアリン酸亜鉛が好ましい。潤滑剤として金属石鹸を用いることにより、より一層の高密度化が図られるとともに高い絶縁性が付与(回復)され、得られる圧粉コアのコア抵抗が高められ、渦電流損失が低下し、コアロスが格別に低減される。」
(2オ)「【0048】
混合物をコア形状に成形加工する工程(S3)では、上記のようにして得られる軟磁性粉末及び潤滑剤の混合物(混錬物)に熱及び圧力を印加しながら、任意のコア形状に成形する。かかる加圧成形は、公知の方法により行えばよく、特に限定されない。一般的には、所望する形状のキャビティを有する成形金型を用い、そのキャビティ内に混合物を充填し、所定の成形温度及び所定の成形圧力でその混合物を圧縮成形することが好ましい。なお、加圧成形時においては、成形金型に、高級脂肪酸や金属石鹸などを用いて、当業界で公知の金型潤滑を施してもよい。
【0049】
成形加工時の成形温度は、使用する軟磁性粉末や潤滑剤、或いは、目的とする圧粉コアの性能によって異なり、特に限定されないが、通常、室温25℃~200℃である。例えば、50℃以上160℃以下、より好ましくは80℃以上140℃以下の条件下で温間成形することにより、得られるコアの密度が向上する傾向にある。一方、室温~50℃未満の条件下で成形することにより、コア抵抗が高められる傾向にある。
…
【0051】
得られた成形体を熱処理(アニール処理)する工程(S4)では、加圧成形時において発生する圧縮歪を解放してコア抵抗を高めるとともにコアロス(特に、ヒステリシス損失)を低減させる。かかる熱処理は、公知の方法により行えばよく、特に限定されないが、一般的には、加圧成形により任意のコア形状に成形された成形体を、アニール炉を用いて所定の温度で熱処理することにより行うことが好ましい。
【0052】
成形体を熱処理する工程(S4)における処理温度は、特に限定されないが、圧縮歪を十分に解放してコアロスを十分に低減させるとともに高温処理による性能劣化を抑制する観点から、600~900℃が好ましく、より好ましくは650~850℃、さらに好ましくは700~800℃である。熱処理時の処理温度を600℃以上とすることにより、成分間の反応が適度に進行し、コア抵抗が小さくなる傾向にある。一方、熱処理時の処理温度を900℃以下とすることにより、反応が適度に抑制され、高密度、高絶縁性を維持でき、コア抵抗が格別に高まる傾向にある。なお、アニール処理時の処理時間は、特に限定されないが、一般的には、10分~3時間程度が好ましい。
【0053】
成形体を熱処理する工程(S4)における処理雰囲気は、非酸化性雰囲気であることが好ましい。ここで、非酸化性雰囲気とは、酸素濃度が十分に低い雰囲気を意味し、その具体例としては、例えば、真空度が100Pa以下の真空雰囲気、酸素分圧が1000ppm以下の不活性ガス雰囲気(例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気)が挙げられる。600~900℃の非酸化性雰囲気下で熱処理を行うことにより、軟磁性粉末の絶縁膜の分解が抑制されて得られる圧粉コアのコア抵抗を格別に高めることができるとともに、コアロスを著しく低下させることができる。」
(3)甲3の記載
ア 甲3には、「鉄基粉末およびこれを用いた圧粉磁心ならびに鉄基粉末の製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(3ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鉄基粉末および該鉄基粉末を用いた圧粉磁心に係り、特に電源回路等でチョークコイルやノイズフィルタとして用いられる、圧粉磁心およびその原料となる鉄基粉末に関する。」
(3イ)「【0066】また、鉄を主成分とする原料粉末には、圧縮性や圧粉磁心の磁気特性などに悪影響を及ぼさない範囲で、含有元素の調整を行ったものを用いても良い。上記した方法によって製造された鉄基粉末は、必要に応じて潤滑剤などが添加された後、金型などを用いて加圧成形され、圧粉体(圧粉磁心)とすることができる。この加圧成形の際、たとえば成形圧力を980MPa以上の高圧としたり、いったん粉末を加圧成形あるいはそれ以外の方法により予備成形体とした上で、その予備成形体を冷間で鍛造するいわゆる粉末鍛造法、粉末および必要に応じて金型を加熱して所定の温度で加圧成形するいわゆる温間成形法、潤滑剤を粉末ではなく金型表面に塗布することで潤滑剤を添加していない粉でも金型のかじりなどを起こさずに成形できる方法である金型潤滑法、さらに金型潤滑法と温間成形法を組み合わせた温間金型潤滑成形法などを適用することにより、圧粉磁心の密度が真密度(原料粉末を構成する強磁性金属の理論密度)の95%以上となる、高密度(純鉄粉を用いた場合は圧粉磁心の密度が7.47Mg/m3 以上)の圧粉磁心を製造することができる。」
(3ウ)「【0069】潤滑剤としては、ステアリン酸リチウム、ステリアン酸亜鉛、ステリアン酸カルシウムなどの金属石鹸、あるいは脂肪酸アミドなどのワックスがあげられる。なお、温間成形や温間金型潤滑を行う場合は、潤滑剤の融点が成形温度よりも低いと潤滑剤が溶融してしまい粉末部分と分離する、いわゆる潤滑剤の流出が起きてしまい、潤滑剤による効果が低下してしまう場合があるので、成形温度より融点が高い潤滑剤を1種以上用いることが好ましい。なお、本発明においては複数の潤滑剤を事前に混合しておいたものを、潤滑剤として利用してもかまわない。」
(3エ)「【0131】(実施例7)(実施例1)および(実施例2)と同様の手順で鉄基粉末を得た上で、作製条件を表14に示す条件として圧粉磁心試料を作製した。加圧成形温度と潤滑条件については表14に示した通りである。成形後、同表に示す温度で焼鈍を行った。なお、下層被膜用シリコン化合物にはメチルトリメトキシシランまたは加水分解処理済のエチルシリケートを用いた。また、上層被膜用塗料は表15に示す組成のものを用いた。なお、表15のAは実施例1-47と同じものである(表2-2参照)。加圧成形温度を130 ℃にして成形する温間成形法あるいは温間金型潤滑成形法の場合は、まず加圧成形用の金型を予熱して金型表面温度を加圧成形温度にし、さらに加圧成形温度と同じ温度に加熱された鉄基粉末を金型に充填した後、加圧成形を行った。 金型潤滑をする場合は、潤滑剤をエタノール溶媒に濃度5質量%となるように調整した潤滑剤溶液を塗布して溶媒が乾燥した後に加圧成形を行う方法いわゆる液体金型潤滑法と、金型潤滑装置(Gasbarre社製)を用いて潤滑装置内で帯電させた潤滑剤を金型内に噴霧導入して金型表面に潤滑剤を帯電付着させる方法いわゆる粉末金型潤滑法を用いた。いずれも金型への付着量は10g/m2とした。これらの試料について(実施例1)と同様の手順で特性を評価した。その結果を表14に示す。本発明の圧粉磁心は、いわゆる温間成形・金型潤滑成形・温間金型潤滑成形を用いて作製した場合も、通常の加圧成形を行った場合と同様に優れた磁気特性を示すことがわかる。」
2 申立理由1、2(甲1を主引例とする進歩性)についての判断
申立理由1、2はいずれも甲1を主引例とする進歩性に関する申立理由であるのでまとめて検討する。
(1) 本件発明1と甲1発明との対比
ア センダスト合金とは、組成がFe-9.6%Si-5.5%Alである鉄基合金であることを勘案すれば、甲1発明の「純鉄粉」、「軟磁性鉄基合金粉としてセンダスト粉末」は、それぞれ、本件発明1の「複数の純鉄粒子からなる」「純鉄粉」、「複数の鉄合金粒子からなる」「鉄合金粉」に相当する。
イ 甲1発明の「りん酸系化成皮膜とシリコーン樹脂皮膜をこの順で形成し」た「絶縁皮膜」は、本件発明1の「絶縁被覆層」に相当する。
ウ 上記アとイの検討を踏まえると、甲1発明の「軟磁性混合粉末」のうち「純鉄粉」の「表面」に「絶縁皮膜としてりん酸系化成皮膜とシリコーン樹脂皮膜をこの順で形成し」たものは、本件発明1の「絶縁被覆層を有する複数の純鉄粒子からなる被覆純鉄粉」に相当し、甲1発明の「軟磁性混合粉末」のうち「センダスト粉末」の「表面」に「絶縁皮膜としてりん酸系化成皮膜とシリコーン樹脂皮膜をこの順で形成し」たものは、本件発明1の「絶縁被覆層を有する複数の鉄合金粒子からなる被覆鉄合金粉」に相当する。
エ 「金属石鹸」とは、技術常識(必要があればウィキペディアを参照。)によれば「長鎖脂肪酸と、ナトリウム・カリウム以外の金属塩の総称」のことであり、本願の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)によれば、本件発明1の「金属石鹸」は、成形工程での潤滑性を高めるものであり(【0056】)、ステアリン酸リチウムやステアリン酸バリウム等が使用可能である(【0059】)。
一方、甲1には、潤滑剤として、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム等のステアリン酸の金属塩粉末が使用可能であることが記載されており(【0064】)、これらのステアリン酸の金属塩粉末は「金属石鹸」であるが、甲1発明において潤滑剤として使用されている「エチレンビスアマイド」は、「長鎖脂肪酸と、ナトリウム・カリウム以外の金属塩」に該当するものではないから、「金属石鹸」ではない。
しかしながら、甲1発明の「ビスアマイド」は、潤滑剤として配合されるものであり、変形し難い軟磁性鉄基合金粉の周囲で生じる過度な摩擦を軽減することで、成型加工時の圧縮性を向上し、成形体の密度を向上するために使用されるものである(【0063】、【0064】)。
したがって、本件発明1の「金属石鹸」と、甲1発明の「潤滑剤として」の「エチレンビスアマイド」とは、いずれも、圧縮成形時の潤滑剤である点で共通する。
オ 上記ウとエの検討を踏まえると、本件発明1の「絶縁被覆層を有する複数の純鉄粒子からなる被覆純鉄粉と、絶縁被覆層を有する複数の鉄合金粒子からなる被覆鉄合金粉と、金属石鹸と、を含む原料粉末を準備する工程」と、甲1発明の「純鉄粉を製造し、軟磁性鉄基合金粉としてセンダスト粉末を製造し、純鉄粉と30質量%のセンダスト粉末を混合して軟磁性混合粉末を作製し、得られた軟磁性混合粉末の表面に絶縁皮膜としてりん酸系化成皮膜とシリコーン樹脂皮膜をこの順で形成し、絶縁皮膜付きの軟磁性混合粉末に、潤滑剤として0.2質量%のエチレンビスアマイドを投入して撹拌・混合し、絶縁皮膜付きの軟磁性混合粉末の表面に潤滑剤を付与」する工程とは、「絶縁被覆層を有する複数の純鉄粒子からなる被覆純鉄粉と、絶縁被覆層を有する複数の鉄合金粒子からなる被覆鉄合金粉と、潤滑剤と、を含む原料粉末を準備する工程」の点で共通する。
カ 甲1発明の「表面に絶縁皮膜を形成しさらに潤滑剤を付与した軟磁性混合粉末を、プレス機を用いて130℃で、面圧が1177MPa(12t/cm2)となるように圧縮成形して、リング状の圧縮成形体を製造」する工程は、プレス機を用いて圧縮成形する際に金型を用いることを勘案すると(甲1の【0061】参照)、本件発明1の「金型内に充填した前記原料粉末を圧縮成形して成形体を作製する工程」に相当する。
キ 甲1発明の「リング状の圧縮成形体に窒素雰囲気下、600℃で30分間の熱処理を施すことによって圧粉磁心を製造する」工程は、甲1の段落【0067】によれば、圧縮成形時に導入された歪を解放し、歪みに起因する圧粉磁心のヒステリシス損を低減するために行われるものであるから、本件発明1の「前記成形体を熱処理して前記被覆純鉄粉及び前記被覆鉄合金粉の歪を除去する工程」に相当する。
ク 以上によれば、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「 絶縁被覆層を有する複数の純鉄粒子からなる被覆純鉄粉と、絶縁被覆層を有する複数の鉄合金粒子からなる被覆鉄合金粉と、潤滑剤と、を含む原料粉末を準備する工程と、
金型内に充填した前記原料粉末を圧縮成形して成形体を作製する工程と、
前記成形体を熱処理して前記被覆純鉄粉及び前記被覆鉄合金粉の歪を除去する工程とを備える、
圧粉磁心の製造方法。」の点。
(相違点1)
「潤滑剤」が、本件発明1では「金属石鹸」であるのに対して、甲1発明では「エチレンビスアマイド」である点。
(相違点2)
「前記金属石鹸の融点Tmと前記成形体を作製する工程での前記金型の温度Tdとの差Tm-Td」が、本件発明1では「90℃以上」であり、「前記金型の温度Tdは、前記原料粉末を充填する直前の金型における前記原料粉末との接触箇所の温度である」のに対して、甲1発明では、「プレス機を用いて130℃」で圧縮成形するものであるが、「エチレンビスアマイド」は「潤滑剤」ではあっても「金属石鹸」ではないから、「前記金属石鹸の融点Tmと前記成形体を作製する工程での前記金型の温度Tdとの差Tm-Td」について特定することができないものであり、また、圧縮成形する際の「プレス機を用いて130℃」が「原料粉末を充填する直前の金型における前記原料粉末との接触箇所の温度」であるか不明である点。
(2)相違点についての検討
事案に鑑みて、まず相違点2について検討する。
ア 甲1発明では、潤滑剤がエチレンビスアマイドであって、金属石鹸ではないから、金属石鹸の融点Tmと金型の温度Tdとの差Tm-Tdを特定することができず、したがって、相違点2は実質的な相違点ではあるが、エチレンビスアマイドの融点を金属石鹸の融点Tmとして読み替えた場合について、以下検討する。
イ まず、甲1発明の「エチレンビスアマイド」の融点について検討する。
技術常識を提示する文献として引用する特開平7-278359号公報の段落【0015】には、「本発明で用いるエチレンビスアマイドとしてはエチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスパルミチン酸アマイド等をあげることができる。」と記載されていることから理解されるように、エチレンビスアマイドとは特定の化合物名ではなく、エチレンビスステアリン酸アマイドやエチレンビスパルミチン酸アマイド等の脂肪酸アミド化合物の総称と認められる。
したがって、甲1発明の「エチレンビスアマイド」は特定の化合物ではないから、その融点は特定できないが、甲1の段落【0064】には、潤滑剤として使用されるエチレンビスアマイドに属する唯一の化合物名として「エチレンビスステアリン酸アミド」が記載されているので、甲1発明の認定の基礎となった実施例2において潤滑剤として使用されているエチレンビスアマイドは、エチレンビスステアリン酸アミドを意味するものと解する余地がある。
そして、エチレンビスステアリン酸アミドの融点については、技術常識を提示する文献として引用する特開2012-92160号公報の段落【0053】には「エチレンビスステアリン酸アミド[日本油脂社製“アルフローH50FP”, 粉末, 融点143℃]」と記載され、同特開平2-286726号公報の第7頁右上欄7~8行には「エチレンビスステアリン酸アミドの融点は145°Cである」と記載されていることを参照すると、上記融点は143~145℃程度であると認められる。
そうすると、甲1発明の「エチレンビスアマイド」の融点は143~145℃程度であると解することができる。
ウ 次に、甲1発明の圧縮成形する際の「プレス機を用いて130℃」について検討する。
甲1発明における、圧縮成形する際の「プレス機を用いて130℃」とは、圧縮成形に使用されるプレス機の温度であるのか、圧縮成形に使用される金型の温度であるのか、圧縮成形に使用される金型に充填される軟磁性混合粉末の温度であるのか、それ以外の温度であるのか記載されておらず、どこの温度が130℃であるのか不明である。
この点について、甲3を参照すると、「加圧成形温度を130℃にして成形する温間成形法あるいは温間金型潤滑成形法の場合は、まず加圧成形用の金型を予熱して金型表面温度を加圧成形温度にし、さらに加圧成形温度と同じ温度に加熱された鉄基粉末を金型に充填した後、加圧成形を行った。」(【0131】)と記載されていることから、加圧成形の直前に、金型の表面温度と鉄基粉末の両者を同じ加圧成形温度に設定することは、圧粉磁心製造の技術分野における周知の技術事項と認められる。
そうすると、甲1発明において圧縮成形時に「プレス機を用いて130℃」であるとは、「原料粉末を充填する直前の金型における前記原料粉末との接触箇所の温度」が130℃であることを意味するものと解される。
エ 上記イ、ウの検討を踏まえると、甲1発明において、「金属石鹸の融点Tm」は、「金属石鹸」とは「潤滑剤」である点で共通する「エチレンビスアマイド」の融点と読み替えることにより、143~145℃であり、「成形体を作製する工程での前記金型の温度Td」は130℃であるから、甲1発明におけるTm-Td=(143-145℃)―130℃=13~15℃と算出することができる。
したがって、エチレンビスアマイドの融点を金属石鹸の融点Tmとして読み替えたとしても、相違点2は依然として本件発明1と甲1発明との実質的な相違点である。
そこで、甲1発明において、「Tm-Td」を「90℃以上」とすることが、当業者が容易になし得ることであるかについて、相違点1とともに、検討する。
オ 甲1の段落【0061】には、圧縮成形時の温度について、「室温成形、温間成形(例えば、100~250℃)のいずれも可能」と記載されていることから、室温を20~30℃と考えると、Td=20~30℃又は100~250℃の範囲で設定可能であることが示唆されている。
また、甲1の段落【0064】には、潤滑剤として、いずれも金属石鹸である、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウムが利用可能であることが記載されているところ、これら潤滑剤の融点は、本件特許明細書の段落【0059】を参照すると、ステアリン酸亜鉛(Tm=126℃)、ステアリン酸リチウム(Tm=220℃)であり、また、ウエブサイト「ChemicalBook」の「ステアリン酸カルシウム」(https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB0115597.htm)を参照すると、ステアリン酸カルシウム(Tm=147~149℃)であると記載されていることから、潤滑剤としてエチレンビスアマイドに代えて金属石鹸とすることで、Tm=126~220℃の範囲で設定可能であることが示唆されている。
カ 上記オの検討を踏まえると、甲1発明において、圧縮成形時の温度について、室温成形(20~30℃)又は温間成形(100~250℃)の温度から選択し、潤滑剤としてエチレンビスアマイドに代えて金属石鹸とすることによって、金属石鹸の融点Tmと成形体を作製する工程での金型の温度Tdとの差Tm-Tdは、
Tm-Td=(126~220℃)-(20~30℃又は100~250℃)
=96~200℃又は-124~120℃
の温度範囲のいずれかの値になるところ、Tm-Tdが、圧縮成形時の温度の設定や、潤滑剤としての金属石鹸の選択により、90℃以上となる組み合わせもあれば、90℃未満となり、場合によってはマイナスの値となるなど様々な組み合わせがある。この広い温度範囲には、Tm-Td≧90℃以上となるような、圧縮成形時の温度と潤滑剤の組み合わせ、例えば、圧縮成形時の温度を室温(20~30℃)とし、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛(Tm=126℃)を選択した、
Tm-Td=126℃-(20~30℃)=96℃~106℃≧90℃
となる組み合わせや、圧縮成形時の温度を室温(20~30℃)とし、潤滑剤としてステアリン酸リチウム(Tm=220℃)を選択した、
Tm-Td=220℃-(20~30℃)=190℃~200℃≧90℃
となる組み合わせも存在するが、そのような組み合わせも可能であることが形式的に示唆されるにとどまり、上記様々な組み合わせの中から、当該組み合わせを選択する動機が存在しない。
また、仮に、上記の選択をすることが単なる設計事項であるか、または、上記の選択をする何らかの動機が存在するとしても、本件発明1は、「Tm-Td≧90℃」とすることで、金属石鹸の融点Tmが金型の温度Tdよりも十分高くなって、圧縮成形時の金属石鹸の溶融を抑制するので、圧縮成形時の潤滑性が高まり、そのため、鉄合金粒子から純鉄粒子に作用する応力が緩和されやすくなるので、純鉄粒子表面の絶縁層の損傷が抑制され、その結果、粒子間の絶縁性が保たれるので渦電流損失が抑制されるという格別の効果を奏するものである(【0057】、【0071】)。しかしながら、「Tm-Td≧90℃」とすることで渦電流損失が抑制できるという上記格別の効果について、甲1~甲3のいずれにも記載も示唆もされておらず、当業者が予測可能であるとはいえない。
キ なお、甲1の段落【0050】には、渦電流損低減の観点から、軟磁性混合粉末の表面には絶縁層を形成することが好ましいとの記載があるものの、単に軟磁性混合粉末の表面の絶縁層の機能を説明するにとどまり、Tm-Tdを90℃以上とすることと、渦電流損失低減の関係について何ら言及はない。
また、甲2には、合金粉末と純鉄粉末を含む混合物をコア形状に成形加工し熱処理してなる圧粉コアにおいて、コアロス(渦電流損失とヒステリシス損失の和)を低くすることを目的として(【0010】)、純鉄粉末の表面に絶縁膜を形成すること(【0035】)、混合物に潤滑剤としてステアリン酸亜鉛等の金属石鹸を含ませること(【0039】、【0040】)、成形加工時の成形温度を25~200℃とすること(【0049】)が記載されているにとどまり、Tm-Tdを90℃以上とすることと、渦電流損失低減の関係について何ら言及はない。
また、甲3の段落【0069】には、潤滑剤の融点が成形温度よりも低いと潤滑剤が溶融してしまい粉末部分と分離する、いわゆる潤滑剤の流出が起きてしまい、潤滑剤による効果が低下してしまう場合があるので、成形温度より融点が高い潤滑剤を1種以上用いることが好ましいと記載されており、Tm>Tdとすること、すなわち、Tm-Td>0とすることが示唆されているとはいえるけれども、Tm-Td≧90℃とすることについては記載も示唆もされていないし、Tm-Td≧90℃とすることと渦電流損失低減との関係についても何ら言及はない。
ク 以上の検討から、甲1発明において、潤滑剤としてエチレンビスアマイドに代えて金属石鹸とすること、すなわち、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとしても、「Tm-Td≧90℃」となるように、金属石鹸の選択と、金型の温度の設定を行うこと、すなわち、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとはいえない。
(3)小括
以上から、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて、もしくは、甲1に記載された発明と甲2~甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件発明3、4、6~10について
本件発明1を直接又は間接的に引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明3、4、6~10も、本件発明1と同様の理由で、甲1に記載された発明に基いて、もしくは、甲1に記載された発明と甲2~甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第5 結び
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、3、4、6~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3、4、6~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701048