特許異議申立
2022-701047
乳タンパク質濃縮物を主原料とした発酵乳およびその製造方法
- 審判番号
- 2022-701047
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-217352
- 登録番号
- 7058936
- 請求日
- 2022年10月24日
- 審決日
- 2023年02月10日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社明治
- 【権利者代理人】葛和 清司
- 【異議申立人】松本 保
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 平塚 政宏
- 審判官 大島 祥吾
- 分類
- P1651.121-Y (A23C) / P1651.537-Y (A23C) / P1651.536-Y (A23C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7058936号発明「乳タンパク質濃縮物を主原料とした発酵乳およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7058936号の請求項1ないし18に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7058936号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし18に係る特許についての出願は、平成28年11月7日を出願日とする特願2016-217352号に係るものであって、令和4年4月15日にその特許権の設定登録(請求項の数18)がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年10月24日に特許異議申立人 松本保(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし18に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいい、これらを総称して「本件発明」という場合がある。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
限外ろ過処理により、原料乳を濃縮した、乳タンパク質を全固形分に対して60~80重量%で含む液状のMPCを得ること、
得られた液状のMPCに、単糖類および二糖類からなる群から選択される1または2以上の糖類(乳糖を除く)を配合すること、
を含む、
灰分の濃度が、0.15~2重量%であり、
乳糖の濃度が、3重量%以上18重量%以下である調合乳の製造方法。
【請求項2】
調合乳のタンパク質の濃度が、7.5~20重量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
液状のMPCが、原料乳を酸性化処理した後に濃縮して得られた液状のMPCである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
酸性化処理が、原料乳のpHを、5.5~6.5に調整し、0.5時間以上で保持する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
液状のMPCが、原料乳を濃縮した後に、水を添加し、限外ろ過処理して得られた液状のMPCである、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
液状のMPCが、原料乳を中和処理して得られた液状のMPCである、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
中和処理が、原料乳のpHを、6.5~7.0に調整する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
75℃・達温、95℃・達温、75℃~95℃・15~60秒間、110℃~150℃・1~5秒間のいずれかの条件で加熱殺菌処理することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
糖類が、ブドウ糖またはショ糖である、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
配合される糖類の濃度が、1~18重量%である、請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された調合乳を発酵することを含む、発酵乳の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法により製造された発酵乳。
【請求項13】
原料乳を濃縮し、液状のMPCを得ること、
液状のMPCならびに、単糖類および二糖類からなる群から選択される1または2以上の糖類を配合してなる調合乳を調製すること、および
調合乳を発酵することを含む、発酵乳の食感を滑らかにする方法。
【請求項14】
原料乳を濃縮し、液状のMPCを得ること、
液状のMPCならびに、単糖類および二糖類からなる群から選択される1または2以上の糖類を配合してなる調合乳であって、灰分の濃度が0.15~2重量%である調合乳を調製すること、および
調合乳を発酵することを含む、発酵乳の食感を滑らかにし、かつ、発酵乳の塩味またはえぐ味を低減、もしくは発酵乳にコク味を付与する方法。
【請求項15】
原料乳を濃縮し、液状のMPCを得ること、
液状のMPCならびに、単糖類および二糖類からなる群から選択される1または2以上の糖類を配合してなる調合乳であって、カルシウムの濃度が0.05~0.7重量%である調合乳を調製すること、および
調合乳を発酵することを含む、発酵乳の食感を滑らかにし、かつ、発酵乳の塩味またはえぐ味を低減、もしくは発酵乳にコク味を付与する方法。
【請求項16】
液状のMPCが、乳タンパク質を全固形分に対して60~80重量%で含む、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
調合乳のタンパク質の濃度が7.5~16重量%である、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
調合乳の糖質の濃度が1~18重量%である、請求項13~17のいずれか一項に記載の方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年10月24日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件発明1ないし18は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし18に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件発明1ないし18に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
・灰分濃度及び乳糖の濃度
本件の発明の詳細な説明における実施例には、本件発明1で特定する「灰分の濃度が、0.15~2重量%であり、乳糖の濃度が、3重量%以上18重量%以下である」ことは記載されていないから、本件発明1は明細書によってサポートされていない。
・ブドウ糖又はショ糖を含む原料乳・発酵乳
ブドウ糖又はショ糖の濃度が4重量%であるただ1つの試験しかされておらず、これに対して本件発明1は糖類の種類も濃度も限定されておらず広い範囲で請求されている。ブドウ糖又はショ糖以外の糖類や添加量がいずれであっても本発明の課題である「滑らかな」発酵乳を得ることができる製造方法であるかどうか明細書の記載から不明である。発明の詳細な説明の記載からはブドウ糖又はショ糖の添加と滑らかさの向上、えぐ味の低減との関係における本件発明による効果は明らかでなく、発酵乳の種類によってもその効果は異なると思われる。したがって、実施例に示されたブドウ糖又はショ糖4重量%を含む発酵乳以外の他の糖類や他の添加量の発酵乳についても無添加に比べて滑らかな発酵乳が得られるかどうか当業者は理解できない。
・発酵乳の乳酸菌スターター
発酵乳の乳酸菌スターターについて、特許請求の範囲では特に規定されておらず、あらゆる種類の乳酸菌による発酵乳が全て対象となっている。しかし、実施例では、「明治ブルガリアヨーグルトから分離した」との記載があるのみである。甲第9号証には、乳酸菌はその種類によって食品の風味やテクスチャーに影響を与える代謝物として,細胞外多糖(EPS)を産生し、「発酵過程で分泌された粘性EPSは,食品成分や食品中に存在する微生物と相互作用し,発酵食品に粘性を賦与することで,口当たりを良くする」ことが記載されている。すなわち、乳酸菌の種類によって、糖の資化性が異なり、発酵乳の滑らかさに関わる多糖の産生も異なることから、ブドウ糖又はショ糖を特定濃度で添加した原料乳に、「明治ブルガリアヨーグルト」から単離された特定乳酸菌で発酵させた場合以外にも糖無添加の場合に比べて滑らかな発酵乳が得られるかどうか不明である。したがって、実施例に示されたブドウ糖又はショ糖を4重量%含み「明治ブルガリアヨーグルト」から単離された特定乳酸菌で発酵させた調合乳を用いた発酵乳以外の発酵乳についても糖無添加に比べて滑らかな発酵乳が得られるかどうか当業者は理解できない。
・官能評価結果の信憑性
甲第10号証の実施例の記載からみて、官能評価結果の信憑性に疑義があるから、本件発明の効果自体が疑わしく、サポート要件違反。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件発明1ないし18に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
・ブドウ糖又はショ糖を含む原料乳・発酵乳
上記2の「・ブドウ糖又はショ糖を含む原料乳・発酵乳」と同様な理由で、ブドウ糖又はショ糖4重量%を含む発酵乳以外の他の糖類や他の添加量の発酵乳で滑らかな発酵乳を得ようとすると、当業者においても過度の試行錯誤を要する。
・発酵乳の乳酸菌スターター
上記2の「・発酵乳の乳酸菌スターター」と同様な理由で実施例に記載された特定の乳酸菌スターター以外で本件発明を実施するには過度の試行錯誤を要する。
・官能評価結果の信憑性
上記2の「・官能評価結果の信憑性」と同様な理由で実施可能要件違反。
4 証拠方法
甲第1号証:Int. Dairy Journal,1992年,Vol.2,No.5,pp.311-323
甲第2号証:Mintel GNPD[online]に掲載された商品情報,Plain Greek Yogurt,(ID#):1785577,掲載時期2012年5月
甲第3号証:Mintel GNPD[online]に掲載された商品情報,0% Greek Vanilla Yogurt,(ID#): 4352887,掲載時期2016年10月
甲第4号証:Mintel GNPD[online]に掲載された商品情報,GreeK Yogurt with Peach,(ID#): 2717887,掲載時期2014年10月
甲第5号証:Mintel GNPD[online]に掲載された商品情報,GreeK Yogurt with Blackberry,(ID#):3011245,掲載時期2015年2月
甲第6号証:Mintel GNPD[online]に掲載された商品情報,Lemon Zucchini Flavoured Nonfat Yogurt,(ID#):3808773,掲載時期2016年2月
甲第7号証:Mintel GNPD[on line]に掲載された商品情報,Non-Fat Greek Blueberry Yogurt,(ID#):1748577,掲載時期2012年3月
甲第8号証:明治大学大学院農学研究科 2021年度 博士学位請求論文「ヨーグルトの発酵を担う乳酸菌 Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusとStreptococcus thermophilusの共生メカニズムに関する研究」
甲第9号証:応用糖質科学、第5巻、第1号(2015)、p31-37
甲第10号証:特許第6989253号公報
甲第11号証:独立行政法人農畜産業振興機構、https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_000609.htmlの「砂糖の調理性と上手な使い方」、最終更新日:2012年12月10日
甲第12号証:株式会社林原の食品素材事業サイト https://www.food.hayashibara.co.jp/sugar/の「糖の基礎知識」
甲第13号証:日本食品工業学会誌 第32巻第2号,1985年2月,p144-155
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
以下に記載するように、特許異議申立人の申立理由1ないし3はいずれも理由がない。
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、以下の記載がある。なお、甲1は外国語文献であるから、訳文のみ摘記する。
(記載a)「スキムミルク及び限外濾過保持液を原料とするヨーグルトのレオロジー特性及び官能特性に関する研究
要旨
スキムミルク(SM)と限外濾過(UF)されたSM保持液から作られたヨーグルトのレオロジー特性、官能特性、及びいくつかの化学的特性を比較した。乳酸発酵によるゲル構造の形成は、UF生成物及びSM生成物の両方において多段階のプロセスであった。ゲル化開始後、位相差角δ(tanδ=G”G’)の局所的最大値が明らかになり、最終的なマクロ構造が確立される前に凝固カゼインネットワークの部分的な緩みが示唆された。UF保持液は、同等の固形分レベルのSMと比較して、より高い粘度と弾性率(G’)を有する凝固物を提供した。UFヨーグルトはSMヨーグルトと比較して、アセトアルデヒド、ピルビン酸、酢酸及び乳酸の量がわずかに多く、オロチン酸及びクエン酸の量が少なかった。官能分析によって決定された知覚的な厚みと粒状性のスコアは、UF生成物においてより高かった。固形分12%のUF保持液から調製された生成物は、すべての官能特性において高く評価された。(311頁の表題及び要約)
(記載b)「冷蔵低温殺菌SMは、低加熱脱脂SM固形分で全固形分の約12、14、(16%)の3段階に調整し、使用まで-18℃で保存した。また、低温殺菌(72℃、17秒)SMを20リットルのロットで、Amicon Diaflo中空糸膜(カートリッジ#H5P 10-43、MW cut-off 10000、表面積0.45m2、繊維内径1.1mm;Amicon Corp、Danvers、MA)を用いて、25℃の条件で限外濾過した。UF中の透過流速(Permeate flux)は、透過水量(permeate flow rates)を測定し、全膜面積で割ることによって算出した。
限外濾過保持液(UF retentates)又は強化SMの全固形分は、22℃の屈折率測定法(refractometry)(Abbe屈折計)及び真空オーブン(Mojonnier)によって測定し、脂肪、タンパク質及びラクトースは、IR分析器Milko-Scan 203(Marth,1978)によって測定した。灰分、pH、滴定活性はAOAC(1980)の方法に従って測定し、ミネラル組成は原子吸光法で測定した。リンはOlsen and Dean(1965)の比色法によって分析した。
全ての乳試料は、S. salivarius subsp. thermophi1usとL. delbrueckii subsp. Bulgaricusの混合(1:1)スターター培養物(Hansen CH-3;Hansen's Lab. Inc.,Milwaukee,WI)を接種する前に、85℃で30分間バット殺菌した。混合スターター培養物と牛乳(42℃)を、堅い凝固物及びpH4.3~4.5域が得られるまでインキュベート(5~6時間)することで、SM及びUF SM保持液(UF SM retentates)を原料とするヨーグルトを調製した。」(312頁下から12行~313頁10行)
(記載c)「
[図:0001395246000001.jpg]
」(316頁)
イ 甲1に記載された発明
甲1には、上記アの(記載c)に限外濾過保持液(UF)の具体例の成分として、「Total solids」(全固形分)、「Protein」(タンパク質)、「Lactose」(ラクトース:乳糖)、「Ash」(灰分)の数字が、表1の4行目に、「14.0」、「9.5」、「4.2」、「0.9」と記載され、同じく6行目に「16.8」、「11.8」、「4.1」、「1.1」と記載されている。
そうすると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
<甲1発明A>
「脱脂乳を限外濾過(UF)して得る、ヨーグルトの調整に用いる限外濾過保持液の製造方法であって、限外濾過保持液の全固形分が14.0%、タンパク質が9.5%、乳糖が4.2%、灰分が0.9%である、限外濾過保持液の製造方法。」
<甲1発明B>
「脱脂乳を限外濾過(UF)して得る、ヨーグルトの調整に用いる限外濾過保持液の製造方法であって、限外濾過保持液の全固形分が16.8%、タンパク質が11.8%、乳糖が4.1%、灰分が1.1%である、限外濾過保持液の製造方法。」
<甲1発明C>
「脱脂乳を限外濾過(UF)して得る、ヨーグルトの調整に用いる限外濾過保持液を85℃で30分間バット殺菌し、スターター培養物と牛乳(42℃)を、堅い凝固物及びpH4.3~4.5域が得られるまでインキュベート(5~6時間)するヨーグルトの製造方法であって、限外濾過保持液の全固形分が14.0%、タンパク質が9.5%、乳糖が4.2%、灰分が0.9%である、ヨーグルトの製造方法。」
<甲1発明D>
「脱脂乳を限外濾過(UF)して得る、ヨーグルトの調整に用いる限外濾過保持液を85℃で30分間バット殺菌し、スターター培養物と牛乳(42℃)を、堅い凝固物及びpH4.3~4.5域が得られるまでインキュベート(5~6時間)するヨーグルトの製造方法であって、限外濾過保持液の全固形分が16.8%、タンパク質が11.8%、乳糖が4.1%、灰分が1.1%である、ヨーグルトの製造方法。」
(2)本件発明1について
ア 甲1発明Aとの対比・判断
本件発明1と甲1発明Aとを対比する。
甲1発明Aの「%」は、当業者の技術常識から、「重量%」を意味している。
甲1発明Aの「限外ろ過保持液」は、「脱脂乳」を限外ろ過して全固形分が14.0%のものを得ているから、本件発明1と同様に、「限外ろ過処理により、原料乳を濃縮した」「液状のMPC」に相当している。
そして、甲1発明Aの「限外ろ過保持液の製造方法」は、本件発明1の「調合乳の製造方法」に相当する。
甲1発明Aの「限外ろ過保持液」のタンパク質は、その全固形分に対して67.8重量%(=9.5/14.0×100)含んでいるから、本件発明1の「乳タンパク質に対して60~80重量%で含む」「液状のPMC」を満たす。
甲1発明Aの「限外ろ過保持液」の灰分は0.9%、乳糖は4.2%であるから、本件発明1の「灰分の濃度が、0.15~2重量%であり、乳糖の濃度が、3重量%以上18重量%以下である」を満たす。
そうすると、本件発明1と甲1発明Aは、
「限外ろ過処理により、原料乳を濃縮した、乳タンパク質を全固形分に対して60~80重量%で含む液状のMPCを得ること、
を含む、
灰分の濃度が、0.15~2重量%であり、
乳糖の濃度が、3重量%以上18重量%以下である調合乳の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、「得られた液状のMPCに、単糖類および二糖類からなる群から選択される1または2以上の糖類(乳糖を除く)を配合すること」を特定するのに対し、甲1発明は、このような特定がない点
以下、相違点1について検討する。
甲2ないし甲7は、製品としてのヨーグルトに糖が配合されていることを開示するのみであって、発酵乳(ヨーグルト)を製造するための「調合乳」に糖類を配合することについては記載も示唆もない。甲11ないし甲13についても同様である。なお、甲8ないし甲10は、申立理由2及び3に関するものである。
そして、甲1発明Aのような高濃度のMPCに糖類を添加することを開示する文献は示されていないから、甲1発明Aにおいて、相違点1に係る発明特定事項を採用する動機付けはない。
一方で、本件発明1は、「高タンパク質でありながら、滑らかな食感を有する濃厚な発酵乳を合理的に製造すること」ができるという格別の効果を奏するものである。
そうすると、甲1発明Aにおいて、相違点1に係る発明特定事項を採用することを当業者が容易になし得たということはできない。
よって、本件発明1は、甲1発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 甲1発明Bとの対比・判断
本件発明1と甲1発明Bとを対比すると、上記アと同様に対比されるから、上記アに記載の一致点で一致し、上記アの相違点1で相違している。
そして、相違点1の判断は、上記アのとおり判断されるから、本件発明1は、甲1発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ まとめ
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2ないし12について
本件発明2ないし12は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2ないし12は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものではない。
(4)本件発明13について
本件発明13と甲1発明C又は甲1発明Dとを対比すると、上記(2)アにおける対比と同様のことがいえる。
甲1発明C又は甲1発明Dの「ヨーグルトの製造方法」は処理方法といえ、ヨーグルトは発酵乳であるから、本件発明13の製造方法とは、「発酵乳の処理方法」の限りで一致する。
甲1発明C又は甲1発明Dの「限外濾過保持液を85℃で30分間バット殺菌し、スターター培養物と牛乳(42℃)を、堅い凝固物及びpH4.3~4.5域が得られるまでインキュベート(5~6時間)する」工程は、本件発明13の「調合乳を発酵する」工程に相当する。
そうすると、本件発明13と甲1発明C又は甲1発明Dとは、
「原料乳を濃縮し、液状のMPCを得ること、
および
調合乳を発酵することを含む、方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2>
本件発明13は、「液状のMPCならびに、単糖類および二糖類からなる群から選択される1または2以上の糖類を配合してなる」と特定するのに対し、甲1発明C又は甲1発明Dは、このような特定がない点
<相違点3>
「発酵乳の処理方法」が、本件発明13は「発酵乳の食感を滑らかにする方法」であるのに対し、甲1発明C又は甲1発明Dは「ヨーグルトの製造方法」である点
以下、相違点について検討する。
相違点2は、上記(2)アにおける相違点1と実質的に同じであるから、その判断は、上記(2)アに記載のとおりである。
そうすると、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明13は、甲1発明C又は甲1発明D、すなわち、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明14について
本件発明14と甲1発明C又は甲1発明Dとを対比すると、上記(2)ア及び(4)における対比と同様のことがいえるから、本件発明14と甲1発明C又は甲1発明Dとは、
「原料乳を濃縮し、液状のMPCを得ること、
灰分の濃度が0.15~2重量%である調合乳を調製すること、
および
調合乳を発酵することを含む、方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4>
本件発明14は、「液状のMPCならびに、単糖類および二糖類からなる群から選択される1または2以上の糖類を配合してなる」と特定するのに対し、甲1発明C又は甲1発明Dは、このような特定がない点
<相違点5>
「発酵乳の処理方法」が、本件発明14は「発酵乳の食感を滑らかにし、かつ、発酵乳の塩味またはえぐ味を低減、もしくは発酵乳にコク味を付与する方法」であるのに対し、甲1発明C又は甲1発明Dは「ヨーグルトの製造方法」である点
以下、相違点について検討する。
相違点4は、上記(2)アにおける相違点1と実質的に同じであるから、その判断は、上記(2)アに記載のとおりである。
そうすると、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明14は、甲1発明C又は甲1発明D、すなわち、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件発明15について
本件発明15と甲1発明C又は甲1発明Dとを対比すると、上記(2)アにおける対比と同様のことがいえるから、本件発明15と甲1発明C又は甲1発明Dとは、
「原料乳を濃縮し、液状のMPCを得ること、
および
調合乳を発酵することを含む、方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点6>
本件発明15は、「液状のMPCならびに、単糖類および二糖類からなる群から選択される1または2以上の糖類を配合してなる」と特定するのに対し、甲1発明C又は甲1発明Dは、このような特定がない点
<相違点7>
本件発明15は、「カルシウムの濃度が0.05~0.7重量%である調合乳を調製すること」と特定するのに対し、甲1発明C又は甲1発明Dは、このような特定がない点
<相違点8>
「発酵乳の処理方法」が、本件発明15は「発酵乳の食感を滑らかにし、かつ、発酵乳の塩味またはえぐ味を低減、もしくは発酵乳にコク味を付与する方法」であるのに対し、甲1発明C又は甲1発明Dは「ヨーグルトの製造方法」である点
以下、相違点について検討する。
相違点6は、上記(2)アにおける相違点1と実質的に同じであるから、その判断は、上記(2)アに記載のとおりである。
そうすると、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明15は、甲1発明C又は甲1発明D、すなわち、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(7)本件発明16ないし18について
本件発明16ないし18は、請求項13ないし15のいずれかの請求項を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項13ないし15のいずれかの請求項に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明13ないし15のいずれかの発明と同様に、本件発明16ないし18は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものではない。
(8)まとめ
よって、申立理由1には理由がない。
2 申立理由2(サポート要件)について
本件特許の明細書の発明の詳細な説明(以下、「詳細な説明」という。)の【0002】ないし【0007】の記載からみて、本件発明は、「高タンパク質でありながら、滑らかな食感を有する濃厚な発酵乳を合理的に製造すること」を発明の課題とするものである。そして、当業者は、詳細な説明の【0008】、【0009】、【0012】ないし【0019】、【0032】ないし【0039】、図面(実施例及び比較例)の記載からは、発酵乳の製造方法において、「限外ろ過処理により、原料乳を濃縮した、乳タンパク質を全固形分に対して60~80重量%で含む液状のMPCを得ること、得られた液状のMPCに、単糖類および二糖類からなる群から選択される1または2以上の糖類を配合する」調合乳を用いた製造方法とすることで、高タンパク質でありながら、滑らかな食感を有する濃厚な発酵乳を合理的に製造できることが理解できる。
そして、本件発明1及び本件発明13ないし本件発明15は、上記の特定事項を満たすものであるから、当業者は、本件発明1ないし18は、発明の課題を解決するものであると理解する。
特許異議申立人が主張する「灰分の濃度」、「乳糖の濃度」、発酵乳のタイプ、乳酸菌スターター等の特定がないことは課題解決手段とは関係がないし、詳細な説明の記載でこれらの事項が特定されていない場合について発明の課題が解決できないことの具体的、合理的な理由が示されていないうえ、これらを特定することが必要であるとする証拠も示されていないから、当該主張は採用できない。また、特許異議申立人が主張する甲10に基づく官能評価結果は、本件特許における詳細な説明の記載を構成するものではないから、サポート要件の判断に影響しない。
以上のとおりであるから、申立理由2は、その理由がない。
3 申立理由3(実施可能要件)について
本件発明1ないし18について、詳細な説明の記載を参酌すれば、当業者は過度の試行錯誤を要することなく当該発明を実施できる。
特許異議申立人は、特定の効果が奏される発酵乳を得ようとしたときには当業者といえども過度の試行錯誤を要すると主張するが、発明の実施とは、特許請求の範囲に記載された発明を実施できるかどうかで判断されるものであり、当業者の技術常識を勘案すれば、特許請求の範囲に記載された発明を当業者は容易に実施できるといえるし、まして、詳細な説明において、実際に製造された実施例の記載が存在する本件において、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
よって、申立理由3は、理由がない。
第5 むすび
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし18に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701047