特許異議申立
2022-700847
カゼインを含む組成物およびこれを作製する方法
- 審判番号
- 2022-700847
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-529979
- 登録番号
- 7034710
- 請求日
- 2022年08月30日
- 審決日
- 2026年04月15日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】パーフェクト・デイ・インコーポレイテッド
- 【権利者代理人】田中 伸一郎
- 【権利者代理人】▲吉▼田 和彦
- 【権利者代理人】須田 洋之
- 【権利者代理人】山崎 一夫
- 【権利者代理人】市川 さつき
- 【権利者代理人】服部 博信
- 【権利者代理人】松田 七重
- 【権利者代理人】田代 玄
- 【異議申立人】ファヌッチ, アラン A
- 【異議申立人代理人】高岡 亮一
- 【異議申立人代理人】小田 直
- 【異議申立人代理人】高橋 香元
- 【異議申立人代理人】三好 玲奈
- 【異議申立人代理人】岩堀 明代
- 審判長/審判官
- 審判長 柴田 昌弘
- 審判官 松田 成正
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.537-YAA(A23C) / P1651.536-YAA(A23C) / P1651.121-YAA(A23C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第2条第3項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7034710号発明「カゼインを含む組成物およびこれを作製する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7034710号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-21〕、〔22-34〕について訂正することを認める。
特許第7034710号の請求項1ないし9、11ないし30及び32ないし34に係る特許を維持する。
特許第7034710号の請求項10及び31に係る特許に対する特許異議申立を却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7034710号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし34に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)8月21日(優先権主張外国庁受理 2014年8月21日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、令和4年3月4日にその特許権の設定の登録がされ、同年同月14日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和4年8月30日に,特許異議申立人 ファヌッチ, アラン A(以下「特許異議申立人」という。)により、本件特許の請求項1ないし34に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、令和5年1月6日付けで取消理由が通知され、同年4月17日に特許権者 パーフェクト・デイ・インコーポレイテッド(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年5月25日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年7月14日に特許異議申立人から意見書が提出され、令和6年3月29日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年5月20日に特許権者から訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされるとともに意見書が提出されたものである。
なお、令和5年4月17日になされた訂正請求については、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものと見なす。
また、本件は、既に特許異議申立人に意見書を提出する機会が与えられている場合であって、訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、事件において提出された全ての証拠や意見等を踏まえてさらに審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体が判断したため、特許法第120条の5第5項ただ但し書きの「特別の事情」に該当し、改めて特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えないものとする。
第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7034710号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~34について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「・・・を含む乳製品代用食品組成物であって、前記特定の成分は、」及び「前記特定の成分により、」の両記載において「前記特定の成分」とあるのを、「前記成分のサブセット」と訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2ないし9及び11ないし21についても同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「前記特定の成分は、(i)における前記組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質以外の他のミルクタンパク質を何ら含まず、」の記載において「前記特定の成分」とあるのを、「前記乳製品代用食品組成物」と訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2ないし9及び11ないし21についても同様に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質アミノ酸配列」とあるのを、「ウシ、ヒツジ、ヤギ、及びバッファローのβ-ラクトグロブリンタンパク質からなる群から選択される野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列」と訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2ないし9及び11ないし21についても同様に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1において、「リーブニング、」との記載を削除する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2ないし9及び11ないし21についても同様に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項21に「請求項1~20のいずれか一項に記載の乳製品代用食品組成物。」とあるのを「請求項1~9、11~20のいずれか一項に記載の乳製品代用食品組成物。」と訂正する。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項22に「野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質」とあるのを、「ウシ、ヒツジ、ヤギ、及びバッファローのβ-ラクトグロブリンタンパク質からなる群から選択される野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質」と訂正する。
請求項22の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項23ないし30及び32ないし34についても同様に訂正する。
(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項22に「組換えβ-ラクトブロブリンタンパク質」とあるのを、「組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質」と訂正する。
請求項22の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項23ないし30及び32ないし34についても同様に訂正する。
(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項22において、「リーブニング、」との記載を削除する。
(10) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項22に「・・・を用いて製造された乳製品の特性に実質的に類似した一又は複数の特性を有する」とあるのを、「・・・を用いて製造された乳製品の一又は複数の特性を有する」と訂正する。
請求項22の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項23ないし30及び32ないし34についても同様に訂正する。
(11) 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項31を削除する。
3 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし21について、請求項2ないし21は請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項1ないし21に対応する訂正後の請求項1ないし21は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項22ないし34について、請求項23ないし34は請求項22を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項22ないし34に対応する訂正後の請求項22ないし34は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1ないし4について
訂正事項1ないし4に係る請求項1の訂正は、「特定の成分」、「成分のサブセット」、「乳製品代用食品組成物」との記載間の用語における誤用を改め整理するとともに、「野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質アミノ酸配列」との表記における「野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質」と「アミノ酸配列」の関係を明らかにすべく助詞を追加することで表現を改めるとともに、「野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質」が「ウシ、ヒツジ、ヤギ、及びバッファローのβ-ラクトグロブリンタンパク質からなる群から選択される」ものであることを特定し、さらに、乳製品の特性を示す選択肢群から「リーブニング」を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明及び誤記の訂正を目的とするものである。
そして、訂正事項1ないし4に係る請求項1の訂正は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載、特に、【0009】、【0018】、訂正前の請求項10の記載などからみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2ないし9及び11ないし21についても同様である。
(2) 訂正事項5について
訂正事項5に係る請求項10の訂正は、請求項10を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項5に係る請求項10の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(3) 訂正事項6について
訂正事項6に係る請求項21の訂正は、訂正事項5に係る請求項10の訂正(請求項10の削除)に伴い、引用する請求項から請求項10を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項6に係る請求項21の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(4) 訂正事項7ないし10について
訂正事項7ないし10に係る請求項22の訂正は、「野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質」が「ウシ、ヒツジ、ヤギ、及びバッファローのβ-ラクトグロブリンタンパク質からなる群から選択される」ものであることを特定するとともに、「組換えβ-ラクトブロブリンタンパク質」との記載を「組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質」に訂正することで誤記を改めるとともに、乳製品の特性を示す選択肢群から「リーブニング」を削除し、さらに、「乳製品の特性に実質的に類似した一又は複数の特性を有する」との記載を「乳製品の一又は複数の特性を有する」と訂正することで不明瞭な記載を改めるものであり、特許請求の範囲、明瞭でない記載の釈明及び誤記の訂正を目的とするものである。
そして、訂正事項7ないし10に係る請求項22の訂正は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載、特に、【0018】、訂正前の請求項31の記載などからみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項22の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項23ないし30及び32ないし34についても同様である。
(5)訂正事項11について
訂正事項11に係る請求項31の訂正は、請求項31を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項11に係る請求項31の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
5 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、本件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1ないし34に対して特許異議申立がされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-21〕及び〔22-34〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-21〕及び〔22-34〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし34に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明34」ということがある。)は、令和6年5月20日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし34に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
哺乳動物産生ミルクに存在する成分のサブセットを含む乳製品代用食品組成物であって、前記成分のサブセットは、
(i)ウシ、ヒツジ、ヤギ、及びバッファローのβ-ラクトグロブリンタンパク質からなる群から選択される野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列に少なくとも90%同一である配列を含む組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質、及び
(ii)灰分
を含み、
前記成分のサブセットにより、風味、外見、ハンドリング、口当たり、密度、構造、触感、弾性、弾力性、コアギュレーション、バインディング、エアレーション、発泡、クリーミーネス、及び乳化からなる群から選択される乳製品の一又は複数の特性が、前記乳製品代用食品組成物に付与され、
前記乳製品代用食品組成物は、(i)における前記組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質以外の他のミルクタンパク質を何ら含まず、
前記組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質は、繊維状真菌において産生されたものである、
乳製品代用食品組成物。
【請求項2】
繊維状真菌は、アスペルギルス、トリコデルマ、フザリウム、クリソスポリウム、及びネウロスポラからなる群から選択される属から選択される、請求項1に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項3】
β-ラクトグロブリンタンパク質が、繊維状真菌から分泌されたものである、請求項1に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項4】
組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質が、非哺乳動物のグリコシル化パターンを有する、請求項1に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項5】
動物由来の化合物を含まない、請求項1に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項6】
組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質が、哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列に少なくとも93%同一なアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項7】
組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質が、哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列に少なくとも95%同一なアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項8】
組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質が、哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列に少なくとも97%同一なアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項9】
組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質が、哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列に少なくとも98%同一なアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
0.5重量%~15重量%の組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質を含む、請求項1に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項12】
組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質を含む複数のミセル、又は、組換えラクトグロブリンタンパク質を含むポリマーマトリックスゲルを含む、請求項1に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項13】
一又は複数の脂質を含み、前記一又は複数の脂質が、一又は複数のモノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリド、及び/又は、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ミリストレイン酸、サピエン酸、エライジン酸、リノエライジン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、ドコサヘキサエン酸、オクタン酸、ヘキサン酸、及びデカン酸からなる群から選択されるアシル鎖を含むリン脂質を含む、請求項1に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項14】
一又は複数の脂質が、一又は複数のトランスでエステル交換されたモノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、及び/又はリン脂質を含む、請求項13に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項15】
一又は複数の脂質が、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、およびカプリン酸からなる群から選択される一又は複数の遊離脂肪酸を含む、請求項13に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項16】
一又は複数の脂質が、哺乳動物由来ミルク又は乳製品で見られる脂肪酸アシル鎖の割合に類似したアシル鎖を含む、一又は複数のモノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、及び/又はリン脂質を含む、請求項13に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項17】
一又は複数の脂質が、植物由来油、植物由来モノグリセリド、植物由来ジグリセリド、植物由来トリグリセリド、植物由来遊離脂肪酸、及び植物由来リン脂質からなる群から選択される、請求項13に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項18】
一又は複数の甘味剤を含み、前記一又は複数の甘味料が、グルコース、マンノース、マルトース、果糖、ガラクトース、ラクトース、スクロース、モナチン、およびタガトース、ステビア、アスパルテーム、チクロ、サッカリン、スクラロース、モグロシド、ブラゼイン、クルクリン、エリトリトール、グリチルリチン、イヌリン、イソマルト、ラクチトール、マビンリン、マリチトール、マンニトール、ミラクリン、モネリン、オスラジン、ペンタジン、ソルビトール、タウマチン、キシリトール、アセスルファムカリウム、アドバンテーム、アリテーム、アスパルテーム-アセスルファム、シクラミン酸ナトリウム、ズルシン、グルシン、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、ネオテーム、およびP-4000からなる群から選択される、請求項1に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項19】
灰分が、カルシウム、モリブデン、リン、リン酸塩、カリウム、ナトリウム、クエン酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物、マグネシウム、鉄、銅、亜鉛、マンガン、セレニウム、ヨウ素、レチノール、カロテン、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンB12(コバラミン)、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6(ピリドキシン)、ビタミンC、葉酸塩、ビタミンA、ビタミンK、又はその塩のうちの一又は複数を含む、請求項1に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項20】
灰分が、乳製品代用食品組成物中において0.15%w/w~2%w/wの最終濃度を有する、請求項1に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項21】
代用アイスクリーム組成物、代用ミルク組成物、代用ヨーグルト組成物、代用クリーム組成物、代用チーズ組成物、代用フローズンカスタード組成物、代用クリームフレッシュ組成物、代用カード組成物、代用カッテージチーズ組成物、代用クリームチーズ組成物、代用バターミルク組成物、及び代用カゼイン塩組成物からなる群から選択される、請求項1~9、11~20のいずれか一項に記載の乳製品代用食品組成物。
【請求項22】
(i)ウシ、ヒツジ、ヤギ、及びバッファローのβ-ラクトグロブリンタンパク質からなる群から選択される野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列に少なくとも90%同一である配列を含む組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質、及び
(ii)灰分
を含む粉末食品組成物であって、
前記粉末食品組成物の再構成により、風味、外見、ハンドリング、口当たり、密度、構造、触感、弾性、弾力性、コアギュレーション、バインディング、エアレーション、発泡、クリーミーネス、及び乳化からなる群から選択される牛乳を用いて製造された乳製品の一又は複数の特性を有する乳製品代用食品組成物が製造され、
前記粉末食品組成物は、(i)における前記組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質以外のミルクタンパク質を何ら含まず、
前記組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質は、繊維状真菌において産生されたものである、粉末食品組成物。
【請求項23】
繊維状真菌は、アスペルギルス、トリコデルマ、フザリウム、クリソスポリウム、及びネウロスポラからなる群から選択される属から選択される、請求項22に記載の粉末食品組成物。
【請求項24】
β-ラクトグロブリンタンパク質が、繊維状真菌から分泌されたものである、請求項22に記載の粉末食品組成物。
【請求項25】
組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質が、非哺乳動物のグリコシル化パターンを有する、請求項22に記載の粉末食品組成物。
【請求項26】
乳児用調整粉乳である、請求項22に記載の粉末食品組成物。
【請求項27】
組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質が、哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列に少なくとも93%同一なアミノ酸配列を含む、請求項22に記載の粉末食品組成物。
【請求項28】
組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質が、哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列に少なくとも95%同一なアミノ酸配列を含む、請求項22に記載の粉末食品組成物。
【請求項29】
組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質が、哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列に少なくとも97%同一なアミノ酸配列を含む、請求項22に記載の粉末食品組成物。
【請求項30】
組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質が、哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列に少なくとも98%同一なアミノ酸配列を含む、請求項22に記載の粉末食品組成物。
【請求項31】
(削除)
【請求項32】
5%w/w~7%w/wの灰分を含む、請求項22に記載の粉末食品組成物。
【請求項33】
一又は複数の脂質を含む、請求項22に記載の粉末食品組成物。
【請求項34】
一又は複数の甘味剤を含む、請求項22に記載の粉末食品組成物。」
第4 特許異議申立理由の要旨
特許異議申立人が申し立てた、本件特許発明1ないし34に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨及び証拠方法は、次のとおりである。
1 申立理由1(実施可能要件)
本件特許発明1ないし34に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
なお、申立理由1の具体的理由は次のとおりである。
(1) 申立理由1-1(「少なくとも90%同一である配列」について)
ウシβ-ラクトグロブリン(BLG)は162アミノ酸残基のタンパク質である。よって、「少なくとも90%同一である配列」は、10%、つまり16残基が野生型のβ-ラクトグロブリンと異なる可能性があることを意味する。
しかしながら、本件明細書には、ウシのβ-ラクトグロブリンと10%または16残基の配列の違いを有するβ-ラクトグロブリンタンパク質は具体的に開示されていない。
仮にその配列の10%または16残基が疎水性アミノ酸残基で置換されたら、タンパク質の溶解性が下がるであろうし、当業者は、そのようなウシβ-ラクトグロブリンが天然のβ-ラクトグロブリンと同じ特性を有するとは予想し得ない。例えば、β-ラクトグロブリンタンパク質が、16の連続したトリプトファン残基で置換されたら、本件特許発明1ないし34は、実施可能な発明ではない。
(2) 申立理由1-2(「特定の成分」なる用語の定義について)
本件明細書は、「特定の成分」なる用語を定義していない。具体的には、他のミルクタンパク質を何ら含まず、組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質と灰分を組み合わせた乳製品代用食品組成物が、乳製品の特性を有していることは、発明の詳細な説明には何ら開示されていない。発明の詳細な説明は、本件特許発明1において「風味、外見、ハンドリング・・・(略)・・・、及び乳化からなる群から選択される乳製品の一又は複数の特性」と特定される1つ以上の特性が、組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質および灰分によって得られること、または他のミルクタンパク質なしで組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質および灰分によって本件特許発明の組成物が得られることを示す実施形態を一つも開示していないし、そのような実施例も全くない。
発明の詳細な説明は、他のミルクタンパク質なしで、組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質と灰分を別々に、またはそれらを組み合わせて、どのようにまたはどの程度用いれば乳製品のいずれかの特性に影響を与えるのかを全く開示していない。
(3) 申立理由1-3(「組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質」を唯一のミルクタンパク質として含む組成物が開示されていないこと)
唯一のミルクタンパク質として組換えβ-ラクトグロブリンを含むサブセットを含む乳製品代用食品組成物の実施例は、本件明細書に開示されていない。発明の詳細な説明においては、β-ラクトグロブリンタンパク質は常に他のミルクタンパク質と組み合わせて言及されている。例えば、明細書の段落【0018】には、「本明細書において記載された組成物のうちのいずれかについての一部の実施形態において、組成物は、最終濃度を約0.4重量%から約2.5重量%とするα-ラクトアルブミンタンパク質;および/または最終濃度を約2.5重量%から約4.5重量%とするβ-ラクトグロブリンタンパク質をさらに含む。」と記載されている。
そして、本件で示されたすべての乳製品代用食品組成物は、カゼインタンパク質を含んでいる。β-ラクトグロブリンタンパク質が唯一のミルクタンパク質として存在する実施例は一つも開示されていない。
(4) 申立理由1-4(「繊維状真菌」で産生されたβ-ラクトグロブリンタンパク質が開示されていないこと)
本件明細書の実施例において、組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質は、組換え酵母株(ピキア・パストリス株)においてのみ産生されている。「繊維状真菌」で産生されたβ-ラクトグロブリンタンパク質は開示されていないし、繊維状真菌で産生されたβ-ラクトグロブリンタンパク質と酵母で産生されたβ-ラクトグロブリンタンパク質との違いについても説明されていない。
(ピキア・パストリスは、繊維状真菌ではない。)
(5) 申立理由1-5(特性と粉末食品組成物の再構成との関係について)
風味を含む16種のいずれかの特性が、粉末食品組成物の再構成により付与されることは、明細書に全く開示されていない。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許発明1ないし34に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
なお、申立理由2の具体的理由は、上記1(1)~(5)の各主張と同じ観点に基づくものである。
3 申立理由3(明確性要件)
本件特許発明1ないし34に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
なお、申立理由3の具体的理由は次のとおりである。
(1) 申立理由3-1(「組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質」、「灰分」について)
「組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質」成分が、「哺乳動物産生ミルクに存在する成分」であることには矛盾がある。哺乳動物産生ミルクに存在するβ-ラクトグロブリンタンパク質は「組換え体」ではないため、本件特許発明1は矛盾しており明確ではない。
また「灰分」は、明細書段落【0065】において、「『灰分』という用語は、当技術分野において公知の用語であり、哺乳動物産生ミルク中に見出されうる、1つ以上のイオン、元素、ミネラル、および/または化合物を表す。」と説明されている。
ここで「灰分」は、単離しなければならないのか、そして哺乳動物が産生したミルクからの無機成分と比べてその量や性質が同等でなければならないのかは、本件特許発明1の「哺乳動物産生ミルクに存在する成分のサブセットを含む乳製品代用食品組成物であって、前記特性の成分は、(i)野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質アミノ酸配列に少なくとも90%同一である配列を含む組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質、及び(ii)灰分を含み、」との文言から明らかではないため、本件特許発明1は明確ではない。
(2) 申立理由3-2(「特性」と試験方法等について)
本件明細書は、本件特許発明により提供される乳製品のすべての代替される特性を、試験、定量、および/または比較する方法を示していないから、当業者はその方法を知る術がない。具体的には、本件明細書は、例えばバインディングやリーブニングといった特性について、試験、定量、および/または比較する方法を開示していないから、当業者はその方法を知りえない。
すなわち特許発明1の乳製品代用食品組成物には無限の特性が含まれているため、特許発明1の範囲は明確ではない。
(3) 申立理由3-3(プロダクト・バイ・プロセスクレームについて)
「前記組換β-ラクトグロブリンタンパク質」が「繊維状真菌において産生された」という限定は、本件特許発明1を特定する請求項1が「物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合」に該当することを意味する。
しかしながら、本件明細書では、この場合のいわゆる「不可能・非実際的事情」が存在することを説明していない。
本件特許発明1は「前記組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質は、繊維状真菌において産生されたものである、」と、組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質の供給源を繊維状真菌に限定しているが、第一に、組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質をその構造または特性によって直接定義することは、当業者にとって「不可能」または「非実際的」ではない。
第二に、製造方法による限定は、その構造または特性において規定された製品と同一の製品を対象とするが、繊維状真菌で産生されるβ-ラクトグロブリンとウシβ-ラクトグロブリンの間の異なる特性に関する説明が記載されていない。ウシβ-ラクトグロブリンと繊維状真菌で産生されるβ-ラクトグロブリンを区別する特性がある場合でも、それらは特定されていない。逆にウシβ-ラクトグロブリンと繊維状真菌で産生されるβ-ラクトグロブリンを区別する特性がない場合、「前記組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質は、繊維状真菌において産生されたものである」なる限定は意味をなさない。
よって本件特許発明1の範囲は明確ではない。
(4) 申立理由3-4(「灰分」について)
「灰分」は、単離しなければならないのか、そして哺乳動物が産生したミルクからの無機成分と比べてその量や性質が同等でなければならないのかは、本件特許発明22の特定事項において明確ではない。
(5) 申立理由3-5(「特性」について)
本件特許発明22で特定される粉末食品組成物には、無限の特性が含まれているため、本件特許発明22の範囲は明確ではない。
(6) 申立理由3-6(プロダクト・バイ・プロセスクレームについて)
上記(3)と同様の理由により、本件特許発明22は明確ではない。
なお、本件特許発明1あるいは22の発明特定事項の全てを有しさらに限定するものである本件特許発明2ないし21及び23ないし34についても同様のことがいえる。
4 申立理由4 (甲第1号証、甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし34は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証、第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明1ないし34に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 証拠方法
・甲第1a号証:Tengu Natural Food社「発酵豆乳入りマーガリン(Dairy-Free Margarine)」のウェプサイト(https://store.alishan.jp/en/product/dairy-free-margarine)
・甲第1b号証:創健社「発酵豆乳入りマーガリン」のメディア掲載情報のウェブサイト(https://www.sokensha.co.jp/products/spread/soy/media.html)
・甲第2号証:特表2007-509619号公報
・甲第3号証:Hinz, K., O'Connor, P., Huppertz, T., Ross, R., & Kelly, A. (2012). Comparison of the principal proteins in bovine, caprine, buffalo, equine and camel milk. Journal of Dairy Research, 79(2), 185-191.
・甲第4号証:Ferranti P, Mamone G, Picariello G, Addeo F. The "dark side" of β-lactoglobulin: unedited structural features suggest unexpected functions. J Chromatogr A. 2011 Jun 3; 1218(22):3423-31.
甲第3、4号証は、令和5年7月14日に意見書とともに提出されたものであ
る。
なお、証拠の表記は、異議申立書、意見書の記載に概ね従った。
第5 令和6年3月29日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要
本件特許発明1ないし34に係る特許に対して、当審が令和6年3月29日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。
取消理由(明確性違反)
本件特許発明1ないし34に係る特許は、特許請求の範囲が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許の請求項1にはβ-ラクトグロブリンタンパク質の由来動物として、ラクダを含む複数の哺乳動物を限定して特定する記載がある。しかしながら、ラクダが産生する乳にはβ-ラクトグロブリンタンパク質が含まれないことは、例えば申立人が提出した甲第3号証に「ラクダ乳にはβ-ラクトグロブリンが含まれていないのに対し、ウシ、バッファロー、ヤギ、ウマ乳ではβ-ラクトグロブリンが主要なホエータンパク質であった。」(185頁、要約、2~3行、原文は英語のため抄訳で摘記する。)と記載されているとおり、本件特許の優先日の前から知られている科学的事実である。また、明細書の発明の詳細な説明を見ても、ラクダの乳とβ-ラクトグロブリンタンパク質について特段の説明は見当たらず、令和5年4月17日に特許権者が提出した意見書においても、ラクダの乳とβ-ラクトグロブリンタンパク質との関係についての言及はなく、本件特許発明のうち「野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質」が「ラクダのβ-ラクトグロブリンタンパク質」であるものについて、当業者といえども具体的に把握することができない。
そうすると、請求項1は事実に反する事項を特定する記載があると認められるから、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎としても、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。請求項1を引用する請求項2~9及び11~21、また、「ラクダのβ-ラクトグロブリンタンパク質」が記載される請求項22とこれを引用する請求項23~30及び32~34についても同様である。
第6 当審の判断
1 令和6年3月29日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由(決定の予告)について
(1) 取消理由についての判断
取消理由は上記第5に記載のとおり、本件特許の訂正前の請求項1、22及びその従属項において、β-ラクトグロブリンタンパク質の由来動物として、ラクダを含む複数の哺乳動物を限定して特定する記載があるところ、甲第3号証には「ラクダ乳にはβ-ラクトグロブリンが含まれていない」ことが示されていることに起因するものである。
そして、上記第2及び第3のとおり、本件特許の訂正後の請求項1、22及びその従属項において、「β-ラクトグロブリンタンパク質の由来動物には、ラクダが含まれないものとなった。
よって、取消理由は解消した。
(2) 取消理由についてのまとめ
上記(1)のとおりであるから、取消理由では、本件特許発明1ないし9、11ないし30及び32ないし34に係る特許を取り消すことはできない。
2 令和6年3月29日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由(決定の予告)において採用しなかった申立理由についての判断
(1) 申立理由1(実施可能要件)について
ア 実施可能要件の判断基準
本件特許発明1ないし9、11ないし30及び32ないし34は、上記第3のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすと言うことができる。
イ 実施可能要件についての判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、ミルク、バター、チーズ、ヨーグルト、およびクリームのような食品への適用のための、乳製品代用品、これを製造する方法、ならびに動物由来成分非含有ミルクの脂肪およびタンパク質を含む組成物を対象とする」(【0002】)ものであって、「必要とされているものは、所望の風味および効能特徴を有する、乳製品代用品または組成物、例えば、乳製品の風味を再現し、乳成分含有ミルクの派生物または下流における適用のために使用される能力を保持し、哺乳動物ミルクまたは哺乳動物産生ミルクと同様の栄養プロファイルを提供しながら、食品媒介病原体を最小限にし、生産時の環境的影響が小さい組成物である」(【0007】)との課題を有し、「本発明は、哺乳動物産生ミルク中の成分のサブセットだけを使用して、哺乳動物産生ミルクと同様の風味、同様の外見、同様の栄養価、同様の香り、および同様の口当たりを有する組成物を作出しうるという発見に基づく」(【0008】)ものであることが記載されている。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、カゼインタンパク質に関する記載(【0102】ないし【0119】)、β-ラクトグロブリンの配列に関する記載(【0123】ないし【0124】)、脂質に関する記載(【0131】ないし【0142】)、風味化合物に関する記載(【0143】)、灰分に関する記載(【0144】)、色調補正剤に関する記載(【0145】)、甘味料に関する記載(【0146】ないし【0147】)、組成物中の各成分の割合及び由来に関する記載(【0148】ないし【0165】、核酸及びベクター、宿主細胞等に関する記載(【0171】ないし【0181】)、組換えミルクタンパク質を作成する方法及びミセルを作る方法に関する記載(【0183】ないし【0190】)、組成物を作る方法に関する記載(【0193】ないし【0211】)、乳製品代用生成物(合成ミルク、合成チーズ、合成クリーム、合成バター等)に関する記載(【0216】ないし【0244】)があり、具体的な実施例についての記載(【0248】ないし【0345】及び図面)もある。
これらの記載に接した当業者であれば、本件特許発明1ないし9、11ないし21、22ないし30及び32ないし34において特定する食品組成物を、過度の試行錯誤を要することなく生産することができるものといえる。
よって、本件特許発明1ないし9、11ないし30及び32ないし34に関し、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満足するものといえる。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記「第4 1」の(1)ないし(5)であげる点で、本件特許発明1ないし34に関し、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満足しないものと主張する。
しかしながら、「少なくとも90%同一である配列」について(申立理由1-1)については、「ウシ、ヒツジ、ヤギ、及びバッファローのβ-ラクトグロブリンタンパク質からなる群から選択される野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列」を基準として、90%以上同一である配列を含むものとすればよく、かつ、「ウシ、ヒツジ、ヤギ、及びバッファローのβ-ラクトグロブリンタンパク質からなる群から選択される野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列」については、パブリックドメインで公開されている状況も鑑みると、「ウシ、ヒツジ、ヤギ、及びバッファローのβ-ラクトグロブリンタンパク質からなる群から選択される野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列に少なくとも90%同一である配列を含む組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質」なるものを得ることができないとする理由はない。
なお、特許異議申立人が主張する、「仮にその配列の10%または16残基が疎水性アミノ酸残基で置換されたら、タンパク質の溶解性が下がるであろうし、当業者は、そのようなウシβ-ラクトグロブリンが天然のβ-ラクトグロブリンと同じ特性を有するとは予想し得ない。例えば、β-ラクトグロブリンタンパク質が、16の連続したトリプトファン残基で置換されたら、本件特許発明1ないし34は、実施可能な発明ではない」との主張は、実施可能要件の判断とは関係がない。
また、「特定の成分」なる用語(申立理由1-2)については、訂正により特許請求の範囲の記載において、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載とも整合するように整理された。
他、「組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質」を唯一のミルクタンパク質として含む組成物が開示されていないこと(申立理由1-3)、「繊維状真菌」で産生されたβ-ラクトグロブリンタンパク質が開示されていないこと(申立理由1-4)、特性と粉末食品組成物の再構成との関係(申立理由1-5)についてそれぞれ主張するが、いずれの主張も、本件特許発明1ないし9、11ないし30及び32ないし34に関し、具体的に実施し得ないとする証拠を挙げ主張するものではなく、技術常識を加味しても、上記イの判断に影響しない。
エ 申立理由1についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、申立理由1では、本件特許発明1ないし9、11ないし30及び32ないし34に係る特許を取り消すことはできない。
(2) 申立理由2(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 特許請求の範囲の記載
上記第3のとおりである。
ウ サポート要件についての判断
本件特許発明1ないし9、11ないし30及び32ないし34の発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明における【0007】の記載、及び特許請求の範囲の記載からみて、「風味、外見、ハンドリング、口当たり、密度、構造、触感、弾性、弾力性、コアギュレーション、バインディング、リーブニング、エアレーション、発泡、クリーミーネス、及び乳化からなる群から選択される乳製品の一又は複数の特性を付与された、乳製品代用食品組成物、又は、当該特性を有する乳製品代用食品組成物を再構成により製造することができる粉末食品組成物を提供すること」と認められる。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、哺乳動物産生ミルク中の成分のサブセットだけを使用して、哺乳動物産生ミルクと同様の風味、同様の外見、同様の栄養価、同様の香り、および同様の口当たりを有する組成物を作出しうるという発見に基づく」(【0008】)との記載、「本発明は、哺乳動物産生ミルク中に存在する少数の成分だけが、哺乳動物産生ミルクの触感および味をもたらすという発見、ならびに哺乳動物産生ミルクと比較して同様の味、香り、および口当たりを有する組成物の開発に基づく。この発見に照らして、本明細書において、このような組成物、組成物を作る方法、ならびにこれらの組成物およびこれらの組成物を作るために有用な混合物を含むキットが提示される」(【0097】)との記載、「本明細書において記載された組成物のうちのいずれかについての一部の実施形態において、組成物は、最終濃度を約0.4重量%から約2.5重量%とするα-ラクトアルブミンタンパク質;および/または最終濃度を約2.5重量%から約4.5重量%とするβ-ラクトグロブリンタンパク質をさらに含む」(【0018】)との記載、「「ミルクタンパク質の成分」という用語は、それらのサブユニットを含み、多様な供給源に由来し、本明細書においてさらに規定される通りである、カゼイン、ホエーまたはカゼインおよびホエーの組合せのような、ミルク中に見出される、タンパク質またはタンパク質の同等物および変異体を指す。「ミルクタンパク質」という用語は、哺乳動物産生ミルク中に見出されるタンパク質または哺乳動物産生ミルク中に見出されるタンパク質の配列と、少なくとも80%同一な(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一な)配列を有するタンパク質を意味する。ミルクタンパク質の非限定的な例は、β-カゼイン、κ-カゼイン、α-S1-カゼイン、α-S2-カゼイン、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、ラクトフェリン、トランスフェリン、および血清アルブミンを含む。さらなるミルクタンパク質は、当技術分野において公知である」(【0054】、【0055】)との記載、「β-ラクトグロブリンタンパク質の非限定的な例は、配列番号100、102、104、および106である。β-ラクトグロブリンタンパク質をコードする核酸配列の非限定的な例は、配列番号101、103、105、107、および143である。β-ラクトグロブリンタンパク質は、任意の哺乳動物種に由来するβ-ラクトグロブリンタンパク質、例えば、ウシ、ヒト、ヒツジ、ヤギ、バッファロー、ラクダ、ウマ、ロバ、キツネザル、パンダ、モルモット、リス、クマ、マカクザル、ゴリラ、チンパンジー、シロイワヤギ、サル、類人猿、ネコ、イヌ、ワラビー、ラット、マウス、ゾウ、フクロネズミ、ウサギ、クジラ、ヒヒ、テナガザル、オランウータン、マンドリル、ブタ、オオカミ、キツネ、ライオン、トラ、ハリモグラ、またはケナガマンモスのβ-ラクトグロブリンタンパク質でありうる。異なるβ-ラクトグロブリンタンパク質および異なるβ-ラクトグロブリンタンパク質をコードする核酸のさらなる配列は、当技術分野において公知である」(【0123】)との記載、「β-ラクトグロブリンタンパク質はまた、野生型β-ラクトグロブリンタンパク質(例えば、配列番号100、102、104、または106)と少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%)同一なタンパク質でもありうる。β-ラクトグロブリンタンパク質をコードする核酸は、野生型β-ラクトグロブリンタンパク質(例えば、配列番号100、102、104、または106)と少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%)同一なタンパク質をコードしうる」(【0124】)との記載があり、ミルクの成分と味や口当たりの検証を行うとともに、β-ラクトグロブリン株を構築し、組換え酵母からβ-ラクトグロブリンが分泌させた実施例についての記載もある。
これらの記載に接した当業者であれば、「ミルクタンパク質の成分」として、「α-ラクトアルブミンタンパク質および/またはβ-ラクトグロブリンタンパク質」を含むものであって、「哺乳動物産生ミルク中に見出されるタンパク質または哺乳動物産生ミルク中に見出されるタンパク質の配列と、少なくとも80%同一な配列を有するタンパク質」を有するとの特定事項を満たすことにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし9、11ないし30及び32ないし34はいずれも、上記発明の課題を解決できると認識できる特定事項の全てを有しさらに限定するものであるから、当然、発明の課題を解決できると認識できる。
よって、本件特許発明1ないし9、11ないし30及び32ないし34は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足する。
エ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記「第4 2」にあげる理由により、本件特許発明1ないし9、11ないし30及び32ないし34はサポート要件を満足しない旨主張する。
しかしながら、特許異議申立人が主張する理由は、概ね実施可能要件に関する点と同旨であり、いずれの理由も、上記ウの判断に影響するものではない。
オ 申立理由2についてのまとめ
上記ウ及びエのとおりであるから、申立理由2では、本件特許発明1ないし9、11ないし30及び32ないし34に係る特許を取り消すことはできない。
(3) 申立理由3(明確性要件)について
ア 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
イ 特許請求の範囲の記載
上記第3のとおりである。
ウ 明確性要件についての判断
本件特許発明1には、「哺乳動物産生ミルクに存在する成分のサブセットを含む乳製品代用食品組成物」であって、「前記成分のサブセットは、(i)ウシ、ヒツジ、ヤギ、及びバッファローのβ-ラクトグロブリンタンパク質からなる群から選択される野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列に少なくとも90%同一である配列を含む組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質、及び(ii)灰分を含」み、「前記成分のサブセットにより、風味、外見、ハンドリング、口当たり、密度、構造、触感、弾性、弾力性、コアギュレーション、バインディング、エアレーション、発泡、クリーミーネス、及び乳化からなる群から選択される乳製品の一又は複数の特性が、前記乳製品代用食品組成物に付与」され、「前記乳製品代用食品組成物は、(i)における前記組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質以外の他のミルクタンパク質を何ら含まず、」「前記組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質は、繊維状真菌において産生されたものである、」「乳製品代用食品組成物」であることが特定されており、各特定事項はいずれも明確であり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明における記載とも整合するものである。
よって、本件特許発明1は、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。
本件特許発明2ないし9、11ないし30及び32ないし34についても、同様に判断される。
エ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記「第4 3」で挙げるように、「組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質」、「灰分」、「特性」、「プロダクト・バイ・プロセスクレーム」の各観点から、本件特許発明1ないし9、11ないし30及び32ないし34は明確ではない旨主張するが、本件特許発明1ないし9、11ないし30および32ないし34は、上記第2及び第3のとおり、訂正によりその記載が整理されたものであり、かつ、当業者の出願時における技術常識を加味すると、上記ウのとおり、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできないものであるから、いずれの主張も採用できない。
オ 申立理由3についてのまとめ
上記ウ及びエのとおりであるから、申立理由3では、本件特許発明1ないし9、11ないし30及び32ないし34に係る特許を取り消すことはできない。
(4) 申立理由4(進歩性)について
ア 主な証拠における記載事項
(ア) 甲第1a号証の記載事項
甲第1a号証には、「Dairy-Free Margarine」に関し、次の記載がある。
「
[図:0001437346000001.jpg]
[図:0001437346000002.jpg]
」
(イ) 甲第1b号証の記載事項
甲第1b号証には、「発酵豆乳入りマーガリン」に関し、次の記載がある。
「
[図:0001437346000003.jpg]
[図:0001437346000004.jpg]
[図:0001437346000005.jpg]
」
(ウ) 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、「低脂肪スプレッド製造において有用な安定剤」に関し、次の記載がある。
「【請求項1】
1-7%の乳清タンパク質を含む低脂肪スプレッドの製造方法であって、
(i)約5乃至10%の乳清タンパク質を含み、約0.0乃至1.4mMのカルシウム濃度及び約7乃至9のpH値を有する水溶液を調製する工程;
(ii)工程(i)で得られる溶液を、約50乃至100℃の温度に約0.15乃至30分間に亘って加熱する工程、
(iii)工程(ii)で得られる溶液を、約1乃至40℃の温度に冷却する工程、
(iv)工程(iii)で得られる溶液を、約4乃至7%のタンパク質濃度及び約5.2乃至7.0のpH値に調整する工程、
(v)工程(iv)で得られる溶液を脂肪相と混合して低脂肪スプレッドを得る工程、
を含む方法。
【請求項2】
低脂肪スプレッドがW/Oタイプのエマルションである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
低脂肪スプレッドが、約10乃至60%の脂肪、より好ましくは約20乃至60%の脂肪を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
低脂肪スプレッドが、約2乃至5%の乳清タンパク質を含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
低脂肪スプレッドが、約0.5乃至4.5%のNaClを更に含む、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(iv)で得られる溶液と脂肪相とを5時間以下、好ましくは2時間以下に亘って撹拌し、容器に実装し、更に好ましくは約4乃至10℃にて少なくとも約24時間に亘り貯蔵する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
乳清タンパク質が、βラクトグロブリンで強化されている、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
約20乃至60%の脂肪及び約2乃至5%の乳清タンパク質を含む低脂肪スプレッドの製造方法であって、
(i)約3乃至10%の乳清タンパク質を含み、約7乃至9のpH値及び1.4mM以下であるかまたは少なくとも約50%に低減されているカルシウム濃度を有する水溶液を調製する工程;
(ii)工程(i)で得られる溶液を、約50乃至100℃の温度に約0.15乃至30分間に亘って加熱する工程、
(iii)工程(ii)で得られる溶液を、約1乃至17℃の温度に冷却する工程、
(iv)工程(iii)で得られる溶液を、約5乃至7%のタンパク質濃度及び約5.5乃至7のpH値に調整する工程、
(v)工程(iv)で得られる溶液を脂肪相と混合して低脂肪スプレッドを得る工程、
を含む、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(i)約7.9%の乳清タンパク質を含み、約0.0乃至1.4mMのカルシウム濃度及び約8のpH値を有する水溶液を調製する工程;
(ii)工程(i)で得られる溶液を、約80℃の温度に約15分間に亘って加熱する工程、
(iii)工程(ii)で得られる溶液を、約10℃の温度に冷却する工程、
(iv)工程(iii)で得られる溶液の、タンパク質濃度を約5.7%に調整し、乳酸水溶液の添加によりpH値を約5.7に調整し、更にNaClを濃度約1.9%となるまで加える工程、
(v)工程(iv)で得られる水相の53部を、27部のバター及び17部の菜種油と混合する工程、
を含む、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
スプレッドが、前記乳清タンパク質以外の安定剤を含まない、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
スプレッドが、ゼラチン、Naカゼイナート、イヌリン、β-グルカン、グアーガム、カラギーナン、ペクチン、ゲランガム、アガー、アルギネート、マルトデキストリン、大豆タンパク質、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ミクロクリスタリンセルロース、カゼイナート、コンニャク、マンナン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アラビアガム(アカシアガム)、トラガカンス、タラガム、カラヤガム、加工オウケウマ海草、デキストリン、澱粉、及び漂白澱粉からなる群より選択される、1つ以上の付加的安定剤を含む、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法によって得られる製品。
【請求項13】
約1乃至7%の熱処理乳清タンパク質を含む低脂肪スプレッドであって、水相のカルシウム濃度が約0.0乃至1.4mMであり、前記乳清タンパク質以外の安定剤を含まない、低脂肪スプレッド。
【請求項14】
水相のpHが7未満である、請求項13に記載の低脂肪スプレッド。
【請求項15】
乳清タンパク質が、β-ラクトグロブリンで強化されている、請求項13または14に記載の低脂肪スプレッド。
【請求項16】
低脂肪スプレッドが、約0.5乃至4.5%のNaClを含む、請求項13乃至15のいずれか一項に記載の低脂肪スプレッド。
【請求項17】
脂肪フラクションが、0乃至100%の乳脂肪を含む、請求項13乃至17のいずれか一項に記載の低脂肪スプレッド。
【請求項18】
脂肪フラクションが、0乃至100%の植物脂肪を含む、請求項13乃至17のいずれか一項に記載の低脂肪スプレッド。
【請求項19】
前記スプレッドが、約54%の水含量、約1%のNaCl含量、約3%のタンパク質含量、約5.5%の無脂肪固形分含量、及び約40%の脂肪含量を有する、請求項13乃至18のいずれか一項に記載の低脂肪スプレッド。
【請求項20】
前記脂肪フラクションが、約50乃至60%の乳脂肪及び約40乃至50%の植物脂肪、好ましくは菜種油を含む、請求項19に記載の低脂肪スプレッド。
【請求項21】
約20乃至60%の脂肪、約1乃至7%の熱処理乳清タンパク質、水相中に約0.0乃至1.4mMのカルシウム濃度、及び、イヌリン、β-グルカン、グアーガム、カラギーナン、ペクチン、ゲランガム、アガー、アルギネート、マルトデキストリン、大豆タンパク質、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ミクロクリスタリンセルロース、カゼイナート、コンニャク、マンナン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アラビアガム(アカシアガム)、トラガカンス、タラガム、カラヤガム、加工オウケウマ海草、デキストリ
ン、澱粉、及び漂白澱粉からなる群より選択される少なくとも1つの安定剤を含む低脂肪スプレッド。
【請求項22】
水相のpHが7未満である、請求項21に記載の低脂肪スプレッド。
【請求項23】
乳清タンパク質が、β-ラクトグロブリンで強化されている、請求項21または22に記載の低脂肪スプレッド。
【請求項24】
低脂肪スプレッドが、約0.5乃至4.5%のNaClを含む、請求項21乃至23のいずれか一項に記載の低脂肪スプレッド。
【請求項25】
脂肪フラクションが、0乃至100%の乳脂肪を含む、請求項21乃至24のいずれか一項に記載の低脂肪スプレッド。
【請求項26】
脂肪フラクションが、0乃至100%の植物脂肪を含む、請求項21乃至25のいずれか一項に記載の低脂肪スプレッド。
【請求項27】
前記スプレッドが、約54%の水含量、約1%のNaCl含量、約3%のタンパク質含量、約3%の無脂肪固形分含量、及び約40%の脂肪含量を有する、請求項21乃至26のいずれか一項に記載の低脂肪スプレッド。
【請求項28】
脂肪フラクションが、約50乃至60%の乳脂肪及び約40乃至50%の植物脂肪、好ましくは菜種油を含む、請求項27に記載の低脂肪スプレッド。
【請求項29】
(vi)約5乃至10%の乳清タンパク質(カルシウム濃度が約0.0乃至1.4mM及びpH値が約7乃至9)を含む水溶液を調製する工程;
(vii)工程(vi)で得られる溶液を、約50乃至100℃の温度に約0.15乃至30分間に亘って加熱する工程、
(viii)工程(vii)で得られる溶液を、約1乃至40℃の温度に冷却する工程、
(ix)工程(viii)で得られる溶液を、約4乃至7%のタンパク質濃度及び約5.2乃至7.0のpH値に調整する工程、
を含む、乳清タンパク質製品の製造方法。
【請求項30】
(vi)約3乃至10%の乳清タンパク質(pH値は約7乃至9)を含む水溶液を調製する工程であって、この乳清タンパク質のカルシウム濃度が1.4mM以下であるかまたは、少なくとも約50%、更に好ましくは);
(vii)工程(vi)で得られる溶液を、約50乃至100℃の温度に約0.15乃至30分間に亘って加熱する工程、
(viii)工程(vii)で得られる溶液を、約1乃至40℃の温度に冷却する工程、
(ix)工程(viii)で得られる溶液を、約4乃至7%のタンパク質濃度及び約5.2乃至7.0のpH値に調整する工程、
を含む、乳清タンパク質製品の製造方法。
【請求項31】
乳清タンパク質が、β-ラクトグロブリンで強化されている、請求項29または30に記載の方法。
【請求項32】
ゲルが、約0.5乃至4.5%のNaClを更に含む、請求項29乃至31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
請求項29乃至32のいずれか一項に記載の方法によって得られる乳清タンパク質製品。
【請求項34】
O/Wタイプのエマルションの安定化のための、請求項33に記載の乳清タンパク質製品の使用。
【請求項35】
発酵乳製品、伝統的チーズ、またはカビ熟成チーズからなる群より選択される製品の安定化のための、請求項33に記載の乳清タンパク質製品の使用。
【請求項36】
加工肉製品の安定化のための、請求項33に記載の乳清タンパク質製品の使用。
【請求項37】
請求項33に記載の乳清タンパク質製品を含む食品。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、安定剤の分野に関する。特に、本発明は、乳由来の安定剤並びに乳由来のタンパク質で安定化した低脂肪スプレッドの製造方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、非乳製品添加剤の添加には、様々な欠点が関連する。非乳製品添加剤の種類は、例えば成分表示に列挙されねばならず、したがって当業界には、例えば乳由来のタンパク質のみで安定化可能な低脂肪スプレッドが求められている。この点で、ほとんどの消費者が天然産物を、好ましくは添加剤を含まないものをより好むのは注目に値する。さらにまた、当業界においてはこうした製品を製造するための比較的に安価で且つ単純な方法が求められている。
【0013】
食品業界においては、普遍的な応用範囲を有する安定化成分として有用な乳清タンパク質ゲルの、安価且つ有効な製造方法の開発もまた望まれている。」
「【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、優れた官能特性を有する低脂肪スプレッドの製造方法であって、熱処理されカルシウムが低減された乳清タンパク質生成物によってエマルションの水相が安定化され、単一の加熱工程を含む方法に関する。
【0021】
水相を製造するための出発物質は、5-9%の乳清タンパク質を含み、約.0-1.4mMのカルシウム濃度を有する溶液である。この溶液のpHは7乃至9に調整する。この比較的に高いpH値及び低いカルシウム濃度は、後の加熱工程の間のジスルフィド結合(一次凝集)によるβラクトグロブリンの重合にとって有利であると考えられる。
【0022】
この溶液の加熱は、約50乃至100℃の温度にて、0.15乃至30分間行う。通常は、一次凝集物は迅速に二次凝集物を形成する。しかしながら、低カルシウム濃度と高いpH値(7以上)との組み合わせにより、二次凝集物の自然発生的な形成が妨げられる。加熱工程の後、この溶液は1乃至40℃の温度に冷却して、変性過程を阻止すると共に粒子形成を回避せねばならない。
【0023】
冷却した溶液を、pH値3乃至7に調整し、タンパク質濃度を4乃至7%に希釈する。この最終工程(酸誘発性のゲル化、任意にNaClの添加と組み合わせる)は、微細鎖(fine-stranded)ゲル構造(二次凝集)の形成を誘発すると思われる。この工程で得られるのは低粘性液体であって、これは約48時間の間に約4℃の温度において徐々にゲルに変化する。所望の低脂肪スプレッド製品を得るためには、低粘性タンパク質溶液をゲル生成が完了する前に脂肪相と混合することが好ましい。然るに、混合は、酸誘発性ゲル化の開始後2時間以内に行うことが好ましい。約48時間後、好ましくは約4℃にて、分散した水滴中でゲル生成が完了し、所望の特性を有する低脂肪スプレッドが得られる。」
「【発明の効果】
【0024】
このゲルは、O/Wタイプ並びにW/Oタイプのエマルション型の安定化における食品成分として応用可能である。
【0025】
本発明で達成されるのは、不可逆的乳清タンパク質ゲル構造によって安定化される低脂肪スプレッドの製造であり、然るに低脂肪スプレッドの安定化剤として例えばゼラチンなどを使用することに代替策を提供するものである。消費者による消費の際、この低脂肪スプレッドは、口の中でバターと同じように溶解する。別の添加剤が全く加えられないならば、非常に優れた官能特性を有する低脂肪スプレッドが得られ、ここで前記低脂肪スプレッドは乳由来の成分のみによって安定化されている。
【0026】
さらに、本発明は、少量のカルシウム低減熱処理乳清タンパク質を含む低脂肪スプレッドに関する。
【0027】
最後に、本発明は、乳清タンパク質生成物の製造方法並びに様々な製品タイプの安定化のためのこれら生成物の使用に関する。」
「【0039】
βラクトグロブリンは、低温ゲル化処理の際のゲル形成の主たる原因となる乳清由来のタンパク質タイプであると考えられる。然るに、乳清タンパク質の使用に加えて、または乳清タンパク質の使用に代えて、完全にまたは部分的に精製されたβラクトグロブリンを使用してよいことは当然である。乳清タンパク質がβラクトグロブリンで強化されている場合は、粗製の乳清タンパク質を用いる場合に比べて必要とされるタンパク質含量を上限約50%まで低減可能である。粗製の乳清タンパク質に代えてβラクトグロブリンを使用することは、本発明の場合にも好都合に(よりいっそう好都合に)作用すると思われるが、製造コストは増大する。粗製の乳清タンパク質は以下のタンパク質を含む:βラクトグロブリン(約50%)、αラクトアルブミン(約20%)、カッパカゼイン(15%)免疫グロブリン類(約5%)の開裂により生じるグルコマクロペプチド類、血清アルブミン(約5%)。然るに、βラクトグロブリンは、乳清タンパク質出発物質のタンパク質含量の約30,40,50,55,60,65,70,75,80,85,90,95,または100%を構成してもよい。したがって、ここで使用される「タンパク質」なる語はβラクトグロブリン強化されている、またはされていない、乳清タンパク質を意味する。」
「【0057】
脂肪:脂肪相はあらゆる脂肪または油原料、好ましくはトリグリセリド形態、または植物及び/または動物由来のいずれのものによって構成されていてもよい。然るに脂肪相はあらゆる脂肪原料の混合物であってよい。脂肪原料の例には、以下に限定されるものではないが、乳脂肪、植物脂肪及び油、例えばパーム油、ココナッツ油、大豆油、サンフラワー油、オリーブ油、シスル油、グレープカーネル油、ごま油、菜種油などが含まれる。」
「【0060】
安定剤:安定剤及び増粘剤なる語は、本文献中においては同義的に用いられる。安定剤は従来使用されているあらゆる製品、例えばゼラチン、澱粉、イヌリン、ベータグルカン、グアーガム、カラギーナン、ペクチン、ゲランガム、アガー、アルギネート、マルトデキストリン、大豆タンパク質、キサンタンガム、ローカストビーンガム、マイクロクリスタリンセルロース、カゼイナート、コンニャク、マンナン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アラビアガム(アラビアガム)、トラガカンス、タラガム、カラヤガム、加工オウケウマ(aucheuma)海草、デキストリン、及び漂白澱粉等を含む。
【0061】
最終製品中の非乳由来の安定剤の総量は、20%を超えてはならない。安定剤に加えて、この低脂肪スプレッド製品は、乳化剤、風味剤、色素、保存料等の他の添加剤をさらに含んでもよい。」
イ 対比・判断
上記アに挙げるように、甲第1a号証及び甲第1b号証には「発酵豆乳入りマーガリン」について、甲第2号証には「低脂肪スプレッド製造において有用な安定剤」についての記載はあるものの、「組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質」に関する記載はない。
してみると、甲第1a号証、甲第1b号証及び甲第2号証それぞれの記載から引用発明を認定したとしても、少なくとも引用発明には「ウシ、ヒツジ、ヤギ、及びバッファローのβ-ラクトグロブリンタンパク質からなる群から選択される野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列に少なくとも90%同一である配列を含む組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質」に関する記載がない点で相違する(以下、「相違点」という。)ことは明らかである。
そして、提出された全ての証拠の記載を見ても、引用発明において「ウシ、ヒツジ、ヤギ、及びバッファローのβ-ラクトグロブリンタンパク質からなる群から選択される野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列に少なくとも90%同一である配列を含む組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質」を含むものとすること、即ち上記相違点を満たすものとする動機付けがあるともいえない。
よって、甲第1a号証、甲第1b号証及び甲第2号証それぞれに記載された発明において、相違点を満たすものとすることは、当業者が容易に相当し得たこととはいえない。
そして、本件特許発明1及び22はいずれも、「ウシ、ヒツジ、ヤギ、及びバッファローのβ-ラクトグロブリンタンパク質からなる群から選択される野生型哺乳動物β-ラクトグロブリンタンパク質のアミノ酸配列に少なくとも90%同一である配列を含む組換えβ-ラクトグロブリンタンパク質」を含むことを発明特定事項として含むものであるから、本件特許発明1及び22はいずれも、甲第1a号証、甲第1b号証及び甲第2号証それぞれの記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件特許発明1の発明特定事項の全てを有しさらに限定するものである本件特許発明2ないし9及び11ないし21、並びに、本件特許発明22の発明特定事項の全てを有しさらに限定するものである本件特許発明23ないし30及び32ないし34においても同様に、甲第1a号証、甲第1b号証及び甲第2号証それぞれの記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立理由4についてのまとめ
上記イのとおりであるから、申立理由4では、本件特許発明1ないし9、11ないし30及び32ないし34に係る特許を取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし9、11ないし30及び32ないし34に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし9、11ないし30及び32ないし34に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項10及び31に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項10及び31に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700847