特許異議申立
2022-700588
濃厚な発酵乳およびその製造方法
- 審判番号
- 2022-700588
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-217295
- 登録番号
- 6989253
- 請求日
- 2022年07月05日
- 審決日
- 2022年10月17日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社明治
- 【権利者代理人】葛和 清司
- 【異議申立人】松本 保
- 審判長/審判官
- 審判長 大島 祥吾
- 審判官 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 平塚 政宏
- 分類
- P1651.121-Y (A23C) / P1651.536-Y (A23C) / P1651.537-Y (A23C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6989253号発明「濃厚な発酵乳およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6989253号の請求項1ないし18に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6989253号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし18に係る特許についての出願は、平成28年11月7日の出願であって、令和3年12月6日にその特許権の設定登録(請求項の数18)がされ、令和4年1月5日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月5日に特許異議申立人 松本 保(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし18に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
限外ろ過(UF)処理で濃縮した液状の濃縮乳を主成分とし、
7.5~20重量%のタンパク質、
0~3.0重量%の脂質、
3~18重量%の乳糖、
1~12重量%のブドウ糖および/またはショ糖
を含む原料乳。
【請求項2】
粉末状の乳タンパク質を含まない、請求項1に記載の原料乳。
【請求項3】
安定化剤を含まない、請求項1または2に記載の原料乳。
【請求項4】
0.15~2重量%の灰分を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の原料乳。
【請求項5】
0.05~0.7重量%のカルシウムを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の原料乳。
【請求項6】
ブドウ糖を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の原料乳。
【請求項7】
ショ糖を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の原料乳。
【請求項8】
75℃・達温、95℃・達温、75℃~95℃・15~60秒間、110℃~150℃・1~5秒間のいずれかの条件で加熱殺菌処理する、請求項1~7のいずれか一項に記載の原料乳。
【請求項9】
主成分の濃縮乳が、濃縮前に、生乳、殺菌処理した乳および/または脱脂乳のpHを5.5~6.5に調整し、0.5時間以上保持する酸性化処理されて調製された濃縮乳である、請求項1~8のいずれか一項に記載の原料乳。
【請求項10】
4.6重量%の乳糖を含むものではない、請求項1~9のいずれか一項に記載の原料乳。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の原料乳を発酵させることを含む、発酵乳の製造方法。
【請求項12】
原料乳を容器に充填し、その後に発酵させる、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の製造方法で製造された発酵乳。
【請求項14】
7.5~20重量%のタンパク質、
0~3.0重量%の脂質、
3~18重量%の乳糖、
1~12重量%のブドウ糖および/またはショ糖
を含む限外ろ過(UF)処理で濃縮した液状の濃縮乳を主成分とする原料乳を発酵させることを含む、発酵乳の食感を滑らかにする方法。
【請求項15】
原料乳が、4.6重量%の乳糖を含むものではない、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
7.5~20重量%のタンパク質、
0~3.0重量%の脂質、
3~18重量%の乳糖、
1~12重量%のブドウ糖および/またはショ糖
0.15~2重量%の灰分
を含む限外ろ過(UF)処理で濃縮した液状の濃縮乳を主成分とする原料乳を発酵させることを含む、発酵乳の食感を滑らかにし、かつ、発酵乳の塩味またはえぐ味を低減、もしくは発酵乳にコク味を付与する方法。
【請求項17】
7.5~20重量%のタンパク質、
0~3.0重量%の脂質、
3~18重量%の乳糖、
1~12重量%のブドウ糖および/またはショ糖
0.05~0.7重量%のカルシウム
を含む限外ろ過(UF)処理で濃縮した液状の濃縮乳を主成分とする原料乳を発酵させることを含む、発酵乳の食感を滑らかにし、かつ、発酵乳の塩味またはえぐ味を低減、もしくは発酵乳にコク味を付与する方法。
【請求項18】
発酵乳がセットタイプヨーグルトである、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年7月5日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし18に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし18に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第3号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし18に係る特許は、下記(1)ないし(4)の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)ブドウ糖を含む原料乳・発酵乳について、実施例に示されたブドウ糖4%を含む発明品1であっても、ヨーグルトのタイプ(ソフトタイプかハードタイプか)の違いで効果が得られない場合がある。ましてや、実施例に示されたブドウ糖4重量%を含む発明品1以外の発酵乳についても無添加や乳糖添加に比べて滑らかな発酵乳が得られるかどうか当業者は理解することができない。
(2)ショ糖を含む原料乳、発酵乳について、実施例に示されたショ糖3%を含む発明品2であっても、ヨーグルトのタイプ(ソフトタイプかハードタイプか)の違いで効果が得られない場合がある。ましてや、実施例に示されたショ糖3%を含む発明品2を用いた発酵乳以外の発酵乳についても無添加や乳糖添加に比べて滑らかな発酵乳が得られるかどうか当業者は理解することができない。
(3)発酵乳の乳酸菌スターターについて、乳酸菌の種類によって、糖の資化性が異なり、発酵乳の滑らかさに関わる多糖の産生も異なることから、ブドウ糖又はショ糖を特定濃度で添加した原料乳に、「明治ブルガリアヨーグルト」から単離された特定乳酸菌で発酵させた場合以外にも糖無添加や乳糖添加の場合に比べて滑らかな発酵乳が得られるかどうか不明である。
したがって、実施例に示されたブドウ糖を4重量%含み「明治ブルガリアヨーグルト」から単離された特定乳酸菌で発酵させた発明品1及びショ糖3重量%を含み「明治ブルガリアヨーグルト」から単離された特定乳酸茜で発酵させた発明品2を用いた発酵乳以外の発酵乳についても糖無添加や乳糖添加に比べて滑らかな発酵乳が得られるかどうか当業者は理解することができない。
(4)高タンパクの濃縮乳を原料乳として用いて発酵乳を製造する場合、苦みや、えぐみを低減する必要があり、本願発明が課題を解決するためには限外ろ過の前に酸性化処理の工程を設けることは必須であり、原料乳の灰分濃度、カルシウム濃度も特定範囲でなければ、十分に満足できる風味や食感の発酵乳が得られないと考えられる。つまり、灰分やカルシウムの濃度、また酸性化処理工程は本件特許の発明が解決しようとする課題を解決するためには必須であるから、これらの濃度及び工程は限定されるべきである。
4 申立理由4(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし18に係る特許は、上記3の(1)ないし(4)の点で、本件特許発明1ないし18の発酵乳を得ようとした場合には過度な試行錯誤が必要であるため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由5(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし10及び13に係る特許は、下記(1)の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許発明1~10は、「原料乳」という「物の発明」であり、本件特許発明13は「発酵乳」という「物の発明」であるが、「限外ろ過(UF)処理で濃縮した」というその物の製造方法が記載されている。すでに審査において明確性違反の拒絶理由が通知され、令和3年6月28日付意見書において不可避・非実際的である旨の主張がされ、当該拒絶理由は解消されている。しかし、ここでプロセスの違いによりもたらされる効果は、発酵乳の官能評価という定性評価のみによって示されている。すなわち、評価について実施例には、専門パネル10名による5段階評価、項目としては図1~8より、発酵乳の滑らかさ、不快臭、甘味、塩味、えぐ味、乳風味、総合が示されているのみである。また、その評価結果も、差が無い項目も多く、定性的な効果の差自体が不明確である。したがって、例えば、本件特許発明1と、以下のような原料乳;
「液状の濃縮乳を主成分とし、
7.5~20重量%のタンパク質、
0~3.0重量%の脂質、
3~18重量%の乳糖、
1~12重量%のブドウ糖および/またはショ糖を含む原料乳。」
とは、侵害の場面において「物」としての違いが見いだせず、かつ、効果の差も評価できないことになるから、無用な争いを生じることになりかねず、「物の発明」として認められるべきではない。また、灰分濃度やカルシウム濃度が苦味やえぐみに影響することがわかっているのであるから、少なくともこれらの含量については限定されるべきである。
6 証拠方法
・甲第1号証:特表2016-533726号公報
・甲第2号証:ヨーグルトの事典、朝倉書店、2016年4月20日初版、 p.368-375
・甲第3号証:Mintel GNPD [online]に掲載された商品情報,0% Greek Vanilla Yogurt,(ID#):4352887、掲載時期2016年10月
・甲第4号証:Mintel GNPD [online]に掲載された商品情報,Greek Yogurt with Peach,(ID#):2717887、掲載時期2014年10月
・甲第5号証:Mintel GNPD [online]に掲載された商品情報,Greek Yogurt with Blackberry,(ID#):3011245、掲載時期2015年2月
・甲第6号証:Mintel GNPD [online]に掲載された商品情報,Coffee & Vanilla Flavoured Yogurt,(ID#):3932525、掲載時期2016年4月
・甲第7号証:Mintel GNPD [online]に掲載された商品情報,Lemon Flavour Yogurt Dessert,(ID#):1906532、掲載時期2012年10月
・甲第8号証:Mintel GNPD [online]に掲載された商品情報,Muesli Wild Berries Yogurt,(ID#):1569945、掲載時期2011年6月
・甲第9号証:Mintel GNPD [online]に掲載された商品情報,Strawberry Yogurt,(ID#):1429874、掲載時期2010年11月
・甲第10号証:糖質の科学、朝倉書店、1996年11月20日初版、p.77
・甲第11号証:明治大学大学院農学研究科 2021年度 博士学位請求論文「ヨーグルトの発酵を担う乳酸菌 Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus と Streptococcus thermophilus の共生メカニズムに関する研究」(要約)
・甲第12号証:応用糖質科学、第5巻、第1号(2015)、p.31-37
証拠の表記は、おおむね特許異議申立書の記載にしたがった。以下、「甲1」等という。
第4 当審の判断
1 主な証拠の記載事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「高タンパクの変性ホエータンパク質組成物、関連製品、製造方法、およびその使用」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
・「【0001】
本発明は、可溶性ホエータンパク質の含有量が少なく、かつタンパク質の含有量が多い新規なタイプの変性ホエータンパク質組成物、およびそれらの製造方法に関する。特に、本発明は、可溶性ホエータンパク質の含有量が少なく、タンパク質の含有量が多く、かつ脂肪の含有量が少ない新規なタイプの変性ホエータンパク質組成物、およびそれらの製造方法に関する。本発明はさらに、高タンパクの変性ホエータンパク質組成物を含む製品、特に、高タンパクの酸性乳製品、およびそれらの付加的使用に関する。」
・「【0411】
実施例6:高タンパク飲料ヨーグルトの製造
高タンパク、カゼイン含有飲料ヨーグルトを以下の材料により製造した。
[図:0001390599000001.jpg]
[図:0001390599000002.jpg]
【0412】
方法
粉末を液体材料と混合し、1時間、5℃で水和させた。その後、得られた懸濁液を65℃の予備加熱し、2ステップ(最初に200barで、その後50barで)で均質化した。殺菌後、懸濁液を90℃で5分間殺菌し、冷却し、0.02%乳酸スターター培養物(YC-183、Chr.Hansen製)とともにインキュベート、pHが4.5に達するまで42℃でインキュベートした。インキュベートした生成物を、背圧を用いて9barで滑らかにし、イチゴ果実組成物と混合し、最後に冷却し、5℃で保存した。
【0413】
評価
高タンパク飲料ヨーグルトの感応評価を行い、僅かに7%(w/w)のタンパク質を含み、同量の低グレードの変性ホエータンパク質粉末(45%w/wタンパク質)を含む撹拌型ヨーグルト製品と比較した。
【0414】
この高タンパク飲料ヨーグルトは、低いグレードのホエータンパク質粉末を含むヨーグルトよりも、タンパク質含有量が多いにもかかわらず、乾燥度が低く、かつより乳様の味がする、容易に飲用できる生成物であることがわかった。乾燥度がより低く、異味が少ないという観察は、高タンパク撹拌型ヨーグルトに関する先の実施例においてなされた観察と同じである。
【0415】
この高タンパク飲料ヨーグルトの粘度は、僅かに50cPと測定され、それは、驚いたことに、10%(w/w)の総タンパク質を含む高タンパク飲料ヨーグルトとしては低く、口当たりの良さと低い乾燥度を有する。」
イ 甲1に記載された発明
甲1には、実施例6として記載されている高タンパク飲料ヨーグルトについて整理すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「タンパク質10%(w/w)、脂肪1.79%(w/w)、炭水化物9.39%(w/w)を成分として含み、かつ、スクロース5.00%(w/w)、脱脂粉乳83.26%(w/w)を含む材料を用い、粉末を液体材料と混合し、1時間、5℃で水和させ、その後、得られた懸濁液を65℃の予備加熱し、2ステップ(最初に200barで、その後50barで)で均質化し、90℃で5分間殺菌し、冷却し、得られた懸濁液。」(以下、「甲1発明」という。)
「タンパク質10%(w/w)、脂肪1.79%(w/w)、炭水化物9.39%(w/w)を成分として含み、かつ、スクロース5.00%(w/w)、脱脂粉乳83.26%(w/w)を含む材料を用い、粉末を液体材料と混合し、1時間、5℃で水和させ、その後、得られた懸濁液を65℃の予備加熱し、2ステップ(最初に200barで、その後50barで)で均質化し、90℃で5分間殺菌し、冷却し、0.02%乳酸スターター培養物(YC-183、Chr.Hansen製)とともにインキュベートし、pHが4.5に達するまで42℃でインキュベートした生成物を、背圧を用いて9barで滑らかにし、イチゴ果実組成物と混合し、最後に冷却し、5℃で保存して、得られる高タンパク飲料ヨーグルトの製造方法。」(以下、「甲1方法発明」という。)
(2)甲2に記載された事項
甲2には、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
「d. 濃縮ヨーグルトの規格
濃縮ヨーグルトの規格は,世界で用いられているコーデックス規格の発酵乳規格に規定されている.コーデックス規格中の濃縮ヨーグルトの記載を以下に抜粋する.
「濃縮発酵乳・・・濃縮発酵乳は,発酵の前又は後に,タンパク質を5.6%以上に増加させた発酵乳をいう.濃縮発酵乳には,Stragisto, Labneh, Ymer及びYletteの類の伝統的な製品が含まれる.」
一方,日本では,濃縮ヨーグルトの規格は規定されておらず,発酵乳の規格が適用される.
e. 濃縮ヨーグルトの製造方法
濃縮ヨーグルトの製造方法は大きく2つに分けることができる.1つは,伝統的な製法に近い発酵後に濃縮を行う製法である.この製法は,伝統的な動物の皮,布袋などを用いてホエイ除去を行う製法,メカニカルセパレーターを用いる製法,膜分離を行う製法が主である.もう1つは,粘度を高めるためにタンパク質や安定剤を加えた処方で発酵を行う製法である.この製法では,おもに濃縮されたタンパク質濃縮原料,濃縮乳などを用いて行われる.」(369ページ右欄下から3行~370ページ左欄18行)
「(4) タンパク質・安定剤添加製法
この製法は,ヨーグルトの原料混合溶解時に固形分を高くした処方で製造するか,安定剤を利用することで高粘度の濃縮ヨーグルトを製造する製法である.発酵後の濃縮工程を必要としないため,一般的な攪拌型のヨーグルトと同じ製法となる.処方は,使用原料により3パターンに分けることができる.製造工程を図6.31に示した.
パターン1は,濃縮乳を使用する製法である.これは,UF膜を用いて濃縮した濃縮脱脂乳や濃縮乳を用いて,タンパク質濃度が無脂肪であれば8%程度,脂肪を5~10%含む場合には,タンパク質濃度を6%程度に調整し,発酵させる.この方法で,伝統的な製法と同程度の粘度のヨーグルトを得ることができる.
パターン2は,脱脂乳に脱脂粉乳や,乳タンパク質濃縮物を加える方法で,パターン1と同等のタンパク質濃度で高濃度の濃縮ヨーグルトが得られる.
パターン3は,タンパク質を5.6%以上に調整し,粘度を高めるためにゼラチンや加工デンプン,増粘安定剤などを用いる方法である.
タンパク質・安定剤添加製法を用いた場合,発酵冷却後20℃前後で充填し,充填後さらに冷却することで,より高い粘度が得られる.
この製法のメリットは,濃縮ヨーグルト専用の分離機を必要としないため,設備導入の費用を抑えることができる点である.また,発酵後に濃縮を行う製法で発生するホエイが, タンパク質・安定剤添加製法では発生しない点もメリットである.」(372ページ右欄下から4行~373ページ左欄25行)
(3)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「0% Greek Vanilla Yogurt」の商品説明に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、日本語訳及び下線は当審で付したものである。
「商品説明
Irresistibles The Greek 0% Greek Vanilla Yogurt is a naturally flavoured, thick and creamy Greek style yogurt with 0% milk fat. It contains 15g of protein per 175g serving, is made with vitamin A and vitamin D fortified skim milk, and retails in a 650g pack.」
(魅力的なギリシャの0%ギリシャバニラヨーグルトは、乳脂肪率0%の自然な風味の濃厚でクリーミーなギリシャ風ヨーグルトです。175gあたり15gのタンパク質を含み、ビタミンAとビタミンDで強化された脱脂粉乳で作られ、650gパックで販売されています。)
「成分(パッケージ表示): ultrafiltered milk, sugar, skim milk,・・・(略)・・・」
(UF膜でろ過されたミルク、砂糖、脱脂粉乳、・・・(略)・・・)
「栄養表示: Per 175g: ・・・(略)・・・, Fat 0g ・・・(略)・・・, Carbohydrate 24g (8% DV) (of which Fibres 0g (0% DV), Sugars 23g), Protein 15g, ・・・(略)・・・」
(175gあたり:・・・(略)・・・、脂肪0g・・・(略)・・・、炭水化物24g(8%DV)(そのうち繊維0g(0%DV)、糖質23g)、タンパク質15g、・・・(略)・・・)
イ 甲3に記載された発明
甲3には、「0% Greek Vanilla Yogurt」の成分について整理すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「UF膜でろ過されたミルク。」(以下、「甲3発明」という。)
(4)甲11に記載された事項
甲11には、おおむね次の事項が記載されている。
「予め脱脂粉乳中のラクトースをグルコースとガラクトースに分解した培地でLB2038とST1131を共生発酵した結果、グルコース資化下ではラクトース資化下に比べ発酵終了時のLB2038の菌数が大幅に増加することが明らかとなり、資化する糖によって共生関係が変化することが認められた。また、発酵物の粘度や多糖濃度も高まることを確認した。」(3ページ17~20行)
(5)甲12に記載された事項
甲12には、おおむね次の事項が記載されている。
「一方,食品の風味やテクスチャーに影響を与える代謝産物として,細胞外多糖 (exopolysaccharide,EPS)が挙げられる。例えば,発酵過程で分泌された粘性EPSは,食品成分や食品中に存在する微生物と相互作用し,発酵食品に粘性を賦与することで,口当たりを良くする。」(31ページ左欄19~24行)
2 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「脂肪」及び「スクロース」は、それぞれ、本件特許発明1の「脂質」及び「ショ糖」に相当する。
甲1発明の「懸濁液」は、乳酸スターター培養物でインキュベートされる前の乳であることから、本件特許発明1の「原料乳」に相当する。
甲1発明の「懸濁液」は、脱脂粉乳83.26%(w/w)を含む材料を用いて得られていることから、本件特許発明1の「乳を主成分とし」に相当する。
甲1発明の「タンパク質10%(w/w)」、「脂肪1.79%(w/w)」、及び「スクロース5.00%(w/w)」は、本件特許発明1の「7.5~20重量%のタンパク質」、「0~3.0重量%の脂質」、及び「1~12重量%のブドウ糖および/またはショ糖」に相当する。
さらに、甲1発明には、成分として、炭水化物を9.39%(w/w)含有しているが、ヨーグルトの分野において、通常、炭水化物として乳糖を含むことは明らかであるから、本件特許発明1の「乳糖」を含むものであるといえる。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「乳を主成分とし、
7.5~20重量%のタンパク質、
0~3.0重量%の脂質、
乳糖、
1~12重量%のブドウ糖および/またはショ糖
を含む原料乳。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明1は、主成分が、「限外ろ過(UF)処理で濃縮した液状の濃縮乳」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1は、「3~18重量%の乳糖」と特定されているのに対し、甲1発明は、乳糖の含有量についての特定がない点。
イ 判断
そこで、相違点1-1について検討する。
甲1には、本件特許発明1の「原料乳」に相当する「懸濁液」を、「粉末と液体材料と混合」することについての記載はあるが、「限外ろ過(UF)処理で濃縮」することについての記載はない。
一方、甲2には、濃縮ヨーグルトの製造方法において、UF膜を用いて濃縮した濃縮脱脂乳や濃縮乳を用いることが記載されている。
しかしながら、甲1には、上記「懸濁液」を、「粉末と液体材料と混合」する方法以外の方法で適用することについての記載はないことから、当該方法以外の方法を適用する動機付けはない。
したがって、甲1発明において、甲2に記載された事項を適用して、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「低脂肪・無脂肪、高タンパク質でありながら、滑らかな食感を有する濃厚な発酵乳を合理的に製造する」(本件特許の発明の詳細な説明の【0006】)という効果は、甲1発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、「甲1発明において、高タンパク質、低脂肪の濃縮ヨーグルトを製造するに際し、原料乳を甲第2号証の記載(記載事項イー1~イー4)に従い、パターン2の脱脂乳等にタンパク質濃縮物を加えたもの(甲1発明の場合)をパターン1のUF膜濃縮乳(本件特許発明の場合)に置き換えて製造することは当業者にとって容易に想到できることである。」(特許異議申立書31ページ2~6行)と主張する。
しかしながら、甲1の技術分野は、「可溶性ホエータンパク質の含有量が少なく、タンパク質の含有量が多く、かつ脂肪の含有量が少ない新規なタイプの変性ホエータンパク質組成物」(【0001】)であり、当該組成物を提供することが課題であるところ、甲1発明(実施例6)は、上記課題を解決するための必須成分である「実施例2の変性ホエータンパク質粉末」を含む材料を用いており、パターン2の脱脂乳等にタンパク質濃縮物を加えたものをパターン1のUF膜濃縮乳(本件特許発明の場合)に置き換えることは、上記「実施例2の変性ホエータンパク質粉末」を置き換えることになり、むしろ阻害要因があるといえる。よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし10について
本件特許発明2ないし10は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(1)ア及びイで検討したとおり、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明2ないし10も、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件特許発明11ないし13について
本件特許発明11及び12は「発酵乳の製造方法」、並びに本件特許発明13は「発酵乳」に関するものであるが、請求項1を直接又は間接的に引用して特定する発明であり、本件特許発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(1)ア及びイで検討したとおり、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明11ないし13も、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件特許発明14について
ア 対比
本件特許発明14と甲1方法発明を対比すると、上記(1)アと同様の相当関係が成り立つ。
また、甲1方法発明の「インキュベート」及び「高タンパク飲料ヨーグルト」は、それぞれ、本件特許発明14の「発酵」及び「発酵乳」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「7.5~20重量%のタンパク質、
0~3.0重量%の脂質、
乳糖、
1~12重量%のブドウ糖および/またはショ糖
を含む乳を主成分とする原料乳を発酵させることを含む、方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-3>
本件特許発明14は、主成分が、「限外ろ過(UF)処理で濃縮した液状の濃縮乳」と特定されているのに対し、甲1方法発明は、そのような特定がない点。
<相違点1-4>
本件特許発明14は、「3~18重量%の乳糖」と特定されているのに対し、甲1方法発明は、乳糖の含有量についての特定がない点。
<相違点1-5>
本件特許発明14は、「発酵乳の食感を滑らかにする方法」と特定されているのに対し、甲1方法発明は、そのような特定がない点。
イ 判断
そこで、事案に鑑み、相違点1-5について検討する。
甲1には、「発酵乳の食感を滑らかにする方法」に関する記載はないし、甲2及びその他の提出された証拠にも、「発酵乳の食感を滑らかにする方法」に関する記載はない。
すなわち、甲1及びその他の提出された証拠のいずれにも、甲1方法発明において、相違点1-5に係る本件特許発明14の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1方法発明において、相違点1-5に係る本件特許発明14の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明14は、甲1方法発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明15及び18について
本件特許発明15及び18は、請求項14を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明14の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(4)ア及びイで検討したとおり、本件特許発明14は、甲1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明14の特定事項を全て含む発明である本件特許発明15及び18も、甲1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件特許発明16について
ア 対比
本件特許発明16と甲1方法発明を対比すると、上記(1)ア及び上記(4)アと同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「7.5~20重量%のタンパク質、
0~3.0重量%の脂質、
乳糖、
1~12重量%のブドウ糖および/またはショ糖
を含む乳を主成分とする原料乳を発酵させることを含む、方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-6>
本件特許発明16は、主成分が、「限外ろ過(UF)処理で濃縮した液状の濃縮乳」と特定されているのに対し、甲1方法発明は、そのような特定がない点。
<相違点1-7>
本件特許発明16は、「3~18重量%の乳糖」と特定されているのに対し、甲1方法発明は、乳糖の含有量についての特定がない点。
<相違点1-8>
本件特許発明16は、「0.15~2重量%の配分」と特定されているのに対し、甲1方法発明は、そのような特定がない点。
<相違点1-9>
本件特許発明16は、「発酵乳の食感を滑らかにし、かつ、発酵乳の塩味またはえぐ味を低減、もしくは発酵乳にコク味を付与する方法」と特定されているのに対し、甲1方法発明は、そのような特定がない点。
イ 判断
そこで、事案に鑑み、相違点1-9について検討する。
甲1には、「発酵乳の食感を滑らかにし、かつ、発酵乳の塩味またはえぐ味を低減、もしくは発酵乳にコク味を付与する方法」に関する記載はないし、甲2及びその他の提出された証拠にも、「発酵乳の食感を滑らかにし、かつ、発酵乳の塩味またはえぐ味を低減、もしくは発酵乳にコク味を付与する方法」に関する記載はない。
すなわち、甲1及びその他の提出された証拠のいずれにも、甲1方法発明において、相違点1-9に係る本件特許発明16の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1方法発明において、相違点1-9に係る本件特許発明16の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明16は、甲1方法発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)本件特許発明17について
ア 対比
本件特許発明17と甲1方法発明を対比すると、上記(1)ア及び上記(4)アと同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「7.5~20重量%のタンパク質、
0~3.0重量%の脂質、
乳糖、
1~12重量%のブドウ糖および/またはショ糖
を含む乳を主成分とする原料乳を発酵させることを含む、方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-10>
本件特許発明17は、主成分が、「限外ろ過(UF)処理で濃縮した液状の濃縮乳」と特定されているのに対し、甲1方法発明は、そのような特定がない点。
<相違点1-11>
本件特許発明17は、「3~18重量%の乳糖」と特定されているのに対し、甲1方法発明は、乳糖の含有量についての特定がない点。
<相違点1-12>
本件特許発明17は、「0.05~0.7重量%のカルシウム」と特定されているのに対し、甲1方法発明は、そのような特定がない点。
<相違点1-13>
本件特許発明17は、「発酵乳の食感を滑らかにし、かつ、発酵乳の塩味またはえぐ味を低減、もしくは発酵乳にコク味を付与する方法」と特定されているのに対し、甲1方法発明は、そのような特定がない点。
イ 判断
そこで、事案に鑑み、相違点1-13について検討する。
甲1には、「発酵乳の食感を滑らかにし、かつ、発酵乳の塩味またはえぐ味を低減、もしくは発酵乳にコク味を付与する方法」に関する記載はないし、甲2及びその他の提出された証拠にも、「発酵乳の食感を滑らかにし、かつ、発酵乳の塩味またはえぐ味を低減、もしくは発酵乳にコク味を付与する方法」に関する記載はない。
すなわち、甲1及びその他の提出された証拠のいずれにも、甲1方法発明において、相違点1-13に係る本件特許発明17の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1方法発明において、相違点1-13に係る本件特許発明17の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明17は、甲1方法発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(8)申立理由1についてのむすび
したがって、申立理由1によっては、本件特許の請求項1ないし18に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由2(甲第3号証に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明の「UF膜でろ過された」は、本件特許発明1の「限外ろ過(UF)で濃縮した」に相当する。
甲3発明の「ミルク」は、本件特許発明1の「濃縮乳を主成分と」する「原料乳」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「限外ろ過(UF)処理で濃縮した液状の濃縮乳を主成分と」する「原料乳。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3-1>
原料乳に関して、本件特許発明1は、「7.5~20重量%のタンパク質、0~3.0重量%の脂質、3~18重量%の乳糖、1~12重量%のブドウ糖および/またはショ糖を含む」と特定されているのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。
イ 判断
そこで、相違点3-1について検討する。
甲3には、UF膜でろ過されたミルクが、「7.5~20重量%のタンパク質、0~3.0重量%の脂質、3~18重量%の乳糖、1~12重量%のブドウ糖および/またはショ糖を含む」ことについての記載はないし、その他の提出された証拠にもそのような記載はない。
すなわち、甲3及びその他の提出された証拠のいずれにも、甲3発明において、相違点3-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
そして、本件特許発明1の奏する「低脂肪・無脂肪、高タンパク質でありながら、滑らかな食感を有する濃厚な発酵乳を合理的に製造する」(本件特許の発明の詳細な説明の【0006】)という効果は、甲3発明並びに甲3及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲3発明並びに甲3及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし10について
本件特許発明2ないし10は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(1)ア及びイで検討したとおり、本件特許発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明2ないし10も、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件特許発明11ないし13について
本件特許発明11及び12は「発酵乳の製造方法」、並びに本件特許発明13は「発酵乳」に関するものであるが、請求項1を直接又は間接的に引用して特定する発明であり、本件特許発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(1)ア及びイで検討したとおり、本件特許発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明11ないし13も、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立理由2についてのむすび
したがって、申立理由2によっては、本件特許の請求項1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明にはおおむね次の記載がある。
・「【0001】
本発明は、濃厚な発酵乳、特に低脂肪または無脂肪であるにもかかわらず、滑らかな食感を有する濃厚な発酵乳、およびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵乳は広く一般的に食される健康食品であり、需要者の嗜好の多様化に伴い、多様な発酵乳の需要が存在する。近年、濃厚な発酵乳への需要が高く、原料乳への増粘剤などの添加により、発酵乳に粘性を付与する方法(特許文献1)や、遠心分離法、水切り法などにより、通常の濃度の発酵乳から水分などを除去して、発酵乳を濃縮する方法(特許文献2)が知られている。
【0003】
一方、濃厚な味わいを付与した発酵乳を製造する方法として、ナノろ過処理によって濃縮した所定の成分のMPCを含む原料乳を用いて発酵させる方法が開示されている(特許文献3)。
・・・(略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、原料乳に増粘剤などを添加する方法では、発酵乳の風味を損なう恐れがあり、また、増粘剤などの添加物を含まない食品への需要が高まっており、必ずしも好ましいとは言えない。また、遠心分離法、水切り法などにより、発酵乳を濃縮する方法では、ホエイが排出されるため、その処理が課題となる。また、ナノろ過処理により、発酵乳を濃縮する方法では、風味・食感に優れた無脂肪・低脂肪の発酵乳を提供するものではない。したがって、低脂肪または無脂肪であって、濃厚な風味・食感の発酵乳を効率的に製造する十分な方法は見出されていないと言える。
【0006】
本発明は、低脂肪・無脂肪、高タンパク質でありながら、滑らかな食感を有する濃厚な発酵乳を合理的に製造することを課題とし、かかる発酵乳では従来、パサつきの問題があり、十分に満足できる風味や食感が得られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意研究を重ねる中で、低脂肪、高タンパク質の原料乳に、ブドウ糖および/またはショ糖を含有せしめることで、滑らかな食感を有する発酵乳が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。」
・「【0011】
本発明において「発酵乳」とは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)で定義される「発酵乳」を包含する。例えば、本発明において、発酵乳は、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳および加工乳などの乳または、これと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌または酵母で発酵させ、糊状または液状にしたもの、または、これらを凍結したものをいう。これらは多様なヨーグルトを包含し、例えば、セットタイプヨーグルト(ハードヨーグルト)、ソフトヨーグルト、ドリンクヨーグルト、フローズンヨーグルトである。」
・「【0014】
本発明において「原料乳」とは、発酵乳の原料の混合物であって、所定の構成比となるように、一般的な原料を適宜使用して調製することができる。本発明において、原料乳とは、殺菌前のものでも、殺菌後のものでもよい。本発明において、原料乳には、具体的な原料(素材)として、例えば、生乳(全脂乳)、全脂濃縮乳、全脂粉乳、殺菌処理した乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、乳タンパク質濃縮物(MPC、TMP)、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質単離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、バター、クリーム、水、乳糖、香味成分、香料、色素、ミネラル(塩類)、ビタミン、甘味料、安定化剤、および、その他の食品用の添加物などを含んでもよい。本発明の一態様において、原料乳には、乳由来の原料のみを主成分として含み、ブドウ糖および/またはショ糖をさらに含み、必要に応じて、水を含む。本発明の一態様において、原料乳は、乳タンパク質濃縮物、ブドウ糖および/またはショ糖を主成分として含み、必要に応じて、水を含む。本発明の一態様において、風味や食感が自然な発酵乳を製造する観点から、原料乳は、安定化剤、添加物を含まない。
【0015】
本発明の一態様において、原料乳には、乳タンパク質の原料として、例えば、脱脂粉乳、MPC、WPC、WPI、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンなどを使用することで、高タンパク質の原料乳を調製することができる。本発明の一態様において、原料乳には、これらの原料を主成分として使用することで、低脂肪・無脂肪の原料乳を調製することができる。本発明の一態様において、原料乳には、非加熱的な方法で、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などを濃縮して、高タンパク質の液状の濃縮乳を調製し、この濃縮乳を主成分として使用することで、高タンパク質の原料乳を調製することができる。非加熱的な方法で、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などを濃縮することで、加熱臭などの問題を抑制することができる。非加熱的な方法は、具体的には、膜分離処理を使用することができ、高タンパク質の濃縮乳を効率的に調製できる観点から、限外ろ過(UF)処理を使用することが好ましい。本発明の一態様において、原料乳には、非加熱的な方法で、低脂肪乳、脱脂乳などを濃縮して、低脂肪・無脂肪の液状の濃縮乳を調製し、この濃縮乳を主成分として使用することで、低脂肪・無脂肪の原料乳を調製することができる。」
・「【0016】
本発明において「タンパク質」とは、あらゆるタンパク質を意味し、植物性タンパク質であっても、動物性タンパク質であってもよいが、好ましくは、動物性タンパク質であり、より好ましくは、乳タンパク質である。
・・・(略)・・・
【0017】
本発明の一態様において、濃厚な風味を有する発酵乳を提供する観点から、原料乳におけるタンパク質の濃度は、7.5重量%以上、好ましくは8重量%以上、より好ましくは8.5重量%以上、さらに好ましくは9重量%以上、さらに好ましくは9.5重量%以上である。本発明の一態様において、商業的に許容可能な発酵時間で制御(管理)する観点から、原料乳におけるタンパク質の濃度は、20重量%以下、好ましくは18重量%以下、より好ましくは16重量%以下、さらに好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは14重量%以下である。本発明の一態様において、滑らかな食感を有する発酵乳を提供する観点から、原料乳におけるタンパク質の濃度は、16重量%以下、好ましくは15重量%以下、より好ましくは14重量%以下であり、さらに好ましくは13重量%以下、さらに好ましくは12重量%である。・・・(略)・・・
【0018】
本発明の一態様において、濃厚な風味と滑らかな食感を有する発酵乳を提供する観点から、原料乳におけるタンパク質の濃度は、7.5~16重量%、好ましくは8~15重量%、より好ましくは8.5~14重量%、さらに好ましくは9~13重量%、さらに好ましくは9.5~12重量%である。本発明の一態様において、十分な強度の固形状の発酵乳を提供する観点から、原料乳における無脂乳固形分に対するタンパク質の割合は、60~80重量%、より好ましくは60~75重量%、さらに好ましくは65~75重量%、さらに好ましくは65~70重量%である。
【0019】
本発明において「脂質」とは、あらゆる脂質を意味し、植物性脂肪であっても、動物性脂肪であってもよいが、好ましくは、動物性脂肪であり、より好ましくは、乳脂肪である。本発明の一態様において、原料乳における脂質の濃度は、好ましくは低く、より好ましくは実質的に0(無)である。本発明の一態様において、健康志向の発酵乳を提供する観点から、原料乳における脂質の濃度は、3重量%以下(すなわち、0~3重量%)、好ましくは2重量%以下(すなわち、0~2重量%)、より好ましくは1重量%以下(すなわち、0~1重量%)、さらに好ましくは実質的に0重量%である(脂質の濃度の分析値が0.5重量%以下であり、原料乳に脂質を配合しない)。本発明の一態様において、原料乳における脂肪の濃度を前記の数値に設定することで、低脂肪・無脂肪の発酵乳を提供することができる。
【0020】
本発明において「乳糖」とは、あらゆる形態の乳糖を意味し、原料乳を構成する生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳、乳タンパク質濃縮物などの乳原料などに含まれる乳糖、および精製された乳糖の両方を含む。したがって、本発明において、原料乳における乳糖の濃度は、原料乳を構成する乳原料などに含まれる乳糖、および原料乳に配合(添加)される乳糖の両方を含む場合には、それらの合計の濃度を意味する。
【0021】
本発明の一態様において、商業的に許容可能な発酵時間で制御する観点から、原料乳における乳糖の濃度は、3重量%以上、好ましくは3.2重量%以上、より好ましくは3.4重量%以上、さらに好ましくは3.6重量%以上、さらに好ましくは3.8重量%以上である。本発明の一態様において、商業的に許容可能な発酵時間で制御する観点から、原料乳における乳糖の濃度は、18重量%以下、好ましくは16重量%以下、より好ましくは14重量%以下、さらに好ましくは12重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは8重量%以下、さらに好ましくは6重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは4.8重量%以下である。
【0022】
本発明において「ブドウ糖」および/または「ショ糖」とは、あらゆる形態のブドウ糖および/またはショ糖を意味し、コーンシロップ、ハチミツ、メイプルシロップ、メイプルシュガーなどの甘味料などに含まれるブドウ糖および/またはショ糖、ならびに精製されたブドウ糖および/またはショ糖の両方を含む。
【0023】
本発明の一態様において、滑らかな食感を有する発酵乳を提供する観点から、原料乳におけるブドウ糖および/またはショ糖の配合濃度は、1重量%以上、好ましくは1.5重量%以上、より好ましくは2重量%以上、さらに好ましくは2.5重量%以上、さらに好ましくは3重量%以上である。本発明の一態様において、商業的に許容可能な発酵時間で制御する観点および適度な酸味・甘味を有する発酵乳を提供する観点から、原料乳におけるブドウ糖および/またはショ糖の配合濃度は、12重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは8重量%以下、さらに好ましくは6重量%以下、さらに好ましくは4重量%以下である。
【0024】
本発明において「灰分」とは、乳由来の塩類および試薬の塩類などを意味し、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン、塩素などを主成分として含む。本発明の一態様において、発酵乳の過剰な塩味や、えぐ味を低減する観点から、原料乳における灰分の濃度は、適切な範囲に調整(低減)され、特に、カルシウムの濃度は、適切な範囲に調整される。したがって、本発明の一態様において、発酵乳の過剰な塩味や、えぐ味を低減する観点、および発酵乳の適度なコク味を付与する観点から、原料乳における灰分の濃度は、0.15~2重量%、好ましくは0.2~1.8重量%、より好ましくは0.25~1.6重量%、さらに好ましくは0.3~1.4重量%である。本発明の一態様において、発酵乳の過剰な塩味や、えぐ味を低減する観点、および発酵乳の適度なコク味を付与する観点から、原料乳におけるカルシウムの濃度は、0.05~0.7重量%、好ましくは0.05~0.6重量%、より好ましくは0.1~0.5重量%。さらに好ましくは0.1~0.4重量%である。」
・「【0025】
本発明の一態様において、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などを濃縮する前に、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などを酸性化処理し、MPCから苦味の原因のカルシウム(Ca)を効率的に低減する(除去する)工程を含む。すなわち、本発明では、MPCからCaを低減するため、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などを濃縮する前に、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などのCaを可溶化させる酸性化処理を含むことができる。かかる酸性化処理は、Caを効率的に可溶化する観点および乳タンパク質を安定化する観点から、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などのpHを、例えば5.5~6.5、好ましくは5.5~6.2、より好ましくは5.5~6.0、さらに好ましくは5.5~5.8に調整し、例えば0.5時間以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは1.5時間以上、さらに好ましくは2時間以上で保持する。かかる酸性化処理は、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などのpHを調整できれば、とくに限定されないが、例えば、塩酸、リン酸、クエン酸などを原料乳に添加する。
【0026】
本発明の一態様において、高タンパク質の液状の濃縮乳に水を添加して、限外ろ過処理し、高タンパク質の液状の濃縮乳から灰分および乳糖を効率的に低減する工程を含む。すなわち、本発明では、高タンパク質の液状の濃縮乳から灰分および乳糖を低減するため、高タンパク質の液状の濃縮乳に加水する限外ろ過処理である透析ろ過(DF)処理を含むことができる。かかる透析ろ過処理は、高タンパク質の液状の濃縮乳から灰分および乳糖を効率的に低減(除去)できる観点およびタンパク質を効率的に濃縮できる観点から、複数回であってもよい。
【0027】
本発明において、食品に通常で用いられる乳酸菌を原料乳に添加(配合)して、原料乳を発酵させることができる。本発明において、食品に通常で用いられる乳酸菌は、好ましくは、ブルガリア菌(Lactobacillus bulgaricus)、サーモフィラス菌(Streptococcus thermophiles)、ガセリ菌(Lactobacillus gasseri)からなる群から選択される1または2以上の乳酸菌、より好ましくは、ブルガリア菌およびサーモフィラス菌の組み合わせである。すなわち、本発明において、コーデックス規格でヨーグルトスターターとして規格化されているブルガリア菌およびサーモフィラス菌の混合スターターを好適に用いることができる。本発明において、この混合スターター(ヨーグルトスターター)を用いて、発酵条件(発酵温度、発酵時間など)を勘案した上で、さらに、食品に通常で用いられるビフィズス菌、プロピオン酸菌、酵母などの有用な微生物を原料乳に添加してもよい。 また、本発明において、食品に通常で用いられるビフィズス菌、プロピオン酸菌、酵母などの有用な微生物を原料乳に添加してもよい。
【0028】
本発明において、原料乳の発酵では、通常の発酵乳の製造と同様の条件を設定することができる。本発明において、原料乳の発酵温度を適宜設定すればよく、好ましくは30~45℃、より好ましくは35~44℃、さらに好ましくは37~43℃に設定することができる。本発明において、原料乳の発酵時間を適宜設定すればよく、好ましくは1~36時間、より好ましくは2~24時間、さらに好ましくは3~12時間、さらに好ましくは4~8時間に設定することができる。
【0029】
本発明において、原料乳の加熱殺菌処理では、通常の発酵乳の製造と同様の条件を設定することができる。本発明において、原料乳の加熱殺菌温度と加熱殺菌時間の組合せを適宜設定すればよく、例えば、規格化または汎用されている加熱殺菌条件として、75℃・達温、95℃・達温、75℃~95℃・15~60秒間、110℃~150℃・1~5秒間に設定することができる。本発明の一態様において、滑らかな食感を有する発酵乳を製造する観点から、調合乳の加熱殺菌温度と加熱殺菌時間の組合せを、好ましくは110℃~130℃・2~4秒間に設定することができる。」
・「【0030】
以下に、本発明に係る方法を実施例に基づき、さらに詳しく説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0031】
[実施例1]
(a1)液状のMPCの調製
生乳(原料乳)を遠心分離処理(50℃)して、脱脂乳を調製し、この脱脂乳を冷却(5℃)した後に、リン酸を用いて、この脱脂乳のpHを5.7に調整して2時間で保持(酸性化処理)してから、限外ろ過(UF)処理(スパイラル型膜、Koch社 HpHT 3838-K131-NYV、分画分子量:10,000Da、膜面積:6.1m2×並列2本)し、濃縮倍率で4倍に濃縮して、濃縮液を調製した。そして、この濃縮液のpHを6.7に中和して調整し、液状のミルクタンパク質濃縮物(MPC)を調製した。この液状のMPCでは、全固形分の濃度が19.9重量%、タンパク質の濃度が12.9重量%、脂質の濃度が0.5重量%、灰分の濃度が1.3重量%、乳糖の濃度が5.2重量%であった。なお、乳タンパク質におけるカゼインとホエイタンパク質の重量比は、8:2程度であった。
【0032】
(b1)ブドウ糖を配合した高タンパク質の発酵乳(ハードタイプ、ソフトタイプ)の製造
発明品1として、(a1)で調製した液状のMPCに水を添加し、全固形分の濃度が15重量%、タンパク質の濃度が9重量%となるように調整し、これにブドウ糖を4重量%で配合して、原料乳を調製した。そして、プレート式熱交換機(Power point International 社)を用いて、この原料乳を130℃、2秒間で連続式に加熱した後に、この原料乳を冷却(43℃)し、乳酸菌スターター(明治ブルガリアヨーグルトから分離した)を2重量%で添加してから、pHが4.6になるように発酵(43℃、340分間)させて、ハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳を製造した。このとき、ソフトタイプの発酵乳は、ハードタイプの発酵乳をスリーワンモーターで攪拌してから、フィルター(孔径:250μm)を通過させて製造した。
【0033】
[実施例2]
(a2)液状のMPCの調製
実施例1の(a1)と同様にして、液状のMPCを調製した。
【0034】
(b2)ショ糖を配合した高タンパク質の発酵乳(ハードタイプ、ソフトタイプ)の製造
発明品2として、(a1)で調製した液状のMPCに水を添加し、全固形分の濃度が15重量%、タンパク質の濃度が9重量%となるように調整し、これにショ糖を3重量%で配合して、原料乳を調製した。そして、プレート式熱交換機(Power point International 社)を用いて、この原料乳を130℃、2秒間で連続式に加熱した後に、この原料乳を冷却(43℃)し、乳酸菌スターター(明治ブルガリアヨーグルトから分離した)を2重量%で添加してから、pHが4.6になるように発酵(43℃、340分間)させて、ハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳を製造した。このとき、ソフトタイプの発酵乳は、ハードタイプの発酵乳をスリーワンモーターで攪拌してから、フィルター(孔径:250μm)を通過させて製造した。
【0035】
[比較例1]
(a3)液状のMPCの調製
実施例1の(a1)と同様にして、液状のMPCを調製した。
【0036】
(b3)糖無添加の高タンパク質の発酵乳(ハードタイプ、ソフトタイプ)の製造
対照(比較対照)品1として、(a1)で調製した液状のMPCに水を添加し、全固形分の濃度が15重量%、タンパク質の濃度が9重量%となるように調整し、調合乳を調製した。そして、プレート式熱交換器を用いて、この調合乳を130℃、2秒間で連続式に加熱した後に、この調合乳を冷却(43℃)し、乳酸菌スターター(明治ブルガリアヨーグルトから分離した)を2重量%で添加してから、pHが4.6になるように発酵(43℃、340分間)させて、対照品のハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳を製造した。このとき、ソフトタイプの発酵乳は、ハードタイプの発酵乳をスリーワンモーターで攪拌してから、フィルター(孔径:250μm)を通過させて製造した。
【0037】
[比較例2]
(a4)液状のMPCの調製
実施例1の(a1)と同様にして、液状のMPCを調製した。
【0038】
(b4)乳糖を配合した高タンパク質の発酵乳(ハードタイプ、ソフトタイプ)の製造
発明品として、(a1)で調製した液状のMPCに水を添加し、全固形分の濃度が15重量%、タンパク質の濃度が9重量%となるように調整し、これに乳糖(無水)を3重量%で配合して、原料乳を調製した。そして、プレート式熱交換機(Power point International 社)を用いて、この原料乳を130℃、2秒間で連続式に加熱した後に、この原料乳を冷却(43℃)し、乳酸菌スターター(明治ブルガリアヨーグルトから分離した)を2重量%で添加してから、pHが4.6になるように発酵(43℃、340分間)させて、ハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳を製造した。このとき、ソフトタイプの発酵乳は、ハードタイプの発酵乳をスリーワンモーターで攪拌してから、フィルター(孔径:250μm)を通過させて製造した。
【0039】
[試験例1]
(c1)ハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳の官能検査
発明品1、発明品2と対照品1の発酵乳について、風味と食感を官能検査(専門パネル:10名、評価:5段階)した。ブドウ糖を配合したハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳の官能検査の結果と、糖無添加のハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳の官能検査の結果の比較図を、それぞれ図1および図2に示す。ショ糖を配合したハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳の官能検査の結果と、糖無添加のハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳の官能検査の結果の比較図を、それぞれ図3および図4に示す。ブドウ糖を配合した発酵乳では、糖無添加の発酵乳に比べて、食感の滑らかさと甘味が向上され、えぐ味が低減された。ショ糖を配合した発酵乳では、糖無添加の発酵乳に比べて、食感の滑らかさと甘味が向上され、酸味とえぐ味が低減された。
【0040】
[試験例2]
(c2)ハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳の官能検査
発明品1、発明品2と対照品2の発酵乳について、風味と食感を官能検査(専門パネル:10名、評価:5段階)した。ブドウ糖を配合したハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳の官能検査の結果と、乳糖を配合したハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳の官能検査の結果の比較図を、それぞれ図5および図6に示す。ショ糖を配合したハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳の官能検査の結果と、乳糖を配合したハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳の官能検査の結果の比較図を、それぞれ図7および図8に示す。ブドウ糖を配合した発酵乳では、乳糖を配合した発酵乳に比べて、食感の滑らかさと甘味と酸味が向上された。ショ糖を配合した発酵乳では、乳糖を配合した発酵乳に比べて、食感の滑らかさと甘味が向上され、酸味と えぐ味が低減された。」
・「
[図:0001390599000003.jpg]
」
・「
[図:0001390599000004.jpg]
」
・「
[図:0001390599000005.jpg]
」
・「
[図:0001390599000006.jpg]
」
・「
[図:0001390599000007.jpg]
」
・「
[図:0001390599000008.jpg]
」
・「
[図:0001390599000009.jpg]
」
・「
[図:0001390599000010.jpg]
」
(4)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0001】ないし【0006】によると、本件特許発明1ないし18が解決しようとする課題は、「低脂肪・無脂肪、高タンパク質でありながら、滑らかな食感を有する濃厚な発酵乳を合理的に製造すること」(以下、「発明の課題」という。)である。
他方、上記(3)のとおり、本件特許の発明の詳細な説明の【0007】には、発明の課題を解決するため、「低脂肪、高タンパク質の原料乳に、ブドウ糖および/またはショ糖を含有せしめることで、滑らかな食感を有する発酵乳が得られることを見出し」たことが記載されている。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0022】ないし【0023】には、「ブドウ糖」及び「ショ糖」について定義するとともに、「滑らかな食感を有する発酵乳を提供する観点から、原料乳におけるブドウ糖および/またはショ糖の配合濃度は、1重量%以上」であること、及び「商業的に許容可能な発酵時間で制御する観点および適度な酸味・甘味を有する発酵乳を提供する観点から、原料乳におけるブドウ糖および/またはショ糖の配合濃度は、12重量%以下」であること、が記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0031】ないし【0040】及び図1ないし図8において、本件特許発明1に係る実施例1及び実施例2の発酵乳は、ブドウ糖及びショ糖を含有しない比較例1及び比較例2の発酵乳に比べて、官能検査において、ソフトタイプ及びハードタイプの両方で「滑らかさ」が向上したことを確認している。
そうすると、上記記載から、当業者は、「ブドウ糖および/またはショ糖を含有」することで、発明の課題が解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1は上記発明の課題を解決できると認識できる「原料乳」であり、本件特許発明2ないし10は上記発明の課題を解決できると認識できる「原料乳」をさらに限定したものであり、本件特許発明11及び12は上記発明の課題を解決できると認識できる「原料乳」を発酵させる「発酵乳の製造方法」に関するものであり、本件特許発明13は上記発明の課題を解決できると認識できる「原料乳」を発酵させる発酵乳の製造方法で製造された「発酵乳」に関するものであり、本件特許発明14、15及び18は上記発明の課題を解決できると認識できる「原料乳」を発酵させる「発酵乳の食感を滑らかにする方法」に関するものであり、本件特許発明16及び17は上記発明の課題を解決できると認識できる「原料乳」を発酵させる「発酵乳の食感を滑らかにし、かつ、発酵乳の塩味またはえぐ味を低減、もしくは発酵乳にコク味を付与する方法」に関するものである。
よって、本件特許発明1ないし18に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
なお、上記第3 3における特許異議申立人の主張(1)ないし(4)について検討する。
上記(1)及び(2)の点について検討すると、上述のとおり、実施例1及び実施例2の発酵乳は、比較例1及び比較例2の発酵乳に比べて、程度の差は見られるものの、ソフトタイプ及びハードタイプの両方で「滑らかさ」が向上したことを確認している。
上記(3)の点について検討すると、甲11及び甲12(特に、特許異議申立人が引用する上記1(4)及び(5)の各摘記事項を参照。)をみても、「乳酸菌の種類によって、糖の資化性が異なり、発酵乳の滑らかさに関わる多糖の産生も異なる」ことについては何ら記載されていないことから、このことについては何ら具体的証拠により立証されていない。
上記(4)の点について検討すると、本件特許の発明の詳細な説明の【0025】に、「生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などを濃縮する前に、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などを酸性化処理し、MPCから苦味の原因のカルシウム(Ca)を効率的に低減する(除去する)工程を含む。」と記載されているように、酸性化処理は、カルシウムを効率的に低減する工程であるから、酸性化処理を行わないことによって、上記発明の課題を解決しない、すなわち滑らかな食感を有する濃厚な発酵乳が得られないとは直ちに認めることはできない。
したがって、上記(1)ないし(4)の主張はいずれもその理由がない。
(5)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし18に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由3によっては取り消すことはできない。
5 申立理由4(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1ないし10及び13は物の発明であるところ、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があることを要する。また、本件特許発明11及び12は物を生産する方法であるところ、物を生産する方法の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用し、その方法により生産した物の使用等をできる程度の記載があることを要する。さらに、本件特許発明14ないし18は方法の発明であるところ、方法の発明にあっては、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用できる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
上記4(3)のとおり、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし10及び13の物について具体的に記載されており(特に、【0011】、【0014】ないし【0024】)、本件特許発明11及び12の物を生産する方法について具体的に記載されており(特に、【0025】ないし【0030】)、本件特許発明14ないし18の方法について具体的に記載されており(特に、【0022】ないし【0024】)。また、本件特許発明1ないし18の実施例である実施例1及び2についても、その製造方法を含め具体的に記載されている。
したがって、本件特許発明1ないし10及び13について、発明の詳細な説明に、当業者が、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があるといえるし、本件特許発明11及び12について、発明の詳細な説明に、当業者が、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用し、その方法により生産した物の使用等をできる程度の記載があるといえるし、本件特許発明14ないし18について、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用できる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし18に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合する。
なお、特許異議申立人は、上記第3 3(1)ないし(4)において、本件特許明細書は、当業者が実施できる程度に十分に記載されていない旨主張するが、いずれも上記判断に影響するものではない。
(3)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし18に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由4によっては取り消すことはできない。
6 申立理由5(明確性)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項1ないし18の記載は、上記第2のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、本件特許の明細書及び図面の記載とも整合する。
したがって、本件特許発明1ないし18に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)特許異議申立人の上記第3 5(1)の主張について
本件特許発明1ないし10及び13は、「限外ろ過(UF)処理で濃縮した」との特定事項を有するものであるが、限外ろ過処理を行った物と、限外ろ過処理を行っていない物とで、物として差異があることは明らかであるから、「限外ろ過(UF)処理で濃縮した」という特定事項を有することによって、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえず、また、「効果の差」が評価できないことは、明確性要件の判断には関係がないことから、上記判断に影響を与えるものではない。
よって、上記(1)の主張は理由がない。
(4)申立理由5についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし10及び13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由5によっては、取り消すことはできない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし18に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700588