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特許異議申立

2022-701015

廃リチウムイオン電池からのリチウム回収システム

審判番号
2022-701015
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-198433
登録番号
7060899
請求日
2022年10月14日
審決日
2024年01月31日
公報発行日
2024年05月31日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社アサカ理研
  • 【権利者代理人】デロイトトーマツ弁理士法人
  • 【異議申立人】藤央 弁理士法人
審判長/審判官
  • 審判長 池渕 立
  • 審判官 粟野 正明
  • 審判官 相澤 啓祐
分類
P1651.121-YAA(C22B) / P1651.537-YAA(C22B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7060899号発明「廃リチウムイオン電池からのリチウム回収システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7060899号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。 特許第7060899号の請求項1~7に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件の特許第7060899号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願(特願2021-198433号。以下、「本願」という。)は、令和 3年12月 7日(優先権主張 令和 3年 9月30日)の出願であって、令和 4年 4月19日にその特許権の設定登録がされ、同年 4月27日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~7(全請求項)に係る特許について、令和 4年10月14日受付で特許異議申立人である藤央弁理士法人(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、その後の経緯は以下のとおりである。 令和 5年 2月 3日付け 取消理由通知 同年 3月 9日 特許権者との面接審理 同年 3月31日 申立人による上申書の提出 同年 4月 7日 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出 同年 6月 6日 申立人による意見書の提出 同年 7月31日付け 取消理由通知(決定の予告) 同年10月 2日受付 特許権者による訂正請求書及び意見書 同年10月16日付け 手続補正指令(方式) 同年11月 7日受付 特許権者による手続補正書(方式) なお、令和 5年10月 2日に受け付けられ、同年11月 7日受付の手続補正書(方式)によって補正された訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。また、本件訂正請求書による訂正請求を以下、「本件訂正請求」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という。)については、すでに申立人に意見書の提出の機会が与えられた令和 5年 4月 7日提出の訂正請求書による訂正と一部の記載不備が是正されている点を除いて実質的に同様のものであり、特許法第120条の5第5項ただし書に規定する「特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるとき」に該当すると認められるから、申立人に意見書を提出する機会を与えないこととした。 第2 本件訂正請求について 1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容 本件訂正請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求めるものであり、本件訂正の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。 なお、令和 5年 4月 7日提出の訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。 (1)訂正事項1 訂正前の特許請求の範囲の請求項1に 「廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸にて溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程と、 該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程と、 水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を溶媒抽出により分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程とを備える廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムであって、 イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程と、 該水酸化リチウム水溶液の一部を酸溶解液に添加する水酸化リチウムとして用いるか、又は該溶媒抽出に用い、該酸を該鉱酸として用いる工程とを備えることを特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。」 と記載されているのを、 「廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸にて溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程と、 該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程と、 水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を溶媒抽出により分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程とを備える廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムであって、 イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程と、 該水酸化リチウム水溶液の一部を該溶媒抽出に用い、該酸を該鉱酸として用いる工程とを備えることを特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。」 に訂正する。 (2)訂正事項2 訂正前の特許請求の範囲の請求項2に 「請求項1記載の廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムにおいて、前記第2のリチウム塩水溶液を濃縮し、前記第1のリチウム塩水溶液に添加することを特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。」 と記載されているのを、 「廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸にて溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程と、 該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程と、 水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を溶媒抽出により分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程とを備える廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムであって、 イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程と、 該水酸化リチウム水溶液の一部を酸溶解液に添加する水酸化リチウムとして用いるか、又は溶媒抽出に用い、該酸を該鉱酸として用いる工程とを備え、 該第2のリチウム塩水溶液を濃縮し、該第1のリチウム塩水溶液に添加することを特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。」 に訂正する。 (3)訂正事項3 訂正前の特許請求の範囲の請求項3に 「請求項1又は請求項2記載の廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムにおいて、前記鉱酸は、塩酸、硫酸、硝酸からなる群から選択される1種の酸であること特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。」 と記載されているのを、 「廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸にて溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程と、 該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程と、 水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を溶媒抽出により分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程とを備える廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムであって、 イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程と、 該水酸化リチウム水溶液の一部を酸溶解液に添加する水酸化リチウムとして用いるか、又は溶媒抽出に用い、該酸を該鉱酸として用いる工程とを備え、 該第2のリチウム塩水溶液を濃縮し、該第1のリチウム塩水溶液に添加し、 該鉱酸は、塩酸、硫酸、硝酸からなる群から選択される1種の酸であることを特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。」 に訂正する。 (4)訂正事項4 訂正前の特許請求の範囲の請求項4に 「請求項3記載の廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムにおいて、前記鉱酸は塩酸であることを特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。」 と記載されているのを、 「廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸にて溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程と、 該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程と、 水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を溶媒抽出により分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程とを備える廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムであって、 イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程と、 該水酸化リチウム水溶液の一部を酸溶解液に添加する水酸化リチウムとして用いるか、又は溶媒抽出に用い、該酸を該鉱酸として用いる工程とを備え、 該第2のリチウム塩水溶液を濃縮し、該第1のリチウム塩水溶液に添加し、 該鉱酸は塩酸であることを特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。」 に訂正する。 (5)訂正事項5 訂正前の特許請求の範囲の請求項5に 「請求項3記載の廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムにおいて、イオン交換膜を用いて前記第1のリチウム塩水溶液を電解して得られた塩素と水素とを反応させて生成した塩酸を前記鉱酸として用いることを特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。」 と記載されているのを、 「廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸にて溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程と、 該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程と、 水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を溶媒抽出により分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程とを備える廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムであって、 イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程と、 該水酸化リチウム水溶液の一部を酸溶解液に添加する水酸化リチウムとして用いるか、又は溶媒抽出に用い、該酸を該鉱酸として用いる工程とを備え、 該第2のリチウム塩水溶液を濃縮し、該第1のリチウム塩水溶液に添加し、 該鉱酸は、塩酸、硫酸、硝酸からなる群から選択される1種の酸であり、 イオン交換膜を用いて前記第1のリチウム塩水溶液を電解して得られた塩素と水素とを反応させて生成した塩酸を該鉱酸として用いることを特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。」 に訂正する。 (6)訂正事項6 訂正前の特許請求の範囲の請求項6に 「請求項1~請求項5のいずれか1項記載の廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムにおいて、前記電解に用いる電力は、再生可能エネルギーによって得られた電力であること特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。」 と記載されているのを、 「廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸にて溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程と、 該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程と、 水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を溶媒抽出により分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程とを備える廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムであって、 イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程と、 該水酸化リチウム水溶液の一部を酸溶解液に添加する水酸化リチウムとして用いるか、又は溶媒抽出に用い、該酸を該鉱酸として用いる工程とを備え、 該第2のリチウム塩水溶液を濃縮し、該第1のリチウム塩水溶液に添加し、 該電解に用いる電力は、再生可能エネルギーによって得られた電力であること特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。」 に訂正する。 (7)訂正事項7 訂正前の特許請求の範囲の請求項7に 「請求項6記載の廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムにおいて、前記再生可能エネルギーによって得られた電力は、太陽光発電によって得られた電力又は風力発電によって得られた電力であること特徴とする廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収システム。」 と記載されているのを、 「廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸にて溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程と、 該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程と、 水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を溶媒抽出により分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程とを備える廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムであって、 イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程と、 該水酸化リチウム水溶液の一部を酸溶解液に添加する水酸化リチウムとして用いるか、又は溶媒抽出に用い、該酸を該鉱酸として用いる工程とを備え、 該第2のリチウム塩水溶液を濃縮し、該第1のリチウム塩水溶液に添加し、 該電解に用いる電力は、太陽光発電によって得られた電力又は風力発電によって得られた電力であること特徴とする廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収システム。」 に訂正する。 2 訂正の適否についての当審の判断 (1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無 ア 訂正事項1について (ア)訂正の目的について 訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1の「該水酸化リチウム水溶液の一部を酸溶解液に添加する水酸化リチウムとして用いるか、又は該溶媒抽出に用い、」との記載を「該水酸化リチウム水溶液の一部を該溶媒抽出に用い、」と訂正することにより、「水酸化リチウム水溶液の一部」を用いる対象として択一的に記載されていた要素の一方に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 (イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について 訂正事項1に係る訂正は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 また、訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1に「水酸化リチウム水溶液」を用いる対象として択一的に記載されていた要素の一方に限定するものであるから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 イ 訂正事項2について (ア)訂正の目的について 訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。 (イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について 訂正事項2に係る訂正は、上記(ア)のとおり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかであり、また、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 ウ 訂正事項3について (ア)訂正の目的について 訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項3が請求項1又は請求項2を引用する記載であったものを、請求項2を引用するものに減縮するとともに、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、かつ同第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものにも該当する。 (イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について 訂正事項3に係る訂正は、上記(ア)のとおり、多数項を引用している請求項の引用請求項数の削減を目的とするものであり、かつ他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかであり、また、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 エ 訂正事項4について (ア)訂正の目的について 訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項4が請求項3を介して請求項1又は請求項2を間接的に引用する記載であったものを、請求項3を介して請求項2を間接的に引用するものに減縮するとともに、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、かつ同第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものにも該当する。 (イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について 訂正事項4に係る訂正は、上記(ア)のとおり、多数項を引用している請求項の引用請求項数の削減を目的とするものであり、かつ他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかであり、また、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 オ 訂正事項5について (ア)訂正の目的について 訂正事項5に係る訂正は、訂正前の請求項5が請求項3を介して請求項1又は請求項2を間接的に引用する記載であったものを、請求項3を介して請求項2を間接的に引用するものに減縮するとともに、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、かつ同第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものにも該当する。 (イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について 訂正事項5に係る訂正は、上記(ア)のとおり、多数項を引用している請求項の引用請求項数の削減を目的とするものであり、かつ他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかであり、また、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 したがって、訂正事項5に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 カ 訂正事項6について (ア)訂正の目的について 訂正事項6に係る訂正は、訂正前の請求項6が請求項1~5のいずれか1項を引用する記載であったものを、請求項2を直接引用するものに減縮するとともに、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、かつ同第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものにも該当する。 (イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について 訂正事項6に係る訂正は、上記(ア)のとおり、多数項を引用している請求項の引用請求項数の削減を目的とするものであり、かつ他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかであり、また、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 したがって、訂正事項6に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 キ 訂正事項7について (ア)訂正の目的について 訂正事項7に係る訂正は、訂正前の請求項7が請求項6を介して請求項1~5を間接的に引用する記載であったものを、請求項6を介して請求項2を間接的に引用するものに減縮するとともに、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当し、かつ同第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものにも該当する。 (イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について 訂正事項7に係る訂正は、上記(ア)のとおり、多数項を引用している請求項の引用請求項数の削減を目的とするものであり、かつ他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかであり、また、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 したがって、訂正事項7に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (2)一群の請求項について 本件訂正前の請求項1~7について、訂正前の請求項2~7はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1~7は、一群の請求項である。 そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。 また、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めはないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~7〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。 (3)独立特許要件について 本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~7について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 3 本件訂正請求についてのむすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~7に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。なお、以下において、本件訂正後の請求項1~7に係る発明を順に「本件発明1」~「本件発明7」といい、総称して「本件発明」ということがある。 「【請求項1】 廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸にて溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程と、 該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程と、 水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を溶媒抽出により分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程とを備える廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムであって、 イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程と、 該水酸化リチウム水溶液の一部を該溶媒抽出に用い、該酸を該鉱酸として用いる工程とを備えることを特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。 【請求項2】 廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸にて溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程と、 該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程と、 水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を溶媒抽出により分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程とを備える廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムであって、 イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程と、 該水酸化リチウム水溶液の一部を酸溶解液に添加する水酸化リチウムとして用いるか、又は溶媒抽出に用い、該酸を該鉱酸として用いる工程とを備え、 該第2のリチウム塩水溶液を濃縮し、該第1のリチウム塩水溶液に添加することを特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。 【請求項3】 廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸にて溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程と、 該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程と、 水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を溶媒抽出により分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程とを備える廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムであって、 イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程と、 該水酸化リチウム水溶液の一部を酸溶解液に添加する水酸化リチウムとして用いるか、又は溶媒抽出に用い、該酸を該鉱酸として用いる工程とを備え、 該第2のリチウム塩水溶液を濃縮し、該第1のリチウム塩水溶液に添加し、 該鉱酸は、塩酸、硫酸、硝酸からなる群から選択される1種の酸であることを特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。 【請求項4】 廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸にて溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程と、 該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程と、 水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を溶媒抽出により分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程とを備える廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムであって、 イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程と、 該水酸化リチウム水溶液の一部を酸溶解液に添加する水酸化リチウムとして用いるか、又は溶媒抽出に用い、該酸を該鉱酸として用いる工程とを備え、 該第2のリチウム塩水溶液を濃縮し、該第1のリチウム塩水溶液に添加し、 該鉱酸は塩酸であることを特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。 【請求項5】 廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸にて溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程と、 該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程と、 水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を溶媒抽出により分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程とを備える廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムであって、 イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程と、 該水酸化リチウム水溶液の一部を酸溶解液に添加する水酸化リチウムとして用いるか、又は溶媒抽出に用い、該酸を該鉱酸として用いる工程とを備え、 該第2のリチウム塩水溶液を濃縮し、該第1のリチウム塩水溶液に添加し、 該鉱酸は、塩酸、硫酸、硝酸からなる群から選択される1種の酸であり、 イオン交換膜を用いて前記第1のリチウム塩水溶液を電解して得られた塩素と水素とを反応させて生成した塩酸を該鉱酸として用いることを特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。 【請求項6】 廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸にて溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程と、 該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程と、 水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を溶媒抽出により分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程とを備える廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムであって、 イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程と、 該水酸化リチウム水溶液の一部を酸溶解液に添加する水酸化リチウムとして用いるか、又は溶媒抽出に用い、該酸を該鉱酸として用いる工程とを備え、 該第2のリチウム塩水溶液を濃縮し、該第1のリチウム塩水溶液に添加し、 該電解に用いる電力は、再生可能エネルギーによって得られた電力であること特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。 【請求項7】 廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸にて溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程と、 該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程と、 水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を溶媒抽出により分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程とを備える廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムであって、 イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程と、 該水酸化リチウム水溶液の一部を酸溶解液に添加する水酸化リチウムとして用いるか、又は溶媒抽出に用い、該酸を該鉱酸として用いる工程とを備え、 該第2のリチウム塩水溶液を濃縮し、該第1のリチウム塩水溶液に添加し、 該電解に用いる電力は、太陽光発電によって得られた電力又は風力発電によって得られた電力であること特徴とする廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収システム。」 第4 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として、下記2の甲第1号証~甲第11号証(以下、「甲1」~「甲11」という。)を提出し、以下の理由により、本件訂正前の請求項1~7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 1 申立理由1(進歩性) (1)申立理由1-1 本件訂正前の請求項1、3~5に係る発明は、甲1に記載された発明、並びに、甲2~甲5に記載された周知技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由1-2 本件訂正前の請求項2に係る発明は、甲1に記載された発明、甲2~甲5に記載された周知技術、並びに、甲6~甲8に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由1-3 本件訂正前の請求項6、7に係る発明は、甲1に記載された発明、甲2~甲5に記載された周知技術、並びに、甲9及び甲10に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 証拠方法 甲1:特開2001-96236号公報 甲2:特開2015-183292号公報 甲3:特開2016-113672号公報 甲4:国際公開第2017/159745号 甲5:特開2016-186113号公報 甲6:特表2018-520971号公報 甲7:特開2009-269810号公報 甲8:特開2004-142986号公報 甲9:特開2011-31232号公報 甲10:特開2011-32151号公報 甲11:特開2020-132950号公報 3 追加の証拠方法 また、申立人は、令和 5年 6月 6日提出の意見書とともに、追加の証拠方法として、以下の甲第12号証~甲第20号証(以下、「甲12」~「甲20」という。)を提出している。 甲12:特開平10-46266号公報 甲13:特許第5422495号公報 甲14:特許第6334450号公報 甲15:蓬莱賢一他、「粉砕・分級と湿式処理によるリチウムイオン電池のリサイクル」、日本金属学会誌、第78巻、第7号(2014)、p.250-257 甲16:国際公開第2020/092157号 甲17:特表2022-507019号公報 甲18:特許第5138640号公報 甲19:特開2018-39682号公報 甲20:特開2017-8407号公報 第5 令和 5年 2月 3日付けで通知した取消理由の概要 当審が令和 5年 2月 3日付けで通知した取消理由は以下のとおりである。 1 取消理由1(進歩性) 本件訂正前の請求項1、3、4に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2~甲5に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件訂正前の請求項6、7に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2~甲5に記載された周知技術、並びに甲9、甲10の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 第6 令和 5年 7月31日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要 1 取消理由1(進歩性) 令和 5年 4月 7日提出の訂正請求書により訂正された請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2~甲5、甲16、甲18に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 取消理由2(明確性;職権による) 令和 5年 4月 7日提出の訂正請求書により訂正された請求項3~7の「該水酸化リチウム水溶液の一部を・・・該溶媒抽出として用い」との記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 第7 当審の判断 当審は、以下のとおり、令和 5年 2月 3日付けで通知した取消理由、令和 5年 7月31日付けで通知した取消理由(決定の予告)及び特許異議申立ての理由のいずれによっても、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 1 取消理由1(進歩性)及び申立理由1(進歩性)について (1)甲1の記載事項 本件特許の優先日前に公知となった甲1には、「バッテリーパックの分別装置」(発明の名称)に関して、以下の記載がある(なお、下線は当審が付したものである。以下同様。)。 ア 「【0040】次に、リチウムイオン二次電池のリサイクル方法について説明する。 【0041】図4は、リチウムイオン二次電池のリサイクルのフロー図であり、このような流れでリチウムイオン二次電池のリサイクルを行った。 【0042】まず約1.0mol/Lの塩酸水溶液に浸漬、放電を行った。もちろんこの場合の酸は塩酸に限られたものではなく、濃度も1.0mol/Lに限定したものではない。ただし硫酸、硝酸、水酸化ナトリウムの同濃度の水溶液に較べて塩酸は電池の一部を開放し、内部の電解液を抽出する作用に優れている。しかし、放電時間は同じ残留電圧を有する電池またはバッテリーパックに対しては硫酸が最も短く、したがって装置の安全性と電池の開放による安全性向上、放電時間の長短と装置の処理量、処理スペース等を勘案して酸を選択するのが好ましい。 【0043】次に電圧が電池1個当たり1.0V/個以下になったことを確認し、3.7kWの一軸破砕機にて破砕(スクリーンφ10mm)、破砕片を約5~10mm角程度にした。この破砕工程も単に一軸型に限定されるものではない。既述したように、電池あるいはバッテリーパックの内部が各々独立した形で露出する方法であれば手作業、ロボットでも構わない。 【0044】破砕工程は二軸破砕機で電池を完全に電気的に短絡し、その上で一軸破砕機で破砕する方が安全性が高まるが、今回は破砕前に残留電圧を測定し、安全性を確認したので、二軸破砕は割愛した。 【0045】破砕時に電解液が揮発してくるが、これは活性炭で吸着させた。もちろんこれも活性炭吸着に限定されるものではなく、燃焼形式でもよい。 【0046】破砕後の破砕片は、まず磁選を行い電池外側の軟鉄筐体を主成分とした磁性体を除去した。バッテリーパックの端子には金メッキ処理が施されている場合があるが、端子はこの磁性体に入ってくる。この中から金を回収することも可能である。 【0047】次に磁性体を除去した後の残分を1mmの篩いにかけ、篩い下と篩い上に分離した。篩い下は後段の酸溶解工程に直送した。篩い上は慣性比重選別を行った。処理条件はアルミニウムが軽量物側に排出される、比重2.69g/cm3で分離される条件とした。これはアルミニウム筐体を有するリチウムイオン二次電池のアルミニウム筐体は磁力選別工程で除去することはできないが、この比重選別工程で分離回収することができるからである。こうして重量物(LiCoO2を活物質として塗布したアルミ箔、PC樹脂、回路基板等)と軽量物(カーボンを活物質として塗布した銅、セパレータ、アルミニウム筐体)とに分離した。 【0048】慣性比重選別は風力による浮力、振動による摩擦力、揺動による重力とのバランスによって成り立っている。そのため、形状に依存し、小さい物体には選別効果が乏しい場合がある。筆者らの検討では5~10mm角程度が最も選別効率が優れており、これより大きいとデッキ上での重なりが多くなるために均一に浮力を与えることが困難になった。またこれより小さくなると、比重差の影響がほとんど無視されるようになり、選別効率が低下した。 【0049】この重量物をH2SO4(濃度2.0mol/L)と過酸化水素H2O2(0.6%)の酸処理液(70℃に加熱)に2時間浸漬し、正極活物質等を溶解させた。硫酸濃度はこの濃度に限定されたものではないが、Coに対し理論当量以上添加されることが好ましい。しかし、加えすぎると廃液量が増大し、薬液コストも増大するため、適当量が存在する。 【0050】過酸化水素はLiCoO2の溶解反応を促進させる作用があり、Coに対し理論当量添加するのが好ましいが、もちろん添加せずに処理時間をかけても構わない。また浸漬時間も特に2時間に限定されるものではないが、コバルトの溶解量と銅の溶解量を勘案して決定するのが好ましい。また硫酸も他の酸を利用してもよいが、その際は不純物を除去する工程で電解を用いると塩酸の場合はCl2、硝酸の場合はNO2などのガスが発生するので、不純物除去は別の方法を用いる必要がある。 【0051】H2O2はこの場合、酸化物の還元剤として作用する。溶液には主成分としてLi+、Co2+、SO42-、他に不純物としてCu2+、Fe2+、Al3+等が溶解している。 【0052】この酸処理液を固液分離して樹脂などの溶解しないものを除いた後(図示省略)、電解透析に導入する。負極側のCu電極に析出したCuは高純度であり、再利用できる。一方、アニオン分離膜にてアニオン(SO4-)の一部を正極側電極室に分離し、後段の濃縮工程に送った。条件は電流制御(8A/dm2)で、Cuが対Coで1ppm(重量比)以下になるまで電解を行った。 【0053】上述したように、銅の除去は電解に限定されたものではない。今回は銅の濃度を極めて微量まで下げるために電解を行ったが、もちろん後述するpH調整で除去も可能である。また今回透析も同時に行ったが、これは電解で行う電力量で酸回収を行うと同時に後段のpH調整時に添加するアルカリ添加量を減らし、廃液量を低減する目的もある。もちろん、透析は行わなくてもよいのはいうまでもない。 【0054】次にCuを除去した後の処理液にLiOH水溶液を噴霧添加し、pHを6.0まで上げた。Co、Niおよびアルカリ金属以外のAl,Fe等の金属イオンを水酸化物としてその大部分を析出させ、これらを固液分離して除去した。このpH処理はLiOHに限ったものではなく、NaOH等他のアルカリも使用できるが、最終回収物のコバルト中にリチウム以外のアルカリ金属が入ると、このコバルトを電池に用いた場合の充放電特性が劣化するため、LiOHを使用するのが好ましい。他のアルカリを用いる場合は回収コバルトの洗浄を丁寧に行う必要がある。リチウム分離後の処理液に更にLiOH水溶液を噴霧添加し、pHを10以上に上げ、Co(OH)2を析出させ、これを固液分離して回収した。この場合の添加するアルカリにも上述の配慮を行うのが好ましい。 【0055】分離後の溶液中にはカチオンとしてLi+のみが含まれている。これをフッ素系カチオン分離膜を用い、電解透析にてLi+を溶液中から分離した。条件は電流制御5A/dm2である。今回は2室型の電解透析を用いたが、3室型の電解透析を行い、硫酸を同時に回収してもよい。 【0056】次に電気透析装置により濃縮操作を行った。電解透析で2~4倍程度の濃縮は可能であり、電気透析では最終的な回収液の濃度をLiOHaq(20g/L)とH2SO4aq(2.0mol/L)にするように液量を調整した。LiOHaqの濃縮の様子を図5に示す。電気透析は電極液にLi2SO4aqを用いるのが好ましい。またLiは最も小さい金属イオンであるが、イオンとしての表面電化密度は最も大きいため、水溶液中では水分子がリチウムのイオンを取り囲み、イオンの見かけ上の半径はナトリウムやカリウムよりもはるかに大きいものとなっている。このため分画分子量がある程度大きいカチオン交換膜、例えば分画分子量300のを用いると処理が簡便に行え、かつ濃縮物の濃度を上げることができる。この濃縮例を図5に示す。この効果を比較するため、分画分子量100の膜で濃縮した例を図6に示す。図5および図6から明らかなようにLiの濃度は分画分子量がある程度の大きさを有することが好ましい。 【0057】濃縮したリチウムの一部は再度アルカリ試薬として同工程で使用した。残分のLiは電池原材料として使用できる。Liの回収方法はLi2CO3の溶解度が他のアルカリ元素と比較して小さいことから炭酸ナトリウムNa2CO3を加えて固形物とするのが一般的である。しかしこの方法では最終的にNaOHaqの廃液が生じるので、CO2ガスを同液に吹き込んでLi2CO3として固形物とする方が廃液が生じないので好ましい。また、ドライアイスを入れても良い。炭酸リチウム以外の形態として水分を蒸発除去して水酸化物LiOHおよびその水和物の形で回収しても良い。 【0058】一方、硫酸の回収液は再度電池処理工程の放電工程および酸溶解工程に使用してもよいし、他の原材料としても利用できる。またLiやSO4を除去したあとの水も再度工程の工業用水として利用することもできる。」 イ 「【図4】 [図:0001410182000001.jpg] 」 (2)甲1に記載された発明 上記(1)に摘記した記載事項を総合勘案し、特に、図4のリチウムイオン二次電池のリサイクル方法を実施するための、破砕機や電気透析装置等を含むシステムに着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。 なお、甲1の【0054】には、「リチウム分離後の処理液に更にLiOH水溶液を噴霧添加し、pHを10以上に上げ、Co(OH)2を析出させ、これを固液分離して回収した。」との記載があるが、図4を参照すると、この工程でLiOH水溶液が噴霧添加されるのは、Al、Fe等の金属イオンを水酸化物として析出させ分離した後の処理液であることは明らかであるから、以下の「h)」においては、「h)Al、Fe等の金属イオンを水酸化物として析出させ分離した後の処理液に更にLiOH水溶液を噴霧添加し、pHを10以上に上げ、Co(OH)2及びNi(OH)2を析出させ、これを固液分離して回収し、」と認定した。 「リチウムイオン二次電池のリサイクル方法を実施するためのシステムであって、 上記リサイクル方法は、以下の流れで行われる、システム。 a)リチウムイオン二次電池をまず約1.0mol/Lの塩酸水溶液に浸漬、放電を行い、 b)次に電圧が電池1個当たり1.0V/個以下になったことを確認し、3.7kWの一軸破砕機にて破砕(スクリーンφ10mm)、破砕片を約5~10mm角程度にし、 c)破砕後の破砕片は、まず磁選を行い電池外側の軟鉄筐体を主成分とした磁性体を除去し、 d)次に磁性体を除去した後の残分を1mmの篩いにかけ、篩い下と篩い上に分離し、篩い下は後段の酸溶解工程に直送するとともに、篩い上は慣性比重選別を行って重量物(LiCoO2を活物質として塗布したアルミ箔、PC樹脂、回路基板等)と軽量物(カーボンを活物質として塗布した銅、セパレータ、アルミニウム筐体)とに分離し、 e)この重量物をH2SO4(濃度2.0mol/L)と過酸化水素H2O2(0.6%)の酸処理液(70℃に加熱)に2時間浸漬し、正極活物質等を溶解させて、主成分としてLi+、Co2+、SO42-、他に不純物としてCu2+、Fe2+、Al3+等が溶解している溶液を得、 f)この酸処理液を固液分離して樹脂などの溶解しないものを除いた後、電解透析に導入してCuが対Coで1ppm(重量比)以下になるまで電解を行い、 g)次にCuを除去した後の処理液にLiOH水溶液を噴霧添加し、pHを6.0まで上げ、Co、Niおよびアルカリ金属以外のAl,Fe等の金属イオンを水酸化物としてその大部分を析出させ、これらを固液分離して除去し、 h)Al、Fe等の金属イオンを水酸化物として析出させ分離した後の処理液に更にLiOH水溶液を噴霧添加し、pHを10以上に上げ、Co(OH)2及びNi(OH)2を析出させ、これを固液分離して回収し、 i)カチオンとしてLi+のみが含まれている分離後の溶液を、フッ素系カチオン分離膜を用い、電解透析にてLi+を溶液中から分離し、硫酸を同時に回収し、 j)電気透析装置により濃縮操作を行い、最終的な回収液の濃度をLiOHaq(20g/L)とH2SO4aq(2.0mol/L)にするように液量を調整し、 k)濃縮したリチウムの一部は再度アルカリ試薬として上記g)及びh)の工程で使用し、残分のLiは炭酸ナトリウムNa2CO3を加えて固形物として回収し、 l)硫酸の回収液は再度電池処理工程の放電工程および酸溶解工程に使用し、 m)LiやSO4を除去したあとの水も再度工程の工業用水として利用する。」(以下、「甲1発明」という。なお、a)~m)は、当審が便宜上付した記号である。) (3)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明との対比 (ア)本願の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0004】に「本願において、廃リチウムイオン電池とは、電池製品としての寿命が消尽した使用済みのリチウムイオン電池、製造工程で不良品等として廃棄されたリチウムイオン電池、製造工程において製品化に用いられた残余の正極・負極材料等を意味する。」と記載されていることを考慮すると、甲1発明において、リサイクルに供せられる「リチウムイオン二次電池」は、本件発明1の「廃リチウムイオン電池」に相当する。 (イ)甲1発明の「リチウムイオン二次電池のリサイクル方法を実施するためのシステム」は、リチウムイオン二次電池から最終的に「Li」を「炭酸ナトリウムNa2CO3を加えて固形物として回収」(上記k)参照。)するシステムであるから、本件発明1の「廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム」に相当する。 (ウ)甲1発明のa)~f)の各工程を経て、「主成分としてLi+、Co2+、SO42-、他に不純物としてCu2+、Fe2+、Al3+等が溶解している溶液」を得、さらに「この酸処理液を固液分離して樹脂などの溶解しないものを除いた後、電解透析に導入してCuが対Coで1ppm(重量比)以下になるまで電解を行」って、「Cuを除去した後の処理液」を得る工程は、本件発明1の「廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸に溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程」に相当する。 (エ)甲1発明のg)の工程における「Cuを除去した後の処理液にLiOH水溶液を噴霧添加し、pHを6.0まで上げ」る工程は、本件発明1の「該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程」に相当する。 (オ)甲1発明の「g)・・・Co、Niおよびアルカリ金属以外のAl、Fe等の金属イオンを水酸化物としてその大部分を析出させ、これらを固液分離して除去し、h)Al、Fe等の金属イオンを水酸化物として析出させ分離した後の処理液に更にLiOH水溶液を噴霧添加し、pHを10以上に上げ、Co(OH)2及びNi(OH)2を析出させ、これを固液分離して回収し、i)カチオンとしてLi+のみが含まれている分離後の溶液」(「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)を得る工程と、本件発明1の「水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を溶媒抽出により分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程」とは、「水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を」「分離し、」「残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程」である点で共通する。 (カ)甲1発明において、「i)カチオンとしてLi+のみが含まれている分離後の溶液を、フッ素系カチオン分離膜を用い、電解透析にてLi+を溶液中から分離し、硫酸を同時に回収」する工程を実施することにより、「LiOHaq」(本件発明1の「水酸化リチウム水溶液」に相当)及び「H2SO4aq」(本件発明1の「酸」に相当)が得られていること、また、「m)LiやSO4を除去したあとの水」には、除去しきれないLi+やSO42-が含まれることから、当該「水」が本件発明1の「第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液」に相当することを考慮すると、甲1発明の上記i)の工程は、本件発明1の「イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程」に相当する。 (キ)甲1発明の「l)硫酸の回収液は再度電池処理工程の放電工程および酸溶解工程に使用」することについて、図4を参照すると、そのe)の工程で重量物が浸漬される「H2SO4」として再利用されることが理解できるから、この点は、本件発明1の「該酸を該鉱酸として用いる」点に相当する。 (ク)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸にて溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程と、 該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程と、 水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を分離し、残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程とを備える廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムであって、 イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程と、 該酸を該鉱酸として用いる工程とを備えることを特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1> 水酸化リチウムを添加した酸溶解液から、活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を分離し、残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程について、本件発明1は、この工程を「溶媒抽出」により行い、また、「イオン交換膜を用いて第1のリチウム塩水溶液を電解し」て得られる「水酸化リチウム水溶液の一部を」当該「溶媒抽出」に用いるのに対して、甲1発明は、LiOH水溶液を噴霧添加し、pHを調整することにより、Co、Al、Fe等のLi以外の金属イオンを水酸化物として析出させ、これらを固液分離して除去して、カチオンとしてLi+のみが含まれている分離後の溶液を得ており、また、「k)・・・再度アルカリ試薬として同工程で使用」される「濃縮したリチウムの一部」は、g)、h)の工程で噴霧添加される「LiOH水溶液」として再利用されるものの、溶媒抽出に用いられるものではない点。 イ 相違点についての検討 (ア)甲2~甲5、甲16、甲18の記載事項 a 甲2の記載事項 本願の優先日前に公知となった甲2には、「コバルトおよびニッケルの回収方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。 (a)「【0004】 このようにリチウムイオン二次電池の電極材にはリチウム、コバルト、ニッケル等の有価金属が多く含まれているので、有価金属の再利用を図るために、廃リチウムイオン二次電池からコバルト等の有価金属を回収する方法が知られている。例えば、正極活物質を硫酸に溶解してスラリーにし、該スラリーに過酸化水素水を添加して、濾液にリチウム、コバルト、ニッケルを含有させ、残渣にマンガンを含有させて分離する回収方法が知られている(特許文献1:特開2013-194315号公報)。また、正極材活物質を物理的に選別した後に硫酸等の鉱酸で浸出し、溶媒抽出によってコバルト等を回収する方法が知られている。」 (b)「【0024】 〔コバルト、ニッケル回収工程〕 脱マンガン後の溶液からリン酸系酸性抽出溶媒を用いてコバルトおよびニッケルを溶媒抽出して回収することができる。例えば、リン酸系酸性抽出溶媒として、2-エチルヘキシルホスホン酸モノ2-エチルヘキシルエステル(商品名:PC-88A)を用い、ミキサーセトラ等の連続式抽出装置によって脱マンガン後の溶液を上記溶媒と接触させてコバルトおよびニッケルをpH4.5~8の範囲で抽出する。」 b 甲3の記載事項 本願の優先日前に公知となった甲3には、「廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。 (a)「【0016】 湿式処理方法によれば、リチウムイオン電池の廃材の硫酸浸出液に、中和剤と酸化剤を添加することによって、水溶液のpH値を3.5~4.5、酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)を500mV以上として鉄とアルミニウムの一部を沈澱除去し、そこで得られた中和後液を、酸性リン酸エステル系抽出剤によって溶媒抽出に処することで、アルミニウム及びマンガンを有機溶媒に抽出し、その有機溶媒を逆抽出してアルミニウム及びマンガンを逆抽出液として回収した後、逆抽出液に中和剤を添加して、アルミニウムを沈澱除去することによって、マンガンを含有する水溶液を得ることができる。」 (b)「【0070】 [3.溶媒抽出工程] 溶媒抽出工程S13では、図1に示すように、中和工程S12で得られた中和終液について、溶媒抽出処理を行うことにより、不純物を含んだ抽出残液と、有価金属を含んだ抽出後の有機溶媒(以下、「抽出後有機溶媒」と称する。)とを得る。 【0071】 ここで、溶媒抽出工程S13における溶媒抽出処理とは、中和終液に酸性抽出剤を接触させて、酸性抽出剤中(有機相側)に有価金属であるニッケル及びコバルトを抽出することである。これにより、溶媒抽出工程S13では、中和終液中の有価金属と不純物であるリン及びフッ素とを、確実且つ容易に分離することができる。なお、溶媒抽出工程S13では、リン及びフッ素は、そのまま中和終液中(水相側)に残留することになる。」 c 甲4の記載事項 本願の優先日前に公知となった甲4には、「リチウムイオン電池のスクラップの処理方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。 (a)「[0042](抽出工程) リチウムイオン電池スクラップにマンガンが含まれること等によって、脱アルミニウム工程で得られた第三分離後液にマンガンが含まれる場合や、先述した浸出工程、脱鉄工程、脱アルミニウム工程で完全に除去されずに残った銅、鉄、アルミニウムが第三分離後液に含まれる場合があり、この場合は、第三分離後液に対してマンガン等を抽出する抽出工程を行うことができる。但し、第三分離後液にマンガン等が含まれない場合は、この抽出工程は省略することも可能である。 [0043] 具体的には、抽出工程では、第三分離後液に対して、燐酸エステル系抽出剤及びオキシム系抽出剤を含有する混合抽出剤を使用して溶媒抽出し、マンガン、銅、鉄及び/又はアルミニウムを分離させることができる。 特に、燐酸エステル系抽出剤及びオキシム系抽出剤を併用することにより、銅、鉄、アルミニウムの分離効率が顕著に向上する。なかでも、銅はほとんど抽出することができる。 [0044](コバルト/ニッケル回収工程) マンガン抽出工程の後、抽出残液中のコバルト及び/又はニッケルを回収する。コバルト及び/又はニッケルの回収はそれぞれ、公知の方法により行うことができる。具体的には、コバルト及びニッケルの溶媒抽出をそれぞれ順次に行い、溶媒中のコバルトを逆抽出によって水相に移動させて電解採取によって回収し、また、溶媒中のニッケルも同様に逆抽出および電解採取により回収可能である。 [0045](リチウム回収工程) コバルト/ニッケル回収工程の後、リチウムが残っている場合は、水相のリチウムを、たとえば、炭酸化して炭酸リチウムとして回収することができる。」 d 甲5の記載事項 本願の優先日前に公知となった甲5には、「リチウムイオン電池リサイクル原料からの金属の回収方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。 (a)「【請求項1】 リチウムと、マンガンと、ニッケル及びコバルトのうちの一種以上の元素とを含むリチウムイオン電池リサイクル原料から、対象金属を回収する方法であって、 リチウムイオン電池リサイクル原料を酸のみと接触させて、対象金属を浸出させるとともに、マンガンの少なくとも一部を残渣中に残す浸出工程と、浸出工程で得られた浸出後液から残渣を分離させて分離後液を得る分離工程と、前記分離後液から対象金属を回収する回収工程とを有する、リチウムイオン電池リサイクル原料からの金属の回収方法。 【請求項2】 前記対象金属が、ニッケル及びコバルトのうちの一種以上である、請求項1に記載のリチウムイオン電池リサイクル原料からの金属の回収方法。 【請求項3】 前記リチウムイオン電池リサイクル原料が、ニッケル及びコバルトを含み、 前記回収工程で、コバルト、ニッケル、リチウムの順に回収する、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池リサイクル原料からの金属の回収方法。 【請求項4】 前記回収工程で、コバルト及びニッケルを溶媒抽出により回収する、請求項3に記載のリチウムイオン電池リサイクル原料からの金属の回収方法。 【請求項5】 前記回収工程で、コバルト及びニッケルを中和により回収する、請求項3に記載のリチウムイオン電池リサイクル原料からの金属の回収方法。」 (b)「【0054】 以上に述べたところでは、溶媒抽出法による回収工程の具体例を説明したが、この他の公知の方法によっても回収することができる。 たとえば、分離後液に鉄、アルミニウム、銅等を含む場合には、鉄、アルミニウムについては、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液を添加して水酸化物で除去し、銅については水硫化ソーダ(NaSH)を添加して硫化物で除去することができる。分離除去した溶液を前述した溶媒抽出にて分離しても良いが、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液を添加して中和することにより、コバルト及びニッケルとリチウムとを分離することもでき、コバルト及びニッケルを回収することができる。」 e 甲16の記載事項 本願の優先日前に公知となった甲16には、「PROCESSES FOR EXTRACTING METALS FROM LITHIUM-ION BATTERIES」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。なお、当審訳は、甲16の対応公表公報である特表2022-507019号公報(甲17)の記載に基づくものである。 (a)「 [図:0001410182000002.jpg] [図:0001410182000003.jpg] 」 (当審訳: 【0041】 本開示は、一般に、使用済みリチウムイオン電池(LIB)から1つ以上の金属を抽出するための1つ以上のプロセスを対象とする。LIBは、(例えば、LIBを細断することによって)黒色塊を形成するように処理されてもよく、これにより、LIBからの1つ以上の金属のより効率的な抽出が容易になる。 【0042】 LIBは、一般に、正極活物質(CAM)を含むカソード、及び黒鉛を含むアノードを含む。CAMは、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガン、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上の金属を含む。LIBはまた、鉄、アルミニウム、銅、リン、黒鉛、プラスチック、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上の他の成分を含んでもよい。したがって、一態様において、黒色塊は、CAM及び1つ以上の他の成分を含む。 A.酸浸出 【0043】 一態様において、プロセスは、1つ以上の金属、液体、酸、及び1つ以上の他の成分を含む組み合わせを調製することを含む。1つ以上の金属及び1つ以上の他の成分は、上述の通りLIBから得られてもよい。) (b)「 [図:0001410182000004.jpg] 」 (当審訳: B.pH調整 【0054】 また、このプロセスは、アルミニウムを含む沈殿物(例えば、アルミニウムを含む1つ以上の化合物)を形成し、酸浸出液から溶解したアルミニウム(Al3+)の大部分(すなわち、≧90%)を取り除くために、酸浸出液を酸浸出液のpHを調整するように適合された塩基と接触させることを含む。例えば、酸浸出液は、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)を含む沈殿物を形成するのに十分な条件下で、水酸化リチウム(LiOH)を含む塩基溶液と接触させてもよい。) (c)「 [図:0001410182000005.jpg] [図:0001410182000006.jpg] 」 (当審訳: C.鉄及びマンガンの除去 【0060】 チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)は、還元剤であるため、酸浸出工程からの実質的に全ての鉄は、他の金属とともにFe(II)として酸浸出液中に残存してもよく、これらの一部は、遷移金属(例えば、コバルト、ニッケル、及びマンガン)とすることができる。関与する金属イオン対の酸化還元電位は、概して以下のような傾向を示した。 Fe(III)/Fe(II)<MnO2/Mn(II)<Co(III)/Co(II)<Ni(III)/Ni(II) 【0061】 したがって、Fe(II)及びMn(II)は、酸浸出液から選択的に酸化され、沈殿され、除去することができる。したがって、このプロセスは、酸浸出液を酸化剤と接触させることを含む。好適な酸化剤の例としては、過マンガン酸塩アニオン(MnO4-)、オゾン、硝酸、濃縮硫酸(例えば、約95重量%超)、ハロゲン、過塩素酸塩、亜塩素酸塩、及び前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせの塩類からなる群から選択される1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。精製ならびにFe(II)及びMn(II)除去の目的のために、過マンガン酸塩の塩類が好適な選択肢である。過マンガン酸塩の塩類の例としては、過マンガン酸ナトリウム(NaMnO4)、過マンガン酸カリウム(KMnO4)、前述のもののうちの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選択される1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。) (d)「 [図:0001410182000007.jpg] [図:0001410182000008.jpg] 」 (当審訳: D.溶媒抽出 【0070】 A~Cの工程に続いて、酸浸出液は、コバルト、ニッケル、及びリチウムを含む。コバルト及びニッケルは、物理的及び化学的特性が非常に類似しているため、分離することが難しいとされている。したがって、天然資源中にはコバルト及びニッケルが共存していることが多く、溶媒抽出は、これら2つを分離するための方法として広く受け入れられている。 【0071】 したがって、一態様において、本プロセスは、酸浸出液を、酸浸出液からコバルトを抽出して有機混合物/水性混合物を形成するように適合された溶媒と接触させることを含む。溶媒抽出プロセスには、CoをNi水溶液から分離する(すなわち、抽出する)ことと、Coとともに共抽出された不純物を除去する(すなわち、スクラビングする)ことと、Co水溶液を生成し、有機物を再生成する(すなわち、ストリッピングする)ことと、を含む。 【0072】 CYANEX(登録商標)272は、Solvay(登録商標)による市販の溶媒であり、ニッケル溶液からコバルトを抽出するために使用され得る。しかしながら、CYANEX(登録商標)272は、銅、アルミニウム、鉄、及びリンの中でCoについてはあまり選択性がない。これが酸浸出工程の開始時にチオ硫酸ナトリウムを使用する理由の1つである。これらの不純物(すなわち、Cu、Al、Fe、及び/またはP)が酸浸出液から除去されるか、または酸浸出液中で還元されると、酸浸出液からのCo及びNiの分離は、概してかなり簡単である。溶媒であるCYANEX(登録商標)272は、再生成及び再使用することができるため、全体的に、コバルト、ニッケル、及びリチウムの損失はほとんどなく、溶媒に関連する費用も最小限で済む。 【0073】 CYANEX(登録商標)272中の有効成分は、以下に示すように、プロトンを放出して抽出したイオンと交換するホスフィン酸(例えば、ジアルキルホスフィン酸)を含有する。 【数4】 [図:0001410182000009.jpg] 【0074】 抽出選択性は、水性相のpHに依存するため、水酸化リチウム(LiOH)を含む塩基溶液などの塩基の連続添加は、抽出工程全体中に所望のpHを維持するために使用される。一態様において、pHは、約4.0~約5.5の範囲内にある。pHは、約5~約5.5の範囲内にあってもよい。pHは、約5であってもよい。 【0073】 一態様において、有機溶媒は、抽出中、灯油中のCYANEX(登録商標)272を含む溶液である。抽出されるコバルトの量に応じて、様々な濃度のCYANEX(登録商標)272、及び様々な体積比の有機相と水性相(O/A)を使用してもよく、これは、本開示を考慮して当業者には周知であるべきである。例えば、2重量%~5重量%のCoを含む酸浸出液について、約2~約6の範囲の初期O/Aを有する、約0.5M~約1M(すなわち、約17重量%~約35重量%)のCYANEX(登録商標)272を使用してもよい。5重量%のCo溶液は、典型的には、LCOタイプのLIBから生成される。この期間中、有機混合物/水性混合物に、LiOH及び/またはNaOHを含むアルカリ溶液などのアルカリ塩基を連続的に添加して、pHを約5~約5.5の範囲内に維持する。) f 甲18の記載事項 本願の優先日前に公知となった甲18には、「リチウムイオン2次電池回収物からの炭酸リチウムの製造方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。 (a)「【0012】 第2工程(洗浄液からのニッケル、リチウム分離工程) 第1工程で得られた洗浄液からのニッケルの抽出剤としては有機溶媒を用いる。有機溶媒は、例えばカルボン酸を用いる。この抽出剤を炭化水素系溶剤で希釈して調整した溶媒と、ニッケル、リチウムを含む上記洗浄液を混合しニッケルの溶媒抽出を行う。 ニッケル抽出時の平衡pHは6-8が好ましい。これよりpHが高いと有機相中にリチウムが抽出されてしまい、水相中のリチウム濃度が低下してしまう。また、これよりpHが低いと有機相中へのニッケル抽出量が低下してしまい、水槽中のニッケルが十分分離できない。より好ましくは平衡pH7-7.5でニッケルの抽出を行うのが良い。 【0013】 第3工程(中和工程) ニッケル抽出時は抽出剤から水素イオンが放出されるので、溶液のpHが低下してくる。このためアルカリ剤を添加し、pHを保持しながらニッケルの抽出を行う。使用するアルカリ剤は、アンモニア水または水酸化リチウムを用いる。これによりNa等の不純物が、製品である炭酸リチウム中に混入することを未然に防止する。」 (イ)上記(ア)a~fにそれぞれ摘記した事項を考慮すると、リチウムイオン電池のリサイクル原料からコバルト、ニッケル等の有価金属を分離回収する方法として、「溶媒抽出」による方法は、中和により水酸化物として沈殿させる方法と並んで、本願優先日当時既に周知の技術であったと認められる。 (ウ)また、上記(ア)e、fに摘記した事項を考慮すると、有価金属を溶媒抽出により分離回収する際に、当該有価金属を含む溶液のpHを所定の範囲に維持することは通常行われることにすぎず、水酸化リチウムも、溶媒抽出の溶液にpHを維持するために添加されるアルカリ剤として、通常使用されるものにすぎない。 (エ)しかしながら、上記(ア)に摘記した甲2~甲5、甲16及び甲18の記載のいずれを参照しても、水酸化リチウムを添加した酸溶解液から、活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を分離し、残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程を「溶媒抽出」により行い、かつ「イオン交換膜を用いて第1のリチウム塩水溶液を電解し」て得られる「水酸化リチウム水溶液の一部を」当該「溶媒抽出」に用いることについての記載乃至示唆を見出せない。 この点については、甲6~15、甲17、甲19、甲20の記載、及び本願優先日当時の技術常識を考慮しても、同様である。 (オ)そうすると、甲1発明において、水酸化リチウムを添加した酸溶解液から、活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属であるCoを分離し、残液として第1のリチウム塩水溶液を得るための、上記h)の方法、すなわち、Al、Fe等の金属イオンを水酸化物として析出させ分離した後の処理液に更にLiOH水溶液を噴霧添加し、pHを10以上に上げ、Co(OH)2を析出させ、これを固液分離して回収する方法に替えて、上記(イ)の溶媒抽出による方法を採用するとともに、溶媒抽出の際のpHを所定の範囲とするために、「濃縮したリチウムの一部」を「LiOH水溶液」として上記溶媒抽出に利用する構成とする動機付けがあるとはいえない。 (カ)したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (キ)よって、本件発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件発明2について ア 本件発明2と甲1発明との対比 (ア)本件明細書の【0004】に「本願において、廃リチウムイオン電池とは、電池製品としての寿命が消尽した使用済みのリチウムイオン電池、製造工程で不良品等として廃棄されたリチウムイオン電池、製造工程において製品化に用いられた残余の正極・負極材料等を意味する。」と記載されていることを考慮すると、甲1発明において、リサイクルに供せられる「リチウムイオン二次電池」は、本件発明2の「廃リチウムイオン電池」に相当する。 (イ)甲1発明の「リチウムイオン二次電池のリサイクル方法を実施するためのシステム」は、リチウムイオン二次電池から最終的に「Li」を「炭酸ナトリウムNa2CO3を加えて固形物として回収」(上記k)参照。)するシステムであるから、本件発明2の「廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム」に相当する。 (ウ)甲1発明のa)~f)の各工程を経て、「主成分としてLi+、Co2+、SO42-、他に不純物としてCu2+、Fe2+、Al3+等が溶解している溶液」を得、さらに「この酸処理液を固液分離して樹脂などの溶解しないものを除いた後、電解透析に導入してCuが対Coで1ppm(重量比)以下になるまで電解を行」って、「Cuを除去した後の処理液」を得る工程は、本件発明2の「廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸に溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程」に相当する。 (エ)甲1発明のg)の工程における「Cuを除去した後の処理液にLiOH水溶液を噴霧添加し、pHを6.0まで上げ」る工程は、本件発明2の「該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程」に相当する。 (オ)甲1発明の「g)・・・(略)・・・Co、Niおよびアルカリ金属以外のAl、Fe等の金属イオンを水酸化物としてその大部分を析出させ、これらを固液分離して除去し、h)Al、Fe等の金属イオンを水酸化物として析出させ分離した後の処理液に更にLiOH水溶液を噴霧添加し、pHを10以上に上げ、Co(OH)2及びNi(OH)2を析出させ、これを固液分離して回収し、i)カチオンとしてLi+のみが含まれている分離後の溶液」を得る工程と、本件発明2の「水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を溶媒抽出により分離し、該溶媒抽出の残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程」とは、「水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を」「分離し、」「残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程」である点で共通する。 (カ)甲1発明において、「i)カチオンとしてLi+のみが含まれている分離後の溶液を、フッ素系カチオン分離膜を用い、電解透析にてLi+を溶液中から分離し、硫酸を同時に回収」する工程を実施することにより、「LiOHaq」(本件発明2の「水酸化リチウム水溶液」に相当)及び「H2SO4aq」(本件発明2の「酸」に相当)が得られていること、また、「m)LiやSO4を除去したあとの水」には、除去しきれないLi+やSO42-が含まれることから、当該「水」が本件発明2の「第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液」に相当することを考慮すると、甲1発明の上記i)の工程は、本件発明2の「イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程」に相当する。 (キ)甲1発明の「k)濃縮したリチウムの一部は再度アルカリ試薬として同工程で使用」することについて、図4を参照すると、そのg)、h)の工程で噴霧添加される「LiOH水溶液」として再利用されることが理解できるから、この点は、本件発明2の「該水酸化リチウム水溶液の一部を酸溶解液に添加する水酸化リチウムとして用いる」点に相当する。 (ク)甲1発明の「l)硫酸の回収液は再度電池処理工程の放電工程および酸溶解工程に使用」することについて、図4を参照すると、そのe)の工程で重量物が浸漬される「H2SO4」として再利用されることが理解できるから、この点は、本件発明2の「該酸を該鉱酸として用いる」点に相当する。 (ケ)そうすると、本件発明2と甲1発明とは、 「廃リチウムイオン電池を前処理して得られた活物質粉を鉱酸にて溶解して少なくともリチウムを含む該活物質の酸溶解液を得る工程と、 該酸溶解液に水酸化リチウムを添加する工程と、 水酸化リチウムを添加した該酸溶解液から、該活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を分離し、残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程とを備える廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムであって、 イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し、水酸化リチウム水溶液と、酸と、該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液とを得る工程と、 該水酸化リチウム水溶液の一部を酸溶解液に添加する水酸化リチウムとして用いるか、又は該溶媒抽出に用い、該酸を該鉱酸として用いる工程とを備えることを特徴とする廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システム。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点2> 水酸化リチウムを添加した酸溶解液から、活物質粉に含まれる金属のうち、リチウムを除く少なくとも1種の金属を分離し、残液として第1のリチウム塩水溶液を得る工程について、本件発明2は、この工程を「溶媒抽出」により行うのに対して、甲1発明は、LiOH水溶液を噴霧添加し、pHを調整することにより、Co、Al、Fe等のLi以外の金属イオンを水酸化物として析出させ、これらを固液分離して除去して、カチオンとしてLi+のみが含まれている分離後の溶液を得ている点。 <相違点3> 本件発明2は、「イオン交換膜を用いて該第1のリチウム塩水溶液を電解し」て得られた「該第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な」「第2のリチウム塩水溶液を濃縮し、該第1のリチウム塩水溶液に添加する」工程を備えているのに対して、甲1発明は、そのような工程を備えていない点。 イ 相違点についての検討 (ア)事案に鑑み、上記相違点3について検討する。 a 上記(1)アに摘記した甲1の【0058】には、「LiやSO4を除去した後の水も再度工程の工業用水として利用することもできる。」との記載はあるが、この「LiやSO4を除去した後の水」が、上記ア(カ)において検討したとおり、本件発明2の「第1のリチウム塩水溶液よりも希薄な第2のリチウム塩水溶液」に相当するとしても、甲1には、これを電解透析前の溶液に添加することについての記載も示唆も見当たらない。 b そうすると、甲2~甲20の記載を考慮しても、甲1発明において、「LiやSO4を除去した後の水」を濃縮して、電解透析前の溶液に添加する動機付けがあるとはいえない。 c したがって、甲1発明において、上記相違点3に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (イ)よって、上記相違点2及び本件発明2によって奏される効果について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明及び甲2~甲20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)本件発明3~7について ア 本件発明3~7と甲1発明とを対比すると、これらは、少なくとも上記相違点3の点で相違するところ、上記相違点3については、上記(4)イ(ア)において検討したとおりである。 イ したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件発明3~7は、甲1発明及び甲2~甲20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (6)小括 よって、本件発明1~7は、甲1発明及び甲2~甲20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、取消理由1及び申立理由1によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 2 取消理由2(明確性)について (1)本件訂正により、本件特許の請求項3~7の記載は、「該水酸化リチウム水溶液の一部を・・・該溶媒抽出に用い」と訂正されたため、日本語としての不明確さは是正され、その結果、特許を受けようとする発明は明確なものとなった。 (2)したがって、本件特許の請求項3~7の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえ、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、取消理由2によっては、本件特許の請求項3~7に係る特許を取り消すことはできない。 第7 むすび 以上のとおり、令和 5年 2月 3日付けで通知した取消理由、令和 5年 7月31日付けで通知した取消理由(決定の予告)及び特許異議の申立ての理由のいずれによっても、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-701015

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