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特許異議申立

2023-701010

金属元素含有物質から金属を回収する方法

審判番号
2023-701010
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-576123
登録番号
7243947
請求日
2023年09月22日
審決日
2024年09月30日
公報発行日
2025年01月31日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社IHI
  • 【権利者代理人】長谷川 芳樹
  • 【権利者代理人】黒木 義樹
  • 【権利者代理人】小松 秀輝
  • 【異議申立人】森川 聡
審判長/審判官
  • 審判長 粟野 正明
  • 審判官 相澤 啓祐
  • 審判官 佐藤 陽一
分類
P1652.121-YAA(C22B) / P1652.536-YAA(C22B) / P1652.537-YAA(C22B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7243947号発明「金属元素含有物質から金属を回収する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7243947号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第7243947号の請求項1、4ないし6に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7243947号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、2022年(令和 4年) 8月25日(優先権主張:令和 3年 8月31日)を国際出願日とする出願(特願2022-576123号。以下、「本願」という。)であって、令和 5年 3月13日にその特許権の設定登録がされ、同年 3月22日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その請求項1、4~6に係る特許に対し、同年 9月22日に特許異議申立人である森川 聡(以下、「申立人」という。)によって特許異議の申立てがされ、以後の経緯は以下のとおりである。 令和 6年 1月31日付け 取消理由通知書 同年 4月 2日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者) なお、令和 6年 5月31日付けで申立人に対して訂正請求があった旨を通知し、期間を指定して意見を求めたが、申立人からの応答はなかった。 第2 本件訂正請求について 1 請求の趣旨及び訂正の内容 令和 6年 4月 2日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであり、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。 (1)訂正事項 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「金属元素含有物質から金属を回収する方法」と記載されているのを、「金属元素含有物質から金属を回収する方法であって、回収する前記金属が、金、パラジウム、白金、ロジウム、銀、スズ、銅、及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも一種である、方法」に訂正する。 請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~6についても、同様に訂正する。 (2)一群の請求項について 本件訂正前の請求項1~6について、本件訂正前の請求項2~6はそれぞれ本件訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~6は一群の請求項である。 したがって、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 2 訂正の適否についての当審の判断 (1)訂正の目的の適否について 上記1(1)の訂正事項に係る訂正は、本件訂正前の請求項1に記載の「金属元素含有物質から」「回収する」「金属」について、その種類が特定されていなかったものを、「金、パラジウム、白金、ロジウム、銀、スズ、銅、及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも一種」に特定して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 (2)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について 上記1(1)の訂正事項に係る訂正は、上記(1)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (3)新規事項の追加の有無について 金属元素含有物質から回収する金属について、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0016】には、「金属元素含有物質に含まれる金属元素は、例えば、金、銀、銅、スズ、コバルト、鉄、シリコン、ニッケル、白金、パラジウム、ロジウム、又はレアメタルであってよく」と記載されており、同【0120】には、試験例13(実施例18)に係る説明として、「金属源として電子基板を用いた場合は、金の他に銀、スズ、銅、及びコバルトも回収することができた。」と記載されており、同【0135】には、試験例16に係る説明として、「ロジウム、パラジウム、白金、及び金のいずれの金属も、藍藻に吸着することができた。」と記載されているから、上記1(1)の訂正事項に係る訂正は、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 (4)独立特許要件について ア 本件においては、本件訂正前の請求項1、4~6について特許異議の申立てがされているので、本件訂正前の請求項1、4~6に対応する、本件訂正後の請求項1、4~6に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 イ 一方、本件訂正前の請求項2、3について特許異議の申立てがされておらず、上記(1)のとおり、上記1(1)の訂正事項に係る訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるため、本件訂正前の請求項2、3に対応する、本件訂正後の請求項2、3に係る発明については独立特許要件が課されるところ、以下の第5の1(3)、2(7)、3(3)に示すように、同発明については、進歩性を有し、かつ、サポート要件及び実施可能要件を満たし、他の記載不備も存在しないため、独立特許要件を満たす。 3 本件訂正請求についてのむすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項及び第7項に適合するものである。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1~6に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、請求項1~6に係る発明をそれぞれ「本件発明1」~「本件発明6」といい、これらを総称して「本件発明」という。 「【請求項1】 金属元素含有物質に硝酸及び塩を含む溶解液を接触させて、金属イオン又は金属錯イオンを含む溶液を得る工程と、 金属イオン又は金属錯イオンを含む前記溶液に藻類を浸漬して金属を生成させる工程と、を含み、 前記溶解液中の硝酸の濃度は2~50質量%であり、 前記溶解液中の前記塩の濃度は0.5質量%以上である、金属元素含有物質から金属を回収する方法であって、 回収する前記金属が、金、パラジウム、白金、ロジウム、銀、スズ、銅、及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも一種である、方法。 【請求項2】 前記藻類がレプトリングビア属の藍藻である、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 レプトリングビア属の前記藍藻が、受託番号FERM BP-22385として寄託されたレプトリングビア属の藍藻である、請求項2に記載の方法。 【請求項4】 前記溶解液中の硝酸の濃度が3~20質量%である、請求項1又は2に記載の方法。 【請求項5】 前記溶解液中の塩酸の濃度が20質量%以下である、請求項1又は2に記載の方法。 【請求項6】 前記金属元素含有物質が、金、パラジウム、白金、及びロジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、 金属イオン又は金属錯イオンを含む前記溶液が、金、パラジウム、白金、及びロジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属のイオン又は錯イオンを含む溶液であり、 回収する前記金属が、金、パラジウム、白金、及びロジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の方法。」 第4 申立理由及び取消理由の概要 1 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として、本願の優先日前に公知となった以下の(4)の甲第1、2号証(以下、それぞれ「甲1」等という。)を提出し、以下の申立理由1~3により、本件訂正前の請求項1、4~6に係る特許を取り消すべきである旨主張している。 (1)申立理由1(進歩性、取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1、4~6に係る発明は、甲1に記載された発明、及び甲2に記載されている周知技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2(サポート要件、取消理由として一部採用) 本件明細書の【実施例】には、金を含む溶液に受託番号FERM BP-22385として寄託されたレプトリングビア属の藍藻を浸漬して金を生成させ、金を回収する方法のみが記載されている。 さらに本件明細書には、金以外の金属イオン又は金属錯イオンを含む溶液に前記藍藻以外の藻類を浸漬して金以外の金属を生成させ、当該金属を回収して、本件発明の課題(本件明細書の【0004】)を解決できる根拠も記載されていない。 したがって、本件明細書の【実施例】に記載された前記金を回収する方法を、金属イオン又は金属錯イオンを含む溶液に藻類を浸漬して金属を生成させ、当該金属を回収する方法にまで一般化ないし拡張できないから、本件訂正前の請求項1、4~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。 よって、本件訂正前の請求項1、4~6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由3(実施可能要件、取消理由として一部採用) 上記(2)のとおり、本件明細書の【実施例】に記載された前記金を回収する方法以外の金属を回収する方法が本件訂正前の請求項1、4~6に係る発明に包含されているにもかかわらず、本件明細書には、本件明細書の【実施例】に記載された前記金を回収する方法以外の金属を回収する方法であって、本件訂正前の請求項1、4~6に係る発明の前記課題を解決できる金属を回収する方法について、当業者が実施し得る程度に記載されていない。 よって、本件訂正前の請求項1、4~6に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、本件訂正前の請求項1、4~6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)証拠方法 甲1:特許第6826996号公報 甲2:Masashi Hojo et al, "Can pure gold be dissolved in seawater mixed with aqueous nitric acid?", Journal of Molecular Liquids, 194(2014), 第68~76頁 2 取消理由の概要 当審は、上記1の各申立理由のうち、申立理由2、3のそれぞれ一部を採用し、令和 6年 1月31日付けで以下の取消理由1、2を通知した。 (1)取消理由1(サポート要件) 本件明細書の発明の詳細な説明の記載を踏まえても、藍藻を始めとする藻類が、あらゆる金属のイオン又は錯イオンを還元して金属を生成する能力を有すると認識することはできないし、そのような技術常識が本願優先日に存在したとも認められないから、本件訂正前の請求項1、4~6に係る発明のうち、回収する金属の種類を特定していない本件訂正前の請求項1、4、5に係る発明は、「金属を溶解する溶液中での藻類の溶解が低減された、金属元素含有物質から金属を回収する方法」を提供するという課題を解決できない態様を含むものであるといえる。 よって、本件訂正前の請求項1、4、5の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)取消理由2(実施可能要件) 本件明細書の発明の詳細な説明には、回収する金属が、本件訂正前の請求項6に記載の「金、パラジウム、白金、及びロジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種」以外である場合にも、「金属を溶解する溶液中での藻類の溶解が低減された、金属元素含有物質から金属を回収する方法」を提供できることが記載されているとは認められない。 よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正前の請求項1、4、5に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでなく、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 第5 当審の判断 以下に述べるとおり、取消理由通知書に記載した取消理由1、2及び特許異議申立書に記載された申立理由1~3によっては、本件特許の請求項1、4~6に係る特許を取り消すことはできない。 1 申立理由1(進歩性) (1)甲1、2の記載事項及び甲1に記載された発明 ア 甲1の記載事項 甲1には、「金属選択回収剤、金属回収方法、および、金属溶出方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。なお、下線は当審が付し、「・・・」は記載の省略を示す。以下同様。 (ア)「【請求項8】 シアニディウム類の死細胞、細胞表層、若しくは当該細胞表層を模した人工物から選ばれるシアニディウム類由来物、又はコプロポルフィリン若しくはフェオフィチンから選ばれるポルフィリンを、金属溶液中に添加する添加工程と、 前記シアニディウム類由来物又は前記ポルフィリンによって、前記金属溶液中から金属を回収する回収工程と、を含む、金属回収方法。 【請求項9】 前記回収工程が、前記金属溶液中から、貴金属及び/又はレアメタルを選択的に回収する工程である、請求項8に記載の金属回収方法。 【請求項10】 前記回収工程は、酸性条件下で、卑金属混在溶液から、貴金属及び/又はランタノイドを選択的に回収する、請求項8又は9に記載の金属回収方法。 【請求項11】 前記回収工程は、各元素のイオン半径の違いと錯体の安定度に基づき、ランタノイドと鉄を分離して選択的に回収する、請求項10に記載の金属回収方法。 【請求項12】 前記ポルフィリンが貴金属を還元させることによりナノ粒子を形成させる還元工程を更に含む、請求項8~11のいずれか一項に記載の金属回収方法。 【請求項13】 前記回収工程が、前記シアニディウム類由来物を用いた吸着により金イオンを回収するものであり、 前記ポルフィリンの還元作用による金イオンの還元工程を更に含む、請求項8~12のいずれか一項に記載の金属回収方法。」 (イ)「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 しかしながら、生物や生物吸着剤による金属の回収は、金属の選択的回収や精製が難しく実用化の妨げになっている、という問題がある。 【0008】 本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、従来の方法よりも低コストで高効率に行うことができる、金属選択回収剤、金属回収方法、および、金属溶出方法を提供するものである。」 (ウ)「【発明の効果】 【0031】 本発明によれば、金属の選択的回収や溶出や精製等を低コストで効率よく行える、金属選択回収剤、金属回収方法、および、金属溶出方法を提供することができる、という効果を奏する。」 (エ)「【0034】 [実施の形態] 本実施の形態にかかる、金属選択回収剤、金属回収方法、および、金属溶出方法の概要について説明する。上述のように、生物や生物吸着剤による金属の回収は、化学的方法や工学的方法に比べて、低濃度の金属回収に有用であることや、低コストで化学薬品の減量を可能にする環境負荷が低い方法であるものの、金属の選択的回収や精製が難しく実用化の妨げになっていた。そのため、化学的方法、工学的方法、生物学的方法のいずれによっても、数十ppm以下の貴金属イオンは回収が難しく、金属廃液として廃棄されている。 【0035】 そこで、本願発明者は、鋭意検討の結果、シアニディウム類のGaldieria sulphuraria(以下「G.sulphuraria」と呼ぶ。)の紅藻が、培養条件に応じて、ネオジム磁石廃材から、希土類の溶出や細胞への回収を行うことを見出した。・・・ ・・・ 【0046】 本願発明者は、鋭意検討の結果、シアニディウム類の藻類が、低濃度の貴金属を高効率で回収することを発見した(後述の実施例3,4参照)。この発見に基づいて、本願発明者は、金とパラジウムを含む金属廃液(王水溶液)の酸濃度を0.5M程度にすることで、シアニディウム類の藻類を利用して、貴金属を高い効率で選択的に藻類の細胞に回収し(後述の実施例5参照)、シアニディウム類の死細胞、細胞表層、当該細胞表層を模して作製された人工物、であるシアニディウム類由来物から貴金属のみを抽出・精製する方法を考案するに至った(後述の実施例6参照)。 【0047】 これら知見に基づく本発明の一実施形態は、紅藻の藻体や紅藻の細胞表層などの藻体吸着剤等のシアニディウム類由来物に回収された金やパラジウム等の貴金属を溶出させるための、酸性溶液である金属溶出用組成物を提供することである。換言すれば、本発明の一実施形態は、シアニディウム類由来物に回収された金やパラジウム等の貴金属を溶出させる金属溶出方法として、酸性溶液である金属溶出用組成物を、紅藻の藻体または藻体吸着剤に添加する工程を含むことを特徴とする。金属溶出用組成物としては、特に限定はされないが、溶出の効率を高めるという観点からは、王水を含む酸性溶液を用いることが好ましい。また、酸性溶液の酸濃度としては、特に限定はされないが、溶出の効率を高めるという観点からは、0.1M~10Mが好ましく、0.1M~1.0Mがより好ましく、0.3M~0.8Mが特に好ましい。また、本発明の一実施形態は、シアニディウム類由来物に回収された金属を溶出させるための、アンモニアとアンモニウム塩の混合液を含む金属溶出用組成物を、紅藻の藻体または藻体吸着剤に添加する工程を含むことを特徴とする(後述の実施例6参照)。 【0048】 これにより、紅藻の藻体や紅藻の死細胞等を含むシアニディウム類由来物に吸着された貴金属イオンを、高純度で溶出させることができ、バイオリーチングやバイオソープション等の方法を一層改善することができる。したがって、紅藻を用いて従来よりも低コストで高効率に貴金属を回収・精製することに資することができる。」 (オ)「【0077】 [実施例5] つづいて、複数の金属イオン存在下における選択的回収に関する実施例5について以下に説明する。 【0078】 酸濃度0.5M程度の王水に70ppmの鉄、360ppmの銅、5ppmのプラチナ、60ppmの金、60ppmのニッケル、6ppmの錫、18ppmのパラジウム、12ppmの亜鉛を含む金属廃液希釈液に、7mg相当のG.sulphurariaの細胞を添加(+Cell)、もしくは、非添加(-Cell)の状態で、30分インキュベートを行った。 【0079】 培養後、遠心により、細胞を沈殿させ、その上清の各金属濃度を測定し、除去率を求めた(下表2)。下表は、希釈王水を含む金属廃液からのAu3+とPd2+の回収効率を示す表である。ここで、王水は、57ppmのFe2+/3+,480ppmのCu2+,4ppmのPt4+,53ppmのAu3+,46ppmのNi2+,5ppmのSn2+,12ppmのPd2+,11ppmのZn2+,0.56Mの酸にて調製した。 【表2】 [図:0001418213000001.jpg] 【0080】 その結果、金とパラジウムのみ、高い効率で細胞に回収された。・・・」 イ 甲1に記載された発明 特に上記ア(オ)に摘記した実施例5の「金属回収方法」に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。 「57ppmのFe2+/3+、480ppmのCu2+、4ppmのPt4+、53ppmのAu3+、46ppmのNi2+、5ppmのSn2+、12ppmのPd2+、11ppmのZn2+、0.56Mの酸にて調製した酸濃度0.5M程度の王水に70ppmの鉄、360ppmの銅、5ppmのプラチナ、60ppmの金、60ppmのニッケル、6ppmの錫、18ppmのパラジウム、12ppmの亜鉛を含む金属廃液希釈液に、7mg相当のG.sulphurariaの細胞を添加の状態で、30分インキュベートを行い、Au3+とPd2+の回収効率がそれぞれ90%と95%である金属回収方法。」 ウ 甲2の記載事項 甲2には、次の記載がある。なお、以下の(ア)の翻訳は、申立人による抄訳を採用した。 (ア)「 [図:0001418213000002.jpg] [図:0001418213000003.jpg] 」(第70ページ左欄第39行~同右欄第4行) (翻訳:次に、金板の代わりに金線を用いて、HNO3水溶液への金の溶解を調べた。図2は、金線片(19.7±0.5mg、直径0.25mm)が、さまざまな塩化物塩を含む2.0mol dm-3 HNO3溶液20mL中、60℃で完全に溶解する時間を示している。塩濃度が増加すると(1.0mol dm-3から)、一般に、完全な溶解時間は短縮される。しかし、5.0mol dm-3 LiClを超えると興味深い逆転傾向が観察される。2mol dm-3 HNO3溶液への金の溶解には、7.0または9.0mol dm-3 LiClの存在下では、5.0mol dm-3 LiClよりも長い時間が必要である。最も顕著な逆転効果は、CaCl2によって示される。溶解時間は約2.5mol dm-3 CaCl2で最小値に達し、塩の濃度が3.0molに達すると再び長くなる。) (イ)「 [図:0001418213000004.jpg] 」(第70ページ右欄) (翻訳:図2 さまざまな塩化物塩を含む2.0mol dm-3 HNO3に金線(19.7±0.5mg)が60℃で完全に溶解する時間) (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明では、「酸濃度0.5M程度の王水」を「57ppmのFe2+/3+、480ppmのCu2+、4ppmのPt4+、53ppmのAu3+、46ppmのNi2+、5ppmのSn2+、12ppmのPd2+、11ppmのZn2+、0.56Mの酸にて調製し」た上で、「70ppmの鉄、360ppmの銅、5ppmのプラチナ、60ppmの金、60ppmのニッケル、6ppmの錫、18ppmのパラジウム、12ppmの亜鉛を含む金属廃液希釈液」としているから、当該「金属廃液希釈液」は、本件発明1の「金属イオン又は金属錯イオンを含む溶液」に相当する。 (イ)甲1発明では、「金属廃液希釈液に、7mg相当のG.sulphurariaの細胞を添加の状態で、30分インキュベートを行」っており、上記(1)ア(エ)に摘記したとおり、「G.sulphuraria」は紅藻であるから、上記(ア)の点も踏まえると、上記事項は、本件発明1の「金属イオン又は金属錯イオンを含む前記溶液に藻類を浸漬」することに相当する。 (ウ)甲1発明において、回収する金属が金属元素含有物質からのものであることは自明であるから、甲1発明の「Au3+とPd2+の回収効率がそれぞれ90%と95%である金属回収方法」は、本件発明1の「金属元素含有物質から金属を回収する方法であって、回収する前記金属が、金、パラジウム、白金、ロジウム、銀、スズ、銅、及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも一種である、方法。」に相当する。 (エ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「金属イオン又は金属錯イオンを含む溶液を得る工程と、 金属イオン又は金属錯イオンを含む前記溶液に藻類を浸漬する工程と、を含む、 金属元素含有物質から金属を回収する方法であって、 回収する前記金属が、金、パラジウム、白金、ロジウム、銀、スズ、銅、及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも一種である、方法。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1では、「金属元素含有物質に硝酸及び塩を含む溶解液を接触させて」金属イオン又は金属錯イオンを含む溶液を得るのに対し、甲1発明では、金属廃液希釈液とするための「酸濃度0.5M程度の王水」に塩が含まれるのか不明であり、金属元素含有物質に「酸濃度0.5M程度の王水を接触させて」金属廃液希釈液を得るのかも不明である点。 <相違点2> 本件発明1の「金属イオン又は金属錯イオンを含む前記溶液に藻類を浸漬して金属を生成させる工程」について、本件明細書の【0030】に「金属イオン又は金属錯イオンを含む溶液に藻類を浸漬する工程では、藻類が金属イオン又は金属錯イオンを含む溶液中で金属イオン又は金属錯イオンを還元し、金属原子を生成する。」と記載されていることを踏まえると、本件発明1は、「金属を生成させる」、すなわち「金属イオン又は金属錯イオンを還元し、金属原子を生成」させるものであるのに対し、甲1発明は、金属を金属イオンのまま回収しており、金属イオンを還元して金属原子を生成していないため、「金属を生成させる」ものでない点。 <相違点3> 本件発明1では、「溶解液中の硝酸の濃度は2~50質量%であ」るのに対し、甲1発明では、「酸濃度0.5M程度の王水」中の硝酸の濃度が不明である点。 <相違点4> 本件発明1では、「溶解液中の前記塩の濃度は0.5質量%以上である」のに対し、甲1発明では、「酸濃度0.5M程度の王水」中の塩の濃度が不明である点。 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、まず上記相違点1について検討する。 (ア)上記(1)ウ(ア)の摘記事項からみて、甲2には、2.0mol dm-3 HNO3溶液に含まれるさまざまな塩化物塩の塩濃度が増加すると、金線片がHNO3溶液中で完全に溶解する時間は短縮されるものの、所定の塩濃度を超えるとかえって溶解時間は長くなる旨(以下、「周知技術」という。)が記載されていると認められる。 (イ)そこで、甲1発明における「酸濃度0.5M程度の王水」を、甲2に記載の「塩化物塩を含むHNO3溶液」に変更する動機付けがあるか否かについて検討する。 (ウ)甲1発明の「金属廃液希釈液」については、何らかの金属元素含有物質に「酸濃度0.5M程度の王水」を直接接触させて得られたものであるのか、既に存在する金属廃液を「酸濃度0.5M程度の王水」を用いて希釈したものであるのか不明であるが、前者の場合は、一般に酸化力が高いとされる王水を、あえて甲2に記載の「塩化物塩を含むHNO3溶液」に変更する動機付けがあるとはいえず、仮に変更したときに、変更後の金属廃液希釈液中でG.sulphurariaの細胞をインキュベートすることができるのか不明であるし、後者の場合は、金属廃液の希釈の際に「酸濃度0.5M程度の王水」を用いる必要があった可能性に加え、そもそも金属元素含有物質を溶解することに用いていないから、甲2に記載の「塩化物塩を含むHNO3溶液」に変更する動機付けがあるとはいえない。 (エ)したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (オ)よって、上記相違点2~4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2に記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (カ)仮に上記(イ)の動機付けがあるとしても、上記相違点1に係る発明特定事項を備えた本件発明1によって奏される「藻類の溶解を低減することができる」との効果(本件明細書の【0006】参照)は、甲1、2のいずれにも記載も示唆もされていないから、当業者であっても予測し得ない顕著なものであると認められる。 (キ)そうすると、効果の点からみても、本件発明1は、甲1発明及び甲2に記載の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 小括 よって、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2に記載されている周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2~6について 本件発明2~6は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明及び甲2に記載されている周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2~6も同様に、甲1に記載された発明及び甲2に記載されている周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)申立理由1についてのまとめ したがって、本件発明1、4~6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、申立理由1によっては、本件特許の請求項1、4~6に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由2及び取消理由1(サポート要件) (1)本件明細書の【0002】~【0004】の記載からすると、本件発明が解決しようとする課題は、「金属を溶解する溶液中での藻類の溶解が低減された、金属元素含有物質から金属を回収する方法」を提供することであると認められる。 (2)本件訂正前の請求項1では、金属元素含有物質から回収する金属及び藻類の種類が特定されていなかったが、回収する金属の種類については、上記第2の2(1)アで検討したとおり、本件訂正によって「金、パラジウム、白金、ロジウム、銀、スズ、銅、及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも一種」に特定された。 (3)そして、これら8種類の金属については、上記第2の2(1)ウで検討したとおり、実際に回収できたことが試験例によって裏付けられている。 (4)一方、藻類の種類については、本件訂正によって特定されなかったため、本件発明1は、依然として藻類の種類を問わないものである。 (5)この点については、本件明細書の【0031】に「藻類は、金属イオン又は金属錯イオンを還元して金属を生成する能力を有する藻類であれば特に限定されず、例えば、藍藻(シアノバクテリア)、緑藻、褐藻、紅藻、又は珪藻であってよい。藻類としては、例えば、Enzyme and Microbial Technology95(2016)28-4, “A review on the biosynthesis of metallic nanoparticles (gold andsilver) Using bio-components of microalgae: Formation mechanism andapplications”の表1に記載された藻類を使用することができる。藍藻としては、例えば、レプトリングビア属(Leptolyngbya)の藍藻、及びスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)等のスピルリナ属の藍藻が挙げられる。緑藻としては、例えば、クロレラ・ブルガリス(chlorella vulgaris)が挙げられる。褐藻としては、例えば、パディナ・パヴォニカ(Padina pavonica)等のウミウチワ属の褐藻、及びカジメが挙げられる。紅藻としては、例えば、ガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)等のイデユコゴメ綱の紅藻が挙げられる。」と記載されているように、金属イオン又は金属錯イオンを還元して金属を生成する能力を有する藻類は種々のものが知られている。 (6)また、本件明細書の【0015】に「硝酸及び塩を含む溶解液の酸化力は過度に高くないため、金属元素含有物質を王水で処理した場合と比較して、得られた金属イオン又は金属錯イオンを含む溶液に藻類を浸漬したときの藻類の溶解を低減することができる。」と記載されているように、金属元素含有物質の処理に硝酸及び塩を含む溶解液を使用することにより、王水を使用する場合と比較して、藻類の種類によらず、得られた金属イオン又は金属錯イオンを含む溶液に藻類を浸漬したときの藻類の溶解を低減することができると解される。 (7)上記(5)、(6)の点を考慮すると、本件明細書の【実施例】に記載された藍藻は一例にすぎず、藻類の種類が藍藻に特定されていないからといって、そのことをもって、本件発明1が上記(1)の課題を解決することができないものであるとはいえない。 (8)よって、本件発明1は、発明の詳細な説明において、上記(1)の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえないから、本件特許の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるといえる。 (9)また、本件発明2~6は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明2~6において新たに特定される事項は、本件明細書の【0009】~【0012】、【0018】、【0024】、【0025】、【0031】及び【0032】等に記載されているから、上記(8)で検討したとおり、本件発明1が上記(1)の課題を解決することができる発明である以上、本件発明2~6も上記(1)の課題を解決することができる発明であるところ、本件特許の請求項2~6の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるといえる。 (10)したがって、本件特許の請求項1、4~6の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由2及び取消理由1によっては、本件特許の請求項1、4~6に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由3及び取消理由2(実施可能要件) (1)上記2で検討したとおり、本件訂正により、請求項1において、回収する金属の種類が「金、パラジウム、白金、ロジウム、銀、スズ、銅、及びコバルトからなる群より選ばれる少なくとも一種」に特定され、また、藻類の種類については、金属イオン又は金属錯イオンを還元して金属を生成する能力を有することが知られている種々のものを用いればよいから、本件発明1は、上記2(1)の「「金属を溶解する溶液中での藻類の溶解が低減された、金属元素含有物質から金属を回収する方法」を提供できる」ものである。 (2)よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号に適合するものである。 (3)また、本件発明2~6は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記2(9)で検討したとおり、本件発明2~6において新たに特定される事項は、本件明細書に記載されているから、上記(2)で検討したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものである以上、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明2~6の実施もすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号に適合するものである。 (4)したがって、本件特許の請求項1、4~6に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるから、申立理由3及び取消理由2によっては、本件特許の請求項1、4~6に係る特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由1、2及び特許異議申立書に記載された申立理由1~3のいずれによっても、本件特許の請求項1、4~6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1、4~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-701010

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