特許異議申立
2022-700989
回路基板
- 審判番号
- 2022-700989
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-560864
- 登録番号
- 7052935
- 請求日
- 2022年10月06日
- 審決日
- 2024年10月02日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友ベークライト株式会社
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【異議申立人】中和 正一
- 【異議申立人】松本 晃子
- 【異議申立人】古川 慎二
- 審判長/審判官
- 審判長 河本 充雄
- 審判官 松永 稔
- 審判官 中野 浩昌
- 分類
- P1651.113-YAA(H01L) / P1651.121-YAA(H01L) / P1651.536-YAA(H01L) / P1651.537-YAA(H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7052935号発明「回路基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7052935号の特許請求の範囲を、令和6年6月13日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
特許第7052935号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許第7052935号の請求項1に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2021年(令和3年)6月1日(優先権主張 令和2年6月26日)を国際出願日とする出願であって、令和4年4月4日にその特許権の設定登録がされ、令和4年4月12日に特許掲載公報が発行された。
2 その後、令和4年10月6日に特許異議申立人中和正一(以下「申立人(1)」という。)により、また、令和4年10月11日に特許異議申立人松本晃子(以下「申立人(2)」という。)、及び、特許異議申立人古川慎二(以下「申立人(3)」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされ、当審は、令和4年12月28日付けで取消理由を通知した。
それに対し、特許権者は、その指定期間内である令和5年2月10日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人(1)は令和5年3月24日に、申立人(2)及び申立人(3)は令和5年3月30日にそれぞれ意見書を提出した。
3 その後、当審は、令和5年5月24日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、特許権者は、その指定期間内である令和5年7月19日に意見書の差出、及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、令和5年8月25日に申立人(3)が、令和5年8月28日に申立人(1)が、令和5年8月30日に申立人(2)がそれぞれ意見書を提出した。
4 その後、当審は、令和5年10月20日付けで、2回目の取消理由(決定の予告)を通知し、特許権者は、その指定期間内である令和5年12月25日に意見書の提出、及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、令和6年2月16日に申立人(1)が、令和6年2月20日に申立人(3)が、令和6年2月22日に申立人(2)がそれぞれ意見書を提出した。
5 その後、当審は、令和6年4月5日付けで、3回目の取消理由(決定の予告)を通知し、特許権者は、その指定期間内である令和6年6月13日に意見書の提出、及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、令和6年7月23日に申立人(1)が、令和6年7月25日に申立人(3)が、令和6年7月30日に申立人(2)がそれぞれ意見書を提出した。
以下、令和4年10月6日に申立人(1)が提出した特許異議申立書、令和4年10月11日に申立人(2)が提出した特許異議申立書、及び、令和4年10月11日に申立人(3)が提出した異議申立書を、それぞれ申立書(1)~(3)といい、また、令和6年7月23日に申立人(1)が提出した意見書、令和6年7月30日に申立人(2)が提出した意見書、令和6年7月25日に申立人(3)が提出した意見書を、それぞれ意見書(1)~(3)という。
なお、特許権者が令和5年2月10日、同年7月19日、同年12月25日にした訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和6年6月13日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求は、特許第7052935号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、本件訂正の内容は、次のとおりである。(下線は、訂正請求書の記載のとおり。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記絶縁基板上に直接接して設けられた金属の回路パターンと、」と記載されているのを、「前記絶縁基板上に直接接して設けられた、厚みが5.0mm以下の金属の回路パターンと、」に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記回路パターンの外郭線が、上面視において半径0.2mm以上5mm以下の円弧を呈する曲線となった角部を有し、」と記載されているのを、「前記回路パターンの外郭線が、上面視において半径0.5mm以上5mm以下の円弧を呈する曲線となった角部を有し、」に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記金属が圧延銅からなり、」と記載されているのを、「前記金属が圧延銅(厚さ300μm以下の圧延銅を除く)からなり、」に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「前記樹脂の弾性率をE、」と記載されているのを、「前記樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)をE、」に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に「測定時の室温をRT、」と記載されているのを、「前記弾性率Eの測定時の室温をRT=25℃、」に訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1に「前記絶縁基板が樹脂からなり、」と記載されているのを、「前記絶縁基板が樹脂(ガラス転移温度Tgが300℃以上のものと、ガラス転移温度Tgが125℃未満のものとを除く)からなり、」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、請求項1に係る発明を特定する事項である「金属の回路パターン」について、「厚みが5.0mm以下の」との事項を付加するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものといえる。(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)
イ 新規事項の有無
本件特許に係る出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には次の記載がある。(下線は強調のために当審が付加した。)
「【0024】
回路パターン20の厚さT3の下限値は、例えば、0.3mm以上である。このような数値以上であれば、高電流を要する用途であっても、回路パターン20の発熱を抑えることができる。また、回路パターン20の厚さT3の上限値は、例えば、5.0mm以下であり、好ましくは4.0mm以下であり、さらに好ましくは3.0mm以下である。このような数値以下であれば、回路加工性を向上させることができ、また、放熱基板10全体としての薄型化を図ることができる。」
そうすると、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項であり、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではない。(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アのとおり、訂正事項1に係る訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものであり、そのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない。(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)
(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2に係る訂正は、請求項1に係る発明の、回路パターンの外郭線が有する、曲線となった角部の「円弧」の半径についての「上面視において半径0.2mm以上5mm以下」との特定事項を「上面視において半径0.5mm以上5mm以下」と、より小さい数値範囲に減縮する訂正であるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものといえる。(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)
イ 新規事項の有無
本件明細書等には次の記載がある。(下線は強調のために当審が付加した。)
「【0026】
角部27は、回路パターン20の外郭線が、上面視において半径0.2mm以上5mm以下の円弧を呈する曲線となっている。すなわち、この角部27の円弧は、図示で水平方向に延びる第1のパターン外郭線25と図示で上下方向に伸びる第2のパターン外郭線26とを繋ぐ円弧状の外郭線である。本実施形態では、右上の角部27について上記半径の円弧を呈する曲線として示しているが、回路パターン20の四隅の角部が、上記半径の円弧を呈する曲線であることが好ましい。
【0027】
角部27が呈する円弧の半径の下限値は、好ましくは0.5mm以上である。半径の上限値は、特に制限は無いが、実装上の現実的な値として、好ましくは4mm以下である。」
そうすると、訂正事項2に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項であり、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではない。(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アのとおり、訂正事項2に係る訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものであり、そのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない。(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)
(3) 訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3に係る訂正は、請求項1に係る発明を特定する事項である「圧延銅」について、「圧延銅(厚さ300μm以下の圧延銅を除く)」との事項を付加するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものといえる。(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)
イ 新規事項の有無
本件明細書等には次の記載がある。(下線は強調のために当審が付加した。)
「【0023】
回路パターン20は、例えば、絶縁層11の絶縁層上面に積層された金属層を切削及びエッチングにより所定のパターンに加工することにより形成される。形成プロセスについては図4において後述するが、本実施形態では図4の金属層20Aとして圧延銅が用いられる。
【0024】
回路パターン20の厚さT3の下限値は、例えば、0.3mm以上である。」
以上の記載によれば、本件明細書等には、圧延銅からなる金属の回路パターンについて、厚さ300μm以下を除いたもの、すなわち、厚さ300μmを超えるものが記載されているといえる。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項であり、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではない。(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アのとおり、訂正事項3に係る訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものであり、そのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない。(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)
(4) 訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4に係る訂正は、令和5年5月24日付け取消理由通知書(決定の予告)「第4の1」、及び、令和6年4月5日付け取消理由通知書(決定の予告)「第4」の明確性要件違反についての取消理由を解消するために、「前記樹脂の弾性率」を「前記樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」と特定するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的としたもの(特許法第120条の5第2項ただし書第3号)、及び、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたもの(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)といえる。
イ 新規事項の有無
本件明細書等には次の記載がある。(下線は強調のために当審が付加した。)
「【0021】
絶縁層11の25℃の弾性率Eは、例えば1GPa以上50GPa以下である。また、剛性が高まり、絶縁樹脂層102の反りを低減でき、その結果、電子部品の回路基板に対する位置ずれを抑制でき、電子部品と回路基板との間の接続信頼性をより一層高めることができる観点から、下限値は、好ましくは5GPa以上であり、より好ましくは10GPa以上である。上限値は、特に限定はしないが、現実的な値として上述の50GPa以下である。 なお、上記弾性率Eは、動的粘弾性測定装置で測定することができ、例えば、絶縁層11に引張り荷重をかけて、周波数1Hz、昇温速度5~10℃/分で-50℃から300℃で測定した際の、25℃の弾性率の値である。」
そうすると、訂正事項4に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項であり、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではない。(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4に係る訂正は、請求項1に係る発明を特定する事項である「前記樹脂の弾性率」について、「動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値」との事項を付加するものであり、そのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない。(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)
(5) 訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5に係る訂正は、令和5年5月24日付け取消理由通知書(決定の予告)「第4の2」の明確性要件違反についての取消理由を解消するために、「測定時の室温」であるRTについて、弾性率Eについての測定時の温度である25℃であることを特定するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的としたもの(特許法第120条の5第2項ただし書第3号)、及び、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたもの(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)といえる。
イ 新規事項の有無
弾性率Eの測定時の温度が25℃である点が本件明細書等に記載した事項であることは、上記(4)イのとおりである。
また、本件明細書等には、「室温」について次の記載がある。(下線は強調のために当審が付加した。)
「【0029】
絶縁層11の樹脂のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数をαRとする。線膨張係数αRは、例えば、10~50ppm/Kである。熱膨張係数はJIS Z2285:2003に準拠した線膨張係数の測定方法を用いて測定することができる。
回路パターン20の圧延銅の線膨張係数をαCuとする。αCuは約17ppm/Kである。
絶縁層11の樹脂のガラス転移温度をTg、弾性率をEとする。ガラス転移温度Tgは、上述のように例えば100~300℃である。弾性率Eは例えば5~50GPaである。
測定時の室温をRT、とした場合に、下記の式(1)で算出される応力指数Sが1MPa以上50MPa以下である。」
「【0034】
<実施形態の効果>
実施形態の特徴および効果をまとめると次の通りである。
・・・(中略)・・・
(4)放熱基板10において、絶縁層11が樹脂からなり、回路パターン20の金属が圧延銅からなり、
樹脂のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数をαR、圧延銅(すなわち回路パターン20)の線膨張係数をαCu、樹脂のガラス転移温度をTg、樹脂の弾性率をE、測定時の室温をRT、とした場合に、下記の式(1)で算出される応力指数Sが1MPa以上50MPa以下である。
S=|αR-αCu|×(Tg-RT)×E・・・・式(1)
このように、応力指数Sが1MPa以上50MPa以下の場合であっても、絶縁層11と回路パターン20の密着性を良好に実現できる。」
ここで、「樹脂のガラス転移温度」は、温度自体が測定対象であり、測定時の室温に依存しない。
そして、上記本件明細書等の記載において、「測定時の室温をRT」の直前に、段落0021に記載された方法で測定される「樹脂の弾性率E」について記載されていることから、「測定時の室温をRT」との記載における測定は、樹脂の弾性率Eの測定であると解され、そして、前記(4)イのとおり、本件明細書等の段落0021には、弾性率Eが25℃の弾性率であることが記載されているから、樹脂の弾性率Eの測定時の室温であるRTは25℃であるといえる。
そうすると、訂正事項5に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではない。(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5に係る訂正は、請求項1に係る発明を特定する事項である「測定時の室温をRT」について、測定が「弾性率E」を測定することであり、その温度が「25℃」であるとの事項を付加するものであり、そのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない。(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)
(6) 訂正事項6について
ア 訂正の目的
訂正事項6に係る訂正は、請求項1に係る発明を特定する事項である、絶縁基板の「樹脂」について、「(ガラス転移温度Tgが300℃以上のものと、ガラス転移温度Tgが125℃未満のものとを除く)」との事項を付加するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものといえる。(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)
イ 新規事項の有無
本件明細書には次の記載がある。(下線は強調のために当審が付加した。)
「【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
<放熱基板の概要>
図1は放熱基板10の平面図である。図2は放熱基板10の一部断面図である。
放熱基板10は、発熱体の電子部品等を実装する回路基板であって、金属基板12と、絶縁層11(絶縁基板)と、回路パターン20とで構成されており、図2で示すように下からこの順で積層された積層板(積層体)である。回路パターン20の上に電子部品等が実装される。
・・・(中略)・・・
【0019】
絶縁層11を構成する樹脂材料の物性について説明する。
樹脂材料のガラス転移温度Tgの下限値は、例えば、100℃以上であり、好ましくは125℃以上であり、より好ましく150℃以上である。これにより、樹脂材料(熱硬化性樹脂組成物)の硬化物の熱分解を抑制することができる。また、絶縁層11(すなわち放熱基板10)の反りを抑制することができる。その結果、回路パターン20に実装される電子部品等の放熱基板10に対する位置ずれを抑制でき、電子部品等と放熱基板10との間の接続信頼性をより一層高めることができる。一方、上記ガラス転移温度Tgの上限値は、特に限定されないが、例えば、300℃以下としてもよい。絶縁層11のガラス転移温度は、JIS C 6481に基づいて計測できる。」
そうすると、訂正事項6に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項であり、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではない。(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アのとおり、訂正事項6に係る訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものであり、そのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない。(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)
(7)小括
以上のとおり、訂正事項1~6に係る訂正は、いずれも「特許請求の範囲の減縮」又は「明瞭でない記載の釈明」を目的としたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
なお、特許異議申立ての対象である請求項1についての本件訂正に、独立特許要件は課されない。
第3 本件発明
本件訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
絶縁基板と、
前記絶縁基板上に直接接して設けられた、厚みが5.0mm以下の金属の回路パターンと、
を有し、
前記回路パターンの外郭線が、上面視において半径0.5mm以上5mm以下の円弧を呈する曲線となった角部を有し、
前記絶縁基板が樹脂(ガラス転移温度Tgが300℃以上のものと、ガラス転移温度Tgが125℃未満のものとを除く)からなり、前記金属が圧延銅(厚さ300μm以下の圧延銅を除く)からなり、
前記樹脂のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数をαR、前記圧延銅の線膨張係数をαCu、前記樹脂のガラス転移温度をTg、前記樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)をE、前記弾性率Eの測定時の室温をRT=25℃、とした場合に、下記の式(1)で算出される応力指数Sが1MPa以上50MPa以下である、回路基板。
S=|αR-αCu|×(Tg-RT)×E・・・・式(1)」
第4 取消理由、申立理由
1 証拠
(1) 甲(1)1~9
申立人(1)は、次の甲第1号証~甲第9号証(以下それぞれ「甲(1)1」~「甲(1)9」という。)を証拠として提出した。以下「(R)」は、登録商標を意味する丸付きRを示す。なお、甲(1)1~甲(1)5は申立書(1)に、甲(1)6~甲(1)7は令和5年3月24日提出の意見書に、甲(1)8~甲(1)9は令和5年8月28日提出の意見書に、それぞれ添付されたものである。
甲(1)1: 特開2006-245436号公報
甲(1)2: 特開2013-254922号公報
甲(1)3: 特開2009-231249号公報
甲(1)4: 株式会社日本理化工業所 日本理化MCPCBの基本特性(https://www.mcpcb.jp/PDF/general-property.pdf)、令和4年10月6日出力、申立人(1)
甲(1)5: 住友ベークライト株式会社のエポキシ樹脂多層プリント配線板用材料スミライト(R) ELC仕様一覧(https://www.sumibe.co.jp/product/hpp/circuitry/sumilite-elc-pwb/spec/index.html)、令和4年10月6日出力、申立人(1)
甲(1)6: 特開2017-22265号公報
甲(1)7: 2017年9月に既に市販されていたIGBTモジュールの仕様書(1ページ目)(https://docs.rs-online.com/4b72/A700000007200311.pdf)、販売Webページ(https://jp.rs-online.com/web/p/igbts/2074956)、このモジュールについて、内部の回路パターンを超音波映像装置で検査した結果、令和4年10月6日出力及び作成、申立人(1)
甲(1)8: 特開2012-182344号公報
甲(1)9: 国際公開第2019/181428号
(2) 甲(2)1~30
申立人(2)は、次の甲第1号証~甲第30号証(以下それぞれ「甲(2)1」~「甲(2)30」という。)を証拠として提出した。なお、甲(2)1~甲(2)15は申立書(2)に、甲(2)16~甲(2)19-2は令和5年3月30日提出の意見書に、甲(2)20~甲(2)22は令和5年8月30日提出の意見書に、甲(2)23~甲(2)25は令和6年2月22日提出の意見書に、甲(2)26~甲(2)30は令和6年7月30日提出の意見書(2)に、それぞれ添付されたものである。
甲(2)1 : 国際公開第2017/014237号
甲(2)2 : 特開2006-245436号公報
甲(2)3 : 本当に実務に役立つプリント配線板のエッチング技術、p70~77、2009年5月30日発行、日刊工業新聞社
甲(2)4 : 株式会社協成webサイト(http://www.kyoseiltd.co.jp/page/products06/)、令和4年10月5日出力、申立人(2)
甲(2)5 : 産業用第7世代IGBTモジュール“Tシリーズ”、三菱電機技報 Vol.90 No.5 2016、p31-34、2016年発行、宮澤雅臣、大原考太
甲(2)6 : 自己配列によって高次構造を制御した高熱伝導性エポキシ樹脂絶縁性と高熱伝導性を両立したコンポジット材料と放熱材料テクノロジー、日立化成テクニカルレポート No.53(2009-10)、p5-10、2009年10月発行、竹澤由高
甲(2)7 : 「第351回 金属ベース高放熱基板の開発が活性化」電子デバイス産業新聞(https://www.sangyo-times.jp/article.aspx?ID=3318)、2020年5月22日掲載、産業タイムス社
甲(2)8 : 特開2016-82108号公報
甲(2)9 : 特開2017-25186号公報
甲(2)10: 特開2017-157722号公報
甲(2)11: 国際公開第2016/157552号
甲(2)12: 利昌工業株式会社webサイト「リショー熱対策材料 過渡熱測定試験結果のご報告」Technical Report 92(https://www.risho.co.jp/rishonews/technical_report/tr92/technicl_report.html)、2013年4月10日掲載、利昌工業株式会社
甲(2)13: 住友ベークライト株式会社webサイト「エポキシ樹脂多層プリント配線板用材料スミライト(R)ELC仕様一覧(https://www.sumibe.co.jp/ww-attaches/2004.pdf)、令和4年10月5日出力、申立人(2)
甲(2)13-1: 住友ベークライト株式会社 プレスリリース「高熱伝導アルミベース銅張積層板「SUMILITE(R)ALC-1371」7W/mK材をラインアップに追加」、平成25年9月12日掲載、住友ベークライト株式会社
甲(2)13-2: JPubb webサイト(https://www.jpubb.com)、令和4年10月5日出力、申立人(2)
甲(2)14: 三菱ガス化学株式会社webサイト「多層プリント配線板用高性能FR-4」(https://www.mgc.co.jp/products/sc/btprint/lineup/fr4.html)、令和4年10月5日出力、申立人(2)
甲(2)14-1: 「低損失/高耐熱のプリント基板材料、ミドルレンジの通信機器市場を狙う」EE TIMES JAPAN(https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/0907/28/news098.html)、2009年7月28日掲載、アイティメディア株式会社
甲(2)15: 株式会社日本理化工業所webサイト「基本特性表」(https://www.mcpcb.jp/PDF/general-property.pdf)、令和4年10月5日出力、申立人(2)
甲(2)16: JISハンドブック26プラスチックI 試験、p377-385、2010年1月22日発行、財団法人日本規格協会、
甲(2)17: Mech D&A News vol.2005-1(https://www.mech-da.co.jp/services/files/MNL/MechNewsLetter2005-1.pdf)、2005年12月発行、株式会社メカニカルデザイン
甲(2)18: コトバンクにおける「複素弾性率」の検索結果(https://kotobank.jp/word/複素弾性率-2123609)、2023年3月24日出力、申立人(2)
甲(2)19-1: 三菱電機株式会社製CM100TX-24Tのデータシート(https://www.mitsubishielectric.co.jp/semiconductors/content/product/powermodule/igbt/t_series/cm100tx-24t_e.pdf)、2017年9月発行、三菱電機株式会社
甲(2)19-2: 三菱電機株式会社CM100TX-24Tの写真、2023年3月27日作成、申立人(2)
甲(2)20: 国際公開第2019/112048号
甲(2)21: TSS株式会社「高耐熱・高熱伝導絶縁樹脂基板(DBC代替基板)」カタログ、2017年5月17日、TSS株式会社
甲(2)21の1: イプロスものづくりwebページ(https://ipros.jp/product/detail/2000309779)、2023年8月29日出力、申立人(2)
甲(2)22: イプロスものづくりwebページ(TSS株式会社「基板『大電流基板(厚銅回路基板)』」(https://www.ipros.jp/product/detail/2000309783)、2023年8月29日出力、申立人(2)
甲(2)23: JIS C6481「プリント配線板用銅張積層板試験方法」、平成8年1月31日発行、財団法人日本規格協会
甲(2)24: 国際公開第2017/057553号
甲(2)25: イプロスものづくりTopページ(https://www.ipros.jp/)の上段にある赤帯の最右側の「イプロスとは?」バナーをクリックすると表示されるwebページ、2024年2月16日出力、申立人(2)
甲(2)26: 特開2008-280504号公報
甲(2)27: 株式会社日本理化工業所webサイト「基本特性表」(https://www.mcpcb.jp/PDF/general-property.pdf)、令和6年7月25日出力、申立人(2)
甲(2)28: JIS Z2285「金属材料の線膨張係数の測定方法」、2003年発行、財団法人日本規格協会
甲(2)29: 株式会社カネカテクノリサーチwebページ「TMAによるフィルムの線膨張係数測定」(https://www.ktr.co.jp/analysis/case/case_142.html)、2024年7月25日出力、申立人(2)
甲(2)30: 特開2020-94092号公報
(3) 甲(3)1~7
申立人(3)は、次の甲第1号証~甲第7号証(以下それぞれ「甲(3)1」~「甲(3)7」という。)を証拠として、申立書(3)に添付して提出した。
甲(3)1: 特開2009-028993号公報
甲(3)2: 国際公開第2008/133182号
甲(3)3: 特開2013-254922号公報
甲(3)4: 特開平06-069611号公報
甲(3)5: 特開2009-028993号公報
甲(3)6: 特開2018-058250号公報
甲(3)7: 国際公開第2020/022129号
2 令和6年4月5日付け取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由1(明確性要件違反)、及び、取消理由2(進歩性欠如)
(1) 取消理由1(明確性要件違反)
ア 令和6年4月5日付け取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由1(明確性要件違反)は、次のとおりである。
「本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件発明は「ガラス転移温度Tg」を発明特定事項とし、本件明細書には「ガラス転移温度Tg」について次の記載がある。(下線は強調のために当審において付加した。)
「【0019】
絶縁層11を構成する樹脂材料の物性について説明する。
樹脂材料のガラス転移温度Tgの下限値は、例えば、100℃以上であり、好ましくは125℃以上であり、より好ましく150℃以上である。これにより、樹脂材料(熱硬化性樹脂組成物)の硬化物の熱分解を抑制することができる。また、絶縁層11(すなわち放熱基板10)の反りを抑制することができる。その結果、回路パターン20に実装される電子部品等の放熱基板10に対する位置ずれを抑制でき、電子部品等と放熱基板10との間の接続信頼性をより一層高めることができる。一方、上記ガラス転移温度Tgの上限値は、特に限定されないが、例えば、300℃以下としてもよい。絶縁層11のガラス転移温度は、JIS C 6481に基づいて計測できる。」
しかしながら、プリント配線板用銅張積層板試験方法についてのJIS C 6481(申立人(2)が提出した甲第23号証)には、「5.17 ガラス転移温度Tg」について、「5.17.1 TMA法」、「5.17.2 DMA法(曲げ及び引張り法)」、「5.17.3 DMA法(ねじり法)」、「5.17.4 DMA法(無付加質量強制ねじり振動非共振法)」、「5.17.5 DSC法」と複数の測定方法が規定され、本件明細書の記載を考慮しても、本件発明の「ガラス転移温度Tg」が、どの測定方法により測定されるものであるか明らかでない。
また、申立人(2)が提出した甲第13号証に示されるように、ガラス転移温度は、同じ樹脂であったとして、以下のとおり、測定方法、測定条件によって値が異なる。
申立人(2)が令和6年2年22日提出の意見書で引用した申立人(2)提出の甲第13号証の記載は以下のとおりである。
「
[図:0001418183000001.jpg]
」
そうすると、本件発明の「前記絶縁基板が樹脂(ガラス転移温度Tgが300℃以上のものを除く)からなり」、「下記の式(1)で算出される応力指数Sが1MPa以上50MPa以下である、回路基板。S=|αR-αCu|×(Tg-RT)×E・・・・式(1)」との発明特定事項について、同じ樹脂であっても、測定方法・測定条件によって、充足する場合と充足しない場合が生じ得、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るといえる。
したがって、本件発明は明確でない。」
イ 当審の判断
甲(2)23の「5.17.2 DMA法(曲げ及び引張り法)」に記載されているとおり、動的粘弾性測定装置を用い、樹脂に引張り荷重をかけて、ガラス転移温度Tgを測定することは技術常識である。
そして、特許権者が、令和6年6月13日提出の意見書4ページ8~10行において主張するとおり、本件発明の「ガラス転移温度Tg」は、本件発明に規定された、動的粘弾性測定装置を用い、樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値Eを測定する際に、「動的粘弾性測定によってEの値が大きく変化する温度がTgとして測定される」ものであり、同じ樹脂であっても、本件発明を充足する場合と充足しない場合が生じることはなくなったから、取消理由1(明確性要件違反)は解消した。
ウ 申立人の主張
申立人(2)は、意見書(2)(7ページ下から5行~最下行)で、「以上から、本件訂正発明は、樹脂のガラス転移温度をどのように測定するのか本件特許明細書には何ら記載されておらず、技術常識を参酌したとしても当業者には理解することができず、樹脂のガラス転移温度を特定することができない。
したがって、本件特訂正発明は、明確ではなく、特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)に規定する要件を満たしてない。」と主張する。
しかしながら、上記イのとおり、動的粘弾性測定装置を用い、樹脂に引張り荷重をかけて、ガラス転移温度Tgを測定することは技術常識であり、また、本件発明の「ガラス転移温度Tg」の測定方法・測定条件は、特許権者が、令和6年6月13日提出の意見書(4ページ8~10行)において主張するとおりであり、同じ樹脂であっても、本件発明を充足する場合と充足しない場合が生じることはなくなったから、申立人(2)の主張は採用できない。
(2) 取消理由2(進歩性欠如)
令和6年4月5日付け取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由2(進歩性欠如)は、本件発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載され、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲(2)24に記載された発明、並びに、甲(3)4及び甲(1)9に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるというものである。
ア 引用文献、引用発明等
(ア) 引用文献10、引用発明10について
a 引用文献10の記載
甲(2)24(国際公開第2017/057553号、以下「引用文献10」という。)には次の記載がある。(下線は、引用箇所を示すために当審において付加した。)
「[0001] 本発明は、絶縁樹脂層と、金属箔又は金属板とを備える積層体に関する。
背景技術
[0002] 絶縁樹脂層の片面又は両面に、金属箔又は金属板が積層されている積層体が知られている。このような積層体は、例えば、発光ダイオード(LED)装置やパワー半導体等の発熱デバイス、並びに、該発熱デバイスを含むモジュール等において、使用時の温度上昇を抑えるために用いられている。
・・・(中略)・・・
発明を実施するための形態
[0027] 以下、本発明を詳細に説明する。
[0028] 本発明に係る積層体は、絶縁樹脂層と、第1の金属材と、第2の金属材とを備える。上記第1の金属材は、金属箔又は金属板である。上記第2の金属材は、金属箔又は金属板である。
[0029] 本発明に係る積層体では、上記第1の金属材が、上記絶縁樹脂層の第1の表面(一方の表面)に積層されており、かつ、上記第2の金属材が、上記絶縁樹脂層の上記第1の表面とは反対の第2の表面(他方の表面)に積層されている。
・・・(中略)・・・
[0036] 図2は、本発明の第2の実施形態に係る積層体を示す断面図である。
[0037] 図1に示す積層体1では、第1の金属材12及び第2の金属材13は、絶縁樹脂層11の第1の表面及び第2の表面のそれぞれにおいて、一部の領域に形成されている。図2に示す積層体1Aでは、第1の金属材12は、絶縁樹脂層11の第1の表面において、一部の領域に形成されており、回路である。積層体1Aでは、第2の金属材13Aは、絶縁樹脂層11の第2の表面において、全体の領域に形成されており、回路形成されていない。このように、例えば、第2の金属材は、第2の表面において、全体の領域に形成されていてもよく、回路形成されてなくてもよく、回路形成前の金属材であってもよい。
・・・(中略)・・・
[0051] 上記弾性率は、動的粘弾性測定装置を用いて、25℃の条件で測定される。動的粘弾性測定装置としては、日立ハイテクサイエンス社製「DMS6100」等が挙げられる。
・・・(中略)・・・
[0060] 耐熱性をより一層高める観点、及び、冷熱サイクル後の剥離をより一層抑える観点からは、上記絶縁樹脂層のガラス転移温度は好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上である。上記ガラス転移温度は高いほどよく、上記ガラス転移温度の上限は特に限定されない。
[0061] 上記ガラス転移温度は得られた硬化物を動的粘弾性測定装置(日立ハイテクサイエンス社製「DMS6100」)を用いて、5℃/分の昇温速度で測定される。
・・・(中略)・・・
[0130] (第1の金属材及び第2の金属材(金属材))
上記金属材の材料としては、アルミニウム、銅、金、及びグラファイトシート等が挙げられる。熱伝導性をより一層良好にする観点からは、上記金属材の材料は、金、銅又はアルミニウムであることが好ましく、銅又はアルミニウムであることがより好ましい。熱伝導性をより一層良好にする観点、並びにエッチング処理された金属材を容易に形成する観点からは、上記金属材は、銅であることがより好ましい。また、上記金属材は、金属箔であることが好ましい。
・・・(中略)・・・
[0141] 実施例1~9、12~16、及び比較例1~6については得られたシート状の絶縁材料を金属板上に熱ラミネーターにて貼り合わせ、絶縁樹脂層を有する3層構成の積層体を作製した。その後に180℃で1時間硬化を行い、硬化された積層構造体を得た。その後、この積層構造体の金属層部分をエッチングすることにより所定の面積比率を有する積層体を作製した。
・・・(中略)・・・
[0146] (4)弾性率の測定
シート状の絶縁材料を、180℃で1時間硬化させて、硬化物(絶縁樹脂層)を得た。
[0147] 動的粘弾性測定装置(日立ハイテクサイエンス社製「DMS6100」)を用いて、25℃の条件で、硬化物(絶縁樹脂層)の弾性率を測定した。
[0148] (5)線膨張率の測定
シート状の絶縁材料を180℃で1時間硬化させて、硬化物(絶縁樹脂層)を得た。
[0149] 熱機械分析装置(島津製作所社製「TMA-60」)を用いて、25℃からガラス転移温度間の条件で、硬化物(絶縁樹脂層)の線膨張率、及び、第1,第2の金属材の線膨張率を測定した。
・・・(中略)・・・
[0158] 組成を下記の表1~3に示す。積層体の構成及び積層体の評価結果を下記の表4~6に示す。
・・・(中略)・・・
[0159]
[表1]
[図:0001418183000002.jpg]
[0160]
[表2]
[図:0001418183000003.jpg]
・・・(中略)・・・
[0162]
[表4]
[図:0001418183000004.jpg]
[0163]
[表5]
[図:0001418183000005.jpg]
」
「[図2]
[図:0001418183000006.jpg]
」
b 引用発明10
(a) 引用文献10には、絶縁樹脂層と、第1の金属材とを備える積層体(段落0028)であって、発光ダイオード(LED)装置やパワー半導体等の発熱デバイス、並びに、該発熱デバイスを含むモジュール等において、使用時の温度上昇を抑えるために用いられる積層体(段落0002)が記載されているといえる。
(b) 段落0037の記載によると、第1の金属材は、絶縁樹脂層の第1の表面において、一部の領域に形成されている回路である。
(c) 段落0162の表4に記載された物性値について、「絶縁樹脂層の弾性率」は、動的粘弾性測定装置を用いて25℃で測定したものであり(段落0051、0147)、「絶縁樹脂層のガラス転移温度」は、動的粘弾性測定装置を用いて測定したものであり(段落0061)、また、「絶縁樹脂層の線膨張率(0)」は、25℃からガラス転移温度間の条件で(段落0149)、すなわち、ガラス転移温度以下の温度で測定したものである。
そうすると、段落0162の表4には、実施例4、5として次の特性の絶縁樹脂層と、第1の金属材とを備える積層体が記載されている。
実施例4:第1の金属材の厚み(1)が400μm、動的粘弾性測定装置を用いて測定した絶縁樹脂層のガラス転移温度が110℃、絶縁樹脂層のガラス転移温度以下の線膨張率(0)が25ppm/℃、動的粘弾性測定装置を用いて測定した絶縁樹脂層の25℃での弾性率が11GPa、第1の金属材の線膨張率(1)が16.8ppm/℃。
実施例5:第1の金属材の厚み(1)が450μm、動的粘弾性測定装置を用いて測定した絶縁樹脂層のガラス転移温度が110℃、絶縁樹脂層のガラス転移温度以下の線膨張率(0)が25ppm/℃、動的粘弾性測定装置を用いて測定した絶縁樹脂層の25℃での弾性率が11GPa、第1の金属材の線膨張率(1)が16.8ppm/℃。
(d) 段落0141の記載によると、実施例4、5の積層体は、シート状の絶縁材料を金属板上に熱ラミネーターにて貼り合わせたものといえる。
(f) 以上によれば、引用文献10には、次の発明(以下「引用発明10」という。)が記載されているといえる。
「絶縁樹脂層と、
厚みが400μm又は450μmであって、絶縁樹脂層の第1の表面において、一部の領域に形成されている回路である第1の金属材を備え、
動的粘弾性測定装置を用いて測定した絶縁樹脂層のガラス転移温度が110℃であり、絶縁樹脂層のガラス転移温度以下の線膨張率が25ppm/℃であり、動的粘弾性測定装置を用いて測定した絶縁樹脂層の25℃での弾性率が11GPaであり、
第1の金属材の線膨張率が16.8ppm/℃であり、
シート状の絶縁材料を金属板上に熱ラミネーターにて貼り合わせ、
発光ダイオード(LED)装置やパワー半導体等の発熱デバイス、並びに、該発熱デバイスを含むモジュール等において、使用時の温度上昇を抑えるために用いられる積層体。」
c 絶縁樹脂層(実施例7、16)
上記bと同様に、引用文献10の段落0162、表4には、実施例7として、ガラス転移温度が180℃、弾性率が21GPa、線膨張率が8ppm/℃の絶縁樹脂層、及び、段落0163、表5には、実施例16として、ガラス転移温度が190℃、弾性率が16GPa、線膨張率が22ppm/℃の絶縁樹脂層が記載されている。
そうすると、引用文献10には、次の特性の絶縁樹脂層(以下「絶縁樹脂層(実施例7、16)」という。)が記載されているといえる。
「動的粘弾性測定装置を用いて測定したガラス転移温度が180℃、動的粘弾性測定装置を用いて測定した25℃での弾性率が21GPa、線膨張率8ppm/℃である絶縁樹脂層(実施例7)、及び、動的粘弾性測定装置を用いて測定したガラス転移温度が190℃、動的粘弾性測定装置を用いて測定した弾性率が16GPa、線膨張率が22ppm/℃である絶縁樹脂層(実施例16)。」
(イ) 引用文献8、公知事項1について
a 引用文献8の記載
甲(3)4(特開平6-69611号公報、以下「引用文献8」という。)には、次の記載がある。(下線は、引用箇所を示すために当審において付加した。)
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、それぞれの熱膨張率が大きく異なる絶縁層と導体層からなるプリント配線板において、長期の使用に際しても導体回路に剥離等の不良が発生しにくく、信頼性に優れたプリント配線板に関する。
・・・中略・・・
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、以上の経緯を鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、プリント配線板上に形成された導体層の剥離や断線等の発生であり、その目的とするところは、熱膨張率の異なる絶縁層と導体層からなるプリント配線板であっても、導体層の剥離等の不良が発生しにくく、長期にわたる使用に対しても優れた信頼性を有するプリント配線板を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】以上の課題を解決するために、本発明が採った手段は実施例において使用する符号を付して説明すると、「互いに密着する絶縁層(11)と導体層(12)の熱膨張差が少なくとも5×10-6/℃であるプリント配線板において、この導体層(12)の基板外形(111)に面する135°未満の角度を有する導体回路のコーナー部(12a)が面取りされていることを特徴とするプリント配線板(10)。」であり、さらには、「この面取りが、少なくとも0.5mmの線分を挟んだ複数の135°以上のコーナー(12b)の集合した形状、あるいは半径0.5mm以上の円弧状であるプリント配線板(10)。」である。
【0009】
【作用】 特性の異なる物質が密着している界面に発生する応力の大きさは、その各々の物質の熱膨張係数の差によって変化するものであり、その密着強度が弱い場合には、発生する応力によって剥離現象が起こるのである。例えば、その物質がプリント配線板における樹脂絶縁層(11)と銅箔等による導体層(12)である場合には、その熱膨張係数の差が5×10-6/℃以上になると接着面での剥離が生じ易くなる。そして、その密着強度が強い場合には、一方の物質に皺が発生したり、亀裂が発生したりするのである。つまり、プリント配線板においては、銅箔に皺が発生して膨れが生じたり、亀裂が発生して導体回路が断線したりするのである。
・・・中略・・・
【0015】
【実施例】 次に、本発明に係わるプリント配線板の実施例について説明する。 先ず、絶縁層に関してであるが、セラミック原料としてコージェライト(2MgO・2Al2 O3 ・5SiO2 )を用いて、これをシート成形して厚さ0.25mmの300×250mmの長方形グリーンシート成形体を得た。これを1240℃で焼成し、厚さ0.22mm、290×242mm、気孔率28%の多孔質コージェライト焼結体を得た。この焼結体にエポキシ樹脂を真空下で含浸し、上下に18μm厚みの片面粗化銅箔(熱膨張率16.7×10-6/℃)を粗化面を内側にしてそれぞれ積層配置し、真空加圧器内で180℃、10atmで加圧加熱して両面プリント配線板をとなる基板を得た。この基板(11)は、多孔質セラミックの気孔部に樹脂が含浸されていて、熱膨張率は2.5×10-6/℃であった。」
b 公知事項1
段落0008及び段落0009の記載から、引用文献8において、「熱膨張差」は「熱膨張係数の差」であり、また、段落0015に片面粗化銅箔の熱膨張率を16.7×10-6/℃と、公知の銅の線膨張係数を記載していることから、引用文献8において、熱膨張率、すなわち熱膨張係数は、線膨張係数であるといえる。
以上を踏まえると、引用文献8には、次の事項(以下「公知事項1」という。)が記載されているといえる。
「線膨張係数の異なる絶縁層と導体層からなるプリント配線板であっても、導体層の剥離等の不良が発生しにくく、長期にわたる使用に対しても優れた信頼性を有するプリント配線板を提供するために、
互いに密着する絶縁層と導体層の線膨張係数の差が少なくとも5×10-6/℃であるプリント配線板において、この導体層の基板外形に面する135°未満の角度を有する導体回路のコーナー部を、半径0.5mm以上の円弧状で面取りすること。」
(ウ) 引用文献11、公知事項2について
a 引用文献11の記載
甲(1)9(国際公開第2019/181428号、以下「引用文献11」という。)には次の記載がある。(下線は、引用箇所を示すために当審において付加した。)
「[0025] そして、本実施形態である絶縁回路基板10は、図2に示すように、絶縁層11と、この絶縁層11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層15と、絶縁層11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層16と、を備えている。
[0026] 回路層15は、図4に示すように、絶縁層11の一方の面(図4において上面)に、導電性に優れた金属からなる金属片25が接合されることにより形成されている。金属片25としては、銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金等の圧延板を打抜いたものを用いることができる。本実施形態においては、回路層15を構成する金属片25として、無酸素銅の圧延板を打抜いたものが用いられている。
この回路層15においては、上述の金属片25がパターン状に配置されることで回路パターンが形成されており、その一方の面(図1及び図2において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面とされている。ここで、回路層15(金属片25)の厚さは0.3mm以上3mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.5mmに設定されている。」
b 公知事項2
上記aによれば、引用文献11には、次の事項(以下「公知事項2」という。)が記載されているといえる。
「絶縁回路基板において、絶縁層の一方の面に配設された金属からなる回路層として、無酸素銅の圧延板を用いること。」
イ 対比・判断
(ア) 対比
本件発明と引用発明10とを対比する。
a 回路基板について
引用発明10の「絶縁樹脂層と、・・・絶縁樹脂層の第1の表面において、一部の領域に形成されている回路である第1の金属材を備え、・・・発光ダイオード(LED)装置やパワー半導体等の発熱デバイス、並びに、該発熱デバイスを含むモジュール等において、使用時の温度上昇を抑えるために用いられる積層体」は、「回路基板」といえ、また、「絶縁樹脂層」は「絶縁基板」といえる。
そして、引用発明10の「絶縁樹脂層」と「第1の金属材」とは、「厚みが400μm又は450μmであって、絶縁樹脂層の第1の表面において、一部の領域に形成されている回路である第1の金属材を備え、・・・シート状の絶縁材料を金属板上に熱ラミネーターにて貼り合わせ」たものであるから、直接接しているといえ、また、「第1の金属材」の厚みは5.0mm以下である。
そうすると、引用発明10の「絶縁樹脂層」、「第1の金属材」は、本件発明の「絶縁基板」、「前記絶縁基板上に直接接して設けられた、厚みが5.0mm以下の金属の回路パターン」にそれぞれ相当する。
したがって、引用発明10は「絶縁基板と、
前記絶縁基板上に直接接して設けられた、厚みが5.0mm以下の金属の回路パターンと、
を有」する「回路基板」である点で本件発明と一致する。
また、引用発明10は、「絶縁基板」といえる「絶縁樹脂層」を備えるから、「前記絶縁基板が樹脂からなる」といえる点で、本件発明と共通する。
b 一致点・相違点
上記aによれば、本件発明と引用発明10とは、次の点で一致し、相違する。
(a) 一致点
「絶縁基板と、
前記絶縁基板上に直接接して設けられた、厚みが5.0mm以下の金属の回路パターンと、
を有し、
前記絶縁基板が樹脂からなる、
回路基板。」
(b) 相違点
本件発明は、「前記回路パターンの外郭線が、上面視において半径0.5mm以上5mm以下の円弧を呈する曲線となった角部を有し、
前記絶縁基板が樹脂(ガラス転移温度Tgが300℃以上のものと、ガラス転移温度Tgが125℃未満のものとを除く)からなり、前記金属が圧延銅(厚さ300μm以下の圧延銅を除く)からなり、
前記樹脂のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数をαR、前記圧延銅の線膨張係数をαCu、前記樹脂のガラス転移温度をTg、前記樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)をE、前記弾性率Eの測定時の室温をRT=25℃、とした場合に、下記の式(1)で算出される応力指数Sが1MPa以上50MPa以下」であり、「S=|αR-αCu|×(Tg-RT)×E・・・・式(1)」であることを発明特定事項としているのに対し、
引用発明10は、第1の金属材の外郭線についての特定、及び、第1の金属材が圧延銅であるとの特定がなく、また、動的粘弾性測定装置を用いて測定した絶縁樹脂層のガラス転移温度及び弾性率について、「引張り荷重をかけて、周波数1Hz」との測定条件の特定がなく、上記測定条件の特定がないことに起因して「式(1)で算出される応力指数Sが1MPa以上50MPa以下である」か明らかでなく、加えて、上記測定条件が特定されていないものの、絶縁樹脂層のガラス転移温度が110℃である点。
(イ) 相違点の判断
相違点における第1の金属材の外郭線に係る相違について、引用発明10は、絶縁樹脂層と第1の金属材の線膨張率(線膨張係数)の差が、|25-16.8|ppm/℃=8.2×10-6/℃であり、また、「絶縁樹脂層」と「第1の金属材」とは、直接接し、互いに密着しているといえから、引用発明10に、上記ア(イ)bの「互いに密着する絶縁層と導体層の線膨張係数の差が少なくとも5×10-6/℃であるプリント配線板において、この導体層の基板外形に面する135°未満の角度を有する導体回路のコーナー部を、半径0.5mm以上の円弧状で面取りする」との公知事項1を適用することは当業者が容易に想到し得る事項である。
しかしながら、引用発明10に公知事項1を適用したものについて、さらに、相違点における絶縁樹脂層のガラス転移温度についての相違を解消することは、自明なことではなく、いわゆる「容易の容易」の場合に相当する。
したがって、相違点における第1の金属材の外郭線、及び、絶縁樹脂層のガラス転移温度以外の事項を検討するまでもなく、本件発明は、引用発明10に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
ウ 申立人の主張
申立人(1)は、意見書(1)(2ページ12~18行)において、甲(1)5、甲(1)6、甲(3)2(引用文献1)、甲(2)13(引用文献5)に基づき、「すなわち「ガラス転移温度Tgが125℃以上で300℃未満のもの」は、回路基板技術において使用される樹脂としては、以前より一般的なガラス転移温度の範囲内にある。
したがって、訂正の請求によりガラス転移温度の範囲を限定したとしても、その範囲が回路基板技術において使用される樹脂として以前より一般的な範囲であり、「当業者が容易に発明をすることができたものである。」とした取消理由通知の判断は妥当であり、維持されると考える。」(下線は意見書(1)の記載のとおり。)と主張する。
また、申立人(2)は、意見書(2)(9ページ13行)において、引用文献10の段落0060の記載、実施例16に基づき「本件訂正発明は、引用発明10から当業者が容易に発明できたものである。」と主張し、申立人(3)は、意見書(3)(6ページ11~12行)において、引用文献10の段落0060の記載、実施例7、16に基づき「訂正発明が進歩性を有するとする特許権者の主張は説得力がなく、訂正発明は依然として進歩性を有さず、取り消されるべきものである。」と主張する。
しかしながら、上記イ(イ)のとおり、引用発明10に公知事項1を適用したものについて、さらに、相違点における絶縁樹脂層のガラス転移温度についての相違を解消することは、いわゆる「容易の容易」の場合に相当するから、申立人(1)~(3)の主張は採用できない。
(3) 小括
以上のとおり、本件発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たし、かつ、引用発明10に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、令和6年4月5日付け取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由1(明確性要件違反)、及び、取消理由2(進歩性欠如)によって、本件特許を取り消すことはできない。
3 令和6年4月5日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由
(1) 新規性欠如、進歩性欠如
ア 申立理由(1)
申立書(1)に記載された、甲(1)1を主引用例とする進歩性欠如との申立理由(以下「申立理由(1)」という。)について検討する。
甲(1)1には次の記載がある。(下線は、引用箇所を示すために当審において付加した。)
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化珪素配線基板、特にパワー半導体モジュールに使用され、窒化珪素基板の一方の面に導電性回路板となる金属回路板を接合し、他方の面に放熱用金属板を接合した窒化珪素配線基板およびこれを用いた半導体モジュールに関するものである。
・・・(中略)・・・
【0010】
そこで、本発明の目的は、金属回路板パターンの実装面積を十分に保ち、かつ窒化珪素配線基板の特に金属回路板角部に発生する熱応力によるクラックを防止できる構造の信頼性の高い窒化珪素配線基板並びに半導体モジュールを提供することを目的とする。」
上記記載によると、甲(1)1には、「窒化珪素基板の一方の面に導電性回路板となる金属回路板を接合した配線基板。」の発明が記載されているといえる。
ここで、本件発明と甲(1)1に記載された発明とを対比すると、両者は、少なくとも、本件発明が、「樹脂(ガラス転移温度Tgが300℃以上のものと、ガラス転移温度Tgが125℃未満のものとを除く)から」なる「絶縁基板」を有するのに対し、甲(1)1に記載された発明が 「窒化珪素配線基板」を有している点で相違する。
そして、甲(1)1に記載された発明の「窒化珪素基板」を、「樹脂(ガラス転移温度Tgが300℃以上のものと、ガラス転移温度Tgが125℃未満のものとを除く)から」なる「絶縁基板」と置換した場合、甲(1)1の段落0010に記載された「窒化珪素配線基板の特に金属回路板角部に発生する熱応力によるクラックを防止できる構造の信頼性の高い窒化珪素配線基板」を提供するという課題を解決することができなくなる。
そうすると、甲(1)1に記載された発明の「窒化珪素基板」を、「樹脂(ガラス転移温度Tgが300℃以上のものと、ガラス転移温度Tgが125℃未満のものとを除く)から」なる「絶縁基板」と置換することには阻害要因が存在するから、本件発明は、甲(1)2~甲(1)5の記載事項を検討するまでもなく、甲(1)1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
したがって、申立理由(1)によって本件特許を取り消すことはできない。
イ 申立理由(2)1
申立書(2)「3(4)ウ(ア)」(19ページ14行~25ページ20行)に記載された、甲(2)1を主引用例とする進歩性欠如との申立理由(以下「申立理由(2)1」という。)について検討する。
(ア) 甲(2)1の記載、及び、甲(2)1発明1、甲(2)1発明7
a 甲(2)1には次の記載がある。(下線は、引用箇所を示すために当審において付加した。)
「[0013][パワーモジュール用基板]
はじめに、本実施形態に係るパワーモジュール用基板100について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るパワーモジュール用基板100の断面図である。
パワーモジュール用基板100は、金属基板101と、金属基板101上に設けられた絶縁樹脂層102と、絶縁樹脂層102上に設けられた金属層103とを備える。
・・・(中略)・・・
[0061](凝集窒化ホウ素の作製)
ホウ酸メラミンと鱗片状窒化ホウ素粉末(平均長径:15μm)を混合して得られた混合物を、ポリアクリル酸アンモニウム水溶液へ添加し、2時間混合して噴霧用スラリーを調製した。次いで、このスラリーを噴霧造粒機に供給し、アトマイザーの回転数15000rpm、温度200℃、スラリー供給量5ml/minの条件で噴霧することにより、複合粒子を作製した。次いで、得られた複合粒子を、窒素雰囲気下、2000℃の条件で焼成することにより、平均粒径が80μmの凝集窒化ホウ素を得た。
ここで、凝集窒化ホウ素の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(HORIBA社製、LA-500)により、粒子の粒度分布を体積基準で測定し、そのメディアン径(D50)とした。
[0062](パワーモジュール用基板の作製)
実施例1~7および比較例1~2について、以下のようにパワーモジュール用基板を作製した。
まず、表1に示す配合に従い、熱硬化性樹脂と、硬化剤とを溶媒であるメチルエチルケトンに添加し、これを撹拌して熱硬化性樹脂組成物の溶液を得た。次いで、この溶液に無機充填材を入れて予備混合した後、三本ロールにて混練し、無機充填材を均一に分散させたワニス状の熱硬化性樹脂組成物を得た。次いで、得られた熱硬化性樹脂組成物に対し、60℃、15時間の条件によりエージングを行った。次いで、熱硬化性樹脂組成物を、銅箔(厚さ0.07mm、古河電気工業株式会社製、GTS-MP箔)上にドクターブレード法を用いて塗布した後、これを100℃、30分間の熱処理により乾燥して樹脂層付き銅箔を作製した。
次いで、得られた樹脂層付き銅箔と、3.0mm厚の銅板(タフピッチ銅)を張り合わせ、真空プレスで、プレス圧100kg/cm2で180℃40分の条件下でプレスし、パワーモジュール用基板(絶縁樹脂層102の厚さ:200μm)を得た。
なお、表1中における各成分の詳細は下記のとおりである。
・・・(中略)・・・
[0064](熱硬化性樹脂(A))
エポキシ樹脂1:ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂(XD-1000、日本化薬社製)
エポキシ樹脂2:ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂(YX-4000、三菱化学社製)
エポキシ樹脂3:アダマンタン骨格を有するエポキシ樹脂(E201、出光興産社製)
エポキシ樹脂4:フェノールアラルキル骨格を有するエポキシ樹脂(NC-2000-L、日本化薬社製)
エポキシ樹脂5:ビフェニルアラルキル骨格を有するエポキシ樹脂(NC-3000、日本化薬社製)
エポキシ樹脂6:ナフタレンアラルキル骨格を有するエポキシ樹脂(NC-7000、日本化薬社製)
エポキシ樹脂7:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(830S、大日本インキ社製)
エポキシ樹脂8:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(828、三菱化学社製)
シアネート樹脂1:フェノールノボラック型シアネート樹脂(PT-30、ロンザジャパン社製)
[0065](硬化触媒C-1)
硬化触媒1:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(2PHZ-PW、四国化成社製)
硬化触媒2:トリフェニルホスフィン(北興化学社製)
(硬化剤C-2)
フェノール系硬化剤1:トリスフェニルメタン型のフェノールノボラック樹脂(MEH-7500、明和化成社製)
[0066](無機充填材(B))
充填材1:上記作製例により作製された凝集窒化ホウ素
・・・(中略)・・・
[0068](Tg(ガラス転移温度)の測定)
絶縁樹脂層のガラス転移温度を次のように測定した。まず、得られたパワーモジュール用基板から金属板と金属層を剥離して絶縁樹脂層を得た。 次いで、得られた絶縁樹脂層のガラス転移温度(Tg)を、DMA(動的粘弾性測定)により昇温速度5℃/min、周波数1Hzの条件で測定した。
・・・(中略)・・・
[0072][表1]
[図:0001418183000007.jpg]
」
b 甲(2)1発明1
(a) 段落0013の記載によると、甲(2)1には、「絶縁樹脂層102と、絶縁樹脂層102上に設けられた金属層103とを備えるパワーモジュール用基板100」の発明が記載されているといえる。
また、段落0062の記載によると、段落0072の表1に示される実施例において、金属層103となる銅箔の厚さは0.07mmである。
加えて、段落0068の記載によると、段落0072の表1に示される絶縁樹脂層のガラス転移温度は、DMA(動的粘弾性測定)により周波数1Hzの条件で測定したものである。
(b) 段落0062の記載によると、段落0072の表1には、絶縁樹脂層102となる熱硬化性樹脂組成物の配合が記載されているといえる。
(c) 以上を踏まえると、甲(2)1には、実施例1として次の発明(以下「甲(2)1発明1」という。)が記載されているといえる。
「絶縁樹脂層102と、絶縁樹脂層102上に設けられた金属層103とを備えるパワーモジュール用基板100であって、
絶縁樹脂層102となる熱硬化性樹脂組成物の配合は、
エポキシ樹脂1:ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂(XD-1000、日本化薬社製)18.9、
フェノール系硬化剤1:トリスフェニルメタン型のフェノールノボラック樹脂(MEH-7500、明和化成社製)7.3、
硬化触媒1:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(2PHZ-PW、四国化成社製)0.1、
充填材1:凝集窒化ホウ素73.8、であり、
DMA(動的粘弾性測定)により周波数1Hzの条件で測定した絶縁樹脂層のガラス転移温度が197℃であり、
金属層103となる銅箔の厚さが0.07mmである、
パワーモジュール用基板100。」
c 甲(2)1発明7
上記bと同様に、甲(2)1には、実施例7として次の発明(以下「甲(2)1発明7」という。)が記載されているといえる。
「絶縁樹脂層102と、絶縁樹脂層102上に設けられた金属層103とを備えるパワーモジュール用基板100であって、
絶縁樹脂層102となる熱硬化性樹脂組成物の配合は、
エポキシ樹脂2:ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂(YX-4000、三菱化学社製)12.9、
シアネート樹脂1:フェノールノボラック型シアネート樹脂(PT-30、ロンザジャパン社製)12.9、
硬化触媒2:トリフェニルホスフィン(北興化学社製)0.5、
充填材1:凝集窒化ホウ素73.8、であり、
DMA(動的粘弾性測定)により周波数1Hzの条件で測定した絶縁樹脂層のガラス転移温度が288℃であり、
金属層103となる銅箔の厚さが0.07mmである、
パワーモジュール用基板100。」
(イ) 甲(2)1発明7を主引用発明とする進歩性欠如
本件発明と甲(2)1発明7とを対比する。
a 甲(2)1発明7の「絶縁樹脂層102」と、「銅箔の厚さが0.07mmである」「絶縁樹脂層102上に設けられた金属層103」は、それぞれ本件発明の「絶縁基板」と、「前記絶縁基板上に直接接して設けられた、厚みが5.0mm以下の金属の回路パターン」に相当する。
b 甲(2)1発明7の、DMA(動的粘弾性測定)により周波数1Hzの条件で測定した絶縁樹脂層のガラス転移温度は、「引張り荷重をかけて」と特定されていないものの、288℃であるから、「前記絶縁基板が樹脂(ガラス転移温度Tgが300℃以上のものと、ガラス転移温度Tgが125℃未満のものとを除く)からなり」といえる点で本件発明と一応一致する。
c 以上を踏まえると本件発明と甲(2)1発明7とは次の点で一致し、相違する。
(a) 一致点
「絶縁基板と、
前記絶縁基板上に直接接して設けられた、厚みが5.0mm以下の金属の回路パターンと、
を有し、
前記絶縁基板が樹脂(ガラス転移温度Tgが300℃以上のものと、ガラス転移温度Tgが125℃未満のものとを除く)からなる、回路基板。」
(b) 相違点
本件発明が、「前記回路パターンの外郭線が、上面視において半径0.5mm以上5mm以下の円弧を呈する曲線となった角部を有し、
前記金属が圧延銅(厚さ300μm以下の圧延銅を除く)からなり、
前記樹脂のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数をαR、前記圧延銅の線膨張係数をαCu、前記樹脂のガラス転移温度をTg、前記樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)をE、前記弾性率Eの測定時の室温をRT=25℃、とした場合に、下記の式(1)で算出される応力指数Sが1MPa以上50MPa以下である」点(式(1)については省略した。以下同様。)を特定しているのに対し、甲(2)1発明7がこのような特定をしていない点。
d 相違点についての判断
甲(2)1には、「樹脂のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数」、及び「樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」についての記載がない。
そして、甲(2)1発明7において、「樹脂のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数」、及び「樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」を用いて「式(1)で算出される応力指数S」を「1MPa以上50MPa以下」とすることは、甲(2)1、及び、甲(2)2~甲(2)10のいずれにも記載も示唆もされていない事項であるから、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
したがって、相違点における他の事項を検討するまでもなく、本件発明は、甲(2)1発明7、及び、甲(2)2~甲(2)10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
e 申立人(2)の主張
申立人(2)は、申立書(2)(22ページ下から7~4行)において、甲(2)1の実施例7に係る甲(2)1発明7と、甲(2)9の比較例2Aについて、「上記実施例7と比較例2Aとを対比すると、配合した各成分は化学名又は商品名などからして同じであるといえる。また、各成分の配合割合は、数%の相違があるが僅かな違いであり、上記実施例7と比較例2Aとは物性値がほぼ同じあるといえる。」から、甲(2)1発明7の絶縁樹脂層102の50℃において測定した弾性率が、甲(2)9の表1の比較例2Aとほぼ同じ22GPaであると主張する。
そして、甲(2)9には次の記載がある。(下線は強調のために、当審において付加した。)
「【0135】
(貯蔵弾性率E'の測定)
熱伝導性樹脂組成物(P)の硬化物の貯蔵弾性率E'を次のように測定した。まず、前述した回路基板用積層体の作製の際に得られた熱伝導性樹脂組成物(P)を100℃、30分間熱処理することにより膜厚が400μmのBステージ状の熱伝導性シートを作製した。次いで、上記熱伝導性シートを180℃、10MPaで40分間熱処理して熱伝導性シート硬化物を得た。次いで、得られた硬化物の50℃での貯蔵弾性率E'を、DMA(動的粘弾性測定)により測定した。ここで、貯蔵弾性率E'は、熱伝導性シート硬化物に引張り荷重をかけて、周波数1Hz、昇温速度5~10℃/分で25℃から300℃で測定した際の、50℃での貯蔵弾性率の値である。
・・・(中略)・・・
【0141】
【表1】
[図:0001418183000008.jpg]
」
しかしながら、弾性率が温度依存性を有する物性値であることは技術常識であるから、甲(2)9に記載された「DMA(動的粘弾性測定)により、引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した際の、50℃での貯蔵弾性率の値」は、相違点に係る「樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」に相当しない。
そして、甲(2)1発明7において、「樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」は不明であるから、上記dのとおり、本件発明は、甲(2)1発明7に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、申立人(2)の主張は採用できない。
(ウ) 甲(2)1発明1を主引用発明とする進歩性欠如
上記(イ)と同様に、本件発明と甲(2)1発明1とは、上記(イ)c(a)、(b)の点で一致し、相違する。
そして、上記(イ)eと同様に、申立人(2)は、甲(2)9の比較例1Aに基づいて、甲(2)1発明1の絶縁樹脂層102の50℃において測定した弾性率が、甲(2)9の表1の比較例1Aとほぼ同じ26GPaであると主張する。
しかしながら、上記(イ)eのとおり、温度依存性である、甲(2)9に記載された「DMA(動的粘弾性測定)により、引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した際の、50℃での貯蔵弾性率の値」は、相違点に係る「樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」に相当しない。
そして、上記(イ)dと同様に、甲(2)1には、「樹脂のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数」、及び「樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」についての記載がなく、甲(2)1発明1において、不明である「樹脂のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数」、及び「樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」用いて「式(1)で算出される応力指数S」を「1MPa以上50MPa以下」とすることは、甲(2)1、及び、甲(2)2~甲(2)10のいずれにも記載も示唆もされていない事項であるから、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
したがって、相違点における他の事項を検討するまでもなく、本件発明は、甲(2)1発明1、及び、甲(2)2~甲(2)10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ) 小括
以上のとおり、本件発明は、甲(2)1発明1、又は甲(2)1発明7、及び、甲(2)2~10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないから、申立理由(2)1によって、本件特許を取り消すことはできない。
ウ 申立理由(2)2
申立書(2)「3(4)ウ(イ)」(25ページ21行~27ページ下から3行)に記載された、甲(2)11を主引用例とする進歩性欠如との申立理由(以下「申立理由(2)2」という。)について検討する。
(ア) 甲(2)11の記載、甲(2)11発明
a 甲(2)11には次の記載がある。(下線は、引用箇所を示すために当審において付加した。)
「[0025] 以下、図1を参照して、実施の形態1に係るプリント基板10について説明する。
[0026] 実施の形態1に係るプリント基板10は、基材12を含む。基材12の回路面には、多数の部品実装用導体層14と配線用導体層16と回路面レジスト層18が形成される。基材12の放熱面には、多数の放熱用導体層20とソルダーレジスト層22からなる積層体24が適宜な高さを有する略凸形状に形成される。
[0027] 基材12は、例えば、ベース基板30から形成される。
ベース基板30は、厚さ0.1~1.0mmからなり、絶縁性のある樹脂からなる基材12に銅箔等の金属層32を貼り合わせたものであり、銅箔をエッチングすることにより、基材12、部品実装用導体層14、配線用導体層16、放熱用導体層20が形成される。
実施の形態1においては、ガラス布エポキシ樹脂積層板である利昌工業株式会社製のCS-3945(両面)、利昌工業株式会社製のCS-3940(片面)、ニッカン工業株式会社製のニカプレックスL-6504/L-6504C/L-6504C UV/NIKAPLEX L-6504/L-6504C/L-6504C UV、日立化成(株)製のMCL-E-67、パナソニック株式会社製のR-1705,R-1705SX,R-1705SH,R-1705UX R-1705UC、Shengyi Technology CO.LTD製のS1600、南亜製のUV BLOCK FR-4-86、住友ベークライト株式会社製のELC-4768などを用いることもある。
なお、実施の形態1においては、ガラス布エポキシ樹脂積層板の他に、紙フェノール基板、紙エポキシ基板、ガラス・コンポジット基板、テフロン(登録商標)基板、アルミナ基板、ポリイミド基板などを用いることもある。
[0028] 部品実装用導体層14は、厚さ18~70μmの銅箔からなる金属層32をエッチングすることで形成される。
部品実装用導体層14は、2つの主面と少なくとも1つの側面を有し、2つの主面のうちの一方の主面が基材12の主面に面接触しており、さらに、側面が第1層目のソルダーレジスト層18aの側面に面接触している。
なお、部品実装用導体層14の側面は、第1層目のソルダーレジスト層18aの側面と面接触していなくてもよい。
第1層目のソルダーレジスト層18aは、配線用導体層16を覆っている。そして、第1層目のソルダーレジスト層18aの一方の主面に、第2層目のソルダーレジスト層18bの主面が面接触し、略凸形状の積層体を形成している。
部品実装用導体層14にICなど発熱量が高い電子部品を実装させる場合には、部品実装用導体層14の周囲の熱伝導性を高め、放熱効果をもたせることが必要とされる。」
b 甲(2)11発明
上記aによると甲(2)11には次の発明(以下「甲(2)11発明」という。)が記載されているといえる。
「基材12を含み、基材12の回路面には、部品実装用導体層14が形成された、ガラス布エポキシ樹脂積層板である利昌工業株式会社製のCS-3945を用いたプリント基板10であって、
部品実装用導体層14及び配線用導体層16は、厚さ18~70μmの銅箔からなる金属層32をエッチングすることで形成される
プリント基板10。」
(イ) 対比・判断
本件発明と甲(2)11発明とを対比する。
「プリント基板」は、「回路基板」といえる。
そして、甲(2)11発明の「基材12」、及び「厚さ18~70μmの銅箔からなる金属層32をエッチングすることで形成される」「部品実装用導体層14」は、本件発明の「絶縁基板」、及び「前記絶縁基板上に直接接して設けられた、厚みが5.0mm以下の金属の回路パターン」にそれぞれ相当する。
そうすると、本件発明と甲(2)11発明とは次の点で一致し、相違する。
a 一致点
「絶縁基板と、
前記絶縁基板上に直接接して設けられた、厚みが5.0mm以下の金属の回路パターンと、
を有る、回路基板。」
b 相違点
本件発明が「前記回路パターンの外郭線が、上面視において半径0.5mm以上5mm以下の円弧を呈する曲線となった角部を有し、
前記絶縁基板が樹脂(ガラス転移温度Tgが300℃以上のものと、ガラス転移温度Tgが125℃未満のものとを除く)からなり、前記金属が圧延銅(厚さ300μm以下の圧延銅を除く)からなり、
前記樹脂のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数をαR、前記圧延銅の線膨張係数をαCu、前記樹脂のガラス転移温度をTg、前記樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)をE、前記弾性率Eの測定時の室温をRT=25℃、とした場合に、下記の式(1)で算出される応力指数Sが1MPa以上50MPa以下である」点を特定しているのに対し、甲(2)11発明がこのような特定をしていない点。
c 相違点の判断
甲(2)12には、利昌工業株式会社製のCS-3945について、次の記載がある。
「
[図:0001418183000009.jpg]
」
甲(2)12には、甲(2)11発明の利昌工業株式会社製のCS-3945についての、ガラス転移温度Tg、熱膨張係数(a1)CTE、曲げ弾性率についての記載はあるが、これらの測定方法等は不明であり、また、相違点に係る「樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」についての記載はない。
また、本件発明のガラス転移温度Tgは、上記2(1)イのとおり、動的粘弾性測定装置を用い、樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値Eを測定する際に、「動的粘弾性測定によってEの値が大きく変化する温度がTgとして測定される」ものであるところ、甲(2)12に記載されたガラス転移温度Tgがそのように測定されたものであるとはいえない。
そして、甲(2)11発明において、不明である「樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」、及び「動的粘弾性測定装置を用い、樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値Eを測定する際に、動的粘弾性測定によってEの値が大きく変化する温度がTgとして測定されるガラス転移温度Tg」を用いて「式(1)で算出される応力指数S」を「1MPa以上50MPa以下」とすることは、甲(2)11、及び、甲(2)2~甲(2)8、甲(2)12のいずれにも記載も示唆もされていない事項であるから、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
加えて、甲(2)11発明の「部品実装用導体層14」は、「厚さ18~70μmの銅箔からなる金属層32をエッチングすることで形成される」ものであるが、甲(2)11発明において、「部品実装用導体層14と配線用導体層16」を、厚さが300μmより大きな圧延銅とする動機付けも存在しない。
したがって、本件発明は、甲(2)11発明、及び、甲(2)2~甲(2)8、甲(2)12の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由(2)2によって、本件特許を取り消すことはできない。
エ 申立理由(2)3
申立書(2)「3(4)ウ(ウ)」(27ページ下から2行~30ページ3行)に記載された甲(2)13~15を主引用例とする進歩性欠如との申立理由(以下「申立理由(2)3」という。)について検討する。
(ア) 甲(2)13
a 甲(2)13には次の記載がある。
「
[図:0001418183000010.jpg]
」
そうすると、甲(2)13には、次のエポキシ両面プリント配線用材料の発明(以下、それぞれ「甲(2)13発明1~3」という。)が記載されているといえる。
(a) 甲(2)13発明1
「熱膨張係数CTE X(a1)が14ppm/℃、ガラス転移温度(DMA)が150℃、引っ張り弾性率 タテが15GPaであるエポキシ両面プリント配線用材料(ELC-4762/4756)。」
(b) 甲(2)13発明2
「熱膨張係数CTE X(a1)が20ppm/℃、ガラス転移温度(DMA)が150℃、引っ張り弾性率 タテが14GPaであるエポキシ両面プリント配線用材料(ELC-4970、ELC-4972R&S)。」
(c) 甲(2)13発明3
「熱膨張係数CTE X(a1)が20ppm/℃、ガラス転移温度(DMA)が140℃、引っ張り弾性率 タテが14GPaであるエポキシ両面プリント配線用材料(ELC-4972GS)。」
b 本件発明と甲(2)13発明1~3とを対比すると、両者は、少なくとも、本件発明が「厚みが5.0mm以下の金属の回路パターン」を有する回路基板であって、絶縁基板となる樹脂について、「前記樹脂のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数をαR、前記圧延銅の線膨張係数をαCu、前記樹脂のガラス転移温度をTg、前記樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)をE、前記弾性率Eの測定時の室温をRT=25℃、とした場合に、下記の式(1)で算出される応力指数Sが1MPa以上50MPa以下である」ことを特定しているのに対し、甲(2)13発明1~3が金属の回路パターンを有さない「エポキシ両面プリント配線用材料」であって、「熱膨張係数CTE X(a1)」、「ガラス転移温度(DMA)」及び「引っ張り弾性率 タテ」を特定している点で相違する。
ここで、甲(2)13発明1~3の「引っ張り弾性率」は、どの温度における弾性率なのか不明であって、弾性率が温度依存性を有する物性値であることは技術常識であるから、甲(2)13発明1~3の「引っ張り弾性率」は、本件発明の「樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」に相当しない。
そして、甲(2)13発明1~3において、不明である「樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」を用いて「式(1)で算出される応力指数S」を「1MPa以上50MPa以下」とすることは、甲(2)13、及び、甲(2)1~甲(2)8のいずれにも記載も示唆もされていない事項であるから、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
また、甲(2)13発明1~3のエポキシ両面プリント配線用材料について、金属の回路パターンを有する回路基板とする際に、「厚みが5.0mm以下の金属の回路パターン」を有し、「前記回路パターンの外郭線が、上面視において半径0.5mm以上5mm以下の円弧を呈する曲線となった角部を有し」、「前記金属が圧延銅(厚さ300μm以下の圧延銅を除く)からなり」とする動機付けも存在しない。
したがって、本件発明は、甲(2)13発明1~3のエポキシ両面プリント配線用材料、及び、甲(2)1~甲(2)8の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ) 甲(2)14
a 甲(2)14には「多層プリント配線板用高性能FR-4材料」についての次の記載がある。
「
[図:0001418183000011.jpg]
」
そうすると、甲(2)14には、次の多層プリント配線板用高性能FR-4材料の発明(以下、それぞれ「甲(2)14発明1~2」という。)が記載されているといえる。
(a) 甲(2)14発明1
「熱膨張係数が14ppm/℃、ガラス転移温度(DMA)が240℃、曲げ弾性率 縦方向が27GPaである多層プリント配線板用高性能FR-4材料(EL190T)。」
(b) 甲(2)14発明2
「熱膨張係数が15ppm/℃、ガラス転移温度(DMA)が210℃、曲げ弾性率 縦方向が22GPaである多層プリント配線板用高性能FR-4材料(EL230T)。」
b 本件発明と甲(2)14発明1~2とを対比すると、両者は、少なくとも、本件発明が「厚みが5.0mm以下の金属の回路パターン」を有する回路基板であって、絶縁基板となる樹脂について、「前記樹脂のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数をαR、前記圧延銅の線膨張係数をαCu、前記樹脂のガラス転移温度をTg、前記樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)をE、前記弾性率Eの測定時の室温をRT=25℃、とした場合に、下記の式(1)で算出される応力指数Sが1MPa以上50MPa以下である」ことを特定しているのに対し、甲(2)14発明1~2が金属の回路パターンを有さない「多層プリント配線板用高性能FR-4材料」であって、「熱膨張係数」、「ガラス転移温度(DMA)」及び「曲げ弾性率 縦方向」を特定している点で相違する。
ここで、甲(2)14には、本件発明の「前記樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」に相当する物性値についての記載がない。
そして、甲(2)14発明1~2において、不明である「樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」を用いて「式(1)で算出される応力指数S」を「1MPa以上50MPa以下」とすることは、甲(2)14、及び、甲(2)1~甲(2)8のいずれにも記載も示唆もされていない事項であるから、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
したがって、本件発明は、甲(2)14発明1~2の「多層プリント配線板用高性能FR-4材料」、及び、甲(2)1~甲(2)8の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ) 甲(2)15
甲(2)15には、放熱性に優れたプリント基板「MCPCB」についての次の記載がある。
「
[図:0001418183000012.jpg]
」
そうすると、甲(2)15には、次のプリント基板の発明(以下、それぞれ「甲(2)15発明1~3」という。)が記載されているといえる。
(a) 甲(2)15発明1
「ガラス転移温度(TMA)が100℃、ガラス転移温度Tg以下のXY方向の線膨張係数が27ppm/℃、貯蔵弾性率(DMA)が14GPaである、汎用グレートEのプリント基板。」
(b) 甲(2)15発明2
「ガラス転移温度(TMA)が110℃、ガラス転移温度Tg以下のXY方向の線膨張係数が39ppm/℃、貯蔵弾性率(DMA)が12GPaである、汎用グレート8のプリント基板。」
(c) 甲(2)15発明3
「ガラス転移温度(TMA)が94℃、ガラス転移温度Tg以下のXY方向の線膨張係数が47ppm/℃、貯蔵弾性率(DMA)が8.9GPaである、汎用グレート8のプリント基板。」
b プリント基板が回路パターンを有していることが技術常識であるとして、本件発明と甲(2)15発明1~3とを対比すると、両者は、「絶縁基板と、回路パターンと、を有する回路基板。」といえる点で一致し、本件発明が、「回路パターン」について、「厚みが5.0mm以下の金属」であって、「前記回路パターンの外郭線が、上面視において半径0.5mm以上5mm以下の円弧を呈する曲線となった角部を有し」、「前記金属が圧延銅(厚さ300μm以下の圧延銅を除く)」からなる点を特定し、「前記絶縁基板が樹脂(ガラス転移温度Tgが300℃以上のものと、ガラス転移温度Tgが125℃未満のものとを除く)からなり」、「前記樹脂のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数をαR、前記圧延銅の線膨張係数をαCu、前記樹脂のガラス転移温度をTg、前記樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)をE、前記弾性率Eの測定時の室温をRT=25℃、とした場合に、下記の式(1)で算出される応力指数Sが1MPa以上50MPa以下である」のに対し、甲(2)15発明1~3のプリント基板が有する回路パターンについての特定がなく、また、「ガラス転移温度(TMA)」、「ガラス転移温度Tg以下のXY方向の線膨張係数」、「貯蔵弾性率(DMA)」により特定している点で相違する。
そして、甲(2)15発明1~3の、貯蔵弾性率(DMA)は、どの温度における貯蔵弾性率なのか不明であるから、本件発明の「前記樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」に相当する物性値とはいえない。
また、本件発明のガラス転移温度Tgは、上記2(1)イのとおり、動的粘弾性測定装置を用い、樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値Eを測定する際に、「動的粘弾性測定によってEの値が大きく変化する温度がTgとして測定される」ものであるところ、甲(2)15発明1~3のガラス転移温度(TMA)は、このように測定されたものではない。
そして、甲(2)15発明1~3において、不明である「樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」、及び「動的粘弾性測定装置を用い、樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値Eを測定する際に、動的粘弾性測定によってEの値が大きく変化する温度がTgとして測定されるガラス転移温度Tg」を用いて「式(1)で算出される応力指数S」を「1MPa以上50MPa以下」とすることは、甲(2)15、及び、甲(2)1~甲(2)8のいずれにも記載も示唆もされていない事項であるから、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
また、甲(2)15発明1~3の回路パターンについて、「厚みが5.0mm以下の金属」であって、「前記回路パターンの外郭線が、上面視において半径0.5mm以上5mm以下の円弧を呈する曲線となった角部を有し」、「前記金属が圧延銅(厚さ300μm以下の圧延銅を除く)」からなるとする動機付けも存在しない。
したがって、本件発明は、甲(2)15発明1~3、及び、甲(2)1~甲(2)8の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ) 小括
以上のとおり、本件発明は、甲(2)13~15に記載された発明、及び甲(2)1~甲(2)8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由(2)3によって、本件発明を取り消すことはできない。
オ 申立理由(3)1
申立書(3)「3.(4)ウ(ア)」(23ページ下から10行から25ページ16行)に記載された甲(3)1を主引用例とする新規性欠如、進歩性欠如との申立理由(以下「申立理由(3)1」という。)について検討する。
a 甲(3)1には、配線基板用積層体について次の記載がある。
「【0049】
[ガラス転移温度(Tg)の測定]
ポリイミドフィルム(10mm×22.6mm)を動的熱器械分析装置にて20℃から500℃まで5℃/分で昇温させたときの動的粘弾性を測定し、ガラス転移温度(tanδ極大値:℃)を求めた。
・・・(中略)・・・
【0054】
[引張り弾性率(E’)の測定]
テンションテスターを用い、幅12.4mm、長さ160mmのポリイミドフィルムを10kgの荷重を加えながら50mm/minで引っ張り試験を行い、25℃における引張り弾性率(E’)を求めた。
・・・(中略)・・・
【0061】
【表2】
[図:0001418183000013.jpg]
」
そうすると、甲(3)1には、次の配線基板用のポリイミドフィルムの発明(以下、「甲(3)1発明」という。)が記載されているといえる。
「CTE(熱膨張係数)が8~24ppm/K、ポリイミドフィルム(10mm×22.6mm)を動的熱器械分析装置にて20℃から500℃まで5℃/分で昇温させたときの動的粘弾性から求めたガラス転移温度Tgが323~400℃、テンションテスターを用い、幅12.4mm、長さ160mmのポリイミドフィルムを10kgの荷重を加えながら50mm/minで引っ張り試験を行い、25℃における引張り弾性率が3.4~8.1GPaである配線基板用のポリイミドフィルムA~I。」
b 本件発明と甲(3)1とを対比すると、両者は本件発明が「厚みが5.0mm以下の金属の回路パターン」を有する回路基板であって、「前記絶縁基板が樹脂(ガラス転移温度Tgが300℃以上のものと、ガラス転移温度Tgが125℃未満のものとを除く)からなり」、「前記樹脂のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数をαR、前記圧延銅の線膨張係数をαCu、前記樹脂のガラス転移温度をTg、前記樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)をE、前記弾性率Eの測定時の室温をRT=25℃、とした場合に、下記の式(1)で算出される応力指数Sが1MPa以上50MPa以下である」ことを特定しているのに対し、甲(3)1発明が金属の回路パターンを有さない「配線基板用のポリイミドフィルム」であって、その「CTE(熱膨張係数)」、「ポリイミドフィルム(10mm×22.6mm)を動的熱器械分析装置にて20℃から500℃まで5℃/分で昇温させたときの動的粘弾性から求めたガラス転移温度Tg」、「テンションテスターを用い、幅12.4mm、長さ160mmのポリイミドフィルムを10kgの荷重を加えながら50mm/minで引っ張り試験を行い、25℃における引張り弾性率」を特定している点で相違する。
ここで、甲(3)1発明の「テンションテスターを用い、幅12.4mm、長さ160mmのポリイミドフィルムを10kgの荷重を加えながら50mm/minで引っ張り試験を行い、25℃における引張り弾性率」は、本件発明の「前記樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」に相当しない。
そして、甲(3)1発明において、不明である「樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」を用いて、「式(1)で算出される応力指数S」を「1MPa以上50MPa以下」とすることは、甲(3)1、及び甲(3)2~甲(3)7のいずれにも記載も示唆もされていない事項であるから、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
また、甲(3)1発明の、「ポリイミドフィルム(10mm×22.6mm)を動的熱器械分析装置にて20℃から500℃まで5℃/分で昇温させたときの動的粘弾性から求めたガラス転移温度Tg」は、「引張り荷重をかけて、周波数1Hzで」との測定条件が不明であるが、「動的粘弾性測定によってEの値が大きく変化する温度がTgとして測定される」ものといえる点で、本件発明の「ガラス転移温度Tg」と対応する。
しかしながら、甲(3)1発明のガラス転移温度Tgは、いずれも300℃を超えるものであり、本件発明で特定された「ガラス転移温度Tgが300℃以上のものと、ガラス転移温度Tgが125℃未満のものとを除く」樹脂とする動機付けは存在しない。
したがって、本件発明は、甲(3)1発明ではなく、また、甲(3)1発明、並びに、甲(3)3及び甲(4)4の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないから、申立理由(3)1によって本件特許を取り消すことはできない。
カ 申立理由(3)2
申立書(3)「3.(4)ウ(イ)」(25ページ17行から26ページ下から3行)に記載された甲(3)2を主引用例とする新規性欠如、進歩性欠如との申立理由(以下「申立理由(3)2」という。)について検討する。
(ア) 甲(3)2の記載、及び甲(3)2発明
a 甲(3)2には次の記載がある。(下線は、引用箇所を示すために当審において付加した。)
「[0001] 本発明は、特にフレキシブルプリント配線板用の材料として有用な、金属-樹脂積層体に関するものである。
・・・(中略)・・・
[0072] フレキシブルプリント配線板において配線とデバイスとの接続には、通常、はんだが使用される。そのため、本発明に係る熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度は、共晶はんだの融点である183℃以上であることが好ましく、また、さらに高融点の鉛フリーはんだを使用可能にするためには、ガラス転移温度が200℃以上であることがより好ましい。ここで、ガラス転移温度は熱機械分析法(TMA)で測定した値である。
・・・(中略)・・・
[0119] 日本国株式会社オリエンテック製RTG-1210型引張試験装置を用い、試験長50mm、試験速度50mm/分にて試料を引き伸ばし、破断した時点での試料の伸びを測定した(以下、例えば50mmの試料が100mmに伸びた時点で破断した場合に「引張破断伸度が100%」と表記する)。引張弾性率は、フィルムの引張伸度0.4~1.0%間における応力の傾きより算出した。
・・・(中略)・・・
[0171](実施例14)
・・・(中略)・・・
[0172](省略)
[0173] 該熱可塑性ポリイミド層と、厚さ9μmの銅箔(商品名U-WZ、日本国古河サーキットフォイル株式会社製)の表面粗さRaが0.11μmかつRzが0.60μmである面とを合わせ、真空プレス機にて真空下325℃にて4.4MPaで30分、次いで5.9MPaで20分間プレスを行うことで、銅箔-樹脂積層体を得た。得られた銅箔-樹脂積層体のピール強度を、上記に記載した方法により測定したところ、1.48N/mmであった。
[0174] また、該熱可塑性ポリイミド層と、厚さ9μmの銅箔(商品名NA-DFF、日本国三井金属鉱業株式会社製)の表面粗さRaが0.11μmかつRzが0.60μmである面とを合わせ、真空プレス機にて真空下325℃にて4.4MPaで30分、次いで5.9MPaで20分間プレスを行うことで、銅箔-樹脂積層体を得た。得られた銅箔-樹脂積層体のピール強度を、上記に記載した方法により測定したところ、1.49N/mmであった。
[0175] 濃度15重量%のワニスを用いて作製した熱可塑性ポリイミドフィルムの30%RH~70%RHにおける吸湿膨張係数は9.1ppm/%RHであった。ガラス転移温度は200℃、熱膨張係数は54ppm/℃、1%重量減少温度(Td1%)は421℃、5%重量減少温度(Td5%)は462℃であった。引張弾性率は3.3GPa、引張破断伸度は126%であった。
・・・(中略)・・・
[0181](実施例16)
・・・(中略)・・・
[0182](省略)
[0183] 該熱可塑性ポリイミド層と、厚さ9μmの銅箔(商品名NA-DFF、日本国三井金属鉱業株式会社製)の表面粗さRaが0.11μmかつRzが0.60μmである面とを合わせるように、2枚の銅箔で前記ポリイミドフィルムを挟み、真空プレス機を用いて真空下200℃にて無加圧にて30分、次いで325℃にて5.9MPaで20分間プレスを行うことで、両面に銅箔を有する銅箔-樹脂積層体を得た。得られた銅箔-樹脂積層体のピール強度を、上記に記載した方法により測定したところ、1.23N/mmであった。
[0184] 濃度15重量%のワニスを用いて作製した熱可塑性ポリイミドフィルムの30%RH~70%RHにおける吸湿膨張係数は11.8ppm/%RHであった。ガラス転移温度は192℃、熱膨張係数は61ppm/℃、1%重量減少温度(Td1%)は413℃、5%重量減少温度(Td5%)は455℃であった。引張弾性率は3.1GPa、引張破断伸度は108%であった。」
b 甲(3)2発明
上記aによれば、甲(3)2には次の発明(以下「甲(3)2発明」という。)が記載されているといえる。
「熱可塑性ポリイミド層と、厚さ9μmの銅箔を合わせて得た銅箔-樹脂積層体であって、
熱可塑性ポリイミドフィルムの熱機械分析法(TMA)で測定したガラス転移温度が200℃、熱膨張係数が54ppm/℃、フィルムの引張伸度0.4~1.0%間における応力の傾きより算出した引張弾性率が3.3GPaであり(実施例14)、又は、
熱可塑性ポリイミドフィルムの熱機械分析法(TMA)で測定したガラス転移温度が192℃、熱膨張係数は61ppm/℃、フィルムの引張伸度0.4~1.0%間における応力の傾きより算出した引張弾性率は3.1GPaである(実施例16)、
銅箔-樹脂積層体を材料とするフレキシブルプリント配線板。」
c 本件発明と甲(3)2発明とを対比すると、両者は、「絶縁基板と、前記絶縁基板上に直接接して設けられた、厚みが5.0mm以下の金属の回路パターンと、を有する回路基板。」である点で一致し、本件発明が、金属の回路パターンについて、「前記回路パターンの外郭線が、上面視において半径0.5mm以上5mm以下の円弧を呈する曲線となった角部を有し」、「前記金属が圧延銅(厚さ300μm以下の圧延銅を除く)から」なる点を特定し、絶縁基板となる樹脂について、「前記樹脂のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数をαR、前記圧延銅の線膨張係数をαCu、前記樹脂のガラス転移温度をTg、前記樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)をE、前記弾性率Eの測定時の室温をRT=25℃、とした場合に、下記の式(1)で算出される応力指数Sが1MPa以上50MPa以下である」点を特定しているのに対し、甲(3)2発明の金属の回路パターンが「厚さ9μmの銅箔」であり、絶縁基板と対応する熱可塑性ポリイミドフィルムを「熱機械分析法(TMA)で測定したガラス転移温度」、「熱膨張係数」、「フィルムの引張伸度0.4~1.0%間における応力の傾きより算出した引張弾性率」で特定している点で相違する。
ここで、甲(3)2発明の、「フィルムの引張伸度0.4~1.0%間における応力の傾きより算出した引張弾性率」は、本件発明の「前記樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」に相当しない。
また、本件発明のガラス転移温度Tgは、上記2(1)イのとおり、動的粘弾性測定装置を用い、樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値Eを測定する際に、「動的粘弾性測定によってEの値が大きく変化する温度がTgとして測定される」ものであるところ、甲(3)2発明の「熱機械分析法(TMA)で測定したガラス転移温度」は、このように測定されたものではない。
そして、甲(3)2発明において、不明である「樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)」、及び、動的粘弾性測定装置を用い、樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値Eを測定する際に、「動的粘弾性測定によってEの値が大きく変化する温度がTgとして測定される」「ガラス転移温度Tg」の値を用いて、「式(1)で算出される応力指数S」を「1MPa以上50MPa以下」とすることは、甲(3)2、及び甲(3)1、甲(3)3~甲(3)7に記載も示唆もされていない事項であるから、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
加えて、甲(3)2発明の「厚さ9μmの銅箔」について、「前記金属が圧延銅(厚さ300μm以下の圧延銅を除く)からなり」とし、さらに「前記回路パターンの外郭線が、上面視において半径0.5mm以上5mm以下の円弧を呈する曲線となった角部を有し」とする動機付けも存在しない。
したがって、本件発明は、甲(3)2発明ではなく、また、甲(3)2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由(3)2によって、本件特許を取り消すことはできない。
キ 申立理由(3)3
申立書(3)「3.(4)ウ(ウ)」(26ページ下から2行~28ページ最下行)に記載された甲(3)3を主引用例とする新規性欠如、進歩性欠如との申立理由(以下「申立理由(3)3」という。)について検討する。
(ア) 甲(3)3の記載
甲(3)3には次の記載がある。(下線は、引用箇所を示すために当審において付加した。)
「【0008】
即ち、本発明によれば、金属基板と、上記金属基板上に形成された絶縁層と、上記絶縁層上に形成された導電回路層とを有する金属ベース回路基板であって、
上記導電回路層は、銅を主成分として有し、
上記絶縁層は、エポキシ樹脂、硬化剤、及び無機フィラーを混合して得られるエポキシ樹脂組成物から形成され、
上記エポキシ樹脂組成物は、耐クラック指数Σins≦0.025を満たす、金属ベース回路基板が提供される。
(但し、前記ΣinsはEins×|αCu-αins|×(Tg-25)/Fで定義される値であり、前記Einsは25℃における前記エポキシ樹脂組成物の引張弾性率、前記αCuは25℃おける前記導電回路層の線膨張係数、前記αinsは25℃における前記エポキシ樹脂組成物の線膨張係数、前記Tgは前記エポキシ樹脂組成物のガラス転移点、前記Fは25℃における前記エポキシ樹脂組成物の引張破断強度を示す)。
この構成を有する金属ベース回路基板は、後述する実施例において、ヒートサイクルを200回行っても、絶縁層にクラックが発生しなかったことが実証されている。
・・・(中略)・・・
【0020】
Eins×|αCu-αins|×(Tg-25)は、発生応力の評価指数として設定できる。この式から導き出される値は、絶縁層と導電回路層との熱応力を低下させ、絶縁層へのクラックを抑制する観点からは、2.50MPa以下が好ましく、2.20MPa以下がより好ましく、2.00MPa以下がさらに好ましい。この値は、例えば2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、2.0、1.98、1.90、1.80、1.70、1.60、1.50、1.0、又は0MPaであってもよく、それらいずれかの値以下、又は範囲内であってもよい。
【0021】
エポキシ樹脂組成物のガラス転移点Tgは、絶縁層と導電回路層との熱応力を低下させ、絶縁層へのクラックを抑制する観点からは、60℃以下が好ましく、55℃以下がより好ましく、53℃以下がさらに好ましい。この値は、例えば60、59、58、57、56、55、54、53、50、40、30、又は25℃であってもよく、それらいずれかの値以下、又は範囲内であってもよい。後述する実施例では、Tgが60℃以下で、且つEins×|αCu-αins|<100×103Pa/℃を満たすエポキシ樹脂組成物を使用した金属ベース回路基板では、ヒートサイクルを200回行った後であっても、絶縁層にクラックが発生しなかった。
・・・(中略)・・・
【0029】
3.導電回路層3
導電回路層の素材としては、銅、アルミニウム、鉄、錫、金、銀、モリブデン、ニッケル、チタニウムの単体又はこれら金属を二種類以上含む合金であり、汎用性の高い銅を主成分として含むことが好ましい。導電回路層の形状としては、板、シート、箔、これらの積層体がある。導電回路層の厚さは、50~300μmである。厚さが薄すぎると、大電流を流したときの発熱が大きくなり、厚さが厚すぎると、絶縁層2にクラックが生じやすくなるからである。導電回路層3の表面にニッケルメッキ、ニッケル-金メッキ等のメッキ処理をしても良い。本明細書において「主成分」とは、例えば、一つの層内に最も多く含まれる成分を意味する。主成分の含有量は、例えば、80、85、90、95、98、99、99.7、99.8、99.9、又は100質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
・・・(中略)・・・
【0044】
1-6. 物性測定
エポキシ樹脂組成物A~Dについて、引張弾性率、線膨張係数、Tg、引張破断強度、耐クラック性を以下の手順で測定した。
【0045】
1-6-1. 引張弾性率の測定
上記工程で作製したエポキシ樹脂組成物AのシートをPETフィルムからはがし、引張弾性率を引張試験機(株式会社島津製作所製 AGS-G)により引張速度5m/分で求めた。また、エポキシ樹脂組成物B~Dのシートも、同様の手順で引張弾性率を測定した。
・・・(中略)・・・
【0047】
1-6-3. Tgの測定
ガラス転移点TgはISO-11359-2に準拠して測定した。上記工程で作製したエポキシ樹脂組成物AのシートをPETフィルムからはがし、規定のサイズ(5mm角)に切り出し、TMA装置(TMA2940、TAインスツルメント社製)を用いて、昇温5℃/分、押しモードにて厚み方向の変位量を測定した。そして、温度と、サンプルの厚みの変位量とを示す曲線のガラス転移点前後の曲線の接線をとり、この接線の交点からガラス転移点を算出した。また、エポキシ樹脂組成物B~Dのシートも、同様の手順でTgを測定した。
・・・(中略)・・・
【0052】
【表1】
[図:0001418183000014.jpg]
」
(イ) 甲(3)3発明
上記(ア)によれば、甲(3)3には次の発明(以下「甲(3)3発明」という。)が記載されているといえる。
「金属基板と、上記金属基板上に形成された絶縁層と、上記絶縁層上に形成された導電回路層とを有する金属ベース回路基板であって、
上記導電回路層は、銅を主成分として有し、導電回路層の厚さは、50~300μmであり、
上記絶縁層は、エポキシ樹脂組成物から形成され、
エポキシ樹脂組成物A~Dが、
引張試験機(株式会社島津製作所製 AGS-G)により引張速度5m/分で求めた25℃での引張弾性率が13.6~16.3GPa、線膨張係数(TMA)α1が8.0~11.8ppm/℃、TMA装置(TMA2940、TAインスツルメント社製)を用いて、昇温5℃/分、押しモードにて厚み方向の変位量を測定し、温度と、サンプルの厚みの変位量とを示す曲線のガラス転移点前後の曲線の接線をとり、この接線の交点から算出したガラス転移点Tgが50.8~95.2℃であり、
Einsを25℃における前記エポキシ樹脂組成物の引張弾性率、αCuを25℃おける導電回路層の線膨張係数、αinsを25℃における前記エポキシ樹脂組成物の線膨張係数、Tgを前記エポキシ樹脂組成物のガラス転移点とした、発生応力の評価指数Eins×|αCu-αins|×(Tg-25)が、1.98~9.43MPaである、
金属ベース回路基板。」
(ウ) 対比
本件発明と甲(3)3発明とを対比する。
a 本件発明と甲(3)3発明とはいずれも「回路基板」の発明である点で共通する。
b 甲(3)3発明の「絶縁層」と、銅を主成分として有し、厚さが50~300μmである「上記絶縁層上に形成された導電回路層」は、それぞれ、本件発明の「絶縁基板」と、「前記絶縁基板上に直接接して設けられた、厚みが5.0mm以下の金属の回路パターン」に相当する。
c 甲(3)3発明の「絶縁層」は、エポキシ樹脂組成物から形成されているから、本件発明と甲(3)3発明とは、「前記絶縁基板が樹脂から」なる点で共通する。
d 一致点・相違点
以上を踏まえると、本件発明と甲(3)3発明とは次の点で一致し、相違する。
(a) 一致点
「絶縁基板と、
前記絶縁基板上に直接接して設けられた、厚みが5.0mm以下の金属の回路パターンと、
を有し、
前記絶縁基板が樹脂からなる、回路基板。」
(b) 相違点1
本件発明の「厚みが5.0mm以下の金属の回路パターン」が、「前記回路パターンの外郭線が、上面視において半径0.5mm以上5mm以下の円弧を呈する曲線となった角部を有し」、「前記金属が圧延銅(厚さ300μm以下の圧延銅を除く)から」なると特定されているのに対し、甲(3)3発明の「上記導電回路層は、銅を主成分として有し、導電回路層の厚さは、50~300μm」である点。
(c) 相違点2
本件発明が、絶縁基板となる樹脂について、「(ガラス転移温度Tgが300℃以上のものと、ガラス転移温度Tgが125℃未満のものとを除く)」、「前記樹脂のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数をαR、前記圧延銅の線膨張係数をαCu、前記樹脂のガラス転移温度をTg、前記樹脂の弾性率(動的粘弾性測定装置を用い、前記樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値)をE、前記弾性率Eの測定時の室温をRT=25℃、とした場合に、下記の式(1)で算出される応力指数Sが1MPa以上50MPa以下である」と特定しているのに対し、甲(3)3発明の絶縁層を形成するエポキシ樹脂組成物A~Dが、「引張試験機(株式会社島津製作所製 AGS-G)により引張速度5m/分で求めた25℃での引張弾性率が13.6~16.3GPa、線膨張係数(TMA)α1が8.0~11.8ppm/℃、TMA装置(TMA2940、TAインスツルメント社製)を用いて、昇温5℃/分、押しモードにて厚み方向の変位量を測定し、温度と、サンプルの厚みの変位量とを示す曲線のガラス転移点前後の曲線の接線をとり、この接線の交点から算出したガラス転移点Tgが50.8~95.2℃であり、
Einsを25℃における前記エポキシ樹脂組成物の引張弾性率、αCuを25℃おける導電回路層の線膨張係数、αinsを25℃における前記エポキシ樹脂組成物の線膨張係数、Tgを前記エポキシ樹脂組成物のガラス転移点とした、発生応力の評価指数Eins×|αCu-αins|×(Tg-25)が、1.98~9.43である」と特定されている点。
(エ) 相違点の判断
a 相違点1
甲(3)3の段落0029の「導電回路層の厚さは、50~300μmである。厚さが薄すぎると、大電流を流したときの発熱が大きくなり、厚さが厚すぎると、絶縁層2にクラックが生じやすくなるからである。」との記載によると、甲(3)3発明の導電回路層を「圧延銅(厚さ300μm以下の圧延銅を除く)」で構成することには、阻害要因が存在する。
そうすると、甲(3)3発明において、相違点1に係る本件発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
b 相違点2
(a) 本件発明のガラス転移温度Tgは、上記2(1)イのとおり、動的粘弾性測定装置を用い、樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値Eを測定する際に、「動的粘弾性測定によってEの値が大きく変化する温度がTgとして測定される」ものであるところ、甲(3)3発明の「TMA装置(TMA2940、TAインスツルメント社製)を用いて、昇温5℃/分、押しモードにて厚み方向の変位量を測定し、温度と、サンプルの厚みの変位量とを示す曲線のガラス転移点前後の曲線の接線をとり、この接線の交点から算出したガラス転移点Tg」は、このように測定されたものではない。
そして、甲(3)3発明において、不明である、動的粘弾性測定装置を用い、樹脂に引張り荷重をかけて、周波数1Hzで測定した25℃における弾性率の値Eを測定する際に、「動的粘弾性測定によってEの値が大きく変化する温度がTgとして測定される」「ガラス転移温度Tg」の値を用いて、「式(1)で算出される応力指数S」を「1MPa以上50MPa以下」とすることは、甲(3)3、及び甲(3)1、甲(3)2、甲(3)4~甲(3)7に記載も示唆もされていない事項であるから、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(b) 上記エ(ア)aの甲(2)13の記載や上記エ(イ)aの甲(2)14の記載によると、本件発明の測定方法と対応するDMAによるガラス転移温度の値は、TMAによる値よりも概ね11~20%大きな値となる。
そして、甲(3)3の段落0021の「エポキシ樹脂組成物のガラス転移点Tgは、絶縁層と導電回路層との熱応力を低下させ、絶縁層へのクラックを抑制する観点からは、60℃以下が好ましく、55℃以下がより好ましく、53℃以下がさらに好ましい。」との記載を踏まえれば、50.8~95.2℃である甲(3)3発明の絶縁層を形成するエポキシ樹脂組成物のガラス転移温度を「ガラス転移温度Tgが300℃以上のものと、ガラス転移温度Tgが125℃未満のものとを除く」とすることは、DMAによる20%大きな値となることを考慮しても、阻害要因が存在する。
そうすると、甲(3)3発明において、相違点2に係る本件発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
したがって、本件発明は、甲(3)3発明ではなく、また、甲(3)3発明、及び、甲(3)2、甲(3)5、甲(3)6の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないから、申立理由(3)3によって、本件特許を取り消すことはできない。
(2) 明確性要件違反
ア 申立書(3)「3(4)エ(ア)」(29ページ5~18行)に記載された申立理由は、次のとおりである。
(ア) 特許請求の範囲に記載された「測定時の室温RTによって応力指数Sの値が変動することになり、発明の範囲が一義に特定されない」。(申立書(3)(29ページ8~9行))
(イ) 特許請求の範囲に記載された「弾性率Eが貯蔵弾性率であるのか損失弾性率であるのかが不明である」。(申立書(3)(29ページ14~15行))
イ 本件訂正により、本件発明は「室温をRT=25℃」と特定されたこと、及び、令和5年2月10日に特許権者により提出された意見書5ページ8行に「弾性率Eとは貯蔵弾性率を意味する」と記載されたことにより、この申立理由は解消した。
ウ なお、申立書(2)「3(4)エ(ウ)」(31ページ14~33行)に、明確性要件違反として記載された申立理由は、下記(3)イのとおりであり、その内容からサポート要件違反の申立理由として判断する。
(3) サポート要件違反
ア 申立書(2)「3(4)エ(ア)」(30ページ5行~31ページ1行)に記載された申立理由は、次のとおりである。
(ア) 「本件特許明細書の発明の詳細な説明には、特定の樹脂を用いた場合はおろか、具体的な実施例は何ら記載されていない(特に段落【0036】~【0037】)。 よって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に実質的に記載されていないといえる。」(申立書(2)(30ページ16~20行))
(イ) 「また、発明の詳細な説明の記載から、あらゆる樹脂において式(1)を満たす場合に、樹脂基板と金属の回路パターンの密着性を向上させるという課題を解決できることを認識することができない。 出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明に係る範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」(申立書(2)(30ページ21~26行))
(ウ) 「本件特許明細書の発明の詳細な説明には、回路パターンの外郭線が、上面視において半径0.2mm以上5mm以下という特定の半径の円弧を呈する曲線となった角部を有する構成は何ら記載されていない。 出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明に係る範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」(申立書(2)(30ページ30~36行))
イ 申立書(2)「3(4)エ(ウ)」(31ページ14~33行)に明確性要件違反として記載された次の申立理由は、その内容から、サポート要件違反として判断する。
「本件特許明細書の発明の詳細な説明には、特定の樹脂を用いた具体的な実施例は何ら記載されていない(特に段落【0036】~【0037】)。 このような記載から、樹脂の線膨張係数、圧延銅の線膨張係数、樹脂のガラス転移温度、樹脂の弾性率などの物性値が上記式(1)を満たす場合に、樹脂基板と金属の回路パターンの密着性を向上させるという課題を解決できるのか理解することができず、発明の技術的意義が不明である。」(申立書(2)(31ページ25~32行))
ウ 申立書(3)「3(4)エ(イ-1)」(29ページ下から4~2行)に実施可能要件違反として記載された次の申立理由についても、その内容から、サポート要件違反として判断する。
「本件特許発明1では応力指数Sが重要な因子であるにも拘らず、実施例では応力指数Sに関して実証されていない。そのため、発明の課題の解決手段を理解できず、発明の技術上の意義が不明である。」
エ 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
ここで、本件明細書の発明の詳細な説明には、発明が解決しようとする課題として、「実装される電子部品等の発熱が大きくなる」(段落0004)場合に、「樹脂基板上に直接接して設けられる金属の回路パターンを有する場合において、樹脂基板と金属の回路パターンの密着性を向上させる技術を提供すること」(段落0005)と記載されている。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明には、「絶縁基板と、前記絶縁基板上に直接接して設けられた金属の回路パターンと、を有し、前記回路パターンの外郭線が、上面視において半径0.2mm以上5mm以下の円弧を呈する曲線となった角部を有し、前記絶縁基板が樹脂からなり、前記金属が圧延銅からなり、前記樹脂のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数をαR、前記圧延銅の線膨張 係数をαCu、前記樹脂のガラス転移温度をTg、前記樹脂の弾性率をE、測定時の室温 をRT、とした場合に、下記の式(1)で算出される応力指数Sが1MPa以上50MP a以下である、回路基板を提供できる。
S=|αR-αCu|×(Tg-RT)×E・・・・式(1)」(段落0006)ことで、「樹脂基板上に直接接して設けられる金属の回路パターンを有する場合において、樹脂基板と金属の回路パターンの密着性を向上させる技術を提供することができる。」(段落0007)との効果を奏すると記載されているから、当業者は、同様の事項を特定する本件発明が、上記課題を解決できると認識できる。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されているから、これらの申立理由によって本件特許を取り消すことはできない。
(4) 実施可能要件違反
ア 申立書(2)「3(4)エ(イ)」(31ページ2~13行)に記載された申立理由は、次のとおりである。
「あらゆる樹脂において、式(1)を満たすように各物性値を調整することは当業者にとって過度の試行錯誤を必要とするものであり、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されているとはいえない。」(31ページ8~11行)
イ 申立書(3)「3(4)エ(イ)」(29ページ下から5行~30ページ6行)に記載された申立理由は、次のとおりである。
「本件特許発明1では、応力指数Sを1MPa以上50MPa以下に調整することが特徴の発明であるが、実施例では応力指数Sを上記範囲に調整したものが一切記載されておらず、具体的にどのように調整すればよいのかが理解できず、追試することができない。」(申立書(3)(29ページ最下行から30ページ3行))
ウ しかしながら、本件明細書には、段落0016に「絶縁層11を構成する樹脂材料」が例示され、段落0029に記載された線膨張係数αR(10~50ppm/K)、ガラス転移温度Tg(100~300℃)、弾性率E(5~50GPa)の範囲に調整すれば、式(1)で算出される応力指数Sを1MPa以上50MPa以下とすることができる。
そうすると、本件発明で規定される「式(1)で算出される応力指数S」を「1MPa以上50MPa以下」との条件を満たす樹脂を得ることは、過度の試行錯誤を必要とするものとはいえない。
したがって、これらの申立理由により本件特許を取り消すことはできない。
4 むすび
以上のとおり、令和6年4月5日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び申立書(1)~(3)に記載した申立理由によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700989