特許異議申立
2022-700988
撓み噛合い式歯車装置
- 審判番号
- 2022-700988
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-078068
- 登録番号
- 7050559
- 請求日
- 2022年10月06日
- 審決日
- 2022年12月28日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】住友重機械工業株式会社
- 【異議申立人】株式会社 ハーモニック・ドライブ・システムズ
- 【異議申立人代理人】横沢 志郎
- 審判長/審判官
- 審判長 平田 信勝
- 審判官 久島 弘太郎
- 審判官 内田 博之
- 分類
- P1652.121-Y (F16H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7050559号発明「撓み噛合い式歯車装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7050559号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第7050559号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成30年4月16日に出願され、令和4年3月31日にその特許権の設定登録がされ、令和4年4月8日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1に係る特許に対し、令和4年10月6日に特許異議申立人株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ(以下「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
2 本件発明
特許第7050559号の請求項1の特許に係る発明(以下「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
内歯歯車と、前記内歯歯車と噛合う外歯歯車と、前記外歯歯車を撓み変形させる起振体と、前記起振体と前記外歯歯車との間に配置される起振体軸受けと、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記起振体軸受けは転動体と外輪とを有し、
前記外歯歯車の最小の内周長が、前記外輪の最大の外周長よりも大きく、
回転中心から前記起振体の周面までの距離が最も短い短軸位置において前記外歯歯車と前記外輪との間に前記外歯歯車の軸方向全長に渡って隙間が設けられている、
撓み噛合い式歯車装置。」
3 申立理由の概要
特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として甲2号証を提出し、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
甲第1号証:特開昭61―136042号公報
甲第2号証:実願昭59-16125号(実開昭60-129534号)のマイクロフィルム
4 甲第1号証及び甲2号証に記載された事項及び発明
(1)甲第1号証に記載された事項及び発明
甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。
なお、甲第1号証の記載中の「ハーモニツクドライブ」、「ウエーブジエネレータ」、「サーキユラスプライン」、「カツプ」、「なつている」、「ピツチ」、「フラツト」、「したがつて」は、それぞれ「ハーモニックドライブ」、「ウェーブジェネレータ」、「サーキュラスプライン」、「カップ」、「なっている」、「ピッチ」、「フラット」、「したがって」として以下記載する。
ア「〔従来の技術〕
第5図は従来のハーモニックドライブ(登録商標)型減速装置を示す断面図で、第6図はその縦断正面図である。これらの図において、(1)はウェーブジェネレータ、(2)はフレクスプライン、(3)はサーキュラスプラインである。ウェーブジェネレータ(1)は、中心に軸(図示せず)の結合穴(11a)を有する楕円状のカム(11)と、該カム(11)の外周に嵌装されたボールベアリング(12)から構成されている。そしてボールベアリング(12)の内輪(12a)はカム(11)の外周に固定されているが、外輪(12b)はボール(12c)を介し弾性変形可能に構成されている。
フレクスプライン(2)は、薄肉の金属弾性体からなり、通常、カップ状に形成され、ボールベアリング(12)の外輪(12b)の外周に嵌合する先端開口部の外周には多数の歯(21)が刻設されている。
サーキュラスプライン(3)は、リング状の剛体からなり、その内周にはフレクスプライン(2)と同一ピッチの歯(31)が多数刻設されており、その歯数はフレクスプライン(2)の歯数より2枚多くなっている。
次に上記従来例の動作について第7図(a)~(d)を用いて説明する。
第7図(a)は、フレクスプライン(2)がウェーブジェネレータ(1)によって楕円状にたわめられ、その楕円の長軸の部分でサーキュラスプライン(3)と歯 (21)(31)がかみ合い、短軸の部分では歯が完全に離れた状態を示している。これら3要素すなわち、ウェーブジェネレータ(1)、フレクスプライン(2)及びサーキュラスプライン(3)を組合せた状態で、例えばサーキュラスプライン(3)を固定し、ウェーブジェネレータ(1)を入力として回転させると、フレクスプライン(2)は弾性変形し、サーキュラスプライン(3)とのかみ合い位置(矢印i、jで示す)が第7図(b)(c)(d)に示すように、順次移動する。すなわち、ウェーブジェネレータ(1)が時計方向に180°回転すると、フレクスプライン(2)は歯数1枚分だけ反時計方向に移動し(第7図(c)参照)、ウェーブジェネレータ(1)が1回転したときはフレクスプライン(2)は歯数2枚分だけ移動することになる(第7図(d)参照)。このように、ウェーブジェネレータ(1)が1回転したとき、フレクスプライン(2)はサーキュラスプライン(3)より歯数が2枚少ないのでその分だけウェーブジェネレータ(1)の回転方向とは逆の方向に移動することになる。一般には、この動きを出力として取出し、所望の減速比を得ることにしている。」(第1ページ右下欄第2行ないし第2ページ右上欄第8行)
イ「なお、上記実施例では、フレクスプライン(2)がカップ型の形状をしたものについて説明したが、他の形式のものとして第9図に示すようなものがある。これはフラット型ハーモニックドライブ(登録商標)と呼ばれているもので、フレクスプライン(2)はリング状を呈しており、さらに、出力軸連結のために、フレクスプライン(2)と同じ歯数を持つ第2のサーキュラスプライン(5)を1個追加した構成となっている。したがって、第2のサーキュラスプライン(5)はフレクスプライン(2)と相対回転を生じないので、フレクスプライン(2)と同じ速度で回転する。」(第3ページ左上欄第4ないし15行)
ウ 摘記事項ア及びイ並びに第5図及び第9図の記載から、従来技術である第5図に示されるハーモニックドライブ(登録商標)型減速装置において、カップ型のフレクスプライン2に換えて、第9図に示されるリング状のフレクスプライン2を用いたフラット型ハーモニックドライブ(登録商標)が第9図に記載されていると認められる。
以上の摘記事項ア及びイ並びに認定事項ウから、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲1発明]
サーキュラスプライン3及び第2のサーキュラスプライン5と、サーキュラスプライン3及び第2のサーキュラスプライン5とかみ合うリング状のフレクスプライン2と、フレクスプライン2をたわめるカム11と、カム11の外周に内輪12aが固定され、外輪12bの外周にはフレクスプライン2が嵌合するボールベアリング12と、を備えたフラット型ハーモニックドライブ(登録商標)であって、
ボールベアリング12はボール12cと外輪12bとを有している、
フラット型ハーモニックドライブ(登録商標)。
(2)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、以下の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。
ア「2. 実用新案登録請求の範囲
(1) 内周に内側スプラインを有するサーキュラスプラインと、前記サーキュラスプラインに噛合する外側スプラインを外周に有するフレクススプラインと、該フレクススプラインの内周面に遊嵌合する玉軸受と、該玉軸受の内輪に嵌合し、前記玉軸受および前記玉軸受の外輪と遊嵌合しているフレクススプラインを楕円もしくは三角形状に変形させるウェーブジェネレータを含む調和減速装置において、鋼板製の芯金と該芯金の外縁部に固着した弾性部材とからなるシール部材を、玉軸受の両側で前記シール部材の内周を高速回転側部材に取付け、外周を低速回転側部材に摺接せしめたことを特徴とする調和減速装置の軸受部密封機構。」(第1ページ第4ないし17行)
イ「3. 考案の詳細な説明
この考案は調和減速装置の軸受部密封機構に関する。従来、調和減速装置では例えば、第1図および第2図に示すように出力側固定部を有する底部41と、薄肉の円筒部42からなり、ほゞコ字形断面を有し、かつ反底部側の外周面に外側スプライン43が形成されているフレクススプライン4と、該フレクススプラインの前記外側スプラインに噛合する内側スプライン51を有するサーキュラスプライン5と、前記フレクススプラインの反底部側内周面44に遊嵌合された外輪1a、内輪2、およびその間に介装された玉3からなる玉軸受Aと、該玉軸受の前記内輪と嵌合し、内腔を有する楕円状のウェープジェネレータ6と、該ウェーブジェネレータの前記内腔に嵌合し、入力軸(開示していない)を固定するボス7とからなる。」(第2ページ第7行ないし第3ページ第2行)
ウ「このような構造において、特に軸受に注目した問題点は、外輪1aとフレクススプラインが遊嵌合であり、しかも、第2図に示すように方向a、b、およびcにおいては、第3図(a)、第3図(b)、第3図(c)にて説明するように、フレクススプラインの底部側は円であり、これに対して反底部側は楕円であるために、フレクススプライン内周面と外輪外周面の嵌合状態が暫次変化し、すなわち、第3図(a)では図面上外輪右側角部と、第3図(b)では外輪外周部とほゞ均一に、第3図(c)では外輪の左側角部と当ることになり、この状態がくり返されることになる。」(第4ページ第2ないし13行)
エ 摘記事項アないしウから、フレクススプライン4は、底部41を有しており、底部側は円であり反底部側は楕円であるため、フレクススプライン4の反底部側内周面44と外輪1aの外周面とは、嵌合状態が第3図(a)ないし(c)に示されるように暫次変化するものであって、フレクススプライン4の反底部側内周面44が、方向aにおいて外輪1aの外周面の左側角部と離間(第3図(a)参照)し、方向cにおいて右側角部と離間(第3図(c)参照)できるよう、フレクススプライン4の反底部側内周面44に玉軸受Aの外輪1aを遊嵌合し、反底部側内周面44の1周の長さを、外輪1aの外周面の1周の長さより長くしていると認められる。
5 当審の判断
(1)対比
本件発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「サーキュラスプライン3及び第2のサーキュラスプライン5」は、本件発明の「内歯歯車」に相当し、同様に、「リング状のフレクスプライン2」は「外歯歯車」に相当し、「かみ合う」は「噛合う」に相当する。
甲1発明の「フレクスプライン2をたわめるカム11」は、フレクスプライン2をたわめた結果、フレクスプライン2を撓み変形させているといえるから、本件発明の「前記外歯歯車を撓み変形させる起振体」に相当する。
甲1発明の「カム11の外周に内輪12aが固定され、外輪12bの外周にはフレクスプライン2が嵌合するボールベアリング12」は、カム11とフレクスプライン2との間にボールベアリング12が配置されることは明らかであるから、本件発明の「前記起振体と前記外歯歯車との間に配置される起振体軸受け」に相当する。
甲1発明の「フラット型ハーモニックドライブ(登録商標)」は、本件発明の「撓み噛合い式歯車装置」に相当し、同様に、「ボール12c」は「転動体」に、「外輪12b」は「外輪」に相当する。
そうすると、本件発明と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
<一致点>
「内歯歯車と、前記内歯歯車と噛合う外歯歯車と、前記外歯歯車を撓み変形させる起振体と、前記起振体と前記外歯歯車との間に配置される起振体軸受けと、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記起振体軸受けは転動体と外輪とを有している、
撓み噛合い式歯車装置。」
<相違点>
本件発明では、「前記外歯歯車の最小の内周長が、前記外輪の最大の外周長よりも大きく、回転中心から前記起振体の周面までの距離が最も短い短軸位置において前記外歯歯車と前記外輪との間に前記外歯歯車の軸方向全長に渡って隙間が設けられている」のに対し、甲1発明ではフレクスプライン2の最小の内周長が、外輪12bの最大の外周長よりも大きいか不明であり、外輪12bの外周にフレクスプライン2が嵌合しているものの、本件発明のような隙間が設けられているか不明である点。
(2)判断
相違点について検討する。
甲第2号証には、上記4(2)アないしウに摘記したとおり、底部41を有するフレクススプライン4の反底部側内周面44に玉軸受Aの外輪1aを遊嵌合することが記載されている。そして、甲1発明における外輪12bの外周にフレクスプライン2が嵌合する構造と、甲第2号証に記載されたフレクススプライン4の反底部側内周面44に玉軸受Aの外輪1aを遊嵌合する構造とは、フレクスプラインと軸受との組み立てに関する技術である点では一応関連している。
しかし、甲第2号証に記載されたフレクススプライン4は、上記4(2)エで認定したとおり、底部41を有し、軸方向視の断面形状が底部側は円であり反底部側は楕円であるのに対し、甲1発明におけるフレクスプライン2はリング状のものであって底部を有さず、フレクススプライン2の軸方向の両端で断面形状が異なることはない。
そうすると、甲1発明の外輪12bの外周にリング状のフレクスプライン2が嵌合する構造に、甲第2号証に記載された、フレクススプライン4の底部側と反底部側との断面形状の相違に起因して、反底部側の内周面44と外輪1aの外周面との嵌合状態が暫次変化するようにした、反底部側内周面44に玉軸受Aの外輪1aを遊嵌合させる組み立て構造を適用する動機はないというべきである。
そして、本件発明は、上記相違点に係る本件発明の構成によって、「軸方向の全域において、外歯歯車12の外周面と外輪32の内周面とに異常摩耗が生じることを抑制できる。」(本件特許明細書の段落【0039】)という格別の効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、甲1発明及び甲第2号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲1発明に甲第2号証に記載された反底部側内周面44に玉軸受Aの外輪1aを遊嵌合させる組み立て構造を適用する動機について、波動歯車装置の分野において、カップ型波動歯車装置およびフラット型波動歯車装置は共に周知のものであるから、甲第2号証に記載されている「フレクスプラインの内周面に玉軸受を遊嵌合させる」という構成を、甲1発明に記載のフラット型ハーモニックドライプに適用することは、通常の創作能力の範囲に属する旨を主張している(特許異議申立書第10ページ第11ないし25行)。
しかし、上記(2)で判断したとおり、たとえ、カップ型波動歯車装置及びフラット型波動歯車装置が周知のものであったとしても、甲第2号証に記載されている上記構成を甲1発明に適用する動機はない。
その他、「前記外歯歯車の最小の内周長が、前記外輪の最大の外周長よりも大き」いことに関する主張(特許異議申立書第11ページ第1ないし16行)や、「隙間」ができる場所に関する主張(特許異議申立書第11ページ第17行ないし第12ページ第6行)をしているが、いずれも甲1発明に甲第2号証に記載された反底部側内周面44に玉軸受Aの外輪1aを遊嵌合させる組み立て構造を適用できたことを前提とする主張である。
以上のとおりであるから、特許異議申立人の上記主張には理由がない。
6 むすび
上記4及び5のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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