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特許異議申立

2024-700558

転圧機械

審判番号
2024-700558
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-565227
登録番号
7397261
請求日
2024年06月12日
審決日
2024年11月11日
公報発行日
2024年12月27日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】日立建機株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人相原国際知財事務所
  • 【異議申立人】伊藤 裕美
審判長/審判官
  • 審判長 中屋 裕一郎
  • 審判官 尾崎 和寛
  • 審判官 小川 恭司
分類
P1651.121-Y (F16H)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7397261号発明「転圧機械」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7397261号の請求項1~6に係る特許を維持する。

理由

理 由 1 手続の経緯 特許第7397261号の請求項1~6に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)11月12日(優先権主張 令和2年11月26日)を国際出願日として出願され、令和5年12月5日にその特許権の設定がされ、令和5年12月13日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和6年6月12日に特許異議申立人伊藤裕美(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。 なお、特許異議申立人は、令和6年9月4日に、特許異議申立書及び証拠説明書の補正をする手続補正書を提出している。 2 本件発明 特許第7397261号の請求項1~6の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 機体と、 前記機体に回転可能に設けられた前輪及び後輪と、 前記機体の走行速度を制御するように構成された速度制御装置と、を備え、 前記速度制御装置は、 前記機体の実速度を検出し、当該検出結果に基づいて実速度信号を送信するように構成された速度検出手段と、 前記実速度信号を受信し、前記実速度と前記機体の目標速度とを比較し、当該比較結果に基づいて前記実速度を前記目標速度に到達させるための目標速度信号を算出し、前記目標速度信号を送信するように構成されたコントローラと、 前記コントローラから送信された前記目標速度信号に基づいて押しのけ容積を制御するように構成された油圧ポンプと、 前記コントローラから送信された前記目標速度信号に基づいて、押しのけ容積を制御し、前記前輪及び前記後輪の各々を該押しのけ容積に応じた回転数で駆動するように構成された前輪用油圧モータ及び後輪用油圧モータと、を備える転圧機械において、 前記コントローラは、前記実速度が切換用閾値より小さい場合、前記油圧ポンプの押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記前輪用油圧モータ及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、前記実速度が前記切換用閾値に達してから一定の間、前記油圧ポンプの押しのけ容積、前記前輪用油圧モータの押しのけ容積、及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を一定に維持するように構成されている、ことを特徴とする転圧機械。 【請求項2】 前記速度制御装置は、前記機体の走行速度を制御するために、オペレータの操作量に応じた第1操作量信号を送信するように構成された速度調整手段と、前記機体の最高速度を設定するために、オペレータの操作量に応じた第2操作量信号を送信するように構成された最高速度設定手段と、を更に備え、 前記コントローラは、前記第1操作量信号及び前記第2操作量信号に基づいて前記目標速度を設定するように構成されており、且つ、前記速度調整手段及び前記最高速度設定手段の少なくともいずれか一方の操作により前記実速度が前記切換用閾値に達した場合、前記切換用閾値に達してから一定の間、前記油圧ポンプの押しのけ容積、前記前輪用油圧モータの押しのけ容積、及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を一定に維持するように構成されている、ことを特徴とする請求項1記載の転圧機械。 【請求項3】 前記コントローラは、前記最高速度設定手段の操作によって前記最高速度の設定が変更された場合、変更前の最高速度を実現する前記速度調整手段の操作量と同じ操作量で変更後の最高速度が実現されるように、前記油圧ポンプの押しのけ容積、前記前輪用油圧モータの押しのけ容積、及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を制御する、ことを特徴とする請求項2記載の転圧機械。 【請求項4】 前記速度制御装置は、前記機体に取付けられたモニタを更に備え、 前記コントローラは、前記第2操作量信号に基づいて前記最高速度を前記モニタに表示するとともに、前記実速度信号に基づいて前記実速度を前記モニタに表示するように構成されている、ことを特徴とする請求項2記載の転圧機械。 【請求項5】 前記コントローラは、前記実速度が前記切換用閾値より小さい場合、前記実速度の上昇に伴って前記油圧ポンプの押しのけ容積を増加させるように制御し、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記実速度の上昇に伴って前記前輪用油圧モータ及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を減少させるように制御し、且つ、前記実速度が前記切換用閾値に達してから一定の間、前記油圧ポンプの押しのけ容積、前記前輪用油圧モータの押しのけ容積、及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を一定に維持するように制御する、ことを特徴とする請求項1記載の転圧機械。 【請求項6】 前記コントローラは、前記実速度が前記切換用閾値より小さい場合、前記実速度の上昇に伴って前記油圧ポンプの押しのけ容積を増加させるように制御し、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記実速度の上昇に伴って前記前輪用油圧モータ及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を減少させるように制御し、且つ、前記実速度が前記切換用閾値に達してから一定の間、前記油圧ポンプの押しのけ容積、前記前輪用油圧モータの押しのけ容積、及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を一定に維持するように制御する、ことを特徴とする請求項3記載の転圧機械。」 3 申立理由の概要 特許異議申立人は、主たる証拠として次の甲第1号証及び従たる証拠として次の甲第2号証~甲第8号証を提出し、請求項1~6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1~6に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。 甲第1号証:特開2006-258119号公報 甲第2号証:特開2018-53539号公報 甲第3号証:国際公開第2012/105507号の再公表公報 甲第4号証:特開昭63-289359号公報 甲第5号証:特開2010-266027号公報 甲第6号証:特開2007-40055号公報 甲第7号証:特開2013-226960号公報 甲第8号証:特開2003-82611号公報 4 各甲号証の記載等 (1)甲第1号証 甲第1号証には、次の記載がある(下線は当審で付したもの。以下同様。)。 「【請求項1】 油圧ポンプと、 この油圧ポンプに閉回路接続されかつ互いに並列接続され、前記油圧ポンプから吐出された圧油により駆動される第1及び第2油圧モータと、 前記第1油圧モータに第1減速機を介して接続された第1走行装置と、 前記第2油圧モータに第2減速機を介して接続された第2走行装置と、 前記第1及び第2走行装置の両方を駆動する低速4輪駆動と、前記第1油圧モータをゼロ容量として前記第2走行装置のみを駆動する高速2輪駆動とに切り換える制御手段とを備えることを特徴とする作業機械のHST走行システム。」 「【0001】 本発明は作業機械のHST走行システムに係わり、特に、ラフテレンリフトトラック、ホイールローダ、ホイール式の油圧ショベル等、油圧ポンプと走行モータを閉回路接続したHST(Hydro-Static Transmission)と呼ばれる油圧走行回路を備えた作業機械のHST走行システムに関する。」 「【0041】 HST変速装置30は、エンジン2により駆動されるメインの油圧ポンプ1と、油圧ポンプ1から吐出された圧油により駆動される2個の容量の等しい走行用油圧モータ10,20とを有し、油圧ポンプ1と油圧モータ10は主管路3,4,5,6を介して閉回路接続され、油圧ポンプ1と油圧モータ20は主管路3,4,7,8を介して閉回路接続され、2個の油圧モータ10,20は油圧ポンプ1に対して互いに並列接続されている。 【0042】 走行用油圧モータ10,20はそれぞれ走行装置12,22に連結されている。走行装置12は、走行用油圧モータ10が連結される減速機11と、この減速機11に連結された車軸13及び前輪(車輪)14とを備え、走行装置22は、走行用油圧モータ20が連結される減速機21と、この減速機21に連結された車軸23及び後輪(車輪)24とを備え、それぞれ車輪14,24により駆動力を路面に伝え、双方の駆動力にて車体を駆動する構成となっている。前輪側油圧モータ10と走行装置12との間には回転力を伝達・遮断するクラッチ15が備えられ、クラッチ15は電磁比例減圧弁16からのパイロット圧力により作動する。減速機11,21の減速比は要求される車両の走行性能特性により決定されるものであり、例えば減速比は同じか、クラッチ15が備わっている前輪側の減速機11の方を大きく設定する。本実施の形態では、前輪側の減速機11の減速比の方が後輪側の減速機21より大きく設定されている。 【0043】 油圧ポンプ1と走行用油圧モータ10,20はそれぞれ可変容量型であり、それぞれ傾転量を制御する傾転量制御手段(傾転レギュレータ)1b,10b,20bを備えている。また、油圧モータ10,20のうち少なくともクラッチ16が備わっている前輪側の油圧モータ10はゼロ傾転可能なものとする。クラッチが備わっていない後輪側の油圧モータ20には油圧モータ20の回転数を検出する回転検出器20cが備えられ、回転検出器20cの検出信号はコントローラ31に入力される。コントローラ31は回転検出器20cからの検出信号から車体走行速度(車両速度)を計算し、その走行速度に基づいて所定の演算処理を行い、油圧モータ10,20の傾転量制御手段10b,20bを制御する。 【0044】 油圧ポンプ1の傾転量制御手段1bの構成及びその制御回路は従来公知のものと変わりがない。概略的に言うと、傾転量制御手段1bは傾転シリンダと前後進切換弁を備え、前後進切換弁は図示しない前後進切換レバーに連動している。前後進切換レバーが中立(停止)位置にあるときは前後進切換弁も中立位置にあり、油圧ポンプ1をゼロ傾転とするよう傾転シリンダを制御し、油圧ポンプ1の吐出流量をゼロとする。前後進切換レバーが前進位置或いは後進位置に切り換えられると、それに応じて前後進切換弁が切り換えられ、傾転シリンダの動作方向を制御して油圧ポンプ1の傾転方向を制御する。また、油圧ポンプ1の傾転量制御手段1bは制御圧力発生回路を備え、この制御圧力発生回路で生成される制御圧力が前後進切換弁を介して傾転シリンダに供給され、油圧ポンプ1の傾転量を制御する。この制御圧力発生回路はエンジン2の回転数が上昇すると、それに比例して制御圧力を上昇させ、油圧ポンプ1の傾転量(容量)が増加させる。その結果、エンジン2の回転数が上昇すると、油圧ポンプ1の回転数と傾転量の両方が増加するため、油圧ポンプの吐出流量はエンジン1の回転数の上昇に応じて滑らかに応答良く増大し、滑らかで力強い加速走行が可能となる。エンジン2の回転数は図示しないアクセルペダルを操作することにより調整される。」 「【0048】 車体41には前輪14及び後輪24が取り付けられている。」 「【0050】 図3は油圧モータ10,20の傾転制御特性(以下単に制御特性という)の一例を示す図である。図中、横軸が車体走行速度であり、縦軸が油圧モータ10,20の傾転量(モータ容量)である。また、符号Aが前輪側の油圧モータ10の制御特性であり、符号Bが後輪側の油圧モータ20の制御特性である。油圧モータ10,20の制御特性A,Bは、概略的に言って、速度が大きくなるにしたがって油圧モータ10,20の傾転量が小さくなるようになっている。また、減速比の高い減速機11側の油圧モータ10は油圧モータ20よりも回転数が高く、流量消費も多いため、油圧モータ20よりも先に傾転量が小さくなるようになっている。つまり、油圧モータ10,20の傾転量が小さくなり始める速度をV1,V2とすると、V1<V2である。更に、油圧モータ10傾転制御域は速度V1から速度V3の範囲であり、油圧モータ10の傾転量は速度V3で最小値qminからゼロ傾転(ゼロ容量)に移行する。これにより走行装置12,22(前輪14と後輪24)の両方を駆動する低速4輪駆動から前輪側の油圧モータ10をゼロ傾転(ゼロ容量)として後輪側の走行装置22(後輪24)のみを駆動する高速2輪駆動に切り換わる。 【0051】 また、油圧モータ10の傾転量が最小値qminからゼロ傾転に移行すると同時に、油圧モータ20の傾転量が大きくなるようになっている。これは、油圧モータ10がゼロ傾転になった際に生じる余剰流量がショック発生の原因となるため、この余剰流量を油圧モータ20が吸収するようにするためである。」 「【0056】 コントローラ31は内部メモリに図3に示した制御特性を記憶しており、回転検出器20cの検出信号から求めた車体走行速度(車両速度)を図3に示した制御特性に参照させて油圧モータ10,20の目標傾転量を計算し、油圧モータ10,20の傾転量制御手段10b,20bとクラッチ15を制御する。」 「【0062】 始動時は、図示しない前後進切換レバーを中立(停止)位置から前進位置に切り換え、図示しないアクセルペダルを踏み込んでエンジン2の回転数を上昇させる。エンジン2の回転数が上昇すると、前述したように油圧ポンプ1の吐出流量が増加し、このポンプ吐出流量の増加により油圧モータ10,20は回転速度を増大させ、車体は走行し始める。走行開始時の油圧モータ10,20の傾転量はそれぞれ最大qmaxである。エンジン回転数が上昇し、油圧モータ10,20の回転数が増大すると、それに従って走行速度も増大する。 <加速時> 加速時は、図3に示す制御特性に従って、車両速度が増すに従い油圧モータ10,20の傾転量が減少するよう目標傾転量を計算し、それぞれの目標傾転量に応じた指令を傾転量制御手段10b,20bに出力し、油圧モータ10,20の傾転量がそれに見合った量となるように制御する(ステップS100→S110→S120→S130)。車両速度が予め設定された速度V3まで増加すると油圧モータ10の目標傾転量を最小値qminからゼロに移行し、かつ油圧モータ10をゼロ傾転にした際の余剰流量を吸収できるように、上記(2)式により油圧モータ20の目標傾転を計算し、それぞれの目標傾転量に応じた指令を傾転量制御手段10b,20bに出力して油圧モータ10,20の傾転量をそれぞれ制御する(ステップS100→S110→S120→S140)。これにより油圧モータ10はゼロ傾転となり、これと同時に油圧モータ10がゼロ傾転になった際に生じる余剰流量が吸収できるように油圧モータ20の傾転量が補正・制御される。」 「【図1】 [図:0001417660000001.jpg] 」 「【図3】 [図:0001417660000002.jpg] 」 上記記載より、次の事項が認定できる。 走行用油圧モータ10、20は、可変容量型油圧モータであり、また、油圧ポンプ1から吐出された圧油により駆動されるから、油圧ポンプ1は、可変容量型油圧モータ10、20に圧油を供給するものであるといえる。 油圧ポンプ1は、可変容量型油圧ポンプである。 上記各記載事項及び認定事項より、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 [甲1発明] 「車体41と、 前記車体41に取り付けられた前輪14及び後輪24と、を備え、 HST走行システムを搭載した作業機械であって、 前記HST走行システムは、 前記前輪14を備えた走行装置12に連結された可変容量型走行用油圧モータ10と、 前記後輪24を備えた走行装置22に連結された可変容量型走行用油圧モータ20と、 前記可変容量型走行用油圧モータ10、20に圧油を供給する可変容量型油圧ポンプ1と、 前記可変容量型走行用油圧モータ20の回転数を検出する回転検出器20cと、 前記回転検出器20cからの検出信号から車体走行速度を計算し、その走行速度に基づいて前記可変容量型走行用油圧モータ10、20の目標傾転量を計算し、その目標傾転量に基づいて前記可変容量型走行用油圧モータ10、20の傾転量制御手段10b、20bを制御するコントローラ31と、 を備えた作業機械。」 (2)甲第2号証 甲第2号証には、次の記載がある。 「【0001】 本発明は、作業車両に関する。」 「【0012】 図2は、第1の実施の形態に係るホイールローダの概略構成を示す図である。ホイールローダは、走行駆動力を出力する走行駆動装置を備えている。走行駆動装置は、走行用油圧回路HC1および動力伝達機構(不図示)を備えている。走行用油圧回路HC1は、エンジン1によって駆動される可変容量形の油圧ポンプ(以下、HSTポンプ2と記す)と、可変容量形の油圧モータ(以下、HSTモータ3と記す)とが、一対の主管路LA,LBによって閉回路接続されたHST(Hydro Static Transmission)回路により構成されている。HSTモータ3の回転は、トランスミッション(不図示)によって変速され、変速後の回転はプロペラシャフト(不図示)、アクスル(不図示)などの動力伝達機構を介して車輪113に伝達され、車輪113が回転することでホイールローダが走行する。 【0013】 エンジン1により駆動されるチャージポンプ5から吐出される圧油は、前後進切換弁6を介して傾転シリンダ8に導かれる。前後進切換弁6は操作レバー6aにより操作され、図示のように前後進切換弁6が中立位置のときは、チャージポンプ5から吐出された圧油は絞り7および前後進切換弁6を介し、傾転シリンダ8の油室8a,8bにそれぞれ作用する。この状態では油室8a,8bに作用する圧力は互いに等しく、ピストン8cは中立位置にある。このため、HSTポンプ2の押しのけ容積qpは0となり、ポンプ吐出量Qは0となる。 【0014】 前後進切換弁6がA側に切り換えられると、油室8a,8bにはそれぞれ絞り7の上流側圧力と下流側圧力が作用するため、傾転シリンダ8の油室8a,8bに圧力差が生じ、ピストン8cが図示右方向に変位する。これにより、HSTポンプ2のポンプ押しのけ容積qp(ポンプ傾転量)が増加し、HSTポンプ2から吐出された圧油が主管路LAを介してHSTモータ3に導かれ、HSTモータ3が正転し、車両が前進する。前後進切換弁6がB側に切り換えられると、傾転シリンダ8のピストン8cが図示左方向に変位し、HSTポンプ2から吐出された圧油が主管路LBを介してHSTモータ3に導かれ、HSTモータ3が逆転し、車両が後進する。なお、ポンプ押しのけ容積qpは、絞り7の前後差圧ΔPが所定値ΔP0以上になると増加し始め、前後差圧ΔPが大きいほど大きくなる。 【0015】 アクセルペダル9には、アクセルペダル9の操作量を検出する操作量検出器9aが設けられ、操作量検出器9aからの信号はコントローラ10に入力される。コントローラ10は、操作量検出器9aで検出された操作量に基づいて目標エンジン回転速度Ntを演算し、エンジン制御部1aに目標エンジン回転速度Ntに相当する信号を出力する。エンジン制御部1aは、エンジン回転速度センサ1bで検出された実エンジン回転速度Naと、コントローラ10からの目標エンジン回転速度Ntとを比較して、実エンジン回転速度Naを目標エンジン回転速度Ntに近づけるために燃料噴射装置(不図示)を制御する。 【0016】 チャージポンプ5から吐出された圧油の流量(吐出量)は、エンジン回転速度に比例し、絞り7の前後差圧ΔPはエンジン回転速度に比例する。このため、ポンプ押しのけ容積qpもエンジン回転速度に比例する。チャージポンプ5から吐出された圧油は、絞り7およびチェック弁11A,11Bを通過して主管路LA,LBに導かれ、HST回路(HC1)に補充される。絞り7の下流側圧力はチャージリリーフ弁12により制限され、主管路LA,LBの最高圧力はオーバーロードリリーフ弁13により制限される。 【0017】 HSTモータ3の押しのけ容積qm(モータ傾転角)はレギュレータ14により制御される。レギュレータ14は電磁切換弁や電磁比例弁等を含む電気式レギュレータである。信号ライン14aを介して出力されるコントローラ10からの制御電流によりレギュレータ14を駆動することで、傾転制御レバー140を駆動し、押しのけ容積qmを変更する。モータ傾転制御部にはストッパ15が設けられ、傾転制御レバー140がストッパ15に当接し、モータ押しのけ容積qmの最小値が所定値qminに機械的に制限される。なお、レギュレータ14の非通電時には、ストッパ15に傾転制御レバー140が当接してモータ押しのけ容積qmは最小値qminに保持される。レギュレータ14に出力される制御電流が増加すると、モータ押しのけ容積qmが増加する。」 「【0019】 コントローラ10には、車速センサ26が接続されている。車速センサ26は、車両の走行速度(車速)Vに相当する情報を検出し、検出信号をコントローラ10に出力する。車速センサ26は、たとえば、HSTモータ3に接続されるトランスミッション(不図示)の出力軸の回転速度を検出する回転速度検出装置により構成できる。 【0020】 コントローラ10には、高圧選択弁16で選択された高圧側の主管路LA,LBの圧力(走行負荷圧Pt)を検出する走行負荷圧センサ21からの信号と、モードスイッチ23からの信号がそれぞれ入力される。モードスイッチ23は、オペレータにより、走行位置および作業位置のいずれかの操作位置が選択されるスイッチであり、選択された操作位置に対応する操作信号をコントローラ10に出力する。 【0021】 有効/無効モード設定部10aは、以下の有効個別条件1および有効個別条件2が成立しているか否かを判定する。有効/無効モード設定部10aは、有効個別条件1および有効個別条件2のいずれもが満たされた場合、有効条件が成立したと判定し、有効モードを設定する。有効/無効モード設定部10aは、有効個別条件1および有効個別条件2のいずれかが成立していない場合、有効条件は成立していないと判定し、無効モードを設定する。 (有効個別条件1)車速センサ26で検出された車速Vが有効判定用の閾値Vb1以上である (有効個別条件2)モードスイッチ23が作業位置に操作されている 【0022】 制限制御部10bは、走行負荷圧センサ21で検出された走行負荷圧Ptに応じてモータ押しのけ容積qmを制御する。図3は、走行負荷圧Ptとモータ押しのけ容積qmの関係を示す図である。コントローラ10の記憶装置には、非制限特性C0と、制限特性C1がルックアップテーブル形式で記憶されている。非制限特性C0は、走行負荷圧Ptが所定値Pt0未満のとき、モータ押しのけ容積qmが最小値qminとなる特性である。非制限特性C0は、走行負荷圧Ptが所定値Pt0から所定値Pt1にかけて上昇することに応じて、モータ押しのけ容積が最小値qminから最大値qmaxまで直線的に増加し、走行負荷圧Ptが所定値Pt1よりも大きくなるとモータ押しのけ容積が最大値qmaxとなる特性である。 【0023】 制限特性C1は、走行負荷圧Ptにかかわらず、モータ押しのけ容積qmが最小値qminとなる特性である。 【0024】 制限制御部10bは、以下の制限個別条件1および制限個別条件2が成立しているか否かを判定する。制限制御部10bは、制限個別条件1および制限個別条件2のいずれもが満たされた場合、制限条件が成立したと判定し、制限モードを設定する。制限制御部10bは、制限個別条件1および制限個別条件2のいずれかが成立していない場合、制限条件は成立していないと判定し、非制限モードを設定する。 (制限個別条件1)有効モードが設定されている (制限個別条件2)車速センサ26で検出された車速Vが制限開始判定用の閾値Va1以下である」 「【0027】 制限モードが設定されると、制限制御部10bは、制限特性C1に基づいて、モータ押しのけ容積qmを制御する。本実施の形態では、制限特性C1は一定値(最小値qmin)であるので、制限モードが設定されている間は、走行負荷圧Ptにかかわらず、モータ押しのけ容積qmが最小値qminに設定される。 【0028】 制限制御部10bは、制限モードを時間閾値T0だけ維持する。時間閾値T0は、予めコントローラ10の記憶装置に記憶されている。時間閾値T0は、車速Vが制限開始判定用の閾値Va1から0となる(停止する)まで、すなわちホイールローダが土砂等の掘削対象物へ突入してから作業機の動作を開始させるまでの時間に相当し、実験等により予め任意の時間が設定されている。時間閾値T0には、たとえば、0.4秒程度の値が設定される。」 「【図2】 [図:0001417660000003.jpg] 」 「【図6】 [図:0001417660000004.jpg] 」 (3)甲第3号証 甲第3号証には、次の記載がある。 「【0001】 本発明は、油圧制御用の基圧となるライン圧を調圧するためのライン圧調整手段と、当該ライン圧に基づいて摩擦係合要素を要求係合力で係合させるための油圧を調圧するリニアソレノイドバルブとを備えた自動変速機の油圧制御装置に関する。」 「【0012】 本発明にかかる自動変速機の油圧制御装置によれば、簡単な制御によって、異なるライン圧に対してリニアソレノイドバルブで調圧する油圧を一定圧に保つことができるので、ライン圧の変更に伴う変速ショックの発生を防止することができる。」 (4)甲第4号証 甲第4号証には、次の記載がある。 「2.特許請求の範囲 1.油圧によって作動する摩擦締結要素の作動状態の切換えにより変速が行われる自動変速機の変速時油圧制御装置において、 摩擦締結要素の油圧を上昇させる際、最初の段階では時間の経過に従って油圧を上昇させ、次いで所定の間一定の油圧に保持した後、最高油圧まで上昇させる油圧調整装置を有することを特徴とする自動変速機の変速時油圧制御装置。」(公報特許請求の範囲の欄) 「(ハ)発明が解決しようとする問題点 しかし、従来のアキュムレータは作動圧をスプリング力(又はスプリング力及び対抗圧)に抗してピストンに作用させ、これをストロークさせるようにしであるため、ピストンのストロークに応じてスプリング力が大きくなり、これに応じて作動圧も高くなる特性を有していた。すなわち、アキュムレータ作動中に、作動圧は時間の経過と共に徐々に上昇していく。しかし、この時間の経過と共に上昇していく油圧特性は変速ショックの軽減という目的からは好ましくない。摩擦締結要素に使用される摩擦部材の摩擦係数は一般に滑り速度が小さくなるほど摩擦係数が大きくなる。このため、締結完了時に大きなショックを発生ずる傾向がある。従って、時間の経過と共に作動油の圧力が上昇すると、摩擦係数の増大に加えて作動圧が上昇するため摩擦力が大きくなり変速ショックか大きくなる。本発明は、このような問題点を解決することを目的としている。 (ニ)問題点を解決するための手段 本発明は、変速時の前半では油圧を徐々に増大させるか、後半は一定の油圧とすることにより上記問題点を解決する。すなわち、本発明による自勲変速機の変速時油圧制御装置は、摩擦締結要素の油圧を上昇させる際、最初の段階では時間の経過に従って油圧を上昇させ、次いで所定の間一定の油圧に保持した後、最高油圧まで上昇させる油圧調整装置を有している。 (ホ)作用 摩擦締結要素の作動圧の油圧上昇時における過渡的な変化は、油圧調整装置によって前半は時間の経過に従って次第に増大し、途中から一定の油圧となり、最終的に急速に最高圧まで上昇する。これにより、イナーシャフェイズの後半におけるトルクの増大が抑制されトルク波形のピーク発生が防止される。これにより変速ショックのフィーリングが良好なものとなる。」(公報第2頁左上欄第8行~左下欄第4行。) (5)甲第5号証 甲第5号証には、次の記載がある。 「【0001】 本発明は、エンジンの動力が伝達される走行用の無段変速装置からの出力速度を、その無段変速装置に対する変速操作具の指示速度と合致させるように調節するための車速制御装置に関する。」 「【0013】 〔全体構成〕 以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。 図1は、本発明の実施形態に係る刈取収穫機の全体を示す側面図である。この図に示すように、本発明の実施形態に係る刈取収穫機は、左右一対のクローラ式の走行装置1,1によって自走するように構成され、かつ運転座席3aを有した運転部3が装備された走行機体を備えている。この走行機体の機体フレームの前部に連結された刈取部2を備え、走行機体の機体フレームの後部側には、走行機体横方向に並べて脱穀装置4と穀粒タンク5とが設けられている。」 「【0024】 〔無段変速装置関係〕 図2,3に示すように、無段変速装置7は、入力軸7aをポンプ軸として備えた可変容量形の油圧ポンプ7Pを備え、出力軸7bをモータ軸として備えた油圧モータ7Mを備えて構成してある。油圧モータ7Mは、油圧ポンプ7Pによって供給される圧油によって駆動される。この油圧モータ7Mは、可変容量形の油圧モータに構成してある。 【0025】 無段変速装置7は、静油圧式無段変速装置に構成されており、油圧ポンプ7Pの斜板角の変更操作が行われることにより、エンジン6からの駆動力を前進側と後進側の駆動力に変換して、かつ前進側においても後進側においても無段階に変速して駆動力を出力する。 【0026】 図3に示すように、無段変速装置7の油圧ポンプ7Pの斜板角を変更する操作軸は、揺動リンクなどを利用した機械式の連係機構33を介して変速レバー43に連動されている。変速レバー43は、運転部3に走行機体の前後方向に揺動自在に設けられている。 つまり、無段変速装置7は、変速レバー43が中立位置Nに操作されたことをポテンショメータ43aで検出することにより、中立状態に切り換わり、油圧ポンプ7Pを停止させて左右の走行装置1,1に対する伝動を絶つ。無段変速装置7は、変速レバー43が中立位置Nから走行機体前方側に揺動した前進域Fに操作されることにより、前進駆動状態に切り換わり、エンジン6からの駆動力を前進駆動力に変換して左右の走行装置1,1に伝達する。無段変速装置7は、変速レバー43が中立位置Nから走行機体後方側に揺動した後進域Rに操作されることにより、後進駆動状態に切り換わり、エンジン6からの駆動力を後進駆動力に変換して左右の走行装置1,1に伝達する。」 「【0033】 〔制御装置関係〕 図3は、無段変速装置7、刈取り変速装置15の変速操作、刈取りクラッチ14の入り切り操作、及び刈取部2の昇降操作を行うための各種機構と、それらの作動を制御する制御装置100とを示す制御系のブロック図である。」 「【0035】 また、変速レバー43の操作位置を検出するポテンショメータ43a、変速レバー43に設けられた走行変速スイッチ34と刈取変速スイッチ35、刈取クラッチレバー26の操作位置を検出するセンサスイッチ65,66、昇降レバー29の操作位置を検出するセンサスイッチ67,68、油圧モータ7Mの斜板角の位置を検出するモータ斜板角検出センサ38(変速位置検出センサの一例)、車速センサ30、モータ斜板位置設定スイッチ31、及び刈取変速センサ40が、制御装置100に対する各種信号入力対象として接続されている。」 「【0043】 車速センサ30は、図示しないが、走行装置1,1への駆動系で、ミッションケース8からの最終出力軸の回転を検出するように設けてあり、走行機体の走行速度を検出して制御装置100に入力するように構成してある。 【0044】 制御装置100は、マイクロコンピュータを利用して構成してあり、上述のように前記刈取部2の昇降作動ならびに刈取クラッチ操作を制御する刈取部制御手段101と、後述するように、刈取部2の駆動と関係して走行駆動系の各装置を制御する走行系制御手段102と、走行系の速度設定を行う基準車速設定手段103とを備えている。 本発明の車速制御装置は、この制御装置100に装備された上記走行系制御手段102、走行系の速度設定を行う基準車速設定手段103によって構成されている。」 「【0054】 〔基準車速設定手段〕 基準車速設定手段103は、変速操作具としての走行変速スイッチ34での指示速度と無段変速装置7からの出力車速とが正確に対応するように、変速操作具での操作位置と無段変速装置7のモータ斜板角度との対応関係を設定する際に用いられるものであり、次のように構成されている。 【0055】 つまり、図6に示すように、車速と油圧モータ7Mの斜板角度との相関を考えた場合に、両者の相関関係は、概ね、図中の車速・斜板対応曲線L0に沿って変化する。この車速・斜板対応曲線L0は、予め、変速操作具での指示速度と無段変速装置7からの出力車速とを、実際に多くの刈取収穫機を走行させて実測することにより収集したデータを平均化してグラフ化したものである。 【0056】 この車速・斜板対応曲線L0は、制御装置100の不揮発性メモリーに備えられたマップデータ、及び、そのマップデータから算出されるように、基準車速設定手段103にプログラム化されており、かつ、この車速・斜板対応曲線L0に沿う変化傾向を数値化した基準係数データも、前記不揮発性メモリーに備えられている。 そして、前記実測したデータに基づく車速・斜板対応曲線L0が、製造される刈取収穫機の全てに対して、変速操作具での指示速度と無段変速装置7からの出力車速とが正確に対応するように関係付けられていれば調節操作を行う必要はないが、現実には、個々の刈取収穫機ごとに多少の誤差が生じるので、これを基準車速設定手段103によって調節するようにしたものである。 【0057】 上記の図6において、本発明でいう低速駆動状態に相当する指示速度は、図中の符号L1で示され、標準駆動状態に相当する指示速度は符号L2で、高速駆動状態に相当する指示速度は、符号L3で示されている。そして、これらの各指示速度L1,L2,L3と前記車速・斜板対応曲線L0との交点が、それぞれ低速指示ポイントP1、標準速指示ポイントP2、高速指示ポイントP3となる。また、各指示ポイントP1,P2,P3からの垂線上に、各指示速度L1,L2,L3と対応する基準の変速操作位置として、低速用の変速操作位置H1、標準速用の変速操作位置H2、高速用の変速操作位置H3が存在している。」 「【0059】 前記低速用の変速操作位置H1と標準速用の変速操作位置H2とのうち、まず、低速用の変速操作位置H1の求め方について説明すると、次のようにして求めている。 すなわち、低速用の指示速度L1と対応する基準の変速操作位置を得る際に、低速用の指示速度L1は把握されているので、現在の車速センサ30による検出車速と対比して、その低速用の指示速度L1に近づけるように油圧モータ7Mの斜板角度を変更操作する。」 「【071】 〔別実施形態の1〕 指示速度L1,L2,L3に対応する基準の変速操作位置H1,H2,H3を設定する基準車速設定手段103は、上記した実施形態の如く、前記指示速度L1,L2,L3のうちの最高速側の指示速度L3よりも低速側の指示速度L1,L2に対応する基準の変速操作位置を実測して設定し、最高速側の指示速度L3は演算によって算出するように構成したものに限らず、例えば、次のように構成してもよい。」 (6)甲第6号証 甲第6号証には、次の記載がある。 「【0001】 本発明は、路面の締固め施工等に使用される締固め車両に関するものである。」 「【0017】 図1は締固め車両の一例である転圧ローラの側面説明図である。転圧ローラ1は、車体2の前後に転圧輪3を備えており、車体2の上部にはエンジンEが搭載されている。エンジンEの搭載位置の後方には運転席4が形成されており、この運転席4周りには、中立位置(停止操作位置)で転圧ローラ1を走行停止させ、中立位置から前方に倒すと前進させ、後方に倒すと後進させる機能を有した前後進レバー5が設けられている。この前後進レバー5は請求項に記載の「速度調整部材」に相当するものである。 【0018】 図2は走行系に関する概略的な油圧回路図である。符号Pは、エンジンEにより回転駆動される可変容量型の油圧ポンプである。この油圧ポンプPは後記する走行駆動源10(図4)に相当する。符号Mは、油圧ポンプPからの圧油の供給を受けて回転する走行油圧モータであり、転圧輪3に連結されている。走行系に関する油圧回路は、油圧ポンプPに対して一対の走行油圧モータMが並列に接続された閉回路として構成される。」 「【0021】 演算手段8は、変位検出手段7と駆動源制御手段9との間に介設され、入力した前記変位Sを演算処理し、その処理した信号Iを駆動源制御手段9に出力する。演算手段8は、CPU、メモリ等から構成されるものである。信号Iは出力電流等である。 【0022】 駆動源制御手段9は、前記信号Iを入力することにより走行駆動源10を制御する部位であり、本実施形態においては電流比例制御弁(図示せず)からなる。すなわち、走行駆動源10であるところの油圧ポンプPの1回転当りの吐出量はこの電流比例制御弁の動きにより調整される。油圧ポンプPの典型的な例としては、斜板角度を制御するためのサーボシリンダを備えたアキシャルプランジャ式可変容量型ポンプである。この場合、前記電流比例制御弁は前記サーボシリンダの各油室への作動油の配分を制御し、結果として斜板角度を制御し、油圧ポンプPからの吐出量を制御する。」 「【0037】 次いで、他の実施例について図6を参照して説明する。図6は、他の実施例の構成を示すブロック図である。図6の実施例において、図4の実施例と同一構成のものについては同一の符号を付して説明は省略する。本実施例が図4に示した実施例と異なる点は、 (1)車両の走行速度Vを検出する車速センサ14を備える。 (2)図4の制御信号記憶手段11の代わりに、走行速度設定スイッチ6がON操作されたときの走行速度V1を記憶する速度記憶手段15を備える。 (3)走行速度設定スイッチがON操作されてON状態を維持し、かつ前記変位Sが所定値以上であるとき、演算手段8が、車速センサ14からの実際の走行速度Vをフィードバック情報として用いて、実際の走行速度Vが、速度記憶手段15に記憶した一定の走行速度V1となるように信号Iを駆動源制御手段9に出力する。 の3点である。」 「【0041】 以下、図5(a)~(c)を利用して説明する。先ず、図5(a)は、前記した(1)「所定値を変位S1よりも大きく設定する」場合を示すグラフであり、その一例として所定値を変位SのMAX値、MIN値とした場合、つまり、前後進レバー5の前進側及び後進側の最大傾動位置とした場合を示す。この例では、オペレータが前後進レバー5を前進側または後進側の最大傾動位置まで倒したときに、図6において、車速センサ14からの実際の走行速度Vをフィードバック情報として用いて、実際の走行速度Vが、速度記憶手段15に記憶した走行速度V1となるように信号Iが駆動源制御手段9に出力される。これにより、車両は、オペレータが走行速度設定スイッチ6をON操作したときの走行速度V1で走行する。なお、オペレータにとっての操作方法や効果については図4の構成の実施例の場合と同様である。すなわち、オペレータにおいては、前後進レバー5を前進側或いは後進側の途中の傾動位置で調整しながら止める必要はなく、前後進の切り換えの際に単に最大傾動位置まで倒しさえすれば車両は常に一定の走行速度V1で走行することになる。本例では、前後進レバー5の広い傾動範囲で狭い速度範囲での速度の微妙な調整を行うことができるという利点がある。 【0042】 次いで、図5(b)は、前記した(2)「所定値を変位S1よりも小さく設定する」場合を示すグラフであり、所定値を変位S1よりも小さい変位S0として示している。この例によれば、オペレータが前後進レバー5を前進側または後進側の変位S0の位置まで倒したときに、図6において、車速センサ14からの実際の走行速度Vをフィードバック情報として用いて、実際の走行速度Vが、速度記憶手段15に記憶した走行速度V1となるように信号Iが駆動源制御手段9に出力される。これにより、車両は、オペレータが走行速度設定スイッチ6をON操作したときの走行速度V1で走行する。なお、オペレータにとっての操作方法や効果については図4の構成の実施例の場合と同様である。すなわち、本例では、オペレータが走行速度設定スイッチ6を押したときの前後進レバー5の位置以降で、車両は走行速度V1で定速走行する。この図5(b)の例によれば、本来では車両は変位S1のときに走行速度V1となるところ、走行速度設定スイッチ6のON操作後は、変位S1よりも小さい変位S0に達した時点で、つまり前後進レバー5を本来よりも小さく倒しただけで車両が走行速度V1に達することができる。」 「【0045】 図6の構成においても、図5(c)の例のように、演算手段8は、走行速度設定スイッチ6がON操作されたときの変位S1を記憶する変位記憶手段12と、走行速度設定スイッチ6がON操作されてON状態のとき、変位Sと変位記憶手段12に記憶した変位S1とを比較する比較手段13と、を備え、走行速度設定スイッチ6がON操作されてON状態を維持し、かつ「変位S≧変位S1」のとき、車速センサ14からの実際の走行速度Vをフィードバック情報として用いて、実際の走行速度Vが、速度記憶手段15に記憶した一定の走行速度V1となるように信号Iを駆動源制御手段9に出力する構成とすれば、走行速度V1に達するまでの前後進レバー5の操作性は通常時のそれと何ら変わらないので、例えば操作性が変わることによって起こり得る車両の急発進や急停止という問題も生じない。」 (7)甲第7号証 甲第7号証には、次の記載がある。 「【0001】 本発明は、走行駆動力伝動系に油圧式無段変速装置(以下「HST」という)を設け、このHSTを自動制御によって変速制御して主変速具の変速位置に応じた走行車速を得る作業車両の変速制御装置に関するものである。」 「【0030】 ハンドルポスト6上部のステアリングハンドル7の前側にメータパネル16が設けられて、走行速度等の機体状況が表示され、その右下部にエンジン回転設定ダイヤル14が設けられ、エンジン5の最高回転数を設定出来る。メータパネル16には、レスポンス設定ダイヤル55の操作量や最高速設定ダイヤル54の操作量を表示するようにしても良い。」 「【0049】 走行速度や変速位置やエンジン水温その他のデータがステアリングハンドル7の前に設けるメータパネル16と操作パネル65に表示される。」 (8)甲第8号証 甲第8号証には、次の記載がある。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、振動型締固め車両における締固め度管理装置に関するものである。」 「【0014】本発明に係る締固め度管理装置7は、図2に示すように、車両の移動速度を検出する車速度検出手段8と、単位時間当たりのロール2の振動数を設定可能な振動数設定手段9と、車両の単位移動距離当たりにおけるロール2の基準振動数を設定可能な基準振動数設定手段10と、車速度検出手段8と振動数設定手段9と基準振動数設定手段10とから出力される各電気信号を制御する制御手段11と、制御手段11から出力される電気信号に基づいて、設定した車両の単位移動距離当たりにおけるロール2の基準振動数に対する現在の(走行時の実際の)車両の単位移動距離当たりにおけるロール2の振動数の大小関係を車速指標値(車速情報)として相対的に比較表示する表示手段12と、を備える。」 「【0031】「車速度表示手段27」本発明において車速度表示手段27はその有無が選択的な構成要素であるが、オペレータが車両の走行速度(絶対値)を把握できるので有効である。図11を参照して、車速度表示手段27はケーシング28の前面パネル28aにおいてモニタ部17の下部にレイアウトされる。本図はLEDセグメントからなるデジタル表示メータとした場合を示す。前記したように、当該車速度表示手段27では基準振動数設定器15にて設定した設定値も表示される態様としてあるが、通常時は車両の走行速度をリアルタイムで表示する。図5に示すように、車速度演算回路34にて算出した車速度Vmに関する電気信号は表示駆動回路38を経て車速度表示手段27に出力されるものである。」 5 当審の判断 (1)請求項1に係る発明について ア 対比 請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)と、甲1発明とを対比する。 甲1発明の「車体41」は、本件発明1の「機体」に相当する。 甲1発明の「前輪14」及び「後輪24」は、それぞれ本件発明1の「前輪」及び「後輪」に相当し、甲1発明の「前輪14」及び「後輪24」は、その機能上、回転可能であることは明らかであるといえる。また、甲1発明の「取り付けられ」ることは、本件発明1の「設けられ」ることに相当する。 したがって、甲1発明の「前記車体41に取り付けられた前輪14及び後輪24」は、本件発明1の「前記機体に回転可能に設けられた前輪及び後輪」に相当する。 HST走行システムとは、車体の走行速度を油圧によって制御するシステムであるから、甲1発明の「HST走行システム」は、本件発明1の「前記機体の走行速度を制御するように構成された速度制御装置」ないし「速度制御装置」に相当する。また、甲1発明の「搭載」することは、本件発明1の「備え」ることに相当する。さらに、甲1発明の「作業機械」は、本件発明1の「転圧機械」との対比において「作業機械」との限度で一致する。 したがって、甲1発明の「車体41と、前記車体41に取り付けられた前輪14及び後輪24と、を備え、HST走行システムを搭載した作業機械」は、本件発明1の「機体と、前記機体に回転可能に設けられた前輪及び後輪と、前記機体の走行速度を制御するように構成された速度制御装置を、を備え」た「転圧機械」との対比において、「機体と、前記機体に回転可能に設けられた前輪及び後輪と、前記機体の走行速度を制御するように構成された速度制御装置を、を備え」た「作業機械」との限度で一致する。 本件発明1の「実速度信号」とは、後輪用油圧モータの回転数を含む(本件発明の明細書の段落【0020】の「回転数センサ32は後輪用油圧モータ44に設けられており、当該後輪用油圧モータ44の回転軸の回転数を検出し、当該回転数を実速度信号としてコントローラ38に送信するように構成されている。」との記載を参照。)。そして、甲1発明の「回転検出器20c」は、「前記可変容量型油圧ポンプ20の回転数を検出する」ものであり、また、「前記回転検出器20cからの検出信号」は、甲1発明の「コントローラ31」で処理されているから、コントローラ31に送信されているといえる。したがって、甲1発明の「前記可変容量型油圧モータの回転数を検出する回転検出器20c」は、本件発明1の「前記機体の実速度を検出し、当該検出結果に基づいて実速度信号を送信するように構成された実速度検出手段」に相当し、甲1発明の「前記回転検出器20cからの検出信号」は、本件発明1の「実速度信号」に相当する。 甲1発明の「前記回転検出器20cからの検出信号から車体走行速度を計算し、その走行速度に基づいて前記可変容量型走行用油圧モータ10、20の目標傾転量を計算し、その目標傾転量に基づいて前記可変容量型走行用油圧モータ10、20の傾転量制御手段10b、20bを制御する」ことは、これにより、作業機械(車体41)の実速度を当該目標速度に到達させているといえる(甲第1号証の段落【0043】及び【0056】を参照。)。ここで、甲1発明の「前記可変容量型走行用油圧モータ10、20の目標傾転量」は、作業機械(車体41)の目標速度に達するために、コントローラ31から可変容量型油圧モータ10、20の傾転量制御手段に送信される信号であるといえるから、本件発明1の「前記実速度を前記目標速度に到達させるための目標速度信号」に相当する。また、甲1発明の「目標傾転量を計算」することは、本件発明1の「目標速度信号を算出」することに相当する。さらに、甲1発明の「コントローラ31」が、「前記回転検出器20cからの検出信号」を受信し、「前記可変容量型走行用油圧モータ10、20の目標傾転量」を「傾転量制御手段10b、20b」に送信していることは明らかであるといえる。 したがって、甲1発明の「コントローラ31」は、本件発明1の「コントローラ」に相当し、甲1発明の「前記回転検出器20cからの検出信号から車体走行速度を計算し、その走行速度に基づいて前記可変容量型走行用油圧モータ10、20の目標傾転量を計算し、その目標傾転量に基づいて前記可変容量型走行用油圧モータ10、20の傾転量制御手段10b、20bを制御する」ことは、本件発明1の「前記実速度信号を受信し、前記実速度と前記機体の目標速度とを比較し、当該比較結果に基づいて前記実速度を前記目標速度に到達させるための目標速度信号を算出し、前記目標速度信号を送信する」こととの対比において、「前記実速度信号を受信し、前記実速度を前記目標速度に到達させるための目標速度信号を算出し、前記目標速度信号を送信する」との限度で一致する。 甲1発明の「前記可変容量型油圧モータ10、20に圧油を供給する可変容量型油圧ポンプ1」は、押しのけ容量を制御することにより、その吐出容量を変化させるものであるから、本件発明1の「前記コントローラから送信された前記目標速度信号に基づいて押しのけ容積を制御するように構成された油圧ポンプ」との対比において、「押しのけ容積を制御するように構成された油圧ポンプ」との限度で一致する。 甲1発明の「前記前輪14を備えた走行装置12に連結された可変容量型走行用油圧モータ10」ないし「可変容量型油圧モータ10」及び「前記後輪24を備えた走行装置22に連結された可変容量型走行用油圧モータ20」ないし「可変容量型油圧モータ20」は、本件発明1の「前輪用油圧モータ」及び「後輪用油圧モータ」に相当する。 また、「前記前輪14を備えた走行装置12に連結された可変容量型走行用油圧モータ10」ないし「可変容量型油圧モータ10」及び「前記後輪24を備えた走行装置22に連結された可変容量型走行用油圧モータ20」ないし「可変容量型油圧モータ20」は、その「傾転量制御手段10b、20bを制御する」ことにより、押しのけ容量を制御し、前輪14及び後輪24の各々を前記押しのけ容量に応じた回転数で駆動するように構成されているといえる。 したがって、甲1発明の「コントローラ31」が「前記回転検出器20cからの検出信号から車体走行速度を計算し、その走行速度に基づいて前記可変容量型走行用油圧モータ10、20の目標傾転量を計算し、その目標傾転量に基づいて前記可変容量型走行用油圧モータ10、20の傾転量制御手段10b、20bを制御する」ことは、本件発明1の「前記コントローラから送信された前記目標速度信号に基づいて」「前輪用油圧モータ及び後輪用油圧モータ」の「押しのけ容積を制御し、前記前輪及び前記後輪の各々を該押しのけ容積に応じた回転数で駆動する」ことに相当する。 以上のとおりであるから、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。 [一致点] 「機体と、 前記機体に回転可能に設けられた前輪及び後輪と、 前記機体の走行速度を制御するように構成された速度制御装置と、を備え、 前記速度制御装置は、 前記機体の実速度を検出し、当該検出結果に基づいて実速度信号を送信するように構成された速度検出手段と、 前記実速度信号を受信し、前記実速度を前記目標速度に到達させるための目標速度信号を算出し、前記目標速度信号を送信するように構成されたコントローラと、 押しのけ容積を制御するように構成された油圧ポンプと、 前記コントローラから送信された前記目標速度信号に基づいて、押しのけ容積を制御し、前記前輪及び前記後輪の各々を該押しのけ容積に応じた回転数で駆動するように構成された前輪用油圧モータ及び後輪用油圧モータと、を備える作業機械。」 [相違点1] 作業機械に関し、本件発明1は、「転圧機械」と特定されているのに対し、甲1発明は、このような特定がされていない点。 [相違点2] コントローラに関し、本件発明1は、「前記実速度と前記機体の目標速度とを比較し、当該比較結果に基づいて」前記実速度を前記目標速度に到達させるための目標速度信号を算出するものであるのに対し、甲1発明は、「前記回転検出器20cからの検出信号から車体走行速度を計算し、その走行速度に基づいて前記可変容量型走行用油圧モータ10、20の目標傾転量を計算」するものである点。 [相違点3] 油圧ポンプに関し、本件発明1は、「前記コントローラから送信された前記目標速度信号に基づいて」押しのけ容積を制御するように構成されているものであるのに対し、甲1発明の「可変容量型油圧ポンプ1」の容量がコントローラ31によって制御されるものとはされていない点。 [相違点4] 本件発明1の「コントローラは、前記実速度が切換用閾値より小さい場合、前記油圧ポンプの押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記前輪用油圧モータ及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、前記実速度が前記切換用閾値に達してから一定の間、前記油圧ポンプの押しのけ容積、前記前輪用油圧モータの押しのけ容積、及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を一定に維持するように構成されている」ものであるのに対し、甲1発明の「コントローラ31」が、かかる構成であるとは特定されていない点。 イ 判断 事案に鑑み相違点4について検討する。 (ア)甲1発明のHST走行システムは、可変容量型油圧ポンプ1の押しのけ容量を制御することによって作業機械の速度を制御する領域と、可変容量型油圧モータ10、20の押しのけ容量を制御することよって作業機械の速度を制御する領域とを分ける切換用閾値を設定し、作業機械の実速度が切換用閾値より小さい場合、前記可変容量型油圧ポンプ1の押しのけ容積を制御するように構成し、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記可変容量型油圧モータ10、20の押しのけ容積を制御するように構成されるものではなく、しかも、甲第1号証には、当該構成を示唆する記載もない。 (イ)一方、甲第2号証には、上記4(2)の摘記事項より、エンジン1によって駆動される可変容量形の油圧ポンプと、可変容量形の油圧モータとが、一対の主管路によって閉回路接続されたHST回路により構成されている走行用油圧回路HC1を備えたホイールローダにおいて、ホイールローダの車速Vが減速して制限開始判定用の閾値Va1以下になると、油圧モータの押しのけ容量qmをT0時間最小値qminに制限するという技術的事項(以下、「甲2技術的事項」という。)が記載されている。 しかしながら、甲第2号証に記載されたホイールローダの走行用油圧回路HC1も、甲1発明と同様に、油圧ポンプの押しのけ容量を制御することによってホイールローダの速度を制御する領域と、油圧モータの押しのけ容量を制御することよってホイールローダの速度を制御する領域とを分ける切換用閾値を設定し、ホイールローダの実速度が切換用閾値より小さい場合、前記油圧ポンプの押しのけ容積を制御するように構成し、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記油圧モータの押しのけ容積を制御するように構成されるものではない。 そうしてみると、甲1発明に、甲2技術的事項を適用するための前提、すなわち、HST走行システムを備える走行装置において、油圧ポンプの押しのけ容量を制御することによって走行装置の速度を制御する領域と、油圧モータの押しのけ容量を制御することよって走行装置の速度を制御する領域とを分ける切換用閾値を設定し、走行装置の実速度が切換用閾値より小さい場合、前記油圧ポンプの押しのけ容積を制御するように構成し、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記油圧モータの押しのけ容積を制御するという構成、が欠けているといえるから、甲1発明に、甲2技術的事項を適用し、以て、相違点4に係る本件発明1の構成となすことは当業者が容易に想到し得たものということはできない。 仮に、甲1発明に甲2技術的事項を適用したとしても、甲1発明も甲2技術的事項も、どちらも、本件発明1の「前記コントローラは、前記実速度が切換用閾値より小さい場合、前記油圧ポンプの押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記前輪用油圧モータ及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を制御するように構成され」いるという構成を備えるものではないから、本件発明1の「前記コントローラは、前記実速度が切換用閾値より小さい場合、前記油圧ポンプの押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記前輪用油圧モータ及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、前記実速度が前記切換用閾値に達してから一定の間、前記油圧ポンプの押しのけ容積、前記前輪用油圧モータの押しのけ容積、及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を一定に維持するように構成されている」という構成に至らない(下線は当審で付したもの。)。 また、甲1発明のHST走行システムは、可変容量型油圧ポンプ1の押しのけ容量を制御することによって作業機械の速度を制御する領域と、可変容量型油圧モータ10、20の押しのけ容量を制御することよって作業機械の速度を制御する領域とを分ける切換用閾値を設定し、作業機械の実速度が切換用閾値より小さい場合、前記可変容量型油圧ポンプ1の押しのけ容積を制御するように構成し、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記可変容量型油圧モータ10、20の押しのけ容積を制御するように構成されるものではなく、当該構成を示唆する記載もない以上、甲第1号証に接した当業者が、甲1発明において、可変容量型油圧ポンプ1の吐出容量が増大することによる走行速度の上昇と、可変容量型油圧モータ10、20の傾転量が減少することによる走行速度の上昇とが同時に発生し、作業機械の走行速度が急上昇するという、本件発明1の課題と同じ課題を認識し、かかる課題を甲2技術的事項を適用することによって解決しようとする動機付けもなかったといえる。 (ウ)また、甲第3号証には、上記4(3)の摘記から、「複数の摩擦係合要素の係合を選択的に行わせることで所定の変速比で駆動力を伝達する駆動力伝達機構を有する自動変速機の油圧制御装置において、異なるライン圧に対してリニアソレノイドバルブで調圧する油圧を一定圧に保つことで、ライン圧の変化に伴う変速ショックの発生を防止する技術的事項」(以下、「甲3技術的事項」という。)が記載されている。 さらに、甲第4号証には、上記4(4)の摘記から、「油圧によって作動する摩擦締結要素の作動状態の切替えにより変速が行われる自動変速機の変速時油圧制御装置において、摩擦締結要素の油圧を上昇させる際、最初の段階では時間の経過に従って油圧を上昇させ、次いで所定の間一定の油圧に保持した後、最高油圧まで上昇させることで、変速ショックを無くすまたは小さくするという技術的事項」(以下、「甲4技術的事項」という。)が記載されている。 しかしながら、甲第3技術的事項も甲4技術的事項もどちらも、HST走行システムにおいて、油圧ポンプの押しのけ容量を制御することによって走行システムの速度を制御する領域と、油圧モータの押しのけ容量を制御することよって走行システムの速度を制御する領域とを分ける切換用閾値を設定し、走行システムの実速度が切換用閾値より小さい場合、前記油圧ポンプの押しのけ容積を制御するように構成し、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記油圧モータの押しのけ容積を制御するように構成されるものではない。 そうしてみると、上記(イ)での説示と同様の理由により、甲1発明に、甲3技術的事項又は甲4技術的事項を適用し、以て、相違点4に係る本件発明1の構成となすことは当業者が容易に想到し得たものということはできないし、仮に、甲1発明に甲3技術的事項又は甲4技術的事項を適用したとしても、本件発明1の「前記コントローラは、前記実速度が切換用閾値より小さい場合、前記油圧ポンプの押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記前輪用油圧モータ及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、前記実速度が前記切換用閾値に達してから一定の間、前記油圧ポンプの押しのけ容積、前記前輪用油圧モータの押しのけ容積、及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を一定に維持するように構成されている」という構成に至らない。 さらに、甲1発明に、甲3技術的事項又は甲4技術的事項を適用する動機付けを欠くという点でも上記(イ)での説示と同様である。 (エ)さらに、異議申立人の提出した甲第3号証から甲第8号証のいずれにも、相違点4に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない(上記4(3)~(8)を参照。)。 (オ)相違点4に関し特許異議申立人は、特許異議申立書において、「相違点1のうち前段となる「前記コントローラは、前記実速度が切換用閾値より小さい場合、前記油圧ポンプの押しのけ容積を制御するように構成されており、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記前輪用油圧モータ及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を制御するように構成されており、」については、実速度が「実現可能な最大の実速度」よりも大きいか小さいかで、油圧ポンプの押しのけ容積を制御するか、前輪用油圧モータ及び後輪用油圧モータの押しのけ容積を制御するかを特定しているだけである。つまり、何らかの閾値を設け、複数ある駆動源から何かを選択して制御しなければ車両が動かないのであるから、これらの制御は油圧で駆動する建設機械の分野では通常行われていることである。」と主張する(第30頁第第13行~第22行)。 しかしながら、甲1発明のHST走行システムが、可変容量型油圧ポンプ1の押しのけ容量を制御することによって作業機械の速度を制御する領域と、可変容量型油圧モータ10、20の押しのけ容量を制御することよって作業機械の速度を制御する領域とを分ける切換用閾値を設定し、作業機械の実速度が切換用閾値より小さい場合、前記可変容量型油圧ポンプ1の押しのけ容積を制御するように構成し、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記可変容量型油圧モータ10、20の押しのけ容積を制御するように構成されるものではなく、当該構成を示唆する記載もないことは、上記(イ)に説示のとおりである。 また、HST走行システムを備えた作業機械の速度は、HST走行システムを構成する油圧ポンプを駆動する原動機、油圧ポンプ及び油圧モータの少なくとも1つ以上の構成の回転数を変化させることによって制御することができるし(すなわち、2つ以上の構成の回転数を変化させることによっても作業機械の速度を制御することもできる。)、また、油圧ポンプだけ、あるいは、油圧モータだけの回転数変化で作業機械の全速度範囲に亘って速度を制御することもできる。そうすると、HST走行システムを備えた作業機械において、所定の速度閾値を設定し、その速度閾値を境に、必ず複数ある駆動源から何か1つを選択して制御し、作業機械の速度を制御しなければならないというものではないといえる。 また、異議申立人は、特許異議申立書において、甲3技術的事項及び甲4技術的事項に関し、「上記の周知慣用技術1は、「前記実速度が前記切換用閾値に達してから一定の間、前記油圧ポンプの押しのけ容積、前記前輪用油圧モータの押しのけ容積、及び前記後輪用油圧モータの押しのけ容積を一定に維持するように構成されている」と同義であるから、当業者が甲1発明に周知慣用技術1を適用することで、本件特許発明1のように構成することは容易である。」と主張する(第32頁第24行~第33頁第2行)。 しかしながら、甲第3技術的事項も甲4技術的事項もどちらも、HST走行システムにおいて、油圧ポンプの押しのけ容量を制御することによって走行システムの速度を制御する領域と、油圧モータの押しのけ容量を制御することよって走行システムの速度を制御する領域とを分ける切換用閾値を設定し、走行システムの実速度が切換用閾値より小さい場合、前記油圧ポンプの押しのけ容積を制御するように構成し、且つ、前記実速度が前記切換用閾値よりも大きい場合、前記油圧モータの押しのけ容積を制御するように構成されるものではないことは、上記(ウ)で説示のとおりである。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (カ)そして、本件発明1は、上記構成を備えることにより、「油圧ポンプ40の押しのけ容積が増大することによる走行速度の上昇と、前輪用油圧モータ42及び後輪用油圧モータ44の傾転量が減少することによる走行速度の上昇との同時発生が回避される。このため、転圧機械1の走行速度の急上昇を回避することができるため、転圧作業を行う際にオペレータが大きな衝撃を受けることがなく、ひいては操作性の向上を実現することができる。」(本件特許の明細書段落【0041】)という格別の作用効果を奏するものといえる。 (キ)以上のとおりであるから、相違点1~3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証から甲第8号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)請求項2~6に係る発明について 請求項2~6に係る発明は、それぞれ、少なくとも本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに、請求項2~請求項6に記載の発明特定事項を付加したものである。 したがって、請求項2~6に係る発明と甲1発明との間には、少なくとも上記(1)アの相違点4が存在する。そして、当該相違点4に係る構成が、甲第2号証~甲第8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものでないことは、上記(1)イで説示のとおりである。 よって、請求項2~6に係る発明は、甲1発明及び甲第2号証から甲第8号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700558

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