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特許異議申立

2023-700369

二輪車用の駆動装置

審判番号
2023-700369
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-523804
登録番号
7152482
請求日
2023年04月12日
審決日
2024年01月31日
公報発行日
2024年05月31日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】バイエリッシェ モトーレン ヴェルケ アクチエンゲゼルシャフト
  • 【権利者代理人】家入 健
  • 【権利者】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
  • 【権利者代理人】家入 健
  • 【異議申立人】釣 美根子
審判長/審判官
  • 審判長 小川 恭司
  • 審判官 尾崎 和寛
  • 審判官 平城 俊雅
分類
P1651.121-YAA(F16H) / P1651.537-YAA(F16H)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第3項、特許法第126条第6項、特許法第120条の5、特許法第36条第6号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7152482号発明「二輪車用の駆動装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7152482号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲を、訂正後の請求項〔4~9〕について訂正することを認める。 特許第7152482号の請求項1~9に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7152482号の請求項1~9に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)11月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2017年(平成29年)11月13日 ドイツ連邦共和国(DE))を国際出願日として出願され、令和4年10月3日にその特許権の設定登録がされ、令和4年10月12日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和5年4月12日に特許異議申立人釣美根子(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、当審は、令和5年6月23日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和5年9月22日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。この訂正の請求に対する特許異議申立人の意見書の提出はなかった。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和5年9月22日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、次のとおりである(下線は訂正箇所である。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項4に「前記コーティングの表面」と記載されているのを、「前記ブッシングの外面及び前記ローラの外面を被覆するta-Cコーティングの表面」に訂正する(請求項4を引用する請求項5~9も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 明細書の段落【0047】の「粗さRzを0.05μmにすることができた。」と記載されているのを、「粗さRaを0.05μmにすることができた。」に訂正する。 訂正前の請求項5~9は、請求項4を引用するものであり、請求項4の訂正にしたがって連動して訂正されるものである。したがって、本件訂正請求は、一群の請求項〔4~9〕に対して請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔4~9〕について請求されたものである。 2 訂正の適否 (1)訂正事項1について 訂正前の請求項4の記載は「前記コーティングの表面」と記載されているところ、請求項4が引用する請求項1では、「コーティング」として、ブッシングの外面及びローラの外面を被覆する「ta―Cコーティング」と、プレートの表面に施される「コーティング」が記載されており、訂正前の「前記コーティングの表面」がどちらのコーティングの表面を示しているのか明確ではなかった。訂正事項1は、訂正後の請求項4の記載を、「ブッシングの外面及びローラの外面を被覆するta-Cコーティング」とすることにより、ブッシングの外面及びローラの外面を被覆するta-Cコーティングの表面を指すことを明確にするものである。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 また、訂正事項1は、請求項4が引用する請求項1に記載の内容を引用するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第3項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。 さらに、明細書の段落【0010】、【0011】、【0014】、及び【0047】の記載内容から、訂正前の請求項で特定する、「粗さRaが0.05μm~0.15μmに保たれ、及び/又は、粗さRzが0.5μm~1.5μmに保たれる」のは、ブッシングの外面及びローラの外面を被覆するta-Cコーティングの表面の粗さであるといえる。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。 (2)訂正事項2について 同じ表面における算術平均粗さRaと最大高さRzを比べたとき、Rz>Raとなるという当業者における技術常識及び明細書の段落【0014】の「コーティングの表面では、粗さRaが0.05μmに保たれ、及び/又は、粗さRzが0.5μm~1.5μmに保たれることが有利である。」との記載を踏まえれば、訂正前の段落【0047】の「このように処理されたブシュ及びローラの外面は、粗さRzが大幅に低減されて0.5μmになる。粗さRzを0.05μmにすることができた。」における「粗さRzを0.05μmにすることができた。」の「Rz」は、本来「Ra」と記載すべきところを誤って「Rz」と記載したものであることは明らかであるといえる。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものである。 また、訂正事項2は上記のように誤記の訂正を目的とするものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔4~9〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1~9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明9」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された次の事項により特定されるものである。 「 【請求項1】 二輪車用の駆動装置において、 閉じた状態のチェーンが、出力のためのドライブピニオンとスプロケットの周りに配置され、 前記チェーンは、複数のピンで形成されており、 前記複数のピンのそれぞれには、対象のピンの縦軸を中心に回転可能なブッシングが配置され、 前記ブッシングのそれぞれには、ローラが配置され、 前記ローラは、前記ブッシングの周りを回転するように配置され、かつ、遊びを有しており、 前記複数のピンは、プレートを介して、2つの反対側の端面で互いに接続され、 前記ブッシングの外面及び前記ローラの外面は、純粋なta-Cコーティングで被覆されており、 前記コーティングには、PVDにおいて避けられない微量元素以外の化学元素が含まれず、 前記コーティングは、製造工程において前記PVDを用いて形成され、 前記コーティングの表面では、粗さRaが0.03μm~0.2μmに保たれ、及び/又は、粗さRzが0.3μm~2μmに保たれ、 前記チェーンの前記ローラと接触する前記ドライブピニオン及び前記スプロケットの表面には、ダイヤモンド状炭素のコーティングが施されておらず、 前記ブッシングの外面のta-Cコーティング層の厚さは、前記ローラの外面のta-Cコーティング層の厚さよりも厚く、 前記プレートの表面には、コーティングが施され、 前記プレートの表面の前記コーティングは、ダイヤモンド状炭素で形成されず、リン酸ニッケルを含むリン酸化合物で形成されることを特徴とする、 駆動装置。 【請求項2】 二輪車用の駆動装置において、 閉じた状態のチェーンが、出力のためのドライブピニオンとスプロケットの周りに配置され、 前記チェーンは、複数のピンで形成されており、 前記複数のピンのそれぞれには、対象のピンの縦軸を中心に回転可能なブッシングが配置され、 前記ブッシングのそれぞれには、ローラが配置され、 前記ローラは、前記ブッシングの周りを回転するように配置され、かつ、遊びを有しており、 前記複数のピンは、プレートを介して、2つの反対側の端面で互いに接続され、 前記ブッシングの外面及び前記ローラの外面は、純粋なta-Cコーティングで被覆されており、 前記コーティングには、PVDにおいて避けられない微量元素以外の化学元素が含まれず、 前記コーティングは、製造工程において前記PVDを用いて形成され、 前記コーティングの表面では、粗さRaが0.03μm~0.2μmに保たれ、及び/又は、粗さRzが0.3μm~2μmに保たれ、 前記チェーンの前記ローラと接触する前記ドライブピニオン及び前記スプロケットの表面には、ダイヤモンド状炭素のコーティングが施されておらず、 前記ブッシングの外面のta-Cコーティング層の厚さは、前記ローラの外面のta-Cコーティング層の厚さよりも厚く、 前記プレートの材料は、前記プレートの表面の近くの領域が、リン酸ニッケルを含むリン酸化合物を用いて加工され、ダイヤモンド状炭素で形成されないことを特徴とする、 駆動装置。 【請求項3】 前記プレートの表面の前記コーティングの厚さは、2μm~50μmの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の駆動装置。 【請求項4】 前記ブッシングの外面及び前記ローラの外面を被覆するta-Cコーティングの表面では、粗さRaが0.05μm~0.15μmに保たれ、及び/又は、粗さRzが0.5μm~1.5μmに保たれることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の駆動装置。 【請求項5】 前記ブッシングの外面のta-Cコーティング層の厚さは、前記ローラの外面のta-Cコーティング層の厚さの少なくとも2倍であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の駆動装置。 【請求項6】 ガスケットが、前記ブッシングの端面と、前記ピンのそれぞれに係合する前記プレートとの間に配置され、 前記ガスケットは、前記ピンのそれぞれに押し付けられ、 前記ガスケットは、摩擦を低減する外部コーティングが施された、請求項1~5のいずれか1項に記載の駆動装置。 【請求項7】 前記摩擦を低減する外部コーティングは、PTFEであることを特徴とする、請求項6に記載の駆動装置。 【請求項8】 ガスケットが、前記ブッシングの端面と、前記ピンのそれぞれに係合する前記プレートとの間に配置され、 前記ガスケットは、前記ピンのそれぞれに押し付けられ、 前記ガスケットは、摩擦を低減する材料で形成されており、 前記摩擦を低減する材料は、PTFEであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の駆動装置。 【請求項9】 前記ピンの外面と、前記ブッシング及びガスケットの内面の間には、固体の潤滑剤が含まれることを特徴とする、請求項6~8のいずれか1項に記載の駆動装置。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について (1)取消理由の概要 訂正前の請求項4~9に係る特許に対して、当審が令和5年6月23日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。 請求項4の「前記コーティング」が、請求項1のブッシングの外面及びローラの外面を被覆する「ta-Cコーティング」、あるいは、プレートの表面に施される「コーティング」のどちらを指すのか不明確である。 したがって、請求項4に係る発明及び請求項4を直接又は間接的に引用する請求項5~9に係る発明は明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、請求項4~9に係る特許は取り消されるべきものである。 (2)当審の判断 本件訂正請求の訂正事項1によって、訂正前の請求項4の「前記コーティングの表面」との記載が、「前記ブッシングの外面及び前記ローラの外面を被覆するta-Cコーティングの表面」と訂正された。 これにより、訂正前の請求項4の「前記コーティング」が、請求項1のブッシングの外面及びローラの外面を被覆する「ta-Cコーティング」、あるいは、プレートの表面に施される「コーティング」のどちらを指すのか不明確であったのが、訂正後の請求項4では「ブッシングの外面及びローラの外面を被覆するta-Cコーティング」であることが明確となった。 したがって、訂正後の請求項4~9に係る発明は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものであるから、当審で通知した取消理由は解消した。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は、訂正前の請求項1~9に係る特許に対して、主たる証拠として次の甲第1号証、従たる証拠として次の甲第2号証~甲第8号証を提出し、請求項1~9に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1~9に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。 また、特許異議申立人は、本件発明1及び2は、「駆動装置」という物の発明にもかかわらず、「前記コーティングは、製造工程において前記PVDを用いて形成され」という、その物の製造方法が記載されており、しかも、出願時においてその物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情について何ら記載がないから、本件発明1及び2並びに請求項1及び2の記載を直接又は間接的に引用する本件発明3~9は明確でなく、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさず、取り消すべきものである旨も主張するので以下これらの点について検討する。 1 特許法第29条第2項について (1)提出された証拠 甲第1号証:特開2006-29462号公報 甲第2号証:国際公開第2007/134651号 甲第3号証:特開2010-126419号公報 甲第4号証:実願昭57-14986号(実開昭58-116486号公報 )のマイクロフィルム 甲第5号証:実公昭46-6409号公報 甲第6号証:特開2011-241007号公報 甲第7号証:特開2011-148859号公報 甲第8号証:特表平9-503193号公報 (2)各甲号証の記載等 ア 甲第1号証 甲第1号証には次の記載がある(下線は当審で付したもの。)。 (ア)「【0001】 本発明は、例えば自転車、オートバイに用いられるチェーンをはじめとして各種機械の動力伝達機構に用いられるチェーンの改良に関するものである。」 (イ)「【0005】 本発明は、対の内プレートと、各内プレートの間に固定される2本のブッシュと、各内プレートおよびブッシュを挟むようにして設けられる対の外プレートと、各ブッシュを貫通しその両端部が各外プレートに固定されるピンとを備えるチェーンに適用する。 【0006】 そして、内プレート、ブッシュ、外プレート、ピンの少なくとも一つが持つ摺接部の表面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜を形成したことを特徴とするものとした。」 (ウ)「【0011】 図1の(a),(b)に示すように、チェーン1は、複数の内リンク20と外リンク30が交互に並んで回動可能に連結され、図示しないスプロケット等に掛け回されることによって動力を伝達するようになっている。 【0012】 内リンク20は、対の内プレート21と、各内プレート21の間に固定される2本のブッシュ22と、各ブッシュ22に回転自在に嵌合するローラ23とによって構成される。 【0013】 外リンク30は、対の外プレート31と、その両端部が各外プレート31にカシメ固定されるピン32とによって構成される。 【0014】 各外プレート31は各内プレート21およびブッシュ22を挟むようにして設けられる。各ピン32は各ブッシュ22を貫通して設けられる。外リンク30が内リンク20に対して回動することにより、各ピン32が各ブッシュ22に対して回転するようになっている。 【0015】 そして本発明の要旨とするところであるが、内プレート21、ブッシュ22、ローラ23、外プレート31、ピン32が持つ摺接部の表面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜2をそれぞれ形成する。DLCコーティング膜2の厚さは、例えば数μ程度以下の寸法である。 【0016】 内プレート21の外側面21aは、外プレート31の外側面31aに摺接する。この内プレート21の外側面21aにDLCコーティング膜2を形成する。 【0017】 外プレート31の内側面31aはブッシュ22の端面22aと内プレート21の外側面21aに摺接する。この外プレート31の内側面31aにDLCコーティング膜2を形成する。 【0018】 ブッシュ22の端面22aは外プレート31の内側面31aに摺接し、ブッシュ22の外周面22bはローラ23の内周面に摺接する。このブッシュ22の端面22aと外周面22bにDLCコーティング膜2を形成する。 【0019】 ローラ23の外周面23aは図示しないスプロケット等の歯面に摺接する。このローラ23の外周面23aにDLCコーティング膜2を形成する。 【0020】 ピン32の外周面32aはブッシュ22の内周面に摺接する。このピン32の外周面32aにDLCコーティング膜2を形成する。 【0021】 DLCコーティング膜2は、アンバランスマグネトロンスパッタ法(以下、「UBMスパッタ法」と称する)によって形成される。」 (エ)「【0026】 DLCコーティング膜2は、図2に示すように、ワーク3の表面にニッケルメッキ層61を形成し、このニッケルメッキ層61の表面にボンド層62、中間層63、トップ層64が順に積層して形成される。」 (オ)「【0033】 ステンレス製のワーク3の表面にニッケルメッキ層61を形成した後、金属の比率を100%にしたボンド層62を設けることにより、母材に対するDLCコーティング膜2の結合強度を高められる。 【0034】 金属の比率を100%にしたボンド層62上に金属の比率を次第に減らす金属と炭素の傾斜組成膜からなる中間層63を設け、中間層63の上に炭素を主成分とするトップ層64を設けることにより、DLCコーティング膜2におけるトップ層64の結合強度を高められる。 【0035】 トップ層64の金属の比率を3~18%の範囲に設定することにより、トップ層64の密着性や靱性を高められ、高荷重によってワーク3が変形するような場合、割れや、剥離が生じることを防止できる。そして、トップ層64の硬度の低下を抑えられ、耐摩耗性を確保できる。 【0036】 図6にトップ層64に含まれる金属の比率と靱性及び硬度の関係を示すように、金属の比率を3~18%の範囲に設定することにより、トップ層64の靱性と硬度の両方を高められる。さらにトップ層64に含まれる金属の比率を3~12%の範囲に設定することにより、トップ層64の靱性と硬度の両方を著しく高められる。 【0037】 これに対して従来は、トップ層に含まれる金属の比率が0%になっていたため、密着性や靱性が不足し、トップ層に割れや剥離が生じやすいという問題点があった。 【0038】 この結果、高荷重を受けるワーク3の表面にDLCコーティング膜2を形成しても、DLCコーティング膜2の割れや剥離が生じることを回避し、実用化が可能となる。」 (カ)「【図1】 [図:0001410200000001.jpg] 」 (キ)「【図2】 [図:0001410200000002.jpg] 」 上記甲第1号証の記載より甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 [甲1発明] 「オートバイの動力伝達機構において、 チェーン1が、スプロケットに掛け回されており、 チェーン1は、複数の内リンク20と外リンク30が交互に並んで回動可能に連結され、 内リンク20は、対の内プレート21と、各内プレート21の間に固定される2本のブッシュ22と、各ブッシュ22に回転自在に嵌合するローラ23とによって構成され、 外リンク30は、対の外プレート31と、その両端部が各外プレート31にカシメ固定されるピン32とによって構成され、 各外プレート31は各内プレート21およびブッシュ22を挟むようにして設けられ、 各ピン32は各ブッシュ22を貫通して設けられ、 外リンク30が内リンク20に対して回動することにより、各ピン32が各ブッシュ22に対して回転するようになっており、 ブッシュ22の外周面22b、ローラ23の外周面23a、内プレート21の外側面21a及び外プレート31の内側面31aにDLCコーティング膜2を形成し、 DLCコーティング膜2は、アンバランスマグネトロンスパッタ法によって形成される、 オートバイの動力伝達機構。」 イ 甲第2号証 甲第2号証には次の記載がある。 なお、以下には、異議申立人が提出した甲第2号証訳文と、原文の対応箇所を記載する。 (ア)「本発明は、それぞれチェーンジョイントによって互いに連結されたチェーンリンクを有 する耐摩耗性のチェーンに関する。」(明細書部分第1頁第3、4行) (イ)「別の実施形態では、摩耗防止コーティングはta-C(四面体結合非晶質炭素) を含む。それに応じて、これはレーザーアーク蒸着(PVD) によるパルス化された真空アーク炭素プラズマによって塗布される炭素コーティングである。」(明細書部分第2頁末行~第3頁第4行) (ウ)「考えられる摩耗防止コーティングについては、さらに後で再度詳しく説明する。全部のチェーン構成要素への摩耗防止コーティングの全面的な塗布の他、ローラ7の外面および内面、ジョイントスリーブ6の外面および内面、ならびにチェーンボルト10の外面に、優先的に摩耗防止コーティングが塗布される。このとき、必要に応じて上述した面のうちの単一の面が、または複数もしくは全部の組合せが、またはこれらの面の各領域が、摩耗止コーティングの塗布のために援用されるという選択肢がある。これに加えて、ジョイントスリープ6の端面、ローラ7の端面、ならびに内側プレート5および/または外側プレート9の付属の内面も、摩耗防止コーティングを付与されていてよい。」(明細書部分第8頁第13行~第22行) (エ)「以下において、上に説明したチェーンの実施例で適用可能な摩耗防止コーティングについて詳しく説明する。 I.ta-C四面体結合非晶質炭素 系統: 非晶質炭素層 方法: -レーザーアーク蒸着(PVD)、パルス化真空アーク炭素プラズマ。 アークの高いパルス周波数のもとでの非常に正確なパルス調整のための唯一の方法。水素関与のない方法。 -非晶質C層を製作するための別の方法は、これ以外に次のものがある。 CVD。この場合、Cは水素の存在下で気相を通じて供給される。このとき少なくとも15%の水素が取り込まれ、このことは、硬度を低下させるとともに摩擦係数を上昇させる。 スパッタ。この場合、スパッタされたC層は比較的軟質であり、低い析出率を有する。 -コーティング温度<150℃ が可能 -場合により0.26Rzおよび0.03Raまでの再研磨」(明細書部分第9頁末行~第10頁第17行) 上記甲第2号証の記載より、甲第2号証には次の技術的事項(以下、「甲2技術的事項」という。)が記載されているといえる。 「摩耗防止コーティングを有する耐摩耗性のチェーン(本件発明1の「チェーン」に相当する。以下、同様に()内は、本件発明1における相当する構成を示す。)のローラ7(ローラ)の外面、及び、ジョイントスリーブ6(ブッシング)の外面にレーザーアーク蒸着(PVD)によってta-C四面体結合非晶質炭素の耐摩耗性コーティング(PVDにおいて避けられない微量元素以外の化学元素が含まれない純粋なta-Cコーティング)を形成する技術的事項。」 ウ 甲第3号証 甲第3号証には次の記載がある。 (ア)「【0001】 本発明は、微細な凹凸表面を備え、例えば摺動部材に適用し、特に潤滑剤の存在下で摺動させた場合に、極めて良好な低摩擦特性を長期に亘って発揮するダイヤモンドライクカーボン(Diamond-like Carbon:以下、「DLC」と略記する)膜と、このようなDLC膜を備えたコーティング部材、さらには当該DLCコーティング部材の製造方法に関するものである。」 (イ)「【0008】 本発明は上記知見に基づくものであって、本発明のDLC膜は、基材上に形成されるものであって、その表面に中心線平均粗さRaで0.01~0.2μmの微細凹凸と、微小開孔を有し、この微小開孔の合計面積率が全表面の10%以下であることを特徴としている。」 (ウ)「【0013】 本発明のDLC膜を構成するDLC材料とは、炭素元素を主として構成される非晶質組織を有するものであって、炭素同士の結合形態がダイヤモンド構造(SP3結合)とグラファイト結合(SP2結合)の両方から成る。 具体的には、炭素元素だけから成るa-C(アモルファスカーボン)、水素を含有するa-C:H(水素アモルファスカーボン)と共に、チタン(Ti)やモリブデン(Mo)等の金属元素を一部に含むMeCが挙げられるが、本発明に用いるDLCとしては、特に限定されない。 【0014】 本発明のDLC膜は、上記したように、中心線平均粗さRaが0.01~0.2μmの微細凹凸と、その合計面積率が全表面の10%以下である微小開孔を表面に備えたものである。 ここで、「中心線平均粗さRa」とは、JIS B 0601に基づいて触針式表面粗さ計により測定した値を意味する。」 エ 甲第4号証 甲第4号証には次の記載がある。 (ア)「この考案は、ブッシュリンクに圧入させたブッシュに回転自在にローラを支持させ、ブッシュリンクの両がわのピンリンクを、ブッシュの穴に挿入したピンによりたがいに結合させ、ろーらとブッシュに掛かる荷重の方向が常に一定であるブッシュ付ローラチェーンに関するものである。 この種の従来のブッシュ付ローラチェーンの一例を泥上車の走行用チェーンを例にとつて第1図ないし第5図により説明する。」(明細書第1頁第14行~第2頁第1行) (イ)「ローラチェーンCを駆動することにより泥上車が走行する。ローラチェーンCに掛かる反力による荷重W(第3図参照)は常に一定方向である。 ローラ6とブッシュ2とは泥中を運行し、高荷重が作用し、ローラ6は高速回転するので両者は早く摩耗する。特に、ブッシュ2は第3図に示すa面でローラ6の穴に接触しているので、その接触面部が最も摩耗する。すなわち、片面部だけが異常に早く摩耗する。」(明細書第3頁第8行~第16行) オ 甲第5号証 甲第5号証には次の記載がある。 (ア)「このチエンはリンクプレート4の上辺に直接品物を乗せて品物を運搬するものであるが、・・・(以下、省略)」(第1欄第25行~第2欄第1行) (イ)「この種のチエンは荷重の関係上走行時のローラとブツシユの下側(第2図で×××部)の損耗が最も激しいことは当然である。」(第1欄下から7行~下から4行) カ 甲第6号証 甲第6号証には次の記載がある。 (ア)「【0001】 本発明は、ローラチェーンに関するものである。」 (イ)「【0006】 一方、ローラチェーンに対して全く潤滑油を供給しない、いわゆるオイルフリー化とすると、特にローラとブッシュとの摺動箇所が急速に摩耗し、ローラチェーンの寿命が短くなる。ローラチェーンが短寿命化すると頻繁に部品交換作業等が生じてしまい、かえってランニングコストが増加するため、現状のローラチェーンではオイルフリー化できないという課題があった。」 (ウ)「【0020】 図2に示すように、熱処理装置のチェーンコンベヤに設けられるローラチェーン1は、一方向(紙面に垂直な方向)に延在するガイドレールR上に設置されている。ローラチェーン1によって搬送される被処理物Wは、内側リンクプレート21によって支持される。ローラ4の外周面は、ガイドレールRの支持面に当接している。すなわち、被処理物Wは、ローラチェーン1における内側リンクプレート21、ブッシュ22及びローラ4を介して、ガイドレールRに支持されている。特に、被処理物Wの重量により、ブッシュ22の外周面はローラ4の内周面に強く接触している。また、ローラチェーン1は、不図示のスプロケットに巻回されており、該スプロケットにはローラチェーン1を移動させるための不図示の駆動装置が連結されている。 【0021】 駆動装置の駆動によりローラチェーン1がガイドレールRに沿って移動し、被処理物Wが搬送される。ローラ4は、ローラチェーン1の移動に伴い、ガイドレールRの支持面を転動する。すなわち、ローラ4はブッシュ22に対して摺動して回転する。また、ローラチェーン1がスプロケットに巻回されつつ移動することで、ブッシュ22とリンクピン32とが摺動する。 ブッシュ22とリンクピン32との間の摺動の量よりも、ローラ4とブッシュ22との間の摺動の量が多くなっている。さらに、上述したように、被処理物Wの重量により、ブッシュ22の外周面はローラ4の内周面に強く接触している。そのため、摺動箇所の摩耗によりローラチェーン1が寿命となるときには、ローラ4とブッシュ22との摺動箇所が摩耗することで寿命に到達する場合が多い。」 キ 甲第7号証 甲第7号証には次の記載がある。 (ア)「【0001】 本発明は、塩水、酸、アルカリ等の腐食雰囲気下で使用され、表面にニッケル系皮膜が形成されており、該ニッケル系皮膜上に、防錆性が良好である塗料を用いて塗膜が形成されたブシュチェーン、ローラチェーン等の耐食表面処理チェーンに関する。」 (イ)「【0008】 第1発明に係る耐食表面処理チェーンは、鉄系材料からなり、一対の外プレートと一対の内プレートとを交互に連結して構成され、表面にニッケル系皮膜を形成してある耐食表面処理チェーンにおいて、前記ニッケル系皮膜上に、亜鉛、硝酸塩、及びメルカプト基含有シランカップリング剤以外のメルカプト基を含む有機化合物を含有する水系防錆塗料を用いて形成された第1塗膜と、該第1塗膜上に、顔料、珪酸ナトリウム、及びアクリルエマルジョン又はポリウレタン水性組成物を含む上塗り塗料を用いて形成された第2塗膜とを有することを特徴とする。」 (ウ)「【0019】 本発明の耐食表面処理チェーンとしては、鉄系材料からなり、離間配置される一対の内プレートと、該内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合されるブシュと、前記内プレートの外側に配置されて前後の内プレートを連結する一対の外プレートと、前記ブシュの内周面に遊嵌されて外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合される連結ピンとで構成されるブシュチェーン、及び前記連結ピン及びブシュの外周面にローラをさらに遊嵌させて構成されるローラチェーンが挙げられる。 【0020】 本発明の耐食表面処理チェーンを具体的な用途で例示すると、高湿度環境下、定期的な洗浄状態で使用される食品搬送トレーコンベヤの駆動機構に用いられるコンベヤチェーン、水及び洗剤が降りかかる洗車機内のローラコンベヤの駆動機構、並びにブラシ及びブローの駆動機構に用いられるコンベヤチェーン、高温高湿下で用いられるキノコ培養用スタッカークレーンの吊り下げチェーン、洗浄液がかかるビンケース洗浄搬送ローラコンベヤの駆動機構に用いられるコンベヤチェーン、水中を走行して水中に沈殿した汚泥をかき寄せるためのコンベヤチェーン、海岸付近に設置されて潮風に晒される野外設置コンベヤの駆動機構のためのコンベヤチェーン等の搬送コンベヤチェーン、及びエンジン等で用いられるような動力を伝達するための伝動用チェーンが挙げられる。」 (エ)「【0022】 本発明の耐食表面処理チェーンは、上述の各構成部品の鉄系母材の表面上に、ニッケル系皮膜を形成してある。 ニッケル系皮膜は、電気めっきにより形成することができるが、無電解めっきにより形成するのが好ましい。無電解めっきにより、電気めっきと比較して、硬質、均質で緻密であり、耐食性が高い皮膜が得られる。そして、還元剤の選択により純Ni(還元剤:ヒドラジン)、Ni-P合金(還元剤:次亜リン酸塩)、Ni-B合金(水素化ホウ素化合物)、Ni-P-B合金(還元剤:次亜リン酸塩と水素化ホウ素化合物との併用)等の皮膜が形成される。鉄塩又はコバルト塩を併用した場合、Ni-Fe-P合金、Ni-Co-P合金等の3元合金皮膜も形成することができ、めっき浴中にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を分散させた場合、上述の合金中にPTFEが分散されたNi-P-PTFE等の複合合金皮膜が得られる。」 (オ)「【0024】 本発明の耐食表面処理チェーンは、上述のニッケル系皮膜上に、水系防錆塗料を用いて第1塗膜を形成してある。」 (カ)「【0038】 本発明の耐食表面処理チェーンは、前記第1塗膜上に、後述する上塗り塗料を用いて第2塗膜を形成してある。」 (キ)「【0075】 以上より、構成部品の鉄系母材上に、ニッケル系皮膜、水系防錆塗料を用いて形成された第1塗膜、並びに、上塗り塗料を用いて形成された第2塗膜を有するように構成された本実施例のローラチェーンは、耐食性に非常に優れ、チェーンの耐久性が向上することが確認された。 【0076】 そして、第2塗膜により第1塗膜の剥離が防止され、塗膜粉の発生が抑制されるので作業性及び外観品位が良好であり、塗膜の膜厚が均一に保持され、チェーン組み付け時における内プレートとブシュとの圧入部分、及び外プレートと連結ピンとの締鋲部分の塗膜補修を省略することができることが確認された。」 ク 甲第8号証 甲第8号証には次の記載がある。 (ア)「初期潤滑としては、チェーンピン9に滑り軸受け18のプレス嵌めによる押し被せ前に潤滑膜が施与される。この潤滑膜はポリアルファオレフィンの基油から成るグリースを有している。」(第15頁第17行~第19行) (イ)「さらに、このポリアミドコア22はポリウレタンから成る転動面23で被覆されている。内側リンク5,6と軸受け内レース20との間には、スペーサ部材24,25が延びている。このスペーサ部材24,25は転がり軸受け19の軸方向の位置固定部を形成すると同時に、シール個所をも形成している。ブシュ11の両端面26,27の範囲では、PTFEから成る各1つのシール板28,29が、それぞれ内側リンク5と外側リンク7との間もしくは内側リンク6と外側リンク8との間に配置されている。」(第15頁第26行~第16頁第5行) (3)当審の判断 ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「オートバイ」及び「動力伝達機構」は、本件発明1の「二輪車」及び「駆動装置」に相当するから、甲1発明の「オートバイの動力伝達機構」は、本件発明1の「二輪車用の駆動装置」に相当する。 甲1発明の「チェーン1」は、本件発明1の「チェーン」に相当し、甲1発明の「スプロケット」が、オートバイの動力伝達機構を構成するものであることを踏まえれば、出力のためのドライブスプロケット(ドライブピニオン)と従動側のスプロケットから構成されることは明らかであるから、本件発明1の「出力のためのドライブピニオンとスプロケット」に相当する。そして、甲1発明のチェーン1は、「スプロケットに掛け回されて」いるから、閉じた状態でスプロケットの周りに配置されているといえる。 したがって、甲1発明の「チェーン1が、スプロケットに掛け回されて」いることは、本件発明1の「閉じた状態のチェーンが、出力のためのドライブピニオンとスプロケットの周りに配置され」ていることに相当する。 甲1発明の「ピン32」及び「ブッシュ22」は、本件発明1の「ピン」及び「ブッシング」に相当する。 甲1発明の「各ピン32は各ブッシュ22を貫通し設けられ」ていることは、複数のピン32のそれぞれにピン32の縦軸を中心にブッシュ22が配置されているといえ、また、甲1発明の「各ピン32が各ブッシュ22に対して回転するようになって」いることは、ブッシュ22がピン32の縦軸を中心に回転可能であるといえる。 したがって、甲1発明の「各ピン32は各ブッシュ22を貫通して設けられ」、「各ピン32が各ブッシュ22に対して回転するようになって」いることは、本件発明1の「前記複数のピンのそれぞれには、対象のピンの縦軸を中心に回転可能なブッシングが配置され」ていることに相当する。 甲1発明の「ローラ23」は、本件発明1の「ローラ」に相当する。 そして、甲1発明の「ローラ23」が「各ブッシュ22に回転自在に嵌合する」ことは、ローラ23がブッシュ22の周りに遊びを有した状態で配置されることにより回転自在となることであるから、本件発明1の「前記ブッシングのそれぞれには、ローラが配置され、前記ローラは、前記ブッシングの周りを回転するように配置され、 かつ、遊びを有して」いることに相当する。 甲1発明の「対の内プレート21」及び「対の外プレート31」は、これらがそれぞれ、本件発明1の「プレート」に相当する。 甲1発明の「チェーン1は、複数の内リンク20と外リンク30が交互に並んで回動可能に連結され、内リンク20は、対の内プレート21と、各内プレート21の間に固定される2本のブッシュ22と、各ブッシュ22に回転自在に嵌合するローラ23とによって構成され、外リンク30は、対の外プレート31と、その両端部が各外プレート31にカシメ固定されるピン32とによって構成され、各外プレート31は各内プレート21およびブッシュ22を挟むようにして設けられ」ていることは、内リンク20と外リンク30が交互に並んで連結されることによって、外リンク30の対の外プレートにカシメ固定されるピン32が、内リンク20と外リンク30の構成要素である対の内プレート21と対の外プレート31を介して、内リンク20及び外リンク30のそれぞれの反対側の端面で互いに接続されているといえるから、本件発明1の「前記チェーンは、複数のピンで形成されており」、「前記複数のピンは、プレートを介して、2つの反対側の端面で互いに接続され」ていることに相当する。 本件発明1の「純粋なta-Cコーティング」がDLCコーティングの一種であることを踏まえれば、甲1発明の「ブッシュ22の外周面22b、ローラ23の外周面23a」「にDLCコーティング膜2を形成」することは、本件発明1の「前記ブッシングの外面及び前記ローラの外面は、純粋なta-Cコーティングで被覆され」ていることとの対比において、「前記ブッシングの外面及び前記ローラの外面は、DLCコーティングで被覆され」との限度で一致する。 甲1発明の「アンバランスマグネトロンスパッタ法」は、PVDの一種であり、本件発明1の「PVD」に相当するから、甲1発明の「DLCコーティング膜2は、アンバランスマグネトロンスパッタ法によって形成される」ことは、本件発明1の「前記ブッシングの外面及び前記ローラの外面」の「コーティングは、製造工程において前記PVDを用いて形成され」ることに相当する。 本件発明1の「内プレート21の外側面21a及び外プレート31の内側面31aにDLCコーティング膜2を形成」することは、本件発明1の「前記プレートの表面には、コーティングが施され」ることに相当する。 以上のとおりであるから、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。 [一致点1] 「二輪車用の駆動装置において、 閉じた状態のチェーンが、出力のためのドライブピニオンとスプロケットの周りに配置され、 前記チェーンは、複数のピンで形成されており、 前記複数のピンのそれぞれには、対象のピンの縦軸を中心に回転可能なブッシングが配置され、 前記ブッシングのそれぞれには、ローラが配置され、 前記ローラは、前記ブッシングの周りを回転するように配置され、かつ、遊びを有しており、 前記複数のピンは、プレートを介して、2つの反対側の端面で互いに接続され、 前記ブッシングの外面及び前記ローラの外面は、DLCコーティングで被覆されており、 前記コーティングは、製造工程においてPVDを用いて形成され、 前記プレートの表面には、コーティングが施されている、 駆動装置。」 [相違点1] ブッシングの外面及びローラの外面を被覆するDLCコーティングに関し、本件発明1は、「PVDにおいて避けられない微量元素以外の化学元素が含まれ」ない「純粋なta-Cコーティング」であるのに対し、甲1発明は、「DLCコーティング膜2」とされ、PVDの一種であるアンバランスマグネトロンスッパ法によって形成されるものであるものの、当該アンバランスマグネトロンスパッタ法において避けられない微量元素以外が含まれないとの特定はなされていない点。 [相違点2] 本件発明1は、「前記コーティングの表面では、粗さRaが0.03μm~0.2μmに保たれ、及び/又は、粗さRzが0.3μm~2μmに保たれ」るとされているのに対し、甲1発明の「DLCコーティング膜2」の表面粗さについては特定されていない点。 [相違点3] 本件発明1では、「前記ブッシングの外面のta-Cコーティング層の厚さは、前記ローラの外面のta-Cコーティング層の厚さよりも厚く」されているのに対し、甲1発明の、「ブッシュ22の外周面22b、ローラ23の外周面23a」に形成された「DLCコーティング膜2」の厚さについて、本件発明1のような特定がされていない点。 [相違点4] 本件発明1では、「前記チェーンの前記ローラと接触する前記ドライブピニオン及び前記スプロケットの表面には、ダイヤモンド状炭素のコーティングが施されておらず」とされているのに対し、甲1発明の「スプロケット」の表面のコーティングの有無については特定されていない点。 [相違点5] プレートの表面のコーティングに関し、本件発明1は、「ダイヤモンド状炭素で形成されず、リン酸ニッケルを含むリン酸化合物で形成される」とされているのに対し、甲1発明では、「内プレート21の外側面21a及び外プレート31の内側面31aにDLCコーティング膜2を形成」するとされている点。 (イ)判断 上記各相違点について検討する。 a 相違点1について (a)甲第2号証には、上記(2)イで述べたように、摩耗防止コーティングを有する耐摩耗性のチェーン(本件発明1の「チェーン」に相当する。以下、同様に()内は、本件発明1における相当する構成を示す。)のローラ7(ローラ)の外面、及び、ジョイントスリーブ6(ブッシング)の外面にレーザーアーク蒸着(PVD)によってta-C四面体結合非晶質炭素の耐摩耗性コーティング(PVDにおいて避けられない微量元素以外の化学元素が含まれない純粋なta-Cコーティング)を形成するという甲2技術的事項が記載されている。 ところで、甲1発明は、従来DLCコーティング膜2におけるトップ層64に含まれる金属の比率が0%になっていたため、トップ層64の密着性や靱性が不足し、トップ層64に割れや剥離が生じやすいという問題点を、トップ層64に含まれる金属の比率を3~18%の範囲に設定してトップ層64の密着性や靱性を高めることにより解決することを目的の一つとしたものである(甲第1号証の段落【0033】~【0038】を参照。)。 そして、トップ層64に含まれる金属の比率を3~18%の範囲に設定する手段として、DLCコーティング膜2中の金属の比率を成膜形成中にコントロールできる成膜方法であるアンバランスマグネトロンスパッタ法を採用したのである(甲第1号証の段落【0023】~【0031】を参照。)。 ここで、仮に、甲1発明に甲2技術的事項を適用すると、甲1発明の「DLCコーティング膜2」は、PVDにおいて避けられない微量元素以外の化学元素が含まれない純粋なta-Cコーティング、すなわち、金属の比率が0%であるDLCコーティングとなり、甲1発明の目的の一つである、トップ層64に含まれる金属の比率を3~18%の範囲に設定することにより、トップ層64の密着性や靱性を高めるという作用効果を阻害してしまうことになる。 そうだとすれば、甲1発明に甲2技術的事項を適用し、相違点1に係る本件発明1の構成となすことは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (b)この点について特許異議申立人は、特許異議申立書において、「甲第2号証には、耐摩耗コーティングとしてta-Cコーティングを、ローラ7の外面及びジョイントスリーブ6の外面に施すことが記載されており、「前記ブッシングの外面及び前記ローラの外面は、純粋なta-Cコーティングで被覆する」ことは、甲第2号証に記載されている事項である。甲第2号証に記載されているta-Cコーティングは、ローラチェーンに用いられるものであり、甲1発明と技術分野を同一にし、摺動部品であるローラ及びブッシュの摩耗を低減するという作用・効果も共通するものであるため、上記甲第2号証のta-Cコーティングを甲1発明に適用することは、容易に想到し得るものである。」と主張する(第32頁第22行~第33頁第4行)。 しかしながら、甲1発明に甲2技術的事項を適用すると、甲1発明の達成しようとする効果を阻害することとなるから、甲1発明に甲2技術的事項を適用することは当業者であっても容易でないことは上記(a)で述べたとおりであり、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 b 相違点3について (a)複数のピンを、プレートを介して、2つの反対側の端面で互いに接続することによって構成し、前記複数のピンには、ピンの縦軸を中心に回転可能なブッシングが配置され、前記ブッシングのそれぞれには、ローラが前記ブッシングの周りを回転するように配置され、前記ブッシングの外面及び前記ローラの外面がコーティングで被覆されているチェーンにおいて、ブッシングの外面のコーティング層の厚さを、ローラの外面のコーティング層の厚さよりも厚くするという技術的事項は、甲第2号証~甲第7号証のいずれにも記載されていないし、示唆もされていない。 また、ブッシングの外面及びローラの外面がコーティングで被覆されているチェーンにおいて、ブッシングの外面のコーティング層の厚さを、ローラの外面のコーティング層の厚さよりも厚くするという技術的事項が当業者にとって周知・慣用であったとの証拠もない。 そうだとすれば、相違点3に係る本件発明1の構成となすことは、甲1発明及び甲第2号証~甲第7号証に記載の技術的事項に基いて当業者にとって容易であったということはできない。 (b)この点について特許異議申立人は、特許異議申立書において、「ブッシュに外嵌したローラを備えたローラチェーンにおいて、ブッシングの外面は摩耗が激しく、チェーンの寿命に影響を与えることは周知の事項である(甲第4号証や甲第5号証にはブッシュはローラとの摺動部分の損耗が最も激しいことが記載されており、甲第6号証には摺動箇所の摩耗によりローラチェーンの寿命となる際には、ローラとブッシュとの摺動箇所が摩耗することで寿命に到達する場合が多いことが記載されている)。そして、チェーンの高寿命化を目的として、甲1発明に記載された駆動装置において、最も摩耗の激しいブッシングの外面のDLCコーティングの厚さを、ローラの外面のDLCコーティングの厚さよりも厚くすることは、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化または好適化に過ぎない。」と主張する(第33頁第5行~第14行)。 しかしながら、甲第4号証~甲第6号証は、チェーンにおける、ブッシング及びローラ自体の摩耗について開示したものであり、ブッシングの外面及び前記ローラの外面が耐摩耗性コーティングで被覆されているチェーンにおいて、ブッシングの外面のコーティング層の厚さを、ローラの外面のコーティング層の厚さよりも厚くするという技術的事項を開示ないし示唆するものではないことは、上記(a)で述べたとおりである。 しかも、甲第4号証に記載の技術的事項は、ブッシュ2のローラ6の穴に接触している接触面が、その他のブッシュ2の表面よりも早く摩耗することを開示しているけれども、ローラ6の表面との対比においてブッシュ2の接触面の方が早く摩耗することを開示するものではない(甲第4号証の明細書部分第3頁第8行~第4頁第1行を参照。)。この点は、甲第6号証に記載の技術的事項においても同様で、甲第6号証において、ブッシュ22の表面の摩耗がローラ4の表面の摩耗よりも早いということを示す直接の記載はない(甲第6号証の段落【0021】を参照。)。 さらに、甲第4号証に記載のチェーンは、泥上車の走行用チェーンであり、甲第5号証及び甲第6号証は、リンクプレート上に搬送物を乗せて搬送する物品搬送用チェーンであるから、甲第4号証~甲第6号証に記載のチェーンにおけるブッシュへの荷重のかかり方と、甲1発明のオートバイの動力伝達機構のチェーン1におけるブッシュ22への荷重のかかり方とは異なるから、ブッシュの摩耗の発生態様も、甲1発明のものと、甲第4号証~甲第7号証に記載のものとは異なることとなることが通常であるといえる。 そうしてみると、仮に、甲第4号証~甲第6号証におけるチェーンにおいては、ローラの表面の摩耗よりブッシュの表面の摩耗の方が早いということが示唆されているといえるとしても、これからただちに、甲1発明のブッシュ22の外周面22bの摩耗が、ローラ23の外周面23aの摩耗より早いことが当業者に周知の事項であるということはできない。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 c 相違点5について (a)甲第7号証には、耐食表面処理チェーンにおいて、内プレート及び外プレートの鉄系母材上に還元剤を次亜リン酸塩としたNi-P合金の被膜を形成し、当該Ni-P合金の被膜上にさらに、水系防錆塗料からなる第1塗膜および上塗り塗料からなる第2塗膜を施した甲7技術的事項1が記載されている。 ここで、甲第7号証に記載の耐食表面処理チェーンの、内プレート及び外プレートの鉄系母材とその鉄系母材の上に形成された還元剤を次亜リン酸塩としたNi-P合金の被膜という部分に注目すると、甲第7号証には、耐食表面処理チェーンにおいて、内プレート及び外プレートの鉄系母材上に還元剤を次亜リン酸塩としたNi-P合金の被膜を形成した技術的事項(以下、「甲7技術的事項2」という。)が記載されているといえる(なお、「甲7技術的事項1」及び「甲7技術的事項2」をまとめて、「甲第7号証に記載の技術的事項」という。)。 しかしながら、甲7技術的事項1は、上記Ni-P合金の被膜上にさらに、水系防錆塗料からなる第1塗膜および上塗り塗料からなる第2塗膜を施すことにより、腐食雰囲気下で使用されても耐食性が良好である耐食表面処理チェーンを得ることを目的とするものであり(甲第7号証の段落【0001】、【0007】及び【0008】を参照。)、このような構成(鉄系母材-Ni-P合金の被膜-第1塗膜-第2塗膜)の耐食表面処理チェーンから、甲7技術的事項2のみを抽出し、甲1発明に適用する動機付けは存在しない。 また、甲1発明は、「内プレート21の外側面21a及び外プレート31の内側面31aにDLCコーティング膜2を形成」することによって、すでに耐摩耗性のみならず、耐食性も備えているといえるから、甲1発明の「内プレート21の外側面21a及び外プレート31の内側面31a」に形成された「DLCコーティング膜2」に代えて、耐食性及び耐摩耗性を有する「リン酸ニッケルを含むリン酸化合物」からなるコーティングを用いる動機付けもない。 したがって、相違点5に係る本件発明1の構成となすことは、甲1発明及び甲第7号証に記載の技術的事項に基いて当業者にとって容易であったということはできない。 (b)この点について特許異議申立人は、特許異議申立書において、「甲第7号証には、ローラチェーン10の内プレート11及び外プレート13上にNi-P合金皮膜24を形成されることが記載されており、「前記プレートの表面の前記コーティング33は、ダイヤモンド状炭素で形成されず、リン酸ニッケルを含むリン酸化合物で形成される」ことは、甲第7号証に記載されている事項である。甲第7号証に記載されたものは、ローラチェーンに用いられるものであり、甲1発明と技術分野を同一にしている。また、甲第1号証には、段落【0006】において、「内プレート、ブッシュ、外プレート、ピンの少なくとも一つが持つ摺接部の表面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜を形成した」と記載されており、内プレート及び外プレートにDLCコーティング膜を形成しなくとも良い旨の示唆がある。更に、甲第1号証には、段落【0026】に「ワーク3の表面にニッケルメッキ層61を形成し」と記載されており、ワーク3の表面にニッケルを主体とした被膜を形成する旨の示唆がある。従って、甲1発明の内プレート及び外プレートにDLCコーティング膜を形成しないと共に、プレートの表面に、耐食性及び外観品位を考慮して甲第7号証のNi-P合金皮膜24を適用することは、容易に想到し得るものである。」と主張する(第33頁第26行~第34頁第15行)。 しかしながら、耐食表面処理チェーンにおいて、内プレート及び外プレートの鉄系母材上に還元剤を次亜リン酸塩としたNi-P合金の被膜を形成し、当該Ni-P合金の被膜上にさらに、水系防錆塗料からなる第1塗膜および上塗り塗料からなる第2塗膜を施した甲7技術的事項1から、内プレート及び外プレートの鉄系母材上に還元剤を次亜リン酸塩としたNi-P合金の被膜を形成した甲7技術的事項2の部分のみを抽出する合理的な理由がないことは、上記(a)で述べたとおりである。 また、甲第1号証の段落【0026】の「ワーク3の表面にニッケルメッキ層61を形成し」との記載は、ワーク3の表面にDLCコーティング膜2を形成する前処理としてニッケルメッキ層61が形成される場合のことをいうのであって、ワーク3の表面にDLCコーティング膜2を形成しない場合にもワーク3の表面にニッケルメッキ層61を形成することを開示ないし示唆するものではない。また、ワーク3の表面にDLCコーティング膜2を形成しない場合にもワーク3の表面にニッケルメッキ層61を形成することが当業者にとって周知・慣用であるとの証拠もない。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 d 小括 以上のとおりであるから、その余の相違点2及び4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載の発明、及び上記(2)で摘記した甲第2号証~甲第7号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2について (ア)対比 本件発明2と甲1発明とを対比する。 上記ア(ア)を踏まえれば、本件発明2と甲1発明とは、次の一致点2の点で一致し、上記相違点1~4と同様の相違点で相違すると共に、さらに、次の相違点6で相違する。 [一致点2] 「二輪車用の駆動装置において、 閉じた状態のチェーンが、出力のためのドライブピニオンとスプロケットの周りに配置され、 前記チェーンは、複数のピンで形成されており、 前記複数のピンのそれぞれには、対象のピンの縦軸を中心に回転可能なブッシングが配置され、 前記ブッシングのそれぞれには、ローラが配置され、 前記ローラは、前記ブッシングの周りを回転するように配置され、かつ、遊びを有しており、 前記複数のピンは、プレートを介して、2つの反対側の端面で互いに接続され、 前記ブッシングの外面及び前記ローラの外面は、DLCコーティングで被覆されており、 前記コーティングは、製造工程においてPVDを用いて形成されている、 駆動装置。」 [相違点6] 本件発明2は、「前記プレートの材料は、前記プレートの表面の近くの領域が、リン酸ニッケルを含むリン酸化合物を用いて加工され、ダイヤモンド状炭素で形成されない」とされているのに対し、甲1発明では、「内プレート21の外側面21a及び外プレート31の内側面31aにDLCコーティング膜2を形成」するとされている点。 (イ)判断 a 上記(ア)で述べたように、上記ア(ア)の相違点1~4は、本件発明2と甲1発明との相違点としても当てはまるので、相違点1及び3と同様の相違点については上記ア(イ)のa及びbと同様の理由により、当業者であっても容易には想到し得ない。 b 相違点6について (a)甲第7号証には、耐食表面処理チェーンにおいて、内プレート及び外プレートの鉄系母材上に還元剤を次亜リン酸塩としたNi-P合金の被膜を形成し、当該Ni-P合金の被膜上にさらに、水系防錆塗料からなる第1塗膜および上塗り塗料からなる第2塗膜を施した甲7技術的事項1が記載されている。 甲7技術的事項1は、本件発明2の「チェーンを構成するプレートの表面近くの領域が、リン酸ニッケルを含むリン酸化合物を用いて加工されている」ことに相当する構成であるといえる。 しかしながら、甲7技術的事項1は、チェーンが腐食雰囲気下で使用されても耐食性が良好である耐食表面処理チェーンを得ることを目的とするものであり(甲第7号証の段落【0001】、【0007】及び【0008】を参照。)、腐食雰囲気下で使用するものではない、甲1発明の「オートバイの動力伝達機構」の「チェーン1」における「内プレート21の外側面21a及び外プレート31の内側面31a」に形成された「DLCコーティング膜2」を、あえて甲7技術的事項1に代える積極的な動機付けはない。 しかも、上記ア(イ)c後段で述べたように、甲1発明は、「内プレート21の外側面21a及び外プレート31の内側面31aにDLCコーティング膜2を形成」することによって、すでに耐摩耗性のみならず、耐食性も備えているといえるから、このような観点からも、甲1発明の「内プレート21の外側面21a及び外プレート31の内側面31a」に形成された「DLCコーティング膜2」に代えて、耐食性及び耐摩耗性を有する甲7技術的事項2を適用する動機付けはない。 したがって、相違点6に係る本件発明2の構成となすことは、甲1発明及び甲第7号証に記載の技術的事項に基いて当業者にとって容易であったということはできない。 (b)この点に関し、特許異議申立人は特許異議申立書において、「甲第7号証には、ローラチェーン10の内プレート11及び外プレート13の鉄系母材表面にNi-P合金皮膜24を形成されることが記載されており、「前記プレートの材料は、前記プレートの表面の近くの領域が、リン酸ニッケルを含むリン酸化合物を用いて加工され、ダイヤモンド状炭素で形成されていない」ことは、甲第7号証に記載されている事項である。上記Ni-P合金皮膜24を形成することは、プレートの材料の表面の近くの領域を、リン酸ニッケルを含むリン酸化合物を用いて加工することに相当し、また、甲第7号証に記載されたものは、ローラチェーンに用いられるものであり、甲1発明と技術分野を同一にしている。更に、甲第1号証には、段落【0006】において、「内プレート、ブッシュ、外プレート、ピンの少なくとも一つが持つ摺接部の表面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜を形成した」と記載されており、内プレート及び外プレートにDLCコーティング膜を形成しなくとも良い旨の示唆がある。また、甲1発明には、段落【0026】に「ワー3の表面にニッケルメッキ層61を形成し」と記載されており、ワーク3の表面にニッケルを主体とした被膜を形成する旨の示唆がある。従って、甲1発明の内プレート及び外プレートにDLCコーティング膜を形成しないと共に、これらプレートの表面に、耐食性及び外観品位を考慮して、甲第7号証のNi-P合金皮膜24を適用することは、容易に想到し得るものである。」と主張する(第34頁第25行~第35頁第17行)。 しかしながら、チェーンが腐食雰囲気下で使用されても耐食性を良好とするために、チェーンの内プレート及び外プレートの鉄系母材上に還元剤を次亜リン酸塩としたNi-P合金の被膜を形成し、当該Ni-P合金の被膜上にさらに、水系防錆塗料からなる第1塗膜および上塗り塗料からなる第2塗膜を施すという甲7技術的事項1を、腐食雰囲気下で使用するとはいえない、甲1発明に適用する積極的な動機付けがないことは上記(a)で述べたとおりである。 また、上記ア(イ)c(a)で述べたように、甲第1号証の段落【0026】の「ワーク3の表面にニッケルメッキ層61を形成し」との記載は、ワーク3の表面にDLCコーティング膜2を形成する前処理としてニッケルメッキ層61が形成される場合のことをいうのであって、ワーク3の表面にDLCコーティング膜2を形成しない場合にもワーク3の表面にニッケルメッキ層61を形成することを開示ないし示唆するものではない。また、ワーク3の表面にDLCコーティング膜2を形成しない場合にもワーク3の表面にニッケルメッキ層61を形成することが当業者にとって周知・慣用であるとの証拠もない。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 c 以上のとおりであるから、その余の相違点2及び4と同様の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲第1号証に記載の発明、及び甲第2号証~甲第7号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明3~9について 本件発明3は本件発明1を、本件発明4及び5は本件発明1又は本件発明2をさらに限定したものである。そうすると、本件発明3~5は、上記ア(イ)又はイ(イ)と同様の理由により甲第1号証に記載の発明、及び甲第2号証~甲第7号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、本件発明6~8は、本件発明1又は本件発明2をさらに限定したものである。ここで、甲第8号証は、上記ア(ア)の相違点1、3、5及び6について示唆するものでない。そうすると、本件発明6~8は、記ア(イ)又はイ(イ)と同様の理由により甲第1号証に記載の発明、及び甲第2号証~甲第8号証に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 特許法第36条第6号第2項について 本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2には、発明特定事項として「前記ブッシングの外面及び前記ローラの外面は、純粋なta-Cコーティングで被覆され」と特定されている。 ここで、ta-Cコーティングが水素フリーのDLC皮膜であり、PVDの一種である、アークイオンプレーティング法又はレーザアブレーション法によって形成されるものであり、その他の成膜方法(例、炭素以外の元素をDLC皮膜に含む成膜方法であるプラズマCVDなどの成膜方法)によっては形成されないことが出願当時の当業者における技術常識であったといえる。 かかる出願当時の当業者における技術常識を踏まえれば、請求項1及び2に記載の「前記コーティングは、製造工程において前記PVDを用いて形成され」という製造方法の記載によって、物のどのような構造若しくは特性(すなわち、コーティングが純粋なta-Cコーティングであるということ)を表しているのかが明らかであるといえる。 したがって、請求項1及び2における物の製造方法の記載は形式的なものにとどまり、請求項1及び2に係る発明は不明確であるとはいえない(最二小判平成 27年6月5日(平成24年(受)1204号、同2658号・民集69巻第4号700頁、同904頁)「プラバスタチンナトリウム事件」判決を参照)。 よって、特許異議申立人の特許法第36条第6項第2号に関する上記主張は採用することができない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700369

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