特許異議申立
2022-700919
制振建物
- 審判番号
- 2022-700919
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-241437
- 登録番号
- 7094870
- 請求日
- 2022年09月20日
- 審決日
- 2023年03月20日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社竹中工務店
- 【権利者代理人】宮地 正浩
- 【異議申立人】出川 栄一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 居島 一仁
- 審判官 土屋 真理子
- 審判官 藤脇 昌也
- 分類
- P1652.121-Y (E04H) / P1652.537-Y (E04H)
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7094870号発明「制振建物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7094870号の請求項1、4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7094870号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成30年12月25日に出願され、令和4年6月24日にその特許権の設定登録がされ、同年7月4日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1及び4に係る特許に対し、同年9月20日に特許異議申立人 出川 栄一郎(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
特許第7094870号の請求項1及び4に係る発明(以下、請求項番号により「本件発明1」及び「本件発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
主架構の上下方向に延びる内部空間に、前記主架構とは振動特性が異なる内部構造部が減衰装置を介して前記主架構に接続された制振構造部が設けられている制振建物であって、
前記内部空間が、前記主架構の上下中間部に備えられた水平構造部により前記主架構の複数階に亘る高さ範囲の複数の分割内部空間に分割され、それら複数の前記分割内部空間の夫々に前記制振構造部が設けられ、
前記内部構造部が、前記分割内部空間において、上下方向の一方側が前記主架構に固定され、且つ、上下方向の他方側が前記減衰装置を介して前記主架構の前記水平構造部に接続され、
前記内部構造部は、前記主架構よりも高い剛性に構成され、想定震度を超える地震動が作用した場合に、前記主架構を内部から支える心棒として機能し、前記内部構造部において前記減衰装置を介して前記主架構の前記水平構造部に接続された上下方向の他方側が、前記主架構の内部空間周りの区画壁に接触することで、前記主架構のそれ以上の撓み変形を抑制して前記主架構が倒壊することを阻止する制振建物。」
「【請求項4】
前記制振構造部として、上方側が前記主架構に固定された前記内部構造部としての上方側内部構造部と、下方側が前記主架構に固定された前記内部構造部としての下方側内部構造部とが、前記減衰装置にて接続された第3制振構造部が設けられている請求項1~3のいずれか1項に記載の制振建物。」
第3 申立理由の概要
申立人が特許異議申立書(以下「申立書」という。)において主張する申立理由は、概略次のとおりである。
1 申立理由1(進歩性)
(1)本件発明1は、甲第1号証の実施例3に記載された発明、甲第1号証に記載された技術及び甲第2号証ないし甲第5号証に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)本件発明4は、甲第1号証の実施例3に記載された発明、甲第1号証に記載された技術、甲第2号証ないし甲第5号証に示される周知技術及び甲第6号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明4に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、本件発明1及び4に係る特許は、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。(申立書第7~18頁)
2 申立理由2(明確性)
本件発明1を引用する本件発明4において、「内部構造部」としての「上方側内部構造部」及び「下方側内部構造部」はいずれも、減衰装置を介して主架構の水平構造部に接続する構成を有していない。
してみると、制振構造部としての第3制振構造部は、「内部構造部」としての「上方側内部構造部」及び「下方側内部構造部」を、どのようにして減衰装置を介して主架構の水平構造部に接続するのか、その構造が不明である。
よって、本件発明4に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(申立書第18頁)。
第4 証拠について
1 証拠一覧
申立人が申立書に添付して提出した証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2003-138783号公報
甲第2号証:実願平1-127421号
(実開平3-74757号)のマイクロフィルム
甲第3号証:実願昭62-117142号
(実開昭64-24266号)のマイクロフィルム
甲第4号証:大山瑞穂外1名、伝統的木造五重塔の振動特性に関する研究
その1 歴史地震による被災状況、
日本建築学会学術講演梗概集、2002年8月、
一般社団法人 日本建築学会、249~250頁
甲第5号証:特開2015-31027号公報
甲第6号証:特開2006-299677号公報
(以下、各甲号証をその番号により「甲1」等と呼ぶことがある。)
2 各証拠の記載
(1)甲1
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、制振作用を有する構造物に関する。
【0002】
【従来の技術】建築物の耐震性を向上させるために免震装置を設置し、建築物の固有振動周期を長周期化して建物に作用する地震力を低減させることがおこなわれている。また、動的に地震による建築物の振動を抑制するものとしては、建築物の振動方向を検知し、振動方向と逆の力を建物に与え、地震による影響を減少させる制振装置が提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】建築物に制振装置を設置すると、制振装置がかなりの空間を占有し、利用できない空間が多くなるという問題があった。本発明は、高層建築物にも適用でき、特定の構造形式にとらわれることなく、鉄筋コンクリート構造や鋼構造、さらには木造建築物にも適用できるシンプルな構造であって、低コストで構築することができる制振構造物を提供するものである。さらに、制振装置が占めるスペースを他用途にも利用できるようにし、スペースを有効利用できるようにするものである。」
(イ)「【0004】
【課題を解決するための手段】剛性体の頂部が構造物の構造部材に固定してあり、剛性体の基部は固定されておらずフリーな状態で移動可能であり、剛性体が揺動するように取り付けてあり、建物と剛性体の固有振動周期を異ならせることにより、建物に作用する地震力を減衰させる制振構造物である。
【0005】地震力が建物に作用して建物が振動すると、剛性体1もそれに伴って振動を開始するが、剛性体1は建物とは異なる固有振動周期を有しており、また、剛性体1の基部はフリーな状態であるので、建物の振動とは同調せずに建物とは逆方向に振動し、結果的に建物の振動を抑制することになり、地震動に対して建物の安全性が確保されるのである。
【0006】剛性体は、鋼やコンクリート充填鋼管構造(CFT)などの剛性が大きく、ある程度の重量を有するものであればよく、材質を特に限定するものではなく、木製であってもよい。また、断面形状は正方形、円形、楕円など適宜にデザインすることが可能である。剛性体の建築物平面における設置位置は、建物の幾何学的重心に配設するのが好ましいが、この場所に限定されるものでなく、建築物のプランや構造型式に応じて最適な位置に設置する。
【0007】また、剛性体1は、基本的に基礎または1階の床面から建物頂部までの高さを有するものであるが、地下階がある場合は剛性体1を地下階にまで延ばしてもよく、また、地上面の床面までとしてもよい。さらに、建物頂部から途中の階の床面までの長さとすることもできるのであり、剛性体1の固有振動周期や重量及び建物の固有振動周期を考慮して剛性体1の長さを設計する。
【0008】剛性体1を基礎面または床面に設けた滑り支承やローラ支承の可動支承で支持することによって、剛性体の基部をフリーとする。剛性体1の振動の振幅が大きくなって剛性体が建物本体に衝突するのを防止するのと振動を速やかに減衰させるためにダンパーや移動拘束体を設置する。」
(ウ)「【0009】
【実施例】実施例1
図1~図2に示す建築物は、ツーバイフォー工法の3階建ての木造建築物である。建築物の平面は長方形であり、剛性体1は、図1に示すように短辺の中央に位置するように設置してある。長辺方向は、図2の平面図に示すように、間取りの関係から中央よりずれた位置に設置してあるが制振効果において差異は生じることはない。剛性体1は、基礎4から屋根まで延びる壁12で囲まれたほぼ正方形の空間内に設置されている。
【0010】剛性体1は、鋼板を溶接して箱体としたものであり、適宜の間隔で水平な補強板10が設置してあり、剛性体1を補強すると共に仕切板として剛性体1内部に複数のスペースを形成するものである。実施例においては剛性体の断面形状は矩形であるが、断面円形の鋼管などを使用してもよく、他の断面形状にしても制振性能について異なるところはない。
【0011】剛性体1の頂部11は、建築物の小屋部にボルトで固定してある。基部は建築物の基礎面に滑り支承2を介して設置してありフリーの状態であり、剛性体1は、頂部を支点として振動(揺動)可能である。また、固定手段のボルトに代えて剛性体1の頂部中心位置に鋳鋼製の球座を有するジョイントを設け、このジョイントにより建物に対して全方向に揺動可能に固定してもよい。
【0012】剛性体1の基部近傍には剛性体の振動(揺動)を減衰させるためのダンパー部材3が剛性体と基礎4との間に介在させてあり、地震時に剛性体1の振動を抑制し、建築物の振動を効果的に減衰させる。ダンパー部材3は、油圧シリンダーからなるものである。このダンパー部材3は、剛性体1の基部だけでなく、高さ方向に複数設置してもよい。剛性体1と剛性体1を収納する空間を区画する壁12との間にダンパー部材3を複数設け、地震時における剛性体1の振動を複数のダンパー部材3で抑制して減衰させる。
【0013】図3に示すように、地震時には、剛性体1の基部が滑り支承2で支持されているので頂部11の固定部を支点として振り子のように建築物の固有振動周期とは異なる周期で振動し、建築物の振動を抑制する。」
(エ)「【0015】実施例3
図5は、実施例1及び2と異なり、剛性体1が連続したものでなく、各階毎に独立したものである。3階部分の剛性体1の頂部11は小屋部に固定してあり、基部は3階の床に滑り支承2で支持され、基部はダンパー部材3で構造部材に連結してある。2階部分の剛性体1の基部は2階の床に固定してあり、頂部はフリーにしてあり、ダンパー部材3を介して構造部材に連結してある。1階部分の剛性体1は、基礎4面に滑り支承2で移動可能に支持され、頂部は2階の床に固定してある。」
(オ)図1及び図3は、以下のとおり。
[図:0001396294000001.jpg]
(カ)図5は、以下のとおり、
[図:0001396294000002.jpg]
(キ)上記(ウ)及び(エ)の記載を踏まえると、図5からは、各階の剛性体1は、基礎4から屋根まで延びる壁12で囲まれた、平面図でみてほぼ正方形の空間が3階の床と2階の床で仕切られた各階の空間内に設置され、3階部分の剛性体1及び2階部分の剛性体1はダンパー部材3を介して縦方向に設けられた構造部材である壁12に連結してあり、1階部分の剛性体1の基部はダンパー部材3を介して基礎4の側面との間に連結してあることが看取される。
イ 甲1発明
実施例3に着目すると、上記アから、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「剛性体の頂部が構造物の構造部材に固定してあり、剛性体の基部は固定されておらずフリーな状態で移動可能であり、剛性体が揺動するように取り付けてあり、建物と剛性体の固有振動周期を異ならせることにより、建物に作用する地震力を減衰させる制振構造物であって、
剛性体1を基礎面または床面に設けた滑り支承やローラ支承の可動支承で支持することによって、剛性体の基部をフリーとし、剛性体1の振動の振幅が大きくなって剛性体が建物本体に衝突するのを防止するのと振動を速やかに減衰させるためにダンパーや移動拘束体を設置するものであり、
剛性体1は、各階毎に独立したものであって、
3階部分の剛性体1の頂部11は小屋部に固定してあり、基部は3階の床に滑り支承2で支持され、基部はダンパー部材3で構造部材に連結してあり、
2階部分の剛性体1の基部は2階の床に固定してあり、頂部はフリーにしてあり、ダンパー部材3を介して構造部材に連結してあり、
1階部分の剛性体1は、基礎4面に滑り支承2で移動可能に支持され、頂部は2階の床に固定してあり、
各階の剛性体1は、基礎4から屋根まで延びる壁12で囲まれた、平面図でみてほぼ正方形の空間が3階の床と2階の床で仕切られた各階の空間内に設置され、3階部分の剛性体1及び2階部分の剛性体1はダンパー部材3を介して縦方向に設けられた構造部材である壁12に連結してあり、1階部分の剛性体1の基部はダンパー部材3を介して基礎4の側面に連結してある、制振構造物。」
(2)甲4
ア 甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
(ア)「伝統的木質構造で建てられた五重塔が優れた耐震性を有する可能性は以前から指摘されているが、これは大規模な木造層塔の地震による具体的な倒壊記録が存在しないためである。・・・」
(第249頁左欄「1.研究の背景と目的」)
(イ)「・・・図5は『日本書紀』以降の歴史地震の記録から木質構造層塔の被害を拾い出し、記述内容を4種類に分類したものである。35%が相輪(図2)付近の被害である。また、相輪に被害があった場合にも塔身には被害がない場合が確認されている。」
(第249頁右欄~第250頁左欄「5.被害の内容」)
(ウ)「6.要因分析
・・・
被害を受けた五重塔の特徴として以下が挙げられる。
・・・
・塔身の構法は四天柱のみ長柱構法である割合は40%と全体の20%あまりに比べてほぼ2倍である。
・心柱の構法で懸垂式の2基は被害を受けていない。
・・・
・柱の細長比が各重で等しい3基は被害がなかった。」
(第250頁左欄「6.要因分析」)
(エ)「7.考察
被害の内容:相輪及びその周辺の被害が顕著である。これは地震時に塔身と心柱が独立に振動するため、心柱が相輪の根元部分で塔身に当たることによる被害であると考えられる。」
(第250頁左欄「7.考察 被害の内容」)
(3)甲5
ア 甲5の記載事項
甲5には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、制振建物及び制振方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連結制振構造を適用した制振建物として、内部に鉛直方向に延びるボイド空間を有する外部建物と、ボイド空間内に外部建物と間隔を空けて設けられた内部建物とを制振ダンパーで連結したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の制振建物では、内部建物が外部建物よりも高剛性とされており、これらが地震時に互いに異なる振動モードで振動することにより、制振ダンパーによって振動エネルギーが吸収される。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、従前の想定を越える極大地震(断層近傍強震動等)が指摘されているが、この極大地震の発生時に、制振ダンパーが、許容量を超える長さだけ収縮又は伸長して損壊することを防止する必要がある。そのためには、制振ダンパーのストローク長を従前より大きく設定することが考えられるが、外部建物と内部建物との間隔を従前よりも大きくしなければならず、建築計画に支障が生じることになり、経済的にもデメリットが生じることになる。また、制振ダンパーが大型化するため、高コストになる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、制振建物を極大地震に対応可能にするにあたり、建築計画に支障が生じないようにすると共に、制振ダンパーのコストの増大を抑制することを課題とするものである。
・・・
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、制振建物を極大地震に対応可能にするにあたり、建築計画に支障が生じないようにすると共に、制振ダンパーのコストの増大を抑制することができる。」
(イ)「【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、一実施形態に係る制振建物10を示す立断面図であり、図2は、制振ダンパー40の設置階の平断面図である。これらの図に示すように、制振建物10は、内部に上下方向に延びるボイド空間12が形成された外部建物20と、ボイド空間12内に設けられた内部建物30と、外部建物20と内部建物30とを連結する複数の制振ダンパー40とを備えている。
【0013】
ボイド空間12は、平面視で矩形状に形成され、そのボイド空間12に平面視で矩形状の内部建物30が設けられており、外部建物20の内周側の壁20Aと内部建物30の外壁30Aとが間隔を空けて対面している。制振ダンパー40は、複数階(高さ方向の複数位置)に設置されており、各設置階には複数の制振ダンパー40が設置されている。この制振ダンパー40は、油圧ダンパーであり、伸縮して振動エネルギーを吸収する。
【0014】
外部建物20は、鉄骨造、鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造等の建物である。また、内部建物30は、鉄骨造、鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造等の建物であり、外部建物20よりも高剛性に構築されている。このため、内部建物30は、外部建物20に比して固有周期が短くなっており、制振建物10に地震等による外力が作用した場合には、内部建物30と外部建物20とは異なる振動モードで振動する。
【0015】
また、外部建物20と内部建物30とは、所定の剛性・耐力等の性状が得られるように設計されており、外部建物20と内部建物30とが衝突した際に、該衝突による制振建物10の応答特性及び制振建物10に入力する地震力を把握することができる。
【0016】
なお、本実施形態に係る制振建物10では、外部建物20と内部建物30とが下層階で一体化されており、ボイド空間12は、それよりも上方に設けられているが、外部建物20と内部建物30とを下層階で一体化せずに、ボイド空間12を1階もしくは地下階から上層階まで設けてもよい。
【0017】
図2に示すように、ボイド空間12は、平面視で、図中上下方向が長辺、図中左右方向が短辺の長方形であり、外部建物20の内周の図中左右方向に対向する壁20Aは、図中上下方向に対向する壁20Bよりも幅が広くなっている。また、内部建物30の図中左右の外壁30Aは、図中上下の外壁30Bよりも幅が広くなっている。
【0018】
制振ダンパー40の設置階では、壁20Aと外壁30Aとの間に一対の制振ダンパー40が配され、壁20Bと外壁30Bとの隙間に一対の制振ダンパー40が配されている。壁20A、20Bの幅方向中央部には、一対の制振ダンパー40の一端を取り付けるための基礎22が設けられ、外壁30A、30Bの幅方向両端部には、一対の制振ダンパー40の他端を取り付けるための基礎32が設けられている。
【0019】
基礎22は、外部建物20のスラブ21の一部が、ボイド空間12側へ突出した平面視で長方形状の凸部であり、基礎22の突出方向に対して直交する方向の側部22Aに、制振ダンパー40の一端が取り付けられている。また、基礎32は、内部建物30の図中左右の外壁30Aの幅方向両端にボイド空間12側へ突出するように設けられた凸部であり、基礎32の突出方向に対して直交する方向の側部32Aに、制振ダンパー40の他端が取り付けられている。また、制振ダンパー40の一端は、ヒンジ42を介して基礎22の側部22Aに回動可能に取り付けられ、制振ダンパー40の他端は、ヒンジ44を介して基礎32の側部32Aに回動可能に取り付けられている。
【0020】
ここで、互いに対面する壁20Aと外壁30A、壁20Bと外壁30Bとの壁面同士の間隔は、所定間隔D1であり、基礎22と外壁30A、基礎22と外壁30Bの間隔は、所定間隔D2(<D1)である。なお、基礎32と外壁30A、基礎32と壁20Bの間隔は、所定間隔D3(>D2,<D1)である。それに対して、図中左右方向に対面する壁20Aと外壁30Aとの間の制振ダンパー40は、図中上下方向への伸長ストローク量および収縮ストローク量が最大でS(>D2)であり、図中上下方向に対面する外壁20Bと外壁30Bとの間の制振ダンパー40は、図中左右方向の伸長ストローク量および収縮ストローク量が最大でS(>D2)である。
【0021】
また、基礎22と外壁30A、基礎22と外壁30Bの間隔D2は、極大地震よりも小さい通常想定される地震・風で生じる外部建物20と内部建物30との水平方向への相対変位量を上回るが、極大地震で生じる外部建物20と内部建物30との水平方向への相対変位量は下回るように設定されている。」
(ウ)「【0027】
以上説明したように、本実施形態に係る制振建物10は、内部に上下方向に延びるボイド空間12が形成された外部建物20と、ボイド空間12に外部建物20と間隔を空けて設けられた内部建物30と、外部建物20と内部建物30との間に伸縮可能に配され、外部建物20と内部建物30とを連結する制振ダンパー40とを備える。ここで、制振ダンパー40の設置階における周方向の4箇所において、外部建物20と内部建物30との間隔が、該間隔が広くなったり狭くなったりする方向(壁20Aに対して直交する水平方向)についての制振ダンパー40の収縮又は伸長の最大ストローク量よりも狭く設定されている。これによって、極大地震発生時に、制振ダンパー40の収縮又は伸長のストローク量が最大量S未満の状態で、外部建物20と内部建物30とが衝突する。
【0028】
従って、極大地震発生時に、制振ダンパー40が許容量を超える長さだけ収縮又は伸長して損壊することを防止できる。これにより、制振ダンパー40のストローク長を従前と同様に設定でき、外部建物20と内部建物30との間隔D1を従前と同様に設定できるため、建築計画に支障が生じることがなく、経済的にもデメリットは生じない。また、制振ダンパー40の大型化によるコストの増加を防止できる。
【0029】
また、制振ダンパー40の設置階において、外部建物20に、内部建物30の側に突出する凸部である基礎22が設けられ、該基礎22と内部建物30の外壁30A、30Bとの間隔D2が、該間隔D2が広狭する方向についての制振ダンパー40の収縮又は伸長の最大ストローク量Sよりも狭く設定されている。これによって、極大地震発生時に、外部建物20の基礎22と内部建物30とを衝突させて、制振ダンパー40の収縮又は伸長のストローク量を最大量S未満に抑えることができる。」
(エ)「【0034】
なお、上述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、上述の実施形態では、外部建物20の内周側の壁20Aに凸部である基礎22を設けたが、内部建物30の外壁30Aに凸部を設けて、この凸部と外部建物20の壁20Aとの間隔を、制振ダンパー40の収縮又は伸長の最大ストローク量未満としてもよい。また、凸部を制振ダンパー40の基礎22としたが、基礎22とは別に凸部を設けてもよい。」
第5 申立理由1(進歩性)についての当審の判断
1 本件発明1
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「建物」は、本件発明1の「主架構」に相当し、同様に、甲1発明の「建物」に設けられた「基礎から屋根まで延びる壁で囲まれた、平面視でみてほぼ正方形の空間」は、本件発明1の「主架構の上下方向に延びる内部空間」に、甲1発明の「基礎から屋根まで延びる壁で囲まれた、平面視でみてほぼ正方形の空間」に「設置」される、「建物」と「固有振動周期を異ならせ」た「剛性体」は、本件発明1の「前記主架構とは振動特性が異なる内部構造部」に、甲1発明の「制振構造物」は、本件発明1の「制振建物」に、それぞれ相当する。
イ 甲1発明の「剛性体の振動の振幅が大きくなって剛性体が建物本体に衝突するのを防止するのと振動を速やかに減衰させるため」の「ダンパー」ないし「ダンパー部材」は本件発明1の「減衰装置」に相当し、甲1発明の「剛性体」が「ダンパー部材を介して縦方向に設けられた構造部材である壁に連結」された部分は、上記アの対比も踏まえると、本件発明1の「内部構造部が減衰装置を介して前記主架構に接続された制振構造部」に相当する。
ウ 本件発明1の「前記内部空間が、前記主架構の上下中間部に備えられた水平構造部により前記主架構の複数階に亘る高さ範囲の複数の分割内部空間に分割され、それら複数の前記分割内部空間の夫々に前記制振構造部が設けられ」ることと、甲1発明の「基礎から屋根まで延びる壁で囲まれた、平面図でみてほぼ正方形の空間が3階の床と2階の床で仕切られ」、「各階の剛性体」が「仕切られた各階の空間内に設置され」、「3階部分の剛性体」及び「2階部分の剛性体」は「ダンパー部材を介して縦方向に設けられた構造部材である壁に連結」してあり、「1階部分の剛性体1」は「ダンパー部材を介して基礎の側面に連結してある」こととは、「前記内部空間が、前記主架構の上下中間部に備えられた水平構造部により複数の分割内部空間に分割され、それら複数の前記分割内部空間の夫々に前記制振構造部が設けられ」る点で共通する。
エ 本件発明1の「前記内部構造部が、前記分割内部空間において、上下方向の一方側が前記主架構に固定され、且つ、上下方向の他方側が前記減衰装置を介して前記主架構の前記水平構造部に接続され」ることと、甲1発明の「3階部分の剛性体の頂部は小屋部に固定してあり」、「基部」は「ダンパー部材」を介して「構造部材である壁」に連結してあり」、「2階部分の剛性体の基部は2階の床に固定してあり」、「頂部」は「ダンパー部材」を介して「構造部材である壁」に連結してあり」、「1階部分の剛性体」は、「頂部は2階の床に固定してあり」、「基部はダンパー部材を介して基礎の側面に連結してある」こととは、「前記内部構造部が、前記分割内部空間において、上下方向の一方側が前記主架構に固定され、且つ、上下方向の他方側が前記減衰装置を介して前記主架構の前記構造部に接続され」る点で共通する。
オ 甲1発明の「建物」の「基礎から屋根まで延びる壁で囲まれた、平面図でみてほぼ正方形の空間」に「設置」される、「建物」と「固有振動周期を異ならせ」た「剛性体」は、「剛性体」との呼称から「建物」より高い剛性であることは明らかである。そうすると、本件発明1の「前記内部構造部は、前記主架構よりも高い剛性に構成され、想定震度を超える地震動が作用した場合に、前記主架構を内部から支える心棒として機能し、前記内部構造部において前記減衰装置を介して前記主架構の前記水平構造部に接続された上下方向の他方側が、前記主架構の内部空間周りの区画壁に接触することで、前記主架構のそれ以上の撓み変形を抑制して前記主架構が倒壊することを阻止する」ことと、引用発明1の「剛性体」は、「基礎4から屋根まで延びる壁12で囲まれた、平面図でみてほぼ正方形の空間」に「設置され」ることとは、「前記内部構造部は、前記主架構よりも高い剛性に構成され」る点で共通する。
カ 上記アないしオの対比を総合すると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
主架構の上下方向に延びる内部空間に、前記主架構とは振動特性が異なる内部構造部が減衰装置を介して前記主架構に接続された制振構造部が設けられている制振建物であって、
前記内部空間が、前記主架構の上下中間部に備えられた水平構造部により複数の分割内部空間に分割され、それら複数の前記分割内部空間の夫々に前記制振構造部が設けられ、
前記内部構造部が、前記分割内部空間において、上下方向の一方側が前記主架構に固定され、且つ、上下方向の他方側が前記減衰装置を介して前記主架構の前記構造部に接続され、
前記内部構造部は、前記主架構よりも高い剛性に構成される制振建物。
(相違点1)
主架構の複数の分割内部空間が、本件発明1は、「主架構の複数階に亘る高さ範囲」であるのに対し、甲1発明は「各階」、すなわち、主架構の1階分の高さである点。
(相違点2)
内部構造部が、本件発明1は減衰装置を介して主架構の「水平構造部」に接続され、「想定震度を超える地震動が作用した場合に、前記主架構を内部から支える心棒として機能し、前記内部構造部において前記減衰装置を介して前記主架構の前記水平構造部に接続された上下方向の他方側が、前記主架構の内部空間周りの区画壁に接触することで、前記主架構のそれ以上の撓み変形を抑制して前記主架構が倒壊することを阻止する」と特定されるのに対し、甲1発明は、接続されるのが「構造部材である壁」及び「基礎の側面」という垂直構造部であって「水平構造部」ではなく、また、「想定震度を超える地震動が作用した場合に、前記主架構を内部から支える心棒として機能し、前記内部構造部において前記減衰装置を介して前記主架構の前記水平構造部に接続された上下方向の他方側が、前記主架構の内部空間周りの区画壁に接触することで、前記主架構のそれ以上の撓み変形を抑制して前記主架構が倒壊することを阻止する」ものでもない点。
(2)判断
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
ア 「前記内部構造部において前記減衰装置を介して前記主架構の前記水平構造部に接続された上下方向の他方側が、前記主架構の内部空間周りの区画壁に接触することで、前記主架構のそれ以上の撓み変形を抑制して前記主架構が倒壊することを阻止する」ことは、申立人の提出した証拠のいずれにも記載されていない。
イ 甲4には、伝統的木造五重塔の振動特性についての考察が記載されているが、五重塔の心柱は、減衰装置を介して主架構に接続されたものではない。
また、甲4には、「地震時に塔身と心柱が独立に振動するため、心柱が相輪の根元部分で塔身に当たる」との記載があり、仮に、当該記載から甲4の「心柱」及び「塔身」が本件発明1の「内部構造部」及び「主架構」と共通する要素であり、それらが地震動により「接触する」ことが理解できるとしても、甲4において、「地震時に塔身と心柱が独立に振動するため、心柱が相輪の根元部分で塔身に当たる」ことは、「相輪及びその周辺の被害が顕著である」ことの原因として考察されたことを記載したに過ぎず、「接触することで、前記主架構のそれ以上の撓み変形を抑制して前記主架構が倒壊することを阻止する」技術について記載ないし示唆されるものではない。
ウ 甲5に記載された制振建物10は、制振ダンパー40を備え、極大地震発生時に、外部建物20の基礎22と内部建物30とを衝突させるものではあるが、「制振ダンパー40」は「高さ方向の複数位置」に設置されるものであって、「上下方向の一方側が主架構に固定される他方側において主架構に固定される」ものではない。そうすると、甲5は、「想定震度を超える地震動が作用した場合」に、「前記内部構造部において前記減衰装置を介して前記主架構の前記水平構造部に接続された上下方向の他方側が、前記主架構の内部空間周りの区画壁に接触することで、前記主架構のそれ以上の撓み変形を抑制して前記主架構が倒壊することを阻止する」ことについて記載ないし示唆するものではない。
エ 申立人は、申立書において内部構造物の固定されていない他端側を、主架構の内部空間周りの区画壁に接触させて、主架構の倒壊を阻止することは、甲4や甲5に示される従来周知の技術であると主張する(申立書第17頁第4~7行)が、上記イ及びウにおいて検討したように、甲4及び甲5には、内部構造物の固定されていない他端側を、主架構の内部空間周りの区画壁に接触させて、主架構の倒壊を阻止することについて記載も示唆もなく、当該事項が周知技術であるともいえない。
オ 申立人が提出した甲2、甲3は、制振装置を水平構造部に接続することが周知技術であることを示す証拠であり、また、甲6は、本件発明4の構成に関し、上側内部構造部と下側内部構造部とを減衰装置にて接続することに関する証拠であり、いずれの証拠にも、「前記内部構造部において前記減衰装置を介して前記主架構の前記水平構造部に接続された上下方向の他方側が、前記主架構の内部空間周りの区画壁に接触することで、前記主架構のそれ以上の撓み変形を抑制して前記主架構が倒壊することを阻止する」ことについて記載も示唆もない。
カ よって、相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者といえども、甲1発明及び甲2ないし甲6に記載された事項ないし周知技術から容易になし得たものではない。
(3)小括
以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし甲6に記載された事項ないし周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本件発明4
本件発明4は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えたものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲第2ないし6号証に記載された事項ないし周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 申立理由2(明確性)についての当審の判断
請求項4に記載される「前記制振構造部として、上方側が前記主架構に固定された前記内部構造部としての上方側内部構造部と、下方側が前記主架構に固定された前記内部構造部としての下方側内部構造部とが、前記減衰装置にて接続された第3制振構造部が設けられている」から、請求項4の制振建物は、内部構造部として、上方側が主架構に固定された上方側内部構造部と、下方側が主架構に固定された下方側内部構造部とを備える。
そして、上方側内部構造部は、下方側内部構造物を介して間接的に主架構の水平構造部に接続され、下方側内部構造部は、上方側内部構造物を介して間接的に主架構の水平構造部に接続されていると理解できる。
このような理解は、本件明細書段落【0007】の「本構成によれば、内部構造部が、分割内部空間において、上下方向の一方側が主架構に固定され、且つ、上下方向の他方側が減衰装置を介して直接的又は間接的(他の内部構造部を更に介する等)に主架構の水平構造部に接続されているので、水平構造部にて分割された分割内部空間の全高を有効に活用して制振構造部を構成することができ、制振構造部に高い制振作用を発揮させて高層の主架構の振動制御を効率的に行うことができる。」との説明とも整合する。
よって、請求項1を引用する請求項4は、発明が明確である。
第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1及び4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700919