特許異議申立
2024-701097
座屈拘束ブレース
- 審判番号
- 2024-701097
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-025278
- 登録番号
- 7482277
- 請求日
- 2024年11月12日
- 審決日
- 2026年06月05日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日鉄エンジニアリング株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】大浪 一徳
- 【権利者代理人】勝俣 智夫
- 【権利者代理人】山口 洋
- 【権利者代理人】堀田 耕一郎
- 【権利者代理人】山口 健吾
- 【権利者代理人】飯田 恭宏
- 【権利者代理人】井口 翔太
- 【異議申立人】高橋 愛佳
- 審判長/審判官
- 審判長 有家 秀郎
- 審判官 西田 秀彦
- 審判官 土屋 真理子
- 分類
- P1652.113-YAA(E04H) / P1652.121-YAA(E04H) / P1652.536-YAA(E04H) / P1652.537-YAA(E04H) / P1652.55 -YAA(E04H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第113条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7482277号発明「座屈拘束ブレース」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7482277号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-20〕について訂正することを認める。
特許第7482277号の請求項1~12及び20に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7482277号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~20に係る特許についての出願は、令和5年2月21日に出願され、令和6年5月1日にその特許権の設定登録がされ、同月13日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和6年11月12日に、特許異議申立人 高橋愛佳(以下「申立人」という。)より、特許異議申立書(以下「申立書」という。)が提出され、本件特許の請求項1~12、20に係る特許について、特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立て以降の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和7年 3月24日付け:取消理由通知
同年 5月26日 :特許権者による意見書の提出
令和7年 8月22日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年10月17日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
なお、申立人に対し、令和7年11月7日付けで特許権者より提出された訂正の請求について期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人からは何らの応答もなかった。
第2 訂正の適否
1 令和7年10月17日提出の訂正請求書による訂正の内容
令和7年10月17日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記局部座屈抑制部材の剛性は、前記全体座屈抑制部材の剛性より、高い、
ことを特徴とする座屈拘束ブレース。」とあるのを、
「前記局部座屈抑制部材の剛性は、前記全体座屈抑制部材の剛性より、高く、
前記局部座屈抑制部材は、締結部材により、前記芯材の両側面であって前記芯材の板厚方向にそれぞれ面する両側面のそれぞれに、前記全体座屈抑制部材に用いられる木材を介することなく、固定される、
ことを特徴とする座屈拘束ブレース。」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~20も同様に訂正する。)
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、局部座屈抑制部材の芯材への固定に関し、訂正前の請求項1においては特定されていなかったものを、「前記局部座屈抑制部材は、締結部材により、前記芯材の両側面であって前記芯材の板厚方向にそれぞれ面する両側面のそれぞれに、前記全体座屈抑制部材に用いられる木材を介することなく、固定される」と特定して限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする。
(2)新規事項の有無
「前記局部座屈抑制部材は、締結部材により、前記芯材の両側面であって前記芯材の板厚方向にそれぞれ面する両側面のそれぞれに」、「固定される」ことについて、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、特許請求の範囲及び図面と併せて「本件明細書等」という。)の段落【0048】に「局部座屈抑制部材20は、芯材10を覆う。・・・局部座屈抑制部材20は、・・・第1補強材21と、第2補強材22と、円筒状部材23と、を含む。」と記載され、段落【0072】に「第1補強材21及び第2補強材22は、第1締結部材F1によって芯材10の両側面であって芯材10の板厚方向にそれぞれ面する両側面に締結される」と記載される。
また、「前記全体座屈抑制部材に用いられる木材を介することなく、」固定されることについて、本件明細書の段落【0055】に「全体座屈抑制部材30は、芯材10及び局部座屈抑制部材20を覆う。・・・全体座屈抑制部材30は、木材である。言い換えれば、全体座屈抑制部材30は、木製拘束部材31を含む。」と記載され、以下に示す【図4】からは、局部座屈抑制部材20の第1補強材21と第2補強材22とがボルト及びナットを介して芯材10に固定される際に、31の図番号が付された部材、すなわち、「全体座屈抑制部材30」の含む「木製拘束部材31」を介することなくボルト及びナットを介して固定されていることが看取される。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、新規事項を追加するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲においてしたものである。
[図:0001439179000001.jpg]
(3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1に係る訂正は、上記(1)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものには該当しないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)独立特許要件
訂正事項1に係る訂正等により訂正されることとなる訂正後の請求項13~19に係る発明については特許異議の申立てがされておらず、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されるため、以下検討する。
ア 請求項13~19
訂正後の請求項13~19に係る発明は、以下のとおりである。
「【請求項13】
前記第1補強材は、前記第1補強材の端部において、第2締結部材によって前記木製拘束部材に固定される、
ことを特徴とする請求項12に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項14】
前記第2締結部材は、ビスであり、
前記ビスは、前記木製拘束部材に対して斜めに配置される、
ことを特徴とする請求項13に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項15】
前記局部座屈抑制部材は、
前記第1補強材と前記第2補強材との間に配置され、且つ、長手方向が前記板厚方向に沿う円筒状部材、
を含み、
前記第1締結部材は、前記円筒状部材に挿入される、
ことを特徴とする請求項14に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項16】
前記第1補強材の前記板厚方向の厚さと、前記第2補強材の前記板厚方向の厚さと、は、同じである、
ことを特徴とする請求項15に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項17】
前記第2締結部材は、ロングビスである、
ことを特徴とする請求項16に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項18】
アンボンド材、
を更に備え、
前記アンボンド材は、前記第1補強材と前記芯材との間に介在し、且つ、前記第2補強材と前記芯材との間に介在する、
ことを特徴とする請求項17に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項19】
前記芯材と前記木製拘束部材との間の距離は、前記第1補強材及び前記第2補強材が前記芯材と前記木製拘束部材との間に配置されることにより、一定に維持される、
ことを特徴とする請求項18に記載の座屈拘束ブレース。」
イ 請求項13~19についての独立特許要件の判断
訂正後の請求項12は、訂正後の請求項1を直接または間接的に引用するから、訂正後の請求項12を直接または間接的に引用する訂正後の請求項13~19は、訂正後の請求項1の発明特定事項を全て有する。
そして、訂正後の請求項1に係る発明については、下記第5の2において新規性、進歩性について、下記第6において明確性、実施可能要件、サポート要件、新規事項について判断するように、拒絶すべき理由を発見しない。
また、請求項13~19において追加される構成について、他に、拒絶すべき理由を発見しない。
よって、訂正後の請求項13~19に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。
(5)一群の請求項について
訂正前の請求項1~20について、訂正前の請求項2~20は直接又は間接的に請求項1を引用しており、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~20に対応する訂正後の請求項1~20は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
4 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とし、同法120条の5第9項により準用する同法126条5~7項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-20〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~20に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件発明1」等という。また、これらを総称して「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~20に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、特許異議の申立てに係る請求項1~12及び20の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
構造物に取り付けられる座屈拘束ブレースであって、
芯材と、
前記芯材を覆う局部座屈抑制部材と、
前記芯材及び前記局部座屈抑制部材を覆う全体座屈抑制部材と、
を備え、
前記局部座屈抑制部材は、互いに対向する両方向から前記芯材を拘束することで、前記芯材の局部座屈を抑制し、
前記全体座屈抑制部材は、前記芯材の全体座屈を抑制し、
前記局部座屈抑制部材の剛性は、前記全体座屈抑制部材の剛性より、高く、
前記局部座屈抑制部材は、締結部材により、前記芯材の両側面であって前記芯材の板厚方向にそれぞれ面する両側面のそれぞれに、前記全体座屈抑制部材に用いられる木材を介することなく、固定される、
ことを特徴とする座屈拘束ブレース。
【請求項2】
前記芯材と前記局部座屈抑制部材とは、固着されていない、
ことを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項3】
前記芯材の長手方向に沿う長さであって前記局部座屈抑制部材の長さは、前記長手方向に沿う長さであって前記芯材の塑性化部の長さより、長く、
前記芯材は板状に構成され、前記塑性化部の板幅方向の幅は、前記芯材の前記塑性化部以外の部分の板幅方向の幅よりも狭い、
ことを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項4】
前記全体座屈抑制部材は、木材である、
ことを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項5】
前記芯材の長手方向において、前記局部座屈抑制部材の両端は、前記全体座屈抑制部材の両端より内方に位置する、
ことを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項6】
前記芯材の長手方向に沿う長さであって前記局部座屈抑制部材の長さは、前記長手方向に沿う長さであって前記芯材の塑性化部の長さより、長い、
ことを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項7】
前記局部座屈抑制部材の長手方向の両端部には、切欠部が設けられている、
ことを特徴とする請求項6に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項8】
前記局部座屈抑制部材の強度は、前記全体座屈抑制部材の強度より、高い、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項9】
前記局部座屈抑制部材の寸法安定性は、前記全体座屈抑制部材の寸法安定性より、高い、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項10】
前記全体座屈抑制部材は、木材であり、
前記局部座屈抑制部材は、鋼材、モルタル、FRP、又は、前記木材より比強度が高い木材である、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項11】
前記全体座屈抑制部材は、前記芯材の全体座屈のみを抑制する、
ことを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項12】
前記局部座屈抑制部材は、
前記芯材の両側面であって前記芯材の板厚方向にそれぞれ面する両側面のうち一方に配置される第1補強材と、
前記両側面の他方に配置される第2補強材と、
を含み、
前記全体座屈抑制部材は、
前記芯材、前記第1補強材、及び、前記第2補強材の外周を覆う木製拘束部材、
を含み、
前記第1補強材は、第1締結部材によって前記一方に締結され、
前記第2補強材は、前記第1締結部材によって前記他方に締結される、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項20】
前記局部座屈抑制部材は、
前記芯材の両側面であって前記芯材の板厚方向にそれぞれ面する両側面のうち一方に配置される第1補強材と、
前記両側面の他方に配置される第2補強材と、
を含み、
前記第1補強材は、第1締結部材によって前記一方に締結され、
前記第2補強材は、前記第1締結部材によって前記他方に締結され、
前記第1締結部材は、前記全体座屈抑制部材の内部に収容されている、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の座屈拘束ブレース。」
第4 特許異議申立理由、取消理由の概要及び証拠
1 特許異議申立理由について
(1)特許異議申立理由の概要
申立人の主張する特許異議申立理由は、概略以下のとおりである。
ア 申立理由1 明確性要件(特許法36条6項2号)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1並びに請求項1に従属する請求項2~12及び20は、明確性を欠き、特許法36条6項2号の明確性要件に違反している。
イ 申立理由2 実施可能要件(特許法36条4項1号)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1並びに請求項1に従属する2~12及び20について、明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法36条4項1号の実施可能要件に違反している。
ウ 申立理由3 新規性(特許法29条1項3号)
甲第1~3号証は全体として1個の引用発明を記載したものである。本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4、6~10、12及び20は、甲第1~3号証に示される引用発明と同一であるから、新規性を欠き、これらの請求項は、特許法29条1項3号に違反している。
エ 申立理由4 進歩性(特許法29条2項)
本件特許の特許請求の範囲の請求項5に記載されている発明は、甲第1~3号証の全体に記載された引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5の発明は、進歩性を欠き、特許法29条2項に違反している。
オ 申立理由5 サポート要件(特許法36条6項1号)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2、11に記載されている発明は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されていないから、これらの特許は、特許法36条6項1号に違反している。
カ 申立理由6 新規事項(特許法17条の2第3項)
本件特許の特許請求の範囲の請求項2は、令和5年12月5日付けの手続補正書により追加されたものであるが、請求項2に記載の事項は、出願当初の明細書等に記載されていないので、特許法17条の2第3項に違反している。
(2)申立人が提出した証拠
申立人により提出された証拠は、以下のとおりである(以下「甲第1号証」等を「甲1」等という。)。
甲1:小室 翔吾、拘束材に集成材を用いた座屈拘束ブレースの繰返し変形性能と破壊モード-その1、日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道)2022年9月、993~934頁
甲2:Ben Sitler、拘束材に集成材を用いた座屈拘束ブレースの繰返し変形性能と破壊モード-その2、日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道)2022年9月、935~936頁
甲3:倉田 高志、拘束材に集成材を用いた座屈拘束ブレースの繰返し変形性能と破壊モード-その5、日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道)2022年9月、941~942頁
2 取消理由の概要
当審において令和7年8月22日付け取消理由通知書(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
本件特許の請求項1、3~4、6~12、20に係る発明は、甲3に記載された発明であるか、甲3に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これら発明に係る特許は、特許法29条1項、同法29条2項の規定に違反してされたものである。
本件特許の請求項2に係るに係る発明は、甲3に記載された発明及び甲1に記載された技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、この発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
本件特許の請求項5に係るに係る発明は、甲3に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、この発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
よって、本件特許の請求項1~12、20に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由についての当審の判断
1 証拠
事案に鑑み、甲3、甲1、甲2の順にみる。
(1)甲3
ア 甲3に記載された事項
甲3には、次の記載がある(イメージ中の下線は、申立人が付加した。)。
941頁右上
「
[図:0001439179000002.jpg]
」
(イ)941頁左欄1~6行
「
[図:0001439179000003.jpg]
」
(ウ)941頁左欄8~18行
「
[図:0001439179000004.jpg]
」
(エ)942頁左欄20~25行
「
[図:0001439179000005.jpg]
」
(オ)図1
「
[図:0001439179000006.jpg]
」
(カ)図3
「
[図:0001439179000007.jpg]
」
イ 認定事項
上記アより、以下の事項が看取、理解または認定できる(下線は、当審で付した。)。
(ア)図1の(ii)断面Bより、板状の芯材の図中左側に設けた板状部材は、芯材の図中右側に設けた芯材補強鋼板と同様の厚み、幅、色彩で図示されているから、芯材の左側及び右側の板状部材が芯材補強鋼板であることが理解される。
(イ)941頁11~13行の「集成材に座堀を設け、ボルトを埋め込む拘束材形式を採用する」の記載を踏まえると、図1の(ii)断面Bより、2枚の芯材補強鋼板の面外両側に位置し、座堀を設けた2つの集成材をボルトで締め付けるものであることが看取される。そして、図1の(ii)断面Bにおいて板状の芯材の上側及び下側に芯材と略同じ厚みの部材が配置され、下側の部材には引き出し線で「鋼材スペーサー」と示されていることに着目すると、板状の芯材の上側及び下側に芯材と略同じ厚みの鋼材スペーサーが配置され、鋼材スペーサー及び板状の芯材の面外両側に芯材補強鋼板が設けられ、さらに芯材補強鋼板の面外両側に集成材が設けられ、2つの集成材をボルトで締め付けることが理解できる(以下「認定事項1」という。)。
(ウ)941頁左欄9行の「図1に試験体断面詳細と端部詳細図を示す。」の記載より、図1上の図である(i)断面A及び(ii)断面Bが試験体断面図詳細を示し、図1下の図が端部詳細図を示すことが理解できる。
そして、図1の端部詳細図及び図3より、芯材の芯材補強鋼板及び集成材が設けられる部分の幅は、芯材の芯材補強鋼板及び集成材が設けられていない長手方向端部の幅よりも狭いことが看てとれる(以下「認定事項2」という。)。
(エ)図1の端部詳細図、(i)断面A、及び(ii)断面Bより、941頁左欄16~18行の「4体の試験体で拘束材端部での拘束効果を期待し,芯材貫入長に応じて端部補強用ボルトを設けた。」の記載を踏まえると、芯材補強鋼板と集成材の長手方向端部に切り欠きを設けて、芯材補強部が、芯材における芯材補強鋼板と集成材の切り欠きの内部から芯材の長手方向端部まで設けられ、芯材における長手方向反対方向の中間部分側には設けられていないことが看てとれる(以下「認定事項3」という。)。
ウ 甲3発明
上記ア、イより、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲3発明>
「拘束材に集成材を用いた座屈拘束ブレース(木鋼BRB)であって(941頁左欄2~3行)、
試験体構成は脆性的な局部座屈破壊を防止するWpタイプを基準にし面外に芯材補強鋼板を設けており、集成材に座掘を設け、ボルトを埋め込み(941頁左欄9~12行)、
低・中層建築物の耐震用ブレースとして使用可能な性能を保有し(942頁左欄23~24行)、
板状の芯材の上側及び下側に芯材と略同じ厚みの鋼材スペーサーが配置され、鋼材スペーサー及び板状の芯材の面外両側に芯材補強鋼板が設けられ、さらに芯材補強鋼板の面外両側に集成材が設けられ、2つの集成材をボルトで締め付け(認定事項1)、
芯材の芯材補強鋼板及び集成材が設けられる部分の幅は、芯材の芯材補強鋼板及び集成材が設けられていない長手方向端部の幅よりも狭く(認定事項2)、
芯材補強鋼板と集成材の長手方向端部に切り欠きを設けて、芯材補強部が、芯材における芯材補強鋼板と集成材の切り欠きの内部から芯材の長手方向端部まで設けられ、芯材における長手方向反対方向の中間部分側には設けられていない(認定事項3)、
座屈拘束ブレース(941頁左欄3行)。」
エ 甲3の発行日について
甲3は、上記ア(ア)の「2022年9月」の記載から、本件特許の出願前に発行されたものといえる。
(2)甲1
ア 甲1に記載された事項
甲1には、次の記載がある(イメージ中の下線、枠線は申立人が付与した。)。
(ア)933頁右上
「
[図:0001439179000008.jpg]
」
(イ)933頁左欄1~25行
「
[図:0001439179000009.jpg]
」
(ウ)934頁左欄5~10行
「
[図:0001439179000010.jpg]
」
(エ)図4
「
[図:0001439179000011.jpg]
」
イ 甲1記載技術
上記アより、甲1には、次の2つの技術的事項(以下「甲1記載技術1」
及び「甲1記載技術2」という。)が記載されていると認められる。
<甲1記載技術1>
「座屈拘束ブレースにおいて(933頁左欄10行)、
芯材、集成材、鋼材スペーサー、芯材補強鋼板、集成材端部割裂防止鋼板、M8中ボルトで構成され(933頁左欄17~19行)、
芯材と芯材補強鋼板の間には摩擦力の発生防止を目的にアンボンド材を施工すること(934頁左欄9~10行)。」
<甲1記載技術2>
「建物外周部など人々の視界に入る部位も全て木質化する場合があり、安定した復元力特性と高いエネルギー吸収性能を発揮する座屈拘束ブレースの拘束材の木質化の検討が精力的に行われていること(933頁左欄7~11行)。」
ウ 甲1の発行日について
甲1は、上記ア(ア)の「2022年9月」の記載から、本件特許の出願前に発行されたものといえる。
(3)甲2
甲2には、次の記載がある(イメージ中の下線は申立人が付与した。)。
ア 935頁右上
「
[図:0001439179000012.jpg]
」
イ 936頁右欄10~18行
「
[図:0001439179000013.jpg]
」
ウ 甲2の発行日について
甲2は、上記アの「2022年9月」の記載から、本件特許の出願前に発行されたものといえる。
2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
ア 甲3発明の「座屈拘束ブレース(木鋼BRB)」は、本件発明1の「座屈拘束ブレース」に相当する。
イ 甲3発明の「低・中層建築物」は、本件発明1の「構造物」に相当する。
そして、甲3発明の「座屈拘束ブレース」を「低・中層建築物の耐震用ブレース」として「使用」する際、「座屈拘束ブレース」が「低・中層建築物」に取り付けられることが明らかであるから、甲3発明において「低・中層建築物」に取り付けられる「座屈拘束ブレース」は、本件発明1の「構造物 に取り付けられる座屈拘束ブレース」に相当する。
ウ 甲3発明の「芯材」は、本件発明1の「芯材」に相当する。
エ 甲3発明の「芯材の面外両側に」「設けられ」る「芯材補強鋼板」は、本件発明1の「芯材を覆う局部座屈抑制部材」に相当する。
オ 上記エを踏まえると、甲3発明の「芯材補強鋼板の面外両側に」「設けられ」る「集成材」は、本件発明1の「前記芯材及び前記局部座屈抑制部材を覆う全体座屈抑制部材」に相当する。
カ 甲3発明において、「2つの集成材をボルトで締め付け」ることで、2つの集成材の間に位置する「芯材補強鋼板」及びその間に位置する「芯材」を締め付け、その結果として、芯材の局部座屈及び全体座屈を抑制することが明らかであることから、甲3発明の「2つの集成材をボルトで締め付け」ることで、2つの集成材の間に位置する「芯材補強鋼板」及びその間に位置する「芯材」を締め付けることは、本件発明1の「前記局部座屈抑制部材は、互いに対向する両方向から前記芯材を拘束することで、前記芯材の局部座屈を抑制し、前記全体座屈抑制部材は、前記芯材の全体座屈を抑制」することに相当する。
キ 甲3発明の「芯材補強鋼板」と「木」を用いた「集成材」とは、本件発明1の「前記局部座屈抑制部材」及び「前記全体座屈抑制部材」と、使用する素材、概略の形状及び配置について異なるところがないから、「剛性」の大小についても、本件発明1と同様である蓋然性が高い。そうすると、甲3発明は、本件発明1の「前記局部座屈抑制部材の剛性は、前記全体座屈抑制部材の剛性より、高」いことに相当する構成を備える。
ク 本件発明1の「前記局部座屈抑制部材は、締結部材により、前記芯材の両側面であって前記芯材の板厚方向にそれぞれ面する両側面のそれぞれに、前記全体座屈抑制部材に用いられる木材を介することなく、固定される」ことと、甲3発明において、「鋼材スペーサー及び板状の芯材の面外両側に芯材補強鋼板が設けられ、さらに芯材補強鋼板の面外両側に集成材が設けられ」た状態で「2つの集成材をボルトで締め付け」ることにより、「芯材補強鋼板」が「集成材」を介して「板状の芯材の面外両側」に固定されることが明らかであることとは、上記カの対比を踏まえると、「前記局部座屈抑制部材は、締結部材により、前記芯材の両側面であって前記芯材の板厚方向にそれぞれ面する両側面のそれぞれに、固定される」点で共通する。
ケ 以上を総合すると、本件発明1と甲3発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
<一致点>
「座屈拘束ブレースであって、
芯材と、
前記芯材を覆う局部座屈抑制部材と、
前記芯材及び前記局部座屈抑制部材を覆う全体座屈抑制部材と、
を備え、
前記局部座屈抑制部材は、互いに対向する両方向から前記芯材を拘束することで、前記芯材の局部座屈を抑制し、
前記全体座屈抑制部材は、前記芯材の全体座屈を抑制し、
前記局部座屈抑制部材の剛性は、前記全体座屈抑制部材の剛性より、高く、
前記局部座屈抑制部材は、締結部材により、前記芯材の両側面であって前記芯材の板厚方向にそれぞれ面する両側面のそれぞれに、固定される、
座屈拘束ブレース。」
<相違点>
「前記局部座屈抑制部材」の、「前記芯材の両側面であって前記芯材の板厚方向にそれぞれ面する両側面のそれぞれ」への「固定」が、本件発明1は「前記全体座屈抑制部材に用いられる木材を介することなく」されるのに対し、甲3発明は、「2つの集成材」(本件発明1の「全体座屈抑制部材」に相当)をボルトで締め付け」ることにより、2つの集成材の間で「芯材補強鋼板」の「芯材の面外両側」への固定がされるであって、すなわち、「前記全体座屈抑制部材に用いられる木材を介する」点。
(2)判断
ア 新規性について
下記イにおいて示すように、相違点は実質的な相違点であり、本件発明3は、甲3に記載された発明ではない。
イ 進歩性について
相違点について検討する。
申立人が提出した甲1、甲2のいずれにも、「局部座屈抑制部材」を、「締結部材により、芯材の両側面であって芯材の板厚方向にそれぞれ面する両側面のそれぞれに、全体座屈抑制部材に用いられる木材を介することなく、固定」することは記載されておらず、「局部座屈抑制部材」の上記態様の固定は周知技術でもない。
そうすると、甲3発明において、「前記芯材の両側面であって前記芯材の板厚方向にそれぞれ面する両側面のそれぞれ」への「固定」を、「前記全体座屈抑制部材に用いられる木材を介することなく」なすものとして、相違点に係る本件発明1の構成とすることは、甲1及び甲2に記載された事項を考慮しても、当業者が容易になし得たことではない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲3に記載された発明ではない。
また、本件発明1は、甲3発明及び甲1、甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
3 本件発明2~12及び20について
本件発明2~12及び20は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えたものであり、相違点に係る構成を備えるから、上記2において本件発明1について検討したのと同様の理由により、甲3に記載された発明ではなく、甲3発明及び甲1、甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 取消理由通知書(決定の予告)で特許権者に通知しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
1 申立理由1 明確性要件(特許法36条6項2号)
(1)具体的理由
申立人の主張する取消理由1の具体的理由は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1において用いられる、「局部座屈抑制部材」及び「全体座屈抑制部材」という用語は、局部座屈を抑制するもの、全体座屈を抑制するものという機能を表現しているだけで、具体的な構造、特性を表現していない。
また、「前記局部座屈抑制部材の剛性は、前記全体座屈抑制部材の剛性より、高い」ことについて、剛性の定義、測定又は計算方法、測定又は計算結果などは、一切、記載されていないため、「局部座屈抑制部材の剛性」及び「全体座屈抑制部材の剛性」を特定することができない、というものである(申立書2頁3~12行、7頁下から9行~9頁5行)。
(2)当審の判断
ア 判断基準
特許法36条6項2号の趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合に、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となることにより生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
イ 判断基準に基づく判断
以下、上記判断基準に基づいて、判断する。
請求項1には、「局部座屈抑制部材」及び「全体座屈抑制部材」について、「前記芯材を覆う局部座屈抑制部材」、「前記芯材及び前記局部座屈抑制部材を覆う全体座屈抑制部材」、「前記局部座屈抑制部材は、互いに対向する両方向から前記芯材を拘束することで、前記芯材の局部座屈を抑制し、」、「前記全体座屈抑制部材は、前記芯材の全体座屈を抑制し、」「前記局部座屈抑制部材の剛性は、前記全体座屈抑制部材の剛性より、高く、」「前記局部座屈抑制部材は、締結部材により、前記芯材の両側面であって前記芯材の板厚方向にそれぞれ面する両側面のそれぞれに、前記全体座屈抑制部材に用いられる木材を介することなく、固定される」ことが特定されているが、これらは、その意味を語義どおり理解できるから、上記アの判断基準に照らして、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確な記載はない。
ウ 申立人の主張について
請求項1には、局部座屈抑制部材について、「芯材を覆う」ものであって「互いに対向する両方向から前記芯材を拘束することで、前記芯材の局部座屈を抑制」することが特定され、また、「全体座屈抑制部材」について、「前記芯材及び前記局部座屈抑制部材を覆う」ものであり、「芯材の全体座屈を抑制」することが特定されているから、局部座屈を抑制するもの、全体座屈を抑制するものという機能を表現しているだけのものではない。
「前記局部座屈抑制部材の剛性は、前記全体座屈抑制部材の剛性より、高い」ことについて、請求項1は「座屈拘束ブレース」の発明であり、「局部座屈抑制部材」及び「全体座屈抑制部材」は、芯材の座屈抑制のために求められているのであるから、「局部座屈抑制部材」と「全体座屈抑制部材」が比較されて「前記局部座屈抑制部材の剛性は、前記全体座屈抑制部材の剛性より、高い」とされる「剛性」が、芯材の座屈を抑制する方向への「剛性」を含むことは明らかである。
そして、本件明細書段落【0048】には、「局部座屈抑制部材20は、芯材10の局部座屈を抑制する。本実施形態において、芯材10の局部座屈とは、芯材10の長手方向に圧縮力が生じた際に、芯材10が局部的に変形することをいう。」と記載され、同段落【0051】には、「本実施形態において、前記剛性とは、特に軸直交方向への力に対する剛性をいう。」と記載され、また、同段落【0066】には、「局部座屈抑制部材20の剛性は、全体座屈抑制部材30の剛性より、高い。これにより、局部座屈抑制部材20を、より芯材10の局部座屈を抑制することに特化したものとすることができる。」と記載されているところ、本件明細書のこれらは、上記理解と整合する。
(3)小括
本件特許の特許請求の範囲の請求項1並びに請求項1に従属する請求項2~12及び20は、明確である。
2 申立理由2 実施可能要件(特許法36条4項1号)
(1)具体的理由
申立人の主張する取消理由2の具体的理由は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載されている、「前記局部座屈抑制部材の剛性は、前記全体座屈抑制部材の剛性より、高い」構造を、どのようにして実施できるのかを明らかにした記載が全くないから、「局部座屈抑制部材の剛性」及び「全体座屈抑制部材の剛性」を特定することができず、それ故、「前記局部座屈抑制部材の剛性は、前記全体座屈抑制部材の剛性より、高い」構造を実施することができない、というものである。(申立書2頁13~24行、9頁6行~10頁18行)
(2)当審の判断
ア 判断基準
本件発明1~12及び20は物の発明であるところ、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があることを要する。
イ 判断基準に基づく判断
以下、上記アの判断基準に基づいて、判断する。
本件明細書には、段落【0054】に「局部座屈抑制部材20」の材質について、例えば、「鋼材」が例示されるとともに、段落【0055】に「全体座屈抑制部材30」について「木材」が例示され、【図1】、【図4】等において、座屈拘束ブレースの芯材(10~14)、局部座屈抑制部材20、全体座屈抑制部材30について、一例が図示されており、同段落【0051】に記載された「軸直交方向への力に対する剛性」の記載や上記段落【0054】、【0055】、【図1】、【図4】の記載を参照し、「局部座屈抑制部材」と「全体座屈抑制部材」について、材料力学の常識に基づいて、部材の材質、長さや厚さ等を含む形状を決定して「前記局部座屈抑制部材の剛性は、前記全体座屈抑制部材の剛性より、高い」ものとすることは、当業者であれば、過度の試行錯誤を要することなくできるものと認められる。
よって、本件明細書には、本件発明1~12及び20を実施できる程度に明確かつ十分な説明が記載されている。
(3)小括
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~12及び20は、明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。
3 申立理由3,新規性(特許法29条1項3号)及び申立理由4 進歩性(特許法29条2項)
申立人は、甲1~甲3がいずれも、2022年9月に頒布された、日本建築学会大会梗概集に記載されているものであって、同じ機会に行われた講演の対象である複数の座屈拘束ブレースを記載したものであり、いずれもWp系座屈拘束ブレースについて記載するものであるから、甲1~甲3の全体から引用発明を認定できるとし、当該引用発明に基づいて異議の申立てをしている。
しかし、甲1~甲3は個別の文献であり、全体として1個の引用発明を記載したものとはいえない。
また、上記第5の2における、甲3を主引用発明とした新規性、進歩性の判断において示したように、本件発明1と甲3発明との相違点に係る構成は、甲2、甲3のいずれにも記載されていないのであるから、申立人が申立てる理由により、本件発明1が新規性または進歩性を欠如するとはいえない。
本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えたものである本件発明2~12及び20についても同様である。
4 申立理由5 サポート要件(特許法36条6項1号)
(1)具体的理由
申立人がサポート要件違反についていう具体的理由は、概略、以下のとおりである(申立書3頁7~10行、19頁15行~21頁16行)。
ア 請求項1
本件特許明細書の段落【0005】には、発明が解決しようとする課題について「本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、局部座屈及び全体座屈の両方を確実に抑えることができる座屈拘束ブレースを提供することを目的とする。」と記載されている。また、本件特許明細書の段落【0040】には、発明の効果について「本発明によれば、局部座屈及び全体座屈の両方を確実に抑えることができる座屈拘束ブレースを提供することができる。」と記載されている。
他方、請求項1において、「前記局部座屈抑制部材の剛性は、前記全体座屈抑制部材の剛性より、高」い、と特定されているところ、局部座屈及び全体座屈の両方を確実に抑えるのであれば、局部座屈抑制部材が局部座屈を抑制するために要求される剛性、及び全体座屈抑制材が全体座屈を抑制するために要求される剛性、をそれぞれ有することが必要であり、「局部座屈抑制部材の剛性」と「全体座屈抑制部材の剛性」の相対関係は関係ないと思われる。
したがつて、請求項1に係る発明は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えており、請求項1に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが、実質的に対応しておらず、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていない。
イ 請求項2
請求項2には、「前記芯材と前記局部座屈抑制部材とは、固着されていないことを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。」が記載されている。
しかしながら、本件明細書には芯材と局部座屈抑制都材とが固着されていないことは一切記載されていない。
本件特許の明細書の段落【0037】には、「アンボンド材が、第1補強材と芯材との間に介在し、且つ、第2補強材と芯材との間に介在する。これにより、芯材の塑性化部の変形に第1補強材及び第2補強材が追従することを抑えることができる。」と記載されており、仮に、このような態様が固着されていないことの一態様であったとしても、「固着されていない」という文言で特定される事項は、このような態様以外のものを含むことは明らかであるから、請求項2は明細書に記載の範囲を超えており、特許法36条6項1号のサポート要件に違反して特許されたものである。
ウ 請求項11
請求項11には、「前記全体座屈抑制都材は、前記芯材の全体座屈のみを抑制する、ことを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。」が記載されている。しかし、全体座屈抑制都材をどのように構成すれば、「全体座屈のみを抑制する」ようになるのかについての記載も、いかにして「全体座屈のみを抑制する」効果が得られているかを確認する方法の記載も、明細書には全くない。よって、請求項11は、明細書に記載されていない発明であり、請求項11に係る特許は、特許法36条6項1号のサポート要件に違反して特許されたものである。
(2)当審の判断
ア 判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
以下、上記判断基準に基づいて、判断する。
イ 上記(1)アについて
発明が解決しようとする課題が解決されているか否かは、「局部座屈抑制部材の剛性」と「全体座屈抑制部材の剛性」の相対関係のみならず、本件発明1の発明特定事項全体によって判断されるべきものである。
そして、本件発明1は、「座屈拘束ブレースの拘束材として、木材が用いられることがある。木材は、芯材の全体座屈を抑制する効果は比較的大きいが、芯材の局部座屈を抑制する効果が比較的小さい。また、木材が乾燥収縮することで芯材と木材との間に隙間が生じると、芯材の局部座屈を抑制する効果が低減する」こと(段落【0004】)を課題として認識した上で、芯材の局部座屈を抑制する部材を、芯材の全体座屈を抑制する部材とは別に設けたうえで、両抑制部材を含む座屈拘束ブレースの具体的な構成を特定したものであるから、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、「局部座屈抑制部材の剛性」と「全体座屈抑制部材の剛性」の相対関係のみに着目して、課題が解決するものではないとする申立人の主張によって、本件発明1ないしそれを引用する請求項が発明の詳細な説明に記載されたものではないということはできない。
ウ 上記(1)イについて
一般に、「固着」は、「かたくしっかりとつくこと。一定の場所に留まって移らないこと。」を意味する。
そして、本件明細書段落【0037】には、「アンボンド材が、第1補強材と芯材との間に介在し、且つ、第2補強材と芯材との間に介在する。これにより、芯材の塑性化部の変形に第1補強材及び第2補強材が追従することを抑えることができる。」と記載されており、「芯材」と「局部座屈抑制部材」とは、「かたくしっかりとつ」いて、「一定の場所に留まって移らない」ものではないこと、すなわち「固着されていない」ことが示されているといえる。
また、本件明細書段落【0048】には「局部座屈抑制部材20は、・・・第1補強材21と、第2補強材22と、・・・を含む。」と記載され、同段落【0075】には、「第1補強材21と第2補強材22との間に配置される円筒状部材23」に挿入された「第1締結部材F1は、第1補強材21及び第2補強材22によって、芯材10の両側面から芯材10を挟むようにして、第1補強材21と第2補強材22とを締結する」ことが記載される。
上記段落【0037】で、第1補強材21と芯材との間、及び、第2補強材と芯材との間にアンボンド材を介在させていることに鑑みると、段落【0075】の態様で配置された「芯材」と「第1補強材21と第2補強材22」との関係も、「かたくしっかりとつ」いて、「一定の場所に留まって移らない」ものとは理解されない。
そうすると、請求項2の「前記芯材と前記局部座屈抑制部材とは、固着されていない」ことは、発明の詳細な説明に記載されている。
エ 上記(1)ウについて
本件発明11の「前記全体座屈抑制都材は、前記芯材の全体座屈のみを抑制する」ことについて、本件明細書には、「芯材に局部座屈抑制部材が設けられることで、全体座屈抑制部材は、芯材の全体座屈に係る力に対してのみ対応することができる」(段落【0025】)との記載、「芯材と木製拘束部材との間の距離は、第1補強材及び第2補強材が芯材と木製拘束部材との間に配置されることにより、一定に維持される。これにより、木製拘束部材と芯材との間の隙間を一定に確保することができる。よって、木製拘束部材を、全体座屈抑制部材としてのみ機能させることができる。」(段落【0039】)との記載がある。
よって、本件発明11の「前記全体座屈抑制都材は、前記芯材の全体座屈のみを抑制する」ことは、発明の詳細な説明に記載されている。
(3)小括
本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2及び11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明である。
5 申立理由6 新規事項(特許法17条の2第3項)
(1)具体的理由
請求項2には、「前記芯材と前記局部座屈抑制部材とは、固着されていない、
ことを特徴とする請求項1に記載の座屈拘束ブレース。」が記載されている。
請求項2は、令和5年12月5日付けの手続補正書により追加されたものである。
しかしながら、本件の出願当初の明細書には芯材と局部座届抑制部材とが固着されていないことは一切記載されていない。
よって、上記の補正は特許法17条の2第3項に違反してなされたものであり、同法113条1号により敢り消されるべきものである。
(申立書21頁17~26行)
(2)当審の判断
本件特許の明細書は、本願の願書に最初に添付した明細書(以下「本願当初明細書」といい、願書に最初に添付した図面及び特許請求の範囲とあわせて「本願当初明細書等」という。)から補正されていないから、本願当初明細書に記載された事項と本件明細書に記載された事項は、同じである。
上記3(2)ウにおいて、本件明細書について説示したのと同様、本願当初明細書の段落【0037】には、「アンボンド材が、第1補強材と芯材との間に介在し、且つ、第2補強材と芯材との間に介在する。これにより、芯材の塑性化部の変形に第1補強材及び第2補強材が追従することを抑えることができる。」と記載されており、また、同段落【0075】には、「芯材」と「局部座屈抑制部材」の固定に関し、「局部座屈抑制部材20」の「第1補強材21」と「第2補強材22」が「芯材10の両側面から芯材10を挟むよう」に配置されて、それらの間に配置される円筒状部材23と円筒状部材23に挿入される第1締結部材F1によって、芯材10の両側面から芯材10を挟むようにして、第1補強材21と第2補強材22とを締結することが記載される。
そして、上記3(2)ウにおいて本件明細書について示したように、「前記芯材と前記局部座屈抑制部材とは、固着されていない」ことは、本願当初明細書等の上記記載等を総合して導かれる事項であり、本願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、令和5年12月5日付けの手続補正書による請求項2の手続補正は、本願当初明細書等に記載された事項の範囲内の事項でしたものである。
(3)小括
令和5年12月5日付けの手続補正書による請求項2の手続補正は、本願当初明細書等に記載された範囲内でしたものである。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1~12及び20に係る特許は、当審において通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~12及び20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701097