特許異議申立
2022-700889
セルロースナノファイバー分散液及びその製造方法
- 審判番号
- 2022-700889
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-543631
- 登録番号
- 7033920
- 請求日
- 2022年09月09日
- 審決日
- 2023年08月01日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本製紙株式会社
- 【権利者代理人】山本 修
- 【権利者代理人】中村 充利
- 【権利者代理人】小笠原 有紀
- 【権利者代理人】新井 規之
- 【異議申立人】福井 麻希
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 筑波 茂樹
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1651.113-YAA(C08B) / P1651.121-YAA(C08B) / P1651.16 -YAA(C08B) / P1651.537-YAA(C08B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7033920号発明「セルロースナノファイバー分散液及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7033920号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7033920号の請求項1~4、6に係る特許を維持する。
特許第7033920号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7033920号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)9月30日(優先権主張 平成27年9月30日)を国際出願日とする出願であって、令和4年3月3日にその特許権の設定登録がされ、同年3月11日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 4年 9月 9日 :特許異議申立人福井麻希(以下「申立人」
という。)による請求項1~6に係る特許
に対する特許異議の申立て
令和 5年 2月10日付け:取消理由通知
令和 5年 4月14日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提
出
なお、訂正請求について、申立人に期間を指定して意見を求めたところ、申立人から、意見等の提出はなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「原料パルプを叩解処理する」を「酸化パルプを叩解処理する」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~4および6も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「叩解処理する叩解工程」について、「叩解処理する叩解工程、ただし当該叩解処理は、酸化パルプの濃度が3~10%(v/w)のパルプスラリーを用いて実施される。」と訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~4および6も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
請求項5を削除する。
(4)訂正事項4
請求項6の従属先を「請求項1~5」から「請求項1~4」に訂正する。
2 一群の請求項
本件訂正前の請求項2~6は、本件訂正請求の対象である請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~6〕に対して請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存
否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の「原料パルプ」について、「酸化パルプ」と特定するものであり、当該酸化パルプは叩解処理の対象となるものであって、本件特許のセルロースナノファイバー分散液の製造方法におけるセルロースナノファイバー分散液の原料となるパルプであることは明らかである。そうすると訂正事項1に係る訂正は、原料パルプを酸化パルプとして、より具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
叩解処理される原料パルプが酸化パルプであることは、願書に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下「本件特許明細書等」という。)の段落【0046】の「パルプ原料の調整:酸化パルプ」、段落【0049】の「(酸化パルプの予備解繊)上記酸化処理を経た濃度3%(w/v)の酸化パルプのスラリーをナイアガラビータ(熊谷理機工業株式会社製)で叩解処理を施した。」等の記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、発明特定事項をより具体的に限定するものであり、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の「叩解工程」について、「ただし当該叩解処理は、酸化パルプの濃度が3~10%(v/w)のパルプスラリーを用いて実施される」との特定を付加することで、より具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
本件特許明細書等の段落【0038】には「予備解繊工程(A)でのパルプ濃度は0.5%(w/v)~10%(w/v)、・・・である。当該濃度が0.5%(w/v)より低いと分散液の濃度が低すぎて効率的ではなく、10%(w/v)を超えると粘度が高くなりすぎて効率的でない。」(下線部は当審で付与した。以下、同様。)との記載があり、当該予備解繊工程(A)は、段落【0036】の「(3)予備解繊維:工程(A) 本発明において、予備解繊を行って上記した原料パルプに叩解処理を施すことが重要である。」との記載を踏まえると、叩解処理する工程である。また、段落【0049】には「(酸化パルプの予備解繊)上記酸化処理を経た濃度3%(w/v)の酸化パルプのスラリーをナイアガラビータ(熊谷理機工業株式会社製)で叩解処理を施した。」との記載がある。そうすると、叩解処理は、酸化パルプの濃度が3~10%(v/w)のパルプスラリーを用いて実施されることは、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内のものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、発明特定事項をより具体的に限定するものであり、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は、請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項3は、請求項5を削除するものであるから、新規事項を追加するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、請求項5を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的
訂正事項4は、訂正前の請求項6が請求項5を含む複数項を引用していたところ、訂正事項3で請求項5を削除することに伴い、請求項5を引用することができなくなったことから、請求項5を引用しないものとするものである。
そうすると、訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項4は、複数項を引用している請求項の引用請求項数を削減するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項4は、訂正前の請求項6が請求項5を含む複数項を引用していたところ、請求項5を引用しないものとするものであるから、新規事項を追加するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は、引用する請求項の数を減少するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について、訂正することを認める。
第3 本件発明
上記「第3」で説示したように本件訂正請求は認められるから、本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1~4、6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」・・・「本件発明6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4、6に記載された事項により特定される以下の通りのものである。
「【請求項1】
下記の工程(A)~(B)の工程を備える、平均繊維幅3~100nmであるセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
工程(A):水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで酸化パルプを叩解処理する叩解工程、ただし当該叩解処理は、酸化パルプの濃度が3~10%(v/w)のパルプスラリーを用いて実施される。
工程(B):前記叩解工程(A)で得られたパルプを繊維幅3~100nmになるまで解繊する本解繊工程。
【請求項2】
前記叩解工程(A)で得られたパルプのろ水度が1~30ml、平均繊維径が30~1000nmである、請求項1に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
【請求項3】
工程(A)において前記粘度が2000mPa・s以上となるまで酸止パルプを叩解処理する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記叩解処理がリファイナー、ビーター、又は離解機から選ばれる少なくとも1つの叩解装置を用いる、請求項1~3のいずれか一項に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法により得られるセルロースナノファイバー分散液。」
第4 取消理由の概要
取消理由通知で通知した取消理由の概要は次のとおりである。
理由1:(新規性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し、取り消されるべきものである。
理由2:(進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
記
<甲号証等一覧>
甲第1号証:特開2009-161893号公報
甲第2号証:中国特許出願公開第104047198号明細書
甲第3号証:特表2016-526114号公報
甲第4号証:特開2014-96335号公報
甲第5号証:特開2000-17592号公報
甲第6号証:青嶋和男、「最新の紙料叩解処理技術-紙料の叩解特性に合わせた低濃度叩解機と高濃度叩解機-」、紙パ技協誌、第57巻第12号、2003年12月、20~30ページ
甲第7号証:紙パルプ事典、改訂定第6版第1刷、紙パルプ技術協会、平成26年7月30日、第44、93、202、203、254、328、331ページ
甲第8号証:「マイルダー 高能率乳化分散機」のパンフレット、大平洋機工株式会社、2007年9月
甲第9号証:「パルプのろ水度試験方法 JIS P8121-1995」、日本工業標準調査会、1995年
甲第10号証:特開2017-8472号公報
引用文献1:特開平8-47385号公報
なお、甲第1号証~甲第10号証は、申立人が提出したものであり、引用文献1は、当審が発見したものである。また、「甲第1号証」~「甲第10号証」について、以下「甲1」~「甲10」という。
・請求項1~6(理由2)
・甲5及び引用文献1
・請求項1、3~6(理由2)
・甲3
・請求項2(理由2)
・甲3及び甲5
・請求項1、3~6(理由2)
・甲1及び甲3 又は 甲1及び甲5
・請求項2(理由2)
・甲1及び甲5 又は 甲1及び甲3及び甲5
・請求項6(理由1)
・甲1
・請求項6(理由1)
・甲4
第5 当審の判断
1 各甲号証
(1)甲1
甲1には、請求項3、段落【0029】、【0036】、【0055】~【0070】等を参照すると、次の二つの発明(以下、それぞれ「甲1発明1」、「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。
[甲1発明1]
「セルロース繊維を酸化して、セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1~2.0mmol/gである酸化パルプを得る工程と、
前記酸化パルプを機械的処理することで、平均繊維径が200nm以下の酸化セルロース繊維を得る工程を有する酸化セルロース繊維分散液の製造方法であって、
前記機械的処理が、高速で回転する回転体近傍に生じるせん断力、衝撃力、キャビテーションにより、微細化するものである高速回転式分散機による第1段階の処理の後、流路内で生じる高いせん断力や流路の工夫により生じる流体と壁面との衝突や、流体同士の衝突による衝撃力や、微細な流路から吐出されるときに生じるキャビテーション等により、微細化処理する高圧式分散機による第2段階の処理をするものであり、
高速回転式分散機により処理される酸化パルプは、固形分濃度が0.25質量%~2.0質量%の水分散液であり、
高圧式分散機による処理後の平均繊維径は3.1nm~4.4nmである
酸化セルロース繊維分散液の製造方法。」
[甲1発明2]
「平均繊維径が3.1nm~4.4nmである酸化セルロース繊維分散液。」
(2)甲2
甲2には、請求項1及び11を参照すると、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲2発明]
「ナノセルロースの製造方法であって、それは以下のステップを含む:植物繊維スラリーを用意する;植物繊維スラリーを離解して植物繊維を単繊維に分離する;離解後の植物繊維スラリーに対して予備解繊処理を行い、予備解繊と同時にTEMPO触媒酸化系を加えて繊維を酸化する;植物繊維スラリーのろ水度が150-450mlに達した時、酸化後の繊維と廃水を分離する;酸化後の繊維を再びろ水度が50ml以下になるまで解繊処理して解繊後の酸化繊維を得る;解繊した酸化繊維をナノ化処理し、ナノセルロース溶液を得た;ナノ化処理のステップに用いられる装置は高圧ホモジナイザー、微粒化装置、又は超音波処理機である。」
(3)甲3
甲3には、請求項1、段落【0003】、【0026】、【0055】、【0057】、【0061】、【0067】、【0068】等を参照すると、実施例3に係る次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲3発明]
「ナノフィブリル化セルロースの製造方法であって、
分散液中のセルロース系繊維材料が、小繊維を分離するために処理される製造方法において、
前記繊維材料が分散機に供給され、当該材料がいくつかの逆回転ロータに流され、異なる逆回転ロータの効果によってせん断力と衝撃力とに繰り返しさらされる第1工程と、
第1工程から得られた繊維材料がホモジナイザに供給され、圧力の効果によって均質化される第2工程とを含み、
第1工程として、一連の逆回転ロータを通して分散機を2回流された後、
第2工程として、ホモジナイザを3回以上流され、
分散機に供給される繊維材料は、カルボキシメチル化セルロースが、2.0%(w/w)の濃度で水に分散されたものであり、
分散機の一連の逆回転ロータを通して4回流されたときの粘度は、15300mPas(0.8%で測定された、ブルックフィールド10rpm)であり、
第2工程における均質化は、その中に分散する材料はより小さな部分に分解されるものであり、
ナノフィブリル化セルロースは、小繊維が水分散液中に存在するゲル様材料であり、
粒子(小繊維または小繊維束)の粒径は好ましくは2nm~200nmである
製造方法。」
(4)甲4
甲4には、段落【0048】及び【0049】を参照すると、次の2つの発明(以下「甲4発明1」、「甲4発明2」という。)が記載されていると認められる。
[甲4発明1]
「0.15質量%の酸化セルローススラリーを調整し、この酸化セルローススラリー100mlを、バイオミキサー(BM-2、日本精機製作所社製)を用いて、10000回転/分で5分間解繊処理し、続いて超音波ホモジナイザー(型式US-300E、チップ径26mm、日本精機製作所社製)で出力レベル75%にて4分間解繊処理を行い、更に遠心分離によって粗大繊維の除去を行った後、透明なセルロースナノファイバー分散液1を得、このナノファイバー分散液1の数平均繊維直径は6nmである
セルロースナノファイバー分散液1の製造方法。」
[甲4発明2]
「数平均繊維直径が6nm又は26nmである酸化セルロースのセルロースナノファイバー分散液。」
(5)甲5
甲5には、請求項1、段落【0008】、【0024】、【0033】、【0034】、【表1】等を参照すると、実施例3及び実施例4に係る次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲5発明]
「セルロースパルプの水懸濁液を、予備叩解したのち、ホモジナイザー処理する微小繊維状セルロースの製造方法であって、
予備叩解に用いられるスラリーは、未叩解パルプ(アルファニア-F)スラリー(固形分濃度4.0重量%)であり、
予備叩解処理したのちの2重量%粘度は、2500mPa・s程度又は3500mPa・s程度であり、重量平均繊維長は、0.9mm又は0.7mmであり、0.1重量%カナダ標準濾水度は180cc又は130ccであり、
2重量%粘度は、B型粘度計を用いて、ロータNo.4、30rpm、25℃での2重量%スラリー見かけ粘度として測定した値であり、
ホモジナイザー処理においてフィブリル化が進行し、
ホモジナイザー処理した微小繊維状セルロースは懸濁液である
微小繊維状セルロースの製造方法。」
(6)甲10
甲10は、本件特許の優先権主張の日前に出願された特願2015-121555号を優先権主張の基礎とする出願であって、本件特許の出願後に出願公開がされた特許出願であり、本件特許の発明者は、甲10の特許出願の発明者と同一でなく、また、本件特許の出願人は、甲10の特許出願の出願人と同一でない。
ア 甲10の記載事項等
甲10には、請求項1、段落【0013】、【0023】、【0026】、【0043】~【0045】、【0055】、【表1】等を参照すると、実施例3及び実施例4に係る次の発明(以下「甲10発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲10発明]
「スラリー中のパルプ繊維に対して前処理を施す工程、及び前処理された上記スラリー中のパルプ繊維を機械的な処理により微細化する工程を備えるセルロースナノファイバーの製造方法であって、
上記前処理工程が、上記パルプ繊維に対して、酸化処理からなる化学的処理を施す工程、及び上記パルプ繊維を間隙を極小さくして負荷をかけながら叩解処理するリファイナーにより粗解繊する工程を備えるセルロースナノファイバーの製造方法であって、
粗解繊工程では、酸化剤(過硫酸アンモニウム)を添加し酸化処理を行ったパルプスラリーをパルプ濃度4質量%に調整し、リファイナーによる粗解繊処理を施し、
各処理工程の1回あたりの消費エネルギーの量を示す相対値の数値は、粗解繊工程が25に対し、微細化工程が191又は226であり、
セルロースナノファイバーとは、一般的に繊維幅がナノサイズ(1nm以上1000nm以下)のセルロース微細繊維を含む繊維をいう
セルロースナノファイバーの製造方法。」
2 取消理由通知書に記載した取消理由についての判断
(1)甲1発明1に基づく本件発明1~4、6についての取消理由について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
(ア)後者の「処理後の平均繊維径は3.1~4.4nmである酸化セルロース繊維分散液」は、前者の「平均繊維幅3~100nmであるセルロースナノファイバー分散液」に相当し、後者の「製造方法」は前者の「製造方法」に相当する。
(イ)後者の「酸化パルプ」は前者の「酸化パルプ」に相当する。
叩解とは「水の存在で繊維を機械的に処理すること」を意味する(甲7の93ページ「叩解」の項目参照)ことを踏まえると、後者の「高速回転式分散機により処理される酸化パルプは」「水分散液であり」、「高速で回転する回転体近傍に生じるせん断力、衝撃力、キャビテーションにより、微細化するものである高速回転式分散機による第1段階の処理」は、叩解処理を行うものといえ、前者の「工程(A):水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで酸化パルプを叩解処理する叩解工程」と、「工程(A):酸化パルプを叩解処理する叩解工程」の点に限り一致する。
(ウ)上記(イ)を踏まえると、後者の「高速回転式分散機により処理される酸化パルプは、固形分濃度が0.25質量%~2.0質量%の水分散液であ」る構成は、前者の「ただし、当該叩解処理は、酸化パルプの濃度が3~10%(v/w)のパルプスラリーを用いて実施される」構成と、「ただし、叩解処理は、酸化パルプのパルプスラリーを用いて実施される」点に限り一致する。
(エ)後者の「高圧式分散機による第2段階の処理」は、第1段階の処理の後に行われるものであり、かつ、「微細化処理するものであり、処理後の平均繊維径は3.1~4.4nmである」ことを踏まえると、前者の「工程(B):前記叩解工程(A)で得られたパルプを繊維幅3~100nmになるまで解繊する本解繊工程。」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明1との一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点]
「下記の工程(A)~(B)の工程を備える、平均繊維幅3~100nmであるセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
工程(A):酸化パルプを叩解処理する叩解工程、ただし、叩解処理は、酸化パルプのパルプスラリーを用いて実施される。
工程(B):前記叩解工程(A)で得られたパルプを繊維幅3~100nmになるまで解繊する本解繊工程。」
[相違点1]
工程(A)について、本件発明1は、叩解処理で用いられる酸化パルプのパルプスラリーが「濃度が3~10%(v/w)」であり、叩解処理を、本件発明1は、「水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで」行うのに対して、甲1発明1は「0.25質量%~2.0質量%」であり、叩解処理を、そのように特定されていない点。
イ 判断
上記相違点1について検討する。
濃度が3~10%(v/w)である酸化パルプのパルプスラリーを用いて、水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで叩解処理を行うことは、いずれの文献にも記載も示唆もない。
すなわち、甲2、甲4は、酸化パルプを用いるものといえるが、濃度を3~10%(v/w)とすることは記載されておらず、水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで叩解処理を行うことも記載されていない。
甲3はカルボキシメチル化パルプを、甲5は特に化学処理を行っていないパルプを用いるものであり、パルプとして酸化パルプを用いるように変更した上で、水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで叩解処理を行うことは記載も示唆もない。
また、その他の証拠(甲6~甲9)にも、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることについて開示又は示唆はないし、周知技術であることを示す証拠もない。
そうすると、甲1発明1において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たものではない。
よって、本件発明1は、甲1発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明2~4、6は、本件発明1の全ての特定事項を含み、さらに限定を付加したものであるから、本件発明2~4、6についても同様に、甲1発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)甲1発明2に基づく本件発明6の取消理由について
本件発明6は、本件発明1~4に係る製造方法による生産物の特定を含む請求項であり、最終的に得られた生産物を意味すると解すると、
「平均繊維径3~100nmの酸化パルプのセルロースナノファイバー分散液」と解し得る。
そして、甲1発明2の「数平均繊維直径が3.1nm~4.4nmである」ことは本件発明6の「平均繊維径3~100nm」に相当し、上記数平均繊維直径を踏まえると、甲1発明2の「酸化セルロース繊維分散液」は、本件発明6の「酸化パルプのセルロースナノファイバー分散液」に相当するから、両者に相違はないと解し得る。
しかしながら、本件発明6のセルロースナノファイバー分散液は、本件発明1で特定された「水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで酸化パルプを叩解処理する叩解工程、ただし当該叩解処理は、酸化パルプの濃度が3~10%(v/w)のパルプスラリーを用いて実施される。」との工程を経るものであり、このように特定された酸化パルプの濃度やB型粘度の値となるような工程を経る本件発明6のセルロースナノファイバー分散液は、セルロースナノファイバーの繊維幅の均一性等において、上記工程が特定されない甲1発明2の酸化セルロース繊維分散液と同一であるということはできない。
よって、本件発明6は、甲1発明2ではない。
(3)甲3発明に基づく本件発明1~4、6についての取消理由について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)後者の「ナノフィブリル化セルロース」は、「粒子(小繊維または小繊維束)の粒径は好ましくは2nm~200nmであり、」「小繊維が水分散液中に存在するゲル様材料であ」るから、前者の「平均繊維幅3~100nmであるセルロースナノファイバー分散液」と、「平均繊維幅が微細ナノレベルのセルロースナノファイバー分散液」との点に限り一致する。後者の「製造方法」は前者の「製造方法」に相当する。
(イ)後者の分散機に供給される繊維材料の「カルボキシメチル化セルロース」は、前者の「酸化パルプ」と、「原料パルプ」の点に限り一致する。
叩解とは「水の存在で繊維を機械的に処理すること」を意味する(甲7の93ページ「叩解」の項目参照)ことを踏まえると、後者の「前記繊維材料が分散機に供給され、当該材料がいくつかの逆回転ロータに流され、異なる逆回転ロータの効果によってせん断力と衝撃力とに繰り返しさらされる」ものであり、「分散機に供給される繊維材料は」、「水に分散されたものであ」る「第1工程」は、原料パルプを叩解処理するものといえる。そうすると、後者の「第1工程として、一連の逆回転ロータを通して分散機を2回流された」構成は、前者の「工程(A):水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで酸化パルプを叩解処理する叩解工程」構成と「工程(A):原料パルプを叩解処理する叩解工程」の点に限り一致する。
(ウ)上記(イ)を踏まえると、後者の「分散機に供給される繊維材料は、カルボキシメチル化セルロースが、2.0%(w/w)の濃度で水に分散されたものであ」る構成は、前者の「ただし当該叩解処理は、酸化パルプの濃度が3~10%(v/w)のパルプスラリーを用いて実施される。」構成と「ただし当該叩解処理は、パルプスラリーを用いて実施される。」点に限り一致する。
(エ)後者の「第1工程から得られた繊維材料がホモジナイザに供給され、圧力の効果によって均質化される第2工程」は、「均質化は、その中に分散する材料はより小さな部分に分解され、粒子(小繊維または小繊維束)の粒径は好ましくは2nm~200nmであ」るから、前者の「工程(B):前記叩解工程(A)で得られたパルプを繊維幅3~100nmになるまで解繊する本解繊工程」と、「工程(B):前記叩解工程(A)で得られたパルプを繊維幅が微細ナノレベルになるまで解繊する本解繊工程」の点に限り共通する。
そうすると、本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点]
「下記の工程(A)~(B)の工程を備える、平均繊維幅が微細ナノレベルのセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
工程(A):原料パルプを叩解処理する叩解工程、ただし当該叩解処理は、パルプスラリーを用いて実施される。
工程(B):前記叩解工程(A)で得られたパルプを繊維幅が微細ナノレベルになるまで解繊する本解繊工程。」
[相違点3-1]
セルロースナノファイバーの繊維幅について、本件発明1では「平均繊維幅3~100nmであ」り、本解繊工程で「繊維幅3~100nmになるまで」解繊するのに対し、甲3発明では、「好ましくは2~200nmであ」る点。
[相違点3-2]
工程(A)について、本件発明1は、原料パルプが「酸化パルプ」であり、パルプスラリーの濃度が「3~10%(v/w)」であり、「水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで」処理するのに対し、甲3発明では、原料パルプが「カルボキシメチル化セルロース」であり、パルプスラリーの濃度が「2.0%(w/w)」であり、分散機の一連の逆回転ロータを通して4回流されたときの粘度は、15300mPas(0.8%で測定された、ブルックフィールド10rpm)であるが、一連の逆回転ロータを通して分散機を2回流された後のB型粘度は不明である点。
イ 判断
事案に鑑み、まず、相違点3-2について検討する。
甲3発明において、分散機の一連の逆回転ロータを通して4回流されたときの粘度は、15300mPas(0.8%で測定された、ブルックフィールド10rpm)であることに基づいて、分散機を2回流された後のB型粘度が「分散液の濃度を3%(v/w)とした場合のB型粘度は、少なくとも1000mPa・s以上であ」ることが導きだされたとしても、甲3発明は、カルボキシメチル化セルロースを用いたものであり、また、パルプスラリーの濃度も異なる。
そして、甲3発明において、パルプとして酸化パルプを用いるように変更した上で、水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで叩解処理を行うことは記載も示唆もない。
また、甲1、甲2、甲4、甲5にも、甲6~9にも、濃度が3~10%(v/w)である酸化パルプのパルプスラリーを用いて、水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで叩解処理を行うことは、記載も示唆もなく、周知技術であることを示す証拠もないことは、上記相違点1についての判断で説示したのと同様である。
そうすると、甲3発明において、相違点3-2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たものではなく、相違点3-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基いて、当業者が容易になし得たものではない。
よって、本件発明1は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明2~4、6は、本件発明1の全ての特定事項を含み、さらに限定を付加したものであるから、本件発明2~4、6についても同様に、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)甲4発明2に基づく本件発明6についての取消理由について
上記(2)で検討したのと同じ理由で、本件発明1で特定された「水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで酸化パルプを叩解処理する叩解工程、ただし当該叩解処理は、酸化パルプの濃度が3~10%(v/w)のパルプスラリーを用いて実施される。」との工程が特定されない甲4発明2のセルロースナノファイバー分散液が、本件発明6と同一であるということはできない。
よって、本件発明6は、甲4発明2ではない。
(5)甲5発明に基づく本件発明1~4、6についての取消理由について
ア 対比
本件発明1と甲5発明とを対比する。
(ア)後者において、「ホモジナイザー処理した微小繊維状セルロースは懸濁液である」ことを踏まえると、後者の「微小繊維状セルロース」は前者の「平均繊維幅3~100nmであるセルロースナノファイバー分散液」と「セルロースファイバー分散液」の点に限り一致する。後者の「製造方法」は前者の「製造方法」に相当する。
(イ)後者の予備叩解に用いられるスラリーは、未叩解パルプ(アルファニア-F)スラリー(固形分濃度4.0重量%)である構成の「未叩解パルプ(アルファニア-F)」は、前者の「酸化パルプ」と、「原料パルプ」点に限り一致する。
後者の「予備叩解」は前者の「叩解処理」に相当する。そうすると、後者の「セルロースパルプの水懸濁液を、」「予備叩解」し、「予備叩解に用いられるスラリーは、未叩解パルプ(アルファニア-F)スラリー(固形分濃度4.0重量%)であ」る構成は、前者の「工程(A):水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで原料パルプを叩解処理する叩解工程」と、「工程(A):原料パルプを叩解処理する叩解工程」の点に限り一致する。
(ウ)上記(イ)を踏まえると、「予備叩解に用いられるスラリーは、未叩解パルプ(アルファニア-F)スラリー(固形分濃度4.0重量%)であ」る構成は、前者の「ただし当該叩解処理は、酸化パルプの濃度が3~10%(v/w)のパルプスラリーを用いて実施される」と、「ただし当該叩解処理は、原料パルプの濃度が3~10%(v/w)のパルプスラリーを用いて実施される。」点に限り一致する。
(エ)後者の「ホモジナイザー処理」は、「予備叩解したのち」に行われるものであり、「フィブリル化が進行する」ものであることを踏まえると、前者の「工程(B):前記叩解工程(A)で得られたパルプを繊維幅3~100nmになるまで解繊する本解繊工程」と「工程(B):前記叩解工程(A)で得られたパルプを解繊する本解繊工程」の点に限り一致する。
そうすると、本件発明1と甲5発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点]
「下記の工程(A)~(B)の工程を備える、セルロースファイバー分散液の製造方法。
工程(A):原料パルプを叩解処理する叩解工程、ただし当該叩解処理は、原料パルプの濃度が3~10%(v/w)のパルプスラリーを用いて実施される。
工程(B):前記叩解工程(A)で得られたパルプを解繊する本解繊工程。」
[相違点5-1]
本件発明1は「平均繊維幅3~100nmであるセルロースナノファイバー分散液」を製造するものであり、工程(B)では「繊維幅3~100nmになるまで」解繊するものであるの対し、甲5発明は、微小繊維状セルロースを得るものであり、その平均繊維幅は不明である点。
[相違点5-2]
工程(A)について、本件発明1は、原料パルプが「酸化パルプ」であり、「水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで」処理するのに対し、甲5発明では、原料パルプが「未叩解パルプ(アルファニア-F)」であり、「予備叩解処理した後の2重量%粘度は、2500mPa・s程度又は3500mPa・s程度であ」る点。
イ 判断
事案に鑑み、まず、相違点5-2について検討する。
甲5発明の「予備叩解処理した後の2重量%粘度は、2500mPa・s程度又は3500mPa・s程度であ」る構成から、「水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合に、少なくとも1000mPa・s以上であ」ることが導きだされたとしても、甲5発明は、未叩解パルプを用いたものである。
そして、甲5発明において、パルプとして酸化パルプを用いるように変更した上で、水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで叩解処理を行うことは記載も示唆もない。
また、甲1~4にも、甲6~9にも、濃度が3~10%(v/w)である酸化パルプのパルプスラリーを用いて、水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで叩解処理を行うことは、記載も示唆もなく、周知技術であることを示す証拠もないことは、上記相違点1についての判断で説示したのと同様である。
そうすると、甲5発明において、相違点5-2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たものではなく、相違点5-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明に基いて、当業者が容易になし得たものではない。
よって、本件発明1は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明2~4、6は、本件発明1の全ての特定事項を含み、さらに限定を付加したものであるから、本件発明2~4、6についても同様に、甲5発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 取消理由通知書で採用しなかった特許異議申立理由についての判断
(1)甲2発明に基づく本件発明1~4、6についての特許異議申立理由について
本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者は少なくとも、相違点1(上記2(1)ア参照)と同じ点で相違する。
そして、相違点1については、上記2(1)イで検討したのと同じ理由で、当業者が相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることが容易になし得たということはできない。
そうすると、本件発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明2~4、6は、本件発明1の全ての特定事項を含み、さらに限定を付加したものであるから、本件発明2~4、6についても同様に、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)甲4発明1に基づく本件発明1~4、6についての特許異議申立理由について
本件発明1と甲4発明1とを対比すると、両者は少なくとも、相違点1(上記2(1)ア参照)と同じ点で相違する。
そして、相違点1については、上記2(1)イで検討したのと同じ理由で、当業者が相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることが容易になし得たということはできない。
そうすると、本件発明1は、甲4発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明2~4、6は、本件発明1の全ての特定事項を含み、さらに限定を付加したものであるから、本件発明2~4、6についても同様に、甲4発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)甲10を拡大先願とする本件発明1~4、6についての特許異議申立理由について
ア 対比
本件発明1と甲10発明とを対比する。
(ア)後者の「セルロースナノファイバー」は、「セルロースナノファイバーとは、一般的に繊維幅がナノサイズ(1nm以上1000nm以下)のセルロース微細繊維を含む繊維をいう」ことを踏まえると、「平均繊維幅3~100nmであるセルロースナノファイバー分散液」と、「平均繊維幅がナノレベルのセルロースナノファイバー」の点に限り一致する。後者の「製造方法」は前者の「製造方法」に相当する。
(イ)後者の「酸化剤(過硫酸アンモニウム)を添加し酸化処理を行ったパルプスラリー」におけるパルプは酸化されていることは明らかであるから、当該「パルプ」は、前者の「酸化パルプ」に相当する。
後者の「スラリー中のパルプ繊維に対して前処理を施す工程」における「上記パルプ繊維を間隙を極小さくして負荷をかけながら叩解処理するリファイナーにより粗解繊する工程」は、前者の「前者の「工程(A):水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで酸化パルプを叩解処理する叩解工程」と、「工程(A):酸化パルプを叩解処理する叩解工程」の点に限り一致する。
(ウ)上記(イ)を踏まえると、後者の「粗解繊工程では、酸化剤(過硫酸アンモニウム)を添加し酸化処理を行ったパルプスラリーをパルプ濃度4質量%に調整し、リファイナーによる粗解繊処理を施」す構成は、前者の「ただし、当該叩解処理は、酸化パルプの濃度が3~10%(v/w)のパルプスラリーを用いて実施される」構成に相当する。
(エ)後者の「前処理された上記スラリー中のパルプ繊維を機械的な処理により微細化する工程」は、粗解繊処理の後に行われるものであり、「セルロースナノファイバーを製造」するものでることを踏まえると、前者の「工程(B):前記叩解工程(A)で得られたパルプを繊維幅3~100nmになるまで解繊する本解繊工程。」と、「工程(B):前記叩解工程(A)で得られたパルプを繊維幅がナノレベルになるまで解繊する本解繊工程」の点に限り共通する。
そうすると、本件発明1と甲10発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点]
「下記の工程(A)~(B)の工程を備える、平均繊維幅がナノレベルであるセルロースナノファイバーの製造方法。
工程(A):酸化パルプを叩解処理する叩解工程、ただし当該叩解処理は、酸化パルプの濃度が3~10%(v/w)のパルプスラリーを用いて実施される。
工程(B):前記叩解工程(A)で得られたパルプを繊維幅がナノレベルになるまで解繊する本解繊工程。」
[相違点10-1]
本件発明1は、セルロースナノファイバーの「分散液」を製造するものであるのに対し、甲10発明では、明示がない点。
[相違点10-2]
本件発明1は「平均繊維幅3~100nmであるセルロースナノファイバー」を製造するものであり、工程(B)では「繊維幅3~100nmになるまで」解繊するものであるの対し、甲10発明は、ナノレベルである点。
[相違点10-3]
工程(A)について、本件発明1は「水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで」処理するのに対し、甲10発明では、不明である点。
イ 判断
事案に鑑み、まず、相違点10-3について検討する。
甲10には、粗解繊工程をB型粘度でどの程度まで行うかについて、開示も示唆もない。
また、酸化パルプを叩解処理する叩解工程を、相違点10-3に係るB型粘度となるまで実施することが、周知技術であることを示す証拠もない。
そうすると、相違点10-3は実質的な相違点である。
申立人は、特許異議申立書において、本件の実施例1~3における予備解繊及び本解繊時の消費電力の比と、甲10の粗解繊工程及び微細化工程の消費エネルギーの比との比較から、粗解繊工程で使用している相対的なエネルギー量は甲10発明のほうが多く、粗解繊をより進めていると推認でき、したがって、粗解繊工程において、水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで行っているものと考えられる旨、主張する。
しかしながら、消費電力又は消費エネルギーは使用する機器の種類や時間、処理量等、多くのパラメータから影響を受けるものであり、粗解繊工程及び微細化工程の消費エネルギーの比の比較から、粗解繊工程で得られるスラリーのB型粘度が特定できるとは考えられない。また、消費電力又は消費エネルギーの比とB型粘度の具体的な数値との間の相関関係等も不明で、甲10の消費エネルギーの比であれば、本件発明1のB型粘度になることも示されていない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
以上のとおり、甲1発明と甲10発明とは、少なくとも相違点10-3において相違する。
よって、甲1発明は、甲10発明と同一ではない。
本件発明2~4、6は、本件発明1の全ての特定事項を含み、さらに限定を付加したものであるから、本件発明2~4、6についても同様に、甲10発明と同一ではない。
(4)サポート要件について
ア 特許異議申立理由の概要
申立人は、訂正前の請求項1、2、5について、以下の点で、発明の詳細な説明に記載されたものではないと主張する。
(ア)訂正前の請求項1について
訂正前の請求項1では、原料パルプについて何ら限定されていない。実施例では、TEMPO、臭化ナトリウム及び次亜塩素酸ナトリウムを用いて酸化し、カルボキシル基量が1.60mmol/gである酸化パルプのみが記載されており、全ての原料パルプで、少ない電力消費量で透明度の高いセルロースナノファイバーを効率よく製造することができるものであるか不明である。よって、請求項に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができない。
(イ)訂正前の請求項2について
請求項2では、工程(A)で得られパルプのろ水度が1~30mlであり、平均繊維径が30~100nmであることが規定されている。しかし、【課題を解決するための手段】の欄以外に具体的な数値が記載されていない。特に平均繊維径は実施例に何ら記載がない。
(ウ)訂正前の請求項5について
訂正前の請求項5では、原料パルプが化学変性パルプであることが規定されているが、化学変性の詳細については規定されていない。実施例は酸化パルプが使用されているのみであり、いずれの化学変性パルプを使用しても同様の効果があるのか不明である。また、酸化パルプについて、どの程度のカルボキシ基量であっても同様の効果を奏するものか示されていない。よって、請求項に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができない。
イ 判断
(ア)特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、本件発明について、上記要件に適合するか、以下検討する。
(イ)本件発明の解決しようとする課題について、段落【0004】、【0005】を参照すると、「従来のセルロースナノファイバーの製造方法では、一般的に超高圧ホモジナイザーのようなせん断力の強い分散機により複数回、微細化の処理を行うため、製造に莫大な電力を使用する。また、超高圧ホモジナイザーは、非常に細い間隙に、サンプルを押し込み高圧とするため、パルプのような大きな繊維を処理する場合、詰まりなどを発生させ、非常に生産性、作業性が劣ることなどが問題であった。」ことから、「本発明は、少ない電力消費量で、透明度の高いセルロースナノファイバーを効率よく製造する方法を提供することを目的とする。」ものである。
(ウ)上記課題に対し、段落【0010】には、「本発明により透明度の高いセルロースナノファイバーが得られる理由は以下のように推察される。予備解繊では、この予備解繊の工程で、原料となるパルプは最初に微細化され、パルプ繊維の外側がほぐされるため、若干の粘度の上昇が起こる。その後の本解繊を行う際に、超高圧ホモジナイザー等の比較的せん断力の強い装置を使用する場合、予備解繊による粘度上昇によって、本解繊機によるせん断エネルギーをロスすることなくパルプに作用し本解繊を行うことができため、効率的に高透明度のセルロースナノファイバーを製造することができる。」と記載されている。
上記記載によれば、効率的に高透明度のセルロースナノファイバーを製造することができるのは、パルプの予備解繊の工程で粘度上昇が生じ、この粘度上昇によって、本解繊機によるせん断エネルギーをロスすることなくパルプに作用し本解繊を行うことができるためであると解される。そして、本件発明1において、予備解繊工程に対応する叩解工程では「水を分散媒とする濃度が3%(v/w)のパルプスラリーとした場合にB型粘度が1000mPa・s以上となるまで酸化パルプを叩解処理する」ことが特定されており、このような粘度の特定によって、上記効率的に高透明度のセルロースナノファイバーを製造することを実現したものといえる。
してみれば、本件発明1及びこれを直接又は間接に引用する本件発明2~4、6は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、本件特許の発明の詳細な説明は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。
(エ)申立人は、異議申立理由において、上記アのとおり主張する。
しかしながら、上記(ウ)で指摘したように、本件発明は、パルプの予備解繊の工程で粘度上昇が生じ、この粘度上昇によって、本解繊機によるせん断エネルギーをロスすることなくパルプに作用し本解繊を行うことができるという機序によるものと解され、当該機序は、実施例に記載された酸化パルプであることを要するものではない。また、TEMPO、臭化ナトリウム及び次亜塩素酸ナトリウムを用いて酸化し、カルボキシル基量が1.60mmol/gである酸化パルプのみでしか生じないとする具体的な理由も示されていない。
また、請求項2で規定された、ろ水度が1~30mlであり、平均繊維径が30~100nmであることは、発明の詳細な説明の段落【0006】に記載されている。そして、実施例に当該数値が記載されていないからといって、上記(ウ)で指摘した効率的に高透明度のセルロースナノファイバーを製造することを実現できないという理由もない。
よって、申立人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~4、6に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1~4、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項5に係る特許については、本件訂正請求により削除されたから、請求項5に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700889