特許異議申立
2019-700938
アニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物、その製造方法及びその分散液
- 審判番号
- 2019-700938
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-066587
- 登録番号
- 特許第6536120号(P6536120)
- 請求日
- 2019年11月22日
- 審決日
- 2021年04月15日
- 公報発行日
- 2021年10月29日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】日本製紙株式会社
- 【権利者代理人】中村 充利
- 【権利者代理人】小笠原 有紀
- 【権利者代理人】新井 規之
- 【異議申立人】山田 毅彦
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 大島 祥吾
- 審判官 大畑 通隆
- 分類
- P1651.121-ZDA(C08B) / P1651.113-ZDA(C08B) / P1651.537-ZDA(C08B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6536120号発明「アニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物、その製造方法及びその分散液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6536120号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1]、[2]について訂正することを認める。
特許第6536120号の請求項1に係る特許を取り消す。
特許第6536120号の請求項2に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6536120号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成27年3月27日を出願日とする出願であって、令和1年6月14日にその特許権の設定登録(請求項の数2)がされ、特許掲載公報が同年7月3日に発行され、その後、その特許に対し、同年11月22日に特許異議申立人 山田毅彦(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、令和2年3月23日付けで取消理由が通知され、同年6月19日に特許権者 日本製紙株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正の請求がされるとともに意見書が提出され、同年7月3日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年8月5日に異議申立人から意見書が提出され、同年11月6日付けで取消理由<決定の予告>が通知され、特許権者からの応答がなかったものである。
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和2年6月19日にされた訂正の請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「アニオン変性セルロースナノファイバーに対して、無機系凝集剤を1~10質量%含有」
と記載されているのを、
「アニオン変性セルロースナノファイバーに対して無機系凝集剤を1~5質量%含有」
に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に
「含有していることを特徴とするアニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物を、」
と記載されているのを
「含有しており、固形分が88質量%以上のアニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物を、」
に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に
「アニオン変性セルロースナノファイバーに対して、無機系凝集剤を1~10質量%含有」
と記載されているのを、
「アニオン変性セルロースナノファイバーに対して無機系凝集剤を1~5質量%含有」
に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に
「含有していることを特徴とするアニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物を、」
と記載されているのを
「含有しており、固形分が88質量%以上のアニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物を、」
に訂正する。
(5)訂正事項5
本件特許明細書の段落【0013】に
「針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)」
と記載されているのを、
「針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)」
と訂正する。
(6)訂正事項6
本件特許明細書の段落【0045】に
「
<凝集物の評価>
無機添加剤を添加して凝集が生じた場合は3、粘度に変化があった場合は2、変化が」
と記載されているのを、削除する。
(7)訂正事項7
本件特許明細書の段落【0048】の表1の「実施例3」の「乾燥有無」欄に「有」と記載されているのを、「無」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1に係る訂正事項1及び2について
請求項1に係る訂正事項1のうちの「、」を削除する訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえ、訂正事項1のうちの無機系凝集剤のアニオン変性セルロースナノファイバーに対する濃度の範囲である「1~10質量%」を「1~5質量%」に訂正する訂正は、濃度範囲をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
請求項1に係る訂正事項2は、訂正前の請求項1は、アニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物の「固形分」について、なんら特定されていなかったのを、訂正後の請求項1で、「固形分が88質量%以上」との記載により、アニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物における固形分を特定し、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、請求項1に係る訂正事項1及び2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)請求項2に係る訂正事項3及び4について
請求項2に係る訂正事項3のうちの「、」を削除する訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえ、訂正事項3のうちの無機系凝集剤のアニオン変性セルロースナノファイバーに対する濃度の範囲である「1~10質量%」を「1~5質量%」に訂正する訂正は、濃度範囲をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
請求項2に係る訂正事項4は、訂正前の請求項2は、アニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物の「固形分」について、なんら特定されていなかったのを、訂正後の請求項2で、「固形分が88質量%以上」との記載により、アニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物における固形分を特定し、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3及び4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の本件特許明細書の段落【0013】に記載されていた「針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)」において、「針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)」と「サーモメカニカルパルプ(TMP)」との間に読点「、」を追加する訂正であって、誤記の訂正を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の本件特許明細書の段落【0045】に記載されていた「<凝集物の評価> 無機添加剤を添加して凝集が生じた場合は3、粘度に変化があった場合は2、変化が」との記載を削除するものであるが、本件特許明細書には、前記の記載以外に凝集物の評価に関する記載はないから、意味のない記載を削除するものであって、誤記の訂正を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項7について
訂正事項7は、本件特許明細書の段落【0048】の表1の「実施例3」の「乾燥有無」欄に「有」と記載されているのを、「無」に訂正するものである。本件特許明細書の段落【0046】における実施例3に係る説明には、「(実施例3)再分散時のpHが12になるように調整した以外は実施例1と同様にして行った。」と記載されており、本件特許明細書の段落【0045】における実施例1に係る説明では、実施例2において行われたような「<乾燥固形物の製造>」工程は行われていない。そうすると、訂正前の段落【0048】の表1の「実施例3」の「乾燥有無」欄に「有」との記載は、「無」の誤記といえるから、誤記の訂正を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1]、[2]について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項[1]、[2]のとおり訂正することを認めるので、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
アニオン変性セルロースナノファイバーに対して無機系凝集剤を1~5質量%含有しており、固形分が88質量%以上のアニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物を、pH8~12の溶液に分散させたアニオン変性セルロースナノファイバー分散液。
【請求項2】
アニオン変性セルロースナノファイバーに対して無機系凝集剤を1~5質量%含有しており、固形分が88質量%以上のアニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物を、pH8~12の溶液に分散させることを特徴とするアニオン変性セルロースナノファイバー分散液の製造方法。」
第4 特許異議申立書に記載した理由の概要
令和1年11月22日に異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(特許法第29条第1項第3号:甲第1号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明であって、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当しているものにされたものであって、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
2 申立理由2(特許法第29条第2項:甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
3 申立理由3(特許法第36条第6項第1号:サポート要件)
本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
4 証拠方法
甲第1号証 : 国際公開第2014/024876号
甲第1号証については、以下、「甲1」という。
第5 令和2年11月6日付けで通知された取消理由<決定の予告>の概要
令和2年11月6日付けで通知された取消理由<決定の予告>(以下、「取消理由<決定の予告>」という。)の概要は、次のとおりである。
取消理由1(甲1に基づく新規性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献等である甲1に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号に該当しているものにされたものであって、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由2(甲1に基づく進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献等である甲1に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由A(明確性)
本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第4項に該当し、取り消すべきものである。
第6 取消理由<決定の予告>についての当審の判断
当審が期間を指定して意見書を提出する機会を与えた取消理由<決定の予告>に対して、特許権者は応答しなかった。
そして、上記の取消理由<決定の予告>は妥当なものと認められるので、本件特許の請求項1に係る特許は、これらの取消理由によって取り消すべきものである。
第7 取消理由<決定の予告>において採用しなかった特許異議申立て理由について
取消理由<決定の予告>において採用しなかった特許異議申立て理由は、請求項2に対しての申立理由1(甲1に基づく新規性)及び請求項2に対しての申立理由2(甲1に基づく進歩性)並びに請求項2に対しての申立理由3(サポート要件違反)であるので、順次検討する。
1 請求項2に対しての申立理由1及び2(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲1の記載事項
甲1には以下の記載がある。下線については、当審において付与した。
ア「請求の範囲
[請求項1] 平均繊維幅が2nm~50nmの微細繊維状セルロースと、水及び有機溶剤の少なくとも一方からなる液状化合物とを含有し、前記微細繊維状セルロースの含有量が微細繊維状セルロース凝集物全体の質量に対して6質量%~80質量%、前記液状化合物の含有量が微細繊維状セルロース凝集物全体の質量に対して15質量%以上である、微細繊維状セルロース凝集物。
・・・
[請求項8] 平均繊維幅が2nm~200nmの微細繊維状セルロース及び第1の分散媒を含有する第1の微細繊維状セルロース分散液を濃縮する濃縮工程を有する、微細繊維状セルロース凝集物の製造方法。
[請求項9] 前記濃縮工程は、前記第1の微細繊維状セルロース分散液に含まれる前記微細繊維状セルロースを凝集させる凝集工程と、前記凝集工程後の前記第1の微細繊維状セルロース分散液を濾過して前記第1の分散媒を除去する濾過工程とを有する、請求項8に記載の微細繊維状セルロース凝集物の製造方法。
[請求項10] 前記凝集工程では、前記第1の微細繊維状セルロース分散液に、多価金属の塩を含有する凝集剤を添加して前記微細繊維状セルロースを凝集させる、請求項9に記載の微細繊維状セルロース凝集物の製造方法。
・・・
[請求項16] 請求項8~15のいずれか一項に記載の微細繊維状セルロース凝集物の製造方法により得た前記微細繊維状セルロース凝集物に第2の分散媒を添加して第2の微細繊維状セルロース含有液を調製し、前記第2の微細繊維状セルロース含有液に分散処理を施す再分散工程を有する、微細繊維状セルロース分散液の再製造方法。
[請求項17] 前記再分散工程では、前記微細繊維状セルロースの表面電荷が負の場合には、前記第2の微細繊維状セルロース含有液をpH7以上pH12以下に調整し、前記微細繊維状セルロースの表面電荷が正の場合には、前記第2の微細繊維状セルロース含有液をpH4~pH7の範囲内に調整する、請求項16に記載の微細繊維状セルロース分散液の再製造方法。」
イ「技術分野
[0001] 本発明は、微細繊維状セルロース凝集物、微細繊維状セルロース凝集物の製造方法及び微細繊維状セルロース分散液の再製造方法に関する。
・・・
背景技術
[0002] 近年、石油資源の代替および環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10μm~50μmのセルロース繊維、とりわけ木材由来のセルロース繊維(パルプ)は主に紙製品としてこれまでにも幅広く使用されてきた。
また、セルロース繊維としては、繊維径がナノメートルオーダーの微細繊維状セルロースも知られており、近年、様々な用途に対して使用が検討されている。」
ウ「発明が解決しようとする課題
[0004] 特許文献1,2に記載の製造方法では、微細繊維状セルロースは分散液(スラリー)の状態で得られる。そのため、微細繊維状セルロースの分散液を製造する工場と、微細繊維状セルロースを用いた製品を製造する工場とが離れている場合、微細繊維状セルロースのスラリーを容器に充填して輸送することになる。
しかし、微細繊維状セルロースの分散液は、分散安定性を確保するために低濃度にされているため、輸送される物の殆どは水等の液体である。そのため、微細繊維状セルロース当たりの輸送コスト及び保管コストが高くなる傾向にあった。
本発明の一態様は、微細繊維状セルロース当たりの輸送コスト及び保管コストを削減できる微細繊維状セルロース凝集物を提供することを目的とする。
また、本発明の他の態様は、微細繊維状セルロース当たりの輸送コスト及び保管コストを削減できる微細繊維状セルロース凝集物を製造する微細繊維状セルロース凝集物の製造方法を提供することを目的とする。本発明のさらに他の態様は微細繊維状セルロース当たりの輸送コスト及び保管コストを削減した微細繊維状セルロース分散液を得ることができる微細繊維状セルロース分散液の再製造方法を提供することを目的とする。」
エ「[0023] 微細繊維状セルロース凝集物における液状化合物の含有量は微細繊維状セルロース凝集物全体の質量に対して15質量%以上であり、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。液状化合物の含有量が前記下限値未満では、微細繊維状セルロースの再分散性が低下することがある。
液状化合物の含有量は、微細繊維状セルロース凝集物全体の質量に対して94質量%以下であることが好ましい。
[0024] <多価金属の塩を含む凝集剤>
微細繊維状セルロース凝集物には、後述する微細繊維状セルロース凝集物の製造方法で使用する、多価金属の塩を含む凝集剤が含まれてもよい。
具体的な凝集剤としては、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、リン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等が挙げられる。これらの凝集剤のうちの1種が微細繊維状セルロース凝集物に含まれてもよいし、2種以上が含まれてもよい。
多価金属の塩を含有する凝集剤の中でも、凝集性とコストの点から、微細繊維状セルロースの表面電荷が負の場合には、硫酸アルミニウムが好ましく、微細繊維状セルロースの表面電荷が正の場合には、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。
微細繊維状セルロース凝集物に多価金属の塩を含む凝集剤が含まれる場合、その含有量は、微細繊維状セルロース100質量部に対して0.5質量部~300質量部であることが好ましく、1.0質量部~50質量部であることがより好ましく、2質量部~30質量部であることがさらに好ましい。凝集剤含有量が前記下限値以上のものは、短時間に得られる。しかし、前記上限値を超えて添加されても凝集性はほとんど向上しないので、無益である。
・・・
[0028] 微細繊維状セルロースの表面電荷が負である場合(微細繊維状セルロースがアニオン性である場合)、微細繊維状セルロース凝集物は、上述の酸、カチオン性界面活性剤、カチオン性高分子凝集剤を少なくとも1つ含有してもよい。また、この場合において、微細繊維状セルロース凝集物は、多価金属の塩を含有する凝集剤をさらに含んでいてもよい。」
オ「実施例
[0162]<実施例1-1>(化学処理工程)
セルロース原料として、カルボキシ基含有量0.06mmol/g、固形分濃度30質量%(水分70質量%)、絶乾質量換算で20gの広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)を用意した。上記LBKPを容器内に収容し、その容器にオゾン濃度200g/m3のオゾン・酸素混合気体を30L導入し、25℃で2分間振とうした。このときのオゾン添加率はパルプ乾燥質量に対して30質量%であった。6時間静置した後、容器内のオゾンおよび空気を除去してオゾン酸化処理を終了した。処理終了後、イオン交換水で懸濁洗浄し、洗浄水のpHが6以上になるまで洗浄を繰り返した。その後、濾紙を用いて減圧濾過し、固形分濃度20質量%のオゾン酸化パルプを得た。
次いで、オゾン酸化パルプ100g(絶乾質量換算で20g)に対し、塩酸によりpHを4~5に調整した0.3質量%の亜塩素酸ナトリウム水溶液を200g(セルロース繊維の絶乾質量に対して、亜塩素酸ナトリウムとして3質量%相当)添加し、70℃で3時間反応させて追酸化処理を施した。追酸化処理終了後、イオン交換水で懸濁洗浄し、洗浄水のpHが6以上になるまで洗浄を繰り返して、酸化処理パルプを得た。
上記酸化処理パルプ(絶乾質量換算で20g)にイオン交換水を添加して、固形分濃度2質量%の分散液を調製した。この分散液に水酸化ナトリウムを、水酸化ナトリウム濃度が0.3質量%になるよう添加し、5分間攪拌した後、室温で30分静置した。処理終了後、イオン交換水で懸濁洗浄し、洗浄水のpHが8以下になるまで洗浄を繰り返して、アルカリ処理パルプを含む分散液を得た。
[0163] (解繊工程)
次いで、前記アルカリ処理パルプを含む分散液にイオン交換水を加えて、セルロース繊維濃度0.5質量%のセルロース繊維水分散液を調製した。前記セルロース繊維水分散液を解繊処理装置(エム・テクニック社製、クレアミックス-2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間解繊処理し、微細繊維状セルロース分散液を得た。
得られた微細繊維状セルロース分散液を12,000G×10分間遠心分離(遠心分離機:コクサン社製「H-200NR」)し、上澄みを回収し、その上澄みにイオン交換水を添加して、セルロース含有量が0.2質量%の上澄み液(A)を得た。
[0164] (凝集工程)
上澄み液(A)110.5gを攪拌しながら4Nの硫酸水溶液(無機酸)を添加し、微細繊維状セルロースを凝集させて、pH2.8のゲル状凝集物を得た。
[0165] (濾過工程)
焼結サイズが30μm~50μmのブフナーロート型ガラスフィルター(アドバンテック株式会社製KG-90)上に予めイソプロピルアルコールに浸漬していたPTFEメンブレンフィルター(ADVANTEC社、孔径0.5μm)を載せて濾過瓶上に設置した。その際の濾過面積は0.00441m2であった。
次いで、得られたゲル状凝集物を大気圧下、23℃で前記メンブレンフィルター上に載せ、アスピレーターを用いて吸引濾過(吸引圧力0.08MPa)し、ゲル状凝集物を濃縮して、微細繊維状セルロース凝集物を得た。
[0166] (再分散工程)
濾過工程によって得た微細繊維状セルロース凝集物を水に添加して微細繊維状セルロース含有液を得た。その微細繊維状セルロース含有液を攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウムを添加してpHを11.6に調整した。このときの総質量は、凝集工程前の上澄み液(A)と同様の110.5gとした。その後、ホモミキサー(IKA社製、ULTRA-TURRAX)を用い、11000回転/分の条件で1分間再分散処理して、微細繊維状セルロース水分散液を得た。
・・・
[0196]<実施例8>
実施例1-1において濾過工程で得た12質量%の微細繊維状セルロース凝集物を100℃のオーブンで乾燥して、20質量%の微細繊維状セルロース凝集物を得た。この20質量%の微細繊維状セルロース凝集物を用い、実施例1における再分散工程と同様にpH調整、ホモミキサーでの処理を行った後、超音波分散機(ヒールッシャー社製、UP400S)を用い、Cycle1、Amplitude100%の条件で、30秒間、超音波を照射して、微細繊維状セルロースの水分散液を得た。」
カ「[0200]<実施例12>
実施例1-1の凝集工程において、4N硫酸の代わりに2質量%硫酸アルミニウム溶液をパルプの乾燥質量に対し、4質量%添加した。得られた微細繊維状セルロース凝集物を実施例8の再分散工程と同様の処理を行い、微細繊維状セルロース水分散液を得た。
[0201]<実施例13>
凝集工程において、4N硫酸の代わりに多価金属の塩を含む凝集剤であるポリ塩化アルミニウム溶液(浅田工業株式会社製Paho#2S)をAl(OH)3分換算でパルプの乾燥質量に対し、12質量%添加した以外は実施例12と同様にして、微細繊維状セルロース水分散液を得た。」
(2)甲1に記載された発明
甲1には、上記(1)アの請求項10を引用する請求項16を引用する請求項17及び上記(1)エの段落[0024]の記載から、次のとおりの発明(以下、「甲1方法発明A」という。)が記載されていると認める。
<甲1方法発明A>
「平均繊維幅が2nm~200nmの表面電荷が負の微細繊維状セルロース及び第1の分散媒を含有する第1の微細繊維状セルロース分散液を濃縮する濃縮工程を有し、
前記濃縮工程は、前記第1の微細繊維状セルロース分散液に含まれる前記微細繊維状セルロースを凝集させる凝集工程と、前記凝集工程後の前記第1の微細繊維状セルロース分散液を濾過して前記第1の分散媒を除去する濾過工程とを有し、
前記凝集工程では、前記第1の微細繊維状セルロース分散液に、多価金属の塩を含有する凝集剤を添加して前記微細繊維状セルロースを凝集させるものであり、当該多価金属塩の含有量は、微細繊維状セルロース100質量部に対して、0.5質量部から300質量部であり、
得られた微細繊維状セルロース凝集物に第2の分散媒を添加して第2の微細繊維状セルロース含有液を調製し、前記第2の微細繊維状セルロース含有液に分散処理を施す再分散工程を有し、当該再分散工程で前記第2の微細繊維状セルロース含有液をpH7以上pH12以下に調整する、
微細繊維状セルロース分散液の再製造方法。」
また、甲1の上記(1)オ及びカから、甲1方法発明Aの具体的な実施例として記載されている実施例12の製造方法として、次のとおりの発明(以下、「甲1方法発明B」という。)が記載されていると認める。
<甲1方法発明B>
「酸化処理パルプから得られた分散液の開繊工程を行って得られた微細繊維状セルロース分散液の上澄み液(セルロース含有量0.2質量%)110.5gに、2質量%硫酸アルミニウム溶液をパルプの乾燥重量に対し、4質量%添加し、微細繊維状セルロース凝集物を得、得られた前記微細繊維状セルロース凝集物に水を添加した微細繊維状セルロース含有液のpHを11.6に調整することで分散処理を施す再分散工程を有する、微細繊維状セルロース分散液の再製造方法。」
(3)本件発明2と甲1方法発明Aとの対比・判断
本件発明2と甲1方法発明Aとを対比する。
甲1方法発明Aの「平均繊維幅が2nm~200nmの表面電荷が負の微細繊維状セルロース」は、甲1の段落[0024](上記(1)エ)の記載から、本件発明2の「アニオン変性セルロースナノファイバー」に相当する。
甲1方法発明Aの「多価金属塩」、「再分散させた微細繊維状セルロース分散液」は、それぞれ、本件発明2の「無機系凝集剤」、「アニオン変性セルロースナノファイバー分散液」に相当する。
甲1方法発明Aの「微細繊維状セルロース凝集物」は、本件発明2の「アニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物」に相当する。
甲1方法発明Aの「分散媒を添加してpH7以上12以下に分散液を調整」は、本件発明2における「pH8~12の溶液に分散させた」と、「pHがアルカリ領域の溶液に分散させた」という限りにおいて、一致する。
そうすると、本件発明2と甲1方法発明Aとは、
「アニオン変性セルロースナノファイバーに対して無機系凝集剤を含有しているアニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物を、pHがアルカリ領域の溶液に分散させるアニオン変性セルロースナノファイバー分散液の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点2-1>
無機系凝集剤の含有量に関し、本件発明2は、「1~5質量%含有」と特定するのに対し、甲1方法発明Aは、「微細繊維状セルロース100質量部に対して、0.5質量部から300質量部」と特定する点。
<相違点2-2>
再分散時のpHに関し、本件発明2は、「pH8~12」と特定するのに対し、甲1方法発明Aは、「pH7以上12以下」と特定する点。
<相違点2-3>
アニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物に関し、本件発明2は、「固形分が88質量%以上の」と特定するのに対し、甲1方法発明Aは、この点を特定しない点。
事案に鑑み、相違点2-3から検討する。
甲1において、アニオン変性セルロースナノファイバーの凝集物の固形分の濃度に関して、その請求項1に「前記微細繊維状セルロースの含有量が微細繊維状セルロース凝集物全体の質量に対して6質量%~80質量%、前記液状化合物の含有量が微細繊維状セルロース凝集物全体の質量に対して15質量%以上である、微細繊維状セルロース凝集物。」という記載及び、「微細繊維状セルロース凝集物における液状化合物の含有量は微細繊維状セルロース凝集物全体の質量に対して15質量%以上であり、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。液状化合物の含有量が前記下限値未満では、微細繊維状セルロースの再分散性が低下することがある。」(上記(1)エの段落[0023])との記載からみて、甲1方法発明Aにおいてのアニオン変性セルロースナノファイバーの凝集物、すなわち、本件発明2における「アニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物」の固形分の濃度は、最大でも液状化合物が15質量%を占める場合の残部である85質量%までといえるから、相違点2-3は実質的な相違点であるし、甲1方法発明Aにおいて、アニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物の固形分を88質量%以上とする動機付けはなく、甲1で再分散性が低下するとされる固形分濃度とすることには、阻害要因があるともいえる。
そうすると、相違点2-3に係る本件発明2の発明特定事項については、当業者においても容易に想到し得たこととはいえない。
よって、相違点2-1及び2-2について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1方法発明Aに基づいて容易に発明をすることができたということはできない。
(4) 本件発明2と甲1方法発明Bとの対比・判断
本件発明2と甲1方法発明Bとを対比する。
甲1方法発明Bの「酸化処理パルプから得られた分散液の開繊工程を行って得られた微細繊維状セルロース」は、甲1における実施例12であるので平均繊維幅が2nm~50nmの微細繊維状セルロースといえるし、セルロースファイバーの酸化処理を行うことによりセルロースファイバーがアニオン化されるとの当業者の技術常識及び甲1の段落[0024](上記(1)エ)の記載から、本件発明2の「アニオン変性セルロースナノファイバー」に相当する。
甲1方法発明Bの「硫酸アルミニウム」、「再分散させた微細繊維状セルロース分散液」、「微細繊維状セルロース凝集物」は、それぞれ、本件発明2の「無機系凝集剤」、「アニオン変性セルロースナノファイバー分散液」、「アニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物」に相当する。
甲1方法発明Bの「硫酸アルミニウム」(無機系凝集剤)の配合量である「硫酸アルミニウムをパルプの乾燥重量に対し、4質量%添加」は、本件発明2における「無機系凝集剤」の添加量である「1~5質量%」に相当する。
甲1方法発明Bの「水を添加してpH11.6に分散液を調整して再分散させた」は、本件発明2における「pH8~12の溶液に分散させた」に相当する。
そうすると、本件発明2と甲1方法発明Bとは、
「アニオン変性セルロースナノファイバーに対して、無機系凝集剤を1~5質量%含有しており、アニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物を、pH8~12の溶液に分散させるアニオン変性セルロースナノファイバー分散液の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点2-4>
アニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物に関し、本件発明2は、「固形分が88質量%以上の」と特定するのに対し、甲1方法発明Bは、この点を特定しない点。
以下、相違点2-4について検討する。
相違点2-4は、上記(3)における相違点2-3と同じであるから、上記(3)と同様に、相違点2-4は当業者においても容易に想到し得たこととはいえない。
よって、本件発明2は、甲1方法発明Aに基づいて容易に発明をすることができたということはできない。
(5) まとめ
以上のことから、異議申立人の本件特許の請求項2に対しての申立理由1及び2については理由がない。
2 請求項2に対しての申立理由3(サポート要件)について
(1)判断
発明の詳細な説明の【0002】ないし【0006】の記載によると、本件発明2の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「再分散性が良好な」「アニオン変性セルロースナノファイバーの分散液の製造方法」を提供することである。
他方、発明の詳細な説明の【0007】、【0010】、【0011】、【0027】~【0029】、【0038】、【0039】ないし【0048】によると、アニオン変性セルロースナノファイバーに対して無機系凝集剤を1~5質量%含有しているアニオン変性セルロースナノファイバーの濃縮物を、pH8~12の溶液に分散させることによって、発明の課題を解決できると当業者は認識する。
そして、本件発明2は、上記の点を包含する製造方法であるから、当業者は、本件発明2は発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(2)異議申立人の主張の検討
異議申立人は、特許異議申立書において、概略以下の主張をする。
本件発明の課題は、段落【0004】~【0006】の記載からみて、再分散性が良好なアニオン変性CNF濃縮物を提供することであると認められ、その段落【0006】には「再分散性が良好とは、アニオン変性CNFの濃縮物が、脱水あるいは乾燥前のアニオン変性CNFと比較して、分散性、ならびに分散液としたときの安定性、粘度、及び透明度などの物性において、変化が少ないことをいう。」と記載されていて、本件発明は、濃縮物を再分散させて分散液とした際にはその透明性が良好であることが必須であるのに、その実施例12はその分散液の透明性の復元性の評価は1であり、凝集物が明らかに残っている状態であって、再分散性が良好であるとはいえない。してみれば、本件発明は、再分散性が良好であるとは言えない態様を含むものであるから、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えたもので、サポート要件を満たしていない。
上記主張について検討する。
本件発明の課題は、異議申立人の主張のとおりであり、当該課題が本件発明1により解決できると認識できるのは上記(1)で検討したとおりである。
異議申立人は、再分散が良好であるには透明性が良好であることが必須であると主張するが、変化が少ない物性として例示されている「分散液としたときの安定性」、「粘度」及び「透明性」などは例示であって、いずれかの物性の変化が少なければ分散性が良好であるといいえるものであり、これらを全て満たすことが必須とされてはいない。
また、実施例12については、チキソ性についての評価が「2」であることから、「粘度」の物性の観点では再分散性が良好といいえるものであるし、実施例12の効果を比較すべきは、pHを満たさないものに対してであって、実施例12単独での結果から分散性が向上したかどうかの判断をすることができないものである。
よって、請求人の主張は失当であり、採用できない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、異議申立人の本件特許の請求項2に対しての申立理由3については理由がない。
第8 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない発明に対してされたものであり、又は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるし、同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第2号及び第4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、上記第7のとおりであるから、本件特許の請求項2に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2019-700938