特許異議申立
2023-701251
疎水性セルロースナノファイバー、該疎水性セルロースナノファイバーの有機溶媒分散液、及び疎水性セルロースナノファイバーの製造方法
- 審判番号
- 2023-701251
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-067154
- 登録番号
- 7285114
- 請求日
- 2023年11月28日
- 審決日
- 2024年09月03日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】信越化学工業株式会社
- 【権利者代理人】加藤 由加里
- 【権利者代理人】村上 博司
- 【権利者代理人】河村 英文
- 【権利者代理人】松井 光夫
- 【権利者】日本製紙株式会社
- 【権利者代理人】加藤 由加里
- 【権利者代理人】村上 博司
- 【権利者代理人】河村 英文
- 【権利者代理人】松井 光夫
- 【異議申立人】田中 眞喜子
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬良 聡機
- 審判官 齊藤 真由美
- 審判官 冨永 保
- 分類
- P1651.113-YAA(C08B) / P1651.121-YAA(C08B) / P1651.537-YAA(C08B) / P1651.851-YAA(C08B) / P1651.853-YAA(C08B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7285114号発明「疎水性セルロースナノファイバー、該疎水性セルロースナノファイバーの有機溶媒分散液、及び疎水性セルロースナノファイバーの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7285114号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第7285114号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7285114号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成31年3月29日に出願され、令和5年5月24日に特許権の設定登録がされ、同年6月1日に特許掲載公報が発行され、その請求項1~8に係る発明の特許に対し、同年11月28日付けで 田中 眞喜子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は次のとおりである。
令和6年 2月20日付け 取消理由通知
同年 4月25日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年 5月13日付け 手続補正指令(方式)
同年 6月 6日 手続補正書(方式)の提出(特許権者)
同年 同月18日付け 訂正請求があった旨の通知
なお、令和6年6月18日付けの通知に対し、申立人からの応答はなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年4月25日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は「特許第7285114号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1~11からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の、
「疎水性セルロースナノファイバー。」
との記載を、
「疎水性セルロースナノファイバーにおいて、
前記オルガノポリシロキサンが、下記式(1)又は下記式(2)で表される、前記疎水性セルロースナノファイバー
X-Si(OSiR13)mR23-m (1)
X-SiR32O-(SiR42O)n-SiR5R6R7 (2)
(式中、Xは、1級、2級、又は3級アミノ基を1つ以上有する、炭素原子数1~20の有機基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、及びR7は、互いに独立に、水素原子、又は炭素原子数1~10の一価炭化水素基であり、mは1~3の整数であり、nは3~500の整数である)。」
との記載に訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4及び8も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項2の、
「前記オルガノポリシロキサンが、下記式(1)、下記式(2)又は下記式(3)で表される、請求項1に記載の疎水性セルロースナノファイバー。
X-Si(OSiR13)mR23-m (1)
X-SiR32O-(SiR42O)n-SiR5R6R7(2)
R83SiO-[(SiXR9O)k-(SiR102O)j]-SiR83 (3)
(式中、Xは、1級、2級、又は3級アミノ基を1つ以上有する、炭素原子数1~20の有機基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9及びR10は、互いに独立に、水素原子、又は炭素原子数1~10の一価炭化水素基であり、mは1~3の整数であり、nは3~500の整数であり、kは1以上の整数であり、jは0以上の整数であり、k+j≦500であり、kおよびjが付された括弧を付されたシロキサン単位の配列順は任意である)。」
との記載を、
「 前記オルガノポリシロキサンが、下記式(2)で表される、請求項1に記載の疎水性セルロースナノファイバー。
X-SiR32O-(SiR42O)n-SiR5R6R7(2)
(式中、Xは、1級、2級、又は3級アミノ基を1つ以上有する、炭素原子数1~20の有機基であり、R3、R4、R5、R6、及びR7は、互いに独立に、水素原子、又は炭素原子数1~10の一価炭化水素基であり、nは3~500の整数である)。」
との記載に訂正する。
請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3、4及び8も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の請求項5の、
「前記製造方法。」
との記載を、
「前記製造方法において、
前記オルガノポリシロキサンが、下記式(1)又は下記式(2)で表される、前記製造方法
X-Si(OSiR13)mR23-m (1)
X-SiR32O-(SiR42O)n-SiR5R6R7 (2)
(式中、Xは、1級、2級、又は3級アミノ基を1つ以上有する、炭素原子数1~20の有機基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、及びR7は、互いに独立に、水素原子、又は炭素原子数1~10の一価炭化水素基であり、mは1~3の整数であり、nは3~500の整数である)。」
との記載に訂正する。
請求項5を直接又は間接的に引用する請求項6~8も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
訂正前の請求項6の、
「前記オルガノポリシロキサンが、下記式(1)、下記式(2)又は下記式(3)で表される、請求項5に記載の製造方法。
X-Si(OSiR13)mR23-m (1)
X-SiR32O-(SiR42O)n-SiR5R6R7(2)
R83SiO-[(SiXR9O)k-(SiR102O)j]-SiR83 (3)
(式中、Xは、1級、2級、又は3級アミノ基を1つ以上有する、炭素原子数1~20の有機基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9及びR10は、互いに独立に、水素原子、又は炭素原子数1~10の一価炭化水素基であり、mは1~3の整数であり、nは3~500の整数であり、kは1以上の整数であり、jは0以上の整数であり、k+j≦500であり、kおよびjが付された括弧を付されたシロキサン単位の配列順は任意である)。」
との記載を、
「 前記オルガノポリシロキサンが、下記式(2)で表される、請求項5に記載の製造方法。
X-SiR32O-(SiR42O)n-SiR5R6R7(2)
(式中、Xは、1級、2級、又は3級アミノ基を1つ以上有する、炭素原子数1~20の有機基であり、R3、R4、R5、R6、及びR7は、互いに独立に、水素原子、又は炭素原子数1~10の一価炭化水素基であり、nは3~500の整数である)。」
との記載に訂正する。
請求項6を直接又は間接的に引用する請求項7及び8も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
訂正前の明細書の段落【0062】の「[実施例10]」との記載を、「[比較例10]」との記載に訂正する。
(6)訂正事項6
訂正前の明細書の段落【0063】の「[実施例11]」との記載を、「[比較例11]」との記載に訂正する。
(7)訂正事項7
訂正前の明細書の段落【0064】の「[実施例12]」との記載を、「[比較例12]」との記載に訂正する。
(8)訂正事項8
訂正前の明細書の段落【0074】の「[実施例1-12]」との記載を、「[実施例1-9及び比較例10-12]」との記載に訂正する。
(9)訂正事項9
訂正前の明細書の段落【0075】の「[実施例1-12]」との記載を、「[実施例1-9及び比較例10-12]」との記載に訂正する。
また、同段落の「[実施例10]」との記載を、「[比較例10]」との記載に訂正する。
(10)訂正事項10
訂正前の明細書の段落【0076】の「[実施例1-12]」との記載を、「[実施例1-9及び比較例10-12]」との記載に訂正する。
(11)訂正事項11
訂正前の明細書の段落【0077】【表1】の「実施例」の行の「10」、「11」及び「12」との記載を、それぞれ「比較例10」、「比較例11」及び「比較例12」との記載に訂正する。
2 本件訂正による訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「オルガノポリシロキサン」を式(1)又は式(2)で表されるオルガノポリシロキサンに限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)の特許請求の範囲の請求項2には、式(1)及び式(2)で表されるオルガノポリシロキサンが記載されているから、この訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載された式(1)~式(3)で表されるオルガノポリシロキサンを、式(2)で表されるオルガノポリシロキサンに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、この訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項5に記載された製造方法における「オルガノポリシロキサン」を式(1)又は式(2)で表されるオルガノポリシロキサンに限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、特許明細書等の特許請求の範囲の請求項6には、式(1)及び式(2)で表されるオルガノポリシロキサンが記載されているから、この訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項6に記載された式(1)~式(3)で表されるオルガノポリシロキサンを、式(2)で表されるオルガノポリシロキサンに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、この訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(5)一群の請求項について
本件訂正に係る訂正前の請求項1~8について、その請求項2~4及び8は直接又は間接的に請求項1を引用するものであり、請求項8は直接的・間接的に請求項5~7を引用するものであるから、訂正前の請求項1~8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。
(6)訂正事項5~11について
訂正事項5~11は、訂正事項1~4の訂正によって、請求項1~8に記載された発明の実施例には該当しなくなった例について、実施例との記載を比較例との記載に訂正するものであり、新たな効果の主張をしているわけではないので、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
また、この訂正は、実施例の一部を比較例とすることで、新たな効果を技術的事項として導入しているわけではないので、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
さらに、訂正事項5~11は、明細書の訂正であって、一群の請求項である請求項1~8に係る訂正であるところ、本件訂正の請求は、一群の請求項の全てについてされている。
(7)独立特許要件について
本件特許異議申立においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~8に係る特許に対して特許異議の申立てがされているから、訂正後の請求項1~8に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。
3 まとめ
以上のとおり、訂正事項1~11による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明8」といい、併せて「本件発明」ともいうことがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
カルボキシ基を有するセルロースナノファイバーと、少なくとも1のアミノ基を有し且つアルコキシシリル基を有しないオルガノポリシロキサンとが結合してなる疎水性セルロースナノファイバーであって、前記カルボキシ基を有するセルロースナノファイバーがカルボキシ基含有量0.1mmol/g~3.0mmol/gを有し、当該セルロースナノファイバーと前記オルガノポリシロキサンとを、該セルロースナノファイバーのカルボキシ基の個数に対する前記オルガノポリシロキサンのアミノ基の個数比が0.3以上となる配合比で結合させて成る、疎水性セルロースナノファイバーにおいて、
前記オルガノポリシロキサンが、下記式(1)又は下記式(2)で表される、前記疎水性セルロースナノファイバー
X-Si(OSiR13)mR23-m (1)
X-SiR32O-(SiR42O)n-SiR5R6R7 (2)
(式中、Xは、1級、2級、又は3級アミノ基を1つ以上有する、炭素原子数1~20の有機基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、及びR7は、互いに独立に、水素原子、又は炭素原子数1~10の一価炭化水素基であり、mは1~3の整数であり、nは3~500の整数である)。
【請求項2】
前記オルガノポリシロキサンが、下記式(2)で表される、請求項1に記載の疎水性セルロースナノファイバー。
X-SiR32O-(SiR42O)n-SiR5R6R7(2)
(式中、Xは、1級、2級、又は3級アミノ基を1つ以上有する、炭素原子数1~20の有機基であり、R3、R4、R5、R6、及びR7は、互いに独立に、水素原子、又は炭素原子数1~10の一価炭化水素基であり、nは3~500の整数である)。
【請求項3】
前記オルガノポリシロキサンが前記式(2)で表される化合物であって、Xは炭素原子数1~6のアミノアルキル基であり、R3、R4、R5、R6、及びR7は、互いに独立に、炭素原子数1~4のアルキル基であり、nは10~100の整数である、請求項2に記載の疎水性セルロースナノファイバー。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の疎水性セルロースナノファイバーを含む有機溶媒分散液。
【請求項5】
下記工程1~4を含む、疎水性セルロースナノファイバーの有機溶媒分散液の製造方法であって、
工程1:カルボン酸塩を有するセルロースナノファイバーを水系溶媒に分散させた分散物に酸を添加してカルボキシ基含有セルロースナノファイバーとし、第1のゲルを得る工程、
工程2:前記第1のゲルを水で洗浄する工程、
工程3:前記工程2で得られるゲル中の水系溶媒を極性有機溶媒で置換し、第2のゲルを得る工程、
及び、
工程4:前記第2のゲル、アミノ基を少なくとも1つ有し且つアルコキシシリル基を有さないオルガノポリシロキサン、及びさらに有機溶媒を混合してセルロースナノファイバーを解繊して、疎水性セルロースナノファイバーの有機溶媒分散液を得る工程を含み、 前記カルボキシ基含有セルロースナノファイバーが0.1mmol/g~3.0mmol/gとなる量のカルボキシ基を有し、前記工程4において混合するオルガノポリシロキサンの量が、前記カルボキシ基含有セルロースナノファイバー中のカルボキシ基の数に対する該オルガノポリシロキサン中のアミノ基の数の個数比0.3以上となる量であることを特徴とする、前記製造方法において、
前記オルガノポリシロキサンが、下記式(1)又は下記式(2)で表される、前記製造方法
X-Si(OSiR13)mR23-m (1)
X-SiR32O-(SiR42O)n-SiR5R6R7 (2)
(式中、Xは、1級、2級、又は3級アミノ基を1つ以上有する、炭素原子数1~20の有機基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、及びR7は、互いに独立に、水素原子、又は炭素原子数1~10の一価炭化水素基であり、mは1~3の整数であり、nは3~500の整数である)。
【請求項6】
前記オルガノポリシロキサンが、下記式(2)で表される、請求項5に記載の製造方法。
X-SiR32O-(SiR42O)n-SiR5R6R7(2)
(式中、Xは、1級、2級、又は3級アミノ基を1つ以上有する、炭素原子数1~20の有機基であり、R3、R4、R5、R6、及びR7は、互いに独立に、水素原子、又は炭素原子数1~10の一価炭化水素基であり、nは3~500の整数である)。
【請求項7】
前記オルガノポリシロキサンが前記式(2)で表される化合物であって、Xは炭素原子数1~6のアミノアルキル基であり、R3、R4、R5、R6、及びR7は、互いに独立に、炭素原子数1~4のアルキル基であり、nは10~100の整数である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の製造方法において、工程4の後に有機溶媒を除去して疎水性セルロースナノファイバーを得る工程を更に含む、請求項1~4のいずれか1項記載の疎水性セルロースナノファイバーの製造方法。」
第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人の申立理由は次の申立理由1~申立理由4からなる。
[申立理由1]特許法第29条第1項第3号(同法第113条第1項第2号)
訂正前の請求項1、2、4~6及び8に係る発明は、出願時の技術常識等(甲第2号証~甲第6号証)を考慮して、甲第1号証に記載された発明又は記載されたに等しい発明である。
[申立理由2]特許法第29条第2項(同法第113条第1項第2号)
訂正前の請求項1~8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づき、甲第7号証及び出願時の技術常識等(甲第2号証~甲第6号証)を適宜参酌すれば、当業者が容易に発明をすることができたものである。
申立理由1及び申立理由2について、提出された証拠は次のとおりである。
甲第1号証:特開2018-178309号公報
甲第2号証:テクニカルデータシート DOWSILTM SF 8417 Fluid、2021年、The Dow Chemical Company
甲第3号証:テクニカルデータシート DOWSILTM FZ-3760、2021年、The Dow Chemical Company
甲第4号証:安全データシート DOWSILTM SF 8417 Fluid、ダウ・東レ株式会社、発行日:2022年2月28日、印刷日:2023年11月8日
甲第5号証:安全データシート DOWSILTM FZ-3760、ダウ・東レ株式会社、発行日:2021年11月26日、印刷日:2023年11月6日
甲第6号証:信越シリコーン シリコーンオイル KF-96 性能試験結果、信越化学工業株式会社、2014年5月、pp.1~11
甲第7号証:特開2017-52737号公報
以下では、甲第1号証~甲第7号証を「甲1」~「甲7」ということがある。
[申立理由3]特許法第36条第6項第2号(同法第113条第1項第4号)
本件特許請求の範囲の記載は不明確であり、訂正前の請求項1~8に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
申立理由3について、具体的に指摘されている不備の概要は次のとおりである。
訂正前の請求項1~8に係る発明は、いずれも「疎水性セルロースナノファイバー」に関する発明であるが、ここでいう「疎水性」が如何なる程度のものであるかが定義されておらず不明確である。
[申立理由4]特許法第36条第6項第1号(同法第113条第1項第4号)
本件特許請求の範囲の記載は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、訂正前の請求項1~8に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
申立理由4について、具体的に指摘されている不備の概要は次のとおりである。
(i)CNFに結合させるオルガノポリシロキサンの種類によっては、必ずしも高い疎水性が得られるかは不明であり、当業者であっても本件実施例で示された以外の化合物で高い疎水性が得られ、同様に所望の課題を解決できるとは理解できない。本件実施例で示された特定の化合物の記載から「少なくとも1のアミノ基を有し且つアルコキシシリル基を有しないオルガノポリシロキサン」や式(1)~(3)の化合物という、多種多様な化合物群の全てにまで拡張ないし一般化することはできない。
また、そもそも「疎水性」の意味が曖昧では、どの程度の疎水性であれば本件の課題が解決できるのかも不明である。
(ii)本件比較例4では、特に極性の低い有機溶媒への再分散性に優れるとされる(甲1の段落0050) 式(2)の化合物を用いた場合であっても、アミノ基/カルボキシ基が0.26(請求項の有効数字に合わせ四捨五入すると0.3)となる場合には所望の課題を解決できないとされており(特許明細書等の表2)、訂正前の請求項1~8に係る発明には所望の課題を解決できないものが含まれている。
また、本件実施例で所望の課題を解決できたとされるアミノ基/カルボキシ基の個数比は、酸化CNFのカルボキシ基量が1.6mmol/gの場合における個数比である(特許明細書等の段落0052)。同じ個数比の場合、カルボキシ基量が変われば「CNF疎水化に効果的に作用している」とされる(特許明細書等の段落0083)アミノ基の量も変わるのであるから、1.6mmol/g以外のカルボキシ基量の場合においても同じ個数比の範囲内(0.3以上)で所望の課題が解決できるとは理解できない。
2 取消理由の概要
令和6年2月20日付けの取消理由通知で通知した取消理由は、次の取消理由1及び取消理由2からなる。
[取消理由1](新規性)
訂正前の請求項1、2、4~6及び8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、訂正前の請求項1、2、4~6及び8に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
[理由2](進歩性)
訂正前の請求項1~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記甲1及び甲7に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1~8に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
取消理由1及び取消理由2について、提示した証拠は次のとおりである。
甲1:特開2018-178309号公報(特許異議申立人が提示した甲1)
甲2:テクニカルデータシート DOWSILTM SF 8417 Fluid、2021年、The Dow Chemical Company(同甲2)
甲3:テクニカルデータシート DOWSILTM FZ-3760、2021年、The Dow Chemical Company(同甲3)
甲4:安全データシート DOWSILTM SF 8417 Fluid、ダウ・東レ株式会社、発行日:2022年2月28日、印刷日:2023年11月8日(同甲4)
甲5:安全データシート DOWSILTM FZ-3760、ダウ・東レ株式会社、発行日:2021年11月26日、印刷日:2023年11月6日(同甲5)
甲6:信越シリコーン シリコーンオイル KF-96 性能試験結果、信越化学工業株式会社、2014年5月、pp.1~11(同甲6)
甲7:特開2017-52737号公報(同甲7)
第5 当審合議体の判断
以下において「・・・」は記載の省略を表す。
1 甲1~甲7の記載事項
(1)甲1
甲1には以下の記載がある。
甲1a)「【請求項1】
カルボキシ基含有量が0.1mmol/g以上であるセルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上にシリコーン化合物が修飾基として結合されてなるセルロース繊維複合体。
【請求項2】
セルロース繊維複合体が、セルロース繊維のカルボキシ基に修飾基が結合されたものである、請求項1に記載のセルロース繊維複合体。
【請求項3】
シリコーン化合物がアミノ変性シリコーン化合物である、請求項1又は2に記載のセルロース繊維複合体。
【請求項4】
セルロース繊維複合体の平均繊維径が0.1~200nmである、請求項1~3のいずれか1項に記載のセルロース繊維複合体。」
甲1b)「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0005】
本発明は、膜を形成した場合の感触に優れ、べたつきが生じないセルロース繊維複合体に関する。
・・・
【0009】
本発明のセルロース繊維複合体は、有機媒体で膨潤させたゲル膜(単に「膜」ともいう)の形態とした場合、膜の感触が良好でべたつきがない。かかる効果を発揮するメカニズムは定かではないが、セルロース繊維が均一なネットワークを形成した結果、強固に有機媒体を保持したためであると推定できる。
【0010】
(セルロース繊維)
原料のセルロース繊維としては、環境面から天然セルロース繊維が好ましく、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、本発明に用いるセルロース繊維は、所定量のカルボキシ基を有するセルロース繊維(以下、酸化セルロース繊維ともいう。)であり、セルロース繊維を酸化することにより得ることができる。」
甲1c)「【0013】
(カルボキシ基含有量)
本発明のセルロース繊維複合体を構成するセルロース繊維は、カルボキシ基含有量が0.1mmol/g以上であるが、安定な微細化及び修飾基導入の観点から、好ましくは0.4mmol/g以上、より好ましくは0.6mmol/g以上、更に好ましくは0.8mmol/g以上である。また、取り扱い性を向上させる観点から、好ましくは3mmol/g以下、より好ましくは2mmol/g以下、更に好ましくは1.8mmol/g以下である。なお、「カルボキシ基含有量」とは、セルロース繊維を構成するセルロース中のカルボキシ基の総量を意味し、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。」
甲1d)「【0017】
本発明に用いるシリコーン化合物としては、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーンなどが挙げられ、反応基の位置はシリコーン化合物の側鎖でも末端でもよい。これらの中では、感触がよく、べたつきが生じない膜を得る観点から、好ましくはアミノ変性シリコーンである。
【0018】
(アミノ変性シリコーン化合物)
アミノ変性シリコーン化合物としては、25℃での動粘度が10~20,000mm2/s、アミノ当量400~8,000g/molのアミノ変性シリコーン化合物が好ましいものとして挙げられる。
【0019】
25℃での動粘度はオストワルト型粘度計で求めることができ、感触がよく、べたつきが生じない膜を得る観点から、より好ましくは200~10,000mm2/s、更に好ましくは500~5,000mm2/sである。
【0020】
また、アミノ当量は、感触がよく、べたつきが生じない膜を得る観点から、好ましくは400~8,000g/mol、より好ましくは600~5,000g/mol、更に好ましくは800~3,000g/molである。なお、アミノ当量は、窒素原子1個当りの分子量であり、アミノ当量(g/mol)=質量平均分子量/1分子あたりの窒素原子数で求められる。ここで質量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーでポリスチレンを標準物質として求めた値であり、窒素原子数は元素分析法により求めることができる。
【0021】
アミノ変性シリコーン化合物の具体例として、一般式(a1)で表される化合物が挙げられる。
【0022】
【化1】
[図:0001418224000001.jpg]
【0023】
〔式中、R1aは炭素数1~3のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1~3のアルコキシ基又は水素原子から選ばれる基を示し、感触がよく、べたつきが生じない膜を得る観点から、好ましくはメチル基又はヒドロキシ基である。R2aは炭素数1~3のアルキル基、ヒドロキシ基又は水素原子から選ばれる基であり、感触がよく、べたつきが生じない膜を得る観点から、好ましくはメチル基又はヒドロキシ基である。Bは少なくとも一つのアミノ基を有する側鎖を示し、R3aは炭素数1~3のアルキル基又は水素原子を示す。x及びyはそれぞれ平均重合度を示し、該化合物の25℃の動粘度及びアミノ当量が上記範囲になるように選ばれる。尚、R1a、R2a、R3aはそれぞれ同一でも異なっていても良く、また複数個のR2aは同一でも異なっていても良い。〕
【0024】
一般式(a1)の化合物において、感触がよく、べたつきが生じない膜を得る観点から、xは好ましくは10~10,000の数、より好ましくは20~5,000の数、更に好ましくは30~3,000の数である。yは好ましくは1~1,000の数、より好ましくは1~500の数、更に好ましくは1~200の数である。一般式(a1)の化合物の質量平均分子量は、好ましくは2,000~1,000,000、より好ましくは5,000~100,000、更に好ましくは8,000~50,000である。
【0025】
一般式(a1)において、アミノ基を有する側鎖Bとしては、下記のものを挙げることができる。
-C3H6-NH2
-C3H6-NH-C2H4-NH2
-C3H6-NH-[C2H4-NH]e-C2H4-NH2
-C3H6-NH(CH3)
-C3H6-NH-C2H4-NH(CH3)
-C3H6-NH-[C2H4-NH]f-C2H4-NH(CH3)
-C3H6-N(CH3)2
-C3H6-N(CH3)-C2H4-N(CH3)2
-C3H6-N(CH3)-[C2H4-N(CH3)]g-C2H4-N(CH3)2
-C3H6-NH-cyclo-C5H11
(ここで、e、f、gは、それぞれ1~30の数である。)」
甲1e)「【0028】
本発明におけるアミノ変性シリコーン化合物としては、性能の点から、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のTSF4703(動粘度:1000、アミノ当量:1600)、TSF4708(動粘度:1000、アミノ当量:2800)、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製のSS-3551(動粘度:1000、アミノ当量:1600)、SF8457C(動粘度:1200、アミノ当量:1800)、SF8417(動粘度:1200、アミノ当量:1700)、BY16-209(動粘度:500、アミノ当量:1800)、BY16-892(動粘度:1500、アミノ当量:2000)、BY16-898(動粘度:2000、アミノ当量:2900)、FZ-3760(動粘度:220、アミノ当量:1600)、信越化学工業(株)製のKF8002(動粘度:1100、アミノ当量:1700)、KF867(動粘度:1300、アミノ当量:1700)、KF-864(動粘度:1700、アミノ当量:3800)、BY16-213(動粘度:55、アミノ当量:2700)、BY16-853U(動粘度:14、アミノ当量:450)が好ましい。( )内において、動粘度は25℃での測定値(単位:mm2/s)を示し、アミノ当量の単位はg/molである。」
甲1f)「【0039】
(微細化工程)
次に、第1の製造形態では、(必要により行われる精製工程後に)工程(1)で得られた酸化セルロース繊維を微細化する工程を行って、微細酸化セルロース繊維を得る。微細化工程では、精製工程を経た酸化セルロース繊維を溶媒中に分散させ、微細化処理を行うことが好ましい。
【0040】
分散媒としての溶媒は、水の他、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1~6、好ましくは炭素数1~3のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3~6のケトン;直鎖又は分岐状の炭素数1~6の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;炭素数2~5の低級アルキルエーテル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル等の極性溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができるが、微細化処理の操作性の観点から、水、炭素数1~6のアルコール、炭素数3~6のケトン、炭素数2~5の低級アルキルエーテル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、コハク酸メチルトリグリコールジエステル等の極性溶媒が好ましく、環境負荷低減の観点から、水がより好ましい。溶媒の使用量は、酸化セルロース繊維を分散できる有効量であればよく、特に制限はないが、酸化セルロース繊維に対して、好ましくは1~500質量倍、より好ましくは2~200質量倍使用することがより好ましい。
【0041】
微細化処理で使用する装置としては公知の分散機が好適に使用される。例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。また、微細化処理における反応物繊維の固形分濃度は50質量%以下が好ましい。
【0042】
かくして、セルロース構成単位のC6位の水酸基がアルデヒド基を経由してカルボキシ基へと選択的に酸化され、カルボキシ基含有量が0.1mmol/g以上のセルロースからなる、好ましくは平均繊維径0.1~200nmの微細化された微細酸化セルロース繊維を得ることができる。」
甲1g)「【0045】
シリコーン化合物の使用量は、セルロース繊維複合体における修飾基の所望結合量により決めることができるが、反応性の観点から、酸化セルロース繊維に含有されるカルボキシ基1molに対して、アミン基が、好ましくは0.01mol以上、より好ましくは0.1mol以上、更に好ましくは0.5mol以上、更に好ましくは0.7mol以上、更に好ましくは1mol以上であり、製品純度の観点から、好ましくは50mol以下、より好ましくは20mol以下、更に好ましくは10mol以下となる量用いる。なお、前記範囲に含まれる量の化合物を一度に反応に供しても、分割して反応に供してもよい。化合物が、モノアミンの場合は、上記のアミン基とアミンとは同じである。」
甲1h)「【0065】
得られたセルロース繊維複合体は、上記後処理を行った後の分散液の状態で使用することもできるし、あるいは乾燥処理等により該分散液から溶媒を除去して、乾燥した粉末状のセルロース繊維複合体を得て、これを使用することもできる。ここで「粉末状」とは、セルロース繊維複合体が凝集した粉末状であり、セルロース粒子を意味するものではない。」
甲1i)「【0076】
<工程1>
本発明のセルロース繊維複合体と有機媒体とを含有する分散体は、これらの成分と溶媒とを混合することにより調製することができる。
【0077】
溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコール、エタノール、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサン等が挙げられる。」
甲1j)「【実施例】
【0090】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。なお、この実施例は、単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。例中の部は、特記しない限り質量部である。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「室温」とは25℃を示す。
【0091】
〔セルロース繊維及びセルロース繊維複合体の平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比〕
セルロース繊維又はセルロース繊維複合体に水を加えて、その濃度が0.0001質量%の分散液を調製し、該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM、Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製、プローブはナノセンサーズ社製Point Probe(NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維又はセルロース繊維複合体の繊維高さを測定する。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を100本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。繊維方向の距離より、平均繊維長を算出する。平均アスペクト比は平均繊維長/平均繊維径より算出し、標準偏差も算出する。
【0092】
〔セルロース繊維及びセルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量〕
乾燥質量0.5gのセルロース繊維又はセルロース繊維複合体を100mLビーカーにとり、イオン交換水もしくはメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製し、セルロース繊維又はセルロース繊維複合体が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名「AUT-710」)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、セルロース繊維又はセルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量を算出する。
カルボキシ基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/セルロース繊維又はセルロース繊維複合体の質量(0.5g)
【0093】
〔酸化セルロース繊維及びセルロース繊維複合体のアルデヒド基含有量〕
ビーカーに、酸化セルロース繊維又はセルロース繊維複合体100.0g(固形分濃度1.0質量%)、酢酸緩衝液(pH4.8)、2-メチル-2-ブテン0.33g、亜塩素酸ナトリウム0.45gを加え室温で16時間撹拌して、アルデヒド基の酸化処理を行う。反応終了後、イオン交換水にて洗浄を行い、アルデヒド基を酸化処理した酸化セルロース繊維又はセルロース繊維複合体を得る。反応液を凍結乾燥処理し、得られた乾燥品を酸化セルロース繊維又はセルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量を上記に記載の方法で測定し、アルデヒド基を酸化処理した酸化セルロース繊維又はセルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量を算出する。続いて、式1にて酸化セルロース繊維又はセルロース繊維複合体のアルデヒド基含有量を算出する。
【0094】
アルデヒド基含有量(mmol/g)=(アルデヒド基を酸化処理した酸化セルロース繊維又はセルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量)-(酸化セルロース繊維又はセルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量)・・・式1
【0095】
〔分散液中の固形分濃度〕
ハロゲン水分計MOC-120H(島津製作所社製)を用いて行う。サンプル1gに対して150℃恒温で30秒ごとの測定を行い、質量減少が0.1%以下となった値を固形分濃度とする。
【0096】
〔セルロース繊維複合体の修飾基の平均結合量及び導入率(イオン結合)〕
修飾基の結合量を次のIR測定方法により求め、下記式によりその平均結合量及び導入率を算出する。IR測定は、具体的には、乾燥させたセルロース繊維又はセルロース繊維複合体を赤外吸収分光装置(IR)Nicolet 6700(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いATR法にて測定し、次式により、修飾基の平均結合量及び導入率を算出する。
修飾基の結合量(mmol/g)=[セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)]×[(セルロース繊維の1720cm-1のピーク強度 - 修飾基導入後のセルロース繊維複合体の1720cm-1のピーク強度)÷セルロース繊維の1720cm-1のピーク強度]
1720cm-1のピーク強度:カルボン酸のカルボニル基に由来するピーク強度
修飾基の導入率(%)={修飾基の結合量(mmol/g)/導入前のセルロース繊維中のカルボキシ基含有量(mmol/g)}×100
【0097】
〔セルロース繊維複合体の修飾基の平均結合量及び導入率(アミド結合)〕
修飾基の平均結合量を下記式により算出する。
修飾基の結合量(mmol/g)=修飾基導入前のセルロース繊維中のカルボキシ基含有量(mmol/g)-修飾基導入後のセルロース繊維複合体中のカルボキシ基含有量(mmol/g)
修飾基の導入率(%)={修飾基の結合量(mmol/g)/導入前のセルロース繊維中のカルボキシ基含有量(mmol/g)}×100
【0098】
〔セルロース繊維分散液の作製〕
調製例1(天然セルロース繊維にN-オキシル化合物を作用させて得られる酸化セルロース繊維の分散液)
針葉樹の漂白クラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ社製、商品名「Machenzie」、CSF650ml)を天然セルロース繊維として用いた。TEMPOとしては、市販品(ALDRICH社製、Free radical、98質量%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウムとしては、市販品(和光純薬工業社製)を用いた。臭化ナトリウムとしては、市販品(和光純薬工業社製)を用いた。
【0099】
まず、針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分に攪拌した後、該パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%をこの順で添加した。pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持した。反応を120分(20℃)行った後、水酸化ナトリウムの滴下を停止し、酸化パルプを得た。得られた酸化パルプをイオン交換水で十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った。その後、酸化パルプ3.9gとイオン交換水296.1gを高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバーストラボ HJP-2 5005)を用いて245MPaで微細化処理を2回行い、酸化セルロース繊維分散液(固形分濃度1.3質量%)を得た。このセルロース繊維の平均繊維径は3.3nm、カルボキシ基含有量は1.62mmol/gであった。
【0100】
調製例2(アルデヒド基を還元処理した酸化セルロース繊維の分散液)
調製例1で得られた酸化セルロース繊維分散液3846.15g(固形分濃度1.3質量%)をビーカーに投入し、ここに1M水酸化ナトリウム水溶液を加えpH10程度にした後、水素化ホウ素ナトリウムを2.63g仕込み、室温下3時間反応させアルデヒド還元処理を行った。反応終了後、1M塩酸水溶液を405g、イオン交換水を4286g加え0.7質量%の水溶液とし、室温下1時間反応させプロトン化を行い、反応終了後イオン交換水にて洗浄し塩酸及び塩を除去した。最後にイソプロピルアルコールで溶媒置換し、アルデヒド基を還元処理した酸化セルロース繊維分散液を得た。得られたアルデヒド基を還元処理した酸化セルロース繊維分散液(固形分濃度2.0質量%)の平均繊維径は3.3nm、カルボキシ基含有量は1.62mmol/gであった。
【0101】
〔セルロース繊維複合体の作製〕
製造例1
マグネティックスターラー、攪拌子を備えたビーカーに、調製例2で得られた酸化セルロース繊維分散液300g(固形分濃度2.0質量%)を仕込んだ。続いて、アミノ変性シリコーン(BY16-209、東レ・ダウコーニング株式会社製、「シリコーン1」と略記する。)を、酸化セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミノ基0.5molに相当する量を仕込み、イソプロピルアルコール100gを添加し、これらの混合物を室温(25℃)で14時間反応させた。反応終了後ろ過し、イソプロピルアルコールにて洗浄後、超音波ホモジナイザー(US-300E、日本精機製作所社製)にて2分間攪拌し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバーストラボ HJP-2 5005)にて100MPaで1パス、150MPaで9パス微細処理させることで、酸化セルロース繊維に、アミノ変性シリコーンがイオン結合を介して連結したセルロース繊維複合体を得た。得られたセルロース繊維複合体は、イソプロピルアルコール分散液の状態であった。修飾基の導入率はセルロース繊維のカルボキシ基の40%であった。得られたセルロース繊維複合体の平均繊維径は3.3nmであった。
【0102】
製造例2~5及び7
シリコーン化合物等及び仕込み量を表1に示す通りに変更した点以外は製造例1と同様の方法で、セルロース繊維複合体を得た。なお、各製造例で用いたシリコーン化合物等の詳細は次の通りである。
シリコーン1:東レ・ダウコーニング株式会社製、BY16-209(動粘度:500、アミノ当量:1800)
シリコーン2:東レ・ダウコーニング株式会社製、SF8417(動粘度:1200、アミノ当量:1700)
シリコーン3:東レ・ダウコーニング株式会社製、FZ-3760(動粘度:220、アミノ当量:1600)
ドデシルアミン:和光純薬製
ポリオキシアルキレングリコールアミン:HUNTSMAN製、JEFFAMINE(登録商標) M2070
【0103】
製造例6
マグネティックスターラー、攪拌子を備えたビーカーに、製造例1で得られたセルロース繊維複合体の分散液300g(固形分濃度1.2質量%)を仕込んだ。続いて、ドデシルアミンを、セルロース繊維複合体のカルボキシ基1molに対してアミノ基0.5molに相当する量を仕込み、イソプロピルアルコール100gを添加し、これらの混合物を室温(25℃)で14時間反応させた。反応終了後は、製造例1と同様にしてアミノ変性シリコーンおよびドデシルアミンがイオン結合を介して連結したセルロース繊維複合体を得た。
【0104】
表1に、各製造例における原料等をまとめた。
【0105】
【表1】
[図:0001418224000002.jpg]
【0106】
表1中の仕込み量とはカルボキシ基1molに対するアミノ基の量(mol)である。」
(2)甲2
甲2には以下の記載がある。
甲2a)「
[図:0001418224000003.jpg]
」(1頁)
(3)甲3
甲3には以下の記載がある。
甲3a)「
[図:0001418224000004.jpg]
」(1頁)
(4)甲4
甲4には以下の記載がある。
甲4a)「
[図:0001418224000005.jpg]
・・・
[図:0001418224000006.jpg]
[図:0001418224000007.jpg]
」(1~3頁)
(5)甲5
甲5には以下の記載がある。
甲5a)「
[図:0001418224000008.jpg]
・・・
[図:0001418224000009.jpg]
[図:0001418224000010.jpg]
」(1~3頁)
(6)甲6
甲6には以下の記載がある。
甲6a)「
[図:0001418224000011.jpg]
[図:0001418224000012.jpg]
」(4~5頁)
(7)甲7
甲7には以下の記載がある。
甲7a)「【要約】
【課題】
簡便に高純度の片末端アミノシリコーンを製造する方法、並びに使用される出発化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】
下記一般式[III]で表される片末端アミノシリコーンの製造方法であって、
R’R2SiO(R2SiO)mR2SiC3H6NH2 [III]
(式中、mは1~200の整数であり、R’は炭素数1~4のアルキル基であり、Rは炭素数1~10のアルキル基である)
下記式[II]で表される化合物を
R’R2SiO(R2SiO)mR2SiC3H6N(SiR3)2 [II]
(式中、m、R’、及びRは上記の通りである)
脱シリル化反応させることで上記一般式[III]で表される片末端アミノシリコーンを得る工程を含む、前記製造方法。」
甲7b)「【0003】
片末端アミノシリコーンは公知物質である。例えば、特許文献1には、式:R’Me2SiO(Me2SiO)mMe2SiC3H6NH2で表され、mが34~699である片末端アミノシリコーンが記載されている。特許文献1は、BuLiを開始剤としてヘキサメチルシクロトリシロキサンのリビング重合をして得られた化合物の末端にある-OSiMe2OLiと停止剤であるFSiMe2C3H6NH2とを反応させることで該片末端アミノシリコーンを製造する方法を記載している。
【0004】
特許文献2には、式:R’Me2SiO(Me2SiO)mMe2SiHで表され、mが11である片末端ハイドロジェンポリシロキサンとアリルアミンを酸化白金触媒存在下で反応させ、片末端アミノシリコーンを製造する方法を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-128937号公報
【特許文献2】特表2012-530824号公報」
甲7c)「【0035】
[実施例4]
片末端アミノシリコーンの合成
・・・
BuMe2SiO(Me2SiO)30Me2SiC3H6NH2 (6)」
2 取消理由通知で通知した取消理由について
取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について
(1)引用発明
甲1発明A及びB
甲1には、「カルボキシ基含有量が0.1mmol/g以上であるセルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上にシリコーン化合物が修飾基として結合されてなるセルロース繊維複合体」に関する発明が記載されているところ(摘記甲1a~甲1j)、その具体例である実施例として、調製例1及び2で得られた酸化セルロース繊維分散液からセルロース繊維複合体を作製した製造例4及び5が記載されている(摘記甲1j)。
したがって、当該製造例4及び5に係る発明として、甲1には、次に示す発明(以下「甲1発明A1」及び「甲1発明A2」という。)が記載されていると認める。
甲1発明A1:
「以下の製造方法により製造される、セルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上にアミノ変性シリコーン化合物が修飾基としてイオン結合を介して結合され、該修飾基の導入率がカルボキシ基の40%であり、平均繊維径が3.3nmであって、イソプロピルアルコール分散液の状態である、セルロース繊維複合体。
製造方法:マグネティックスターラー、攪拌子を備えたビーカーに、平均繊維径が3.3nmであり、カルボキシ基含有量が1.62mmol/gである酸化セルロース繊維分散液300g(固形分濃度2.0質量%)を仕込み、続いて、アミノ変性シリコーン(シリコーン2:東レ・ダウコーニング株式会社製、SF8417(動粘度:1200、アミノ当量:1700))を、酸化セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミノ基0.5molに相当する量を仕込み、イソプロピルアルコール100gを添加し、これらの混合物を室温(25℃)で14時間反応させ、反応終了後ろ過し、イソプロピルアルコールにて洗浄後、超音波ホモジナイザー(US-300E、日本精機製作所社製)にて2分間攪拌し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバーストラボ HJP-2 5005)にて100MPaで1パス、150MPaで9パス微細処理させる。」
甲1発明A2:
「以下の製造方法により製造される、セルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上にアミノ変性シリコーン化合物が修飾基としてイオン結合を介して結合され、該修飾基の導入率がカルボキシ基の40%であり、平均繊維径が3.3nmであって、イソプロピルアルコール分散液の状態である、セルロース繊維複合体。
製造方法:マグネティックスターラー、攪拌子を備えたビーカーに、平均繊維径が3.3nmであり、カルボキシ基含有量が1.62mmol/gである酸化セルロース繊維分散液300g(固形分濃度2.0質量%)を仕込み、続いて、アミノ変性シリコーン(シリコーン3:東レ・ダウコーニング株式会社製、FZ-3760(動粘度:220、アミノ当量:1600))を、酸化セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミノ基0.5molに相当する量を仕込み、イソプロピルアルコール100gを添加し、これらの混合物を室温(25℃)で14時間反応させ、反応終了後ろ過し、イソプロピルアルコールにて洗浄後、超音波ホモジナイザー(US-300E、日本精機製作所社製)にて2分間攪拌し 、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバーストラボ HJP-2 5005)にて100MPaで1パス、150MPaで9パス微細処理させる。」
また、甲1には、甲1発明A1及び甲1発明A2のセルロース繊維複合体の製造方法として、次に示す発明(以下「甲1発明B1」及び「甲1発明B2」という。)が記載されていると認める。
甲1発明B1:
「平均繊維径が3.3nm、カルボキシ基含有量が1.62mmol/gである、酸化セルロース繊維分散液3846.15g(固形分濃度1.3質量%)をビーカーに投入し、ここに1M水酸化ナトリウム水溶液を加えpH10程度にした後、水素化ホウ素ナトリウムを2.63g仕込み、室温下3時間反応させアルデヒド還元処理を行い、反応終了後、1M塩酸水溶液を405g、イオン交換水を4286g加え0.7質量%の水溶液とし、室温下1時間反応させプロトン化を行い、反応終了後イオン交換水にて洗浄し塩酸及び塩を除去し、最後にイソプロピルアルコールで溶媒置換し、アルデヒド基を還元処理した酸化セルロース繊維分散液を得、得られたアルデヒド基を還元処理した、平均繊維径が3.3nmであり、カルボキシ基含有量が1.62mmol/gである酸化セルロース繊維分散液300g(固形分濃度2.0質量%)を、マグネティックスターラー、攪拌子を備えたビーカーに仕込み、続いて、アミノ変性シリコーン(シリコーン2:東レ・ダウコーニング株式会社製、SF8417(動粘度:1200、アミノ当量:1700))を、酸化セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミノ基0.5molに相当する量を仕込み、イソプロピルアルコール100gを添加し、これらの混合物を室温(25℃)で14時間反応させ、反応終了後ろ過し、イソプロピルアルコールにて洗浄後、超音波ホモジナイザー(US-300E、日本精機製作所社製)にて2分間攪拌し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバーストラボ HJP-2 5005)にて100MPaで1パス、150MPaで9パス微細処理させる、セルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上にアミノ変性シリコーン化合物が修飾基としてイオン結合を介して結合され、該修飾基の導入率がカルボキシ基の40%であり、平均繊維径が3.3nmであって、イソプロピルアルコール分散液の状態である、セルロース繊維複合体の製造方法。」
甲1発明B2:
「平均繊維径が3.3nm、カルボキシ基含有量が1.62mmol/gである、酸化セルロース繊維分散液3846.15g(固形分濃度1.3質量%)をビーカーに投入し、ここに1M水酸化ナトリウム水溶液を加えpH10程度にした後、水素化ホウ素ナトリウムを2.63g仕込み、室温下3時間反応させアルデヒド還元処理を行い、反応終了後、1M塩酸水溶液を405g、イオン交換水を4286g加え0.7質量%の水溶液とし、室温下1時間反応させプロトン化を行い、反応終了後イオン交換水にて洗浄し塩酸及び塩を除去し、最後にイソプロピルアルコールで溶媒置換し、アルデヒド基を還元処理した酸化セルロース繊維分散液を得、得られたアルデヒド基を還元処理した、平均繊維径が3.3nmであり、カルボキシ基含有量が1.62mmol/gである酸化セルロース繊維分散液300g(固形分濃度2.0質量%)を、マグネティックスターラー、攪拌子を備えたビーカーに仕込み、続いて、アミノ変性シリコーン(シリコーン3:東レ・ダウコーニング株式会社製、FZ-3760(動粘度:220、アミノ当量:1600))を、酸化セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミノ基0.5molに相当する量を仕込み、イソプロピルアルコール100gを添加し、これらの混合物を室温(25℃)で14時間反応させ、反応終了後ろ過し、イソプロピルアルコールにて洗浄後、超音波ホモジナイザー(US-300E、日本精機製作所社製)にて2分間攪拌し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバーストラボ HJP-2 5005)にて100MPaで1パス、150MPaで9パス微細処理させる、セルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上にアミノ変性シリコーン化合物が修飾基としてイオン結合を介して結合され、該修飾基の導入率がカルボキシ基の40%であり、平均繊維径が3.3nmであって、イソプロピルアルコール分散液の状態である、セルロース繊維複合体の製造方法。」
(2)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明A1を対比する。
(ア)甲1発明A1における酸化セルロース繊維は、「カルボキシ基」を有するものであり、その「平均繊維径が3.3nm」であって、ナノサイズである。また、甲1発明A1に関して、製造される「セルロース繊維複合体」は、その「平均繊維径が3.3nm」であって、ナノサイズである。
甲1発明A1は、「セルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上にアミノ変性シリコーン化合物が修飾基としてイオン結合を介して結合され」るセルロース繊維複合体であるところ、当該アミノ変性シリコーン化合物は、SF8417であり、甲2に記載された化学構造式並びに甲4に記載された化学名を参照し、商標名の示す商品内容を考慮すると、「アミノ基を有し」、「アルコキシシリル基を有しないオルガノポリシロキサン」であるといえる。
以上のことから、甲1発明A1の「セルロース繊維複合体」は、本件発明1の「カルボキシ基を有するセルロースナノファイバーと、少なくとも1のアミノ基を有し且つアルコキシシリル基を有しないオルガノポリシロキサンとが結合してなる」「セルロースナノファイバー」に相当するといえる。
(イ)甲1発明A1の酸化セルロース繊維は、「カルボキシ基含有量が1.62mmol/g」であるから、本件発明1の「カルボキシ基含有量0.1mmol/g~3.0mmol/gを有」することに相当する。
(ウ)上述のとおり、甲1発明A1は、「セルロース繊維のカルボキシ基及び水酸基から選ばれる1種以上にアミノ変性シリコーン化合物が修飾基としてイオン結合を介して結合され」るセルロース繊維複合体であるところ、「酸化セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミノ基0.5molに相当する量を仕込」んで、「反応」させているから、本件発明1の「当該セルロースナノファイバーと前記オルガノポリシロキサンとを、該セルロースナノファイバーのカルボキシ基の個数に対する前記オルガノポリシロキサンのアミノ基の個数比が0.3以上となる配合比で結合させて成る」ことに相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明A1とは、
「カルボキシ基を有するセルロースナノファイバーと、少なくとも1のアミノ基を有し且つアルコキシシリル基を有しないオルガノポリシロキサンとが結合してなるセルロースナノファイバーであって、前記カルボキシ基を有するセルロースナノファイバーがカルボキシ基含有量0.1mmol/g~3.0mmol/gを有し、当該セルロースナノファイバーと前記オルガノポリシロキサンとを、該セルロースナノファイバーのカルボキシ基の個数に対する前記オルガノポリシロキサンのアミノ基の個数比が0.3以上となる配合比で結合させて成る、セルロースナノファイバー」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
「セルロースナノファイバー」について、本件発明1は「疎水性」と特定されているのに対し、甲1発明A1はかかる特定がされていない点。
<相違点2>
「オルガノポリシロキサン」について、本件発明1は「前記オルガノポリシロキサンが、下記式(1)又は下記式(2)で表される、前記疎水性セルロースナノファイバー
X-Si(OSiR13)mR23-m (1)
X-SiR32O-(SiR42O)n-SiR5R6R7 (2)
(式中、Xは、1級、2級、又は3級アミノ基を1つ以上有する、炭素原子数1~20の有機基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、及びR7は、互いに独立に、水素原子、又は炭素原子数1~10の一価炭化水素基であり、mは1~3の整数であり、nは3~500の整数である)」と特定されているのに対し、甲1発明A1は「アミノ変性シリコーン(シリコーン2:東レ・ダウコーニング株式会社製、SF8417(動粘度:1200、アミノ当量:1700))」である点。
そして、少なくとも上記相違点2は実質的な相違点である。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明であるとはいえない。
次に、上記相違点2について検討する。
甲1発明A1の「アミノ変性シリコーン」は、甲2の記載からみて、アミノ基をオルガノポリシロキサンの側鎖に有するものであり、アミノ基を片末端に有する(上記式(1)及び(2)におけるXは末端にある。)本件発明1のオルガノポリシロキサンとは異なるものである。
甲1には、「本発明に用いるシリコーン化合物としては、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーンなどが挙げられ、反応基の位置はシリコーン化合物の側鎖でも末端でもよい。これらの中では、感触がよく、べたつきが生じない膜を得る観点から、好ましくはアミノ変性シリコーンである。」との記載があり、シリコーン化合物としてアミノ変性シリコーンが好ましいこと、反応基の位置はシリコーン化合物の末端でもよいことが記載されているものの(摘記甲1d、【0017】)、具体的に記載されているアミノ変性シリコーン化合物(摘記甲1d、【0021】~【0025】、摘記甲1e、【0028】)は、いずれも上記式(1)及び(2)に該当する化合物ではなく、片末端アミノ変性シリコーンについての記載もない。
甲7には、式(2)と重複する式[III]で表される片末端アミノシリコーンが記載されているものの(摘記甲7a~甲7c)、甲7に係る発明は、簡便に高純度の片末端アミノシリコーンを製造する方法等に関するものであって(摘記甲7a)、膜を形成した場合の感触に優れ、べたつきが生じないセルロース繊維複合体を得ることを目的とする(摘記甲1b)甲1に係る発明とは、その目的・効果が異なるから、甲1に係る発明に用いるシリコーン化合物として、わざわざ甲7に記載の片末端アミノシリコーンを用いる動機付けがあるとはいえない。
仮に、甲1の上記【0017】の記載に基づいて、甲1発明A1のアミノ変性シリコーンを甲7に記載の片末端アミノシリコーンに代えることは当業者が容易になし得る技術的事項であるとして、その効果について、以下さらに検討する。
本件訂正により訂正された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に、「【0008】
上記のように、様々な有機溶媒、特に比誘電率の低い低極性溶媒にも再分散可能な疎水性CNFの開発は依然として重要な課題である。加えて、特許文献6に記載のTEMPO酸化型CNFのカルボニル基とプロピレンオキシド・エチレンオキシド共重合部を有するアミンとが反応したCNFでは、エーテル鎖が酸化されやすく、着色・分解しやすい等の問題もあった。
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、有機溶剤、特に非プロトン性有機溶媒に分散可能なセルロースナノファイバー、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、アミノ基を有し且つアルコキシシリル基を有しないオルガノポリシロキサンのアミノ基を、特定量比以上で、カルボキシ基含有セルロースナノファイバーのカルボキシ基とイオン結合させることにより、有機溶媒、特には非プロトン性有機溶媒に分散可能な、疎水性セルロースナノファイバーを提供できることを見出し、本発明を成すに至った。」と記載されるとおり、分散性、着色・分解等の従来の疎水性CNFの問題点に鑑みて、有機溶剤、特に非プロトン性有機溶媒に分散可能なセルロースナノファイバーを提供することを課題とし、アミノ基を有し且つアルコキシシリル基を有しないオルガノポリシロキサンのアミノ基を、特定量比以上で、カルボキシ基含有セルロースナノファイバーのカルボキシ基とイオン結合させることで上記課題を解決したものである。
そして、本件明細書等の【0013】に記載の「本発明によれば、有機溶媒、特に低極性有機溶媒に分散可能な疎水性セルロースナノファイバー、及び、その製造方法を提供することができる。さらに、本発明の疎水性CNFは、優れた耐熱性と耐黄変性を有することができる。」という効果を奏するものである。
かかる効果の点について本件明細書等には、「【0026】
特に直鎖状シロキサン鎖の片末端にのみアミノ基を有する式(2)で表されるオルガノポリシロキサンが好ましい。該オルガノポリシロキサンはCNF間で架橋を形成せず、加えて、直鎖状シロキサン鎖が螺旋構造を取ることで分子間相互作用を抑制する。そのため、該オルガノポリシロキサンが結合した疎水性CNFは有機溶媒への分散性に特に優れる。」として、分散性の観点から、式(2)の化合物が特に好ましいことが記載され、実施例において「【0087】
さらに、実施例13-15にて確認された通り、直鎖状シロキサン鎖の片末端にのみアミノ基を有するオルガノポリシロキサンを用いた疎水性CNF固体は、トルエンなどの無極性溶媒に対して優れた再分散性を示す。」として、片末端にのみアミノ基を有するオルガノポリシロキサンが再分散性に優れることが記載されている。
また、本件明細書等の表1を参酌すると、同程度のオルガノポリシロキサン化合物/酸化CNFにおいて、式(1)及び(2)の片末端にのみアミノ基を有するオルガノポリシロキサン(実施例1~9)は、側鎖にアミノ基を有するオルガノポリシロキサン(比較例10及び11)と比較して、耐黄変性に優れることが示されている。
一方、甲1及び甲7には、片末端アミノ変性シリコーンを用いたセルロース繊維複合体が分散性、耐黄変性の点において、優れたものであることは記載も示唆もされていない。
してみると、本件発明1は、当業者が甲1及び甲7に記載された事項から予測することができない、かつ顕著な効果を奏するものであるということができる。
以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1及び甲7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
甲1発明A2を引用発明として本件発明1と対比・判断した場合にも、甲3に記載された化学構造式並びに甲5に記載された化学名を参照し、商標名の示す商品内容を考慮すると、相違点2と同様の相違点が存在するから、甲1発明A1について対比・判断したのと同様である。
イ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1を直接的・間接的に引用して、本件発明1を技術的にさらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2及び4は、甲1に記載された発明であるとはいえず、本件発明2~4は、甲1及び甲7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件発明5について
本件発明5と甲1発明B1を対比する。
i)工程1について
甲1発明B1は、「平均繊維径が3.3nm、カルボキシ基含有量が1.62mmol/gである、酸化セルロース繊維分散液3846.15g(固形分濃度1.3質量%)をビーカーに投入し、ここに1M水酸化ナトリウム水溶液を加えpH10程度にした後、水素化ホウ素ナトリウムを2.63g仕込み、室温下3時間反応させアルデヒド還元処理を行い、反応終了後、1M塩酸水溶液を405g、イオン交換水を4286g加え0.7質量%の水溶液とし、室温下1時間反応させプロトン化を行」うものである。
上記「1M水酸化ナトリウム水溶液を加えpH10程度に」した際の、「平均繊維径が3.3nm、カルボキシ基含有量が1.62mmol/gである、酸化セルロース繊維」について、酸化セルロースのカルボキシ基はカルボン酸塩の状態であるといえるから、本件発明5の「カルボン酸塩を有するセルロースナノファイバー」に相当する。
上記「酸化セルロース繊維分散液」は、甲1の調製例1に記載される(甲1j、【0098】及び【0099】)とおり、イオン交換水を用いた分散液であるところ、アルデヒド還元処理によって分散液ではなくなるという理由はないから、本件発明5の「水系溶媒に分散させた分散物」に相当する。
上記「1M塩酸水溶液を405g、イオン交換水を4286g加え0.7質量%の水溶液とし、室温下1時間反応させプロトン化を行」うことは、本件発明5の「酸を添加してカルボキシ基含有セルロースナノファイバーと」することに相当する。
甲1発明B1において、「ゲルを得る」ことは特定されていないが、本件明細書等に「【0034】工程1では、上記カルボン酸塩含有CNFに含まれるナトリウム等のアルカリ金属を、酸を添加し中和する事で水素に置換し、カルボン酸型の基(-COOH基)とする。CNF水分散液に酸を加えて酸性にすると、CNFの分散性に寄与しているカルボン酸イオンが塩基となって水素を受け取り、カルボン酸型の基となる。その結果、カルボン酸イオン同士の荷電反発力が失われ、CNFが凝集してゲル化する。本発明においてこれを第1のゲルと称する。」と記載され、カルボン酸塩をカルボキシ基とすることで、セルロースナノファイバーが凝集してゲル化することが記載されており、甲1発明B1は、上述のとおり、アルデヒド還元処理を行った「酸化セルロース繊維分散液」について、「1M塩酸水溶液を405g、イオン交換水を4286g加え0.7質量%の水溶液とし、室温下1時間反応させプロトン化を行」うもの、すなわち、「酸を添加してカルボキシ基含有セルロースナノファイバーと」するものであるから、「ゲルを得」ているといえる。
したがって、甲1発明B1は本件発明5の工程1を備えている。
ii)工程2について
甲1発明B1は、酸化セルロース繊維分散液を得るための反応終了後に「イオン交換水にて洗浄」するものであるところ、上記iで述べたとおりであって、プロトン化(反応)によってゲルを得ているといえるから、ゲルを水で洗浄しているといえる。したがって、甲1発明B1は本件発明5の工程2を備えている。
iii)工程3について
上記iiで述べたとおり、甲1発明B1は、プロトン化(反応)によってゲルを得ているといえるところ、当該ゲルは、1M塩酸水溶液を405g、イオン交換水を4286g加えた0.7質量%の水溶液中で得られるものであるから、甲1発明Bにおける、「最後にイソプロピルアルコールで溶媒置換」する際に、「ゲル中の水系溶媒を極性有機溶媒で置換し、第2のゲルを得」ているといえる。したがって、甲1発明B1は本件発明5の工程3を備えている。
iv)工程4について
上記iiiで述べたとおり、甲1発明B1は、第2のゲルを得ているといえるところ、甲1発明B1はその後、当該第2のゲルを含むといえる酸化セルロース繊維分散液をビーカーに仕込み、続いて、「アミノ変性シリコーン(シリコーン2:東レ・ダウコーニング株式会社製、SF8417(動粘度:1200、アミノ当量:1700))」を仕込み、「イソプロピルアルコール」100gを添加し、これらの「混合物」を反応させ、反応終了後ろ過し等をした後、超音波ホモジナイザー(US-300E、日本精機製作所社製)にて2分間攪拌し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバーストラボ HJP-2 5005)にて100MPaで1パス、150MPaで9パス「微細処理」させて、「イソプロピルアルコール分散液の状態である、セルロース繊維複合体」を製造するものである。
ここで、上記アで述べたとおり、甲1発明B1の「アミノ変性シリコーン」(シリコーン2)は、本件発明5の「アミノ基を少なくとも1つ有し且つアルコキシシリル基を有さないオルガノポリシロキサン」に相当する。
そして、甲1発明B1において、「イソプロピルアルコール100gを添加し」、「混合物」とすることは、本件発明5の「さらに有機溶媒を混合」することに相当する。
また、甲1発明B1の「微細処理」はアミノ変性シリコーンと反応した酸化セルロース繊維に施されるものであるといえるところ、当該処理は、本件発明5の「セルロースナノファイバーを解繊処理」することに相当する。
さらに、甲1発明B1において製造される「セルロース繊維複合体」は、本件発明5の「セルロースナノファイバー」に相当し、当該セルロース繊維複合体は、「イソプロピルアルコール分散液の状態である」から、「有機溶媒分散液を得」ることに相当する。
してみると、甲1発明B1は、本件発明5が「セルロースナノファイバー」を「疎水性」と特定している点を除いて本件発明5の工程4を備えている。
v)その他の点について
甲1発明B1において、アルデヒド基を還元処理した後の「酸化セルロース繊維」の「カルボキシ基含有量が1.62mmol/gである」ことは、本件発明5の「前記カルボキシ基含有セルロースナノファイバーが0.1mmol/g~3.0mmol/gとなる量のカルボキシ基を有」することに相当する。
甲1発明B1において、「アミノ変性シリコーン」を、「酸化セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミノ基0.5molに相当する量を仕込」むことは、本件発明5の「前記工程4において混合するオルガノポリシロキサンの量が、前記カルボキシ基含有セルロースナノファイバー中のカルボキシ基の数に対する該オルガノポリシロキサン中のアミノ基の数の個数比0.3以上となる量である」ことに相当する。
そして、甲1発明B1が「イソプロピルアルコール分散液の状態である、セルロース繊維複合体の製造方法」であることは、本件発明5の「セルロースナノファイバーの有機溶媒分散液の製造方法」に相当する。
してみると、本件発明5と甲1発明B1とは、
「下記工程1~4を含む、セルロースナノファイバーの有機溶媒分散液の製造方法であって、
工程1:カルボン酸塩を有するセルロースナノファイバーを水系溶媒に分散させた分散物に酸を添加してカルボキシ基含有セルロースナノファイバーとし、第1のゲルを得る工程、
工程2:前記第1のゲルを水で洗浄する工程、
工程3:前記工程2で得られるゲル中の水系溶媒を極性有機溶媒で置換し、第2のゲルを得る工程、
及び、
工程4:前記第2のゲル、アミノ基を少なくとも1つ有し且つアルコキシシリル基を有さないオルガノポリシロキサン、及びさらに有機溶媒を混合してセルロースナノファイバーを解繊して、セルロースナノファイバーの有機溶媒分散液を得る工程を含み、 前記カルボキシ基含有セルロースナノファイバーが0.1mmol/g~3.0mmol/gとなる量のカルボキシ基を有し、前記工程4において混合するオルガノポリシロキサンの量が、前記カルボキシ基含有セルロースナノファイバー中のカルボキシ基の数に対する該オルガノポリシロキサン中のアミノ基の数の個数比0.3以上となる量であることを特徴とする、前記製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3>
「セルロースナノファイバー」について、本件発明5は「疎水性」と特定されているのに対し、甲1発明A1はかかる特定がされていない点。
<相違点4>
「オルガノポリシロキサン」について、本件発明5は「前記オルガノポリシロキサンが、下記式(1)又は下記式(2)で表される、前記疎水性セルロースナノファイバー
X-Si(OSiR13)mR23-m (1)
X-SiR32O-(SiR42O)n-SiR5R6R7 (2)
(式中、Xは、1級、2級、又は3級アミノ基を1つ以上有する、炭素原子数1~20の有機基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、及びR7は、互いに独立に、水素原子、又は炭素原子数1~10の一価炭化水素基であり、mは1~3の整数であり、nは3~500の整数である)」と特定されているのに対し、甲1発明B1は「アミノ変性シリコーン(シリコーン2:東レ・ダウコーニング株式会社製、SF8417(動粘度:1200、アミノ当量:1700))」である点。
そして、少なくとも上記相違点4は実質的な相違点である。
したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明5は甲1に記載された発明であるとはいえない。
また、相違点4は、上記相違点2と同様の相違点であるから、上記アで述べたのと同様の理由により、相違点3について検討するまでもなく、本件発明5は、甲1及び甲7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
甲1発明B2を引用発明として本件発明5と対比・判断した場合にも、甲3に記載された化学構造式並びに甲5に記載された化学名を参照し、商標名の示す商品内容を考慮すると、相違点4と同様の相違点が存在するから、甲1発明B1について対比・判断したのと同様である。
エ 本件発明6~8について
本件発明6~8は、本件発明5を直接的・間接的に引用して、本件発明5を技術的にさらに限定するものであるから、本件発明5と同様に、本件発明6及び8は、甲1に記載された発明であるとはいえず、本件発明6~8は、甲1及び甲7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
オ まとめ
以上のとおりであるから、取消理由1及び取消理由2は理由がない。
3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
申立理由1及び申立理由2は、取消理由通知において採用した理由である。
(2)申立理由3(明確性)について
本件発明1の「疎水性セルロースナノファイバー」の「疎水性」はセルロースナノファイバーが有する性質を特定する記載である。
本件発明1は、「セルロースナノファイバーのカルボキシ基の個数に対する」「オルガノポリシロキサンのアミノ基の個数比が0.3以上となる配合比で結合させて成る、疎水性セルロースナノファイバー」に関するものであるところ、本件明細書等には、「【0021】カルボキシ基含有CNFと反応させるアミノ基含有オルガノポリシロキサンの量は、前記カルボキシ基含有CNF中のカルボキシ基の数に対する前記オルガノポリシロキサン化合物中のアミノ基の数の比([アミノ基]/[カルボキシ基])が0.3以上となる量であり、好ましくは0.3~5.0であり、より好ましくは0.3~1.0の範囲である。当該範囲の量で反応させることにより、CNFに対して十分な疎水性を付与することができ、有機溶媒への分散性を向上することができる。アミノ基含有オルガノポリシロキサンの量比が上記値未満では、有機溶媒中への分散性が不十分なものとなる。」との記載があり、カルボキシ基含有CNF中のカルボキシ基の数に対する前記オルガノポリシロキサン化合物中のアミノ基の数の比([アミノ基]/[カルボキシ基])が0.3以上となる量であれば、CNFに対して十分な疎水性を付与することができることが記載されており、上述のとおり、本件発明1は、当該比を特定したセルロースナノファイバーに係るものであるから、本件発明1における「疎水性」は当該比を有するセルロースナノファイバーが有する性質を記載したものであり、その程度が不明であるとはいえない。
したがって、「疎水性」との記載は明確である。
本件発明2~8についても同様である。
よって、申立理由3は理由がない。
(3)申立理由4(サポート要件)について
ア 判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
本a:「【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバー、及びセルロースナノファイバーの製造方法に関連し、詳しくは、有機溶媒に分散可能な疎水性セルロースナノファイバー、及び疎水性セルロースナノファイバーの製造方法に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、様々な有機溶媒、特に比誘電率の低い低極性溶媒にも再分散可能な疎水性CNFの開発は依然として重要な課題である。加えて、特許文献6に記載のTEMPO酸化型CNFのカルボニル基とプロピレンオキシド・エチレンオキシド共重合部を有するアミンとが反応したCNFでは、エーテル鎖が酸化されやすく、着色・分解しやすい等の問題もあった。
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、有機溶剤、特に非プロトン性有機溶媒に分散可能なセルロースナノファイバー、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、アミノ基を有し且つアルコキシシリル基を有しないオルガノポリシロキサンのアミノ基を、特定量比以上で、カルボキシ基含有セルロースナノファイバーのカルボキシ基とイオン結合させることにより、有機溶媒、特には非プロトン性有機溶媒に分散可能な、疎水性セルロースナノファイバーを提供できることを見出し、本発明を成すに至った。」
本b:「【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、有機溶媒、特に低極性有機溶媒に分散可能な疎水性セルロースナノファイバー、及び、その製造方法を提供することができる。さらに、本発明の疎水性CNFは、優れた耐熱性と耐黄変性を有することができる。」
本c:「【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。尚、下記においてCNFは、セルロースナノファイバーの略である。
本発明は、カルボキシ基含有量0.1mmol/g~3.0mmol/gであるカルボキシ基含有CNFのカルボキシ基と、アミノ基を少なくとも一つ有し且つアルコキシシリル基を有しないオルガノポリシロキサンのアミノ基とが、イオン結合してなるカルボン酸-アミン塩型CNFである。疎水性セルロースナノファイバー中のオルガノポリシロキサンの量は、カルボキシ基含有CNFが有するカルボキシ基の数に対する前記オルガノシロキサン中のアミノ基の数の比が0.3以上となる配合比で結合させて成る量である。
【0016】
<カルボキシ基含有CNF>
本発明においてカルボキシ基含有CNFとは、CNF分子を構成するセルロースにあるヒドロキシ基の一部がカルボキシ基に変換されているものである。カルボキシ基含有CNF中のカルボキシ基含有量は、より詳細には、カルボキシ基含有CNFの絶乾質量に対する量である。分散安定性や化学的な処理を容易にする観点から、カルボキシ基含有CNFの絶乾質量に対して0.1mmol/g~3.0mmol/gであり、好ましくは0.4mmol/g~2.0mmol/gであり、より好ましくは0.6mmol/g~1.5mmol/gであるのがよい。また、カルボキシ基含有CNF中のカルボキシ基含有量は、カルボン酸塩含有CNFの絶乾質量に対するカルボン酸塩の量から求める事もできる。」
本d:「【0019】
<オルガノポリシロキサン化合物>
本発明は、アミノ基を少なくとも一つ有し且つアルコキシシリル基を有しないオルガノポリシロキサンのアミノ基を、上記したカルボキシ基含有CNFのカルボキシ基にイオン結合を介して結合させることにより、CNFに疎水性、耐候性、及び有機溶媒への分散性を付与することを特徴とする。前記アミノ基は、第1級アミノ基、第2級アミノ基、及び第3級アミノ基のいずれであってもよいが、カルボキシ基との反応性の観点から、第1級アミノ基又は第2級アミノ基であることが好ましい。
【0020】
本発明においてオルガノポリシロキサンはアルコキシシリル基を有しない事が特徴の一つである。アルコキシシリル基を有すると、CNFとの反応処理工程、或いは溶媒置換工程において、アルコキシシリル間で加水分解縮合が進行し、CNF同士の凝集を引き起こすおそれがあるためである。
【0021】
カルボキシ基含有CNFと反応させるアミノ基含有オルガノポリシロキサンの量は、前記カルボキシ基含有CNF中のカルボキシ基の数に対する前記オルガノポリシロキサン化合物中のアミノ基の数の比([アミノ基]/[カルボキシ基])が0.3以上となる量であり、好ましくは0.3~5.0であり、より好ましくは0.3~1.0の範囲である。当該範囲の量で反応させることにより、CNFに対して十分な疎水性を付与することができ、有機溶媒への分散性を向上することができる。アミノ基含有オルガノポリシロキサンの量比が上記値未満では、有機溶媒中への分散性が不十分なものとなる。
【0022】
アミノ基含有オルガノポリシロキサン化合物としては、例えば下記式(1)、(2)、又は(3)で表される化合物が挙げられる。
X-Si(OSiR13)mR23-m (1)
X-SiR32O-(SiR42O)n-SiR5R6R7(2)
R83SiO-[(SiXR9O)k-(SiR102O)j]-SiR83 (3)
上記各式中、Xは、1級、2級、又は3級アミノ基を1つ以上有する、炭素原子数1~20の有機基であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9及びR10は、互いに独立に、水素原子、又は炭素原子数1~10の一価炭化水素基であり、mは1~3の整数であり、nは3~500の整数であり、kは1以上の整数であり、jは0以上の整数であり、k+j≦500であり、kおよびjが付された括弧を付されたシロキサン単位の配列順は任意である。
【0023】
1級、2級、又は3級アミノ基を1つ以上有する炭素原子数1~20の有機基としては、アミノ基を1つ以上有する、炭素原子数1~20の、好ましくは炭素原子数1~6、より好ましくは炭素原子数1~3の炭化水素基であり、アミノアルキル基及びアミノアリール基等が挙げられる。例えば、3-アミノプロピル基、N-メチル-3-アミノプロピル基、N-フェニル-3-アミノプロピル基、N,N-ジメチル-3-アミノプロピル基、2-ピロリジル基、4-ピペリジル基、3-ウレイドプロピル基、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル基、4-アミノフェニル基等が挙げられる。安定性の面から好ましくは炭素原子数1~6、より好ましくは炭素原子数1~3のアミノアルキル基であり、2-アミノエチル基、3-アミノプロピル基が特に好ましい。
【0024】
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9及びR10は、互いに独立に、水素原子、又は炭素原子数1~10の一価炭化水素基である。炭素原子数1~10の一価炭化水素基としては、炭素原子数1~10であり、直鎖、分岐、又は環状のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基が挙げられる。好ましくは上記式(1)、(2)、及び(3)の各々において、ケイ素原子に結合する基(R1~R10)のうち一分子中に少なくとも1は一価炭化水素基であるのがよく、さらに好ましくはケイ素原子に結合する全てが一価炭化水素基であるのがよい。耐候性の面から、炭素原子数1~4のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、及びtert-ブチル基が特に好ましい。
【0025】
上記式(1)においてmは1~3の整数である。上記式(2)におけるシロキサンの繰り返し単位数(n)及び式(3)におけるシロキサンの繰り返し単位数(k+j)は、3~500であるのがよく、好ましくは5~300、より好ましくは10~100、さらに好ましくは20~100である。シロキサン単位数が当該範囲内であることにより、疎水性CNFの分散安定性を確保することができる。シロキサン単位数が上記上限値より多いと、疎水性CNFのうちのCNF部分の割合が低くなるため好ましくない。
【0026】
特に直鎖状シロキサン鎖の片末端にのみアミノ基を有する式(2)で表されるオルガノポリシロキサンが好ましい。該オルガノポリシロキサンはCNF間で架橋を形成せず、加えて、直鎖状シロキサン鎖が螺旋構造を取ることで分子間相互作用を抑制する。そのため、該オルガノポリシロキサンが結合した疎水性CNFは有機溶媒への分散性に特に優れる。
【0027】
上記式(1)で表されるオルガノポリシロキサンとしては、例えば、3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン[H2NC3H6Si(OSiMe3)3]が挙げられる。式(2)で表されるオルガノポリシロキサンとしては、片末端アミノ変性ポリジメチルシロキサン[NH2-C3H6-SiMe2O-(SiMe2O)n-SiBuMe2]が挙げられる。式(3)で表されるオルガノポリシロキサンとしては側鎖アミノ変性シリコーンオイル等が挙げられ、例えば、信越化学工業社製のKF-868、KF-865、KF-864、KF-859、KF-393、KF-860、KF-880、KF-8004、KF-8002、KF-8005、KF-867、KF-8021、KF-869、KF-861、KF-877、及びKF-889等が挙げられる。なお、Meはメチル基、Buはn-ブチル基を表す(以下同様)。
【0028】
本発明は、上述の通り、アミノ基を少なくとも一つ有し且つアルコキシシリル基を有しないオルガノポリシロキサンのアミノ基と、上記したカルボキシ基含有CNFのカルボキシ基とがイオン結合してなる疎水性CNFを提供する。該疎水性CNFは、すなわち、表面にオルガノポリシロキサンを有するカルボン酸-アミン塩型CNFである。オルガノポリシロキサンによりCNF表面が疎水化され、有機溶媒への分散性を付与される。
本発明の疎水性CNFにおけるオルガノポリシロキサン含有割合は10~90%であることが好ましく、より好ましくは15~70%、さらに好ましくは20~50であるのがよい。当該範囲内でシロキサンを有することにより、十分な疎水性を有し、有機溶媒への分散性が向上する。尚、該疎水性CNFにおけるオルガノポリシロキサン含有割合は、固体NMR、FT-IRで検出される各成分固有のピークの比から見積もることが出来る。」
本e:「【0029】
本発明はさらに疎水性CNFを含む有機溶媒分散液を提供する。有機溶媒は、低極性有機溶媒でも高極性有機溶媒でも、その混合でもよい。有機溶媒としては、エーテル、ケトン、アルコール等の高極性有機溶媒及びトルエン、キシレン等の低極性有機溶媒が挙げられる。本発明の疎水性CNFは有機溶媒への分散性に優れ、トルエン、キシレン等の低極性有機溶媒への分散性も良好である。後述する製造方法において工程3で使用するテトラヒドロフラン(THF)、アセトン、及びイソプロピルアルコール(IPA)等の極性有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒分散液中における疎水性CNFの濃度は、0.01~50重量%であればよく、好ましくは0.1~20重量%であり、より好ましくは0.3~10重量%であるのがよい。疎水性CNFは後述する解繊装置を用いて有機溶媒に分散させればよい。」
本f:「【0030】
本発明は、更に下記工程1~4を含む、上記疎水性CNFの有機溶媒分散液の製造方法を提供する。
工程1:カルボン酸塩を有するセルロースナノファイバーを水系溶媒に分散させた分散物に酸を添加してカルボキシ基含有セルロースナノファイバーとし、第1のゲルを得る工程、
工程2:前記第1のゲルを水洗浄する工程、
工程3:前記工程2で得られるゲル中の水系溶媒を極性有機溶媒で置換し、第3のゲルを得る工程、
及び、
工程4:前記第3のゲル、アミノ基を少なくとも1つ有し且つアルコキシシリル基を有さないオルガノポリシロキサン、及びさらに有機溶媒を混合し、解繊して疎水性セルロースナノファイバーの有機溶媒分散液を得る工程
また本発明は、更に上記工程4の後に有機溶媒を除去して疎水性セルロースナノファイバーを得る工程5を更に含む、前記疎水性セルロースナノファイバーの製造方法を提供する。
以下、各工程について、より詳細に説明する。
【0031】
<工程1>
・・・
【0032】
カルボン酸塩含有CNFの水分散液とは、好ましくは、セルロースの一部であるC6位の1級水酸基がカルボン酸アルカリ金属塩(例えば、カルボキシ基のナトリウム塩)に酸化されたCNFが水溶媒中、或いは水とアルコールの混合溶媒中に均一に分散されたものである。表面にカルボン酸アルカリ金属塩を有するCNFは、水中ではカルボン酸がイオン化し、カルボン酸イオン同士の荷電反発力によりCNFを良好に分散させることができる。
・・・
【0039】
前記カルボン酸塩含有CNFの平均繊維長は、熱可塑性樹脂又は硬化性樹脂に含有させて樹脂組成物とした時の機械的強度を十分に向上させると共に分散性を維持する観点から、好ましくは100~3,000nmであり、より好ましくは150~1,500nm、更に好ましくは200nm~1,000nmである。
・・・
【0045】
<工程4>
工程4は、前記第2のゲル、アミノ基を少なくとも1つ有し且つアルコキシシリル基を有さないオルガノポリシロキサン、及びさらに有機溶媒を混合及び解繊して、疎水性セルロースナノファイバーの有機溶媒分散液を得る工程である。該工程により、オルガノポリシロキサンのアミノ基がカルボキシ基含有CNFのカルボキシ基とイオン結合して、表面にオルガノポリシロキサンを有するカルボン酸-アミン塩型CNFとなる。オルガノポリシロキサンによりCNF表面が疎水化され、有機溶媒への分散性を付与される。
【0046】
アミノ基を少なくとも1つ有し且つアルコキシシリル基を有さないオルガノポリシロキサンについての詳細は、上述した通りである。カルボキシ基含有CNFと反応させるアミノ基含有オルガノポリシロキサンの量は、前記カルボキシ基含有CNF中のカルボキシ基の数に対する前記オルガノポリシロキサン化合物中のアミノ基の数の比([アミノ基]/[カルボキシ基])が0.3以上となる量であり、好ましくは0.3~5.0であり、より好ましくは0.3~1.0の範囲である。当該範囲の量で反応させることにより、CNFに対して十分な疎水性を付与することができ、有機溶媒への分散性を向上することができる。アミノ基含有オルガノポリシロキサンの量比が上記値未満では、有機溶媒中への分散性が不十分なものとなる。
・・・
【0049】
<工程5>
・・・
【0050】
また、前記工程5により得られる疎水性CNFは、前記解繊装置を用いて有機溶媒に再分散させることができる。特に、前記式(2)で表されるオルガノポリシロキサン化合物で処理されたCNFはトルエン、キシレン等の極性の低い有機溶媒への再分散性に優れる。」
本g:「【実施例】
・・・
【0052】
[調製例1]
<CNF/THFゲルの製造>
(工程1)1.3wt%のTEMPO酸化型CNF水分散液(カルボン酸ナトリウム塩含有CNFの水分散液、日本製紙社製、数平均繊維長:600nm、数平均繊維径:4nm)100gとイオン交換水100gを500mlビーカーに秤量し、ホモジェナイザー(ヒスコトロン「NS-56S」、オープン型ジェネレーターシャフト「NS-30U」、株式会社マイクロテック・ニチオン社製)を用いて回転数10,000rpmで混合した。ビーカーに撹拌子を入れ、スターラーを用いて撹拌しながら濃塩酸5gを滴下した。10分間撹拌を続け、生じた酸化CNFゲル(カルボキシ基含有CNF)をろ過により回収した。
(工程2)回収したゲルを再度500mlビーカーに移し、イオン交換水200gを加えて30分間撹拌し、ろ過によって回収する操作を3回繰り返した。
(工程3)その後、THF200gを加えて30分間撹拌し、再度ろ過によって回収する操作を3回繰り返すことでTHFによって膨潤したカルボキシ基含有CNFゲル(CNF/THFゲル)を得た。ゲル中のカルボキシ基含有CNF重量は1.9wt%であり、カルボキシ基量はCNF絶乾質量に対して1.6mmol/gであった。得られたゲルを100℃のオーブンで3時間乾燥した後のカルボキシ基含有CNF固体のIR吸収スペクトルを図1に示した。
【0053】
<CNFの有機溶媒分散液の製造>
[実施例1]
調製例1で得たCNF/THFゲル5gを300mlビーカーに秤量し、24mgの3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(H2NC3H6Si(OSiMe3)3、アミン当量:354g/mol、カルボキシ基含有CNF中のカルボキシ基の個数に対するアミノ基の個数:[アミノ基]/[カルボキシ基]=0.44)を滴下し、薬匙で混合した。そこにトルエン20gを加え、ホモジェナイザー(ヒスコトロン「NS-56S」、オープン型ジェネレーターシャフト「NS-30U」、株式会社マイクロテック・ニチオン社製)を用いて回転数10,000rpmで混合・解砕処理を10分間行い、疎水性CNF分散液を得た(工程4)。分散媒はトルエン及びTHFである。疎水性CNF分散液中の疎水性CNFの濃度を表1に記載する。得られた分散液を100℃のオーブンで3時間乾燥した後の疎水性CNF固体のIR吸収スペクトルを図1に示した。
【0054】
[実施例2]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(H2NC3H6Si(OSiMe3)3)の滴下量を48mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=0.88)に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、疎水性CNF分散液を得た。疎水性CNF分散液中の疎水性CNFの濃度を表1に記載する。得られた分散液を100℃のオーブンで3時間乾燥する事で得られた疎水性CNF固体のIR吸収スペクトルを図1に示した。
【0055】
[実施例3]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(H2NC3H6Si(OSiMe3)3)の滴下量を240mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=4.40)に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、疎水性CNF分散液を得た。疎水性CNF分散液中の疎水性CNFの濃度を表1に記載する。得られた分散液を100℃のオーブンで3時間乾燥する事で得られた疎水性CNF固体のIR吸収スペクトルを図1に示した。
【0056】
[実施例4]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを片末端アミノ変性シリコーンオイル(H2NC3H6(SiMe2O)5SiBuMe2、アミン当量:484g/mol)を24mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=0.32)に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、疎水性CNF分散液を得た。疎水性CNF分散液中の疎水性CNFの濃度を表1に記載する。
【0057】
[実施例5]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを片末端アミノ変性シリコーンオイル(H2NC3H6(SiMe2O)5SiBuMe2、アミン当量:484g/mol)を48mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=0.65)に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、疎水性CNF分散液を得た。疎水性CNF分散液中の疎水性CNFの濃度を表1に記載する。
【0058】
[実施例6]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを片末端アミノ変性シリコーンオイル(H2NC3H6(SiMe2O)10SiBuMe2、アミン当量:900g/mol)を48mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=0.35)に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、疎水性CNF分散液を得た。疎水性CNF分散液中の疎水性CNFの濃度を表1に記載する。
【0059】
[実施例7]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを片末端アミノ変性シリコーンオイル(H2NC3H6(SiMe2O)10SiBuMe2、アミン当量:900g/mol)を137mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=1.00)に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、疎水性CNF分散液を得た。疎水性CNF分散液中の疎水性CNFの濃度を表1に記載する。
【0060】
[実施例8]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを片末端アミノ変性シリコーンオイル([H2NC3H6(SiMe2O)60SiBuMe2]、アミン当量:4,800g/mol)を366mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=0.50)に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、疎水性CNF分散液を得た。疎水性CNF分散液中の疎水性CNFの濃度を表1に記載する。
【0061】
[実施例9]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを片末端アミノ変性シリコーンオイル([H2NC3H6(SiMe2O)60SiBuMe2]、アミン当量:4,800g/mol)を731mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=1.00)に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、疎水性CNF分散液を得た。疎水性CNF分散液中の疎水性CNFの濃度を表1に記載する。
【0062】
[比較例10]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを側鎖ジアミノ変性シリコーンオイル(KF-393、信越化学工業社製、アミン当量:350g/mol、シロキサンの重合度(k+j)=30~40)を36mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=0.67に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、疎水性CNF分散液を得た。疎水性CNF分散液中の疎水性CNFの濃度を表1に記載する。
【0063】
[比較例11]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを側鎖ジアミノ変性シリコーンオイル(KF-393、信越化学工業社製、アミン当量:350g/mol)を48mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=0.89)に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、疎水性CNF分散液を得た。疎水性CNF分散液中の疎水性CNFの濃度を表1に記載する。
【0064】
[比較例12]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを側鎖アミノ変性シリコーンオイル(KF-864、信越化学工業社製、アミン当量:3,800g/mol、シロキサンの重合度(k+j)≒400~500)240mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=0.41)に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、疎水性CNF分散液を得た。疎水性CNF分散液中の疎水性CNFの濃度を表1に記載する。
【0065】
[比較例1]
調製例1で得られたCNF/THFゲルを5g秤量し、そこにトルエン20gを加え、ホモジェナイザー(ヒスコトロン「NS-56S」、オープン型ジェネレーターシャフト「NS-30U」、株式会社マイクロテック・ニチオン社製)を用いて回転数10,000rpmで混合・解砕処理を10分間行い、カルボキシ基含有CNF、トルエン、及びTHFの混合物を得た。混合物中のCNFの濃度を表2に記載する。
【0066】
[比較例2]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン(H2NC3H6Si(OSiMe3)3)の滴下量を10mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=0.18)に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、カルボン酸-アミン塩を有するCNF、トルエン、及びTHFの混合物を得た。混合物中のCNFの濃度を表2に記載する。
【0067】
[比較例3]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを片末端アミノ変性シリコーンオイル([H2NC3H6(SiMe2O)5SiBuMe2]、アミン当量:484g/mol)を10mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=0.13)に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、カルボン酸-アミン塩を有するCNF、トルエン、及びTHFの混合物を得た。混合物中のCNFの濃度を表2に記載する。
【0068】
[比較例4]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを片末端アミノ変性シリコーンオイル([H2NC3H6(SiMe2O)10SiBuMe2]、アミン当量:900g/mol)37mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=0.26)に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、カルボン酸-アミン塩を有するCNF、トルエン、及びTHFの混合物を得た。混合物中のCNFの濃度を表2に記載する。
【0069】
[比較例5]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを側鎖アミノ変性シリコーンオイル(KF-864、信越化学工業社製、アミン当量:3,800g/mol)48mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=0.08)に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、カルボン酸-アミン塩を有するCNF、トルエン、及びTHFの混合物を得た。混合物中のCNFの濃度を表2に記載する。
【0070】
[比較例6]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを側鎖ポリエチレンオキシド変性シリコーンオイル(KF-642、信越化学工業社製)48mgに変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、カルボン酸-アミン塩を有するCNF、トルエン、及びTHFの混合物を得た。混合物中のCNFの濃度を表2に記載する。
【0071】
[比較例7]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランをn-ブチルアミン(アミン当量:73g/mol)48mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=4.28)に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、カルボン酸-アミン塩を有するCNF、トルエン、及びTHFの混合物を得た。混合物中のCNFの濃度を表2に記載する。
【0072】
[比較例8]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランをt-ブチルアミン(アミン当量:73g/mol)48mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=4.28)に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、カルボン酸-アミン塩を有するCNF、トルエン、及びTHFの混合物を得た。混合物中のCNFの濃度を表2に記載する。
【0073】
[比較例9]
3-アミノプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランをアミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-903、信越化学工業社製、アミン当量:179g/mol)48mg([アミノ基]/[カルボキシ基]=1.75)に変更した以外は実施例1の工程を繰り返し、カルボン酸-アミン塩を有するCNF、トルエン、及びTHFの混合物を得た。混合物中のCNFの濃度を表2に記載する。
【0074】
<分散性>
実施例1-9及び比較例10-12で得られたCNF分散液、比較例1-9で得られた混合物について、目視によってCNFの沈降の有無を確認した。沈降が確認されなかった場合を○、沈降が確認された場合を×として評価した。結果を表1および表2に示す。
【0075】
<耐熱性>
実施例1-9及び比較例10-12で得られたCNF分散液および比較例1で得られた混合物を100℃のオーブンで3時間乾燥させた。得られたCNF固体について、熱重量測定装置(Rigaku社製、Thermo Plus)を用いた窒素下での測定において重量が10%減少する温度を10%重量減少温度(Tg10)として評価した。結果を表1および表2に示す。
また、比較例1のCNF、実施例1、実施例4、実施例6、実施例8、及び比較例10で得た疎水性CNFの重量減少曲線を図2に示す。
【0076】
<耐黄変性>
実施例1-9及び比較例10-12で得られたCNF分散液および比較例1で得られた混合物を100℃のオーブンで12時間乾燥し、目視により観察を行って下記の基準により評価した。結果を表1および表2に示す。
◎:黄変が見られない
○:黄変が僅かに確認される
×:明らかに黄変が見られる
【0077】
【表1】
[図:0001418224000013.jpg]
【0078】
【表2】
[図:0001418224000014.jpg]
【0079】
[実施例13]
実施例7で調製した疎水性CNF分散液中の分散媒を80℃で減圧留去し、疎水性CNF固体を得た。その後、再び固形分が0.1wt%になるようにトルエンを加え、超音波解砕を行う事で再分散性を評価した。その結果、疎水性CNFはトルエン中に沈降無く均一に分散した。
【0080】
[実施例14]
実施例8で調製した疎水性CNF分散液中の分散媒を80℃で減圧留去し、疎水性CNF固体を得た。その後、再び固形分が0.1wt%になるようにトルエンを加え、超音波解砕を行う事で再分散性を評価した。その結果、疎水性CNFはトルエン中に沈降無く均一に分散した。
【0081】
[実施例15]
実施例9で調製した疎水性CNF分散液中の分散媒を80℃で減圧留去し、疎水性CNF固体を得た。その後、再び固形分が0.1wt%になるようにトルエンを加え、超音波解砕を行う事で再分散性を評価した。その結果、疎水性CNFはトルエン中に沈降無く均一に分散した。
・・・
【0083】
上記表2の比較例1-5に示す通り、CNFに含まれるカルボキシ基の個数に対する、シロキサン化合物に含まれるアミノ基の個数の比([アミノ基]/[カルボキシ基])が0.30未満であると、得られるCNFはトルエン中への分散性が悪く、CNFの疎水化が十分でない。これに対し、上記表1に示す通り、実施例1-12において得られた疎水性CNFは、トルエン溶媒中において優れた分散性を示し、高度に疎水化されている。
また、比較例5のようにアミノ基を含まないシリコーンオイルでは分散性の改善が見られない。すなわち、本発明の疎水化CNFにおいて、オルガノシロキサンのアミノ基がCNFのカルボキシ基とイオン結合することがCNF疎水化に効果的に作用している。
【0084】
さらに、比較例7や比較例8に示すように、シロキサン成分を含まないアルキルアミンによる処理ではCNFの分散性は改善されない。これに対し、上記の通り、本発明の疎水性CNFは優れた分散性を示しており、本発明の疎水化CNFにおいてシロキサン構造特有の優れた疎水性及び分散性が、CNFの疎水化、及び有機溶媒への分散性に寄与している。
【0085】
また、比較例9に示すように、アルコキシシリル基を有するシランカップリング剤による処理ではCNFの分散性は改善されない。この原因としては、シランカップリング剤中のアルコキシシリル基間の縮合やCNF上に存在するヒドロキシル基とアルコキシシリル基が反応することでCNF間の架橋が進行してしまった為であると考えられる。
【0086】
加えて、比較例1で調製した表面処理を施していないCNFと比較して、実施例1-12の疎水性CNFは10%重量減少温度が10℃以上向上している。特に、表1に示す通り、シロキサン構造の比率が多い(即ち、シロキサン繰り返し単位数が多い)アミノ基含有シロキサン化合物で処理するほど耐熱性が向上する傾向にある。また、加熱時の黄変を抑制する効果も有しており、シロキサンの優れた耐候性がCNFに付与される。
【0087】
さらに、実施例13-15にて確認された通り、直鎖状シロキサン鎖の片末端にのみアミノ基を有するオルガノポリシロキサンを用いた疎水性CNF固体は、トルエンなどの無極性溶媒に対して優れた再分散性を示す。
【0088】
以上の結果から、本発明の疎水性CNFは、疎水性材料に対して高い分散性を有する事が期待でき、CNFの各種低極性溶媒や樹脂への複合化に有効である。」
ウ 判断
本件明細書全体の記載事項、特に【0009】の記載からみて、本件発明1~4の解決しようとする課題は、「有機溶剤、特に非プロトン性有機溶媒に分散可能なセルロースナノファイバーを提供すること」であり、本件発明5~7の解決しようとする課題は、「有機溶剤、特に非プロトン性有機溶媒に分散可能なセルロースナノファイバーの有機溶媒分散液の製造方法を提供すること」であり、本件発明8の解決しようとする課題は、「有機溶剤、特に非プロトン性有機溶媒に分散可能なセルロースナノファイバーの製造方法を提供すること」であると認める。
そして、本件明細書等の発明の詳細な説明には、セルロースナノファイバーについての記載(摘記本c、【0015】~【0018】、摘記本d【0028】)、オルガノポリシロキサン化合物についての記載(摘記本d、【0019】~【0027】)、疎水性CNF(セルロースナノファイバー)を含む有機溶媒分散液についての記載(摘記本e、【0029】)、疎水性CNFの有機溶媒分散液及び疎水性CNFの製造方法についての記載(摘記本f、【0030】~【0050】)の記載がある。
さらに、実施例として、本件発明の実施例に相当する疎水性CNF及びその有機溶媒分散液及び疎水性CNFの製造方法が記載され、分散性に優れ、耐熱性、耐黄変性を有する旨が記載されている(摘記本g)。
してみると、本件発明は、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、本件発明は発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
エ 申立理由4について申立人が指摘する具体的な理由について
申立人は、具体的に、(i)及び(ii)の理由(第4、1(1)の[申立理由4]を参照。)を主張しているので、以下に検討する。
(i)オルガノポリシロキサンの種類について
本件明細書等には、オルガノポリシロキサンについて、
「【0019】
<オルガノポリシロキサン化合物>
本発明は、アミノ基を少なくとも一つ有し且つアルコキシシリル基を有しないオルガノポリシロキサンのアミノ基を、上記したカルボキシ基含有CNFのカルボキシ基にイオン結合を介して結合させることにより、CNFに疎水性、耐候性、及び有機溶媒への分散性を付与することを特徴とする。前記アミノ基は、第1級アミノ基、第2級アミノ基、及び第3級アミノ基のいずれであってもよいが、カルボキシ基との反応性の観点から、第1級アミノ基又は第2級アミノ基であることが好ましい。
【0020】
本発明においてオルガノポリシロキサンはアルコキシシリル基を有しない事が特徴の一つである。アルコキシシリル基を有すると、CNFとの反応処理工程、或いは溶媒置換工程において、アルコキシシリル間で加水分解縮合が進行し、CNF同士の凝集を引き起こすおそれがあるためである。
【0021】
カルボキシ基含有CNFと反応させるアミノ基含有オルガノポリシロキサンの量は、前記カルボキシ基含有CNF中のカルボキシ基の数に対する前記オルガノポリシロキサン化合物中のアミノ基の数の比([アミノ基]/[カルボキシ基])が0.3以上となる量であり、好ましくは0.3~5.0であり、より好ましくは0.3~1.0の範囲である。当該範囲の量で反応させることにより、CNFに対して十分な疎水性を付与することができ、有機溶媒への分散性を向上することができる。アミノ基含有オルガノポリシロキサンの量比が上記値未満では、有機溶媒中への分散性が不十分なものとなる。」
と記載されており(摘記本d)、かかる記載から、アミノ基を少なくとも一つ有し且つアルコキシシリル基を有しないオルガノポリシロキサンのアミノ基を、カルボキシ基含有CNFのカルボキシ基にイオン結合を介して結合させることにより疎水性を付与することができ、さらに、カルボキシ基含有CNFと反応させるアミノ基含有オルガノポリシロキサンの量を、[アミノ基]/[カルボキシ基])が0.3以上となる量とすることで、CNFに対して十分な疎水性を付与することができることが理解できる。
また、実施例1~9及び実施例13~15として、本件発明に係るオルガノポリシロキサンを用いることで、疎水性CNFのトルエン及びTHF又はトルエンの分散液が得られたことが具体的に記載されている。
そして、本件発明の課題は、「有機溶剤、特に非プロトン性有機溶媒に分散可能なセルロースナノファイバー」に関するものであって、有機溶剤、特に非プロトン性有機溶媒に分散可能であれば、疎水性の程度は定量的に問題にするものでもない。
してみると、当業者は、本件発明のオルガノポリシロキサンの種類によって、得られる疎水性CNFの疎水性がある程度異なることがあるとしても、当該オルガノポリシロキサンを用いることによって、上記課題を解決できると認識できるといえる。
また、「疎水性」の意味は上記(2)で述べたとおり、明確である。
したがって、(i)の主張は採用できない。
(ii)アミノ基/カルボキシ基の個数比について
比較例4について、セルロースナノファイバーのカルボキシ基の個数に対するオルガノポリシロキサンのアミノ基の個数比(以下単に「個数比」ということがある。)は0.26であって、本件発明1で特定される0.3以上ではなく、本件明細書等にも「【0083】上記表2の比較例1-5に示す通り、CNFに含まれるカルボキシ基の個数に対する、シロキサン化合物に含まれるアミノ基の個数の比([アミノ基]/[カルボキシ基])が0.30未満であると、得られるCNFはトルエン中への分散性が悪く、CNFの疎水化が十分でない。」と記載される(摘記本g)ことから、本件発明1における「0.3以上」には、0.3未満は含まれないと解されるから、比較例4についての主張は、本件発明1を正解しないことに基づくものであって採用できない
また、本件明細書等の【0083】には、上記の記載に加え、「本発明の疎水化CNFにおいて、オルガノシロキサンのアミノ基がCNFのカルボキシ基とイオン結合することがCNF疎水化に効果的に作用している。」と記載されていることから、オルガノシロキサンのアミノ基がCNFのカルボキシ基とイオン結合することがCNF疎水化に効果的に作用していることが理解できる。
さらに、本件明細書等には「【0016】<カルボキシ基含有CNF>本発明においてカルボキシ基含有CNFとは、CNF分子を構成するセルロースにあるヒドロキシ基の一部がカルボキシ基に変換されているものである。カルボキシ基含有CNF中のカルボキシ基含有量は、より詳細には、カルボキシ基含有CNFの絶乾質量に対する量である。分散安定性や化学的な処理を容易にする観点から、カルボキシ基含有CNFの絶乾質量に対して0.1mmol/g~3.0mmol/gであり、好ましくは0.4mmol/g~2.0mmol/gであり、より好ましくは0.6mmol/g~1.5mmol/gであるのがよい。」と記載されている(摘記本c)ことから、本件発明1においては、カルボキシ基含有CNF中のカルボキシ基含有量は分散安定性等の観点から、所定の範囲に特定されていることが理解できるし、本件明細書等の「【0021】カルボキシ基含有CNFと反応させるアミノ基含有オルガノポリシロキサンの量は、前記カルボキシ基含有CNF中のカルボキシ基の数に対する前記オルガノポリシロキサン化合物中のアミノ基の数の比([アミノ基]/[カルボキシ基])が0.3以上となる量であり、好ましくは0.3~5.0であり、より好ましくは0.3~1.0の範囲である。当該範囲の量で反応させることにより、CNFに対して十分な疎水性を付与することができ、有機溶媒への分散性を向上することができる。アミノ基含有オルガノポリシロキサンの量比が上記値未満では、有機溶媒中への分散性が不十分なものとなる。」と記載されている(摘記本d)ことから、個数比は、分散安定性等の観点から特定されていること、及び本件発明1で特定される範囲においてCNFに対して十分な疎水性を付与し、有機溶媒への分散性を向上させることができることが理解できる。
そして、実施例1~9及び実施例13~15として、本件発明1に係るカルボキシ基含有量のセルロースナノファイバーを用いることで、優れた分散性を示す疎水性CNFの有機溶媒分散液が得られたことが具体的に記載されている。
また、本件発明1の課題は、「有機溶剤、特に非プロトン性有機溶媒に分散可能なセルロースナノファイバー」に関するものであって、有機溶剤、特に非プロトン性有機溶媒に分散可能であれば、分散安定性の程度は定量的に問題にするものでもない。
してみると、当業者は、セルロースナノファイバーのカルボキシ基含有量によって分散安定性が異なることがあるとしても、本件発明1の所定のカルボキシ基含有量及び個数比とすることによって、上記課題を解決できると認識できるといえる。
本件発明2~8についても同様である。
したがって、(ii)の主張は採用できない。
オ まとめ
以上のとおりであるから、申立理由4は理由がない。
第6 まとめ
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由並びに申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本件発明1~本件発明8に係る特許を取り消すことはできず、ほかに本件発明1~本件発明8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701251