特許異議申立
2022-700844
ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント基板
- 審判番号
- 2022-700844
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-567902
- 登録番号
- 7029033
- 請求日
- 2022年08月30日
- 審決日
- 2023年06月13日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】旭化成株式会社
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】中村 和広
- 【権利者代理人】齋藤 都子
- 【権利者代理人】三間 俊介
- 【権利者代理人】明石 尚久
- 【異議申立人】宇佐川 ゆり子
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 山崎 勝司
- 審判官 西本 浩司
- 分類
- P1651.113-YAA(D03D) / P1651.121-YAA(D03D) / P1651.537-YAA(D03D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7029033号発明「ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7029033号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕、〔11~13〕について訂正することを認める。
特許第7029033号の請求項1、2、4~13に係る特許を維持する。
特許第7029033号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7029033号(以下「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願は、令和3年7月16日(優先権主張令和2年8月19日)を国際出願日とする出願であって、令和4年2月21日にその特許権の設定登録がされ、令和4年3月2日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。
令和4年 8月30日 :特許異議申立人宇佐川ゆり子(以下「申立人 」という。)による本件特許に対する特許異 議の申立て
令和5年 1月 4日付け:取消理由通知書
令和5年 3月 7日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和5年 3月15日付け:訂正請求があった旨の通知(特許法第120 条の5第5項)
なお、令和5年3月15日付けの訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を、期間を指定して行ったが、当該期間内に申立人からの応答はなかった。
第2 本件訂正
1 本件訂正の内容
令和5年3月7日の訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)により、特許権者が求める訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1) 訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1における「前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々独立して70~130本/25mmであり、かつ前記ガラスクロスの緯糸幅の標準偏差が30μm以下であり、」との記載を、
「前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、前記ガラスフィラメントの本数が、20~40本であり、前記ガラスクロスを構成する前記経糸の打ち込み密度が、70~105本/25mmであり、及び前記緯糸の打ち込み密度が、70~110本/25mmであり、かつ前記ガラスクロスの緯糸幅の標準偏差が30μm以下であり、」と訂正する。
(また、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、4~10も同様に訂正する。)
(2) 訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3) 訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4の「請求項1~3のいずれか1項」を「請求項1又は2」に訂正する。
(4) 訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5の「請求項1~4のいずれか1項」を「請求項1、2、4のいずれか1項」に訂正する。
(5) 訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6の「請求項1~5のいずれか1項」を「請求項1、2、4、5のいずれか1項」に訂正する。
(6) 訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7の「請求項1~6のいずれか1項」を「請求項1、2、4~6のいずれか1項」に訂正する。
(7) 訂正事項7
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8の「請求項1~7のいずれか1項」を「請求項1、2、4~7のいずれか1項」に訂正する。
(8) 訂正事項8
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項11の「前記開繊工程における前記スプレー水の圧力が0.20MPa以下であり、経糸方向の張力が50N未満である、ガラスクロスの製造方法。」との記載を、
「前記開繊工程における前記スプレー水の圧力が0.20MPa以下であり、経糸方向の張力が50N未満であって、
前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、
前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々独立して70~130本/25mmである、ガラスクロスの製造方法。」と訂正する。
(請求項11の記載を直接的又は間接的に引用する請求項12及び13も同様に訂正する。)
(9) 訂正事項9
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項12の「前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々独立して70~130本/25mmであり、かつ前記ガラスクロスの緯糸幅の標準偏差が30μm以下であり、」との記載を、
「前記ガラスクロスの緯糸幅の標準偏差が30μm以下であり、」と訂正する。
(請求項12の記載を直接的に引用する請求項13も同様に訂正する。)
(10) 訂正事項10
訂正前の明細書の段落【0074】の【表1】の「本/25.4mm」(2箇所)との記載を、
「本/25mm」に訂正する。
なお、訂正前の請求項1~10は、請求項2~10が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあり、また、訂正前の請求項11~13は、請求項12及び13が、訂正の請求の対象である請求項11の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~10〕、〔11~13〕について請求されている。
また、訂正後の請求項11~13に係る訂正について、特許権者は、当該訂正が認められるときに請求項1~10とは別の訂正単位として扱われることを求めている。
2 本件訂正の適否
(1) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1のガラスフィラメントについて、「前記ガラスフィラメントの本数が、20~40本であり」とガラスフィラメントの本数について限定し、さらに、ガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の打ち込み密度について、「前記経糸の打ち込み密度が、70~105本/25mmであり、及び前記緯糸の打ち込み密度が、70~110本/25mmであり」とさらに限定を行うものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項3、本件特許明細書の段落【0019】、【0021】、【0074】の【表1】の記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正である。
また、訂正事項1は、上記のとおり訂正前の請求項1における記載をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除するというものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかである。
ウ 訂正事項3~7について
訂正事項3~7についての訂正は、訂正事項2により削除する請求項3を引用しない記載へと改めるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかである。
エ 訂正事項8について
訂正事項8は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項11のガラスフィラメントについて、「前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、」と、平均フィラメント径について特定し、ガラスクロスを構成する経糸及び緯糸として製織することについて、「前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々独立して70~130本/25mmである、」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項8は、訂正前の特許請求の範囲の請求項12、本件特許明細書の段落【0012】、【0021】、【0074】の【表1】の記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正である。
また、訂正事項8は、上記のとおり訂正前の請求項11における記載をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
オ 訂正事項9について
訂正事項9は、訂正事項8により、訂正前の特許請求の範囲の請求項12が引用する請求項11を訂正したことに伴い、その整合を図るものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項9は、訂正前の特許請求の範囲の請求項12、本件特許明細書の段落【0012】の記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正である。
また、訂正事項9は、上記のとおり訂正前の請求項12における記載の整合を図るものであり、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
カ 訂正事項10について
訂正事項10は、上記訂正事項1及び8に係る特許請求の範囲の請求項1及び11の記載と明細書の段落【0074】の【表1】の記載との整合を図るための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項10は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、請求項12、段落【0009】、【0012】、【0021】に基づき、打ち込み密度の単位の整合を図るための訂正であり、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
さらに、訂正事項10は、一群の請求項の全てについて行なわれたものである。
(2) 小括
上記のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕、〔11~13〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1、2、4~13に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4~13に記載された次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】
複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織して成るガラスクロスであって、前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、前記ガラスフィラメントの本数が、20~40本であり、前記ガラスクロスを構成する前記経糸の打ち込み密度が、70~105本/25mmであり、及び前記緯糸の打ち込み密度が、70~110本/25mmであり、かつ前記ガラスクロスの緯糸幅の標準偏差が30μm以下であり、前記ガラスクロスは、下記式:
R=Y/(25400/D)
{式中、R:緯糸被覆比率、Y:平均緯糸幅、D:緯糸打ち込み密度}
で表される緯糸被覆比率Rが、以下に示される関係:
0.50 ≦ R ≦0.83
を満たすガラスクロス。
【請求項2】
前記ガラスクロスの緯糸幅の標準偏差が13~25μmであり、かつ前記緯糸被覆比率Rが、以下に示される関係:
0.65 ≦ R ≦0.83
を満たす、請求項1に記載のガラスクロス。」
「【請求項4】
前記ガラスクロスの厚さが、6~16μmである、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項5】
前記ガラスクロスの緯糸幅の標準偏差が20μm以下である、請求項1、2、4のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項6】
前記ガラスクロスの緯糸幅の標準偏差が15μm以下である、請求項1、2、4、5のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項7】
前記ガラスクロスの経糸幅と、前記平均フィラメント径と、前記ガラスフィラメントの本数とから算出される、経糸幅の開繊度が75%以上である、請求項1、2、4~6のいずれか1項に記載のガラスクロス。
【請求項8】
請求項1、2、4~7のいずれか1項に記載のガラスクロスと熱硬化性樹脂と無機充填剤を含有することを特徴とする、プリプレグ。
【請求項9】
請求項8に記載のプリプレグを含むことを特徴とする、プリント基板。
【請求項10】
請求項9に記載のプリント基板が、レーザドリルによる穴加工をされていることを特徴とする、レーザドリル加工プリント基板。
【請求項11】
複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織する製織工程、及び、得られたガラスクロスをスプレー水で開繊する開繊工程を含み、かつ
前記開繊工程における前記スプレー水の圧力が0.20MPa以下であり、経糸方向の張力が50N未満であって、
前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、
前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々独立して70~130本/25mmである、ガラスクロスの製造方法。
【請求項12】
前記ガラスクロスの緯糸幅の標準偏差が30μm以下であり、前記ガラスクロスは、下記式:
R=Y/(25400/D)
{式中、R:緯糸被覆比率、Y:平均緯糸幅、D:緯糸打ち込み密度}
で表される緯糸被覆比率Rが、以下に示される関係:
0.50 ≦ R ≦0.83
を満たす、請求項11に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項13】
前記ガラスクロスの緯糸幅の標準偏差が13~25μmであり、かつ前記緯糸被覆比率Rが、以下に示される関係:
0.65 ≦ R ≦0.83
を満たす、請求項11又は12に記載のガラスクロスの製造方法。」
第4 取消理由の概要
当審が通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
1 (新規性)請求項1、2、5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物(甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2、5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2 (進歩性)請求項1~10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物(甲第1号証、甲第4号証、甲第5号証をそれぞれ主引用例として)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3 (サポート要件)請求項11に係る発明は、単に、「前記開繊工程における前記スプレー水の圧力が0.20MPa以下であり、経糸方向の張力が50N未満である」と特定するのみで、ガラスクロスのフィラメント径や打ち込み密度については特定されていないため、本件の請求項11に係る発明の課題を解決しないものを含んでいるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
4 (明確性)請求項1~10、12、13に係る発明は、「前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々独立して70~130本/25mm」との特許請求の範囲の記載及び本件特許明細書【0021】の打ち込み密度の単位が「本/25mm」との記載と、実施例の表1(【0074】)中の「本/25.4mm」と記載との点で判然とせず、請求項1~10、12、13に係る発明を不明確なものとしている。
記
●(証拠方法)
甲第1号証:特開2011-241515号公報
甲第2号証:IPC、「IPC-4412A Specification for Finished Fabric Woven from “E”Glass for Printed Boards」、2002年6月、p.1-13
甲第3号証:特開2016-37045号公報
甲第4号証:国際公開第2019/163159号
甲第5号証:特開2010-31425号公報
甲第6号証:国際公開第00/60153号
甲第7号証:特開2001-329080号公報
甲第8号証:特開2005-42245号公報
(以下「甲第1号証」~「甲第8号証」をそれぞれ「甲1」~「甲8」という。)
乙第1号証:IPC(米国電子回路協会(Association Connecting Electronics Industries))、「IPC-4412B Specification for Finished Fabric Woven from “E”Glass for Printed Boards」、2013年5月、p.5、p.13-18
乙第2号証:日東紡、「スペシャルマテリアル NEガラス」のプリントアウト、2023年3月1日(出力日)、<URL:https://www.nittobo.co.jp/business/glassfiber/sp_material/ne-glass.htm>
(以下「乙第1号証」、「乙第2号証」をそれぞれ「乙1」、「乙2」という。)
第5 取消理由についての当審の判断
1 甲各号証に記載された事項、発明
(1) 甲1~甲3
ア 甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は、強調のために、当審が付した(以下同様である)。
「ガラス繊維織物の開繊装置及び開繊方法に関する。」(【0001】)
「【請求項1】
水系液W2を貯留する下槽に対して水系液W1を貯留する上槽の下部を浸漬させ、該下槽の該水系液W2中であり且つ該上槽に対して下側となる位置に超音波発生装置の振動子を設けた処理槽と、
前記上槽の前記水系液W1中にガラス繊維織物を搬送させながら浸漬させる搬送手段と、
を備えることを特徴とするガラス繊維織物の開繊装置。」(【特許請求の範囲】)
「プリント配線基板用積層板として主に用いられるガラス繊維織物の樹脂の含浸性及び表面平滑性の向上を目的として、ガラス繊維織物に対して開繊処理を施すことが知られている。」(【0002】)
「一般的に、開繊処理後のガラス繊維織物を構成するガラス繊維糸束の経糸及び緯糸の糸幅にばらつきがあると、表面平滑性及び樹脂含浸性が低下することが知られている。近年、表面平滑性及び樹脂含浸性がより高いガラス繊維織物が求められていて、開繊処理後のガラス繊維織物を構成するガラス繊維糸束の糸幅のばらつきをより低下させる必要がある。」(【0004】)
「本発明は上記を鑑みてなされたものであり、処理後のガラス繊維糸束の糸幅のばらつきが小さいガラス繊維織物の開繊装置及び開繊方法を提供することを目的とする。」(【0005】)
「まず、開繊処理を行う対象であるガラス繊維織物200は、複数本のガラス繊維(フィラメント)により構成されたガラス繊維束を製織して得られ、例えば、経糸及び緯糸が製織されて形成されたものである。また、本実施形態に係る開繊装置1により開繊を好適に行うためには、ガラス繊維織物200の厚さが50μm以下であることが好ましく、10μm~45μmがさらに好ましい。ガラス繊維織物200の厚さが50μmよりも大きい場合には、本実施形態のように超音波を利用した開繊を十分に行うことができない場合がある。また、ガラス繊維織物200の厚さが10μm未満である場合には、織物の目曲がりが発生しやすいため、取り扱い性が低下する可能性がある。また、本実施形態では、ガラス繊維織物200の幅は1280mmとされている。この幅は特に限定されない。」(【0022】)
「ガラス繊維織物200を構成するガラス繊維の材料であるガラスの組成は特に限定されないが、例えば、代表的な無アルカリガラスであるEガラス、低誘電率ガラス、高弾性率ガラス等が用いられる。また、ガラス繊維の太さは3μm~25μmの範囲にあることが好ましい。そして、ガラス繊維束は、複数のガラスフィラメントをサイズ剤により集束して作製される。このサイズ剤は、例えば被膜形成剤成分がでんぷん系またはPVA(polyvinylalcohol)系のサイズ剤である。」(【0023】)
「(実施例1)
第1実施形態に記載の開繊装置1(図1参照)を用いてガラス繊維織物の開繊を行った。具体的には、処理槽100は図1に示すように上槽10と下槽20とからなるステンレス製の二重槽を用いた。この処理槽の上槽10は、ガラス繊維織物200の幅と同じ方向の幅が1440mm、幅に対して垂直な方向の長さが1700mm、深さが200mmであった。また、開繊前のガラス繊維織物200としては、厚さが20μmのガラス繊維織物(型番:A1027、日東紡社製)を用いた。このガラス繊維織物200の幅は1280mmであった。」(【0059】)
「(実施例6)
水系液W2の温度を20℃としたこと以外は実施例1と同様にして開繊処理を行い、実施例4に係るガラス繊維織物を得た。なお、水系液W2の溶存酸素を溶存酸素測定器により測定したところ、5ppmであった。」(【0067】)
「【0077】
[図:0001401646000001.jpg]
」
イ 甲2
甲2には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001401646000002.jpg]
」
ウ 甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。
「【0085】
[実施例6及び7、比較例4]
(ノルボルネン系共重合体の溶液を含浸してなる繊維強化材の作製)
トリエトキシビニルシラン(TEVS)にエタノール加え、5質量%TEVS溶液を調製した。ガラス繊維布(高開繊ガラスクロス A1027(E-ガラス、平織、厚さ0.020mm、質量19g/m2、密度;縦74本/25mm、横74本/25mm、日東紡績株式会社製))をアセトンで洗浄した後、該ガラス繊維布を、5質量%TEVS溶液に10分間浸漬した。ガラス繊維布をTEVS溶液から取り出した後、135℃で3時間加熱処理してTEVS処理ガラス繊維布を得た。」
エ 上記ア~ウからわかること。
・甲1の【0023】の「ガラス繊維束は、複数のガラスフィラメントをサイズ剤により集束して作製される」と記載され、ガラス糸(束)が、複数のガラスフィラメントからなることが分かる。
・さらに、甲1の実施例6に着目すると、ガラス繊維織物として、日東紡績株式会社製の型番:A1027のガラス繊維織物が用いられ、型番としてA1027は、当業界で一般にIPC規格の「1027」を意味していると解される。IPC規格の「A1027」について解説する甲2のTable3-2(p.4)、TableII-1の「1027」(p.10)を参酌すると、A1027に用いられているガラスフィラメントは、直径が4μmであり、甲3の【0085】には、日東紡績株式会社のガラス繊維織物A1027が、E-ガラス、平織、厚さ0.020mm、質量19g/m2、密度:縦74本/25mm、横74本/25mmであることが記載されている。
・さらに、甲1の実施例1のガラス繊維織物の日東紡社製、型番:A1027は、IPC-4412B(乙1)によると、型番「1027」は、フィラメントが「BC1500 1/0×BC1500 1/0」のものが用いられ(乙1:p.16 Table All-2の「1027」の項)、「BC1500 1/0」のフィラメントは直径が3.50~4.70(μm)で(乙1:p.5 Table 3-2)、1kg当たりの長さが「302385m/kg」(乙1:p.5 Table 3-3の「BC1500のフィラメント 1500 1/0」の欄)であることがわかる。
・また、乙2の「スペシャルマテリアル NEガラス」によると、Eガラスの密度は「2.6g/cm3」である。
以上の点から、甲1の日東紡の型番:A1027は、フィラメントの直径として、3.50~4.70(μm)のうち、4.0μ繊維径とした場合に、フィラメント1本(1m)あたりの重量は、3.26726×10-8(kg/m)(=π×(4.0×10-6/2)2×1×2600)であり、糸の1kg当たりの長さが「302385m」であることから、フィラメント本数は101.2本(=1/(3.26726×10-8×302385))となることがわかる。
オ 甲1に記載された発明
以上のア~エの事項を踏まえると、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸(束)を経糸及び緯糸として製織して成るガラス繊維織物であって、
前記ガラスフィラメントのフィラメント径が、4.0μmであり、ガラスフィラメントの本数は101.2本であり、前記ガラス繊維織物を構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々74本/25mmであり、かつ前記ガラス繊維織物の緯糸幅の標準偏差が18.9μmであり、
ガラス繊維織物の厚さは20μmである、
ガラス繊維織物。」
さらに、以上のア~エの事項を踏まえると、甲1には、以下の発明(以下「甲1方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸(束)を経糸及び緯糸として製織して成るガラス繊維織物の製造方法であって、
水系液W2を貯留する下槽に対して水系液W1を貯留する上槽の下部を浸漬させ、該下槽の該水系液W2中であり且つ該上槽に対して下側となる位置に超音波発生装置の振動子を設けた処理槽と、
前記上槽の前記水系液W1中にガラス繊維織物を搬送させながら浸漬させる搬送手段と、
を備えるガラス繊維織物の開繊装置を用い、
前記ガラスフィラメントのフィラメント径が、4.0μmであり、ガラスフィラメントの本数は101.2本であり、前記ガラス繊維織物を構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々74本/25mmであり、かつ前記ガラス繊維織物の緯糸幅の標準偏差が18.9μmであり、
ガラス繊維織物の厚さは20μmである、
ガラス繊維織物の製造方法。」
(2) 甲4
ア 甲4には、次の事項が記載されている。
「[0057] 〔実施例1〕
本実施例では、まず、Eガラス繊維組成のガラスフィラメントを紡糸して経糸と緯糸とを得た。前記経糸と前記緯糸とは、それぞれフィラメント径3.6μmのガラスフィラメントが38本集束されてなり、0.99tex(g/km)の質量を備えていた。
[0058] 次に、エアージェット式織機を用い製織し、前記経糸の織密度を105本/25mmとし、前記緯糸の織密度を110本/25mmとして、平織のガラスクロスを得た。
[0059] 前記ガラスクロスに、脱油処理、表面処理及び開繊処理を施して、本実施例のガラスクロスを得た。
[0060] ここで、脱油処理としては、ガラスクロスを雰囲気温度が350℃~400℃の加熱炉内に60時間配置し、該ガラスクロスに付着している紡糸用集束剤と製織用集束剤とを加熱分解する処理を採用した。
[0061] また、表面処理としては、ガラスクロスにシランカップリング剤を塗布し、130℃の加熱炉内に連続的に通しながら硬化させる処理を採用した。
[0062] また、開繊処理としては、ガラスクロスの経糸に50Nの張力をかけ、水流圧力を1.0MPaに設定した水流圧力による開繊処理を採用した。」
「[0085]
[図:0001401646000003.jpg]
」
イ 甲4に記載された発明
以上の事項を踏まえると、実施例1のガラスクロスの緯糸幅が185μm、ガラスクロスの厚さが10.0μmであることに着目すると、甲4には、以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「Eガラス繊維組成のガラスフィラメントを紡糸して経糸と緯糸とを得、前記経糸と前記緯糸とは、それぞれフィラメント径3.6μmのガラスフィラメントが38本集束されてなり、0.99tex(g/km)の質量を備え、
次に、エアージェット式織機を用い製織し、前記経糸の織密度を105本/25mmとし、前記緯糸の織密度を110本/25mmとして、平織のガラスクロスを得、
前記ガラスクロスに、脱油処理、表面処理及び開繊処理を施した、
ガラスクロスの緯糸幅が185μmで、
ガラスクロスの厚さが10.0μmである、
ガラスクロス。」
さらに、以上のアの事項を踏まえると、甲4には、以下の発明(以下「甲4方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「Eガラス繊維組成のガラスフィラメントを紡糸して経糸と緯糸とを得、前記経糸と前記緯糸とは、それぞれフィラメント径3.6μmのガラスフィラメントが38本集束されてなり、0.99tex(g/km)の質量を備え、
次に、エアージェット式織機を用い製織し、前記経糸の織密度を105本/25mmとし、前記緯糸の織密度を110本/25mmとして、平織のガラスクロスを得、
前記ガラスクロスに、脱油処理、表面処理及び開繊処理を施し、
前記開繊処理として、ガラスクロスの経糸に50Nの張力をかけ、水流圧力を1.0MPaに設定した水流圧力による開繊処理を採用し、
ガラスクロスの緯糸幅が185μmであり、
ガラスクロスの厚さが10.0μmである、
ガラスクロスの製造方法。」
(3) 甲5
ア 甲5には、次の事項が記載されている。
「【0017】
ガラスフィラメント50の径は、例えば10μm以下であることが好ましい。ガラスフィラメント50の径を小さくすることにより、ガラス繊維束15の径を小さくすることができ、さらに、作製されるガラスクロスの厚さを薄くすることが可能となる。このガラスフィラメント50の径は、7μm以下であることが特に好ましい。ガラスフィラメント50の径を7μm以下とすることにより、十分に薄いガラスクロスを得ることが可能となる。また、ガラスフィラメント50の径の下限は2μm以上であることが好ましい。2μmより細いガラスフィラメントの製造は困難である。」
「【0020】
続いて、製織済ガラスクロス10に開繊処理を行う。開繊処理の方法として、高圧噴射水による開繊処理、バイブロウォッシャーの噴流水による開繊処理、水中での超音波振動による開繊処理、ローラを用いた押圧による開繊処理等を挙げることができる。この開繊処理により、経糸20及び緯糸30を構成するガラスフィラメント50がほぐされ、経糸20及び緯糸30は扁平化する。」
「【0037】
[製織済ガラスクロスの作製]
複数のガラスフィラメントから成るガラス繊維束を経糸及び緯糸とし、平織りの製織方法を用いて、製織済ガラスクロスを作製した。ガラスフィラメントは、Eガラスからなり、ガラスフィラメントの径は、4μmである。ガラス繊維束は、50本のガラスフィラメントからなり、無撚りである。製織の際の経糸及び緯糸の密度は共に、85本/25mmであり、製織済ガラスクロスの単位面積あたりの質量は、11.1g/m2である。
【0038】
[開繊処理及び加熱加圧処理]
作製した製織済ガラスクロスに、表1に示す条件で開繊処理及び加熱加圧処理を行い、実施例1~4及び比較例1~3のガラスクロスを作製した。
[図:0001401646000004.jpg]
【0039】
[ガラスクロスの評価]
実施例1~4及び比較例1~3の各々のガラスクロスについて、厚さの測定、目ずれの評価、経糸及び緯糸の糸幅の測定、通気性の測定、引張強度の測定及び腰の強さの測定を行った。
【0040】
ガラスクロスの厚さは、JIS R 3420 7.10厚さ の試験方法に準拠して測定した。
【0041】
目ずれの評価は、ガラスクロス表面を軽く指で擦って、目視にて、経糸及び緯糸の交絡の状態を確認した。目ずれが生じた場合は×、目ずれが生じない場合は○の評価をした。
【0042】
経糸及び緯糸の糸幅は、JIS R 3420 7.6単繊維直径 の試験方法に準拠して測定した。」
「【0046】
以上の試験結果を表2に示す。また、図5は、比較例3のガラスクロスの表面を軽く指で擦った後の写真の図である。図6は、実施例4のガラスクロスの表面を軽く指で擦った後の写真の図である。」
[図:0001401646000005.jpg]
」
イ 甲5に記載された発明
以上のアの事項を踏まえ、実施例3のガラスクロスの緯糸幅が201μm、ガラスクロスの厚さが10μmであることに着目すると、甲5には、以下の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
「ガラスフィラメントの径は、4μmであり、
ガラス繊維束は、50本のガラスフィラメントからなり、無撚りであり、
製織の際の経糸及び緯糸の密度は共に、85本/25mmであり、
緯糸幅は201μmであり、
ガラスクロスの厚みは10μmである、
ガラスクロス。」
さらに、以上のアの事項を踏まえると、甲5には、以下の発明(以下「甲5方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「複数のガラスフィラメントから成るガラス繊維束を経糸及び緯糸とし、平織りの製織方法を用いて、製織済ガラスクロスを作製し、
作製した製織済ガラスクロスに、高圧噴射水による開繊処理を行い、
ガラスフィラメントは、Eガラスからなり、
ガラスフィラメントの径は、4μmであり、
ガラス繊維束は、50本のガラスフィラメントからなり、無撚りであり、
製織の際の経糸及び緯糸の密度は共に、85本/25mmであり、
緯糸幅は201μmであり、
ガラスクロスの厚みは10μmである、
ガラスクロスの製造方法。」
2 取消理由1(新規性)について
(1) 本件発明1について
そして、本件発明1と甲1発明とを対比するに、甲1発明の「ガラスフィラメント」、「ガラス糸(束)」、「ガラス繊維織物」、「経糸」、「緯糸」、「打ち込み密度」及び「緯糸幅」は、その機能や技術上の意義を考慮すると、それぞれ、本件発明1の「ガラスフィラメント」、「ガラス糸」、「ガラスクロス」、「経糸」、「緯糸」、「打ち込み密度」及び「緯糸幅」に相当する。
甲1発明の「フィラメント径」は、通常、規格に掲載されている「直径」の値が、「平均」での測定値であるということを踏まえたものといえるので、本件発明1の「平均フィラメント径」に相当する。
そうすると、甲1発明の「前記ガラスフィラメントのフィラメント径が、4.0μmであ」ることは、本件発明1の「前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであ」ることに相当する。
甲1発明の「ガラスフィラメントの本数は101.2本であ」ることと、本件発明1の「前記ガラスフィラメントの本数が、20~40本であ」ることは、「ガラスフィラメントの本数は複数本である」限りで一致する。
甲1発明の「前記ガラス繊維織物を構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々74本/25mmであ」ることは、本件発明1の「前記ガラスクロスを構成する前記経糸の打ち込み密度が、70~105本/25mmであり、及び前記緯糸の打ち込み密度が、70~110本/25mmであ」ることに相当する。
甲1発明の「かつ前記ガラス繊維織物の緯糸幅の標準偏差が18.9μmである」ことは、甲1発明の「かつ前記ガラスクロスの緯糸幅の標準偏差が30μm以下であ」ることに相当する。
以上踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
[一致点]
「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織して成るガラスクロスであって、前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、ガラスフィラメントの本数は複数本であり、前記ガラスクロスを構成する前記経糸の打ち込み密度が、70~105本/25mmであり、及び前記緯糸の打ち込み密度が、70~110本/25mmであり、かつ前記ガラスクロスの緯糸幅の標準偏差が30μm以下である、ガラスクロス。」
[相違点1-1]
ガラスクロスについて、本件発明1は、「下記式:R=Y/(25400/D){式中、R:緯糸被覆比率、Y:平均緯糸幅、D:緯糸打ち込み密度}で表される緯糸被覆比率Rが、以下に示される関係:0.50 ≦ R ≦0.83を満たす」とされているのに対して、甲1発明は、そのような特定をしていない点。
[相違点1-2]
「複数本である」ガラスフィラメントの本数について、本件発明1は、「前記ガラスフィラメントの本数が、20~40本であ」るのに対して、甲1発明は、「ガラスフィラメントの本数は101.2本であ」る点。
事案に鑑み、先ず、相違点1-2について、検討する。
相違点1-2は、ガラスフィラメントの本数が相違し、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲1発明ではない。
(2) 本件発明2、5について
本件発明2、5は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)で検討したことと同様に、本件発明2、5は、甲1発明ではない。
3 取消理由2(進歩性)について
3-1 甲1を主引用例とする理由
(1) 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とは、上記「2」で検討したとおり、相違点1-2で実質的に相違しているので、以下に検討する。
甲1発明は、「開繊処理後のガラス繊維織物を構成するガラス繊維糸束の糸幅のばらつきをより低下させ」たもので、そのようなものを得るために、甲1には、「水系液W2を貯留する下槽に対して水系液W1を貯留する上槽の下部を浸漬させ、該下槽の該水系液W2中であり且つ該上槽に対して下側となる位置に超音波発生装置の振動子を設けた処理槽と、
前記上槽の前記水系液W1中にガラス繊維織物を搬送させながら浸漬させる搬送手段と、
を備えることを特徴とするガラス繊維織物の開繊装置」(請求項1)を用いることが記載されている。
しかしながら、甲1発明及び甲1には、フィラメントの本数に着目するところはなく、ましてや、フィラメント本数を、甲1発明の100本程度のものから、本件発明1の如く、半分以下の20~40本とすることの動機はない。
仮に、フィラメントの本数を、甲4のガラスフィラメントが38本集束し([0057])、開繊処理として、ガラスクロスの経糸に50Nの張力をかけ、水流圧力を1.0MPaに設定した水流圧力による開繊処理を採用している([0062])ことを参酌し、甲1発明において、フィラメントの本数を、半分程度の20~40本にできたとしても、甲1発明は、超音波を用いた開繊装置を用いることを前提とするものであるから、フィラメントの本数を少なくした場合であっても、甲1発明と同様に「ガラス繊維織物の緯糸幅の標準偏差が18.9μmであ」るようにできるとはいえない。むしろ、フィラメント本数が比較的に小さく、織構造が「疎」といえるガラスクロスの場合は、ガラス糸同士の間隔が比較的広いことから、開繊により取り得る緯糸幅の最大値が大きく、開繊力を強めると緯糸幅がばらつき、糸幅の標準偏差が大きくなることが技術的にいえることである。
そうすると、甲1発明において、相違点1-2に係る本件発明1の特定事項を当業者が容易に想到し得たものではない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2) 本件発明2、4~10について
本件発明2、4~10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)で検討したことと同様に、本件発明2、4~10は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 本件発明11について
本件発明11と甲1方法発明とを対比するに、甲1方法発明の「ガラスフィラメント」、「ガラス糸(束)」、「ガラス繊維織物」、「経糸」、「緯糸」、「打ち込み密度」及び「緯糸幅」は、その機能や技術上の意義を考慮すると、それぞれ、本件発明11の「ガラスフィラメント」、「ガラス糸」、「ガラスクロス」、「経糸」、「緯糸」、「打ち込み密度」及び「緯糸幅」に相当する。
甲1方法発明の「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸(束)を経糸及び緯糸として製織して成るガラス繊維織物の製造方法」は、本件発明11の「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織する製織工程」に相当する。
甲1方法発明の「水系液W2を貯留する下槽に対して水系液W1を貯留する上槽の下部を浸漬させ、該下槽の該水系液W2中であり且つ該上槽に対して下側となる位置に超音波発生装置の振動子を設けた処理槽と、
前記上槽の前記水系液W1中にガラス繊維織物を搬送させながら浸漬させる搬送手段と、
を備えるガラス繊維織物の開繊装置を用い」ることと、本件発明11の「得られたガラスクロスをスプレー水で開繊する開繊工程を含み、かつ
前記開繊工程における前記スプレー水の圧力が0.20MPa以下であり、経糸方向の張力が50N未満であ」ることは、「得られたガラスクロスを開繊する開繊工程を含」む限りで一致する。
甲1方法発明の「フィラメント径」は、通常、規格に掲載されている「直径」の値が、「平均」での測定値であるということを踏まえたものといえるので、本件発明11の「平均フィラメント径」に相当する。
そうすると、甲1方法発明の「前記ガラスフィラメントのフィラメント径が、4.0μmであ」ることは、本件発明11の「前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであ」ることに相当する。
甲1方法発明の「前記ガラス繊維織物を構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々74本/25mmであ」ることは、本件発明11の「前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々独立して70~130本/25mmである」ことに相当する。
以上踏まえると、本件発明11と甲1方法発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
[一致点]
「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織する製織工程、及び、得られたガラスクロスを開繊する開繊工程を含み、かつ
前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、
前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々独立して70~130本/25mmである、ガラスクロスの製造方法。」
[相違点1-3について]
「得られたガラスクロスを開繊する開繊工程を含」むことについて、本件発明11は、「スプレー水で開繊する開繊工程を含み、かつ
前記開繊工程における前記スプレー水の圧力が0.20MPa以下であり、経糸方向の張力が50N未満であ」るのに対して、甲1方法発明は、「水系液W2を貯留する下槽に対して水系液W1を貯留する上槽の下部を浸漬させ、該下槽の該水系液W2中であり且つ該上槽に対して下側となる位置に超音波発生装置の振動子を設けた処理槽と、
前記上槽の前記水系液W1中にガラス繊維織物を搬送させながら浸漬させる搬送手段と、
を備えるガラス繊維織物の開繊装置を用い」る点。
以下に、上記相違点1-3について、検討する。
甲1方法発明は、ガラス繊維織物を開繊するに際し、「水系液W2を貯留する下槽に対して水系液W1を貯留する上槽の下部を浸漬させ、該下槽の該水系液W2中であり且つ該上槽に対して下側となる位置に超音波発生装置の振動子を設けた処理槽」を用いるもので、超音波発生装置を用いることを前提としている。
したがって、甲1方法発明において、本件発明11のように、「スプレー水で開繊する開繊工程」を採用する動機はなく、さらに、スプレー水を用いることを前提として、「前記開繊工程における前記スプレー水の圧力が0.20MPa以下であり、経糸方向の張力が50N未満」とすることは、甲1において記載も示唆もない。
よって、甲1方法発明において、上記相違点1-3における本件発明11の特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(4) 本件発明12、13について
本件発明12、13は、本件発明11の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(3)で検討したことと同様に、本件発明12、13は、甲1方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない
3-2 甲4を主引用例とする理由
(1) 本件発明1について
本件発明1と甲4発明とを対比するに、甲4発明の「ガラスフィラメント」、「ガラスクロス」、「経糸」、「緯糸」及び「織密度」は、その機能や技術上の意義を考慮すると、それぞれ、本件発明1の「ガラスフィラメント」、「ガラスクロス」、「経糸」、「緯糸」及び「打ち込み密度」に相当する。
甲4発明の「フィラメント径」は、「平均」での測定値であることは明らかなので、本件発明1の「平均フィラメント径」に相当する。
甲4発明の「ガラスフィラメントが38本集束されてな」る態様は、本件発明1の「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸」をなす態様及び「前記ガラスフィラメントの本数が、20~40本であ」る態様に相当する。
甲4発明の「それぞれフィラメント径3.6μm」であることは、本件発明1の「前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであ」ることに相当する。
甲4発明の「エアージェット式織機を用い製織し、前記経糸の織密度を105本/25mmとし、前記緯糸の織密度を110本/25mmとして、平織のガラスクロスを得」ていることは、本件発明1の「前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々独立して70~130本/25mmであ」ることに相当する。
以上踏まえると、本件発明1と甲4発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
[一致点]
「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織して成るガラスクロスであって、前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々独立して70~130本/25mmである、ガラスクロス。」
[相違点4-1]
ガラスクロスの緯糸について、本件発明1は、「緯糸幅の標準偏差が30μm以下であ」ると特定しているのに対して、甲4発明は、そのような特定をしていない点。
[相違点4-2]
ガラスクロスについて、本件発明1は、「下記式:R=Y/(25400/D){式中、R:緯糸被覆比率、Y:平均緯糸幅、D:緯糸打ち込み密度}で表される緯糸被覆比率Rが、以下に示される関係:0.50 ≦ R ≦0.83を満たす」とされているのに対して、甲4発明は、そのような特定をしていない点。
以下に、上記相違点について、検討する。
[相違点4-1について]
甲4には、開繊処理について、「ガラスクロスの経糸に50Nの張力をかけ、水力を1.0MPaに設定した水流圧力による開繊処理を採用した。」(段落[0062])と記載されるように、本件特許明細書において記載されている「50N未満」「45N以下」(段落【0048】)であって、「水圧0.20Mpa以下」(段落【0047】)とは、その開繊の条件が大きく異なるものである。
そして、上記3-1(1)で検討したとおり、フィラメント本数が比較的に小さく(甲4発明の38本)、織構造が「疎」といえるガラスクロスの場合は、ガラス糸同士の間隔が比較的広いことから、開繊により取り得る緯糸幅の最大値が大きく、開繊力を強めると緯糸幅がばらつき、糸幅の標準偏差が大きくなることが技術的にいえることである。
そうすると、甲4発明において、相違点4-1に係る本件発明1の特定事項を当業者が容易に想到し得たものではない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、相違点4-2について検討するまでもなく、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2) 本件発明2、4~10について
本件発明2、4~10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)で検討したことと同様に、本件発明2、4~10は、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 本件発明11について
本件発明11と甲4方法発明とを対比するに、甲4方法発明の「ガラスフィラメント」、「ガラスクロス」、「経糸」、「緯糸」及び「織密度」は、その機能や技術上の意義を考慮すると、それぞれ、本件発明11の「ガラスフィラメント」、「ガラスクロス」、「経糸」、「緯糸」及び「打ち込み密度」に相当する。
甲4方法発明の「フィラメント径」は、「平均」での測定値であることは明らかなので、本件発明11の「平均フィラメント径」に相当する。
甲4方法発明の「ガラスフィラメントが38本集束されてな」る態様は、本件発明11の「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸」をなす態様及び「前記ガラスフィラメントの本数が、20~40本であ」る態様に相当する。
甲4方法発明の「それぞれフィラメント径3.6μm」であることは、本件発明11の「前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであ」ることに相当する。
甲4方法発明の「エアージェット式織機を用い製織し、前記経糸の織密度を105本/25mmとし、前記緯糸の織密度を110本/25mmとして、平織のガラスクロスを得」ていることは、本件発明11の「前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々独立して70~130本/25mmであ」ることに相当する。
甲4方法発明の「ガラスフィラメントが38本集束されてなり」、「エアージェット式織機を用い製織」することは、本件発明11の「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織する製織工程、に相当する。
甲4方法発明の「前記ガラスクロスに、脱油処理、表面処理及び開繊処理を施し、前記開繊処理として、ガラスクロスの経糸に50Nの張力をかけ、水流圧力を1.0MPaに設定した水流圧力による開繊処理を採用し」ていることと、本件発明11の「得られたガラスクロスをスプレー水で開繊する開繊工程を含み、かつ
前記開繊工程における前記スプレー水の圧力が0.20MPa以下であり、経糸方向の張力が50N未満であ」ることとは、「得られたガラスクロスをスプレー水で開繊する開繊工程を含」む限りで一致する。
以上踏まえると、本件発明11と甲4方法発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
[一致点]
「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織する製織工程、及び、得られたガラスクロスをスプレー水で開繊する開繊工程を含み、
前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、
前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々独立して70~130本/25mmである、ガラスクロスの製造方法。」
[相違点4-3]
「得られたガラスクロスをスプレー水で開繊する開繊工程を含」むことについて、本件発明11は、「前記開繊工程における前記スプレー水の圧力が0.20MPa以下であり、経糸方向の張力が50N未満であ」るのに対して、甲4方法発明は、そのような特定をしていない点。
以下に、上記相違点4-3について、検討する。
甲4方法発明の「前記開繊処理として、ガラスクロスの経糸に50Nの張力をかけ、水流圧力を1.0MPaに設定した水流圧力による開繊処理」は、本件発明11の「前記開繊工程における前記スプレー水の圧力が0.20MPa以下であり、経糸方向の張力が50N未満であ」ることと、スプレー水の圧力において、甲4方法発明の「1.0MPa」と本件発明11の「0.20MPa以下」とは、その製造条件が大きく異なるものであり、甲4方法発明における「1.0MPa」を「0.20MPa以下」とする動機はない。
そして、本件発明11は、[相違点4-3]に係る本件発明11の特定事項を採用することで、本件発明11で製造することができるガラスクロスについて、「前記ガラスクロスの緯糸幅の標準偏差が30μm以下であり、前記ガラスクロスは、下記式:
R=Y/(25400/D)
{式中、R:緯糸被覆比率、Y:平均緯糸幅、D:緯糸打ち込み密度}
で表される緯糸被覆比率Rが、以下に示される関係:0.50 ≦ R ≦0.83」との物を得ることができるから、当業者が適宜なし得るというものでもない。
よって、甲4方法発明において、上記相違点4-3における本件発明11の特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
以上のとおりであるから、本件発明11は、甲4方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 本件発明12、13について
本件発明12、13は、本件発明11の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(3)で検討したことと同様に、本件発明12、13は、甲4方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3-3 甲5を主引用例とする理由
(1) 本件発明1について
本件発明1と甲5発明とを対比するに、甲5発明の「ガラスフィラメント」、「ガラスクロス」、「経糸」、「緯糸」及び「密度」は、その機能や技術上の意義を考慮すると、それぞれ、本件発明1の「ガラスフィラメント」、「ガラスクロス」、「経糸」、「緯糸」及び「打ち込み密度」に相当する。
甲5発明の「フィラメント径」は、「平均」での測定値であることは明らかなので、本件発明1の「平均フィラメント径」に相当する。
甲5発明の「ガラス繊維束は、50本のガラスフィラメントからな」る態様は、本件発明1の「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸」をなす態様及び「前記ガラスフィラメントの本数が、20~40本であ」ることに相当する。
甲5発明の「ガラスフィラメントの径は、4μmであ」ることは、本件発明1の「前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであ」ることに相当する。
甲5発明の「製織の際の経糸及び緯糸の密度は共に、85本/25mmであ」ることは、本件発明1の「前記ガラスクロスを構成する前記経糸の打ち込み密度が、70~105本/25mmであり、及び前記緯糸の打ち込み密度が、70~110本/25mmであ」ることに相当する。
以上踏まえると、本件発明1と甲5発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
[一致点]
「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織して成るガラスクロスであって、前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、前記ガラスフィラメントの本数が、20~40本であり、前記ガラスクロスを構成する前記経糸の打ち込み密度が、70~105本/25mmであり、及び前記緯糸の打ち込み密度が、70~110本/25mmであガラスクロス。」
[相違点5-1]
ガラスクロスの緯糸について、本件発明1は、「緯糸幅の標準偏差が30μm以下であ」ると特定しているのに対して、甲5発明は、そのような特定をしていない点。
[相違点5-2]
ガラスクロスについて、本件発明1は、「ガラスクロスの緯糸幅の標準偏差が30μm以下であり、前記ガラスクロスは、下記式:
R=Y/(25400/D)
{式中、R:緯糸被覆比率、Y:平均緯糸幅、D:緯糸打ち込み密度}
で表される緯糸被覆比率Rが、以下に示される関係:
0.50 ≦ R ≦0.83
を満たす」とされているのに対して、甲5発明は、そのような特定をしていない点。
以下に、上記相違点について、検討する。
[相違点5-1について]
甲5には、開繊処理について、「続いて、製織済ガラスクロス10に開繊処理を行う。開繊処理の方法として、高圧噴射水による開繊処理、バイブロウォッシャーの噴流水による開繊処理、水中での超音波振動による開繊処理、ローラを用いた押圧による開繊処理等を挙げることができる。この開繊処理により、経糸20及び緯糸30を構成するガラスフィラメント50がほぐされ、経糸20及び緯糸30は扁平化する。」(段落【0020】)との記載はあるものの、開繊処理におけるスプレー水の水圧や経糸の張力など、具体的な数値について記載されていない。
そして、フィラメント本数が比較的に小さく、織構造が「疎」といえるガラスクロスの場合は、ガラス糸同士の間隔が比較的広いことから、開繊により取り得る緯糸幅の最大値が大きく、開繊力を強めると緯糸幅がばらつき、糸幅の標準偏差が大きくなることが技術的にいえることである。
そうすると、甲5において、開繊処理の条件について、開繊処理時における経糸の張力やスプレー水の圧力についてなんら特定がないから、甲5発明に基づいて、上記相違点5-1における本件発明1の特定事項を当業者が容易に想到し得たものではない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、相違点5-2を検討するまでもなく、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2) 本件発明2、4~10について
本件発明2、4~10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)で検討したことと同様に、本件発明2、4~10は、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 本件発明11について
本件発明11と甲5方法発明とを対比するに、甲5方法発明の「ガラスフィラメント」、「ガラス繊維束」、「ガラス」、「経糸」、「緯糸」、「密度」及び「緯糸幅」は、その機能や技術上の意義を考慮すると、それぞれ、本件発明11の「ガラスフィラメント」、「ガラス糸」、「ガラスクロス」、「経糸」、「緯糸」、「打ち込み密度」及び「緯糸幅」に相当する。
甲5方法発明の「複数のガラスフィラメントから成るガラス繊維束を経糸及び緯糸とし、平織りの製織方法を用いて、製織済ガラスクロスを作製」することは、本件発明11の「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織する製織工程」に相当する。
甲5方法発明の「作製した製織済ガラスクロスに、高圧噴射水による開繊処理を行」うこと、本件発明11の「得られたガラスクロスをスプレー水で開繊する開繊工程を含み、かつ
前記開繊工程における前記スプレー水の圧力が0.20MPa以下であり、経糸方向の張力が50N未満であ」ることとは、「得られたガラスクロスをスプレー水で開繊する開繊工程を含」むことの限りで一致する。
甲5方法発明の「ガラスフィラメントの径」は、通常、規格に掲載されている「直径」の値が、「平均」での測定値であるということを踏まえたものといえるので、本件発明11の「平均フィラメント径」に相当する。
そうすると、甲5方法発明の「ガラスフィラメントの径が、4μmであ」ることは、本件発明11の「前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであ」ることに相当する。
甲5方法発明の「製織の際の経糸及び緯糸の密度は共に、85本/25mmであ」ることは、本件発明11の「前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々独立して70~130本/25mmである」ことに相当する。
以上踏まえると、本件発明11と甲5方法発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
[一致点]
「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織する製織工程、及び、得られたガラスクロスをスプレー水で開繊する開繊工程を含み、かつ
前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、
前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々独立して70~130本/25mmである、ガラスクロスの製造方法。」
[相違点5-3について]
ガラスクロスをスプレー水で開繊する開繊工程について、本件発明11は、「開繊工程における前記スプレー水の圧力が0.20MPa以下であり、経糸方向の張力が50N未満であ」るのに対して、甲5方法発明は、そのような特定はなされていない点。
以下に、上記相違点5-3について、検討する。
甲5には、開繊処理について、「続いて、製織済ガラスクロス10に開繊処理を行う。開繊処理の方法として、高圧噴射水による開繊処理、バイブロウォッシャーの噴流水による開繊処理、水中での超音波振動による開繊処理、ローラを用いた押圧による開繊処理等を挙げることができる。この開繊処理により、経糸20及び緯糸30を構成するガラスフィラメント50がほぐされ、経糸20及び緯糸30は扁平化する。」(段落【0020】)との記載はあるものの、開繊処理におけるスプレー水の水圧や経糸の張力など具体的な数値について記載されていない。
そして、フィラメント本数が比較的に小さく、織構造が「疎」といえるガラスクロスの場合は、ガラス糸同士の間隔が比較的広いことから、開繊により取り得る緯糸幅の最大値が大きく、開繊力を強めると緯糸幅がばらつき、糸幅の標準偏差が大きくなることが技術的にいえることである。
そうすると、甲5方法発明において、開繊処理の条件について、開繊処理時における経糸の張力やスプレー水の圧力についてなんら特定がないから、上記相違点5-3に係る本件発明11の特定事項を当業者が採用する動機はない。
そして、本件発明11は、[相違点5-3]に係る本件発明11の特定事項を採用することで、本件発明11で製造することができるガラスクロスについて、「前記ガラスクロスの緯糸幅の標準偏差が30μm以下であり、前記ガラスクロスは、下記式:
R=Y/(25400/D)
{式中、R:緯糸被覆比率、Y:平均緯糸幅、D:緯糸打ち込み密度}
で表される緯糸被覆比率Rが、以下に示される関係:0.50 ≦ R ≦0.83」との物を得ることができるから、当業者が適宜なし得るというものでもない。
よって、甲5方法発明において、上記相違点5-3における本件発明11の特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものではない。
(4) 本件発明12、13について
本件発明12、13は、本件発明11の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(3)で検討したことと同様に、本件発明12、13は、甲5方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない
4 取消理由3(サポート要件)について
本件訂正により、訂正後の本件発明11は、「複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸を経糸及び緯糸として製織する製織工程、及び、得られたガラスクロスをスプレー水で開繊する開繊工程を含み、かつ
前記開繊工程における前記スプレー水の圧力が0.20MPa以下であり、経糸方向の張力が50N未満であって、
前記ガラスフィラメントの平均フィラメント径が、3.0~4.5μmであり、
前記ガラスクロスを構成する前記経糸及び前記緯糸の打ち込み密度が、各々独立して70~130本/25mmである、ガラスクロスの製造方法。」とされ、ガラスクロスのフィラメント径や打ち込み密度が特定された。
よって、上記取消理由3は、解消した。
5 取消理由4(明確性)について
本件訂正により、訂正前の明細書の段落【0074】の【表1】の「本/25.4mm」(2箇所)との記載を、「本/25mm」と訂正され、特許請求の範囲の記載、明細書の記載について、整合が図られた。
よって、上記取消理由4は、解消した。
6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、特許異議申立書において、「本件実施例で製造方法が確認できるのは、本件発明1及び12に記載された数値範囲のうち、緯糸幅の標準偏差が13μm以上、緯糸被覆比率Rが0.65以上のものです。緯糸幅の標準偏差が0~13μm未満、緯糸被覆比率Rが、0.50≦R<0.65の範囲については、明細書及び本件優先日時の技術常識を参酌したとしても、「当業者がその物を生産できる」、「その方法により物を生産できる」ように記載されていません。」として、本件発明1及びこれらを直接又は間接的に引用する本件発明2~10、緯糸幅の標準偏差及び緯糸被覆比率Rが規定されていない本件発明11、本件発明12及びこれを引用する本件発明13は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張する(特許異議申立書42ページ下から8行~43ページ5行)。
しかしながら、緯糸幅の標準偏差については、本件特許明細書の【0015】、【0016】の記載により調整できることが、緯糸被覆比率Rについては、【0027】、【0028】により調整できることが、開繊方法については、【0046】~【0048】にそれぞれ記載されているから、本件発明は当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号の要件を満たす。
したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人が提出した特許異議の申立理由によっては、請求項1、2、4~13に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1、2、4~13に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
また、請求項3に係る特許は、上記のとおり、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700844