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特許異議申立

2022-700836

電池外装体用積層体原反、電池外装体用積層体及び電池外装体用積層体原反の製造方法

審判番号
2022-700836
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-170211
登録番号
7029257
請求日
2022年08月25日
審決日
2023年06月26日
公報発行日
2023年09月29日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】藤森工業株式会社
  • 【権利者代理人】田▲崎▼ 聡
  • 【権利者代理人】大浪 一徳
  • 【権利者代理人】貞廣 知行
  • 【異議申立人】田中 俊子
審判長/審判官
  • 審判長 篠原 功一
  • 審判官 山田 正文
  • 審判官 畑中 博幸
分類
P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M) / P1651.536-YAA(H01M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7029257号発明「電池外装体用積層体原反、電池外装体用積層体及び電池外装体用積層体原反の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7029257号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第7029257号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7029257号の請求項1ないし8に係る発明についての出願は、平成29年9月5に出願されたものであって、令和4年2月22日にその特許権が設定登録され、令和4年3月3日に特許掲載公報が発行された。 その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和4年 8月25日 :特許異議申立人田中俊子(以下、「申立人」という。)により請求項1-8に係る特許に対する特許異議の申立て 令和4年10月31日付け:取消理由通知 令和4年12月16日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和5年 2月 9日 :申立人による意見書の提出 令和5年 3月 2日付け:取消理由通知(決定の予告) 令和5年 4月14日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和5年 5月22日 :申立人による意見書の提出 なお、令和5年4月14日に訂正の請求がなされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、令和4年12月16日にされた訂正の請求は取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和5年4月14日付けの訂正請求の趣旨は、特許第7029257号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-8に訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「前記シーラント層は脂肪酸アミド化合物を含み、」とあるのを、 「前記シーラント層は脂肪酸アミド化合物を1000ppm以上6000ppm以下含み、」に訂正し、 「前記シーラント層の表面における算術平均粗さ(Ra)が、0.05μm以上5.0μm以下であり、」とあるのを、 「前記シーラント層の表面における算術平均粗さ(Ra)が、0.05μm以上1.0μm以下であり、」に訂正する(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2-8も同様に訂正する。)。 2 訂正要件についての判断 (1)一群の請求項について 訂正事項1に係る本件訂正前の請求項1ないし8について、請求項2ないし8は請求項1を直接又は間接的に引用しているから、本件訂正前の請求項1ないし8に対応する本件訂正の請求項〔1-8〕は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件 ア 訂正の目的 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「シーラント層は脂肪酸アミド化合物を含」むとの構成について、「シーラント層は脂肪酸アミド化合物を1000ppm以上6000ppm以下含」むと限定すると共に、「シーラント層の表面における算術平均粗さ(Ra)が、0.05μm以上5.0μm以下」との構成について、「シーラント層の表面における算術平均粗さ(Ra)が、0.05μm以上1.0μm以下」と限定するものである。 よって、訂正事項1は、請求項1について、特許請求の範囲を減縮するものである。 また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし8も同様に、特許請求の範囲を減縮するものである。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否 明細書の段落【0020】には、「また、本実施形態においてシーラント層17に存在する脂肪酸アミド化合物の含有量は、シーラント層17における質量基準で1000ppm以上が好ましく、1500ppm以上がより好ましく、3000ppm以上が特に好ましい。また、シーラント層17に存在する脂肪酸アミド化合物の含有量は、6000ppm以下が好ましく、5500ppm以下がより好ましく、5000ppm以下が特に好ましい。」と記載され、段落【0023】には、「前記シーラント層の表面における算術平均粗さ(Ra)が、0.01μm以上5.0μm以下である。本実施形態において、Raは0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。また、2.5μm以下が好ましく、1.0μm以下がより好ましい。上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。」と記載されている。 よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 ウ 独立特許要件について 訂正事項1は、上記アに示したとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするところ、本件においては、訂正前の請求項1ないし8について特許異議の申立てがされているから、対応する訂正後の請求項1ないし8に係る発明について、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 3 小括 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は、その訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるものである。なお、下線は、訂正箇所を示す。 「【請求項1】 少なくともシーラント層、バリア層、基材層をこの順で備える電池外装体用積層体原反であって、前記シーラント層は脂肪酸アミド化合物を1000ppm以上6000ppm以下含み、前記バリア層はステンレス箔からなり、前記シーラント層の表面における算術平均粗さ(Ra)が、0.05μm以上1.0μm以下であり、 前記シーラント層中の脂肪酸アミド化合物の含有量が下記(式1)を満たすことを特徴とする、電池外装体用積層体原反。 60000/(シーラント層の膜厚(μm))≦(脂肪酸アミド化合物の含有量(ppm))≦100000/(シーラント層の膜厚(μm)) ・・・(式1) 【請求項2】 前記基材層の前記バリア層とは反対の面にマット層を備える、請求項1に記載の電池外装体用積層体原反。 【請求項3】 前記マット層は、粒径が1.0μm以上5.0μm以下のマット剤を含む請求項2に記載の電池外装体用積層体原反。 【請求項4】 前記バリア層を構成するステンレス箔のアイユニット値が25以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電池外装体用積層体原反。 【請求項5】 請求項1~4のいずれか1項に記載の電池外装体用積層体原反を枚葉に切断した電池外装体用積層体。 【請求項6】 請求項5に記載の積層体を備えた電池外装体。 【請求項7】 請求項6に記載の電池外装体を備えた電池。 【請求項8】 請求項1~4のいずれか1項に記載の電池外装体用積層体原反の製造方法であって、 シーラント層とバリア層とを接着剤を用いて貼り合せる工程と、 前記バリア層と基材層とを接着剤を用いて貼り合せて積層体原反とする工程と、 前記積層体原反をロール状に巻き原反ロールとする工程と、 前記原反ロールを40℃以上の条件で50時間以上加熱する工程と、を有する電池外装体用積層体原反の製造方法。」 第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 令和5年3月2日付けの取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。 請求項1ないし8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1ないし4および8に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 引用文献1:特開2017-79199号公報(甲第1号証) 引用文献2:特開2013-101764号公報(甲第2号証) 引用文献3:特開2013-149397号公報(甲第3号証) 引用文献4:特開2015-33828号公報(甲第4号証) 引用文献8:特開2002-96419号公報(甲第8号証) 2 当審の判断 (1)引用文献の記載事項・引用発明 引用文献1の【0015】の「本発明の電池用包装材料は、第1の面31及び第2の面32を有するステンレス鋼箔3と、第1の面31側に積層された基材層1と、第2の面32側に積層されたシーラント層4とを備える積層体からなる。」との記載によれば、引用文献1に記載された電池用包装材は、シーラント層、ステンレス鋼箔、基材層をこの順に積層したものである。 引用文献1の【0059】の「本発明の電池用包装材料において、シーラント層4は、ステンレス鋼箔3の第2の面32側に積層されており、最内層に該当し、電池の組み立て時にシーラント層4同士が熱溶着して電池素子を密封する層である。」との記載によれば、シーラント層は最内層で、シーラント層同士が熱溶着して電池素子を密封する層である。 引用文献1の【0041】の「本発明の電池用包装材料において、ステンレス鋼箔3は、電池用包装材料の強度向上の他、電池内部に水蒸気、酸素、光等が侵入するのを防止するためのバリア層として機能する層である。」との記載によれば、ステンレス鋼箔は強度向上の他水蒸気等が侵入するのを防止するバリア層として機能する層である。 引用文献1の【0024】の「本発明の電池用包装材料において、基材層1は、最外層を形成する層である。・・・基材層1を形成する素材としては、例えば、ポリエステル樹脂・・・が挙げられる。」との記載によれば、基材層は最外層を形成するポリエステル樹脂からなる層である。 引用文献1の【0077】の「シーラント層4の厚みとしては、・・・更に好ましくは20~60μmが挙げられる。」との記載によれば、シーラント層は厚み20~60μmである。 引用文献1の【0078】の「シーラント層4は、必要に応じてスリップ剤などを含んでいてもよい。」との記載、【0079】の「スリップ剤としては、・・・上記の基材層1で例示したものなどが挙げられる。・・・シーラント層4におけるスリップ剤の含有量としては、・・・より好ましくは0.05~0.15質量%程度が挙げられる。」との記載、【0033】の「スリップ剤の薄膜層は、基材層1上にスリップ剤をブリードアウトにより表面に析出させて薄層を形成させる方法・・・で形成できる。スリップ剤としては、・・・例えば、エルカ酸アマイド・・・等が挙げられる。」との記載によれば、シーラント層は、エルカ酸アマイドのスリップ剤を0.05~0.15重量%含有するといえる。 引用文献1の【0030】の「基材層1には、成形性を向上させるために低摩擦化させておいてもよい。・・・基材層1を低摩擦化するには、例えば、マット処理・・・が挙げられる。」、【0032】の「マット処理としては、予め基材層1にマット化剤を添加し表面に凹凸を形成・・・が挙げられる。また、最外層マット化剤としては、例えば、粒径が0.5nm~5μm程度の微粒子が挙げられる。」との記載によれば、基材層は粒径が0.5nm~5μmの微粒子である最外層マット化剤を添加し表面に凹凸が形成されたものといえる。 以上のことより、引用文献1(甲第1号証)には、「電池用包装材料」として以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。 「シーラント層、ステンレス鋼箔、基材層をこの順に積層した電池用包装材であって、 シーラント層は最内層で、シーラント層同士が熱溶着して電池素子を密封する層、 ステンレス鋼箔は強度向上の他水蒸気等が侵入するのを防止するバリア層として機能する層、 基材層は最外層を形成するポリエステル樹脂からなる層であり、 シーラント層は厚み20~60μmで、エルカ酸アマイドのスリップ剤を0.05~0.15重量%含有し、 基材層は粒径が0.5nm~5μmの微粒子である最外層マット化剤を添加し表面に凹凸が形成される 電池用包装材。」 (2)対比及び判断 ア 本件発明1について 本件発明1と引用発明1とを対比する。 (ア)本件の明細書【0011】の「シーラント層は、本実施形態の電池外装体用積層体原反において、最内層に該当し、電池を組み立てたときにシーラント層同士が熱溶着して電池素子を密封する層である。」との記載を考慮すれば、引用発明1の「最内層で、シーラント層同士が熱溶着して電池素子を密封する層」である「シーラント層」は本件発明1の「シーラント層」に相当する。 引用発明1の「ステンレス鋼箔」は、「強度向上の他水蒸気等が侵入するのを防止するバリア層として機能する層」であるから、本件発明1の「バリア層」及び「前記バリア層はステンレス箔からな」ることに相当する。 本件の明細書【0031】の「基材層11は、十分な機械的強度を有するものであれば特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)・・・等のポリエステル樹脂・・・が使用できる」との記載を考慮すれば、引用発明1の「最外層を形成するポリエステル樹脂からなる層」である「基材層」は本件発明1の「基材層」に相当する。 そして、引用発明1の「電池用包装材」は、「シーラント層、ステンレス鋼箔、基材層をこの順に積層した」ものであり「包装材」が外装を形成するのは明らかであるから、本件発明1の「電池外装体用積層体原反」に相当する。 以上のことより、引用発明1の「シーラント層、ステンレス鋼箔、基材層をこの順に積層した電池用包装材」は、本件発明1の「少なくともシーラント層、バリア層、基材層をこの順で備える電池外装体用積層体原反であって、」「前記バリア層はステンレス箔からな」ることに相当する。 (イ)引用発明1のシーラント層が「エルカ酸アマイドのスリップ剤」を含有することは、本件発明1の「前記シーラント層は脂肪酸アミド化合物を含」むことに相当する。 ただし、脂肪族アミド化合物を、本件発明1は「1000ppm以上6000ppm以下」含むのに対し、引用発明1は「0.05~0.15重量%」含有する点で相違する。 (ウ)本件発明1は「前記シーラント層の表面における算術平均粗さ(Ra)が、0.05μm以上1.0μm以下」であるのに対して、引用発明1はその旨特定されていない点で相違する。 (エ)本件発明1は「前記シーラント層中の脂肪酸アミド化合物の含有量が」「60000/(シーラント層の膜厚(μm))≦(脂肪酸アミド化合物の含有量(ppm))≦100000/(シーラント層の膜厚(μm))」を満たすのに対して、引用発明1はその旨特定されていない点で相違する。 (オ)してみると、本件発明1と引用発明1とは、次の一致点及び相違点を有する。 〈一致点〉 「少なくともシーラント層、バリア層、基材層をこの順で備える電池外装体用積層体原反であって、前記シーラント層は脂肪酸アミド化合物を含み、前記バリア層はステンレス箔からなる、 電池外装体用積層体原反。」 〈相違点1〉 脂肪族アミド化合物を、本件発明1は「1000ppm以上6000ppm以下」含むのに対し、引用発明1は「0.05~0.15重量%」含有する点。 〈相違点2〉 本件発明1は「前記シーラント層の表面における算術平均粗さ(Ra)が、0.05μm以上1.0μm以下」であるのに対して、引用発明1はその旨特定されていない点。 〈相違点3〉 本件発明1は「前記シーラント層中の脂肪酸アミド化合物の含有量が」「60000/(シーラント層の膜厚(μm))≦(脂肪酸アミド化合物の含有量(ppm))≦100000/(シーラント層の膜厚(μm))」を満たすのに対して、引用発明1はその旨特定されていない点。 (カ)事案に鑑み相違点2について検討する。 引用文献8(甲第8号証)(特に、【0001】、【0012】、【0018】、【0022】ないし【0023】、【0027】)には、二次蓄電池の包材として使用される複合材において、ヒートシール性のある樹脂である未延伸フィルム(シーラント層)外側表面にエンボス高さ(算術平均粗さ(Ra))が2μmのエンボス加工をし、加工性を改善する技術が記載されているが、シーラント層の表面における算術平均粗さ(Ra)を0.05μm以上1.0μm以下とすることは記載も示唆もされていない。 また、引用文献2ないし4(甲第2ないし4号証)のいずれにも、シーラント層の表面における算術平均粗さ(Ra)を0.05μm以上1.0μm以下とすることは記載も示唆もされていない。 したがって、上記相違点2に係る構成を得ることは、引用発明1及び引用文献2ないし4、8に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 そして、本件明細書の【0023】、【0026】の記載を考慮すれば、シーラント層の表面における算術平均粗さ(Ra)を0.05μm以上1.0μm以下とすることにより、積層体同士の貼りつきを抑制できると共に積層体原反の表面の外観を良好なものとすることができ、また、脂肪酸アミド化合物が過度にブリードアウトした場合であっても、脂肪酸アミド化合物が基材層側に付着することを抑制できるものである。 したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明1および引用文献2ないし4、8に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (キ)次に、令和5年3月2日付けの取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった証拠について検討する。 特開2017-112014号公報(甲第5号証)(特に、【0013】、【0060】、【0061】)には、基材層と、金属層と、シーラント層とをこの順に有する積層体からなり、シーラント層は金属層側から順に第1シーラント層と、第2シーラント層と、第3シーラント層とを有する電池用包装材料において、第3シーラント層の表面(電池用包装材料の最内層側の表面)には凹凸形状が付与されていることにより優れた滑り性を備え当該凹凸表面の算術平均粗さ(Ra)は3.0~20.0μm程度とする技術が記載されているが、シーラント層の表面における算術平均粗さ(Ra)を0.05μm以上1.0μm以下とすることは記載も示唆もされていない。 また、特開2006-318685号公報(甲第6号証、甲第7号証)(特に、【0012】、【0015】、【0044】、【0045】、【0046】)には、基材層、アルミニウム箔、化成処理層、接着層、熱接着性樹脂層が順に積層された電池用包装材において熱接着性樹脂層の表出面の中心線表面粗さ(Ra)を60nm~1000nm(0.06μm~1μm)とすることにより、スリップ剤を用いることなく熱接着性樹脂層のプレス成形時の滑り性を向上させる技術が記載されると共にスリップ剤が混練されたCPPフィルムの表出面の中心線表面粗さ(Ra)を48.13nm(0.04813μm)とし、スリップ剤を混練しないCPPフィルムの表出面の中心線表面粗さ(Ra)を169.96nm(0.16996μm)または141.05nm(0.14105μm)とすることが記載され、特開2016-81705号公報(甲第9号証)(特に、【0032】、【0075】)には、基材層、第1の接着層、バリア層、第2の接着層、シーラント層がこの順で積層されてなる電池外装用ラミネートフィルムにおいて、シーラント層の電池外装用ラミネートフィルムの最外面となる面に表面粗さRa0.02~0.08μmの凹凸を付与し、滑剤を不要とすることが記載されているものの、これらの文献に記載された技術はいずれも、シーラント層表面に所定表面粗さの凹凸を設けることにより滑剤(スリップ剤)を不要とする技術であり、引用発明1にこれらの文献に記載された技術を適用しシーラント層に滑剤である脂肪族アミド化合物を含んだままシーラント層に所定表面粗さの凹凸を設けることには、阻害要因があるものと認められる。 したがって、上記相違点2に係る構成を得ることは、引用発明1及び甲第5ないし7、9号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえず、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明1および甲第5ないし7、9号証に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ク)小括 以上のことより、本件発明1は、甲第1ないし9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。 イ 本件発明2ないし8について 本件発明2ないし8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものである。 してみると、上記「ア」で検討したことと同じ理由により、本件の請求項2および8に係る発明は甲第1ないし9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。 よって、本件の請求項2ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでない。 第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について 1 申立人の主張 申立人は特許異議申立書(第44ないし45頁)において、概略次のように主張している。 本件発明1の式1によれば、本件発明1においてシーラント層の厚みが薄くなるほどシーラント層中の脂肪酸アミド濃度が高くなり、厚くなるほど脂肪酸アミド濃度は低くなることになる。 ところが、本件明細書の全実施例において、式1を満たしているのは、厚みが40μmのシーラント層にエルカ酸アミドが2000ppm含まれる実施例1~4と、厚みが20μmのシーラント層にエルカ酸アミドが4000ppm含まれる実施例7のみである。 そうすると、本件発明1-8に包含される、あらゆる厚みのシーラント層について本発明の課題が解決できると認識することはできず、また、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1-8に包含されるあらゆる厚みのシーラント層について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 よって、本件発明1-8に係る発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、また、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1-8に包含されるあらゆる厚みのシーラント層について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 したがって、本件の請求項1ないし8に係る特許は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。また、本件明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、本件の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 当審の判断 本件明細書【0005】の「シーラント層に含まれる滑剤が積層体の表面に浮き出るブリードアウト現象が発生し、滑剤が基材層に付着することによって積層体同士が貼りつく」、【0006】の「積層体同士の貼りつきが抑制され、積層体原反を加工する際の滑り性が良好な電池外装体用積層体原反、電池外装体用積層体及び電池外装体用積層体原反の製造方法を提供すること」との記載によれば、本件発明の解決すべき課題は、シーラント層に含まれる滑剤が積層体の表面に浮き出ることによる積層体同士の貼りつきが抑制され、積層体原反を加工する際の滑り性が良好な電池外装体用積層体原反を提供することと認められる。 そして、本件明細書には、【0019】に「 本実施形態において、前記シーラント層中の脂肪酸アミド化合物の含有量は、下記(式1)を満たすことが好ましい。 60000/(シーラント層の膜厚(μm))≦(脂肪酸アミド化合物の含有量(ppm))≦100000/(シーラント層の膜厚(μm)) ・・・(式1)」、【0020】に「また、本実施形態においてシーラント層17に存在する脂肪酸アミド化合物の含有量は、シーラント層17における質量基準で1000ppm以上が好ましく、1500ppm以上がより好ましく、3000ppm以上が特に好ましい。また、シーラント層17に存在する脂肪酸アミド化合物の含有量は、6000ppm以下が好ましく、5500ppm以下がより好ましく、5000ppm以下が特に好ましい。」、【0021】に「シーラント層17に存在する脂肪酸アミド化合物の含有量が上記下限値以上であることにより、電池外装体用積層体原反に十分な滑り性を付与できる。また、上記上限値以下とすることにより、電池外装体用積層体原反表面に過度に滑剤が存在することを抑制し、例えば絞り成形加工する際に金型に滑剤が付着することを防止できる。」と記載されている。 当該【0019】ないし【0021】の記載によれば、シーラント層中の脂肪酸アミド化合物の含有量を1000ppm以上6000ppm以下の範囲で式1を満たす値とすることにより、積層体原反に十分な滑り性を付与しつつ積層体減退の表面に過度に滑剤が存在することを抑制することができることが解る。 してみると、積層体同士の貼りつきが抑制され、積層体原反を加工する際の滑り性が良好な電池外装体用積層体原反を提供するという本件発明の目的のためには、シーラント層中の脂肪酸アミド化合物の含有量を1000ppm以上6000ppm以下の範囲で式1を満たす値とすれば足ることが、本件明細書の記載から当業者には明らかである。 よって、実施例が厚みが40μmのシーラント層にエルカ酸アミドが2000ppm含まれる実施例と、厚みが20μmのシーラント層にエルカ酸アミドが4000ppm含まれる実施例のみであるからといって、本件発明1は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものとは言えない。本件発明2ないし8についても、同様である。 また、本件明細書の【0061】ないし【0071】に記載された実施例1ないし4、7、8の電池外装用積層体原反は本件発明1の構成を有するものであるから、本件の発明の詳細な説明には、本件発明1に具体的な実施例が記載されていると認められ、当該記載に基づき当業者は本件発明1を実施できるものと認められる。 よって、出願時の技術常識を踏まえると、発明の詳細な説明は、本件発明1を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。本件発明2ないし8についても、同様である。 したがって、申立人の主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては、請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。さらに、ほかに請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700836

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