特許異議申立
2022-700707
多結晶シリコンロッド、多結晶シリコンロッドの製造方法および多結晶シリコンの熱処理方法
- 審判番号
- 2022-700707
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-571756
- 登録番号
- 7022874
- 請求日
- 2022年07月22日
- 審決日
- 2023年03月07日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社トクヤマ
- 【権利者代理人】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 原 和秀
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1652.121-YAA(C01B) / P1652.537-YAA(C01B) / P1652.536-YAA(C01B) / P1652.851-YAA(C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7022874号発明「多結晶シリコンロッド、多結晶シリコンロッドの製造方法および多結晶シリコンの熱処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7022874号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第7022874号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7022874号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)9月1日(優先権主張 2020年(令和2年)11月27日(JP)日本国)を国際出願日とする特許出願であって、令和4年2月9日にその特許権の設定登録がされ、同年同月18日に特許掲載公報が発行された。
そして、本件特許の請求項1~3に係る特許に対して、令和4年7月22日に特許異議申立人中川賢治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後の経緯(提出書類等)は、概略、以下のとおりである。
令和 4年10月31日付け 取消理由通知
同年12月 2日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
令和 5年 1月17日 意見書(申立人)
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年12月2日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下、この訂正の請求による訂正を「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。
(1)訂正事項
特許請求の範囲の請求項1における外側総濃度の数値範囲「100pptw以下」を、下限値「40pptw以上」で限定する訂正を行う(請求項1の記載を引用する請求項2、3も同様に訂正する。)。
(2)一群の請求項
訂正前の請求項2、3は、訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用するから、訂正前の請求項1~3は一群の請求項を構成するところ、上記訂正事項に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項1~3を訂正の単位として請求されたものである。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
訂正事項は、願書に添付された明細書の表1の「第3サンプル」に係る記載に基づき、訂正前の請求項1に記載された「100pptw以下」を「40pptw以上100pptw以下」に、外側総濃度の数値範囲に係る下限を特定し、当該数値範囲を狭くするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
上記第2で検討したとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~3に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて、それぞれ「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
中心軸と平行な表面から径方向に4mmの深さまでの部分における、鉄、クロムおよびニッケルの各濃度を合計した外側総濃度が40pptw以上100pptw以下であり、
前記表面から径方向に4mmを超えて離れた部分における前記鉄、前記クロムおよび前記ニッケルの各濃度を合計した総濃度を内側総濃度とすると、前記内側総濃度に対する前記外側総濃度の比率が1.0以上2.5以下である、多結晶シリコンロッド。
【請求項2】
前記径方向の内部歪み率が1.0×10-4cm-1未満である、請求項1に記載の多結晶シリコンロッド。
【請求項3】
直径が100mm以上である、請求項1または2に記載の多結晶シリコンロッド。」
第4 特許異議の申立てについて
1 特許異議の申立ての理由の概要
特許異議の申立ての理由(以下、「申立理由」という。)の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(特許法第29条第2項に係る申立理由)
訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明ないし技術的事項に基いて、同請求項2、3に係る発明は、甲第1号証~甲第3号証に記載された発明ないし技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(特許法第36条第6項第2号に係る申立理由)
訂正前の請求項1、2に係る発明は、多結晶シリコンロッドの直径については限定されておらず、直径が小さい場合には表面から4mmの深さまでの部分における各濃度の合計という構成は意味をなさなくなるから、同請求項1、2に係る発明は不明確であるため、同請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)申立理由3(特許法第36条第6項第1号に係る申立理由)
訂正前の請求項1~3に係る発明は、熱処理をされたことに係る特定がなく、熱処理をされていないものも含むものであるところ、熱処理をされていない場合には、多結晶シリコンロッド全体の純度を向上させるという本件発明の課題が解決できるとは認識できないため、同請求項1~3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものといえないから、同請求項1~3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)申立理由4(特許法第36条第4項第1号に係る申立理由)
本件特許の願書に添付された明細書の発明の詳細な説明には、外側総濃度が40pptw未満の多結晶シリコンロッドは記載されておらず、実際にどのように製造すれば外側総濃度が40pptw未満である多結晶シリコンロッドを得ることができるのか不明であるから、訂正前の請求項1~3に係る発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないため、同請求項1~3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(証拠方法)
甲第1号証 国際公開第2019/188912号
甲第2号証 特開2020-45257号公報
甲第3号証 国際公開第97/44277号
2 取消理由の概要について
訂正前の請求項1~3に係る発明に対して、令和4年10月31日付けで通知した取消理由の概要は、おおむね上記1(4)の申立理由4と同様のものである。
3 甲号証の記載内容について
(1)甲第1号証
甲第1号証には、下記の事項が記載されている。
ア 「発明が解決しようとする課題
[0005] しかしながら、特許文献1に開示された技術では、多結晶シリコンの純度を高めるためにはエッチング量が多くなり、コストの面で問題がある。
[0006] 本発明の一態様は、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、少ないエッチング量で純度の高い多結晶シリコンを得ることである。」
イ 「発明を実施するための形態
・・・
[0013] 〔1.多結晶シリコンの製造方法〕
洗浄の対象となる多結晶シリコンの製造方法は特に限定されないが、例えば、クロロシラン化合物と水素とを反応器中で反応させて多結晶シリコンを析出させるシリコン析出工程を含む製造方法が挙げられる。シリコンを析出させる方法としてシーメンス法が知られている。シーメンス法では、鐘型(ベルジャー型)反応器内でトリクロロシランと水素とを反応させる。そして、反応器内部に立設した多結晶シリコン析出用芯棒の表面に多結晶シリコンを析出させ、成長した多結晶シリコンロッドを得る。
[0014] 上記多結晶シリコンの製造方法は、シリコン析出工程によって得られた多結晶シリコンロッドを破砕する工程および破砕された多結晶シリコンを分級する工程を含んでいてもよい。」
ウ 「実施例
・・・
[0059] (実施例1)
<実施例1-1>
図1は、本実施例に係る洗浄方法のブロック図である。本実施例では、第一水洗工程、第一洗浄工程、第二水洗工程、第二洗浄工程、第三洗浄工程、第三水洗工程および乾燥工程を実施した。水洗工程および洗浄工程では、各工程で用いる液体を湛えた洗浄槽に洗浄籠に入れられた多結晶シリコンを浸漬した。
[0060] 第一水洗工程では、ベルジャーから取り出した後、ハンマーなどを用いて長軸が20mm以上90mm以下、且つ、短軸が10mm以上60mm以下の塊状に整形した多結晶シリコンをポリプロピレン製の洗浄籠に入れ、純水(液温20℃)と3分間接触させた。
[0061] 第一水洗工程を経た多結晶シリコンは第一洗浄工程としてフッ硝酸(液温20℃)と接触させた。フッ硝酸における硝酸の含有量は69質量%、フッ化水素の含有量は0.2質量%とした。また、フッ硝酸は、Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Fe、Ni、Co、Cu、Zn、Wから選ばれる金属の合計含有量が、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)による測定値で400ppbwであった。洗浄籠を9分間揺動させながら多結晶シリコンの表面全体をフッ硝酸と接触させた。また、この第一洗浄工程では、後述する測定方法により、当該第一洗浄工程における「多結晶シリコンのエッチング量」を求めた。
[0062] 第一洗浄工程を経た多結晶シリコンは第二水洗工程として超純水(液温20℃)により、水洗を行った。第二洗浄工程を行う前に水洗を行うことにより第一洗浄工程で用いたフッ硝酸、特に硝酸の第二洗浄工程への混入を防ぐことができる。
[0063] 第二水洗工程を経た多結晶シリコンは、第二洗浄工程としてフッ酸を含む非酸化性薬液(液温20℃)と接触させた。非酸化性薬液としてフッ化水素のみを含む水溶液を用いた。非酸化性薬液におけるフッ化水素の含有量は5質量%であった。また、非酸化性薬液は、Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Fe、Ni、Co、Cu、Zn、Wから選ばれる金属の合計含有量が、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)による測定値で示して、50pptwであった。
[0064] 洗浄籠を6分間揺動させながら多結晶シリコンを非酸化性薬液に接触させた。
[0065] 第二洗浄工程を経た多結晶シリコンは水洗せず第三洗浄工程としてフッ硝酸(液温20℃)と接触させた。第三洗浄工程では、フッ硝酸における硝酸の含有量は69質量%、フッ化水素の含有量は0.2質量%とした。このフッ硝酸の金属含有量も、前記第一洗浄工程で使用したフッ硝酸と同じであった。洗浄籠を6分間揺動させながら多結晶シリコンの表面全体をフッ硝酸と接触させ、多結晶シリコンの表面に酸化膜を形成させた。また、この第三洗浄工程では、後述する測定方法により、この工程での「多結晶シリコンのエッチング量」を求めた。
[0066] 第三洗浄工程を経た多結晶シリコンを第三水洗工程として超純水により水洗した。そして、乾燥工程として多結晶シリコンに通気乾燥を施した後、通気冷却を施した。
[0067] 冷却された多結晶シリコンについて後述する測定方法により、「金属表面清浄度」を求めた。なお、金属表面清浄度とは、多結晶シリコンの表面に付着、または押し込まれた金属元素の量を示し、Fe表面清浄度とは、多結晶シリコンの表面に付着、または押し込まれた鉄の量を示す。
[0068] <実施例1-2~1-5>
さらに、実施例1-1と同様の各洗浄工程からなる多結晶シリコンの洗浄について、第一洗浄工程および第三洗浄工程における各フッ硝酸の硝酸含有量およびフッ化水素含有量を、表1に示したものに変更し、夫々に実施した。これらを実施例1-2~1-5とした。
・・・
[0073] (洗浄方法の評価方法)
実施例および比較例における、洗浄方法によるエッチング量とFe表面清浄度とを評価した。上述した所望の大きさに調製した多結晶シリコンを用いて評価した。Fe表面清浄度(pptw)にて多結晶シリコンの表面に付着している鉄の量を評価した。
[0074] (第一洗浄工程および第三洗浄工程における多結晶シリコンのエッチング量)
エッチング量を測定するサンプルとして、一辺が約7mmの立方体形状の多結晶シリコン小片群を用いた。第一洗浄工程、および第三洗浄工程において、各洗浄槽中に、洗浄対象の多結晶シリコンと共に、上記多結晶シリコン小片群120個を存在させて各洗浄工程を実施した。洗浄対象の多結晶シリコンと同じエッチング環境に、該多結晶シリコン小片群を曝した。なお、各洗浄工程を実施するに先立って、前記多結晶シリコン小片群(120個)合計の重量を電子天秤により測定しておき、さらに、各洗浄工程が終了した後にも、洗浄槽から取出し乾燥させた該多結晶シリコン小片群の合計の重量を測定した。洗浄前後での多結晶シリコン小片群の重量変化および洗浄工程実施前の全表面積から各洗浄工程でのエッチング厚み(μm)を算出し、これをエッチング量として評価した。
[0075] (Fe表面清浄度)
多結晶シリコン90gを、フッ硝酸(硝酸の含有量は65質量%、フッ化水素の含有量は5質量%)50ml(液温20℃)に15分間浸漬させ、その表面を分解除去し抽出液を得た。得られた抽出液中の各金属元素を誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)にて分析し、その測定値を90gで除することにより、多結晶シリコンの重量あたりの含有量(pptw)として示した。
[0076] (結果)
各条件におけるエッチング量を表1に示す。図2は、実施例1、実施例2、実施例3、比較例1および比較例2の洗浄方法により洗浄した多結晶シリコンの、Fe表面清浄度と、エッチング量との関係を示した図である。また、詳細な金属表面清浄度を表2に示す。鉄以外の金属表面清浄度も鉄と同様の方法で測定した。なお、対照として洗浄を行わなかった場合の詳細な金属表面清浄度も表2に示す。
[0077]
[表1]
[図:0001398274000001.jpg]
[0078]
[表2]
[図:0001398274000002.jpg]
」
エ 「[図2]
[図:0001398274000003.jpg]
」
(2)甲第2号証
甲第2号証には、概略、「チョクラルスキー法・・・により単結晶シリコンを育成する際の原料としての金属不純物の含有量が少ない高純度の多結晶シリコンロッドを高い歩留まりで製造する方法に関する」(【0001】)発明であって、当該発明は「金属不純物の含有量が少ない高純度の多結晶シリコンロッドを高い歩留まりで製造する多結晶シリコンロッドの製造方法を提供すること」(【0005】)を目的とするものであり、「低温部となるロッド表面付近は、Fe,Niなどの金属不純物がロッド内部よりも高濃度になる傾向がある」(【0008】)こと、形成した「多結晶シリコンロッド」が「直径約120mm」(【0034】)であることが記載されている。
(3)甲第3号証
甲第3号証には、概略、「内部歪みが小さく且つ均一な高結晶性を有する多結晶シリコンロッドおよびその製造法に関する」(明細書第1頁第4~5行)発明であって、当該発明は「高結晶であり且つ鉄を代表とする不純物の含有量が極めて少なく、しかも、残留応力が極めて少ない高純度の多結晶シリコンロッドを提供すること」(明細書第3頁下から2行~第4頁第1行)を目的とするものであり、形成した「多結晶シリコンロッド」の「直径」が「100mm」~「140mm」(明細書第13頁第21行、同第14頁の表1の実施例1~3、同第16頁の表2の実施例4)であること、「ロッドの持つ内部歪率」が「1.5×10-5cm-1」~「2.5×10-5cm-1」(明細書第14頁の表1の実施例1~3、同第16頁の表2の実施例4)であることが記載されている。
なお、甲第3号証には、「多結晶シリコンロッド」の不純物の濃度分布に関する記載はない。
4 当審の判断
事案に鑑み、上記1の申立理由及び上記2の取消理由をまとめて検討する。
(1)特許法第29条第2項に係る申立理由1について
ア 甲第1号証に記載された発明
(ア)上記3(1)に摘記した記載内容からみて、甲第1号証には、以下の技術的事項の開示を認めることができる。
a 「多結晶シリコンロッド」([0013])を「ベルジャーから取り出した後、ハンマーなどを用いて」「塊状に成形した多結晶シリコン」([0060])を得ること。
b 「実施例1-5」は、[0068]及び[0077]の表1によれば、「実施例1-1」と同様の洗浄工程を実施して得られたものであり、「実施例1-1」の洗浄工程は、上記aの「塊状に成形した多結晶シリコン」を、「第一水洗工程」([0060])、「第一洗浄工程」([0061])、「第二水洗工程」([0062])、「第二洗浄工程」([0063]~[0064])、「第三洗浄工程」([0065])、「第三水洗工程」([0066])を実施するものであること。
c 「実施例1-5」の「金属表面清浄度」は、[0076]及び[0078]の表2によれば、「Cr]が「0」「pptw」、「Fe]が「2」「pptw」、「Ni]が「0」「pptw」であること。
d [0059]に「(実施例1)」と記載されていることから、実施例1-1~実施例1-5をまとめて実施例1としていること。
e [0076]によれば、図2は、実施例1等の洗浄方法により洗浄した多結晶シリコンのFe表面清浄度及びエッチング量の関係を示した図であるとされること、並びに、上記b及びdの技術的事項を踏まえると、実施例1は、上記aの「塊状に成形した多結晶シリコン」を洗浄して得られたものであること、を考慮すると、図2には、多結晶シリコンロッドを、ハンマーなどを用いて塊状に成形した多結晶シリコンの、Fe表面清浄度及びエッチング量の関係が示されていること。
(イ)これらの技術的事項を「多結晶シリコンロッド」に注目して整理すると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
甲1発明
「多結晶シリコンロッドであって、
該多結晶シリコンロッドを、ハンマーなどを用いて塊状に成形した多結晶シリコンに対して、第一洗浄工程、第二洗浄工程、第三洗浄工程を実施したときに、Crの金属表面清浄度が0pptw、Feの金属表面清浄度が2pptw、Niの金属表面清浄度が0pptwとなる、
多結晶シリコンロッド。」
イ 対比、判断
(ア)本件発明1
a 本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、
「多結晶シリコンロッド。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本件発明1では、「多結晶シリコンロッド」が「中心軸と平行な表面から径方向に4mmの深さまでの部分における、鉄、クロムおよびニッケルの各濃度を合計した外側総濃度が40pptw以上100pptw以下であり、
前記表面から径方向に4mmを超えて離れた部分における前記鉄、前記クロムおよび前記ニッケルの各濃度を合計した総濃度を内側総濃度とすると、前記内側総濃度に対する前記外側総濃度の比率が1.0以上2.5以下」であるのに対して、甲1発明では、「多結晶シリコンロッドを、ハンマーなどを用いて塊状に成形した多結晶シリコンに対して、第一洗浄工程、第二洗浄工程、第三洗浄工程を実施したときに、Crの金属表面清浄度が0pptw、Feの金属表面清浄度が2pptw、Niの金属表面清浄度が0pptwとなる」ものである点
b 相違点について検討する。
甲第1号証の図2は、上記ア(ア)eの技術的事項のとおり、多結晶シリコンロッドを、ハンマーなどを用いて塊状に成形した多結晶シリコンの、Fe表面清浄度及びエッチング量の関係が示されているに過ぎず、また、甲第1号証には、塊状に成形する前の多結晶シリコンロッドの金属表面清浄度及び洗浄工程(エッチング量)との関係は記載されていないから、相違点は実質的なものである。
さらに、甲第2号証には、上記3(2)のとおり、一般的に、ロッド表面付近の金属不純物濃度がロッド内部よりも高濃度であるという傾向があることを示しているに過ぎないものであって、具体的な濃度分布については記載がなく、加えて、甲第3号証には、そもそも、上記3(3)のとおり、不純物の濃度分布については記載されていないから、本件発明1に特定されるような濃度分布を有する多結晶シリコンロッドが公知であるということもできないため、甲1発明において、相違点に係る構成を採用することが、当業者にとって容易に想到し得たことであるということもできない。
c 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
(イ)本件発明2、3
本件発明2、3は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項の全てを含むものであるから、上記(ア)に示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
ウ まとめ
以上の検討のとおりであるから、特許法第29条第2項に係る申立理由1に理由はない。
(2)特許法第36条第6項第2号に係る申立理由2について
本件発明1は、「中心軸と平行な表面から径方向に4mmの深さまでの部分」及び「前記表面から径方向に4mmを超えて離れた部分」を備える構成を有するものであることが特定されているから、本件発明1の多結晶シリコンロッドの直径が、これらの構成を満足するような所定の直径を有すること、すなわち、申立人が意見書で主張するような、直径が6mmの多結晶シリコンロッドが、本件発明1に含まれないこと、は明らかである。
したがって、本件発明1は明確である。
また、本件発明1を引用する本件発明2も、本件発明1と同様の理由により、明確である。
よって、特許法第36条第6項第2号に係る申立理由2に理由はない。
(3)特許法第36条第6項第1号に係る申立理由3について
ア 本件発明の課題は、本件明細書の【0005】等の記載を踏まえ、「多結晶シリコンロッドにおける表面近傍の部分の純度を向上させることで、多結晶シリコンロッド全体の純度を向上させること」であると認められる。
イ そして、本件明細書の実施例には、第1サンプル~第3サンプルとして、外側総濃度C1が40~100pptwの範囲、内側総濃度C2が40~60pptwの範囲である多結晶シリコンロッドが具体的に記載されるとともに、当該多結晶シリコンロッドは、C1/C2が1.0~2.5の範囲となり、「C1/C2が良好な結果」(【0109】)であるとされていることから、上記実施例の多結晶シリコンロッドは、上記アの本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものといえる。
ウ 他方、本件請求項1には、外側総濃度が40pptw以上100pptw以下であり、内側総濃度に対する外側総濃度の比率が1.0以上2.5以下であることが記載されている。これらの数値範囲は、上記イで検討した実施例の数値範囲にほかならない。
エ そうしてみると、本件発明1の多結晶シリコンロッドは、実施例の多結晶シリコンロッドと同様に、当業者が上記アの本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
オ 申立人の主張について検討する。
(ア)申立人は、異議申立書及び意見書において、本件発明1は、熱処理をされたことに係る特定がなく、熱処理をされていないものも含むものであるところ、本件明細書の【0005】~【0008】、【0048】、【0057】、【0113】の記載を踏まえると、本件発明の目的を達成するためには、多結晶シリコンを特定の条件下で熱処理(アニール処理)が当然必要とされる省くことのできない工程であることは明らかであるから、本件発明1において、熱処理をされていない場合には、上記アの本件発明の課題が解決できるとは認識できないため、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨主張している。
(イ)申立人の当該主張について検討する。
申立人の主張する「アニール処理」は、本件発明1の多結晶シリコンを製造する方法に必要といえるものの、本件発明1は、「多結晶シリコン」に係る物の発明である。
そして、本件発明1は、上記イ~エで検討したとおり、当業者が、上記アの本件発明の課題を解決できると認識できるものであるから、申立人の当該主張は採用できない。
カ 以上のとおり、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
また、本件発明2、3は、本件発明1を引用するものであることから、同様に判断することができる。
よって、特許法第36条第6項第1号に係る申立理由3に理由はない。
(4)特許法第36条第4項第1号に係る申立理由4及び取消理由について
ア 本件発明1~3は、上記(3)ウで検討したように、実施例に記載された範囲の多結晶シリコンロッドであるから、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願当時の技術常識に基いて、その物を製造し、使用することができるものである。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
イ 申立人は、意見書において、外側総濃度を40pptwとすると、内側総濃度に対する外側総濃度の比率が1.0以上2.5以下であるから、内側総濃度は16~40pptwということになるが、本件明細書には、内側総濃度を16~40pptwの範囲とする方法は何ら記載されていないため、本件発明の詳細な説明は、当業者が、本件発明1~3を実施することができる程度に記載されたものではない旨を、新たに主張している。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明の【0036】~【0082】、【0103】~【0108】及び表1には、外側総濃度C1が40~60pptwの範囲、内側総濃度C2が40~60pptwの範囲である多結晶シリコンロッドである第3サンプルが記載されるとともに、当該第3サンプルを得るための方法が具体的に記載されている。
そして、外側総濃度C1が40pptw、内側総濃度C2が40pptwである第3サンプルは、内側総濃度に対する外側総濃度の比率が1.0となり、本件請求項1に記載された当該比率の数値範囲である1.0以上2.5以下を満たすことは明らかである。
したがって、本件発明1~3の外側総濃度が40pptwである場合にも、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基いて、本件発明1~3を得られると認識できる。
よって、当該主張は採用できない。
ウ 以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~3を、当業者が、実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。
よって、特許法第36条第4項第1号に係る申立理由4及び取消理由に理由はない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700707