特許異議申立
2022-700699
ジルコニア焼結体の製造方法
- 審判番号
- 2022-700699
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-535471
- 登録番号
- 7005819
- 請求日
- 2022年07月22日
- 審決日
- 2023年10月17日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】クラレノリタケデンタル株式会社
- 【権利者代理人】鎌田 耕一
- 【権利者代理人】田村 康晃
- 【異議申立人】中丸 剛
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 三崎 仁
- 審判官 立木 林
- 分類
- P1651.121-YAA(C04B) / P1651.536-YAA(C04B) / P1651.537-YAA(C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7005819号発明「ジルコニア焼結体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7005819号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
特許第7005819号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7005819号の請求項1~10に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)7月31日(優先権主張 令和元年8月1日)を国際出願日とする出願であって、令和4年1月7日にその特許権の設定登録がされ、同月24日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年 7月22日 :特許異議申立人中丸剛(以下「申立人」という。)による請求項1~10に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 9月 5日付け:取消理由通知
同年11月11日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年12月20日 :特許権者による訂正請求書に対する手続補正書の提出
令和5年 2月24日 :申立人による意見書の提出
同年 4月25日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年 7月 6日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)の提出
なお、令和4年12月20日提出の手続補正書により補正された同年11月11日提出の訂正請求書による訂正の請求については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。また、すでに申立人には意見書の提出の機会が与えられており、そして、本件訂正請求書による訂正の請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、これまで提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となることから、特許法第120条の5第5項ただし書きの規定により、申立人には更なる意見書を提出する機会を与える必要がないと判断した(審判便覧 67-05.5 P 4.(1)の丸数字6参照)。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求書による請求の趣旨は、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下の訂正事項1~4のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1について
特許請求の範囲の請求項1に「前記焼成工程が、第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、及び第3昇温工程(H3)の少なくとも3段階の昇温工程を含み」と記載されているのを、「前記焼成工程が、第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、及び第3昇温工程(H3)の少なくとも3段階の昇温工程と係留工程とを含み、第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、第3昇温工程(H3)及び前記係留工程のすべてが連続し」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~10についても同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「HR1>HR2、HR2/HR3>1であり」と記載されているのを、「HR1>HR2、HR1/HR2>1.5であり、HR2/HR3>1.5であり」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的引用する請求項2~10についても同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「総焼成時間が50分以内であり前記」と記載されているのを、「総焼成時間が50分以内であり、前記」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的引用する請求項2~10についても同様に訂正する。)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「HR2/HR3>1.5である」と記載されているのを、「HR2/HR3>2である」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的引用する請求項5~7、9及び10についても同様に訂正する。)。
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
(1)訂正事項1について
ア 目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、「焼成工程」がさらに「係留工程」を含むものとし、「第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、第3昇温工程(H3)及び前記係留工程のすべてが連続」する工程に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 新規事項の有無
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、実施例として、下記の第4で摘記する(本件明細書及び図面については訂正されていないことから、以下第4の「本件明細書等」の記載を引用する)とおり、実施例1~実施例3が記載されており、その表1~3には、焼成工程が、第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、及び第3昇温工程(H3)の昇温工程と「係留工程」とを含むことが記載されており、そして、下記の第4で摘記する図1~3には、それら「第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、第3昇温工程(H3)及び前記係留工程のすべてが連続し」ていることが記載されている。
よって、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(2)訂正事項2について
ア 目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、「第1昇温工程(H1)の昇温速度をHR1、第2昇温工程(H2)の昇温速度をHR2、第3昇温工程(H3)の昇温速度をHR3としたとき」において、HR1とHR2との関係を「HR1/HR2>1.5」に、HR2とHR3との関係を「HR2/HR3>1.5」に限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 新規事項の有無
下記の第4で摘記するとおり、本件特許明細書等の【0018】には「好適な実施形態では、HR1/HR2>1.5であり」と記載されており、同【0020】には「より好ましくはHR2/HR3>1.5であり」と記載されていることから、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、「総焼成時間が50分以内であり前記」の記載において、脱落している読点を追記して「総焼成時間が50分以内であり、前記」とする、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。そして、上記誤記を訂正することは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(4)訂正事項4について
ア 目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は、HR2とHR3との関係である「HR2/HR3>1.5」を「HR2/HR3>2」に限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 新規事項の有無
下記の第4で摘記するとおり、本件特許明細書等の【0020】には「さらに好ましくはHR2/HR3>2である」と記載されていることから、訂正事項4は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
3 一群の請求項などについて
訂正前の請求項2~10は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1~10は一群の請求項である。そして、上記訂正事項1~4は、その一群の請求項においてなされたものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する当該一群の請求項ごとに請求されているものである。
4 訂正の適否についてのまとめ
上記のとおり、訂正事項1~4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~10に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明10」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「 【請求項1】
ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体を焼成する焼成工程を有し、
前記焼成工程が、第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、及び第3昇温工程(H3)の少なくとも3段階の昇温工程と係留工程とを含み、
第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、第3昇温工程(H3)及び前記係留工程のすべてが連続し、
第1昇温工程(H1)の昇温速度をHR1、
第2昇温工程(H2)の昇温速度をHR2、
第3昇温工程(H3)の昇温速度をHR3としたとき、
HR1=50~500℃/min、
HR2=11~300℃/min、
HR3=10~299℃/min、
HR1>HR2、
HR1/HR2>1.5であり、
HR2/HR3>1.5であり、
各昇温工程での開始温度は
H1において室温~500℃、
H2において900~1250℃、
H3において1300~1550℃であり、
各昇温工程での到達温度は
H1において900~1250℃、
H2において1300~1550℃、
H3において1400~1650℃であり、
前記焼成工程における前記第1昇温工程(H1)の昇温開始から最高焼成温度での係留時間の終了までの総焼成時間が50分以内であり、
前記ジルコニア成形体及びジルコニア仮焼体が安定化剤を2~8mol%含み、
前記安定化剤がイットリアである、
ジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項2】
HR2が13~280℃/minである、請求項1に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項3】
HR3が13~250℃/minである、請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項4】
HR2/HR3>2である、請求項1~3のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項5】
昇温工程における最高焼成温度が1400~1650℃であり、該最高焼成温度での係留時間が15分以内である、請求項1~4のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項6】
昇温工程における最高焼成温度から1100℃まで降温し、その降温速度が10℃/min以上である降温工程を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記ジルコニア仮焼体の55%以上が単斜晶系である、請求項1~6のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体において、前記イットリアの少なくとも一部がジルコニアに固溶していない、請求項1に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体が、歯科用製品の所定形状を備える、請求項1~8のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項10】
歯科用製品が、歯科補綴物である、請求項9に記載のジルコニア焼結体の製造方法。」
第4 本件明細書等の記載
本件訂正により訂正されたのは特許請求の範囲のみであり、明細書及び図面については訂正されていないことから、以下、願書に添付した明細書及び図面を「本件明細書等」といい、明細書のみを「本件明細書」という。そして、本件明細書等には、以下の事項が記載されている。
1 課題について
本件明細書等には、本件発明の解決しようとする課題について、以下のとおり記載されている。なお、下線は当審において付与した(以下同様)。
「【0003】
一方、ジルコニアを用いて歯科補綴物を作製するためには、理想的な焼結体が得られる温度より400℃から700℃程度低い温度で仮焼させたブロック体もしくは円盤形状の切削加工用ワーク(被切削加工物)から、CAD/CAM設備を用いて歯科補綴物の所定の形状(未焼結ジルコニア加工体)を削り出し、削り出された未焼結ジルコニア加工体を最高温度1400℃から1650℃で係留し、焼結させるため、通常は昇温、係留、降温までの合計時間として6時間から12時間を必要とする。この時間について、近年は歯科医院での短時間焼成の需要が高まっており、特許文献1に記載されるような短時間での焼成を可能にする焼成炉も製造されている。しかしながら、短時間焼成では明度が上昇してしまう等の問題があり、短時間焼成において、通常焼成と同等の色調又は透光性を得ることは困難であった。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には短時間でジルコニアを含むセラミックスの焼成炉とスケジュール条件についての記載があるが、歯科用ジルコニア焼結体の特定の理想的な物性を得るためのスケジュールではなく理論的に達成可能な焼成炉についてであり、具体的な焼成体から得られる歯科補綴物としての必要な物性、色調等の記載がなく、審美要求を満たすための焼成条件を満たしていない。
【0006】
そこで本発明は、短時間でジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体を焼結させ、かつ理想的な歯科補綴物の審美要求と強度が通常焼成した場合と比較して、同程度に再現できるジルコニア焼結体の製造方法を提供することを目的とする。」
2 効果について
「【発明の効果】
【0009】
本発明のジルコニア焼結体の製造方法によれば、短時間でジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体を焼結させ、かつ理想的な歯科補綴物の審美要求と強度が通常焼成した場合(6~12時間焼成)と比較して、同程度に再現できるジルコニア焼結体を製造することができる。また、本発明のジルコニア焼結体の製造方法を用いることにより、得られるジルコニア焼結体は色調の再現性に優れる。本発明のジルコニア焼結体の製造方法によれば、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色を促しつつ、適切な明度が得られる。」
3 各昇温工程等について
「【0014】
[第1昇温工程(H1)]
本発明のジルコニア焼結体の製造方法における第1昇温工程(H1)では、室温もしくは室温超500℃以下まで加熱された焼成炉で、第1昇温工程(H1)の到達温度まで一気に昇温させて、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体を加熱する。第1昇温工程(H1)における焼成前のジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体としては、歯科用製品の所定の形状を備えるものが好ましい。歯科用製品としては、例えば、代表的な被覆冠、歯冠、差し歯等の歯科補綴物;歯列矯正用製品;歯科インプラント用製品等が挙げられる。加熱前のジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体は、歯科用CAD/CAM装置を用いて加工されていてもよく、歯科技工士が切削加工等により作製していてもよい。
【0015】
加熱前のジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体は、焼成の際に焼成炉のマッフル部材に直接静置してもよく、セラミック又は高融点金属からなるトレイ又は台座、ピンを用いて炉内で静置してもよく、セラミックビーズを用いて静置してもよい。
【0016】
第1昇温工程(H1)の開始温度は、室温~500℃であり、好ましくは室温~400℃であり、より好ましくは室温~300℃であり、さらに好ましくは室温~200℃である。第1昇温工程(H1)の到達温度は900℃~1250℃であり、より作業時間を短縮できる点から、好ましくは950℃以上であり、より好ましくは1000℃以上であり、さらに好ましくは1050℃以上である。また、得られるジルコニア焼結体の明度及び透光性により優れる点から、好ましくは1230℃以下であり、より好ましくは1220℃以下であり、さらに好ましくは1200℃以下である。
【0017】
また、第1昇温工程(H1)の昇温速度をHR1としたとき、HR1は、50℃/min以上であり、より作業時間を短縮できる点から、好ましくは60℃/min以上であり、より好ましくは70℃/min以上であり、さらに好ましくは80℃/min以上である。また、HR1は、500℃/min以下であり、好ましくは450℃/min以下であり、より好ましくは400℃/min以下であり、さらに好ましくは350℃/min以下である。HR1が500℃/minを超える場合、焼成中に割れ又はクラックの発生を誘発するおそれがある。第1昇温工程(H1)に供するジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に、加工時に用いた水分や、着色用カラーリキッドが含まれている場合、300℃以下で1分以上20分以下、好ましくは5分以上15分以下の乾燥工程を経てから、第1昇温工程(H1)を開始してもよい。
【0018】
[第2昇温工程(H2)]
本発明のジルコニア焼結体の製造方法では、第2昇温工程(H2)の昇温速度をHR2としたとき、HR1>HR2である。HR1>HR2であることで、他の構成と組み合わせた際に、ジルコニア焼結体の色差△E*abが大きくなりすぎることを抑制でき、色調に優れる歯科用製品を得ることができる。ある好適な実施形態では、HR1/HR2>1.5であり、HR1/HR2>2であってもよい。また、HR2は、11℃/min以上であり、より作業時間を短縮できる点から、好ましくは13℃/min以上であり、より好ましくは15℃/min以上であり、さらに好ましくは20℃/min以上である。また、HR2は、300℃/min以下であり、得られるジルコニア焼結体の明度及び透光性により優れる点から、好ましくは280℃/min以下であり、より好ましくは260℃/min以下であり、さらに好ましくは250℃/min以下である。
【0019】
第2昇温工程(H2)の開始温度は900~1250℃であり、より作業時間を短縮できる点から、好ましくは950℃以上であり、より好ましくは1000℃以上であり、さらに好ましくは1050℃以上である。また、得られるジルコニア焼結体の明度及び透光性により優れる点から、開始温度は、好ましくは1230℃以下であり、より好ましくは1220℃以下であり、さらに好ましくは1200℃以下である。第2昇温工程(H2)の到達温度は1300~1550℃であり、より作業時間を短縮できる点から、好ましくは1310℃以上であり、より好ましくは1320℃以上であり、さらに好ましくは1350℃以上である。また、H2の到達温度は得られるジルコニア焼結体の明度、透光性及び彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、好ましくは1540℃以下であり、より好ましくは1530℃以下であり、さらに好ましくは1520℃以下である。
【0020】
[第3昇温工程(H3)]
第3昇温工程(H3)の昇温速度をHR3としたとき、HR2/HR3>1であり、得られるジルコニア焼結体の明度、透光性及び彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、好ましくはHR2/HR3>1.2であり、より好ましくはHR2/HR3>1.5であり、さらに好ましくはHR2/HR3>2である。また、HR3は、10℃/min以上であり、より作業時間を短縮できる点から、好ましくは11℃/min以上であり、より好ましくは12℃/min以上であり、さらに好ましくは13℃/min以上である。また、HR3は、得られるジルコニア焼結体の彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、299℃/min以下であり、好ましくは270℃/min以下であり、より好ましくは250℃/min以下であり、さらに好ましくは200℃/min以下である。
第3昇温工程(H3)の開始温度は1300~1550℃であり、より作業時間を短縮できる点から、好ましくは1310℃以上であり、より好ましくは1320℃以上であり、さらに好ましくは1350℃以上である。また、H3の開始温度は得られるジルコニア焼結体の明度、透光性及び彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、好ましくは1540℃以下であり、より好ましくは1530℃以下であり、さらに好ましくは1520℃以下である。
第3昇温工程(H3)の到達温度は1400~1650℃であり、得られるジルコニア焼結体の明度、透光性及び彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、好ましくは1450℃以上であり、より好ましくは1500℃以上であり、さらに好ましくは1520℃以上である。また、H3の到達温度はより作業時間を短縮でき、得られるジルコニア焼結体の明度、透光性及び彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、好ましくは1630℃以下であり、より好ましくは1620℃以下であり、さらに好ましくは1610℃以下である。第3昇温工程(H3)の開始温度と到達温度の差(到達温度-開始温度)は、30℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましい。また、ある実施形態では、第3昇温工程(H3)の処理時間は、得られるジルコニア焼結体の明度、透光性及び彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、第1昇温工程(H1)の処理時間よりも短いことが好ましい。さらに、他の実施形態では、第3昇温工程(H3)の処理時間は、得られるジルコニア焼結体の明度、透光性及び彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、第2昇温工程(H2)の処理時間よりも短いことが好ましい。」
4 実施例について
本件明細書等には、実施例について、以下のとおり記載されている。
「【0049】
[実施例1]
「ノリタケ カタナ(登録商標) ジルコニア」STML A1色のジルコニア円盤ワーク(クラレノリタケデンタル株式会社製)からDWX51D(Roland D.G社製)を用いて削り出された、1.7mm×5.2mm×20.2mmの直方体形状のサンプルを10本作製した。焼成炉としてProgramat(登録商標) CS4(イボクラ・ビバデント社製)を用いて、当該サンプルを表1で示した焼成スケジュールの条件で焼成した。第1昇温工程の昇温開始から最高焼成温度での係留時間の終了までの総焼成時間が50分以内で焼成し、ジルコニア焼結体を得た。」
「【0050】
【表1】
[図:0001405784000001.jpg]
」
「【0053】
表8に示すように、表1の焼成スケジュールで焼成した焼結体サンプルについて、表6に記載の従来の焼成スケジュールで焼成した焼結体サンプルに対する色差△E*abが2.7以下であることが確認できた。
【0054】
[実施例2]
焼成スケジュールを表2に記載のスケジュールとした以外は実施例1と同様の方法にて3点曲げ強さ及び色差△E*abを測定した。表7に示すように、実施例2の3点曲げ強さは、表6に示した従来の焼成スケジュールで焼成した場合と同等の値を示し、歯科用製品として問題ない強度であることを確認した。また、表8に示すように、表2の焼成スケジュールで焼成した焼結体サンプルについて、表6に記載の従来の焼成スケジュールで焼成した焼結体サンプルに対する色差△E*abが2.7以下であることが確認できた。
【0055】
【表2】
[図:0001405784000002.jpg]
【0056】
[実施例3]
焼成炉としてSINTERMAT1600(The Dental Solution,Inc社製)用い、焼成スケジュールを表3に記載の焼成スケジュールとした以外は実施例1と同様の方法にて3点曲げ強さ及び色差△E*abを測定した。表7に示すように、実施例3の3点曲げ強さは、表6に示した従来の焼成スケジュールで焼成した場合と同等の値を示し、歯科用製品として問題ない強度であることを確認した。また、表8に示すように、表3の焼成スケジュールで焼成した焼結体サンプルについて、従来の焼成スケジュールで焼成した焼結体サンプルに対する色差△E*abが2.7以下であることが確認できた。
【0057】
【表3】
[図:0001405784000003.jpg]
」
「【0062】
【表7】
[図:0001405784000004.jpg]
【0063】
【表8】
[図:0001405784000005.jpg]
【0064】
さらに、実施例1~3のジルコニア焼結体は、50分以内という短い総焼成時間であるにもかかわらず、通常焼成した場合(焼成の合計時間:6~12時間)と比較して、同等の適度な透光性を有することを目視にて確認した。上記結果から、本発明の製造方法によって得られるジルコニア焼結体は、強度に優れ、明度の上昇を抑制し、適度な透光性を示し、色調に優れ、歯科用製品(例えば、歯科補綴物)として好適であることが確認できた。」
「【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例1に係る昇温工程の昇温速度を示す図である。
【図2】図2は、実施例2に係る昇温工程の昇温速度を示す図である。
【図3】図3は、実施例3に係る昇温工程の昇温速度を示す図である。」
と記載され、図1~3として以下の図面が記載されている。
「【図1】
[図:0001405784000006.jpg]
【図2】
[図:0001405784000007.jpg]
【図3】
[図:0001405784000008.jpg]
」
第5 取消理由について
1 取消理由の概要
令和4年9月5日付け取消理由通知書と令和5年4月25日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由の内容は実質的に同じであることから、ここで両者(以下両者を単に「取消理由通知書」という。)の概要をまとめて記載することとする。
取消理由(サポート要件)
本件特許は、その特許請求の範囲の下記の請求項に係る記載が、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・本件訂正前の請求項1~10
(1)HR1/HR2、HR2/HR3について
実施例1~3の焼成スケジュールが記載されている表1~表3から、HR1/HR2、HR2/HR3について計算すると、以下のとおりである。
HR1/HR2 HR2/HR3
表1 90/23=3.9 23/10=2.3
表2 130/50=2.6 50/10=5.0
表3 300/100=3.0 100/40=2.5
そうすると、実施例には、HR1/HR2の値として少なくとも2.6、HR2/HR3の値として少なくとも2.3であることが記載されており、HR1>HR2>HR3だけでなく、HR1とHR2の昇温速度との間で、及びHR2とHR3の昇温速度との間で有意な差があってこそ、上記表7及び8に記載されているように、通常焼成した場合(焼成の合計時間:6~12時間)と比較して、同等の強度、明度及び色調が得られているといえる。このことは、上記第4の2で摘記した本件明細書等の【0018】及び【0020】の技術内容の記載とも軌を一にするものである。
よって、請求項1及びそれを引用する請求項2~10に係る発明(請求項4に係る発明は「HR2/HR3>1.5である」と特定されているが、HR1/HR2について特定されていない)は、上記第4の1で記載されている本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえないことから、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
(2)H1、H2、H3及び係留の連続性について
実施例1~3の焼成スケジュールが記載されている表1~表3及び図1~3から、H1、H2、H3及び係留の工程はすべて連続しており、H1とH2、H2とH3、H3と係留との各工程の間に、これらと別の温度工程は入っていない焼成スケジュールによって、上記表7及び8に記載されているように、通常焼成した場合(焼成の合計時間:6~12時間)と比較して、同等の強度、明度及び色調が得られているといえる。
仮に、H1とH2、H2とH3、H3と係留との各工程の間に、例えば、以下のような温度工程が入っている場合には、もはや、上記第4で摘記した本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。
・H1とH2との間に、降温工程が入っている、HR1より大きい昇温工程が入っている、あるいは、HR2より小さい昇温工程が入っている場合。
・H2とH3との間に、降温工程が入っている、HR2より大きい昇温工程が入っている、あるいは、HR3より小さい昇温工程が入っている場合。
・H3と係留との間に、降温工程が入っている、あるいは、HR3より大きい昇温工程が入っている場合。
よって、H1、H2、H3及び係留の工程がすべて連続していない場合には、上記第4の1で摘記した本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえないことから、H1、H2、H3及び係留の工程がすべて連続することが特定されていない請求項1及びそれを引用する請求項2~10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
2 取消理由についての判断
上記第5の(1)で指摘したことについては、本件訂正により、本件発明1において「HR1/HR2>1.5」及び「HR2/HR3>1.5」であることが特定され、HR1とHR2の昇温速度との間、及びHR2とHR3の昇温速度との間で、有意な差があることになり、また、同(2)で指摘したことについては、本件訂正により、本件発明1においてH1、H2、H3及び係留の工程がすべて連続したものとなったことから、上記第4の4の表7及び8に記載されているように、通常焼成した場合(焼成の合計時間:6~12時間)と比較して、同等の強度、明度及び色調が得られているといえ、本件発明1は、上記第4の1で記載されている本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなった。
よって、本件発明1及び本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2~10は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、上記1で記載した取消理由は、理由のないものとなった。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に以下の1~5の理由がある。なお、申立理由5(サポート要件)は、上記第5で記載した取消理由(サポート要件)で指摘した事項以外のものである。
(1)申立理由1(進歩性)
本件特許の請求項1~10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。よって、請求項1~10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
甲第1号証:Sirona Dental Systems GmbH「inFire HTC speed Operating Instructions」New as of:03.2015 Printed in Germany
(訳:シロナデンタルシステムズ社「inFire HTC speed 取扱説明書」2015年3月新版 ドイツ刷)
以下、甲第1号証を「甲1」と略記する。
(2)申立理由2(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~10に係る記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1~10に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
なお、申立人の具体的な指摘については、以下の2(2)アで記載する。
(3)申立理由3(委任省令要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1~10に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
なお、申立人の具体的な指摘については、以下の2(3)アで記載する。
(4)申立理由4(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1~10に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
なお、申立人の具体的な指摘については、以下の2(4)アで記載する。
(5)申立理由5(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~10に係る記載が、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1~10に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
なお、申立人の具体的な指摘については、以下の2(5)アで記載する。
2 申立理由に対する当審の判断
(1)申立理由1(進歩性)について
ア 甲1について
(ア)記載事項について
甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審において付与した。以下同様)。
(甲1ア)「6.6 Programs
With the inFire HTC speed sintering furnace, sintering is controlled via callable programs[→39].
・inFire HTC speed has fixed programs for sintering certain dental oxide ceramics.」(38頁中欄)
(当審訳:6.6 プログラム
「inFire HTC speed」焼結炉では、焼成は呼び出し可能なプログラムによって制御される。
・「inFire HTC speed」は、特定の歯科用酸化物セラミックを焼結するための一定のプログラムがある。)
なお「inFire HTC speed」については、シロナデンタルシステムズ社の焼結炉の機種名であることからカギ括弧で記載した。
(甲1イ)「6.6.6.1.1 Programming example
[図:0001405784000009.jpg]
[図:0001405784000010.jpg]
This example describes the programming of program number 11 with the values of the table shown above.」(41頁)
(当審訳:6.6.6.1.1 プログラム例
グラフ表示
この例は、上記表の各値を有するプログラムナンバー11のプログラミングを表している。)
(甲1ウ)「6.6.6.3 Programming example for fast sintering (speed sintering)
[図:0001405784000011.jpg]
」(42頁下欄)
(訳:6.6.6.3 高速焼結(スピード焼結)のプログラム例)
(イ)甲1発明について
(甲1ウ)の表に記載の高速焼結のプログラムは、750℃までの昇温速度が70℃/分で750℃における係留時間が0分、1100℃までの昇温速度が70℃/分で1100℃における係留時間が0分、1540℃までの昇温速度が70℃/分で1540℃における係留時間が30分であることから、(甲1イ)記載の表とグラフの関係を踏まえると、高速焼結のプログラムは、昇温速度が70℃/分で1540℃まで昇温し、1540℃で30分係留することで高速焼結を行うプログラムであるといえる。
そうすると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「特定の歯科用酸化物セラミックを焼結する方法であって、
昇温速度が70℃/分で1540℃まで昇温し、1540℃で30分係留することで高速焼結を行う方法。」(以下「甲1発明」という。)
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「焼結」した「特定の歯科用酸化物セラミック」と、本件発明1の「ジルコニア焼結体」とは、「酸化物焼結体」で共通する。
そして、「焼結する」前の「酸化物セラミック」とは、酸化物の成形体又は仮焼体であり、焼結と焼成が同じ工程であることを踏まえると、甲1発明の「特定の歯科用酸化物セラミックを焼結する」ことと、本件発明1の「ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体を焼成する焼成工程を有」することとは、「酸化物成形体又は酸化物仮焼体を焼成する焼成工程を有」することで共通する。
b 甲1発明の「昇温速度が70℃/分で1540℃まで昇温し、1540℃で30分係留する」ことは、本件発明1の「昇温工程と係留工程」に相当し、そして、本件発明1の「第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、第3昇温工程(H3)及び前記係留工程のすべてが連続し」ていることとは、「昇温工程」「及び」「係留工程のすべてが連続し」ているという限りにおいて共通するものである。
c 上記a及びbを踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
「酸化物成形体又は酸化物仮焼体を焼成する焼成工程を有し、
前記焼成工程が、昇温工程と係留工程とを含み、
昇温工程及び係留工程のすべてが連続している、
酸化物焼結体の製造方法。」
(相違点1)
昇温工程及び係留工程が、本件発明1では、「第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、及び第3昇温工程(H3)の少なくとも3段階の昇温工程と」「を含み、」「第1昇温工程(H1)の昇温速度をHR1、第2昇温工程(H2)の昇温速度をHR2、第3昇温工程(H3)の昇温速度をHR3としたとき、HR1=50~500℃/min、HR2=11~300℃/min、HR3=10~299℃/min、HR1>HR2、HR1/HR2>1.5であり、HR2/HR3>1.5であり、各昇温工程での開始温度はH1において室温~500℃、H2において900~1250℃、H3において1300~1550℃であり、各昇温工程での到達温度は H1において900~1250℃、H2において1300~1550℃、H3において1400~1650℃であり、」「前記第1昇温工程(H1)の昇温開始から最高焼成温度での係留時間の終了までの総焼成時間が50分以内であ」る工程であるの対し、
甲1発明では、「昇温速度が70℃/分で1540℃まで昇温し、1540℃で30分係留する」工程である点。
(相違点2)
酸化物成形体又は酸化物仮焼体、及び酸化物焼結体が、本件発明1では、「ジルコニア」であり、「イットリアである」「安定化剤を2~8mol%含」むものであるのに対し、甲1発明では、歯科用酸化物セラミックであり、それが「ジルコニア」であり、かつ「イットリアである」「安定化剤を2~8mol%含」むものかどうか不明である点。
(イ)相違点の判断
a 相違点1について検討するに、甲1発明は、「昇温速度が70℃/分で1540℃まで昇温し、1540℃で30分係留することで高速焼結を行う方法」であるから、より高速に焼結を行うために、昇温速度を「70℃/分」からさらに大きくする、あるいは、「30分」の係留時間をより短くするという技術的思想が想起されるとしても、より高速に焼結を行うために昇温工程をあえて「第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、及び第3昇温工程(H3)の少なくとも3段階の昇温工程」にするという技術的思想は想起されない。
そうすると、甲1発明の昇温工程を「第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、及び第3昇温工程(H3)の少なくとも3段階の昇温工程と」することを含む相違点1は、当業者が容易になし得たことではない。
b 加えて、(甲1ウ)の表において、750℃まで、1100℃まで、1540℃までを、仮に、それぞれ第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、及び第3昇温工程(H3)に当てはめたとしても、甲1には、それらの間で昇温速度を変えることは記載されておらず、ましてや「第1昇温工程(H1)の昇温速度をHR1、第2昇温工程(H2)の昇温速度をHR2、第3昇温工程(H3)の昇温速度をHR3としたとき」「HR1/HR2>1.5であり、HR2/HR3>1.5であ」る関係にすることは一切記載されていない。さらに、「750℃まで」及び「1100℃まで」は、本件発明1の「各昇温工程での到達温度は H1において900~1250℃、H2において1300~1550℃」とは異なる温度である。
そうすると、仮に、(甲1ウ)の表において、750℃まで、1100℃まで、1540℃までを、それぞれ第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、及び第3昇温工程(H3)に当てはめたとしても、「各昇温工程での到達温度は H1において900~1250℃、H2において1300~1550℃」「であり」、「第1昇温工程(H1)の昇温速度をHR1、第2昇温工程(H2)の昇温速度をHR2、第3昇温工程(H3)の昇温速度をHR3としたとき」「HR1/HR2>1.5であり、HR2/HR3>1.5であ」ることは導出されないのであるから、甲1発明において、相違点1に係る構成は、当業者が容易になし得たことではない。
c よって、相違点2について検討するまでもなく、相違点1の点で、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)効果について
本件発明1の上記第4の2に記載されている「本発明のジルコニア焼結体の製造方法によれば、短時間でジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体を焼結させ、かつ理想的な歯科補綴物の審美要求と強度が通常焼成した場合(6~12時間焼成)と比較して、同程度に再現できるジルコニア焼結体を製造することができる。また、本発明のジルコニア焼結体の製造方法を用いることにより、得られるジルコニア焼結体は色調の再現性に優れる。本発明のジルコニア焼結体の製造方法によれば、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色を促しつつ、適切な明度が得られる。」という効果は、上記第4の4の実施例の記載で裏付けられているものであり、甲1の記載から当業者が予期し得るものではない。
(エ)申立人の主張について
a 申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。下線は当審で付与した。)で、上記相違点1に対応する相違点として、以下の「相違点2」及び「相違点3」を挙げ、
「(相違点2)
本件特許発明1では、第1昇温工程の昇温速度と第2昇温工程の昇温速度との関係が、第1昇温工程の昇温速度>第2昇温工程の昇温速度であることが特定されているのに対して、甲1発明では、第1昇温工程の昇温速度=第2昇温工程の昇温速度である点。
(相違点3 )
本件特許発明1では、第2昇温工程の昇温速度と第3昇温工程の昇温速度との関係が、第2昇温工程の昇温速度/第3昇温工程の昇温速度>1であることが特定されているのに対して、甲1発明では、第2昇温工程の昇温速度/第3昇温工程の昇温速度=1である点。」(65頁1~10行)
そして、これらの「相違点2」及び「相違点3」について、以下のように主張している。
「本件特許発明では、昇温速度の差についての特定がなく、そのため昇温速度HR1と昇温速度HR2との差、及び昇温速度HR2と昇温速度HR3との差が微差である態様が含まれるところ、このような態様における昇温速度をグラフに示した場合には、本件特許の発明の詳細な説明の図1~3に示される本件特許発明の実施例1~3における昇温速度のグラフよりも、図4に示された比較例1の昇温速度のグラフ、及び甲1発明の焼結スケジュールをグラフ化した場合のグラフに近似するのであり、図4に示された比較例1の昇温速度のグラフ及び甲1発明の焼結スケジュールをグラフ化した場合のグラフよりも図1~3に示されるグラフに近似することはない。そして、このような場合においては、第1昇温工程と、第2昇温工程(H2)及び第3昇温工程(H3)との間での昇温速度の関係は実質的にないに等しく、また第1昇温工程と、第2昇温工程(H2)及び第3昇温工程(H3)との間での昇温速度の関係を特定することによる作用・効果が発揮されない蓋然性が極めて高く、また発明の詳細な説明には、このような場合において第1昇温工程と、第2昇温工程(H2)及び第3昇温工程(H3)との間での昇温速度の関係を特定することによる作用・効果が奏されるものと認識し得る程度の記載ないし示唆はない。即ち本件明細書には、相違点2及び3と本件特許発明の課題・効果との関係、即ち相違点2及び3による技術的意義についての記載はない。
このように何らの技術的意義を奏さない相違点2及び3は、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎず、当業者が適宜調整する単なる設計事項である。
してみれば相違点2及び3は、当業者が、甲1発明から容易に想到できたものである。」(66頁5~25行)
b 申立人の主張に対する判断
本件訂正前の請求項1に係る発明では「HR1>HR2、 HR2/HR3>1」であったものが、本件訂正により本件発明1は「HR1/HR2>1.5であり、HR2/HR3>1.5であ」るものとなり、申立人が「相違点2及び3は、当業者が、甲1発明から容易に想到できたものである」とする前提である「昇温速度の差についての特定がなく、そのため昇温速度HR1と昇温速度HR2との差、及び昇温速度HR2と昇温速度HR3との差が微差である態様が含まれる」及び「第1昇温工程と、第2昇温工程(H2)及び第3昇温工程(H3)との間での昇温速度の関係は実質的にないに等しく」との主張が該当するものでなくなった。
また、「HR1/HR2>1.5であり、HR2/HR3>1.5であ」ることを特定することにより、上記第5の2で述べたように、本件発明の課題を解決できると認識できるものとなり、上記(ウ)で述べたように、効果が奏されるものとなったことから、上記申立人の主張は、もはや受け入れるべきものではない。
(エ)小括
以上のことから、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明2~10について
上記第3で記載したとおり、本件発明2~10は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明1と同様に、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ まとめ
したがって、本件発明1~10は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないことから、本件発明1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
よって、申立理由1によって、本件発明1~10に係る特許を取り消すことはできない。
(2)申立理由2(明確性)について
ア 申立人の指摘を要すれば、以下の(ア)~(サ)である。
(ア)本件明細書には、請求項1で特定されるHR1、HR2及びHR3の範囲の技術的意義についての記載はなく、それらを充足する実施例は記載されているが、充足しない比較例は記載されていない。よって、HR1、HR2及びHR3の範囲の技術的意味を当業者が理解できない。
(イ)本件明細書には、請求項1で特定されるH1、H2及びH3の開始温度の範囲の技術的意義についての記載はなく、それらを充足する実施例は記載されているが、充足しない比較例は記載されていない。よって、開始温度の範囲の技術的意味を当業者が理解できない。
(ウ)本件明細書には、請求項1で特定されるH1、H2及びH3の到達温度の範囲の技術的意義についての記載はなく、それらを充足する実施例は記載されているが、充足しない比較例は記載されていない。ょって、到達温度の範囲の技術的意味を当業者が理解できない。
(エ)本件明細書には、請求項1で特定される「最高焼成温度での係留時間の終了までの総焼成時間が50分以内」とすることの記載はあるものの、その技術的意義についての記載はなく、また、焼成時間が50分以内を充足しない比較例は記載されていない。よって、総焼成時間が50分以内とする技術的意味を当業者が理解できない。
(オ)本件明細書には、請求項1で特定される「安定化剤を2~8mol%含」むことの記載はあるものの、その技術的意義についての記載はなく、また、安定化剤を2~8mol%含むことを充足しない比較例は記載されていない。よって、安定化剤を2~8mol%含む技術的意味を当業者が理解できない。
(カ)本件明細書には、請求項4で特定される「HR2/HR3>1.5」であることの技術的意義についての記載はなく、技術的意味を当業者が理解できない。
(キ)本件明細書には、請求項5で特定される「最高焼成温度が1400~1650℃であり、該最高焼成温度での係留時間が15分以内」の技術的意義についての記載はなく、技術的意味を当業者が理解できない。
(ク)本件明細書には、請求項6で特定される「最高焼成温度から1100℃まで降温し、その降温速度が10℃/min以上である降温工程」の技術的意義についての記載はなく、技術的意味を当業者が理解できない。
(ケ)本件明細書には、請求項7で特定される「ジルコニア仮焼体の55%以上が単斜晶系である」の技術的意義についての記載はなく、技術的意味を当業者が理解できない。
(コ)本件明細書には、請求項8で特定される「イットリアの少なくとも一部がジルコニアに固溶していない」の技術的意義についての記載はなく、技術的意味を当業者が理解できない。
(サ)本件明細書には、昇温速度、昇温工程の開始温度、及び昇温工程の到達温度についての特定があるものの、これらの温度の特定の対象となる対象物についての特定はない。よって、昇温速度、昇温工程の開始温度、及び昇温工程の到達温度の技術的意味を当業者が理解できない。
イ 当審の判断
(ア)~(ク)について
申立人の(ア)~(ク)の指摘は、いずれも、数値、数値範囲、比等(以下「数値等」という。)の技術的意義が本件明細書に記載されておらず、また、その数値等を充足しない比較例も記載されていないことから、数値等の技術的意味を当業者が理解できないというものである。
しかし、各数値等の技術的意味は、各請求項において昇温速度、昇温工程の開始温度、昇温工程の到達温度、総焼成時間、安定化剤の含有量、昇温速度の比、最高焼成温度、係留時間、降温速度という技術的意味で明確に特定されるものであり、そして、それらの数値等は、記載されている数値以外の値に解されることはなく、数値あるいは数値範囲として一義的に定まるものである。そうすると、申立人の(ア)~(ク)の指摘を受け入れて、各請求項における数値等を不明確とすることはできない。
(ケ)及び(コ)について
申立人の(ケ)及び(コ)の指摘は、「ジルコニア仮焼体の55%以上が単斜晶系である」、「イットリアの少なくとも一部がジルコニアに固溶していない」という組織構造に対するものであるが、前者については、本件明細書の【0029】に「本発明において、「主たる結晶系が単斜晶系である」とは、ジルコニア中のすべての結晶系(単斜晶系、正方晶系及び立方晶系)の総量に対して以下の数式(2)で算出されるジルコニア中の単斜晶系の割合fmが50%以上の割合を占めるものを指す。」と記載されているとおりであり、また、後者については、安定化剤であるイットリアが、本件明細書の【0023】に「ジルコニア仮焼体のXRDパターンにおいて、安定化剤に由来するピークが確認された場合には、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体中においてジルコニアに固溶されていない安定化剤が存在していることになる。」と記載されているように、イットリアに由来するピークが一部確認できる状態のことを特定しており、両者とも技術的意味が明確に特定されるものである。
(サ)について
一般に、焼成工程における温度とは、炉内にある熱電対等によって測定した炉内の温度のことであり、そして、温度を設定するとは、炉内の温度を設定することであり、焼成されるジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体の表面がその温度にさらされることになる。そうすると、温度の特定の対象となる対象物についての特定がないからといって、昇温速度、昇温工程の開始温度、及び昇温工程の到達温度の技術的意味を当業者が理解できないとの申立人の指摘は、受け入れられない。
ウ まとめ
申立人の指摘はいずれも当を得たものではなく、本件特許は、本件発明1~10に係る記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないことから、申立理由2によって、本件発明1~10に係る特許を取り消すことはできない。
(3)申立理由3(委任省令要件)について
ア 申立人は、以下の指摘をしている。
「発明特定事項(c)~(g)、温度の対象、発明特定事項(j)~(n)と本件特許発明の課題・効果との関係は明らかでなく、本件明細書には、発明特定事項(c)~(g)、温度の対象、発明特定事項(j)~(n)に関し、その技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されたものであるとはいえない。従って本件特許の明細書は、本件発明について、経済産業省で定めるところにより記載されたものであるとはいえない。」(申立書60頁20~25行)
イ 当審の判断
「発明特定事項(c)~(g)、発明特定事項(j)~(n)」は、申立書の2~5頁を参照すると、各昇温工程における昇温速度及びそれらの昇温速度の比、各昇温工程での開始温度及び到達温度、総焼成時間、安定化剤の量、降温速度、ジルコニア仮焼体における単斜晶系の量、イットリアの少なくとも一部がジルコニアに固溶していないことについて特定したものであるが、各昇温工程における昇温速度及びそれらの昇温速度の比、各昇温工程での開始温度及び到達温度の技術上の意義については、上記第4で摘記した3に記載されている。
また、総焼成時間については、本件明細書の【0043】に「焼成工程における前記第1昇温工程の昇温開始から前記最高焼成温度での係留時間の終了までの総焼成時間は、より作業時間を短縮できる点から、50分以内である」と記載され、安定化剤の量については、本件明細書の【0022】に「本発明のジルコニア仮焼体及びその焼結体において、該安定化剤の含有率は、・・・、2~8mol%がさらに好ましい。得られるジルコニア焼結体の強度及び透光性の観点から、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体は、安定化剤としてイットリアを含むことが好ましい。」と記載され、降温速度については、本件明細書の【0044】に「冷却工程において、ジルコニア焼結体を得られる最高焼成温度から1100℃までの降温速度は10℃/min以上であると好ましく、30℃/min以上であるとより好ましく、50℃/min以上であるとさらに好ましい。」と記載され、ジルコニア仮焼体における単斜晶系の量については、本件明細書の【0029】に「本発明において、「主たる結晶系が単斜晶系である」とは、ジルコニア中のすべての結晶系(単斜晶系、正方晶系及び立方晶系)の総量に対して以下の数式(2)で算出されるジルコニア中の単斜晶系の割合fmが50%以上の割合を占めるものを指す。・・・なお、ジルコニア仮焼体における主たる結晶系は、収縮温度の高温化及び焼成時間の短縮化に寄与している可能性がある。」と記載され、イットリアの少なくとも一部がジルコニアに固溶することについては、本件明細書の【0021】に「本発明のジルコニア焼結体の製造方法に用いるジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体としては、ジルコニアに加えて、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤を含むものが好ましい。ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体としては、前記安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶していない、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体が好ましい。該安定化剤は、部分安定化ジルコニアを形成可能なものが好ましい。」と記載され、それぞれ技術上の意義が記載されている。
一方、特許法第36条第4項第1号で委任する経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)では、「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」とされているものであるから、上記本件明細書の記載から、当業者であれば、各昇温工程における昇温速度及びそれらの昇温速度の比、各昇温工程での開始温度及び到達温度、総焼成時間、安定化剤の量、降温速度、ジルコニア仮焼体における単斜晶系の量、イットリアの少なくとも一部がジルコニアに固溶していないことの技術上の意義を理解できるものであるから、上記申立人の指摘は受け入れられない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1~10に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものであるから、申立理由3によって、本件発明1~10に係る特許を取り消すことはできない。
(4)申立理由4(実施可能要件)について
ア 申立人の指摘を要すれば、以下の(ア)~(エ)である。
(ア)発明の詳細な説明が、第1昇温工程の昇温速度HR1、第1昇温工程の開始温度、第2昇温工程の昇温速度HR2、第2昇温工程の到達温度、第3昇温工程の昇温速度HR3、第3昇温工程の開始温度、第3昇温工程の到達温度、第3昇温工程の継続時間、HR1とHR2との差、HR2とHR3との差について、実施例で記載されている数値以外の本件発明1の範囲において、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(イ)発明の詳細な説明が、第1昇温工程、第2昇温工程及び第3昇温工程が連続していない場合、さらには、第3昇温工程の後に係留工程及び降温工程が連続していない場合について、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(ウ)焼成炉の炉内の温度、焼成炉の焼成の設定温度、焼成されるジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体の温度の3つの場合について、一つの場合の温度を選択したときに他の場合の温度において効果を奏すると認識できないことから、昇温速度、昇温工程の開始温度、昇温工程の到達温度について、発明の詳細な説明は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(エ)本件発明1は、「Programat(登録商標)CS4 (イボクラ・ビバデント社製)」以外の焼成炉によって、さらには「ノリタケカタナ(登録商標)ジルコニア」以外のジルコニアによっては、実施することはできない。
イ 当審の判断
(ア)について
本件発明1は、「ジルコニア焼結体の製造方法」の発明であり、「安定化剤を2~8mol%含み、前記安定化剤がイットリアである」「ジルコニア成形体及びジルコニア仮焼体」「を焼成する焼成工程を有し、前記焼成工程が、第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、及び第3昇温工程(H3)の少なくとも3段階の昇温工程と係留工程とを含み、第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、第3昇温工程(H3)及び前記係留工程のすべてが連続」する方法において、「第1昇温工程(H1)の昇温速度をHR1、第2昇温工程(H2)の昇温速度をHR2、第3昇温工程(H3)の昇温速度をHR3としたとき、HR1=50~500℃/min、HR2=11~300℃/min、HR3=10~299℃/min、HR1>HR2、HR1/HR2>1.5であり、HR2/HR3>1.5であり、各昇温工程での開始温度はH1において室温~500℃、H2において900~1250℃、H3において1300~1550℃であり、各昇温工程での到達温度はH1において900~1250℃、H2において1300~1550℃、H3において1400~1650℃であり、前記焼成工程における前記第1昇温工程(H1)の昇温開始から最高焼成温度での係留時間の終了までの総焼成時間が50分以内であ」ることを特定した方法であり、上記第4の4で摘記した実施例には、当該昇温工程における数値範囲を満たす方法、及びその方法によって製造されたジルコニア焼結体が記載されている。
申立人は、第1昇温工程の昇温速度HR1、第1昇温工程の開始温度、第2昇温工程の昇温速度HR2、第2昇温工程の到達温度、第3昇温工程の昇温速度HR3、第3昇温工程の開始温度、第3昇温工程の到達温度、第3昇温工程の継続時間、HR1とHR2との差、HR2とHR3との差について、実施例で記載されている数値以外の範囲において当業者が実施をすることができない旨の主張をするのみで、実施例で記載されている数値以外の上記本件発明1の数値範囲においては、ジルコニア焼結体が製造されないことを具体的な科学的事実に基づいて説明していない。
上記本件発明1は、「ジルコニア成形体及びジルコニア仮焼体」に対して「室温~500℃」から「1400~1650℃」まで昇温し、「1400~1650℃」において係留するのであり、これらの温度で昇温、係留することにより「ジルコニア成形体及びジルコニア仮焼体」が「焼結体」とはならないと判断できる具体的な科学的事実はないことから、むしろ、ジルコニア焼結体が得られるものと判断するのは妥当といえる。
よって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
(イ)について
本件訂正により、本件発明1において、第1昇温工程、第2昇温工程、第3昇温工程及び係留工程のすべてが連続したものとなったことから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
なお、本件発明1では、係留工程の後の降温工程についてまで特定されていないが、係留工程のままでは高温に保ったままということであるから、必然的に係留工程の後に連続して降温工程があるものといえ、係留工程の後に連続して降温工程があることが特定されていないからといって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえない。
(ウ)について
上記(2)イ(サ)で述べたように、一般に、焼成工程における温度とは、炉内にある熱電対等によって測定した炉内の温度のことであり、焼成温度を設定するとは、炉内の温度をその温度に設定することであり、そして、焼成されるジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体の表面はその温度にさらされることになる。そうすると、昇温速度、昇温工程の開始温度、昇温工程の到達温度における「温度」を設定することは通常に実施できることであり、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
(エ)について
「Programat(登録商標)CS4 (イボクラ・ビバデント社製)」及び「ノリタケカタナ(登録商標)ジルコニア」は、上記第4の4で摘記した実施例に記載されている焼成炉及びジルコニアであり、実施例において、当該「Programat(登録商標)CS4 (イボクラ・ビバデント社製)」を用いて本件発明1の焼成スケジュールが実施され、当該「ノリタケカタナ(登録商標)ジルコニア」を用いてジルコニア焼結体が製造されているのであるから、実施可能要件は満たしている。よって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
なお、実施例において、一例として「Programat(登録商標)CS4 (イボクラ・ビバデント社製)」及び「ノリタケカタナ(登録商標)ジルコニア」を記載しているが、前者以外の焼成炉では本件発明1の焼成スケジュールを実施できないとはいえず、また、後者以外のジルコニアでは本件発明1のジルコニア焼結体が製造できないともいえない。
ウ まとめ
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及びそれを引用する本件発明2~10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、申立理由4によって、本件発明1~10に係る特許を取り消すことはできない。
(5)申立理由5(サポート要件)
ア 申立人の指摘を要すれば、以下の(ア)~(エ)である。
(ア)第1昇温工程の昇温速度及び開始温度の範囲、第2昇温工程の昇温速度及び到達温度の範囲、並びに第3昇温工程の昇温速度、開始温度及び到達温度の範囲について、技術的意義及び上下限の臨界的意義についての記載はなく、実施例に記載されている数値以外の本件発明1の範囲において、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えたものである。
(イ)第3昇温工程の継続時間について、実施例においては4~6分であるのに対し、本件発明1では限りなく0分のものを含むことから、本件発明1の範囲において、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えたものである。
(ウ)焼成炉の炉内の温度、焼成炉の焼成の設定温度、焼成されるジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体の温度の3つの温度の場合があり、一つの場合の温度を選択したときに他の場合の温度において効果を奏すると認識できないことから、昇温速度、昇温工程の開始温度、昇温工程の到達温度について、本件発明1の範囲において、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えたものである。
(エ)実施例においては、焼成炉として「Programat(登録商標)CS4 (イボクラ・ビバデント社製)」の焼成炉のみが、ジルコニアとして「ノリタケカタナ(登録商標)ジルコニア」のジルコニアのみが用いられており、他の焼成炉、あるいは、他のジルコニアを用いた場合においても同等な作用・効果が発揮されることが確認されていないことから、「Programat(登録商標)CS4 (イボクラ・ビバデント社製)」及び「ノリタケカタナ(登録商標)ジルコニア」に限定されていない本件発明1は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えたものである。
イ 当審の判断
(ア)について
a まず、第1昇温工程の昇温速度及び開始温度の範囲、第2昇温工程の昇温速度及び到達温度の範囲、並びに第3昇温工程の昇温速度、開始温度及び到達温度の範囲についての技術的意義については、上記第4の3に記載されており、それらの範囲の上下限は実施例及びそれらの技術的意義を踏まえて決められたものといえることから、実質的に上下限の臨界的意義が示されているといえる。
仮に示されていないとしても、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明にその記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下この観点に立って検討する。
b 本件発明の課題は、上記第4の1に「しかしながら、短時間焼成では明度が上昇してしまう等の問題があり、短時間焼成において、通常焼成と同等の色調又は透光性を得ることは困難であった。」「そこで本発明は、短時間でジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体を焼結させ、かつ理想的な歯科補綴物の審美要求と強度が通常焼成した場合と比較して、同程度に再現できるジルコニア焼結体の製造方法を提供することを目的とする。」と記載されているとおりである。
一方、上記第4の4の実施例には、本件発明1の焼成スケジュールによって、同【0064】に「実施例1~3のジルコニア焼結体は、50分以内という短い総焼成時間であるにもかかわらず、通常焼成した場合(焼成の合計時間:6~12時間)と比較して、同等の適度な透光性を有することを目視にて確認した。上記結果から、本発明の製造方法によって得られるジルコニア焼結体は、強度に優れ、明度の上昇を抑制し、適度な透光性を示し、色調に優れ、歯科用製品(例えば、歯科補綴物)として好適であることが確認できた。」と記載されているとおり、上記本件発明の課題が解決されている。
申立人は、実施例に記載されている数値以外の範囲においては、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えたものであることを主張しているが、実施例で記載されている数値以外の本件発明1の数値範囲において、通常焼成と同等の色調又は透光性を有するジルコニア焼結体が得られないことを、具体的な科学的事実に基づいて説明していない。
上述したとおり、実施例を踏まえると、本件発明1の焼成スケジュールによって上記本件発明の課題が解決していることは明らかであり、上記第4の3で摘記した本件明細書の記載を参照すると、実施例に記載されている数値のみでしか通常焼成と同等の色調又は透光性を有するジルコニア焼結体が得られないとする理由はなく、実施例で記載されている数値以外の本件発明1の数値範囲において、通常焼成と同等の色調又は透光性を有するジルコニア焼結体が得られないと結論づけられる科学的事実もないことから、むしろ、実施例で記載されている数値以外の本件発明1の数値範囲においても、程度の差こそあれ、通常焼成と同様の色調又は透光性を有するジルコニア焼結体が得られるものと判断することが妥当といえる。
したがって、本件発明1は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えたものとはいえない。
(イ)について
本件発明1においては、「第1昇温工程(H1)」、「第2昇温工程(H2)」及び「第3昇温工程(H3)」の継続時間については特定されていないものの、「焼成工程における前記第1昇温工程(H1)の昇温開始から最高焼成温度での係留時間の終了までの総焼成時間が50分以内であ」ることが特定されており、第1昇温工程(H1)の昇温開始から最高焼成温度での係留時間の終了までの総焼成時間が50分以内であることを満たす実施例において、上記第4の4で摘記した【0064】に「実施例1~3のジルコニア焼結体は、50分以内という短い総焼成時間であるにもかかわらず、通常焼成した場合(焼成の合計時間:6~12時間)と比較して、同等の適度な透光性を有することを目視にて確認した。上記結果から、本発明の製造方法によって得られるジルコニア焼結体は、強度に優れ、明度の上昇を抑制し、適度な透光性を示し、色調に優れ、歯科用製品(例えば、歯科補綴物)として好適であることが確認できた。」と記載されているとおり、上記本件発明の課題が解決されている。
そうすると、「第1昇温工程(H1)」、「第2昇温工程(H2)」及び「第3昇温工程(H3)」の各々の継続時間について具体的に発明特定事項として特定しなくとも、本件発明1は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えたものとはいえない。
(ウ)について
上記(2)イ(サ)で述べたように、一般に、焼成工程における温度とは、炉内にある熱電対等によって測定した炉内の温度のことであり、焼成温度を設定するとは、炉内の温度をその温度に設定することであり、そして、焼成されるジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体の表面はその温度にさらされることになる。そうすると、実施例及び本件発明1での昇温速度、昇温工程の開始温度、昇温工程の到達温度における「温度」とは炉内の温度と解するのが相当であるから、申立人の主張する「焼成炉の炉内の温度、焼成炉の焼成の設定温度、焼成されるジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体の温度の3つの温度の場合があり、一つの場合の温度を選択したときに他の場合の温度において効果を奏すると認識できない」との理由は当を得ないことであり、これを理由に、本件発明1は本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えたものであるとはいえない。
(エ)について
実施例において、一例として「Programat(登録商標)CS4 (イボクラ・ビバデント社製)」及び「ノリタケカタナ(登録商標)ジルコニア」を記載しているが、本件発明1の焼成スケジュールが「Programat(登録商標)CS4 (イボクラ・ビバデント社製)」以外の焼成炉では実現できないとも、「ノリタケカタナ(登録商標)ジルコニア」以外のジルコニアでは、安定化剤としてイットリアを2~8mol%含むジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体とはならないともいえないことから、本件発明1が「Programat(登録商標)CS4 (イボクラ・ビバデント社製)」及び「ノリタケカタナ(登録商標)ジルコニア」に限定されていないからといって、本件発明1が、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えたものであるとはいえない。
ウ まとめ
上記イで述べたとおり、本件発明1は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えたものではないことから、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2~10についても、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えたものではなく、本件発明1~10は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
よって、本件特許は、本件発明1~10に係る記載が特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないことから、申立理由5によって、本件発明1~10に係る特許を取り消すことはできない。
第7 申立人の意見書について
申立人は、令和5年2月24日に意見書を提出しているが、意見書の内容は、申立書の内容と同等であり、すでに上記第5の2及び第6の2で判断したとおりである。
なお、昇温速度HR1と昇温速度HR2との差、昇温速度HR2と昇温速度HR3との差については、取消理由通知書で「HR1とHR2の昇温速度との間で、及び、HR2とHR3の昇温速度との間で有意な差があるように特定されていないことから、本件発明1は、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。」ことを指摘しており、これに対し、本件訂正により本件発明1は「HR1/HR2>1.5であり、HR2/HR3>1.5であり」と訂正された。
一方、申立人は、実施例のHR1、HR2及びHR3の値から、HR1とHR2との差及びHR2とHR3との差を計算し、前者が「67~200℃/min」であり、後者が「13~60℃/min」であるから、HR1とHR2との差が「67~200℃/min」及びHR2とHR3との差が「13~60℃/min」に特定されていない本件発明1~10は、発明の詳細な説明に記載されたものではないことをも主張している。
しかし、HR1とHR2との差及びHR2とHR3との差を上記範囲とすることについては発明の詳細な説明に直接的に記載されているものでもなく、「HR1/HR2>1.5であり、HR2/HR3>1.5であり」と特定することにより、HR1とHR2との差及びHR2とHR3との差が有意な差となることから、HR1とHR2との差が「67~200℃/min」及びHR2とHR3との差が「13~60℃/min」に特定しなくとも、本件発明1~10は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲のものであることから、上記申立人の主張は受け入れられない。
第8 むすび
以上のとおり、本件発明1~10に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって、取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700699