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特許異議申立

2022-700179

歯科用ミルブランクの製造方法

審判番号
2022-700179
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-251044
登録番号
6929014
請求日
2022年03月01日
審決日
2023年06月28日
公報発行日
2023年09月29日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】クラレノリタケデンタル株式会社
  • 【権利者代理人】鎌田 耕一
  • 【権利者代理人】田村 康晃
  • 【異議申立人】中丸 剛
審判長/審判官
  • 審判長 佐々木 一浩
  • 審判官 栗山 卓也
  • 審判官 内藤 真徳
分類
P1651.121-YAA(A61C) / P1651.537-YAA(A61C) / P1651.536-YAA(A61C)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第2号、特許法第120条の8
データ出所
審決公報(XML)

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特許第6929014号発明「歯科用ミルブランクの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6929014号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6929014号の請求項1~3、5に係る特許を維持する。 特許第6929014号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件特許第6929014号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和 3年 8月12日にその特許権の設定登録がされ、同年 9月 1日に特許掲載公報が発行された。 令和 4年 3月 1日に特許異議申立人中丸 剛(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされたところ、その後の経緯は以下のとおりである。 令和 4年 7月20日付け 取消理由通知 同年 9月26日 訂正請求書及び意見書の提出 同年11月18日 手続補正書の提出 令和 5年 1月24日付け 申立人による意見書の提出 第2 訂正の請求 1 訂正の内容 令和 4年11月18日付けの手続補正書により補正された、同年 9月26日付け訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6929014号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について、訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を、次のように訂正するものである(下線は、訂正箇所を示す)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1について、「前記工程〔I〕によって得られる重合前の積層体の隣接する層に含まれる色調の異なる硬化性組成物同士が、隣接する層間の境界部分の近辺で微視的に混ざり合っており、 積層構造を有し、隣接する層間の境界部分が不明瞭である、歯科用ミルブランクの製造方法。」を、 「前記工程〔I〕によって得られる重合前の積層体の隣接する層に含まれる、それぞれを単独で重合した場合の重合後の重合体としては色調の異なる硬化性組成物同士が、前記工程〔II〕の前において、隣接する層間の境界部分の近辺で微視的に混ざり合っており、 得られる歯科用ミルブランクが、積層構造を有し、隣接する層間の境界部分が不明瞭である、歯科用ミルブランクの製造方法。」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項5について、「重合前の硬化性組成物が12~40の稠度を有する、請求項1~4のいずれかに記載の歯科用ミルブランクの製造方法。」を、 「重合前の硬化性組成物が12~40の稠度を有する、請求項1~3のいずれかに記載の歯科用ミルブランクの製造方法。」に訂正する。 (4)訂正事項4 明細書の段落【0105】について、「下記表1には、硬化前の各硬化性組成物のペースト稠度、硬化後の各硬化性組成物の色調(L*、a*、b*)、その色調データをもとに計算した隣り合う層のΔE*を示した。」を、 「下記表1には、硬化前の各硬化性組成物のペースト稠度、硬化後の各硬化物の色調(L*、a*、b*)、その色調データをもとに計算した隣り合う層のΔE*を示した。」に訂正する。 2 訂正の適否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的について 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「色調の異なる硬化性組成物同士」について、当該「色調」が「それぞれを単独で重合した場合の重合後の重合体としては」異なることを明らかにするものである。また、同「隣接する層間の境界部分の近辺で微視的に混ざり合って」いる状態が「前記工程〔II〕の前」であることを明らかにするものである。さらに、同「積層構造を有し、隣接する層間の境界部分が不明瞭である」のは「得られる歯科用ミルブランク」であることを明らかにするものである。 よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 上記アの理由から明らかなように、訂正事項1は、明瞭でない記載を明らかにするものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。 よって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項1の「それぞれを単独で重合した場合の重合後の重合体としては色調の異なる硬化性組成物」については、明細書段落【0024】「本発明に用いられる歯科用ミルブランクの色度は、特に限定されないが、積層体において隣接する2つの層(例えば、第(m-1)層及び第m層)に含まれる硬化性組成物(例えば、第(m-1)の硬化性組成物、及び第mの硬化性組成物)をそれぞれ単独で重合した場合に得られる2つの重合体間の色差ΔE*が、2.0以上であることが好ましい。」との記載に基づくものである。 また、同「前記工程〔II〕の前」については、明細書段落【0020】「本発明において、積層体は、重合前の第1~第mの硬化性組成物が順に積層されたものであるため、隣接する2つの層(例えば、第(m-1)層及び第m層)に含まれる硬化性組成物(例えば、第(m-1)の硬化性組成物、及び第mの硬化性組成物)が、隣接する層間の境界部分の近辺で微視的に混ざり合う。」との記載に基づくものである。 さらに、同「得られる歯科用ミルブランクが、積層構造を有し、隣接する層間の境界部分が不明瞭である」については、明細書段落【0020】「本発明において、積層体は、重合前の第1~第mの硬化性組成物が順に積層されたものであるため、隣接する2つの層・・・が、隣接する層間の境界部分の近辺で微視的に混ざり合う。そのため、前記積層体から得られる歯科用ミルブランクは、隣接する層間の境界部分が不明瞭になり、審美性が高い。」との記載に基づくものである。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項(同法第184条の19の規定により読み替える括弧書きの規定を含む)に適合する。 (2) 訂正事項2について ア 訂正の目的について 訂正事項2は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項2は、訂正前の請求項4を削除するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものには該当しないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項2は、訂正前の請求項4を削除するものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項(同法第184条の19の規定により読み替える括弧書きの規定を含む)に適合する。 (3) 訂正事項3について ア 訂正の目的について 訂正事項3は、上記訂正事項2により、訂正前の請求項4が削除されたことに応じて、請求項5が引用していた請求項1~4から請求項4を除くことにより、引用関係を整合するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 上記アの理由から明らかなように、訂正事項3は、上記訂正事項2により、訂正前の請求項4が削除されたことに応じて、請求項5が引用する請求項1~4から請求項4を除くことにより、引用関係を整理するものであるから、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。 よって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 上記アの理由から明らかなように、訂正事項3は、上記訂正事項2により、訂正前の請求項4が削除されたことに応じて、請求項5が引用する請求項1~4から請求項4を除くことにより、引用関係を整理するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項(同法第184条の19の規定により読み替える括弧書きを含む)に適合する。 (4)訂正事項4について ア 訂正の目的について 訂正事項4は、訂正前の明細書段落【0105】「硬化後の各硬化性組成物」を「硬化後の各硬化物」と訂正するものであって、「硬化後の硬化性組成物」が「硬化物」であることを明らかにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 上記アの理由から明らかなように、訂正事項4は、「硬化後の硬化性組成物」を「硬化物」と単に言い換えたものであるから、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。 よって、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 上記アの理由から明らかなように、訂正事項4は、「硬化後の硬化性組成物」を「硬化物」と単に言い換えたものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項(同法第184条の19の規定により読み替える括弧書きの規定を含む)に適合する。 (5)一群の請求項、及び、願書に添付した明細書の訂正に係る請求項について 訂正前の請求項1~5について、請求項2~5はそれぞれ請求項1を直接又は間接に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~5に対応する訂正後の請求項1~5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 また、訂正事項4は、当該一群の請求項を対象とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項に適合する。 3 申立人の本件訂正は認められないとの主張について 申立人は、令和 5年 1月24日付けの意見書において、本件発明1の「色調の異なる硬化性組成物」とは、硬化前において硬化性組成物の色調が異なることを意味し、本件訂正の訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を変更するものであるから、本件訂正は認められないものであると主張する。 しかしながら、上記2(1)ア、イで検討したとおり、本件明細書の記載からみて、本件発明1の「色調の異なる硬化性組成物」とは、硬化後すなわち重合後の状態において硬化性組成物の色調が異なることを意味するものであるから、申立人の主張は採用できない。 4 まとめ したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであって、同条第4項並びに同条第9項の規定によって準用する第126条第4項、第5項及び第6項に適合するので、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1~5」という。これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 【請求項1】 重合前の硬化性組成物を積層し、少なくとも4層から構成される、重合前の積層体を得る工程〔I〕、及び 前記工程〔I〕で得られた重合前の積層体を一括して重合する工程〔II〕を含み、 前記重合前の硬化性組成物が10~45の稠度を有し、 前記硬化性組成物が、無機充填材と重合性単量体含有組成物とを含み、 前記重合性単量体含有組成物が重合性単量体と重合開始剤を含み、 前記工程〔I〕によって得られる重合前の積層体の隣接する層に含まれる、それぞれを単独で重合した場合の重合後の重合体としては色調の異なる硬化性組成物同士が、前記工程〔II〕の前において、隣接する層間の境界部分の近辺で微視的に混ざり合っており、 得られる歯科用ミルブランクが、積層構造を有し、隣接する層間の境界部分が不明瞭である、歯科用ミルブランクの製造方法。 【請求項2】 工程〔I〕において、積層体が、1つの容器内に少なくとも4層に積層して収容された前記重合前の硬化性組成物を押し出すことによって得られる、請求項1に記載の歯科用ミルブランクの製造方法。 【請求項3】 工程〔I〕において、積層体が、2以上の容器内に別々に収容された前記重合前の硬化性組成物を押し出したのち、積層して得られる、請求項1又は2に記載の歯科用ミルブランクの製造方法。 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 重合前の硬化性組成物が12~40の稠度を有する、請求項1~3のいずれかに記載の歯科用ミルブランクの製造方法。」 第4 取消理由の概要 当審が令和 4年 7月20日付けで通知した取消理由の概要は以下のとおりである。 請求項1~5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。 1 第36条第6項第2号(明確性) (1)請求項1の「前記工程〔I〕によって得られる重合前の積層体の隣接する層に含まれる色調の異なる硬化性組成物」との記載における「色調」が、重合前の積層体における、硬化性組成物の色調を意味するのか、重合後の硬化性組成物の色調を意味するのか、明らかでない。 (2)請求項1の「前記工程〔I〕によって得られる重合前の積層体の隣接する層に含まれる色調の異なる硬化性組成物同士が、隣接する層間の境界部分の近辺で微視的に混ざり合っており、積層構造を有し、隣接する層間の境界部分が不明瞭である」との発明特定事項が、工程〔I〕、工程〔II〕との関係で、どのタイミングで観察される積層体の状態を特定しようとしているのか、が明確でない。 よって、本件発明1及びそれを引用する本件発明2~5は明確でない。 2 第36条第6項第1号(サポート要件) (1)請求項1の「色調」とは、重合前の積層体における、硬化性組成物の色調であるように解されるところ、重合前の積層体における、硬化性組成物の色調であることは、発明の詳細な説明に記載されたものでない。 (2)請求項4の「工程〔I〕の積層体の隣接する層に用いる重合前の硬化性組成物同士の色差が、2.0以上」との事項は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。 よって、本件発明1、本件発明4及びそれらを引用する本件発明2~5は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。 第5 当審の判断 1 第36条第6項第2号(明確性)について (1)本件訂正が認められたことにより、請求項1における「色調」が、硬化性組成物の、重合後の重合体としては異なることが明らかとなり、本件発明1は明確となった。 (2)本件訂正が認められたことにより、請求項1における「硬化性組成物同士が・・・隣接する層間の境界部分の近辺で微視的に混ざり合っており、積層構造を有し、隣接する層間の境界部分が不明瞭である」という状態が、工程〔II〕の前の状態であることが明らかとなり、本件発明1は明確となった。 よって、本件発明1及びそれを引用する本件発明2~5は明確となった。 2 第36条第6項第1号(サポート要件)について (1)本件訂正が認められたことにより、請求項1における「色調」が、硬化性組成物の、重合後の重合体としては異なることが明らかとなり、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された範囲のものとなった。 (2)本件訂正が認められたことにより、請求項4が削除され、取消理由の対象が存在しないものとなった。 よって、本件発明1及びそれらを引用する本件発明2、3、5は、発明の詳細な説明に記載された範囲のものとなった。 以上の通り、本件訂正が認められたことにより、取消理由はいずれも解消された。 第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由と、それらに対する当審の判断 1 特許法第36条第6項第1号違反(特許異議申立書9~31頁) ア 請求項1の「重合前の硬化性組成物を積層し、少なくとも4層から構成される、重合前の積層体を得る工程〔I〕、及び」との発明特定事項に関し、本件明細書の記載によれば、積層体の数が4の場合は、本件発明の課題が解決され、優れた効果を奏すると認識することができるが、積層体の層の数が5以上の場合にはそうでないから、本件発明1及び請求項1を引用する本件発明2~5は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。 (当審の判断) 一般的に、積層体の層の数が増えれば、各層の色調をより細かく変更できることは明らかであるところ、本件発明1の歯科用ミルブランクにおいて、色調を細かく調整することにより、歯科用ミルブランク全体として天然歯のような外観を有し審美性を向上することができることは、技術常識に照らし、明らかである。請求項1を引用する本件発明2、3、5についても同様である。 イ 請求項1の「前記工程〔I〕によって得られる重合前の積層体の隣接する層に含まれる色調の異なる硬化性組成物同士が、隣接する層間の境界部分の近辺で微視的に混ざり合っており、」との発明特定事項に関し、本件明細書の記載を見ても、いかなる場合に重合前の硬化性組成物の色調が異なるといえるのか理解できないから、本件発明1及び請求項1を引用する本件発明2~5は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。 (当審の判断) 本件訂正が認められたことにより、本件発明1において、色調が異なるのは、重合後の重合体であることが明らかとなったから、申立人の主張はその前提において失当である。請求項1を引用する本件発明2、3、5についても同様である。 ウ 本件発明1の色調の異なる層の数に関し、本件明細書には、硬化後の硬化性組成物の色調が同じである層を2以上含む歯科用ミルブランクは記載も示唆もされていないから、本件発明1及び請求項1を引用する本件発明2~5は発明の詳細な説明に記載されたものでない。 (当審の判断) 本件発明1は、少なくとも4層から構成される積層体において、隣接する層に含まれる硬化性組成物の重合後の重合体の状態での色調が異なることを特定しているのであって、硬化後の硬化性組成物の色調が同じである層を2以上含むことを特定しているものではないから、申立人の主張はその前提において誤りである。 さらに、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号の要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるところ、申立人が主張する、硬化後の硬化性組成物の色調が同じである層を2以上含むことは、本件発明の課題である、積層構造を有し、隣接する層間の境界部分が不明瞭であり、天然歯のような外観を有し審美性が高く、かつ隣接する層間の境界部分での機械的強度が高い、歯科用ミルブランクの製造方法を提供することに照らして、何ら直接的な関連を有していない事項というほかなく、この点においても失当というべきである。 請求項1を引用する本件発明2、3、5についても同様である。 2 特許法第36条第6項第2号違反(特許異議申立書31、32頁) 請求項1の「色調の異なる硬化性組成物」との記載に関し、本件明細書には、硬化性組成物が有する色調について、具体的な記載がなく、色調を特定するための具体的な手段について記載がなく、いかなる場合に硬化性組成物の色調が異なるのか不明であるから、本件発明1及び請求項1を引用する本件発明2~5は明確でない。 (当審の判断) 本件訂正が認められたことにより、本件発明1の「色調」とは、硬化性組成物が、それぞれ単独で重合した場合の重合後の重合体としての色調であることが明らかとなった。そうすると、硬化性組成物の、それぞれ単独で重合した場合の重合後の重合体としての色調は、例えば目視等により容易に確認できることが明らかであるから、申立人の主張は採用できない。 請求項1を引用する本件発明2、3、5についても同様である。 3 特許法第36条第4項第1号違反(特許異議申立書32~34頁) 重合前の硬化性組成物の色調に関し、本件明細書には、硬化性組成物が有する色調について、具体的な記載がなく、また色調を特定するための具体的な手段について記載がなく、いかなる場合に硬化性組成物の色調が異なるのか不明であるから、本件発明1及び請求項1を引用する本件発明2~5を実施することができない。 (当審の判断) 本件訂正が認められたことにより、本件発明1の「色調」とは、硬化性組成物が、それぞれ単独で重合した場合の重合後の重合体としての色調であることが明らかとなった。そうすると、硬化性組成物の、それぞれ単独で重合した場合の重合後の重合体としての色調は、例えば目視等により容易に確認できることが明らかであるから、申立人の主張は採用できない。 請求項1を引用する本件発明2、3、5についても同様である。 4 特許法第29条第2項違反(特許異議申立書34~71頁) 本件発明1~5は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2~10号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 甲第1号証:国際公開第2009/154301号 甲第2号証:特表2011-528597号公報 甲第3号証:特開2014-161440号公報 甲第4号証:特開平7-51296号公報 甲第5号証:特表2014-529608号公報 甲第6号証:特開平10-323353号公報 甲第7号証:特開2011-178807号公報 甲第8号証:国際公開第2011/074222号 甲第9号証:国際公開第2015/152221号 甲第10号証:国際公開第02/09612号 (当審の判断) (1)刊行物に記載された発明 ア 甲第1号証 甲第1号証(国際公開第2009/154301号 明細書第1~56頁、特に実験例2を参照。)には、「複合樹脂材を鋳型に充填し、重合硬化し、その後、硬化した樹脂層の上から色調の異なる複合樹脂材を鋳型に充填し、重合硬化し、さらに硬化した樹脂層の上から、色調の異なる複合樹脂材を鋳型に充填して、重合硬化して、硬化した樹脂層を得る工程、及び その後、熱重合による硬化のため、積層された硬化樹脂層が入ったままの鋳型を加熱する工程を含み、 複合樹脂材が、シリカ、TEGDMA、UDMA、N,Nージメチルアミノエチルメタクリレート、カンファーキノン及び過酸化ベンゾイルを含む、 積層させた歯科補綴物加工用のグラデーションブロックの製造方法。」(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 イ 甲第2号証(特表2011-528597号公報 特に段落【0001】、【0003】、【0018】、【0019】、【0021】、【0023】~【0026】、【0040】、【0041】、【0043】を参照。)には、「天然歯の象牙質-エナメル質界面を再現するために、第1の成分の中に第2の成分を充填して得られた成形部材において、第1及び第2成分のためにプラスチック材料が使用される場合、高温で、任意に加圧下で硬化させる歯科用成形部材を調整するためのプロセス。」(以下「甲2事項」という。)が記載されている。 ウ 甲第3号証(特開2014-161440号公報 特に段落【0001】、【0003】、【0007】、【0016】、【0074】、【0077】、[製造例1]、[実施例1]を参照。)には、「象牙質修復用レジン層に必要に応じて仮重合を行い、次いでエナメル質修復用レジン層に必要に応じて仮重合を行い、最終重合を行うことによるブロック体の作製方法。」(以下「甲3事項」という。)が記載されている。 エ 甲第4号証(特開平7-51296号公報 特に段落【0001】、【0006】、【0007】、【0008】を参照。)には、「天然歯のネック、デンチン、およびエナメルに対応したグラデーションを容易に製作可能とするために、複数の色の異なる未重合の光重合型レジンを積層した歯科用レジン。」(以下「甲4事項」という。)が記載されている。 オ 甲第5号証(特表2014-529608号公報 特に段落【0010】を参照。)には、「歯科用ミルブランクとコンポジットレジンとに、共通の製法により製造された共通の材料を用いることが可能であること。」(以下「甲5事項」という。)が記載されている。 カ 甲第6号証(特開平10-323353号公報 特に段落【0028】を参照。)には、「歯科用ミルブランクとコンポジットレジンとに、共通の製法により製造された共通の材料を用いることが可能であること。」(以下「甲6事項」という。)が記載されている。 キ 甲第7号証(特開2011-178807号公報 特に段落【0013】、【0018】を参照。)には、「歯科用ミルブランクとコンポジットレジンとに、共通の製法により製造された共通の材料を用いることが可能であること。」(以下「甲7事項」という。)が記載されている。 ク 甲第8号証(国際公開第2011/074222号 特に段落[0092]を参照。)には、「歯科用ミルブランクとコンポジットレジンとに、共通の製法により製造された共通の材料を用いることが可能であること。」(以下「甲8事項」という。)が記載されている。 ケ 甲第9号証(国際公開第2015/152221号 特に段落[0175]、[0177]を参照。)には、「歯科用ミルブランクとコンポジットレジンとに、共通の製法により製造された共通の材料を用いることが可能であること。」(以下「甲9事項」という。)が記載されている。 コ 甲第10号証(国際公開第02/09612号 特に第10頁を参照。)には、「歯科用ミルブランクとコンポジットレジンとに、共通の製法により製造された共通の材料を用いることが可能であること。」(以下「甲10事項」という。)が記載されている。 2 本件発明1についての判断 本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。 (相違点1) 本件発明1では、重合前の硬化性組成物を積層し、重合前の積層体を得る工程〔I〕を備えているのに対して、甲1発明では、複合樹脂材を鋳型に充填し重合硬化し、その後、硬化した樹脂層の上から異なる複合樹脂材を鋳型に充填し重合硬化し、さらに硬化した樹脂層の上から、色調の異なる複合樹脂材を鋳型に充填し重合硬化して、硬化した樹脂層を得る工程を備える点。 (相違点2) 本件発明1では、重合前の硬化性組成物が10~45の稠度を有するのに対して、甲1発明では、重合前の複合樹脂材の稠度は不明である点。 (相違点3) 本件発明1では、重合前の積層体の隣接する層に含まれる硬化性組成物同士が、工程〔II〕の前において、隣接する層間の境界部分の近辺で微視的に混ざり合っているのに対して、甲1発明では、そのような構成を備えるか不明である点。 (相違点4) 本件発明1では、得られる歯科用ミルブランクが、積層構造を有し、隣接する層間の境界部分が不明瞭であるのに対し、甲1発明では、隣接する層間の境界部分が不明瞭であるか否か不明である点。 事案に鑑み、相違点1~4を併せて検討する。 本件発明1は、積層構造を有し、隣接する層間の境界部分が不明瞭であり、天然歯のような外観を有し審美性が高く、かつ隣接する層間の境界部分での機械的強度が高い、歯科用ミルブランクの製造方法を提供するという課題を解決するために、本件発明1の発明特定事項を備えるものである。すなわち、本件発明1は、相違点1に係る、重合前の硬化性組成物を積層し、重合前の積層体を得る工程〔I〕を備え、かつ当該重合前の硬化性組成物が、相違点2に係る10~45の稠度を有することにより、相違点3に係る、重合前の積層体の隣接する層に含まれる硬化性組成物同士が、工程〔II〕の前において、隣接する層間の境界部分の近辺で微視的に混ざり合っている状態が生じ、重合後には、相違点4に係る、積層構造を有し、隣接する層間の境界部分が不明瞭である歯科用ミルブランクが得られるものである。 しかしながら、甲1発明では、複合樹脂材を鋳型に充填し重合硬化し、その後、硬化した樹脂層の上から異なる複合樹脂材を鋳型に充填し重合硬化し、さらに硬化した樹脂層の上から、色調の異なる複合樹脂材を鋳型に充填し重合硬化して、硬化した樹脂層を得る工程を備えることから、相違点3に係る、重合前の積層体の隣接する層に含まれる硬化性組成物同士が、工程〔II〕の前において、隣接する層間の境界部分の近辺で微視的に混ざり合っている状態が生じることは考えられず、その結果、相違点4に係る、積層構造を有し、隣接する層間の境界部分が不明瞭である歯科用ミルブランクも得られることはない。 さらに、本件発明1は、相違点2に係る、重合前の硬化性組成物が10~45の稠度を有するとの発明特定事項を備えることにより、相違点3に係る、工程〔II〕の前において、隣接する層間の境界部分の近辺で微視的に混ざり合っている状態が適切な態様で生じ、相違点4に係る積層構造を有し、隣接する層間の境界部分が不明瞭である歯科用ミルブランクが得られるものと考えられるところ、重合前の硬化性組成物の稠度を10~45とする事項は、いずれの甲号証にも開示されておらず、当業者が適宜決定すべき設計的事項ということもできない。 また、甲第2号証に、申立人が主張するような「積層体を一括して硬化する」発明が開示されていたとしても、色調の異なる樹脂層毎に充填と硬化を繰り返すことにより、グラデーションを形成する甲1発明において、重合前の硬化性組成物を積層すれば、グラデーションが乱れる可能性があることをふまえると、甲1発明に、申立人が甲第2号証に記載されていると主張する「積層体を一括して硬化する」発明を適用する動機付けは見いだせない。 そうすると、本件発明1は、甲1発明及び甲2~10号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 本件発明2、3、5について 本件発明2、3、5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記2のとおり、本件発明1は甲1発明及び甲2~10号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、同じ理由により本件発明2、3、5も甲1発明及び甲2~10号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4 まとめ 以上のとおり、本件発明1~3、5は、甲1発明及び甲2~10号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。 したがって、本件発明1~3、5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。 第7 むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1~3、5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1~3、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、上記第2のとおり、本件訂正が認められたことにより、請求項4は削除され、本件特許の請求項4についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。 よって、本件特許の請求項4についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700179

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