特許異議申立
2022-700685
ポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法
- 審判番号
- 2022-700685
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-534047
- 登録番号
- 7008711
- 請求日
- 2022年07月20日
- 審決日
- 2023年08月29日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】出光興産株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人大谷特許事務所
- 【異議申立人】関 博志
- 審判長/審判官
- 審判長 近野 光知
- 審判官 杉江 渉
- 審判官 ▲吉▼澤 英一
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7008711号発明「ポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7008711号の特許請求の範囲を令和5年2月17日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-15〕について訂正することを認める。
特許第7008711号の請求項1-5、7-8、10、12-15に係る特許を維持する。
特許第7008711号の請求項6、9、11に係る特許に対する申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7008711号(請求項の数15。以下、「本件特許」という。)は、平成30年7月23日の国際出願日(優先権主張:平成29年8月2日、日本国)にされたものとみなされる特許出願(特願2019-534047号)に係るものであって、令和4年1月13日に特許権の設定登録がなされたものである。(特許掲載公報の発行日は、同年同月25日である。)
その後、令和4年7月20日に、本件特許の請求項1~15に係る特許に対して、特許異議申立人である関博志(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
1 特許異議の申立て後の経緯
本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。
令和4年 7月20日 :特許異議の申立て
同年12月12日付け:取消理由通知
令和5年 2月17日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年 2月28日付け:訂正請求があった旨の通知書(申立人宛て)
同年 3月30日 :意見書の提出(申立人)
同年 5月18日 :取消理由通知(決定の予告)
同年 7月21日 :意見書の提出(特許権者)
2 証拠方法
(1)申立人が特許異議申立書に添付して提出した証拠方法
申立人が、特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証 :特開2017-14502号公報
甲第2号証 :国際公開第2017/020185号(翻訳文も提出)
(2)令和5年3月30日提出の意見書に添付して提出した証拠方法
申立人が令和5年3月30日提出の意見書に添付して提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第3号証 :特許第6131264号公報
第2 訂正の適否についての判断
令和5年2月17日にした訂正請求は、以下の訂正事項を含むものである。
(以下、「本件訂正」という。また、設定登録時の本件願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件特許明細書等」という。)
1 訂正の内容
(1)訂正事項について
ア 訂正事項1について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1において、
「前記混合において前記樹脂成分がエポキシ化合物を含まない、」という記載を、
「前記混合において前記樹脂成分がエポキシ化合物を含まず、
前記脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)が、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)及び芳香族熱可塑性樹脂(S)の合計100質量%に対して、60質量%以上95質量%以下混合され、
波長486.1nmの光に対する屈折率が1.510以上1.55以下であり、波長589.3nmの光に対する屈折率が1.50以上1.55以下であり、波長656.3nmの光に対する屈折率が1.505以上1.540以下であるガラスフィラー(E)を、ポリカーボネート系樹脂組成物全量100質量%中、5質量%以上50質量%以下の割合となるよう加える、」に訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~15も同様に訂正する。
イ 訂正事項2について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6を削除する。
ウ 訂正事項3について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に、「前記エステル交換触媒が、金属酸化物、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、含窒素化合物及びリン含有化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法。」とあるうち、請求項6を引用するものについて除き、請求項1~5のいずれか一項を引用するものに訂正する。
エ 訂正事項4について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8に、「波長589.3nmの光に対するポリカーボネート系樹脂組成物の屈折率が、1.50以上1.55以下となる、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法。」とあるうち、請求項6を引用するものについて除き、請求項1~5及び7のいずれか一項を引用するものに訂正する。
オ 訂正事項5について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9を削除する。
カ 訂正事項6について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項10に、「前記ガラスフィラー(E)が、ガラス繊維、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ガラスクロス及びガラスビーズからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項9に記載のポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法。」とあるうち、請求項9を引用するものを、請求項1を引用するものに訂正する。
キ 訂正事項7について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項11を削除する。
ク 訂正事項8について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項12に、「波長589.3nmの光に対して、前記脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)及び前記芳香族熱可塑性樹脂(S)の混合物の屈折率と、前記ガラスフィラー(E)の屈折率との差が0.020以下である、請求項9~11のいずれか一項に記載のポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法。」とあるうち、請求項9及び11を引用するものを除き、請求項10を引用するものに訂正する。
ケ 訂正事項9について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項13に、「請求項1~12のいずれか一項に記載の製造方法により得られたポリカーボネート系樹脂組成物を成形する、ポリカーボネート系樹脂組成物の成形品の製造方法。」とあるうち、請求項6、9、及び11を引用するものを除き、請求項1~5、7、8、10、及び12のいずれか一項を引用するものに訂正する。
(2)一群の請求項
訂正事項1に係る訂正前の請求項1~15について、請求項2~15はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。
2 判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項1における「ポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法について、(a)「ポリカーボネート系樹脂組成物」が「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)が、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)及び芳香族熱可塑性樹脂(S)の合計100質量%に対して、60質量%以上95質量%以下混合され」たものであること、さらに、(b)「波長486.1nmの光に対する屈折率が1.510以上1.55以下であり、波長589.3nmの光に対する屈折率が1.50以上1.55以下であり、波長656.3nmの光に対する屈折率が1.505以上1.540以下であるガラスフィラー(E)」を「ポリカーボネート系樹脂組成物全量100質量%中、5質量%以上50質量%以下の割合となるよう加える」ものであることを特定し、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1による訂正のうち、(a)本件訂正前の請求項1における「ポリカーボネート系樹脂組成物」について「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)が、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)及び芳香族熱可塑性樹脂(S)の合計100質量%に対して、60質量%以上95質量%以下混合され」たものであると特定する訂正は、本件訂正前の請求項6の記載に基づくものであり、(b)本件訂正前の請求項1における「ポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法において、「波長486.1nmの光に対する屈折率が1.510以上1.55以下であり、波長589.3nmの光に対する屈折率が1.50以上1.55以下であり、波長656.3nmの光に対する屈折率が1.505以上1.540以下であるガラスフィラー(E)」を「ポリカーボネート系樹脂組成物全量100質量%中、5質量%以上50質量%以下の割合となるよう加える」と特定する訂正は、本件明細書等の段落【0058】~【0059】の記載に基づくものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項の追加には該当しない。また、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことも明らかである。
(2)訂正事項2、5、7について
ア 訂正の目的
訂正事項2、5、7による訂正は、それぞれ本件訂正前の請求項6、9、11を単に削除するものであるから、訂正事項2、5、7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項2、5、7による訂正は、単に特許請求の範囲を削除するものであるから、新規事項の追加、実質上の特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。
(3)訂正事項3、4、6、8、9について
ア 訂正の目的
訂正事項3、4、6、8、9による訂正は、上記の訂正事項2、5、7による訂正前の請求項6、9、11の削除に合わせて、本件訂正前の請求項7及び8については引用していた請求項6を削除し、本件訂正前の請求項10については請求項1のみを引用するものとし、請求項12については引用していた請求項9、11を削除し、請求項13については引用していた請求項6、9、11を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項3、4、6、8、9は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1~9による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。
第3 本件発明
上記「第2 訂正の適否についての判断」のとおり、本件訂正は適法であるので、特許第7008711号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~15に記載された以下のとおりのものである(以下、請求項1~15に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」~「本件発明15」といい、まとめて「本件発明」ともいう。本件の願書に添付した明細書については、「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
下記一般式(I)で表される繰り返し単位(A-1)を含む脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)と、
下記一般式(II)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロックを含む芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)、下記一般式(III)で表される構造単位を有する芳香族ポリエステル系樹脂(C)及び下記一般式(IV)で表される構造単位を有するポリアリレート樹脂(D)からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族熱可塑性樹脂(S)とを、
エステル交換触媒の存在下において、樹脂成分が溶融する温度以上の温度で混合する、ポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法であって、
前記混合において前記樹脂成分がエポキシ化合物を含まず、
前記脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)が、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)及び芳香族熱可塑性樹脂(S)の合計100質量%に対して、60質量%以上95質量%以下混合され、
波長486.1nmの光に対する屈折率が1.510以上1.55以下であり、波長589.3nmの光に対する屈折率が1.50以上1.55以下であり、波長656.3nmの光に対する屈折率が1.505以上1.540以下であるガラスフィラー(E)を、ポリカーボネート系樹脂組成物全量100質量%中、5質量%以上50質量%以下の割合となるよう加える、
ポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法。
【化1】
[図:0001403633000001.jpg]
(式中、X1は炭素数2~20の2価の脂肪族炭化水素基、又は炭素数4~22の2価の脂環式炭化水素基を示す。前記2価の脂肪族炭化水素基及び2価の脂環式炭化水素基は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子、及び/またはフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれる少なくとも1つのハロゲン原子を含んでもよい)
【化2】
[図:0001403633000002.jpg]
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基を示す。複数のR1及びR2はそれぞれ、互いに同一でも異なっていてもよい。X2は、単結合、炭素数1~8のアルキレン基、炭素数2~8のアルキリデン基、炭素数5~15のシクロアルキレン基、炭素数5~15のシクロアルキリデン基、フルオレンジイル基、炭素数7~15のアリールアルキレン基、炭素数7~15のアリールアルキリデン基、-S-、-SO2-、-SO2-、-O-又は-CO-を示す。Arはフェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を示し、B1はCnH2n(nは2~4)を示す。R3は、水素原子、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、炭素数1~12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数6~12のアリール基、炭素数1~12のアルコキシ基及び置換もしくは無置換の炭素数6~12のアリールオキシ基からなる群から選択される。複数のR3は互いに同一でも異なっていてもよい。a、b及びcはそれぞれ独立に0~4の整数を示す)
【請求項2】
前記芳香族熱可塑性樹脂(S)が、前記一般式(II)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロックを含む芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)である、請求項1に記載のポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)が、繰り返し単位(A-1)として、下記一般式(I-1)、(I-2)及び(I-3)で表される繰り返し単位からなる群より選ばれる一つ以上を含む、請求項1又は2に記載のポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法。
【化3】
[図:0001403633000003.jpg]
【請求項4】
前記脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)が、繰り返し単位(A-1)として上記一般式(I-3)で示される繰り返し単位を含む、請求項3に記載のポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記繰り返し単位(A-1)における、上記一般式(I-3)で表される繰り返し単位の割合が40モル%以上である、請求項3又は4に記載のポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記エステル交換触媒が、金属酸化物、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、含窒素化合物及びリン含有化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
波長589.3nmの光に対するポリカーボネート系樹脂組成物の屈折率が、1.50以上1.55以下となる、請求項1~5及び7のいずれか一項に記載のポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】(削除)
【請求項10】
前記ガラスフィラー(E)が、ガラス繊維、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ガラスクロス及びガラスビーズからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】(削除)
【請求項12】
波長589.3nmの光に対して、前記脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)及び前記芳香族熱可塑性樹脂(S)の混合物の屈折率と、前記ガラスフィラー(E)の屈折率との差が0.020以下である、請求項10に記載のポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項1~5、7、8、10、及び12のいずれか一項に記載の製造方法により得られたポリカーボネート系樹脂組成物を成形する、ポリカーボネート系樹脂組成物の成形品の製造方法。
【請求項14】
厚み2mmにおけるヘーズが10以下となる、請求項13に記載の成形品の製造方法。
【請求項15】
厚み2mmにおける全光線透過率が80%以上となる、請求項13又は14に記載の成形品の製造方法。」
第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 取消理由通知の概要
(1)令和4年12月12日付けの取消理由通知で通知した取消理由の概要
当審が令和4年12月12日付けの取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。
ア 取消理由1A(新規性)
(ア)本件訂正前の請求項1~8、13~15に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。(以下「取消理由1A-1」という。)。
(イ)本件訂正前の請求項1~5、7~10、12~15に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。(以下「取消理由1A-2」という。)。
イ 取消理由1B(進歩性)
(ア)本件訂正前の請求項1~15に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。(以下「取消理由1B-1」という。)
(イ)本件訂正前の請求項1~5、7~10、12~15に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。(以下「取消理由1B-2」という。)
(2)令和5年5月18日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要
当審が令和5年5月18日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由(以下「取消理由2」ということがある。)の概要は、以下に示すとおりである。
取消理由2(進歩性)
本件訂正後の請求項1~5、7~8、10、12~15に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
2 特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書に記載した申立て理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)申立理由1(新規性)
(ア)本件訂正前の請求項1~7、10、13~15に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。(以下「申立理由1-1」という。)
(イ)本件訂正前の請求項1~5、7~13、15に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。(以下「申立理由1-2」という。)
(2)申立理由2(進歩性)
(ア)本件訂正前の請求項1~15に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。(以下「申立理由2-1」という。)
(イ)本件訂正前の請求項1~15に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術的事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。(以下「申立理由2-2」という。)
第5 当審の判断
特許異議の申立ての審理対象である請求項1~15のうち、上記「第2 本件訂正の内容」及び「第3 特許請求の範囲の記載」で示したとおり、請求項6、9、11は、本件訂正により削除されているので、請求項6、9、11についての申立てを却下する。
当審は、当審が通知した取消理由1A-1~1A-2、1B-1~1B-2及び2及び申立人がした申立理由1-1~1-2及び2-1~2-2によっては、いずれも、本件発明1~5、7~8、10、12~15に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。
取消理由1A-1(新規性)、1B-1(進歩性)、取消理由2(進歩性)、申立理由1-1(新規性)及び申立理由2-1(進歩性)はいずれも甲第1号証を主引用文献とする新規性・進歩性に関する理由であるから、以下、併せて検討する。
また、取消理由1A-2(新規性)、1B-2(進歩性)、申立理由1-2(新規性)及び申立理由2-2(進歩性)はいずれも甲第2号証を主引用文献とする新規性・進歩性に関する理由であるから、以下、併せて検討する。
事案に鑑みて、取消理由1A-2(新規性)、1B-2(進歩性)、申立理由1-2(新規性)及び申立理由2-2(進歩性)から検討する。
1.取消理由1A-2(新規性)、1B-2(進歩性)、申立理由1-2(新規性)及び申立理由2-2(進歩性)について
(1)甲第2号証に記載された発明
以下の「甲第2号証に記載された発明」は、甲第2号証とともに提出された訳文を基に当審で作成した訳に基づいて認定したものである。
甲第2号証には、段落【0171】~【0172】、【0177】~【0179】、【0181】~【0182】、【0184】~【0185】、【0191】の【表1】の記載からみて、実施例2に着目すると、
「24.5gのバイオベースポリカーボネート(ポリカーボネート樹脂(A)の製造例1で得られたISB/CHDMのモル比が70/30mol%の共重合ポリカーボネート樹脂)、
50.5gのビスフェノールAポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバレックス7022J(ビスフェノールA構成単位100モル%の芳香族ポリカーボネート樹脂)および
2mgのメタノールナトリウム粉末
を予め均一に混合してから、混練機に加え、240℃、80rpmで3~4min混練し、系が透明化した後に14gのガラス繊維(PPG、3540、屈折率1.558、アッベ数55.5)を加え、引き続き混練し、10min後に排出する、ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。」の発明(以下「甲2発明2A」という。)が記載されているといえる。
また、甲第2号証には、段落【0171】~【0172】、【0177】~【0180】、【0181】~【0182】、【0187】、【0191】の【表1】の記載からみて、実施例4に着目すると、
「21gのバイオベースポリカーボネート(ポリカーボネート樹脂(A)の製造例2で得られたISB/CHDMのモル比が50/50mol%のポリカーボネート樹脂)、
49gのビスフェノールAポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバレックス7022J(ビスフェノールA構成単位100モル%の芳香族ポリカーボネート樹脂))および
2mgのメタノールナトリウム粉末
を予め均一に混合してから、混練機に加え、240℃、80rpmで3~4min混練し、系が透明化した後に14gのガラス繊維(PPG、3540、屈折率1.558、アッベ数55.5)を加え、引き続き混練し、10min後に排出する、ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。」の発明(以下「甲2発明4A」という。)が記載されているといえる。
さらに、甲第2号証には、段落【0171】~【0172】、【0177】~【0180】、【0181】~【0182】、【0190】、【0191】の【表1】の記載からみて、比較例2に着目すると、
「24.5gのバイオベースポリカーボネート(ポリカーボネート樹脂(A)の製造例2で得られたISB/CHDMのモル比が50/50mol%のポリカーボネート樹脂)、
50.5gのビスフェノールAポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバレックス7022J(ビスフェノールA構成単位100モル%の芳香族ポリカーボネート樹脂))および
2mgのメタノールナトリウム粉末
を予め均一に混合してから、混練機に加え、240℃、80rpmで8min混練する、ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。」の発明(以下「甲2発明6A」という。)が記載されているといえる。
(2)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲2発明2Aとの対比
本件発明1と甲2発明2Aとを対比する。
甲2発明2Aの「バイオベースポリカーボネート(ポリカーボネート樹脂(A)の製造例1で得られたISB/CHDMのモル比が70/30mol%の共重合ポリカーボネート樹脂)」は、炭素数6の2価の脂環式炭化水素基であり酸素原子を含む「イソソルビド(ISB)」の単位と炭素数6の2価の脂環式炭化水素基である「1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)」の単位を含む樹脂であり、本件明細書の段落【0011】~【0020】、【0071】~【0072】(特に、段落【0011】~【0013】、【0020】、【0071】~【0072】)の記載からみて、本件発明1の「下記一般式(I)で表される繰り返し単位(A-1)を含む脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」であって「X1」が「炭素数4~22の2価の脂環式炭化水素基を示す」ものに相当するといえる。
甲2発明2Aの「ビスフェノールAポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバレックス7022J(ビスフェノールA構成単位100モル%の芳香族ポリカーボネート樹脂))」は、「ビスフェノールA構成単位100モル%の芳香族ポリカーボネート樹脂」であるから、本件発明1の「下記一般式(II)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロックを含む芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)」である「芳香族熱可塑性樹脂(S)」であって、「X2」が「炭素数3のアルキレン基」であり、「a」、「b」がそれぞれ独立に「0」であるものに相当するといえる。
甲2発明2Aにおいて、「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」である「バイオベースポリカーボネート(ポリカーボネート樹脂(A)の製造例1で得られたISB/CHDMのモル比が70/30mol%の共重合ポリカーボネート樹脂)」は「24.5g」、「芳香族熱可塑性樹脂(S)」である「ビスフェノールAポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバレックス7022J(ビスフェノールA構成単位100モル%の芳香族ポリカーボネート樹脂))」は「50.5g」混合されていることから、甲2発明2Aにおいては、「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」が、「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」及び「芳香族熱可塑性樹脂(S)」の合計100質量%に対して、32.7質量%(=24.5g/(24.5g+50.5g)×100)で混合されているといえる。
甲2発明2Aの「メタノールナトリウム粉末」は、甲第2号証の段落【0114】~【0119】(特に、段落【0119】の「エステル交換反応触媒(D)として用いられる1族の金属の化合物としては、例えば、・・・ナトリウム、・・・のアルコレート・・・等。」の記載を参照)の記載からみて、本件発明1の「エステル交換触媒」に相当する。
甲2発明2Aの「24.5gのバイオベースポリカーボネート(ポリカーボネート樹脂(A)の製造例1で得られたISB/CHDMのモル比が70/30mol%の共重合ポリカーボネート樹脂)、50.5gのビスフェノールAポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバレックス7022J(ビスフェノールA構成単位100モル%の芳香族ポリカーボネート樹脂)および2mgのメタノールナトリウム粉末を予め均一に混合してから、混練機に加え、240℃、80rpmで3~4min混練し、系が透明化した後に14gのガラス繊維(PPG、3540、屈折率1.558、アッベ数55.5)を加え、引き続き混練する」工程は、本件発明1の「下記一般式(I)で表される繰り返し単位(A-1)を含む脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)と、下記一般式(II)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロックを含む芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)」「の芳香族熱可塑性樹脂(S)とを、エステル交換触媒の存在下において、樹脂成分が溶融する温度以上の温度で混合する」工程に相当するといえる。
また、甲2発明2Aは、その製造方法からみて、上記ポリカーボネート樹脂(A)である「バイオベースポリカーボネート」と、ポリカーボネート樹脂(B)である「ビスフェノールAポリカーボネート」がエポキシ化合物を含まないことは明らかであるから、本件発明1の「前記混合において前記樹脂成分がエポキシ化合物を含まない」ことを満たすものであるといえる。
甲2発明2Aの「ガラス繊維(PPG、3540、屈折率1.558、アッベ数55.5)」は、本願発明1の「 波長486.1nmの光に対する屈折率が1.510以上1.55以下であり、波長589.3nmの光に対する屈折率が1.50以上1.55以下であり、波長656.3nmの光に対する屈折率が1.505以上1.540以下であるガラスフィラー(E)」とは、本件明細書の段落【0057】の「ガラスフィラー(E)の形態は特に制限されず、例えば、ガラス繊維、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ガラスクロス及びガラスビーズからなる群より選ばれる少なくとも1種から選択されるものを使用することができる」との記載からみて、「ガラスフィラー(E)」である限りにおいて一致する。
甲2発明2Aの「ガラス繊維(PPG、3540、屈折率1.558、アッベ数55.5)」は「14g」混合しているから、甲2発明2Aの「ポリカーボネート樹脂組成物」中に、15質量%(=14g/(24.5g+50.5g+0.002g(2mg)+14g)混合しているから、本件発明1と同様に、「ガラスフィラー(E)を、ポリカーボネート系樹脂組成物全量100質量%中、5質量%以上50質量%以下の割合となるよう加える」といえる。
そうすると、本件発明1と甲2発明2Aとは、
「下記一般式(I)で表される繰り返し単位(A-1)を含む脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)と、
下記一般式(II)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロックを含む芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)、下記一般式(III)で表される構造単位を有する芳香族ポリエステル系樹脂(C)及び下記一般式(IV)で表される構造単位を有するポリアリレート樹脂(D)からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族熱可塑性樹脂(S)とを、
エステル交換触媒の存在下において、樹脂成分が溶融する温度以上の温度で混合する、ポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法であって、
前記混合において前記樹脂成分がエポキシ化合物を含まず、
ガラスフィラー(E)を、ポリカーボネート系樹脂組成物全量100質量%中、5質量%以上50質量%以下の割合となるよう加える、
ポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法。
【化1】(略)
【化2】(略)」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点2-2-1:「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」の「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)及び芳香族熱可塑性樹脂(S)の合計100質量%」に対する混合量」について、本件発明1では、「60質量%以上95質量%以下」であるのに対し、甲2発明2Aでは、「32.7質量%」である点。
相違点2-2-2:「ガラスフィラー(E)」について、本件発明1では、「波長486.1nmの光に対する屈折率が1.510以上1.55以下であり、波長589.3nmの光に対する屈折率が1.50以上1.55以下であり、波長656.3nmの光に対する屈折率が1.505以上1.540以下である」ものであるのに対し、甲2発明2Aでは、「ガラス繊維(PPG、3540、屈折率1.558、アッベ数55.5)」である点。
(イ)本件発明1と甲2発明4Aとの対比
本件発明1と甲2発明4Aとの対比を、上記「(ア) 本件発明1と甲2発明2Aとの対比・判断」での検討を踏まえて行う。
甲2発明4Aの「バイオベースポリカーボネート(ポリカーボネート樹脂(A)の製造例2で得られたISB/CHDMのモル比が50/50mol%のポリカーボネート樹脂)」は、本件明細書の段落【0011】~【0020】、【0071】~【0072】(特に、段落【0011】~【0013】、【0020】、【0071】~【0072】)の記載からみて、本件発明1の「下記一般式(I)で表される繰り返し単位(A-1)を含む脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」であって「X1」が「炭素数4~22の2価の脂環式炭化水素基を示す」ものに相当するといえる。
甲2発明4Aにおいて、「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」である「バイオベースポリカーボネート(ポリカーボネート樹脂(A)の製造例1で得られたISB/CHDMのモル比が50/50mol%の共重合ポリカーボネート樹脂)」は「21g」、「芳香族熱可塑性樹脂(S)」である「ビスフェノールAポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバレックス7022J(ビスフェノールA構成単位100モル%の芳香族ポリカーボネート樹脂))」は「49g」混合されていることから、甲2発明4Aにおいては、「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」が、「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」及び「芳香族熱可塑性樹脂(S)」の合計100質量%に対して、30.0質量%(=21g/(21g+49g)×100)で混合されているといえる。
そうすると、本件発明1と甲2発明4Aとは、以下の点で相違する。
相違点2-4-1:「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」の「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)及び芳香族熱可塑性樹脂(S)の合計100質量%」に対する混合量」について、本件発明1では、「60質量%以上95質量%以下」であるのに対し、甲2発明4Aでは、「30.0質量%」である点。
相違点2-4-2:「ガラスフィラー(E)」について、本件発明1では、「波長486.1nmの光に対する屈折率が1.510以上1.55以下であり、波長589.3nmの光に対する屈折率が1.50以上1.55以下であり、波長656.3nmの光に対する屈折率が1.505以上1.540以下である」ものであるのに対し、甲2発明4Aでは、「ガラス繊維(PPG、3540、屈折率1.558、アッベ数55.5)」である点。
(ウ)本件発明1と甲2発明6Aとの対比
本件発明1と甲2発明6Aとの対比を、上記「(ア) 本件発明1と甲2発明2Aとの対比」及び「(イ)本件発明1と甲2発明4Aとの対比」での検討を踏まえて行う。
甲2発明6Aの「バイオベースポリカーボネート(ポリカーボネート樹脂(A)の製造例2で得られたISB/CHDMのモル比が50/50mol%のポリカーボネート樹脂)」は、「(イ)本件発明1と甲2発明4Aとの対比」で検討したとおり、本件発明1の「下記一般式(I)で表される繰り返し単位(A-1)を含む脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」であって「X1」が「炭素数4~22の2価の脂環式炭化水素基を示す」ものに相当するといえる。
甲2発明6Aにおいて、「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」である「バイオベースポリカーボネート(ポリカーボネート樹脂(A)の製造例1で得られたISB/CHDMのモル比が50/50mol%の共重合ポリカーボネート樹脂)」は「24.5g」、「芳香族熱可塑性樹脂(S)」である「ビスフェノールAポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバレックス7022J(ビスフェノールA構成単位100モル%の芳香族ポリカーボネート樹脂))」は「50.5g」混合されていることから、甲2発明6Aにおいては、「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」が、「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」及び「芳香族熱可塑性樹脂(S)」の合計100質量%に対して、32.7質量%(=24.5g/(24.5g+50.5g)×100)で混合されているといえる。
相違点2-6-1:「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」の「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)及び芳香族熱可塑性樹脂(S)の合計100質量%」に対する混合量」について、本件発明1では、「60質量%以上95質量%以下」であるのに対し、甲2発明6Aでは、「32.7質量%」である点。
相違点2-6-2:「ポリカーボネート系樹脂組成物」に、本願発明1では「波長486.1nmの光に対する屈折率が1.510以上1.55以下であり、波長589.3nmの光に対する屈折率が1.50以上1.55以下であり、波長656.3nmの光に対する屈折率が1.505以上1.540以下であるガラスフィラー(E)を、ポリカーボネート系樹脂組成物全量100質量%中、5質量%以上50質量%以下の割合となるよう加える」のに対し、甲2発明6Aではそのような「ガラスフィラー」を加えていない点。
イ 判断
以下、相違点2-2-1、2-2-2、2-4-1及び2-4-2について併せて検討し、また、相違点2-6-1及び2-6-2について併せて検討する。
(ア)相違点2-2-1、2-2-2、2-4-1及び2-4-2について
(a)まず、相違点2-2-1及び相違点2-4-1の「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」の「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)及び芳香族熱可塑性樹脂(S)の合計100質量%」に対する混合量」について、甲2発明2Aと甲2発明4Aはそれぞれ「32.7質量%」、「30.0質量%」であるのに対して本件発明1は「60質量%以上95質量%以下」と大きく異なる。
また、相違点2-2-2及び2-4-2の「ガラスフィラー」の屈折率について、甲2発明2Aと甲2発明4Aの「ガラスフィラー」は「波長589nmで測定した屈折率」が「1.558」であるのに対して本件発明1は「1.50以上1.55以下」であり異なるものである。
したがって、相違点2-2-1、2-2-2、2-4-1及び2-4-2は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。
(b)次に、本件発明1が、甲2発明2A又は甲2発明4A及び甲第2号証に記載された技術的事項から容易に発明をすることができたかについて検討する。
相違点2-2-1及び相違点2-4-1の「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」の「脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)及び芳香族熱可塑性樹脂(S)の合計100質量%」に対する混合量」について、甲第2号証の段落【0137】には、
「前記樹脂組成物(X)におけるポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリカーボネート樹脂(B)との配合比は、樹脂組成物(X)とガラスフィラー(C)単体との屈折率との差が、0.01以下であるように調節することが好ましい。好ましくは0.005以下、特に好ましくは0.003以下である。屈折率差が0.01より大きくなると全光線透過率が低下し、透明性に劣る。
また、前記樹脂組成物(X)におけるポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリカーボネート樹脂(B)との配合比は、前記樹脂組成物(X)のアッベ数とガラスフィラー(C)単体とのアッベ数の差が25以下であるように調節することが好ましい。好ましくは24以下、特に好ましくは23以下である」と記載され、
「ポリカーボネート系樹脂(A)」と「芳香族ポリカーボネート樹脂(B)」の配合比については「ガラスフィラー(C)単体との屈折率との差」及び「アッベ数の差」がそれぞれ「0.01以下」、「25以下」となるように調整すべきこと、さらに、「ポリカーボネート系樹脂(A)」と「芳香族ポリカーボネート樹脂(B)」の配合比は「屈折率」や「アッベ数」に影響を与えることも示されているといえる。
次に、相違点2-2-2及び2-4-2に係る「ガラスフィラー(C)」について、甲第2号証の段落【0107】~【0108】には
「本発明の樹脂組成物用ガラスフィラー(C)は、一般にEガラスと呼ばれるSiO2が52~56%、Al2O3が12~16%、MgOとCaO等アルカリ土類金属酸化物の合計20~25%、Na2OやK2Oのアルカリ金属酸化物の合計0~0.8%である組成よりなるガラスフィラーである。本発明のガラスフィラー(C)は、波長589nmで測定した屈折率が、1.550以上1.560以下である。また、樹脂組成物としたときの透明性が良好であるため、下限値としては、1.552以上が好ましく、1.554以上が特に好ましい。上限値としては、1.559以下が好ましく、1.558以下が特に好ましい。本発明のガラスフィラー(C)は、アッベ数が50以上、60以下である。また、樹脂組成物としたときのアッベ数が良好となるため、下限値としては、52以上が好ましく、54以上が特に好ましい。上限値としては、58以下が好ましく、56以下が特に好ましい」
と記載されており、「ガラスフィラー(C)」としては一般に「Eガラス」と呼ばれる「波長589nmで測定した屈折率が、1.550以上1.560以下」、「下限値としては、1.552以上が好ましく、1.554以上」のものが好ましいことが記載されている。
一方、甲2発明2A及び甲2発明4Aの「ポリカーボネート樹脂組成物」中の「ガラス繊維ガラス繊維」の「屈折率」は「1.558」、「アッベ数」は「55.5」であり、「ポリカーボネート系樹脂(A)」の「ポリカーボネート系樹脂(A)」及び「芳香族ポリカーボネート樹脂(B)」の合計100質量%に対する混合量」がそれぞれ「32.7質量%」、「30.0質量%」であり、甲第2号証の段落【0191】の【表1】からみて「GF(ガラスフィラー)」と「樹脂組成物(X)」との屈折率の差がそれぞれ「0.002」、「0.008」とされているところ、甲2発明2A及び甲2発明4Aの「ポリカーボネート樹脂組成物」中の「ガラスフィラー」について、「屈折率」について特に好ましい範囲内とされる「1.558」のものに代えて、相違点2-2-2及び2-4-2に係る「・・・波長589.3nmの光に対する屈折率が1.50以上1.55以下・・・である」ものを採用する動機付けがあるとはいえないし、さらに、相違点2-2-1及び2-4-1に係る「ポリカーボネート系樹脂(A)」の「ポリカーボネート系樹脂(A)」及び「芳香族ポリカーボネート樹脂(B)」の合計100質量%に対する混合量」についてそれぞれ「32.7質量%」、「30.0質量%」のものを「60質量%以上95質量%以下」に変更する動機付けがあるともいえない。
したがって、本件発明1は、甲2発明2A及び甲2発明4A及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(c)次に、本件発明1が、甲2発明2A又は甲2発明4A及び甲第1号証に記載された技術的事項から容易に発明をすることができたかについて検討すると、甲第1号証の段落【0169】には「前記ポリカーボネート樹脂組成物には、意匠性を維持できる範囲において、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、・・・等の無機充填剤や、・・・などの粉末状有機充填剤;・・・などのバルン状・球状有機充填剤;・・・などの繊維状有機充填剤を添加することもできる」ことが記載されているものの、「ガラス繊維」(ガラスフィラー)として、具体的に、「波長486.1nmの光に対する屈折率が1.510以上1.55以下であり、波長589.3nmの光に対する屈折率が1.50以上1.55以下であり、波長656.3nmの光に対する屈折率が1.505以上1.540以下であるガラスフィラー(E)を、ポリカーボネート系樹脂組成物全量100質量%中、5質量%以上50質量%以下の割合となるよう加える」ことまでは記載されていないから、上記相違点2-2-1及び2-4-2について、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(イ)相違点2-6-1及び2-6-2について
(a)相違点2-6-2に係る「ガラスフィラー」について、甲2発明6Aはこれを含むものではないから、相違点2-6-2は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。
(b)次に、本件発明1が、甲2発明6A及び甲第2号証に記載された技術的事項から容易に発明をすることができたかについて検討すると、甲2発明6Aは甲第2号証における比較例に相当する例であり、甲2発明6Aの「ポリカーボネート樹脂組成物」に「ガラスフィラー」を配合することも動機付けられるとはいえない。
仮に、甲2発明6Aの「ポリカーボネート樹脂組成物」に「ガラスフィラー」を配合することを動機付けられたとしても、上記「(ア)相違点2-2-1、2-2-2、2-4-1及び2-4-2について」で検討したとおり、「ポリカーボネート樹脂組成物」中の「ガラスフィラー」について本件発明1において特定される「・・・波長589.3nmの光に対する屈折率が1.50以上1.55以下・・・である」ものを採用する動機付けがあるとはいえないし、相違点2-6-1に係る「ポリカーボネート系樹脂(A)」の「ポリカーボネート系樹脂(A)」及び「芳香族ポリカーボネート樹脂(B)」の合計100質量%に対する混合量」について本件発明1において特定される「60質量%以上95質量%以下」に変更する動機付けがあるともいえない。
したがって、本件発明1は、甲2発明6A及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ 令和5年3月30日提出の意見書における申立人の主張について
令和5年3月30日提出の意見書において、申立人は、以下の主張をしている。
甲第3号証の「実施例1には、ジヒドロキシ化合物として、CHDMとBPAとを含むPC1、 GF1とを所定の割合で含む、ポリカーボネート樹脂組成物が記載されています(段落【0157】、【0158】)。さらに、実施例2には、ジヒドロキシ化合物として、CHDM、ISB、BPAとを含むPC2、GF1とを所定の割合で含む、ポリカーボネート樹脂組成物が記載されています(段落【0157】、【0158】)。甲3号証では、ポリカーボネート樹脂組成物が含有するガラスフィラーの各波長での屈折率が記載されており、例えば、実施例1のポリカーボネート樹脂組成物は、GF1を含んでおり、GF1の波長486.1nmの光に対する屈折率(nF)は、1.51 5であり、GF1の波長589.3nmの光に対する屈折率(nD)は、1.509であり、GF1の波長656.3nmの光に対する屈折率(nC)は、1.507であります。さらに、甲3号証の実施例1において、PC1とGF1とを、90/10(質量%)で混合しております(表3)。」
「甲2号証と甲3号証とは、透明性に優れたポリカーボネート樹脂組成物および成型品を提供する点において、課題が共通しており、甲2号証に触れた当業者が、得られる樹脂組成物の透明性をさらに向上させることを目的として、樹脂組成物が含有するガラスフィラーの屈折率を、甲3号証を参考にして、より詳細に適宜設定していくことは、当業者の通常の創作能力の範囲内であったと言えます。以上より、本件発明1は、甲2号証および甲3号証より、進歩性がありません。」
申立人の当該主張について検討すると、上記「イ 判断」「(ア)相違点2-2-1、2-2-2、2-4-1及び2-4-2について」で検討したとおり、甲2発明2A及び甲2発明4Aでは、「ポリカーボネート樹脂組成物」中の「ガラス繊維」の「屈折率」は「1.558」のものを用いており、さらに、甲第2号証の段落【0107】~【0108】には「ガラスフィラー(C)」としては一般に「Eガラス」と呼ばれる「波長589nmで測定した屈折率が、1.550以上1.560以下」、「下限値としては、1.552以上が好ましく、1.554以上」のものが好ましいことが記載されている。
甲第2号証の当該記載を踏まえると、甲2発明2A及び甲2発明4Aでは、「ポリカーボネート樹脂組成物」中の「ガラス繊維」について、甲第3号証に記載の「波長589.3nmの光に対する屈折率(nD)は、1.509」のものを積極的に用いる動機付けがあるとはいえないし、さらに、「ポリカーボネート系樹脂(A)」の「ポリカーボネート系樹脂(A)」及び「芳香族ポリカーボネート樹脂(B)」の合計100質量%に対する混合量」について本件発明1において特定される「60質量%以上95質量%以下」に変更する動機付けがあるともいえない。
したがって、上記申立人の主張を採用することはできない。
エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第2号証に記載された発明及び甲第1~3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2~5、7~8、10、12~15について
本件発明2~5、7~8、10、12~15は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、上記「(2)本件発明1について」「イ 判断」で示した理由と同じ理由により、甲第2号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第2号証に記載された発明及び甲第1~3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)取消理由1A-2(新規性)、1B-2(進歩性)、申立理由1-2(新規性)及び申立理由2-2(進歩性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由1A-2(新規性)、1B-2(進歩性)、申立理由1-2(新規性)及び申立理由2-2(進歩性)によって、本件発明1~5、7~8、10、12~15に係る特許を取り消すことはできない。
2.取消理由1A-1(新規性)、1B-1(進歩性)、取消理由2(進歩性)、申立理由1-1(新規性)及び申立理由2-1(進歩性)について
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、段落【0194】~【0196】、【0200】、【0202】~【0203】、【0231】の【表1】の記載からみて、実施例1-1に着目すると、
「ポリカーボネート樹脂(A)としてPC-A1(ISB(イソソルビド[ロケットフルーレ社製])/CHDM(1,4-シクロヘキサンジメタノール[SKChemical社製])のモル比が70/30mol%の共重合ポリカーボネート樹脂)を用い、
芳香族ポリカーボネート樹脂(B)としてPC-B1(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバレックス7022J(ビスフェノールA構成単位100モル%の芳香族ポリカーボネート樹脂、溶融粘度(240℃、せん断速度91.2sec-1)3260Pa・s))を用い、
化合物(C)として、粉末状の炭酸水素ナトリウム(和光純薬(株)製 試薬特級)を用い、
70重量部のポリカーボネート樹脂(A)と、30重量部の芳香族ポリカーボネート樹脂(B)と、金属換算(Na換算)で20重量ppmの化合物(C)とを配合し、
二軸混練機(日本製鋼所社製、TEX-30α(L/D=52.5、L(mm):スクリュの長さ、D(mm):スクリュの直径))を用いて混練を行い、ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリカーボネート樹脂(B)との溶融反応を行い、
混練による溶融反応後に樹脂組成物をストランド状に押出し、水冷工程を経てペレット状にカッティングを行う、
ポリカーボネート樹脂組成物のペレットの製造方法。」の発明(以下「甲1発明1A」という。)が記載されているといえる。
(2)本願発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1Aとを対比する。
甲1発明1Aの「ポリカーボネート樹脂(A)」である「PC-A1(ISB(イソソルビド[ロケットフルーレ社製])/CHDM(1,4-シクロヘキサンジメタノール[SKChemical社製])のモル比が70/30mol%の共重合ポリカーボネート樹脂)」は、炭素数6の2価の脂環式炭化水素基であり酸素原子を含む「イソソルビド」の単位と炭素数6の2価の脂環式炭化水素基である「1,4-シクロヘキサンジメタノール」の単位を含む樹脂であり、本件明細書の段落【0011】~【0020】、【0071】~【0072】(特に、段落【0011】~【0013】、【0020】、【0071】~【0072】)の記載からみて、本件発明1の「下記一般式(I)で表される繰り返し単位(A-1)を含む脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)」であって「X1」が「炭素数4~22の2価の脂環式炭化水素基を示す」ものに相当するといえる。
甲1発明1Aの「芳香族ポリカーボネート樹脂(B)」である「PC-B1(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバレックス7022J(ビスフェノールA構成単位100モル%の芳香族ポリカーボネート樹脂、溶融粘度(240℃、せん断速度91.2sec-1)3260Pa・s))」は、「ビスフェノールA構成単位100モル%の芳香族ポリカーボネート樹脂」であるから、本件発明1の「下記一般式(II)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロックを含む芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)」である「芳香族熱可塑性樹脂(S)」であって、「X2」が「炭素数3のアルキレン基」であり、「a」、「b」がそれぞれ独立に「0」であるものに相当するといえる。
また、甲1発明1Aの「ポリカーボネート樹脂組成物」は、「70重量部のポリカーボネート樹脂(A)と、30重量部の芳香族ポリカーボネート樹脂(B)」とを配合するものであるから、本件発明1と同様に、「前記脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)が、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)及び芳香族熱可塑性樹脂(S)の合計100質量%に対して、60質量%以上95質量%以下混合され」たものであるといえる。
甲1発明1Aの「粉末状の炭酸水素ナトリウム(和光純薬(株)製 試薬特級)」は、甲第1号証の段落【0123】~【0124】、【0128】の記載からみて、本件発明1の「エステル交換触媒」に相当し、甲1発明1Aの「ポリカーボネート樹脂組成物」は、本件発明1の「ポリカーボネート系樹脂組成物」に相当する。
甲1発明1Aの「70重量部のポリカーボネート樹脂(A)と、30重量部の芳香族ポリカーボネート樹脂(B)と、金属換算(Na換算)で20重量ppmの化合物(C)とを配合し、二軸混練機(日本製鋼所社製、TEX-30α(L/D=52.5、L(mm):スクリュの長さ、D(mm):スクリュの直径))を用いて混練を行い、ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリカーボネート樹脂(B)との溶融反応」する工程は、本件発明1の「下記一般式(I)で表される繰り返し単位(A-1)を含む脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)と、下記一般式(II)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロックを含む芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)」「の芳香族熱可塑性樹脂(S)とを、エステル交換触媒の存在下において、樹脂成分が溶融する温度以上の温度で混合する」工程に相当するといえる。
また、甲1発明1Aは、その製造方法からみて、上記ポリカーボネート樹脂(A)であるPC-A1と、ポリカーボネート樹脂(B)であるPC-B1がエポキシ化合物を含まないことは明らかであるから、本件発明1の「前記混合において前記樹脂成分がエポキシ化合物を含まない」ことを満たすものであるといえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明1Aとは、
「下記一般式(I)で表される繰り返し単位(A-1)を含む脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)と、
下記一般式(II)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネートブロックを含む芳香族ポリカーボネート系樹脂(B)、下記一般式(III)で表される構造単位を有する芳香族ポリエステル系樹脂(C)及び下記一般式(IV)で表される構造単位を有するポリアリレート樹脂(D)からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族熱可塑性樹脂(S)とを、
エステル交換触媒の存在下において、樹脂成分が溶融する温度以上の温度で混合する、ポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法であって、
前記混合において前記樹脂成分がエポキシ化合物を含まず、
前記脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)が、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)及び芳香族熱可塑性樹脂(S)の合計100質量%に対して、60質量%以上95質量%以下混合された、
ポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法。
【化1】(略)
【化2】(略)
」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1-1:「ポリカーボネート系樹脂組成物」に、本件発明1では「波長486.1nmの光に対する屈折率が1.510以上1.55以下であり、波長589.3nmの光に対する屈折率が1.50以上1.55以下であり、波長656.3nmの光に対する屈折率が1.505以上1.540以下であるガラスフィラー(E)を、ポリカーボネート系樹脂組成物全量100質量%中、5質量%以上50質量%以下の割合となるよう加える」のに対し、甲1発明1Aではそのような「ガラスフィラー」を加えていない点。
イ 判断
上記相違点1-1について検討する。
(ア)甲第1発明1Aには、「ガラスフィラー」が含まれていないことから、相違点1-1は実質的な相違点であり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえない。
(イ)次に、本件発明1が、甲1発明1A及び甲第1号証に記載された技術的事項から容易に発明をすることができたかについて検討する。
甲第1号証の段落【0010】には、課題について「本発明は、・・・、透明性に優れると共に、生物起源物資含有率、耐熱性、耐湿熱性、及び耐衝撃性を高いレベルでバランスよく兼ね備えたポリカーボネート樹脂組成物、その製造方法、及びポリカーボネート樹脂組成物の成形体を提供しようとするものである」ことが記載され、「透明性に優れる」「ポリカーボネート樹脂組成物、その製造方法」が課題の1つであることが記載されている。また、段落【0169】には「前記ポリカーボネート樹脂組成物には、意匠性を維持できる範囲において、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、・・・等の無機充填剤や、・・・などの粉末状有機充填剤;・・・などのバルン状・球状有機充填剤;・・・などの繊維状有機充填剤を添加することもできる」ことが記載されており、「ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラスビーズ」等「ガラス」からなる「無機充填剤」は透明な充填剤として一般的なものであるし、当該記載から、甲1発明1Aにおいて、「ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラスビーズ」を用いることが動機づけられるといえる。
しかしながら、甲第1号証には、「ガラス繊維」(ガラスフィラー)として「波長486.1nmの光に対する屈折率が1.510以上1.55以下であり、波長589.3nmの光に対する屈折率が1.50以上1.55以下であり、波長656.3nmの光に対する屈折率が1.505以上1.540以下」のものを用いることは記載されていない。
そうすると、本件発明1は、甲1発明1A及び甲第1号証に記載された技術的事項から容易に発明をすることができたとはいえない。
(ウ)次に、本件発明1が、甲1発明1A及び甲第2号証に記載された技術的事項から容易に発明をすることができたかについて検討すると、上記「1.取消理由1A-2(新規性)、1B-2(進歩性)、申立理由1-2(新規性)及び申立理由2-2(進歩性)について」で検討したとおり、甲第2号証にも、「ガラスフィラー」「波長486.1nmの光に対する屈折率が1.510以上1.55以下であり、波長589.3nmの光に対する屈折率が1.50以上1.55以下であり、波長656.3nmの光に対する屈折率が1.505以上1.540以下」のものを用いることは記載されていない。
そうすると、本件発明1は、甲1発明1A及び甲第2号証に記載された技術的事項から容易に発明をすることができたとはいえない。
(エ)最後に、本件発明1が、甲1発明1A及び甲第3号証に記載された技術的事項から容易に発明をすることができたかについて検討する。
甲第3号証の段落【0008】には、課題について「透明性に非常に優れた成形品を与えるポリカーボネート樹脂組成物及び透明性に優れた成形品を提供することにある」こと、請求項1には「脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する脂肪族カーボネート繰り返し単位(A)を含むポリカーボネート樹脂と、・・・ガラスフィラーとを含み、前記ポリカーボネート樹脂の屈折率と前記ガラスフィラーの屈折率との差が、波長486.1nmの光に対して0.004以下、波長589.3nmの光に対して0.002以下、波長656.3nmの光に対して0.002以下である、ポリカーボネート樹脂組成物」が記載され、すなわち、「透明性に非常に優れた成形品を与えるポリカーボネート樹脂組成物」を得ることを目的として、「ポリカーボネート樹脂」と「ガラスフィラー」の「屈折率の差」を一定以下とすることが記載されているといえる。また、「ガラスフィラー」について、請求項9及び段落【0041】には「前記ガラスフィラーの波長589.3nmにおける屈折率が、1.500~1.540である」こと、段落【0155】、【0156】の【表2】の製造例5、6、11、12には「波長486.1nmの光に対する屈折率が1.510以上1.55以下であり、波長589.3nmの光に対する屈折率が1.50以上1.55以下であり、波長656.3nmの光に対する屈折率が1.505以上1.540以下」である「ガラス繊維」が具体的に記載され、さらに、段落【0154】の【表1】、【0158】の【表3】の実施例2、3、5、6として、繰り返し単位として「イソソルビド」と「ビスフェノールA」の残基を含む「ポリカーボネート」に上記の製造例5、6、11、12の「ガラス繊維」を、樹脂組成物全体を100重量部とした場合に10重量部、配合した具体例も記載されており、高い全光透過率、低いヘイズ値を有する透明性に優れた「樹脂成形品」が得られたことが示されている。
しかしながら、甲1発明1Aの「ポリカーボネート樹脂」は、「70重量部のポリカーボネート樹脂(A)と、30重量部の芳香族ポリカーボネート樹脂(B)と、金属換算(Na換算)で20重量ppmの化合物(C)とを配合し、二軸混練機(日本製鋼所社製、TEX-30α(L/D=52.5、L(mm):スクリュの長さ、D(mm):スクリュの直径))を用いて混練を行い、ポリカーボネート樹脂(A)と芳香族ポリカーボネート樹脂(B)との溶融反応」する工程、すなわち、「70重量部のポリカーボネート樹脂(A)」と「30重量部の芳香族ポリカーボネート樹脂(B)」の樹脂同士の「エステル交換触媒」の存在の下「溶融反応」して得たものである。
一方、甲第3号証には、「ポリカーボネート樹脂」」について、請求項2に「前記ポリカーボネート樹脂が、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する脂肪族カーボネート繰り返し単位(A)及び芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する芳香族カーボネート繰り返し単位(B)を含む、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物」と記載され、段落【0148】~【0153】の製造例をみると「イソソルビド」等の「脂肪族ジヒドロキシ化合物」と「ビスフェノールA」等の「芳香族ヒドロキシ化合物」とをエステル交換反応により直接「脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する脂肪族カーボネート繰り返し単位(A)及び芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する芳香族カーボネート繰り返し単位(B)を含む」「ポリカーボネート樹脂」を得るものであり、甲1発明1Aの「ポリカーボネート樹脂」と、甲第3号証に記載された「ポリカーボネート樹脂」とはその製造方法が異なるものである。
その製造方法の違いに関して、甲第1号証の段落【0002】~【0004】には、従来技術として以下の事項が記載されている。
「【0002】
ビスフェノールA等に由来する構造を含む従来の芳香族ポリカーボネート樹脂は、石油資源から誘導される原料を用いて製造されるが、近年、石油資源の枯渇が危惧されており、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたポリカーボネート樹脂の提供が求められている。・・・
【0003】
かかる状況下、バイオマス資源から得られるジヒドロキシ化合物であるイソソルビド(ISB)をモノマー成分とし、炭酸ジエステルとのエステル交換により、副生するモノヒドロキシ化合物を減圧下で留去しながら、ポリカーボネート樹脂を得る方法が提案されている・・・。
【0004】
ところが、ISBのようなジヒドロキシ化合物は、従来の芳香族ポリカーボネート樹脂に使用されているビスフェノール化合物類に比べると熱安定性が低く、高温下で行う重縮合反応や成形、加工の際に熱分解により樹脂が着色する問題があった。さらに、特許文献3~6に記載されているISBとビスフェノール化合物との共重合体は、高いガラス転移温度のポリマーが得られる反面、ISBの反応性とビスフェノール化合物の反応性の違いにより、ポリマーの末端がビスフェノール化合物となってしまい、さらに色調やISBの熱安定性を考慮して芳香族ポリカーボネート樹脂の重合温度より低い重合温度を選択すると、一種の末端封止になってしまい、充分に重合度が上がらず、耐衝撃性に乏しいポリマーとなることがある。・・・」
と記載されており、「イソソルビド(ISB)をモノマー成分とし、炭酸ジエステルとのエステル交換により」得た「ポリカーボネート樹脂」と、「従来の芳香族ポリカーボネート樹脂に使用されているビスフェノール化合物類」を用いて得た「ポリカーボネート樹脂」とは製造条件や成形条件の違いにより「樹脂」の「着色」に影響する問題があること、「ISBとビスフェノール化合物との共重合体」についても「色調」に影響があることが記載され、さらに、上記「1.取消理由1A-2(新規性)、1B-2(進歩性)、申立理由1-2(新規性)及び申立理由2-2(進歩性)について」「イ 判断」「(ア)相違点2-2-1、2-2-2、2-4-1及び2-4-2について」(b)において検討したとおり「ポリカーボネート系樹脂(A)」と「芳香族ポリカーボネート樹脂(B)」の配合比は「屈折率」や「アッベ数」に影響を与えることも示されているといえる。
そうすると、「ポリカーボネート樹脂」について、モノマー成分の違い、さらには、モノマー成分が同じであっても、配合比や製造方法条件等の違いによって「着色」や「色調」に影響があると解されるところ、甲1発明1Aの「ポリカーボネート樹脂組成物」に「ガラス繊維」を添加するとした場合にであっても、「ポリカーボネート樹脂」の製造方法・条件が異なる甲第3号証に記載の「ポリカーボネート樹脂」に添加する「波長486.1nmの光に対する屈折率が1.510以上1.55以下であり、波長589.3nmの光に対する屈折率が1.50以上1.55以下であり、波長656.3nmの光に対する屈折率が1.505以上1.540以下」である「ガラス繊維」を選択して添加することを直ちに動機付けることができるとまではいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明1A及び甲第3号証に記載された技術的事項からも容易に発明をすることができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえず、また、甲1発明1A及び甲第1~3号証に記載された技術的事項から容易に発明をすることができたとはいえない。
(3)本件発明2~5、7~8、10、12~15について
本件発明2~5、7~8、10、12~15は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、上記「(2)本件発明1について」「イ 判断」で示した理由と同じ理由により、本件発明2~5、7~8、10、13~15は甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、本件発明2~5、7~8、10、12~15は甲第1号証に記載された発明及び甲第1~3号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)取消理由1A-1(新規性)、1B-1(進歩性)、取消理由2(進歩性)、申立理由1-1(新規性)及び申立理由2-1(進歩性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由1A-1(新規性)、1B-1(進歩性)、取消理由2(進歩性)、申立理由1-1(新規性)及び申立理由2-1(進歩性)によって、本件発明1~5、7~8、10、12~15に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
特許第7008711号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-15〕について訂正することを認める。
特許第7008711号の請求項6、9、11に係る特許に対する申立てを却下する。
当審が通知した取消理由(決定の予告)および申立人がした申立理由によっては、請求項1-5、7-8、10、12-15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1-5、7-8、10、12-15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700685