特許異議申立
2023-700286
潤滑油組成物、及び含浸軸受
- 審判番号
- 2023-700286
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-110691
- 登録番号
- 7153476
- 請求日
- 2023年03月15日
- 審決日
- 2024年01月18日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】出光興産株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人大谷特許事務所
- 【権利者代理人】平澤 賢一
- 【権利者代理人】滝沢 喜夫
- 【権利者代理人】大谷 保
- 【異議申立人】竹口 美穂
- 審判長/審判官
- 審判長 関根 裕
- 審判官 塩見 篤史
- 審判官 瀬下 浩一
- 分類
- P1651.113-YAA(C10M) / P1651.121-YAA(C10M) / P1651.537-YAA(C10M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項、特許法第126条第6項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7153476号発明「潤滑油組成物、及び含浸軸受」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7153476号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。
特許第7153476号の請求項1~5、7~11に係る特許を維持する。
特許第7153476号の請求項6に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許第7153476号の請求項1~11に係る特許についての出願は、平成30年6月8日の出願であって、令和4年10月5日に特許権の設定登録がされ、同年同月14日に特許掲載公報が発行された。その後、令和5年3月15日に特許異議申立人である竹口 美穂(以下「申立人」という。)により、請求項1~11に係る特許について異議申立てがなされたものである。
2 その後の経緯は以下のとおりである。
令和5年 8月 2日付け 取消理由通知書
令和5年10月 2日 特許権者による意見書及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正の内容を「本件訂正」という。)
なお、令和5年10月10日付け通知書(訂正請求があった旨の通知)に対し、申立人からの応答はなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の請求の趣旨は「特許第7153476号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~11について訂正することを求める。」というものであり、その内容は、以下の訂正事項1~7を含むものである。なお、訂正箇所に下線を付す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「・・・前記潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度が4000mPa・s以下であり、含浸軸受に用いられる、潤滑油組成物。」とあるのを、「・・・前記潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度が4000mPa・s以下であり、
前記エステル系油(Al)を含む基油(A)の含有量は、前記潤滑油組成物の全量基準で、60質量%以上であり、
前記エステル系油(A1)を含む基油(A)は、二塩基酸エステル(A11)を含有し、該二塩基酸エステル(A11)の含有量が、基油(A)の全量基準で、95~100質最%であり、
前記二塩基酸エステル(A11)が、下記一般式(a-1)で表される化合物であり、
含浸軸受に用いられる、潤滑油組成物。
【式1】
[図:0001409104000001.jpg]
(式中、Rl及びR2は、それぞれ独立に、炭素数2~20のアルキル基であり、R3は、炭素数2~20のアルキレン基である。)」に訂正する(請求項1を直接または間接的に引用する請求項2~11も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7に「・・・請求項1~6のいずれか一項に記載の潤滑油組成物」とあるのを、「・・・請求項1~5のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8に「・・・請求項1~7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。」とあるのを、「・・・請求項1~5、7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9に「・・・請求項1~8のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。」とあるのを、「・・・請求項1~5、7~8のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10に「・・・請求項1~9のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。」とあるのを、「・・・請求項1~5、7~9のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1~10のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を・・・」とあるのを、「請求項1~5、7~10のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を・・・」に訂正する。
2 一群の請求項
本件訂正前の請求項1~11おいて、請求項2~11は請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1~11は一群の請求項である。そうすると、本件訂正は一群の請求項ごとにされた訂正である。
3 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
(ア) 訂正事項1のうち、「エステル系油(A1)を含む基油(A)」について、「前記エステル系油(Al)を含む基油(A)の含有量は、前記潤滑油組成物の全量基準で、60質量%以上であり、」とする訂正事項は、潤滑油組成物における基油(A)の含有量を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ) 訂正事項1のうち、「エステル系油(A1)を含む基油(A)」について、「前記エステル系油(A1)を含む基油(A)は、二塩基酸エステル(A11)を含有し、該二塩基酸エステル(A11)の含有量が、基油(A)の全量基準で、95~100質最%であり、」とする訂正事項は、基油(A)の組成を二塩基酸エステル(A11)を含有すると限定するとともに、二塩基酸エステルの含有量を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(ウ) 訂正事項1のうち、「エステル系油(A1)を含む基油(A)」について、「前記二塩基酸エステル(A11)が、下記一般式(a-1)で表される化合物であり、
【式1】
[図:0001409104000002.jpg]
(式中、Rl及びR2は、それぞれ独立に、炭素数2~20のアルキル基であり、R3は、炭素数2~20のアルキレン基である。)」とする訂正事項は、上記(イ)で限定された組成である二塩基酸エステルをさらに特定の化合物に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(エ) そうすると、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
(ア) 訂正事項1の「前記エステル系油(Al)を含む基油(A)の含有量は、前記潤滑油組成物の全量基準で、60質量%以上であり、」とする訂正事項は、本件特許の明細書(以下「本件明細書」ともいう。)の【0027】の「基油(A)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは60質量%以上」との記載から導き出される構成である。
(イ) 訂正事項1の「前記エステル系油(A1)を含む基油(A)は、二塩基酸エステル(A11)を含有し、該二塩基酸エステル(A11)の含有量が、基油(A)の全量基準で、95~100質最%であり、」とする訂正事項は、本件明細書の【0029】の「基油(A)が、二塩基酸エステル(A11)を含有することが好ましい」、「基油(A)中の二塩基酸エステル(A11)の含有量としては、基油(A)の全量(100質量%)基準で、・・・より更に好ましくは95~100質量%である」との記載から導き出される構成である。
(ウ) 訂正事項1の「前記二塩基酸エステル(A11)が、下記一般式(a-1)で表される化合物であり、
【式1】
[図:0001409104000003.jpg]
(式中、Rl及びR2は、それぞれ独立に、炭素数2~20のアルキル基であり、R3は、炭素数2~20のアルキレン基である。)」とする訂正事項は、本件明細書の【0030】、【0031】の「二塩基酸エステル(A11)としては、二塩基酸と第1級アルコールとのエステルが挙げられるが、・・・下記一般式(a-1)で表される化合物が好ましい。
[図:0001409104000004.jpg]
」、「前記一般式(a-1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、炭素数2~20・・・のアルキル基である。また、R3は、炭素数2~20・・・のアルキレン基である。」との記載から導き出される構成である。
(エ) してみると、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものといえる。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
(ア) 訂正事項1は、前記ア及びイで説明したとおり、請求項1の「エステル系油(A1)を含む基油(A)」について、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正をするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そうすると、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものといえる。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合したものである。
(3)訂正事項3~7
訂正事項3~7は、請求項7~11について、それらの請求項が引用する請求項のうち、前記訂正事項2に係る訂正により削除された請求項を除く訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、あるいは、削除された請求項を除いて記載の整合をとるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
さらに、訂正事項3のうち、請求項7の記載の文末に句点「。」を追加する訂正事項は、句点により文章の終わりを示し明瞭な記載とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項3~7は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しない。
したがって、訂正事項3~7は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、あるいは、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合したものである。
4 特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであること
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~11に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
5 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明等
1 本件訂正発明
本件訂正は前記第2のとおり認められたので、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~11に係る発明(以下「本件訂正発明1」~「本件訂正発明11」といい、まとめて「本件訂正発明」ともいう。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
エステル系油(A1)を含む基油(A)と、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b)を有する重合体(B)とを含有する潤滑油組成物であって、
前記重合体(B)が、前記構成単位(b)として、メチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b1)及び炭素数25以上の分岐鎖アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b2)を有し、
前記構成単位(b1)及び(b2)の合計含有量が、前記重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、95~100モル%であり、
前記重合体(B)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.1~10.0質量%であり、
前記潤滑油組成物の粘度指数が350以上であり、
前記潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度が4000mPa・s以下であり、
前記エステル系油(Al)を含む基油(A)の含有量は、前記潤滑油組成物の全量基準で、60質量%以上であり、
前記エステル系油(A1)を含む基油(A)は、二塩基酸エステル(A11)を含有し、
該二塩基酸エステル(A11)の含有量が、基油(A)の全量基準で、95~100質量%であり、
前記二塩基酸エステル(A11)が、下記一般式(a-1)で表される化合物であり、
含浸軸受に用いられる、
潤滑油組成物。
【化1】
[図:0001409104000005.jpg]
(式中、Rl及びR2は、それぞれ独立に、炭素数2~20のアルキル基であり、R3は、炭素数2~20のアルキレン基である。)
【請求項2】
前記重合体(B)の重量平均分子量(Mw)が、35万以上である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記重合体(B)の分子量分布(Mw/Mn)(Mw:重合体(B)の重量平均分子量、Mn:重合体(B)の数平均分子量)が、2.2以下である、請求項l又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記構成単位(b1)の含有量が、前記重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、70~99モル%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記構成単位(b2)の含有量が、前記重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、0.1~30モル%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
前記基油(A)中の鉱油の含有量が、前記基油(A)の全量基準で、5質量%未満である、請求項1~5のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記潤滑油組成物の流動点が、-40℃以下である、請求項1~5、7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が、10.0~15.0mm2/sである、請求項1~5、7~8のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
更に酸化防止剤、金属系清浄剤、分散剤、摩擦調整剤、耐摩耗剤、極圧剤、流動点降下剤、消泡剤、防錆剤、金属不活性化剤及び帯電防止剤から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1~5、7~9のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
請求項1~5、7~10のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を含浸された、含浸軸受。」
2 本件明細書の記載
本件明細書には、次の記載がある。
「【0007】
本発明は、低温領域から高温領域の広範な温度環境下での使用において優れた潤滑性を有し、低温時と高温時との温度変化が激しい環境下でも、優れた浸潤性を維持し得る、含浸軸受に好適に使用し得る潤滑油組成物、及び当該潤滑油組成物を含浸させた含浸軸受を提供することを目的とする。」
「【0012】
〔潤滑油組成物〕
本発明の潤滑油組成物は、エステル系油(A1)を含む基油(A)と、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b)を有する重合体(B)とを含有する潤滑油組成物である。
そして、本発明の潤滑油組成物は、含浸軸受に好適に使用し得るように、下記要件(I)及び(II)を満たすように調製されたものである。
・要件(I):前記潤滑油組成物の粘度指数が350以上である。
・要件(II):前記潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度が4000mPa・s以下である。
なお、本明細書において、BF粘度は、ASTM D2983に準拠して測定した値を意味する。
【0013】
一般的に、広範な温度環境下での使用に適した潤滑油組成物とする観点から、潤滑油組成物の高粘度指数化は行われている。ただし、一般的な高粘度指数化された潤滑油組成物であっても、その粘度指数は通常300程度であり、上記観点からは、その粘度指数で十分であった。
しかしながら、上述のとおり、低温時と高温時の温度差が大きく、温度変化が激しい環境下で使用される含浸軸受用の潤滑油組成物において、粘度指数を300程度と高粘度指数化したとしても、浸潤性が不十分となり、金属体の細孔から安定的に供給し難くなる場合があり、鳴きの発生頻度が高くなることが分かった。
【0014】
このような問題に対して、本発明の潤滑油組成物は、要件(I)で規定するとおり、粘度指数が350以上に調製しているため、粘性の温度依存性が非常に小さい。そのため、低温時と高温時との温度変化が激しい環境下でも、粘性の変化が小さいため、良好な浸潤性を維持することができる。その結果、本発明の潤滑油組成物は、含浸軸受に用いた場合に、鳴きの発生頻度を効果的に低下させることができる。
また、本発明の潤滑油組成物は、粘度指数が350以上に調製されたものであるため、低温領域から高温領域の広範な温度環境下での使用に際して、良好な潤滑性を発現することができる。
【0015】
本発明の潤滑油組成物の粘度指数は、要件(I)で規定するとおり、350以上であるが、上記観点から、好ましくは370以上、より好ましくは380以上、更に好ましくは390以上、より更に好ましくは400以上である。
【0016】
また、上記要件(II)は、寒冷地の使用を想定した-40℃程度の低温環境下での潤滑油組成物の流動性に着目した規定である。
-40℃程度の低温環境下では、潤滑油組成物の粘度が上昇し、流動性の悪化が問題となると共に、低温環境下での浸潤性も低下し、鳴きの発生頻度が高まる等の弊害が生じ得る。
このような問題に対して、本発明の潤滑油組成物は、要件(II)で規定するとおり、-40℃におけるBF粘度が4000mPa・s以下に調製することで、含浸軸受に用いた際の-40℃程度の低温環境下における浸潤性を良好とすることができる。
【0017】
本発明の潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度は、要件(II)で規定するとおり、4000mPa・s以下であるが、上記観点から、好ましくは3800mPa・s以下、より好ましくは3600mPa・s以下、更に好ましくは3500mPa・s以下、より更に好ましくは3400mPa・s以下であり、また、通常1000mPa・s以上である。」
「【0043】
本発明の潤滑油組成物に含まれる重合体(B)は、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b)を有するものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、アルキル(メタ)アクリレート以外の他のモノマーに由来する構成単位を有していてもよい。
ただし、本発明の一態様で用いる重合体(B)において、構成単位(b)の含有量としては、重合体の(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、好ましくは70~100モル%、より好ましくは80~100モル%、更に好ましくは90~100モル%、より更に好ましくは95~100モル%である。
【0044】
本発明の一態様において、要件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物に調製する観点から、重合体(B)が、メチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b1)を有する重合体であることが好ましい。
構成単位(b1)の含有量は、上記観点から、重合体の(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、好ましくは70~99モル%、より好ましくは75~97モル%、更に好ましくは80~95モル%、より更に好ましくは85~93モル%である。
【0045】
また、本発明の一態様において、要件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物に調製する観点から、重合体(B)が、炭素数25以上(好ましくは25~35、より好ましくは28~32)の分岐鎖アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b2)を有する重合体であることが好ましく、構成単位(b1)及び(b2)を共に有する共重合体であることがより好ましい。
重合体(B)が、分岐鎖アルキル基を有することで、低温環境下で重合体(B)の凝集が抑制され易く、潤滑油組成物の高粘度指数化にも寄与し得る。また、当該分岐鎖アルキル基の炭素数が25以上であることで、重合体(B)の含有量が比較的少量であっても、高粘度指数化された潤滑油組成物が得られ易くなるため、要件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物に調製し易くなる。
【0046】
構成単位(b2)の含有量は、上記観点から、重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、好ましくは0.1~30モル%、より好ましくは1~25モル%、更に好ましくは3~20モル%、より更に好ましくは5~17モル%である。
【0047】
構成単位(b1)及び(b2)の合計含有量は、上記観点から、重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、好ましくは70~100モル%、より好ましくは80~100モル%、更に好ましくは90~100モル%、より更に好ましくは95~100モル%である。」
「【0055】
実施例1~2、比較例1~4
表1に示す種類及び配合量の基油、重合体、及び各種添加剤を添加し、潤滑油組成物をそれぞれ調製した。なお、表1の記載において、重合体及び各種添加剤の配合量は、希釈油を除いた有効成分換算(樹脂分換算)での配合量である。
また、潤滑油組成物の調製に使用した、基油、重合体、及び各種添加剤の詳細は以下のとおりである。
【0056】
<基油>
・二塩基酸エステル:ドデカン二酸ビス(2-エチルヘキシル)、前記一般式(a-1)中のR1及びR2が2-エチルヘキシル基、R3がデシレン基(-(CH2)10-)である化合物。40℃動粘度=13.9mm2/s、100℃動粘度=3.71mm2/s、粘度指数=163。
【0057】
<重合体>
・PMA(1):メチルアクリレート/炭素数28~32の分岐鎖アルキル基を有するアルキルアクリレート=88/12(モル%)の含有量比となるように重合してなる重合体。Mw=59万、Mw/Mn=1.9。
・PMA(2):メチルアクリレート/炭素数28~32の分岐鎖アルキル基を有するアルキルアクリレート=90/10(モル%)の含有量比となるように重合してなる重合体。Mw=49万、Mw/Mn=1.8。
・PMA(3):メチルアクリレート/炭素数12~18の直鎖アルキル基を有するアルキルアクリレート=72/28(モル%)の含有量比となるように重合してなる重合体。Mw=31万、Mw/Mn=2.4。
・PMA(4):メチルアクリレート/炭素数16の直鎖アルキル基を有するアルキルアクリレート/炭素数24の分岐鎖アルキル基を有するアルキルアクリレート=67/22/11(モル%)の含有量比となるように重合してなる重合体。Mw=51万、Mw/Mn=3.2。
・PMA(5):メチルアクリレート/炭素数14~16の直鎖アルキル基を有するアルキルアクリレート=48/52(モル%)の含有量比となるように重合してなる重合体。Mw=40万、Mw/Mn=2.4。
・PMA(6):メチルアクリレート/炭素数24の分岐鎖アルキル基を有するアルキルアクリレート=87/13(モル%)の含有量比となるように重合してなる重合体。Mw=42万、Mw/Mn=2.3。
【0058】
<各種添加剤>
・酸化防止剤(1):アミン系酸化防止剤。
・酸化防止剤(2):フェノール系酸化防止剤。
・分散剤:ポリブテニルコハク酸イミド。
・極圧剤:硫黄・リン系極圧剤。
・金属不活性化剤:ベンゾトリアゾール
【0059】
調製した潤滑油組成物について、上述の方法に準拠して、40℃及び100℃における動粘度、粘度指数、-40℃におけるBF粘度、及び流動点について測定又は算出した。これらの結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
[図:0001409104000006.jpg]
【0061】
表1より、実施例1~2で調製した潤滑油組成物は、粘度指数が390以上と高粘度指数であると共に、-40℃におけるBF粘度が3390mPa・s以下と低い。そのため、これらの潤滑油組成物は、低温領域から高温領域の広範な温度環境下での使用において優れた潤滑性を有し、低温時と高温時との温度変化が激しい環境下でも、優れた浸潤性を維持し得ると考えられ、含浸軸受に好適に使用し得る。
【0062】
一方、比較例1~4で調製した潤滑油組成物は、粘度指数が350未満であるため、低温時と高温時との温度変化が激しい環境下で用いた場合に、浸潤性の低下に起因し、鳴きの発生頻度が高くなると推測される。
また、比較例1~3の潤滑油組成物は、上記の事項に加え、-40℃におけるBF粘度が高いため、低温環境下での流動性及び浸潤性に問題がある結果となった。そのため、これらの潤滑油組成物を含浸軸受に用いた場合に、低温環境下での使用時に、鳴きの発生頻度が高くなると推測される。」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由
1 取消理由の概要
当審が令和5年8月2日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
取消理由1:(進歩性)本件特許の下記の請求項1~11に係る発明は、本件出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 甲号証について
特許異議申立人は、次の甲第1号証~甲第5号証を提出した。甲第1号証~甲第5号証を、以下「甲1」~「甲5」ともいう。
甲第1号証:特開2018-48328号公報
甲第2号証:特開2007-46009号公報
甲第3号証:特許・実用新案審査基準第III部第2章第4節「特定の表現を有する請求項等についての取扱い」
甲第4号証:特許・実用新案審査基準第II部第2章第3節「明確性要件」
甲第5号証:本件特許出願の令和4年6月15日付け意見書
3 甲号証の記載について
(1) 甲1には、次の記載がある。
「【請求項1】
下記一般式(1)で表される単量体(a)とアルキル基の炭素数が1~4である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(b)とを必須構成単量体とする共重合体(A)、及びカルボン酸(α)とアルコール(β)とからなるエステル化合物(B)を含有する粘度指数向上剤組成物であって、下記関係式(1)で表されるエステル化合物(B)の立体障害ファクター(F)が31~78であり、共重合体(A)が構成単量体として(A)を構成する単量体の合計モル数に基づいて(b)を80~95モル%含有し、かつ共重合体(A)を構成する(a)と(b)のモル比(a/b)が0.01~0.1である共重合体である粘度指数向上剤組成物。
[図:0001409104000007.jpg]
[R1は水素原子又はメチル基;-X1-は-O-又は-NH-で表される基;R2Oは炭素数2~4の直鎖又は分岐アルキレンオキシ基であり、pが2以上の時、複数あるR2は、同一でも異なっていてもよい。pは0~20の整数;R3は炭素数32~44の分岐アルキル基である。]
立体障害ファクター(F)=4X+Y (1)
[数式(1)中、Xは、カルボン酸(α)とアルコール(β)からなるエステル化合物(B)中に存在するエステル結合1個につき、エステル結合のカルボニル炭素原子を1番目の原子とし、カルボニル炭素と単結合した酸素原子を2番目の原子としてアルコール(β)に由来する全ての原子に順番に番号を付与した際に、6番目に位置する全ての原子(原子の種類は問わない)の個数の合計とし、2個以上のエステル結合を有する場合は、これらの個数の合計とする。同様に、Yは、7番目に位置する全ての原子(原子の種類は問わない)の個数の合計とし、2個以上のエステル結合を有する場合は、これらの個数の合計とする。但し、6番目に位置する原子が全く存在しない場合はX=0、7番目に位置する原子が全く存在しない場合はY=0となる。]」
「【請求項7】
分散剤、清浄剤、酸化防止剤、油性向上剤、流動点降下剤、摩擦摩耗調整剤、極圧剤、消泡剤、抗乳化剤及び腐食防止剤からなる群から選ばれる1種以上の添加剤と、請求項1~6のいずれかに記載の粘度指数向上剤組成物とを含有してなる潤滑油組成物。」
「【0004】
本発明の目的は、粘度指数向上効果に優れる粘度指数向上剤及び低温粘度に優れる粘度指数向上剤組成物及び潤滑油組成物を提供することである。」
「【0008】
本発明の粘度指数向上剤組成物は、粘度指数が高く、低温時の粘度を上昇させにくいという効果を奏する。」
「【0059】
共重合体(A)のMwとMnの比(Mw/Mn)は、1.0~6.0であることが好ましく、より好ましくは1.2~5.0であり、更に好ましくは1.4~4.5であり、特に好ましくは1.6~4.0である。Mw/Mnが1.0未満や6.0を超える場合には、粘度温度特性が悪化すなわち省燃費性が悪化するおそれがある。」
「【0075】
本発明の粘度指数向上剤は潤滑油組成物の重量に基づいて10~30重量%含有しているものが好ましい。
本発明の潤滑油組成物は本発明の粘度指数向上剤及び基油を含有してなる。基油としては鉱物油(溶剤精製油、パラフィン油、ナフテン油等)、合成潤滑油(炭化水素系合成油、エステル系合成潤滑油等)及びこれらの混合物が挙げられる。これらのうち好ましいのは合成潤滑油である。また、本発明の潤滑油組成物は後述する各種添加剤を含有してもよい。
潤滑油組成物がエンジン油として使用される場合には、潤滑油組成物の重量に基づいて共重合体(A)を2~30重量%含有しているものが好ましい。
潤滑油組成物がギヤ油として使用される場合には、潤滑油組成物の重量に基づいて共重合体(A)を10~70重量%含有しているものが好ましい。
潤滑油組成物が自動変速機油(ATF及びbelt-CVTF等)として使用される場合には、潤滑油組成物の重量に基づいて共重合体(A)を10~70重量%含有しているものが好ましい。
潤滑油組成物がトラクション油として使用される場合には、潤滑油組成物の重量に基づいて共重合体(A)を0.5~20重量%含有しているものが好ましい。」
「【0092】
製造例1 粘度指数向上剤組成物(R-1)の製造 >
撹拌装置、加熱冷却装置、温度計及び窒素導入管を備えた反応容器に、単量体(a-1)[メタクリル酸2-テトラデシルオクタデシル(Sasol製ISOFOL32とメタクリル酸のエステル化物]18重量部(4.7モル)、単量体(b-1)64重量部(90モル)、単量体(c-3)18重量部(5.3モル)、エステル化合物(B-1)300重量部、及び1,1’-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.2重量部を投入し、窒素置換(気相酸素濃度100ppm)を行った。密閉下、撹拌しながら100℃に昇温し、同温度で4時間重合反応を行った。110℃に昇温後、3時間熟成を行い、120~130℃に昇温後、同温度で減圧下(0.027~0.040MPa)未反応の単量体を2時間かけて除去し、共重合体(A-1)を含有する粘度指数向上剤組成物(R-1)を得た。
【0093】
製造例2~12および比較製造例1~10
製造例1において、単量体とエステル化合物(B)を表1に記載した仕込み量で反応を行い、それぞれ共重合体(A-2)~(A-12)及び(A’-1)~(A’-10)を含有する粘度指数向上剤組成物(R-1)~(R-12)及び(R’-1)~(R’-10)を得た。
【0094】
【表1】
[図:0001409104000008.jpg]
【0095】
なお、表1に記載の単量体(a)~(g)の組成は、以下に記載した通りである。
【0096】
(a-1):メタクリル酸2-テトラデシルオクタデシル(Sasol製ISOFOL32とメタクリル酸のエステル化物) (炭素数32(アルキルエステル中のアルキル基の炭素数以下同じ))
(a-2):メタクリル酸2-テトラデシルイコシル (炭素数34)
(a-3):メタクリル酸2-ヘキサデシルイコシル (炭素数36)
(b-1):メタクリル酸メチル (炭素数1)
(b-2):メタクリル酸n-ブチル (炭素数4)
(c-1):メタクリル酸2-オクチルドデシル (炭素数20)
(c-2):メタクリル酸2-n-デシルテトラデシル (炭素数24)
(c-1):メタクリル酸2-ドデシルヘキサデシル (炭素数28)
(d-1):メタクリル酸n-ドデシル (炭素数12)
(d-2):メタクリル酸n-テトラデシル (炭素数14)
(d-3):メタクリル酸n-ヘキサデシル (炭素数16)
(d-4):メタクリル酸n-オクタデシル (炭素数18)
(e-1):N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート
(f-1):ヒドロキシエチルメタクリレート
(g-1):メタクリロイロキシエチルホスフェート
【0097】
また、使用したエステル化合物(B-1)~(B-3)、(B’-1)~(B’-2)は以下の通りである。
エステル化合物(B-1):ドデカン2酸ジ(2-エチルヘキシル)エステル(田岡化学工業製DODN、SP値8.92)
エステル化合物(B-2):アゼライン酸ジ(2-エチルヘキシル)エステル(田岡化学工業製、SP値8.88)
エステル化合物(B-3):セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)エステル(田岡化学工業製DOS、SP値8.87)
エステル化合物(B-4):セバシン酸ジ(2-メチルペンチル)エステル(SP値8.91)
エステル化合物(B-5):セバシン酸ジ(3-メチルブチル)エステル(SP値8.95)
エステル化合物(B’-1):セバシン酸ジイソデシルエステル(伊藤製油製DIDS、SP値8.85)
エステル化合物(B’-2):アジピン酸ジイソデシルエステル(大八化学工業性DIDA、SP値10.69)
エステル化合物(B’-3):セバシン酸ジ(1-エチル-2-エチルブチル)エステル(SP値8.76)
【0098】
得られた共重合体(A-1)~(A-12)、(A’-1)~(A’-10)の重量平均分子量(Mw)とSP値、使用したエステル化合物(B-1)~(B-5)、(B’-1)~(B’-3)のSP値を表1に記載した。
また、粘度指数向上剤組成物(R-1)~(R-12)及び(R’-1)~(R’-10)の低温貯蔵安定性を以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0099】
<粘度指数向上剤組成物中の共重合体(A)とエステル化合物(B)への相溶性評価>
粘度指数向上剤組成物(R1)~(R8)、(S1)~(S4)をエステル化合物(B)又は比較のエステル化合物の重量に対して20重量%添加して均一化し、室温で24時間貯蔵後の外観を目視で観察し、以下の評価基準で相溶性を評価した。
[評価基準]
○:外観が均一であり、共重合体(A)の不溶解物がない
×:外観が不均一であり、共重合体(A)の不溶解物が認められる
【0100】
実施例1 <潤滑油組成物(V-1)の製造と評価>
撹拌装置を備えたステンレス製容器に、 得られる潤滑油組成物の100℃動粘度が11.50±0.02(mm2/s)になるように、粘度指数向上剤組成物(R-1)17.8重量部と添加剤として分散剤5重量部、洗浄剤5重量部、酸化防止剤0.5重量部、摩耗調整剤2重量部、極圧剤1重量部、消泡剤0.1重量部、抗乳化剤1重量部、腐食防止剤0.5重量部を含む基油82.2重量部を混合し、潤滑油組成物(V-1)を得た。
【0101】
<実施例2~12および比較例1~10>
実施例1と同様にして、粘度指数向上剤組成物(R-1)~(R-12)及び(R’-1)~(R’-10)と添加剤入りの基油を表2に記載の部数で配合して、潤滑油組成物(V-2)~(V-12)および(V’-1)~(V’-10)を得た。
【表2】
[図:0001409104000009.jpg]
【0102】
潤滑油組成物(V-1)~(V-12)、(V’-1)~(V’-10)の100℃における動粘度、40℃における動粘度、粘度指数、-40℃での低温粘度を以下の方法で測定した。
なお、比較例2、3、6の潤滑油組成物はエステル化合物(B)に溶解しなかったため、評価できなかった。結果を表2に示す。
【0103】
<潤滑油組成物の粘度指数の計算方法>
ASTM D 445の方法で40℃と100℃の動粘度を測定し、ASTM D 2270の方法で計算した。
【0104】
<潤滑油組成物の低温粘度(-40℃)の測定方法>
ASTM D 2983の方法により、-40℃で測定した。
【0105】
表2の結果から明らかなように、本発明の粘度指数向上剤を含有してなる実施例1~12の潤滑油組成物は、粘度指数向上効果が高く、かつ低温粘度が低いという効果を共に満たすが、比較例1~10の潤滑油組成物は粘度指数向上効果が低かったり、低温粘度が高かったりして、全てを満足するものはない。」
(2) 甲2には、次の記載がある。
「【請求項1】
炭素数が9~12の二塩基酸と、側鎖を有する炭素数が8~13の一級アルコールとから構成されるエステルを基油として、
SP値(溶解度指数)が9.2以上、質量平均分子量が1×105~1×106である(メタ)アクリル酸アルキル重合体を組成物全量基準で0.5~10質量%含有し、
100℃粘度が9.3~11.5mm2/sであることを特徴とする潤滑油組成物。」
「【0002】
近年、自動車電装機器や、家電・OA事務機器向けの軸受として、金属粉末を焼結して成形したいわゆる含浸軸受が多く用いられている。含浸軸受は、耐久性や剛性に優れ、また、従来の玉軸受に比べ、生産コストも低く抑えられる利点がある。
このような含浸軸受は、金属粉の混合、成形、焼結、サイジング等の各工程を経て、用途、性能に応じた潤滑油を含浸装置にて真空含油して製造される。含浸する潤滑油としては、従来から、鉱物油系、ポリαオレフィン(PAO)、アルキル化ジフェニルエーテル、脂肪酸エステル、フッ素化油、シリコーン油などが知られている。これらの基油に、酸化防止剤、防錆剤、摩耗防止剤などの様々な添加剤を配合したものが使用されている。
【0003】
含浸軸受用潤滑油への要求性能としては、適切な粘度特性、潤滑性、長期安定性、耐揮発性、材料適合性(金属、樹脂など)などに優れることが挙げられる。
一方、近年の技術は、ますます高度化、高速化、小型軽量化しており、使用条件もより厳しくなっている。例えば、最近の自動車では、電動モータが多く使用されるようになっており、モータの軸受として含浸軸受が採用される例が増えている。その場合、自動車用の電動モータは、北欧・北米等のような寒冷地では、-40℃で駆動することが要求されるとともに、エンジンルーム内では、雰囲気温度が高くなるため、120℃での耐久性(粘度変化のないこと、蒸発減量が少ないこと)も求められている。すなわち、低温領域から高温領域まで安定して使用できる含浸軸受及びその含浸軸受用の潤滑油が求められている。」
「【0007】
そこで、本発明の目的は、特に含浸軸受用として、低温領域から高温領域まで優れた性能を維持できる潤滑油組成物、およびその潤滑油組成物を用いた含浸軸受を提供することにある。」
「【0016】
また、本発明の組成物においては、基油に添加される粘度指数向上剤として、SP値(溶解度指数)が9.2以上、質量平均分子量が1×105~1×106、好ましくは、2×105~5×105である(メタ)アクリル酸アルキル重合体が用いられる。
SP値が9.2未満であると、粘度指数向上効果が劣る。SP値は、好ましくは9.3以上である。ちなみに、基油が鉱油であると、SP値が9.2以上の高分子(重合体、ポリマー)は溶解しないが、本発明で用いられる基油は上述のような特定のエステルであり、
高SP値の(メタ)アクリル酸アルキル重合体に対する溶解性に優れる。
この(メタ)アクリル酸アルキル重合体は、質量平均分子量が1×105未満であると、粘度指数向上効果が低い。また、質量平均分子量が1×106を超えると、組成物が高粘度となり取り扱いにくくなる。
ここで、(メタ)アクリル酸アルキル重合体としては、モノマー単位がアクリル酸アルキル、あるいは、メタクリル酸アルキルであればよく、例えば、アクリル酸アルキルーメタクリル酸アルキル共重合体のような共重合体も含まれる。
【0017】
上述の粘度指数向上剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。粘度指数向上剤の含有量は、組成物全量基準で0.5~10質量%、好ましくは、1~5質量%である。この含有量が0.5質量%未満では、粘度指数向上効果が低く、また、含有量が10質量%を超えても、粘度指数向上効果はそれほど向上せず、むしろ組成物の粘度自体が高くなりすぎ、潤滑性を阻害する。」
「【0056】
(2)結果
実施例1~4の潤滑油組成物は、いずれも本発明の構成要件を満たしており、粘度(BF粘度 -40℃、40℃粘度、100℃粘度)および粘度指数からわかるように、低温領域から高温領域まで粘度変化が少なく、また150℃における蒸発減量も少ないため含浸軸受用潤滑油としての性能に極めて優れている。
一方、比較例1では、100℃粘度が高く、潤滑特性に劣る。比較例2では、基油として用いたエステルが二塩基酸と一級アルコールとから構成されておらず、粘度指数も低いため、低温における組成物の粘度(BF粘度 -40℃)が高く、例えば、含浸軸受用潤滑油として用いたときに、低温時における回転軸の駆動力が高くなる。比較例3では、粘度指数向上剤として用いたポリマー3はポリアクリルメタクリレートであるが、そのSP値が低く、粘度指数も低いため、低温における組成物の粘度(BF粘度 -40℃)が高く、比較例2と同様の不具合がある。また、蒸発減量も比較的多い。比較例4も比較例3と同様に粘度指数向上剤として用いたポリマー3を用いており、同様の不具合がある。また、蒸発減量が非常に多く、含浸軸受用潤滑油として用いた場合に耐久性に問題がある。比較例5では、粘度指数向上剤として汎用されているオレフィンコポリマーを用いているが、粘度指数向上効果が低く、低温時における粘度がやや高すぎる。」
第5 当審の判断
1 取消理由1について
(1) 甲1号証に記載された発明
ア 甲1(上記第4の3(1)参照。)の請求項1には、「単量体(a)とアルキル基の炭素数が1~4である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(b)とを必須構成単量体とする共重合体(A)、及びカルボン酸(α)とアルコール(β)とからなるエステル化合物(B)を含有する粘度指数向上剤組成物」が記載されており、同請求項を引用する請求項7には、「分散剤、清浄剤、酸化防止剤、油性向上剤、流動点降下剤、摩擦摩耗調整剤、極圧剤、消泡剤、抗乳化剤及び腐食防止剤からなる群から選ばれる1種以上の添加剤と、請求項1に記載の粘度指数向上剤組成物とを含有してなる潤滑油組成物。」が記載されている。してみれば、甲1には、「単量体(a)とアルキル基の炭素数が1~4である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(b)とを必須構成単量体とする共重合体(A)、及びカルボン酸(α)とアルコール(β)とからなるエステル化合物(B)を含有する粘度指数向上剤組成物と、分散剤、清浄剤、酸化防止剤、油性向上剤、流動点降下剤、摩擦摩耗調整剤、極圧剤、消泡剤、抗乳化剤及び腐食防止剤からなる群から選ばれる1種以上の添加剤とを含有してなる潤滑油組成物。」が記載されているといえる。
イ 甲1の【0092】~【0099】には、上記アの粘度指数向上剤組成物の実施例2、3、12について、単量体(a)として「(a-1):メタクリル酸2-テトラデシルオクタデシル」、「(a-2):メタクリル酸2-テトラデシルイコシル」、または、「(a-3):メタクリル酸2-ヘキサデシルイコシル」、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(b)として「(b-1):メタクリル酸メチル」、他の単量体(c)として「(c-2)メタクリル酸2-n-デシルテトラデシル」を含有し、エステル化合物(B)として実施例2、3では「(B-1):ドデカン2酸ジ(2-エチルヘキシル)エステル」、実施例12では「(B-5):セバシン酸ジ(3-メチルブチル)エステル」を含有した組成物が記載されている。
そして、実施例2、3、12における粘度指数向上剤組成物の共重合体(A)の単量体の仕込み量はそれぞれ、実施例2では(a-3)30重量部、(b-1)70重量部、実施例3では(a-1)20重量部、(b-1)65重量部、(c-2)15重量部、実施例12では(a-2)20重量部、(b-1)66重量部、(c-2)14重量部、であり、これらの単量体からなる共重合体(A)に100重量部に対して、エステル化合物(B)を300重量部含有することが記載されている。
また、実施例2、3、12における粘度指数向上剤組成物の共重合体(A)の重量平均分子量Mwがそれぞれ、5.6×105、5.5×105、5.0×105であることが記載されている。
ウ 甲1の【0100】~【0105】には、上記イの実施例2、3、12の粘度指数向上剤組成物と、添加剤として分散剤、洗浄剤、酸化防止剤、磨耗調整剤、極圧剤、消泡剤、抗乳化剤、腐食防止剤を含む基油を混合した潤滑油組成物が記載されており、各実施例の潤滑油組成物中の粘度指数向上剤及び添加剤を含む基油の配合割合がそれぞれ19.5重量%及び80.5重量%、18.0重量%及び82.0重量%、19.7重量%及び80.3重量%であること、各実施例の潤滑油組成物の100℃動粘度(mm2/s)がそれぞれ11.5、11.5、11.5であり、粘度指数がそれぞれ420、395、380であり、低温粘度(mPa・s)がそれぞれ2900、3200、3400であることが記載されている。
エ すると、甲1には次の発明(以下「甲1A発明」、「甲1B発明」、「甲1C発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲1A発明)
「単量体(a-3)メタクリル酸2-ヘキサデシルイコシル30重量部、(b-1)メタクリル酸メチル70重量部を仕込み量とする共重合体(A)、及び(B-1)ドデカン2酸ジ(2-エチルヘキシル)エステルからなるエステル化合物(B)を含有する粘度指数向上剤組成物と、添加剤として分散剤、洗浄剤、酸化防止剤、磨耗調整剤、極圧剤、消泡剤、抗乳化剤、腐食防止剤を含む基油を混合した潤滑油組成物であって、前記粘度指数向上剤組成物の共重合体(A)の重量平均分子量Mwが5.6×105であり、共重合体(A)100重量部に対してエステル化合物(B)を300重量部含有しており、前記潤滑油組成物中の前記粘度指数向上剤、及び、各種添加剤を含む基油の配合割合がそれぞれ19.5重量%、及び、80.5重量%であり、前記潤滑油組成物の100℃動粘度が11.5mm2/s、粘度指数が420、低温粘度が2900mPa・sである潤滑油組成物」
(甲1B発明)
「単量体(a-1)メタクリル酸2-テトラデシルオクタデシル20重量部、(b-1)メタクリル酸メチル65重量部、(c-2)メタクリル酸2-n-デシルテトラデシル15重量部を仕込み量とする共重合体(A)、及び(B-1)ドデカン2酸ジ(2-エチルヘキシル)エステルからなるエステル化合物(B)を含有する粘度指数向上剤組成物と、添加剤として分散剤、洗浄剤、酸化防止剤、磨耗調整剤、極圧剤、消泡剤、抗乳化剤、腐食防止剤を含む基油を混合した潤滑油組成物であって、前記粘度指数向上剤組成物の共重合体(A)の重量平均分子量Mwが5.5×105であり、共重合体(A)100重量部に対してエステル化合物(B)を300重量部含有しており、前記潤滑油組成物中の前記粘度指数向上剤、及び、各種添加剤を含む基油の配合割合がそれぞれ、18.0重量%、及び、82.0重量%であり、前記潤滑油組成物の100℃動粘度が11.5mm2/s、粘度指数が395、低温粘度が3200mPa・sである潤滑油組成物」
(甲1C発明)
「単量体(a-2)メタクリル酸2-テトラデシルイコシル20重量部、(b-1)メタクリル酸メチル66重量部、(c-2)メタクリル酸2-n-デシルテトラデシル14重量部を仕込み量とする共重合体(A)、及び(B-5)セバシン酸ジ(3-メチルブチル)エステルからなるエステル化合物(B)を含有する粘度指数向上剤組成物と、添加剤として分散剤、洗浄剤、酸化防止剤、磨耗調整剤、極圧剤、消泡剤、抗乳化剤、腐食防止剤を含む基油を混合した潤滑油組成物であって、前記粘度指数向上剤組成物の共重合体(A)の重量平均分子量Mwが5.0×105であり、共重合体(A)100重量部に対してエステル化合物(B)を300重量部含有しており、前記潤滑油組成物中の前記粘度指数向上剤、及び、各種添加剤を含む基油の配合割合がそれぞれ、19.7重量%、及び、80.3重量%であり、前記潤滑油組成物の100℃動粘度が11.5mm2/s、粘度指数が380、低温粘度が3400mPa・sである潤滑油組成物」
(2) 対比・判断
ア 本件訂正発明1
(ア) 本件訂正発明1と甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明を対比すると、甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明の「共重合体(A)」、「(b-1)メタクリル酸メチル」、「基油」はそれぞれ、本件訂正発明1の「重合体(B)」、「メチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b1)」、「基油(A)」に相当する。また、甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明の「エステル化合物(B)」は二塩基酸エステルであり、本件明細書の段落【0029】の「エステル系油(A1)としては、二塩基酸エステルが好ましい」との記載から、本件発明1のエステル系油(A1)と同じ成分であり、基油としても機能するといえる。よって、甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明の「エステル化合物(B)」は本件訂正発明1の「エステル系油(A1)」、及び、「エステル系油(A1)を含む基油(A)」に相当しているといえる。
(イ) 甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明の単量体(a)である「(a-3)メタクリル酸2-ヘキサデシルイコシル」、「(a-1)メタクリル酸2-テトラデシルオクタデシル」、「(a-2)メタクリル酸2-テトラデシルイコシル」はそれぞれ、炭素数36、32、34の分岐鎖アルキル基を有するものであることから、本件訂正発明1の「炭素数25以上の分岐鎖アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b2)」に相当する。
(ウ) 甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明の共重合体(A)を構成する単量体について、各単量体の分子量がそれぞれ(a-1)534、(a-2)562、(a-3)590、(b-1)100、(c-2)422であり、それぞれ共重合体(A)の構成単位の全量(100モル%)基準で換算すると、X=(各単量体の仕込み量(重量部)/各単量体の分子量)を共重合体を構成する各単量体のXの総和Yで除した数(X/Y)となるので、甲1A発明の共重合体(A)では「(a-3)6.77モル%、(b-1)93.23モル%」、甲1B発明の共重合体(A)では「(a-1)5.18モル%、(b-1)89.90モル%、(c-2)4.92モル%」、甲1C発明の共重合体(A)では「(a-2)4.88モル%、(b-1)90.56モル%、(c-2)4.55モル%」である。すると、甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明の(a-1)、(a-2)、(a-3)及び(b-1)の合計含有量が、共重合体(A)の構成単位の全量(100モル%)基準で、それぞれ100モル%、95.08モル%、95.44モル%となり、本件訂正発明1の「構成単位(b1)及び(b2)の合計含有量が、前記重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、95~100モル%」に相当する。
(エ) 甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明の潤滑油組成物中の重合体(B)の配合割合について、潤滑油組成物の全量基準では、「潤滑油組成物中の粘度指数向上組成物の配合割合」×「共重合体(A)の仕込み量」/(「共重合体(A)の仕込み量」+「エステル化合物(B)の仕込み量」)となることから、それぞれ換算すると4.9重量%、4.5重量%、4.9重量%となり、本件訂正発明1の「重合体(B)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.1~10.0質量%」に相当する。
(オ) 甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明の「粘度指数」について、甲1の【0103】には、「ASTM D 445の方法で40℃と100℃の動粘度を測定し、ASTM D 2270の方法で計算した」と記載されており、これは、本件訂正発明1の「粘度指数」の算出方法である「JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出」(本願明細書【0054】参照)と同様の手法であることから、本件訂正発明1の「粘度指数」に相当し、甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明のそれぞれの粘度指数420、395、380は、本件訂正発明1の粘度指数が350以上を充足する。
(カ) 甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明の「低温粘度」について、甲1の【0104】には、「ASTM D 2983の方法により、-40℃で測定した」と記載されており、これは、本件訂正発明1の「-40℃におけるBF粘度の算出方法」である「ASTM D2983に準拠して測定」(本願明細書【0054】参照)と同様の手法であることから、本件訂正発明1の「-40℃におけるBF粘度の算出方法」に相当し、甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明のそれぞれの低温粘度2900mPa・s、3200mPa・s、3400mPa・sは、本件訂正発明1のBF粘度4000mPa・s以下を充足する。
(キ) 甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明の「(B-1)ドデカン2酸ジ(2-エチルヘキシル)エステル」及び「(B-5)セバシン酸ジ(3-メチルブチル)エステル」はともに、本件訂正発明1の「二塩基酸エステル(A11)」及び本件訂正発明1の「一般式(a-1)で表される化合物」に相当する。
(ク) してみると、本件訂正発明1と甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「エステル系油(A1)を含む基油(A)と、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b)を有する重合体(B)とを含有する潤滑油組成物であって、前記重合体(B)が、前記構成単位(b)として、メチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b1)及び炭素数25以上の分岐鎖アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b2)を有し、前記構成単位(b1)及び(b2)の合計含有量が、前記重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、95~100モル%であり、前記重合体(B)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.1~10.0質量%であり、前記潤滑油組成物の粘度指数が350以上であり、前記潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度が4000mPa・s以下であり、
前記エステル系油(A1)を含む基油(A)は、二塩基酸エステル(A11)を含有し、
前記二塩基酸エステル(A11)が、下記一般式(a-1)で表される化合物である、潤滑油組成物。
【化1】
[図:0001409104000010.jpg]
(式中、Rl及びR2は、それぞれ独立に、炭素数2~20のアルキル基であり、R3は、炭素数2~20のアルキレン基である。)」
<相違点1>
本件訂正発明1では、エステル系油(Al)を含む基油(A)の含有量は、前記潤滑油組成物の全量基準で、60質量%以上であるのに対し、甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明では潤滑油組成物全量に対するエステル化合物(B)、及び、各種添加剤を含む基油の含有割合が特定されているが、各種添加剤を除く基油とエステル化合物(B)の合計含有割合が特定されていない点
<相違点2>
本件訂正発明1では、二塩基酸エステル(A11)の含有量が、基油(A)の全量基準で、95~100質量%であるのに対し、甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明では粘度指数向上剤の仕込み量全量に対する「(B-1)ドデカン2酸ジ(2-エチルヘキシル)エステル」又は「(B-5)セバシン酸ジ(3-メチルブチル)エステル」の配合割合が特定されているが、基油全量に対する含有割合は特定されていない点
<相違点3>
本件訂正発明1では、潤滑油組成物が「含浸軸受に用いられる」のに対し、甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明では、用途について特定されていない点
(ケ) 事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明について、潤滑油組成物中のエステル化合物(B)の配合割合について、潤滑油組成物の全量基準では、「潤滑油組成物中の粘度指数向上組成物の配合割合」×「エステル化合物(B)の仕込み量」/(「共重合体(A)の仕込み量」+「エステル化合物(B)の仕込み量」)となることから、それぞれ換算すると14.625重量%、13.5重量%、14.775重量%となる。また、甲1の段落【0101】には、実施例2~12について「実施例1と同様にして、・・・添加剤入りの基油を表2に記載の部数で配合」することが記載され、同段落【0100】には、実施例1の添加剤入り基油について「添加剤として分散剤5重量部、洗浄剤5重量部、酸化防止剤0.5重量部、摩耗調整剤2重量部、極圧剤1重量部、消泡剤0.1重量部、抗乳化剤1重量部、腐食防止剤0.5重量部を含む基油82.2重量部を混合」することが記載されていることから、甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明における各種添加剤を含む基油においても、実施例1と同種同程度の量の添加剤を含んでいるとした場合、甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明における各種添加剤を除く基油の配合割合は、実施例1の添加剤の全量である15.1重量部を差し引いた値である、65.4重量%、66.9重量%、65.2重量%となる。してみると、甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明における、基油成分に相当する基油及びエステル化合物の合計量に対するエステル化合物の含有量の割合はそれぞれ、18.3重量%、16.8重量%、18.5重量%となるため、相違点2にかかる本件訂正発明1の基油(A)全量基準での二塩基酸エステル(A11)の含有量の割合である95~100質量%から大きく下回るものとなる。
そして、甲1の段落【0075】には「本発明の粘度指数向上剤は潤滑油組成物の重量に基づいて10~30重量%含有しているものが好ましい」ことが記載されている。ここで、甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明の「(B-1)ドデカン2酸ジ(2-エチルヘキシル)エステル」及び「(B-5)セバシン酸ジ(3-メチルブチル)エステル」はいずれも粘度指数向上剤を構成成分のうちのエステル化合物(B)として配合されている。してみると、甲1には、粘度指数向上剤のうちのエステル化合物(B)としての「(B-1)ドデカン2酸ジ(2-エチルヘキシル)エステル」及び「(B-5)セバシン酸ジ(3-メチルブチル)エステル」を基油に対して95~100質量%となるようにその含有量を大幅に増やすことについて記載も示唆もない。
また、甲1の段落【0075】には「基油としては鉱物油(溶剤精製油、パラフィン油、ナフテン油等)、合成潤滑油(炭化水素系合成油、エステル系合成潤滑油等)及びこれらの混合物が挙げられる。これらのうち好ましいのは合成潤滑油である。」ことが記載され、甲2の【請求項1】には「炭素数が9~12の二塩基酸と、側鎖を有する炭素数が8~13の一級アルコールから構成されるエステルを基油」とすることが記載されていることから、仮に甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明における基油として甲2に記載された「炭素数が9~12の二塩基酸と、側鎖を有する炭素数が8~13の一級アルコールから構成されるエステル」を基油として用いた場合、相違点2にかかる本件訂正発明1の基油(A)全量基準での二塩基酸エステル(A11)の含有量割合である95~100質量%を充足しうるといえるが、同時に「炭素数が9~12の二塩基酸と、側鎖を有する炭素数が8~13の一級アルコールから構成されるエステル」は粘度指数向上剤としても機能することから、甲1の段落【0075】に記載された粘度指数向上剤の好ましい数値範囲を大幅に超えるものとなることから、阻害要因があるといえる。さらに、粘度指数向上剤が多くなると組成物自体の粘度自体が高くなることが知られており(例えば、甲2の段落【0017】参照。)、本件訂正発明1の-40℃におけるBF粘度が4000mPa・s以下の範囲外となる可能性も高くなるといえる。
したがって、相違点2は当業者であっても容易に想到しうることということはできず、相違点1、3を検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1A発明、甲1B発明、又は、甲1C発明、並びに、甲1~2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができないから、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであるとはいえない。
イ 本件訂正発明2~5、7~11
本件訂正発明2~5、7~11は、いずれも、本件訂正発明1を直接または間接的に引用し、さらに限定した発明であるところ、前記アのとおり、本件訂正発明1は、甲1A発明、甲1B発明、又は、甲1C発明、並びに、甲1~2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められないものである。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件訂正発明2~5、7~11も、本件訂正発明1と同様の理由により、甲1A発明、甲1B発明、又は、甲1C発明、並びに、甲1~2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由
申立人の主張のうち、取消理由通知において採用しなかった異議申立理由は以下のとおりである。
申立理由2:(新規性)本件訂正発明1~5、7~10は、本件出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由3:(サポート要件)本件訂正発明1~5、7~11は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるため、本件訂正発明1~5、7~11に係る特許は、特許法第36条第6項第1項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由4:(明確性)本件訂正発明1~5、7~11における「分岐鎖アルキル基の炭素数」、「潤滑油組成物の粘度指数」、「潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度」、「重合体(B)の重量平均分子量(Mw)」、「重合体(B)の分子量分布(Mw/Mn)」、「基油(A)中の鉱油の含有量」、「潤滑油組成物の流動点」について上限または下限だけを示すような数値範囲限定がある結果、発明の範囲が不明確であり、本件訂正発明1~5、7~11に係る特許は、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
(1) 申立理由2(新規性)について
ア 甲1号証について
上記第4 3(1)のとおり。
イ 甲1に記載された発明
上記第5 1(1)のとおり。
ウ 対比・判断
(ア) 本件訂正発明1
上記第5 1(2)のとおり、本件訂正発明1と甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明は<相違点1>、<相違点2>、<相違点3>で相違し、少なくとも<相違点2>は実質的な相違点である。
申立人は、異議申立書の(4-2-4-1)において、「甲3号証・・・」と審査基準の記載を摘記するとともに、「本件特許発明1は、用途発明に該当しないので、用途を限定する構成要件1I(当審注:「要件1I」は異議申立書(4-1)に記載された「1I:含浸軸受に用いられる、潤滑油組成物」を指す)は発明を特定するための意味を有しないものとして認定される。甲1号証の実施例に記載されている潤滑油組成物は、本件発明1の構成要件1I以外のすべての構成要件1A~1Hを満たすことから、本件特許発明1は甲1号証に記載された発明に対して新規性を有しない。」と主張している。この点について、構成要件1Iは相違点3に係る要件であるところ、上記のとおり、少なくとも<相違点2>は実質的な相違点であることから、相違点3の点を検討するまでもなく、本件訂正発明1は甲1に記載された発明ではない。よって、申立人の主張は採用できない。
したがって、本件訂正発明1は甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し特許を受けることができないものであるとはいえない。
(イ) 本件訂正発明2~5、7~10
本件訂正発明2~5、7~10は、いずれも、本件訂正発明1を直接または間接的に引用し、さらに限定した発明であるところ、前記(ア)のとおり、本件訂正発明1は甲1に記載された発明ではないから、さらに検討するまでもなく、本件訂正発明2~5、7~10も、甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し特許を受けることができないものであるとはいえない。
(ウ) したがって、本件訂正発明1~5、7~11に係る特許を上記申立理由2(新規性)によって取り消すべきものとすることはできない。
(2) 申立理由3(サポート要件)について
ア 申立人の主張
申立人は、異議申立書の(4-4)において、「本件特許発明1の構成要件1Eとして、「前記構成単位(b-1)及び(b-2)の合計含有量が、前記重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、95~100モル%であり、」と規定されているが、本件特許明細書には、本件特許発明1に含まれる実施例として、構成単位(b-1)及び(b-2)の合計含有量が、前記重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で100%となる実施例しか記載されていない。」こと、
及び、本件特許の審査過程で提出された意見書(甲5号証)における、
「以上のことから、本願発明1のように、特定の基油とともに、構成単位(b1)及び構成単位(b2)を含有し、構成単位(b1)及び(b2)の合計含有量が、重合体(B)の構成単位の全量基準で、95~100モル%である重合体(B)を使用する潤滑油組成物は、引用文献1に記載の発明から容易に想到することはできないものと思料いたします。」
「以上のように、本願発明1の重合体(B)において、構成単位(b2)の炭素数25以上、及び構成単位(b1)及び(b2)の合計含有量の下限値である95モル%以上は臨界的な意義を有していることが分かります。」
の記載から、
「特許権者は構成要件1Eで規定する下限値である「95モル%以上」という値に臨界的意義があることを主張しているが、」「95モル%以上、100モル%未満の場合に発明の効果が発揮されるかについては示されていない。また、重合体(B)に構成単位(b-1)及び(b-2)以外の成分が含まれる場合にも同様の効果が発揮させるかは不明である。従って、本件特許発明1は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えており、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。」と主張している。
イ 当審の判断
本件訂正発明の課題は、「低温領域から高温領域の広範な温度環境下での使用において優れた潤滑性を有し、低温時と高温時との温度変化が激しい環境下でも、優れた浸潤性を維持し得る、含浸軸受に好適に使用し得る潤滑油組成物、及び当該潤滑油組成物を含浸させた含浸軸受を提供することを目的とする。」(本件明細書の段落【0007】)
本件明細書の段落【0012】~【0017】には、「本発明の潤滑油組成物は、含浸軸受に好適に使用し得るように、」「要件(I):前記潤滑油組成物の粘度指数が350以上である。」及び「要件(II):前記潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度が4000mPa・s以下である。」「を満たすように調製されたものである。」ことが記載され、要件(I)について、「本発明の潤滑油組成物は、要件(I)で規定するとおり、粘度指数が350以上に調製しているため、粘性の温度依存性が非常に小さい。そのため、低温時と高温時との温度変化が激しい環境下でも、粘性の変化が小さいため、良好な浸潤性を維持することができる。その結果、本発明の潤滑油組成物は、含浸軸受に用いた場合に、鳴きの発生頻度を効果的に低下させることができる。」及び「低温領域から高温領域の広範な温度環境下での使用に際して、良好な潤滑性を発現することができる。」ことが記載され、要件(II)について、「-40℃程度の低温環境下では、潤滑油組成物の粘度が上昇し、流動性の悪化が問題となると共に、低温環境下での浸潤性も低下し、鳴きの発生頻度が高まる等の弊害が生じ得る。」「このような問題に対して、本発明の潤滑油組成物は、要件(II)で規定するとおり、-40℃におけるBF粘度が4000mPa・s以下に調製することで、含浸軸受に用いた際の-40℃程度の低温環境下における浸潤性を良好とすることができる。」ことが記載されている。すると、本件訂正発明の課題を解決する潤滑油組成物は、要件(I)及び要件(II)を満たすものであることが理解できる。
また、本件明細書の段落【0044】、段落【0045】にはそれぞれ、要件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物に調製する観点から、重合体(B)の構成単位の全量に対する構成単位(b1)、(b2)の含有量の好ましい範囲が示され、同段落【0047】には、「構成単位(b1)及び(b2)の合計含有量は、上記観点から、重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で、好ましくは70~100モル%、・・・より更に好ましくは95~100モル%である。」ことが記載されている。すると、重合体(B)について、構成単位(b)として構成単位(b1)及び(b2)を有し、構成単位(b1)及び(b2)の合計含有量が、重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で95~100モル%であることにより、要件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物に調製しうることが読み取れる。
そして、本件明細書の段落【0055】~【0062】には、要件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物の実施例が複数記載されており、いずれも「低温領域から高温領域の広範な温度環境下での使用において優れた潤滑性を有し、低温時と高温時との温度変化が激しい環境下でも、優れた浸潤性を維持し得ると考えられ、含浸軸受に好適に使用し得る。」ことから本件訂正発明の課題を解決しうることが読み取れる。
してみれば、重合体(B)について、構成単位(b)として構成単位(b1)及び(b2)を有し、構成単位(b1)及び(b2)の合計含有量が、重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で95~100モル%であり、要件(I)及び要件(II)を満たす潤滑油組成物は、本件訂正発明の課題を解決しうるものといえる。
また、(b-1)及び(b-2)以外の成分が含まれる場合についても、本件明細書の段落【0043】には、「本発明の潤滑油組成物に含まれる重合体(B)は、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b)を有するものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、アルキル(メタ)アクリレート以外の他のモノマーに由来する構成単位を有していてもよい。」と記載されており、重合体(B)に構成単位(b-1)及び(b-2)以外の成分が含まれる場合にも同様の効果が発揮させうるものと理解できる。
申立人は、特許権者による意見書での主張をもとに、「95モル%以上、100モル%未満の場合に発明の効果が発揮されるかについては示されていない」と主張するが、上記のとおり、重合体(B)について、構成単位(b)として構成単位(b1)及び(b2)を有し、構成単位(b1)及び(b2)の合計含有量が、重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で95~100モル%であることにより、要件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物に調製しうることが理解できることから、構成単位(b1)及び(b2)の合計含有量が、重合体(B)の構成単位の全量(100モル%)基準で95%以上100モル%未満の場合についても、前記合計含有量が100モル%である実施例の潤滑油組成物と同様の効果を発揮するものと理解できる。
また、(b-1)及び(b-2)以外の成分が含まれる場合についても、本件明細書の段落【0043】には、「本発明の潤滑油組成物に含まれる重合体(B)は、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b)を有するものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、アルキル(メタ)アクリレート以外の他のモノマーに由来する構成単位を有していてもよい。」と記載されており、重合体(B)に構成単位(b-1)及び(b-2)以外の成分が含まれる場合にも同様の効果が発揮させうるものと理解できる。
また、申立人の主張は、いずれも、要するに、本件訂正発明1には重合体(B)の構成単位として実施例に示された構成単位の組成及び含有割合以外の態様が含まれていることを主張するだけであり、当該態様が課題を解決することができないものであることに関する主張・立証は含まれていない。
よって、申立人の主張は採用できない。
ウ したがって、本件訂正発明1及び本件訂正発明1を直接又は間接的に引用する本件訂正発明2~5、7~11に係る特許を上記申立理由3(サポート要件)によって取り消すべきものとすることはできない。
(3) 申立理由4(明確性)について
ア 申立人の主張
申立人は、異議申立書の(4-3)において、「甲第4号証として添付した審査基準第II部第2章第3節「明確性要件」の「2.2明確性要件違反の類型」の(5)範囲を曖昧にし得る表現がある結果、発明の範囲が不明確となる場合のbには、「上限又は下限だけを示すような数値範囲限定 (「~以上」、「~以下」等)がある結果、発明の範囲が不明確となる場合」が明確性違反の類型として記載されている。」ことを示すとともに、「分岐鎖アルキル基の炭素数」、「潤滑油組成物の粘度指数」、「潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度」、「重合体(B)の重量平均分子量(Mw)」、「重合体(B)の分子量分布(Mw/Mn)」、「基油(A)中の鉱油の含有量」、「潤滑油組成物の流動点」の規定が数値限定の上限値又は下限値のみが規定されているので、これらの規定を含む各請求項に記載された発明は明確ではない。と主張している。
イ 当審の判断
申立人が異議申立書において審査基準の明確性要件違反の類型として引用した「(5)範囲を曖昧にし得る表現がある結果、発明の範囲が不明確となる場合」には、「審査官は、範囲を曖昧にし得る表現があるからといって、発明の範囲が直ちに不明確であると判断するのではなく、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮してその表現を含む発明特定事項の範囲を当業者が理解できるか否かを検討する。」とされている。
以下、異議申立書において発明の範囲を不明確とするものとして指摘している規定についてそれぞれ検討する。
本件訂正発明1に係る「炭素数25以上の分岐鎖アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(b2)」について、分岐鎖アルキル基の炭素数が25からどれほど大きなものであっても分岐鎖アルキル基の構成を不明確にするものではなく当該規定の数値範囲にすべて包含されることは明確であり、発明の範囲を不明確にするものとはいえない。
本件訂正発明1に係る「潤滑油組成物の粘度指数が350以上」について、粘度指数が350からどれほど大きな値であっても粘度指数を測定しうる潤滑組成物は当該規定の数値範囲にすべて包含されることは明確であり、発明の範囲を不明確にするものではない。
本件訂正発明1に係る「潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度が4000mPa・s以下」について、BF粘度が4000mPa・sからどれほど小さい値であってもBF粘度を測定しうる潤滑油組成物は当該規定の数値範囲にすべて包含されることは明確であり、発明の範囲を不明確にするものではない。
本件訂正発明2に係る「重合体(B)の重量平均分子量(Mw)が、35万以上」について、重量平均分子量(Mw)が35万からどれほど大きな値であっても重量平均分子量(Mw)を測定しうる潤滑組成物は当該規定の数値範囲にすべて包含されることは明確であり、発明の範囲を不明確にするものではない。
本件訂正発明3に係る「重合体(B)の分子量分布(Mw/Mn)が2.2以下」について、下限値が明記されていないものの、下限値が単一分子である場合の「1」であることは明確であり、発明の範囲を不明確にするものではない。
本件訂正発明7に係る「基油(A)中の鉱油の含有量が、前記基油(A)の全量基準で、5質量%未満」について、下限値が明記されていないものの、下限値が鉱油を含まない「0質量%」であることは明確であり、発明の範囲を不明確にするものではない。
本件訂正発明8に係る「潤滑油組成物の流動点が、-40℃以下」について、流動点が-40℃からどれほど小さい値であっても流動点を測定しうる潤滑油組成物は当該規定の数値範囲にすべて包含されることは明確であり、発明の範囲を不明確にするものではない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ したがって、本件訂正発明1~3、7、8及び本件訂正発明1~3、7、8を直接又は間接的に引用する本件訂正発明4、5、9~11に係る特許に係る特許を上記申立理由4(明確性)によって取り消すべきものとすることはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、本件訂正後の請求項1~5、7~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他にこれらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項6は、本件訂正により削除され、当該請求項に係る特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700286