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特許異議申立

2023-701287

防錆油組成物及びその製造方法

審判番号
2023-701287
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-509975
登録番号
7286621
請求日
2023年12月05日
審決日
2024年02月29日
公報発行日
2024年04月26日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】出光興産株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人大谷特許事務所
  • 【異議申立人】福井 豊明
審判長/審判官
  • 審判長 井上 猛
  • 審判官 粟野 正明
  • 審判官 山口 大志
分類
P1651.113-Y (C23F) / P1651.121-Y (C23F) / P1651.537-Y (C23F)
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特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号
データ出所
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特許第7286621号発明「防錆油組成物及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7286621号の請求項1~14に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件の特許第7286621号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願(特願2020-509975号。以下、「本願」という。)は、2019年(平成31年) 3月22日(優先権主張:平成30年 3月28日)を国際出願日とする出願であって、令和 5年 5月26日にその特許権の設定登録がされ、同年 6月 5日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 5年12月 5日に、その請求項1~14(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である福井 豊明(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の特許請求の範囲の請求項1~14に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の請求項1~14に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明14」といい、総称して「本件特許発明」という。また、以下において、本願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。 「【請求項1】 (A)引火点が40℃以上80℃以下の溶剤と、 (B)引火点が170℃以上300℃以下であって、40℃動粘度が15mm2/s以上60mm2/s以下である基油と、 (C)防錆剤と、 を含有し、40℃動粘度が1.0mm2/s以上2.2mm2/s以下である、防錆油組成物。 【請求項2】 前記(A)成分の引火点が、40℃以上70℃以下である、請求項1に記載の防錆油組成物。 【請求項3】 前記(A)成分が、イソパラフィン及び軽油からなる群から選択される1種以上である、請求項1又は2に記載の防錆油組成物。 【請求項4】 前記(A)成分の含有量が、防錆油組成物全量基準で、70質量%以上95質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の防錆油組成物。 【請求項5】 前記(B)成分の引火点が、200℃以上300℃以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の防錆油組成物。 【請求項6】 前記(B)成分の40℃動粘度が、20mm2/s以上60mm2/s以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の防錆油組成物。 【請求項7】 前記(B)成分が、鉱油である、請求項1~6のいずれか1項に記載の防錆油組成物。 【請求項8】 前記(B)成分の含有量が、防錆油組成物全量基準で、0.5質量%以上10質量%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の防錆油組成物。 【請求項9】 前記(C)成分が、金属スルホネートである、請求項1~8のいずれか1項に記載の防錆油組成物。 【請求項10】 前記(C)成分の含有量が、防錆油組成物全量基準で、1質量%以上20質量%以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載の防錆油組成物。 【請求項11】 40℃動粘度が1.2mm2/s以上2.2mm2/s以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の防錆油組成物。 【請求項12】 更に、(D)酸化防止剤を含有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の防錆油組成物。 【請求項13】 前記(D)酸化防止剤の含有量が、防錆油組成物全量基準で、0.1質量%以上3質量%以下である、請求項12に記載の防錆油組成物。 【請求項14】 請求項1~13のいずれか1項に記載の防錆油組成物を製造する方法であって、 (A)引火点が40℃以上80℃以下の溶剤と、 (B)引火点が170℃以上300℃以下であって、40℃動粘度が15mm2/s以上60mm2/s以下である基油と、 (C)防錆剤と、を混合する、防錆油組成物の製造方法。」 第3 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として下記4の甲第1号証~甲第3号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 1 申立理由1(新規性) 本件特許発明1~14は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立理由2(進歩性) (1)申立理由2-1 本件特許発明1~14は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2-2 本件特許発明1~14は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 3 申立理由3(サポート要件) 本件特許の発明の詳細な説明には、請求項1の如く広範に規定された(A)成分の「溶剤」全ての範囲について、発明の課題が解決できると当業者が認識できるようには記載されておらず、上記(A)成分について、出願時の技術常識に照らしても、請求項1~14に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~14の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 4 証拠方法 甲1:特開2007-270323号公報 甲2:特開平9-183992号公報 甲3:「カーク・オスマー化学大辞典」、昭和63年9月20日発行、丸善株式会社、第1406頁「溶剤」の項 第4 当審の判断 以下に述べるとおり、当審は、上記第3の1~3のいずれの申立理由によっても、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 1 申立理由1(新規性)、申立理由2-1(進歩性)について (1)甲1の記載事項、及び甲1に記載された発明 ア 甲1の記載事項 本願の優先日前に公知となった甲1には、「さび止め油組成物」(発明の名称)に関して、以下の記載がある(なお、下線は当審が付したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。 (ア)「【請求項1】 15℃における密度が0.7~0.8g/cm3であり、n-パラフィン分が20~90%、芳香族分が0~3%、ナフテン分が0~20%である炭化水素油を含有するさび止め油組成物。」 (イ)「【0001】 本発明はさび止め油に関するものであり、より詳しくは、鋼板、軸受等の金属製部材に用いる場合に有用なさび止め油に関するものである。」 (ウ)「【0006】 本発明は上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、有機材料に対する適合性が十分に高く、取り扱い性に優れており、且つ金属製部材におけるさびの発生を十分に防止することが可能なさび止め油を提供することを目的とする。」 (エ)「【課題を解決するための手段】 【0007】 15℃における密度が0.7~0.8g/cm3であり、n-パラフィン分が10~90%、芳香族分が0~3%、ナフテン分が0~20%である炭化水素油を含有するさび止め油組成物が提供される。 【発明の効果】 【0008】 さび止め油組成物として樹脂相性を向上することが可能である。」 (オ)「【0009】 本発明のさび止め油組成物は、15℃における密度が0.7~0.8g/cm3であり、n-パラフィン分が10~90%、芳香族分が0~3%、ナフテン分が0~20%である炭化水素油(以下本発明の炭化水素油という)を含有するものである。 本発明の炭化水素油の15℃における密度(g/cm3)は、0.70~0.80、好ましくは0.72~0.79、さらに好ましくは0.73~0.785である。密度がこれより低いと有機樹脂材料との相性が劣る。一方、この範囲を越えて高いと油剤の除去性が劣るために好ましくない。なお、本発明における密度とは、JISK2249に準拠して測定される値を意味する。 本発明の炭化水素油のn-パラフィン分含有量(質量%)は、10-90%、好ましくは20-80%、さらに好ましくは30-70%である。これより少ないと有機樹脂材料との相性が劣り、多いと、添加剤の溶解性が劣りいずれも好ましくない。 なお、ここでいうn-パラフィン分は、GC-FIDを用いて測定される値(希釈油全量基準)を意味する。なお、本発明においては、カラムにはメチルシリコンのキャピラリーカラム(ULTRAALLOY-1)、キャリアガスにはヘリウムを、検出器には水素イオン検出器(FID)を用い、カラム長30m、キャリアガス流量1.0mL/min、分割比1:79、試料注入温度360℃、カラム昇温条件140℃→(8℃/min)→355℃、検出器温度360℃の条件で、n-パラフィン含有標準試料を用いて同定、定量されたn-パラフィン分(希釈油全量基準)を示すが、同等の結果が得られるのであれば、この測定条件に限定されない。 ・・・ 【0011】 本発明の炭化水素油の動粘度(mm2/s)は、特に限定されないが、好ましくは0.5‐9、さらに好ましくは1.0‐5.5、より好ましくは1.2‐5.0である。動粘度がこれより低いと防錆性が劣る可能性があり、一方、この範囲を越えて高いと油剤の除去性が劣る可能性がある。なお、本発明における動粘度とは、JISK2283に準拠して測定される値を意味する。 本発明の炭化水素油の引火点(℃)は、特に限定されないが、好ましくは50‐200、より好ましくは55‐150、さらに好ましくは58‐140である。引火点が低いと火災の危険性が高まる可能性があり、高いと除去性が劣る可能性がある。なお、本発明における引火点とは、JISK2265の規定に従いタグ密閉式又はペンスキーマルテンス密閉式引火点試験法により測定される値を意味する。・・・」 (カ)「【0037】 本発明は上記炭化水素油を溶剤基油として含有するものであるが、これ以外に鉱油、合成油および油脂のいずれでも併用することができ、その種類に制限はないが、併用するには、鉱油または合成油が特に好ましい。・・・」 (キ)「【0065】 本発明のさび止め油組成物は、スルホン酸塩、カルボン酸塩、エステル、ザルコシン型化合物、アミン、ホウ素化合物などのさび止め添加剤を更に含有してもよい。 【0066】 スルホン酸塩の好ましい例としては、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩及びスルホン酸アミン塩が挙げられる。スルホン酸塩はいずれも人体や生態系に対して十分に高い安全性を有するものであり、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはアミンとスルホン酸とを反応させることにより得ることができる。 【0067】 スルホン酸塩を構成するアルカリ金属及びアルカリ土類金属としては、それぞれ酸化ワックスのアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の説明において例示されたアルカリ金属及びアルカリ土類金属が挙げられ、中でもナトリウム、カリウム、カルシウムが好ましい。」 (ク)「【0131】 また、本発明のさび止め油組成物の40℃における動粘度は特に制限されないが、好ましくは1mm2/s以上、より好ましくは2mm2/s以上、更に好ましくは2.5mm2/s以上、一層好ましくは3mm2/s以上、特に好ましくは3.5mm2/s以上である。さび止め油組成物の40℃における動粘度が前記下限値未満の場合、塗膜の油膜切れが起こりやすくなり、さび止め性が不十分となる傾向にある。また、本発明のさび止め油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは50mm2/s以下、より好ましくは40mm2/s以下、更に好ましくは30mm2/s以下である。さび止め油組成物の40℃における動粘度が前記上限値を超えると、作業性が低下する傾向にある。 【0132】 なお、本発明のさび止め組成物の粘性が高い場合であっても、加熱によりその動粘度を所定値以下(好ましくは50mm2/s以下)とした後で被処理体に塗布することによって、当該組成物を被処理体に容易に且つ確実に塗布することができる。しかしながら、さび止め油組成物の40℃における動粘度が1000mm2/sを超える場合、低粘度化するためにはより高温での加熱が必要となるため、さび止め油の劣化が促進されてその性能が損なわれてしまう。そのため、本発明のさび止め油組成物の40℃における動粘度は1000mm2/s以下であることが好ましい。 【0133】 上記構成を有する本発明のさび止め油組成物は、さび止め性、脱脂性及び貯蔵安定性の全てを高水準でバランスよく達成できるものであり、様々な金属製部材のさび止め油として好適に用いることができる。被処理体である金属製部材は特に制限されず、具体的には、自動車ボディや電気製品ボディとなる冷延鋼板、熱延鋼板、高張力後半、亜鉛めっき鋼板などの表面処理鋼板、ブリキ用原板、アルミニウム合金板、マグネシウム合金板などの金属製板材、更には転がり軸受、テーパー転がり軸受、ニードル軸受等の軸受部品、建築用鋼材、精密部品等が挙げられる。」 (ケ)「【実施例】 【0141】 [実施例、比較例] 以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。 実施例、比較例においては、表1の基油を用いて、表2記載の配合割合でさび止め油組成物を調製した。各さび止め油組成物の調製に用いた成分は、以下の通りである。 (1)使用する基油の製法 (FT合成油の水素化精製油、ワックス水素化分解油、及び基油1、2、6、7) 1) 天然ガスを原料とするFT合成炭化水素油(沸点150℃以上の炭化水素の含有量:82質量%、沸点360℃以上の炭化水素の含有量:41質量%)を蒸留塔で、沸点150℃以下の軽質留分と、沸点150~360℃の中間留分と、塔底残渣重質ワックス分(FTワックス:沸点360℃以上の留分に相当)とに分離した。 2) 1)で分離された中間留分は、水素化精製触媒(Pt:担体に対し0.8質量%、USYゼオライト/シリカアルミナ/アルミナバインダー:重量比3/57/40)、水素気流下、反応温度:311℃、水素圧力:3.0MPa、LHSV:2.0h-1、水素/油比:340NL/Lで水素化精製処理を行った。 3) 2)で得られた水素化精製油を蒸留により150~250℃留分(灯油留分1)及び250~360℃留分(軽油留分1)に分留した。 4) 1)で得られたFTワックスは、水素化分解触媒(Pt:担体に対し0.8質量%、USYゼオライト/シリカアルミナ/アルミナバインダー:重量比3/57/40)を用い、水素気流下、反応温度:326℃、水素圧力:4.0MPa、LHSV:2.0h-1、水素/油比:680NL/Lで水素化分解を行った。 5) 4)で得られた水素化分解油を蒸留により150~250℃留分(灯油留分2)及び250~360℃留分(軽油留分2)に分留した。 6) 3)及び5)で得られた軽油留分1及び2を51:49(質量比)で混合し、希基油1を得た。基油1の性状を表1に示す。 7) 3)及び5)で得られた灯油留分1及び2を63:37(質量比)で混合し、基油2を得た。基油2の性状を表1に示す。 8) 3)及び5)で得られた軽油留分1及び2を57:43(質量比)で混合し、希基油6を得た。基油6の性状を表1に示す。 9) 3)及び5)で得られた灯油留分1及び2を49:51(質量比)で混合し、基油7を得た。基油7の性状を表1に示す。 (基油3~5) 1) 基油3は一般的な水素化精製鉱油を用いた。基油3の性状を表1に示す。 2) 基油4は一般的な水素化精製鉱油を用いた。基油4の性状を表1に示す。 3) 基油5は一般的な水素化精製鉱油を用いた。基油5の性状を表1に示す。 【0142】 【表1】 [図:0001409169000001.jpg] 【0143】 実施例及び比較例においては、それぞれ表1に示す基油及び以下に示す添加剤を用いて、表2に示す組成を有するさび止め油組成物を調製した。 【0144】 さび止め油に配合した表2記載の添加剤は以下のとおりである。 (添加剤) A1:アルキルベンゼンカルシウムスルホネート A2:酸化ワックスのカルシウム塩 A3:多価アルコールのエステル B1:ジ-tert-ブチル-p-クレゾール 【0145】 樹脂相性試験 樹脂との相性を以下の方法により試験した。 試験方法:300mlの試料油中に評価する樹脂(50mm×50mm×5mm)を完全に浸漬する。その後、25±3℃で30日間保持し、体積変化率を測定する。 評価方法:体積変化率が10%未満を○、10%以上を×として評価する。 評価対象樹脂の種類:ポリエチレン樹脂、NBRゴム 試験: そのほか、湿潤試験 JIS K2246 準拠および塩水噴霧試験 JIS K2246 準拠を行った。 結果はいずれも表2に示す。 【0146】 【表2】 [図:0001409169000002.jpg] 」 イ 甲1に記載された発明 上記アに摘記した事項を総合勘案し、特に、【表2】に「実施例2」として記載された「さび止め油組成物」に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。 「引火点60℃、40℃における動粘度1.245mm2/sの基油2を59.5質量%、 引火点210℃、40℃における動粘度22.0mm2/sの基油4を10質量%、 引火点312℃、40℃における動粘度480mm2/sの基油5を10質量%、 アルキルベンゼンカルシウムスルホネートである添加剤A1を10質量%、 酸化ワックスのカルシウム塩である添加剤A2を5質量%、 多価アルコールのエステルである添加剤A3を5質量%、 及びジ-tert-ブチル-p-クレゾールである添加剤B1を0.5質量%、 含有するさび止め油組成物。」(以下、「甲1発明」という。) (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1の請求項1、【0009】、【0037】の記載からすると、甲1発明の「基油2」は、「本発明の炭化水素油」であり、溶剤基油として含有されるものといえる。 したがって、甲1発明の「引火点60℃、40℃における動粘度1.245mm2/sの基油2」は、本件特許発明1の「(A)引火点が40℃以上80℃以下の溶剤」に相当する。 (イ)甲1発明の「引火点210℃、40℃における動粘度22.0mm2/sの基油4」は、本件特許発明1の「(B)引火点が170℃以上300℃以下であって、40℃動粘度が15mm2/s以上60mm2/s以下である基油」に相当する。 (ウ)甲1発明の「アルキルベンゼンカルシウムスルホネートである添加剤A1」は、本件明細書の【0022】において防錆剤として例示される「アルキルベンゼンスルホネート」の一種であるから、本件特許発明1の「(C)防錆剤」に相当する。 (エ)甲1発明の「さび止め油組成物」は、本件特許発明1の「防錆油組成物」に相当する。 (オ)そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、 「(A)引火点が40℃以上80℃以下の溶剤と、 (B)引火点が170℃以上300℃以下であって、40℃動粘度が15mm2/s以上60mm2/s以下である基油と、 (C)防錆剤と、 を含有する、防錆油組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1> 本件特許発明1の「防錆油組成物」は、その40℃動粘度が「1.0mm2/s以上2.2mm2/s以下である」のに対して、甲1発明の「さび止め油組成物」は、その40℃動粘度の値が不明である点。 イ 相違点についての判断 (ア)甲1発明に係る「さび止め油組成物」は、「40℃における動粘度1.245mm2/sの基油2」を59.5質量%、「40℃における動粘度22.0mm2/sの基油4」を10質量%、及び「40℃における動粘度480mm2/sの基油5」を10質量%含有するものであるが、それ以外に、40℃における動粘度が不明な添加剤A1、A2、A3、B1を合計20.5質量%含有するものであるから、全体として、どの程度の「40℃における動粘度」を呈するかは不明と言わざるを得ない。 (イ)また、上記(1)ア(キ)に摘記したとおり、甲1の【0131】には、「本発明のさび止め油組成物の40℃における動粘度は特に制限されないが、好ましくは1mm2/s以上、より好ましくは2mm2/s以上、更に好ましくは2.5mm2/s以上、一層好ましくは3mm2/s以上、特に好ましくは3.5mm2/s以上である。さび止め油組成物の40℃における動粘度が前記下限値未満の場合、塗膜の油膜切れが起こりやすくなり、さび止め性が不十分となる傾向にある。また、本発明のさび止め油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは50mm2/s以下、より好ましくは40mm2/s以下、更に好ましくは30mm2/s以下である。さび止め油組成物の40℃における動粘度が前記上限値を超えると、作業性が低下する傾向にある。」との記載はあるものの、この記載及び本願の優先日当時の技術常識を考慮しても、甲1発明に係る「さび止め油組成物」の40℃における動粘度の値は不明と言わざるを得ない。 (ウ)したがって、上記相違点1は、実質的な相違点である。 (エ)次に上記相違点1の容易想到性について検討する。 a 上記(イ)のとおり、甲1の【0131】には、甲1発明に係る「さび止め油組成物」の「40℃における動粘度」は特に制限されないものの、その好ましい範囲として、「1mm2/s以上」「50mm2/s以下」の範囲が記載され、特に好ましい範囲又は更に好ましい範囲として、「3.5mm2/s以上」「30mm2/s以下」の範囲が記載されている。 b しかしながら、甲1の【0131】の記載を参照しても、さび止め油組成物の「40℃における動粘度」の値を「1.0mm2/s以上2.2mm2/s以下」の範囲に包含される範囲とすることが明示的に示唆されているわけではないから、甲1発明に係る「さび止め油組成物」の「40℃における動粘度」の値を「1.0mm2/s以上2.2mm2/s以下」の範囲とする動機付けがあるとはいえない。 c また、仮に、甲1発明に係る「さび止め油組成物」の「40℃における動粘度」の値を「1.0mm2/s以上2.2mm2/s以下」の範囲とする動機付けがあるといえるとしても、上記相違点1に係る特定事項を備えた本件特許発明1によって奏される「優れた防錆油膜の薄膜性と防錆性を両立」するとの効果(本件明細書の【0008】、【0054】参照)は、「さび止め油組成物の40℃における動粘度が前記下限値未満の場合、塗膜の油膜切れが起こりやすくなり、さび止め性が不十分となる傾向にある。・・・さび止め油組成物の40℃における動粘度が前記上限値を超えると、作業性が低下する傾向にある。」(上記(イ)参照)との認識に留まる甲1の記載からは、当業者であっても予測し得ない顕著なものと認められる。 (オ)したがって、本件特許発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 小括 よって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (3)本件特許発明2~14について 本件特許発明2~14は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて備えたものであるから、上記(2)ウのとおり、本件特許発明1が、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、同様に、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)申立理由1、申立理由2-1についてのまとめ したがって、本件特許発明1~14は、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、また、同法第29条第2項に規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、申立理由1、申立理由2-1によっては、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由2-2(進歩性)について (1)甲2の記載事項、及び甲2に記載された発明 ア 甲2の記載事項 本願の優先日前に公知となった甲2には、「塑性加工用洗浄防錆油組成物」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。 (ア)「【請求項1】 組成物全量基準で、 (A)25℃での蒸気圧が5.0×10-6~1.0×10-3MPaの炭化水素系溶剤70質量%超~90質量%、 (B)硫黄含有量5~20質量%の硫化エステル5~25質量%、並びに (C)グリセリンと炭素数10~22の脂肪酸の部分エステル1~10質量%、 (D)スルフォン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアミン塩から選ばれる少なくとも1種の化合物1~15質量%、を必須成分として配合してなり、かつ40℃における動粘度が2~6mm2/sである塑性加工用洗浄防錆油組成物。」 (イ)「【0006】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、特に深絞り性の比較的低い鋼板、表面処理鋼板、アルミニウム合金板等の難加工性材料の塑性加工において、極めて良好な加工性、洗浄性、防錆性および極圧性を兼ね備えた塑性加工用洗浄防錆油組成物を提供することを目的とする。」 (ウ)「【0011】(A)成分の炭化水素系溶剤としては、上記の蒸気圧の規定以外には特に限定されるものではなく、通常の炭化水素系溶剤として使用されている鉱油系および/または合成系炭化水素溶剤が使用できる。鉱油系溶剤としては、具体的には例えば、原油を常圧蒸留または減圧蒸留して得られた溶剤留分を、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を適宜組み合わせて精製した、パラフィン系、ナフテン系、アロマティック系等の溶剤留分およびこれらの混合物等が使用できる。 【0012】また、合成系炭化水素溶剤としては、例えば、パラフィン系、ナフテン系、アロマティック系、オレフィン系合成炭化水素溶剤が使用できる。ここでいうパラフィン系合成炭化水素溶剤としては、具体的には例えば、プロピレン、ブテンおよびイソブチレン等のオレフィンを単独で、またはその混合物を重合して得られる低分子量オリゴマーを、さらにその中に含まれる二重結合を水素化して製造される、いわゆる合成イソパラフィン等が挙げられる。」 (エ)「【0026】本発明における(D)成分として、スルフォン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアミン塩から選ばれる少なくとも1種の化合物である。アルカリ金属としては具体的にはナトリウムやカリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属としては具体的には、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。 ・・・ 【0030】本発明の塑性加工用洗浄防錆油組成物にける(D)成分の下限値は、組成物全量基準で1質量%、好ましくは2質量%であり、一方、配合量の上限値は、組成物全量基準で15質量%、好ましくは10質量%、より好ましくは8質量%である。(D)成分の配合量が組成物全量基準で1質量%未満の場合は防錆性が低下し、一方、配合量が15質量%を超える場合は粘度が高くなり洗浄性を低下させる恐れがあるため、それぞれ好ましくない。」 (オ)「【0031】本発明の塑性加工用洗浄防錆油組成物は、上記(A)~(D)成分を必須成分として配合してなるものであり、さらに組成物の40℃における動粘度が1.5~6mm2/sであることが必要である。40℃における動粘度の下限値は1.5mm2/s、好ましくは2mm2/sである。また、40℃における動粘度の上限値は6mm2/s、好ましくは5mm2/sであるが、6mm2/sを超える場合は、洗浄性が劣るため好ましくない。 【0032】また、本発明の塑性加工用洗浄防錆油組成物において、防錆性の効果を高めるために、上記粘度範囲を超えない程度に、(E)成分として40℃での動粘度が5~2000mm2/sの精製鉱油および/または合成油を配合することも可能である。 【0033】この精製鉱油および/または合成油は、40℃における動粘度が5~2000mm2/s、好ましくは10~1000mm2/sのものであるが、その種類は特に限定されるものではなく、通常潤滑油の基油として使用される精製鉱油や合成油が使用できる。」 (カ)「【0044】 【実施例】以下、本発明の内容を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの内容に何ら限定されるものではない。 実施例1~4および比較例1~6 表1に示す組成により、本発明に係る塑性加工用洗浄防錆油組成物を調製した(実施例1~4)。 【0045】また比較のため、表1に示す組成に従い、(A)成分の含有量が低い場合(比較例1)、(B)成分を用いない場合(比較例2)、(B)成分の含有量が低い場合(比較例3)、(C)成分を用いない場合(比較例4)、(D)成分を用いない場合(比較例5)、(C)成分であるグリセリンモノステアレートの代わりにソルビタンジエステルを用いた場合(比較例6)についても組成物を調製した。 【0046】なお、使用した各成分は以下のとおりである。 (A)成分 A1:鉱油系のナフテン系炭化水素系溶剤(蒸気圧3.0×10-4MPa(@25℃)) A2:イソブチレンオリゴーマの水素添加物からなる合成イソパラフィン(蒸気圧3.0×10-5MPa(@25℃)) (B)成分 B1:硫化豚脂(硫黄含有量13質量%) B2:硫化ラノリン油脂(硫黄含有量10質量%) (C)成分 C1:グリセリンモノステアレート (D)成分 D1:石油スルフォン酸の中性バリウム塩(全塩基価(過塩素酸法)0mgKOH/g) (E)成分 E1:パラフィン系溶剤精製鉱油(動粘度25mm2/s(@40℃)) (F)成分F1:酸化パラフィンバリウム塩(ケン化価65mgKOH/g、全酸価4.0mg/KOH、バリウム含有量4.0質量%) (G)成分 G1:ラノリン脂肪酸ペンタエリスリトールエステル(ケン化価100mgKOH/g、全酸価5mgKOH/g) (H)成分(その他の成分) H1:ソルビタンモノオレート 【0047】実施例1~4および比較例1~6の組成物について40℃における動粘度を測定すると共に、以下に示す試験により性能評価を行い、その結果を表1に併記した。 ・・・ 【0050】 【表1】 [図:0001409169000003.jpg] 【0051】表1の性能評価試験の結果に示すとおり、本発明に係る実施例1~4の塑性加工用洗浄防錆油組成物は、加工性、極圧性、防錆性および洗浄性に優れるという、極めて良好な性能を兼ね備えている。それに対して比較例1~6のように、本発明の(A)の成分が規定範囲外であったり、(B)、(C)、(D)成分のどれか1成分が欠けただけでも、その性能は実施例1~4の組成物より大きく劣り、このことから本発明の組成物の優秀性は明らかである。」 イ 甲2に記載された発明 上記アに摘記した事項を総合勘案し、特に、【表1】に「実施例2」として記載された「塑性加工用洗浄防錆油組成物」に着目すると、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。 「組成物全量基準で、 (A)成分として、A1:鉱油系のナフテン系炭化水素系溶剤(蒸気圧3.0×10-4MPa(@25℃))を73.0質量%、 (B)成分として、B2:硫化ラノリン油脂(硫黄含有量10質量%)を15.0質量%、 (C)成分として、C1:グリセリンモノステアレートを3.0質量%、 (D)成分として、D1:石油スルフォン酸の中性バリウム塩(全塩基価(過塩素酸法)0mgKOH/g)を4.0質量%、 (E)成分として、E1:パラフィン系溶剤精製鉱油(動粘度25mm2/s(@40℃))を5.0質量%、 を配合してなり、 かつ40℃における動粘度が3.0mm2/sである、塑性加工用洗浄防錆油組成物。」(以下、「甲2発明」という。) (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲2発明とを対比する。 (ア)甲2発明の「(A)成分として」の「A1:鉱油系のナフテン系炭化水素系溶剤(蒸気圧3.0×10-4MPa(@25℃))」は、本件特許発明1の「(A)引火点が40℃以上80℃以下の溶剤」と、「溶剤」である限りにおいて共通する。 (イ)甲2発明の「(E)成分として」の「E1:パラフィン系溶剤精製鉱油(動粘度25mm2/s(@40℃))」は、本件特許発明1の「(B)引火点が170℃以上300℃以下であって、40℃動粘度が15mm2/s以上60mm2/s以下である基油」と、「40℃動粘度が15mm2/s以上60mm2/s以下である基油」である限りにおいて共通する。 (ウ)甲2発明の「(D)成分として」の「D1:石油スルフォン酸の中性バリウム塩(全塩基価(過塩素酸法)0mgKOH/g)」は、甲2の【0026】、【0030】の記載を考慮すると、本件特許発明1の「(C)防錆剤」に相当する。 (エ)甲2発明の「塑性加工用洗浄防錆油組成物」は、本件特許発明1の「防錆油組成物」に相当する。 (オ)そうすると、本件特許発明1と甲2発明とは、 「(A)溶剤と、 (B)40℃動粘度が15mm2/s以上60mm2/s以下である基油と、 (C)防錆剤と、 を含有する防錆油組成物。」である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点2> 本件特許発明1の「溶剤」は、「引火点が40℃以上80℃以下」のものであるのに対して、甲2発明の「A1:鉱油系のナフテン系炭化水素系溶剤(蒸気圧3.0×10-4MPa(@25℃))」の引火点が不明である点。 <相違点3> 本件特許発明1の「基油」は、「引火点が170℃以上300℃以下」のものであるのに対して、甲2発明の「E1:パラフィン系溶剤精製鉱油(動粘度25mm2/s(@40℃))」の引火点が不明である点。 <相違点4> 本件特許発明1の「防錆油組成物」は、「40℃動粘度が1.0mm2/s以上2.2mm2/s以下である」のに対して、甲2発明の「塑性加工用洗浄防錆油組成物」は、「40℃における動粘度が3.0mm2/sである」点。 イ 相違点についての判断 (ア)事案に鑑み、まず、上記相違点4について検討する。 a 上記ア(オ)に摘記したとおり、甲2の【0031】には、「本発明の塑性加工用洗浄防錆油組成物は、上記(A)~(D)成分を必須成分として配合してなるものであり、さらに組成物の40℃における動粘度が1.5~6mm2/sであることが必要である。40℃における動粘度の下限値は1.5mm2/s、好ましくは2mm2/sである。また、40℃における動粘度の上限値は6mm2/s、好ましくは5mm2/sであるが、6mm2/sを超える場合は、洗浄性が劣るため好ましくない。」との記載を参照すると、甲2に記載された「塑性加工用洗浄防錆油組成物」の「40℃における動粘度」は、洗浄性等の観点から「1.5~6mm2/s」であることが必要であり、好ましい範囲は、「2mm2/s」~「5mm2/s」の範囲であることが理解できる。 b そうすると、甲2発明に係る「塑性加工用洗浄防錆油組成物」の「40℃における動粘度」は、「3.0mm2/s」であって、上記aの好ましい範囲に含まれるものであるから、これを本件特許発明1のように「1.0mm2/s以上2.2mm2/s以下」の範囲に変更する動機付けがあるとはいえない。 (イ)また、仮に、甲2発明に係る「塑性加工用洗浄防錆油組成物」の「40℃における動粘度」の値を「1.0mm2/s以上2.2mm2/s以下」の範囲とする動機付けがあるといえるとしても、上記相違点4に係る特定事項を備えた本件特許発明1によって奏される「優れた防錆油膜の薄膜性と防錆性を両立」するとの効果(本件明細書の【0008】、【0054】参照)は、「組成物の40℃における動粘度が1.5~6mm2/sであることが必要である。40℃における動粘度の下限値は1.5mm2/s、好ましくは2mm2/sである。また、40℃における動粘度の上限値は6mm2/s、好ましくは5mm2/sであるが、6mm2/sを超える場合は、洗浄性が劣るため好ましくない。」(上記a参照)との認識に留まる甲2の記載からは、当業者であっても予測し得ない顕著なものと認められる。 (ウ)したがって、相違点4以外の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 小括 よって、本件特許発明1は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)本件特許発明2~14について 本件特許発明2~14は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて備えたものであるから、上記(2)ウのとおり、本件特許発明1が、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、同様に、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)申立理由2-2についてのまとめ したがって、本件特許発明1~14は、特許法第29条第2項に規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由2-2によっては、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由3(サポート要件)について (1)本件明細書の【0005】、【0006】の記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、「優れた防錆油膜の薄膜性と防錆性とを両立する防錆油組成物及びその製造方法を提供すること」にあると認められる。 (2)そして、本件明細書の【0010】、【0013】、【0016】~【0018】、【0043】~【0054】の記載によれば、上記(1)の課題は、「(A)溶剤」として「引火点」が「100℃未満」のものを含有し、「(B)基油」として「引火点が100℃以上であって、40℃動粘度が7mm2/s以上120mm2/s以下」のものを含有し、「(C)防錆剤」を含有し、「40℃動粘度」が「0.5mm2/s以上3.2mm2/s以下」の範囲である「防錆油組成物」及びその製造方法を採用することにより解決されることを当業者であれば理解できるといえる。 (3)一方、上記第2のとおり、本件特許発明1は、引火点が100℃未満である「(A)引火点が40℃以上80℃以下の溶剤」と、引火点が100℃以上であって、40℃動粘度が7mm2/s以上120mm2/s以下の「(B)引火点が170℃以上300℃以下であって、40℃動粘度が15mm2/s以上60mm2/s以下である基油」と、「(C)防錆剤」とを含有し、40℃動粘度が、「0.5mm2/s以上3.2mm2/s以下」の範囲に包含される「1.0mm2/s以上2.2mm2/s以下である」「防錆油組成物」に係るものであるから、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載した範囲を超えるものとはいえない。 本件特許発明1の発明特定事項を全て含む本件特許発明2~14についても同様である。 (4)この点、申立人は、「本件特許明細書の発明の詳細な説明中には、実施例として、(A)成分の「溶剤」としてイソパラフィン(引火点45℃)の1種類のみを用いた実施例1及び2に限って記載されているのみに過ぎないのに対して、上記請求項1の如く「引火点が40℃以上80℃以下の溶剤」である限りどのような「溶剤」であっても使用できると極めて広範に規定された(A)成分の全ての範囲について、発明の課題が解決できると当業者が認識できるようには記載されていない。」(特許異議申立書第36頁第9~14行)と主張しているが、本件特許発明1が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載した範囲を超えるものとはいえないことは、上記(3)のとおりであり、また、申立人は、「イソパラフィン」以外の「溶剤」を用いた場合に上記(1)の課題が解決されないのではないかとの疑義が生じる程度の根拠を何ら示していないから、このような主張は採用しない。 (5)申立理由3についてのまとめ したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~14の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由3によっては、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおり、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-701287

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