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特許異議申立

2022-700649

水処理に用いる生物反応装置、およびそれを用いた水底浄化装置、およびアクアポニックス装置

審判番号
2022-700649
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-168926
登録番号
6999096
請求日
2022年07月14日
審決日
2023年01月17日
公報発行日
2023年04月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社ウイルステージ
  • 【異議申立人】夏目 由美
審判長/審判官
  • 審判長 原 賢一
  • 審判官 三崎 仁
  • 審判官 山田 倍司
分類
P1652.537-YAA(C02F) / P1652.536-YAA(C02F) / P1652.113-YAA(C02F) / P1652.121-YAA(C02F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第113条第2号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第6999096号発明「水処理に用いる生物反応装置、およびそれを用いた水底浄化装置、およびアクアポニックス装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6999096号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6999096号の請求項1、3に係る特許を維持する。 特許第6999096号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6999096号の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和2年10月6日に出願したものであって、令和3年12月24日にその特許権の設定登録がされ、令和4年1月18日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和4年 7月14日 :特許異議申立人夏目由美(以下「申立人」という。)による請求項1~3に係る特許に対する特許異議の申立て 同年 8月30日付け:取消理由通知書 同年11月 4日 :特許権者による訂正請求書の提出 同月15日付け:訂正請求があった旨の通知 なお、当審は申立人に上記訂正請求があった旨を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人はそれに対し応答しなかった。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正請求書による請求の趣旨は、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「上記枯草菌、硝化菌、および脱窒菌は同一濾材内に生育し、 上記被処理水に含まれる窒素化合物の硝化と脱窒を同時に行う」と記載されているのを、 「上記枯草菌、硝化菌、および脱窒菌は同一濾材内に生育し、 上記濾材は固定床であり、 上記濾材の導入経路側における被処理水の溶存酸素濃度は5ppm以上、且つ飽和溶存酸素濃度以下であり、 上記濾材の平均粒径は1mm以上、且つ10mm以下であり、 上記被処理水に含まれる窒素化合物の硝化と脱窒を同時に行う」に訂正する。なお、下線は訂正箇所を示す(以下同様。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に 「上記濾材は上記被処理水中で流動し、 上記被処理水の溶存酸素濃度は5ppm以上、且つ飽和溶存酸素濃度以下である ことを特徴とする請求項1に記載の水処理に用いる生物反応装置。」と記載されているのを、 「水処理に用いる生物反応装置であって、 濾材と、 当該濾材に生育する浄化微生物と、 上記濾材に被処理水を導く導入経路と、 上記濾材に接触した被処理水を排水する排水経路と、 上記濾材に導かれる被処理水に酸素を供給するための曝気手段と を備え、 上記浄化微生物は、溶存有機物を分解する好気性微生物である枯草菌、硝化反応を行う好気性微生物である硝化菌、および、脱窒反応を行う嫌気性微生物である脱窒菌であり、 上記枯草菌、硝化菌、および脱窒菌は同一濾材内に生育し、 上記濾材は上記被処理水中で流動し、 上記濾材の導入経路側における被処理水の溶存酸素濃度は5ppm以上、且つ飽和溶存酸素濃度以下であり、 上記濾材の平均粒径は1mm以上、且つ10mm以下であり、 上記被処理水に含まれる窒素化合物の硝化と脱窒を同時に行う 水処理に用いる生物反応装置。」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4についても同様に訂正する。)。 2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無 (1)訂正事項1について ア 目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、濾材について「固定床であり、」「平均粒径は1mm以上、且つ10mm以下」であるものに限定し、被処理水について「上記濾材の導入経路側における」「溶存酸素濃度は5ppm以上、且つ飽和溶存酸素濃度以下」であるものに限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記訂正により実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更することにはならないから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 イ 新規事項の有無 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の特許請求の範囲の請求項2に「上記濾材は固定床であり、上記濾材の導入経路側における被処理水の溶存酸素濃度は5ppm以上、且つ飽和溶存酸素濃度以下である」と記載され、【0034】に「図5に実験結果を示す。平均粒径が1mmから10mmで良好な結果が得られた。濾材2の平均粒径に関しては、このようにかなり広い範囲で良好な水質改善効果が得られることを確認できた。」と記載されていることから、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、請求項を削除することは、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3について ア 目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項3は、いったん訂正前の請求項3を、 「水処理に用いる生物反応装置であって、 濾材と、 当該濾材に生育する浄化微生物と、 上記濾材に被処理水を導く導入経路と、 上記濾材に接触した被処理水を排水する排水経路と、 上記濾材に導かれる被処理水に酸素を供給するための曝気手段と を備え、 上記浄化微生物は、溶存有機物を分解する好気性微生物である枯草菌、硝化反応を行う好気性微生物である硝化菌、および、脱窒反応を行う嫌気性微生物である脱窒菌であり、 上記枯草菌、硝化菌、および脱窒菌は同一濾材内に生育し、 上記濾材は上記被処理水中で流動し、 上記濾材の導入経路側における被処理水の溶存酸素濃度は5ppm以上、且つ飽和溶存酸素濃度以下であり、 上記被処理水に含まれる窒素化合物の硝化と脱窒を同時に行う 水処理に用いる生物反応装置。」 と書き下したうえで、 濾材について「平均粒径は1mm以上、且つ10mm以下」であるものに限定したものであるから、前者は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、後者は、同ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記書き下し及び濾材について限定することは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 イ 新規事項の有無 上記アの書き下しは新規事項の追加に該当せず、そして、上記アの濾材についての限定も、上記(1)イで述べたとおり、新規事項の追加に該当しないことから、訂正事項3は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 3 独立特許要件について 上記訂正事項3は、請求項3を引用する請求項4についても同様に訂正するものであるが、請求項4については、特許異議の申立てがされていない請求項であるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、検討しなければならない。 下記第7の3(3)で述べるように、請求項4に係る発明(下記の「本件発明4」)について、発明の詳細な説明は、請求項4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものではない。 そして、請求項4に係る発明について、他に特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないとする理由もない。 よって、請求項4に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。 4 一群の請求項について 訂正前の請求項2~4は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1~4は一群の請求項である。そして、上記訂正事項1~3はいずれも、その一群の請求項においてなされたものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する当該一群の請求項ごとに請求されているものである。 なお、訂正請求書には、訂正後の請求項3及び請求項3を引用する請求項4について、当該訂正が認められるときに請求項1とは別の訂正単位として扱われることを求める旨が明記されていない。 5 訂正についてのまとめ 上記のとおり、訂正事項1~3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項及び第7項の規定に適合するものである。 よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1、3及び4に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明3」及び「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3及び4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 水処理に用いる生物反応装置であって、 濾材と、 当該濾材に生育する浄化微生物と、 上記濾材に被処理水を導く導入経路と、 上記濾材に接触した被処理水を排水する排水経路と、 上記濾材に導かれる被処理水に酸素を供給するための曝気手段と を備え、 上記浄化微生物は、溶存有機物を分解する好気性微生物である枯草菌、硝化反応を行う好気性微生物である硝化菌、および、脱窒反応を行う嫌気性微生物である脱窒菌であり、 上記枯草菌、硝化菌、および脱窒菌は同一濾材内に生育し、 上記濾材は固定床であり、上記濾材の導入経路側における被処理水の溶存酸素濃度は5ppm以上、且つ飽和溶存酸素濃度以下であり、上記濾材の平均粒径は1mm以上、且つ10mm以下であり、 上記被処理水に含まれる窒素化合物の硝化と脱窒を同時に行う 水処理に用いる生物反応装置。」 「【請求項3】 水処理に用いる生物反応装置であって、 濾材と、 当該濾材に生育する浄化微生物と、 上記濾材に被処理水を導く導入経路と、 上記濾材に接触した被処理水を排水する排水経路と、 上記濾材に導かれる被処理水に酸素を供給するための曝気手段と を備え、 上記浄化微生物は、溶存有機物を分解する好気性微生物である枯草菌、硝化反応を行う好気性微生物である硝化菌、および、脱窒反応を行う嫌気性微生物である脱窒菌であり、 上記枯草菌、硝化菌、および脱窒菌は同一濾材内に生育し、 上記濾材は上記被処理水中で流動し、上記濾材の導入経路側における被処理水の溶存酸素濃度は5ppm以上、且つ飽和溶存酸素濃度以下であり、 上記濾材の平均粒径は1mm以上、且つ10mm以下であり、 上記被処理水に含まれる窒素化合物の硝化と脱窒を同時に行う 水処理に用いる生物反応装置。 【請求項4】 納豆菌を投入する納豆菌投入手段を有する ことを特徴とする請求項3に記載の水処理に用いる生物反応装置。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由の概要 令和4年8月30日付け取消理由通知書は、次の取消理由1を通知したものである。 取消理由1(サポート要件) 本件特許は、その特許請求の範囲の下記の請求項に係る記載が、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 ・訂正前の請求項1~3 概略を記載すると、被処理水の溶存酸素濃度及び濾材の平均粒径の点において、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえないことを指摘したものである。 第5 本件明細書等の記載 1 課題について 本件明細書には、本件発明の解決しようとする課題について、以下のとおり記載されている。 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 特許文献1に記載された生物反応装置は、好気槽と無酸素槽のふたつのろ過槽が必要であり、また、複雑な活性汚泥量の返送制御や汚泥処理が必要であった。したがって、装置構成が複雑になり、また、装置が大型化し、さらには、処理時間が長くなるといった種々の問題があった。 【0008】 特許文献2や特許文献3に記載された、いわゆる間欠曝気により溶存酸素濃度を時間的に変化させる方法では、好気性菌と嫌気性菌とが十分に活性化するように曝気量を高精度に調整する必要がある。最適な曝気量は被処理水の汚れ具合や水温等によっても変化するため、高度な制御システムが必要となる。また、好気性菌による処理と嫌気性菌による処理が交互になされるので、浄化効率は高くない。 【0009】 特許文献4に記載された場所によって溶存酸素濃度を変える方式も同様であり、曝気量の高度な管理が必要になる。また、被処理水の流れの上流側で嫌気性菌による処理が、下流側で好気性菌による処理が行われる。嫌気性菌による処理は、好気性菌による処理によって生じた亜硝酸や硝酸を還元し脱窒する処理である。したがって、処理の方向が反応の進行と逆であるため、全体としての処理効率が低下する。 【0010】 したがって、特許文献2から4に記載された方式においては、いずれも好気性菌による処理と嫌気性菌による処理が別々に行われる。 本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、従来は実現できなかった好気性菌による処理と嫌気性菌による処理を同時に行う。これにより、これまでとは比較にならない高速の水の浄化を可能とするものである。」 2 検証実験について 本件明細書では、 「【0022】 枯草菌、硝化菌、および脱窒菌を同一の濾材2内に生育(繁殖)することで、それらの協調的な関係が生まれることが本発明の大きなポイントである。同一の濾材2内に生育すると、これらの浄化微生物は、それぞれが最も効率的に働くことができるように、濾材2内の最適な場所で繁殖すると考えられる。そのため、それぞれが互いに協調的な働きができる。すなわち、相乗的な高効率の浄化反応が起きる可能性がある。特に、硝化反応と脱窒反応が同時に起こることで、窒素化合物を非常に高効率で窒素ガスに変換できる可能性がある。さらに、この際に枯草菌による有機物酸化反応が硝化および脱窒反応を加速化する可能性もある。」との可能性が記載されたうえで、次の実証実験の結果が記載されている。 (1)検証実験1について 本件明細書には、検証実験1について、以下のとおり記載されている。 【0025】 (検証実験1) 生物反応装置1の貯水槽は、縦横が1m、高さが1m20cmの水槽であり、その中に約1トンの被処理水を入れた。そして、毎分150Lの流量で被処理水を導入し、排水した。 生物反応装置1に導入する被処理水は、比較的汚れた河川の水を用い、それに硫酸アンモニウムを混ぜて、アンモニア態窒素濃度が10mg/Lとなるようにした。 【0026】 濾材2としては、平均粒径が3mmの砂を用いた。砂の全容積は300Lである。被処理水を1か月流し続けることで、この濾材2に枯草菌、硝化菌、および脱窒菌を繁殖し、馴養させた。 【0027】 導入する被処理水に予め窒素ガスを導入して溶存酸素濃度(DO)をほぼゼロにし、そして、曝気手段5の曝気量を変えることで、生物反応装置1内の被処理水の溶存酸素濃度を変化させた。溶存酸素濃度は、曝気手段5の近傍で測定した。すなわち、浄化微生物によって酸素が消費される前の水の溶存酸素濃度を測定した。 曝気手段5は、図1に示すように、濾材2に対して被処理水の流れの上流側(導入経路3側)に配置し、溶存酸素濃度はAで示す箇所で測定を行った。 比較のため、曝気手段の位置を変えて同様の実験も行った。図2に示すように、曝気手段5aを濾材2に対して被処理水の流れの下流側(排水経路4側)に配置し、溶存酸素濃度はBで示す箇所で測定を行った。 【0028】 水質は、被処理水排水手段4から排水される水の窒素化合物の除去の割合で判断した。すなわち、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素の濃度を測定することで評価した。 なお、被処理水の水温は25℃である。 【0029】 図3は、曝気手段を濾材2に対して被処理水の流れの上流側に配置した場合(図1の場合)の水質評価結果、図4は曝気手段を濾材2に対して被処理水の流れの下流側に配置した場合(図2の場合)の水質評価結果である。横軸は溶存酸素濃度、縦軸は排水(浄化後の水)のアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素の各濃度である。 【0030】 曝気手段を上流側に配置した場合も下流側に配置した場合も、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素の各濃度は、溶存酸素濃度に対して同様の傾向を示し、5mg/Lから飽和溶存酸素濃度の間で低い濃度を示した。すなわち、高い溶存酸素濃度において、良好な水質改善が達成された。 【0031】 ただし、曝気手段を上流側に配置した場合の方が、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素の各濃度は低濃度になり、水質の改善効果が大きいことが分かった。曝気手段を上流側に配置し、溶存酸素濃度を5mg/Lから飽和溶存酸素濃度とした場合には、アンモニア態窒素と亜硝酸態窒素はほぼ検出されず、硝酸態窒素も極めて低濃度であった。 【0032】 また、この結果は窒素化合物の硝化と脱窒が同時に行われていることを示している。もし、硝化だけ行われているのであれば、亜硝酸や硝酸が高濃度に残留するはずである。しかし、被処理水を循環することなく、ワンパスの処理で亜硝酸や硝酸が低濃度になっていることは、硝化と脱窒が同時に進行していることを示している。そして、硝化と脱窒が同時に進行する際には、溶存酸素濃度が高濃度なほど、硝化と脱窒の効率が向上するという重要な結果が得られた。」 そして、上記図3及び図4として、以下の図面が記載されている。 【図3】 [図:0001396288000001.jpg] 【図4】 [図:0001396288000002.jpg] (2)検証実験2について 本件明細書には、検証実験2について、以下のとおり記載されている。 「【0033】 (検証実験2) 次に、溶存酸素濃度を7mg/Lに固定し、濾材2の平均粒径を0.2mmから18mmまで変えて、濾材2の平均粒径が水質改善にどのように影響しているかを調べた。曝気手段5の配置は上流側である。 その他の条件は検証実験1と同様である。 【0034】 図5に実験結果を示す。 平均粒径が1mmから10mmで良好な結果が得られた。濾材2の平均粒径に関しては、このようにかなり広い範囲で良好な水質改善効果が得られることを確認できた。」 そして、上記図5として、以下の図面が記載されている。 【図5】 [図:0001396288000003.jpg] (3)検証実験3について 本件明細書には、検証実験3について、以下のとおり記載されている。 「【0035】 (検証実験3) (同一濾材に枯草菌も共生させた効果を示すための実験) 窒素化合物の除去は、一般的には硝化菌と脱窒菌によって行われるが、枯草菌が補助的な役割を果たしているかを確認するため、枯草菌の繁殖の有無により水質に違いが生じるか否かについても検証実験を行った。 【0036】 上流側で曝気を行い、溶存酸素濃度は7mg/Lとした。また、濾材の平均粒径は3mmとした。濾材2に枯草菌を繁殖させた場合、および枯草菌を入れないで硝化菌と脱窒菌だけを繁殖させた場合の水質について、浄化微生物の繁殖開始からの変化を調べた。すなわち、水質が浄化微生物の馴養期間内および馴養期間後でどのように変化するかについて調べた。 【0037】 図6は、濾材2に枯草菌、硝化菌、および脱窒菌を繁殖させた場合の水質データであり、横軸は繁殖開始からの期間を示している。繁殖開始から4週間目には、アンモニア態窒素と亜硝酸態窒素はほぼ消失し、硝酸態窒素も低濃度になった。繁殖開始から4週間目以降も水質は良好であった。 【0038】 図7は、濾材2に硝化菌、および脱窒菌だけを繁殖させた場合の水質データである。アンモニア態窒素は8週目までは検出され、10週目以降になって低濃度になった。また、亜硝酸は10週目になって低濃度になったが、完全には消失せず、0.2mg/L程度は10週目以降も検出された。 【0039】 以上のように、枯草菌の有無により、馴養期間と水質の両方に明確な差異が現れることが分かった すなわち、硝化菌や脱窒菌が生育する濾材に枯草菌も生育させることで、3者の協調関係が得られ、馴養期間を短縮でき、且つ水質が向上することを確認できた。」 そして、上記図6及び図7として、以下の図面が記載されている 【図6】 [図:0001396288000004.jpg] 【図7】 [図:0001396288000005.jpg] 第6 取消理由1についての判断 1 本件発明の課題について 上記第5の1で摘記した本件明細書における課題の記載によれば、本件発明の課題は、好気性菌による処理と嫌気性菌による処理を同時に行うことにあるといえる。そして、上記本件明細書の【0009】の記載によれば、好気性菌による処理で硝化が行われ、嫌気性菌による処理では脱窒が行われるといえるから、上記課題は、好気性菌及び嫌気性菌により、硝化と脱窒を同時に、効率良く行うことでもあるといえる。 2 溶存酸素濃度について 上記第5の2(1)で摘記した検証実験1の結果である図3及び4の記載を踏まえると、溶存酸素濃度が5mg/L以上の範囲において、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素の各濃度が0に十分近づいていることから、当該範囲において硝化と脱窒が効率良く行われ、水が浄化されたことが示されているが、溶存酸素濃度が5mg/L未満の範囲においては、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素の各濃度が十分低下しておらず、水が浄化されたとはいえない。 そうすると、溶存酸素濃度が5mg/L未満の範囲においては、上記1の本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえないところ、訂正により本件発明1において「被処理水の溶存酸素濃度は5ppm以上、且つ飽和溶存酸素濃度以下」であることが特定されたことから、本件発明1は、溶存酸素濃度の点で、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなった。 (なお、上記第2の1(2)で記載したように、訂正により請求項2が削除され、本件発明3については、訂正前から「被処理水の溶存酸素濃度は5ppm以上、且つ飽和溶存酸素濃度以下」であることは特定されている。) 3 濾材の平均粒径について 上記第5の2(2)で摘記した検証実験2の結果である図5の記載を踏まえると、濾材の平均粒径が1~10mmの範囲において、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素の各濃度が0に十分近づいていることから、当該範囲において硝化と脱窒が効率良く行われ、水が浄化されたことが示されているが、濾材の平均粒径が1mm未満及び10mm超えの範囲においては、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素の各濃度が十分低下しておらず、水が浄化されたとはいえない。 そうすると、濾材の平均粒径が1mm未満及び10mm超えの範囲においては、上記1の本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえないところ、訂正により本件発明1及び3において「濾材の平均粒径は1mm以上、且つ10mm以下」であることが特定されたことから、本件発明1及び3は、濾材の平均粒径の点で、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなった。 4 まとめ よって、本件発明1及び3は、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載したものであることから、取消理由1によって、本件発明1及び3に係る特許を取り消すことはできない。 第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 上記第2の1(2)で記載したように、訂正により請求項2が削除されたことから、以下の申立理由における請求項については、請求項2について削除して記載することとする。 1 申立理由1(進歩性) (1)申立理由1についての概要は以下のとおりである。 本件特許の訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定、又は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 よって、請求項1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 <証拠方法> 甲第1号証:E.Casey,et al.「Review of membrane aerated biofilm reactors」,Resources,Conservation and Recycling,Vol.27,1999年,pp.203-215 甲第2号証:常田聡、外1名、「微生物固定化のための膜の改質と水処理分野への適用」、膜(MEMBRANE)、Vol.33、No.2、2008年、pp.54-62 甲第3号証:特開2007-105631号公報 (以下、甲第○号証は「甲○」という。) (2)甲号証の記載 ア 甲1について (ア)甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した(以下同様。)。 (甲1ア)「Membrane aerated biofilm reactors (MABRs) represent a new technology for aerobic wastewater treatment. Oxygen diffuses through a gas permeable membrane into the biofilm where oxidation of pollutants, supplied on the biofilm side of the membrane, takes place.」(203頁abstractの1~3行) (当審訳:膜通気式バイオフィルムリアクター(MABRs)は、 好気性の廃水処理に用いられる新しい技術である。酸素は、ガス透過性膜を通して拡散し、膜のバイオフィルム側に供給され、そこで汚染物の酸化が生じる。) (甲1イ)「In conventional biofilm reactors, autotrophic nitrifying organisms may be excluded from the oxic layer of the biofilm due to the faster growth of heterotrophs[16]. As a result, substantial nitrification only occurs when the carbon substrate loading rate of the wastewater is low. One of the claimed advantages of MABRs is that they can be used for simultaneous nitrification and organic removal in a single reactor. Low rates of nitrification but very high organic carbon oxidation were reported by both [39] and [40] in studies where a washing procedure was employed to detach excess biomass. In both cases, the low rates of nitrification were attributed to the wash-out of slow growing chemoautotrophic nitrifying bacteria. Ref.[43] have suggested that MABRs may be suitable for simultaneous carbon substrate oxidation, nitrification and denitrification by employing a single heterogeneous membrane immobilised biofilm. The high oxygen concentrations at the membrane biofilm interface would support nitrification; an aerobic heterotrophic layer above this would facilitate carbonaceous pollutant removal and an anoxic layer close to the biofilm-liquid interface would allow denitrification.」(212頁1~15行) (当審訳:従来のバイオフィルムリアクターにおいては、従属栄養微生物の早期成長のために、独立栄養微生物の硝化有機物は、バイオフィルムの酸素層から排除され得る。結果として、炭素基質が廃水に導入される速度が遅いときだけ、実質的な硝化が起きる。MABRsの特徴の1つは、1つの反応装置において、同時に硝化と有機物除去を行うのに用いることができる点である。過剰のバイオマスから切り離すための洗浄工程が採用された39及び40の両文献において、低い硝化速度であるが非常に速い有機炭素の酸化が、報告されている。両文献において、硝化の速度が遅い理由は、低成長の化学合成独立栄養の硝化バクテリアを洗い流すことに起因していた。 文献43は、MABRsは、バイオフィルムが固定された単一の不均一膜の採用により、炭素基質の酸化、 硝化、脱窒が同時に生じることに適しているのではないかと指摘している。膜とバイオフィルムとの界面の高酸素濃度は硝化を維持し、この上の好気性の従属栄養微生物層は、炭素質の汚染物質の除去を促進し、バイオフィルムと液体の界面に近い貧酸素層は、脱窒に寄与していると思われる。) (イ)甲1発明について 上記(甲1ア)及び(甲1イ)の記載から、甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)を認定すると、次のとおりである。 「酸素が、ガス透過性膜を通して拡散し、膜のバイオフィルム側に供給され、そこで汚染物の酸化が生じる、好気性の廃水処理に用いられる膜通気式バイオフィルムリアクター(MABRs)であって、 バイオフィルムが固定された単一の不均一膜の採用により、炭素基質の酸化、硝化、脱窒が同時に生じる、膜通気式バイオフィルムリアクター(MABRs)。」 イ 甲2について 甲2には、以下の事項が記載されている。 「また,蛍光プローブを用いて特定微生物を非破壊的に検出可能なFluorescence in situ hybridization法による微生物生態解析の結果より,好気部位にはアンモニアを亜硝酸に酸化するアンモニア酸化細菌が,無酸素部位には脱窒細菌を含むその他の細菌が存在していることを確認した(Fig.10 (a)).これらの事実から,異なる環境条件下で起こる硝化・脱窒という2つの反応を単一のMABR内において起こせることを証明した.」(61頁左欄3~11行) ウ 甲3について 甲3には、以下の事項が記載されている。 「【0023】 一方、汚泥の菌体の一種である内生胞子を形成する好気性又は通性嫌気性桿菌のバチルス属の菌などは嫌気状態や好気状態に曝されても死滅することがなく、嫌気部では胞子を作って生き残り、好気部では発芽して菌の活性を取り戻して排水中の有機物を摂取し除去する働きをする。 また、バチルス族の菌、例えば、枯草菌などはタンパク質分解酵素やでん粉分解酵素などを多く産生するため嫌気状態や好気状態にて死滅した菌体の分解を促進し、汚泥の発生を抑制する。」 (3)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「廃水処理に用いられる膜通気式バイオフィルムリアクター(MABRs)」は、本件発明1の「水処理に用いる生物反応装置」に相当する。 (イ)甲1発明の「好気性の廃水処理」として「酸素が、ガス透過性膜を通して拡散し、膜のバイオフィルム側に供給され、そこで汚染物の酸化が生じる」ることは、曝気が行われていることであるから、甲1発明の「好気性の廃水処理に用いられる膜通気式バイオフィルムリアクター(MABRs)」は、本件発明1の「被処理水に酸素を供給するための曝気手段」を有しているといえる。 (ウ)甲1発明の「廃水処理に用いられる膜通気式バイオフィルムリアクター(MABRs)」において「硝化、脱窒が同時に生じる」ことは、硝化及び脱窒が窒素を含む化合物に対するものであるから、本件発明1の「被処理水に含まれる窒素化合物の硝化と脱窒を同時に行う」ことに相当する。 (エ)上記(ア)~(ウ)を踏まえると、本件発明と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 (一致点) 「水処理に用いる生物反応装置であって、 被処理水に酸素を供給するための曝気手段を備え、 上記被処理水に含まれる窒素化合物の硝化と脱窒を同時に行う 水処理に用いる生物反応装置。」 (相違点) 生物反応装置が、本件発明1では、「濾材と、当該濾材に生育する浄化微生物と、上記濾材に被処理水を導く導入経路と、上記濾材に接触した被処理水を排水する排水経路と、を備え、上記浄化微生物は、溶存有機物を分解する好気性微生物である枯草菌、硝化反応を行う好気性微生物である硝化菌、および、脱窒反応を行う嫌気性微生物である脱窒菌であり、上記枯草菌、硝化菌、および脱窒菌は同一濾材内に生育し、上記濾材は固定床であり、上記濾材の導入経路側における被処理水の溶存酸素濃度は5ppm以上、且つ飽和溶存酸素濃度以下であり、上記濾材の平均粒径は1mm以上、且つ10mm以下であ」るのに対し、甲1発明では、上記構成を備えていることが明らかでない点。 イ 相違点の判断 (ア)上記相違点のうち、特に「浄化微生物は、溶存有機物を分解する好気性微生物である枯草菌、硝化反応を行う好気性微生物である硝化菌、および、脱窒反応を行う嫌気性微生物である脱窒菌であり、上記枯草菌、硝化菌、および脱窒菌は同一濾材内に生育」させる点について検討する。 甲1発明は「硝化、脱窒が同時に生じる」「膜通気式バイオフィルムリアクター(MABRs)」であり、「硝化、脱窒」が「バイオフィルム」で生じているといえることから、甲1発明の「バイオフィルム」には、硝化反応を行う好気性微生物である硝化菌、及び、脱窒反応を行う嫌気性微生物である脱窒菌が存在していることは否定できないが、「枯草菌」が存在しているとはいえない。 (イ)この点、上記甲2には、好気部位にはアンモニアを亜硝酸に酸化するアンモニア酸化細菌が、無酸素部位には脱窒細菌を含むその他の細菌が存在しており、硝化・脱窒という2つの反応を単一のMABR内において起こせることが記載されているものの、MABRに「枯草菌」が存在することは記載されていない。 さらに、上記甲3には、枯草菌について、「バチルス族の菌、例えば、枯草菌などはタンパク質分解酵素やでん粉分解酵素などを多く産生するため嫌気状態や好気状態にて死滅した菌体の分解を促進し、汚泥の発生を抑制する」と記載されているのみであり、膜通気式バイオフィルムリアクター(MABRs)のバイオフィルムに「枯草菌」を存在させること、さらには、硝化菌及び脱窒菌と共存させることについては何ら記載されていない。 そうすると、甲2及び甲3の記載を参照しても、甲1発明の「膜通気式バイオフィルムリアクター(MABRs)」に「枯草菌」を存在させることにはならないことから、上記「浄化微生物は、溶存有機物を分解する好気性微生物である枯草菌、硝化反応を行う好気性微生物である硝化菌、および、脱窒反応を行う嫌気性微生物である脱窒菌であり、上記枯草菌、硝化菌、および脱窒菌は同一濾材内に生育」させる点は、甲1発明に基づいて、当業者が容易になし得たことではない。 (ウ)そして、上記第5の2(3)で摘記したとおり、本件明細書には、 「【0037】 図6は、濾材2に枯草菌、硝化菌、および脱窒菌を繁殖させた場合の水質データであり、横軸は繁殖開始からの期間を示している。繁殖開始から4週間目には、アンモニア態窒素と亜硝酸態窒素はほぼ消失し、硝酸態窒素も低濃度になった。繁殖開始から4週間目以降も水質は良好であった。 【0038】 図7は、濾材2に硝化菌、および脱窒菌だけを繁殖させた場合の水質データである。アンモニア態窒素は8週目までは検出され、10週目以降になって低濃度になった。また、亜硝酸は10週目になって低濃度になったが、完全には消失せず、0.2mg/L程度は10週目以降も検出された。」と記載され、上記第5の2(3)で摘記した図6及び図7に記載されているように、「枯草菌、硝化菌、および脱窒菌は同一濾材内に生育」させることにより、枯草菌が存在しない場合より脱窒までの時間が短くなるという、当業者が予期し得ない格別顕著な効果があるものである。 エ 小括 よって、本件発明1は、上記相違点の「浄化微生物は、溶存有機物を分解する好気性微生物である枯草菌、硝化反応を行う好気性微生物である硝化菌、および、脱窒反応を行う嫌気性微生物である脱窒菌であり、上記枯草菌、硝化菌、および脱窒菌は同一濾材内に生育」させる点以外の部分について検討するまでもなく、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)まとめ したがって、本件発明1は、甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、さらに、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもなく、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定、又は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでないことから、申立理由1によって、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由2(サポート要件) (1)申立理由2は、訂正前の請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないことから、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたというものであり、特許異議申立書において以下の主張をしている。 「実施の形態1では、比較的汚れた河川の水を採取し、硫酸アンモニウムを混ぜ、平均粒径が3mmの砂に、水を1か月流し続け、枯草菌、硝化菌及び脱窒菌を繁殖させている。さらに、非処理水に窒素ガスを導入して、溶存酸素濃度をほぼ0にし、曝気手段による曝気量を変化させることで、溶存酸素濃度を変化させて、汚染水の処理を行っている。 実施の形態2では、曝気手段を利用して、濾材を流動させるとともに、別途納豆菌を投入している。 ところが、本件発明1には、 「上記枯草菌、硝化菌、および脱窒菌は同一濾材内に生育し、 上記被処理水に含まれる窒素化合物の硝化と脱窒を同時に行う」 との記述があるが、これをどのように実現するか、言い換えると本件明細書に記述されている課題を解決する手段について、実施の形態1や2に記載されている構成が全く記述されていない。 したがって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明でない。」(9頁19~31行) (2)当審の判断 まず、実施の形態2は「濾材を流動させる」ものであるから、上記本件発明3に対応するものであり、本件発明1に対応するものではない。 また、訂正により本件発明1において「被処理水の溶存酸素濃度は5ppm以上、且つ飽和溶存酸素濃度以下であり、上記濾材の平均粒径は1mm以上、且つ10mm以下であ」ることが特定されたことにより、本件発明1は、上記第6で判断したように、本件発明の課題を解決できると認識できるものとなり、実施形態1に則したものといえる。 そうすると、申立人の「本件発明1には、・・・実施の形態1や2に記載されている構成が全く記述されていない」との主張はもはや受け入れられるものではない。 よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものであり、本件発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないことから、申立理由2によって、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由3(実施可能要件) (1)申立理由3は、発明の詳細な説明は、当業者が訂正前の請求項1及び3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないことから、請求項1及び3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたというものであり、特許異議申立書において以下の主張をしている。 「本件明細書の記述では、どのように、枯草菌、硝化菌、および脱窒菌を共生させるのかは不明である。本件明細書の段落0036には、「濾材2に枯草菌を繁殖させた場合、および枯草菌を入れないで硝化菌と脱窒菌だけを繁殖させた場合の水質について、浄化微生物の繁殖開始からの変化を調べた。」との記載がある。一方、実施の形態1の説明を見れば、特に、枯草菌(あるいは浄化微生物)を投入したとの記載は無い。実施の形態1の説明の限りでは、枯草菌を別途投入したのではなく、元々排水に含まれていたものを繁殖させたものと推察できる。そうすると、本願明細書の記載だけではどのように枯草菌、硝化菌、および脱窒菌を繁殖させたり、硝化菌および脱窒菌だけを繁殖させたのか不明である。 また、上記では、元々排水に含まれていたものを繁殖させたものと推察したと記載した。しかし、枯草菌は、生物系排水に含まれるものではあるが、いつも枯草菌が含まれるというものではなく、その量もさまざまである。溶存有機物酸化に用いられる微生物は、千差万別であり、排水種や季節によっても変化する、ということを考慮すれば、本件明細書の実施例では、どのように枯草菌が適量存在する生物系排水を選択したかは、不明である。 そうすると、本件発明の明細書の開示をみても、どのように枯草菌を導入して、繁殖させたかは不明であり、本件発明は、本件明細書から当業者が実施することができる程度に記述がされているとは言えない。」(10頁14~29行) (2)当審の判断 上記第5の2で摘記した本件明細書の【0026】には「濾材2としては、平均粒径が3mmの砂を用いた。砂の全容積は300Lである。被処理水を1か月流し続けることで、この濾材2に枯草菌、硝化菌、および脱窒菌を繁殖し、馴養させた。」と記載され、【0036】には「上流側で曝気を行い、溶存酸素濃度は7mg/Lとした。また、濾材の平均粒径は3mmとした。濾材2に枯草菌を繁殖させた場合、および枯草菌を入れないで硝化菌と脱窒菌だけを繁殖させた場合の水質について、浄化微生物の繁殖開始からの変化を調べた。すなわち、水質が浄化微生物の馴養期間内および馴養期間後でどのように変化するかについて調べた。」と記載され、さらに、本件明細書の【0056】には「平均1cm径の日向石を濾材として用い、硝化菌、脱窒菌および枯草菌を予め繁殖させた。そして、約1.5m3の濾材を槽内に入れて、浄化を行った。曝気量は50L/分、被処理水の流量は50L/分である。」と記載されていることから、枯草菌、硝化菌及び脱窒菌が存在する水を予め濾材に対して流し続けることによって、枯草菌、硝化菌及び脱窒菌を繁殖、馴養させた濾材が得られることは明らかである。 そして、上記【0026】では「1か月流し続けることで、この濾材2に枯草菌、硝化菌、および脱窒菌を繁殖し、馴養させた」と記載されているが、濾材に繁殖、馴養させるために流し続ける時間は、その処理水に入っている枯草菌、硝化菌及び脱窒菌の量にもよるものであり、処理水に入っている枯草菌、硝化菌及び脱窒菌の量に応じて処理水を流し続ける時間が決まってくることから、枯草菌、硝化菌、及び脱窒菌を繁殖、馴養させた濾材を得るために流し続ける「枯草菌が適量存在する」水として、どのようなものを選択するかについて記載されていないからといって、当業者が枯草菌、硝化菌及び脱窒菌を繁殖、馴養させた濾材を得ることができないとはいえない。 そうすると、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及び3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとまではいえない。 よって、本件発明1及び3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないことから、申立理由3によって、本件発明1及び3に係る特許を取り消すことはできない。 (3)本件発明4について なお、本件発明4については、上記第2の3で述べたとおり、独立特許要件について判断しなければならないところ、本件発明4は本件発明3を引用して「納豆菌を投入する納豆菌投入手段を有する」ことを特定した発明である。本件発明3については、上記(2)で述べたとおり、発明の詳細な説明は当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、さらに「納豆菌を投入する納豆菌投入手段を有する」ことについて、本件明細書の【0059】に「検証事件4と異なる点は、10cc/分の納豆菌を槽内上部80より投入したことである。」と記載されると共に具体的な実験がなされていることから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。 第8 むすび 以上のとおり、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、本件発明1及び3に係る特許は、同法第36条第4項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないことから、同法第113条第2号及び第4号に該当しない。 したがって、本件発明1及び3に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって、取り消すことはできない。 さらに、他に本件発明1及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、請求項2に係る特許は、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てのうち、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700649

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