特許異議申立
2022-700622
機器の耐震評価方法及び装置
- 審判番号
- 2022-700622
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-246900
- 登録番号
- 7001462
- 請求日
- 2022年07月12日
- 審決日
- 2023年06月16日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱重工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【異議申立人】笠井 素子
- 審判長/審判官
- 審判長 千葉 輝久
- 審判官 五十嵐 努
- 審判官 畑中 高行
- 分類
- P1651.113-YAA(G06F) / P1651.121-YAA(G06F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7001462号発明「機器の耐震評価方法及び装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7001462号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、6について訂正することを認める。
特許第7001462号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7001462号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成29年12月22日に出願されたものであって、令和3年12月28日に特許権の設定登録がなされ、令和4年1月19日にその特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年7月12日に特許異議申立人笠井素子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年10月14日付け 取消理由通知書
同年12月19日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
令和5年 2月17日 意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年12月19日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下の訂正事項のとおりである(下線は訂正部分を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「建屋に配置された機器の耐震評価方法であって、
耐震評価装置で、予め設定された地震動による前記建屋の応答解析を行う工程と、
前記耐震評価装置で、前記応答解析の結果に基づき床応答曲線を作成する工程と、
前記耐震評価装置で、前回の耐震評価時に作成した第1床応答曲線と今回作成した第2床応答曲線との比率を算出する工程と、
前記耐震評価装置で、前記比率と前回の前記耐震評価時に耐震解析を実施して求めた第1発生応力値に基づいて今回の第2発生応力値を算出する工程と、
前記耐震評価装置で、前記第2発生応力値と予め設定される許容応力値とを比較して前記機器の耐震性を評価する工程と、
を有することを特徴とする機器の耐震評価方法。」
とあるのを、
「建屋に配置された機器の耐震評価方法であって、
耐震評価装置で、前回の機器の耐震評価時の設計地震動と前記建屋の建設データに基づいて前記建屋の応答解析を行う工程と、
前記耐震評価装置で、前記応答解析の結果に基づき床応答曲線を作成する工程と、
前記耐震評価装置で、作成した前記床応答曲線を機器耐震解析データとして記憶部に記憶する工程と、
前記耐震評価装置で、前記記憶部に記憶された前回の耐震評価時に作成した前記機器耐震解析データにおける第1床応答曲線と今回作成した第2床応答曲線との比率を算出する工程と、
前記耐震評価装置で、前記比率と前回の前記耐震評価時に耐震解析を実施して求めた第1発生応力値に基づいて今回の第2発生応力値を算出する工程と、
前記耐震評価装置で、前記第2発生応力値と予め設定される許容応力値とを比較して前記機器の耐震性を評価する工程と、
を有することを特徴とする機器の耐震評価方法。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6に
「建屋に配置された機器の耐震評価装置であって、
予め設定された地震動による前記機器の応答解析を行う建屋応答解析部と、
前記応答解析の結果に基づき床応答曲線を作成する床応答曲線作成部と、
前回の耐震評価時に作成した第1床応答曲線と今回作成した第2床応答曲線との比率と、前回の前記耐震評価時に耐震解析を実施して求めた第1発生応力値に基づいて今回の第2発生応力値を算出し、前記第2発生応力値と予め設定される許容応力値とを比較して前記機器の耐震性を評価する評価部と、
前記第2発生応力値が前記許容応力値より大きいときに前記機器の耐震性を良好でないと評価して前記機器の耐震解析を実行する機器耐震解析部と、
を備えることを特徴とする機器の耐震評価装置。」
とあるのを、
「建屋に配置された機器の耐震評価装置であって、
前回の機器の耐震評価時の設計地震動と前記建屋の建設データに基づいて前記機器の応答解析を行う建屋応答解析部と、
前記応答解析の結果に基づき床応答曲線を作成する床応答曲線作成部と、
作成した前記床応答曲線を機器耐震解析データとして記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されて前回の耐震評価時に作成した前記機器耐震解析データにおける第1床応答曲線と今回作成した第2床応答曲線との比率と、前回の前記耐震評価時に耐震解析を実施して求めた第1発生応力値に基づいて今回の第2発生応力値を算出し、前記第2発生応力値と予め設定される許容応力値とを比較して前記機器の耐震性を評価する評価部と、
前記第2発生応力値が前記許容応力値より大きいときに前記機器の耐震性を良好でないと評価して前記機器の耐震解析を実行する機器耐震解析部と、
を備えることを特徴とする機器の耐震評価装置。」
に訂正する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項2~5は、訂正前の請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正後の請求項1~5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、以下の訂正事項1Aないし1Cからなる。
訂正事項1A:訂正事項1のうち、「耐震評価装置で、予め設定された地震動による前記建屋の応答解析を行う工程」と記載されているのを、「耐震評価装置で、前回の機器の耐震評価時の設計地震動と前記建屋の建設データに基づいて前記建屋の応答解析を行う工程」に訂正する事項。
訂正事項1B:訂正事項1のうち、「前記耐震評価装置で、作成した前記床応答曲線を機器耐震解析データとして記憶部に記憶する工程と、」を追加する訂正をする事項。
訂正事項1C:訂正事項1のうち、「前回の耐震評価時に作成した第1床応答曲線」と記載されているのを、「前記記憶部に記憶された前回の耐震評価時に作成した前記機器耐震解析データにおける第1床応答曲線」に訂正する事項。
ア 訂正事項1Aについて
(ア)目的について
訂正事項1Aは、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「耐震評価装置で、予め設定された地震動による前記建屋の応答解析を行う工程」について、「予め設定された地震動」を「前回の機器の耐震評価時の設計地震動」に限定し、さらに地震動だけでなく「前記建屋の建設データに基づいて」前記建屋の応答解析を行うという限定を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
本件訂正後の請求項1においては、「前回の機器の耐震評価時」に使用した地震動と同じものが「設計地震動」であることは明らかである。
ここで、本件明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という)を参照すると、【0024】には「建屋応答解析部11は、地震動と建屋の建設データに基づいて建屋応答解析をするものである。」と記載されている。また、【0030】には「地震動は、定期的にその健全性が見直されるものであり、」と記載されており、定期的に見直されるまでの間、建屋応答解析には「前回の機器の耐震評価時」に使用した地震動と同じものが使用されると考えるのが自然であり、訂正事項1Aは【0024】、【0030】の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項1Aは、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、また、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的としており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
イ 訂正事項1B及び1Cについて
(ア)目的について
訂正事項1B及び1Cは、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「前回の耐震評価時に作成した第1床応答曲線」について、「前記耐震評価装置で、作成した前記床応答曲線を機器耐震解析データとして記憶部に記憶する工程」により「前記記憶部に記憶され」た「前記機器耐震解析データにおける」床応答曲線であることの限定を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項1B及び1Cは、本件特許明細書の【0025】の「前回の機器耐震解析データは、前回の機器の耐震評価時に解析したデータであり、記憶部17に格納されている。前回の機器耐震解析データは、例えば、建屋モデルの質点番号と、機器の減衰定数と、機器の固有振動数と発生応力値であって、リスト化され、前回の第1床応答曲線と共に管理している。」、【0026】の「評価部(発生応力値算出部)14は、前回の耐震評価時に作成した第1床応答曲線と、今回床応答曲線作成部13が作成した第2床応答曲線との比率を求め、この比率と前回の第2発生応力値に基づいて第2発生応力値を算出する。」との記載に基づくものである。
したがって、訂正事項1B及び1Cは、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、また、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的としており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、以下の訂正事項2Aないし2Cからなる。
訂正事項2A:訂正事項2のうち、「予め設定された地震動による前記機器の応答解析を行う建屋応答解析部」と記載されているのを、「前回の機器の耐震評価時の設計地震動と前記建屋の建設データに基づいて前記機器の応答解析を行う建屋応答解析部」に訂正する事項。
訂正事項2B:訂正事項2のうち、「作成した前記床応答曲線を機器耐震解析データとして記憶する記憶部と、」を追加する訂正をする事項。
訂正事項2C:訂正事項2のうち、「前回の耐震評価時に作成した第1床応答曲線」と記載されているのを、「前記記憶部に記憶されて前回の耐震評価時に作成した前記機器耐震解析データにおける第1床応答曲線」に訂正する事項。
ア 訂正事項2Aについて
(ア)目的について
訂正事項2Aは、本件訂正前の請求項6の発明特定事項である「予め設定された地震動による前記機器の応答解析を行う建屋応答解析部」について、「予め設定された地震動」を「前回の機器の耐震評価時の設計地震動」に限定し、さらに地震動だけでなく「前記建屋の建設データに基づいて」前記機器の応答解析を行うという限定を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項2Aは、上記(1)ア(イ)で述べたのと同様に、本件特許明細書の【0024】、【0030】の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項2Aは、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、また、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的としており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
イ 訂正事項2B及び2Cについて
(ア)目的について
訂正事項2B及び2Cは、本件訂正前の請求項6の発明特定事項である「前回の耐震評価時に作成した第1床応答曲線」について、「前記記憶部」、すなわち「作成した前記床応答曲線を機器耐震解析データとして記憶する記憶部」に記憶されている「前記機器耐震解析データにおける」床応答曲線であることの限定を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項2B及び2Cは、上記(1)イ(イ)で述べたのと同様に、本件特許明細書の【0025】、【0026】の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項2B及び2Cは、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、また、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的としており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
4 訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正による訂正事項1、2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、6について訂正を認める。
第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1ないし6に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に応じて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
なお、請求項1に付した(A)~(G)は、説明のために当審で付したものであり、以下「構成(A)」~「構成(G)」という。
「【請求項1】
(A)建屋に配置された機器の耐震評価方法であって、
(B)耐震評価装置で、前回の機器の耐震評価時の設計地震動と前記建屋の建設データに基づいて前記建屋の応答解析を行う工程と、
(C)前記耐震評価装置で、前記応答解析の結果に基づき床応答曲線を作成する工程と、
(D)前記耐震評価装置で、作成した前記床応答曲線を機器耐震解析データとして記憶部に記憶する工程と、
(E)前記耐震評価装置で、前記記憶部に記憶された前回の耐震評価時に作成した前記機器耐震解析データにおける第1床応答曲線と今回作成した第2床応答曲線との比率を算出する工程と、
(F)前記耐震評価装置で、前記比率と前回の前記耐震評価時に耐震解析を実施して求めた第1発生応力値に基づいて今回の第2発生応力値を算出する工程と、
(G)前記耐震評価装置で、前記第2発生応力値と予め設定される許容応力値とを比較して前記機器の耐震性を評価する工程と、
(A)を有することを特徴とする機器の耐震評価方法。
【請求項2】
前回の機器耐震解析データは、少なくとも建屋モデルの質点番号と前記機器の減衰定数と前記機器の固有振動数をリスト化し、前記第1床応答曲線と共に管理することを特徴とする請求項1に記載の機器の耐震評価方法。
【請求項3】
前記床応答曲線は、前記機器の固有振動数に対する加速度を表すグラフであり、前記第1床応答曲線から求まる加速度に対する前記第2床応答曲線から求まる加速度の比率に、前記第1発生応力値を乗算して前記第2発生応力値を算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の機器の耐震評価方法。
【請求項4】
前記許容応力値のうちボルトの組み合わせ応力は、前記第2発生応力値に基づいて算出されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の機器の耐震評価方法。
【請求項5】
前期第1発生応力値が前記許容応力値以下であるときに前記機器の耐震性を良好であると評価する一方、前記第2発生応力値が前記許容応力値より大きいときに前記機器の耐震性を良好でないと評価することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の機器の耐震評価方法。
【請求項6】
建屋に配置された機器の耐震評価装置であって、
前回の機器の耐震評価時の設計地震動と前記建屋の建設データに基づいて前記機器の応答解析を行う建屋応答解析部と、
前記応答解析の結果に基づき床応答曲線を作成する床応答曲線作成部と、
作成した前記床応答曲線を機器耐震解析データとして記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されて前回の耐震評価時に作成した前記機器耐震解析データにおける第1床応答曲線と今回作成した第2床応答曲線との比率と、前回の前記耐震評価時に耐震解析を実施して求めた第1発生応力値に基づいて今回の第2発生応力値を算出し、前記第2発生応力値と予め設定される許容応力値とを比較して前記機器の耐震性を評価する評価部と、
前記第2発生応力値が前記許容応力値より大きいときに前記機器の耐震性を良好でないと評価して前記機器の耐震解析を実行する機器耐震解析部と、
を備えることを特徴とする機器の耐震評価装置。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
令和4年10月14日付けで通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1.(新規性)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2.(進歩性)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
引用文献1:特開平11-72375号公報(異議申立人が提出した甲第1号証)
引用文献2:特開2003-35794号公報(異議申立人が提出した甲第2号証)
●理由1(新規性)、理由2(進歩性)について
・請求項 1ないし3、5、6
・引用文献 1
●理由2(進歩性)について
・請求項 4、5
・引用文献 1、2
2 引用文献の記載事項、引用発明
(1)引用文献1の記載及び引用発明
引用文献1には、図面とともに次の記載事項が記載されている。下線は当審が付与した。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はプラント内建屋および機器耐震裕度評価装置および方法に係り、特に、発生した地震に対して建屋および機器が有している裕度および地震応答を評価することで、運転員等に耐震安全性に関わる情報を提供し、地震後のプラント設備の点検作業の効率化を図るようにしたプラント内建屋および機器耐震裕度評価装置および方法に関する。
・・・(中略)・・・
【0004】本発明の目的は、設計上想定している地震動に対する、プラント内の建屋および機器の地震応答および裕度を予めデータベース化しておき、地震発生時には、設計地震動と観測地震動のそれぞれの地震力の比較を行い、これにより、発生した地震動に対するプラント内の建屋および機器の地震応答および裕度を適切に評価することを可能にするプラント内建屋および機器耐震裕度評価装置および方法を提供することである。
・・・(中略)・・・
【0006】【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。図1に示すように、本発明のプラント内建屋および機器耐震裕度評価装置は、設計データ格納装置1、設計地震動に対する裕度評価装置2、設計地震動に対する裕度データ格納装置3、計測装置4、計算装置5、地震力比較装置6、観測地震動に対する裕度評価装置7、破損判定装置8、観測地震動に対する裕度データ格納装置9、表示装置10などからなっている。
【0007】図2に、本発明の評価方法をチャートにしたものを示す。本発明の評価方法では、設計上想定している地震動(今後、これを設計地震動と呼ぶことにする。)に対して、建屋および機器の応答評価を行っておく(図2-段階11)。
【0008】図3に示すように、設計地震動が応答スペクトル23で定義される場合、この設計地震動の応答スペクトルから、評価する建屋および機器の固有周期、減衰によって異なるスペクトル値24を評価し、地震応答評価を行う。一定の震度という形で静的地震力が定義されている場合には、その地震力に対して地震応答評価を行う。これらの応答評価は、プラント設計時に評価したものを用いてもよいし、改めて評価したものを用いてもよい。
【0009】評価方法としては、一つには、設計指針等に示されている設計式を用いた評価がある。このような評価作業は、設計時において行われるはずであり、それを用いることが考えられる。また建屋および機器の解析モデルを作成し、静解析、動解析等によって応答評価を行うことも考えられる。いずれにしろ、プラント内の建屋および機器の設計地震動に対する応答を評価しておき、設計データ格納装置1にデータベース化しておく(図2-段階12)。
【0010】図4に、この応答評価結果のデータベースの作成例を示す。例えば、図4の項目25に示すように、各機器毎に分類してデータベース化する。データベース化しておく項目には、項目26の固有周期、項目27の減衰比、そして応答スペクトルの値に相当する地震力28などを少なくとも含んでいる。図4の例では、簡単のため、建屋および機器の複数の振動モードのうち、応答において最も支配的な振動モードの固有周期の地震力で評価している。また建屋および機器毎に想定される破損モードが複数あり、複数部位について評価しておく必要がある場合には、図4の項目29のように、さらに建屋および機器の部位毎にデータベース化する。
【0011】このとき、評価部位によって支配的となる振動モードが異なる場合には、評価部位毎に対応した振動モードの固有周期の地震力で評価を行い、それをデータベース化することが望ましい。データベース化する応答値としては、項目30のように地震荷重以外の要因による応答、例えば自重等によるものもあわせて評価しておくことが望ましい。そして設計地震動による応答評価結果31と合わせることで全体応答32を評価し、データベース化する。許容値についても、応答評価値との比較のため、項目33のように、一緒にデータベース化しておく。許容値には、各設計基準等で定められている設計値を用いる。特に定められていない場合については、降伏値、引張強度等の値を工学的判断により用いる。
【0012】これらのデータから、設計地震動に対する裕度評価装置2によって、設計地震動に対して建屋および機器が持つ裕度を評価する(図2-段階13)。ここで言う裕度とは、対象とする地震での建屋および機器の応答(地震以外の要因によるものも含む)に対して、許容値として示される建屋および機器が持つ耐力までの間の余裕を定量的に表したものとする。この裕度を定義する方法として幾つかの方法が考えられるが、以下に2つの方法について示す。
・・・(中略)・・・
【0014】第2の方法としては、次式(2)のように裕度を定義する方法が考えられる。
F=(TR)/S …(2)
ここで、F、Tについては式(1)と同様であり、Sは地震による応答、Rは自重等の地震以外の事象による応答を表している。この場合、Fが1より大きければ裕度が有ることになり、1より小さければ裕度が無く、破損が生じる可能性があることになる。この定義式により表されるFの値は、Sの値を設計地震動による応答とした場合には、設定した許容値に対して設計地震動のF倍の地震力にまで耐えられることを意味している。
【0015】したがって、建屋および機器のそれぞれに想定される複数の破損モードに対応する評価部位についてFの値を比較することにより、地震時に最も支配的となる破損モードおよび破損部位を、推定することが可能となる。このような方法により、設計地震動に対する建屋および機器の裕度を評価して、設計地震動に対する裕度データ格納装置3に記録する(図2-段階14)。図5および図6に、それぞれ上記第1の方法および第2の方法による裕度のデータベースの作成例を示す。図5、図6で、それぞれ項目34、35が各定義による裕度を表している。
【0016】地震発生時(図2-段階15)には、段階16に示すように、計測装置1により建屋および機器の入力となる地盤での地震動、建屋の床応答などの波形を計測する。計測装置4は、例えば図7に示すように、機器の入力として適切なものを計測できるような建屋36の床位置に配置し、床応答波形37を計測する。このとき加速度を計測することが、地震力の評価には適切と考えられる。ただしその限りではなく、必要に応じて速度、変位、あるいはその他の波形を計算装置5により処理し、地震力を評価する。
【0017】また、さまざまな理由で計測装置4を目的の位置に配置できない場合、あるいは適切な波形を計測できない場合も考えられる。このような場合には、図8に示すように、波形を得たい部位37の応答を求めるための解析モデル39をあらかじめ作成しておき、これの入力となる加速度波形40は計測装置4により計測し、これを入力として計算装置5で地震応答解析を行い、波形41を評価するようにする。
【0018】このようにして得た波形から、計算装置5によって地震力を計算する(図2-段階17)。地震力としては、応答スペクトルを用いることが考えられる。図9には、設計地震動の応答スペクトルの例42と観測地震動の応答スペクトルの例43を示す。図9で、符号の44は各機器の設計地震動の応答スペクトル値であり、符号の45は観測地震動の応答スペクトル値を表している。
【0019】図10に示すように、設計地震動の応答スペクトルに対する観測地震動の応答スペクトルの比46を、地震力比較装置6によって評価することで、建屋および機器の振動特性に依存することになる地震力を、設計地震動に対して相対的な量として評価することが可能となる(図2-段階18)。図10で、1.0で表される直線47上で、白丸48で表されるものが、設計地震動の応答スペクトルに相当することになる。したがって、黒丸49で表される値が設計地震動と観測地震動のスペクトルの比を表している。
【0020】地震力比較装置6の評価結果と、設計データ格納装置1、設計地震動に対する裕度データ格納装置3に格納されたデータを用いて(図2-段階19)、発生した地震に対する建屋および機器の応答、裕度を、観測地震動に対する裕度評価装置7により評価する(図2-段階20)。
【0021】発生した地震に対する建屋および機器の応答、裕度の評価方法を、以下に示す。地震時の全体応答は、次式(3)により評価する。
G=R+S*E …(3)
ここで、Gは地震発生時の全体応答を表し、Eは応答スペクトルの比を表す。RとSは式(2)と同様である。観測地震動に対する裕度の評価方法も、設計地震動に対する評価方法と同様である。ここでは、設計地震動の場合と同様の2つの方法について説明する。
【0022】第1の方法では、裕度Hを以下の式で定義する。
H=T-G …(4)
ここで、Hは観測地震動に対する裕度を表す変数であり、Tは許容値、Gは式(3)で求められる地震時の全体応答を表す。
【0023】第2の方法では、裕度Hを次式で表す。
H=(T-R)/(S*E) …(5)
ここで、式中の各変数は、これまでの式と同じである。
【0024】これらの評価結果から、発生した地震動に対して裕度がない(全体応答が許容値を越えている)機器を破損判定装置8により判定し、必要に応じて表示装置10で表示する(図2-段階21)。さらに、これらの評価結果は、観測地震動に対する裕度データ格納装置9に記録される(図2-段階22)。」
「【図2】
[図:0001401633000001.jpg]
」
「【図3】
[図:0001401633000002.jpg]
」
「【図7】
[図:0001401633000003.jpg]
」
「【図9】
[図:0001401633000004.jpg]
」
上記記載から、引用文献1には以下の事項が記載されている。
・上記【0001】、【0004】によれば、引用文献1には、発生した地震動に対するプラント内の建屋および機器の地震応答および裕度を評価する評価方法に関する発明が記載されている。
・上記【0006】、【0007】によれば、評価方法は、設計データ格納装置1、設計地震動(設計上想定している地震動)に対する裕度評価装置2、設計地震動に対する裕度データ格納装置3、計測装置4、計算装置5、地震力比較装置6、観測地震動に対する裕度評価装置7、破損判定装置8、観測地震動に対する裕度データ格納装置9、表示装置10などからなる、プラント内建屋および機器耐震裕度評価装置によってなされるものである。
・上記【0004】によれば、評価方法は、設計地震動に対する、プラント内の建屋および機器の地震応答および裕度を予めデータベース化しておき、地震発生時には、設計地震動と観測地震動のそれぞれの地震力の比較を行うものである。
・上記【0007】及び図2によれば、評価方法では、設計地震動に対して、建屋および機器の応答評価を行っておく。
・上記【0007】、【0008】及び図3によれば、設計地震動は、応答スペクトル23で定義される。また、設計地震動の応答スペクトルから、評価する建屋および機器の固有周期、減衰によって異なるスペクトル値24を評価し、地震応答評価を行い、これらの応答評価は、プラント設計時に評価したものを用いてもよいし、改めて評価したものを用いてもよいものである。
・上記【0009】、【0010】によれば、評価方法は、応答評価結果を設計データ格納装置1にデータベース化しておき、データベース化しておく項目には、固有周期、減衰比、応答スペクトルの値に相当する地震力28などを少なくとも含んでいる。
・上記【0011】、【0012】、【0015】によれば、データベース化する応答値としては、地震荷重以外の要因による応答、例えば自重等によるものもあわせて評価しておき、設計地震動による応答評価結果31と合わせることで全体応答32を評価してデータベース化し、許容値についても、応答評価値との比較のため、一緒にデータベース化し、これらのデータから、裕度評価装置2によって、設計地震動に対する建屋および機器が持つ裕度を評価して、設計地震動に対する裕度データ格納装置3に記録している。
・上記【0016】-【0018】及び図7によれば、地震発生時には、建屋36の複数箇所の床位置に配置された計測装置4によって、床応答波形37を計測し、これを入力として計算装置5で地震応答解析を行い、波形41を評価し、このようにして得た波形から、計算装置5によって、地震力を計算し、地震力としては、応答スペクトルを用いている。
・上記【0008】及び図3、並びに【0018】及び図9によれば、応答スペクトルは、固有周期に対するスペクトル(G)の折れ線グラフで表されるものである。
・上記【0019】によれば、設計地震動の応答スペクトルに対する観測地震動の応答スペクトルの比46を、地震力比較装置6によって評価している。
・上記【0020】によれば、地震力比較装置6の評価結果と、設計データ格納装置1、裕度データ格納装置3に格納されたデータを用いて、発生した地震に対する建屋および機器の応答、裕度を、観測地震動に対する裕度評価装置7により評価している。
・上記【0021】、【0014】によれば、地震時の全体応答は、次式(3)により評価し、
G=R+S*E …(3)
Gは地震発生時の全体応答を表し、Eは応答スペクトルの比を表し、Rは自重等の地震以外の事象による応答、Sは設計地震動による応答を表すものである。
・上記【0022】、【0024】によれば、裕度Hを以下の式で定義し、
H=T-G …(4)
Hは観測地震動に対する裕度を表す変数であり、Tは許容値、Gは式(3)で求められる地震時の全体応答を表すものであり、これらの評価結果から、発生した地震動に対して裕度がない(全体応答が許容値を越えている)機器を破損判定装置8により判定し、表示装置10で表示し、さらに、これらの評価結果は、観測地震動に対する裕度データ格納装置9に記録されるものである。
したがって、上記摘示事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、(a)~(d8)は、説明のために当審で付与したものであり、以下、「構成(a)」~「構成(d8)」という。
(引用発明)
(a)発生した地震動に対するプラント内の建屋および機器の地震応答および裕度を評価する評価方法であって、
(b)設計データ格納装置1、設計地震動(設計上想定している地震動)に対する裕度評価装置2、設計地震動に対する裕度データ格納装置3、計測装置4、計算装置5、地震力比較装置6、観測地震動に対する裕度評価装置7、破損判定装置8、観測地震動に対する裕度データ格納装置9、表示装置10などからなる、プラント内建屋および機器耐震裕度評価装置によってなされ、
(c)設計地震動に対する、プラント内の建屋および機器の地震応答および裕度を予めデータベース化しておき、地震発生時には、設計地震動と観測地震動のそれぞれの地震力の比較を行うものであり、
(d0)設計地震動に対して、建屋および機器の応答評価を行っておき、
(d01)設計地震動は、応答スペクトル23で定義され、設計地震動の応答スペクトルから、評価する建屋および機器の固有周期、減衰によって異なるスペクトル値24を評価し、地震応答評価を行い、これらの応答評価は、プラント設計時に評価したものを用いてもよいし、改めて評価したものを用いてもよいものであり、
(d1)応答評価結果を設計データ格納装置1にデータベース化しておき、
(d11)データベース化しておく項目には、固有周期、減衰比、応答スペクトルの値に相当する地震力28などを少なくとも含んでおり、
(d12)データベース化する応答値としては、地震荷重以外の要因による応答、例えば自重等によるものもあわせて評価しておき、設計地震動による応答評価結果31と合わせることで全体応答32を評価してデータベース化しており、
(d13)許容値についても、応答評価値との比較のため、一緒にデータベース化しておき、
(d2)これらのデータから、裕度評価装置2によって、設計地震動に対する建屋および機器が持つ裕度を評価して、
(d3)設計地震動に対する裕度データ格納装置3に記録しておき、
(d4)地震発生時には、建屋36の複数箇所の床位置に配置された計測装置4によって、床応答波形37を計測し、
(d5)これを入力として計算装置5で地震応答解析を行い、波形41を評価し、このようにして得た波形から、計算装置5によって、地震力を計算し、地震力としては、応答スペクトルを用いており、
(d51)応答スペクトルは、固有周期に対するスペクトル(G)の折れ線グラフで表されるものであり、
(d6)設計地震動の応答スペクトルに対する観測地震動の応答スペクトルの比46を、地震力比較装置6によって評価し、
(d7)地震力比較装置6の評価結果と、設計データ格納装置1、裕度データ格納装置3に格納されたデータを用いて、発生した地震に対する建屋および機器の応答、裕度を、観測地震動に対する裕度評価装置7により評価し、
(d71)地震時の全体応答は、次式(3)により評価し、
G=R+S*E …(3)
Gは地震発生時の全体応答を表し、Eは応答スペクトルの比を表し、Rは自重等の地震以外の事象による応答、Sは設計地震動による応答を表すものであり、
(d72)裕度Hを以下の式で定義し、
H=T-G …(4)
Hは観測地震動に対する裕度を表す変数であり、Tは許容値、Gは式(3)で求められる地震時の全体応答を表すものであり、
(d8)これらの評価結果から、発生した地震動に対して裕度がない(全体応答が許容値を越えている)機器を破損判定装置8により判定し、表示装置10で表示し、さらに、これらの評価結果は、観測地震動に対する裕度データ格納装置9に記録される、
(a)評価方法。
(2)引用文献2の記載及び引用文献2記載の技術事項
引用文献2には、図面とともに、次の技術事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は自立型使用済み燃料ラックに係り、詳しくは基礎ボルトを水平方向支持機能に限って利用する上記自立型使用済み燃料ラックに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、原子力発電所に設置する支持構造物の耐震設計では原則として建物・構築物に設定された埋め込み金物、鋼構造物あるいは基礎ボルトを用いて強固に固定することが要求されている。基礎ボルトを用いる場合は、通常支持構造物と基礎ボルトの締結部をナットで固定する。使用済み燃料ラック(以下、単にラックという)は支持構造物に分類されるため上記設計が踏襲されている。
・・・(中略)・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、ラックを基礎ボルトにナットを使って固定する場合、地震時には水平方向地震力に起因する水平方向荷重と、転倒モーメントに逆らってラックを支持するために基礎ボルトには引張荷重とせん断荷重を同時に生じる。
・・・(中略)・・・
【0006】ところが、既設の基礎ボルトにナットを使ってラックを固定する限り、新規ラックの設計地震荷重が既設ラックより大きくなる場合、耐震上、基礎ボルトの強度上の裕度(許容応力と発生応力の差)は小さくなる。更に要求されるラック稠密化を達成するには既設ボルトでは強度が不足し、稠密化の足かせになる場合があるという問題点がある。」
「【0015】
【実施例】ラック貯蔵量を約2倍に稠密化する場合について想定した。例えば5×6のブロックを7×8とする。地震時に基礎ボルトに生じる荷重が単純化してせん断,引張とも2倍になるものとする。その際の基礎ボルト発生応力評価例を表1に示す。
【0016】
【表1】
[図:0001401633000005.jpg]
【0017】上記表1に照らし既設ラックでは基礎ボルトに生じるせん断応力、引張応力がそれぞれ50(N/mm2)、100(N/mm2)である場合、組み合わせ応力は132(N/mm2)である。一方、それらに対する許容応力値はそれぞれ118(N/mm2)、205(N/mm2)、205(N/mm2)である。
【0018】次に新規ラックの貯蔵容量を既設ラックの2倍に稠密化すると、従来技術ではせん断応力及び引張応力はそれぞれ100(N/mm2)、200(N/mm2)となり、許容応力値以下である。ところが、組み合わせ応力は265(N/mm2)となり、許容応力値を超えてしまうので2倍の稠密化が成立しない。
【0019】一方、これに対し本発明を適用した場合には、せん断応力及び引張応力はそれぞれ100(N/mm2)、0(N/mm2)となる。また、組み合わせ応力は173(N/mm2)となり、何れも許容応力値以内なので2倍の稠密化が達成できる。
【0020】即ち、上記表1より本発明を適用した場合には、従来の場合が2倍の稠密化不成立であるのに対し、充分、許容応力値以内で2倍の稠密化が達成できることが理解される。」
上記記載によれば、引用文献2には、原子力発電所に設置する支持構造物の耐震設計に関して、以下の技術が記載されている。
「建物・構築物に設定された基礎ボルトにナットを使って支持構造物を固定する場合には、組み合わせ応力が発生すること、及びその許容応力値を算出すること」
3 当審の判断
(1)本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比する。
ア 構成(A)について
引用発明の「機器」は、プラント内のものであるから、プラント内の建屋に配置された機器を含むものである。
また、引用発明の「評価方法」は、地震動に対して裕度がない(全体応答が許容値を越えている)機器を判定しており(構成(d8))、機器の耐震性を評価するといえるものである。
したがって、引用発明の「評価方法」は本件発明1の「建屋に配置された機器の耐震評価方法」に相当する。
イ 構成(B)について
引用発明の「評価方法」がなされる「機器耐震裕度評価装置」(構成(b))は、本件発明1の「耐震評価装置」に相当する。
また、引用発明の構成(d0)において行われる「設計地震動」に対する「建屋および機器の応答評価」は、構成(d4)以降の地震発生時の評価より前のものであり、前回の機器の耐震評価時のものといえる。
そうすると、引用発明は、地震発生時には「設計地震動」と「観測地震動」のそれぞれの地震力の比較を行って(構成(c))、建屋および機器の地震応答、裕度を評価するから、前回の機器の耐震評価時の設計地震動に基づいて、建屋の応答解析を行っているといえる。
したがって、引用発明と本件特許の構成(B)は、「耐震評価装置で、前回の機器の耐震評価時の設計地震動に基づいて前記建屋の応答解析を行う工程」を有する点で共通する。
ただし、建屋の応答解析に関して、本件発明1は「前回機器の耐震評価時の設計地震動」だけでなく「建屋の建設データ」にも基づいて応答解析を行うのに対して、引用発明はその旨の特定がない点で相違する。
ウ 構成(C)、(D)について
本件発明1の「床応答曲線」は、本件特許明細書の【0024】、【0028】、【0032】及び図4を参照すると、周期に対する加速度のグラフ(横軸が「周期[s]」、縦軸が「加速度[G]」のグラフ)であり、折れ線(実線)で表されるものが含まれる。
ここで、引用発明の「応答スペクトル」は、「固有周期に対するスペクトル(G)の折れ線グラフ」(構成(d51))で表され、本件発明1の「床応答曲線」と同様に、横軸を周期、縦軸をGとする折れ線グラフである。
また、引用発明は、構成(d4)において「建屋36の複数箇所の床位置」に複数の「計測装置4」を配置していることを鑑みると、「建屋36の複数箇所の床位置」についても応答評価を行っていると考えるのが自然である。
そうすると、引用発明の構成(d51)の「応答スペクトル」は、「建屋36の複数箇所の床位置」の応答評価を含む床応答曲線といえるものであり、引用発明は本件発明1の構成(C)の「前記耐震評価装置で、前記応答解析の結果に基づき床応答曲線を作成する工程」に相当する構成を有している。
また、引用発明は、構成(d11)において「応答スペクトルの値に相当する地震力28」をデータベース化する項目に含んでおり、引用発明は本件発明1の構成(D)の「前記耐震評価装置で、作成した前記床応答曲線を機器耐震解析データとして記憶部に記憶する工程」に相当する構成を有している。
エ 構成(E)について
上記ウで述べたとおり、引用発明の「応答スペクトル」は本件発明1の「床応答曲線」に相当する。
また、引用発明の構成(d6)の「設計地震動の応答スペクトル」、「観測地震動の応答スペクトル」は、それぞれ、本件発明1の「前回の耐震評価時に作成した第1床応答曲線」、「今回作成した第2床応答曲線」に相当する。
したがって、引用発明の構成(d6)において「地震力比較装置6」によって「設計地震動の応答スペクトルに対する観測地震動の応答スペクトルの比46を評価」することは、本件発明1の「前記耐震評価装置で、前回の耐震評価時に作成した第1床応答曲線と今回作成した第2床応答曲線との比率を算出する工程」に相当する。
オ 構成(F)について
引用発明は、構成(d71)において「地震時の全体応答」を「G=R+S*E」により算出しており、式中の「E」は「応答スペクトルの比」を表し、「S」は「設計地震動による応答」を表すから、「応答スペクトルの比」(E)と「設計地震動による応答」(S)に基づいて「地震時の全体応答」(G)を算出するといえる。
したがって、引用発明の「応答スペクトルの比」(E)、「設計地震動による応答」(S)、「地震時の全体応答」(G)は、それぞれ、本件発明1の「前記比率」、「第1発生応力値」、「第2発生応力値」に相当し、引用発明は本件発明1の「前記耐震評価装置で、前記比率と前回の前記耐震評価時に耐震解析を実施して求めた第1発生応力値に基づいて今回の第2発生応力値を算出する工程」を有している。
カ 構成(G)について
上記アで述べたとおり、引用発明の「評価方法」は、機器の耐震性を評価するといえるものである。
そうすると、引用発明は、構成(d72)において「観測地震動に対する裕度」を「H=T-G」によって評価しており、式中の「T」は「許容値」、「G」は「地震時の全体応答」を表すから、「地震時の全体応答」(G)が「許容値」(T)を超えているかを比較し、「裕度」(H)に基づいて機器の耐震性を評価しているといえる。
また、上記オで述べたとおり、引用発明の「地震時の全体応答」(G)は、本件発明1の「第2発生応力値」に相当する。
してみると、引用発明の「許容値」(T)は、本件発明1の「予め設定される許容応力値」に相当し、引用発明は本件発明1の「前記耐震評価装置で、前記第2発生応力値と予め設定される許容応力値とを比較して前記機器の耐震性を評価する工程」を有している。
キ したがって、本件発明1と引用発明との間の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
(A)建屋に配置された機器の耐震評価方法であって、
(B)’耐震評価装置で、前回の機器の耐震評価時の設計地震動に基づいて前記建屋の応答解析を行う工程と、
(C)前記耐震評価装置で、前記応答解析の結果に基づき床応答曲線を作成する工程と、
(D)前記耐震評価装置で、作成した前記床応答曲線を機器耐震解析データとして記憶部に記憶する工程と、
(E)前記耐震評価装置で、前記記憶部に記憶された前回の耐震評価時に作成した前記機器耐震解析データにおける第1床応答曲線と今回作成した第2床応答曲線との比率を算出する工程と、
(F)前記耐震評価装置で、前記比率と前回の前記耐震評価時に耐震解析を実施して求めた第1発生応力値に基づいて今回の第2発生応力値を算出する工程と、
(G)前記耐震評価装置で、前記第2発生応力値と予め設定される許容応力値とを比較して前記機器の耐震性を評価する工程と、
(A)を有することを特徴とする機器の耐震評価方法。
<相違点>
建屋の応答解析に関して、本件発明1は「前回機器の耐震評価時の設計地震動」だけでなく「建屋の建設データ」にも基づいて建屋の応答解析を行うのに対して、引用発明はその旨の特定がない点。
上記のとおり、本件発明1と引用発明は相違点があるから、本件発明1は引用文献1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。
次に上記相違点について検討する。
引用文献1及び引用文献2には、本件発明1のように「前回機器の耐震評価時の設計地震動」だけでなく「建屋の建設データ」にも基づいて、建屋の応答解析を行うことについて記載も示唆もない。
また、建屋や機器の耐震評価方法に係る技術分野において、「前回の機器の耐震評価時の設計地震動」と「建屋の建設データ」に基づいて、建屋の応答解析を行うことが技術常識であることの証拠はない。
したがって、本件発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(2)本件発明2、3、5、6について
本件発明6は、本件発明1に対応する「装置」のカテゴリの発明として特定したものであり、上記(1)で検討した相違点に係る本件発明1の構成Bと同じ構成を含むものである。
また、本件発明2、3、5は、請求項1を引用するものであり、本件発明1に対して、さらに限定した構成を追加したものである。
よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2、3、5、6は、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反してされたものではない。
(3)本件発明4、5について
本件発明4、5は、請求項1を引用するものであり、本件発明1に対して、さらに限定した構成を追加したものである。
よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明4、5は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由は、本件訂正によって全て解消した。
また、本件発明1ないし6は、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反してされたものではない。
4 申立人の意見について
申立人は、令和5年2月17日に提出した意見書において、訂正事項1における「耐震評価装置で、予め設定された地震動による前記建屋の応答解析を行う工程と、」を「耐震評価装置で、前回の機器の耐震評価時の設計地震動と前記建屋の建設データに基づいて前記建屋の応答解析を行う工程と、」にする訂正、及び訂正事項2における「予め設定された地震動による前記機器の応答解析を行う建屋応答解析部と、」を「前回の機器の耐震評価時の設計地震動と前記建屋の建設データに基づいて前記機器の応答解析を行う建屋応答解析部と、」にする訂正は、新規事項追加に該当し、また、特許法第120条の5第2項(目的要件)に違反するとともに、特許法第120条の5第9項で準用する第6項(拡張変更)で規定する特許請求の範囲の拡張、変更に該当しており、令和4年12月19日付けの訂正請求は、特許法で規定する訂正要件に違反し、認められないものであるから、訂正後の訂正特許発明の新規性及び進歩性について論ずる必要はなく、訂正前の本件特許発明1~6は異議申立書で述べたように新規性及び進歩性を欠くものである旨主張している。
しかしながら、上記「第2」で述べたとおり、本件訂正は本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700622