特許異議申立
2024-700394
アンモニア燃料ボイラ、及び、アンモニア供給システム
- 審判番号
- 2024-700394
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-059166
- 登録番号
- 7369158
- 請求日
- 2024年04月25日
- 審決日
- 2026年05月11日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱重工業株式会社
- 【権利者代理人】SSIP弁理士法人
- 【異議申立人】田中 理紗
- 審判長/審判官
- 審判長 平瀬 知明
- 審判官 松永 謙一
- 審判官 槙原 進
- 分類
- P1651.113-YAA(F23D) / P1651.121-YAA(F23D) / P1651.537-YAA(F23D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第113条第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第7項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条、特許法第113条第4号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第7項、特許法第126条第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7369158号発明「アンモニア燃料ボイラ、及び、アンモニア供給システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7369158号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
特許第7369158号の請求項1~8に係る特許を維持する。
特許第7369158号の請求項9、10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7369158号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和3年3月31日の出願であって、令和5年10月17日にその特許権の設定登録がされ、同年10月25日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年 4月25日 :特許異議申立人 田中理紗(以下「申立人」という。)による請求項1~10に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 6月27日付け:取消理由通知
同年 8月15日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
同年 9月 5日 :特許権者による手続補正書(方式)の提出
同年11月21日 :申立人による意見書の提出
令和7年 2月28日 :取消理由通知(決定の予告)
同年 5月 1日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
同年 6月17日 :申立人による意見書の提出
なお、令和6年8月15日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、令和7年5月1日に提出された訂正請求書による訂正の請求がされたため、取り下げられたものとみなす(特許法第120条の5第7項)。
第2 本件訂正による訂正の適否
1 本件訂正の内容について
令和7年5月1日の訂正の請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線部は、訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「を含むアンモニア燃料ボイラ。」と記載されているのを、「を含み、前記アンモニアバーナによる前記液体アンモニアの噴射の開始前に、炭素含有燃料を前記火炉の前記内部に噴射するように構成された燃料バーナであって、前記アンモニアバーナによる前記液体アンモニアの噴射の開始後、前記炭素含有燃料の噴射を停止するように構成される燃料バーナを備えるアンモニア燃料ボイラ。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~8も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項9を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明に、「前記アンモニアバーナによる前記液体アンモニアの噴射の開始前に、炭素含有燃料を前記火炉の前記内部に噴射するように構成された燃料バーナであって、前記アンモニアバーナによる前記液体アンモニアの噴射の開始後、前記炭素含有燃料の噴射を停止するように構成される燃料バーナ」という発明特定事項を直列的に付加するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1によって付加される発明特定事項は、訂正前の請求項9で特定される発明特定事項と同じである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、発明特定事項の直列的付加に該当するものである。
したがって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1~10に特許異議の申立てがされているので、請求項1~8に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、請求項9を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、請求項9を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、請求項9を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1~10に特許異議の申立てがされているので、請求項9に係る訂正事項2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は、請求項10を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、請求項10を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、請求項10を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1~10に特許異議の申立てがされているので、請求項10に係る訂正事項3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(4)一群の請求項
訂正前の請求項1~10について、請求項2~10は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~10に対応する訂正後の請求項1~10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 小括
以上のことから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項、第6項に適合するから、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正により訂正された請求項1~10に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明10」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
火炉壁を含む火炉と、
前記火炉壁に設けられるアンモニアバーナと
を備え、
前記アンモニアバーナは、
液体アンモニアが供給されるように構成されたアンモニア供給路と、
前記アンモニア供給路から供給される前記液体アンモニアを液状のまま前記火炉の内部に噴射するように構成されたアンモニア噴射ノズルと
を含み、
前記アンモニアバーナによる前記液体アンモニアの噴射の開始前に、炭素含有燃料を前記火炉の前記内部に噴射するように構成された燃料バーナであって、前記アンモニアバーナによる前記液体アンモニアの噴射の開始後、前記炭素含有燃料の噴射を停止するように構成される燃料バーナを備える
アンモニア燃料ボイラ。
【請求項2】
前記アンモニア噴射ノズルによって噴射された液状のアンモニアは、前記火炉の内部でアンモニアガスに気化して燃焼する請求項1に記載のアンモニア燃料ボイラ。
【請求項3】
前記アンモニアバーナは、前記アンモニア供給路において液体アンモニアが気化することに起因するベーパロックが抑制される供給圧力で前記液体アンモニアが供給される、請求項2に記載のアンモニア燃料ボイラ。
【請求項4】
前記アンモニア噴射ノズルは、アシスト流体を用いずに前記液体アンモニアを液状のまま噴射するための1流体ノズルである請求項1に記載のアンモニア燃料ボイラ。
【請求項5】
前記アンモニア噴射ノズルは、起動用燃料と前記液体アンモニアを噴射できる両用ノズルである請求項1記載のアンモニア燃料ボイラ。
【請求項6】
前記アンモニアバーナは、前記火炉内で生じる燃焼火炎を保炎するように構成された保炎効果を有する機構を備える請求項1から5のいずれかに記載のアンモニア燃料ボイラ。
【請求項7】
前記保炎効果を有する機構は、
前記アンモニア噴射ノズルが内側に配置される内筒と、
前記内筒を囲むように配置され、前記火炉の内部と連通する空気供給路が前記内筒との間で形成される外筒と、
前記空気供給路に設けられ、前記空気供給路を流れる空気に旋回力を付与するように構成されたスワラと
を備える請求項6に記載のアンモニア燃料ボイラ。
【請求項8】
前記火炉の内部で生じるガスの流れ方向において前記アンモニアバーナよりも上流側に設けられ、炭素含有燃料を燃焼させるように構成された燃料バーナを備える請求項1から7のいずれかに記載のアンモニア燃料ボイラ。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
(削除)」
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由通知(決定の予告)の概要
当審が令和7年2月28日付けの取消理由通知に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
理由1(進歩性)
本件特許の請求項5~8、10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1、3、7、8、9号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、その発明に係る特許は特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである。
理由2(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の請求項10の記載が特許法第36条第6項第2号の規定に違反し、特許法第36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その発明に係る特許は特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである。
記
<甲号証>
甲第1号証:特開2010-19195号公報
甲第3号証:実用新案登録第3220107号公報
甲第7号証:特開2016-145695号公報
甲第8号証:特開2019-178823号公報
甲第9号証:特公昭58-9327号公報
(合議体注:甲第3号証は主引例であり、甲第1、7、8、9号証は副引用例である。)
第5 理由1(進歩性)に対する当審の判断
1 甲号証の記載
(1)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載事項及び図示事項
甲第3号証には、以下の事項が記載及び図示されている(下線部は、当審による付与したものである。以下同様)。
(ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術の不足に対して、本考案は、火力発電所における電解水素製造・アンモニア合成システムを提供し、ピーク負荷調整周波数変調電力を利用し、発電所内に電解水素製造、空気分離窒素・酸素製造を実現し、その後、得られる窒素や水素を利用し、アンモニア合成技術によってアンモニアを合成し、それで発電所を多種類の気体や燃料製品を生産する電気化学工場に転化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本考案は、上記目的を実現するために、下記技術様態を採用する。
【0009】
火力発電所における電解水素製造・アンモニア合成システムであり、電解水素製造装置とアンモニア合成装置とを含み、前記電解水素製造装置は、電源入力端で火力発電所の電力出力端と電気的に接続され、それにより、火力発電所のピーク負荷バランス電量を用いて、電源のために、電解することで水素と酸素を製造し、前記電解水素製造装置は、水素出力端でアンモニア合成装置の水素入口に接続され、前記アンモニア合成装置の窒素入口は窒素ソースに接続され、前記アンモニア合成装置を利用して、前記電解水素製造装置にて生成された水素と窒素ソースからの窒素からアンモニアを合成することができ、前記アンモニア合成装置はアンモニア出力端によって、前記火力発電所のアンモニア供給パイプ及び/又は液体窒素貯蔵タンクに連通される。
【0010】
更に、前記アンモニア供給パイプは、火力発電所の、ボイラの炉床におけるマルチ燃料バーナと連通されることによって、燃料として炉床燃焼に参加し、かつ/又は火力発電所に、ボイラの後部煙道に設けた排ガス浄化・脱硝装置SCRの作業面内に連通するのに用いられる。」
(イ)「【0023】
<実施例1>
図1に示すように、火力発電所における電解水素製造・アンモニア合成システムであり、電解水素製造装置1とアンモニア合成装置2を含み、前記電解水素製造装置1は、電源入力端で火力発電所の電力出力端と電気的に接続され、前記電解水素製造装置1は、水素出力端でアンモニア合成装置2の水素入口に接続され、前記アンモニア合成装置2の窒素入口は窒素ソースに接続され、前記アンモニア合成装置2はアンモニア出力端によって、前記火力発電所のアンモニア供給パイプと液体アンモニア貯蔵タンク12に連通される。前記アンモニア供給パイプは、アンモニア供給パイプと液体アンモニア供給パイプを含んでもよい。
【0024】
上記火力発電所における電解水素製造・アンモニア合成システムの稼動原理は、普通、送電網派遣センタが区域内の実時間発電とピーク負荷調整要件に基づいて、火力発電所の集中管理センタにピーク負荷調整指令を送信し、前記火力発電所の集中管理センタは該ピーク負荷調整指令によって、火力発電所のピーク負荷バランス電量を制御する。上記火力発電所の電解水素製造・アンモニア合成システムにおいて、火力発電所のピーク負荷バランス電量は電解水素製造装置に電源を提供し、前記電解水素製造装置に製造された水素をアンモニア合成システムに輸送する。アンモニア合成システムは、前記電解水素製造装置から水素を取得し、窒素ソースから窒素を得た後、高温・高圧にてアンモニアを合成して、火力発電所のアンモニア供給パイプによって、火力発電所のアンモニアを必要とする各々のシステムに提供する。余分なアンモニアは液体アンモニア貯蔵タンク12に貯蔵することができ、低温液化されてタンクに充填された液体アンモニアは販売可能である。」
(ウ)「【0026】
一般的に、前記火力発電所の発電装置は火力発電ユニットであって、発電機101、蒸気タービン102、コンデンサ103、低圧ヒータ104、脱気器105、高圧ヒータ106とボイラ107を含み、前記電解水素製造装置1の電源入力端は発電機101の電源出力端に接続され、前記発電機101はピーク負荷バランス電量を用いて、電解水素製造装置1に電源を提供する。
【0027】
更に、前記アンモニア供給パイプは、火力発電所の、ボイラ107の炉床におけるマルチ燃料バーナ110と連通されることによって、燃料として炉床燃焼にアンモニアを参加させ、かつ/又は、火力発電所に、ボイラの後部煙道に設けた排ガス浄化・脱硝装置SCRの作業面108内に連通するために用いられる。
【0028】
アンモニアがボイラの炉床におけるマルチ燃料バーナ内に入って、燃料として炉床に燃焼し、その一部が石炭を代替する(ので?)、ボイラの石炭使用量とCO2排出量を低下させることができる。液体アンモニアが、排ガス浄化・脱硝装置SCRの作業面に入ることは、SCR作業面のアンモニアスプレープロセスを実現できる。本実施例において、前記アンモニア供給パイプは先ずアンモニアスプレー装置109に連通され、該アンモニアスプレー装置からSCR作業面に噴射する。」
(エ)「【0043】
液体アンモニアがボイラー107の炉床に燃料として入って燃焼し、その一部が石炭を代替するので、ボイラ-の石炭使用量とCO2排出量を低下させることができる。また、液体アンモニアをアンモニアスプレー装置109に入力し、排ガス浄化・脱硝装置SCRの作業面108に噴射するので、SCR作業面のアンモニアスプレープロセスを実現できる。」
(オ)「【図1】
[図:0001438255000001.jpg]
」
(カ)一般に、「火炉」は、「ボイラにおいて燃料を燃焼させるための空間」(一般社団法人機械工学学会「機械工学事典」)と定義されるものである。そして、上記(ウ)及び(エ)の記載事項から、「ボイラ107」は、「マルチ燃料バーナ110」の設けられる箇所において燃料を燃焼させるための火炉を備えているといえる。
(キ)上記(オ)の図示事項から、「マルチ燃料バーナ110」は、「ボイラ107」の壁部に設けられていることが看て取れる。そして、上記(カ)の認定事項から、「マルチ燃料バーナ110」は、「ボイラ107」の火炉の壁部に設けられているといえる。
(ク)ボイラの燃焼に用いられる「バーナ」が、燃料を供給する「燃料供給路」と、燃料を火炉の内部に噴射する「噴射ノズル」を備えることは、技術常識である。そして、上記(ウ)及び(エ)の記載事項から、「マルチ燃料バーナ110」は、「液体アンモニア」を供給する「燃料供給路」と、燃料供給路から供給される液体アンモニアを火炉の内部に噴射する「噴射ノズル」とを含むものであるといえる。
イ 甲第3号証に記載された発明
上記アを踏まえると、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
[甲3発明]
「壁部を含む火炉と、
壁部に設けられるマルチ燃料バーナ110と
を備え、
マルチ燃料バーナ110は、
液体アンモニアを供給する燃料供給路と、
燃料供給路から供給される液体アンモニアを火炉の内部に噴射する噴射ノズルと
を含むボイラ107を備え、
噴射ノズルによって噴射された液体アンモニアがボイラ107の炉床に燃料として入って燃焼し、その一部が石炭を代替する、火力発電所における電解水素製造・アンモニア合成システム。」
(2)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載事項及び図示事項
甲第1号証には、以下の事項が記載及び図示されている。
(ア)「【0012】
難燃性のアンモニアを燃料として利用しようとした場合、燃焼させるのが最も困難なのはガスタービン等を始動させる時及びその直後である。始動時及び始動直後はガスタービンの燃焼器等の構成部品の温度や供給される空気の温度が低く、不完全燃焼を生じやすい。このように不完全燃焼が生じやすい理由としては主に以下の二つが挙げられる。
【0013】
第一の理由は、燃料と空気の混合気の均一性である。混合気を完全燃焼させるためには、液体燃料を気化させてガス状態にすると共に供給される空気と均一に混合させる必要がある。まず、液体燃料が気化するためには気化熱を周囲から奪う必要があるが、この時に燃焼器等の構成部品の温度が低いと液体燃料に十分な熱が与えられない。このため、構成部品の温度が低いと液体燃料の気化が不完全となり、燃料ガスと空気との均一な混合気が得られない。」
(イ)「【0017】
このように、難燃性のアンモニアを燃料として利用すると、ガスタービンの始動時及び始動直後等に不完全燃焼が発生してしまう。このように不完全燃焼が発生すると、多量の未燃分がガスタービンの外へ排出される。
【0018】
さらに、難燃性のアンモニアを燃料として利用しようとした場合、ガスタービン等の通常運転中(すなわち、ガスタービン等の始動時・始動直後や停止直前等ではなく、安定して定常的なガスタービンの運転が行われている時)においても不測の事態により混合気が乱れ、混合気の濃度が可燃範囲を逸脱してしまう場合がある。この場合にも部分的に不完全燃焼が発生し、燃焼ガスの温度が一気に低下すると共に周囲に多量の未燃分が排出されることになる。」
(ウ)「【0044】
図2は、燃焼器40の概略拡大図であり、図中の矢印は空気及び燃焼ガスの流れを示している。図2に示したように、燃焼器40は、燃焼器内筒41、燃料器内筒41に連通する燃焼器尾筒42とを具備する。燃焼器内筒41の中心軸線上にパイロットノズル43が配置されており、このパイロットノズル43の周りには複数のメイン予混合ノズル44が周方向に等角度間隔で配置されている。パイロットノズル43にはパイロットノズル43にパイロット燃料(拡散燃焼させるための燃料)を供給するパイロット燃料用パイプ43aが設けられ、メイン予混合ノズル44にはメイン予混合ノズル44にメイン燃料(予混合燃焼させるための燃料)を供給するメイン燃料用パイプ44aが設けられる。
【0045】
次に、このように構成された燃焼器40での空気及び燃料の流れ並びに燃料の燃焼形態について説明する。圧縮機30によって圧縮された空気は、図2中に矢印Aで示したように、圧縮機30から流出する。圧縮機30から流出した圧縮空気は、ケーシング20内を流れて燃焼器内筒41の開口端部から燃焼器内筒41内に流入し、その後、パイロットノズル43及びメイン予混合ノズル44に流入する。
【0046】
パイロットノズル43及びメイン予混合ノズル44では、流入した圧縮空気に対して燃料が噴射され、これらノズル43、44では混合気が形成される。パイロットノズル43の噴孔から噴出された混合気はパイロット拡散火炎を形成し、メイン予混合ノズル44の噴孔から噴出された混合気はパイロット拡散火炎に接触して主火炎を形成して燃焼する。このような混合気の燃焼によって得られた燃焼ガスは、燃焼器尾筒42を介してタービン50に供給され、これによりタービン50が回転せしめられる。」
(エ)「【0052】
ここで、上述したような燃焼器内筒41及びノズル43、44の形状の改良や、点火装置の強化によってはガスタービン1の冷間始動時及び冷間始動直後にアンモニアを安定して燃焼させることが困難である点を考慮すると、アンモニアに加えて何らかの別の安定した熱発生源が必要になると共に、核となる火炎を保持する必要がある。また、火力発電所のガスタービンは、従来から天然ガス、重油、微粉炭等の化石燃料の使用を前提に設計されている。
【0053】
そこで、本実施形態では、ガスタービン1の通常運転時に比べてアンモニアの燃焼性が悪化する運転領域であるガスタービン1の冷間始動時及び冷間始動直後には、ガスタービン1に、すなわち燃焼器40に天然ガスを供給し、ガスタービン1が十分に暖機した後で燃料を天然ガスからアンモニアに切り替えるようにしている。
【0054】
図3は、ガスタービン1の冷間始動時及び冷間始動直後における燃焼器内筒(すなわち、燃料燃焼部)41周りの雰囲気温度(すなわち、燃焼器40自体の温度、圧縮空気の温度、燃焼ガスの温度等)、ガスタービン1へのアンモニアの供給量及び天然ガスの供給量のタイムチャートである。図3に示したように、時刻t0においてガスタービン1が始動されるまでは、燃焼器内筒41内の雰囲気温度は低くされている。このような状態で、時刻t0においてガスタービン1が始動されると、まずガスタービン1には天然ガスのみが供給される。天然ガスはアンモニアに比べて燃焼性の高い燃料であるため、燃焼器内筒41周りの雰囲気温度が低くても、ほぼ完全燃焼させることができる。従って、ガスタービン1の冷間始動時及び冷間始動直後に天然ガスのみを供給することにより、ガスタービン1を良好に運転させることができる。
【0055】
その後、天然ガスの燃焼によりガスタービン1が駆動され、これに伴って燃焼器内筒41周りの雰囲気温度が上昇して、ガスタービン1の通常運転時における燃焼器内筒41周り雰囲気温度とほぼ等しい温度に到達すると、或いはアンモニアの燃焼性がガスタービン1の通常運転時とほぼ等しくなるような運転状態となると、ガスタービン1への天然ガスの供給量の減量が開始されると共に、ガスタービン1へのアンモニアの供給量の増量が開始される(図3中の時刻t1)。このとき、燃焼器内筒41周りの雰囲気温度は十分に高温となっているため、ガスタービン1にアンモニアが供給されてもアンモニアは不完全燃焼することなく良好に燃焼せしめられる。
【0056】
その後、ガスタービン1への天然ガスの供給量は徐々に減少せしめられると共に、ガスタービン1へのアンモニアの供給量は徐々に増加せしめられ、最終的にはアンモニアのみがガスタービン1に供給されるようになる(図中の時刻t2)。このときも燃焼器内筒41周りの雰囲気温度は既に十分に高温となっているため、アンモニアは不完全燃焼することなく良好に燃焼せしめられる。」
(オ)「【0073】
なお、上記実施形態では、アンモニアよりも燃焼性の高い燃料として天然ガスを用いているが、石油等、他の化石燃料を用いてもよいし、アンモニアよりも燃焼性の高い燃料であれば化石燃料以外の燃料を用いてもよい。」
(カ)「【0075】
さらに、上記実施形態では、主にアンモニアを燃料として駆動されるタービンを備えたタービン設備がガスタービンとされているが、斯かるタービン設備をボイラを備えた蒸気タービンとすることも可能である。この場合、ガスタービン1の燃焼器40の代わりにボイラにおいて燃料の燃焼が行われる。」
(キ)「【図1】
[図:0001438255000002.jpg]
」
(ク)「【図2】
[図:0001438255000003.jpg]
」
(ケ)「【図3】
[図:0001438255000004.jpg]
」
(コ)上記(ウ)の記載事項と上記(ク)の図示事項から、燃焼器内筒41のうち、パイロットノズル43及びメイン予混合ノズル44からの燃料の噴出先が燃焼室であることが理解でき、燃焼器内筒41の燃焼室の区画壁部にパイロットノズル43及びメイン予混合ノズル44が設けられていることが看て取れる。
(サ)上記(ウ)及び(エ)の記載事項から、ガスタービン1はパイロットノズル43及びメイン予混合ノズル44を有し、また、ガスタービン1にはパイロットノズル43及びメイン予混合ノズル44からアンモニア及び天然ガスが供給されることが理解できるが、アンモニア及び天然ガスのそれぞれがパイロットノズル43及びメイン予混合ノズル44からどのように供給されるものであるのか(いずれか一方から供給されるのか、又は、両方から供給されるのか等)は不明である。したがって、アンモニア及び天然ガスのそれぞれは、少なくともパイロットノズル43及びメイン予混合ノズル44の一方から供給されるものであると理解できる。
イ 甲第1号証に記載された発明
上記アを踏まえると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
[甲1発明]
「区画壁部を含む燃焼器内筒41の燃焼室と、
区画壁部に設けられるパイロットノズル43及びメイン予混合ノズル44と
を備え、
パイロットノズル43及びメイン予混合ノズル44は、
少なくともパイロットノズル43及びメイン予混合ノズル44の一方にアンモニアが供給されるように構成された少なくともパイロット燃料用パイプ43a及びメイン燃料用パイプ44aの一方と、
少なくともパイロット燃料用パイプ43a及びメイン燃料用パイプ44aの一方から供給されるアンモニアを燃焼器内筒41の燃焼室に噴射するように構成された少なくともパイロットノズル43及びメイン予混合ノズル44の一方と
を含み、
少なくともパイロットノズル43及びメイン予混合ノズル44の一方から、冷間始動時・冷間始動直後には天然ガスのみが供給され、その後天然ガスの供給量の減量が開始されると共に、アンモニアの供給量の増量が開始され、通常運転時にアンモニアのみが供給されるようになるガスタービン1の燃焼器40。」
ウ 甲第1号証に記載された技術的事項
上記アから、甲第1号証には、次の技術的事項(以下「甲1記載事項」という。)が記載されているものと認められる。
[甲1記載事項]
「冷間始動時・冷間始動直後にはアンモニアよりも燃焼性の高い化石燃料が供給され、その後化石燃料の供給量の減量が開始されると共に、アンモニアの供給量の増量が開始され、通常運転時にはアンモニアのみが供給されるようになる蒸気タービン設備のボイラ。」
(3)甲第8号証
ア 甲第8号証の記載事項及び図示事項
甲第8号証には、以下の事項が記載及び図示されている。
(ア)「【0001】
本開示は、火力発電プラント、混焼ボイラ及びボイラの改造方法の分野に関する。」
(イ)「【0041】
火炉20は、燃料と燃焼用空気とを反応させて燃焼させる筒状の中空体であり、例えば、円筒形状や四角柱状等、種々の形態をとり得る。幾つかの実施形態において、火炉20は、炉壁部20a及び炉底部20bを含み、燃焼ガスの流れ方向Aの下流側、即ち、当該火炉20の上方側において煙道48に連通している。
そして、本開示の一実施形態におけるバーナユニット30は、ボイラ2の稼働時に炭素含有燃料を燃焼させる少なくとも一つのバーナ(第1バーナ)31と、アンモニア燃料を火炉20内に供給するためのアンモニア燃料供給ポート24と、を含む。なお、アンモニア燃料供給ポート31は第1バーナ31とは別に設けられていてもよい(例えば、図7(a)参照)。」
(ウ)「【0046】
ここで、本発明者らの知見によれば、バーナユニット30の下流側に追加空気供給部33を備えた所謂2段燃焼ボイラにおいて、追加空気供給部33よりも上流側の位置にアンモニア燃料を投入すれば、火炉20内の還元雰囲気(還元領域46)においてアンモニア燃料の窒素分がN2に還元され、アンモニア燃料の燃焼に伴う未燃アンモニアの排出を抑制しつつ、NOx濃度の増加を抑制できる。
そして、上記の構成によれば、既設のバーナユニット30を改造したりバーナユニット30を新設したりする際に、炭素含有燃料を燃焼させる各々の第1バーナ31自体の設計変更を必要とせずに第1バーナ31とは別のアンモニア燃料供給ポート40から火炉20内にアンモニア燃料を供給することができるから、既存のボイラの構造又は設計への変更を抑制しつつ、アンモニアを燃料として利用可能にすることができる。またこれにより、第1バーナ31の燃焼安定性を損なうことなくアンモニア混焼ボイラ2でのNOx排出量を低減することができる。
なお、本明細書において、「アンモニア燃料」とは、アンモニアを含有する燃料をいい、アンモニアとともに他の成分(例えば水素、水分、窒素等)を含有していてもよい。
また、アンモニア燃料供給ポート40は、ボイラ2の稼働時に実際に炭素含有燃料を供給している第1バーナ31以外の噴射口又はポートであればよく、少なくとも一つの第1バーナ31のうちボイラ2の稼働時に炭素含有燃料の供給に用いていない第1バーナ31をアンモニア燃料供給ポート40として用いてもよい。
【0047】
幾つかの実施形態では、上記の構成において、アンモニア燃料供給ポート40は、バーナユニット30のうち最上流側又は最下流側に位置してもよい。
【0048】
上記の構成により、アンモニア燃料供給ポート40がバーナユニット30の最上流側に配置された場合は、第1バーナ31から投入された炭素含有燃料の燃焼領域45の下流側に形成される還元雰囲気(還元領域46)を、燃焼ガスの流れ方向Aの上流から下流の全域に亘ってアンモニア燃料が通過するから、アンモニア燃料が還元雰囲気に晒される時間を十分に長く確保することができる。よって、未燃アンモニア及びNOxの排出をより効果的に低減することができる。一方、アンモニア燃料供給ポート40がバーナユニット30の最下流側に配置された場合は、火炉20内に投入されたアンモニア燃料が燃焼ガスの流れに乗って下流側に案内されるから、火炉20内でアンモニア燃料が燃焼ガスの流れに乗らずに炉底部21bに滞留することを抑制することができる。」
(エ)「【図1】
[図:0001438255000005.jpg]
」
イ 甲第8号証に記載された技術的事項
上記アから、甲第8号証には、次の技術的事項(以下「甲8記載事項」という。)が記載されているものと認められる。
[甲8記載事項]
「混焼ボイラにおいて、ボイラ2の稼働時に炭素含有燃料を燃焼させる第1バーナ31と、第1バーナ31とは別に設けられたアンモニア燃料供給ポート40とを備え、アンモニア燃料供給ポート40を、火炉20内の燃焼ガスの流れにおいて最下流側に配置すること。」
2 対比・判断
(1)本件発明1
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「壁部」は、「火炉」に含まれるものであるから、本件発明1の「火炉壁」に相当する。
甲3発明の「マルチ燃料バーナ110」は、本件発明1の「アンモニアバーナ」に相当する。
甲3発明の「燃料供給路」は、本件発明1の「アンモニア供給路」に相当する。そうすると、甲3発明の「液体アンモニアを供給する燃料供給路」は、本件発明1の「液体アンモニアが供給されるように構成されたアンモニア供給路」に相当する。
甲3発明の「液体アンモニアを火炉の内部に噴射する」ことは、甲第3号証において「火炉の内部に噴射」される「液体アンモニア」が「液体」の状態であることから、液状のまま「火炉の内部に噴射」されるものと解されるので、本件発明1の「液体アンモニアを液状のまま前記火炉の内部に噴射する」ことに相当する。また、甲3発明の「噴射ノズル」は、本件発明1の「アンモニア噴射ノズル」に相当する。そうすると、甲3発明の「燃料供給路から供給される液体アンモニアを火炉の内部に噴射する噴射ノズル」は、本件発明1の「前記アンモニア供給路から供給される前記液体アンモニアを液状のまま前記火炉の内部に噴射するように構成されたアンモニア噴射ノズル」に相当する。
甲3発明の「ボイラ107」は、本件発明1の「アンモニア燃料ボイラ」に相当する。
以上をまとめると、本件発明1と甲3発明とは、次の一致点1において一致し、次の相違点1において相違する。
<一致点1>
「火炉壁を含む火炉と、
前記火炉壁に設けられるアンモニアバーナと
を備え、
前記アンモニアバーナは、
液体アンモニアが供給されるように構成されたアンモニア供給路と、
前記アンモニア供給路から供給される前記液体アンモニアを液状のまま前記火炉の内部に噴射するように構成されたアンモニア噴射ノズルと
を含むアンモニア燃料ボイラ。」
<相違点1>
本件発明1は、「前記アンモニアバーナによる前記液体アンモニアの噴射の開始前に、炭素含有燃料を前記火炉の前記内部に噴射するように構成された燃料バーナであって、前記アンモニアバーナによる前記液体アンモニアの噴射の開始後、前記炭素含有燃料の噴射を停止するように構成される燃料バーナを備える」「アンモニア燃料ボイラ」であるのに対して、甲3発明は、「液体アンモニアがボイラ107の炉床に燃料として入って燃焼し、その一部が石炭を代替する、火力発電所における電解水素製造・アンモニア合成システム」が備える「アンモニア燃料ボイラ」であるボイラ107が、「前記液体アンモニアの噴射の開始後、前記炭素含有燃料の噴射を停止するように構成される燃料バーナ」を備えるか不明である点。
上記相違点1について検討する。
甲3発明は、液体アンモニアがボイラ107の炉床に燃料として入って燃焼し、その一部が石炭を代替する、火力発電所における電解水素製造・アンモニア合成システムに関するものであって、石炭を利用する火力発電で得られた電力を用いてアンモニアを合成するものである。そうすると、そのアンモニアがボイラでの石炭使用量とCO2排出量低下を目的として通常運転時に火力発電の燃料である石炭の一部を代替することはあっても、全部を代替すること(石炭を利用せずアンモニアのみで燃焼を継続させること)は想定できない。
そうすると、甲第1号証に「冷間始動時・冷間始動直後にはアンモニアよりも燃焼性の高い化石燃料が供給され、その後化石燃料の供給量の減量が開始されると共に、アンモニアの供給量の増量が開始され、通常運転時にはアンモニアのみが供給される蒸気タービン設備のボイラ。」との事項(甲1記載事項)が記載されていたとしても、この甲1記載事項を甲3発明に適用することは困難であるから、甲3発明において、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、本件発明1は、甲3発明及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~8
本件訂正後の請求項2~8は、請求項1を直接あるいは間接的に引用するものであり、本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含む。
そして、本件発明1は、上記(1)で判断したとおり、甲3発明及び甲1記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2~8は、本件発明1と同様に、甲3発明、甲1記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)異議申立人の主張(甲第3号証を主引例としたもの)について
ア 令和7年6月17日に申立人が提出した意見書において、申立人は甲第1号証を認定するに際して「図3の説明に対応する段落【0056】では,「ガスタービン1への天然ガスの供給量は徐々に減少せしめられると共に、ガスタービン1へのアンモニアの供給量は徐々に増加せしめられ,最終的にはアンモニアのみがガスタービン1に供給されるようになる(図中の時刻t2)。」と記載され,最終的にはアンモニアのみがガスタービン1に供給されるから,天然ガスの供給が停止していることは明らかである。」として甲第1号証の図3の実施形態をもって本件発明1の進歩性は否定されるべきである旨主張している。
上記主張について検討すると、上記(1)で検討したとおり、甲3発明において、アンモニアが石炭の一部を代替することはあっても、全部を代替すること(石炭を利用せずアンモニアのみで燃焼を継続させること)は想定できないから、甲3発明に甲1記載事項(甲第1号証の図3の実施形態に基づいて認定した事項)を適用するのは困難である。
よって、当該意見書における申立人の主張は採用できない。
イ 令和6年11月21日に申立人が提出した意見書(3.2(1)イ(イ))において、申立人は「液体アンモニアの噴射の開始前に、炭素含有燃料を噴射し、液体アンモニアの噴射の開始後、炭素含有燃料の噴射を停止するように構成されること」は技術常識であり、本件発明1は甲3発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。
上記主張について検討すると、上記(1)で検討したとおり、甲3発明において、アンモニアが石炭の一部を代替することはあっても、全部を代替すること(石炭を利用せずアンモニアのみで燃焼を継続させること)は想定できないから、甲3発明において出願人が技術常識と主張する事項のうち「液体アンモニアの噴射の開始後、炭素含有燃料の噴射を停止する」との事項を適用することは困難である。
よって、当該意見書における申立人の主張は採用できない。
第6 理由2に対する当審の判断
理由2は、上記「第4 1」のとおり、「本件特許は、特許請求の範囲の請求項10の記載が特許法第36条第6項第2号の規定に違反し、特許法第36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その発明に係る特許は特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである。」であるが、本件訂正により請求項10が削除されたことに伴い解消した。
第7 取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由(決定の予告)に採用しなかった申立理由(甲第1号証を主引例としたもの)
理由1(新規性)
本件特許の請求項1、2、5、6、9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、その発明に係る特許は特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである。
理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明及び技術常識に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、その発明に係る特許は特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである。
2 取消理由(決定の予告)に採用しなかった申立理由(甲第2号証を主引例としたもの)
理由3(新規性)
本件特許の請求項1~3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、その発明に係る特許は特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである。
理由4(進歩性)
本件特許の請求項1~10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明及び技術常識に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、その発明に係る特許は特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである。
3 申立人が提出した証拠
申立人が提出した証拠は、上記甲第1、3、7、8、9号証に加え、以下の甲第2号証を含むものである。
甲第2号証:国際公開2021/030876号
(1)甲第2号証の記載事項及び図示事項
(訳は、甲第2号証の日本語ファミリー文献である特表2022-545877号公報を参照して当審が作成したものである。)
ア“The present invention generally relates to the use of ammonia-based fuels in reciprocating engines, gas turbines, and heating devices. The invention is particularly applicable to compression ignition engines and Otto type engines and it will be convenient to hereinafter disclose the invention in relation to that exemplary application. However, it is to be appreciated that the invention is not limited to that application and could be used in a variety of combustion application.”([001])
(訳:本発明は、一般に、レシプロエンジン、ガスタービン、および加熱装置におけるアンモニア系燃料の使用に関する。本発明は、圧縮点火エンジンおよびOtto型エンジンに特に適用可能であり、その例示的な用途に関連して本発明を以下に開示することが好都合であろう。しかしながら、本発明はその用途に限定されず、種々の燃焼用途に使用できることを理解されたい。)(【0002】)
イ“There is currently a world-wide interest in fuelling reciprocating engines, particularly compression ignition (diesel) engines, with ammonia-based fuel produced from renewable energy. Ammonia (also termed anhydrous ammonia to distinguish it from ammonia water solutions with relatively low ammonia concentrations) has the potential to provide a cost effective, environmentally friendly, zero carbon fuel.”([003])
(訳:現在、再生可能エネルギーから生成されたアンモニア系燃料を用いて、レシプロエンジン、特に圧縮点火(ディーゼル)エンジンに燃料を供給することに世界的な関心がある。アンモニア(比較的低いアンモニア濃度を有するアンモニア水溶液と区別するために無水アンモニアともよばれる)は、費用対効果が高く、環境に優しいゼロ炭素燃料を提供する可能性を有する。)(【0004】)
ウ“However, ammonia has several disadvantages which have hampered its use in modern engines―in particular its poor ignition properties and slow combustion.”([003])
(訳:しかしながら、アンモニアには、現代のエンジンでのその使用を妨げているいくつかの欠点があり、特に、その点火特性に劣り、燃焼が遅い。)(【0006】)
エ “A first aspect of the present invention provides a fuel formulation comprising a solution of a sugar component and ammonia, wherein the sugar component and ammonia are present in a combined amount of greater than 70 percent by weight of the fuel formulation, and wherein the sugar component comprises at least one of fructose, glucose, or sucrose.”(SUMMARY OF THE INVENTIONの欄の[005])
(訳:本発明の第1の態様は、糖成分およびアンモニアの溶液を含む燃料配合物を提供し、ここで糖成分およびアンモニアは、燃料配合物の70質量パーセントを超える合計量で存在し、かつ、糖成分は、フルクトース、グルコース、またはスクロースのうちの少なくとも1つを含む。)(【0013】)
オ“The ammonia component of the fuel formulation of the present invention preferably comprises anhydrous ammonia. The ammonia fuel typically comprises a liquid ammonia. This ammonia content of the fuel formulation is generally not an ammonia water solution having a relatively low ammonia concentration. A high/ substantive content of ammonia in the ammonia fuel is preferred.
The new fuel formulation may also contain a smaller amount (less than 30 wt %) of other components. In embodiments, the fuel formulation may further comprise one or more additives selected from at least one of: water, ammonium nitrate, an alcohol, a lubricant, a picrate, a permanganate, or a peroxide. Examples of the one or more additives include water, ammonium nitrate and other ignition promoters such as potassium permanganate, iron picrate, peroxides such as hydrogen peroxide, fuels such as ethanol, methanol, or a lubricant such as a paraffinic oil to reduce the wear of the fuel injection system and engine”([011][012])
(訳:本発明の燃料配合物のアンモニア成分は、好ましくは無水アンモニアからなる。アンモニア燃料は、典型的には液体アンモニアを含む。燃料配合物のこのアンモニア内容物は、一般に、比較的低いアンモニア濃度を有するアンモニア水溶液ではない。アンモニア燃料中のアンモニアの高い/実質的な含有量が好ましい。
新しい燃料配合物はまた、より少量(30質量%未満)の他の成分を含有し得る。実施形態では、燃料配合物は、水、硝酸アンモニウム、アルコール、潤滑剤、ピクリン酸塩、過マンガン酸塩、または過酸化物のうちの少なくとも1つから選択される1つ以上の添加剤をさらに含んでもよい。1つ以上の添加剤の例には、水、硝酸アンモニウム、および他の点火促進剤、例えば、過マンガン酸カリウム、ピクリン酸鉄、過酸化物、例えば、過酸化水素;燃料、例えば、エタノール、メタノール;または、燃料噴射システムおよびエンジンの摩耗を低減するための潤滑剤、例えばパラフィン系オイル、が含まれる。)(【0019】、【0020】)
カ“It should be appreciated that fuel is injected into the combustion chamber of direct injection engines during the compression stroke to enable the combustion stroke to occur. It should also be appreciated that the combustion gases comprise air, or air with O2 and/or with other combustibles.
In the context of this repeated cycle of strokes, the ammonia fuel is preferably injected into the combustion chamber of each cylinder during compression stroke of the engine cycle. In this context, the ammonia fuel is combusted in that combustion stroke by compression (compression ignition engines) or by a spark, plasma, laser combustion initiator.”([025]、[026])
(訳:圧縮行程中に燃料が直接噴射エンジンの燃焼室に噴射されて、燃焼行程を行うことができることを理解されたい。燃焼ガスは、空気、またはO2および/もしくは他の可燃性を有する空気を含むことも理解されたい。
行程のこの反復サイクルとの関連では、アンモニア燃料は、好ましくは、エンジンサイクルの圧縮行程中に各シリンダの燃焼室に噴射される。これに関連して、アンモニア燃料は、その燃焼行程において、圧縮(圧縮点火エンジン)、または火花、プラズマ、レーザ燃焼開始剤によって燃焼される。)(【0033】、【0034】)
キ “The features of this piston arrangement and associated engine configuration are well known in the art. It is to be understood that operation and configuration of such an internal combustion engine would be well understood by a person skilled in the art, and the features of the method of the method for injection of liquid or gaseous ammonia fuel into a reciprocating engine according to the present invention could be readily adopted by the person skilled in the art in a conventional reciprocating engine following the teaching of the present specification.
A second aspect of the present invention provides a method of operating a compression ignition engine or an Otto type engine using a fuel formulation according to the first aspect of the present invention, comprising injecting the fuel formulation into the engine for combustion. The fuel formulation is preferably injected into a combustion chamber of the engine as an atomised jet. The fuel is injected under atomisation conditions in which the fuel is sufficiently atomised to prevent deposition of sugar residue on heated engine surfaces. The atomisation conditions are preferably high-intensity atomisation conditions. For example, the fuel formulation may be injected at a pressure of at least 25 bar. In some embodiments, the droplets of the atomised fuel jet are injected at a selected pressure that prevents deposition of sugar residue on heated engine surfaces.”([029]、[030])
(訳:このピストン配置および関連するエンジン構成の特徴は、当技術分野で周知である。そのような内燃機関の動作および構成は、当業者によって十分に理解され、本発明による液体または気体アンモニア燃料をレシプロエンジン中へ噴射するための方法の特徴は、本明細書の教示に従って従来のレシプロエンジンにおいて当業者によって容易に採用され得ることを理解されたい。
本発明の第2の側面は、本発明の第1の側面による燃料配合物を使用して圧縮点火エンジンまたはOtto型エンジンを動作させる方法であって、燃焼のために燃料配合物をエンジン内へ噴射するステップを含む方法を提供する。燃料配合物は、好ましくは霧化ジェットとしてエンジンの燃焼室に噴射される。燃料は、加熱されたエンジン表面への糖残留物の堆積を防止するために燃料が十分に霧化される霧化条件下で噴射される。霧化条件は、好ましくは高強度霧化条件である。例えば、燃料配合物は、少なくとも25バールの圧力で噴射され得る。いくつかの実施形態では、霧化燃料ジェットの液滴は、加熱されたエンジン表面への糖残留物の堆積を防止する選択された圧力で噴射される。)(【0037】、【0038】)
ク“The compression injection engine preferably comprises a diesel type engine. While the preferred application for the fuel in the present invention is compression-ignition or diesel engines where the start of fuel injection is late in the compression stroke just prior to the required start of ignition, the fuel could also be used advantageously in Otto (spark, plasma or other ignitors) and homogeneous charge compression ignition (HCCI) reciprocating engines, and also in gas turbines and other continuous combustion devices such as furnaces and boilers.
The present invention can relate to direct injection engines where the fuel injector is located at or in the head location in a cylinder head of that cylinder. However, it should be appreciated that other injector configurations are possible, for example side injector configurations.
A variety of injector configurations are possible in the head location in a cylinder head of that cylinder. For example, the fuel injector may comprise at least one of: a single fuel injector located in the center of the cylinder head; or at least two fuel injectors spaced apart across the diameter of the cylinder head. In some embodiments, the fuel injector comprises at least one semi-axial nozzle fuel injector located near the centre of the cylinder with near fuel jets directed downwards. In other embodiments, the fuel injector comprises at least one semi- axial discharge nozzle liquid ammonia injector(s) located near the cylinder wall with near semi-axial fuel jets directed downwards towards the piston.”([036]~[038])
(訳:圧縮噴射エンジンは、好ましくは、ディーゼル型エンジンを含む。本発明における燃料の好ましい用途は、燃料噴射の開始が、要求される点火開始の直前の圧縮行程において遅いディーゼルエンジンあるいは圧縮点火であるが、燃料はまた、有利には、Otto(火花、プラズマ、または他の点火器)および予混合圧縮着火(HCCI)レシプロエンジンにおいて、ならびにガスタービンならびに他の連続燃焼装置、例えば炉およびボイラにおいても使用することができる。
本発明は、燃料噴射器がそのシリンダのシリンダヘッドにおいてヘッド位置またはヘッド位置中に位置する直接噴射エンジンに関することができる。しかしながら、他の噴射器構成、例えば側部噴射器構成も可能であることを理解されたい。
そのシリンダのシリンダヘッドにおけるヘッド位置には、種々の噴射器構成が可能である。例えば、燃料噴射器は、シリンダヘッドの中心に位置する単一の燃料噴射器、またはシリンダヘッドの直径を横切って離間した少なくとも2つの燃料噴射器、のうちの少なくとも1つを備え得る。いくつかの実施形態では、燃料噴射器は、燃料ジェットがほぼ下方に向けられた状態でシリンダの中心付近に位置する少なくとも1つの半軸方向ノズル燃料噴射器を備える。他の実施形態では、燃料噴射器は、半軸方向の燃料ジェットがピストンに向かってほぼ下方に向けられた状態でシリンダ壁付近に位置する少なくとも1つの半軸方向吐出ノズル液体アンモニア噴射器(1又は複数)を備える。)(【0044】~【0046】)
ケ“The preferred application for the fuel in the present invention is compression-ignition or diesel engines where the start of fuel injection is late in the compression stroke just prior to the required start of ignition. However, it should be appreciated that the fuel could also be used advantageously in Otto (spark, plasma or other ignitors) and homogeneous charge compression ignition (HCCI) reciprocating engines, and also in gas turbines and other continuous combustion devices such as furnaces and boilers.”([050])
(訳:本発明における燃料の好ましい用途は、燃料噴射の開始が、要求される点火開始の直前の圧縮行程において遅いディーゼルエンジンあるいは圧縮点火である。しかしながら、燃料はまた、Otto(火花(スパーク)、プラズマ、または他の点火器)および予混合圧縮着火(homogeneous charge compression ignition, HCCI)レシプロエンジンにおいて、ならびにガスタービンおよび他の連続燃焼装置、例えば炉およびボイラにおいても有利に使用できることを理解されたい。)(【0057】)
コ“The comparative runs using ammonia as fuel alone found that that fuel combusted only slightly in the engine giving very high exhaust temperatures and low power.”([062])
(訳:アンモニアを燃料として単独で使用する比較運転は、燃料がエンジン中でわずかにしか燃焼せず、非常に高い排気温度および低出力をもたらすことが分かった。)(【0070】)
サ 「
[図:0001438255000006.jpg]
」(FIGURE 1)
(2)甲第2号証に記載された発明
上記(1)を踏まえると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
[甲2発明]
「圧縮点火エンジンのシリンダヘッドに位置する半軸方向吐出ノズル液体アンモニア噴射器を備え、半軸方向吐出ノズル液体アンモニア噴射器は、アンモニア内に糖成分及び燃料を混合してなる液体アンモニア燃料をエンジンサイクルの圧縮行程中に霧化してシリンダにおける燃焼室に噴射する圧縮点火エンジン。」
4 取消理由(決定の予告)に採用しなかった申立理由(甲第1号証を主引例としたもの)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「少なくともパイロットノズル43及びメイン予混合ノズル44の一方」は、本件発明1の「アンモニアバーナ」又は「アンモニア噴射ノズル」と一致する。そうすると甲1発明において「区画壁部」に「アンモニアバーナ」が設けられるものと認められる。
甲1発明の「少なくともパイロット燃料用パイプ43a及びメイン燃料用パイプ44aの一方」は、本件発明1の「アンモニア供給路」と一致する。
甲1発明の「天然ガス」は、本件発明1の「炭素含有燃料」に相当する。
また、甲1発明の「区画壁部」、「燃焼器内筒41の燃焼室」と、本件発明1の「火炉壁」、「火炉」は、それぞれ、「燃焼室の壁」、「燃焼室」という限りにおいて一致し、
さらに、甲1発明の「アンモニア」と、本件発明1の「液体アンモニア」とは、「アンモニア」という限りにおいて一致し、
甲1発明の「ガスタービン1の燃焼器40」と、本件発明1の「アンモニア燃料ボイラ」とは、「アンモニアを燃焼させるための装置」という限りにおいて一致する。
そして、甲1発明の「少なくともパイロットノズル43及びメイン予混合ノズル44の一方から、冷間始動時・冷間始動直後には天然ガスのみが供給され、その後天然ガスの供給量の減量が開始されると共に、アンモニアの供給量の増量が開始され、通常運転時にアンモニアのみが供給されるようになる」という事項と、本件発明1の「前記アンモニアバーナによる前記液体アンモニアの噴射の開始前に、炭素含有燃料を前記火炉の前記内部に噴射するように構成された燃料バーナであって、前記アンモニアバーナによる前記液体アンモニアの噴射の開始後、前記炭素含有燃料の噴射を停止するように構成される燃料バーナを備える」という事項は、「アンモニアバーナによるアンモニアの噴射の開始前に、炭素含有燃料を燃焼室の内部に噴射し、アンモニアバーナによるアンモニアの噴射の開始後、炭素含有燃料の噴射を停止するような構成を備える」という限りにおいて一致する。
以上をまとめると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点2において一致し、相違点2~4において相違する。
<一致点2>
「燃焼室の壁を含む燃焼室と、
燃焼室の壁に設けられるアンモニアバーナと
を備え、
アンモニアバーナは、
アンモニアが供給されるように構成されたアンモニア供給路と、
アンモニア供給路から供給されるアンモニアを燃焼室の内部に噴射するように構成されたアンモニア噴射ノズルと
を含み、
アンモニアバーナによるアンモニアの噴射の開始前に、炭素含有燃料を燃焼室の内部に噴射し、アンモニアバーナによるアンモニアの噴射の開始後、炭素含有燃料の噴射を停止するような構成を備えるアンモニアを燃焼させるための装置。」
<相違点2>
アンモニアバーナが、アンモニアを燃焼させるための装置の燃焼室の壁に設けられることに関し、本件発明1においては、「アンモニア燃料ボイラ」の「火炉」に含まれる「火炉壁」に設けられるのに対して、甲1発明においては、ガスタービン1の燃焼器40の燃焼器内筒41の燃焼室に含まれる区画壁部に設けられる点。
<相違点3>
噴射ノズルが、本件発明1においては「アンモニア供給路から供給される液体アンモニアを液状のまま」「噴射する」ものであるのに対して、甲1発明においては「アンモニア」が噴射されるものであり、液体アンモニアを液状のまま噴射するか否かが不明である点。
<相違点4>
アンモニアを燃焼させるための装置が、本件発明1においては、「アンモニアバーナによる液体アンモニアの噴射の開始前に、炭素含有燃料を火炉の内部に噴射するように構成された燃料バーナであって、アンモニアバーナによる液体アンモニアの噴射の開始後、炭素含有燃料の噴射を停止するように構成される燃料バーナを備える」「アンモニア燃料ボイラ」であるのに対して、甲1発明においては「アンモニアバーナによるアンモニアの噴射開始前に、炭素含有燃料を燃焼室の内部に噴射し、アンモニアバーナによるアンモニアの噴射の開始後、炭素含有燃料の噴射を停止するような構成を備えるアンモニアを燃焼させるための装置。」であり、バーナとして、「アンモニアバーナ」の他に「アンモニアバーナによる液体アンモニアの噴射の開始後、炭素含有燃料の噴射を停止するように構成される燃料バーナ」を有しているか否かが不明な点。
イ 相違点2についての検討
上記相違点2について検討すると、甲第1号証の段落【0075】には「斯かるタービン設備をボイラを備えた蒸気タービンとすることも可能である。この場合、ガスタービン1の燃焼器40の代わりにボイラにおいて燃料の燃焼が行われる。」との記載があるから、甲1発明の「アンモニアバーナ」を蒸気タービン設備のボイラに設けることとすることは容易であり、またその場合、「アンモニアバーナ」がボイラの火炉に臨む箇所である火炉壁に設けられることは明らかである。
そうすると、甲1発明において、「アンモニアバーナ」を「アンモニア燃料ボイラ」の「火炉」に含まれる「火炉壁」に設けるようにし、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。
ウ 相違点3についての検討
甲第1号証の段落【0012】には、発明が解決しようとする課題に関して、「このように不完全燃焼が生じやすい理由としては主に以下の二つが挙げられる。」と記載され、その理由の一つとして段落【0013】には、「混合気を完全燃焼させるためには、液体燃料を気化させてガス状態にすると共に供給される空気と均一に混合させる必要がある。」と記載されている。したがって、不完全燃焼を防ぐためには液体燃料を気化させてガス状態にすると共に供給される空気と均一に混合させる必要があることが記載されている。そうすると、甲第1号証では、混合気は液体燃料が気化された気化燃料と空気とすることが望ましい態様とされていることが理解できる。
そして、甲第1号証には段落【0046】に「パイロットノズル43及びメイン予混合ノズル44では、流入した圧縮空気に対して燃料が噴射され、これらノズル43、44では混合気が形成される。」と記載されている。上記望ましい態様を踏まえてこの記載を検討すると、燃料用パイプ43a、44aから液体アンモニアが供給される場合も、圧縮空気との混合気が形成される間に液体アンモニアが気化されていることが想定されていると認められ、少なくとも液状のまま燃焼室に向けて噴射することを積極的に許容するものではないと認められる。したがって、甲1発明においてアンモニアを液状のまま燃焼室に向けて噴射するようにする動機があるとはいえない。
したがって、甲1発明において、液体アンモニアを液状のまま噴射するようにすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
エ 相違点4についての検討
上記イで検討したように、甲1発明の「アンモニアを燃焼させるための装置」を「アンモニア燃料ボイラ」とした場合を考えると、甲8記載事項には、混焼ボイラにおいてアンモニア燃料を供給する場所と別に炭素含有燃料を燃焼させるバーナを設けることが示されているから、甲1発明において「アンモニアを燃焼させるための装置」を「アンモニア燃料ボイラ」とした場合にアンモニアバーナの他に炭素含有燃料を燃焼させるバーナを設けるようにすることは当業者が容易になし得たことである。この場合、甲1発明は「アンモニアバーナによるアンモニアの噴射の開始後、炭素含有燃料の噴射を停止する」ものであるから、上記「炭素含有燃料を燃焼させるバーナ」は「アンモニアバーナによる液体アンモニアの噴射の開始後、炭素含有燃料の噴射を停止するように構成される燃料バーナ」となることは自明である。
したがって、したがって、甲1発明及び甲8記載事項に基いて上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
オ まとめ
上記相違点2、3、4において、本件発明1は甲1発明と相違するものであるから、本件発明1は甲1発明であるとはいえず、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明から当業者が容易になし得たものとはいえないから、本件発明1は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~8
本件訂正後の請求項2~8は、請求項1を直接あるいは間接的に引用するものであり、本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含む。
そして、本件発明1は、上記(1)で判断したとおり、甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2~8は、本件発明1と同様に、甲1発明であるとはいえず、甲1発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5 取消理由(決定の予告)に採用しなかった申立理由(甲第2号証を主引例としたもの)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「半軸方向吐出ノズル液体アンモニア噴射器」は、「アンモニア内に糖成分及び燃料を混合してなる液体アンモニア燃料」を燃焼室に噴射するものであるから、「アンモニア内に糖成分及び燃料を混合してなる液体アンモニア燃料が供給されるように構成された供給路」を有することは明らかであり、この「アンモニア内に糖成分及び燃料を混合してなる液体アンモニア燃料が供給されるように構成された供給路」と本件発明1の「液体アンモニアが供給されるように構成されたアンモニア供給路」とは、「液体アンモニアを含む液体燃料が供給されるように構成された供給路」という限りにおいて一致する。
また、甲2発明の「アンモニア内に糖成分及び燃料を混合してなる液体アンモニア燃料」を「エンジンサイクルの圧縮行程中に霧化してシリンダにおける燃焼室に噴射する」「半軸方向吐出ノズル液体アンモニア噴射器」と、本件発明1の「液体アンモニアを液状のまま」「噴射する」「アンモニア噴射ノズル」は、「液体アンモニアを含む液体燃料を液状のまま噴射する」「アンモニア噴射ノズル」という限りにおいて一致する。
また、甲2発明の「液体アンモニア燃料をエンジンサイクルの圧縮行程中に霧化してシリンダにおける燃焼室に噴射する圧縮点火エンジン」と、本件発明1における「アンモニア燃料ボイラ」とは、「アンモニアを燃焼させるための装置」という限りにおいて一致する。
また、甲2発明の「アンモニア内に糖成分及び燃料を混合してなる液体アンモニア燃料」のうちの「燃料」は、甲第2号証の段落[012](訳文の段落【0020】)には「燃料、例えば、エタノール、メタノール」と記載されているから、本件発明1の「炭素含有燃料」に相当する。そうすると、甲2発明の「半軸方向吐出ノズル液体アンモニア噴射器は、アンモニア内に糖成分及び燃料を混合してなる液体アンモニア燃料をエンジンサイクルの圧縮行程中に霧化してシリンダにおける燃焼室に噴射する」という構成と、本件発明1における「前記アンモニアバーナによる前記液体アンモニアの噴射の開始前に、炭素含有燃料を前記火炉の前記内部に噴射するように構成された燃料バーナであって、前記アンモニアバーナによる前記液体アンモニアの噴射の開始後、前記炭素含有燃料の噴射を停止するように構成される燃料バーナを備える」との構成は、「燃料の燃焼が行われる場所にアンモニアと炭素含有燃料を噴射する」との構成に限りにおいて一致する。
以上から、本件発明1と甲2発明とは、次の一致点3において一致し、相違点5~8において相違する。
<一致点3>
「液体アンモニアを含む液体燃料が供給されるように構成された供給路と、供給路から供給される液体アンモニアを含む液体燃料を液状のまま噴射するように構成されたアンモニア噴射ノズルとを含み、燃料の燃焼が行われる場所にアンモニアと炭素含有燃料を噴射する、アンモニアを燃焼させるための装置。」
<相違点5>
本件発明1は「液体アンモニア」と「炭素含有燃料」を燃料として用いるものであるが、甲2発明は「アンモニア内に糖成分及び燃料を混合してなる液体アンモニア燃料」を用いるものである点。
<相違点6>
本件発明1は「アンモニア噴射ノズル」を含む「アンモニアバーナ」を備えるが、甲2発明は「アンモニア噴射ノズル」を備えるものの、噴射されたアンモニアは燃焼室内で圧縮点火されるものであって噴射ノズルの先端で火炎を発生するものではないから、「アンモニアバーナ」を備えているとはいえない点。
<相違点7>
本件発明1においては「アンモニアバーナ」が「アンモニア燃焼ボイラ」の「火炉」に含まれる「火炉壁」に設けられるのに対して、甲2発明においては「アンモニア噴射ノズル」が「圧縮点火エンジンのシリンダヘッド」に設けられている点。
<相違点8>
「アンモニアを燃焼させるための装置」が、本件発明1においては「アンモニアバーナによる液体アンモニアの噴射の開始前に、炭素含有燃料を火炉の内部に噴射するように構成された燃料バーナであって、アンモニアバーナによる液体アンモニアの噴射の開始後、炭素含有燃料の噴射を停止するように構成される燃料バーナを備える」「アンモニア燃料ボイラ」であるのに対して、甲2発明においては「アンモニア内に糖成分及び燃料を混合してなる液体アンモニア燃料をエンジンサイクルの圧縮行程中に霧化してシリンダにおける燃焼室に噴射する」「半軸方向吐出ノズル液体アンモニア噴射器」を含む「圧縮点火エンジン」である点。
イ 相違点6、7についての検討
上記相違点6、7について検討すると、甲第2号証の段落[001](訳文の段落【0002】)に「本発明は、・・・加熱装置におけるアンモニア系燃料の使用に関する。」と記載され、段落[036](訳文の段落【0044】)には、「燃料はまた、・・・例えば炉およびボイラにおいても使用することができる。」と記載され、段落[050](訳文の段落【0057】)にも、「燃料はまた、・・・他の連続燃焼装置、例えば炉およびボイラにおいても有利に使用できることを理解されたい。」と記載されていることから、甲2発明における「半軸方向吐出ノズル液体アンモニア噴射器」は、ボイラにも適用できることが示唆されている。
そして、甲2発明における「半軸方向吐出ノズル液体アンモニア噴射器」を、ボイラに適用した場合、ボイラの火炉を形成する火炉壁に設けられることになるのは明らかである。
そうすると、甲2発明における半軸方向吐出ノズル液体アンモニア噴射器の配置場所を「アンモニア燃料ボイラの火炉の火炉壁」とすることにより上記相違点7に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。
また、ボイラは通常燃焼室の体積が変化しないから、燃料を燃焼室に噴出しても圧縮点火が生じることは想定し得ない。そうすると、甲2発明における「半軸方向吐出ノズル液体アンモニア噴射器」を炉やボイラに適用したとき、「半軸方向吐出ノズル液体アンモニア噴射器」を「アンモニアバーナ」として利用するようにして、上記相違点6に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。
ウ 相違点5、8についての検討
上記相違点5、8について検討すると、甲第2号証の段落[003]、[062](訳文の段落【0006】、【0070】)には、アンモニアは点火特性に劣り、燃焼が遅く、アンモニア単体ではエンジン中でわずかにしか燃焼しないことが記載されている。このような課題に対して、甲第2号証の段落[005](訳文の段落【0013】)には、アンモニア溶液に糖成分を配合することにより上記課題を解決できることが記載されている。そして、甲第2号証の段落[012](訳文の段落【0020】)には、さらに例えばエタノール、メタノールといった燃料を含有させてもよいことが記載されている。
そうすると、甲2発明では、アンモニアの点火特性、燃焼に関する課題は、アンモニアに糖成分及び燃料(「燃料」は上記アで検討したように本件発明1の「炭素含有燃料」に相当する。)を混合してこれらを一体的に同じ噴射器から噴射して燃焼させることにより解決しているから、(1)「アンモニア内に糖成分及び燃料を混合してなる液体アンモニア燃料」という混合物を「液体アンモニア」(糖成分を含まないもの)及び「燃料(炭素含有燃料)」という形態とすること、(2)液体アンモニアを噴射する「アンモニアバーナ」とは別に燃料(炭素含有燃料)を噴射するように構成された「燃料バーナ」を設けること、(3)液体アンモニアの噴射の開始前に燃料(炭素含有燃料)を「燃料バーナ」から噴射すること、及び、(4)液体アンモニアの噴射の開始後に燃料(炭素含有燃料)の「燃料バーナ」からの噴射を中止することは、想定し得ない。
したがって、甲2発明に基いて上記相違点5、8に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
エ まとめ
上記相違点5~8において、本件発明1は甲2発明と相違するものであるから、本件発明1は甲2発明であるとはいえず、上記相違点5、8に係る本件発明1の発明特定事項は甲2発明から当業者が容易になし得たものとはいえないから、本件発明1は甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~8
本件訂正後の請求項2~8は、請求項1を直接あるいは間接的に引用するものであり、本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含む。
そして、本件発明1は、上記(1)で判断したとおり、甲2発明ではなく、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2~8は、本件発明1と同様に、甲2発明であるとはいえず、甲2発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第8 むすび
以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立理由によっては本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項9、10に係る特許は、上記のとおり、本件訂正により削除された。
これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項9、10に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700394