審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2025-700429

水素製造システム及び水素製造システムの運転方法

審判番号
2025-700429
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-042839
登録番号
7568770
請求日
2025年04月15日
審決日
2026年02月19日
公報発行日
2026年05月29日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】三菱重工業株式会社
  • 【権利者代理人】SSIP弁理士法人
  • 【異議申立人】林 尚子
審判長/審判官
  • 審判長 粟野 正明
  • 審判官 石川 雄太郎
  • 審判官 酒井 英夫
分類
P1651.121-YAA(C25B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第3項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7568770号発明「水素製造システム及び水素製造システムの運転方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7568770号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7について訂正することを認める。 特許第7568770号の請求項1~12に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件の特許第7568770号(以下「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願(特願2023-42839号。以下「本願」という。)は、令和 5年 3月17日の出願であって、令和 6年10月 7日にその特許権の設定登録がされ、同年10月16日に特許掲載公報が発行されたものである。 本件は、その後、令和 7年 4月15日に、その請求項1~12(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である林 尚子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、以降の本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。 令和 7年 8月 4日付け:取消理由通知書 令和 7年 9月25日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出 令和 8年 1月 5日 :申立人による意見書の提出 第2 訂正の請求について 1 請求の趣旨、及び、訂正の内容 令和 7年 9月25日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求は、本件特許の特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当合議体が下線を付した。 (1)訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に「前記水蒸気が流入する水素極を備えるSOEC」と記載されているのを、「前記水蒸気が流入する水素極と、酸素を含むガスが流入する酸素極とを備えるSOEC」に訂正する。 2 訂正の適否についての当合議体の判断 (1)訂正の目的について 上記訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1の「SOEC」について、「酸素を含むガスが流入する酸素極」を備えることを特定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 (2)新規事項の追加の有無について SOECが「酸素を含むガスが流入する酸素極」を備えることは、本願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0010】、【0014】に記載されているから、上記訂正事項1に係る訂正は、本願の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の記載から導き出される技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 (3)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について 上記訂正事項1に係る訂正は、上記(1)のとおり「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 (4)独立特許要件について 本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、上記訂正事項1について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (5)本件訂正の請求が請求項ごとになされたか否かについて 本件訂正前の請求項7は独立請求項であり、また、本件訂正前の特許請求の範囲には、請求項7に従属する請求項は存在せず、訂正事項1によって訂正される請求項7に連動して訂正される請求項はないから、本件訂正の請求は、請求項ごとになされたものであり、特許法第120条の5第3項に適合するものである。 (6)訂正の請求についてのむすび 以上のとおりであるから、令和 7年 9月25日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項7についての訂正を認める。 第3 特許異議申立て 1 本件発明 令和 7年 9月25日提出の訂正請求書により特許権者が行った請求項7についての訂正は、上記第2で検討したとおり認められるものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~12に係る発明は、本件訂正の請求に係る訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の請求項1~12に係る発明を「本件発明1」~「本件発明12」といい、総称して「本件発明」ということがある。 「【請求項1】 水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)と、 前記SOECに熱中立電圧以上の電圧を印加する電源装置と、 前記SOECの余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置と、 前記SOECの余剰発熱を熱媒体に回収する余剰発熱回収装置と、 を備え、 前記電圧は、前記熱中立電圧よりも0.05V~0.5V高い電圧であり、 前記水蒸気生成装置は、前記熱媒体と前記水とを熱交換することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成するように構成され、 前記余剰発熱回収装置は、前記SOECを冷却する前記熱媒体が流通する流路を備える水素製造システム。 【請求項2】 前記SOECは、前記水蒸気が流入する水素極を備え、 前記余剰発熱回収装置は、前記水素極から流出した水蒸気と前記熱媒体とが熱交換する熱交換器を備える、請求項1に記載の水素製造システム。 【請求項3】 水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)と、 前記SOECに熱中立電圧以上の電圧を印加する電源装置と、 前記SOECの余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置と、 前記SOECの余剰発熱を熱媒体に回収する余剰発熱回収装置と、 を備え、 前記電圧は、前記熱中立電圧よりも0.05V~0.5V高い電圧であり、 前記水蒸気生成装置は、前記熱媒体と前記水とを熱交換することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成するように構成され、 前記SOECは、酸素を含むガスが流入する酸素極を備え、 前記余剰発熱回収装置は、前記酸素極から流出した酸化性の排ガスと前記熱媒体とが熱交換する熱交換器を備える水素製造システム。 【請求項4】 水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)であって、前記水蒸気が流入する水素極と、酸素を含むガスが流入する酸素極とを備えるSOECと、 前記SOECに熱中立電圧以上の電圧を印加する電源装置と、 前記SOECの余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置と、 前記SOECの温度を検出する温度検出装置と、 前記水素極を流通する前記水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御する水蒸気制御装置、若しくは、前記酸素極に流入する前記ガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御するガス制御装置と、 前記SOECを流れる電流値を調整する電流値調整装置と を備え、 前記水蒸気生成装置は、前記水と前記水素極から流出した水蒸気又は前記酸素極から流出した排ガスとが熱交換することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成するように構成されている水素製造システム。 【請求項5】 前記電圧は、前記熱中立電圧よりも0.05V~0.5V高い電圧である、請求項4に記載の水素製造システム。 【請求項6】 前記SOECの温度を検出する温度検出装置と、 前記水素極を流通する前記水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御する水蒸気制御装置と を備える、請求項2に記載の水素製造システム。 【請求項7】 水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)であって、前記水蒸気が流入する水素極と、酸素を含むガスが流入する酸素極とを備えるSOECと、 前記SOECに熱中立電圧以上の電圧を印加する電源装置と、 前記SOECの余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置と、 前記SOECの余剰発熱を熱媒体に回収する余剰発熱回収装置と、 前記SOECの温度を検出する温度検出装置と、 前記水素極を流通する前記水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御する水蒸気制御装置と、 前記SOECを流れる電流値を調整する電流値調整装置と を備え、 前記電圧は、前記熱中立電圧よりも0.05V~0.5V高い電圧であり、 前記水蒸気生成装置は、前記熱媒体と前記水とを熱交換することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成するように構成され、 前記余剰発熱回収装置は、前記水素極から流出した水蒸気と前記熱媒体とが熱交換する熱交換器を備える水素製造システム。 【請求項8】 前記SOECの温度を検出する温度検出装置と、 前記酸素極を流通する前記ガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御するガス制御装置と を備える、請求項3に記載の水素製造システム。 【請求項9】 前記SOECを流れる電流値を調整する電流値調整装置を備える、請求項8に記載の水素製造システム。 【請求項10】 前記温度検出装置による検出値に基づいて、前記水蒸気制御装置によって、前記水素極を流通する前記水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御する、請求項6に記載の水素製造システムの運転方法。 【請求項11】 前記温度検出装置による検出値に基づいて、前記ガス制御装置によって、前記酸素極を流通する前記ガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御する、請求項8に記載の水素製造システムの運転方法。 【請求項12】 前記温度検出装置による検出値に基づいて、前記電流値調整装置によって、前記SOECを流れる電流値を調整する、請求項4に記載の水素製造システムの運転方法。」 2 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として下記(2)の甲第1~6号証(以下「甲1」~「甲6」という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~12に係る特許を取り消すべきものであることを主張している。 (1)申立理由1(進歩性、取消理由として一部採用) 本件訂正前の請求項1~12に係る発明は、甲1を主たる引用文献として、下記の刊行物に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本件訂正前の請求項1~12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 ・請求項1、2、6:甲1、甲2 ・請求項3、8:甲1 ・請求項4、5、7、9、12:甲1、甲3~5 ・請求項10:甲1、甲2、または甲1、甲2、甲6 ・請求項11:甲1、または甲1、甲6 (2)証拠方法 甲1:国際公開第2005/078159号 甲2:特開2022-847号公報 甲3:特開2022-143131号公報 甲4:国際公開第2018/033948号 甲5:特開2020-128576号公報 甲6:特開2023-21608号公報 3 取消理由の概要 当合議体は、令和 7年 8月 4日付けで、上記2の(1)の申立理由1を一部採用して、以下の取消理由1を通知した。 (1)取消理由1(進歩性) 本件訂正前の請求項7に係る発明は、甲1に記載された発明、及び、甲3~5に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 したがって、本件発明7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 第4 当合議体の判断 当合議体は、以下に示すとおり、上記第3の申立理由1及び取消理由1によっては、本件の請求項1~12に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 1 取消理由1(進歩性)について (1)甲1の記載事項、甲1に記載された発明 ア 甲1の記載事項 本願の出願前に公知となった甲1には、「水素の製造方法及び装置」(発明の名称)に関し、図1とともに以下の記載がある(なお、下線は当合議体が付したものである。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。 (ア)「[0004] 本発明は、上記の高温水蒸気電解装置において、電解槽内部での熱バランスを考察し、供給する還元性ガス及び水蒸気の最適温度を見出すことを目的とする。 課題を解決するための手段 [0005] 上記で説明したような高温水蒸気電解槽において、水素ガスと一酸化炭素の混合ガスを還元性ガスとして電解槽の陽極側に供給して、700℃~800℃の高温で水蒸気電解を行うときには、熱力学上の計算では電力を必要としない。しかし、実際の電解装置では陽極過電圧、陰極過電圧、抵抗損が存在するために現状では0.5V以上の過電圧を加えないと実用的な動作にならない。この過電圧は、熱として電解セルを高温に維持するためのエネルギー源となるが、陽極から排出される高温ガス、及び陰極で生成する水素が持ち出す熱を全て賄い、かつ水から水蒸気を発生させて電解セル温度まで昇温するエネルギーと比べると小さい。 [0006] 実際の装置を設計するとき、熱交換機の設計を容易にし無理なく装置を組み立てるためには、補助的な熱源を利用できることが望ましい。水蒸気電解槽内での熱収支計算を行ってみると、水蒸気または水蒸気を発生させた上、還元性ガスと水蒸気をともに200~500℃程度まで昇温できる熱源があれば、0.5V以上の過電圧により発生する熱でエネルギー収支が合わせられる。 [0007] すなわち、本発明は、固体酸化物電解質膜を隔膜として用いて電解槽を陽極側と 陰極側に仕切った高温水蒸気電解装置の陰極側に水蒸気を供給し、陽極側に還元性ガスを供給して高温で水蒸気電気分解を行うことによって、陽極側で酸素イオンを該還元性ガスと反応させて酸素イオンの濃度勾配を生じさせ、電解電圧を低減させる水素の製造方法において、供給する還元性ガス及び水蒸気の温度を200~500℃とすることを特徴とする水素の製造方法である。 [0008] なお、本発明でいう「還元性ガス」とは、下記に説明する水蒸気電解槽において固体酸化物電解質膜を通して電解槽の陽極側に通過してくる酸素と反応して、陽極側での酸素濃度を低下させることのできるガスを意味し、メタンガスや、後述する有機物の熱分解ガス、コークス炉や高炉や石油プラントなどの副生ガスなどが含まれる。」 (イ)「[0011] ・・・図1に、本発明にかかる固体酸化物電解質膜を用いた高温水蒸気電解による水素の製造装置の基本原理を示す。 [0012] 高温水蒸気電解槽13は、固体酸化物電解質の隔膜14によって陽極側15と陰極側16に仕切られている。高温水蒸気19を電解槽の陰極側16に、還元性ガス10を電解槽の陽極側15に供給して、電力17をAC-DC変換器18で直流に変換して電解槽に通電すると、陰極側16に供給された高温水蒸気19は電解作用で水素と酸素に分解される。生成した水素20が、高純度水素として回収される。一方、生成した酸素21は、固体酸化物電解質の隔膜14を選択的に通過して、過電圧の駆動力によって陽極側15に移動する。陽極側15では、酸素21が還元性ガス8と反応して消費され、酸素イオンの濃度勾配が形成されるので、水の電解に必要な電圧が下がり、電力消費量は大幅に低減される。 [0013] なお、陽極側に供給される還元性ガスに水分 (水蒸気)を導入することによって、電極への炭素の析出を抑えて装置の高寿命化を図ることができる。 [0014] 本発明者らは、このような高温水蒸気電解槽内での熱収支バランスを検討した。 [0015] 例えば、電解槽の陽極側にメタンガスを供給する場合は、電解槽の陽極側及び陰 極側での反応及び反応熱は次式の通りである。 式1 [0016] 陽極:CH4+2O2→CO2+2H2O:ΔH=-803kJ 陰極:4H2O→4H2+2O2:ΔH=+968kJ したがって、反応の熱収支はトータルでは165kJの吸熱となり、原理的に外部からの熱供給が必要となる。」 (ウ)「[0019] 陽極に還元性ガスを供給する固体酸化物電解質膜による高温水蒸気電解法では、熱力学的に解析したとき、電気エネルギーは殆ど必要ないこととなるが、実際には陽極過電圧、陰極過電圧、電解質の電気抵抗で消費される電圧が必要である。この過電圧は、0.5V以下にすることが省電力のために必要である。 [0020] 0.5Vの過電圧は熱となるが、その熱量は、4モルの水を電解する場合には260kJ程度である。したがって、電解槽の陽極側にメタンを供給する場合には、この過電圧による発熱が吸熱反応のエネルギーとして利用される。しかしながら、反応の吸熱は上記で計算したように165kJであるので、トータルで260-165=95kJのエネルギーが残り、これが供給ガスを加熱する余力として利用される。 [0021] 次に、この95kJのエネルギーで、供給ガスをどの程度加熱できるかについて考察する。電解槽の陽極側にメタンを供給する場合、メタンの熱容量が約50J/deg・molなので、例えばメタンを400℃温度上昇させる場合に必要なエネルギーは20kJ/mol程度である。一方、陰極側に供給される水蒸気は、メタンの4倍モル使用されるので、水蒸気の熱容量約37J/molから、これを400℃温度上昇させるのに必要なエネルギーは60kJ程度となる。この合計は約80kJなので、上述の95kJの余剰エネルギーで、メタン及び水蒸気を加熱して400℃温度上昇させることができることになる。すなわち、例えば、400℃の還元性ガス及び水蒸気を本発明にかかる高温水蒸気電解槽に供給すれば、過電圧による余力のエネルギーで約800℃まで昇温できることになる。 [0022] したがって、高温水蒸気電解槽の陽極側に供給する還元性ガス及び陰極側に供給する高温水蒸気の温度を300~500℃とすれば、0.5Vの過電圧をかけることによって、過電圧による発熱によって電解槽内での温度を700~900℃とすることができ。効率的に高温水蒸気電解によって高純度の水素を製造することができる。」 (エ)「[0030] 高温水蒸気電解槽13は、固体酸化物電解質の隔膜14によって陽極側15と陰極側16に仕切られている。高温水蒸気19を電解槽の陰極側16に、還元性ガス10を電解槽の陽極側15に供給して、電力17をAC-DC変換器18で直流に変換して電解槽に通電すると、陰極側16に供給された高温水蒸気19は電解作用で水素と酸素に分解される。 [0031] 生成した水素20が、高純度水素として回収される。一方、生成した酸素21は、固体酸化物電解質の隔膜14を選択的に通過して、過電圧の駆動力によって陽極側15に移動する。陽極側15では、酸素21が還元性ガス8と反応して消費され、酸素イオンの濃度勾配が形成されるので、酸素が陽極側に移動するのに必要な電圧が下がり、電力消費量は大幅に低減される。 [0032] 陽極側15で生成する高温排ガス22は、熱交換器23を経て低温排ガス24として系外に排出される。熱交換器23では、水25が供給され、水蒸気6が生成する。生成した水蒸気6は、上記に説明した熱分解流動層2の流動化ガスとして利用することができる。また、高温の水蒸気19は、流量調整弁26を介して管路27と管路28とに配分制御され、管路27の高温水蒸気19は、高温水蒸気電解槽の陰極側16に供給される。また、管路28の高温水蒸気は、発電などに利用することができる。」 (オ)「【図1】 [図:0001435190000001.jpg] 」 イ 甲1に記載された発明 上記アに摘記した事項を総合勘案すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。 「固体酸化物電解質の隔膜によって陽極側と陰極側に仕切られた高温水蒸気電解槽を備え、高温水蒸気を電解槽の陰極側に、還元性ガスであるメタンガスを電解槽の陽極側に供給し、電力をAC-DC変換器で直流に変換して、電解槽に0.5Vの過電圧を通電して、陰極側に供給された高温水蒸気を電解作用により水素と酸素に分解し、生成した該水素を高純度水素として回収する水素の製造装置であって、陽極側で生成した高温排ガスが熱交換器を経て低温排ガスとして系外に排出され、該熱交換器には、水が供給されて前記高温水蒸気を生成し、該高温水蒸気は、流量調整弁を介して配分制御され、前記高温水蒸気電解槽の陰極側に供給される水素の製造装置。」(以下「甲1発明」という。) (2)本件発明7について ア 対比 本件発明7と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「固体酸化物電解質の隔膜によって陽極側と陰極側に仕切られた高温水蒸気電解槽」、「水素の製造装置」は、それぞれ、本件発明7の「水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)」、「水素製造システム」に相当する。 また、甲1発明の「電解槽の陰極側」においては、「高温水蒸気」が「供給」され「水素」が生成するから、甲1発明の「陰極」は、本件発明7の「水蒸気が流入する水素極」に相当する。 (イ)甲1発明における「電解槽の陽極側」には、還元性ガスであるメタンガスが供給されている。また、本件発明7の「酸素極」には、プラスの電荷が印加されることは明らかであるから、甲1発明の「陽極」は、「ガスが流入する」陽極である限りにおいて、本件発明7の「酸素ガスを含むガスが流入する酸素極」と共通するものである。 (ウ)甲1発明の「熱交換器」は、「陽極側で生成した高温排ガス」と「水」を熱交換することで、「高温水蒸気」を得るためのものである。そして、前記「陽極側で生成した高温排ガス」は、「0.5Vの過電圧」による「高温水蒸気電解槽」からの発熱により高温となった「排ガス」であって、前記「高温水蒸気」は、「電解槽の陰極側」に供給されるものである。 また、上記(1)ア(イ)、(ウ)によれば、甲1発明においては、「0.5Vの過電圧」により、260kJの熱量が発生するが、そのうち165kJの熱量が吸熱反応のエネルギーとして利用され、残りの95kJの熱量が供給ガス、すなわち、メタンや水蒸気を加熱する余力として利用されるから、該95kJの熱量は、本件発明7の「余剰発熱」に相当することになる。 したがって、甲1発明の「熱交換器」は、本件発明7の「SOECの余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置」に相当する。 (エ)甲1発明においては、AC-DC変換器を介して高温水蒸気電解槽への通電を行っており、該AC-DC変換器へ電力を供給する交流電源を有していることは明らかである。したがって、甲1発明は、本件発明7の「電源装置」に相当する装置を当然に備えるものである。 また、甲1発明が当然に備えている上記電源装置は、上記(ウ)のとおり、「0.5Vの過電圧」を印加するものであり、該過電圧により発生した熱量は、吸熱反応のエネルギー、及び、メタンや水蒸気を加熱する余力として利用されるものであるから、熱中立電圧以上の電圧を印加するものであることも明らかである。 (オ)甲1発明の「流量調整弁」は、高温水蒸気電解槽の陰極、すなわち、水素極に供給される高温水蒸気の流量を制御するためのものであることは明らかであるから、本件発明7の「水素極を流通する前記水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御する水蒸気制御装置」に相当する。 (カ)そうすると、本件発明7と甲1発明とは、 「水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)であって、前記水蒸気が流入する水素極と、ガスが流入する陽極とを備えるSOECと、 前記SOECに熱中立電圧以上の電圧を印加する電源装置と、 前記SOECの余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置と、 前記水素極を流通する前記水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御する水蒸気制御装置と を備える水素製造システム。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明7は、SOECが「酸素を含むガスが流入する酸素極」を備えているのに対し、甲1発明は、電解槽の陽極側に「還元性ガスであるメタンガス」を供給している点。 <相違点2> 本件発明7は、「SOECの余剰発熱を熱媒体に回収」し「水素極から流出した水蒸気と前記熱媒体とが熱交換する熱交換器」を有する「余剰発熱回収装置」を備えているのに対し、甲1発明はそのような特定をしていない点。 <相違点3> 本件発明7は、「SOECの温度を検出する温度検出装置」を備えているのに対し、甲1発明はそのような特定をしていない点。 <相違点4> 本件発明7は、「SOECを流れる電流値を調整する電流値調整装置」を備えているのに対し、甲1発明はそのような特定をしていない点。 <相違点5> 本件発明7は、「熱中立電圧よりも0.05~0.5V高い電圧」をSOECに印加するのに対し、甲1発明は、熱中立電圧よりも0.05~0.5V以上高い電圧が印加されているのかが不明である点。 <相違点6> 本件発明7は、「水蒸気生成装置は、前記熱媒体と前記水とを熱交換することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成するように構成され」るものであるのに対し、甲1発明はそのような特定をしていない点。 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、相違点1について検討する。 (ア)甲1には、陽極側に酸素を含むガスを流入させることについての記載は見当たらず、上記(1)ア(イ)に示したとおり、「陽極側15では、酸素21が還元性ガス8と反応して消費され、酸素イオンの濃度勾配が形成されるので、水の電解に必要な電圧が下がり、電力消費量は大幅に低減される」([0012])ことが記載されている。該記載からみて、甲1発明は、固体酸化物を通過した酸素イオンを、陽極側においてメタン等の還元性ガスと反応させることで、水素極(陰極)と陽極との間に酸素イオンの濃度勾配を形成することを前提とするものといえる。 (イ)したがって、申立人が意見書にて主張するように、SOECを用いて水蒸気を電気分解することにより水素を製造する際に、陽極側に酸素を含むガスを流入させることが、甲5に記載されるように周知技術であったとしても、上記のような前提の甲1発明において、「還元性ガスであるメタンガス」に代えて、酸素との反応性が低いと考えられる「酸素を含むガス」を採用することが動機付けられるとはいえない。 上記の判断は、甲3~4の記載を参酌しても変わるものではない。 (ウ)したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る「酸素を含むガスが流入する酸素極」という発明特定事項を備えることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、上記相違点2~6について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1に記載された発明及び甲3~5に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 2 申立理由1(進歩性)について (1)本件発明1について ア 甲1には、上記1(1)イに示した甲1発明が記載されており、以下、本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「固体酸化物電解質の隔膜によって陽極側と陰極側に仕切られた高温水蒸気電解槽」、「水素の製造装置」は、それぞれ、本件発明1の「水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)」、「水素製造システム」に相当する。 (イ)甲1発明においては、AC-DC変換器を介して高温水蒸気電解槽への通電を行っており、該AC-DC変換器へ電力を供給する交流電源を有していることは明らかである。したがって、甲1発明は、本件発明1の「電源装置」に相当する装置を当然に備えるものである。 また、甲1発明が当然に備えている上記電源装置は、上記(1)ア(ウ)のとおり、「0.5Vの過電圧」を印加するものであり、該過電圧により発生した熱量は、吸熱反応のエネルギー、及び、メタンや水蒸気を加熱する余力として利用されるものであるから、熱中立電圧以上の電圧を印加するものであることも明らかである。 (ウ)甲1発明の「熱交換器」は、「陽極側で生成した高温排ガス」と「水」を熱交換することで、「高温水蒸気」を得るためのものである。そして、前記「陽極側で生成した高温排ガス」は、「0.5Vの過電圧」による「高温水蒸気電解槽」からの発熱により高温となった「排ガス」であって、前記「高温水蒸気」は、「電解槽の陰極側」に供給されるものである。 また、上記(1)ア(イ)、(ウ)によれば、甲1発明においては、「0.5Vの過電圧」により、260kJの熱量が発生するが、そのうち165kJの熱量が吸熱反応のエネルギーとして利用され、残りの95kJの熱量が供給ガス、すなわち、メタンや水蒸気を加熱する余力として利用されるから、該95kJの熱量は、本件発明1の「余剰発熱」に相当することになる。 したがって、甲1発明の「熱交換器」は、本件発明1の「SOECの余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置」に相当する。 (エ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)と、 前記SOECに熱中立電圧以上の電圧を印加する電源装置と、 前記SOECの余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置と、 を備えた水素製造システム。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点7> 本件発明1は、「SOECの余剰発熱を熱媒体に回収」するものであって「前記SOECを冷却する前記熱媒体が流通する流路」を有する「余剰発熱回収装置」を備えているのに対し、甲1発明はそのような特定をしていない点。 <相違点8> 本件発明1は、「熱中立電圧よりも0.05~0.5V高い電圧」をSOECに印加するのに対し、甲1発明は、熱中立電圧よりも0.05~0.5V以上高い電圧が印加されているのかが不明である点。 <相違点9> 本件発明1は、「水蒸気生成装置は、前記熱媒体と前記水とを熱交換することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成するように構成され」るものであるのに対し、甲1発明はそのような特定をしていない点。 イ 甲2の記載事項 一方、本願の出願前に公知となった甲2には、「コンパクトな高温電気化学セルスタックアーキテクチャ」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。 (ア)「【0003】 本開示は、高温燃料電池スタックおよび電解スタックに関し、特に、固体酸化物(SOFC)および固体酸化物電解セル(SOEC)スタックに関し、より具体的には、高出力密度コンパクトSOFCスタックに関する。」 (イ)「【0048】 本明細書に記載の実施形態は、一般に、燃料電池および電解セルなどの電気化学セルに関し、特に、隣接する電気化学セルの間に介挿され、かつそれらに電気的に結合されたコルゲート相互接続部を含む、電気化学セルスタックに関し、コルゲーションは、シール部材を介して流体的に隔離される、一方の側に複数の燃料チャネル、および対向する側に複数の酸化剤チャネルを形成し、相互接続部は、電気化学セルスタックにコンプライアンスを提供するように構成されている。 ・・・ 【0052】 最後に、多くの燃料電池技術の重要な課題の1つは、スタック内の廃熱および温度分布を管理することである。スタックのサイズが大きくなると、環境への直接的な熱除去は、ますます実行できなくなる。代わりに、大きなスタックは、吸熱反応(改質)および/またはガス流への対流冷却に依存している。実際の経験は、合理的なスタック内温度差で対流冷却を実現するには、流量を高くする必要があることを示す。」 (ウ)「【0077】 図5は、一実施形態による、燃料電池スタック110のアレイ100の斜視図である。この実施形態では、燃料は、燃料電池スタック110の基部から供給および抽出され、一方で、酸化剤ガス(例えば、空気)は、スタックの上方の収容体積に入れられ、燃料電池スタック110の基部から抽出される。空気は一般に、対流熱容量が高いため、電気化学セルスタック110を冷却する主な手段として使用され得る。空気は、比較的低い温度で燃料電池スタック110(またはスタックアレイ)の上方に入り、燃料電池スタック110の上方の面積を冷却する。ばね圧迫および電流収集は、この領域に統合され得、この領域では、温度が低いと、適切な強度および電流容量を維持しながら、特殊な材料の使用および/または全体的な材料の使用がより少なくなる。」 ウ 相違点についての判断 相違点7、9は互いに関連するものであるから、以下でまとめて検討する。 (ア)上記イからみて、甲2には、燃料電池スタックや電解セルスタックにおいて、スタック内に空気等を流入させて該スタックの冷却を行う技術が記載されているといえるが、上記冷却に用いた空気を熱媒体として水の加熱に利用して、水蒸気を得て、該水蒸気を電解セルに供給することについて特段の記載はない。 (イ)したがって、甲1発明において、甲2に記載された技術を採用し、電解セルの冷却を空気等の熱媒体により行うことが、当業者にとって容易であったとしても、該熱媒体を用いて水を加熱し、水蒸気を得て、得られた水蒸気を電解セルに供給することまでもが容易であったとはいえない。 (ウ)したがって、甲1発明において、甲2に記載された事項に基いて、上記相違点7、9に係る「SOECの余剰発熱を熱媒体に回収」するものであって「SOECを冷却する前記熱媒体が流通する流路」を有する「余剰発熱回収装置」により回収された熱を、「前記熱媒体と前記水とを熱交換することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する」るという発明特定事項を備えることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 エ 小括 以上のとおりであるから、相違点8について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件発明2、6、10について 本件特許の請求項2、6、10は、請求項1の記載を直接または間接的に引用するものであるから、本件発明2、6、10は、本件発明1の発明特定事項をすべて備えたものである。 そして、上記(1)のとおり、本件発明1が甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、本件発明2、6、10も、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 なお、甲6にも、「SOECの余剰発熱を熱媒体に回収」するものであって「SOECを冷却する前記熱媒体が流通する流路」を有する「余剰発熱回収装置」により回収された熱を、「前記熱媒体と前記水とを熱交換することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成するように構成され」るという発明特定事項を備える記載は見当たらないから、上記の判断は、甲6に記載された事項を参酌しても変わるものではない。 (3)本件発明3について ア 対比 甲1には、上記1(1)イに示した甲1発明が記載されており、以下、本件発明3と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「固体酸化物電解質の隔膜によって陽極側と陰極側に仕切られた高温水蒸気電解槽」、「水素の製造装置」は、それぞれ、本件発明3の「水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)」、「水素製造システム」に相当する。 (イ)甲1発明においては、AC-DC変換器を介して高温水蒸気電解槽への通電を行っており、該AC-DC変換器へ電力を供給する交流電源を有していることは明らかである。したがって、甲1発明は、本件発明3の「電源装置」に相当する装置を当然に備えるものである。 また、甲1発明が当然に備えている上記電源装置は、上記(1)ア(ウ)のとおり、「0.5Vの過電圧」を印加するものであり、該過電圧により発生した熱量は、吸熱反応のエネルギー、及び、メタンや水蒸気を加熱する余力として利用されるものであるから、熱中立電圧以上の電圧を印加するものであることも明らかである。 (ウ)甲1発明の「熱交換器」は、「陽極側で生成した高温排ガス」と「水」を熱交換することで、「高温水蒸気」を得るためのものである。そして、前記「陽極側で生成した高温排ガス」は、「0.5Vの過電圧」による「高温水蒸気電解槽」からの発熱により高温となった「排ガス」であって、前記「高温水蒸気」は、「電解槽の陰極側」に供給されるものである。 また、上記(1)ア(イ)、(ウ)によれば、甲1発明においては、「0.5Vの過電圧」により、260kJの熱量が発生するが、そのうち165kJの熱量が吸熱反応のエネルギーとして利用され、残りの95kJの熱量が供給ガス、すなわち、メタンや水蒸気を加熱する余力として利用されるから、該95kJの熱量は、本件発明3の「余剰発熱」に相当することになる。 したがって、甲1発明の「熱交換器」は、本件発明3の「SOECの余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置」に相当する。 (エ)甲1発明における「電解槽の陽極側」には、還元性ガスであるメタンガスが供給されている。また、本件発明3の「酸素極」には、プラスの電荷が印加されることは明らかであるから、甲1発明の「陽極」は、「ガスが流入する」陽極である限りにおいて、本件発明3の「酸素ガスを含むガスが流入する酸素極」と共通するものである。 (オ)そうすると、本件発明3と甲1発明とは、 「水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)と、 前記SOECに熱中立電圧以上の電圧を印加する電源装置と、 前記SOECの余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置と、 前記SOECは、ガスが流入する陽極を備えた水素製造システム。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点10> 本件発明3は、「SOECの余剰発熱を熱媒体に回収」する「余剰発熱回収装置」を備えているのに対し、甲1発明はそのような特定をしていない点。 <相違点11> 本件発明3は、「熱中立電圧よりも0.05~0.5V高い電圧」をSOECに印加するのに対し、甲1発明は、熱中立電圧よりも0.05~0.5V以上高い電圧が印加されているのかが不明である点。 <相違点12> 本件発明3は、「水蒸気生成装置は、前記熱媒体と前記水とを熱交換することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成するように構成され」るものであるのに対し、甲1発明はそのような特定をしていない点。 <相違点13> 本件発明3は、SOECが「酸素を含むガスが流入する酸素極」を備えているのに対し、甲1発明は、電解槽の陽極側に「還元性ガスであるメタンガス」を供給している点。 <相違点14> 本件発明3は、「SOECの余剰発熱を熱媒体に回収」し「酸素極から流出した酸化性の排ガスと前記熱媒体とが熱交換する熱交換器」を有する「余剰発熱回収装置」を備えているのに対し、甲1発明はそのような特定をしていない点。 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、相違点13について検討するに、該相違点13は、上記1(2)ア(カ)に示した相違点1と同様なものである。そして、上記1(2)イに示したとおり、甲1発明において、相違点1に係る「酸素を含むガスが流入する酸素極」という発明特定事項を備えることを、当業者が容易に想到し得たとはいえないから、同様に、甲1発明において、相違点13に係る「酸素を含むガスが流入する酸素極」という発明特定事項を備えることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、相違点10~12、14について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件発明8、9、11について 本件特許の請求項8、9、11は、請求項3の記載を直接または間接的に引用するものであるから、本件発明8、9、11は、本件発明3の発明特定事項をすべて備えたものである。 そして、上記(3)のとおり、本件発明3が甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、本件発明8、9、11も、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 上記の判断は、甲3~5に記載された周知技術、甲6に記載された事項を参酌しても変わるものではない。 (5)本件発明4について ア 対比 甲1には、上記1(1)イに示した甲1発明が記載されており、以下、本件発明4と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「固体酸化物電解質の隔膜によって陽極側と陰極側に仕切られた高温水蒸気電解槽」、「水素の製造装置」は、それぞれ、本件発明4の「水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)」、「水素製造システム」に相当する。 また、甲1発明の「電解槽の陰極側」においては「高温水蒸気」が「供給」され、「水素」が生成するから、甲1発明の「陰極」は、本件発明4の「水蒸気が流入する水素極」に相当する。 (イ)甲1発明における「電解槽の陽極側」には、還元性ガスであるメタンガスが供給されている。また、本件発明4の「酸素極」には、プラスの電荷が印加されることは明らかであるから、甲1発明の「陽極」は、「ガスが流入する」陽極である限りにおいて、本件発明4の「酸素ガスを含むガスが流入する酸素極」と共通するものである。 (ウ)甲1発明の「熱交換器」は、「陽極側で生成した高温排ガス」と「水」を熱交換することで、「高温水蒸気」を得るためのものである。そして、前記「陽極側で生成した高温排ガス」は、「0.5Vの過電圧」による「高温水蒸気電解槽」からの発熱により高温となった「排ガス」であって、前記「高温水蒸気」は、「電解槽の陰極側」に供給されるものである。 また、上記(1)ア(イ)、(ウ)によれば、甲1発明においては、「0.5Vの過電圧」により、260kJの熱量が発生するが、そのうち165kJの熱量が吸熱反応のエネルギーとして利用され、残りの95kJの熱量が供給ガス、すなわち、メタンや水蒸気を加熱する余力として利用されるから、該95kJの熱量は、本件発明4の「余剰発熱」に相当することになる。 したがって、甲1発明の「熱交換器」は、本件発明4の「SOECの余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置」に相当する。 (エ)甲1発明においては、AC-DC変換器を介して高温水蒸気電解槽への通電を行っており、該AC-DC変換器へ電力を供給する交流電源を有していることは明らかである。したがって、甲1発明は、本件発明4の「電源装置」に相当する装置を当然に備えるものである。 また、甲1発明が当然に備えている上記電源装置は、上記(ウ)のとおり、「0.5Vの過電圧」を印加するものであり、該過電圧により発生した熱量は、吸熱反応のエネルギー、及び、メタンや水蒸気を加熱する余力として利用されるものであるから、熱中立電圧以上の電圧を印加するものであることも明らかである。 (オ)甲1発明の「流量調整弁」は、高温水蒸気電解槽の陰極、すなわち、水素極に供給される高温水蒸気の流量を制御するためのものであることは明らかであるから、本件発明4の「水素極を流通する前記水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御する水蒸気制御装置」に相当する。 (カ)甲1発明の「熱交換器」は、陽極側で生成した高温排ガスと水とを熱交換して、電解槽へ供給するための高温水蒸気を生成するものであるから、「水と」陽極「から流出した排ガスとが熱交換することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する」ものである限りにおいて本件発明4と共通するものである。 (キ)そうすると、本件発明4と甲1発明とは、 「水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)であって、前記水蒸気が流入する水素極と、ガスが流入する陽極とを備えるSOECと、 前記SOECに熱中立電圧以上の電圧を印加する電源装置と、 前記SOECの余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置と、 前記水素極を流通する前記水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御する水蒸気制御装置とを備え、 前記水蒸気生成装置は、水と陽極から流出した排ガスとが熱交換することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成するように構成されている水素製造システム。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点15> 本件発明4は、SOECが「酸素を含むガスが流入する酸素極」を備えているのに対し、甲1発明は、電解槽の陽極側に「還元性ガスであるメタンガス」を供給している点。 <相違点16> 本件発明4は、「SOECの温度を検出する温度検出装置」を備えているのに対し、甲1発明はそのような特定をしていない点。 <相違点17> 本件発明4は、「SOECを流れる電流値を調整する電流値調整装置」を備えているのに対し、甲1発明はそのような特定をしていない点。 <相違点18> 本件発明4は、「水蒸気生成装置」が「前記水と前記水素極から流出した水蒸気又は前記酸素極から流出した排ガスとが熱交換することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する」ものであるのに対して、甲1発明は、水と陽極から流出した排ガスとが熱交換することで水蒸気の少なくとも一部を生成するものである点。 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、相違点15について検討するに、該相違点15は、上記1(2)ア(カ)に示した相違点1と同様なものである。そして、上記1(2)イに示したとおり。甲1発明において、相違点1に係る「酸素を含むガスが流入する酸素極」という発明特定事項を備えることを、当業者が容易に想到し得たとはいえないから、同様に、甲1発明において、相違点15に係る「酸素を含むガスが流入する酸素極」という発明特定事項を備えることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 上記の判断は、甲3~5に記載された周知技術を参酌しても変わるものではない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、相違点16~18について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1に記載された発明、及び、甲3~5に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (6)本件発明5、12について 本件特許の請求項5、12は、請求項4の記載を直接引用するものであるから、本件発明5、12は、本件発明4の発明特定事項をすべて備えたものである。 そして、上記(5)のとおり、本件発明4が甲1に記載された発明、及び、甲3~5に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、本件発明5、12も、甲1に記載された発明、及び、甲3~5に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本件特許の請求項1~12に係る特許は、令和7年 8月 4日付けで通知した取消理由、申立人が提出した特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2025-700429

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決194件(三菱重工業株式会社、林 尚子)
  • 2026-700195異議申立 / 2026-06-29 / 維持電気化学セル、電気化学セル装置、モジュールおよびモジュール収容装置
    同じ当事者: 林 尚子
  • 2026-700111異議申立 / 2026-06-22 / 維持固体酸化物形電気化学セル及びその利用
    同じ当事者: 林 尚子
  • 2026-700143異議申立 / 2026-06-10 / 維持電気化学セルスタック
    同じ当事者: 林 尚子
  • 2026-700141異議申立 / 2026-05-27 / 維持電気化学装置
    同じ当事者: 林 尚子
  • 2024-700394異議申立 / 2026-05-11 / 訂正認容アンモニア燃料ボイラ、及び、アンモニア供給システム
    同じ当事者: 三菱重工業株式会社
同じ論点・分野の審決(審決分類)70件(121・C25B)
  • 2025-700378異議申立 / 2026-03-30 / 訂正認容電極室枠、及び電解槽
    共通の審決分類: 121・C25B
  • 2025-700969異議申立 / 2026-03-06 / 維持水電解用被覆膜
    共通の審決分類: 121・C25B
  • 2025-700572異議申立 / 2025-12-26 / 維持インターコネクタ、及び電気化学セル
    共通の審決分類: 121・C25B
  • 2025-700573異議申立 / 2025-12-26 / 維持インターコネクタ、及び電気化学セル
    共通の審決分類: 121・C25B
  • 2024-701054異議申立 / 2025-10-16 / 訂正認容水素の製造のための装置
    共通の審決分類: 121・C25B

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存