特許異議申立
2025-701031
性能予測装置、性能予測方法及び性能予測プログラム
- 審判番号
- 2025-701031
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-036005
- 登録番号
- 7672844
- 請求日
- 2025年10月29日
- 審決日
- 2026年02月10日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ナブテスコ株式会社
- 【権利者代理人】棚井 澄雄
- 【権利者代理人】鈴木 慎吾
- 【権利者代理人】及川 周
- 【権利者代理人】田▲崎▼ 聡
- 【異議申立人】矢菅 由布子
- 審判長/審判官
- 審判長 圓道 浩史
- 審判官 坂東 大五郎
- 審判官 木方 庸輔
- 分類
- P1651.113-Y (G06F) / P1651.121-Y (G06F) / P1651.536-Y (G06F) / P1651.537-Y (G06F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7672844号発明「性能予測装置、性能予測方法及び性能予測プログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7672844号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7672844号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、令和3年3月8日に出願され、令和7年4月25日にその特許権の設定登録がされ、令和7年5月8日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和7年10月29日に特許異議申立人 矢菅由布子(以下、「申立人」という。)は特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~12に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明12」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、A~Fは説明のために当審で付したものであり、対応する発明特定事項を、以下、構成A~構成Fという。
(本件発明1)
【請求項1】
A 所定の物体に関する解析条件及び解析結果又は試験条件及び試験結果の少なくともいずれか一方の情報を記憶する記憶部と、
B 性能値の予測対象である物体の形状データを取得する取得部と、
C 前記記憶部に記憶された情報と前記取得部によって取得された前記形状データとに基づいて前記性能値の予測値を導出する予測部と、
D 前記予測部によって導出された前記予測値に信頼度を付与する信頼度付与部と、
E 前記信頼度が付与された前記予測値を出力する出力部と
F を備える性能予測装置。
(本件発明2)
【請求項2】
前記記憶部に記憶された情報に基づいて学習済モデルを生成するモデル生成部を備え、
前記予測部は、前記取得部によって取得された前記形状データと前記学習済モデルとに基づいて前記物体の性能値の予測値を導出する、
請求項1に記載の性能予測装置。
(本件発明3)
【請求項3】
前記信頼度付与部は、前記記憶部に記憶された前記解析条件及び前記解析結果を表す第1教師データの精度又は前記試験条件及び試験結果を表す第2教師データの精度の少なくともいずれか一方に基づいて前記信頼度を導出する、
請求項1に記載の性能予測装置。
(本件発明4)
【請求項4】
前記信頼度付与部は、前記記憶部に記憶された第1教師データの精度のサンプル数と前記第2教師データの精度のサンプル数との比に基づいて前記信頼度を導出する、
請求項3に記載の性能予測装置。
(本件発明5)
【請求項5】
前記信頼度付与部は、前記第1教師データと前記第2教師データとうちの少なくとも一方が前記記憶部に追加された場合に、前記予測値に付与された前記信頼度を更新する、
請求項4に記載の性能予測装置。
(本件発明6)
【請求項6】
前記信頼度付与部は新たな試験条件における試験結果を前記第2教師データとして前記記憶部に追加することをユーザに提案する、
請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の性能予測装置。
(本件発明7)
【請求項7】
前記第1教師データは前記物体の剛性データと前記物体の応力データと前記物体の周囲における流体の圧力損失データと前記流体の流れデータとのうちの少なくとも一つの前記解析結果を正解ラベルとして含む、
請求項3から請求項6のいずれか一項に記載の性能予測装置。
(本件発明8)
【請求項8】
前記第2教師データは前記物体の変位計測値と前記物体の応力計測値と時系列の振動入力に対する前記物体の加速度若しくは変位の計測値と前記物体に定められた位置間の圧力差の計測値と前記物体に対して作動油から加えられる力の計測値とうちの少なくとも一つの前記試験結果を正解ラベルとして含む、
請求項3から請求項7のいずれか一項に記載の性能予測装置。
(本件発明9)
【請求項9】
前記物体は機器又は部品であり、
前記機器は減速機と油圧バルブとコンプレッサとドアとのうちの少なくとも一つであり、
前記部品はボルトとバネとハウジングとブラケットと歯車とフレームとのうちの少なくとも一つである、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の性能予測装置。
(本件発明10)
【請求項10】
前記物体は風車と船舶と建機とロボットの少なくともいずれか一つに搭載される前記機器又は前記部品である、
請求項9に記載の性能予測装置。
(本件発明11)
【請求項11】
所定の物体に関する解析条件及び解析結果又は試験条件及び試験結果の少なくともいずれか一方の情報を記憶する記憶部と、取得部と、予測部と、信頼度付与部と、出力部とを備える性能予測装置が実行する性能予測方法であって、
前記取得部が、性能値が予測される対象である物体の形状データを取得する取得ステップと、
前記予測部が、前記所定の物体に関する前記解析条件及び前記解析結果又は前記試験条件及び前記試験結果の少なくともいずれか一方の情報と取得された前記形状データとに基づいて前記性能値の予測値を導出する予測ステップと、
前記信頼度付与部が、前記予測部によって導出された前記予測値に信頼度を付与する付与ステップと、
前記出力部が、前記信頼度が付与された前記予測値を出力する出力ステップと
を含む性能予測方法。
(本件発明12)
【請求項12】
コンピュータに、
性能値が予測される対象である物体の形状データを取得する取得手順と、
所定の物体に関する解析条件及び解析結果又は試験条件及び試験結果の少なくともいずれか一方の情報と取得された前記形状データとに基づいて前記性能値の予測値を導出する予測手順と、
導出された前記予測値に信頼度を付与する付与手順と、
前記信頼度が付与された前記予測値を出力する出力手順と
を実行させるための性能予測プログラム。
第3 申立理由の概要
1 申立理由
申立人が主張する異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
(1)理由1(新規性(特許法第29条第1項第3号、同法第113条第2号))
本件発明1、2、11及び12は、それぞれ、甲1発明と同一の発明である。
(2)理由2(進歩性(特許法第29条第2項、同法第113条第2号))
ア 理由2-1
本件発明1、2、9~12は、それぞれ、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得た発明である。
イ 理由2-2
本件発明1、2、9~12は、それぞれ、甲1発明及び周知の技術(甲3技術事項~甲8技術事項)に基づいて当業者が容易になし得た発明である。
ウ 理由2-3
本件発明1、2、9~12は、それぞれ、甲2発明及び周知の技術(甲3技術事項~甲8技術事項)に基づいて当業者が容易になし得た発明である。
(3)理由3(明確性(特許法第36条第6項第2号、同法第113条第4号))
本件発明1~12は明確ではないため、請求項1~12は、特許法第36号第6項第2号の規定を満たさない。
(4)理由4(サポート要件(特許法第36条第6項第1号、同法第113条第4号))
請求項1、2、9~12では、教師データ又は対象形状データの「精度」を必須のパラメータとする本件特許の独自指標としての「信頼度」とは別の意味の“信頼度”を付与する態様も包含されており、発明の詳細な説明に記載された範囲をこのような態様についてまで拡張ないし一般化できないから、請求項1、2、9~12はサポート要件に違反する。
(5)理由5(実施可能要件(特許法第36条第4項第1号、同法第113条第4号))
本件発明の詳細な説明は、請求項1~12の発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
2 証拠方法
甲第1号証:Shinkyu Jeong, 他2名, 「Efficient Optimization Design Method Using Kriging Model」, Journal of Aircraft, vol.42, No.2, 2005 (https://arc.aiaa.org/doi/10.2514/1.6386), 2012年5月22日, アメリカ航空宇宙学会(AIAA)
甲第2号証:特開2017-111658号公報
甲第3号証:中井悦司, 「ITエンジニアのための機械学習理論入門」, 2016年11月20日初版第4刷発行, 株式会社技術評論社
甲第4号証:Balaji Lakshminarayanan, 他2名, 「Simple and Scalable Predictive Uncertainty Estimation using Deep Ensembles」, NIPS'17: Proceedings of the 31st International Conference on Neural Information Processing Systems, 2017年12月4日, Curran Associates Inc.
甲第5号証:特開2007-227618号公報
甲第6号証:特開2020-71493号公報
甲第7号証:特開2016-73156号公報
甲第8号証:特開2010-191614号公報
(以下、甲第1号証~甲第8号証を、それぞれ、「甲1」~「甲8」ということがある。)
第4 各甲号証の記載
1 甲第1号証
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下の記載がある。なお、仮訳は、申立人が提出した訳文によるものである。また、下線も申立人が付したものである。
ア「
[図:0001433127000001.jpg]
」 (第414頁右欄第1~8行目)
(仮訳:
[図:0001433127000002.jpg]
)
イ「
[図:0001433127000003.jpg]
」 (第416頁左欄第1~10行目)
(仮訳:
[図:0001433127000004.jpg]
)
ウ「
[図:0001433127000005.jpg]
」 (第416頁左欄第11~26行目)
(仮訳:
[図:0001433127000006.jpg]
)
エ「
[図:0001433127000007.jpg]
[図:0001433127000008.jpg]
」 (第416頁左欄第27行目~左欄第3行目)
(仮訳:
[図:0001433127000009.jpg]
[図:0001433127000010.jpg]
)
オ「
[図:0001433127000011.jpg]
[図:0001433127000012.jpg]
」 (第416頁右欄第4~38行目)
(仮訳:
[図:0001433127000013.jpg]
[図:0001433127000014.jpg]
[図:0001433127000015.jpg]
[図:0001433127000016.jpg]
)
(2)甲1発明
甲第1号証に記載の二次元翼型設計の最適化の処理がコンピュータによって行われることは、当業者にとって明らかであるから、上記(1)の事項を総合すると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。なお、各構成の末尾の()内に記載箇所を示した。また、1a~1lは説明のために当審で付したものであり、対応する発明特定事項を、以下、構成1a~構成1lという。
(甲1発明)
1a クリギングベースのGAが、揚抗比を最大化するために、二次元翼型設計の最適化に適用され((1)イ)、
1b 最初の設計問題は、マッハ数=2.0及び迎え角(AOA)=2.0degの条件において、翼型のL/Dを最大化することであり((1)イ)、
1c 形状は、PARSEC翼型定義を用いてパラメータ化され、翼型の形状を定義するために、合計10個の設計変数が使用され((1)ウ)、
1d サンプル点は直交配列(OAs)を用いて選択され、OAsは、強度2、水準5で、50個のサンプル点を有し((1)エ)、
1e 50個のサンプル翼型の性能がNavier-Stokesコードを用いて評価され((1)オ)、
1f 次に、サンプルデータに基づいてクリギングモデルが構築され、そのモデルがGAの最適化プロセスにおける目的関数評価のために使用され((1)オ)、
1g GAがクリギングモデルによる予測値のみに基づいて最大L/D点を探索する場合、モデルが予測点において何らかの不確実性を有するため、大域的最適点を頑健に見つけるために、目的関数L/Dは対応するEIに変換され((1)オ)、
1h 単一目的問題であるL/Dの最大化は、EIと面積比の両方の最大化というMO問題に変更され、目的関数は次のように表現され((1)オ)、
[図:0001433127000017.jpg]
1i ここで、s2(x)は予測子の平均二乗誤差であり、推定点における不確実性を示し、二乗平均平方根誤差(RSME) は、s=√s2(x)として表現され((1)ア)、
1j このMO問題は、MO GA (MOGA) によって解かれ((1)オ)、
1k パレート解の中から、最も高いL/D性能を示す翼型が追加のサンプルとして選択され、その翼型の性能がNavier-Stokesコードによって評価され、クリギングモデルが51個のサンプルデータで更新され、このルーチンは、L/Dがもはや改善されなくなるまで繰り返される((1)オ)、
1l コンピュータ。
2 甲第2号証
(1)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の記載がある。なお、下線は強調のために当審で付したものである。
ア「【0012】
図1は、本発明の一実施例に係る設計支援装置の全体概略構成図である。
図1に示すように、設計支援装置100は、データ入出力端末101、過去に入力され解析処理されたCADデータを格納するCADデータベース102、過去に入力されたCADデータに対する解析処理の結果を格納する解析結果データベース103、データ読込部104、学習パラメータ抽出部105、及び学習部106を備える。なお、学習部106は、詳細後述する例えば、第1ニューラルネットワークを有する。
また更に、設計支援装置100は、学習部106による学習結果としての重み係数(学習重み)を格納する学習結果データベース107、新たに入力されるCADデータを格納する新規CADデータベース108、判定部109、表示部110、及び解析条件格納111を備える。なお、判定部109は、詳細後述する例えば、第2ニューラルネットワークを有する。」
イ「【0015】
ここで、設計支援装置100の動作の概略を説明する。
データ読取部104は、データ入出力端末101から、CADデータ及び解析結果の情報を読み取り、読み取ったCADデータをCADデータベース102に保存すると共に、読み取った解析結果の情報(解析結果データ)を解析結果データベース103に保存する。
学習パラメータ抽出部105は、CADデータベース102に格納されるCADデータについて、CADデータを構成する形状パラメータである、例えば、部品の位置、厚さ又は長さなどの形状特徴、部品間の接続関係に関するデータを、学習パラメータとして自動で抽出する。なお、学習パラメータ抽出部105による学習パラメータとしての形状パラメータの自動抽出に代えて、ユーザが表示部110に表示されるCADデータを構成する形状パラメータのうち、所望の部品を対話的に選択指定することで、学習パラメータを抽出する構成としても良い。ユーザによる対話的な学習パラメータとしての形状パラメータの抽出については後述する。
また、学習パラメータ抽出部104は、解析結果データベース103に格納される解析結果などの解析処理に関するデータから、解析条件である、解析目的、格子点座標、各格子点での物理量に関するデータを、学習パラメータとして抽出する。ここで物理量とは、例えば、温度、流速などである。
【0016】
学習部106では、第1ニューラルネットワークに、学習パラメータ抽出部105にて抽出されたCADデータを構成する複数の形状パラメータ、及び解析条件を教師データとして、上記複数の形状パラメータを入力し、第1ニューラルネットワークからの出力と上記教師データである解析条件との差分に基づきバックプロパゲーション法により各ノード(ニューロン)における重み係数が修正されることで学習が実行される。この学習の結果得られた重み係数(学習重み)は、例えば、形状パラメータに紐付けられて、学習結果データベース107に格納される。なお、重み係数(学習重み)を、形状パラメータ毎に紐付けて格納することに代えて、形状パラメータを構成する部品毎、例えば、筐体、壁板、ねじ、IGBT(インバータ)、コンデンサ、バスバー毎に紐付けて格納するよう構成しても良い。」
ウ「【0033】
次に、設計支援装置100を構成する判定部109による処理の詳細について説明する。図3は、図1に示す判定部の処理フローを説明するフローチャートである。
ステップS201では、判定部109は、新規CADデータベース108にアクセスし、新規CADデータベース108に格納される新たに入力された新規CADデータを読み出す。
ステップS202では、判定部109は、読み出された新規CADデータから、新規CADデータを構成する形状パラメータである、部品の位置、厚さ又は長さなどの形状特徴、部品間の接続関係に関するデータを、学習パラメータとして抽出する。
【0034】
ステップS203では、判定部109は、ステップS202にて抽出された新規CADデータを構成する形状パラメータを、学習パラメータとして、第2ニューラルネットワークの入力ノードに入力する。
ステップS204では、判定部109は、学習結果データベース107にアクセスし、テップS202にて抽出された新規CADデータを構成する形状パラメータに紐付けられた重み係数(学習重み)が格納されているか、すなわち、学習結果データがあるか判定する。判定の結果、対応する学習結果データが学習結果データベース107に格納されていない場合には、判定処理を終了する。その後、新規CADデータに対する解析処理を、従来と同様に実行する。一方、判定の結果、対応する学習結果データが学習結果データベース107に格納されている場合には、ステップS205へ進む。
【0035】
ステップS205では、判定部109は、学習結果データベース107に格納される、新規CADデータを構成する形状パラメータに紐付けられた重み係数(学習重み)を読み出す。読み出された重み係数(学習重み)は、判定部109により第2ニューラルネットワークの各ノードに設定される。
その後、ステップS206では、判定部109は、ステップS202にて抽出された新規CADデータを構成する形状パラメータを、第2ニューラルネットワークの入力ノードに入力する。第2ニューラルネットワークは入力された形状パラメータと設定された重み係数(学習重み)との積和演算により、この積和演算結果を解析結果の出力予測値として、出力ノードより出力する。すなわち、第2ニューラルネットワークは出力を計算する。
【0036】
ここで、第2ニューラルネットワークによる解析結果の出力予測値を得る方法について説明する。図8は、判定部に設けられる第2ニューラルネットワークにより、新規CADデータから重み係数を用いて出力予測値を得る方法の一例を示す図である。図8に示すように、第2ニューラルネットワーク502は、入力ノード503、中間ノード504、及び出力ノード505を備える。図8に示す例では、入力ノード503がi1~i5の5個のノードからなり、中間ノード504は、2段構成を有し各段に3個のノードを有し、出力ノード505がj1~j5の5個のノードからなる場合を想定している。但し、入力ノード503、中間ノード504、及び出力ノード505の個数はこれに限られず、適宜所望の個数を設定でき、また、中間ノード504の段数は2段に限らず、所望の段数に適宜設定できる。
【0037】
上述のように、判定部109は、ステップS205にて読み出された重み係数(学習重み)507を、第2ニューラルネットワーク502の各ノードに設定する。その後、新規CADデータ501から抽出された部品の位置、厚さ又は長さなどの形状特徴、部品間の接続関係に関するデータなどの形状パラメータを、第2ニューラルネットワーク502の入力ノード503に入力する。第2ニューラルネットワーク502は、入力ノード503に入力された形状パラメータと設定された重み係数(学習重み)の積和演算により、出力ノード505から解析結果の出力予測値506を出力する。
【0038】
図3に戻り、ステップS207では、判定部109は、解析条件格納部111にアクセスし、予め格納されるチェックルール(解析条件)に基づき、ステップS206で得られた解析結果の出力予測値を判定する。具体的には、判定部109は、解析条件格納部111に格納される解析条件である格子点の物理量に対する閾値と、ステップS206にて得られた解析結果の出力予測値とを比較し、上記チェックルール(解析条件)を満たすか否かを判定する。なお、上記チェックルール(解析条件)は、格子点の物理量毎に閾値を設定し、各物理量が閾値以上又は閾値以下である場合、解析処理の必要性の有無を規定するものである。
ステップS208では、判定部109は、ステップS207における判定結果を、表示部110の表示画面上に表示し、判定処理を終了する。なお、判定結果が上記チェクルールを満たす場合には、解析処理の必要性は無いことから、新規CADデータに対する解析処理のスキップを行う。
【0039】
なお、ステップS208では、判定結果を表示部110の表示画面上に表示する構成としたが、これに代えて、判定結果と共に解析結果の出力予測値を表示部110の表示画面上に表示する構成としても良い。」
(2)甲2発明
上記(1)の事項を総合すると、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。なお、各構成の末尾の()内に記載箇所を示した。また、2a~2jは説明のために当審で付したものであり、対応する発明特定事項を、以下、構成2a~構成2jという。
(甲2発明)
2a 設計支援装置100であって(【0012】)、
2b データ入出力端末101、過去に入力され解析処理されたCADデータを格納するCADデータベース102、過去に入力されたCADデータに対する解析処理の結果を格納する解析結果データベース103、データ読込部104、学習パラメータ抽出部105、学習部106、学習部106による学習結果としての重み係数(学習重み)を格納する学習結果データベース107、新たに入力されるCADデータを格納する新規CADデータベース108、判定部109、表示部110、解析条件格納111を備え(【0012】)、
2c 学習パラメータ抽出部105は、CADデータベース102に格納されるCADデータについて、CADデータを構成する形状パラメータである、例えば、部品の位置、厚さ又は長さなどの形状特徴、部品間の接続関係に関するデータを、学習パラメータとして自動で抽出し(【0015】)、
2d 学習パラメータ抽出部104は、解析結果データベース103に格納される解析結果などの解析処理に関するデータから、解析条件である、解析目的、格子点座標、各格子点での物理量に関するデータを、学習パラメータとして抽出し、ここで物理量とは、例えば、温度、流速などであり(【0015】)、
2e 学習部106では、第1ニューラルネットワークに、学習パラメータ抽出部105にて抽出されたCADデータを構成する複数の形状パラメータ、及び解析条件を教師データとして、上記複数の形状パラメータを入力し、第1ニューラルネットワークからの出力と上記教師データである解析条件との差分に基づきバックプロパゲーション法により各ノード(ニューロン)における重み係数が修正されることで学習が実行され、この学習の結果得られた重み係数(学習重み)は、例えば、形状パラメータに紐付けられて、学習結果データベース107に格納され(【0016】)、
2f 判定部109は、新規CADデータベース108にアクセスし、新規CADデータベース108に格納される新たに入力された新規CADデータを読み出し、読み出された新規CADデータから、新規CADデータを構成する形状パラメータである、部品の位置、厚さ又は長さなどの形状特徴、部品間の接続関係に関するデータを、学習パラメータとして抽出し(【0033】)、
2g 判定部109は、学習結果データベース107に格納される、新規CADデータを構成する形状パラメータに紐付けられた重み係数(学習重み)を読み出し、読み出された重み係数(学習重み)は、判定部109により第2ニューラルネットワークの各ノードに設定され(【0035】)、
2h 判定部109は、抽出された新規CADデータを構成する形状パラメータを、第2ニューラルネットワークの入力ノードに入力し、第2ニューラルネットワークは入力された形状パラメータと設定された重み係数(学習重み)との積和演算により、この積和演算結果を解析結果の出力予測値として、出力ノードより出力し(【0035】)、
2i 判定部109は、解析条件格納部111にアクセスし、予め格納されるチェックルール(解析条件)に基づき、得られた解析結果の出力予測値を判定し、具体的には、判定部109は、解析条件格納部111に格納される解析条件である格子点の物理量に対する閾値と、得られた解析結果の出力予測値とを比較し、上記チェックルール(解析条件)を満たすか否かを判定し、上記チェックルール(解析条件)は、格子点の物理量毎に閾値を設定し、各物理量が閾値以上又は閾値以下である場合、解析処理の必要性の有無を規定するものであり(【0038】)、
2j 判定結果と共に解析結果の出力予測値を表示部110の表示画面上に表示する(【0039】)、
2a 設計支援装置100。
3 甲第3号証
(1)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の記載がある。
ア「
[図:0001433127000018.jpg]
」 (第207頁第4~17行目)
イ「
[図:0001433127000019.jpg]
」 (第223頁第1行~16行目)
(2)甲3技術事項
上記(1)の事項を総合すると、甲第3号証には、以下の技術事項(以下、「甲3技術事項」という。)が記載されているといえる。なお、各構成の末尾の()内に記載箇所を示した。
(甲3技術事項)
ベイズ推定では、パラメーターの値が確率的に予測され((1)ア)、
例では、平均μのとり得る値に対する確率が得られ((1)イ)、
さまざまなμに対する正規分布N(t|μ,σ2)をそれぞれの確率P(μ|t)の重みで足し合わせるという操作により、次に観測されるデータの値がtである確率を積分により計算する((1)イ)、
技術事項。
4 甲第4号証
(1)甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下の記載がある。なお、仮訳は、申立人が提出した訳文によるものである。また、下線も申立人が付したものである。
ア「
[図:0001433127000020.jpg]
」 (第1頁第24~29行目)
(仮訳:
[図:0001433127000021.jpg]
)
イ「
[図:0001433127000022.jpg]
」 (第3頁第33~38行目)
(仮訳:
[図:0001433127000023.jpg]
)
ウ「
[図:0001433127000024.jpg]
」 (第8頁第16~21行目)
(仮訳:
[図:0001433127000025.jpg]
)
(2)甲4技術事項
上記(1)の事項を総合すると、甲第4号証には、以下の技術事項(以下、「甲4技術事項」という。)が記載されているといえる。なお、各構成の末尾の()内に記載箇所を示した。
(甲4技術事項)
ディープニューラルネットワークにおいて((1)ア)、
最終層で2つの値、すなわち、予測平均μ(x)と分散σ2(x)>0を出力するネットワークを使用し((1)イ)、
報告された信頼度が高い場合にモデルの予測を信頼する((1)ウ)、
技術事項。
5 甲第5号証
(1)甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、以下の記載がある。なお、下線は強調のために当審で付したものである。
ア「【請求項1】
半導体デバイスの製造プロセスの途中において所定の製造プロセスを経て試料上に形成されたパターンを測長SEMで観察して得た前記パターンのSEM画像に基づきパターンの断面形状をモニタする半導体プロセスモニタ方法であって、
予め、学習サンプルである様々な断面形状を有する第1のパターン群の第1のSEM画像群を前記測長SEMを用いて収集し、前記第1のパターンの第1の断面形状の情報群を他の計測装置を用いて収集し、前記収集された第1のSEM画像群と前記収集された第1の断面形状の情報群との対応関係を学習データとして、データベースに登録する学習データ登録ステップと、該学習データ登録ステップで登録された学習データにおける前記第1のSEM画像群から、第1のパターン群の立体状変化に相関のある第1の画像特徴量の分布の群を算出する画像特徴量算出ステップと、前記製造プロセスにおいて、前記断面形状群の予想変動区間における前記画像特徴量算出ステップで算出された第1の画像特徴量の分布の群に基づき、前記学習データにおける第1の画像特徴量群の信頼度、前記断面形状を推定する第1の推定エンジン群の信頼度、並びに該第1の推定エンジン群を用いて断面形状群が推定された第1の推定結果群の信頼度の内一つまたは複数の信頼度を算出する信頼度算出ステップと、該信頼度算出ステップで算出された一つまたは複数の信頼度に基づいて前記学習データ並びに第1の推定エンジンを決定してデータベースに登録する決定ステップとを有する学習処理過程と、
計測対象のSEM画像を取得するSEM画像取得ステップと、該SEM画像取得ステップで取得された計測対象のSEM画像から画像特徴量を算出する画像特徴量算出ステップと、該画像特徴量算出ステップで算出された画像特徴量と前記学習処理過程の決定ステップで決定された学習データ並びに第1の推定エンジンに基づいて、計測対象の断面形状を推定する推定ステップと、該推定ステップでの推定結果の信頼度を算出する信頼度算出ステップとを有する運用処理過程とを有することを特徴とする半導体プロセスモニタ方法。」
イ「【0098】
(推定エンジン)
本発明に係る推定エンジンは、特願2005-320319号で述べられている推定エンジンの一部、あるいは全てを用いることが可能である。該推定エンジンは、例えばk-NN法、尤度推定法等がある。ただし、前記推定エンジンに限定するものではなく、前記断面形状、あるいはプロセス条件の推定に用いることが可能な手法を選択することが可能である。」
(2)甲5技術事項
上記(1)の事項を総合すると、甲第5号証には、以下の技術事項(以下、「甲5技術事項」という。)が記載されているといえる。なお、各構成の末尾の()内に記載箇所を示した。
(甲5技術事項)
半導体デバイスの製造プロセスの途中において所定の製造プロセスを経て試料上に形成されたパターンを測長SEMで観察して得た前記パターンのSEM画像に基づきパターンの断面形状をモニタする半導体プロセスモニタ方法において(【請求項1】)、
計測対象の断面形状を推定する推定ステップと、該推定ステップでの推定結果の信頼度を算出する信頼度算出ステップとを有する運用処理過程とを有し(【請求項1】)、
推定エンジンは、例えばk-NN法、尤度推定法等がある(【0098】)、
技術事項。
6 甲第6号証
(1)甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、以下の記載がある。なお、下線は強調のために当審で付したものである。
ア「【請求項1】
過去に実行された条件と当該条件により得られた結果とが関連付けられた実績データの、所定の基準よりも新しい一部の実績データを取得する取得手段と、
取得された前記実績データに基づいて、条件から結果を予測するための確率的予測式を構築する構築手段と、
前記確率的予測式を用い、要求された条件から結果の予測値及び当該予測値の信頼度を算出する算出手段と、
を備える結果予測装置。」
イ「【請求項5】
前記確率的予測式は、ガウス過程に基づいて構築され、
前記予測値は平均として算出され、前記信頼度は分散として算出される、
請求項1ないし4の何れかに記載の結果予測装置。」
(2)甲6技術事項
上記(1)の事項を総合すると、甲第6号証には、以下の技術事項(以下、「甲6技術事項」という。)が記載されているといえる。なお、各構成の末尾の()内に記載箇所を示した。
(甲6技術事項)
取得された前記実績データに基づいて、条件から結果を予測するための確率的予測式を構築する構築手段と(【請求項1】)、
前記確率的予測式を用い、要求された条件から結果の予測値及び当該予測値の信頼度を算出する算出手段と(【請求項1】)、
を備える結果予測装置において(【請求項1】)、
前記確率的予測式は、ガウス過程に基づいて構築され(【請求項5】)、
前記予測値は平均として算出され、前記信頼度は分散として算出される(【請求項5】)、
技術事項。
7 甲第7号証
(1)甲第7号証の記載事項
甲第7号証には、以下の記載がある。なお、下線は強調のために当審で付したものである。
ア「【請求項1】
分散型電源の発電量を予測する発電量予測装置であって、
前記分散型電源の発電量と前記分散型電源の位置における気象情報との関係を示す予測式と、前記分散型電源の位置における指定の日時についての複数の気象予報値と、に基づいて、前記指定の日時における前記分散型電源の発電量に関する複数の予測値を算出する発電量算出部と、
前記複数の予測値における分布に基づいて、予測された発電量に対する信頼度を決定する信頼度決定部と、
を備えることを特徴とする発電量予測装置。」
イ「【0031】
<予測式導出部>
予測式導出部130は、気象観測データ記憶領域121に記憶された気象観測データ及び発電量測定データ記憶領域122に記憶された発電量測定データに基づいて、サイト1~4毎に予測式を導出する。予測式は、後述するように、サイト1~4のそれぞれにおける発電量を予測するための数式であり、本実施形態では、重回帰分析によって求められる線形回帰方程式である。」
ウ「【0036】
<予測手順の概要>
本実施形態では、説明の便宜上、例えば図7及び図8に示すように、気象観測データ及び発電実績データが1時間毎に気象観測装置W1~W4及び発電量測定装置M1~M4からそれぞれ提供され、気象観測データ記憶領域121及び発電量測定データ記憶領域122には少なくとも過去1年分のデータが記憶されていることを前提とする。また、図10に例示するように、2014年8月1日0時を現在時刻として、この時刻以降(将来)のアンサンブル予報データが気象予報装置WFから提供された場合に、予測装置100が発電量を予測する手順を示すこととする。
【0037】
まず発電量の予測手順を概略的に説明すると、図4に示すように、ステップS1において、サイト1~4毎に発電量の予測式を生成し、ステップS2において、サイト1~4毎に、生成された予測式に気象予報値を代入して発電量に関する複数の予測値を算出する。そして、ステップS3において、算出されたサイト1~4毎の複数の予測値に基づいて、所定地域Aにおける総発電量に関する複数の予測値を得る。ステップS4において、総発電量に関する複数の予測値の分布を求め、その分布に基づいて、予測された総発電量の信頼度を決定し、ステップS5において、決定された信頼度に基づいて総発電量の見込み値を決定する。なお、これらの手順は、例えば、気象予報装置WFから新たな気象予報データが提供される度(例えば6時間毎)に実行されてもよい。
以下、ステップS1~S5を詳細に説明する。」
(2)甲7技術事項
上記(1)の事項を総合すると、甲第7号証には、以下の技術事項(以下、「甲7技術事項」という。)が記載されているといえる。なお、各構成の末尾の()内に記載箇所を示した。
(甲7技術事項)
分散型電源の発電量に関する複数の予測値を算出する発電量算出部と(【請求項1】)、
前記複数の予測値における分布に基づいて、予測された発電量に対する信頼度を決定する信頼度決定部と(【請求項1】)、
を備える発電量予測装置において(【請求項1】)、
予測式は、重回帰分析によって求められる線形回帰方程式であり(【0031】)、
複数の予測値に基づいて、所定地域Aにおける総発電量に関する複数の予測値を得て、総発電量に関する複数の予測値の分布を求め、その分布に基づいて、予測された総発電量の信頼度を決定する(【0037】)、
技術事項。
8 甲第8号証
(1)甲第8号証の記載事項
甲第8号証には、以下の記載がある。なお、下線は強調のために当審で付したものである。
ア「【請求項1】
タイムスパンごとに収集されるVICS情報とプローブ情報とに基づいて、道路リンクの交通情報を推定する交通情報推定システムであって、
今回のタイムスパンで収集した前記VICS情報と前記プローブ情報とから、これらの情報の少なくとも一方が得られた前記道路リンクについての交通情報のリアルタイム予測値と、この予測値の信頼度であるリアルタイム信頼度とを生成するリアルタイムデータ処理部と、
前記リアルタイム予測値が得られた前記道路リンクと異なる他の前記道路リンクに、当該道路リンク間の相関度に応じて前記リアルタイム予測値と前記リアルタイム信頼度とを伝播させ、伝播後のそれらの値に基づいて伝播予測値と伝播信頼度とを生成する交通情報伝播処理部と、
前記各処理部でそれぞれ得られた前記予測値と前記信頼度とに基づいて、前記今回のタイムスパンに対し、前記道路リンクの交通情報の最終予測値を求める最終決定部と、
を備えていることを特徴とする交通情報推定システム。」
(2)甲8技術事項
上記(1)の事項を総合すると、甲第8号証には、以下の技術事項(以下、「甲8技術事項」という。)が記載されているといえる。なお、各構成の末尾の()内に記載箇所を示した。
(甲8技術事項)
タイムスパンごとに収集されるVICS情報とプローブ情報とに基づいて、道路リンクの交通情報を推定する交通情報推定システムにおいて(【請求項1】)、
今回のタイムスパンで収集した前記VICS情報と前記プローブ情報とから、これらの情報の少なくとも一方が得られた前記道路リンクについての交通情報のリアルタイム予測値と、この予測値の信頼度であるリアルタイム信頼度とを生成するリアルタイムデータ処理部と(【請求項1】)、
前記各処理部でそれぞれ得られた前記予測値と前記信頼度とに基づいて、前記今回のタイムスパンに対し、前記道路リンクの交通情報の最終予測値を求める最終決定部(【請求項1】)、
を備える技術事項。
第5 当審の判断
事案に鑑み、まず、理由3、4、5について検討し、その後に、理由1、2について検討する。
1 理由3(明確性)について
(1)申立人の主張
申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
ア「このように、本件特許における「前記予測値」の「信頼度」とは、本件明細書の記載から、『学習に用いた教師データの「精度」と「サンプル数」を反映した教師データ群の品質を示す指標』を意味し、モデルの予測性能の評価指標としての“予測値自体の確からしさ”という一般的な用語の意味から乖離している。
よって、請求項の「信頼度」の用語が、当業者の通常の理解から著しく乖離した、本件特許独自の意味合いで用いられている結果、その技術的意味が曖昧模糊となっており、本件特許の請求項1は明確性要件を満たさない。」(申立書第82頁第22行目~第83頁第3行目)
イ「上記(b)で述べたとおり、本件明細書における「前記予測値」の「信頼度」とは、当業界における通常の意味ではなく、『学習に用いた教師データの「精度」と「サンプル数」を反映した教師デー夕群の品質を示す指標』、または、『予測対象の物体の対象形状データの「精度」を反映した入カデータの品質を示す指標』という本件特許の独自指標であり、「信頼度」の算出のためには、教師データ又は対象形状データの「精度」が必須のパラメータである。
然るに、本件明細書には、「信頼度」を算出するために必要となるパラメータ、すなわち第1教師データ及び第2教師データの「精度」、または、対象形状データの「精度」の定義が一切記載されていない。
本件明細書では、「第1教師データ」及び「第2教師データ」のそれぞれに「精度データが予め付与されている」(【0025】【0027】)と記載されるのみで、その「精度」をどのように算出し、決定するのかは不明であり、本件明細書における教師データの「精度」が何を意味するのかが不明である。仮に、「精度」が真値からの教師データのズレを意味すると善解しても、第1教師データ(解析結果)の真値とは何なのか、第2教師データ(試験結果)の真値とは何なのかが不明である。
このように、本件特許の独自指標である「信頼度」の算出に用いられる、教師データ又は対象形状データの「精度」自体が何を意味するのかが不明であるため、本件特許の「信頼度」は不明確である。」(申立書第83頁第21行目~第84頁第17行目)
(2)判断
まず、本件発明1の「信頼度」という用語の意味について検討すると、「信頼度」とは、用語の一般的な意味のとおり、信頼の度合いを示すものと理解されるから明確である。
申立人は、上記(1)アにおいて、「本件特許における「前記予測値」の「信頼度」とは、本件明細書の記載から、『学習に用いた教師データの「精度」と「サンプル数」を反映した教師データ群の品質を示す指標』を意味し、モデルの予測性能の評価指標としての“予測値自体の確からしさ”という一般的な用語の意味から乖離している」と主張しているが、教師データの精度やサンプル数を反映した教師データ群の品質が高ければ、それに基づく予測値の信頼の度合いも高くなるものと理解できる。
そうすると、「本件特許における「前記予測値」の「信頼度」とは、・・・教師データ群の品質を示す指標」を意味するとの申立人の当該主張を前提としたとしても、本件特許における「信頼度」は、信頼の度合いを表すものであって、「信頼度」の一般的な意味と合致するといえる。
よって、本件発明1における「信頼度」が、一般的な用語の意味と乖離しているとはいえない。
また、申立人は、上記(1)イにおいて、「本件明細書には、「信頼度」を算出するために必要となるパラメータ、すなわち第1教師データ及び第2教師データの「精度」、または、対象形状データの「精度」の定義が一切記載されていない」、「仮に、「精度」が真値からの教師データのズレを意味すると善解しても、第1教師データ(解析結果)の真値とは何なのか、第2教師データ(試験結果)の真値とは何なのかが不明である」と主張している。
しかしながら、「精度」とは、用語の一般的な意味のとおり、値の正確さの度合いを示すものと理解できるものである。
また、解析の手法や試験の手法によって解析結果や試験結果の値の正確さの度合いが変わり得ることは、当業者にとって明らかであるから、解析結果や試験結果の「真値」が不明であることをもって、「精度」の定義が不明であるとはいえない。
よって、本件特許の明細書における「精度」が何を意味するのか不明とはいえない。
以上によれば、本件発明1の「信頼度」という用語は明確であるから、本件発明1は明確である。
また、同様の理由により、本件発明2~12も明確である。
よって、本件特許の請求項1~12に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしており、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものとは認められない。
2 理由4(サポート要件)について
(1)申立人の主張
申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
「本件明細書における「前記予測値」の「信頼度」とは、当業界における通常の意味ではなく、本件特許の独自指標であり、「信頼度」の算出のためには、教師データ又は対象形状データの「精度」が必須のパラメータである。
然るに、本件特許の請求項1、2、9~12では、「信頼度」の導出に際して、「第1教師データの精度」又は「第2教師データ」の「精度」、または、対象形状データの「精度」を用いることが特定されていない。
このため、本件特許の請求項1、2、9~12では、教師データ又は対象形状データの「精度」を必須のパラメータとする本件特許の独自指標としての「信頼度」とは別の意味の“信頼度”を付与する態様も包含されており、発明の詳細な説明に記載された範囲をこのような態様についてまで拡張ないし一般化できるとは到底言えない。」(申立書第85頁第21行目~第86頁第11行目)
(2)判断
本件特許の明細書には以下の記載がある。
「【0037】
信頼度付与部233は、第1教師データの精度データ又は第2教師データの精度データの少なくともいずれか一方に基づいて、性能値の予測値に信頼度を付与する。すなわち、信頼度付与部233は、性能値の予測値に対して重み付けを実行する。信頼度付与部233は、第1教師データのサンプル数と第2教師データのサンプル数との比に基づいて信頼度を導出する。例えば、第1教師データ(解析結果)の精度「100%」のサンプル数が1個であり、第2教師データ(試験結果)の精度「90%」のサンプル数が2個である場合、信頼度付与部233は、性能値の予測値の信頼度(精度)を、「93%(=(100×1+90×2)/(1+2)」と導出する。なお、このような導出方法は、一例である。
【0038】
信頼度付与部233は、第1教師データと第2教師データとうちの少なくとも一方が記憶部21に追加又は変更された場合、性能値の予測値の信頼度を更新してもよい。また、信頼度付与部233は、性能値の予測値の信頼度を向上させるための第2教師データを学習済モデルに追加入力することを、ユーザに提案してもよい。提案の内容は、例えば出力部24に表示される。信頼度を向上させるための第2教師データが学習済モデルに追加入力されることで、取得部20に入力された第2教師データが補間される。
【0039】
図2は、第2教師データが補間(追加入力)されていない場合における、性能値の予測値の信頼度の例を示す図である。横軸は、解析条件又は試験条件の例としての温度を表す。左側の縦軸は、試験結果を表す。右側の縦軸は、解析結果(シミュレーション結果)を表す。
【0040】
図2では、摂氏50度が摂氏40度と摂氏60度との両方に近い温度であることから、摂氏50度における解析結果の精度は、摂氏40度における試験結果と摂氏60度における試験結果とに基づいて高くなっている。これに対して、摂氏80度が摂氏40度と摂氏60度との両方から遠い温度であることから、摂氏80度における解析結果の精度は、摂氏50度における解析結果の精度よりも低くなっている。
【0041】
そこで、信頼度付与部233は、性能値の予測値の信頼度を向上させるための第2教師データとして、摂氏80度に近い例えば摂氏70度(新たな試験条件)における試験結果の第2教師データを学習済モデル又は学習中モデルに追加入力することを、ユーザに提案する。例えば、信頼度付与部233は、提案内容を出力部24に表示する。
【0042】
図3は、第2教師データが補間(追加入力)された場合における、性能値の予測値の信頼度の例を示す図である。横軸は、解析条件又は試験条件の例としての温度を表す。左側の縦軸は、試験結果を表す。右側の縦軸は、解析結果を表す。例えば実験計画法の手法を用いて、摂氏80度に近い摂氏70度が、性能値の予測値の信頼度を向上させるためのデータの温度として選択される。そして、選択された摂氏70度における試験が追加で実行される。さらに、摂氏70度における試験結果を含む第2教師データが、学習済モデルに追加入力される。
【0043】
図3では、摂氏80度が摂氏70度(新たな試験条件)から近い温度であることから、摂氏80度における解析結果の精度は、図2の摂氏80度における解析結果の精度よりも向上している。このように精度が向上した解析結果を含む第1教師データと、第2教師データとを用いてモデルの学習が実行されることによって、学習済モデルから出力される性能値の予測値の信頼度は向上する。」
「【0049】
信頼度付与部32は、学習済モデルを記憶部21から取得する。信頼度付与部32は、例えば、予測対象の物体の3次元形状データに付与されている精度データを、学習済モデルに入力する。これによって、信頼度付与部32は、予測対象の性能値の信頼度として、学習済モデルの出力を導出する。」
上記記載によれば、段落0037には、教師データの精度に基づいて信頼度を導出することが記載されており、段落0038~0043には、追加された教師データの試験条件である温度に基づいて信頼度を更新することが記載されており、段落0049には、予測対象の物体の3次元形状データに付与されている精度データを学習済みモデルに入力することにより信頼度を導出することが記載されている。
そして、これらの記載によれば、信頼度の導出には様々な手法があり、これらの手法の中には、教師データの精度又は対象形状データの精度を用いない手法も含まれているから、教師データの精度又は対象形状データの精度は、信頼度の導出に必須のパラメータであるとはいえない。
そして、本件発明1における「信頼度」とは、信頼の度合いを示すものであれば、どのような態様のものでもよいと解されるから、本件発明1における「信頼度」の導出手法は、上記段落0037、段落0038~0043、段落0049に記載された信頼度の導出手法に限られるものではなく、本件発明1の範囲まで拡張・一般化できるといえる。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものである。
また、同様の理由により、本件発明2、9~12も、発明の詳細な説明に記載したものである。
よって、本件特許の請求項1、2、9~12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものとは認められない。
3 理由5(実施可能要件)について
(1)申立人の主張
申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
「当業者が請求項1~12に係る発明を実施するためには、独立請求項1、11及び12で特定された「信頼度を付与する」処理を再現できなければならない。
然るに、本件明細書には、「信頼度」を算出するために不可欠なパラメータである教師デー夕又は対象形状データの「精度」( 『近傍に信頼できる試験データが存在するか否かによって変動する、本件特許独自の謎のパラメータ』) を、どのように算出するのかという具体的な方法が一切開示されていない。
したがって、本件発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえず、実施可能要件を満たさない。」(申立書第86頁第13~24行目)
(2)判断
上記2(2)で述べたとおり、本件発明1において、教師データの精度又は対象形状データの精度は、信頼度の導出に必須のパラメータであるとはいえない。
また、教師データの精度又は対象形状データの精度の導出の手法は任意の手法でよいものと解される。
よって、「信頼度を付与する」処理は、本件特許の明細書の段落0037、0038~0043、及び0049の記載に基づいて、任意の手法により導出された教師データの精度、追加された教師データの追加条件、または、任意の手法により導出された対象形状データの精度などを利用することによって、当業者が実施をすることができるといえる。
以上によれば、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が、本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
また、同様の理由により、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が、本件発明2~12を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしており、本件特許の請求項1~12に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものとは認められない。
4 理由1(甲1に基づく新規性)について
(1)対比
以下、本件発明1と甲1発明を対比する。
ア 構成Aについて
甲1発明は、「クリギングベースのGAが、揚抗比を最大化するために、二次元翼型設計の最適化に適用され」(構成1a)、「最初の設計問題は、マッハ数=2.0及び迎え角(AOA)=2.0degの条件において、翼型のL/Dを最大化することであり」(構成1b)、「形状は、PARSEC翼型定義を用いてパラメータ化され、翼型の形状を定義するために、合計10個の設計変数が使用され」(構成1c)、「サンプル点は直交配列(OAs)を用いて選択され、OAsは、強度2、水準5で、50個のサンプル点を有し」(構成1d)、「50個のサンプル翼型の性能がNavier-Stokesコードを用いて評価され」(構成1e)るものである。
以上によれば、甲1発明は、「マッハ数=2.0及び迎え角(AOA)=2.0degの条件」において、「50個のサンプル翼型の性能」を「Navier-Stokesコードを用いて評価」することにより、「L/D」を得るものといえる。
そして、当該「マッハ数=2.0及び迎え角(AOA)=2.0degの条件」は、当該評価に用いられるものであるから、コンピュータのメモリに記憶されているものと解される。
また、当該「L/D」は、評価の結果として得られるものであるから、コンピュータのメモリに記憶されるものと解される。
そして、当該「翼型」が示す「翼」は、構成Aの「所定の物体」に相当する。
また、「Navier-Stokesコード」を用いた「評価」は、「解析」といえるから、当該「マッハ数=2.0及び迎え角(AOA)=2.0degの条件」は、構成Aの「解析条件」に相当し、当該「評価」により得られた「L/D」は、構成Aの「解析結果」に相当する。
そして、当該「マッハ数=2.0及び迎え角(AOA)=2.0degの条件」及び「L/D」を記憶するメモリは、構成Aの「所定の物体に関する解析条件及び解析結果」の「情報を記憶する記憶部」に相当する。
そして、構成Aには、「解析条件及び解析結果又は試験条件及び試験結果の少なくともいずれか一方」という選択肢があるところ、当該選択肢のうちの「解析条件及び解析結果」を記憶する点で、本件発明1と甲1発明は一致するから、本件発明1と甲1発明は、構成Aの「所定の物体に関する解析条件及び解析結果又は試験条件及び試験結果の少なくともいずれか一方の情報を記憶する記憶部」を備える点で一致する。
イ 構成Bについて
甲1発明では、「形状は、PARSEC翼型定義を用いてパラメータ化され、翼型の形状を定義するために、合計10個の設計変数が使用され」(構成1c)、「サンプルデータに基づいてクリギングモデルが構築され、そのモデルがGAの最適化プロセスにおける目的関数評価のために使用され」(構成1f)、「GAがクリギングモデルによる予測値のみに基づいて最大L/D点を探索する場合、モデルが予測点において何らかの不確実性を有するため、大域的最適点を頑健に見つけるために、目的関数L/Dは対応するEIに変換され」(構成1g)、「単一目的問題であるL/Dの最大化は、EIと面積比の両方の最大化というMO問題に変更され」(構成1h)ている。
以上によれば、甲1発明は、GAの最適化プロセスにおいて、合計10個の設計変数が使用されるPARSEC翼型定義を用いてパラメータ化された翼型の形状のL/Dを、クリギングモデルを用いて予測しているといえる。
そして、当該「合計10個の設計変数が使用されるPARSEC翼型定義を用いてパラメータ化された翼型の形状」は、構成Bの「物体の形状データ」に相当する。
また、「合計10個の設計変数が使用されるPARSEC翼型定義を用いてパラメータ化された翼型の形状」は、クリギングモデルによるL/Dの予測の対象になっているといえる。
さらに、当該「L/D」は、構成Bの「性能値」に相当する。
よって、当該L/Dの予測の対象になっている「合計10個の設計変数が使用されるPARSEC翼型定義を用いてパラメータ化された翼型の形状」は、構成Bの「性能値の予測対象である物体の形状データ」に相当する。
さらに、甲1発明は、GAの最適化プロセスにおいて、合計10個の設計変数が使用されるPARSEC翼型定義を用いてパラメータ化された翼型の形状のL/Dを、クリギングモデルを用いて予測するのであるから、当該「合計10個の設計変数が使用されるPARSEC翼型定義を用いてパラメータ化された翼型の形状」を取得するための取得部を備えているといえる。
よって、本件発明1と甲1発明は、構成Bの「性能値の予測対象である物体の形状データを取得する取得部」を備える点で一致する。
ウ 構成Cについて
甲1発明は、「マッハ数=2.0及び迎え角(AOA)=2.0degの条件」(構成1b)及び「L/D」を用いて、GAの最適化プロセスにおいて、合計10個の設計変数が使用されるPARSEC翼型定義を用いてパラメータ化された翼型の形状のL/Dを、クリギングモデルを用いて予測するものである。
そして、当該「マッハ数=2.0及び迎え角(AOA)=2.0degの条件」及び「L/D」は、上記アのとおり、メモリに記憶されたものであるから、構成Cの「前記記憶部に記憶された情報」に相当する。
また、当該「合計10個の設計変数が使用されるPARSEC翼型定義を用いてパラメータ化された翼型の形状」は、上記イのとおり、構成Cの「前記取得部によって取得された前記形状データ」に相当する。
さらに、クリギングモデルにより予測された「L/D」は、上記イのとおり、構成Cの「前記性能値の予測値」に相当する。
そして、甲1発明は、当該予測を行うための「予測部」を備えているといえる。
よって、本件発明1と甲1発明は、構成Cの「前記記憶部に記憶された情報と前記取得部によって取得された前記形状データとに基づいて前記性能値の予測値を導出する予測部」を備える点で一致する。
エ 構成Dについて
構成1iの 「ここで、s2(x)は予測子の平均二乗誤差であり、推定点における不確実性を示し、二乗平均平方根誤差(RSME) は、s=√s2(x)として表現され」によれば、「s」は、予測子の不確実性を示すものであるから、信頼度といえる。
しかしながら、甲1発明は、クリギングモデルによるL/Dの予測値と「s」を用いて、式(20)により、EIを算出するものであって、当該L/Dの予測値に「s」(信頼度)を「付与」するものではない。
したがって、甲1発明は、「前記予測部によって導出された前記予測値に信頼度を付与する信頼度付与部」に相当する構成は備えていない。
よって、本件発明1は、構成Dの「前記予測部によって導出された前記予測値に信頼度を付与する信頼度付与部」を備えるのに対し、甲1発明は、当該「信頼度付与部」を備えていない点で、両発明は相違する。
オ 構成Eについて
甲1発明は、クリギングモデルによって予測された「L/D」を得るものであり、当該「L/D」は出力されるといえるから、甲1発明は、「L/D」を出力するための「出力部」を備えているといえる。
また、上記ウのとおり、クリギングモデルによって予測された「L/D」は、構成Eの「前記予測値」に相当する。
よって、本件発明1と甲1発明は、「前記予測値を出力する出力部」を備える点で共通する。
しかしながら、構成Eの「出力部」が出力する「前記予測値」が、本件発明1では、「前記信頼度が付与された」前記予測値であるのに対し、甲1発明では、「前記信頼度が付与された」前記予測値でない点で、両発明は相違する。
カ 構成Fについて
上記ウのとおり、甲1発明の「コンピュータ」は、性能値を予測するものといえるから、構成Fの「性能予測装置」に相当する。
よって、本件発明1と甲1発明は、「性能予測装置」である点で一致する。
キ まとめ
以上によれば、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
[一致点]
A 所定の物体に関する解析条件及び解析結果又は試験条件及び試験結果の少なくともいずれか一方の情報を記憶する記憶部と、
B 性能値の予測対象である物体の形状データを取得する取得部と、
C 前記記憶部に記憶された情報と前記取得部によって取得された前記形状データとに基づいて前記性能値の予測値を導出する予測部と、
E’ 前記予測値を出力する出力部と
F を備える性能予測装置。
[相違点]
(相違点1-1)
本件発明1は、構成Dの「前記予測部によって導出された前記予測値に信頼度を付与する信頼度付与部」を備えるのに対し、甲1発明は、当該「信頼度付与部」を備えていない点。
(相違点1-2)
構成Eの「出力部」が出力する「前記予測値」が、本件発明1では、「前記信頼度が付与された」前記予測値であるのに対し、甲1発明では、「前記信頼度が付与された」前記予測値でない点。
(2)判断
以上によれば、本件発明1と甲1発明の間には相違点が存在するから、本件発明1は甲1発明でない。
また、同様の理由により、本件発明2、11、12も、甲1発明でない。
よって、本件特許の請求項1、2、11、12に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものとは認められない。
5 理由2-1(甲1に基づく進歩性)について
以下、上記4(1)キの相違点1-1及び相違点1-2についてまとめて検討する。
甲1発明は、GAの最適化プロセスにおいて、構成1hの「EI」を計算するものであるところ、ここにおいて、L/Dの予測値に信頼度を付与して出力する必要性はなく、甲1発明において、予測値に信頼度を付与して出力することに動機付けがあるとはいえない。
よって、甲1発明において、「前記予測部によって導出された前記予測値に信頼度を付与する信頼度付与部」を設け、「出力部」が「前記信頼度が付与された」前記予測値を出力することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
以上によれば、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、同様の理由により、本件発明2、9~12も、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件特許の請求項1、2、9~12に係る特許は、特許法第29条第2項に該当せず、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものとは認められない。
6 理由2-2(甲1、3~8に基づく進歩性)について
甲第3号証~甲第8号証には、上記第4の3(2)、4(2)、5(2)、6(2)、7(2)、8(2)で述べたとおりの甲3技術事項~甲8技術事項が記載されている。
しかしながら、上記5で述べたとおり、甲1発明において、予測値に信頼度を付与して出力することに動機付けがあるとはいえないから、甲1発明に、甲3技術事項~甲8技術事項を組み合わせることにも動機付けがあるとはいえない。
よって、甲1発明において、「前記予測部によって導出された前記予測値に信頼度を付与する信頼度付与部」を設け、「出力部」が「前記信頼度が付与された」前記予測値を出力することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
以上によれば、本件発明1は、甲1発明及び周知の技術(甲3技術事項~甲8技術事項)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、同様の理由により、本件発明2、9~12も、甲1発明及び周知の技術(甲3技術事項~甲8技術事項)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件特許の請求項1、2、9~12に係る特許は、特許法第29条第2項に該当せず、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものとは認められない。
7 理由2-3(甲2~8に基づく進歩性)について
(1)対比
以下、本件発明1と甲2発明を対比する。
ア 構成Aについて
甲2発明は、「過去に入力されたCADデータに対する解析処理の結果を格納する解析結果データベース103」(構成2b)を備え、「学習パラメータ抽出部105は、CADデータベース102に格納されるCADデータについて、CADデータを構成する形状パラメータである、例えば、部品の位置、厚さ又は長さなどの形状特徴、部品間の接続関係に関するデータを、学習パラメータとして自動で抽出し」(構成2c)、「学習パラメータ抽出部104は、解析結果データベース103に格納される解析結果などの解析処理に関するデータから、解析条件である、解析目的、格子点座標、各格子点での物理量に関するデータを、学習パラメータとして抽出し、ここで物理量とは、例えば、温度、流速などであ」る(構成2d)ものである。
そうすると、「解析結果データベース103」は、「過去に入力されたCADデータに対する解析処理の結果を格納する」ものであり、ここで、「CADデータ」とは、「部品」を表すものであり、「解析結果」とは、「格子点座標」と「各格子点での物理量」を含むものといえるから、「解析結果データベース103」は、部品に対する格子点座標と各格子点での物理量を格納するものといえる。
そして、当該「部品」は、構成Aの「所定の物体」に相当する。
また、当該「格子点座標」は、構成Aの「解析条件」に相当する。
さらに、当該「各格子点での物理量」は、構成Aの「解析結果」に相当する。
よって、部品に対する格子点座標と各格子点での物理量を格納する、「解析結果データベース103」は、構成Aの「所定の物体に関する解析条件及び解析結果」の「情報を記憶する記憶部」に相当する。
そして、構成Aには、「解析条件及び解析結果又は試験条件及び試験結果の少なくともいずれか一方」という選択肢があるところ、当該選択肢のうちの「解析条件及び解析結果」を記憶する点で、本件発明1と甲2発明は一致するから、本件発明1と甲2発明は、構成Aの「所定の物体に関する解析条件及び解析結果又は試験条件及び試験結果の少なくともいずれか一方の情報を記憶する記憶部」を備える点で一致する。
イ 構成Bについて
構成2f、2hによれば、「判定部109は、新規CADデータベース108にアクセスし、新規CADデータベース108に格納される新たに入力された新規CADデータを読み出し、読み出された新規CADデータから、新規CADデータを構成する形状パラメータである、部品の位置、厚さ又は長さなどの形状特徴、部品間の接続関係に関するデータを、学習パラメータとして抽出し」、「抽出された新規CADデータを構成する形状パラメータを、第2ニューラルネットワークの入力ノードに入力し、第2ニューラルネットワークは入力された形状パラメータと設定された重み係数(学習重み)との積和演算により、この積和演算結果を解析結果の出力予測値として、出力ノードより出力する」から、判定部109は、新規CADデータを構成する形状パラメータを取得するものといえる。
また、判定部109は、当該新規CADデータを構成する形状パラメータが示す部品について、解析結果の出力予測値を出力するものであり、ここで、構成2dによれば、解析結果には、温度や流速などの物理量が含まれるといえるから、当該新規CADデータを構成する形状パラメータが示す部品は、温度や流速などの物理量の予測の対象になっているといえる。
そして、当該温度や流速などの物理量は、構成Bの「性能値」に相当する。
また、当該温度や流速などの物理量の予測の対象になっている「新規CADデータを構成する形状パラメータ」は、構成Bの「性能値の予測対象である物体の形状データ」に相当する。
さらに、判定部109は、当該新規CADデータを構成する形状パラメータを取得するのであるから、そのための取得部を備えているといえる。
よって、本件発明1と甲2発明は、構成Bの「性能値の予測対象である物体の形状データを取得する取得部」を備える点で一致する。
ウ 構成Cについて
構成2e、2g、2hによれば、「学習部106では、第1ニューラルネットワークに、学習パラメータ抽出部105にて抽出されたCADデータを構成する複数の形状パラメータ、及び解析条件を教師データとして、上記複数の形状パラメータを入力し、第1ニューラルネットワークからの出力と上記教師データである解析条件との差分に基づきバックプロパゲーション法により各ノード(ニューロン)における重み係数が修正されることで学習が実行され、この学習の結果得られた重み係数(学習重み)は、例えば、形状パラメータに紐付けられて、学習結果データベース107に格納され」、「判定部109は、学習結果データベース107に格納される、新規CADデータを構成する形状パラメータに紐付けられた重み係数(学習重み)を読み出し、読み出された重み係数(学習重み)は、判定部109により第2ニューラルネットワークの各ノードに設定され」、「判定部109は、抽出された新規CADデータを構成する形状パラメータを、第2ニューラルネットワークの入力ノードに入力し、第2ニューラルネットワークは入力された形状パラメータと設定された重み係数(学習重み)との積和演算により、この積和演算結果を解析結果の出力予測値として、出力ノードより出力」するから、甲2発明では、学習部106が、学習パラメータ抽出部105にて抽出された解析条件に基づいて、重み係数を得て、判定部109が、新規CADデータを構成する形状パラメータと、重み係数に基づいて、解析結果の出力予測値を演算するものといえる。
ここで、当該「解析条件」は、上記アのとおり、「解析結果データベース103」に記憶されたものであるから、構成Cの「前記記憶部に記憶された情報」に相当する。
また、当該「新規CADデータを構成する形状パラメータ」は、上記イのとおり、構成Cの「前記取得部によって取得された前記形状データ」に相当する。
さらに、「解析結果の出力予測値」は、上記イのとおり、構成Cの「前記性能値の予測値」に相当する。
したがって、甲2発明の「学習部106」と「判定部109」は、構成Cの「前記記憶部に記憶された情報と前記取得部によって取得された前記形状データとに基づいて前記性能値の予測値を導出する予測部」に相当する。
よって、本件発明1と甲2発明は、構成Cの「前記記憶部に記憶された情報と前記取得部によって取得された前記形状データとに基づいて前記性能値の予測値を導出する予測部」を備える点で一致する。
エ 構成Dについて
甲2発明は、「前記予測部によって導出された前記予測値に信頼度を付与する信頼度付与部」に相当する構成は備えていない。
よって、本件発明1は、構成Dの「前記予測部によって導出された前記予測値に信頼度を付与する信頼度付与部」を備えるのに対し、甲2発明は、当該「信頼度付与部」を備えていない点で、両発明は相違する。
オ 構成Eについて
甲2発明は、「解析結果の出力予測値を表示部110の表示画面上に表示する」(構成2j)ものである。
そして、上記ウのとおり、「解析結果の出力予測値」は、構成Eの「前記予測値」に相当する。
また、解析結果の出力予測値を表示する「表示部110」は、構成Eの「前記予測値を出力する出力部」に相当する。
よって、本件発明1と甲2発明は、「前記予測値を出力する出力部」を備える点で共通する。
しかしながら、構成Eの「出力部」が出力する「前記予測値」が、本件発明1では、「前記信頼度が付与された」前記予測値であるのに対し、甲2発明では、「前記信頼度が付与された」前記予測値でない点で、両発明は相違する。
カ 構成Fについて
上記ウのとおり、甲2発明の「設計支援装置100」は、性能値を予測するものといえるから、構成Fの「性能予測装置」に相当する。
よって、本件発明1と甲2発明は、「性能予測装置」である点で一致する。
キ まとめ
以上によれば、本件発明1と甲2発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
[一致点]
A 所定の物体に関する解析条件及び解析結果又は試験条件及び試験結果の少なくともいずれか一方の情報を記憶する記憶部と、
B 性能値の予測対象である物体の形状データを取得する取得部と、
C 前記記憶部に記憶された情報と前記取得部によって取得された前記形状データとに基づいて前記性能値の予測値を導出する予測部と、
E’ 前記予測値を出力する出力部と
F を備える性能予測装置。
[相違点]
(相違点2-1)
本件発明1は、構成Dの「前記予測部によって導出された前記予測値に信頼度を付与する信頼度付与部」を備えるのに対し、甲2発明は、当該「信頼度付与部」を備えていない点。
(相違点2-2)
構成Eの「出力部」が出力する「前記予測値」が、本件発明1では、「前記信頼度が付与された」前記予測値であるのに対し、甲2発明では、「前記信頼度が付与された」前記予測値でない点。
(2)判断
以下、当該相違点2-1及び相違点2-2についてまとめて検討する。
甲第3号証~甲第8号証には、上記第4の3(2)、4(2)、5(2)、6(2)、7(2)、8(2)で述べたとおりの甲3技術事項~甲8技術事項が記載されている。
一方、甲2発明は、構成2iのとおり、「解析条件格納部111に格納される解析条件である格子点の物理量に対する閾値と、得られた解析結果の出力予測値とを比較し、上記チェックルール(解析条件)を満たすか否かを判定し、上記チェックルール(解析条件)は、格子点の物理量毎に閾値を設定し、各物理量が閾値以上又は閾値以下である場合、解析処理の必要性の有無を規定するもの」である。
そして、当該構成2iによれば、甲2発明は、解析結果の出力予測値と閾値を比較することにより、解析処理の必要性の有無を判断するものであるから、この判断に、解析結果の出力予測値の信頼度が入り込む余地はない。
したがって、甲2発明において、予測値に信頼度を付与して出力することに動機付けがあるとはいえず、甲2発明に、甲3技術事項~甲8技術事項を組み合わせることに動機付けがあるとはいえない。
よって、甲2発明において、「前記予測部によって導出された前記予測値に信頼度を付与する信頼度付与部」を設け、「出力部」が「前記信頼度が付与された」前記予測値を出力することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
以上によれば、本件発明1は、甲2発明及び周知の技術(甲3技術事項~甲8技術事項)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、同様の理由により、本件発明2、9~12も、甲2発明及び周知の技術(甲3技術事項~甲8技術事項)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件特許の請求項1、2、9~12に係る特許は、特許法第29条第2項に該当せず、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものとは認められない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-701031