特許異議申立
2025-700327
原子炉燃料棒および該燃料棒を束ねた燃料集合体
- 審判番号
- 2025-700327
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-110489
- 登録番号
- 7557435
- 請求日
- 2025年03月21日
- 審決日
- 2026年06月18日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】日立GEベルノバニュークリアエナジー株式会社
- 【権利者代理人】ポレール弁理士法人
- 【異議申立人】笠井 素子
- 審判長/審判官
- 審判長 波多江 進
- 審判官 東松 修太郎
- 審判官 野村 伸雄
- 分類
- P1652.121-ZE (G21C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7557435号発明「原子炉燃料棒および該燃料棒を束ねた燃料集合体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7557435号の請求項1~3、5、8、9、13に係る特許を取り消す。
同請求項7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7557435号(以下「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願は、令和3年7月2日に出願されたものであって、令和6年9月18日にその特許権の設定登録がされ、令和6年9月27日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての主な経緯は、次のとおりである。
令和 7年 3月21日 :特許異議申立人笠井素子(以下「申立人」という。)による請求項1~3、5、7~9、13に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 6月 2日付け:取消理由通知書
同年 8月 4日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同月20日付け:訂正請求書に係る手続補正指令書(方式)
同年 9月19日付け:訂正請求書に係る手続補正書(方式)(以下、この手続補正書(方式)により補正された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)の提出
同年10月29日付け:訂正拒絶理由通知書
同年12月 4日付け:特許権者による意見書(以下、「本件第1意見書」という。)及び手続補正書(方式)(以下、この手続補正書(方式)による補正を「本件補正」という。)の提出
令和8年 1月30日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年 3月31日付け:特許権者による意見書(以下「本件第2意見書」という。)の提出
第2 本件訂正について
1 本件訂正の請求の趣旨
本件訂正の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~13について訂正することを求める、というものであるところ、特許権者により本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲を対象とする令和7年12月4日付け手続補正書(方式)が提出されたので、まず、本件補正の適否について検討する。
2 本件補正の適否
(1) 本件補正の内容
本件補正は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に対する補正事項を含むところ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲(つまり、本件補正前の訂正特許請求の範囲)の記載と、本件補正後の訂正特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
ア 本件補正前の訂正特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1~13の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
軽水炉用の原子炉燃料棒であって、
炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、
前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、
前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、
前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されており、前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて前記頭部を貫通しない受圧孔を有し、
前記燃料被覆管の軸方向において前記頭部のうちの前記受圧孔を除く領域の長さが前記燃料被覆管の厚さの少なくとも10倍である、ことを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項2】
請求項1に記載の原子炉燃料棒において、
前記受圧孔は、内径が前記胴部の外径の半分以上であり、深さが前記胴部の軸方向長さの半分以上であることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項3】
請求項2に記載の原子炉燃料棒において、
前記受圧孔は、深さの最大長が前記胴部の軸方向長さであることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項4】
軽水炉用の原子炉燃料棒であって、
炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、
前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、
前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、
前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されており、前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて、前記頭部を貫通しない受圧孔を有し、
前記受圧孔は、深さが進むにつれて内径が減少し、前記胴部の軸方向長さの半分の位置での内径が該胴部の外径の半分以上であることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において、
前記所定の凹凸構造が、ねじ構造であることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項6】
軽水炉用の原子炉燃料棒であって、
炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、
前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、
前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、
前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されており、前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて、前記頭部を貫通しない受圧孔を有し、
前記端栓の前記頭部は、前記胴部と一体の中子が該中子を収容する端栓キャップに収容される構造を有していることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項7】
軽水炉用の原子炉燃料棒であって、
炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、
前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、
前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、
前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されており、前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて、前記頭部を貫通しない受圧孔を有し、
前記端栓の前記胴部の前記外周面に、該端栓の軸方向と平行の溝が更に形成されていることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において、
前記端栓の前記胴部の軸方向長さ5mm以上の領域に、前記所定のろう付け材料が充填されていることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において、
前記端栓の少なくとも前記胴部は、炭化ケイ素材料、タングステン、モリブデン、およびジルコニウムから選ばれる一種からなり、
前記所定のろう付け材料は、固相線温度が1300℃超であるケイ素、ケイ素合金、チタン-クロム合金、および金属酸化物から選ばれる一種であることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項10】
軽水炉用の原子炉燃料棒であって、
炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、
前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、
前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、
前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されており、前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて、前記頭部を貫通しない受圧孔を有し、
前記先端部に対して、前記原子炉燃料棒の燃料室と前記端栓とを仕切りかつ前記受圧孔と連通する通気孔を有する仕切板が、前記所定のろう付け材料によって接合されていることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項11】
請求項10に記載の原子炉燃料棒において、
前記仕切板は、固相線温度が1300℃超である炭化物、窒化物、酸化物、および金属から選ばれる一種からなることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の原子炉燃料棒において、
前記燃料被覆管の内径と前記仕切板の外径との差の半分が、前記外周面と前記内周面との前記間隙の平均よりも小さいことを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項13】
複数の原子炉燃料棒を束ねて構成される燃料集合体であって、
前記原子炉燃料棒が、請求項1乃至請求項12のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒であることを特徴とする燃料集合体。」
イ 本件補正後の訂正特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1~13の記載は、以下のとおりである。下線は補正箇所を示す。
「【請求項1】
軽水炉用の原子炉燃料棒であって、
炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、
前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、
前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、
前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されており、前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて前記頭部を貫通しない受圧孔を有し、
前記燃料被覆管の軸方向において前記頭部のうちの前記受圧孔を除く領域の長さが前記燃料被覆管の厚さの少なくとも10倍である、ことを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項2】
請求項1に記載の原子炉燃料棒において、
前記受圧孔は、内径が前記胴部の外径の半分以上であり、深さが前記胴部の軸方向長さの半分以上であることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項3】
請求項2に記載の原子炉燃料棒において、
前記受圧孔は、深さの最大長が前記胴部の軸方向長さであることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項4】
軽水炉用の原子炉燃料棒であって、
炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、
前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、
前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、
前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されており、前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて、前記頭部を貫通しない受圧孔を有し、
前記受圧孔は、深さが進むにつれて内径が減少し、前記胴部の軸方向長さの半分の位置での内径が該胴部の外径の半分以上であることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項5】
請求項4に記載の原子炉燃料棒において、
前記所定の凹凸構造が、ねじ構造であることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項6】
軽水炉用の原子炉燃料棒であって、
炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、
前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、
前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、
前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されており、前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて、前記頭部を貫通しない受圧孔を有し、
前記端栓の前記頭部は、前記胴部と一体の中子が該中子を収容する端栓キャップに収容される構造を有していることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項7】
軽水炉用の原子炉燃料棒であって、
炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、
前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、
前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、
前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されており、前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて、前記頭部を貫通しない受圧孔を有し、
前記端栓の前記胴部の前記外周面に、該端栓の軸方向と平行の溝が更に形成されていることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の原子炉燃料棒において、
前記端栓の前記胴部の軸方向長さ5mm以上の領域に、前記所定のろう付け材料が充填されていることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項9】
請求項6乃至請求項8のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において、
前記端栓の少なくとも前記胴部は、炭化ケイ素材料、タングステン、モリブデン、およびジルコニウムから選ばれる一種からなり、
前記所定のろう付け材料は、固相線温度が1300℃超であるケイ素、ケイ素合金、チタン-クロム合金、および金属酸化物から選ばれる一種であることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項10】
軽水炉用の原子炉燃料棒であって、
炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、
前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、
前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、
前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されており、前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて、前記頭部を貫通しない受圧孔を有し、
前記先端部に対して、前記原子炉燃料棒の燃料室と前記端栓とを仕切りかつ前記受圧孔と連通する通気孔を有する仕切板が、前記所定のろう付け材料によって接合されていることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項11】
請求項10に記載の原子炉燃料棒において、
前記仕切板は、固相線温度が1300℃超である炭化物、窒化物、酸化物、および金属から選ばれる一種からなることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の原子炉燃料棒において、
前記燃料被覆管の内径と前記仕切板の外径との差の半分が、前記外周面と前記内周面との前記間隙の平均よりも小さいことを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項13】
複数の原子炉燃料棒を束ねて構成される燃料集合体であって、
前記原子炉燃料棒が、請求項6乃至請求項9のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒であることを特徴とする燃料集合体。」
(2) 補正の適否ついての判断
前記(1)によれば、本件補正は、本件訂正後の請求項5、8、9及び13に係る補正事項を含むものといえるところ、以下のとおり、これらの補正事項による補正は、本件訂正請求書の要旨を変更するものである。
ア 本件訂正後の請求項5に係る補正事項について
当該補正事項は、前記(1)アの訂正特許請求の範囲の請求項5を、同イの本件補正後の訂正特許請求の範囲の請求項5に補正するものであって、次の内容を含むものである。
本件補正前の「請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において」を「請求項4に記載の原子炉燃料棒において」とする補正。
前記補正は、訂正事項を変更するものであるから、本件訂正請求書の要旨を変更するものである。
イ 本件訂正後の請求項8に係る補正事項について
当該補正事項は、前記(1)アの訂正特許請求の範囲の請求項8を、同イの本件補正後の訂正特許請求の範囲の請求項8に補正するものであって、次の内容を含むものである。
本件補正前の「請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において」を「請求項6又は請求項7に記載の原子炉燃料棒において」とする補正。
前記補正は、訂正事項を変更するものであるから、本件訂正請求書の要旨を変更するものである。
ウ 本件訂正後の請求項9に係る補正事項について
当該補正事項は、前記(1)アの訂正特許請求の範囲の請求項9を、同イの本件補正後の訂正特許請求の範囲の請求項9に補正するものであって、次の内容を含むものである。
本件補正前の「請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において」を「請求項6乃至請求項8のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において」とする補正。
前記の補正は、訂正事項を変更するものであるから、本件訂正請求書の要旨を変更するものである。
エ 本件訂正後の請求項13に係る補正事項について
当該補正事項は、前記(1)アの訂正特許請求の範囲の請求項13を、同イの本件補正後の訂正特許請求の範囲の請求項13に補正するものであって、次の内容を含むものである。
本件補正前の「請求項1乃至請求項12のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒である」を「請求項6乃至請求項9のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒である」とする補正。
前記の補正は、訂正事項を変更するものであるから、本件訂正請求書の要旨を変更するものである。
オ 特許権者の主張について
特許権者は、本件補正書における補正事項は従属形式を改めるものであると主張するが、前記ア~エで説示したとおり、当該補正事項は訂正事項を変更するものであるから、訂正事項の削除、軽微な瑕疵の補正等には該当せず、訂正請求書の要旨を変更するものである(審判便覧67-05.3 4.(3)イ)。
(3) 小括
以上検討のとおり、本件訂正後の請求項5、8、9及び13に係る補正事項は、本件訂正請求書の要旨を変更するものである。
したがって、本件補正前の訂正特許請求の範囲を本件補正後の訂正特許請求の範囲に補正することは認められない。
3 本件訂正前の特許請求の範囲の記載
本件訂正前(設定登録時)の特許請求の範囲の請求項1~13の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
軽水炉用の原子炉燃料棒であって、
炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、
前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、
前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、
前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されており、前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて、前記頭部を貫通しない受圧孔を有する、ことを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項2】
請求項1に記載の原子炉燃料棒において、
前記受圧孔は、内径が前記胴部の外径の半分以上であり、深さが前記胴部の軸方向長さの半分以上であることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項3】
請求項2に記載の原子炉燃料棒において、
前記受圧孔は、深さが前記胴部の軸方向長さ以上であることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において、
前記受圧孔は、深さが進むにつれて内径が減少し、前記胴部の軸方向長さの半分の位置での内径が該胴部の外径の半分以上であることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において、
前記所定の凹凸構造が、ねじ構造であることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において、
前記端栓の前記頭部は、前記胴部と一体の中子が該中子を収容する端栓キャップに収容される構造を有していることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において、
前記端栓の前記胴部の前記外周面に、該端栓の軸方向と平行の溝が更に形成されていることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において、
前記端栓の前記胴部の軸方向長さ5mm以上の領域に、前記所定のろう付け材料が充填されていることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において、
前記端栓の少なくとも前記胴部は、炭化ケイ素材料、タングステン、モリブデン、およびジルコニウムから選ばれる一種からなり、
前記所定のろう付け材料は、固相線温度が1300℃超であるケイ素、ケイ素合金、チタン-クロム合金、および金属酸化物から選ばれる一種であることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において、
前記先端部に対して、前記原子炉燃料棒の燃料室と前記端栓とを仕切りかつ前記受圧孔と連通する通気孔を有する仕切板が、前記所定のろう付け材料によって接合されていることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項11】
請求項10に記載の原子炉燃料棒において、
前記仕切板は、固相線温度が1300℃超である炭化物、窒化物、酸化物、および金属から選ばれる一種からなることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の原子炉燃料棒において、
前記燃料被覆管の内径と前記仕切板の外径との差の半分が、前記外周面と前記内周面との前記間隙の平均よりも小さいことを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項13】
複数の原子炉燃料棒を束ねて構成される燃料集合体であって、
前記原子炉燃料棒が、請求項1乃至請求項12のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒であることを特徴とする燃料集合体。」
4 本件訂正後の特許請求の範囲の記載
前記2(3)のとおり、本件補正前の訂正特許請求の範囲を本件補正後の訂正特許請求の範囲に補正することは認められないから、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~13の記載は、以下のとおりである(前記2(1)アに記載したとおりのものであるが、再掲する。)。下線は訂正箇所を示す。
「【請求項1】
軽水炉用の原子炉燃料棒であって、
炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、
前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、
前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、
前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されており、前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて前記頭部を貫通しない受圧孔を有し、
前記燃料被覆管の軸方向において前記頭部のうちの前記受圧孔を除く領域の長さが前記燃料被覆管の厚さの少なくとも10倍である、ことを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項2】
請求項1に記載の原子炉燃料棒において、
前記受圧孔は、内径が前記胴部の外径の半分以上であり、深さが前記胴部の軸方向長さの半分以上であることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項3】
請求項2に記載の原子炉燃料棒において、
前記受圧孔は、深さの最大長が前記胴部の軸方向長さであることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項4】
軽水炉用の原子炉燃料棒であって、
炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、
前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、
前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、
前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されており、前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて、前記頭部を貫通しない受圧孔を有し、
前記受圧孔は、深さが進むにつれて内径が減少し、前記胴部の軸方向長さの半分の位置での内径が該胴部の外径の半分以上であることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において、
前記所定の凹凸構造が、ねじ構造であることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項6】
軽水炉用の原子炉燃料棒であって、
炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、
前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、
前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、
前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されており、前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて、前記頭部を貫通しない受圧孔を有し、
前記端栓の前記頭部は、前記胴部と一体の中子が該中子を収容する端栓キャップに収容される構造を有していることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項7】
軽水炉用の原子炉燃料棒であって、
炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、
前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、
前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、
前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されており、前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて、前記頭部を貫通しない受圧孔を有し、
前記端栓の前記胴部の前記外周面に、該端栓の軸方向と平行の溝が更に形成されていることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において、
前記端栓の前記胴部の軸方向長さ5mm以上の領域に、前記所定のろう付け材料が充填されていることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒において、
前記端栓の少なくとも前記胴部は、炭化ケイ素材料、タングステン、モリブデン、およびジルコニウムから選ばれる一種からなり、
前記所定のろう付け材料は、固相線温度が1300℃超であるケイ素、ケイ素合金、チタン-クロム合金、および金属酸化物から選ばれる一種であることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項10】
軽水炉用の原子炉燃料棒であって、
炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、
前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、
前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、
前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されており、前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて、前記頭部を貫通しない受圧孔を有し、
前記先端部に対して、前記原子炉燃料棒の燃料室と前記端栓とを仕切りかつ前記受圧孔と連通する通気孔を有する仕切板が、前記所定のろう付け材料によって接合されていることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項11】
請求項10に記載の原子炉燃料棒において、
前記仕切板は、固相線温度が1300℃超である炭化物、窒化物、酸化物、および金属から選ばれる一種からなることを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の原子炉燃料棒において、
前記燃料被覆管の内径と前記仕切板の外径との差の半分が、前記外周面と前記内周面との前記間隙の平均よりも小さいことを特徴とする原子炉燃料棒。
【請求項13】
複数の原子炉燃料棒を束ねて構成される燃料集合体であって、
前記原子炉燃料棒が、請求項1乃至請求項12のいずれか一項に記載の原子炉燃料棒であることを特徴とする燃料集合体。」
5 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、一群の請求項である訂正後の請求項1~13についての訂正事項1~6からなるものであって、訂正事項1~6のうち訂正事項1(この訂正事項は、後記のとおり、訂正が認められないものである。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示す。
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて、前記頭部を貫通しない受圧孔を有する」と記載されているものを、「前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて前記頭部を貫通しない受圧孔を有し、前記燃料被覆管の軸方向において前記頭部のうちの前記受圧孔を除く領域の長さが前記燃料被覆管の厚さの少なくとも10倍である」と訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~3、5、8~9及び13も同様に訂正する。)。
6 本件訂正の適否についての当審の判断
(1) 判断の概要
訂正事項1に係る訂正は、本件特許の登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するもの、すなわち、新規事項を追加するものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に違反している。したがって、訂正後の請求項1~13についての訂正は認められない。
(2) 訂正事項1の目的について
前記4のとおり、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「端栓」が有する「頭部」の構成を限定するものであるから、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
(3) 訂正事項1の新規事項の追加の有無について
前記4のとおり、訂正事項1は、「前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて前記頭部を貫通しない受圧孔を有し、前記燃料被覆管の軸方向において前記頭部のうちの前記受圧孔を除く領域の長さが前記燃料被覆管の厚さの少なくとも10倍である」ことを特定するところ、当該訂正事項1に係る訂正は、以下のとおり、新規事項を追加するものである。
ア 本件明細書等の記載
(ア) まず、本件明細書等には、訂正事項1で追加された、「前記燃料被覆管の軸方向において前記頭部のうちの前記受圧孔を除く領域の長さが前記燃料被覆管の厚さの少なくとも10倍である」ことの明示的な記載は存在しない。
(イ) 次に、訂正事項1で追加された「前記燃料被覆管の厚さ」についての本件明細書等の記載をみると、「燃料被覆管11の寸法は、Zr合金材料からなる従来の燃料被覆管と同様であることが好ましく、例えば、長さ約4m、外径10~11mm、管の肉厚約1mmである。」(【0030】)及び「模擬燃料被覆管(外径10mm、内径8mm、燃料被覆管凹凸構造の凹径8.15mm、長さ100mm)」(【0094】)と記載されており、これらの記載から、本件明細書等には、燃料被覆管11の厚さが1mmであることが開示されている。
(ウ) また、訂正事項1で追加された「前記燃料被覆管の軸方向において前記頭部のうちの前記受圧孔を除く領域の長さ」についての本件明細書等の記載をみると、「模擬燃料被覆管(外径10mm、内径8mm、燃料被覆管凹凸構造の凹径8.15mm、長さ100mm)と、SiC焼結体およびWからなる模擬端栓(端栓プラグ全長20mm、胴部の軸方向長さ10mm、中子の軸方向長さ10mm、胴部凹凸構造の凸径8.05mm、端栓キャップ全長50mm)とを用意した。」(【0094】)及び「また、端栓プラグには、受圧孔(内径4mm、深さ10mm)と縦溝(幅1mm、深さ0.5mm、長さ10mm)とを形成した。」(【0095】)と記載されており、これらの記載と、「締結された中子22c2および端栓キャップ222が、第1実施形態の端栓12の頭部12fに相当する。」(【0041】)との記載から、受圧孔の深さ10mm、胴部の軸方向長さ10mmであるから、頭部には受圧孔がないことが把握できる。また、本件明細書等には、「端栓22は、端栓プラグ221と端栓キャップ222とからなり、端栓プラグ221は、燃料被覆管11内に挿入される胴部22c1と端栓キャップ222内に挿入される中子22c2とが一体になっている。」(【0040】)と記載されており、この記載及び前記【0041】の記載から、頭部の長さは端栓キャップの長さであることが把握できる。そうすると、頭部には受圧孔がなく、頭部の長さは端栓キャップの全長50mmであることから、頭部のうちの前記受圧孔を除く領域の長さは、50mmであることが把握できる。
(エ) そして、前記(イ)及び(ウ)以外には、訂正事項1で追加された「前記燃料被覆管の軸方向において前記頭部のうちの前記受圧孔を除く領域の長さ」及び「前記燃料被覆管の厚さ」の具体的な値についての記載は見当たらない。
(オ) 前記(イ)及び(ウ)によれば、燃料被覆管の軸方向において頭部のうちの受圧孔を除く領域の長さである50mmは、燃料被覆管の厚さである1mmの50倍であると算出することはできる。
(カ) しかしながら、本件明細書等には、「前記燃料被覆管の軸方向において前記頭部のうちの前記受圧孔を除く領域の長さ」と、「被覆管の厚さ」を比較する旨の記載や、これらの比率(以下「本件比率」という。)についての記載は存在しないから、前記(オ)のように本件明細書等の記載からこれらの比が50倍と算出することができることをもって、本件比率の下限が10倍であることが開示されているとも、このことが当業者にとって自明であるともいえない。このことは、本件比率が例えば5倍以上や100倍以下といった、本件比率の任意の上限、下限を定めることが本件明細書等に記載した事項の範囲内とは到底いえないことからも明らかである。
イ 特許権者の主張について
特許権者は、本件第1意見書において、端栓の頭部のうち受圧孔を除く領域の軸方向長さは中子の軸方向の長さを含み、当該中子の軸方向長さが10mmであること、端栓の中子に関して、当該中子の軸方向長さを適切に設けることで端栓の安全性を確保できること、したがって、燃料被覆管の軸方向において頭部のうちの受圧孔を除く領域の長さは中子の軸方向長さである10mmが下限となること、及び、冷却材損失などの過酷事故の際の燃料被覆管の内部圧力上昇に対して気密性を確保するためには、端栓頭部に十分な厚さが必要となることは、本件明細書等に触れた当業者にとって容易に理解できる旨主張する(本件第1意見書5(3-2)エ、オ及び同(3-3))。
しかしながら、本件明細書等には、中子の軸方向長さと、端栓の安全性や気密性の確保の関係については何ら記載されていない。すなわち、中子を設けることの技術上の意義について本件明細書の【0041】には、「端栓22の胴部22c1は、第1実施形態の端栓12の胴部12cに相当し、締結された中子22c2および端栓キャップ222が、第1実施形態の端栓12の頭部12fに相当する。端栓22の頭部を中子22c2および端栓キャップ222の2部品から構成することにより、端栓の頭部に予期せぬ損傷(例えばクラック)が生じた場合でも、当該損傷が端栓全体を貫通することを抑制できる利点がある。」と記載されているように、端栓の頭部に予期せぬ損傷(例えばクラック)が生じた場合でも、当該損傷が端栓全体を貫通することを抑制できる利点は、端栓キャップと中子は別部材であることから、端栓キャップに損傷(例えばクラック)が生じても中子には損傷(例えばクラック)が生じないことによるものであり、当該中子の軸方向長さを適切に設けることによるものではない。
仮に、中子の軸方向長さと、端栓の安全性や気密性の確保の関係を理解できるとしても、訂正事項1で特定される「燃料被覆管の軸方向において頭部のうちの受圧孔を除く領域の長さ」は中子の軸方向長さとは異なるから、燃料被覆管の軸方向において頭部のうちの受圧孔を除く領域の長さは中子の軸方向長さである10mmが下限となるとの特許権者の主張は根拠のないものである。
さらに、仮に、燃料被覆管の軸方向において頭部のうちの受圧孔を除く領域の長さは中子の軸方向長さである10mmが下限となることが理解できるとしても、訂正事項1は、燃料被覆管の軸方向において頭部のうちの受圧孔を除く領域の長さを特定するものですらなく、本件比率を特定しているものであり、本件明細書等には本件比率について、すなわち、燃料被覆管の軸方向において頭部のうちの受圧孔を除く領域の長さを被覆管の厚さに対する比率で規定することについての記載も示唆もなく、本件比率の任意の上限、下限を定めることが本件明細書等に記載した事項の範囲内とは到底いえないことは、前記ア(カ)で説示したとおりである。
したがって、特許権者の上記主張を採用することはできない。
ウ 以上検討のとおり、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、本件比率の下限を規定するという新たな技術的事項を導入するもの、すなわち、新規事項を追加するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものではない。
(4) 訂正事項1に係る訂正について
前記(3)で検討したとおり、訂正後の請求項1についてする訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に違反している。したがって、訂正事項1に係る訂正は認められない。
(5) 一群の請求項に係る訂正について
前記(2)~(4)で検討した訂正事項1は、訂正後の請求項1に係る訂正事項であるから、訂正後の請求項1と一群の請求項を構成する訂正後の請求項2~13についてする訂正事項2~6に係る訂正についても認められない。
(6) むすび
以上のとおり、訂正後の請求項1~13についての訂正は、認めることはできない。
第3 先の取消理由の概要
本件特許について、当審において令和8年1月30日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由(以下「先の取消理由」という。)の概要は、次のとおりである。
1.(進歩性)本件特許の請求項1~3、5、8、9、13に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である後記の甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該各発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第1号証:特開2019-59547号公報
甲第2号証:特開昭62-090593号公報(未使用)
甲第3号証:特開昭62-298792号公報
甲第4号証:特開平9-159790号公報(周知技術を示す文献)
(以下、甲第1~4号証をそれぞれ、「甲1」~「甲4」と略して記載する。)
第4 先の取消理由について当合議体の判断
1 当合議体の判断の概要
以下に示すとおり、本件第2意見書の主張を検討しても、前記第3に示した先の取消理由は解消しない。
2 取消理由(進歩性)について
(1) 本件発明の認定
前記第2で説示したとおり、本件訂正は認められないから、請求項1~3、5、7~9、13に係る発明(以下、順に「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件訂正前(設定登録時)の特許請求の範囲の請求項に記載された事項(前記第2の2参照)により特定されるとおりのものであると認める。
(2) 甲1の記載事項及び甲1発明の認定
ア 甲1の記載事項
本件特許の出願前に発行された甲1には、次の事項が記載されている。下線は、甲1発明の認定の根拠となった箇所について当合議体が付したものである。
(ア) 【0005】~【0007】
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
長繊維強化炭化ケイ素材料を用いている場合に、端栓のような中実の部材が、肉厚が薄い燃料被覆管に接合されていると、製造時または使用時の温度変化によって膨張したり収縮したりするときに、端栓部が割れ易くなるという課題がある。
【0006】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、温度変化に対する耐性を向上させることができる長繊維強化炭化ケイ素材料で形成された容器における開口部の閉塞技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る容器は、炭化ケイ素のマトリックスに炭化ケイ素の長繊維を複合化した長繊維強化炭化ケイ素材料で形成され、内外を隔てる壁部分の肉厚が特定寸法である容器本体と、少なくとも炭化ケイ素を含む材料で形成され、内外を隔てる壁部分の肉厚が前記特定寸法の1倍以上、3倍以下であり、前記容器本体の開口部を閉塞する蓋と、を備える。」
(イ) 【0010】~【0013】
「【0010】
以下、本実施形態を添付図面に基づいて説明する。まず、本実施形態の容器および容器における開口部の閉塞方法について図1から図13を用いて説明する。なお、図2から図11は、理解を助けるために端面図として描いている。図1の符号1は、本実施形態の容器である。この容器1は、容器本体2と蓋3とを備える。」
「【図1】
[図:0001439187000001.jpg]
」
「【0011】
図1に示すように、容器本体2は、円筒形状を成す。本実施形態の容器1は、例えば、各種原子炉の核燃料を収容する燃料被覆管、溶融塩蓄熱材を封入するカプセル、またはコンテナなどに用いることができる。さらに、容器1は、各種廃棄物を封入するカプセルまたはコンテナなどに用いることができる。なお、核燃料以外の物質を容器1に収容しても良い。収容の対象となる物質は、固体、液体または気体のいずれの物質であっても良い。また、容器1は、原子力関連技術の他に、発電関連技術、軍事技術、航空宇宙技術、エレクトロニクス技術などの広い分野で用いることができる。
【0012】
容器本体2の端部には、円形状の開口部4が設けられる。本実施形態では、容器本体2の形状を、一方の端部に開口部4が設けられ、他方の端部が閉塞された有底円筒形状として例示している。そして、一方の端部の開口部4を蓋3で閉塞する。なお、容器本体2は、その両方の端部に開口部4が設けられるものであっても良い。この場合には、それぞれの開口部4を蓋3で閉塞する。なお、容器本体2、蓋3およびネジ11,12のエッジ部(端部)は、応力集中の緩和のためC面取りまたはR加工が成されている。
【0013】
容器本体2および蓋3は、炭化ケイ素のマトリックス(母材)に炭化ケイ素の長繊維を複合化した長繊維強化炭化ケイ素材料で形成される。このようにすれば、容器本体2および蓋3の靱性を高めることができる。特に、炭化ケイ素のみ(炭化ケイ素モノリシック材料)で部材を形成した場合には、き裂が発生したときに、脆性破壊が生じるおそれがある。そこで、長繊維強化炭化ケイ素材料で部材を形成することで、靱性が向上されるので、脆性破壊を抑制することができる。」
(ウ) 【0023】~【0027】
「【0023】
次に、蓋3の実施例について図2から図5、図7から図9を用いて説明する。なお、図6および図10を用いて比較例を示す。各例において、蓋3の形状および閉塞方法が異なっている。各図は、容器本体2の軸方向に直交する断面(端面)について図示している。
【0024】
図2から図10に示すように、容器本体2は、円筒形状の管状体である。各例において、容器本体2は、同一構成である。なお、容器本体2において、内外を隔てる壁部分5の肉厚Bは、容器本体2の周方向および長手方向のいずれの部分でも均一になっている。この容器本体2の肉厚Bを本実施形態の特定寸法とする。この容器本体2の壁部分5の肉厚Bの特定寸法は、容器1の用途および使用環境(例えば温度環境)などに応じて適宜設定される。つまり、この特定寸法は、容器1全体を設計する上で基準となる寸法である。
【0025】
本実施形態の容器本体2の壁部分5の肉厚Bは、0.5mm以上、5.0mm以下であることが好ましい。さらに、蓋3において、内外を隔てる壁部分6の肉厚Lは、0.5mm以上、5.0mm以下であることが好ましい。
【0026】
また、容器本体2の開口部4を蓋3により閉塞した状態で、容器本体2と蓋3が重なる部分7の隙間8が中間材9で封止される。この中間材9を用いることで物理的または化学的に封をすることができる。
【0027】
本実施形態の中間材9は、シリケート系、またはフォスフェート系の金属アルコキシドを用いた無機接着剤と、ポリカルボシラン、ポリカルボシラザン、またはポリオルガノボロシラザンのセラミック前駆体ポリマーと、フェノール樹脂を用いたカーボン接着剤と、銀ろう、金ろう、白金ろう、パラジウムろう、りん銅ろう、またはニッケルろうの金属ろう材と、ガラス、シリコン、または金属酸化物の無機ろう材とのうちの少なくともいずれか1つを含むものである。なお、これらの材料の単体で中間材9を形成しても良いし、複数の材料を組み合せて中間材9を形成しても良い。この中間材9を容器本体2と蓋3が重なる部分7の隙間8に充填することで、容器本体2と蓋3との接合部分の密封性(封止性)と接合強度を向上させることができる。また、中間材9は、容器1の用途に応じて適宜選択される。」
(エ) 【0062】
「【0062】
図10に示すように、比較例2の蓋3Kは、容器本体2の開口部4に嵌り込み、かつ開口部4の端部(周縁)を覆い、かつ前述の中空部10が形成されていない中実栓形状を成す。また、容器本体2および蓋3Kにおいて、容器本体2と蓋3Kが重なる部分7の対向面には、ネジ11,12が形成される。そして、蓋3Kが容器本体2の端部に螺合されることで、開口部4が閉塞される。なお、容器本体2の開口部4を蓋3Kにより閉塞した状態で、容器本体2と蓋3Kが重なる部分7の隙間8が中間材9で封止される。また、蓋3Kが容器本体2の開口部4に嵌ることで、容器本体2の開口部4の封止性および機械的強度を向上させることができる。」
「【図10】
[図:0001439187000002.jpg]
」
イ 甲1発明の認定
前記アに摘記した甲1の記載事項を総合すると、甲1には、【図10】に示される「比較例2」の容器1に関して、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(甲1発明の認定の根拠となった箇所の段落番号等を括弧内に記載する。以下同様。)。
<甲1発明>
「容器1は、容器本体2と蓋3とを備え、(【0010】)
容器1は、各種原子炉の核燃料を収容する燃料被覆管に用いられ、(【0011】)
容器本体2は、その両方の端部に開口部4が設けられ、それぞれの開口部4を蓋3で閉塞し、(【0012】)
容器本体2および蓋3は、炭化ケイ素のマトリックス(母材)に炭化ケイ素の長繊維を複合化した長繊維強化炭化ケイ素材料で形成され、(【0013】)
容器本体2の開口部4を蓋3により閉塞した状態で、容器本体2と蓋3が重なる部分7の隙間8が中間材9で封止され、(【0026】)
中間材9は、銀ろう、金ろう、白金ろう、パラジウムろう、りん銅ろう、またはニッケルろうの金属ろう材と、ガラス、シリコン、または金属酸化物の無機ろう材とのうちの少なくともいずれか1つを含むものであり、(【0027】)
蓋3Kは、容器本体2の開口部4に嵌り込み、かつ開口部4の端部(周縁)を覆い、中実栓形状を成し、容器本体2および蓋3Kにおいて、容器本体2と蓋3Kが重なる部分7の対向面には、ネジ11,12が形成され、蓋3Kが容器本体2の端部に螺合されることで、開口部4が閉塞され、容器本体2の開口部4を蓋3Kにより閉塞した状態で、容器本体2と蓋3Kが重なる部分7の隙間8が中間材9で封止される、(【0062】)
核燃料を収容した容器1(【0011】)」
(3) 甲3の記載事項及び甲3技術的事項の認定
ア 甲3の記載事項
本件特許の出願前に発行された甲3には、次の事項が記載されている。下線は、甲3技術的事項の認定の根拠となった箇所について当合議体が付したものである。
(ア) 1頁左下欄下から7行~2頁左上欄11行、第3図
「 (産業上の利用分野)
本発明は原子炉用燃料集合体の燃料棒に係り、特に、下部端栓を改良した原子炉用燃料棒に関する。
(従来の技術)
従来の軽水炉における原子炉用燃料棒は、第3図に示すように構成され、細長円筒状のジルカロイ製の被覆管1内に二酸化ウランを焼結した複数の燃料ペレット2を装填している。」
「
[図:0001439187000003.jpg]
第3図」
「被覆管1内上部の空間には、燃焼時に燃料ペレット2から放出される核分裂生成ガスを蓄積させるためのプレナム部3を設けており、このプレナム部3にはコイルスプリング4を設置して燃料ペレット2の上端を下方へ押圧するようにしている。
被覆管1の上下両端開口は上部端栓5および下部端栓6により密封されており、上部および下部端栓5,6はTIG溶接で被覆管1に溶着されている。
この溶接部の健全性を検査するには、従来X線透過検査が用いられていた。しかしながら、最近は溶接検査の保障及び経済性を高める目的で、超音波検査に変わりつつある。そして、この超音波検査では、溶接部の欠陥の有無の正確な検査を行うために上部および下部端栓5,6の形状改良が必要とされており、その形状が種々考えられているが、その代表的な一例を第4図(A)、(B)に示す。
第4図に示すように、超音波検査に適するように改良された上部および下部端栓5A、6Aは、挿入部7.バレル8およびシャンク9よりなり、第3図で示す従来の上下部端栓5,6と比較して、バレル8の長さが延長されていること、および被覆管1への挿入部7の端面側からバレル8にわたって貫通しない盲穴の中心凹部10を設けていることの特徴を有する。これらの改良は溶接肉厚に対して母材の厚さが博すきる場合、もしくは厚すぎる場合には、溶接部の欠陥の判別が困難となるという問題に対処してなされたものである。」
「
[図:0001439187000004.jpg]
第4図」
(イ) 2頁左上欄12行~右上欄8行
「 (発明が解決しようとする問題点)
しかしながら、このような超音波検査に適した上下部端栓5A、6Aを備えた燃料棒には、以下の問題を生じるおそれがあった。
第1に、燃料ペレット2は原子炉運転中に熱応力で割れを生じ、この燃料ペレット2の破片が落下したときに下部端栓5Aの中心凹部10に蓄積されるおそれがある。
その結果、中心凹部10内に蓄積されたペレット破片が発熱し、下部端栓5Aを加熱し、下部端栓5Aと被覆管1の溶接部とに大きな熱応力を発生させるおそれがあった。また、上下部端栓5A、6Aに中心凹部10を設けた場合には、この凹部10が超音波検査に対する上記効果の他に、核分裂生成ガスを蓄積させるためのプレナム部体積の増加に寄与するという効果も期待されたが、ペレット破片が蓄積することによってそのような効果が失われることにもなる。」
イ 甲3の記載事項から当業者が把握できる事項
第4図から、中心凹部10の径は、挿入部7の外径の半分より大きいことが、見て取れる。
ウ 甲3技術的事項の認定
前記アに摘記した甲3の記載事項及び前記イの甲3の記載事項から当業者が把握できる事項を総合すると、甲3には、次の技術的事項(以下「甲3技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
<甲3技術的事項>
「上下部端栓5A、6Aを備えた燃料棒において、(2頁左上欄14行)
上部および下部端栓5A、6Aは、挿入部7、バレル8およびシャンク9よりなり、被覆管1への挿入部7の端面側からバレル8にわたって貫通しない盲穴の中心凹部10を設け、(2頁左上欄2~7行)
前記中心凹部10は、核分裂生成ガスを蓄積させるためのプレナム部体積の増加に寄与するという効果も期待され、(2頁右上欄3~7行)
中心凹部10の径は、挿入部7の外径の半分より大きいこと。(前記イ)」
(4) 甲4の記載事項及び周知技術の認定
ア 甲4の記載事項
本件特許の出願前に発行された甲4には、次の事項が記載されている。下線は、周知技術及び甲4技術的事項の認定の根拠となった箇所について当合議体が付したものである。
(ア) 【0002】
「【0002】
【従来の技術】沸騰水型原子炉で採用される燃料集合体については、図16の一部切り欠き斜視図に示すように、燃料集合体1は角筒状のチャンネルボックス2内に、複数本の燃料棒3と少なくとも1本のウォータロッド4を収容している。この燃料棒3とウォータロッド4は、共に軸方向に設けた複数のスペーサ5により相互間隔が保持され、かつ、格子状に整列されると共に、上下両端部を上部タイプレート6及び下部タイプレート7によって支持されている。」
「【図16】
[図:0001439187000005.jpg]
」
(イ) 【0029】~【0041】
「【0029】
【発明の実施の形態】本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。なお上記した従来技術と同じ構成部分については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。第1実施の形態は請求項1乃至請求項6に係り、図1の側面図及び図2の正面図に示すように、燃料棒20の上部端栓及び下部端栓の要部である密封端栓21は、端栓本体22と開先部23及び首部24から形成されている。」
「
[図:0001439187000006.jpg]
」
「【0030】また、前記開先部23の外径は図示しない被覆管9の内径とほぼ等しくして、首部24の径は開先部23より小さく構成している(請求項1)。なお、首部24の径と被覆管9の内径との差を、0.25mmの2倍の 0.5mm以上にして構成すると共に(請求項2)、首部24の軸方向長さを 0.5mm以上に構成する(請求項3)。
【0031】前記開先部23の外周には密封端栓21の中心線と平行に軸方向の溝25を2本設けると共に(請求項4)、前記首部24の径を被覆管9の外径の0.7倍より大きくする(請求項5)。また、前記開先部23の長さを被覆管9の内径と開先部23の外径の差の6倍以上に構成する(請求項6)。
【0032】次に、上記構成による作用について説明する。図3の要部拡大断面図に示すように、燃料棒20の被覆管9の上下両端は、それぞれ上部端栓と下部端栓である密封端栓21を溶接して密封する。この際に溶接が確実に行われた場合は、被覆管9と端栓本体22との間にはポロシティ等のない溶融部17が形成されて、被覆管9の内面には健全な溶接ダレ18が形成され、この確認には非破壊検査として例えばX線検査が行われる。
【0033】この時に被覆管9の内面と開先部23との間の間隙19は非常に狭いために、X線検査では間隙19における溶接ダレ18の確認できない可能性が高い。しかしながら首部24においては、開先部23より径が小さいことから、端栓本体22側に溶接ダレ18が形成されても、被覆管9の内面で開先部23の端栓本体22側先端である開先端部23aと溶接ダレ18の先端との間に空隙26が形成される。
【0034】このX線検査上で最も重要な溶融部17の近傍に形成された空隙26は、X線検査で確認が容易なことから、この空隙26に形成された溶接ダレ18を確認することにより溶接部の健全性確認が容易にできる。なお、上記の空隙26をX線検査で確実に確認するには、空隙26がX線検査で確認可能な大きさ以上を確保する必要がある。ここで従来の知見によれば、X線検査により容易に確認可能な間隔は0.25mm以上であることから、首部24と被覆管9の内面との距離が0.25mm以上とすれば良い。」
「
[図:0001439187000007.jpg]
」
「…(中略)…
【0038】また、被覆管9と密封端栓21を溶接する際には、溶融部17の近傍は極めて高温となるため、空隙26の中のガスが急激に膨張することになる。一方で、間隙19は極めて狭いために、膨張したガスは直ぐには逃げられず、空隙26部における圧力が急昇して極端な場合には、膨張したガスが溶接中に溶融部17を通して燃料棒20の外側に抜け出て、溶接性を低下させる恐れがある。
【0039】しかしながら、開先部23の外周に設けた溝25は、空隙26で膨張したガスを速やかに燃料棒20の内部に抜かすために、空隙26の局所的な圧力上昇は生じることがないので、溶接結果に悪影響を及ぼすことはない。
【0040】また、図2では例として溝25を軸中心を挟んで対象位置に2本設けたが、この溝25の大きさと本数は、空隙26において膨脹したガスを速やかに抜かす必要に応じて、1本以上適宜選定して設ければ良い。なお、溝25が細く、また多数を外周に均等に配設すると、被覆管9に開先部23を挿着した際に密封端栓21の傾きが少なく、空隙26の局所的な圧力上昇を緩和し易い。
…(後略)」
イ 周知技術の認定
前記アに摘記した甲4の記載事項に例示されるように、次の技術的事項は周知技術(以下「周知技術1」という。)であると認められる。
<周知技術1>
「複数の原子炉燃料棒をチャンネルボックス内に収容し燃料集合体とすること。」
ウ 甲4技術的事項の認定
前記アに摘記した甲4の記載事項を総合すると、甲4には、次の技術的事項(以下「甲4技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
<甲4技術的事項>
「燃料棒20の上部端栓及び下部端栓の要部である密封端栓21は、端栓本体22と開先部23及び首部24から形成され、(【0029】)
前記開先部23の外径は被覆管9の内径とほぼ等しくして、首部24の径は開先部23より小さく構成し、(【0030】)
前記開先部23の外周には密封端栓21の中心線と平行に軸方向の溝25を2本設け、(【0031】)
首部24においては、開先部23より径が小さいことから、端栓本体22側に溶接ダレ18が形成されても、被覆管9の内面で開先部23の端栓本体22側先端である開先端部23aと溶接ダレ18の先端との間に空隙26が形成され、(【0033】)
X線検査上で最も重要な溶融部17の近傍に形成された空隙26は、X線検査で確認が容易なことから、この空隙26に形成された溶接ダレ18を確認することにより溶接部の健全性確認が容易にでき、(【0034】)
開先部23の外周に設けた溝25は、空隙26で膨張したガスを速やかに燃料棒20の内部に抜かすために、空隙26の局所的な圧力上昇は生じることがないこと。(【0039】)」
(5) 対比・判断
ア 本件発明1について
(ア) 対比
a 本件発明1の「軽水炉用の原子炉燃料棒であって、」及び「原子炉燃料棒。」の特定事項について
甲1発明の「核燃料を収容した容器1」は、「各種原子炉の核燃料を収容する燃料被覆管に用いられ[る]」ものであるから、本件発明1の「原子炉燃料棒」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、原子炉燃料棒である点で共通し、本件発明1は、「軽水炉用の」ものであるのに対し、甲1発明は、「各種原子炉の」ものである点で相違する。
b 本件発明1の「炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、」の特定事項について
甲1発明は、「容器1は、容器本体2と蓋3とを備え[る]」ものであり、
「容器1」は、「各種原子炉の核燃料を収容する燃料被覆管に用いられ[る]」ものであることを踏まえると、
甲1発明の「容器本体2」は、本件発明1の「燃料被覆管」に、
甲1発明の「蓋3」は、本件発明1の「端栓」に、
それぞれ相当する。
甲1発明の「容器本体2および蓋3」は、「炭化ケイ素のマトリックス(母材)に炭化ケイ素の長繊維を複合化した長繊維強化炭化ケイ素材料で形成され[る]」ものであることから、本件発明1と甲1発明は、燃料被覆管が「炭化ケイ素材料からなる」点で一致する、
また、甲1発明の「容器本体2」は、「その両方の端部に開口部4が設けられ、それぞれの開口部4を蓋3で閉塞[する]」ものであるから、本件発明1でいう「燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止して[いる]」ものである。
したがって、甲1発明は、上記特定事項を備える。
c 本件発明1の「前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、」の特定事項について
甲1発明の「蓋3K」は、「容器本体2の開口部4に嵌り込み、かつ開口部4の端部(周縁)を覆い、中実栓形状を成[す]」ものであるところ、甲1発明の当該「容器本体2の開口部4に嵌り込[む]」部分は、本件発明1の「前記燃料被覆管の中に挿入される胴部」に相当し、甲1発明の「開口部4の端部(周縁)を覆[う]」部分は、本件発明1の「前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部」に相当する。
したがって、甲1発明は、上記特定事項を備える。
d 本件発明1の「前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、」の特定事項について
甲1発明は、「容器本体2および蓋3Kにおいて、容器本体2と蓋3Kが重なる部分7の対向面には、ネジ11,12が形成され、そして、蓋3Kが容器本体2の端部に螺合されることで、開口部4が閉塞され[る]」ことから、前記cも踏まえると、甲1発明の「容器本体2」における「容器本体2と蓋3Kが重なる部分7の対向面」は、本件発明1の「前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面」に相当し、甲1発明の「蓋3K」における「容器本体2と蓋3Kが重なる部分7の対向面」は、本件発明1の「前記胴部の外周面」に相当する。そして、甲1発明の「ネジ11,12」は、「螺合される」ものであるから、本件発明1の「互いに嵌合する所定の凹凸構造」に相当する。
したがって、甲1発明は、上記特定事項を備える。
e 本件発明1の「前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されており、」の特定事項について
甲1発明の「中間材」は、「中間材9は、銀ろう、金ろう、白金ろう、パラジウムろう、りん銅ろう、またはニッケルろうの金属ろう材と、ガラス、シリコン、または金属酸化物の無機ろう材とのうちの少なくともいずれか1つを含むものであ[る]」ことを踏まえると、本件発明1の「所定のろう付け材料」に相当する。そして、甲1発明は、「容器本体2の開口部4を蓋3により閉塞した状態で、容器本体2と蓋3が重なる部分7の隙間8が中間材9で封止され[る]」ものであるところ、甲1発明の「容器本体2と蓋3が重なる部分7の隙間8」は、本件発明1の「前記外周面と前記内周面との間隙」に相当する。
したがって、甲1発明は、上記特定事項を備える。
f 本件発明1の「前記端栓は、前記胴部の先端部から前記頭部に向けて、前記頭部を貫通しない受圧孔を有する、」の特定事項について
端栓について、本件発明1は、「前記胴部の先端部から前記頭部に向けて、前記頭部を貫通しない受圧孔を有する」のに対し、甲1発明は、「中実栓形状」である点で相違する。
g 一致点及び相違点の認定
以上のことから、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「原子炉燃料棒であって、
炭化ケイ素材料からなる燃料被覆管の両方の端面を端栓が封止しており、
前記端栓は、前記燃料被覆管の中に挿入される胴部と、前記燃料被覆管の前記端面に当接する頭部とを有し、
前記胴部の外周面と前記燃料被覆管における前記胴部が挿入される領域の内周面とに、互いに嵌合する所定の凹凸構造が形成されており、
前記外周面と前記内周面との間隙には、所定のろう付け材料が充填されている、原子炉燃料棒」である点。
【相違点1】
原子炉燃料棒について、本件発明1は、「軽水炉用の」ものであるのに対し、甲1発明は、「各種原子炉の」ものである点。
【相違点2】
端栓について、本件発明1は、「前記胴部の先端部から前記頭部に向けて、前記頭部を貫通しない受圧孔を有する」のに対し、甲1発明は、「中実栓形状」である点。
(イ) 判断
以下、相違点について検討する。
a 相違点1についての検討
甲1発明の「容器1」は、「各種原子炉の核燃料を収容する燃料被覆管に用いられ[る]」ものであり、当業者は、種々の原子炉に用いる動機を有する。
そして、燃料被覆管を用いる原子炉として、軽水炉は、例示するまでもなく周知技術である。
したがって、甲1発明の「各種原子炉」として、軽水炉を選択して、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到した事項である。
b 相違点2についての検討
甲1発明から出発した当業者は、同じ技術分野の甲3技術的事項に接することができ、甲3技術的事項に接した当業者は、甲1発明においても核分裂生成ガスを蓄積するプレナム部の体積を増加させるのが望ましいことを認識できる。
そうすると、甲1発明において、核分裂生成ガスを蓄積させるためのプレナム部の体積の増加に寄与するために、甲3技術的事項を採用し、蓋3Kに、容器本体2の開口部4に嵌り込む部分の端面側から、開口部4の端部(周縁)を覆う部分にわたって貫通しない盲穴の中心凹部を設ける構成(以下「容易想到構成」という。)とすることは、当業者が容易に想到し得たことにすぎない。そして、容易想到構成の「中心凹部」の周囲に位置する部分が、核分裂生成ガスにより、容器本体2側に加圧されることは自明な物理現象であるといえるから、本件発明1の「受圧孔」に相当する。
したがって、甲1発明に甲3技術的事項を採用して、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到した事項である。
c 効果について
事故時の高温状態での燃料被覆管と端栓との接合部における気密性を従来よりも高めるという本件発明1の効果(【0021】)は、引用文献3技術的事項の被覆管1への挿入部7の端面側からバレル8にわたって貫通しない盲穴の中心凹部10を設ける構成が内在的に奏する効果にすぎないものであり、当業者にとって格別顕著なものであるとはいえない。
d 小括
以上検討のとおり、本件発明1は、甲1発明、甲3技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件発明2、3について
甲3技術的事項は、「被覆管1への挿入部7の端面側からバレル8にわたって貫通しない盲穴の中心凹部10を設け[る]」もの、すなわち、中心凹部10の深さは挿入部7の軸方向長さより大きいものであり、かつ、「中心凹部10の径は、挿入部7の外径の半分より大きい」ものであることから、甲1発明に甲3技術的事項を適用し、本件発明2、3の特定事項の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことにすぎない。
したがって、本件発明2、3は、甲1発明、甲3技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 本件発明5について
甲1発明は、「容器本体2と蓋3Kが重なる部分7の対向面には、ネジ11,12が形成され[る]」ものである。
したがって、本件発明5は、甲1発明、甲3技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 本件発明8について
甲1発明の隙間8を、気密性や接合強度を確保できる程度の長さにわたって中間材9で封止することは、当然の設計的事項にすぎない。
したがって、本件発明8は、甲1発明、甲3技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 本件発明9について
甲1発明の「蓋3」の材料である「炭化ケイ素のマトリックス(母材)に炭化ケイ素の長繊維を複合化した長繊維強化炭化ケイ素材料」は、本件発明9の「炭化ケイ素材料」に相当する。
また、甲1発明の中間材9としての「シリコン」「の無機ろう材」は、本件発明9の「ケイ素」に相当する。
また、本件発明9で挙げられる他の端栓の材料、ろう付け材料についても、いずれも周知技術にすぎない。
したがって、本件発明9は、甲1発明、甲3技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
カ 本件発明13について
前記(4)イで周知技術1として認定したとおり、「複数の原子炉燃料棒をチャンネルボックス内に収容し燃料集合体とすること」は、周知技術である。
したがって、本件発明13は、甲1発明、甲3技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6) 特許権者の主張について
ア 特許権者の主張1について
(ア) 特許権者の主張1の内容
特許権者は、「プレナム部体積増加は周知であり、甲1でも当然望ましい」との認定は、少なくとも本件出願時点の技術潮流、SiC燃料棒技術の成熟度および設計事情に照らして成立しないし、課題の一般論があり得るとしても、それは直ちに、端栓に深い盲孔(中心凹部)を採用することが当業者の具体的設計常識であったことを意味しない旨主張している(本件第2意見書3頁(2)、19~22頁(5-1-1 第1の阻害要因)、23~25頁(5-1-2 第2の阻害要因)、26頁(5-2)、28~29頁(6-2-1、6-2-2))。
(イ) 特許権者の主張1についての検討
しかしながら、核燃料においては、その燃料被覆管の材料に関わらず核分裂生成ガスが発生するから、引用発明のような炭化ケイ素系材料の容器1(燃料被覆管)を用いる際にも、核分裂生成ガスを蓄積するプレナム部の体積を増加させることが望ましいことは当業者には自明である。これに対して、特許権者は、SiC燃料棒においてはプレナム部の体積を増加させることが望ましいとはいえないことの合理的な根拠を何ら示しておらず、特許権者の主張は採用できない。
そして、このように甲1発明においても核分裂生成ガスを蓄積させるためのプレナム部の体積の増加が望ましいことである以上、その解決手段を開示する甲3技術的事項を採用することが当業者が容易に想到し得たことにすぎないことは、前記(5)ア(イ)bで説示したとおりである。
更に、特許権者が提出した乙第2号証(「原子力機構の研究開発成果 2016-17」 発行:2016年10月 編集・発行:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)の53頁に、Zr合金被覆管等の開発及び利用にかかわる経験、知識及びノウハウを有するメーカーがSiC/SiC複合材料を選定し、既存軽水炉に導入するための技術基盤を整備することが記載されていることからも、Zr合金燃料被覆管の技術をSiC燃料被覆管に転用しようとすることは、当業者が想定することである。
したがって、特許権者の主張1を採用することはできない。
イ 特許権者の主張2について
(ア) 特許権者の主張2の内容
特許権者は、甲1発明は開口部周辺のクラック抑制を最重要課題とし、肉厚急変や形状不連続を避ける設計思想に立脚し、そこへ甲3型の深い中心凹部を導入することは、クラック起点となり得る要素を新設し、甲1の目的・作用効果に逆行する構成変更であるから、当業者が通常採る合理的な設計変更とはいえず、阻害要因がある旨主張している(本件第2意見書3頁(2)、25~26頁(5-1-3 第3の阻害要因)、29頁(6-2-3))。
(イ) 特許権者の主張2についての検討
しかしながら、以下で検討するように、甲1には、特許権者の主張するような「肉厚急変や形状不連続を避ける設計思想」は記載されておらず、特許権者の主張は根拠のないものである。
すなわち、甲1は、端栓のような中実の部材が、肉厚が薄い燃料被覆管に接合されていると、製造時または使用時の温度変化によって膨張したり収縮したりするときに、端栓部が割れ易くなるという課題を解決するために、内外を隔てる壁部分の肉厚が特定寸法である容器本体と、少なくとも炭化ケイ素を含む材料で形成され、内外を隔てる壁部分の肉厚が前記特定寸法の1倍以上、3倍以下であり、前記容器本体の開口部を閉塞する蓋にしている(甲1の【0005】~【0007】)。
そうすると、甲1発明において、甲3技術的事項を採用し、蓋3Kに、容器本体2の開口部4に嵌り込む部分の端面側から、開口部4の端部(周縁)を覆う部分にわたって貫通しない盲穴の中心凹部を設ける構成とすることは、蓋3Kが中実の部材からの蓋3Kの肉厚が薄くなる方向、すなわち、甲1の課題を解決する方向であるといえる。これに対して、特許権者の主張する「肉厚急変と形状不連続を避ける設計思想」によれば、端栓は中実の部材が望ましいこととなり、特許権者の主張は甲1の開示を正解しないものである。
したがって、甲1発明において、甲3技術的事項を採用することに阻害要因はないから、特許権者の主張2を採用することはできない。
ウ 特許権者の主張3について
(ア) 特許権者の主張3の内容
特許権者は、「加圧は自明」として中心凹部を受圧孔に相当すると同一視するのは、課題・作用効果・構成の結び付きを捨象した過度の抽象化であり、「加圧され得る」という抽象的事実のみを根拠に、甲3技術的事項の中心凹部を本件発明の受圧孔と同種の技術的意義を有する構成評価することはできない旨主張している(本件第2意見書3頁(2)、27頁(5-3)、29頁(6-2-4))。
(イ) 特許権者の主張3についての検討
しかしながら、本件発明1の「受圧孔」とは、字句どおり圧力を受ける孔と解するのが相当であり、容易想到構成における中心凹部は核分裂生成ガスを蓄積させるためのプレナム部体積の増加に寄与するものである以上、核分裂生成ガスの圧力を受ける孔であるといえるから、本件発明1の「受圧孔」に相当するといえる。これに対して特許権者の主張は、単に中心凹部は受圧孔に相当しないことを主張するにとどまり、受圧孔と中心凹部が構成上どのように相違するのかを具体的に主張するものではなく、判然としない。
また、仮に本件発明1の「受圧孔」を燃料棒の内部圧力が上昇した際に端栓の胴部を拡管するためのもの(本願明細書【0025】)と解したとしても、容易想到構成の「中心凹部」の周囲に位置する部分が、核分裂生成ガスにより、容器本体2側に加圧されることは自明な物理現象であるといえるから、本件発明1の「受圧孔」に相当するといえることは、前記(5)ア(イ)bで説示したとおりである。
したがって、特許権者の上記主張を採用することはできない。
第5 取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由について
1 請求項7に係る特許に対する申立理由及び主張の概要
特許異議申立書の申立理由のうち、上記第4に示した請求項1~3、5、8、9、13以外の請求項に係る特許についての申立理由は、下記のとおりである。
本件特許発明7は、上記甲1~甲4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明7についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである(特許異議申立書14~15頁)。
2 本件発明7についての判断
(1) 本件発明7と甲1発明の相違点
前記第4の2(5)において検討した、本件発明1と甲1発明の対比を踏まえて、本件発明7と甲1発明を対比すると、両者は、相違点1及び相違点2に加えて、以下の相違点3において相違し、その余の点で一致する。
【相違点3】
本件発明7は、「前記端栓の前記胴部の前記外周面に、該端栓の軸方向と平行の溝が更に形成されている」のに対し、甲1発明は、蓋3には、そのような溝は形成されていない点。
(2) 相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点3について検討する。
ア(ア) 第4の2(4)ウで認定した甲4技術的事項は、「燃料棒20の上部端栓及び下部端栓の要部である密封端栓21は、端栓本体22と開先部23及び首部24から形成され、前記開先部23の外径は図示しない被覆管9の内径とほぼ等しくして、首部24の径は開先部23より小さく構成し、前記開先部23の外周には密封端栓21の中心線と平行に軸方向の溝25を2本設け、首部24においては、開先部23より径が小さいことから、端栓本体22側に溶接ダレ18が形成されても、被覆管9の内面で開先部23の端栓本体22側先端である開先端部23aと溶接ダレ18の先端との間に空隙26が形成され、X線検査上で最も重要な溶融部17の近傍に形成された空隙26は、X線検査で確認が容易なことから、この空隙26に形成された溶接ダレ18を確認することにより溶接部の健全性確認が容易にでき、開先部23の外周に設けた溝25は、空隙26で膨張したガスを速やかに燃料棒20の内部に抜かすために、空隙26の局所的な圧力上昇は生じることがないこと」(再掲)である。
(イ) しかしながら、甲1発明には、蓋3にはそもそもX線検査を容易にするための首部が形成されておらず、したがって、溶接ダレを確認するための首部の空隙は形成されないから、甲1発明の蓋3に、甲4技術的事項の空隙で膨張したガスを速やかに燃料棒の内部に抜かす溝を設ける構成を適用する動機付けはない。
(ウ) また、甲1の容器本体2と蓋3は、溶接されるものではないので、甲1発明に甲4技術的事項の首部を形成する動機付けもない。
(エ) したがって、甲1発明に甲4技術的事項の溝25を適用することは、当業者が容易に想到し得たことでない。
イ そして、甲1~4のその余の記載をみても、甲1発明その他の甲1に記載された発明及び甲1~4に記載された事項に基づいて、相違点3に係る本件発明7の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(3) 本件発明7についてのまとめ
以上検討のとおり、甲1発明その他の甲1に記載された発明及び甲1~4に記載された事項に基づいて、相違点3に係る本件発明7の構成とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえないから、本件発明7は、甲1発明その他の甲1に記載された発明及び甲1~4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
したがって、本件発明7に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものではない。
3 申立人の主張について
申立人は、甲4には、被覆管に挿入される端栓の開先部23の外周面に軸方向と平行に1以上の溝が形成されることが示され、甲4の当該技術を甲1発明に適用して本件発明7とすることは、当業者が容易に想到することができた旨主張している(異議申立書14~15頁)。
しかしながら、甲1発明に甲4技術的事項を適用することは、当業者が容易に想到し得たことでないことは、前記2(2)で説示したとおりである。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。
第6 むすび
以上検討のとおり、本件発明1~3、5、8、9、13に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、本件発明1~3、5、8、9、13に係る特許は、同法113条2号に該当し、同法114条2項の規定により取り消されるべきものである。
本件発明7に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件発明7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700327