特許異議申立
2022-700582
一本鎖オリゴヌクレオチド
- 審判番号
- 2022-700582
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-563832
- 登録番号
- 6988481
- 請求日
- 2022年07月04日
- 審決日
- 2023年03月16日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日産化学株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人 津国
- 【異議申立人】中井 博
- 審判長/審判官
- 審判長 上條 肇
- 審判官 福井 悟
- 審判官 川合 理恵
- 分類
- P1651.113-Y (C12N) / P1651.121-Y (C12N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6988481号発明「一本鎖オリゴヌクレオチド」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6988481号の請求項に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯及び証拠方法
1.手続の経緯
特許第6988481号(請求項の数37。以下、「本件特許」という。)は、平成29年1月26日(優先権主張:平成28年1月26日、平成28年8月12日)を国際出願日とする出願(特願2017-563832号)であって、令和3年12月6日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は、令和4年1月5日である。)。
その後、令和4年7月4日に、本件特許の請求項1~37に係る特許に対して、特許異議申立人である中井 博(以下、「申立人」という。)より、特許第6988481号の特許請求の範囲の請求項1~37に記載された各発明についての特許を取り消すべきである、との趣旨の本件特許異議の申立てがされた。
よって、本件特許異議申立てに係る審理対象は、全ての請求項に係る特許についてであり、審理対象外の請求項は存しない。
手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年 7月 4日提出 特許異議申立書
令和4年10月19日付け 取消理由通知書
同年12月23日提出 意見書(特許権者)
令和5年 1月 4日付け 審尋(申立人宛)
同年 2月 3日提出 回答書(申立人)
2.証拠方法
申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に添付された証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特表2015-502134号公報
甲第2号証:特表2005-517436号公報
甲第3号証:国際公開第2014/192310号及びその部分訳文
甲第4号証:国際公開第2013/073576号
甲第5号証:Nucleic Acids Research、2014年、Vol.42、No.13、8796-8807頁及びその部分訳文
甲第6号証:特表2007-525192号公報
(以下、上記甲第1号証~甲第6号証を、「甲1」~「甲6」という。)
第2 本件発明
本件特許第6988481号の請求項1~37の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~37に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項1~37に係る発明を項番に従い、「本件発明1」、「本件発明37」といい、それらを総称して、「本件発明」という。また、本件特許の設定登録時の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
式
X-L-Y
(式中、Xは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド及び糖部修飾ヌクレオチドから独立して選択され、少なくとも1個の糖部修飾ヌクレオチドを含む7~100個のヌクレオチドからなる第一オリゴヌクレオチドに由来する基であり、
Yは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド及び糖部修飾ヌクレオチドから独立して選択され、4~100個のヌクレオチドからなる第二オリゴヌクレオチドに由来する基であり、
Lは、その両端で前記第一オリゴヌクレオチド及び第二オリゴヌクレオチドとそれぞれ共有結合し、生理的条件で分解される第三オリゴヌクレオチドに由来する基であり、
前記第一オリゴヌクレオチドはヌクレオチド配列Xを有し、前記第二オリゴヌクレオチドはヌクレオチド配列Yを有し、
前記ヌクレオチド配列Xは、第二オリゴヌクレオチドの少なくとも一部とのハイブリダイズを可能とし、RNaseHによって認識される少なくとも4個の連続するヌクレオチドを含む第一ヌクレオチド配列を含み、
前記ヌクレオチド配列Yは第一オリゴヌクレオチドの少なくとも一部とのハイブリダイズを可能とし、少なくとも1個のリボヌクレオチドを含む第二ヌクレオチド配列を含み、
前記ヌクレオチド配列Xが、標的RNAとのハイブリダイズを可能にする少なくとも1つのアンチセンス配列を含み、
前記第一ヌクレオチド配列が、前記アンチセンス配列であり、
前記アンチセンス配列を2以上有する場合、それぞれのアンチセンス配列部分がハイブリダイズする標的RNAは同一でも異なっていてもよい。)
で表され、XとYとが第一ヌクレオチド配列部分と第二ヌクレオチド配列部分とでハイブリダイズする一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項2】
Xが3’側でLに結合し、Yが5’側でLに結合する、請求項1に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項3】
Xが5’側でLに結合し、Yが3’側でLに結合する、請求項1に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項4】
第三オリゴヌクレオチドに含まれるヌクレオチドが、ホスホジエステル結合で互いに連結されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項5】
第三オリゴヌクレオチドが、DNA又はRNAである、請求項1から4のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項6】
第一オリゴヌクレオチドは、第一ヌクレオチド配列部分の5’側及び3’側の少なくとも一方に隣接して結合する糖部修飾ヌクレオチドを含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項7】
第一オリゴヌクレオチドは、第一ヌクレオチド配列部分の5’側及び3’側に隣接して結合する糖部修飾ヌクレオチドを含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項8】
第一オリゴヌクレオチドが、ホスホロチオエート結合を含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項9】
第一ヌクレオチド配列が、少なくとも1個のデオキシリボヌクレオチドを含む4~20個のヌクレオチドからなる配列である、請求項1から8のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項10】
第二ヌクレオチド配列は、RNaseHによって切断される少なくとも4個の連続するヌクレオチドを含む配列である、請求項1から9のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項11】
第二オリゴヌクレオチドが、第二ヌクレオチド配列部分の5’側及び3’側の少なくとも一方に隣接して結合する糖部修飾ヌクレオチドを含む、請求項10に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項12】
第二ヌクレオチド配列部分の5’側及び3’側の少なくとも一方が、隣接するヌクレオチドとホスホロチオエート結合で連結されている、請求項10又は11に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項13】
前記ヌクレオチド配列Yが、少なくとも1つのアンチセンス配列を含む、請求項1から12のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項14】
前記Yは、前記第二ヌクレオチド配列部分を前記アンチセンス配列部分とLとの間に有する、請求項13に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項15】
前記ヌクレオチド配列Yが含むアンチセンス配列が、標的RNAとハイブリダイズした際に、RNaseHによって認識される少なくとも4個の連続するヌクレオチドを含む配列である、請求項13又は14に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項16】
前記Yが含むアンチセンス配列部分は、少なくとも1個の糖部修飾ヌクレオチドを含み、連続する4個のデオキシリボヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド鎖を含まない、請求項13又は14に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項17】
前記ヌクレオチド配列Xが、前記Yが含むアンチセンス配列部分の少なくとも一部とのハイブリダイズを可能とし、RNaseHによって切断される少なくとも4個の連続するヌクレオチドを含む配列を含む、請求項15又は16に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項18】
Xが、5’末端又は3’末端を含む、請求項1から17のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項19】
式
X’-L’-
(式中、X’は、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド及び糖部修飾ヌクレオチドから独立して選択され、糖部、塩基部及びリン酸部の少なくとも1つが修飾されたヌクレオチドの少なくとも1個を含む7~100個のヌクレオチドからなる第四オリゴヌクレオチドに由来する基であり、
L’は、その両端で前記第一オリゴヌクレオチド及び第四オリゴヌクレオチドとそれぞれ共有結合し、生理的条件で分解される第五オリゴヌクレオチドに由来する基であり、
前記第四オリゴヌクレオチドは、標的RNAとのハイブリダイズを可能にするアンチセンス配列を有する。)
で表される基をさらに含む、請求項1から17のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項20】
X’が、少なくとも1個の糖部修飾ヌクレオチドを含み、
前記第四オリゴヌクレオチドが有するアンチセンス配列は、標的RNAとハイブリダイズした際にRNaseHによって認識される、少なくとも4個の連続するヌクレオチドを含む配列である、請求項19に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項21】
前記第四オリゴヌクレオチドが含むアンチセンス配列部分は、少なくとも1個の糖部修飾ヌクレオチドを含み、連続する4個のデオキシリボヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド鎖を含まない、請求項19に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項22】
前記第四オリゴヌクレオチドが含むアンチセンス配列部分は、前記第二オリゴヌクレオチドの少なくとも一部とハイブリダイズする、請求項20又は21に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項23】
第五オリゴヌクレオチドに含まれるヌクレオチドが、ホスホジエステル結合で互いに連結されている、請求項19から22のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項24】
第五オリゴヌクレオチドが、DNA又はRNAである、請求項19から23のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項25】
前記アンチセンス配列部分の5’側及び3’側の少なくとも一方に隣接して結合する糖部修飾ヌクレオチドを含む、請求項1から24のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項26】
前記アンチセンス配列部分の5’側及び3’側に隣接して結合する糖部修飾ヌクレオチドを含む、請求項1から25のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項27】
前記アンチセンス配列が、少なくとも1個のデオキシリボヌクレオチドを含む4~20個のヌクレオチドからなる配列である、請求項1から26のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項28】
前記アンチセンス配列部分が、ホスホロチオエート結合を含む、請求項1から27のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項29】
前記糖部修飾ヌクレオチドが、ヘキシトールヌクレオチド、シクロヘキセンヌクレオチド、ペプチド核酸、グリコール核酸、トレオヌクレオチド、モルホリノ核酸、トリシクロ-DNA、2’-O-メチル化ヌクレオチド、2’-O-メトキシエチル化ヌクレオチド、2’-O-アミノプロピル化ヌクレオチド、2’-フルオロ化ヌクレオチド、2’-F-アラビノヌクレオチド、架橋化ヌクレオチド、および2’-O-メチルカルバモイルエチル化ヌクレオチドからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1から28のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項30】
Yが、5’末端又は3’末端を含む、請求項1から29のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項31】
標識機能、精製機能及び標的部位への送達機能からなる群から選択される少なくとも1種の機能を有する機能性分子に由来する基をさらに含む、請求項1から30のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項32】
前記機能性分子が、糖、脂質、ペプチド及びタンパク質並びにそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項31に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項33】
前記機能性分子が、コレステロール、トコフェロール及びトコトリエノールからなる群から選択される脂質である、請求項31又は32に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項34】
前記機能性分子が、アシアロ糖タンパク質受容体と相互作用する糖誘導体である、請求項31又は32に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項35】
前記機能性分子が、受容体のリガンド及び抗体からなる群から選択される、ペプチド又はタンパク質である、請求項31又は32に記載の一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項36】
請求項1から35のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチドと、薬理学上許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項37】
請求項1から35のいずれか1項に記載の一本鎖オリゴヌクレオチドの製造方法であって、X、L及びYの少なくとも1つを含むオリゴヌクレオチドの3’末端又は5’末端でヌクレオチド鎖を伸長する工程を含む、製造方法。」
第4 当審が通知した取消理由及び特許異議申立ての理由の概要
1.当審が通知した取消理由通知の概要
当審が令和4年10月19日付け取消理由通知書で通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由1(甲1に基づく新規性欠如)
本件特許の請求項1、8、10、29、31~35、37に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2)取消理由2(甲1に基づく進歩性欠如)
本件特許の請求項1~37に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
2.特許異議申立ての理由の概要
申立人が特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由(以下、「申立理由」という。)は、以下のとおりである。
(1)申立理由1(甲1に基づく新規性欠如)
本件発明1、4~12、25~29、31~33及び35~37は、甲1に記載された発明であることから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないため、上記の本件発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲1に基づく進歩性欠如)
本件発明2、3、13~24、30及び34は、甲1発明と、甲2発明~甲5発明とに基づいて当業者が容易に想到し得たものであることから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため、上記の本件発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立理由3(甲6に基づく進歩性欠如)
本件発明1~3、13~14、16、18~19、21、23~24、30及び34は、甲6発明と、甲3発明~甲5発明とに基づいて当業者が容易に想到し得たものであることから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため、上記の本件発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第5 当審の判断
本件発明1~37に係る特許は、以下のとおり、当審が通知した取消理由通知書に記載した取消理由及び申立人による申立理由によっては、取り消すことができない、と判断する。
1.当審が通知した取消理由の検討
(1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
ア.甲1に記載された事項
主引用例である甲1(特表2015-502134号公報)には、以下のとおりの記載がある。下線は当審で付与した。
甲1a
「【請求項1】
細胞内の転写産物レベルを低減する方法であって、
該細胞と組成物とを接触させる工程を含み、
該組成物は、第2の核酸鎖がアニーリングしている第1の核酸鎖を含む二本鎖核酸複合体を含み、
第1の核酸鎖は、
(i)ヌクレオチドと任意にヌクレオチドアナログとを含み、該核酸鎖における該ヌクレオチド及び任意に含まれる該ヌクレオチドアナログの総数は8~100であり、
(ii)前記転写産物にハイブリダイズした際に、RNaseHによって認識される少なくとも4つの連続したヌクレオチドを含み、
(iii)前記転写産物にハイブリダイズする
核酸鎖であり、かつ、
第2の核酸鎖は、ヌクレオチドと任意にヌクレオチドアナログとを含む核酸鎖である、方法。
・・・
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、第2の核酸鎖が第1の核酸鎖にアニーリングした際に、RNaseHによって切断される、少なくとも4つの連続したヌクレオチドを含む核酸鎖である、方法。
・・・
【請求項39】
請求項24~38のいずれか一項に記載の方法であって、第2の核酸鎖が、標識機能、精製機能及び標的への送達機能から選択される機能を有する機能性部分を更に含む核酸鎖である、方法。
【請求項40】
請求項1~4及び6~33のいずれか一項に記載の方法であって、前記二本鎖核酸複合体が、第2の核酸鎖にアニーリングする第3の核酸鎖を更に含む複合体である、方法。
【請求項41】
請求項40に記載の方法であって、第3の核酸鎖は第1の核酸鎖と同じである、方法。
【請求項42】
請求項40に記載の方法であって、第3の核酸鎖は、
(i)ヌクレオチドと任意にヌクレオチドアナログとを含み、
(ii)第2の転写産物にハイブリダイズした際に、RNaseHによって認識される少なくとも4つの連続したヌクレオチドを含み、
(iii)ヌクレオチド及び任意に含まれるヌクレオチドアナログの総数は8?100であり、かつ
(iv)第2の転写産物にハイブリダイズする
核酸である、方法。
【請求項43】
請求項40に記載の方法であって、第3の核酸鎖はPNAヌクレオチドを含む核酸鎖である、方法。
【請求項44】
請求項40~43のいずれか一項に記載の方法であって、第3の核酸鎖が、標識機能、精製機能及び標的への送達機能から選択される機能を有する機能性部分を更に含む核酸鎖である、方法。
【請求項45】
請求項39又は44に記載の方法であって、前記機能性部分が、脂質、ペプチド及びタンパク質から選択される分子である、方法。
・・・
【請求項47】
請求項45又は46に記載の方法であって、前記機能性部分が脂質である、方法。
・・・
【請求項49】
請求項47に記載の方法であって、前記機能性部分が、コレステロール、トコフェロール及びトコトリエノールから選択される脂質である、方法。
【請求項50】
請求項45又は46に記載の方法であって、前記機能性部分が、受容体のリガンド及び抗体から選択されるペプチド又はタンパク質である方法。
・・・
【請求項56】
精製又は単離された二本鎖核酸複合体であって、
第2の核酸鎖がアニーリングしている第1の核酸鎖を含み、
第1の核酸鎖は、
(i)ヌクレオチドと任意にヌクレオチドアナログとを含み、該核酸鎖における該ヌクレオチド及び任意に含まれる該ヌクレオチドアナログの総数は8~100であり、
(ii)転写産物にハイブリダイズした際に、RNaseHによって認識される少なくとも4つの連続したヌクレオチドを含み、
(iii)少なくとも1つの非天然ヌクレオチドを含み、かつ、
(iv)前記転写産物にハイブリダイズする
核酸鎖であり、かつ、
第2の核酸鎖は、ヌクレオチドと任意にヌクレオチドアナログとを含む核酸鎖である、二本鎖核酸複合体。
・・・
【請求項58】
哺乳動物を治療するための医薬組成物であって、前記転写産物が哺乳動物の転写産物であり、請求項56又は57に記載の二本鎖核酸複合体と、薬理学上許容される担体とを含む、医薬組成物。」
甲1b
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ある実施形態において、二重鎖核酸複合体は、標的遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸を含み、通常RNA転写産物レベルを抑制するアンチセンス核酸を含む。本発明の他の目的は、二重鎖核酸複合体により、特異性高く効率良く標的部位にアンチセンス核酸鎖を送達することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、アンチセンス法におけるASOの安定性、生体内における標的遺伝子の発現に対する抑制活性(アンチセンス効果)、並びにASOの標的部位への送達における特異性及び効率(送達性)を向上させるべく、脂質(コレステロール)を直接結合させた、LNA及びDNAを含むASO(LNA/DNAギャップマー)を調製し、このASOをマウスに静脈投与して送達性及びアンチセンス効果を評価した。その結果、コレステロールを結合させることにより、ASOの肝臓への送達性は向上する一方で、アンチセンス効果は喪失してしまうことが明らかになった。
【0012】
そこで、本発明者らは、ASOの送達性を高めつつ、高いアンチセンス効果を有する核酸を開発すべく、鋭意研究を重ねた結果、1の実施形態において、LNA/DNAギャップマーとそれに対するRNAからなる相補鎖とをアニーリングさせた二重鎖核酸複合体を新たに着想し、先ずはそのアンチセンス効果について評価した。その結果、前記二重鎖核酸のアンチセンス効果は、1本鎖のLNA/DNAギャップマーのそれと概して変わらず、むしろ用いるASOの鎖長によっては亢進することが明らかになった。また、本発明者らは、前記RNAを含む相補鎖にトコフェロールを結合させた二重鎖核酸を調製した。そして、当該二重鎖核酸をマウスに静脈投与し、そのアンチセンス効果を評価した。その結果、トコフェロールを結合させた相補鎖を含む二重鎖核酸は非常に高いアンチセンス効果を有していることが明らかになった。また、前記RNAの代わりにPNA(ペプチド核酸)を含む相補鎖とアニーリングさせたLNA/DNAギャップマーのアンチセンス効果は、1本鎖のLNA/DNAギャップマーのそれと少なくとも同等であるか、または優れていることも本発明者らは見出した。さらに、PNAは、ASOと、ペプチド、タンパク質又は抗体とを直接結合させる上で有用であり、ASOの特定の部位への直接的な送達を可能とするものである。」
甲1c
「【0027】
「RNaseHによって認識される少なくとも4つの連続したヌクレオチド」は、通常、4~20塩基の連続したヌクレオチドを含む領域であり、5~16塩基の連続したヌクレオチドを含む領域であり、又は、6~12塩基の連続しヌクレオチドを含む領域である。また、この領域には、天然型DNAのような、RNAヌクレオチドにハイブリダイズした際に、RNA鎖を切断するRNaseHによって認識されるヌクレオチドを用いることができる。
・・・
【0043】
従って、第1の核酸鎖において、中央に少なくとも4塩基以上の鎖長のDNAが配置され、さらにRNA(すなわち、標的転写産物)と強い結合能力を持つLNA(又は他のBNA)が両端に配置されることによって、このような複合鎖は、RNaseHによる標的RNAの切断を促進することとなる。「鎖長が4塩基であるDNA」は、DNAヌクレオチドだけに制限されるわけではなく、第1の核酸鎖が転写産物にハイブリダイズした際に、RNaseHによって認識される少なくとも4つの連続したヌクレオチドを、第1の核酸鎖が含むことも意図するものである。ある実施形態において、標的転写産物とのヘテロ二重鎖形成により生じるアンチセンス効果が極めて高いという観点から、第1の核酸鎖が転写産物にハイブリダイズした際に、RNaseHによって認識される少なくとも4つの連続したヌクレオチドを含む領域の、5’末側及び3’末側に配置された修飾核酸を含む領域は、任意にヌクレオチドアナログを含んでいることが望ましい。該ヌクレオチドアナログはBNAであってもよく、例えばLNAであってもよい。
【0045】
第2の核酸鎖としては、RNA、DNA、PNA(ペプチド核酸)及びBNA(例えば、LNA)からなる群から選択される少なくとも1種の核酸からなるオリゴブクレオチドである。より具体的には、第2の核酸鎖は、(i)RNAヌクレオチドと、任意にヌクレオチドアナログと、任意にDNAヌクレオチドとを含み、
(ii)DNAヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログを含み、又は、(iii)PNAヌクレオチドを含む。
・・・
【0047】
しかしながら、後述の実施例において示すように、ある実施形態における二重鎖核酸複合体が細胞内のRNaseHに認識され、第2の核酸鎖が分解されることにより、第1の核酸鎖のアンチセンス効果が発揮し易くなるという観点から、第2の核酸鎖はRNAを含む。また、ある実施形態における二重鎖核酸複合体にペプチド等の機能性分子を結合させ易いという観点からは、第2の核酸鎖はPNAである。
・・・
【0051】
ある実施形態における二重鎖核酸複合体において、第2の核酸鎖に機能性部分が結合していてもよい。第2の核酸鎖と機能性部分との結合は、直接的な結合であってもよく、他の物質を介した間接的な結合であってもよいが、ある実施形態において、共有結合、イオン結合、水素結合等で第2の核酸鎖と機能性部分とが直接的に結合していることが好ましく、より安定した結合が得られるという観点から、共有結合がより好ましい。
【0052】
ある実施形態において、「機能性部分」の構造上、特に制限はなく、それを結合する二重鎖核酸複合体及び/又は核酸鎖に所望の機能を付与する。所望の機能としては、標識機能、精製機能及び標的への送達機能が挙げられる。標識機能を付与する部分の例としては、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ等の化合物が挙げられる。精製機能を付与する部分の例としては、ビオチン、アビジン、Hisタグペプチド、GSTタグペプチド、FLAGタグペプチド等の化合物が挙げられる。
【0053】
また、第1の核酸鎖を特異性高く効率的に標的部位に送達し、かつ当該核酸によって標的遺伝子の発現を非常に効果的に抑制するという観点から、第2の核酸鎖に機能性部分として、ある実施形態における二重鎖核酸複合体を標的部位に送達させる活性を有する分子が結合していることが好ましい。
【0054】
「標的への送達機能」を有する部分として、例えば、肝臓等に特異性高く効率的にある実施形態における二重鎖核酸複合体を送達できるという観点から、脂質が挙げられる。このような脂質としては、コレステロール、脂肪酸等の脂質(例えば、ビタミンE(トコフェロール類、トコトリエノール類)、ビタミンA,ビタミンD)、ビタミンK等の脂溶性ビタミン(例えば、アシルカルニチン)、アシルCoA等の中間代謝物、糖脂質、グリセリド、並びにそれらの誘導体等を例示することができるが、これらの中では、より安全性が高いという観点から、ある実施形態において、コレステロール、ビタミンE(トコフェロール類、トコトリエノール類)を利用することが好ましい。また、脳に特異性高く効率的に本発明の二重鎖核酸を送達できるという観点から、ある実施形態における「機能性部分」としては、糖(例えば、グルコース、スクロース)が挙げられる。また、各臓器の細胞表面にある各種タンパク質に結合することにより、当該臓器に特異性高く効率的にある実施形態における二重鎖核酸複合体を送達できるという観点から、受容体のリガンドや抗体、及び/又はそれらの断片等のペプチド又はタンパク質が、ある実施形態における「機能性部分」として挙げられる。
【0055】
ある実施形態における二重鎖核酸複合体において、第1の核酸鎖の鎖長と第2の核酸鎖の鎖長とは同一であってもよく、異なっていてもよい。ある実施形態において、第1の核酸鎖又は第2の核酸鎖の鎖長が同一である二重鎖核酸複合体としては、例えば、図3に示す二重鎖核酸の態様が挙げられる。」
甲1d
「【0056】
また、ある実施形態において、第1の核酸鎖又は第2の核酸鎖の鎖長が異なる本発明の二重鎖核酸としては、例えば、図4及び5に示す二重鎖核酸の態様が挙げられる。すなわち、いくつかの実施態様においては、前述の第1及び第2の核酸鎖に加え、さらに、第3の核酸鎖を含む、二重鎖核酸を提供することができる。
【0057】
第3の核酸鎖は、第1及び第2の核酸鎖のうち鎖長が長い核酸における他の一方の核酸に対して突出した領域に対して相補的な核酸鎖である。
【0058】
いくつかの実施形態において、第3の核酸鎖は、第1の核酸鎖のように、アンチセンスオリゴヌクレオチドとして機能する。第3の核酸鎖は、第1の核酸鎖と同一の配列を標的とすることも、異なる配列を標的とすることもできる。このように、前述の第1の核酸鎖に関する構造及びヌクレオチドの構成は、同様に、第3の核酸鎖の構造及び構成として適用し得る。また第2の核酸鎖と同様に、第3の核酸鎖に前述の機能性部分を直接又は間接的に結合させることにより、様々な機能を第3の核酸鎖に付与することができ、例えば、薬剤送達複合体として機能させることができる。
・・・
【0060】
また、一般的に、化合物を経腸投与(経口投与等)した場合には、その化合物は血管ではなく、リンパ管を通して生体内に拡散されていく。しかしながら、リンパ管に達するためには、化合物の分子量は11000~17000ダルトン以上であることが必要となる。さらに、経腸投与した化合物は、腸管内のRNaseAに曝露されることになるため、RNAを含有する核酸医薬は、当該RNAの部分を全て2’-O-メチル化等にて修飾しておくことが極めて好ましい。従って、図5に示す二重鎖核酸は、約18000ダルトンの分子量を有し、RNA部分が全て2’-O-メチル化されているので、経腸投与に好適に利用できる。また、図5の下部に示す二重鎖核酸においては、DNA鎖(第3の核酸鎖)と、該DNA鎖及びRNAからなる相補鎖(第2の核酸鎖)を結合させるヘアピンループ核酸(好ましくは4~9塩基からなる核酸)とを有する。」
甲1e
「
[図:0001396285000001.jpg]
」
「【0016】
・・・
【図3】・・・図中「(s)」はホスホロチオエート結合している核酸を示し、「(o)」は、天然のホスホロチオエート結合している核酸を示し、「(m/s)」は、ホスホロチオエート化及び2’-O-メチル化されているRNAを示す。また、「X」は機能性分子を表わし、脂質(例えば、コレステロール、トコフェロール)、糖等、又はタンパク質やペプチド(例えば、抗体)等を独立して示す。
・・・
【図5】図5A~Bは、少なくとも第1のASO核酸鎖と第2の相補的核酸鎖とが異なる鎖長を有している、二重鎖核酸複合体の好適な態様を示す概略図である。これらの態様においては、(A)第2の核酸鎖に相補的な第3の核酸鎖を更に含む核酸、及び、(B)第2の核酸鎖にヘアピンリンカーによって結合している、ホスホロチオエート化しているDNAからなる自己相補的領域を更に含む、第2の核酸のいずれかである。図中、「(m)」は2’-O-メチル化されているRNAを示す。他の表記は図3におけるそれらと同義である。
・・・」
イ.甲1に記載された発明
甲1の【0056】には、「ある実施形態において、第1の核酸鎖又は第2の核酸鎖の鎖長が異なる本発明の二重鎖核酸としては、例えば、図4及び5に示す二重鎖核酸の態様が挙げられる。」と記載され(甲1d)、同【0010】に「本発明の他の目的は、二重鎖核酸複合体により、特異性高く効率良く標的部位にアンチセンス核酸鎖を送達することにある。」、同【0012】に「LNA/DNAギャップマーとそれに対するRNAからなる相補鎖とをアニーリングさせた二重鎖核酸複合体を新たに着想し、先ずはそのアンチセンス効果について評価した。」、「RNAの代わりにPNA(ペプチド核酸)を含む相補鎖とアニーリングさせたLNA/DNAギャップマーのアンチセンス効果は、1本鎖のLNA/DNAギャップマーのそれと少なくとも同等であるか、または優れていることも本発明者らは見出した。」と記載されていること(甲1b)に照らすと、甲1の【0060】(甲1d)及び図5B(甲1e)に記載されている、2塩基のLNA、8塩基のホスホロチオエート結合しているDNA、3塩基のLNAからなる核酸鎖は、【0012】において「LNA/DNAギャップマー」と称される第1の核酸鎖であり、アンチセンス効果を示すものであると認められる。
一方、甲1の【0060】及び図5Bには、上記の第1の核酸鎖とは別に、26~27塩基のRNA鎖(第2の核酸鎖)と13塩基(図5Aと図5Bより認定した。)のDNA鎖(第3の核酸鎖)と、それらを結合する、好ましくは4~9塩基からなるヘアピンループ核酸を有する核酸鎖が記載されている(甲1d、甲1e)。そして、図5Bの上記RNA鎖(第2の核酸鎖)が、ホスホロチオエート化及び2’-O-メチル化されているRNAと2’-O-メチル化されているRNAを含むことが記載されていることからすると(甲1e)、甲1には、ホスホロチオエート結合している核酸を含む13塩基のDNA鎖である第3の核酸鎖が、好ましくは4~9塩基からなるヘアピンループ核酸を介して結合した、ホスホロチオエート化及び2’-O-メチル化されているRNAと2’-O-メチル化されているRNAを含む、26~27塩基のRNA鎖である第2の核酸鎖が記載されていると認められる。
以上からすると、甲1の図5B(甲1e)には、特異性高く効率良く標的部位にアンチセンス核酸鎖(第1の核酸鎖)を送達する、第1の核酸鎖又は第2の核酸鎖の鎖長が異なる二重鎖核酸複合体の実施態様の一つとして、第1の核酸鎖であるLNA/DNAギャップマーと、第3の核酸鎖であるDNA鎖がヘアピンループ核酸を介して結合した第2の核酸鎖であるRNA鎖とが、アニーリングしている二重鎖核酸複合体が示されていると解することができ、したがって、甲1には、以下の発明(「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「2塩基のLNAと、8塩基のホスホロチオエート結合している核酸を含むDNAと、3塩基のLNAとからなる13塩基の第1の核酸鎖と、
ホスホロチオエート結合している核酸を含む13塩基のDNA鎖である第3の核酸鎖が、好ましくは4~9塩基からなるヘアピンループ核酸を介して結合した、ホスホロチオエート化及び2’-O-メチル化されているRNAと2’-O-メチル化されているRNAを含む26~27塩基のRNA鎖である第2の核酸鎖とが
アニーリングしている二重鎖核酸複合体であり、
第1の核酸鎖がアンチセンス核酸鎖である、二重鎖核酸複合体。」
ウ.申立人の主張について
申立人は、令和5年2月3日提出の回答書において、第1の核酸鎖のみが必須の構成であることは甲1のどこにも記載されておらず、甲1の段落【0057】、【0058】及び【0060】によると、第3の核酸鎖が第1の核酸鎖と同様に甲1発明における課題を解決し、効果を奏するものであることが甲1に記載されているから、図5Bの第1のASO核酸鎖である、13塩基からなるLNA/DNAギャップマーを含まない甲1発明を認定することに誤りはない旨主張する。
しかし、甲1の【0056】(甲1d)によると、図5B(甲1e)は、第1の核酸鎖又は第2の核酸鎖の鎖長が異なる二重鎖核酸複合体の実施態様を示したものであるから(甲1d)、アンチセンス効果を示す1本鎖のLNA/DNAギャップマーである第1の核酸鎖(甲1b)を除き、第2の核酸鎖及び第3の核酸鎖だけで甲1発明を認定することは相当でないし、甲1の図5B(甲1e)に記載されるDNA鎖(第3の核酸鎖)は、1本鎖のLNA/DNAギャップマーでないから、第3の核酸鎖がアンチセンス核酸鎖であるとは認定できない。
また、甲1の段落【0057】、【0058】及び【0060】の記載(甲1d)が、上記の図5Bに基づく甲1発明の認定を左右するとは認められない。
したがって、上記の申立人の主張は、理由がない。
(2)本件発明1について
ア.本件発明1と甲1発明の対比
本件発明1(第2)と甲1発明(第5の1(1)イ)を対比する。
甲1発明の「2塩基のLNAと、8塩基のホスホロチオエート結合している核酸を含むDNAと、3塩基のLNAとからなる13塩基の第1の核酸鎖」は、糖部修飾ヌクレオチドであるLNAを含む、「アンチセンス核酸鎖」であり、「第2の核酸鎖」と「アニーリング」するものである(甲1e)。
また、甲1発明の「第1の核酸鎖」は、甲1の請求項1、56の記載によれば、「転写産物にハイブリダイズした際に、RNaseHによって認識される少なくとも4つの連続したヌクレオチドを含」むものである(甲1a)。
そうすると、甲1発明の「第1の核酸鎖」は、「少なくとも1個の糖部修飾ヌクレオチドを含む7~100個のヌクレオチドからなる第一オリゴヌクレオチドに由来する基」で、「デオキシリボヌクレオチド」「から独立して選択され」、「第二オリゴヌクレオチドの少なくとも一部とのハイブリダイズを可能」とし、「標的RNAとのハイブリダイズを可能にする少なくとも1つのアンチセンス配列を含み」、「RNaseHによって認識される少なくとも4個の連続するヌクレオチドを含む第一ヌクレオチド配列を含む第一ヌクレオチド配列を含」む「ヌクレオチド配列X」といえるから、本件発明1の「ヌクレオチド配列X」に相当する。
甲1発明の「第2の核酸鎖」は、「第1の核酸鎖」と「アニーリング」する、「2’-O-メチル化されているRNA」を含む「26~27塩基のRNA鎖」であり、「2’-O-メチル化されているRNA」は、本件の請求項29の記載に照らすと、「糖部修飾ヌクレオチド」である。
そうすると、甲1発明の「第2の核酸鎖」は、「4~100個のヌクレオチドからなる第二オリゴヌクレオチドに由来する基」で「リボヌクレオチド及び糖部修飾ヌクレオチドから独立して選択され」、「第一オリゴヌクレオチドの少なくとも一部とのハイブリダイズを可能とし、少なくとも1個のリボヌクレオチドを含む第二ヌクレオチド配列を含」むといえるから、本件発明1の「ヌクレオチド配列Y」に相当する。
甲1発明の「好ましくは4~9塩基からなるヘアピンループ核酸」は、オリゴデオキシリボヌクレオチド又はオリゴリボヌクレオチドより構成されるものであり、本件明細書の【0187】、【0188】によれば、「生理的条件で分解されるオリゴヌクレオチドに由来する基」であるから、本件発明1の「生理的条件で分解される第三オリゴヌクレオチドに由来する基」である「L」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、
「式X、L、Yを含むオリゴヌクレオチドであり、
(式中、Xは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド及び糖部修飾ヌクレオチドから独立して選択され、少なくとも1個の糖部修飾ヌクレオチドを含む7~100個のヌクレオチドからなる第一オリゴヌクレオチドに由来する基であり、
Yは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド及び糖部修飾ヌクレオチドから独立して選択され、4~100個のヌクレオチドからなる第二オリゴヌクレオチドに由来する基であり、
Lは、生理的条件で分解される第三オリゴヌクレオチドに由来する基であり、
前記第一オリゴヌクレオチドはヌクレオチド配列Xを有し、前記第二オリゴヌクレオチドはヌクレオチド配列Yを有し、
前記ヌクレオチド配列Xは、第二オリゴヌクレオチドの少なくとも一部とのハイブリダイズを可能とし、RNaseHによって認識される少なくとも4個の連続するヌクレオチドを含む第一ヌクレオチド配列を含み、
前記ヌクレオチド配列Yは第一オリゴヌクレオチドの少なくとも一部とのハイブリダイズを可能とし、少なくとも1個のリボヌクレオチドを含む第二ヌクレオチド配列を含み、
前記ヌクレオチド配列Xが、標的RNAとのハイブリダイズを可能にする少なくとも1つのアンチセンス配列を含み、
前記第一ヌクレオチド配列が、前記アンチセンス配列である。)
で表され、XとYとが第一ヌクレオチド配列部分と第二ヌクレオチド配列部分とでハイブリダイズするオリゴヌクレオチド。」
で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本件発明1では、Lが、その両端で前記第一オリゴヌクレオチド及び第二オリゴヌクレオチドとそれぞれ共有結合し、XとLとYが、X-L-Yの一本鎖オリゴヌクレオチドを形成しているのに対して、
甲1発明では、ヘアピンループ核酸が、第2の核酸鎖と第3の核酸鎖を結合し、第2の核酸鎖と第1の核酸鎖を結合しないため、第1の核酸鎖、第2の核酸鎖-第3の核酸鎖の二重鎖核酸複合体を形成している点
イ.相違点1の検討
甲1の【0010】に「本発明の他の目的は、二重鎖核酸複合体により、特異性高く効率良く標的部位にアンチセンス核酸鎖を送達することにある。」、同【0012】に「LNA/DNAギャップマーとそれに対するRNAからなる相補鎖とをアニーリングさせた二重鎖核酸複合体を新たに着想し、先ずはそのアンチセンス効果について評価した。」、「RNAの代わりにPNA(ペプチド核酸)を含む相補鎖とアニーリングさせたLNA/DNAギャップマーのアンチセンス効果は、1本鎖のLNA/DNAギャップマーのそれと少なくとも同等であるか、または優れていることも本発明者らは見出した。」と記載されているとおり(甲1b)、甲1には、一貫して二重鎖核酸複合体のみが記載されており、LNA/DNAギャップマーとそれに対するRNAからなる相補鎖を、ヘアピンループ核酸等を介して結合させて一本鎖のオリゴヌクレオチドを形成することについては記載も示唆もされていない。
そして、申立人が下位の請求項に係る発明の進歩性を否定するために提出した甲2~5を参照しても、甲1発明における第1の核酸鎖と第2の核酸鎖-第3の核酸鎖を結合させることを動機付ける記載は何ら見当たらない。
一方、本件明細書の【0010】には、甲1発明のような二本鎖オリゴヌクレオチド(例えば、前記HDO、HCDO)では、「アンチセンス鎖と相補的なRNA鎖を別々に合成した上で、最後にこれらの鎖をハイブリダイズする工程が必要となる。さらに動物や細胞に投与する際には、一本鎖への解離を抑制した状態とする必要があり、その取扱い条件の設定にも労力を要する場合が想定される。」との問題点があるところ、【0012】には「一本鎖オリゴヌクレオチドが」「二本鎖オリゴヌクレオチドと同等以上のアンチセンス効果」を示し、「一本鎖であるため、二本鎖を形成させるハイブリダイズ工程がなく、効率よく製造可能」との効果を奏することが記載され、特に、本件明細書の【0349】、【0354】、【0359】、【0364】、【0369】、【0376】、【0381】、【0387】、【0392】、【0398】には、オリゴヌクレオチドを一本鎖とした場合には、二本鎖である場合と比較して、高いアンチセンス効果を示すことが裏付けられている。
そうすると、相違点1として挙げた本件発明1の発明特定事項は、甲1に記載されたものとはいえないうえ、甲1~甲5の記載事項を参酌しても、当業者が、上記の発明特定事項を容易に想到し得るとは認められない。
ウ.小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明、すなわち、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に甲1~5の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2~37の新規性、進歩性の検討
本件発明2~37は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~37は、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に甲1~5の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)当審が通知した取消理由の検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1~37に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由1、2により取り消すことはできない。
2.取消理由通知書で採用しなかった申立理由の検討
申立人による申立理由1(甲1に基づく新規性欠如)、申立理由2(甲1に基づく進歩性欠如)は、当審が取消理由通知書で通知した取消理由1(甲1に基づく新規性欠如)、取消理由2(甲1に基づく進歩性欠如)と同じであるから、検討を要しない。
そこで、以下では、取消理由通知で採用しなかった申立理由3(甲6に基づく進歩性欠如)について、検討する。
(1)甲6に記載された事項及び甲6に記載された発明
ア.甲6に記載された事項
主引用例である甲6(特表2007-525192号公報)には、以下のとおりの記載がある。下線は当審で付与した。
甲6a
「【請求項1】
化学式MF-III
【化1】
[図:0001396285000002.jpg]
を持つ構造を含む多機能siNA分子であって、
式中、
(a)X、X'、YおよびY'はそれぞれ約15ヌクレオチドから約50ヌクレオチドの長さのオリゴヌクレオチドであり、
(b)Xは領域Y'に存在するヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み、
(c)X'は領域Yに存在するヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み、
(d)XおよびX'はそれぞれ第一および第二標的核酸配列、またはその一部と安定して相互作用するに足る長さであり、
(e)Wはヌクレオチドまたは配列Y'およびYを結合する非ヌクレオチドリンカーを示し、かつ
(f)前記多機能siNAはRNA干渉を介して第一および第二標的配列の切断を指示する、ことを特徴とする多機能siNA。」
甲6b
「【0002】
本発明は、治療用、化粧品用、薬用化粧品用、予防薬用、診断用、標的の確認用、およびゲノム上の発見用アプリケーションの使用を含む、様々なアプリケーションにおける遺伝子発現の調節に有効な方法および試薬を含む。特に、本発明は低分子干渉核酸(siNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、マイクロRNA(miRNA)、および標的核酸配列に対してRNA干渉(RNAi)を仲介できる短鎖ヘアピンRNA(shRNA)分子、等の化学修飾した合成低分子核酸を含む。」
甲6c
「【0029】
1つの態様においては、本発明のsiNA分子は標的遺伝子のヌクレオチド配列またはその一部に相補的なヌクレオチド配列を含むアンチセンス領域を含む。・・・前記アンチセンス領域および前記センス領域はそれぞれ約19から約23ヌクレオチド(例、19、20、21、22、または23ヌクレオチド)を含み、前記アンチセンス領域は前記センス領域のヌクレオチドに相補的な少なくとも約19のヌクレオチドを含む。」
甲6d
「【0313】
図20は、本発明の異なるsiNA構造の限定を目的としない例を示す。・・・構造1および2をRNAi作用に対して個別に使用することができる。構造2は生分解性リンカーとして任意で指定できるポリヌクレオチドまたは非ヌクレオチドリンカーを含むことができる。1つの態様においては、構造2に示されるループ構造は生分解性リンカーを含むことができ、その結果としてインビボおよび/またはインビトロで構造1を形成する。」
甲6e
「図20
[図:0001396285000003.jpg]
甲6f
「図112
[図:0001396285000004.jpg]
」
イ.甲6に記載された発明
甲6の【0313】(甲6d)及び図20(甲6e)の構造2には、以下の発明(「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
「ポリヌクレオチドまたは非ヌクレオチドリンカーを含む生分解性リンカーで結合されたアンチセンス鎖とセンス鎖からなるsiNA」
(2)本件発明1と甲6発明の対比
本件発明1(第2)と甲6発明(第5の3(1)イ)を対比する。
甲6発明の「アンチセンス鎖」は、本件発明1の「ヌクレオチド配列X」を有する「第一オリゴヌクレオチド」とは、「アンチセンス配列」を含む「ヌクレオチド」であり、甲6発明の「センス鎖」とハイブリダイズが可能である限りにおいて一致する。
甲6発明の「センス鎖」は、本件発明1の「ヌクレオチド配列Y」を有する「第二オリゴヌクレオチド」とは、「ヌクレオチド」であり、甲6発明の「アンチセンス鎖」とハイブリダイズが可能である限りにおいて一致する。
甲6発明の「ポリヌクレオチドまたは非ヌクレオチドリンカーを含む生分解性リンカー」は、「アンチセンス鎖」と「センス鎖」を結合するものであるから、本件発明1の「生理的条件で分解される第三オリゴヌクレオチドに由来する基」であり、「その両端で前記第一オリゴヌクレオチド及び第二オリゴヌクレオチドとそれぞれ共有結合」する「L」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲6発明は、
「式
X-L-Y
(式中、Xは、ヌクレオチドからなる第一オリゴヌクレオチドに由来する基であり、
Yは、ヌクレオチドからなる第二オリゴヌクレオチドに由来する基であり、
Lは、その両端で前記第一オリゴヌクレオチド及び第二オリゴヌクレオチドとそれぞれ共有結合し、生理的条件で分解される第三オリゴヌクレオチドに由来する基であり、
前記第一オリゴヌクレオチドはヌクレオチド配列Xを有し、前記第二オリゴヌクレオチドはヌクレオチド配列Yを有し、
前記ヌクレオチド配列Xは、第二オリゴヌクレオチドの少なくとも一部とのハイブリダイズを可能とする第一ヌクレオチド配列を含み、
前記ヌクレオチド配列Yは第一オリゴヌクレオチドの少なくとも一部とのハイブリダイズを可能とする第二ヌクレオチド配列を含み、
前記ヌクレオチド配列Xがアンチセンス配列を含む。)
で表され、XとYとが第一ヌクレオチド配列部分と第二ヌクレオチド配列部分とでハイブリダイズする一本鎖オリゴヌクレオチド。」
で一致し、少なくとも、以下の点で相違している。
<相違点2>
本件発明1では、ヌクレオチド配列Xが、少なくとも1個の糖部修飾ヌクレオチドを含むとともに、RNaseHによって認識される少なくとも4個の連続するヌクレオチドを含む第一ヌクレオチド配列を含むのに対して、
甲6発明では、アンチセンス鎖と記載されるだけで、糖部修飾ヌクレオチドやRNaseHによって認識される少なくとも4個の連続するヌクレオチドを含むことが特定されていない点
(3)相違点2の検討
甲6には、図20(甲6e)の構造2のアンチセンス鎖において、糖部修飾ヌクレオチドを含ませることやRNaseHによって認識される少なくとも4個の連続するヌクレオチドを含ませることの記載や示唆はなく、構造2のsiNAを、甲3に記載されるようなRNA転写産物レベルを抑制するアンチセンス核酸に使用することについても記載されていない。
また、甲3には、第2核酸鎖にアニールした第1核酸鎖を含む二本鎖核酸剤に関する発明が記載され(請求の範囲1)、その[0060]には、「第1相補領域は、2、3、4または5個以上の連続する天然RNAヌクレオチドを有していてよく、この副配列は、RNアーゼHによって好適なヘテロ二本鎖構造に切断することができる。」と記載されているが、甲6の構造2として記載されるsiNAは、甲3に記載されるRNA転写産物レベルを抑制する二本鎖核酸剤とは構造等が異なるものであるから、甲3の[0060]の記載が、甲6発明のアンチセンス鎖に、RNaseHによって認識される少なくとも4個の連続するヌクレオチドを含ませることを当業者に動機付けるものとは認められない。
更に、申立人が下位の請求項に係る発明の進歩性を否定するために提出した甲2及び甲4~5を参照しても、甲6発明のアンチセンス鎖に、RNaseHによって認識される少なくとも4個の連続するヌクレオチドを含ませることを動機付ける記載は何ら見当たらない。
そうすると、相違点2として挙げた本件発明1の発明特定事項は、甲6、甲3、甲2及び甲4~5の記載事項を参酌しても、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。
したがって、本件発明1は、甲6発明、すなわち、甲6に記載された発明に甲6、甲3、甲2及び甲4~5の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明2~3、13~14、16、18~19、21、23~24、30及び34の進歩性の検討
本件発明2~3、13~14、16、18~19、21、23~24、30及び34は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、上記の発明は、甲6に記載された発明に甲6、甲3、甲2及び甲4~5の記載事項を組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)取消理由通知書で採用しなかった申立理由の検討のまとめ
以上のとおり、本件発明2~3、13~14、16、18~19、21、23~24、30及び34に係る特許は、申立書に記載した申立理由3により取り消すことはできない。
第6 むすび
本件特許の請求項1~37に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によって、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~37に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700582