特許異議申立
2022-700521
吸水性樹脂架橋剤組成物
- 審判番号
- 2022-700521
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-120017
- 登録番号
- 6979487
- 請求日
- 2022年06月15日
- 審決日
- 2024年03月07日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】長瀬産業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
- 【権利者】ナガセケムテックス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
- 【異議申立人】椎名 一男
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 藤原 浩子
- 審判官 藤井 勲
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第4号、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6979487号発明「吸水性樹脂架橋剤組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6979487号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第6979487号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6979487号(以下「本件特許」という。)に係る特願2020-120017号は、令和2年7月13日に出願され、令和3年11月17日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年12月15日に特許掲載公報が発行され、その後、令和4年6月15日に特許異議申立人椎名一男(以下「申立人」という。)により、請求項1~6に係る本件特許について特許異議の申立てがされたものである。その後の主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和4年10月20日付け 取消理由通知
令和5年 1月12日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 3月10日 意見書の提出(申立人)
同年 5月11日付け 訂正拒絶理由通知
同年 6月 8日 手続補正書及び意見書の提出(特許権者)
同年 6月29日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 9月 4日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 9月14日 応対記録
同年10月13日 上申書の提出(特許権者)
同年11月30日 意見書の提出(申立人)
なお、令和5年6月8日提出の手続補正書により補正された同年1月12日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年9月4日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、一群の請求項である請求項1~6について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである(なお、訂正事項の番号は、訂正請求書に記載されたものに従った。下線部は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項3~6(請求項1についての訂正)
ア 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に
「水と、水よりも沸点が高い親水性溶媒との混合溶媒」
と記載されているのを、
「水と、沸点が水よりも高くかつ250℃以下である親水性溶媒との混合溶媒」
に訂正する。
イ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「前記混合溶媒の含有量は80~99.99重量%であり、」と追記する。
ウ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に「前記水溶率が、25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率である、」と追記する。
エ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1において
「前記架橋剤は、コハク酸グリシジルエステル、アジピン酸グリシジルエステル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、および、グリシドールからなる群より選択される1種」
と記載されているのを、
「前記架橋剤は、コハク酸グリシジルエステル、アジピン酸グリシジルエステル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、および、ジグリセロールポリグリシジルエーテルからなる群より選択される1種」
に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2、5及び6も同様に訂正する。)
(2)訂正事項8(請求項2についての訂正)
特許請求の範囲の請求項2に
「架橋剤の水溶率が20~95%である」
と記載されているのを、
「前記架橋剤は、ナガセケムテックス社製GSR-105、ナガセケムテックス社製EX-614B、ナガセケムテックス社製EX-421、および、ナガセケムテックス社製EX-321からなる群より選択される1種である」
に訂正する。
(請求項2を引用する請求項5及び6も同様に訂正する。)
(3)訂正事項1(請求項3についての訂正)
特許請求の範囲の請求項3に
「架橋剤がエステル結合を含む、請求項1又は2に記載の吸水性樹脂架橋剤組成物。」
と記載されているのを、
「ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂との反応性を有し、水溶率が95%以下である架橋剤、及び、 水と、沸点が水よりも高くかつ250℃以下である親水性溶媒との混合溶媒
を含み、
前記架橋剤は、コハク酸グリシジルエステル、またはアジピン酸グリシジルエステルであり、
前記親水性溶媒は多価アルコール類またはアルキレングリコールアルキルエーテル類であり、
前記混合溶媒中の親水性溶媒の含有量が5~60重量%であり、
前記架橋剤の含有量は0.01 ~20重量%であり、
前記混合溶媒の含有量は80~99.99重量%であり、
前記水溶率が、25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率である、
吸水性樹脂架橋剤組成物(ただし、含水率が40重量%以上の吸水性樹脂用の架橋剤組成物を除く)。」
に訂正する。
(請求項3を引用する請求項5及び6も同様に訂正する。)
(4)訂正事項2及び7(請求項4についての訂正)
特許請求の範囲の請求項4に
「親水性溶媒がプロピレングリコールである、請求項1~3のいずれかに記載の吸水性樹脂架橋剤組成物。」
と記載されているのを、
「ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂との反応性を有し、水溶率が95%以下である架橋剤、及び、
水と、プロピレングリコールとの混合溶媒を含み、
前記架橋剤は、コハク酸グリシジルエステル、アジピン酸グリシジルエステル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、および、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルからなる群より選択される1種であり、
前記混合溶媒中のプロピレングリコールの含有量が5~60重董%であり、
前記架橋剤の含有量は0.01~20重量%であり、
前記混合溶媒の含有量は80~99.99重量%であり、
前記水溶率が、25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率である、
吸水性樹脂架橋剤組成物(ただし、含水率が40重量%以上の吸水性樹脂用の架橋剤組成物を除く)。」
に訂正する。
(請求項4を引用する請求項5及び6も同様に訂正する。)
なお、訂正請求書に記載された訂正事項2は、訂正事項7を包含している。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項3~6について(請求項1についての訂正)
訂正事項3は、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)【0029】の「親水性溶媒の沸点は、…250℃以下がより好ましく」との記載に基づいて、訂正前の請求項1における「水よりも沸点が高い親水性溶媒」を、「沸点が水よりも高くかつ250℃以下である親水性溶媒」に限定するものである。
訂正事項4は、本件明細書【0031】の「吸水性樹脂架橋剤全体に対する混合溶媒の含有量は、80~99.99重量%が好ましく」との記載に基づいて、訂正前の請求項1の「吸水性樹脂架橋剤組成物」における「混合溶媒」の含有量を「80~99.99重量%」に限定するものである。
訂正事項5は、本件明細書【0026】の「架橋剤の水溶率とは、25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率をいう。」との記載に基づいて、訂正前の請求項1の「水溶率」が、「25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率である」ことを明確にするものである。
訂正事項6は、訂正前の請求項1における架橋剤の9つの選択肢から、「ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル」「ジグリセロールポリグリシジルエーテル」「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル」「ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル」「グリシドール」という5つの選択肢を削除して、架橋剤を限定するものである。
したがって、請求項1についての訂正事項3~6は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、また、新規事項を追加するものでもない。
(2)訂正事項8について(請求項2についての訂正)
訂正事項8は、訂正前の請求項2の「水溶率が20~95%」である「架橋剤」を、実施例において使用された「ナガセケムテックス社製GSR-105、ナガセケムテックス社製EX-614B、ナガセケムテックス社製EX-421、および、ナガセケムテックス社製EX-321からなる群より選択される1種である」に限定するものである。
したがって、請求項2についての訂正事項8は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、また、新規事項を追加するものでもない。
(3)訂正事項1について(請求項3についての訂正)
訂正事項1は、訂正前の請求項3において引用していた「請求項1又は2」のうち、請求項1を引用するものについて、請求項1を引用しない独立請求項へ訂正するものである。
また、本件明細書【0029】の記載に基づいて、訂正前の請求項3の「水よりも沸点が高い親水性溶媒」を「沸点が水よりも高くかつ250℃以下である親水性溶媒」に限定するものである。
さらに、訂正前の請求項3の架橋剤である「コハク酸グリシジルエステル、アジピン酸グリシジルエステル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、および、グリシドールからなる群より選択される1種」から、選択肢を削除して、「コハク酸グリシジルエステル、またはアジピン酸グリシジルエステル」に限定するものである。
次いで、本件明細書【0031】の記載に基づいて、訂正前の請求項3の混合溶媒の含有量を「80~99.99重量%」に限定するものである。
そして、本件明細書【0026】の記載に基づいて、訂正前の請求項3の水溶率が「25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率である」ことを明確にするものである。
したがって、請求項3についての訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明及び引用関係の解消を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、また、新規事項を追加するものでもない。
(4)訂正事項2及び7について(請求項4についての訂正)
訂正事項2は、訂正前の請求項4において引用していた「請求項1~3」のうち、請求項1を引用するものについて、請求項1を引用しない独立請求項へ訂正するものである。
また、訂正事項2及び7は、訂正前の請求項4の架橋剤である「コハク酸グリシジルエステル、アジピン酸グリシジルエステル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、および、グリシドールからなる群より選択される1種」から、「グリシドール」を削除して、「コハク酸グリシジルエステル、アジピン酸グリシジルエステル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、および、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルからなる群より選択される1種」に限定するものである。
次いで、訂正事項2は、本件明細書【0031】の記載に基づいて、訂正前の請求項4の混合溶媒の含有量を「80~99.99重量%」に限定するものである。
そして、訂正事項2は、本件明細書【0026】の記載に基づいて、訂正前の請求項4の水溶率が「25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率である」ことを明確にするものである。
したがって、請求項4についての訂正事項2及び7は、特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明及び引用関係の解消を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、また、新規事項を追加するものでもない。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正が認められることから、本件特許の請求項1~6に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂との反応性を有し、水溶率が95%以下である架橋剤、
及び、
水と、沸点が水よりも高くかつ250℃以下である親水性溶媒との混合溶媒
を含み、
前記架橋剤は、コハク酸グリシジルエステル、アジピン酸グリシジルエステル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、および、ジグリセロールポリグリシジルエーテルからなる群より選択される1種であり、
前記親水性溶媒は多価アルコール類またはアルキレングリコールアルキルエーテル類であり、
前記混合溶媒中の親水性溶媒の含有量が5~60重量%であり、
前記架橋剤の含有量は0.01~20重量%であり、
前記混合溶媒の含有量は80~99.99重量%であり、
前記水溶率が、25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率である、
吸水性樹脂架橋剤組成物(ただし、含水率が40重量%以上の吸水性樹脂用の架橋剤組成物を除く)。
【請求項2】
前記架橋剤は、ナガセケムテックス社製GSR-105、ナガセケムテックス社製EX-614B、ナガセケムテックス社製EX-421、および、ナガセケムテックス社製EX-321からなる群より選択される1種である、
請求項1に記載の吸水性樹脂架橋剤組成物。
【請求項3】
ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂との反応性を有し、水溶率が95%以下である架橋剤、
及び、
水と、沸点が水よりも高くかつ250℃以下である親水性溶媒との混合溶媒
を含み、
前記架橋剤は、コハク酸グリシジルエステル、またはアジピン酸グリシジルエステルであり、
前記親水性溶媒は多価アルコール類またはアルキレングリコールアルキルエーテル類であり、
前記混合溶媒中の親水性溶媒の含有量が5~60重量%であり、
前記架橋剤の含有量は0.01~20重量%であり、
前記混合溶媒の含有量は80~99.99重量%であり
前記水溶率が、25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率である、
吸水性樹脂架橋剤組成物(ただし、含水率が40重量%以上の吸水性樹脂用の架橋剤組成物を除く)。
【請求項4】
ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂との反応性を有し、水溶率が95%以下である架橋剤、
及び、
水と、プロピレングリコールとの混合溶媒
を含み、
前記架橋剤は、コハク酸グリシジルエステル、アジピン酸グリシジルエステル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、および、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルからなる群より選択される1種であり、
前記混合溶媒中のプロピレングリコールの含有量が5~60重量%であり、
前記架橋剤の含有量は0.01~20重量%であり、
前記混合溶媒の含有量は80~99.99重量%であり、
前記水溶率が、25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率である、
吸水性樹脂架橋剤組成物(ただし、含水率が40重量%以上の吸水性樹脂用の架橋剤組成物を除く)。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の吸水性樹脂架橋剤組成物で表面架橋されたポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂を含む吸水剤。
【請求項6】
生理食塩水のCRC(遠心分離機保持容量)が5~50g/gである、請求項5に記載の吸水剤。」
第4 特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として甲第1号証~甲第9号証(以下「甲1」などという。後記3を参照。)を提出し、特許異議申立書において、概要、以下の申立理由を主張する。
なお、甲1~甲9は、いずれも、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である。
(1)申立理由1(新規性:特許法第113条第2号)
請求項1、2、4~6に係る発明は、甲1、甲2、甲3又は甲4に記載された発明であり、また、請求項1、2、5に係る発明は、甲5に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、それらの特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(進歩性:特許法第113条第2号)
請求項1、2、4~6に係る発明は、甲1、甲2、甲3又は甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項1~6に係る発明は、甲1、甲2、甲3又は甲4に記載された発明、及び、甲5、甲6、甲7の1、甲8、甲9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
請求項1、2、5、6に係る発明は、甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項1~6に係る発明は、甲5に記載された発明、及び、甲6、甲7の1、甲8に記載された事項に基づいて、業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(サポート要件:特許法第113条第4号)
請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)申立理由4(明確性要件:特許法第113条第4号)
請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(5)申立理由5(実施可能要件:特許法第113条第4号)
請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由の概要
請求項1~6に係る特許に対して、当審が令和5年6月29日付けの取消理由通知書(決定の予告)において通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由C(明確性要件:特許法第113条第4号)
請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)取消理由E(実施可能要件:特許法第113条第4号)
請求項4~6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 証拠方法
甲1:特開平10-244151号公報
甲2:特開平9-67522号公報
甲3の1:特表平10-500712号公報
甲3の2:特表平10-500712号補正公報
甲4:特表2013-522431号公報
甲5:特開平2-153903号公報
甲6:特許第2960495号公報
甲7の1:「DENACOL(R) デナコール(R) エポキシ化合物」のカタログ,ナガセ化成工業株式会社
甲7の2:「沿革 会社情報 ナガセケムテックス株式会社」
(https://www.nagasechemtex.co.jp/company/history.html)
甲8:特表2002-538275号公報
甲9:改訂3版 化学便覧 基礎編I,社団法人 日本化学会,p.I-564~I-565,昭和59年
なお、以下においては、甲3の1と甲3の2を併せて、甲3という。
乙1:実験成績証明書,令和5年1月1 1日作成,ナガセケムテックス株式会社 細見哲也氏
乙2:日本接着学会誌,2017,Vol.53,No.11,p.385~390
乙3:特開2001-39960号公報
乙4:米国特許第4273921号公報
乙5:「DENACOL(R) デナコール(R) エポキシ化合物」のカタログ,p.1~3,13,33,ナガセケムテックス株式会社発行
乙5の2:「DENACOL(R) デナコール(R) エポキシ化合物」のカタログ,p.3,ナガセ化成工業株式会社発行
乙6:DENACOL製品紹介,2023年8月7日検索
(https://denacol.com/product/)
乙7:四日市合成株式会社 エポキシ樹脂希釈剤,2023年8月29日検索
(https://yg-chem.co.jp/product/dilution/)
乙8の1:四日市合成株式会社 エポゴーセー(R)PG400,2023年8月29日検索
(https://yg-chem.co.jp/files/product/dilution/files20230206150232.pdf)
乙8の2:四日市合成株式会社 エポゴーセー(R)PT,2023年8月29日検索
(https://yg-chem.co.jp/files/product/dilution/files20230206150238.pdf)
乙9:共栄社化学株式会社 エポライト,2023年8月29日検索
(http://kyoeisha.co.jp/product/kinou/epolight.php)
乙10:ソルビトールポリグリシジルエーテル,2023年8月29日検索
(https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB5934427.htm)
乙11:NITE-CHRIPの検索結果,CAS RN 68412-01-1 2-(クロロメチル)オキシランとD―グリシトールの反応生成物,2023年8月29日検索
乙12:ジグリセロールポリグリシジルエーテル,2023年8月29日検索
(https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB01452303.htm)
乙13:NITE-CHRIPの検索結果,CAS RN 68134-62-3,2-(クロロメチル)オキシラン・3,3’―オキシビス(プロパン-1,2-ジオール)重合物,2023年8月29日検索
乙14:トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル,2023年8月29日検索
(https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB8259840.htm)
乙15:NITE-CHRIPの検索結果, CAS RN 30299-70-8,2-(クロロメチル)オキシラン・2,エチル-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール重合物,2023年8月29日検索
上記乙1~15は、特許権者が提出した乙第1号証~乙第15号証である。なお、上記において「(R)」は丸の中にRである。
第5 当審の判断
1 取消理由C(明確性)及び申立理由4(明確性)について
(1)取消理由Cについて
ア 取消理由Cは、概要、次の(i)及び(ii)の点において、請求項1~6における「水溶率」の技術的意味が明確ではないから、請求項1~6に係る発明は明確ではない、というものである。
(i)請求項1、4には、水溶率が100%であると認められる「グリシドール」が、「水溶率が95%以下」である架橋剤として記載されている。
(ii)請求項1、4に記載された「ソルビトールポリグリシジルエーテル」、「トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル」「ジグリセロールポリグリシジルエーテル」、及び、請求項4に記載された「ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル」、「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル」について、本件明細書の実施例に記載されたそれらの製品の水溶率と、当該製品のカタログ(甲7の1)に記載された水溶率とが異なる。
イ 判断
(ア)(i)の点について
本件訂正により、請求項1、4から「グリシドール」が削除されたので、取消理由Cの(i)に基づく理由は解消した。
(イ)(ii)の点について
取消理由Cにおいて指摘した、「ソルビトールポリグリシジルエーテル」、「トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル」、「ジグリセロールポリグリシジルエーテル」、「ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル」、「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル」は、いずれも、多価アルコールに、エピクロロヒドリンを反応させてハロヒドリン基を導入し、さらに強アルカリを反応させてハロヒドリン基を閉環してエポキシ基に変換する方法によって合成されるものであり、目的に応じて、多価アルコールの一部の水酸基のみにエポキシ基が導入されることがあり、その製造条件に応じて、エピクロロヒドリンに由来する塩素含有量が変動することもあるところ、エポキシ基の導入割合及び塩素含有量は、水溶率の測定値に影響するものであることは、本件出願日当時の技術常識である(乙3:【0017】【0019】、乙4:請求項1~5、1欄54~65行、4欄15~20行、7~8欄のTable1とEXAMPLE1等)。
また、ソルビトールポリグリシジルエーテルなどの上記化合物について、異なる水溶率のものが市販されている(乙2:387頁左欄10行~右欄6行)。
そして、本件明細書【0057】の実施例において使用された「EX-614B」、「EX-421」、「EX-321」について、2001年頃にナガセケムテック社より公開されたカタログ(乙5)には、以下のように、本件明細書に記載されたものと同一の水溶率が記載されている。
したがって、2000年の社名変更時期より前に公開されたものとみなされるカタログ(甲7の1)に記載された数値が、本件明細書に記載された数値と異なっていたことをもって、請求項1~6における「水溶率」の技術的意味が不明確となるものではない。
「EX-614B」(ソルビトールポリグリシジルエーテル)の水溶率
本件明細書 :94%
甲7の1(p.2-3):90%
乙5(p.7) :94%
「EX-421」(ジグリセロールポリグリシジルエーテル)の水溶率
本件明細書 :88%
甲7の1(p.2-3):81%
乙5(p.4) :88%
「EX-321」(トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル)の水溶率
本件明細書 :27%
甲7の1(p.4-5) :20%
乙5(p.4) :27%
(ウ)そして、独立請求項である請求項1、3、4には、「水溶率が、25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率である」と記載され、「水溶率」の測定方法が明確に定義されており、その技術的意味は明確である。
(エ)申立人の主張について
申立人は、架橋剤が所定の水溶率となるようにするために、不純物である有機塩素を持つ側鎖構造(―CH2Cl)を含むような化合物が相当量含まれる場合、これらの化合物の存在については、特許請求の範囲及び本件明細書の記載からも把握することはできないから、本件発明1、3、4は明確ではない旨を主張する(令和5年11月30日提出の意見書6~8頁)。
しかしながら、上記(イ)に説示した技術常識に照らせば、ソルビトールポリグリシジルエーテルなどの本件発明における架橋剤を、エピクロロヒドリンを反応させる方法で製造すると、塩素を含有する不純物がある程度残存しており、本件明細書の実施例で使用された架橋剤の市販品にも当該不純物が含まれていることは、当業者が当然認識していた事項であるといえる。
したがって、特許請求の範囲及び本件明細書に、当該不純物の存在について記載されていないからといって、直ちに本件発明が明確でないとはいえず、申立人の上記主張は採用できない。
(オ)したがって、請求項1~6における「水溶率」は、明確であり、本件発明1~6は、明確である。
(2)申立理由4(明確性)について
申立理由4に関し、取消理由Cにおいて取り上げなかった点について、以下検討する。
ア 申立人は、測定方法や測定条件(水と架橋剤とを混合するための時間、混合のための攪拌方法など)によって、水溶率の値が異なることは技術常識であり、本件明細書の実施例とカタログ(甲7の1)とで、同じ製品の水溶率の数値が異なっているところ、本件発明1においては、本件明細書【0026】に記載の詳細な測定条件や、具体的な測定方法の記載はないから、本件発明1における「水溶率95%以下」の技術的意味が理解できず、本件発明1を明確に把握できない旨を主張する(特許異議申立書46~47頁)。
しかしながら、本件明細書の実施例とカタログ(甲7の1)とで、同じ製品の水溶率の数値が異なっているのは、上記(1)に説示したように、同じ製品名であっても、製造条件の違いにより、エポキシ基の導入割合及び塩素含有量が異なるため、水溶率の数値が異なっているのであって、水溶率の測定条件や測定方法の違いによるものではない。
また、本件発明1に記載された「25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率」との定義は、架橋剤が十分に溶解したと判断される程度の時間や攪拌程度とすることは当業者において当然の前提であるといえるから、申立人が主張するように、混合するための時間や攪拌方法などが本件明細書に記載されている必要はない。
したがって、請求項1における「水溶率95%以下」の技術的意味は明確であり、本件発明1は明確である。
イ 申立人は、請求項1における「親水性溶媒」について、親水性の程度は規定されておらず、いかなる範囲までが親水性溶媒に含まれるのか明確ではない旨を主張する(特許異議申立書49頁)。
しかしながら、当業界において、「親水性溶媒」という用語は一般的に用いられているものであり、請求項1における「親水性溶媒」は、「多価アルコール類またはアルキレングリコールアルキルエーテル類」であり「沸点が水よりも高くかつ250℃以下」と特定され、その構造と沸点により明確に特定されている。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(3)本件訂正により新たに生じた明確性違反の申立人の主張について
申立人は、本件発明2において、架橋剤が具体的な製品をその品番で表記されているところ、ナガセケムテックス株式会社(旧ナガセ化成株式会社)の発行時期の異なる甲7の1と、乙5及び乙5の2とでは、同じ品番の商品について異なる水溶率が記載されており、製造の時期などによって、本件発明2において特定された架橋剤の商品の品質が一定でないことが明らかであるから、本件発明2は、明確ではない旨を主張する(令和5年11月30日提出の意見書1~2頁)。
しかしながら、製造の時期などによって、本件発明2の商品の品番で特定された架橋剤の水溶率が若干異なっているとしても、本件発明1において特定された「水溶率が95%以下」という範囲の水溶率を有するものであることが特定されており、その水溶率の範囲は明確に特定されているから、本件発明2が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(4)小括
以上によれば、請求項1~6に係る特許を、取消理由C(明確性要件)及び申立理由4(明確性要件)によっては、取り消すことはできない、
2 取消理由E(実施可能要件)及び申立理由5(実施可能要件)について
(1)取消理由Eについて
ア 取消理由Eは、概要、カタログ(甲7の1:2~3頁「EX-512」、「EX-521」、4~5頁「EX-821」)には、「ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル」及び「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル」は、いずれも水溶率が100%であると記載されているから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参照しても、請求項4における「水溶率が95%以下である架橋剤」である「ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル」及び「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル」を、どのように入手又は製造するのかが不明であるから、請求項4に係る発明、及び請求項4を引用する請求項5、6に係る発明を製造するには、当業者に期待し得る以上の試行錯誤を要する、というものである。
イ 判断
上記1(1)イ(イ)に説示した内容を踏まえると、「ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル」及び「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル」を製造する際には、その製造条件に応じて、エポキシ基の導入割合やエピクロロヒドリンに由来する塩素含有量が変化し、それにより得られたものの水溶率は変化するものである。
そして、乙4(TABLE1 試験番号1~9)には、反応に使用するエピクロロヒドリンの量を増加させると、得られるエポキシ化合物の水溶性が低下することが記載され、乙5(13頁)には、グリセロールポリグリシジルエーテルについて、有機塩素をもつ側鎖構造(-CH2Cl)を含むピーク3及び4の強度が強いEX-314の方が、EX-313よりも水溶率が低下する傾向があることが理解できる。
そうすると、本件発明4における「水溶率が95%以下である架橋剤」である「ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル」及び「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル」を製造するに当たり、エポキシ基の導入割合やエピクロロヒドリンに由来する塩素含有量を変化させて、水溶率を95%以下のものを製造することは、当業者が過度な試行錯誤を要することなくなし得るものといえる。
したがって、本件発明4、及び、本件発明4を引用する本件発明5及び6を製造することは、当業者が過度な試行錯誤を要することなくなし得るものであり、発明の詳細な説明の記載は、本件発明4~6について実施可能要件を満たしている。
ウ 申立人の主張について
申立人は、乙4に記載された3官能のグリセリンポリグリシジルエーテル(最大3か所)よりも、2官能のポリエチレングリコールジグリシジルエーテルは、有機塩素が導入される量が最大2か所と少なく、また、乙2(表1)及び乙6(3~4頁の表)では、親水性のエーテル性酸素含有割合が最も小さく、全塩素含量が9.7%と最も多いEX-811(エチレングリコールジグリシジルエーテル)でも、水溶率は98%までしか低くなっていないから、95%以下まで水溶率を低下させた「ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル」を当業者が試行錯誤を要することなく入手又は製造することができるとはいえない旨を主張する(令和5年11月30日提出の意見書2~6頁)。
しかしながら、上記イに説示したとおり、エポキシ基の導入割合やエピクロロヒドリンに由来する塩素含有量を変化させて、水溶率を95%以下のものを製造することは、当業者が過度な試行錯誤を要することなくなし得るものといえる。
そして、申立人の上記主張は、カタログに記載された「ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル」の水溶率が98%であったことを指摘するのみであって、その水溶率を95%以下にできないことを、具体的に示すものではない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(2)申立理由5について
申立理由5は、訂正前の請求項1~6について、水溶率95%以下のポリエチレングリコールポリグリシジルエーテル又はポリグリセロールポリグリシジルエーテルをどのように入手又は製造できるのか不明であるから、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさないというものである(特許異議申立書50~51頁)。
申立理由5は、取消理由Eと同旨であるところ、本件訂正後において、ポリエチレングリコールポリグリシジルエーテル又はポリグリセロールポリグリシジルエーテルを発明特定事項とする本件発明4~6については、上記(1)に説示したものと同様に判断される。
本件発明1~3における、コハク酸グリシジルエステルなどの架橋剤についても、水溶率95%以下のものを製造又は入手することは、当業者が過度な試行錯誤を要することなくなし得るものといえる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~6について実施可能要件を満たしている。
(3)小括
以上によれば、請求項1~6に係る特許を、取消理由E(実施可能要件)及び申立理由5(実施可能要件)によっては、取り消すことはできない、
3 申立理由3(サポート要件)について
(1)申立理由3は、以下の点において、訂正前の請求項1~6に係る発明について、特許請求の範囲はサポート要件を満たしていないというものである(特許異議申立書47頁「イー1」、49頁「ウ」)。
(i)親水性溶媒については、親水性の程度は規定されておらず、いかなる範囲までが親水溶媒に含まれるのか明瞭ではなく、親水性溶媒としてプロピレングリコールの1種と、プロピレングリコールへの溶解率が100%である4種の架橋剤を用いた実施例しか記載されておらず、親水性溶媒がプロピレングリコールよりも親水性が高い又は低い場合などの、実施例で用いられた親水性溶媒と架橋剤の組合せ以外の場合であっても、発明の課題が解決できるとはいえない。
(ii)混合溶媒の含有量が99.55重量%の実施例があるのみであるから、発明の詳細な説明に記載されている混合溶媒の含有量の全ての範囲(【0031】80~99.99重量%)において、発明の課題が解決できるとはいえない。
(2)判断
ア 発明の課題
本件発明1~6の課題は、「高いFSC、CRCを維持し、吸水力を向上しつつ、同時に、AULを向上させ、逆戻り量を低減した吸水剤を製造するための架橋剤を提供すること」(【0006】)である。
イ 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、「水溶率が95%以下の架橋剤、及び、水と水よりも沸点が高い水溶性溶媒(当審注:親水性溶媒と同義)との混合溶媒からなる架橋剤組成物を使用することにより、加熱による架橋時に、水が蒸発するまでは水に溶解した成分が優先して吸水性樹脂に含浸しながら架橋が進み、表面に第一の架橋層が生成する。さらに、水が少なくなり親水性溶媒がリッチになった段階では、水不溶の成分が親水性溶媒に溶解し、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂に含浸し、第一の架橋層の内側で架橋が進み、第二の架橋層が生成する。その結果、全体として適切な深度で均一な架橋層が形成され、吸水性樹脂の内部の架橋密度が高くなり過ぎず、膨潤性が高まり、FSCが高くなる。さらに、2つの均一な架橋層により吸水性樹脂の強度が高まり、CRCとAULが向上し、逆戻り量が低下する。架橋剤の水溶率が95%を超えると内部での架橋により架橋剤が消費されて表面での架橋が不十分となり、強度を向上できない傾向がある。」(【0027】)と記載され、「水溶率が95%以下の架橋剤、及び、水と水よりも沸点が高い水溶性溶媒との混合溶媒からなる架橋剤組成物を使用すること」により、課題が解決できる機序について具体的な説明がある。
また、発明の詳細な説明には、使用できる親水性溶媒の例が記載され(【0030】)、混合溶媒中の親水性溶媒の含有量は5~60重量%が好ましいこと、吸水性樹脂架橋剤組成物全体に対する、混合溶媒の含有量は80~99.99重量%、架橋剤の含有量は0.01~20重量%が好ましいことが記載されている(【0031】【0028】)。
そうすると、混合溶媒中の親水性溶媒の含有量を5~60重量%、吸水性樹脂架橋剤組成物全体に対する架橋剤の含有量を0.01~20重量%とすれば、実施例において使用された、水溶率が95%以下の4つの架橋剤とプロピレングリコールとの組合せ以外においても、上記の機序のとおり、「水と水よりも沸点が高くかつ250℃以下である水溶性溶媒との混合溶媒」を含む系においては、水溶率が95%以下の架橋剤は、水が蒸発する前後で、吸水性樹脂における含浸・架橋の程度が調節され、水溶率が100%の架橋剤を用いる場合と比べ全体として均一な架橋層が形成されて、上記発明の課題が解決できることを、当業者は認識できる。
したがって、特許請求の範囲の記載は、本件発明1~6についてサポート要件を満たしている。
(3)申立人の主張について
当業界において、「親水性溶媒」という用語は一般的に用いられているものであり、請求項1における「親水性溶媒」は、「多価アルコール類またはアルキレングリコールアルキルエーテル類」であり「沸点が水よりも高くかつ250℃以下」と特定され、その構造と沸点により明確に特定されている。
また、上記(2)イに説示したように、発明の詳細な説明の記載によれば、水と所定の親水性溶媒との混合溶媒において、架橋剤が所定の親水性溶媒に100%溶解するものであることが上記発明の課題の解決に必須であるとは解されず、水溶率が95%以下の架橋剤を用いれば、水が蒸発する前後で、吸水性樹脂における含浸・架橋の程度が調節され、水溶率が100%の架橋剤を用いる場合と比べ全体として均一な架橋層が形成されて、上記発明の課題が解決できることを、当業者は認識できる。
さらに、発明の詳細な説明には、吸水性樹脂架橋剤組成物における架橋剤の含有量が0.01~20重量%の範囲(他の任意成分が含まれていない場合には、混合溶媒の含有量は80~99.99重量%となる。)であれば、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂に添加した際に架橋が均一となる旨が記載されていることから、実施例における混合溶媒の含有量(99.55重量%)以外の「80~99.99重量%」の範囲であれば、実施例と同様に均一に架橋ができ、上記発明の課題が解決できることを、当業者は認識できる。
そして、申立人は、実施例で用いられた親水性溶媒と架橋剤の組成と量の組合せ以外の場合において、発明の課題が解決できないことを具体的に示していない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(4)小括
以上によれば、請求項1~6に係る特許を、申立理由3(サポート要件)によっては、取り消すことはできない、
4 申立理由1及び2(新規性・進歩性)について
(1)甲1を主引例とする新規性・進歩性について
ア 甲1発明
甲1の実施例8の記載に着目すると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「含水率4.2%の吸水性樹脂粒子(A)を架橋させるための表面架橋剤溶液(c)であって、以下の組成からなる表面架橋剤溶液(c)。
エチレングリコールジグリシジルエーテル 0.4g
ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX-512。平均エポキシ官能基数約4;ナガセ化学工業(株)製)0.2g
水 25g
エチレングリコール10g
(合計量 35.6g) 」
イ 本件発明1について
(ア)対比
甲1発明における「含水率4.2%の吸水性樹脂粒子(A)を架橋させるための表面架橋剤溶液(c)」は、本件発明1の「吸水性樹脂架橋剤組成物(ただし、含水率が40重量%以上の吸水性樹脂用の架橋剤組成物を除く)。」に相当する。
甲1発明の「エチレングリコール」は、沸点が約197℃である親水性溶媒であり(化学大辞典 第1版、株式会社東京化学同人発行、1989年、267頁「エチレングリコール」の項)、本件発明1の「多価アルコール類」である「沸点が水よりも高くかつ250℃以下である親水性溶媒」に相当する。
甲1発明の「エチレングリコールジグリシジルエーテル」と「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル」とは、いずれも、本件発明1の「ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂との反応性を有」する「架橋剤」に相当する。
甲1発明における水とエチレングリコールの合計の含有量は、表面架橋剤溶液(c)に対して98.3重量%(35÷35.6×100)、エチレングリコールの含有量は、水とエチレングリコールの合計の含有量に対して28.6重量%(10÷35×100)、エチレングリコールジグリシジルエーテルとポリグリセロールポリグリシジルエーテルとの合計含有量は、表面架橋剤溶液(c)に対して1.7重量%((0.4+0.2)÷35.6×100)であるから、甲1発明は、本件発明1の「混合溶媒の含有量」、「混合溶媒中の親水性溶媒の含有量」、「架橋剤の含有量」を、それぞれ満たす。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂との反応性を有する架橋剤、
及び、
水と、沸点が水よりも高くかつ250℃以下である親水性溶媒との混合溶媒
を含み、
前記親水性溶媒は多価アルコール類またはアルキレングリコールアルキルエーテル類であり、
前記混合溶媒中の親水性溶媒の含有量が5~60重量%であり、
前記架橋剤の含有量は0.01~20重量%であり、
前記混合溶媒の含有量は80~99.99重量%であり、
吸水性樹脂架橋剤組成物(ただし、含水率が40重量%以上の吸水性樹脂用の架橋剤組成物を除く)。」
<相違点1>
架橋剤が、本件発明1においては、「25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率である」「水溶率が95%以下」であり、「コハク酸グリシジルエステル、アジピン酸グリシジルエステル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、および、ジグリセロールポリグリシジルエーテルからなる群より選択される1種」であると特定されているのに対し、甲1発明においては、エチレングリコールジグリシジルエーテル及びポリグリセロールポリグリシジルエーテルの2種であり、その水溶率について特定されていない点。
(イ)判断
甲1発明の「エチレングリコールジグリシジルエーテル」は、本件発明1の架橋剤の選択肢には含まれておらず、また、本件明細書には、エチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、EX-810)は水溶率100%と記載されていることから(【0057】)、その水溶率が95%以下であるともいえない。
甲1発明の「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX-512。平均エポキシ官能基数約4;ナガセ化成工業(株)製)」について、甲1には、グリセロール単位の数と水溶率については記載されておらず、また、ナガセ化成工業株式会社のカタログ(甲7の1)には、「デナコールEX-512」は、グリセロール単位が約4であり、水溶率は100%(室温にて水90部にデナコール10部を溶解したときの溶解率)と記載されていることから、甲1発明の「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル」は、本件発明1の「ジグリセロールポリグリシジルエーテル」ではないし、また、水溶率が95%以下のものでもない。
したがって、相違点1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。
また、甲1には、架橋剤の水溶率について記載も示唆もないから、甲1発明において、架橋剤の水溶率を95%以下としたものを用いる動機付けがあるとはいえない。
甲1以外の他のいずれの甲号証の記載を考慮しても、上記の動機付けがあるとはいえない。
そして、本件発明1は、水溶率100%のエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、EX-810)を用いた場合に比べ、大きな荷重が加わった状態においても高い吸水能力を発現するという効果を奏する。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件発明2~6について
(ア)本件発明3について
上記イ(ア)の対比を踏まえると、本件発明3と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
上記イ(ア)で示したものと同じである。
<相違点1’>
架橋剤が、本件発明3においては、「25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率である」「水溶率が95%以下」であり、「コハク酸グリシジルエステル、またはアジピン酸グリシジルエステル」であると特定されているのに対し、甲1発明においては、エチレングリコールジグリシジルエーテル及びポリグリセロールポリグリシジルエーテルの2種であり、その水溶率について特定されていない点。
甲1には、架橋剤として、コハク酸グリシジルエステル、アジピン酸グリシジルエステルは例示されておらず、また、架橋剤の水溶率について記載も示唆もない。
そうすると、甲1発明に基づいて、相違点1’に係る架橋剤を用いる動機付けがあるとはいえないし、他のいずれの甲号証の記載を考慮しても同様である。
(イ)本件発明4について
甲1発明の「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX-512。平均エポキシ官能基数約4;ナガセ化成工業(株)製)」は、本件発明4の「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル」に相当する。
そして、上記イ(ア)の対比を踏まえると、架橋剤がポリグリセロールポリグリシジルエーテルである本件発明4と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂との反応性を有する架橋剤、
及び、
水と、沸点が水よりも高くかつ250℃以下である親水性溶媒との混合溶媒
を含み、
前記架橋剤は、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルを含み、
前記混合溶媒中の親水性溶媒の含有量が5~60重量%であり、
前記架橋剤の含有量は0.01~20重量%であり、
前記混合溶媒の含有量は80~99.99重量%であり、
吸水性樹脂架橋剤組成物(ただし、含水率が40重量%以上の吸水性樹脂用の架橋剤組成物を除く)。」
<相違点1’’>
架橋剤が、本件発明4においては、「25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率である」「水溶率が95%以下」であり、「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル」である「1種」であると特定されているのに対し、甲1発明においては、エチレングリコールジグリシジルエーテル及びポリグリセロールポリグリシジルエーテルの2種であり、その水溶率について特定されていない点。
<相違点1’’’>
親水性溶媒が、本件発明4においては、「プロピレングリコール」と特定されているのに対し、甲1発明においては、「エチレングリコール」と特定されている点。
上記イ(イ)に説示したことを踏まえて、相違点1’’について検討すると、相違点1’’は、実質的な相違点であるから、本件発明4は、甲1に記載された発明ではない。
また、甲1には、架橋剤の水溶率について記載も示唆もないから、甲1発明において、「エチレングリコールジグリシジルエーテル」と「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX-512。平均エポキシ官能基数約4;ナガセ工業(株)製)」のうち、後者のみを用い、更に、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルの製造条件を調節するなどして、その水溶率を95%以下とする動機付けがあるとはいえないし、他のいずれの甲号証の記載を考慮しても同様である。
(ウ)本件発明2、5、6について
本件発明1、3又は4を引用する本件発明2、5、6についても、甲1発明とは、相違点1、相違点1’又は相違点1’’において少なくとも相違し、上記イ、ウ(ア)及び(イ)のとおり、それらの相違点の構成を有するものとする動機付けがあるとはいえない。
(エ)したがって、本件発明2、4~6は、甲1に記載された発明ではなく、また、本件発明2~6は、甲1に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)甲2を主引例とする新規性・進歩性について
ア 甲2発明
甲2の実施例1及び2の記載に着目すると、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「含水率2.2%の吸水性樹脂粒子(a)を架橋させるための表面架橋剤溶液であって、以下の組成からなる、表面架橋剤溶液。
ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX-512。平均グリシジル官能基数4;ナガセ化成工業(株)製、又は、デナコールEX-521。平均グリシジル官能基数5~6;ナガセ化成工業(株)製)(架橋剤)0.6g
アジピン酸(架橋反応促進剤)0.12g
水 25g
ジエチレングリコール 10g
(合計量 35.72g) 」
イ 本件発明1について
(ア)対比
上記(1)イ(ア)の対比を踏まえ、甲2発明の「ジエチレングリコール」の沸点が約246℃(化学大辞典 第1版、株式会社東京化学同人発行、1989年、930頁「ジエチレングリコール」の項)であることを考慮すると、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂との反応性を有する架橋剤、
及び、
水と、沸点が水よりも高くかつ250℃以下である親水性溶媒との混合溶媒
を含み、
前記親水性溶媒は多価アルコール類またはアルキレングリコールアルキルエーテル類であり、
前記混合溶媒中の親水性溶媒の含有量が5~60重量%であり、
前記架橋剤の含有量は0.01~20重量%であり、
前記混合溶媒の含有量は80~99.99重量%であり、
吸水性樹脂架橋剤組成物(ただし、含水率が40重量%以上の吸水性樹脂用の架橋剤組成物を除く)。」
<相違点2>
架橋剤が、本件発明1においては、「25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率である」「水溶率が95%以下」であり、「コハク酸グリシジルエステル、アジピン酸グリシジルエステル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、および、ジグリセロールポリグリシジルエーテルからなる群より選択される1種」であると特定されているのに対し、甲2発明においては、「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX-512。平均グリシジル官能基数4;ナガセ化成工業(株)製、又は、デナコールEX-521。平均グリシジル官能基数5~6;ナガセ化成工業(株)製)」1種であり、その水溶率について特定されていない点。
(イ)判断
甲2発明の「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX-512。平均グリシジル官能基数4;ナガセ化成工業(株)製、又は、デナコールEX-521。平均グリシジル官能基数5~6;ナガセ化成工業(株)製)」について、ナガセ化成工業株式会社のカタログ(甲7の1)には、「デナコールEX-512」は、グリセロール単位が約4であり、水溶率は100%(室温にて水90部にデナコール10部を溶解したときの溶解率)、「デナコールEX-521」は、グリセロール単位が約6であり、水溶率は100%と記載されているから、甲2発明の上記架橋剤は、本件発明1の「ジグリセロールポリグリシジルエーテル」ではないし、また、水溶率が95%以下のものでもない。
したがって、相違点2は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲2に記載された発明ではない。
また、甲2には、架橋剤の水溶率について記載も示唆もないから、甲2発明において、架橋剤の水溶率を95%以下とした所定の構造を有する、相違点2に係る本件発明1の架橋剤を用いる動機付けがあるとはいえない。他の甲号証の記載を考慮しても同様である。
そして、本件発明1は、水溶率100%のエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、EX-810)を用いた場合に比べ、大きな荷重が加わった状態においても高い吸水能力を発現するという効果を奏する。
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件発明2~6について
本件発明2~6についても、相違点2と同様に、水溶率95%以下の架橋剤を用いる点で、甲2発明とは、少なくとも相違する。
したがって、上記イ(イ)に説示したものと同様の理由により、本件発明2、4~6は、甲2に記載された発明ではなく、また、本件発明2~6は、甲2に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)甲3を主引例とする新規性・進歩性について
ア 甲3発明
甲3の例19には、「プロピレングリコール、水、架橋剤であるジエチレングリコールジグリシジルエーテル(MW224)を含む架橋剤溶液」が記載され、当該架橋剤溶液と、超吸水性ベースポリマーの粉末(例3)を含む組成物全体に対して、架橋剤であるジエチレングリコールジグリシジルエーテル(MW224)の含有量は0.33%、架橋剤溶液の含有量は3.95%であると記載され、当該架橋剤溶液は、超吸水性ポリマーを架橋するためのものである(特許請求の範囲、15頁下から7~2行等)。
計算すると、架橋剤溶液における架橋剤であるジエチレングリコールジグリシジルエーテル(MW224)の含有量は約8.4%(0.33÷3.95×100)、水とプロピレングリコールの合計含有量は約91.6%(100―8.4)となる。
そうすると、甲3の例19の記載に着目すると、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「プロピレングリコール、水、架橋剤であるジエチレングリコールジグリシジルエーテル(MW224)を含む架橋剤溶液であって、
架橋剤であるジエチレングリコールジグリシジルエーテル(MW224)の含有量は約8.4%、
水とプロピレングリコールの合計含有量は約91.6%である、
超吸水性ポリマーを架橋するための架橋剤溶液。」
イ 本件発明1について
(ア)対比
甲3発明の「プロピレングリコール」の沸点は、約187℃(甲9)であるから、上記(1)における対比を踏まえると、本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂との反応性を有する架橋剤、
及び、
水と、沸点が水よりも高くかつ250℃以下である親水性溶媒との混合溶媒
を含み、
前記親水性溶媒は多価アルコール類またはアルキレングリコールアルキルエーテル類であり、
前記架橋剤の含有量は0.01~20重量%であり、
前記混合溶媒の含有量は80~99.99重量%であり、
吸水性樹脂架橋剤組成物。」
<相違点3>
架橋剤が、本件発明1においては、「25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率である」「水溶率が95%以下」であり、「コハク酸グリシジルエステル、アジピン酸グリシジルエステル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、および、ジグリセロールポリグリシジルエーテルからなる群より選択される1種」であると特定されているのに対し、甲3発明においては、「ジエチレングリコールジグリシジルエーテル(MW224)」であり、その水溶率について特定されていない点。
<相違点3’>
本件発明1においては、「前記混合溶媒中の親水性溶媒の含有量が5~60重量%」と特定されているのに対し、甲3発明においては、水とプロピレングリコールの合計量に対するプロピレングリコールの含有量は特定されていない点。
<相違点3’’>
本件発明1においては、吸水性樹脂架橋剤組成物に「ただし、含水率が40重量%以上の吸水性樹脂用の架橋剤組成物を除く)」との特定がされているのに対し、甲3発明における架橋対象である超吸水性ポリマーの含水率は特定されていない点。
(イ)判断
相違点3について検討すると、相違点3は、実質的な相違点であるから、 その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明ではない。
また、甲3には、架橋剤の水溶率について記載も示唆もないし、甲3には、架橋剤の例として、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテルなどが使用できることが記載されているものの(16頁)、本件発明1の架橋剤は例示されていない。
そうすると、甲3発明において、水溶率が95%以下の所定の架橋剤である相違点3に係る本件発明1の構成を採用する動機付けがあるとはいえないし、その他の甲号証の記載を考慮しても同様である。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明及びその他の甲号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件発明2~6について
本件発明2~6についても、相違点3と同様に、水溶率95%以下の架橋剤を用いる点で、甲3発明とは、少なくとも相違する。
したがって、上記イに説示したものと同様の理由により、本件発明2、4~6は、甲3に記載された発明ではなく、また、本件発明2~6は、甲3に記載された発明及びその他の甲号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)甲4を主引例とする新規性・進歩性について
ア 甲4発明
甲4の実施例4の記載に着目すると、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。
「含水率6%の吸水性ポリマー樹脂粒子を架橋するための後架橋剤溶液であって、以下の組成からなる、後架橋剤溶液。
ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(Denacol(登録商標)EX512;Nagase ChemteX Corporation(Osaka;Japan)社製) 0.80g
プロピレングリコール 6g
脱イオン水 12g
(合計量 18.8g) 」
イ 本件発明1について
(ア)対比
プロピレングリコールの沸点が約187℃(甲9)であること、及び、上記(1)イの対比を踏まえると、本件発明1と甲4発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂との反応性を有する架橋剤、
及び、
水と、沸点が水よりも高くかつ250℃以下である親水性溶媒との混合溶媒
を含み、
前記親水性溶媒は多価アルコール類またはアルキレングリコールアルキルエーテル類であり、
前記混合溶媒中の親水性溶媒の含有量が5~60重量%であり、
前記架橋剤の含有量は0.01~20重量%であり、
前記混合溶媒の含有量は80~99.99重量%であり、
吸水性樹脂架橋剤組成物(ただし、含水率が40重量%以上の吸水性樹脂用の架橋剤組成物を除く)。」
<相違点4>
架橋剤が、本件発明1においては、「25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率である」「水溶率が95%以下」であり、「コハク酸グリシジルエステル、アジピン酸グリシジルエステル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、および、ジグリセロールポリグリシジルエーテルからなる群より選択される1種」であると特定されているのに対し、甲4発明においては、「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(Denacol(登録商標)EX512;Nagase ChemteX Corporation(Osaka;Japan)社製)」と特定されている点。
(イ)判断
甲4発明の「ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(Denacol(登録商標)EX512;Nagase ChemteX Corporation(Osaka;Japan)社製)」は、上記(2)イ(イ)に説示したとおり「ジ」グリセロールポリグリシジルエーテルではないし、水溶率が95%以下のものでもない。
したがって、相違点4は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲4に記載された発明ではない。
また、甲4には、架橋剤として、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル,ソルビトールポリグリシジルエーテル等が例示されているものの(【0119】)、「ジ」グリセロールポリグリシジルエーテルは具体的に例示されておらず、架橋剤の水溶率について記載も示唆もないから、甲4発明において、架橋剤の水溶率を95%以下とした所定の構造を有する、相違点4に係る本件発明1の架橋剤を用いる動機付けがあるとはいえない。また、他の甲号証の記載を考慮しても同様である。
したがって、本件発明1は、甲4に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件発明2~6について
本件発明2~6についても、相違点4と同様に、水溶率95%以下の架橋剤を用いる点で、甲4発明とは、少なくとも相違する。
したがって、上記イ(イ)に説示したものと同様の理由により、本件発明2、4~6は、甲4に記載された発明ではなく、また、本件発明2~6は、甲4に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(5)甲5を主引例とする進歩性について
ア 甲5発明
甲5の実施例1の記載に着目すると、甲5には、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
「含水ゲルを表面温度130℃のドラムドライアで乾燥した吸水性高分子化合物を架橋するための架橋処理液であって、以下の組成からなる架橋処理液。
エチレングリコールジグリシジルエーテル(架橋剤) 0.05重量部
ジエチレングリコールエチルエーテル(分散剤) 4部
水 20部
(合計量 24.05部)」
イ 本件発明1について
(ア)対比
甲5発明の「ジエチレングリコールエチルエーテル」は、ジエチレングリコールモノエチルエーテルであると解されるから、その沸点は約202℃(化学大辞典 第1版、株式会社東京化学同人発行、1989年、930頁「ジエチレングリコールモノエチルエーテル」の項)であり、「分散剤」として記載されてはいるものの、本件発明1の「溶媒」として特定された成分と、実質的な違いは見いだせないから、本件発明1の「沸点が水よりも高くかつ250℃以下である親水性溶媒」である「アルキレングリコールアルキルエーテル類」に相当する。
そうすると、上記(1)イ(ア)の対比を踏まえると、本件発明1と甲5発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂との反応性を有する架橋剤、
及び、
水と、沸点が水よりも高くかつ250℃以下である親水性溶媒との混合溶媒
を含み、
前記親水性溶媒は多価アルコール類またはアルキレングリコールアルキルエーテル類であり、
前記混合溶媒中の親水性溶媒の含有量が5~60重量%であり、
前記架橋剤の含有量は0.01~20重量%であり、
前記混合溶媒の含有量は80~99.99重量%であり、
吸水性樹脂架橋剤組成物。」
<相違点5>
架橋剤が、本件発明1においては、「25℃で水90重量部に、架橋剤10重量部を溶解したときの溶解率である」「水溶率が95%以下」であり、「コハク酸グリシジルエステル、アジピン酸グリシジルエステル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、および、ジグリセロールポリグリシジルエーテルからなる群より選択される1種」であると特定されているのに対し、甲5発明においては、「エチレングリコールジグリシジルエーテル」であり、その水溶率については特定されていない点。
<相違点5’>
本件発明1においては、吸水性樹脂架橋剤組成物について「ただし、含水率が40重量%以上の吸水性樹脂用の架橋剤組成物を除く」と特定されているのに対し、甲5発明においては、架橋対象である「含水ゲルを表面温度130℃のドラムドライアで乾燥した吸水性高分子化合物」の含水量は特定されていない点。
(イ)判断
相違点5について検討すると、甲5発明の「エチレングリコールジグリシジルエーテル」は、本件発明1の架橋剤の選択肢には含まれておらず、また、本件明細書には、エチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、EX-810)は水溶率100%と記載されていることから(【0057】)、その水溶率が95%以下であるともいえない。
したがって、相違点5は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲5に記載された発明ではない。
また、甲5には、架橋剤として、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなどが例示されているものの(4頁左上欄)、架橋剤の水溶率については記載も示唆もなく、上記例示された架橋剤の水溶率が95%以下となるものであるとの具体的な根拠もない。
そうすると、甲5発明において、架橋剤の水溶率を95%以下とした所定の構造を有する、相違点5に係る本件発明1の架橋剤を用いる動機付けがあるとはいえない。また、他の甲号証の記載を考慮しても同様である。
したがって、本件発明1は、甲5に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明2~6について
本件発明2~6についても、相違点5と同様に、水溶率95%以下の所定の架橋剤を用いる点で、甲5発明とは、少なくとも相違する。
したがって、上記イ(イ)に説示したものと同様の理由により、本件発明2及び5は、甲5に記載された発明ではなく、また、本件発明2~6は、甲5に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(6)小括
以上によれば、請求項1~6に係る特許は、申立理由1及び2(新規性・進歩性)によっては、取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~6に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由によっては、取り消すことはできない。
また、その他に、請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700521