特許異議申立
2024-700642
ポリオール組成物、発泡性ポリウレタン組成物及びポリウレタンフォーム
- 審判番号
- 2024-700642
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-239806
- 登録番号
- 7421336
- 請求日
- 2024年07月09日
- 審決日
- 2025年07月24日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】田口 昌浩
- 【権利者代理人】虎山 滋郎
- 【異議申立人】椎名 一男
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 藤井 勲
- 審判官 細井 龍史
- 分類
- P1651.537-YAA(C08G) / P1651.113-YAA(C08G) / P1651.121-YAA(C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7421336号発明「ポリオール組成物、発泡性ポリウレタン組成物及びポリウレタンフォーム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7421336号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-15〕について訂正することを認める。
特許第7421336号の請求項1~15に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7421336号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~15に係る特許についての出願は、令和1年12月27日を出願日とする出願(特願2019-239806号)であって、令和6年1月16日に特許権の設定登録(請求項の数15)がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和6年7月9日に、特許異議申立人である椎名 一男(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~15)がされた。
その後の本件特許異議申立事件の主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和6年10月25日付け 取消理由通知
同年12月20日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者)
令和7年 1月23日付け 手続補正指令書(方式)
同年 2月18日提出 手続補正書(方式)
同年 3月17日付け 通知書(申立人宛て)
なお、申立人に対して、令和7年3月17日付け通知書により、訂正請求があった旨の通知をしたが、何らの応答もなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正請求書を補正する手続補正について
令和7年2月18日になされた、訂正請求書を補正する手続補正は、「7.請求の理由」の「(3)訂正の理由」の欄における誤記を訂正し、「ウ 明細書の訂正と関係する請求項について説明」の項目を追加したものであり、その要旨を変更するものでないから、上記補正を認める。
2 請求の趣旨
令和6年12月20日に提出され、令和7年2月18日に提出された手続補正書により補正された訂正請求書によって特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~15について訂正することを求めるものである。
3 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は、訂正箇所であり、当審で付した。以下同様。)。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「整泡剤を実質的に含有しない」とあるのを、
「整泡剤の含有量がポリオール組成物全量基準で0.5質量%以下である」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~15も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の段落【0072】に、
「トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP) SP値10.11 沸点なし(200℃で分解)」とあるのを、
「トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP) SP値10.11」に訂正する。
(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1~15について、請求項2~15は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~15は一群の請求項である。
したがって、訂正前の請求項1~15に対応する訂正後の請求項1~15は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
4 独立特許要件について
訂正前の請求項1~15の全てについて特許異議の申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。
5 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「整泡剤を実質的に含有しない」ことについて、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0044】には、「実質的に含有しないとは、整泡剤の含有量が、ポリオール組成物全量基準で2質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0質量%であることを意味する。」と記載され、実質的に含有しないことを意味する数値範囲として、2重量%以下であることが想定されているところ、その数値範囲を明確にし、かつ、その上限を2重量%から0.5重量%に限定するものである。
そうすると、訂正事項1は、「明瞭でない記載の釈明」及び「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項1の整泡剤の含有量の上限は、上述のとおり本件明細書の段落【0044】に記載された事項であるから、本件明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
また、上記訂正事項1に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2に係る訂正は、本件訂正前の本件明細書の段落【0072】に「・トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP) SP値10.11 沸点なし(200℃で分解)」と記載されていたものを、「・トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP) SP値10.11」に訂正するものである。
イ ここで、令和6年10月25日付け取消理由通知書の取消理由1(明確性要件違反)において、請求項1の「添加剤の沸点が100℃超であ」ることは、文字通りに解釈すれば、添加剤が沸点を有し、かつ、その沸点が100℃超であることといえるところ、本件明細書の実施例では、「・トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP)」「沸点なし」と記載されており、請求項1の「添加剤」には、沸点を有さない添加剤も含むものともいえ、「添加剤の沸点が100℃超であ」ることが判然としないことを指摘した。
これに対し、特許権者は、下記乙第1号証、乙第2号証及びその抄訳文を提出し、「・トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP)」の沸点が少なくとも270℃以上であることを示すとともに、上記訂正をしたものである。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、明瞭でない記載を正すものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5号及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~15〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の特許請求の範囲の記載
本件訂正請求は認められたから、請求項1~15に係る発明(以下、順に「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリオール、発泡剤、触媒、及びSP値が11以下の添加剤を含有し、前記添加剤の沸点が100℃超であり、整泡剤の含有量がポリオール組成物全量基準で0.5質量%以下である、ポリオール組成物(但し、非シリコーン系表面調整剤を含有するものを除く。)。
【請求項2】
前記添加剤の含有量が、前記ポリオール100質量部に対して、1質量部以上、30質量部以下である、請求項1に記載のポリオール組成物。
【請求項3】
前記添加剤がリン酸エステル化合物である、請求項1又は2に記載のポリオール組成物。
【請求項4】
前記ポリオールが、芳香族ポリエステルポリオールを含む、請求項1~3のいずれかに記載のポリオール組成物。
【請求項5】
前記発泡剤がハイドロフルオロオレフィンを含む、請求項1~4のいずれかに記載のポリオール組成物。
【請求項6】
前記触媒が、ウレタン化触媒を含む、請求項1~5のいずれかに記載のポリオール組成物。
【請求項7】
前記ウレタン化触媒が、イミダゾール化合物及び/又は有機酸ビスマス塩を含む、請求項6に記載のポリオール組成物。
【請求項8】
前記ウレタン化触媒の配合量が、前記ポリオール100質量部に対して、0.1~20質量部である、請求項6又は7に記載のポリオール組成物。
【請求項9】
前記触媒が、三量化触媒を含む、請求項1~8のいずれかに記載のポリオール組成物。
【請求項10】
前記三量化触媒が、カルボン酸アルカリ金属塩及び/又はカルボン酸4級アンモニウム塩を含む、請求項9に記載のポリオール組成物。
【請求項11】
前記三量化触媒の含有量が、前記ポリオール100質量部に対して、0.1~25質量部である、請求項9又は10に記載のポリオール組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載のポリオール組成物と、ポリイソシアネートとを含有する、発泡性ポリウレタン組成物。
【請求項13】
イソシアネートインデックスが、150以上、800以下である、請求項12に記載の発泡性ポリウレタン組成物。
【請求項14】
吹付施工に用いられる、請求項12又は13に記載の発泡性ポリウレタン組成物。
【請求項15】
請求項12~14のいずれかに記載の発泡性ポリウレタン組成物からなる、ポリウレタンフォーム。」
第4 特許異議申立書の申立理由と当審が通知した取消理由
1 特許異議申立書(以下、「申立書」という。)の申立理由
(1)申立理由1(新規性欠如)
ア 本件発明1~12、14及び15は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 本件発明1、3~15は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 本件発明1~12、14及び15は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性欠如)
ア-1 本件発明13及び15は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
ア-2 本件発明14及び15は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証及び周知技術(甲第6号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 本件発明7、8、10~15は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件発明1~15に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
申立理由の概要は以下のとおり。
ア 「整泡剤を実質的に含有しない」との意義(本件明細書の段落【0044】)が、本件明細書の実施例(含有量0質量%)に対して、拡張ないし一般化できるとは言えず、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超える。請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~15も同様。
イ TMCPPは、「沸点なし(200℃で分解)」(本件特許明細書の【0072】)とされており、「沸点が100℃超」である請求項1に係る発明の添加剤に該当するとは言えず、実施例に記載の添加剤の沸点の特徴と、本件特許発明1における添加剤の沸点の特徴とが対応しているとは言えず、両者の対応関係が不明瞭。請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~15も同様。
2 証拠方法
(1)申立人による証拠方法
申立人が、申立書に添付した証拠方法は以下のとおりである。
・甲第1号証:特開2019-77815号公報
・甲第2号証:特開2019-31071号公報
・甲第3号証:「LABスプレー処方に適する整泡剤」、エボニックジャパン株式会社、2017年3月
・甲第4号証:特開2004-91604号公報
・甲第5号証:特開2019-167487号公報
・甲第6号証:「熱絶縁施工ハンドブック(吹付け硬質ウレタンファーム断熱工事作業)、平成29年10月31日改訂新版発行、一般社団法人日本ウレタン断熱協会、p.158
・甲第7号証:特開2006-213781号公報
・甲第8号証:特開2020-33461号公報
以下、甲第1号証等を、番号にしたがい「甲1」等という。
(2)特許権者による証拠方法
令和6年12月20日提出の意見書に添付した証拠方法は以下のとおりである。
・乙第1号証:安全データシート TMCPP 大八化学工業株式会社 K-002 2020/10/30
・乙第2号証:CAS Common Chemistry Tris(2-chloroisopropyl)phosphate及び抄訳文
(https://commonchemistry.cas.org/detail?cas_rn=13674-84-5)
3 取消理由通知に記載した取消理由
当審において、令和6年10月25日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
(1)取消理由1(明確性要件違反)
本件特許は、その特許請求の範囲が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
取消理由の概要は以下のとおり。
請求項1の「添加剤の沸点が100℃超であ」ることは、添加剤が沸点を有し、かつ、その沸点が100℃超であるといえるところ、本件明細書の実施例では、「・トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP)」「沸点なし」と記載されており、請求項1の「添加剤」には、沸点を有さない添加剤も含むものともいえ、「添加剤の沸点が100℃超であ」ることが判然としない。
(2)取消理由2(新規性欠如)
ア 本件特許の請求項1~12、15に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
イ 本件特許の請求項1、3~15に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
ウ 本件特許の請求項1~12、15に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(3)取消理由3(進歩性欠如)
ア 本件特許の請求項1~15に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
イ 本件特許の請求項1~15に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
ウ 本件特許の請求項1~15に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第5 当審の判断
以下に述べるように、当審において通知した取消理由、及び、特許異議申立書の申立理由によっては、本件発明1~15に係る特許を取り消すことはできない。
1 取消理由1(明確性要件違反)について
・請求項 1~15
本件発明1の「SP値が11以下の添加剤」「の沸点が100℃超であ」ることについて、本件明細書の実施例では、該「添加剤」として「TMCPP」を用いていたところ、本件明細書の「・トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP)」「沸点なし」の記載が、「・トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP)」と訂正されるとともに、該「TMCPP」の沸点が、乙1及び乙2により、少なくとも270℃であることが確認でき、本件発明1の記載が、本件明細書の記載と矛盾するものではなくなった。
したがって、取消理由1(明確性要件違反)には理由がない。
2 取消理由2(甲1を主引例とする新規性欠如)ア及び取消理由3(甲1を主引例とする進歩性欠如)ア並びに申立理由1(新規性欠如)(1)ア、申立理由2(進歩性欠如)(2)ア-1及び同ア-2について
取消理由2ア及び取消理由3ア並びに申立理由1(1)ア、申立理由2(2)ア-1及びアー2は、いずれも甲1に基づくものであるから、併せて検討する。
(1)甲1に記載された発明
甲1の実施例の表1及びその脚注を踏まえて実施例1に着目すると、次の発明が記載されている。
「ポリオール-1 フマル酸系ポリエステルポリオール 「マキシモール RFK-868」(川崎化成工業株式会社製) 50重量部
ポリオール-2 テレフタル酸系ポリエステルポリオール 「マキシモールRLK-087」(川崎化成工業株式会社製) 50重量部
発泡剤-1 HFO系発泡剤 「Solstice LBA」(ハネウェルジャパン株式会社製) 40重量部
発泡剤-2 水 1.0重量部
触媒-1 アミン系触媒 「Polycat-37」(エボニックジャパン株式会社製) 1.0重量部
触媒-2 イミダゾール系触媒 「カオーライザーNo.300」(花王株式会社製)) 1.0重量部
触媒-3 カリウム系触媒「DABCO K-15」(エボニックジャパン株式会社製) 0.2重量部
触媒-4 四級アンモニウム塩系触媒「DABCO TMR-7」(エボニックジャパン株式会社製) 1.3重量部
多価カルボン酸-1 コハク酸(川崎化成工業株式会社製)0.9重量部
整泡剤 シリコン系整泡剤 「SH-193」(東レ・ダウ・コーニング・シリコーン株式会社製) 2.0重量部
難燃剤 リン系難燃剤「TMCPP」(大八化学株式会社製)10重量部
を配合処方にて調製したプレミックス液。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「ポリオール-1 フマル酸系ポリエステルポリオール 「マキシモール RFK-868」(川崎化成工業株式会社製)」及び「ポリオール-2 テレフタル酸系ポリエステルポリオール 「マキシモールRLK-087」(川崎化成工業株式会社製)」は、本件発明1の「ポリオール」に相当する。
(イ)甲1発明の「発泡剤-1 HFO系発泡剤 「Solstice LBA」(ハネウェルジャパン株式会社製)」及び「発泡剤-2 水」は、本件発明1の「発泡剤」に相当する。
(ウ)甲1発明の「触媒-1 アミン系触媒」、「触媒-2 イミダゾール系触媒」、「触媒-3 カリウム系触媒」、及び「触媒-4 四級アミモニウム塩系触媒」は、本件発明1の「触媒」に相当する。
(エ)甲1発明の「リン系難燃剤「TMCPP」(大八化学株式会社製)」は、本件明細書の実施例3及び4で「添加剤」として使用されている「・トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP)」と同じものであるから、上記「TMCPP」は、本件発明1の「SP値が11以下の添加剤」であり、「前記添加剤の沸点が100℃超であ」ることに相当する。
(オ)甲1には、甲1発明の「プレミックス液」を保管後、ポリメリックMDI(東ソー株式会社製「ミリオネートMR-200」)をポリイソシアネート液として用いてラボミキサーで高速混合撹拌し、木箱に流し込み、フリーフォームを作成すること(【0036】)が記載されているから、ポリイソシアネート液と高速混合撹拌する前の「プレミックス液」は、本件発明1の「ポリオール組成物」に相当する。
(カ)甲1発明は、「非シリコーン系表面調整剤」を含有していないことは明らかであるから、本件発明1の「(但し、非シリコーン系表面調整剤を含有するものを除く。)」に相当する。
以上から、本件発明1と甲1発明とは、
「ポリオール、発泡剤、触媒、及びSP値が11以下の添加剤を含有し、前記添加剤の沸点が100℃超である、ポリオール組成物(但し、非シリコーン系表面調整剤を含有するものを除く。)。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
ポリオール組成物全量基準における整泡剤の含有量に関し、本件発明1は「0.5質量%以下である」のに対し、甲1発明はそのような特定がない点
イ 判断
相違点1について検討する。
(ア)新規性について
甲1発明では、整泡剤としてシリコン系整泡剤を用いており、プレミックス液の総計157.4重量部に整泡剤を2.0重量部含有するものであるから、整泡剤の含有量は約1.3%(≒2×100/157.4)である。
そうすると、本件発明1の「整泡剤の含有量がポリオール組成物全量基準で0.5質量%以下である」こととは異なり、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。
(イ)進歩性について
甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が整泡剤の含有量を0.5質量%以下にすることが容易であるか否かについて検討する。
甲1には、耐加水分解性の低いポリエステルポリオールの加水分解性を改善し、難燃性に優れたポリウレタン樹脂を製造するためのポリウレタン樹脂製造用プレミックス液を提供することを目的とすること(【0009】)、加水分解の原因である触媒のアミン化合物を多価カルボン酸で中和することで上記目的を達成すること(【0010】)、ポリウレタン樹脂の製造において、用途に応じて助剤を使用することができ、助剤として整泡剤等が挙げられること(【0026】)、整泡剤の使用量はポリオール100重量部に対し、通常0.1~20重量部、好ましくは0.3~10重量部、更に好ましくは0.5~5重量部であること(【0027】)が記載されている。
これらの記載によると、整泡剤は、場合により使用することがあり、使用する際には、ポリオール100重量部に対し、0.1~20重量部を使用することが理解できるものの、甲1からは、整泡剤を使用するときに、整泡剤の染み出しや発泡後に均一な密度となるポリウレタンフォームを製造することについては把握することができない。
さらに、整泡剤はポリオール組成物の混合性を向上させ、均一で微細なセルを有する発泡体を得るためのものであることを踏まえると、甲1発明において、整泡剤の含有量を約1.3重量%よりも減らして0.5重量%以下とした際に、均一で微細なセルを有する発泡体を得ることができるかは、他の証拠方法や出願時の技術常識を参酌しても不明である。
そうすると、当業者が、甲1発明において、甲1に記載された事項に基づいて、整泡剤の染み出しを抑制し、上部及び中央部の密度差が小さいポリウレタンフォームを製造するために、整泡剤の含有量を0.5質量%以下とする動機付けはないといえる。
してみると、相違点1に係る発明特定事項は、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
また、本件発明1の効果は、沸点が100℃超であり、かつSP値が11以下の添加剤を含有することにより、整泡剤の染み出しを抑制することで汚染を防止し、かつ上部及び中央部の密度差が小さいポリウレタンフォームを得ることができるポリオール組成物を提供すること(【0010】)であるところ、この効果は甲1発明及び甲1に記載された事項から、当業者が予測できるものとはいえない。
(3)本件発明2~15について
本件発明2~15は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(2)イと同様の理由により、甲1に記載された発明ではないし、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、上記第4 1(2)ア-2で、本件発明14及び15が甲1発明及び周知技術(甲6)に基づいて、当業者が容易に発明しうる旨主張しているが、甲6は吹付け(スプレー発泡)に関する事項が示されているだけで、整泡剤の含有量を0.5質量%以下とすることで、上述の整泡剤の染み出しを抑制し、上部及び中央部の密度差が小さいポリウレタンフォームを製造することは記載も示唆もされておらず、依然として上記相違点1に係る発明特定事項を満たすものではないから、当該主張は採用できない。
(4)小括
本件発明1~15は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないし、また本件発明14及び15は、甲1に記載された発明及び周知技術(甲6)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
3 取消理由2(甲2を主引例とする新規性欠如)イ及び取消理由3(甲2を主引例とする進歩性欠如)イ並びに申立理由1(新規性欠如)(1)イ及び申立理由2(進歩性欠如)(2)イについて
取消理由2イ及び取消理由3イ並びに申立理由1(1)イ及び申立理由2(2)イは、いずれも甲2に基づくものであるから、併せて検討する。
(1)甲2に記載された発明
甲2の段落【0055】に記載された組成を踏まえて、表1の第1液18に着目すると、次の発明が記載されている。
「ポリオール化合物1:芳香族ポリエステルポリオール(テレフタル酸系ポリエステルポリオール、酸価:0mgKOH/g、水酸基価:250mgKOH/g) 75重量部
ポリオール化合物4:芳香族/脂肪族ポリエステルポリオール(フタル酸/アジピン酸系ポリエステルポリオール、酸価:0mgKOH/g、水酸基価:350mgKOH/g) 25重量部
発泡剤2:ハイドロフルオロオレフィン 65重量部
発泡剤3:水(水酸基価:6233mgKOH/g) 2重量部
触媒1:ヌレート化触媒(テトラアルキルアンモニウム有機酸塩)
10重量部
触媒2:樹脂化触媒(1,2-ジメチルイミダゾール) 1重量部
触媒3:泡化触媒(ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル)
4重量部
リン化合物1:ホスフィン酸塩化合物(トリス(ジエチルホスフィン酸)アルミニウム、平均粒径4μm、密度1.35g/cm3) 50重量部
リン化合物4:有機リン酸エステル化合物(トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート、密度1.29g/cm3) 150重量部
二重結合化合物3:エチレン性不飽和二重結合含有化合物(ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチレン性不飽和二重結合濃度:10mmol/g、水酸基価:25mgKOH/g) 40重量部
整泡剤:シリコーン系整泡剤 5重量部
を含む第1液。」(以下、「甲2発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
(ア)甲2発明の「ポリオール化合物1:芳香族ポリエステルポリオール(テレフタル酸系ポリエステルポリオール、酸価:0mgKOH/g、水酸基価:250mgKOH/g)」及び「芳香族/脂肪族ポリエステルポリオール(フタル酸/アジピン酸系ポリエステルポリオール、酸価:0mgKOH/g、水酸基価:350mgKOH/g)」は、本件発明1の「ポリオール」に相当する。
(イ)甲2発明の「発泡剤2:ハイドロフルオロオレフィン」及び「発泡剤3:水(水酸基価:6233mgKOH/g)」は、本件発明1の「発泡剤」に相当する。
(ウ)甲2発明の「触媒1:ヌレート化触媒(テトラアルキルアンモニウム有機酸塩)」、「触媒2:樹脂化触媒(1,2-ジメチルイミダゾール)」、及び「触媒3:泡化触媒(ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル)」は、本件発明1の「触媒」に相当する。
(エ)甲2発明の「リン化合物4:有機リン酸エステル化合物(トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート」は、本件明細書の実施例3及び4で「添加剤」として使用されている「・トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP)」と同じものであるから、上記「有機リン酸エステル化合物(トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート」は、本件発明1の「SP値が11以下の添加剤」であり、「前記添加剤の沸点が100℃超であ」ることに相当する。
(オ)甲2には、甲2発明の「第1液」とポリメリックMDIからなる第2液(【0055】)とを混合し、得られた混合液を基材(スレート板)に塗工し、発泡させて、基材の片面全体にフォーム層が形成された試験体を得たこと(【0059】)が記載されているから、甲2発明の「第1液」は、本件発明1の「ポリオール組成物」に相当する。
(カ)甲2発明は、「非シリコーン系表面調整剤」を含有していないことは明らかであるから、本件発明1の「(但し、非シリコーン系表面調整剤を含有するものを除く。)」に相当する。
以上から、本件発明1と甲2発明とは、
「ポリオール、発泡剤、触媒、及びSP値が11以下の添加剤を含有し、前記添加剤の沸点が100℃超である、ポリオール組成物(但し、非シリコーン系表面調整剤を含有するものを除く。)。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1’>
ポリオール組成物全量基準における整泡剤の含有量に関し、本件発明1は「0.5質量%以下である」のに対し、甲2発明はそのような特定がない点
イ 判断
相違点1’について検討する。
(ア)新規性について
甲2発明では、整泡剤としてシリコーン系整泡剤を用いており、第1液の総計427重量部に整泡剤を5重量部含有するものであるから、整泡剤の含有量は約1.2%(≒5×100/427)である。
そうすると、本件発明1の「整泡剤の含有量がポリオール組成物全量基準で0.5質量%以下である」こととは異なり、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は甲2発明であるとはいえない。
(イ)進歩性について
甲2発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が整泡剤の含有量を0.5質量%以下にすることが容易であるか否かについて検討する。
甲2には、積層体中のフォーム層は、ポリオール化合物、発泡剤、触媒、整泡剤、リン化合物、及びポリイソシアネート化合物を含有し、上記キリン化合物としてホスフィン酸塩化合物を含む硬化物によって形成されること(請求項1)、低熱伝導性、耐熱性、美観性等において優れた性能を有するフォーム積層体を提供することを目的とすること(【0007】)、整泡剤の混合量はポリオール100重量部に対して好ましくは0.1~40重量部、より好ましくは0.5~30重量部であること(【0025】)が記載されている。
これらの記載によると、整泡剤はフォーム層の形成に必ず使用するものであり、ポリオール100重量部に対して0.1~40重量部を使用することが理解できるものの、甲2からは、整泡剤を使用するときに、整泡剤の染み出しや発泡後に均一な密度となるポリウレタンフォームを製造することについては把握することができない。
さらに、整泡剤はポリオール組成物の混合性を向上させ、均一で微細なセルを有する発泡体を得るためのものであることを踏まえると、甲2発明において、整泡剤の含有量を約1.2重量%よりも減らして0.5重量%以下とした際に、均一で微細なセルを有する発泡体を得ることができるかは、他の証拠方法や出願時の技術常識を参酌しても不明である。
そうすると、当業者が、甲2発明において、甲2に記載された事項に基づいて、整泡剤の染み出しを抑制し、上部及び中央部の密度差が小さいポリウレタンフォームを製造するために、整泡剤の含有量を0.5質量%以下とする動機付けはないといえる。
してみると、相違点1に係る発明特定事項は、甲2発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
また、本件発明1の効果は、沸点が100℃超であり、かつSP値が11以下の添加剤を含有することにより、整泡剤の染み出しを抑制することで汚染を防止し、かつ上部及び中央部の密度差が小さいポリウレタンフォームを得ることができるポリオール組成物を提供すること(【0010】)であるところ、この効果は甲2発明及び甲2に記載された事項から、当業者が予測できるものとはいえない。
(3)本件発明2~15について
本件発明2~15は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(2)イと同様の理由により、甲2に記載された発明ではないし、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)小括
本件発明1~15は、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
4 取消理由2(甲3を主引例とする新規性欠如)ウ及び取消理由3(甲3を主引例とする進歩性欠如)ウ並びに申立理由1(新規性)(1)ウについて
取消理由2ウ並びに取消理由3ウ及び申立理由1(1)ウは、いずれも甲3に基づくものであるから、併せて検討する。
(1)甲3に記載された発明
甲3の第11頁において、エステルポリオールを含むスプレー処方にLBAを35pbw含む配合で、透明で濁りの無いポリオールシステムにすることが記載されており、ついで、第6頁の発泡用配合を踏まえて、該ポリオールシステムに着目すると、次の発明が記載されている。
「マキシモール RDK133(川崎化成工業/芳香族ポリエステルポリオール) 70部
DKポリオール 3776(第一工業製薬/マンニッヒエーテル)30部
水(川崎市水道局) 1.5部
ネオスタン U600(日東化成/ビスマス触媒) 1.0部
Polycat 201(Evonik/泡化触媒) 6.0部
Dabco TMR-7(Evonik/三量化触媒) 2.0部
整泡剤 各種(Evonik/シリコーン整泡剤) 2.0部
TMCPP(大八化学工業/TCPP) 30部
Solstice LBA(Honeywell/HFO-1233zd) 35部
を含むポリオールシステム。」(以下、「甲3発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明を対比する。
(ア)甲3発明の「DKポリオール 3776(第一工業製薬/マンニッヒエーテル)」は、第一工業製薬社のHP(https://www.dks-web.co.jp/pdf/takuto /541_1.pdf#page=1)によると、ポリオールであることが理解できる。そうすると、甲3発明の「マキシモール RDK133(川崎化成工業/芳香族ポリエステルポリオール)」及び「DKポリオール 3776(第一工業製薬/マンニッヒエーテル)」は、本件発明1の「ポリオール」に相当する。
(イ)甲3発明の「Solstice LBA(Honeywell/HFO-1233zd)」は、本件明細書の実施例で使用している「発泡剤」と同じ製品であるから、本件発明1の「発泡剤」に相当する。
(ウ)甲3発明の「ネオスタン U600(日東化成/ビスマス触媒)」、「Polycat 201(Evonik/泡化触媒)」、及び「Dabco TMR-7(Evonik/三量化触媒)」は、本件発明1の「触媒」に相当する。
(エ)甲3発明の「TMCPP(大八化学工業/TCPP)」は、本件明細書の実施例3及び4で「添加剤」として使用されている「・トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート(TMCPP)」と同じものであるから、上記「TCMPP」は、本件発明1の「SP値が11以下の添加剤」であり、「前記添加剤の沸点が100℃超であ」ることに相当する。
(オ)甲3発明の「ポリオールシステム」は、ミリオネートMR200(東ソー/ポリマリックMDI)とともにスプレー処方に用いられるものであるから、本件発明1の「ポリオール組成物」に相当する。
(カ)甲3発明は、「非シリコーン系表面調整剤」を含有していないことは明らかであるから、本件発明1の「(但し、非シリコーン系表面調整剤を含有するものを除く。)」に相当する。
以上から、本件発明1と甲3発明とは、
「ポリオール、発泡剤、触媒、及びSP値が11以下の添加剤を含有し、前記添加剤の沸点が100℃超である、ポリオール組成物(但し、非シリコーン系表面調整剤を含有するものを除く。)。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1”>
ポリオール組成物全量基準における整泡剤の含有量に関し、本件発明1は「0.5質量%以下である」のに対し、甲3発明はそのような特定がない点
イ 判断
相違点1”について検討する。
(ア)新規性について
甲3発明では、整泡剤としてシリコーン系整泡剤を用いており、ポリオールシステムの総計177.5重量部に整泡剤を2.0重量部含有するものであるから、整泡剤の含有量は約1.1%(≒2×100/177.5)である。
そうすると、本件発明1の「整泡剤の含有量がポリオール組成物全量基準で0.5質量%以下である」こととは異なり、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は甲3発明であるとはいえない。
(イ)進歩性について
甲3発明及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が整泡剤の含有量を0.5質量%以下にすることが容易であるか否かについて検討する。
甲3には、エステルポリオールを含むスプレー処方にLBAを35pbw含む配合で、透明で濁りの無いポリオールシステムにするには整泡剤の選定が非常に重要であること(第11頁)が記載されている。
これらの記載によると、整泡剤はポリオールシステムに必ず使用するものであるものの、甲3からは、整泡剤を使用するときに、整泡剤の染み出しや発泡後に均一な密度となるポリウレタンフォームを製造することについては把握することができない。
さらに、整泡剤はポリオール組成物の混合性を向上させ、均一で微細なセルを有する発泡体を得るためのものであることを踏まえると、甲3発明において、整泡剤の含有量を約1.1重量%よりも減らして0.5重量%以下とした際に、均一で微細なセルを有する発泡体を得ることができるかは、他の証拠方法や出願時の技術常識を参酌しても不明である。
そうすると、当業者が、甲3発明において、甲3に記載された事項に基づいて、整泡剤の染み出しを抑制し、上部及び中央部の密度差が小さいポリウレタンフォームを製造するために、整泡剤の含有量を0.5質量%以下とする動機付けはないといえる。
してみると、相違点1に係る発明特定事項は、甲3発明及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
また、本件発明1の効果は、沸点が100℃超であり、かつSP値が11以下の添加剤を含有することにより、整泡剤の染み出しを抑制することで汚染を防止し、かつ上部及び中央部の密度差が小さいポリウレタンフォームを得ることができるポリオール組成物を提供すること(【0010】)であるところ、この効果は甲3発明及び甲3に記載された事項から、当業者が予測できるものとはいえない。
(3)本件発明2~15について
本件発明2~15は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(2)イと同様の理由により、甲3に記載された発明ではないし、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)小括
本件発明1~15は、甲3に記載された発明ではないし、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
5 申立理由3(サポート要件違反)
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の判断手法
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題
本件明細書には、「本発明は、整泡剤の染み出しが抑制され、かつ上部及び中央部の密度差が小さいポリウレタンフォームを得ることができるポリオール組成物、該ポリオール組成物を含む発泡性ポリウレタン組成物、及び該発泡性ポリウレタン組成物からなるポリウレタンフォームを提供することを課題とする」(【0007】)と記載されていることから、整泡剤の染み出しが抑制され、かつ上部及び中央部の密度差が小さいポリウレタンフォームを得ることができるポリオール組成物を提供することが、本件発明が解決しようとする課題であると認められる。
(3)本件発明1について
整泡剤の染み出しや上部及び中央部の密度差に関し、沸点が100℃超であり、かつSP値が11以下の添加剤、及び整泡剤とその含有量について、本件明細書には、以下の記載がある。
「【0003】
上記ポリオール組成物は、一般には、ポリオール、発泡剤、触媒、整泡剤を含有する。整泡剤を用いることで、組成物の混合性を向上させ、均一で微細なセルを有する発泡体を得ることができる。このような発泡体は、上部及び中央部で密度差が小さく、柔軟性及び機械強度などが均一であり、物性に優れる。
一方で、整泡剤を含有するポリオール組成物を用いてポリウレタンフォームを形成させると、フォームの表面から整泡剤が染み出すブリードアウトが生じ易く、このため使用対象物が汚染されたり、フォームと使用対象物との接着性の低下などの不具合が生じる場合がある。」
「【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、整泡剤を実質的に含有させずに、特定の範囲のSP値を有する添加剤をポリオール組成物に含有させることで、上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。」
「【0012】
<添加剤>
本発明のポリオール組成物は、SP値(溶解度パラメーター)が11以下の添加剤(以下、本発明における添加剤ともいう)を含有する。該添加剤を含有しない場合は、得られるポリウレタンフォームの上部及び中央部の密度差が大きくなり、安定した物性のポリウレタンフォームを得ることができない。」
「【0014】
本発明における添加剤の性状は、特に限定されないが、室温(23℃)で液状であることが好ましい。また本発明における添加剤は、100℃以下に沸点を有しないことが好ましく、150℃以下に沸点を有しないことがより好ましい。このような添加剤を用いることにより、得られるポリウレタンフォームの空隙やボイドを低減させることが可能となる。」
「【0044】
<整泡剤>
本発明のポリオール組成物は、整泡剤を実質的に含有しない。これにより、ポリウレタンフォームから整泡剤が染み出すブリードアウトが生じず、そのため汚染が抑制され、さらにポリウレタンフォームと他の部材との接着性の低下などの不具合が有効に防止される。
なお、実質的に含有しないとは、整泡剤の含有量が、ポリオール組成物全量基準で2質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0質量%であることを意味する。」
そして、実施例2~5では、整泡剤を含有せず、沸点が100℃超であり、かつSP値が11以下の添加剤を含有することで、外部汚染(マジックインキのはじき)、上部/中央部の密度比、発泡性の性状(空洞、ボイド)に優れることが示されている。
これらの記載によると、ポリオール組成物において、沸点が100℃超であり、かつSP値が11以下の添加剤を用い、その全量基準で整泡剤を0.5重量%以下とすることで、本件発明の課題を解決することが理解できる。
そうすると、本件明細書は、本件発明1が上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されており、本件の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすといえる。
(4)本件発明2~15について
本件発明2~15は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、該本件発明1を更に限定するものであるから、上記(3)に示したのと同様の理由により、本件明細書は、本件発明2~15が上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されているといえる。
(5)申立人の主張について
上記第4 1(3)ア、イに示した、申立人の申立書における主張について検討する。
ア 整泡剤の含有量について
本件発明1は、本件訂正により、「整泡剤の含有量がポリオール組成物全量基準で0.5重量%以下とある」ことに訂正された。
本件明細書の段落【0044】には、整泡剤を実質的に含有しないこと、実質的に含有しないとは、整泡剤の含有量が、ポリオール組成物全量基準で2質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0質量%であることを意味することが記載されている。
さらに、本件明細書には、ポリオール組成物は、一般には、ポリオール、発泡剤、触媒、整泡剤を含有するものであり、整泡剤を用いることで、組成物の混合性を向上させ、均一で微細なセルを有する発泡体を得ることができるが、整泡剤を含有するポリオール組成物を用いてポリウレタンフォームを形成させると、フォームの表面から整泡剤が染み出すブリードアウトが生じ易く、このため使用対象物が汚染されたり、フォームと使用対象物との接着性の低下などの不具合が生じる場合があること(【0003】)、シリコーン系整泡剤を含まないポリウレタンフォーム用組成物から得られ親水性ポリウレタンファームがシリコーン系物質の染み出しを防止できること(【0004】)が記載されている。
そして、本件明細書の実施例では、ポリオール組成物全量に対して整泡剤を、比較例2、4が約3.6質量%(≒5×100/137.2)、比較例3が約7.0質量%(≒10×100/142.2)それぞれ含み、ブリードアウトすることが示される一方で、実施例2~5が整泡剤を含まないポリオール組成物を用いて、ブリードアウト、密度比、発泡体の性状に優れることが示されている。
これらの記載によると、ポリオール組成物中の整泡剤が、ポリウレタンフォームからブリードアウトしやすいため、整泡剤を使用しないことが、本件出願時には試みられており、本件明細書の実施例でも実際に確認したことが理解できる。
ここで、整泡剤の含有量は、0質量%に近づけば近づくほど、ブリードアウトしにくいことは明らかであって、このことを踏まえると、上記比較例2~4は、整泡剤の含有量が約3.6質量%又は約7.0質量%であったためブリードアウトしたが、例えば0.5質量%程度であれば、比較例2~4の約1/7又は1/14であるから、ブリードアウトが起こりにくいことが推認できる。
そうすると、本件発明1の整泡剤の含有量(0.5質量%以下)とすることで、本件発明の課題を解決することが理解できる。
したがって、当該主張は妥当でない。
イ 添加剤の沸点が100℃超であることについて
上記1に示したとおり、本件明細書の実施例で使用している添加剤のトリス(β-クロロプロピル)フォスフェートの沸点が、乙1及び乙2により、少なくとも270℃であることが確認できたから、本件発明1に記載された事項と本件明細書に記載された事項とは整合するものであり、当該主張は妥当でない。
以上から、申立理由3には理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1~15に係る特許は、当審において通知した令和6年10月25日付け取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700642